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1 2012 年以降のウズベキスタン競争法 ―旧競争法との比較、現状および課題― ラドジャポフ フサイン 1 目次 I はじめに.....................................................................................................................................1 II 経済発展........................................................................................................................................3 III 競争法と政策................................................................................................................................ 4 IV 執行機関としての競争委員会 ....................................................................................................7 V 2012 年ウズベキスタン競争法................................................................................................. 11 VII 国際反独占協力........................................................................................................................ 37 VII おわりに.................................................................................................................................... 38 I はじめに 2012 1 月に中央アジアのウズベキスタン共和国において新しい「競争に関する法律」 2 (以下「2012 年競争法」と略)が制定された。これはウズベキスタンの独立 3 以降制定された 第三世代の競争法であり、先進国の競争法に近づいてきた。このような動きの背景には、市場 への新しい事業者の参入、独占的事業者の市場シェアの段階的な減少、市場経済関係の多様化 を含む市場経済の発展とそれに伴う消費者保護の強化があった。また、2012 11 月に競争当 局の組織構造においても重要な変化があり、国家財産委員会と反独委員会の統合の結果、新し い「競争委員会」が設立された。 1 PhD Candidate, Kobe University, Graduate School of Law 2 Закон Республики Узбекистан «О конкуренции», от 6 января 2012 г., № зру -319 3 1991 8 31 日。
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Page 1: 2012 - UJOLSujols.org/wp-content/uploads/2018/03/Husain-Radjapov_Article.pdf4 矛盾している経済政策であるため、ウズベキスタンはいまだwto の加盟国として受け入れら

1

2012 年以降のウズベキスタン競争法

―旧競争法との比較、現状および課題―

ラドジャポフ フサイン1

目次

I はじめに .....................................................................................................................................1

II 経済発展 ........................................................................................................................................3

III 競争法と政策 ................................................................................................................................4

IV 執行機関としての競争委員会 ....................................................................................................7

V 2012 年ウズベキスタン競争法 ................................................................................................. 11

VII 国際反独占協力........................................................................................................................ 37

VII おわりに .................................................................................................................................... 38

I はじめに

2012 年 1 月に中央アジアのウズベキスタン共和国において新しい「競争に関する法律」2

(以下「2012 年競争法」と略)が制定された。これはウズベキスタンの独立3以降制定された

第三世代の競争法であり、先進国の競争法に近づいてきた。このような動きの背景には、市場

への新しい事業者の参入、独占的事業者の市場シェアの段階的な減少、市場経済関係の多様化

を含む市場経済の発展とそれに伴う消費者保護の強化があった。また、2012 年 11 月に競争当

局の組織構造においても重要な変化があり、国家財産委員会と反独委員会の統合の結果、新し

い「競争委員会」が設立された。

1 PhD Candidate, Kobe University, Graduate School of Law 2Закон Республики Узбекистан «О конкуренции», от 6 января 2012 г., № зру-319

31991 年 8 月 31 日。

Page 2: 2012 - UJOLSujols.org/wp-content/uploads/2018/03/Husain-Radjapov_Article.pdf4 矛盾している経済政策であるため、ウズベキスタンはいまだwto の加盟国として受け入れら

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本稿は、ウズベキスタンにおける競争法の発展および 2012 年以降の競争法とその運用

の現状を検討対象とする。その主な理由は、次の通りである。第 1 に、1917 年から 1991 年ま

での長い間、旧ソ連下のウズベキスタン経済は計画経済に基づく政策を実施してきたが、独立

後に市場経済に移行した。ただし,長期にわたって旧ソ連型中央集権的計画経済の下にあった

ウズベキスタンにとって,移行は容易ではなかった。同国が市場経済を立ち上げるためにどの

ような競争法を制定してきたのかは,独立後 25年を経った現在において,改めて検証すべき問

題である。第 2 に、2012 年競争法の制定と競争当局の組織変更が市場において公正かつ自由な

競争を確保することにどのような貢献を果たしてきたのかを検証することは、不可欠な作業で

ある。第 3 に、2012 年以降の競争政策の課題と問題点を指摘し、その法執行機能を十分に発揮

できていたかについて実質的な報告や検討はほとんどなされておらず、非常に透明性に欠けて

いる。

2012 年までのウズベキスタンの競争法と競争政策に関する資料は 3 つある。第1に、、

2008 年に公表されたウズベキスタンの「競争の保護についての法律草案の基本構想」である4。

第 2 に、現行法の 2000年から 2009年までの運用とウズベキスタンの競争政策を批判的に検証

し、いくつかの重要な問題点とこれから解決すべき課題を多く取り上げた「ウズベキスタンの

競争政策と反独占規制」と題する報告書 4(以下「2010年分析報告書」)である。第 3 に、名

古屋大学法学研究科の林秀弥とウミリヂノブ アリシェルによる「転換期のウズベキスタン競

争法-現状と課題」という論文である5。これは最新の資料であり、2011 年までのウズベキス

タンの旧競争法を紹介している。この 3 つの資料は、ウズベキスタンにおける競争政策の運用

とその問題点を明確にし、新競争法草案が解決すべき課題を明らかにする上で、貴重な素材を

提供している。本稿は、これらの先行研究の作業を継続するものであり、上述の課題に答える

ため一つの試みである。

そこで、本稿は、II において、まず、ウズベキスタンの経済発展を簡単に紹介する。

その後、III においては、ウズベキスタンの競争法の歴史的な発展、現在までに制定された 3

4Концепция проекта нового Закона Республики Узбекистан «О защите конкуренции».これは International

Financial Corporation (IFC)とウズベキスタン反独占委員会の協力の成果である。

5林秀弥、ウミリデノブ アリシェル「転換期のウズベキスタン競争法―現状と課題」土田和博

編著『独占禁止法の国際的執行―グローバル化時代の域外適用のあり方』日本評論社、259-302

頁、2012

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つの競争法の特徴を明確にする。IV では、競争委員会の執行機関としての発展、活動、構造を

明らかにし、問題点を整理する。V においては、現行競争法を概観し、その問題点を指摘する。

また、2012 年以降の競争法の適用に関する事例を取り上げる。VI では現在の競争法の制裁制度、

改正後の変更および欠点を明確にする。VII においてはウズベキスタンの競争法上の国際協力に

ついて紹介する。

I I 経済発展

旧ソ連に属したウズベキスタンが 1991 年に独立を達成し、中央計画経済から市場経済

に移行を開始して以来、25 年が経った。現在のウズベキスタンの経済には以下のような功罪両

面の結果が生じている。 一方で、ウズベキスタンの工業化は,旧ソ連諸国の中で最も成功した

とみなされている。2006 年から 2016 年までの国内総生産(GDP)の平均成長率は、8.04%を遂

げている6。他方で、所得分布の不均等のため、海外労働移動が刺激され、社会的な問題が発生

している。

ウズベキスタンは天然資源が豊かな国家であり、財政収入が実質的に金、ウランおよび

天然ガスの生産と輸出に依存している7。また、経済発展に対する農業の役割も非常に大きい。

ウズベキスタンは、綿の生産に関して世界第六位、綿の輸出で世界第二位である8。また、

General Motors と Daewoo は、ウズベキスタンで自動車生産施設を開設し9、国内供給を満たす

のみならず、ロシアや他の中央アジア諸国へ輸出している10。

市場経済へ移行したにもかかわらず、国内企業の生産力(輸入代替力)を維持するため

に、市場における国家介入がまだ続いている。例えば、 外国からの輸入を制限する目的で 高い

輸入関税が設定され、差別的に適用される場合がある。「輸入代替」と「輸出促進」政策が国

家の経済発展戦略として正式に宣言されている11。この双方が世界貿易機関(WTO)の原則に

6ウズベキスタンの国家統計委員会。

7ウズベキスタンは世界第 7位の金生産者であり、世界第 4位の金埋蔵量を保持している国である

8International Cotton Advisory Committee. February 2005. Retrieved 13 May 2013.

9 UNDP. Assessing development strategies to achieve the MDGs in the Republic of Uzbekistan . 2010 .

10 UNDP. Development Focus Survey. The Uzbekistan Auto Industry: Sources of Growth Outside the Sector . 2013.

11 Islam Karimov. The global financial-economic crisis, ways and measures to overcome it in the conditions of

Uzbekistan. Tashkent, 2009.

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矛盾している経済政策であるため、ウズベキスタンはいまだ WTO の加盟国として受け入れら

れていない12。その結果、国の経済は世界経済システムへの国際的な接合アクセスを欠いてい

る。一方で、それが国の経済パフォーマンスに悪影響を与えるが、他方で、良いこともある。

たとえば、2007ー2009 年の世界経済危機時にもウズベキスタンは直接的な影響を受けなかった

13。

さらに、事業活動を促進するために、多様な経済改革が行われ、ビジネスに関する行政

手続が改善されてきた。世界銀行の「Doing business」に関する報告によると、ウズベキスタン

のビジネス環境が徐々に良くなっている。具体的には、2012 年に 152 位であったウズベキスタ

ンは、2016 年には 87 位まで向上した14。

I II 競争法と政策

競争法の制定は、市場経済を作成するために自然かつ必要なステップだった。それは競

争政策を実行するための法的基礎を提供するだけではなく、ウズベキスタンが中央集権的計画

経済を放棄し、経済発展の方法として自由市場を選択したこと示すものであった。旧ソ連の一

部の国々とは異なり、ウズベキスタンは市場経済の移行方法として進化的(段階的)なアプロ

ーチを選んだ15。段階的なアプローチは、競争法の歴史にも見える。

現在までのウズベキスタンの競争法に関する歴史では、以下の三つの法律が制定されて

きた:①1992 年に「独占活動の制限に関する法律」16、②1996 年に「商品市場における競争お

よび独占活動の制限に関する法律」17、③2012 年に「競争に関する法律」18である。それぞれ

12 https://www.wto.org/english/thewto_e/acc_e/a1_ouzbekistan_e.htm

13Mckinley Terry. The Puzzling Success of Uzbekistan’s Heterodox Development. Development Viewpoint. 2010,

44: 15.

