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低周波治療もくじ
●痛 み・・・・・・・・・・・・・・・ 2
●関所理論(ゲートコントロール)・・・・ 3
●健側通電法・・・・・・・・・・・・・ 3
●物理療法・・・・・・・・・・・・・・ 4
●皮膚の電気特性・・・・・・・・・・・ 5
●I-T曲線(強さ-期間曲線)・・・・・ 6
●閾 値・・・・・・・・・・・・・・・ 7
●閉鎖刺激・開放刺激・・・・・・・・・ 7
●活動電位・・・・・・・・・・・・・・ 8
●低周波治療器発展の歴史・・・・・・・10
●低周波治療器とは・・・・・・・・・・11
●低周直角脈波の治療への適応性・・・・11
●治療様式による分類・・・・・・・・・11
●低周波治療器の原理・・・・・・・・・12
●PSP・PTP及びESTについて・・・・・・・14
●低周波の波形・・・・・・・・・・・・16
●波形の種類による比較・・・・・・・・17
●通電による熱傷について・・・・・・・18
●禁忌症と通電禁止部位・・・・・・・・18
HG-0127
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痛 み
1.痛みの種類
①表層体性痛・・・表層または皮膚の痛み
(脈拍および血圧の上昇、血管収縮などがおこり、はっきりと
刺すような痛みになる)
②深部体性痛・・・骨膜、関節、筋膜の負傷による痛み
(鈍痛、明確な局在痛となり、皮膚をちょっと触っても痛い
ということが多い)
③内臓痛・・・・・内臓の痛み
(ほとんど局在化しない鈍痛であり、血圧降下、脈拍緩徐、
吐き気、筋硬直などを伴う)
2.痛みの伝達
痛みのインパルスは、次の2つの線維系によって中枢へ送られる。
①有髄の太いA線維:直径は2~13μのもので、10~75msecの伝導速度を有する。
これは、早い速度で、ちくちくと刺すような、はっきりとした
局所の痛みを伝えます。
②無髄の細いC線維:直径は0.4~1.2μのもので、0.25~2msecの伝導速度を有する。
これは、遅い速度で、鈍い、広範囲の不快感で燃えるような
痛みを伝えます。
3.痛みの除去
1)痛覚抑制物質の分泌と促進
大容量の低周波電流を通電することにより脳を刺激し、体内のモルヒネ様物質(βエ
ンドルフィン等)が脳下垂体と脳内で産生され、脳全体に広がることにより、脳の痛
みの認知をさまたげます。
2)痛みの伝達経路を遮断
①神経ブロック法:ペインクリニックで主流となる局部注射により、局部麻酔薬、
神経破壊薬の注入で、一時的あるいは半永久的に遮断する方法。
②関所理論(ゲートコントロール):低周波刺激などによって、脳で痛みを認知する
前に遮断する方法。
3)温熱療法:温熱効果の相乗性から血行促進、発汗作用、筋硬縮の緩和。
4)痛みを緩和するための医薬品:鎮痛剤・麻酔剤を服用。
5)刺激を抑える塗膏剤:痛む部分の表面に消炎鎮痛剤・湿布薬等の塗布。
6)損傷組織の修復:手術によって、根本原因を修復又は切除。
7)その他:催眠状態・聴覚(環境音楽等)・香油による一時的な痛覚の抑制。
低周波治療
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関所理論(ゲートコントロール)
太い線維も細い線維も、脊髄内部の膠質と中枢伝達細胞の双方の中へ突出している。こう
膠様質細胞は中枢伝達細胞に対して抑制作用を行ない、太い線維の刺激によってこうよう
抑制作用が増加し、細い線維によって減少します。
太い線維が刺激に対して瞬間的に反応し、かつ適応する受容器をもつのに対して、
細い線維のほうは刺激に対する適応性もなく緊張しています。
そして、いずれの線維に生じた刺激も、すでに活動していると思われる細い線維より
は、刺激変化がない場合にはつねに休んでいる太い線維のほうに活動をもたらしやす
