Post on 29-Feb-2020
transcript
金利プライシングの統計的分析
齊藤 有希子富士通総研
渡辺 努一橋大学
岩村 充早稲田大学
要 旨
中小企業が金融機関等から借入れる際に適用される金利は信用リスクを適切に反映しているのだろうか。この点について考察するため,本稿では,約 ��万社の中小企業について ����年から ����年までの �年間の金利と ��(���� ��� �
����� �,推定デフォルト率)の変遷を解析した。本稿の主要なファインディングは以下のとおりである。第 �に,各年のクロスセクション分布はほぼ同じ形状をしており,また,そこから一旦乖離しても復元性がある。この意味で両変数のクロスセクション分布は定常性をもつ。第 �に,金利と ��のある年からその翌年にかけての遷移はそれぞれの過去の動きに影響されており(「履歴効果」),両変数ともに,ある年に上昇または下落すると翌年はその反対の方向に変化する確率が高まるという引き戻しの傾向が見られる。このように,金利と ��の変遷は,定常分布に収斂しようとする力と元の水準に止まろうとする力の綱引きで決まっている。第 �に,��と金利を比較すると,金利の方が過去に引きずられる度合いが弱い。これらのファインディングは,金融機関等が ��の趨勢的な変化と一時的な変化を区別した上で,趨勢的な変化が生じたときに限って金利を変更している可能性を示唆している。
目 次
� はじめに �
� 使用データと分析手法 �
��� 使用データ � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � �
��� 分析手法 � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � �
� ��の統計的性質 �
��� ��の精度 � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � �
��� ��のクロスセクション分布 � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � �
��� ��の遷移 � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � �
��� 遷移行列を用いた遷移プロセスの計算 � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � �
��� 履歴効果 � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � ��
� 金利の統計的性質 ��
��� 金利のクロスセクション分布 � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � ��
��� 金利の遷移 � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � ��
��� 遷移プロセスの性質 � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � ��
� ��と金利の変動パターンの比較 ��
��� 順位に関する遷移行列の比較 � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � ��
��� 履歴効果の比較 � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � ��
� おわりに ��
�
� はじめに
近年,信用リスクに見合う金利プライシングが必要との認識が高まっており,中小企業向け融資
にクレジットスコアリング を導入するなどの動きが見られている�。また,極端に低い金利と極端
に高い金利の間の領域(「ミドルレンジ」)を対象とした金融サービスが欠落しているとの指摘も
あり,その穴を埋めるべく新銀行を設立するなどの動きもみられる。本稿では,このような中小企
業向け金利プライシングの問題を考える際の基礎的な知識を得ることを目的として,中小企業向け
金利の変化について分析を試みる。具体的には,約 ��万社分の中小企業財務データを解析するこ
とにより,借入金利のダイナミックな変化がどのような規則性をもつかを明らかにする。
���(������ ���� �������)協会によって作成された ���データ約 ��万社の中小企業につ
いて ����年から ����年までの �年間の金利と ��(���� ��� � ����� �,推定デフォルト率)
の変遷を解析した結果,以下のファインディングが得られた。第 �に,各年のクロスセクション分
布はほぼ同じ形状をしており,また,そこから一旦乖離しても復元性がある。この意味で両変数の
クロスセクション分布は定常性をもつ。第 �に,金利と ��のある年からその翌年にかけての遷移
は各変数の過去の動きに影響されており(「履歴効果」),両変数ともに引き戻し(ある年に上昇ま
たは下落すると翌年はその反対の方向に変化する確率が高まる)が見られる。このように,金利と
��の変遷は,定常分布に収斂しようとする力と元の水準に止まろうとする力の綱引きで決まって
いる。第 �に,��と金利を比較すると,金利の方がマルコフ性が強い(過去に引きずられる度合
いが弱い)。これらのファインディングは,金融機関等が ��の趨勢的な変化と一時的な変化を区
別した上で,趨勢的な変化に対してのみ金利を反応させている可能性を示唆している。
本稿の構成は以下のとおりである。第 �節では本稿で使用するデータと分析手法について説明
する。第 �節では ��の統計的性質について,第 �節では金利の統計的性質について解析を行う。
第 �節では ��と金利の関係について議論する。第 �節は本稿の結論である。
�クレジットスコアリングとは財務諸表などから機械的にデフォルトリスクを推定する統計的手法である。
�
� 使用データと分析手法
��� 使用データ
本稿で用いるデータは���データであり,����年から ����年までの,各年約 ��万社(延べ約
���万社)のデータベースである(����年 �月時点での蓄積データ)。企業の内訳を売上高でみる
と,�億円未満約 �割,���億円約 �割,����億円約 �割,��億円以上約 �割の構成である 。収録
されている項目は,財務項目,非財務項目,デフォルト項目である。財務項目は,�� と ��!の
��項目(うち必須 ��項目)であり,非財務項目は,属性項目として,会社区分,業種,設立年,
都道府県区分,定性項目として,所有不動産の有無,代表者生年,後継者の有無がある。また,デ
フォルト項目として,延滞,実質破綻,破綻,代位弁済の �分類についてその発生年月が収録され
ている。さらに,���協会からの委託により金融工学研究所が開発したモデルを用いて推計され
た ��(���� ��� � ����� �,推定デフォルト率)が収録されている。���協会は複数の��推
定モデルを有しているが,このうち本稿が用いるのは「���法人モデル �」によるものである�。
��� 分析手法
本稿では,約 ��万社のサンプル企業について,��と借入金利という �変数のダイナミックな
特性を次の �つの視点から調べる�。第 �は,ある �時点(�年)における両変数のクロスセクショ
ン分布である。各年におけるクロスセクション分布が類似しているか否かなどを調べることにより
クロスセクション分布の定常性を調べることができる。第 �は,�時点間(�年と �" �年)の遷
移である。�年において ��が高かった企業が �" �年にどうなるのか等の傾向を調べるために両