14 http://www.doingbusiness.org/data/exploreeconomies/uzbekistan

15 Islam Karimov. The global financial-economic crisis, ways and measures to overcome it in the conditions of

Uzbekistan. Tashkent, 2009.

16Закон Республики Узбекистан «Об ограничении монополистической деятельности» от 2 июля 1992 г., №

623-XII.

17Закон Республики Узбекистан «О конкуренции и ограничении монополистической деятельности на

товарных рынках» от27 декабря 1996 г., № 355-I.

18Закон Республики Узбекистан «О конкуренции», от 6 января 2012 г. № зру-319.

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の競争法は、移行期間の各段階における競争政策の特徴を表す。ただ三つの競争法名を見るだ

けでも、それぞれの競争法の制定の目標と焦点が理解できる。

(1) 1992 年競争法

ウズベキスタンでは、初めての競争法は「独占活動の制限に関する法律」と呼ばれ、1992

年に制定された(以下「1992 年競争法」と略)である。当時このような競争法をウズベキスタ

ンだけではなく、旧ソ連に属していた他の共和国も制定した。1992 年競争法は EU 競争法をモ

デルにして作られ19、全 13 条から成り立つ、かなり単純な短い法律だった。

独立後の市場は、大幅に独占事業によって占められ、競争のことを言うまでもなかった。

それで、1992 年競争法の焦点は次の 2 つの課題にあった。すなわち、第 1 に、市場における競

争環境を作るために独占事業の数を徐々に減らすこと、第 2 に、独占事業の支配的地位の濫用

行為を防ぐことである。だから、法律名も「独占活動の制限に関する法律」と呼ばれ、独占的

活動の制限だけを目指した。さらに、国際通貨基金(IMF)とアジア開発銀行(ADB)のような

国際金融機関からの経済援助を得ることが、独立後急いで競争法を制定した理由の一つであっ

た20。

1991 年から 1996 年までの時代は、国の生産の安定化、民間部門、国立通貨の導入、価

格自由化、インフレ抑制と民営化に関する集中的な改革の時期として特徴付けられている21。

この時代の顕著な特徴は、マクロ経済に関する政策改革の大部分が実施され、ウズベキスタン

は経済的に重要な成果も達成できた。たとえば、他の旧ソ連諸国と比べて、経済的により早く

生産力の回復ができた。また、人口に対して比較的小さな負担で価格の自由化を行ったことも

その時代の特徴と見なされている。

(2) 1996 年競争法

19林秀弥、ウミリデノブ アリシェル「転換期のウズベキスタン競争法―現状と課題」土田和

博編著『独占禁止法の国際的執行―グローバル化時代の域外適用のあり方』日本評論社、259-

302頁、2012。

20 Maher Dabbah, ‘International and Comparative Competition law’, 2010:290 .

21Sirajiddinov, Nishanbay, ‘Main Stages of Economic Reforms in Uzbekistan’. Centre for Economic

Research (2004).

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移行経済の重要な改革のもう一つとして、3 段階の民営化が開始された。第 1 および部

分的に第 2 の段階は、正常に実施された。第 1 段階では、すべての住宅22だけでなく、中小企

業は、主にサービス部門が民営化された23。第 2 段階では、残された中小企業に加え、いくつ

かの大企業も民営化された。この繁栄の時代は、文献では「ウズベクパラドックス」として記

載されている24。現在進行中の第三段階では、残された大規模な企業の大多数の民営化が行わ

れている。このような民営化と事業活動の促進に関する改革の結果、民間部門が拡大して市場

における競争関係が発生してきた。そこで、1992 年競争法は、市場の変化に対応することがで

きなくなり、反独占だけではなく競争関係にも焦点を当てる法律の必要性が生じた。その結果、

1996 年に「商品市場における競争および独占的活動の制限に関する法律」という新しい法律が

制定された(1996 年競争法)。もちろん、法律の名前だけはなく、内容も実質的に変更された。

すなわち、1996 年競争法はカルテル行為を定義し、企業結合の基準および手順を明確とし、独

占事業者の国家登録制度を設けた。1996 年競争法の制定は、ウズベキスタンの市場が一定の競

争水準を達成し、「支配的地位」の規制が競争政策の優先的な課題としての立場を失ったこと

を意味する。

(3) 2012 年競争法

2000 年以降、政府が銀行制度および証券市場の自由化に関する改革を開始した25。その

結果として、金融制度が発展し、金融市場を規制する必要性が生じた。しかし、1996 年競争法

が制定された時点では、ウズベキスタンの金融セクターがまだ発展していなかったので、法律

22Постановление Кабинета Министров Республики Узбекистан «О дальнейшей приватизации

государственного жилищного фонда в Республике Узбекистан» г. Ташкент,1 марта 1993 г., № 114 (1993

年 3 月 1 日の内閣法令)。

23Постановление Кабинета Министров Республики Узбекистан «О порядке реализации в частную

собственность объектов торговли и сферы обслуживания вместе с земельными участками, на которых они

размещены, и земельных участков в пожизненное наследуемое владение» г. Ташкент, 11 апреля 1995 г., №

126 (1995年 4月 11日の内閣令)。

24Spechler, M. C., K. Chepel Bektemirov, and S. Chepel. S. & Suvankulov, F. The Uzbek Paradox: Progress

without Neo-Liberal Reform." The Economic Prospects of the CIS: Sources of Long-Term Growth. Edward Elgar.

2004.

25同上。

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の適用範囲は商品市場のみであり、金融市場には適用されなかった26。1996 年競争法は当該ギ

ャップを埋めるため、2012 年に改正され「競争に関する法律」という競争法が制定された(以

下「2012 年競争法」と略)。さらに、市場における独占事業の数が非常に減少し、競争関係が

発展した(表 1 )。2012 年競争法の名前だけを見ても、法の絶対的な焦点が市場における競争

の保護に向かったということが分かる。また、金融市場は 2012年競争法の適用範囲に含まれる

ともに、支配的地位の要件、カルテルの定義、合併・株式買収に関する重要な改正も行われた。

【表 1 ウズベキスタンにおける独占事業数の経年変化】

出典:競争委員会の年次報告書

IV 執行機関としての競争委員会

競争法の執行機関は、「民営化・反独占および競争開発の国家委員会」である(以下

「競争委員会」と略)。競争委員会は、ウズベキスタンの経済発展のニーズに応じて以下の3

つの機能を果たしている。第 1 は、民営化を推進し、また国の外国投資誘到政策に関与する機

26Akimov, Alexandr, and Brian Dollery. The Uzbek approach to financial system development: an analysis of

achievements and failures. No. finance: 200905. Griffith University, Department of Accounting, Finance and

Economics, 2009:24.

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能である。第 2 は、競争法および自然独占に関する法律の執行、また消費者の権利保護を担う

機能である。第 3 は、破たんした国有企業の処理に取り組み、破産事業再構築を行う機能であ

る。競争委員会の歴史的な発展は、以下の通り 4 つの段階で行われてきた。

(1) 1992 年に財務省の反独占局として設立

最初の行政反独占機関は 1992 年に設立され、財務省に属する反独占・価格局であった。

これは、旧ソ連中央集権的計画経済体制下の価格局を土台に作られた後継機関だった27。

(2) 1996 年に財務省の下に設立された反独占委員会

1996 年に競争法が制定されたことを受け、それを執行するために財務省の下に反独

占・競争促進委員会(反独占委員会)が設立された28。ただし、財務副大臣が反独占委員会委

員長となり、実際の独立性がなく、反独占委員会は財務省の一部として位置付けられた。その

結果として、財務省と反独占委員会の間に政策的な対立が発生し、競争政策が効果的に執行で

きなかった。

(3) 2000 年発足の独立行政機関としての独占委員会

そこで、2000 年に反独占委員会が財務省から完全に離れて独立行政委員会として発足

した29。以来、反独占委員会が市場における競争保護を中心業務とし、効果的な競争政策を開

始した。結果として、反独占委員会が発見した事件が増加し、独占事業者の数が幅広く減少し

27Broadman, Harry G. Competition, Corporate Governance, and Regulation in Central Asia: Uzbekistan's

Structural Reform Challenges. Vol. 2331. World Bank Publications, 2000:8.