いのです。膠様質の興奮によって中枢伝達細胞の抑制作用が増加すると、太い線維のこうよう
刺激によって強められた作用が関所(ゲート)を閉じてしまい、中枢への伝導を遮断
してしまいます。
この間に、太い線維はすばやく刺激に適応し、細い線維のほうがゆっくりと適応し
てから、ふたたび関所(ゲート)を開くように作用し始め、最後には細い線維の開放
力が勝って関所(ゲート)が開かれ、刺激は伝達細胞より脳にいたるのですが、低周
波の振動(刺激)によって太い線維が興奮させて関所(ゲート)を閉じたままにしま
す。
健側通電法
鍼術に巨刺(こし)の法がある。これは左は右を取り、右は左に刺鍼する法でありま
す。急性の神経痛、打撲、捻挫等で激しい痛みのとき、痛む局所の反対側、健側の同じ
部位に低周波通電を行うことで、患部の疼痛を緩和する方法であります。
健側通電を行うことで、太いA線維からの刺激を脊髄内の膠様質細胞へ伝達し、中枢こう
伝達細胞から脳への痛みの伝達を遮断します。
低周波治療
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物 理 療 法
生物は、刺激すると興奮する生命現象があります・
興奮したものはどのような形で現れるかは、心電図(ECG),筋電図(EMG),脳電
図(EEG),神経電図(ENG),網膜電位図(ERG)等の形で現れます。
刺激の種類としては、電気刺激、光刺激、熱刺激、水刺激、機械刺激、放射線刺激、音
響刺激等があります。
このような刺激は、すべて生体内では電気的な変化となって刺激作用を営むと考えられ
ますので、電気的刺激は、あらゆる刺激の根本的なものであると言えます。
電気的刺激は、極めて微量な変化でもその効果があり、刺激の後に何らの障害も残さず
に回復します。刺激の強さや作用のさせ方等についても微細に変化させることができるの
で非常に便利であり、その効果の判定も比較的容易であります。
理学療法を大別すると
1.運動療法
2.物理療法 A.電気療法
①低周波療法(干渉低周波療法を含む)
②高周波療法、超短波療法(温熱効果)
極超短波療法(温熱効果)
③超音波療法(機械的刺激効果)
④電位治療法 等
B.光線療法
①赤外線療法(温熱効果)
②レーザー光線療法(温熱効果、他は現在では不明確)
C.温熱療法
①電磁波(超短波、極超短波)療法
②ホットパック(電気式ホットパックを含む) 等
D.水治療法
①温浴
②超音波水治療法 等
E.機械力学的療法
①牽引療法
②ベッド型マッサージ療法、エァーマッサージ療法
F.磁気療法
①永久磁石
②電磁気療法
3.義肢・装具療法
物理療法は、理学療法の一部門であり、物理的刺激を応用する治療法であります。
低周波治療
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皮膚の電気特性
電気を診断や治療に用いるときに、先ず問題になるのは皮膚の電気特性です。人体
は電気の通り難い皮膚によって覆われています。現今の生活環境下では、種々雑多な
電気製品が私たちの周囲に存在しているので、感電の機会も多く危険なことでありま
すが、私たちは皮膚の持っている電気特性のおかげで、この危険から保護されている
のです。
反面、私たちが電気治療を行うときには、この皮膚の電気特性は極めて厄介な存在
でもあるわけです。
人体皮膚を電気物理的に解析した種々の研究がありますが、その代表的なものが
コール(cole)の等価回路と呼ばれるもので、下図にみるような、容量(Capacity,記号C)
と抵抗(Resistance,記号R)からなる並列回路です。 図のように、容量と抵抗の合成さ
れたものをインピーダンスといいます。
この場合は特に皮膚インピーダンス(Skin impedance,記号Z)と呼んでいます。
Z:皮膚のインピーダンス
R:皮膚抵抗
C:皮膚の電気容量
Xc:容量リアクタンス
一般に、人体の皮膚の抵抗は数KΩ、容量は0.1~0.3μFであることが実験的に求め