変数について �時点間の遷移行列を算出する。第 �に,�時点の値を用いて,�� �年から �年に
かけての変化が �年から �" �年にかけての変化にどのような影響を及ぼすかを調べる。ある変数
の過去の変遷が先行きの推移に影響を及ぼすことは「履歴効果」と呼ばれているが,ここではその
最も単純なかたちとして前年から今年にかけての変化を履歴とみなし,履歴が先行きに影響を及ぼ
すか否か,��と金利ではどちらの履歴効果が強いかといった点を調べる�。
�「���法人モデル �」について詳しくは,���運営協議会(����)を参照。�本稿のアプローチは,�� と金利それぞれのダイナミックな特性を調べその類似性や差異をみることにより,�� と
金利の関係について理解を深めるというものである。両変数の関係をより直接的に見る方法としては,金利を被説明変数,��を説明変数とする回帰分析を行うことが考えられる。細野・澤田・渡辺 ������ は ���データを用いてその種の回帰分析を行った結果,金利と �� の相関がかなり小さい(�� の係数は � 未満)との結果を得ている。この分析結果は金利と �� の同時点相関が低いことを示しているが,それは必ずしも信用リスクを反映した金利設定がなされていないことを意味しない。細野・澤田・渡辺 ������ が強調しているように,中小企業と金融機関の関係に関する経済理論は,金利と��の関係が単純な一対一対応ではなく,ラグやリードを伴った複雑なものであることを示しているからである。本稿が分析の対象とするのは,両変数の間のそうしたダイナミックな関係である。
��� �� ��� �������� ������ は,本稿と同じ手法を企業の総資産などのスケール変数に適用し,その履歴効果を調べている。
�
� ��の統計的性質
��� ��の精度
��は企業の信用リスクの水準を表しており,経営状況の健全さを反映している。個別企業の財
務諸表より多数の財務項目を抽出して,実際のデフォルト確率を再現するように算出した統合的ス
ケールとなっている。
中小企業の財務データについては,データの信頼性に関して議論があるが,このようにして財務
データから算出された ��は,実際のデフォルト企業を判別しており,ある程度の信頼性があると
考えられる。この点を具体的にみるために,図表 �では,正常先 #$�%� &�%�'とデフォルト先
#����� � &�%�'とで,��の分布がどれだけ異なっているかを示している。図では,��を,�(以
上 ����(未満, ����(以上 ���(未満,� � �,����(以上 �(未満,�(以上というように ��の区間
に区切り,それぞれの区間にどれだけの企業が存在するか,分布の違いをみている。図から読み取
れるように,正常先とデフォルト先とで分布は異なっており,重なる部分は小さい。この結果は,
企業の判別指標としての ��の有用性を示している。
次に,��を実際のデフォルトイベントの発生確率と比較してみよう。図表 �では図表 �と同様
に ��を ��の区間に区切り,それぞれの区間の値を持つデフォルト企業の数を総数(デフォルト
企業の数と正常企業の数の和)で割り,実績デフォルト率を算出している。図表 �からは,��の
値に比例して,実績デフォルト率が上がっている様子が確認される。ただし,線の傾きは年度によ
り異なっており,再現性 #実際のデフォルト発生率をどの程度表しているか' が景気変動のような
マクロ要因の影響を受けている可能性を示唆している。例えば,����年については,��とデフォ
ルト発生頻度の比例関係は保持されているものの,��が ���(の企業群と ��が �(の企業群のデ
フォルト頻度の差は �(未満であり,��の差(���()と比べて著しく小さい。しかし、����年、
����年、����年となるにつれて、線の傾きが急になり、��の精度が徐々に高くなっている。����
年では、横軸に示した��の値が縦軸の実績デフォルト率とほぼ等しくなっており,��の精度が
非常に高いことを示している。
�
図表 �.��の精度
0
0.05
0.1
0.15
0.2
0.25
0.3
0.35
0.4
0 1 2 3 4 5
Pro
babi
lity
Den
sity
PD (%)
normal firmsdefault firms
(出所)富士通総研作成
図表 �.実績デフォルト率の再現性
0
0.01
0.02
0.03
0.04
0.05
0.06
0.07
0.08
0 1 2 3 4 5
actu
al P
D
PD (%)
199619971998199920002001
(出所)富士通総研作成
�
��� ��のクロスセクション分布
図表 �では ��の分布を年度ごとに示してある。�年分の分布はほぼ完全に重なっており,定常
的な分布をしていることが分かる。また,����(以上 ���(未満のレンジにピークがある点も共通
している。
��� ��の遷移
��の分布が定常的ということは各企業の ��が各年で同じということを意味するのだろうか。
つまり,����年の��が低く安定的な経営をしている企業群は��年にも ��年にも��が低く,逆
に ��年に ��が高く業績が芳しくない企業群は他の年でも ��が高いのだろうか。
この点を詳しくみるために,図表 �では,����年から ����年にかけて各企業の ��がどのよう
に変化したかを調べている。具体的には,��の水準を図表 �や �と同様に ��の区間に区切った
上で,第 �企業の ����年における ��の値(これを �����と表記する)がある区間 )��� ��'に属
するときその企業の ����年における ��の値が区間 )��� ��'に属する確率,つまり条件付確率
��#����� � )��� ��' � ����� � )��� ��''
を示してある。図の横軸は ����年における ��の値を測っており,縦軸は頻度を測っている。例
えば,図表 �の「"」のマーカーのついたグラフは,����年の ��が �(以上 ����(未満という区
間に属していた企業群について,����年の ��の分布を示している。
図表 �からは次の点が読み取れる。第 �に,個々の企業は同じ ��を維持するのではなく,かな
り激しく入れ替わっている。��の分布が定常的であることはサンプル全体としてのマクロ的な性
質が不変であることを意味しているが,それにもかかわらず,ミクロの企業レベルでみると激しく
入れ替わっていることは興味深い事実である。第 �に,��の水準が低いところでは同じ位置に留
まる傾向が見られるのに対して,��の水準が高いところでは大きく変動している様子が見える。
��� 遷移行列を用いた遷移プロセスの計算
「ミクロの変動」と「マクロの安定」という一見したところ相矛盾する性質はどのようなメカニ
ズムにより生じているのだろうか。��の遷移行列の性質を調べることによりこの点を考えてみよ
う。この遷移行列は,��� ��の行列であり,����年の ��の値(��区間のどれに属するか)で条
件付けをした ����年における ��の分布である。��のクロスセクション分布が定常分布である
ということは,��の分布が遷移行列の固有状態であることを意味している。つまり,��の分布
に遷移行列をかけあわせると,同じ分布が作り出されるはずである。
�
図表 �� ��のクロスセクション分布
0
0.05
0.1
0.15
0.2
0.25
0 1 2 3 4 5
Pro
babi
lity
Den
sity
PD (%)
199619971998199920002001
(出所)富士通総研作成
図表 �.��の �時点間遷移
