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Biotin標 識probeを 用いたhisto in situ hybridization 法による胃癌 …

Date post: 08-Jan-2022
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岡 山 医 誌(1991) 103, 247~255

Biotin標 識probeを 用 い たhisto in situ hybridization

法 に よ る 胃癌 組 織 に お け る癌 遺 伝 子mRNAの 検 討

岡 山 大 学 医 学 部 第 一 外 科 学 教 室(指 導:折 田薫 三 教 授)

田 中 出

(平 成2年12月13日 受 稿)

Key words: histo in situ hybridization法,胃 癌,癌 遺 伝 子 , mRNA

緒 言

近年,遺 伝 子工学 の急 速 な進歩 に伴 い,数 多

くの遺伝 子が単 離 され,そ の塩 基 配列 が決定 さ

れ て きた.こ の よ うな クロー ンDNAを 用 いて,

細胞集 団あ るいは組 織塊 か ら抽 出 したDNAあ

るいはRNAと,フ ィル ター上 でhybridizeさ

せ,特 定 の遺伝 子 の存在 を調べ る方法 が発達 し

て きた1)~3).しか し,こ の よ うに抽 出 したDNA

あるいはRNAか ら得 られ た結 果 は,組 織 の平

均値 であ り,個 々 の細胞 間 では,形 態 ・位 置 ・

分化の程度 や,細 胞 間周期 像 に差 が あるの で,

個々の細 胞の 自然 な状態 を正確 に反映 して い る

とは限 らない.癌 の病 態 を理解 す る上 で も,遺

伝子の発現状 態 を検 索す るこ とが必要 であ るが,

他の組織 と同様 に,個 々 の癌細 胞 も刻々 とその

形態 と機能 を変 えて ゆ くので,遺 伝 情報 の発現

の変化 を調べ るには細 胞 レベ ル で観 察す るこ と

が重要 となって くる.一 方,こ こ数 年,特 異的

塩 基配列 を もった核酸 の分 布 を,組 織お よび細

胞 内で同定す るこ とに よ り,特 定の 遺伝 子産物

の局在 を証 明す る新 しい組織 細 胞化学 的方 法(in

situ hybridization法)の 技術 が開 発 され4),検

討 されつつ あ る.こ の方法 に よれば,酵 素 抗体

法 などに よ り,局 在 が証 明 され た遺伝 子産 物 な

どの蛋 白質が,実 際 にその 細胞 内で合 成 されて

い るものか,あ るい は,単 に貯蔵 されて い るだ

けなのか,な どにつ いて,よ り詳 細 な知 見 が得

られ る と考 え られ る.

in situ hybridization法 は,大 き くわけ て,

放射性 同位 元素 で標 識 したprobeを 用い て,

autoradiographyで 検 出 す る方 法 と, biotin5)~7)

や, sulfon基8), DNP9), 10)等の 非 放 射 性 物 質 を標

識 し たprobeを 用 い る方 法(histo in situ

hybridization法)と が あ る が,最 近 は,操 作 に

要 す る 時 間,解 像 力, probeの 安 定 性,電 子 顕

微 鏡 へ の 応 用 な どの 利 点 か ら,後 者 が さ か ん に

検 討 さ れ て い る.

histo in situ hybridization法 の 原 理11), 12)は,

核 酸 分 子 は,互 い に 塩 基 配 列 に 相 補 性 が あ れ ば,

安 定 な分 子 雑 種 を形 成 す る性 質 を用 い て,一 本

鎖 化 し た標 識 化cDNA probeを,組 織 上 で,

相 補 的 核 酸 分 子 と結 合 させ,続 い て,酵 素 抗 体

法 を 行 な う こ とに よ り,目 的 とす る核 酸 を検 出

す る 新 しい 組 織 化 学 方 法 で あ る.(図1)

著 者 は, biotin標 識cDNA probeを 用 い る

histo in situ hybridization法 に よ り,胃 癌 組 織

に お い て,癌 遺 伝 子, c-mycとc-Ha-rasの

mRNAレ ベ ル で の 発 現 の 検 出 に成 功 し,臨 床 病

理 学 へ の 応 用 を検 討 した の で 報 告 す る.