28Указ Президента Республики Узбекистан «Об образовании комитета по демонополизации и развитию

конкуренции при Министерстве Финансов Республики Узбекистан» ОТ 15 мая 1996 г., № УП-1464. (1996

年 5 月 15 日の大統領令)。

29Указ Президента Республики Узбекистан«Об образовании государственного комитета Республики

Узбекистан по демонополизации и развитию конкуренции» от 2 августа 2000 года № 2676 (2000 年 8 月 2

日の大統領令―現在無効)。

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た(図)30。さらに、経験不足にかかわらず反独占委員会は、市場で非常に発見しにくい複雑

なカルテル事件も発見することができた31。

(4) 2012 年の競争委員会の設立

2012 年に競争法が新しく制定されるとともに、反独占委員会も重要な変更を受けた。

国家予算の制約32および行政機関の機能重複を避けるため33、反独占委員会と国家財産委員会が

統合され、ハイブリッド行政機関「民営化、反独占および競争促進委員会」が設立された(以

下「競争委員会」と略)34。 2 つの委員会の「統合」の結果、ウズベキスタンの競争政策が実

質的に変わり、競争保護ではなく民営化が競争委員会の優先的な課題となった。競争委員会の

構造は図 1 の通りである。

30 2010年分析報告書、 29頁。

31同上、22頁。

32 2015年 9月 15日競争委員会の職員との面接。

33Решение Совета глав правительств Содружества Независимых Государств "Решение о деятельности

Межгосударственного совета по антимонопольной политике" от 30 мая 2014 года город Минск. (2014年

5月 30日の CIS 諸国政府の決定)http://naviny.org/2014/05/30/by2674.htm

34Указом Президента Республики Узбекистан от 13.11.2012г. №УП-4483 «Об образовании Государственного

комитета Республики Узбекистан по приватизации, демонополизации и развитию конкуренции» . (2012

年 11月 13日の大統領令)。

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【図 1 現在の地方競争当局の構造35】

図 1 のように、3 つの部のうちの 1 つだけが実際の競争保護に関する機能を果たしてい

る。他の 2 部が民営化および破産国有事業管理に関する非競争的な活動を行っている。また、

新しい競争委員会委員長として国家財産委員会の元委員長が任命され、政府の優先順位が明確

になった。さらに、競争委員会の全職員数は 611 名となり、その中で直接競争保護に関する業

35ПРИЛОЖЕНИЕ № 3а к постановлению Кабинета Министров от 14 ноября 2012 г. № 322. ТИПОВАЯ

СТРУКТУРА территориальных управлений Государственного комитета Республики Узбекистан по

приватизации, демонополизации и развитию конкуренции. (2012年 11月 14日の内閣令)。

地方競争当局長

副長

副長

民営化および投資

義務監督部

反独占および自然

独占の監督部

広告活動および消

費者権利保護部

競争環境の促進お

よび不公正競争方

法の防止部

在庫、登録および

国家資産の効率的

な管理部

国家資産の売買監

督部

財務、民営化の資

産の算定および報

告部

破産国有事業管理部

修復および債務超過

の事業者の再構部

会計士

人材部

総合部

法務部

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務に携わるのは 191 名である。統合前後を比較すると,国家財産委員会および反独占委員会の

職員数は表 2 のように推移している。

【表 2 統合前後の各行政機関の職員数】

統合前 統合後

国家財産委員会 反独占委員会 競争委員会

414 名36 566 名37 611 名38

統合前には 414 名と 566 名の計 980 人だったところから,統合後は 611 名と約 6割に減

少している。もちろん、それはウズベキスタンにおける法律的な競争政策の実施に悪影響を与

え、市場経済の促進をさらに遅延させると考えられる。このような、競争政策の重要性の理解

不足がウズベキスタンだけではなく、旧ソ連邦国の多くの国々でも問題となっている39。

V 2012年ウズベキスタン競争法

2012 年競争法は、今まで制定された競争法の中で最も先進国の競争法モデルに近い法

律である。2012 年競争法の構成は以下の通りである。

第 1 章 一般規定

1 条 法の目的

2 条 競争法

3 条 適用範囲

4 条 基本概念の定義 36Постановление Президента Республики Узбекистан«О мерах по совершенствованию деятельности

Госкомимущества Республики Узбекистан»от 26 апреля 2006 г., № пп-335.

37Постановление Кабинета Министров Республики Узбекистан «Об организации деятельности

Государственного Комитета Республики Узбекистан по демонополизации и развитию конкуренции» от 2

августа 2000 года № 300.

38Постановление Кабинета Министров Республики Узбекистан«Об Организации Деятельности

Государственного Комитета Республики Узбекистан По Приватизации, Демонополизации И Развитию

Конкуренции» от 14 ноября 2012 года № 322.

39Dabbah, Maher M. International and comparative competition law. (CambridgeUniversityPress , 2010):409.

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5 条 事業者団体

6 条 支配的地位

7 条 商品の独占的高価格

8 条 商品の独占的低価格

9 条 商品及び金融市場の競争分野における管轄機関

第 2 章 反競争的な行為

10 条 支配的地位の濫用

11 条 競争を制限する事業主体の共同行為及び取引の禁止

12 条 行政機関、地方権力機関及び法人団体の競争を制限する行為及び決定の禁止

13 条 不正な競争方法の禁止

第 3 章 入札及び企業結合の反独占的規制

14 条 入札に対する反独占的要件

15 条 為替取引に対する反独占的要件

16 条 事業主体の設立、再編成および解散に関する要件

17 条 株式取得等に関する要件

18 条 事前許可の取得に関する手続き

19 条 事業主体の管理機関における個人の参加

20 条 事業主体の強制的分割

第 4 章 反独占機関

21 条 反独占機関の権限

22 条 情報へアクセスする権利

23 条 反独占機関への情報提供

24 条 反独占機関守秘義務

第 5 章 競争法違反行為

25 条 競争法違反行為の効果

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26 条 損害の賠償

27 条 競争法違反に対する責任

28 条 競争法違反行為に対する課徴金賦課手続

第 6 章 反独占機関の違反に対する審査の開始。反独占機関の審決に対する不服申立および執行手

29 条 反独占機関の違反に対する審査の開始

30 条 競争違反事件の参加者

31 条 競争違反事件の開始および審査手続

32 条 競争違反事件に対する反独占機関の審決

33 条 反独占機関の審決の執行

34 条 反独占機関の審決に対する不服申し立て

35 条 公共による競争法の監督

36 条 紛争解決

37 条 競争法違反に対する責任

第 7 章 終了規定

38 条 いくつかの法令の適用除外

39 条 本法と他法令の適合

40 条 本法の有効日

24 カ条から成る 1996 年競争法の構造と比較すれば、2012 年競争法では条文の数が増加

した。ただし、入札および為替取引に関する条文以外は、内容の新しい条文はほとんどなく、

1996年競争法にもともとあった条文を補足し、詳細化や明確化を行うため条文数が増えること

になった。例えば、2012年競争法では企業結合の規定、反独占機関の審決執行に関する手続規

定、基本概念の定義の規定がより明確になった。

1) 一般規定

(1)2012年競争法の目的

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2012 年競争法の目的は、その 1 条に定められている。すなわち、同条によれば、2012

年競争法は、商品市場および金融市場における競争関係の規制を目的とする。2012年競争法の

目的と違い、1996年競争法の目的は、独占的な活動に対する禁止を規定することであった。

1996年競争法は目的を達成し、法律を活発に適用してきたと言える。1996年の段階では、4351

の独占事業者があったが、1996年競争法が制定された後急速に減少し、2012 年では 124事業者

にとどまった(表 1)。ただし、2012年競争法がその目的をどの程度達成しているか以下の競

争法の執行に関する章で検討することとする。

(2)2012 年競争法の適用範囲

2012年競争法は、商品市場および金融市場における事業主体、自然人、政府機関に対し

て適用される。また、海外における行為や協定であって、ウズベキスタンの競争市場に悪影響

を及ぼすまたはそのおそれのあるものに対しても適用される。1996年競争法と同じように、同

法は、知的財産を対象とする排他的な権利に対しては適用されない。さらに、、自然独占主体

の特殊機能の実施を制限しない場合、自然独占主体に対しても適用される。1996年競争法の適

用範囲との大きな違いは、2012年競争法の適用が商品市場だけはなく、金融市場まで拡大され

たということである。

(3)基本概念

2012 年競争法の 4 条においては、基本的な概念、定義などが定められている。1996 年

競争法においては言及がなく 2012年競争法で初めて定義されたのは、企業結合、カルテル、金

融市場、反競争的な行為に関する概念である。

2) 違反行為

2012 年競争法の第 2 章は、10 条から 14条までこの法律によって禁止される主な違反行

為の 4 つを規定している。それらは、市場支配的地位の濫用、競争制限的共同行為、行政独占

および不公正な競争方法の禁止である。

(1) 市場支配的な地位の濫用

市場支配的地位の濫用は 2012年競争法 10 条によって禁止されている。支配的地位の

定義が 2012年競争法第 6 条においてなされている。 競争法第6条により、支配的地位とは、

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商品・金融市場において、競争に決定的な影響を及ぼし、他の事業者のアクセスを困難にし、