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0 1 2 3 4 5
Pro
babi
lity
Den
sity
PD (%)
0.00-0.250.50-0.751.00-1.251.50-1.752.00-2.252.50-2.753.00-3.253.50-3.754.00-4.254.50-4.75
5.00-
(出所)富士通総研作成
�
では、遷移行列で表現される遷移を複数年繰り返すとどのような遷移が実現することになるのだ
ろうか。遷移がマルコフ過程に従うとの仮定の下では,遷移行列を年数分だけ乗ずることでその
間の遷移を計算できる。ここで,マルコフ過程とは,��の将来の値に関する期待値が自らの過去
の値には依存せず,現在値のみによって決定されるという意味である�。図表 �、�、7では実際に
この行列演算を行い,それぞれ、�年、�年、��年の遷移行列を示してある。この図表から明瞭に
読み取れるように,初期時点における ��の水準にかかわらず,定常分布に近づいていく性質があ
る�。つまり,初期時点での ��の分布がいかなる形状であったとしても,約 ��年後にはほぼ完全
に定常分布への遷移が完了するということである。この意味で,��の遷移行列は定常分布を作り
出す性質をもっていることが分かる。また,このことは,企業の誕生後十分に時間が経過し,多く
の変動を経た後に,どのような ��の水準となるかは,誕生時の ��の水準にあまり依存しないと
いうことを意味している。
ミクロの企業レベルでは激しい入れ替えが起きているにもかかわらずマクロでみると定常分布が
保持されているという性質をどう解釈すべきだろうか。ひとつの解釈としては,社会全体のリスク
許容度が ��の分布を規定していると考えることができる。すなわち,社会を構成する家計・企業
の選好(*������$+�)や金融・保険システムをはじめとする経済制度を与件とすると,そこから社
会全体として保有したいと考えるポートフォリオが自ずから決まってくると考えられる。つまり,
どの程度リスクのあるプロジェクト(企業)をどのくらい保有したいかが社会のニーズによって決
められるのである。選好や制度は短期間では変化せず,このためポートフォリオも変化しない。そ
れが ��の分布の定常性として顕われているとみることができる。
�確率過程 � が ������� � ��� ��� � � � ���� � ������� � ���(ただし � � �)という性質を満たすときマルコフである。
�このことは,定常状態が遷移行列の唯一の最大固有値の固有ベクトルであることを意味している。
�
図表 �.遷移行列から算出される ��の複数年(�年)遷移
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0 1 2 3 4 5
Pro
babi
lity
Den
sity
PD (%)
0.00-0.250.50-0.751.00-1.251.50-1.752.00-2.252.50-2.753.00-3.253.50-3.754.00-4.254.50-4.75
5.00-stationary state
(出所)富士通総研作成
図表 �.遷移行列から算出される ��の複数年(�年)遷移
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0 1 2 3 4 5
Pro
babi
lity
Den
sity
PD (%)
0.00-0.250.50-0.751.00-1.251.50-1.752.00-2.252.50-2.753.00-3.253.50-3.754.00-4.254.50-4.75
5.00-stationary state
(出所)富士通総研作成
��
図表 �.遷移行列から算出される ��の複数年(��年)遷移
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0 1 2 3 4 5
Pro
babi
lity
Den
sity
PD (%)
0.00-0.250.50-0.751.00-1.251.50-1.752.00-2.252.50-2.753.00-3.253.50-3.754.00-4.254.50-4.75
5.00-stationary state
(出所)富士通総研作成
��� 履歴効果
図表 ���の計算は遷移がマルコフ過程に従うという仮定の下でなされている。この仮定はどの程
度,現実に妥当しているのだろうか。この点を調べるために,図表 �と �では,実際に観察された
遷移(�年遷移,�年遷移)を示してある。遷移行列の掛け算から計算された遷移(図表 ���)と実
際の遷移(図表 ���)を比較すると,実際の遷移は遷移行列から計算された遷移に比べ遷移の速度
が遅いことがわかる。例えば,図表 �と図表 �の �年遷移を比べると,図表 �ではほぼ収斂が完
了しているのに対して,図表 �ではまだ収斂には遠いように見える。実際,図表 �の「�年遷移」
は図表 �の「�年遷移」とよく似ており,現実に観察された遷移の速度がかなり遅いことが確認で
きる。
この結果は,遷移がマルコフ過程に従うという仮定が厳密には妥当していないことを示してい
る。すなわち,現実の遷移は,過去に依存しないという意味でのマルコフ性からずれている。例え
ば,前期から今期にかけて ��が低下した場合には今期から翌期にかけて ��が上昇する確率が高
くなるというような過去への依存性があれば遷移の遅れが生じ得る(「履歴効果」)。このように考
えると,��の変動は,定常分布に収斂しようとする力と,元の水準に止まろうとする粘着的な力
との綱引きで決まっていると理解できる。
��
図表 �.実際に観察された ��の複数年(�年)遷移
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0 1 2 3 4 5
Pro
babi
lity
Den
sity
PD (%)
0.00-0.250.50-0.751.00-1.251.50-1.752.00-2.252.50-2.753.00-3.253.50-3.754.00-4.254.50-4.75
5.00-stationary state
(出所)富士通総研作成
図表 �.実際に観察された ��の複数年(�年)遷移
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0 1 2 3 4 5
Pro
babi
lity
Den
sity
PD (%)
0.00-0.250.50-0.751.00-1.251.50-1.752.00-2.252.50-2.753.00-3.253.50-3.754.00-4.254.50-4.75
5.00-stationary state
(出所)富士通総研作成
��
��の変動の履歴効果を直接的に見るために,図表 ��と図表 ��では,ある年から翌年にかけて
の ��の変化が前年から今年にかけての変化とどのように関係しているかを調べている。例えば,
ある年から翌年にかけて ��が低下した企業は前年から今年にかけてすでに低下を経験してきた
企業なのだろうか。それとも,前年から今年にかけて ��の上昇を経験し,その反動として今年
から翌年にかけて低下しているのだろうか。前者は発散トレンド的な動きであり,後者は引き戻し
(%��$���,����$-)である。いずれの場合も,今年から翌年にかけての低下が前年から今年にかけ
ての変化と関係しているという意味で履歴効果が働いている。
図表 ��ではこの点をみるために,����年,����年,����年の��を用いて������(� ������
�����)と������(� ����� � �����)の関係を調べている。具体的には,��が ����年にお
いて区間 )��� ��'に属していたとして,����年にかけてより高い区間へと移動する確率
��#����� � ��'
が ����年から ����年にかけての上昇・下落にどのように依存するかをみるために,�つの条件付
確率
��#����� � �� � ����� � ��'
��#����� � �� � ����� � ��'
を計算している。図表 ��の「� #"'」で示した線(�のマーカー)は上の無条件の確率を示してお
り,「� #"�"'」(�のマーカー)と「� #"��'」(×のマーカー)は条件付確率を示している(前者は
����年から ����年にかけて上昇した企業が ����年から ����年にかけて再び上昇する確率,後者
は ����年から ����年にかけて低下した企業が ����年から ����年にかけて上昇に転ずる確率)。
同様に図表 ��では,��が ����年から ����年にかけて低下する確率について無条件の確率
��#����� � ��'
と条件付確率
��#����� � �� � ����� � ��'
��#����� � �� � ����� � ��'
を計算している。
��
図表 ��.履歴効果(��上昇)
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
0 1 2 3 4 5
Pro
babi
lity
PD (%)
P(+|+)P(+|-)
P(+)
(出所)富士通総研作成
図表 ��.履歴効果(��下落)
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
0 1 2 3 4 5
Pro
babi
lity
PD (%)
P(-|+)P(-|-)
P(-)
(出所)富士通総研作成
��
図表 ��と ��によると,����年から ����年にかけて ��が上昇する確率は,����年から ����
年にかけて下落を経験した企業(� #"��')の方が上昇を経験した企業(� #"�"')より高い。ま
た,����年から ����年にかけて下落する確率は,����年から ����年にかけて上昇を経験した企
業(� #��"')の方が下落を経験した企業(� #���')より高い。つまり,全般的な傾向としては,
一方的に上昇,あるいは減少するトレンドは見られず,むしろ �期間の間に元の水準へ引き戻され
る傾向が強く見られる�。
�� 時点の履歴効果は,�期連続して同じ水準にいた企業すなわち変動の小さな企業に対しても確認される。� 期連続して同じ水準にいた企業は,再び同じ水準に留まる確率が高くなる性質がある。これは,前期の変動が小さかった企業は今期の変動も小さいことを意味している。履歴効果は変動の大きさについても働いていると解釈できる。
��
� 金利の統計的性質
次に,企業の借入金利について,��に適用した手法を用いて統計的な特性を調べることにしよ
う。本稿では���データの「支払利息割引料」を「長短借入金残高」で除したものを金利と定義
する。なお,���データの対象企業は主として中小企業であるから,「長短借入金」には銀行から
の借入金だけではなくいわゆるノンバンクからの借入も少なからず含まれているであろうし,親族
や知人などからの借入金も含まれていると推測される。したがって,以下で調べる金利の性質は,
銀行だけではなく,様々な与信主体のプライシング行動を反映したものとみるべきである。
��� 金利のクロスセクション分布
まず,金利を,�(以上 ���(未満,���(以上 �(未満,� � �,��(以上の ��の区間で区切り,各
年のクロスセクション分布を見るところから始めよう(図表 ��)�。����年から ����年の間は金
融緩和期であり金利水準は全般に下がってきている。このため,分布の形状も ����年と ����年
では異なっている。しかし ����年以降については分布の形状が安定してきており,��と同様の
定常性が確認できる。なお,ミドルレンジの金融サービスの欠如といわれるような,金利の二極
化現象はいずれの年の分布からも確認できない。
��� 金利の遷移
金利のクロスセクション分布が定常的であったとしても,それは必ずしも個々の企業の金利に
変動がないことを意味しない。��で見たように,金利のクロスセクション分布は安定していても
個々の企業の分布上の位置は激しく入れ替わっている可能性がある。その点についてみるために図
表 ��では ����年と ����年の �時点間で企業の入れ替わりがどの程度生じているかを調べている
(図表の見方は図表 �と同じ)。図表 ��からわかるように,この �時点間で個々の企業の金利は大
きく変動している。このような「ミクロの変動」と「マクロの安定」は図表 �でみた ��の性質と
同じである。また,金利水準の低い企業は同じ水準に留まる傾向が強いのに対して,金利水準の高
い企業は分布の拡がりが大きく,�時点間の変化が激しいことを示している。この性質も ��と共
通している��。
�ただし、「支払利息割引料」または「長短借入金残高」がゼロの企業はサンプルからはずしている。また,他の分析結果も同様である。
���� 年 � 月には銀行間市場の翌日物金利をゼロにする「ゼロ金利政策」が開始された。さらに,��� 年 � 月には必要準備を上回ってベースマネーを供給する「量的緩和政策」が開始された。しかし,これらの施策は金利のクロスセクション分布の形状に影響を与えていない。
�この図が示しているのは金利水準でみて ��のレンジまでであり,いわゆるミドルレンジ(��から ���の金利水準)に属する企業群の金利変動は見ていない。しかし,この図から容易に想像できるように,ある年にミドルレンジに属する企業群の翌年の金利分布はかなり大きな分散をもつ。つまり,ある年にミドルレンジに属する企業の一部は翌年には優良企業となって低金利のゾーンへと進むであろうし,その反対に業績が悪化する企業は高金利のゾーンへと移動するであろう。その結果,ある年にミドルゾーンに属する企業が翌年も同じゾーンに止まる確率はかなり低くなる。図 � の分析結果は,ミ
��
図表 ��.金利のクロスセクション分布
0
0.05
0.1
0.15
0.2
0.25
0 2 4 6 8 10
Pro
babi
lity
Den
sity
Rate of Interest (%)
199619971998199920002001
(出所)富士通総研作成
図表 ��.金利の �時点間遷移
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0 2 4 6 8 10
Pro
babi
lity
Den
sity
Rate of Interest (%)
0.0-0.51.0-1.52.0-2.53.0-3.54.0-4.55.0-5.56.0-6.57.0-7.58.0-8.59.0-9.5
10.0-
(出所)富士通総研作成
ドルレンジに属する企業がそのレンジに止まることを前提として,それらの企業に対して継続的に融資を行うというビジネスモデルの成立する余地が乏しいことを示唆している。なお,ミドルレンジについては例えば ������� ������ を参照。
��
��� 遷移プロセスの性質
「ミクロの変動」と「マクロの安定」の関係を知るために前節と同様に,遷移プロセスを詳しくみ
てみよう。まず「遷移がマルコフ過程に従う」との仮定した場合の遷移の様子を計算してみよう。図
�����では ����年と ����年の分布を用いて計算された遷移行列を乗じる演算を繰り返すことにより