図1  histo in situ hybridizationの 原 理

step (1) biotin labeled cDNAとmRNAを

hybridizeさ せ

step (2) streptavidin peroxidase complexを

使 用 し てbiotin-cDNA-mRNAの 局 在 を 検

出 す る。

247

248  田 中 出

対 象 と 方 法

対 象;切 除 胃癌35例(早 期 癌15例,進 行 癌20

例)を 対 象 と した.正 常 胃組 織 を対 照 と し,ま

た,良 性 疾 患 で あ る 胃 潰 瘍 や, adenomaと も比

較 した.

方 法; in situ hybridization法 の 手 技 は 以 下

の 過 程 に ま とめ る こ とが で き る.す な わ ち,

1. mRNAを 失 わ ぬ よ うに 組 織 を 固 定 す る.

2. probeが 組 織 中のmRNAに 反 応 で き る

よ う にmRNA周 囲 の 蛋 白 を 取 り除 く.(除 蛋 白)

3. 標 本 中 に あ る核 酸 のnon-specificなbind-

ingsiteを カ バ ー す る. (brocking)

4. probeを 正 確 に 反 応 させ る. (hybridiza

tion)

5. 過 剰 なprobeや, mismatchの 多 い

hybridを 洗 い 流 す. (washing)

6. probeの 標 識 法 に 応 じて,検 出 の 処 理 を

施 す. (visualization)

具 体 的 な方 法 の 詳 細 は 表1に 示 す が, mRNA

を失 活 させ るRN aseの 混 入 を防 ぐた め,使 用

す る 器 具 お よ びbuffer類 は す べ て 乾 熱 減 菌

(180℃, 2h)ま た は,オ ー トク レ ー ブ を か け

て お く.使 用 す る水 は, diethylpyrocarbonate

(DEPC)処 理 水(蒸 留 水100mlに つ い てDEPC

201を 加 え た も の)を 用 い る.操 作 中 は,手 袋 ・

マ ス ク を着 用 す る.

slide glassの 処 理;操 作 の 過 程 で 切 片 がslide

glassか らは が れ る の を 防 ぐた め,卵 白ア ル ブ ミ

ン をcoatingし たslide glassに25% glutal

aldehydeを 切 片 を の せ る部 分 の み に 塗 布 し,次

い で, 2.5% glutalaldehydeを 全 体 に 塗 布 した

もの,あ る い は, polyL-lysine (1mg/ml poly

L-lysine,分 子 量30万)をslide glass全 体 に

coatingし た も の を用 い た.

<固 定 お よ び 固 定 法>

切 除 さ れ た標 本 は,可 及 的 速 や か に10%ホ ル

マ リ ン/PBSで 固定 し, paraffin包 埋 した もの

を,上 記 の 処 理 を施 し たslide glassに2μmの

厚 さ に 薄 切 し,脱 パ ラ して 用 い た. 3% dH2Oで

内 因性 の ペ ル オ キ シ ダ ー ゼ をブ ロ ッ ク した 後,

エ タ ノー ル/酢 酸(3;1)で,室 温 で20分,固 定

し た.

<前 処 理>

1) 蛋 白の 変 性 と除 去(手 技2)

表1  histo in situ hybridizationの 方 法

(1) 塩 酸処理;塩 基性 蛋 白質 を除去 し,核酸 を

露出 させ, probeの 透過性 を高め,非 特異的呈

色 を下 げ る 目的 で, 0.2N HClに 室 温で15分 浸

した後, 2 xSSCに 室温 で5分 を3回, 70℃ で

30分 浸 す,こ の方 法で シ グナ ル を2~3倍 増加

胃癌 組織 におけ る癌遺 伝子mRNAの 検 討  249

させ る こ とが で き る.