又は経済活動の自由を他の方法によって制限し、他の競争者から独立的に活動できる機会を与

えられるような事業者(又は事業者団体)の排他的地位である。

2012 年競争法において市場支配的地位の認定はどのようになされているのか。同法では、

支配的地位は市場の種類による。つまり、商品市場であるのか金融市場であるのかによって支

配的地位の要件が異なる。商品市場における支配的地位に関しては、原則として特定商品市場

シェアが 50%以上の場合、事業者は市場支配的な地位にあるものと推定される。商品市場にお

ける支配的な地位の定義は、3 つの競争法の制定とともに、変化してきた。1992 年競争法は、

市場支配的な地位の定義が全くなく、1996 年競争法が初めてそれを定義した。1996 年競争法

によれば、市場におけるシェアが 65%以上の場合は、市場支配的地位があると認定される。

1996 年競争法と異なり、2012 年競争法は、市場支配的地位の認定要件市場シェアを 50%まで

引き下げた。ただし、金融市場における支配的地位の認定要件が 2012 年競争法に規定されてお

らず、2013 年 8 月 20 日に制定された内閣令によって確認された。同内閣令によれば、金融市

場におけるシェアが 35%以上の場合は、事業者の支配的地位にあるものと認定される40。また、

内閣令の改正によって、市場に初めて参入する事業の場合には市場支配的地位は 2 年間、認定

されないことになった41。同改正前の認定されない期間は 3年間であった42。

2012 年競争法は、市場支配的な地位の存在それ自体を違反行為としては扱っておらず、

支配的な地位の濫用だけを禁止する43。支配的な地位の濫用に関する法律の規定は、自然独占

事業者にも適用される。競争法第 10 条においては、支配的地位の濫用と見なされるすべての違

40 Положение «О порядке признания доминирующего положения хозяйствующего субъекта или группы лиц

на товарном или финансовом рынке и ведения Государственного реестра хозяйствующих субъектов,

занимающих доминирующее положение на товарном или финансовом рынке» пар. 12, 13. Приложение № 1

к постановлению Кабинета Министров от 20 августа 2013 года № 230 (2013 年 8 月 20 日の内閣令)

41同上。

42ПоложениеопорядкеформированияиведенияГосударственногореестраобъединений (предприятий) —

монополистов,

утвержденноепостановлениемГосударственногокомитетаподемонополизациииразвитиюконкуренцииРеспуб

ликиУзбекистанот 15 Сентября 2001 года № 1064.(2001年 9月 15日の市場独占企業の国家登録の作成と

管理に関する法令)。

432012年競争法 10条。

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反行為が定められている。市場支配的な地位の濫用に関する事件は、全ての反競争的行為の中

で競争機関による発見の最も多い違反事件である(表 3)。その理由は、市場における支配的

地位の濫用の効果的な監督制度が設立されているからである。それは、独占事業者の国家登録

である。競争法第 21条により競争委員会が市場における支配的な地位とされる事業者の国家登

録を行う。国家登録による市場支配的事業者に対する監督の主な対象は、彼らが生産する商品

の価格申告書についてである。つまり、国家登録された事業者は競争委員会に国家登録された

商品の価格の上限を申告する。国家登録に申告された価格と異なる高価格および低価格の取引

が発生した場合は、競争機関が迅速に違反行為に反応することができる。

国家登録簿に記載された事業者は 3 つの点で不利な状況に置かれる。1 つは、価格申告

によって自己の競争者より不利な立場におかれる。価格決定の自由がないからである。また、

独占行動をしていなかったにもかかわらず、申告された価格を維持することができていないと

いう理由で違反行為とみなされる。いったん、国家登録により市場支配的とされてしまえば、

事業者の「行為」ではなく「大きさ」そのものが規制対象とされてしまうのである。だから、

国家登録が事業者にとっては、「ブラックリスト」のようなものになっていると考えられる。

【表 3 競争機関による発見された違反行為数(2007 年‐2011 年)

出典:競争委員会の年次報告書

さらに、競争委員会の毎年の市場分析の結果、事業者が国家登録に記載され、又は国家

登録から取り消される。2013 年の市場分析で新たに 10 の事業者が国家登録に含まれた一方で、

同年、一定の市場における競争環境の促進の結果ため、国家登録から 3の事業者が排除された

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44。 2014 年には、個人に対する支払サービスを行う事業者 UZPAYNET、および、携帯電話会社

COSCOM(Ucell)も国家登録に記載された45。2016 年現在の国家登録簿に記載されている支配

的な地位を有する事業者の数は、122 である46。2010 年と比較すれば、2 倍の 1 に減った47。そ

れは、市場における競争環境が改善された結果と考えられる。

課題

この制度が始まった 1990 年初頭は、ウズベキスタン市場においては、市場経済や公正

取引の考え方を十分理解できていない大企業が存在し、このような制度設計にもそれなりの合

理性があった48。しかし、現在では、この制度には多くの否定的な側面が垣間見えるようにな

っている。すなわち、国家登録制度が不要な規制になっていると考えられる。その理由は次の

通りである。まず、国家登録により国が事業者の経済活動に介入することが可能になっている。

次に、商品の最終的な小売価格は国家登録に申告された価格とは全く異なっている。また、価

格の申告手続が複雑で、長時間を要する。最後に、申告価格の監督を行う必要があるから、競

争機関にとってもそれが過重な負担となっている。

以下では、ウズベキスタンの競争委員会による競争法の執行を実証するため、市場支配

的地位の濫用に関する2つの事件を検討してみよう。

事例

事例 1

2013 年には、外国事業者 Rubicon Wireless Communication(以下「RWC」と略)から

の申立てに基づき、競争委員会は、携帯電話会社 Unitel の立ち入り検査を行った。この事件で

は、Unitel は自己の市場支配的地位を濫用し、差別的に高い使用料を設定しているか否かが検

査の対象であった。検査の結果、Unitel が RWC に対して定めた使用料は 1 セントであるのに対

し、その競争会社である Uzbektelecom および UzMobile という 2 つのウズベク会社に対しては

44競争委員会 2013年報告書。

45競争委員会 2014年報告書。

46Availableathttps://www.gkk.uz/ru/uslugi/otkrytye-dannye (thedatafor2016)

47 2010年分析報告書 30頁。

48同上、13-14頁。

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十分安い使用料 0,05 スム(1セント=30 スム)49で携帯電話サービスを提供していることが確

定された。このような差別的な使用料は RWC を競争者に対し不利な立場にするので、違反行為

として認められた50。Unitel は、携帯電話市場における支配的地位を有し、国家登録に記載され

ているため、支配的地位の濫用と認められた。

事例 2

この事件では、2014 年に国家登録簿に記載された金融会社 UZPAYNET は、翌 2015 年、

市場支配的地位の濫用の事件で審決を下された51。事業者からの請求に基づき、競争委員会が

UZPAYNET の支配的地位濫用に関する件を検査した。検査では、UZPAYNET が決済代行会社に対

して高罰則を適用し、それらの個別調査を行ってきたということが明らかにされた。また、い

くつかの支払会社と差別条件の契約を締結したことも判明した。結果、競争委員会の指定を受

けた UZPAYNET は違反行為を停止し、契約の差別的条件を変更した。

(2) カルテル行為と入札談合

カルテル行為を禁止する第 11 条は、水平的な競争制限行為、垂直的な競争制限行為お

よび事業者団体による競争制限行為を禁止している。カルテル行為は、ウズベキスタンの市場

において新しい競争制限的現象である。一方で、カルテルの存在は、市場経済が一定のレベル

に達したことを表す。他方では、カルテルは市場経済の発展を妨げる行為である。

2012 年競争法は、初めてカルテル行為の定義を規定した。同法第 4 条によれば、カルテ

ルとは、2 以上の事業者による商品市場又は金融市場においてそれぞれの事業者の相互利益と

なり、全ての事業者に事前に知られている共同行為である。 カルテル行為の定義は、現在まで

制定された3つの競争法によって変化してきた。1992 年競争法は、カルテル行為を禁止した初

めての競争法である52。しかし、1992 年競争法では、カルテルの定義がなされず、競争制限効

果を持つ共同行為が禁止されただけであった。1996 年競争法にも、カルテル行為の定義が規定

49 ウズベキスタン中央銀行の 2016 年 6 月 30 日の追加両替。 50競争委員会 2013年報告書。

51競争委員会 2015年報告書。

52 1996年競争法 3条。

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されなかったが、ただカルテル行為と認めるために必要な基準が設定された。すなわち、1996