�年,�年,��年の遷移行列を計算している。ここでも再び,初期時点の金利水準にかかわりなく,
定常分布に近づいていくことが確認できる。
次に,マルコフ過程に従うという仮定の下での遷移を,実際の複数年遷移と比較すると(図 ���
��),実際の遷移は速度が遅いことが分かる。実際の �年遷移をマルコフの仮定の下での �年遷移
とほぼ同じであり,両者の収斂速度の違いは明らかである。この結果は,金利の遷移が定常分布に
収斂しようとする力と元の水準に止まろうとする力(履歴効果)の綱引きで決まっていることを示
している��。この性質も ��と同じものである。
図表 ��.遷移行列から算出される ��の複数年(�年)遷移
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0 2 4 6 8 10
Pro
babi
lity
Den
sity
Rate of Interest (%)
0.0-0.51.0-1.52.0-2.53.0-3.54.0-4.55.0-5.56.0-6.57.0-7.58.0-8.59.0-9.5
10.0-stationary state
(出所)富士通総研作成
��履歴効果を � 時点遷移でみると(図 ����,ある年から翌年にかけて金利が上昇(下落)した企業は翌々年にかけて金利低下(上昇)の確率が高まっており,�� と同様の引き戻し効果が観察できる。
��
図表 ��.遷移行列から算出される ��の複数年(�年)遷移
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0 2 4 6 8 10
Pro
babi
lity
Den
sity
Rate of Interest (%)
0.0-0.51.0-1.52.0-2.53.0-3.54.0-4.55.0-5.56.0-6.57.0-7.58.0-8.59.0-9.5
10.0-stationary state
(出所)富士通総研作成
図表 ��.遷移行列から算出される ��の複数年(��年)遷移
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0 2 4 6 8 10
Pro
babi
lity
Den
sity
Rate of Interest (%)
0.0-0.51.0-1.52.0-2.53.0-3.54.0-4.55.0-5.56.0-6.57.0-7.58.0-8.59.0-9.5
10.0-stationary state
(出所)富士通総研作成
��
図表 ��.実際に観察された ��の複数年(�年)遷移
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0 2 4 6 8 10
Pro
babi
lity
Den
sity
Rate of Interest (%)
0.0-0.51.0-1.52.0-2.53.0-3.54.0-4.55.0-5.56.0-6.57.0-7.58.0-8.59.0-9.5
10.0-stationary state
(出所)富士通総研作成
図表 ��.実際に観察された ��の複数年(�年)遷移
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0 2 4 6 8 10
Pro
babi
lity
Den
sity
Rate of Interest (%)
0.0-0.51.0-1.52.0-2.53.0-3.54.0-4.55.0-5.56.0-6.57.0-7.58.0-8.59.0^9.5
10.0stationary state
(出所)富士通総研作成
��
図表 ��.履歴効果(金利上昇)
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
0 2 4 6 8 10
Pro
babi
lity
Rate of Interest (%)
P(+|+)P(+|-)
P(+)
(出所)富士通総研作成
図表 ��.履歴効果(金利下落)
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
0 2 4 6 8 10
Pro
babi
lity
Rate of Interest (%)
P(-|+)P(-|-)
P(-)
(出所)富士通総研作成
��
� ��と金利の変動パターンの比較
第 �節と第 �節では,��の変動と金利の変動に共通する特徴として,#�'個々の企業の ��や
金利の値は大きく変動しているにもかかわらず,全体としては定常的な分布を形成しており,初期
の水準にかかわらず,定常的な分布に近づく性質がある,#�'��と金利の変動には過去に依存する
性質がある,の �点を確認した。これらは ��と金利に共通する定性的な性質である。本節では,
分析を一歩進め,両変数の変動パターンを定量的に比較し,それによって両変数の特性の定量的
な差異を明らかにする。
��� 順位に関する遷移行列の比較
まず最初に,��と金利の遷移行列を比較してみよう。ただし,��と金利の定常分布が異なっ
ていることを踏まえると,遷移行列そのものを比較するのは意味がない。そこで以下では各企業の
��や金利の値そのものではなく全体の中で占める順位がどのように変遷していくかを比べること
にする。具体的には,それぞれの変数の初年度の値によって企業を第 �分位(変数の値が最も低い
もの ��(),第 �分位(次の ��(),第 �分位(その次の ��(),…,第 ��分位と ��つのグルー
プに分類した上で,それぞれのグループに属する企業が翌年度にはどのグループへと移動していっ
たかを調べることにする。いわば順位に関する遷移行列である。図表 ��と ��はそれぞれ,��と
金利の �変数について,このような順位に関する遷移行列を ����年から ����年にかけて計算し
た結果を示している。例えば,図表の「+」のマーカーのついたグラフは ����年において第一分
位(�- ��%)の優良企業に属していた企業が,翌年どの分位に属しているのかを示している。
まず,遷移行列の性質として,��の遷移行列は,左右対称であることが確認される。これに対
して,金利の遷移行列については,金利の低い領域では高い領域に比べて変動が小さく,非対称
である。金利の高い領域と低い領域では,金利設定のメカニズムが異なっていることを示唆して
いる。次に,��と金利の遷移行列を比較すると,低 ��低金利の領域では金利の方が変動が小さ
く,高 ��高金利の領域では,金利の方が変動が大きいことがわかる。変動の大きさを比較するに
は同じ分位に留まる確率をみるとわかりやすい(図表 ��)。これをみると変動の違いが明らかであ
る��。すなわち,優良企業(��や金利の低い企業)で金利順位の入れ替えが(��順位の入れ替
えとの対比でみて)少ないのに対して,非優良企業(��や金利の高い企業)では金利順位の入れ
替えが(��順位の入れ替えとの対比でみて)頻繁に起きているといえる。
��同じ分位に留まる確率と分散の大きさは必ずしも一致しないが,ここでは前者に注目している。実際には,金利の遷移行列は低い金利の領域においても,すその広い分布となっている。
��
図表 ��.��の順位に関する遷移行列
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0 2 4 6 8 10
Pro
babi
lity
Den
sity
Region
0-10%10-20%20-30%30-40%40-50%50-60%60-70%70-80%80-90%
90-100%