(2) 酵 素 処 理;蛋 白 成 分 に埋 まっ て い る核 酸分

子 を掘 り出 す 目 的 で, protease K (100μg/ml

PBS)と37℃ で15分 反 応 させ た 後, 4% parafor

maldehyde/PBSで,室 温, 5分 間,後 固定 し,

PBSで 洗 って エ タ ノー ル列 で 脱 水 し,風 乾 す る.

2) probeの 非 特 異 的 結 合 の 防 止 処 置(手 技3)

(1) acetylation; probe DNAの 非 特 異 的 結

合 を抑 制 す る 目 的 で, 0.25%無 水 酢 酸/0.1M

Tris-HCl, pH 8.0に 室 温 で10分 浸 し, 2 xSSCで

洗 浄す る.

(2) genting;過 剰 のaldehyde基 を 中和 す る

目的 で, 2mg/ml glycine/PBSに,室 温, 30分

浸 し, 2 xSSCで 洗 い,エ タ ノー ル 列 で脱 水 し,

風 乾 す る.

<hybridization (手 技4)>

hybridization bufferの 組 成 は, 10mM Tris/

HCl (pH 7.3), 0.6M NaCl, 1mM EDTA,

1 xDenhart's medium, 250μg/ml yeast tRNA,

125μg/ml heated salmon sperm DNA, 40~50

% deionized formamide, 8% dextran sulfate

1.3μg/mlのprobe DNAで あ る.

yeast tRNAは, RN aseに よ るmRNAの

失 活 を防 止 す る. salmon sperm DNAは, probe

と非特 異 的 に 結 合 す る部 位 をblockし, Denhart'

s液 も同 様 の作 用 が あ る. dextran sulfateは,

probeの 局 所 的 実 効 濃 度 を 増 大 す る と共 に, net

work形 成 の 促 進,並 び に, mRNAの 保 持 に 貢

献 す る. formamideは,使 用 直 前 にAG 50-1

-X8 CD樹 脂(Bio Rad社)で ,室 温 で, 30

分 攪 拌 し,脱 イオ ン化 して 用 いる.ま た, hybridiza

tion bufferを 含 むprobeは, 10分 間 沸 騰 浴 に

つ け,一 本 鎖 化 し,急 冷 して 用 い る.使 用 し た

probeは, nick translationに てdUTPを 標 識

したbiotin標 識cDNA probe, c-myc(50-2000

base)とc-Ha-ras (200-1800base) (Enzo社)

の2種 類 で あ る.

こ のhybridization bufferは, slide glass上

に,一 切 片 あ た り200μlの せ, probeが 非 特 異 的

に結 合 す るの を防 ぐため, siliconize(Sigmacoat,

Sigma社)し たcover glassで 被 い, moist

chamber内 で, 37℃ で12~15時 間, hybridizeさ

せ る. moist chamber内 は,蒸 発 を 防 止 させ る

た め, 4 xSSC, 40% formamideで 浸 し,密 閉

す る.

<washing (手 技5)>

単 にcontaminationを 物 理 的 に 取 り除 くた め

だ け で な く, mismatchの 多 いhybridを 洗 い

去 る と い う,重 大 な 意 味 を も つ.ま ず, 50% for

mamide/2 xSSCで37℃, 30分,次 に, 50% for

mamide/1 xSSCで37℃, 30分,最 後 に1 xSSC

で振 盪 させ な が ら(shakerに て75~100rpm),

室 温 で, 20分 ×3回 洗 浄 す る.

<検 出(手 技6)>

3% BSA 100μg/ml yeast tRNA/PBSで,室

温, 1時 間 浸 し,非 特 異 的 蛋 白 の 結 合 をブ ロ ッ

ク し た 後, streptavidin-peroxidase complex

(Bio Genex Laboratorie社)と 室 温 で, 20分

反 応 させ, PBSで 洗 浄 し, 3-3' diaminoben

zidine (DAB)を 含 む 反 応 液(0.05M Tris/HCl

[pH 7.6]: 50ml, DAB-4 HCl: 20mg, 20% H2

O2: 50μl)で10~15分,反 応 させ て,検 出 す る,

対 比 染 色 はmethyl greenで 行 な い,水 溶性 封

入 剤, polyvinylpyrolidone, K30 (分 子 量

30,000, Polyscience社)で 封 入 し,顕 鏡 した.