られています。容量リアクタンスXcは、電流の周波数と容量Cによって次の式で表さ
れます。
即ち低周波で1Hzのときより1000Hzで使用すると人体の電気特性は1000分の1にまで下
がってしまいます。これらの値から考えますと皮膚は、直流も交流も通りにくいのです
が、周波数の高い電流ほど皮膚を通り易いことがわかります。このために電気治療にお
いては皮膚インピーダンスを十分考慮しなければ、効果的な治療ができないのです。
容量リアクタンスXc =
いま、R = 6KΩ c = 0.2μF とすると
X
電流の周波数が1000Hzのときの容量リアクタンスX
X
電流の周波数が1Hzのときの容量リアクタンスX
c1
c1000
=
ƒ :周波数
=
2πƒ c1
2πƒ c1
=
=
2×3.14×1×0.2×10-61
2×3.14×1000×0.2×10-61
ωc1
= 2πƒ c
1
= 800KΩ
= 0.8KΩ
c1
は
c1000
は
Z
Z
Z=
1000HzのときのインピーダンスZ
1HzのときのインピーダンスZ
1
1000
=5.955KΩ
R×XC
R+XC
=0.7KΩ
1は
1000は
低周波治療
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I-T曲線(強さ-期間曲線)
電流が刺激として感じるためには、ある大きさの刺激が一定時間以上作用しなければ
なりません。刺激電流が高いほど短い時間で興奮が起こりますが、電流が弱ければ長時
間の通電が必要です。このような関係を表わす曲線を、強さ-期間曲線(I-T曲線)
といいます。
刺激電流が大きいほど短い時間で興奮が起こり、電流が小さいほど一定の刺激となるた
めには作用時間が長くなります。
これ以下の通電時間ではどんなに電流が大きくても興奮が起こらないという時間を最低
刺激時間といいます。
刺激として感じる最小の電流を基電流(基電圧)といい、基電流までの作用時間を利
用時といいます。また、基電流の2倍の強さの電流に対する利用時をとくにクロナキシ
ー(時値)といいます。クロナキシーが大きいことは、神経、筋の反応が悪いことを意
味し、筋、神経がマヒすると一定以上の波形幅の電流でなければマヒ神経や筋は反応し
ません。このことを電気刺激における不応期の延長といいます。
刺激に低周波のパルスを用いる場合は、周波数が高くなるとパルス幅(T)が小さくな
るので刺激強度(I)の大きなパルスが必要となります。又、神経・筋が麻痺に陥ると、
重症なほど不応期が延びるので、パルス幅(T)の大きなものが必要となります。すなわ
ち低い周波数が必要になるのです。
すなわち、電気による治療効果は
①電圧電流の波形とその波形幅
②電圧電流の周波数
③電圧電流の極性(後述)
④皮下に流入する電流量
⑤治療時間
によって決定されるものです。
低周波治療
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閾 値
電流又は電圧は刺激作用がありますので、細胞を興奮させます。しかし電流又は電圧
が弱すぎると、細胞は興奮しません。しかしある程度強くなると興奮が起きます。そし
て、筋の収縮の現れ始めたときの刺激を最小刺激といい、収縮の大きさがこれ以上に大
きくならなくなったところの刺激を最大刺激といいます。
最小刺激の電流又は電圧を興奮が現れるか、現れないかの境界という意味で刺激の閾
値又は単に閾値といいます。
閾値の逆数をもって興奮性を表すのが慣例であります。
マヒ筋は閾値が高く、痛みの部分は閾値が低いのです。
電気治療によって閾値を高めると強い刺激でないと反応しなくなりますが、このことは
鎮痛、鎮静、消炎効果を与えたことになるのです。
閉鎖刺激・開放刺激
生体に通電を開始するときに刺激として働くが、通電を断つときにも刺激として働き
ます。
閉鎖刺激:通電を開始するときの刺激(強い)
開放刺激:通電を断つときの刺激(弱い)