(出所)富士通総研作成
図表 ��.金利の順位に関する遷移行列
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0 2 4 6 8 10
Pro
babi
lity
Den
sity
Region
0-10%10-20%20-30%30-40%40-50%50-60%60-70%70-80%80-90%
90-100%
(出所)富士通総研作成
��
図表 ��.同じ分位に留まる確率
第 � 第 � 第 � 第 � 第 � 第 � 第 � 第 � 第 � 第 ��
�� ����� ����� ����� ����� ����� ����� ����� ����� ����� �����
金利 ����� ����� ����� ����� ����� ����� ����� ����� ����� �����
(出所)富士通総研作成
日本の金融機関については,貸し手企業のモニタリングが不十分で��の変動をタイムリーに把
握していない,または ��の変化を認識していたとしてもそれを適切に反映させた金利プライシ
ングができていないといった指摘がしばしば聞かれる(例えば %��. #����')。仮にそうした指摘
が正しいとすれば,金利順位の入れ替えは(��順位の入れ替えに比べて)稀にしか起きていない
はずである。しかし,ここでの結果はそうした指摘を強く支持するものとは言えない。特に,非優
良企業で金利順位の入れ替えが(��順位の入れ替えとの対比でみて)頻繁に生じているという結
果は,業績の回復見込みのない企業に対して金利減免や追加融資により延命を図っているという,
いわゆる「ゾンビ貸出」仮説が本稿のサンプルでは妥当しないことを示している��。
��� 履歴効果の比較
次に,履歴効果の強弱という観点から ��と金利を比較しよう。ただし,履歴効果についても直
接の比較は不可能である。以下では,順位に関する線の考え方を応用して,��と金利の履歴効果
の強さを調べることにする。
まず,分析の前提として,順位に関する遷移行列においても,定常分布へと近づくことを確認し
ておこう。��。図表 ��と ��はそれぞれ ��と金利について,�年の遷移行列から算出される複数
年(�年)の遷移行列を示している。さらに図表 ��と図表 ��では,実際に観測される複数年(�
��ゾンビ仮説とは,多額の不良債権の存在によって金融機関の経営インセンティブが歪められ,��と金利の関係が変容しているという考え方である。例えば,�� ��� ��� ��!"#�$�%� ������ によれば,金融機関経営者は自己保身のために不良債権の発覚を遅らせる誘因をもち,そのために,将来回復の見込みのない企業であっても金利の減免や追加融資により延命させようとする。そのように将来の見込みのない企業が「ゾンビ企業」,また,そうした企業に対する融資が「ゾンビ貸出」とよばれるものである。もしこの仮説が正しいとすれば優良企業の金利順位の入れ替えが頻繁に起こる一方,非優良企業の金利順位の入れ替えは起こりにくいはずである。表 の結果はこれと反対であり,少なくとも本稿が分析対象としている中小企業についてはゾンビ仮説が棄却されている。なお,ゾンビ仮説の検証例としては,����&&�#� �� �& ����'�,�� � ������,���! ��� �� ��$#�� ������,(���#�� ��� �� ���� ����'� などがある。
��図表 �� と �� では,遷移がマルコフ過程に従うという仮定の下で算出された分布が定常分布からどれだけ乖離しているかを計算している。例えば,図 ��にある「����(#����))」の線は,初年度における ��の水準が分布の左端 ��のレンジにいた企業群について,遷移がマルコフ過程に従うという仮定の下で,� 年目,� 年目,� � � のクロスセクション分布を計算した上で,各年の分布の累積密度関数と定常分布の累積密度関数を比較し,その面積の差を縦軸に示したものである。定常分布を基準とした推移行列の累積密度関数(�")"&�� *� ��� �+),つまり定常分布からの距離を表している。図からわかるように,定常分布との差はゼロに向かって単調に減少しており,図 ��, で視覚的に確認した定常分布への収斂傾向が定量的に裏付けられている。これに対応する実際の遷移は「����(���"�&)」の線で与えられている。ここでは,初年度に分布の左端 ��のレンジにいた企業群の � 年目,� 年目,' 年目,� 年目の分布を求め,それらの累積密度関数が定常分布の累積密度関数とどの程度乖離しているかを算出している。図からわかるように,実際の遷移も単調に定常分布へと収斂しているが,その収斂速度はマルコフ過程に従うとの仮定の下で算出されたものと比べ遅い。この収斂の遅れの程度によって履歴効果の強さを測ることも可能である。
��
年)の遷移行列を表している。ここでの定常分布は一様分布であり,すべての値が ���となる分布
へと漸近していることが確認できる。また,実際の遷移は,マルコフ過程に従うと仮定した場合の
遷移よりも定常分布への収斂速度が遅いことがわかる。
定常分布への収斂を確認したところで,次に図表 ��の応用として,同じ分位に留まる確率を見
てみよう。図表 ��では,同じ分位に留まる確率を,�年遷移,�年遷移から算出される複数年(�
年)遷移,実際に観測される複数年(�年)遷移について示している。図表 ��から読み取れること
は,第 �に,��と金利ともに,実際に観測される遷移行列は,マルコフ過程を仮定した場合より
も同じ分位に留まる確率が非常に大きいことである。これは履歴効果により定常分布への漸近速度
が遅くなっていることを示している。第 �に,��と金利を比較をすると,�年遷移から算出され
る複数年(�年)遷移では,�年遷移で観測される特徴と同じように,優良企業(��や金利の低
い企業)で金利順位の入れ替えが(��順位の入れ替えとの対比でみて)少ないのに対して,非優
良企業(��や金利の高い企業)では金利順位の入れ替えが(��順位の入れ替えとの対比でみて)
頻繁に起きている。これに対して,実際に観測される複数年(�年)遷移では,優良企業と非優良
企業ともに,金利順位の入れ替えが(��順位の入れ替えとの対比でみて)頻繁に起きている。順
位の入れ替えのパターンが短期(�年)と長期(�年)で異なるのは非常に興味深い事実である。
この事実は ��と金利のダイナミックな関係について次のことを示唆している。すなわち,図表
��の第 �分位に注目すると,�年遷移では ��の方が同じ分位に留まる確率が小さく,��が大き
く変動していることを示している。ところが,�年遷移の実績値は ��の方が同分位に留まる確率
が高く,�年間の変動は金利に比べ小さい。このことは,��は短期的には活発に変動するものの,
その変動の多くは引き戻され,�年が経過すると短期的な変動のかなりの部分が消されてしまうこ
とを意味している。正確には,短期的な変動が消される度合いが金利に比べ��の方が大きいと
いうことであり,これは,��の方が履歴効果(引き戻し効果)が強く働いているためと解釈でき
る。この傾向は第 �分位で顕著であるが,第 �分位から第 �分位についても同様の傾向が確認で
きる��。また,第 �分位から第 �分位については,�年遷移で ��と金利に差がほとんどないもの
の,�年遷移では金利の変動が大きいという結果になっている。この結果も,��の方が履歴効果
(引き戻し効果)が強いという性格と整合的である�����。このように,��と金利の履歴効果を比
較すると,��の方が履歴効果が強いと読み取れる��。
