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34巻09号 P028 031 特集7 - J-STAGE Home

Date post: 04-Nov-2021
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(  ) 28 電気設備学会誌 2014 年 9 月 646 1. 概要 当社は,経済産業省の 2011 年度事業「インフラ・シ ステム輸出促進調査等委託事業」を受託し,インドネシ ア国有電力会社(PT. PLN)の協力で,受託テーマであ る「インドネシア島しょ部におけるスマートコミュニ ティ構築に関する事業可能性」を調査してきた。一連の 調査を通じて,インドネシアの電力事情,特に島しょ部 の電力供給を支えるディーゼル発電の実態を始め,再生 可能エネルギーの導入促進政策及びそれによって急速に 進んだ太陽光発電設備建設の実態に触れ,技術的側面と 政策的側面の課題を整理し,実情に即したシステムの在 り方と導入後の効果に関して各種検討を重ねてきた。そ の結果,離島マイクログリッドの特徴と事業推進のた めの技術的諸課題とその対策として,以下の課題を抽 出した。それは「蓄電システムを伴ったEMS(Energy Management System)技術の標準化」と「蓄電池容量 の低減と系統の安定化を両立させる最適システムの検 討」である。これらの課題を克服することで,インドネ シア国を始めとする島しょ国で,再生可能エネルギーの 活用と資源の有効利用が進んでいくものと考える。 2. 離島での電力供給の課題 -1 に離島マイクログリッドの課題を示す。一般的 に離島では,主としてディーゼル発電により電力供給が 行われており,発電用の燃料は船舶により輸送すること になり,燃料費の値上がりが懸念されている。また,大 規模系統から海底ケーブル敷設により電力供給すること も考えられるが,その高額な敷設コストや維持コストに 比べて小規模な需要とのアンバランスから,海底ケーブ ル敷設は限られた離島でのみ実施されている。 離島では,太陽光発電や風力発電の有効利用を行いた いが,その出力変動が小規模電力系統に与える影響が相 対的に大きく,その導入量は限定的なものになる。 そこで,蓄電システムを伴ったEMS (Energy Management System)によるマイクログリッド技術を適用し,電力系 統の安定化,再生可能エネルギーの利用,ディーゼル発 電燃料消費の抑制が有効と考えられている。 3. インドネシアの電力事情 インドネシアでは,近年,石油代替資源の確保及び CO 2 削減等の環境対策として再生可能エネルギーの導入 促進が進められており,2025 年までに再生可能エネル ギー比率を現状の 8%から 25%に引き上げる目標を掲げ キーワード:島しょ,マイクログリッド,太陽光発電,蓄電池 特集 海外の電気設備 7 きた むら きよ ゆき -1 離島マイクログリッドの課題 PV出力の 安定化 需要に対する 費用が高い ディーゼル 発電所 海底ケーブル 送電 永続的に支出が続く 輸送費 不安定で 値上がりが 続く燃料費 運転時間の低減 と消費燃料・ CO2の低減 ディーゼル 発電所 需給制御装置 (EMS) 蓄電池 PV (マイクログリッド技術) 電力信頼性の向上 再生可能エネルギーの導入 Micro-grid System in the Island Countries 島しょ国における マイクログリッドシステム *㈱明電舎 システム事業企画部 1957 年 11 月生まれ,神奈川県出身。1980 年早稲田大学理工学 部電気工学科卒業,同年㈱明電舎入社。電力系統制御システム, 集中連系形太陽光発電システム実証研究,マイクログリッドやス マート BEMS の開発等に従事。2013 年よりシステム事業企画部に 所属。技術士(情報工学)
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(  )28 電気設備学会誌 2014 年 9 月646

