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第12 章 「政策一貫性」を取り巻く環境 - JICA...第12 章...

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12 「政策一貫性」を取り巻く環境 12.1. はじめに 12.2. OECD の動向 まず各国政府の PCD に対する取組みについて述べる前に、OECD において PCD をフ ォローする体制がどのように構築されてきたか簡単に触れておくこととしたい 1 OECD において PCD が途上国開発をめぐる主要テーマとして明確に位置づけられたの は、2000 年代に入ってからであるが、既に’90 年代にはその基礎が形作られていたと考え られる。1990 年の UNDP「人間開発報告書」、1992 年のリオデジャネイロにおける国連 地球サミット、1995 年のコペンハーゲンにおける国連世界社会開発サミット、1996 年の ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 1 OECD における PCD 関連の取組みに関する詳細は第 11 章を参照されたい。 199 本章では、1990 年代後半以降において、OECD メンバー各国が、途上国の開発に配慮 した政策一貫性(Policy Coherence for Development, 以下 PCD)に対してどのような取 組みをしているのか、その現状を把握し、その中で日本がどのように位置づけられるのか を明らかにした上で、日本に対する今後のインプリケーションを導くことを目的とする。 本章では PCD を、途上国に対して様々な影響を持つ先進国の政策間の整合性と定義する。 12.2 節では、 PCD に対して国際機関として本格的な取組みを始めた OECD の動向につ いて説明する。 12.3 節では日本を除く OECD メンバー国 11 カ国および EU について、政 策策定・法制度における PCD の位置づけ、PCD に配慮した中央政府レベルにおける機構 改革、 OECD 援助審査会合における各国の取組みに対する評価の 3 つの観点から記述する。 12.4 節では、 12.3 節で述べられた各国の状況と比較しながら、日本の状況を記述する。昨 年の OECD 対日本援助審査会合における評価も踏まえながら、今後の取組みに対するイン プリケーションを述べる。12.5 節では、国際的枠組みの構築も含む今後予想される PCD を取り巻く国際環境について述べる。 本章の記述はその多くを OECD の各種会合資料、報告書から得られたデータに拠ってい る。これは、先進国の政策間協議の場として機能するという OECD の機構上の性質から、 OECD PCD については早くから積極的に取り組んでおり、豊富な資料を所有している ためである。 PCD は既に先進国の間でもかなり一般的に使われる表現となっており、多く の政策文書においてその重要性が記述されているが、今回使用した資料は、政策一貫性が 注目されるようになった 1990 年代以降の資料のうち、特に具体的な政策分野をあげてそ の整合性に言及している資料を中心に使用している。また、現在 OECD メンバーの各国に おいては PCD 関連の様々な取組みが実施されており、PCD に係る取組み状況が急速に変 化しつつある。これらの要因により、本章の記述が現時点の各国における最新の状況を必 ずしも正確に反映するものではないことには留意をしていただきたい。
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Page 1: 第12 章 「政策一貫性」を取り巻く環境 - JICA...第12 章 「政策一貫性」を取り巻く環境 12.1. はじめに 12.2. OECD の動向 まず各国政府のPCD

第 12 章

「政策一貫性」を取り巻く環境 12.1. はじめに

12.2. OECD の動向 まず各国政府の PCD に対する取組みについて述べる前に、OECD において PCD をフ

ォローする体制がどのように構築されてきたか簡単に触れておくこととしたい1。 OECD において PCD が途上国開発をめぐる主要テーマとして明確に位置づけられたの

は、2000 年代に入ってからであるが、既に’90 年代にはその基礎が形作られていたと考え

られる。1990 年の UNDP「人間開発報告書」、1992 年のリオデジャネイロにおける国連

地球サミット、1995 年のコペンハーゲンにおける国連世界社会開発サミット、1996 年の

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 1 OECD における PCD 関連の取組みに関する詳細は第 11 章を参照されたい。

199

本章では、1990 年代後半以降において、OECD メンバー各国が、途上国の開発に配慮

した政策一貫性(Policy Coherence for Development, 以下 PCD)に対してどのような取

組みをしているのか、その現状を把握し、その中で日本がどのように位置づけられるのか

を明らかにした上で、日本に対する今後のインプリケーションを導くことを目的とする。

本章ではPCDを、途上国に対して様々な影響を持つ先進国の政策間の整合性と定義する。 12.2 節では、PCD に対して国際機関として本格的な取組みを始めた OECD の動向につ