�� 年遷移から算出される � 年遷移では,第 � 分位から第 � 分位の同じ分位に留まる確率は重要な情報となりえない。例えば,第 �分位(または第 �分位)の遷移行列は第 分位(第 �分位)に移る確率が最も多く,また,第 �分位から第- 分位の同じ分位に留まる確率は定常分布の値(�)に近づいており,��と金利の値の違いが非常に小さくなっている。
��第 � 分位については, 年遷移でも金利の方が大きく変動している。� 年遷移ではさらに大きく金利が変動しているため,ここでも �� の方が引き戻し強い可能性がある。
��ただし,金利の変動が大きいのことは,遷移行列のすそが長いことが原因であるとも考えられる。��脚注 ' で述べたように,履歴効果の違いは,定常分布への漸近速度の違いからも観測される。例えば,� - � %の分位に属する優良企業について,マルコフ過程を仮定した複数年遷移の定常分布への漸近速度は,�� と金利ともほぼ変わらない。しかし,実際の遷移から得られた漸近速度は,��の方がかなり遅くなっている。つまり,��の方が履歴効果(引き戻し効果)が強いことを示している。
��
図表 ��.遷移行列(�年)から算出される複数年(�年)の ��の遷移行列
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0 2 4 6 8 10
Pro
babi
lity
Den
sity
Region
0-10%10-20%20-30%30-40%40-50%50-60%60-70%70-80%80-90%
90-100%
(出所)富士通総研作成
図表 ��.遷移行列(�年)から算出される複数年(�年)の金利の遷移行列
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0 2 4 6 8 10
Pro
babi
lity
Den
sity
Region
0-10%10-20%20-30%30-40%40-50%50-60%60-70%70-80%80-90%
90-100%
(出所)富士通総研作成
��
図表 ��.実際に観測される複数年(�年)の ��の遷移行列
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0 2 4 6 8 10
Pro
babi
lity
Den
sity
Region
0-10%10-20%20-30%30-40%40-50%50-60%60-70%70-80%80-90%
90-100%
(出所)富士通総研作成
図表 ��.実際に観測される複数年(�年)の金利の遷移行列
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0 2 4 6 8 10
Pro
babi
lity
Den
sity
Region
0-10%10-20%20-30%30-40%40-50%50-60%60-70%70-80%80-90%
90-100%
(出所)富士通総研作成
��
図表 ��.同じ分位に留まる確率
�年遷移
第 � 第 � 第 � 第 � 第 � 第 � 第 � 第 � 第 � 第 ��
�� ����� ����� ����� ����� ����� ����� ����� ����� ����� �����
金利 ����� ����� ����� ����� ����� ����� ����� ����� ����� �����
�年遷移から算出される �年遷移(マルコフ過程)
第 � 第 � 第 � 第 � 第 � 第 � 第 � 第 � 第 � 第 ��
�� ����� ����� ����� ����� ����� ����� ����� ����� ����� �����
金利 ����� ����� ����� ����� ����� ����� ����� ����� ����� �����
実際観測される �年遷移
第 � 第 � 第 � 第 � 第 � 第 � 第 � 第 � 第 � 第 ��
�� ����� ����� ����� ����� ����� ����� ����� ����� ����� �����
金利 ����� ����� ����� ����� ����� ����� ����� ����� ����� �����
(出所)富士通総研作成
��と金利の履歴効果の差は「平準化(�%�.�$-)仮説」(細野・澤田・渡辺 #����')に即し
て解釈できる。平準化仮説とは,顧客企業と金融機関が長期的な取引関係(リレーションシップ・
バンキング)を結んでいることを前提として,顧客企業の ��の趨勢的な変化があったときにの
み金利を調整するという考え方である�。例えば,ある企業の今期の業績が落ち込みそれに伴って
��が上昇したとする。ただし,この ��の上昇は今期限りであり,来期以降はそれ以前の水準に
戻ると見込まれているとする。つまり,��には強い引き戻し効果が働いている。この状況にあっ
て,長期的な取引関係をもたない投資家は今期の ��上昇に合わせて今期の金利を引き上げるとい
うスポット的な行動を採るであろう。この企業の来期以降の業績が回復するとしても,そのときに
引き続きこの企業と取引している保証はないからである。これに対して長期的な取引関係をもつ金
融機関は,来期以降もこの企業と取引を継続する蓋然性が高いので,来期以降の業績改善を織り込
んだ金利設定を行うであろう。取引金融機関が念頭においているタイムスパンが十分に長ければ,
中長期の平均的な��(の予想値)はさほど変化しないので,今期分を含めて金利水準はほとんど
変化しないはずである。この場合には,当期の ��上昇にもかかわらず金利が変更されないという
現象が観察されることになる。これが「平準化(�%�.�$-)」の意味である��。逆に言えば,長期
的な取引関係にある金融機関が金利を変更するのは,��が一時的(��%*����)ではなく恒久的
に(*��%�$�$�)変化した場合である。
��リレーションシップ・バンキングについては例えば .��� ������ を参照。�����# �� ��� ��/�� ����� は長期的な取引関係により別なタイプの平準化が可能になると指摘している。すなわち,若年期の企業はリスクが高いが,それに見合う金利を要求しようとすると企業の成長が阻害されてしまう。このとき,長期的な取引関係にある金融機関であれば,若年期の企業に対してその時期のリスクとの見合いでは低い金利で貸し出す一方,その企業が成熟期を迎えたときにはその時期のリスクに比べ割高な金利を要求するという平準化を行うことができる。
��
このように,金利が ��の変動の趨勢部分だけを反映するかたちで決められているとすれば,��
が強い履歴効果をもっていたとしても,金利の履歴効果は弱められる。図表 ��の分析結果は,企業
の借入金利の少なくとも一部がこのようなメカニズムにより決定されていることを示唆している。
��
図表 ��.定常分布への漸近速度(��)
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
0 5 10 15 20
Cum
ulat
ive
Den
sity
time (year)
0-10%(random)10-20%(random)20-30%(random)30-40%(random)40-50%(random)50-60%(random)60-70%(random)70-80%(random)80-90%(random)
90-100%(random)0-10%(actual)
10-20%(actual)20-30%(actual)30-40%(actual)40-50%(actual)50-60%(actual)60-70%(actual)70-80%(actual)80-90%(actual)