また、通電する極性によっても刺激の強さは異なります。
陰極閉鎖刺激:陰極では生体に通電を開始したときに筋が興奮する。
陽極開放刺激:陽極では生体の通電を断ったときに筋が興奮する。
刺激の強さの順序は、陰極を通電開始したときが最大で順序は次のようになります。
①陰極通電の開始>②陽極通電の開始>③陽極通電を断つ>④陰極通電を断つ
これを電気生理学では極性興奮の法則と
いいます。
低周波治療
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活 動 電 位
生物は刺激すると必ず興奮します。これが生命現象なのです。興奮したものは活動電
位として次のような、心電図(ECG)、筋電図(EMG)、脳電図(EEC)、神経電図(ENG)、
網膜電位図(ERG)等の形で現れます。
活動電位とは、各細胞(神経・筋)に一定な形質膜の脱分極と再分極の発生する過程
であり、閾値以上の刺激が加えられたときに脱分極すると自己再生的に発生する。
細胞は静止時には、細胞内は負、細胞外は正に分極していますが、閾値以上の刺激に
より細胞内電位は図のように急速な脱分極で始まり、負から正の電位に逆転します。
この逆転した部分をオバーシュートとよびます。
次いで電位は負の静止電位に戻って行きますが、この電位の回復を再分極と呼びます。
活動電位は緩やかな過分極を経て静止電位へと移行します。しかもこの時間は細胞の種
類によって非常に異なるものなのです。
神経ではわずか1msでありますが、心筋では200~300ms以上も持続します。刺激の強さが
閾値以上であれば閾値の大きさのいかんにかかわらず常に同じ大きさのオバーシュート
が起こり、閾値以下であればどんな長時間通電(刺激)しても反応(オバーシュート)
が起こりません。これを全か無の法則といいます(all or none law)。筋に閾値以上の
刺激を与え、活動電位が起これば静止電位になるまでの間は、他のどんな刺激を与えて
も反応しません。この期間を不応期というのです。
低周波治療
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われわれが筋電図の観察において見る一連のスパイク状のパルス電圧は、実は50~
600Hzの矩形波の脈波ですが、皮膚の電気的特性、導出電極の特性等の影響で、あのよう
な歪んだスパイク波形として記録されたものですが、皮下の筋線維からは、直角脈波に
似た電位が発生していることが認められています。すなわち生体の筋収縮には低周直角
脈波が大きく関係しているのです。
刺激の種類としては、電気刺激、熱刺激、光刺激、音響刺激、機械刺激、放射線刺激
等があります。
低周波治療
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低周波治療器発展の歴史
低周波治療器は神経筋疾患の治療のため、電気エネルギーを直接人体に与えるという
治療装置で、一見きわめて危険な治療方法と思われますが、トランジスタやICなどを
用いた電子回路の制御機能によって安全に、かつ効果的に行えるようにしたもので、
神経・筋の疼痛と麻痺の治療に効果の優れた治療器として我が国で開発され、今日では
海外にも広く発展しました。
電気治療器には古くから感応電流(Faradic current)を用いる感伝治療器や、平滑電
流(Galvanic current)を用いる平流治療器があり、1920年頃から我が国でも利用され
ましたが、経皮通電における電気的特性が良くないために治療効果が不安定で、あると
きは著しい効果があると思えば、あるときは無効というようなことで、次第に医師の手
を離れて行きました。
しかし、電気治療器は神経や筋の治療には不適格ではありません。電気的エネルギー
は、用い方さえ適切であれば、極めて有効な治療が可能なのです。すなわち、
①電気エネルギーの生体に及ぼす作用は極めて顕著である。