年競争法第 6 条によると、競争関係にある事業者の間の共同行為が競争制限行為に該当するた

めには、関連商品市場で合計 35%以上の市場占有率を持たなければならなかった。このような

基準は、カルテルの認定範囲を狭く規定するものであった。1996 年競争法と異なり、2012 年

競争法はカルテルの定義を定めた一方で、合計 35%以上の市場シェアの基準が削除された。つ

まり、事業者間の競争を制限する共同行為は、関連市場でのシェアに関係なく違反行為と認め

るようになった。1996 年競争法とのもう一つの違いは、2012 年競争法では、競争関係にある

事業者間のカルテル行為類型の数が1つ増えた。2012 年競争法による禁止されるカルテル行為

が以下の通りである。

1) 固定価格、料金表、割引、割増金、追加料金、割増価格の設定・維持

2) 自由市場価格が成り立たないような価格の人為的な増減

3) 生産、商品市場および投資活動を支配すること

4) 供給の規模を人為的に変更するために生産規模に関し合意を形成すること

5) 契約に関係のない条件を強制的に含め、金融手段の不当な請求、また競争制限行為の

実行の要求

6) 競売、証券取引所および他の入札における価格の増減または維持

7) 価格差別

8) 市場分割

9) 他の事業主体の市場アクセスの制限等

新しく記入されたカルテル行為は、上述のリストに 5の禁止行為である。同じような規定

が支配的地位の濫用の条文でも定められている。おそらく、市場において事業者の希望がなく

ても強制的にカルテル行為をさせられた事件があったため、2012 年競争法に定められたと考え

らる。

2012 年競争法によれば、カルテル行為の 2 つの種類を区別している。水平的カルテルお

よび垂直的カルテルである。水平的カルテルとは、競争関係がある事業者間の競争制限的共同

行為である53。垂直カルテルとは、競争関係のない事業者間(メーカーと販売店等)の競争制

53Пункт 2, ПРИЛОЖЕНИЕ № 3 к Постановлению Кабинета Министров от 20 Августа 2013 года № 230

«Положение о порядке выявления согласованных действий и сделок, ограничивающих конкуренцию»

(2013 年 8 月 20 日の内閣令)。

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限的共同行為である54。同法は、垂直的カルテルに対する基準が高い。競争関係のない事業者

間の共同行為が垂直カルテルに該当するため、当事者の一方は市場支配的地位を持つべきであ

る。2012 年競争法のもう一つ新しい点は、世界中で最も効果的なカルテル発見方法である課徴

金減免制度(リニエンシー制度)の導入である55。ただし、この制度の実用的な執行に問題が

あり、現在まで適用されていない。

カルテル規制に関するウズベキスタン競争法の特徴は、競争制限的共同行為が事業者間

で行われる共同行為だけではなく、行政機関と事業者の間の競争制限的共同行為もカルテルと

認められることである(以下「行政カルテル」と略)。2012 年競争法第 12 条 3 項によると、

行政カルテルでは、事業者が行政機関と共同で他の事業者を差別し、当該事業者の市場への参

入を制限し、または市場から排除するような行為である。以下で取り上げる保健省と保険会社

の間の共同行為がその一つの例である(Case 2)56。

2013 年には、初めてカルテルに関するガイドラインが作成された。このガイドライン

は、主に 3 章から成り立っている。1 章では、カルテル行為に関する基本概念、2 章でカルテ

ルの発見手続と共同行為のサイン、3 章でカルテル行為の立証に関する規定が定められている。

このガイドラインは 5 頁しかない、一般的な規則を定めるのみで、ガイドラインに当たらない

ものである。ただし、これはカルテルに関する作成された初めてのガイドラインであり、競争

委員会によりカルテルの危険性が理解され始めたと考えられる。2012 年競争法によるカルテル

行為の定義および 2013年のカルテルガイドラインの作成は、カルテル執行制度に積極的な影響

を与えているのかについては、まだ結論するのは時期尚早と考えられる。

54同上、2項。

55 The OECD Competition Committee. “Leniency for subsequent applicants”, OECD Policy Roundtables (2012):18

56 2010年の競争委員会の地方競争機関の活動成果について情報(Information about results of work of State

Committee on demonopolization and its territorial bodies in 2010)。

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【表 4 2007 から 2015 年にかけての競争委員会によるカルテル事件数】

出典:競争委員会の年次報告書

表 4 から読み取れるように、2007 年から 2010 年にかけてのカルテル規制は活発に執行

されてきた。つまり、競争委員会によってカルテルと認定されたケースは 28件に到達した。内

訳は 2007 年に 5 件、2008 年に 9 件、2009 年に 8 件、2010 年に 6 件である57。ただし、2010年

以降のカルテル事件が目立った形で減少している。競争委員会の年次報告書によれば、2011 年、

2012 年と 2014 年には、カルテル行為は一件も発見されなかった。 2013 年に関しては、カルテ

ル事件が2つだけ発見されていた。それは、携帯電話会社の価格カルテル(事例 1)および建

設会社の入札談合事件である。そして、2015 年に入札談合が一件発見された58。

事例

【事例 1 携帯電話会社の価格カルテル事件】

携帯電話会社の間の価格カルテルは 2013 年に行われ、競争委員会によって発見され

た有名な事件である59。この事件では、ウズベキスタンの携帯サービス市場で一番大きな2つ

57競争委員会 2013年報告書。

58競争委員会 2015年報告書。

59競争委員会 2013年報告書。

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の携帯電話会社 Beeline と Ucel の間に競争制限的価格共同行為が行われた60。具体的には、両社

とも 5-20 日以内でユーザーの毎月の加入料金を増加したことが価格共同行為と見なされた。

Beeline と Ucel の共同行為を証明する契約および文書的協定がないことにもかかわらず、委員

会がカルテルがあったと審決した。その理由は、次の通りである。カルテルに関するガイドラ

インによると61、30 日以内に繰り返された行為が事業者の間に共同行為の存在を指摘するサイ

ンと規定されている62。この事件では、Beeline と Ucel の価格増加がいずれも 5-20 日以内に行

われたことから、競争委員会はそれを共同行為のサインと判断した。競争委員会の審決に対し

て携帯電話会社による経済裁判所への不服申し立てがあったが、委員会の審決が有効とされ、

結局携帯会社に課徴金を課した。

【事例 2 行政カルテル】

この事件は、競争委員会が他の省庁に対抗した珍しいケースである。2010 年には、競

争委員会が保健省と保険会社の間に競争制限的共同行為を発見した。保健省がタシケント市の

いくつかの診療所でヒトパピローマウイルス(HPV)に対するワクチン接種の開始に関する命

令を出した63。この命令の中では、診療所が 保険会社 ALFA INVESTだけの保険証を要求してい

た。つまり、ワクチンの接種を受けたい消費者が他の保険会社のサービスを選択できず、ALFA

INVEST の保険を選ばざるを得なかったに64。もう一つの事件では、 保健省が女性の生命および

健康保険に関する政策を実行するために ALFA INVEST および UZBEKINVESTという 2 つの保険会

社と 2010 年の 8 月に契約を締結したことが発見された。この契約によってその 2 つの保険会

社が優先的な立場となり、保健省による保険市場における競争が制限された。結果、競争委員

会が保健省と保険会社に対して違反行為の停止命令を下した。 この事件では、競争委員会が地

位の高い省庁のような行政機関によって反競争的行為が行われた場合でも、効果的に対応でき

る独立国家機関であることを示したと考えられる。

60Доклад Председателю Госкомконкуренции (競争委員会委員長への報告)。

61ПРИЛОЖЕНИЕ № 3 к Постановлению Кабинета Министров от 20 Августа 2013 года № 230. «Положение о

порядке выявления согласованных действий и сделок, ограничивающих конкуренцию» (2013 年 8 月 20 日

の内閣令)。

62同上、9項。

63 2010年 4月 12日 108番の保健省令。

64競争委員会 2010年報告書。

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【事例 3 建築入札談合】

競争委員会は、2013 年に建築入札談合を発見した65。 化学製品製造工場 Ferganaazot の

建設工事に関する入札では、3 つの事業者の間に入札談合があった。結局、競争委員会は入札

談合を行った3つの事業者に対して行政制裁金を課した。

【事例 4 交通入札談合】

この件は、2015年に地域間の旅客輸送分野で行われた入札談合の事件である66。 カルシ

市からテルメズ市にかけて 776 号のルートでバスサービスを提供する会社を決める入札では、

DILSHODBEK OMAD 社と NODIRBEK E'ZOZ BARAKA 社の間に入札談合の共同行為が発見された。

競争委員会は、入札成果を無効とし、両社に対して最低賃金の 5倍の行政制裁金を課した。

課題

カルテルに対する立法上の注目にもかかわらず、実務上の法執行はかなり不十分である。

市場におけるカルテルの数が多いにもかかわらず、他の違反行為と比べて発見事件数が非常に

少ない67。その理由として、競争委員会の調査力の不在、専門知識やリソース不足等が指摘さ

れている68。また、2012 年以降のカルテル事件数の減少から、同年に行われた反独占委員会と

国家財産委員会の統合がカルテルの執行政策に悪影響を与えたと考えられている。また、以下

に詳しく検討するカルテルに対する法的制裁にも大きな問題があり、反カルテル政策を効果的

に実施するために総合的な制度改正が必要である。

さらに、カルテル行為を効果的に発見するために競争委員会の調査権限は十分ではないこ

とがある。現行法第11条において反独占委員会の情報へのアクセス権を非常に抽象的に定め、

具体化されなかったことが問題であると考えられる。つまり、第22条(情報へのアクセス権)

によると、反独占委員会の職員は,事業主体の領域に入り,問い合わせによって必要な書類・

情報を利用する権限を有する。ただし、競争委員会の職員は、2012年競争法22条によって事業

主体の領域に入ることができるが、必要な書類および情報を直接に差し押さえ、利用する権限

65競争委員会 2013年報告書。

66競争委員会 2015年報告書。

67 2010年分析報告書、13項。

68同上。

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を有しない。これは、事業主体にその時間を利用し、カルテル行為を証明する書類および情報