いて説明する。12.3 節では日本を除く OECD メンバー国 11 カ国および EU について、政

策策定・法制度における PCD の位置づけ、PCD に配慮した中央政府レベルにおける機構

改革、OECD援助審査会合における各国の取組みに対する評価の3つの観点から記述する。

12.4 節では、12.3 節で述べられた各国の状況と比較しながら、日本の状況を記述する。昨

年の OECD 対日本援助審査会合における評価も踏まえながら、今後の取組みに対するイン

プリケーションを述べる。12.5 節では、国際的枠組みの構築も含む今後予想される PCDを取り巻く国際環境について述べる。 本章の記述はその多くを OECD の各種会合資料、報告書から得られたデータに拠ってい

る。これは、先進国の政策間協議の場として機能するという OECD の機構上の性質から、

OECD が PCD については早くから積極的に取り組んでおり、豊富な資料を所有している

ためである。PCD は既に先進国の間でもかなり一般的に使われる表現となっており、多く

の政策文書においてその重要性が記述されているが、今回使用した資料は、政策一貫性が

注目されるようになった 1990 年代以降の資料のうち、特に具体的な政策分野をあげてそ

の整合性に言及している資料を中心に使用している。また、現在 OECD メンバーの各国に

おいては PCD 関連の様々な取組みが実施されており、PCD に係る取組み状況が急速に変

化しつつある。これらの要因により、本章の記述が現時点の各国における最新の状況を必

ずしも正確に反映するものではないことには留意をしていただきたい。

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OECD・DAC 新開発戦略、それら一連の国際援助イニシアチブを通じ、途上国のための貧

困削減戦略の枠組みが構築された。それとともに、貧困削減の達成のためには援助政策の

みでなく、先進各国における他の諸政策(貿易・投資・農業・移民・環境・安全保障等)

を含めた、途上国の開発に与える政策上の総合的なインパクトを見据える必要性が国際的

に認識されていった。 この背景としては、援助が途上国にもたらす効果は、途上国が先進国から受ける政策的

インパクトの一部をなすに過ぎず、特に民間部門の活動や先進国の農業市場の開放などが

途上国に与える影響が非常に大きいとの考え方が先進国において強まってきたことが挙げ

られる。途上国の貧困削減戦略は、DAC 新開発戦略をベースとして 2000 年にニューヨー

クで開催された国連のミレニアム総会で採択された、貧困削減に係るミレニアム開発目標

(MDGs)で集大成されたが、それと機を一にして OECD の場でも PCD をフォローする

体制作りが開始された。 OECD において PCD に関連して具体化した主な取組みは以下の通りである。

(1) 2000 年以降、DAC の援助審査会合(Peer Review)において、DAC 各メンバー国の

PCD に係る取組み振りを審査する体制が作られた。また DAC の年次報告

(Development Cooperation)において PCD に係る言及を行うようになった。 (2) 2002 年に OECD 閣僚会議の開発宣言の中で「OECD メンバー国の各種政策が途上国

の開発に与えるインパクトをより良く理解する」必要性が述べられるとともに、OECD事務局に対し PCD に関連する活動を行うマンデートが与えられた。同マンデートに基

づく活動の成果については、2005 年春の OECD 閣僚会議において OECD 事務局より

報告がなされる予定である。 (3) 上記(2)のマンデートに基づき、OECD は 2003 年 6 月に PCD フォローアップに係る

今後の方向性について協議するため、PCD 会合をパリにて開催した。また 2004 年 5月には OECD 各メンバー国の PCD に係る組織的な取組みの現状を把握するためセミ

ナーを同じくパリにて開催した。 (4) この他、各メンバー国の政策担当者向け PCD チェックリストの作成や、PCD に係る

地域別アプローチ調査の実施(東アジアを対象として日本の財務総合政策研究所との共

同調査を 2003~2004 年に実施。今後アフリカ等他地域においても OECD として調査

を実施する予定であり、これらを含め関連調査を上記マンデートの下で行いつつある)。 なお OECDの PCDに対するフォローのための組織的枠組みとしては、OECD内にPCD