②電気エネルギーは定性的、定量的に制御できるので、人体の治療に適切なエネルギー
である。
③神経・筋の電気生理に関する研究が著しく進歩し、種々の新しい知見がある。
④電子工学の急速な発展により十分な安全性が確保できる。
などの理由から新しい形態の電気治療器の開発が行われました。
新構想の電気治療器を開発するために、1950年、大阪大学医学部の竹越、五百住の両う お ず み
博士と平和電子の銭谷とにより、基礎・臨床的及び工学的に抜本的な検討が行われ、電
子工学手法による実験を重ねて治療理論を確立し、より科学的な治療装置を試作して、
これに低周波治療器と命名しました。その後3年間にわたって、東京大学、千葉大学、大
阪大学、京都大学など12の大学医学部、工学部及び国立病院による文部省科学試験研究
費による共同研究が行われ、低周波治療の基礎と臨床並びに装置工学の総合研究に取り
組み、種々改良の末、現在の低周波治療器の原型を作り上げるに至りました。
その後、日本低周波医学会が設立され、臨床応用はいよいよ活発になり、2年後に集積
された治験例は2,000例を越えるに至り、低周波治療器は神経と筋の麻痺と疼痛及びこれ
に関連する疾患の有力な治療器として臨床界に定着するに至ったのです。
また、人体に対する安全性を確保する目的で「低周波治療器」の安全通則(JIS C 6310)
が1969年に制定され、74年に改正を経て、78年に確認が行われ現在に至っています。
低周波治療
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低周波治療器とは
低周波とは20,000Hz以下で振動する交流をいいますが、低周波治療器は1~1,000Hzで
繰り返す脈流または交流の電圧、電流を経皮的すなわち皮膚を通して、神経・筋に与え
て神経・筋の疼痛や末梢性麻痺の治療を行う治療器をいいます。
低周直角脈波の治療への適応性
低周直角脈波という言葉は、低周波の周期で繰り返す直角波(矩形波)の脈波(脈流)
をいい、日本低周波医学会と文部省科学試験研究班が1958年に命名して学術用語に
登録されました。
なぜ、低周直角脈波が研究班によって採択されたのかといいますと、
1.より低い電圧でより多くの電流を皮下に流し込める。
2.他の波形に比べて100Hz以下特に50~60Hz付近で心細動を誘発する危険性が少な
い。
3.通電した時の皮膚に分極が起こる訳ですが、他の波形に比べて小さいという特性
を持っている。
治療様式による分類
電 流 治 療 器 :出力の電流は比較的大きいが、電圧は低く、波形は低周直角脈波
(矩形波)が主体であります。
電 圧 治 療 器 :出力の電圧は比較的高いが、電流は小さく、波形はパルス波
(スパイク波)が主体であります。
干渉電流治療器 :2つの中周波を交差状に人体に通流して、その交差部位にできる干
渉電流にて治療します。出力の電流は中周波のため比較的大きく、
波形はサイン交流波形であります。
低周波治療
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低周波治療器の原理電流を生体に流しますと、次のような作用が現れます。
①刺激作用(第1作用)
②分極作用(第2作用)
③電極通流作用(第3作用)
◎刺激作用
生体に通電すると筋は収縮します。いわゆるフュールゲル(Pflüger-1859)の電気緊張現象で、これは生理的現象であります。
◎分極作用
生体に通電すると細胞をとりまく細胞膜が半透過性であるために、外部から加えら
れた電圧のために、イオンの移動が細胞膜に遮られてイオンの細胞間の移動が不円
滑になるためイオンの偏在が逆起電力となって現れます。これが膜分極であって、
ローゼンバーグ(Rosenberg-1932)及び、シェイファー(Schaefer-1943)が発表した
もので、これは物理現象であります。
刺激作用と分極作用は、生理的にみるか、物理的にみるかの相違であり、これらは共に