を処分する時間の機会を与えると思われる。更に、カルテル行為をした事業主体の全ての書類

を審査せずに、違反行為を証明する情報がどの書類に載っていたのかを明確にすることは相当

難しいと思われる。また、法律は「問い合わせによって」という用語を用いている。この問い

合わせはどのような形で行われ、どれだけの期間を要求し、或いは事業主体はこれにどれだけ

対応すればよいのかも一切明らかにされていない。

最後に、もう一つの問題は、競争委員会がカルテル行為を行っている事業主体の領域に

入り、立入権限を行使する前に、「監督機関の活動調査委員会」69(以下「調査委員会」と

略)の許可を必要とする内閣規則の存在である70。つまり、反独占委員会は立入調査をする前

に調査委員会に許可を求め、調査委員会は 2 週間以内にこれに対して回答を行う。但し、調査

委員会は反独占委員会の請求にどのように対応しているのか明らかではない。競争委員会の立

入権限が限定されている理由は、競争委員会が権限を濫用し、事業者の権利を侵害する可能性

があるからである。これは、政府がまだ競争委員会を完全に信用できていないということを示

している。

(3) 行政独占

ウズベキスタンの競争法の特徴は、事業者よる競争制限行為だけではなく行政機関の競

争制限的行為も禁止する点である(2012 年競争法第 12 条 1 項)。競争法の範囲に行政機関の

行為の監督も含まれている理由は、国の歴史的背景から理解できる。政府およびその所属部門

が地域および部門の利益を求めるために、行政権を濫用して競争を排除しまたは制限し、他の

事業者又は一般消費者の権利を害し、公共の利益を侵害する行政独占は旧社会主義国によくみ

られる現状である71。旧ソ連型中央集権的計画経済時代に強い権限を有していた行政機関には、

自由市場経済の原則に関する理解不足があるから、民間企業の活動の阻害が発生している。つ

69 Совет по координации деятельности контролирующих органов.

70Положениеопорядкекоординациипроверокдеятельностисубъектовпредпринимательства – юридических

лиц, проводимых контролирующими органами утв. Решением РСКДКО от 11.03.2006 г. N 06-01-01

(2006年 3月 11日の内閣規則)。

71戴龍「中国における独占禁止法・政策に関する考察―行政独占規制を中心として―」国際開発研究フォ

ーラム 30巻 9号(2005年)52頁。

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まり、行政機関の決定によって市場における競争が制限され、事業者が独占的立場になった事

例もある。よって、行政機関の反競争的な行為の監督は、ウズベキスタンだけではなく旧ソ連

の他国においても重要な課題として見なされている。

2012 年競争法第 12 条 1 項では、以下のような行政機関による競争制限的行為を禁止し

ている。

事業者に対して、不当に設立の制限、事業活動の制約を課す行為

特定の消費者に対する物資の優先的な送達指示

特定の事業主体への税制上の不当な優遇措置やその他特典の付与

事業主体の株式(シェア)の購入(株式の監督)

競争制限の結果を招く事業者の経済的活動への介入

行政機関の機能と企業の機能との重複

特定の事業主体の活動のための差別的・特権的条件の設定

以上の競争制限行為を予防するために、競争委員会は行政機関の決定、受注、送信メッ

セージや議事録を審査している。例えば、2014 年に競争委員会が 6 万 8667 の行政決定、2015

年に 18 万 7519 の行政決定の審査を行った。2012 年競争法第 21 条によって、競争委員会は行

政機関に競争違反行為の停止を請求し、責任をとらせる権限を有している。競争機関の停止命

令が行政機関に無視された場合は、競争機関が裁判に訴え、違反行為を停止させることもでき

る72。

競争制限的行為が中央政府および地方政府によって行われていることが多い。こうした

違反行為は、市場支配的濫用に次いで、競争委員会によってい最も発見されることの多い違反

行為である。例えば、2007 年から 2011 年にかけて競争機関によって発見された 469 事件のう

ち 186 件は行政独占に属する。これは、競争機関が発見した全違反行為の 39%を占めている。

さらに、2014 年の地方政府の 50%以上の決定で73、また 2015 年に審査された 14 の地方政府の

72 2012年競争法 21条。

73 51の地方政府では、競争法 12条の違反行為に関する 140件が発見された。

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46 の事件で、競争違反が発見された74。地方政府においてよく見られる違反行為は、公共入札

で特定の事業者の指示および事業者の同意なしに協賛を要求することである。

事例

カシカダリャ地方政府の決定では、農業者が生産物の特定量を特定の流通業者へ提供す

るべきという決定がなされた。また、2010 年テルメズ市の地方政府の決定75では、Kamolot76と

いう若者の社会団体のイベントにかかる費用を賄うように事業者や農業者が要求された例もあ

った。さらに、同年の事例では、サマルカンド地方政府によって土地配分手続の違反が発見さ

れた。地方政府が入札をせずに特定の農業者に土地を配布した件である77。次の 2015 年に行わ

れた事件では、ブハラ州の 6 つ地方政府による土地開発期限が勝手に変更されていた。土地法

第 36 条では、土地開発期限が 3 年と定められており、土地 3 年間の合理的に利用されなかっ

た場合、政府によって土地に対する所有権が奪われ得る。ただし、ブハラ州の地方政府が土地

開発期限を土地法に違反して短く設定した78。

課題:

競争委員会の法令作成プロセスにおける参加が限定されているため、政府が行う競争制

限的行為の全てを防止することは不可能である。競争委員会は独立行政機関と認められている

が、省庁以上の行政機関の競争違反行為に対して手が足りない。それを実証する 2 つの事例を

挙げる。2004 年 9月 16日に公開された内閣令79を見てみよう。その内閣令においては、今後、

ガソリンは給油所と潤滑油補給所の間の契約によって供給され、ガソリンは特定の自動車輸送

サービス供給者によって輸送されるようになった。但し、各給油所が持っているガソリン輸送

のための自動車があるにもかかわらず、内閣令によって特定ガソリン運送会社の独占が設定さ

74競争委員会 2015年報告書。

75 2010年 8月 18日 52番の命令。

76競争委員会 2010年報告書。

77同上。

78同上。

79 Постановлению Кабинета Министров от 16 сентября 2004 года № 430 によるПостановление Кабинета

Министров от 7 сентября 1998 года № 382 «О мерах по совершенствованию работы автозаправочных

станций и улучшению обеспечения потребителей республики нефтепродуктами»の改正によって。(ガソリ

ンは給油所事業および共和国の消費者の石油商品との供給の改善についての内閣令)。

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れたが、今まで当該内閣令が変更されていない。次の事例は、競争法の改正に関する事例であ

る。2013 年の競争法の改正によって80、競争違反行為に対する制裁が著しく低下され、制裁制

度の効率性が下がった。競争委員会が当該改正に対し不同意であったにもかかわらず81、政府

の民間企業の支援政策に基づいて変更された。

(4) 企業結合

2012 年競争法では、企業結合として合併(大 16 条)および株式保有(17 条)の 2種類

が規制されている。競争委員会は、市場における競争を制限する結合を防止するために事業者

間の合併や株式取得の監督を行う。企業結合の監督方法は、届出制度である。届出とは、合併

や株式保有を希望する事業者が競争機関に通知し、許諾を取得する制度である。競争機関の許

容を得ずに、合併又は株式保有を行った事業者が新会社の正式登録に失敗する。競争機関の許

容は、事業団体の設立にも必要である。例外として、直接大統領や内閣令によって行われる合

併の場合は、競争機関への届出をする必要がないと定められている。届出制度によって、合併

や株式保有の対象になる事業者が必要な情報を競争機関へ提出した日から、10 日以内に競争機

関の結論が出る。複雑な事件の場合は、1 ヶ月までの延長の可能である。

2012 年競争法では企業結合規制対象となる事業者の最低資本基準が大幅に引き上げら

れ、商品市場だけではなく、金融市場における合併や株式保有も監督対象にしている。前の

1996 年競争法と比べれば、最低資産が最低賃金額の 4 千倍から 10 万倍へ引き上げられた。つ

まり、合併や株式保有を目指している事業者の①総合資産がウズベキスタンにおける法定最低

賃金額の 10万倍を超える場合に、または②総合企業のうちの 1社が市場支配的地位を占めるも

のとして国家登録におかれている場合には、競争機関への届出を行って許容を受けるべきであ

ると定められている。

合併の規制

以下、競争機関の合併に関する監督はどうなされているのかを検討してみよう。

80 Article 30 of the law ‘On amending and repeal of certain legislative acts of the republic of Uzbekistan’ from

October 7, 2013 #355 (2013年 10月 7日の改正法 30条)。

81 2015年 9月 15日の競争委員会の職員に対する聞き取り調査。

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【表 5 2000 年から 2015 年かけての合併に関する届出数】

出典:競争委員会の年次報告書

この表は、事業者による競争機関へ提出された合併に関する届出件数を示している。表

によると、200 年から 2011 年にかけ事業者の届出数がほとんど変わらず、1 年当たり最大 20

件の届出がなされてきた。2012 年競争法によって企業結合の規制が改正された後、届出件数が

幅広く増加し、2015 年に 141 までに達した。2012 年競争法後の合併規則制度がどうなってい

るのか、どのぐらいの合併が許されているのかを以下の表 6 に示す。

【表 6 合併に関する届出件数】

0

50

100

150

200

250

300

2012 2013 2014 2015

3764

118141

14

16

24

20

48

94

121

許容が不要件数

許容数

届出数

出典:競争委員会の年次報告書

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実は、最低資産が最低賃金額の 4 千倍から 10 万倍にかけて減り、合併の基準が引き下