1. 概要

当社は,経済産業省の2011年度事業「インフラ・システム輸出促進調査等委託事業」を受託し,インドネシア国有電力会社(PT.PLN)の協力で,受託テーマである「インドネシア島しょ部におけるスマートコミュニティ構築に関する事業可能性」を調査してきた。一連の調査を通じて,インドネシアの電力事情,特に島しょ部の電力供給を支えるディーゼル発電の実態を始め,再生可能エネルギーの導入促進政策及びそれによって急速に進んだ太陽光発電設備建設の実態に触れ,技術的側面と政策的側面の課題を整理し,実情に即したシステムの在り方と導入後の効果に関して各種検討を重ねてきた。その結果,離島マイクログリッドの特徴と事業推進のための技術的諸課題とその対策として,以下の課題を抽出した。それは「蓄電システムを伴ったEMS(Energy Management System)技術の標準化」と「蓄電池容量の低減と系統の安定化を両立させる最適システムの検討」である。これらの課題を克服することで,インドネシア国を始めとする島しょ国で,再生可能エネルギーの活用と資源の有効利用が進んでいくものと考える。

2. 離島での電力供給の課題

図-1に離島マイクログリッドの課題を示す。一般的

に離島では,主としてディーゼル発電により電力供給が行われており,発電用の燃料は船舶により輸送することになり,燃料費の値上がりが懸念されている。また,大規模系統から海底ケーブル敷設により電力供給することも考えられるが,その高額な敷設コストや維持コストに比べて小規模な需要とのアンバランスから,海底ケーブル敷設は限られた離島でのみ実施されている。離島では,太陽光発電や風力発電の有効利用を行いたいが,その出力変動が小規模電力系統に与える影響が相対的に大きく,その導入量は限定的なものになる。そこで,蓄電システムを伴ったEMS(Energy Management System)によるマイクログリッド技術を適用し,電力系統の安定化,再生可能エネルギーの利用,ディーゼル発電燃料消費の抑制が有効と考えられている。

3. インドネシアの電力事情

インドネシアでは,近年,石油代替資源の確保及びCO2削減等の環境対策として再生可能エネルギーの導入促進が進められており,2025年までに再生可能エネルギー比率を現状の8%から25%に引き上げる目標を掲げ

キーワード:島しょ,マイクログリッド,太陽光発電,蓄電池

特集 海外の電気設備 7

*北きた

村むら

清きよ

之ゆき

図-1 離島マイクログリッドの課題

PV出力の安定化

需要に対する費用が高い

ディーゼル発電所

海底ケーブル送電

永続的に支出が続く輸送費

不安定で値上がりが続く燃料費

運転時間の低減と消費燃料・CO2の低減ディーゼル

発電所需給制御装置(EMS)蓄電池PV

(マイクログリッド技術)

電力信頼性の向上

再生可能エネルギーの導入

Micro-grid System in the Island Countries

島しょ国におけるマイクログリッドシステム

*㈱明電舎 システム事業企画部1957 年 11 月生まれ,神奈川県出身。1980 年早稲田大学理工学部電気工学科卒業,同年㈱明電舎入社。電力系統制御システム,集中連系形太陽光発電システム実証研究,マイクログリッドやスマートBEMSの開発等に従事。2013 年よりシステム事業企画部に所属。技術士(情報工学)

(  )29J. IEIE Jpn. Vol. 34 No. 9 647

ている。再生可能エネルギーのうち,太陽光発電については「100島プロジェクト(2012年完了目標)」及び「1 000島プロジェクト(2015年完了目標)」を計画し,太陽光発電の増加を推進している。その背景として,インドネシア東部の低い電化率及びコスト高のディーゼル発電が問題となっていることが挙げられるが,太陽光発電の推進は,その両方の解決に貢献すると考えられている。なお,PLNとしては国家エネルギー政策の一環として,新規のディーゼル発電の導入は行わない方針をもっている。図-2にインドネシアでの太陽光発電100島プロジェクトの計画図を示す。まずは,インドネシア東部の島しょ部への展開が計画されているのが分かる。

4. 現地の状況

現地調査は,PLNのディーゼル発電所が設置されている離島や隔離地で,日射量測定は太陽光発電設備の地点と導入予定地点を中心に,合計4箇所で行った。図-3に現地調査した島を示す。事前にPLNから入手した現地情報とは別に,既設発電所の出力,電圧,周波数などの運転状況を測定し,運転の分析を行った。一日の負荷曲線は,総じて昼間は低く夕方から負荷が急増して夕食前後にピークを迎え,朝に向けて徐々に下がる。図-4に島しょ部の典型的な負荷カーブを示す。需要の小さな離島においては,発電用燃料を節約するために,夕方以降の限られた時間帯だけ発電機を運転することも珍しくない。24時間給電を求められる地域では,増加している電力需要に対応するため,別の場所からの移設品や中古レンタルのディーゼル発電機も利用している。ディーゼル発電設備には自動制御装置が備わっ