表裏の関係にあります。そしてこの現象は通電を止めるとただちに消失してしまいます。
◎電極通流作用
これは前記の作用と違って、ある程度の電流(1mA以上)をある程度の時間(1分間
以上)生体に通電すると、通電する電流の極性によって陰極の直下には陰極通流効
果が、また陽極の直下には陽極通流効果と呼ばれる電極固有の生理効果が発生しま
す。この効果はシェミンスキー(Scheminzky-1929)や鈴木正夫(-1943)らによって
発見されたもので、電流を断った後もその効果は残留しますので、低周波治療の効
果を裏付ける作用であります。
通電の初期の生理効果
低周波の陰極(マイナス)の直下では、細胞膜が固まってイオンの透過性が減少
して、分極性を増大させます。その結果、閾値が下降し、興奮性を増大させます。
逆に陽極(プラス)の直下では、細胞膜が緩んでイオンの透過性が増大して、分
極性を減少させます。その結果、閾値が上昇し、興奮性を減少させます。
低周波治療
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一定時間経過後の通流効果
ところが、ある大きさの低周波を一定時間通電すると、電流値は減弱し、大きな
抵抗値を示します。これは細胞膜には静電容量(神経で約1μF/cm2 、筋で約10μF/
cm2)があるために細胞膜を境にイオンの集積が行われ逆起電力を生じたためであり
ます。通電後一定時間が経過しますと、陰極(マイナス)の直下では、細胞膜が緩
んでイオンの透過性が増大して(-)イオンが集積されて、分極性が減少します。
その結果閾値が上昇し、興奮性を減少させますので、鎮痛、鎮痙、消炎等の鎮静的
効果が期待できます。
逆に、陽極(プラス)の直下では、細胞膜が固まって、イオンの透過性が減少し
て、(+)イオンが集積されて、分極性が増大します。その結果閾値が下降し、興
奮性を増大させますので、被刺激性が高まります。すなわち、マヒ等の治療効果が
期待できるのです。この一定の時間は、細胞膜の静電容量の大きさと低周波の周波
数、波形、電流などの電気特性によって異なりますが、早いものでは通電後1分位か
ら始まります。
これらを表にまとめますと、
陰極通流効果(陰極の直下に発現)
生 理 現 象 通流の初期 一定時間経過後 通流効果と治療
イオン透過性 減少 増大 鎮痛、鎮痙、消炎等の鎮静的効
分 極 性 増大 減少 果を期待する神経筋疾患の治療
閾 値 下降 上昇 に適用
興 奮 性 増大 減少
陽極通流効果(陽極の直下に発現)
生 理 現 象 通流の初期 一定時間経過後 通流効果と治療
イオン透過性 増大 減少 興奮性の増大により被刺激性が
分 極 性 減少 増大 高まるので神経筋のマヒ治療に
閾 値 上昇 下降 適用
興 奮 性 減少 増大
低周波治療
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PSP・PTP及びESTについて
人体の神経や筋はある一つの周波数に反応するものではなく、ある周波数を中心とす
る多くの周辺周波数に反応します。そして、その最適の周波数は筋の大小や筋の種類に
よって異なります。このため、例えば50Hzとか100Hz等の単一周波数の電流を通電し続け
るよりも、種々の周波数の電流を時間の経過につれて変化する一定のパターンで繰返し
て通流する方が治療効果が良いとされています。PSPやPTPはこの通流方法を応用して得
られる効果であり、治療効果が治療の終了後かなり長時間残留することが知られていま
す。このような治療をある期間継続するとかなりの症状も回復させることができます。
①PSP:Post Sedatic Potentiation(通流後鎮静相乗効果)
患部周辺の比較的広範囲の治療部位に、100Hzとか500Hz等の単一周波数の電流で行う
と、陰極通流作用により神経筋の鎮静効果を求めることができるのですが、同様の陰極