90-100%(actual)
(出所)富士通総研作成
図表 ��.定常分布への漸近速度(金利)
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
0 5 10 15 20
Cum
ulat
ive
Den
sity
time (year)
0-10%(random)10-20%(random)20-30%(random)30-40%(random)40-50%(random)50-60%(random)60-70%(random)70-80%(random)80-90%(random)
90-100%(random)0-10%(actual)
10-20%(actual)20-30%(actual)30-40%(actual)40-50%(actual)50-60%(actual)60-70%(actual)70-80%(actual)80-90%(actual)
90-100%(actual)
(出所)富士通総研作成
��
� おわりに
本稿では,金利と ��のダイナミックな特性を,� �時点におけるクロスセクション分布,�
�時点間の遷移行列,� �時点間に現れる過去への依存性,の �つの視点から調べた。その結果,
両変数に共通する特性として,第 �に,金利と ��それぞれの各年のクロスセクション分布はほぼ
同じ形状をしており,また,そこから一旦乖離しても復元性があること(「定常性」)が確認され
た。第 �に,金利と ��のある年からその翌年にかけての遷移は各変数の過去の動きに影響されて
おり(「履歴効果」),両変数ともに,ある年に上昇または下落すると翌年はその反対の方向に変化
する確率が高まるという引き戻しの傾向が確認された。このように,金利と ��の変遷は,定常分
布に収斂しようとする力と元の水準に止まろうとする力の綱引きで決まっているという点でよく似
た性質をもっている。一方,両変数の差異としては,金利の方がマルコフ性が強い(過去に引きず
られる度合いが弱い)ことが確認された。
金利と ��のダイナミックな振る舞いが似ているというファインディングは,信用リスクに見
合った金利形成がなされている可能性を示唆している。しかし,細野・澤田・渡辺 #����'や ����/
0���-�/ �$� 1���$�� #����'など ���データを用いた既存研究によれば,��と金利の同時相
関は ���未満と非常にゼロに近く,��と金利が一対一で対応している可能性は極めて低い。した
がって,金利と ��のダイナミックな振舞いの類似性が両者の同時点相関から来ている可能性は低
い。それでは金利と ��のダイナミックな特性が似ているのはなぜだろうか。考えられるのは,金
利と ��が完全に同期しないまでも,若干のリードやラグを持ちながら,つかず離れずの関係を維
持しているということである。これはまさに,中小企業と金融機関の関係についての経済理論が示
唆している性質である。例えば,顧客企業と金融機関が長期的な取引関係にあるとするとすれば,
顧客企業の業績が一時的に振るわず��が一時的に上昇したとしても直ちに金利引き上げを行う
ことはない。業績悪化が一時的で,しばらくすれば ��が低下すると見込まれるのであれば,取引
期間中の平均的な ��の水準はさほど大きく変化しないからである��。この考え方が正しいとすれ
ば,��が強い引き戻し効果により,上昇または下落→その反動という短期的な振幅を繰り返した
としても,金利はその振幅に逐一追随するのではなく,振幅を均した移動平均の動きを追っている
ように見えるはずである。金利と ��を比較すると,金利の方がマルコフ性が強いという本稿の分
析結果はこうした見方と整合的である�����。��一般に,企業の販売価格は限界費用の変動との対比でゆっくりとしか調整されない(「価格粘着性」)。この場合,企業は足元の限界費用の変化に直ちに反応するのではなく,中長期的な限界費用の変化を予想し,それに見合った価格設定を行うとされている。金融機関が中長期的な �� の水準を予想し,それに見合う金利を設定するというのはこれと同じ原理である。
��リレーションシップ・バンキングの議論によれば,先行き数年間に亘って �� がどの程度の水準にあるかという予想が現時点での金利を決定している。そうした考え方が正しいとすれば,現時点での金利水準の高低はその企業の将来の ��の動きを予見(0#�� ��)しているはずである。これは現時点での株価が企業収益の先行きを予見するのと同じである。細野・澤田・渡辺 ������ は金利による将来業績の予見可能性を検証した結果,金利の高低は将来の企業業績をある程度予見しているとの結果を報告している。
����と金利が完全に同期しているのではなく時間差を伴いつつもつかず離れずの関係にあるとの本稿の分析結果は,金
��
最後に本稿の分析結果の含意に触れておこう。本稿の分析対象期間である ����年代後半から
����年までの時期は,銀行の融資態度が歪み,再建の見込みのない企業に対して大量の追い貸し
や金利減免が行われたと言われている時期でもある。例えば,��� �� �� � � #����'は,この時
期には,再建の見込みのない企業,いわゆる「ゾンビ企業」に対する融資が大量に行われ,その結
果,ゾンビが淘汰された場合に成立するであろう均衡に比べ賃金などの生産要素の価格が高くな
り,それが新規参入の阻害などの弊害を生んだと指摘している。
金融機関等が中長期の ��を予想しその平均的水準に見合う金利設定を行っているという本稿の
分析結果は,基本的にはそうした指摘の妥当性に疑問を投げかけるものと言える。ただし,既存研
究と本稿の分析の間には次の �点ですれ違いがある。第 �に,本稿の分析対象は中小企業であり,
追い貸しや金利減免などが広く行われたとされる大企業は対象外である。したがって,本稿の分析
結果をもってゾンビ企業の存在を棄却できたとするのは適当でない。第 �に,����年代後半以降
の金融機関の問題は,大量の不良債権を抱えた大銀行の問題であり,その経営者が不良債権の発覚
を遅らせようとして追い貸し等を行ったためと言われている。これに対して本稿の分析対象は中小
企業の借入コスト全体であり,そこには大銀行からの融資のみならず,信金などの中小金融機関や
ノンバンク,さらには親戚・知人からの融資も含まれている。したがって,本稿の分析結果は,大
銀行の金利設定が歪んでいたという既存研究の結果と必ずしも矛盾するものではない。
大銀行の大企業向け融資の金利が歪んでいたとされる ����年代後半以降の時期において,少な
くとも中小企業にはそうした弊害が及んでいなかったという本稿のファインディングはこれまでの
議論で看過されていた点であり,本稿の最も重要な含意はその点にある。
融機関等が企業のコア価値を見据えてプライシングしている結果と解釈することもできる。すなわち,企業経営者の技術力や経営能力などによって規定される企業のコア価値はある程度の時間をかけてゆっくりと変動するものである。つまり,コア価値は �� 変動の趨勢的な動きを規定するものであり,これに短期的・一時的な要素を加えたものが ��変動の構成要素である。本稿の分析結果は,金融機関等が �� 変動のうちで短期的・一時的な変動要素を除去することにより企業のコア価値に相当するものだけを抽出しそれに対してプライシングしている可能性を示唆している。
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参考文献
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