<コ ン トロー ル 実 験>

positive controlと して,多 くの 細 胞 で, c-myc

mRNAの 発 現 が 確 認 さ れ て い る,対 数 増 殖 期 に

あ るHL60細 胞 を遠 心 塗 抹 して 標 本 を作 製 し,

histo in situ hybridizationを 行 な っ た.

mRNAの 特 異 的 発 現 を間 接 的 に証 明 す るため

に, RN ase(0.1mg膵 臓RNA+5μg RN ase T/

ml PBS)で 処 理 し た もの と, DN ase (100μg/

ml PBS)で 処 理 し た もの を比 較 し た.

ま た, negative controlと し て,ベ クタ ー の

み をbiotin標 識 した 実 験 系 や, probeを 除 い た

実 験 系 を行 な っ た.

<結 果 の 判 定 と統 計 学 的 処 理>

mRNAの 発 現 の 程 度 は,全 く発 現 を認 め な い

もの …grade(-),ご く一 部 の 細 胞 に の み散 在 性

に 発 現 を認 め る もの(弱 い 発 現)…grade(+),

部 分 的 に 発 現 を認 め る も の(中 等 度 の 発 現)…

grade(++),多 くの 細 胞 に 発 現 を 認 め る もの(強

い 発 現)…grade(+++)の4段 階 に分 け て評 価 し,

癌 の 深 達 度,リ ン パ 節 転 移 度, stage分 類,組 織

型 と, mRNAの 発 現 の程 度 を 比 較 検 討 し た.

250  田 中 出

また,こ れ らの 胃癌 の分 類 は,胃 癌 取 扱 い規 約

に基づ いて分 類 した.ま た,結 果 に おけ る統計

学 的処理 は,全 て χ2検 定 で行 ない,有 意 差 は

P-valueで 表現 した.

結 果

1. コン トロー ル実 験

1) positive control; HL 60細 胞 で は,主 に

細胞質 にc-myc mRNAの 発現 を認め た.

2) negative control; RN ase処 理 した実験

系 では, mRNAの 発 現 は消失 し, DN ase処 理

で は発現 は消 失 しなか っ た.ま た,ベ クター の

み を標 識 したprobeを 用 いた実験 系や, probe

を除 いた実 験系 では,発 現 は認め なか っ た.

2. 正 常 胃 組 織; myc mRNA及 び, ras

mRNAと も全 く発 現 は認め られ なか った.

3. 胃癌組 織;早 期 胃癌 では,癌 部 に一 致 して

散 在性 にmRNAの 発 現 が認め られ た.細 胞内

の局在 では,主 に細 胞質 に発現 を認 め,一 部 の

細胞 で は,核 内に も発 現 を認め るもの もあ った.

発現 を示 す細 胞は,高 分化 腺癌 の場合,腺 管構

造 を示 す細 胞 が主 で,し か し,す べ ての細 胞が

発現 を示 す わけで はな く,一 部 の細 胞に散在 性

に発 現 を示す 症例 が 多か った.(図2)ま た,発

現 を示す 細胞 で も,程 度 に差 を認め,細 胞質 全

体 に濃染 され る ものや,淡 く染 色 され る もの,

ある いは斑点 状に染 色 され るもの などが あった.

sm癌 の一 症例 で, sm浸 潤 先進部 に,部 分 的 に

強 い発現 を示 す ものが あ った.(図3)癌 巣周囲

の正 常粘 膜 は正常 胃組織 と同様 に全 く発現 は認

め られ なか った.