通電を一定のパターン化した数種類の周波数の繰返し通電を行うと、それによって発現
する陰極通流作用による鎮静効果は一層著明となり、しかも鎮静効果の残留時間が延長
します。これを通流後鎮静相乗効果PSPといいます。
②PTP:Post Tetanic Potentiation(通流後筋力増強効果)
神経筋の末梢性マヒの治療には陽極通電による陽極通流作用の興奮性向上による被刺
激性の増大と、それにもまして効果的なマヒ筋の収縮と伸展の繰返しによるマヒ神経筋
の随意運動鍛錬による健全神経筋線維の代償性肥大を求めることが肝要であります。
しかしながら、前述の通りマヒ筋の大小や症状によって適応する電流の周波数が異な
るために、マヒ神経筋に対する最適周波数の判定は大変難しく、マヒ筋が全く収縮運動
を誘起させることができないこともしばしばあります。これは神経筋マヒが重症なほど、
またマヒ筋が小筋であるほどその筋を刺激し得る電流の周波数は低いものでなければマ
ヒ筋は刺激に反応しない(不応期の延長)という生理現象によるためであります。この
ため比較的周波数の低いものを数種類組み合わせて一定のパターン化した電流をマヒ神
経筋に通電するとマヒ神経筋に最適な周波数の電流が選択的に刺激を与えることとなり、
陽極通流効果と相乗的に作用してマヒ神経筋の筋力増強治療が行えます。これを通流後
筋力増強効果PTPといい、スポーツ医学においても応用されています。
低周波治療
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③EST:Eclectic Stimulation Therapy(選択的刺激療法)
PSPとPTPは、陰極通流と陽極通流による作用効果でありますが、ESTは双極性波形
(オートモード・プログラムモード時)の場合に刺激点の疾患の閾値により陰極通流又は
陽極通流を生体が選択する療法であり、低周波治療において比較的広範囲の治療部位の
うちで、周辺組織に比して特に閾値の異なるポイント(東洋医学でいうツボのような点)、
すなわち最適刺激点に選択的に低周直角脈波を通電して速効的な治療を行います。
閾値が上がりすぎているポイントには陽極通流をより多く、また閾値が下がりすぎてい
るポイントには逆に陰極通流をより多く行い、末梢性神経筋マヒ、筋萎縮、固縮等には
興奮性増大効果を、鎮痛、鎮痙等には、鎮静効果を与えます。
低周波治療
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低周波の波形
主な波形3種類は
1)パルス波形(スパイク波形)
デューティファクターが50%より十分に小さい波形をいい、波形幅が500μsec
未満のもので一般的に250μsec程度が多い。
2)正弦交流波形(サインウェーブ)
正弦交流波を物理的に表すと
次のようになります。
i=ISinωt=ISin 2πƒt
iは正弦交流波の瞬時値
Iは正弦交流波の最大振幅値、ωtは2πƒtで角速度、ƒ は周波数、tは時間、
πは定数で3.14でこの式から正弦波電流はその振幅が角速度の変化につれて
サイン状に変化する電流であることが分かります。
3)直角脈波(矩形波)
デューティファクターが50%に近い波形をいい直角脈波を物理的に表すと次のよ
うになります。
ただしnは奇数
この式から直角脈波電流は、4/π倍(約1.27倍)の最大電流が、角速度に従って
サイン状に刻々と変化していることが分かるだけでなく、角速度は正弦交流波の
ようにただ一つではなく、基本周波数の奇数倍の異なる無数の正弦波電流の合成
されたものであることが分かります。
一般に低周波治療に用いるときは、右側の矩形波が真中で点線で区切ってありま
すが、上の方は0から+、下の方は0から-というように2つに整流して、片方だけ
使用し、0から+を使う場合を陽極通電、0から-を使う場合を陰極通電という。
デューティファクター: Tt