ていない上,総じて老朽化しており,小規模な停電が発生していた。太陽光発電設備導入済地点調査時のインタビューでは,日射量の変動に起因する太陽光発電出力変動への追従が,既設のディーゼル発電所の手動制御では困難となり,その結果,さらなる停電を誘発する傾向にあった。

5. 現状の分析と対策

前述の現地調査に基づき,改善策に関してPLNと協議した結果を以下に示す。小容量の発電機を複数台運転している小さな離島において,日射量の変動にディーゼル発電設備の出力制御が追従できずに島内停電が発生した経験を活かし,太陽光発電容量を絞って既設のディーゼル発電への影響を低減する対策が講じられた。併せて,今後の太陽光発電の導入に際しては,蓄電池を伴ったEMS(Energy Management System)によって最適な制御を行うことで,停電の少ない安定した電力供給を実現することが必要であることを理解いただいた。インドネシアの離島では,日本の離島規模の電力系統とは異なり,系統容量が少ないため負荷変動の影響が大であることが特徴であり,EMSなどによるきめ細かい対策が必要である。

図-2 インドネシアでの太陽光発電 100 島プロジェクト

図-3 現地調査した離島

1. Gili Trawangan島(Lombok島北部)

3. Sumba島(Waingapu)

2. Tual島(Langgur)

4. Manokwari(Oransbari)

図-4 島しょ部の典型的な負荷カーブ

0:00 6:00 12:00 18:00 0:00

インドネシア島しょ部の典型的な負荷カーブ

Load

Time

(  )30 電気設備学会誌 2014 年 9 月648

様々な地点に対応する太陽光発電システムとしては,200~250kWを最少単位容量でパッケージ化した設備の組み合わせで構築することが,メンテナンス部品の共通化の見地から合理的である。なお,蓄電池については,歴史が長く動作が安定している鉛蓄電池の他,今後もなお一層の安定性と価格低減が期待されているリチウムイオン蓄電池やその他の蓄電池が選択肢として考えられるが,蓄電池は高価であるため,蓄電容量が直接設備コストに反映されることから,必要とする蓄電池容量の低減と系統の安定化を両立させるシステムの構築が必要となる。

6. 今後の展開可能性と課題

6.1 展開可能対象地域

インドネシア離島における太陽光発電の導入に際しては,250kW程度以下の小規模集落(無電化地域含む),250kW~3MWの中規模集落,3MW以上の都市に分類し検討を行った。その中で,大規模電力系統から電力が供給されている大都市は対象外とし,検討の対象を電力系統がない地域,すなわち単独又は数か所の発電所下で完結している都市及び小規模集落と中規模集落とした。その結果,展開可能対象地域はインドネシア東部に多く存在することが分かった。日本では,2011年の東日本大震災を経て,災害時に送電系統から分断されても,再生可能エネルギーを中心とした分散型電源によって電力が供給されるシステムの要望が被災地から寄せられており,インドネシアの離島電化と日本の震災復興とが相互のノウハウとして活用できると考えられる。6.2 マイクログリッド技術の適用

小規模負荷が主である離島では,総じて夜間に負荷のピークを迎え,なおかつ需要が拡大する場合には夜間負荷になるため,太陽光発電で得られる電力はピークカットにならない。したがって,太陽光によるエネルギー供給比率を高めるには,蓄電池等によって夜間へのエネルギーシフトを行うか,昼間の一定時間帯の電力を,太陽光発電を主体としながら蓄電池を併用して安定供給することで,ディーゼル発電による電力量を低減することになる。いずれの場合も,EMS(Energy Management System)技術と蓄電システムから構成されるマイクログリッドシステムが必要となる。その結果,一般的な太陽光発電システムのピーク出力に対する建設単価は上がるが,太陽光発電を大量に導入