図2 IIc+III型 胃 癌 stage I (P0H0SN0)深

達 度m, probe; c-myc grade(+)

進行 胃癌 で は,中 心 部 のみ な らず,癌 の浸潤

部(辺 縁部)に も発現 を認 め た.ま た,症 例 に

よ り,癌 巣部 にび まん性 に発 現 を認 め る ものや,

主 に中心部 お よび,そ の周 辺 に強 い発 現 を認 め

る もの,あ るいは,浸 潤先 進部(筋 層や漿膜,に

近 い部分)に 主 に発 現 を認 め る もの な ど,分 布

が一様 ではな く,部 位 に よって発現 に差が見 ら

れ た.細 胞 内 の局 在 で は, myc mRNA, ras

mRNAと も,主 に細胞質 に発 現 を認 め,一 部 の

細胞 で は,核 周囲 に も発現 を認 めた.(図4)

4. 良性疾 患;胃 潰 瘍で は,潰 瘍底 お よび その

周辺 にお いて も, myc mRNA, ras mRNAと

も発 現 は認め られ なか った. (図5) adenoma

に お いて も,発 現 は認め られ なか った. (図6)

<深達度 との 比較> (表2)

図3  IIc型 胃 癌 stage I (P0H0S0N0)深 達 度

sm, probe: c-myc grade (+++)

図4  Borrmann III型 胃 癌stage IV (P0H0S3N3)

深 達 度se, probe; c-myc grade (+++)

早 期 胃癌; myc mRNAは 一 例 のgrade(+++)

例 を除 く残 りの す べ て の 症 例(15例 中14例, 93.3

%)が, grade(+)以 下 の 弱 い 発 現 で あ っ た. ras

mRNAは,全 例 がgrade(+)以 下 の 弱 い発 現 で

胃癌組織における癌遺伝子mRNAの 検討  251

あ った.

図5  胃潰瘍 grade (-)

図6  adenoma grade (-)

表2  深達 度 とmyc mRNAお よびras mRNAの

発 現 との 比較

* P<0 .05, ** P<0.0l

進行 胃癌; myc mRNA, ras mRNAと も

grade(-)~grade(+++)ま で様 々 に み られ るが,

myc mRNAは20例 中9例(45.0%), ras

mRNAは20例 中10例(50.0%)がgrade(++)以

上 の発 現 を示 した.

<リ ン パ 節 転 移 度 との 比 較> (表3)

myc mRNA, ras mRNAと も, n0, n1症 例

に お い て, grade(+++)を 示 す 症 例 は な く,大 部 分

の 症 例(myc mRNAが18例 中16例88.9%,

ras mRNAが17例 中16例94.1%)が, grade

(+)以 下 の 弱 い 発 現 で あ っ た.一 方, n2以 上 の 転

移 陽 性 症 例 の う ち, myc mRNAが17例 中8例

(47.1%), ras mRNAが17例 中9例(52.9%)

が, grade(++)以 上 の 発 現 を 示 した.

表3  リンパ 節転 移 度 とmyc mRNAお よ びras

mRNAの 発現 との 比較

* P<0 .05, ** P<0.01

表4  stage分 類 とmyc mRNAお よびras mRNA

の発 現 との比 較

* P<0.01

<stage分 類 と の 比 較> (表4)

stage I症 例 で は, myc mRNA, ras mRNA

と も, grade(++)以 上 の 発 現 を示 す 症 例 は な く,

全 例, grade(+)以 下 の 弱 い 発 現 で あ っ た. stage

II症 例 で は, myc mRNAが6例 中4例(66.7

%), ras mRNAが5例 中4例(80.0%)がgrade

(+)以 下 の発 現 であ った. stage III症例 では, myc

mRNAが7例 中5例(71.4%), ras mRNAが

7例 中6例(85.7%)がgrade(+)以 下 の 発 現

で あ っ た.そ れ に 対 し, stage IV症 例 で は, myc

mRNAが12例 中6例(50.0%), ras mRNAが

12例 中8例(66.7%)が, grade(++)以 上 の 発 現

を示 した.

252  田 中 出

表5  組 織 型 とmyc mRNAお よ びras mRNAの

発 現 との比 較

<組織 型 との比較> (表5)

組織 型別 の対象 症例 数 に差 が あ る ものの,組

織 型 とmyc mRNA, ras mRNAと の間 には,

相 関 関係 は認め られ なか った.