×100(%)
i = π
4I(Sinωt +
13
Sin3ωt + 15
Sin5ωt + 17
Sin7ωt + 19
Sin9ωt + ・・・・) = π
4I n=∞
n=1
Sin nωtn
低周波治療
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波形の種類による比較
1)パルス波(スパイク波形)
◎電圧治療器に主に用いられ、波形幅が一般的に250μsec程度でエネルギーが小さく、
皮膚抵抗により、人体深部では殆ど刺激感が無く、多くの電流を皮下に流し込めない。
◎神経や筋のマヒの場合は、活動電位で説明した様に、不応期が神経では1ms、筋では
200~300ms以上であるため波形幅が小さくて、有効でないとされている。
◎経穴(ツボ)に刺激を与えて治療する場合には有効である。
2)正弦交流波形(サイン波形)
◎干渉低周波治療器として用いられ、約4000Hzの周波数は、知覚神経も運動神経もとも
にあまり刺激しないため、周波数を干渉させて生じる数~150Hzの干渉させた周波数
での治療であり、基本的に低周波とは異なり、150Hz以上の周波数に干渉させること
は困難である。
◎周波数が約4000Hzのため、皮膚抵抗が小さくなり、皮下に電流を容易に流し込めるが、
波形幅が125μsのためエネルギーが小さく、人体深部では殆んど刺激感が無く、浅い
部分での干渉させた周波数で神経筋を刺激するのみである。よってエステティックに
は有効であり、血行改善等代謝効果がある。
◎パルス波(スパイク波形)と同様に、神経及び筋のマヒには有効でないとされている。
3)直角脈波(矩形波)
◎電流治療器に主に用いられ、波形幅が一般的に1Hzで500msec(msec=103μsec),1000Hz
で500μsecとエネルギーが大きく、生体内で発生する活動電位と形態が酷似している
ため、人体深部まで刺激感があり、より低い電圧でより多くの電流を流し込める。
◎活動電位に近いため、他の波形に比べて、特に50~60Hz付近で心細動を誘発する危険
性が少ない。
◎神経及び筋のマヒの場合でも、波形幅が大きいので、有効である。
上記及びその他をまとめると下表の様になる。
パルス波(スパイク波形) 正弦交流波形(サイン波形) 直角脈波(矩形波)
治 療 様 式 電圧治療器 干渉電流治療器 電流治療器
開 発 目 的 針灸の代用 エステティック 除痛・マヒの改善
一般的な波形幅 周波数に関係なく 4000Hz 1000Hz 1Hz
約250μs 125μs 500μs~ 500000μs
深層到達性 悪い 普通 良い
心細動の危険性 多い 多い 少ない
皮膚の分極性 多い 普通 少ない
刺 激 感 チクチク、ピリピリ ムズムズ ズンズン、ドンドン
低周波治療
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通電のよる熱傷について
主な原因
1)水分の不足
水分が不足しますと、皮膚との接触抵抗が大きくなり、その部分で発熱して熱傷を
発生します。
2)導子の密着不良
導子が皮膚全体に密着していないと、「電流の集中現象」によって、部分的に過剰
電流が流れて、熱傷を発生します。
3)含水部の汚損
導子の含水部に皮脂が付いていると、電流が流れにくくなり、その他の場所から
「電流の集中現象」によって部分的に過剰電流が流れて熱傷を発生します。
4)皮膚の状態
治療導子を装着する部位の皮膚の損傷、炎症、カブレ等があるにもかかわらず、
低周波を通電した場合は、皮膚の損傷部位に電流が集中して流れますので、熱傷を
発生します。
禁忌症と通電禁止部位
1)禁忌症
①発熱期の患者
②感染症の患者
③出血性の患者
④妊婦
⑤ペースメーカー装着患者
が代表的なものであります。
2)通電禁止部位
下記の通電は危険ですから、行ってはなりません。
①頭頂部からの通電
②心臓に近い胸部の前後
低周波治療