げられたため、届出件数は減るはずだが、2012 年からの合併の届出数が増えている。その理由

は、競争法の改正があるにかかわらず、1996 年競争法の基準に基づきなされた不要な届出が十

分にあったからである。例えば、2015 年に届出がなされた 141 件のうち競争機関の許容が不要

だったのは 121 件である。

株式保有の規制

2012 年競争法第 17 条によって、事業者間の全ての株式保有取引ではなく、事業者

の議決権付き株式の 35%超の取得のみが監督対象となっている。上に述べたように、総合資産

がウズベキスタンにおける法定最低賃金額の 10万倍を超える場合、または、総合企業のうちの

1社が市場支配的地位を占める場合、競争機関への届出を行って許容を受けるべきであると定

められている。2012 年競争法の制定後、市場経済だけではなく、金融市場における株式保有の

取引が競争機関による監督されるようになった。ただし、金融市場における株式保有の基準が

異なる。以下に挙げる基準は、2012 年競争法ではなく、2013 年の企業結合のガイドライン82に

規定されている。

【表 7 金融市場における株式保有に関する基準】

金融組織種類 総資産額

銀行 450 百万米ドル

保険会社 25 百万米ドル

リース会社 3 百万米ドル

82Приложение № 5 к постановлению Кабинета Министров от 20 августа 2013 года № 230 «Положение о

порядке рассмотрения и получения предварительного согласия на совершение сделок по приобретению

акций (долей) в уставном фонде (уставном капитале) и иных имущественных прав хозяйствующих

субъектов». (2013年 8月 20日の内閣令)。

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非銀行使用機関および証券市場の専門参加者 40 万米ドル

出典:2013年 8月 20日の内閣令

2012 年競争法の制定後、株式保有に関する届出数が増えている。現在まで一番多くなされた年

は 2014 年であり、910 件としている。

【表 8 35%以上のシェアの買収に関する統計(2010‐2015 年)】

出典:競争委員会の年次報告書

競争委員会の年次報告書によれば、合併や株式保有の取引がほとんど禁止されておらず、

約 98%が許されている。拒否例は、毎年 1-2 だけである。その背景にある理由は、事業者の

安定性を保護し、被買収企業の財政状況の悪化を改善し、競争力を回復することである83。競

争機関の執行実務を分析すると、契約当事者の一方が市場支配的地位を有する事業者でなけれ

ば、競争機関の許容を受ける可能性が高い。

832010年分析報告書 39-40頁。

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次に、2012 年後、外国人投資家からの株式保有件数が増加し、競争機関によると大歓

迎されている。表 8 が指摘しているように、外国投資家による 2013 年 143、2014 年に 138、

2015 年に 185 の届出がなされた。比較として、競争委員会の年次報告によると、2010 年に外

国投資家による株式保有件がなかった。 外国投資家が競争法上に必要な手続きである届出を行

わなかった場合も、競争機関が株式取得取引を無効にしない件がある。その事例として、2010

年に外国投資を有する AFROSIAB MUZ FRUKTS 社と BAXMAL GOLDEN APPLS 社が届出をせずに合併

した時は、競争委員会が最低賃金の 20 倍の罰金を課したが、合併取引を無効にしなかった84。

事例

【事例 1 2013 年の株式保有の拒否事件】

上述のように、株式保有が拒否された件が非常に少ない。その一つの拒否事件を事例と

して挙げる。2013 年に国家鉄道株式会社である Uzbekistan Temir Yollari が TEMIR YO'L

FARMATSIYA 社の議決付き株式の保有比率を 14.37%から 95.8%に拡大する目的で競争委

員会へ届出を行った。しかし、競争委員会はその株式保有取引を禁止した。その理由は次の通

りである85。 2001 年までは、Uzbekistan Temir Yollari社と TEMIR YO'L FARMATSIYA社

が一つの企業であり、2001 年に国有企業だった Uzbekistan Temir Yollariの一部の株式が民

営化された結果、TEMIR YO'L FARMATSIYA社が分離された86。したがって、競争委員会が

本件株式取得を許容する場合、TEMIR YO'L FARMATSIYA 社が再び Uzbekistan Temir

Yollari に従属する企業になり、2001 年に行われた民営化改革の目標に違反するから、株式取

得が拒否された。

【事例 2 届出がされなかった株式取得件】

これは、届出をなされず、競争機関の許容なしで行われた株式取得に関する珍しい事例

である。2013 年に PANTOLA CORPORATION L.P 社および EMCO ENERGY LLP 社が義務

84競争委員会の 2010年報告書。

85競争委員会の 2013年報告書。

86Постановление Кабинета Министров Республики Узбекистан«О совершенствовании организации

управления государственно-акционерной железнодорожной компании «Узбекистон Темир Йўллари» от 3

марта 2001 года № 108. (2001 年 3 月 3 日の内閣令)。

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的届出をせずに、株式取得の取引を締結した。この違反行為が競争委員会によって発見さ

れ、両社に対して最低賃金の 70 倍の罰金が課された87。

【事例 3 条件付き許容】

競争委員会は、合併や株式取得を禁止せず、事業者による一定の条件が満たされた場合

は、取引を許すことができる88。条件としては、競争委員会が市場で競争を維持するために事

業者に対し特定の行為の実行又は禁止を求めることができる。2014 年に行われた事例では、4

つの印刷会社が PRESS PRINT GROUP という事業者団体を設立する目的で競争委員会に届出

を行った89。競争委員会は事業者団体が一定の条件を満たせば、団体の設立が許されるとの審

決を下した。条件として、事業者団体が 4 つの事業者の経済活動に介入することが禁止された。

(5) 不公正な競争方法の禁止

2012 年競争法第 13 条は、不公正な競争方法を禁止している。2012 年競争法によると、

不公正な競争方法とは、事業活動における優越性を得るための事業主体の行為で,競争止法や

取引慣行に反するものであり、当該行為により、他の事業者(競争者)に損害をあたえる場合

である。1996 年競争法と比較すると、2012 年競争法は、不公正な競争方法に関する禁止行為

を増やした。

不正確な比較広告による他の事業者の誹謗中傷

知的財産活動の不正利用

消費者の混同

企業秘密の侵害

新しい事業主体の市場参入の制限

不公正な競争方法に関し、2012 年競争法によって新たに導入された規定は、第 13 条 2 項

である。2012 年競争法第 13 条 2 項では、事業者の商標の取得に関する不公正競争方法が禁止

87競争委員会の 2013年報告書。

882012競争法第 18条 4項。

89競争委員会の 2014年報告書。

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されている。競争法執行実務では、事業者による商標権を侵害する件が非常に増えたので、

2012 年競争法に含められた。

2012 年競争法の制定後、不公正な競争方法に関する事件数が増加している。例えば、

2010 年に発見されたのが 5 件だけであるのに対して、2015 年に 75 件が発見された。競争機関

によって発見される件の大部分は、商標、誤認広告、知的財産権の侵害に関する違反行為であ

る。不公正な競争方法に関する事件の増加は、必ずしも国の競争環境が悪化しているというわ

けではない。逆に、市場において事業者の間に強い競争関係が感じられている結果と解釈する

こともできると考えられる。

【表 9 不公正な競争方法の事件数】

0

10

20

30

40

50

60

70

80

2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015

出典:競争委員会の年次報告書

【事例 1】

他社商標の違法な利用に関する事件が多い。2015 年に行われた事件では、Maftuna

Shirinliklari 社が生産するキャンディ製品に違法にGloria Food社の「Istella」という商標を利用

していた90。別の事件では、MARWIN BRANDS LTD 社が ARMENIA社に属する有名な「Masha

and the Bear」という商標を違法にジュース商品に利用した91。

90競争委員会の 2015年報告書。

91同上。

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また、2012 年に世界的に有名な中国の HUAWEI 社の訴えで提起された事件がある。ウズ

ベキスタンの ALBATROS 社が「HUAWEI.UZ」というホームページを利用して消費者にインター

ネットサービスを提供してきた。HUAWEI 社が ALBATROS 社に関し競争委員会へ苦情を申立てた。

その結果、競争委員会が「HUAWEI.UZ」ホームページをドメイン登録簿から取り消すよう

ALBATROS 社に要求した92。

【表 10 3 つの競争法の比較表】

1992 年 1996 年 2012 年

競争法の名前

「独占的活動の制限

に関する法律」

「商品市場における競

争および独占的活動の

制限に関する法律」

「競争に関する法律」

法律の条文数 13 条 24 条 40 条

法律の適用範囲 商品市場 商品市場 商品市場と金融市場

市場支配的地位 規定されていない 65% 50%

カルテル

定義なし 定義なし。しかし、合

計 35%以上の市場シェ

アを持つ

定義あり。

合計 35%の市場シェア

が廃止された

企業結合 企業結合の基準なし

届出制度が不在

最低賃金の 4,000 倍超

市場支配的地位

届出制度の導入

最低賃金の 10 万倍超

市場支配的地位

届出制度が必要

VI 制裁制度

92競争委員会の 2012年報告書。

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競争違反行為に対する制裁は、行政責任法典第 178 条に規定されている。競争法では、