考 察

癌 の発 生か ら,増 殖,さ らに進展 に至 る過 程

に は,様 々 な細 胞 内の遺伝 子 におけ る構造 異常

や発 現 異常が 関与 して い る と考 え られて い る.

癌遺伝 子(oncogene)は,も とも と,正 常 細胞

に含 まれ,細 胞の分 化,増 殖 に不可 欠 な蛋 白を

コー ドしてい る原 型癌遺伝 子(proto-oncogene)

に何 らかの構 造上 の変化,あ るい は,発 現 異常

が起 こ って生 じ,癌 の発 生や 増殖 に重要 な役割

を果 たす と考 え られ,こ の場合,正 常 なproto-

oncogene産 物 の大 量生産 が細 胞 内 の情報 伝達

を変化 させ るこ とが,発 癌 の原 因に なる と推測

され てい る. proto-oncogeneは,こ れ までに約

50種 発 見 されて お り,それ らは,成 長 因子(c-sis,

hst, int-2),成 長 因子 レセプ ター(c-erb B,

c-rosな ど),チ ロキシナー ゼ(c-abl, c-src, ret

な ど),細 胞 内情報伝 達系 の蛋 白質(ras, c-raf,

c-mos), DNA結 合蛋 白質(c-myc, c-mybな

ど)な どに分 類 され てい る.癌 遺伝 子 の なか に

は,生 理 的 な機 能 が明 らか になった もの(c-myc,

c-sisな ど)も あ るが,そ の多 くは予測 され る遺

伝 子産物 の構 造上 の類似 性 と試験 管 内での挙動

か ら分 類 され ただけ で,実 際 に細 胞 内で どの よ

うな働 きを して い るか まだ明 らか に なって いな

い もの が 多い.著 者 は,こ れ らの うち,核 内に

あ り, DNA結 合 蛋 白で,細 胞の増 殖,特 に細 胞

周期 の 調節 に関与 す る基本 的 な遺伝 子 と考 え ら

れ てい るmycフ ァ ミ リー に属 す るc-mycと,

GTPと 結合 し,細 胞 内情 報伝達 系 の蛋 白で,細

胞 の分 化機 能 に関与 す る とされて い るrasフ ァ

ミリーのH-rasの2種 類 の癌遺 伝子 につ いて,

histo in situ hybridization法 を用 いて,胃 癌 組

織 中で, mRNAレ ベ ルで の解 析 を検討 した.

in situ hybridization法 は, 1969年, Gall and

Pardue4)に よって, mRNAの 検 出方法13)として

は じめ て報告 され たが,実 験応 用 され るよ うに

なって まだ歴 史は浅 い.一 般 に,放 射 性物質 で

標 識 したprobeを 用 い る方法14)が多 く採 られて

いるが 最 近では,非 放射 性 物質 で標識 したprobe

を用 いるhisto in situ hybridization法 の 開発

が さか んに行 われ てお り著 者 らも,こ の方法 の

臨床 応用 を目的 として各種 消化器 癌組 織にお け

る癌遺伝 子 のmRNAレ ベ ル の検 索 をすすめ て

きた. 15)~17)

hist in situ hybridization法 に よって得 られ

た シグナル が,実 際 にmRNAの 発現 を示 して

い るか ど うか直接証 明す るこ とは現在 の所不可

能 なので,い くつ かの 間接 的証 明,あ るいは,

組織塊 よ りRNAを 抽 出 し,フ ィルター上 で,

hybridizeさ せ るnothern hybridization法 に

よって転 写亢 進 を証 明す る事 が必要 に なって く

る.著 者 も,コ ン トロー ル実験 と して,多 くの

細胞 でc-mycの 転 写亢進 が証 明 されてい るHL

60細 胞 を用 いて,同 実験 を施行 した所,主 に細

胞質 にc-myc mRNAの 発現 を認め た.ま た,

発現 を示 した 胃癌 組 織 の連 続 切 片 を用 い て,

mRNAを 失活 させ るRN aseで 処理 した所,

発現 が消失 し, DN aseの 処理 では,発 現 が消

失 しなか った事,ま た,ベ クター のみ を標識 し

たprobeを 用 いた実験 系,あ るいは, probeを

除 いた実験 系 では,発 現 を示 さなか ったこ とか

ら,特 異的mRNAの 発 現 を示 す もの と考 えた.