することが可能となり,自然エネルギーの普及に大いに貢献できることになる。図-5にマイクログリッドシステム導入の効果,図-6に既設ディーゼル発電所のマイクログリッド化構成を示す。6.3 燃料費の低減効果

最も発電単価が高いディーゼル発電を,再生可能エネルギーで代替していこうとする合理的な政策を遂行する上で,1万箇所を超えるといわれる島しょ部から太陽光発電設備を導入すべき優先順位を策定する際に重要な要素は,それぞれの島への燃料の輸送費である。現在PLNは,国営石油会社PT.Pertaminaとの供給契約により,全国一律価格で燃料を調達しているため,全国の受渡地までの輸送費用は平均化されており,離島の燃料単価には受渡地から現地への二次輸送費用だけが加算される。遠地への燃料輸送費の軽減は,全体の燃料費の低減に大いに効果があることから,再生可能エネルギーによる発電単価をディーゼル発電による発電単価と比較して検討する際には,燃料輸送費の引き下げ効果を勘案する必要がある。6.4 事業展開上の課題

これらの諸対策を経て太陽光発電設備を導入する場合,大きく分けて二つの形態が考えられる。一つ目は電力会社が設備を調達して運用するケースであり,二つ目は事業者が発電所を運用し,発生した電力を電力会社に販売するIPP事業である。一つ目のケースにおいて,電力会社には技術面の適切な評価,トレーニングやメンテナンスを通じての運用ノウハウの蓄積と共有,確たる品質基準に基づく調達管理と運用が求められる。現在までに進行している多数のプロジェクトの評価と対策を整理し,今後の太

図-5 マイクログリッドシステム導入の効果

太陽光発電+EMS+二次電池マイクログリッドシステム導入の効果

二次電池を使用しない太陽光発電に伴う課題

マイクログリッドシステムの効果(PV+二次電池+EMS)

・設置容量の制限=オフシーズンの最低負荷の50%が限界

・PV発電ピーク時間帯<>需要のピーク →PV発電ピーク時間帯      :11:00 - 13:00  インドネシアでの需要のピーク  :       18:00 - 20:00

設置容量拡大

1.設置容量の拡大 2.需要時間帯へのエネルギーシフト

50%に制約されない

Power

Time

燃料消費とCO2の低減

燃料消費とCO2の低減

電力デマンド(ex.過疎村の例)

Power

PV Power

Time

電力デマンド(ex.過疎村の例)

ピーク帯への電力シフトとD/Gピーク電力の低減

(  )31J. IEIE Jpn. Vol. 34 No. 9 649

陽光発電設備大量導入に向けた基準と体制を確立する必要がある。二つ目のIPP事業が成り立つためには,太陽光発電設備の償却と離島での維持運用が成り立つだけの買取り価格の制定が必要となる。また,設備利用率12%~15%といわれる太陽光発電設備のIPP事業では,小容量規模では採算が取れないため,大容量化は避けられない。

7. おわりに

今後,日本で構築したマイクログリッドのシステム技術を応用して,現地に最適なシステムの提案,構築に貢献できるよう,今後も努力していきたいと考えている。今回,調査にご協力いただいたPLN関係者及び現地関係各位に深く感謝する次第である。

図-6 既設ディーゼル発電所のマイクログリッド化構成

PVLAN

DGxxxkW

DGxxxkW

DGxxxkW

DG制御盤

DG制御盤

監視盤変換器盤

DG制御盤

BattDC110V

ディーゼル発電所

DGxxxkW

DGxxxkW

DGxxxkW

DG制御盤

DG制御盤

監視盤変換器盤

DG制御盤

BattDC110V

ディーゼル発電所負 

負 

荷400V 400V

INVxxxkW

INVxxxkW

INVxxxkW

BattDC110V

新規導入設備

400V

配電用変電所

20kV

150kV

系統

EMS

TCM

IO端末

BATT

0 3 6 9 12 15 18 21 24 時

kW

0 3 6 9 12 15 18 21 24 時

kWディーゼル発電所の出力電力

蓄電池がカバー

がカバー

蓄電池がカバー

PV

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