競争違反行為に対して刑罰が不在しない93。つまり、市場支配的な地位の濫用やカルテル行為

のような重大な競争制限的行為に対しても刑事責任がない。 競争法上の制裁制度は、1992 年

競争法の制定以来、大幅に変更された。重要な変更は、責任主体および課徴金額について行わ

れた(表 11)。

【表 11 3 つの競争法における制裁体制の比較】

責任主体 1992 年競争法 1996 年競争法 2012 年競争法 2013 年の改正後

(現在)

法人事業者 最低賃金の 100-500 倍 最大額は、最低賃

金の 200 倍

最大額は、最低

賃金の 200 倍

除外

個人事業者 最低賃金の 5-7 倍 最低賃金の 5-7 倍 最低賃金の 5-7

最低賃金 3-5 倍

行政機関 最低賃金の 100-500 倍 最大額は、最低賃

金の 200 倍

最低賃金の 70-

100 倍

除外

公務員 最低賃金の 3-5 倍 除外 除外 最大額は、最低賃金の

10 倍

これはそれぞれの競争法における責任主体に関する変更を中心にして作成された表であ

る。表によると、競争法の制定に伴い、制裁体制が軟化されてきたことが明確である。1992 年

競争法が定めた制裁は他の競争法と比較すると、かなり厳しかった。つまり、課徴金額が高く、

責任主体として法人および個人事業者だけではなく、行政機関とその公務員も含まれていた。

次の 1996年競争法は、法人事業者と行政機関に対する課徴金額が引き下げられたが、個人事業

者の行政課徴金をそのまま残した。また、同法によって、公務員は責任主体として除外された。

2012 年競争法の制裁制度は、1996 年競争法とほとんど変わらなかった。ただし、2013 年 8 月

93ただし、刑事責任が次の場合はある。①競争委員会へ情報提出を拒否または虚偽の情報を提供した場合、

②初期地位返還の拒否の場合である (ウズベキスタン刑法典 183条)。

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の改正によって制裁制度が実質的に変更された94。すなわち、2013 年改正によって法人事業者

と行政機関が責任主体として法律から除外され、代わりに行政機関の公務員および法人事業者

の管理職員が責任対象になった95。

それぞれの競争違反行為に対する制裁体制を分析すると、事情が少し違う。 2012 年競

争法の制定前は、各競争違反行為に対する制裁が具体的に規定されていなかった。1992 年競争

法では、次のような 2 つの違反行為だけに制裁が定められていた。第 1 に、競争機関へ情報提

出を拒否またはは虚偽情報を提供した場合、および、第 2に、初期状態への復元を要求した競

争機関の決定が執行されなかった場合である96。市場支配的地位の濫用またはカルテルのよう

な違反行為に対しては、制裁が定められなかった。 1996年競争法は、カルテル行為だけに制裁

を規定した。 2012年競争法によって、それぞれの競争違反的行為に対する制裁が明確に設定さ

れた。ただし、2012 年の制定から 1 年も経たず、2013 年に制裁制度の改正が行われた。次の

表は、改正の前後の制裁制度を比較している。

【表 12 2013 年改正の前後の制裁制度の比較】

改正前

改正後

(現在)

法人 個人 個人

市場支配的地位の

濫用

法人総売上高の 1-2%

(最大額は、最低賃金の 200 倍)

最低賃金の 5-7 倍 最低賃金の 3-5 倍

94Указ Президента Республики Узбекистан «О мерах по дальнейшему кардинальному улучшению

деловой среды и предоставлению большей свободы предпринимательству» от 18 июля 2012 года № 4455.

(2012年 7月 18日大統領令)。

95Статья 30 Закона Республики Узбекистан«О внесении изменений и дополнений, а также признании

утратившими силу некоторых законодательных актов Республики Узбекистан» от 7 октября, 2013 года №

355(2013年 10月 7日の改正法の 30条)。

96 1996年競争法 18条。

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37

カルテル 総売上高の 1-2%

(最大額は、最低賃金の 200 倍)

最低賃金の 5-7 倍 最低賃金の 3-5 倍

違法企業結合 最低賃金の 70-100 倍 最低賃金の 5-7 倍 最低賃金の 1-3 倍

表が指摘しているように、大きな改正は、課徴金の算定方法にあった。改正前は、課徴

金額、事業者の総売買高に基づいて算定されていた。例えば、カルテル行為及び市場支配的地

位の濫用の課徴金額は、違反行為を行った事業者の総売上高の 1〜2%、最大額は、最低賃金の

200 倍と定めていた。改正後、算定方法は、「総売上高」から「最低賃金」に変更され、課徴

金額が十分に減少した97。つまり、市場支配的地位濫用あるいはカルテル行為によって大きな

利益を得た事業者は、2013 年から最低賃金の 3-5 倍ぐらいの行政罰金を払うことになってい

る。この改正が競争法の制裁制度の効率性を実質的に低下させたと考えられる。

VII 国際反独占協力

ウズベキスタンは 1991 年の 8 月に設立された独立国家共同の加盟国である(以下「CIS

諸国」と略)。経済、政治、文化等の協力以外、CIS 諸国が地域における競争関係の促進および

消費者権利の保護を関しても国際協力を行っている。CIS 諸国間の反独占政策上の国際協力は、

1993 年 12 月 23 日に開始された。この協力の法的根拠は、加盟国によって署名されている「反

独占政策の協調的な実施に関する協定」である。協定は、CIS 諸国間の反独占分野における調整

および協力の主な原則を定めている。国際協力の重要な課題は、CIS 諸国の経済領域では、競争

政策の法的根拠を作成することである。つまり、CIS 諸国の競争当局の間に国際競争違反行為の

発見に関する協力を強化し、またそれらの国内競争法を統一することである。2000 年 1 月 26

日に協定が改訂されて、課題および実施メカニズムが明確化された。

1993 年には、協定を執行するために独占禁止政策の連帯協議会(以下「ICAP」と略)が

設立された。 ICAP は、各国から 2 名の代理人によって構成されている議会である。 ICAP が毎

年2回会議を行う。設立されて以来、44 の会議が行われ、そのうち 2 つがウズベキスタンで開

催された。ICAP の会議では、CIS 諸国の競争機関が競争法の最新発展動向と執行経験について

意見交換を行う。現在までの ICAP の主な成果は、以下の 2つの文書が採択されたことである。

97 2012年競争法 27条(改正前)。

Page 38: 2012 - UJOLSujols.org/wp-content/uploads/2018/03/Husain-Radjapov_Article.pdf4 矛盾している経済政策であるため、ウズベキスタンはいまだwto の加盟国として受け入れら

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1. 独占活動と不公正な競争を抑制するための国間協力に関する規制

2. 消費者権利保護の分野における CIS 諸国間協力の主な課題に関する協定

ICAP 協力は、CIS 諸国の競争法を先進国の競争法にならって発展させることを中心に行

っている。その結果として、2009 年から 2014 年の間にウズベキスタンを含めてほとんど全て

の CIS 諸国では、新しい競争法が制定され、または競争法の大幅な改正が行われた。現在の

ICAP の欠点は、ICAP の活動が立法的活動に制限されており、国際的な競争法違反行為の発見に

関する協力が不足していることである。

VII おわりに

ウズベキスタンの 1992 年競争法から 2015 年現行法までの運用を考察すると、その課題

は以下の 4 点に要約できる。

第 1 に、2012 年競争法の制定後、カルテルおよび市場支配的地位濫用の競争違反行為の

発見事件が大幅に減少しているが、不公正な競争方法に関する事件が増えている。また、企業

結合に関する届出数が実質的に増加してきていることが見える。主に、事業者の訴えによって

提起される不公正な競争方法および企業結合に関する事件と異なり、カルテル行為と市場支配

的地位濫用の発見は、競争委員会の積極的な調査を必要とする違反行為である。したがって、

2012 年競争法の運用は、受動的な活動となっていると考えられる。

第 2 に、2012 年の国家財産委員会と反独占委員会の統合が新しく設置された競争委員

会の執行活動にどのような影響を与えているかを最終的に評価することは時期尚早と考えられ

る。ただし、一方では、この統合は、競争委員会の他の省庁に対する法的立場を強化した。他

方で、新しい競争委員会の組織構造によれば、民営化と国家資産管理の業務が、競争委員会の

優先的な活動となっており、競争法事件への資源集中が弱められていると言える。

第 3 に、2012 年競争法では、ほぼ全ての規定が詳細化および具体化されたが、制裁制度

の改正は合理的ではないと考えられる。市場における競争制限行為を防ぐために厳しい制裁制

度が必要である。

Page 39: 2012 - UJOLSujols.org/wp-content/uploads/2018/03/Husain-Radjapov_Article.pdf4 矛盾している経済政策であるため、ウズベキスタンはいまだwto の加盟国として受け入れら

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第 4 に、CIS 諸国の間の反独占的協力は、立法的活動を中心とし、国際的な競争法違反行

為の調査に関する協力が行われていない。ICAP の焦点は、CIS 諸国間に起こる国際カルテルの

ような具体的な違反行為に当てるべきである。

以上


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