今 回 対 象 と した 胃 癌 組 織 に お い て, myc

mRNA, ras mRNAは,細 胞 内の局在 では,

主 に細胞質 に認 め られたが,細 胞 に よって,細

胞質 全体 に一様 に濃染 され るもの,染 色 され る

もの,あ るいは,斑 点状 の染 色 を示 す もの など,

細 胞に よって も差 を認 めたが,こ れ らは, mRNA

の コピー数 の差 異 に よる もの と推 測 された.特

に,早期 胃癌 では,ご く一部の細 胞にのみ, mRNA

胃癌組織における癌遺伝子mRNAの 検討  253

の発現 を示す ものが 多 く,(感 度か ら考 えて)こ

の程 度の発現 で は, nothern hybridization法 で

はmRNAの 転写 亢進 が証 明 され るか どうか疑

問で あ り,この意味 では, histo in situ hybridiza

tion法 の感度 がす ぐれ て いるの では ないか と推

測 され る.今 後,同 一 標 本 を用 い て, nothern

hybridization法 に よるmRNAの 転写 亢進 と,

histo in situ hybridization法 に よ るrnRNAの

程度 を比較 検討 す る必要 があ ろう と考 えられ る.

深達 度に よる比較では,早 期 胃癌においてmyc

mRNA, ras mRNAと も,ほ とん どすべ ての

症例 で, grade(+)以 下 の弱 い発 現 であ ったのに

比較 し,進 行 胃癌 で は,約 半数 でgrade(++)以

上の発現 を示 した.遺 伝 子 産物 に対 す るモ ノ ク

ロナール抗体 を用い た免疫 組織 学的検 索 と比較

す ると, YAMAMOTOら18)のmyc p62に 対す

る検索 では,早 期 胃癌 で0%,進 行 胃癌 で36.4

%が 陽性 であ り, TAHARAら19)のras p21に

対す る検 索で は,早 期 胃癌 で11.1%,進 行 胃癌

で43.8%に 陽性 とい う結 果 であ り,検 索 方法 に

ちが いがあ る もの の,早 期 胃癌 よ りも進行 胃癌

で陽性率 が高 い とい う点 で,類 似 した結 果 とな

り,組 織 学的 深達度 と,癌 遺伝 子mRNAの 発

現程度 が,あ る程度 相関 を示 す事 は興味 深 い.

リンパ節転移 度 との 比較 では, myc mRNA,

ras mRNAと も, n2以 上 の転 移 陽性症例 の約 半

数が, grade(++)以 上の発 現 を示 したのに対 しn0,

n1症 例 の ほ とん どの症例 が, grade(+)以 下 の

弱い発 現 であ った.深 達 度 と,リ ンパ 節転移 度

とあわせ て考 慮す ると, grade(+++)を 示す症例 の

ほ とん どが, n2以 上 の転 移 を示 す高度進 行癌 症

例 とい う結果 に な り, myc mRNAお よびras

mRNAの 発現 の程 度 と癌のmalignant potency

と相 関関係 をもつ もの と推 測 され た.

組織 型 との比較 では, myc mRNA, ras mRNA

とも強 い相 関関係 は認めず, YAMAMOTOら18)

のmyc p62の 検 索結果 と一 致 したが, ras p21

に対す る検 索で は,未 分 化 腺癌 にお け るrasの

発現 は,よ り分化 した腺癌 よ りも低 い傾 向に あ

る とい う報告 もあ り,対 象症 例 の背景 因子 に差

が ある こと も考 え られ,今 後,検 討 を要す る と

ころであ ろ う.

胃癌 にお け るmyc mRNA, ras mRNAの 発

現 増大 の生物 学 的意味 に関 して は検 討 の余地 が

残 されて い るが,今 後 の展望 と して,症 例数 を

ふや す と ともに,他 の癌 遺伝 子 につ いて も検 索

し, retrospectiveに 予後 との比較 を行 ない,手

術 後 の集学 的治療 の 目安 に なれば と考 えてい る.

事 実,神 経芽 細胞腫 においては, N-mycをprobe

としたsouthern hybridization法 を用 いたDNA

レベ ルで の検 索 で, N-mycの 増幅 と,病 期,患

者の予 後 とが,密 接 に相 関す る事 が示 されて お

り20),予後 の指標 に利用 され て いる.し か し,一

般 にN-mycが 増 幅 してい る神経 芽細 胞腫 では,

mRNAの 発現 も著 し く亢 進 してい るが,一 方,

小数 では あ るがN-mycの コピー数 は正常 で あ

るが, mRNAの 発現 のみ増 強 してい る例 が知 ら

れ21), mRNAレ ベ ル での解析 が,よ り重要 で あ

ると述べ られてい る22).しか し,腫瘍 中のmRNA

の解析 は, DNAの 解析 よ りも困難 であ るため,

臨床 的に は まだ広 く行 われ てい ないのが現状 で

ある23).

また,内 視鏡 によ るbiopsyに よる検体 でhisto

in situ hybridization法 を行 ない, (biopsyの

試料 で は,量 的 に, nothern hybridization法 に

よる検 索 は不可能 で あ る)そ の結果 に よ り,手

術法(リ ンパ節郭 清 の程 度 な ど)の 選 択や,化

学療 法の効 果判定 の指標 に な る可能性 もあ り,

今 後,こ の方法 を用 いた種 々の実験 が待 たれ る.

結 論

histo in situ hybridization法 を用 いて 胃癌 組

織 にお け る癌遺 伝子mRNAの 発現 を検討 し,

以下 の結 果 を得 た.

1. 癌 遺伝子mRNAは,細 胞 内の局在 では,

癌 細胞 の主 に細 胞質 に発現 を認め,一 部 の細胞

では,核 内 に認 め る もの もあ った.ま た,正 常

胃組織や,良 性 疾患 では発現 は認 めなか った.

2. c-myc, c-Ha rasと も,早 期 胃癌 よ りも

高度進行 胃癌 にお いて,ま た,リ ンパ節 転移高

度例 に強 い発現 を示 す傾 向 を認め たが,組 織 型

とは相 関関係 を認め なか った.

稿 を終わるにあた り,御 校 閲を戴きました折田薫

三教授に厚 く御礼 申し上げます と共に終始直接御指

導いただきました堀見忠司博士に深謝致します.な

254  田 中 出

お本論文の要旨は第47回 日本癌学会 および第75回 日 本消化器病学会 にて発 表 した.

文 献

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16) 田 中 出,堀 見 忠 司,岡 林 孝 弘,下 山 均,三 宅 規 之,林 同 輔,折 田薫 三: In situ hybridization法 を

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256  田 中 出

Oncogene mRNA in gastric cancer by

in situ hybridization by using a

biotin-labeled probe

Izuru TANAKA

First Department of Surgery,

Okayama University Medical School,

Okayama 700, Japan

(Directer; Prof. K. Orita)

Expression of oncogene mRNA in gastric cancer was studied by in situ hybridization.

Cancer tissues were fixed in formalin and embedded in paraffin. Then, DNA-mRNA hybridi

zation was performed by using two biotin-labeled cDNA probes (c-myc, c-Ha ras).

Oncogene mRNA was intracellularly localized, mainly in the cytoplasm, and also found in

the nucleus of partial cells. Higher concentrations of oncogene mRNA vere found in advanced

cancers than in early cancers, and in metastatic positive cases of the above n2 than of n0 or

n1.

This suggests that the expression of oncogene mRNA is related to the malignant potency of

cancer.

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