専担の担当官ポストを設けるとともに、PCD をテーマとした OECD 各部局の参加を伴う

「水平プログラム」が設置されている。OECD 内の関連調査については、DAC と開発セ

ンターの両者が中心となって OECD の他部局と連携しつつ進められている。 以上のように、2000 年以降 OECD の PCD に対するフォローアップ体制が急速に形成

されてきているが、これは PCD への取組みに熱心な EU の一部諸国の働きかけと連動し

て加速してきている印象がある。なお 2003 年に米国の開発分野の民間シンクタンクであ

る Center for Global Development(CGD)が、Commitment to Development Index(CDI)を米国 Foreign Policy 誌上で発表、引き続き指標の一部を改訂しながら 2004 年版も発表

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した2。OECD は CDI に対しては、指標の妥当性自身について OECD 関係者内でも多く

の議論が出されていることから一定の距離を置いて見ている模様である。しかし 2004 年 5月には、DAC において CGD 代表から DAC 関係者に対する 2004 年版 CDI 説明会の場が

設けられ、また 2003 年版 DAC 年次報告で「CDI が各メンバー国の PCD に対する取組み

を働きかける上で一定の役割を果たしている」旨言及するなど、CDI の PCD 促進に向け

た「問題提起的」役割を肯定的に捉えるスタンスを取るようになってきている。 12.3. OECD 加盟各国政府における取り組み

本節では、OECD メンバーである各国政府の取組みについて考察する。図表 12-1 は、

日本を含む OECD 加盟 12 カ国および EU について、PCD の政策上の位置づけ、PCD の

対象となる政策分野、開発に対する考え方、機構上の取組み、各国政府による PCD 関連

取組みに対する評価について分類したものである。なお、上記表における対象国は PCDに係る情報が入手可能であったものに限定しており、OECD 諸国すべてを網羅しているも

のではない。 12.3.1. 政策・法制度面の整備 PCD は欧州諸国を中心として取組みが開始された。PCD を政策面で明示的に打ち出し

た取組みに最も早くから着手したのは、オランダである。伝統的に援助と他の政策の「統

合」を重視したオランダでは、既に 80 年代後半以降、政策文書内に PCD 関連の記述が見

られる。1992 年になると、後述のように EU が「途上国開発を考慮した PCD に関する条

項」を含むマーストリヒト条約を批准したが、同条約の締結地であるマーストリヒトがオ

ランダにあることからも、オランダの PCD に対する早い段階からのイニシアチブが同条

約作りに反映したと見ることも出来よう。オランダでは、最近では 2004 年 7 月 1 日から

12 月 31 日まで EU の議長国を務めたといった事情等も背景として、積極的に PCD を推

進する姿勢が見られる。具体的には 2003 年 3 月に PCD に関する政策メモランダムを公表

し、その中で前述の CDI 国別ランキングでオランダがトップランクとなることを同国政府

として目標として据えている(オランダは CDI 上 2003, 2004 年版ともに第 1 位にランキ

ングされた)。 1997 年になるとブレア労働党政権が成立した英国で抜本的な援助改革が行われた。ブレ

ア政権は、途上国に対する援助を重視するとともに、途上国開発に対する視点を単に援助

の枠組みの中で捉えるだけでなく、貿易・農業政策・環境など他の政策をも視野にいれ、

全体として政策一貫性をもたせた形で協力を進めていく方針を明確にした。これは援助の

目的を途上国の貧困削減に限定する(英国の直接的な産業的利益の目的は排した)ことに

より出てきた政策であるが、OECD 諸国の中でもオランダの先駆的な動きを考慮に入れて

も初の本格的な PCD への取組みと言える。1997 年に発表された英国国際開発庁(DFID)

の国際開発白書においては、特に①環境、②貿易・農業・投資、③政治的安定と社会的統

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 2 日本を含む先進 21 カ国の主要政策を、途上国開発にどれだけ配慮して策定しているかという観点から

独自の基準を作成しつつ、各国をランキングした。日本は 2003 年、2004 年両年とも先進国 21 カ国の

中で最下位にランキングされた。日本政府は 2003 年 9 月に Foreign Policy 誌上で、CDI の指標の取り

方に恣意性が強く、指標として問題が多いと批判的にコメントを掲載している。

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図表 12-1:OECD 及び OECD 加盟国における政策一貫性(PCD)に係る取組み

OECD イギリス フランス 政 策 上 の位置付け

1990年代半ば(特にDAC新開発戦略)以降貧困削減目標の設定とその関わりにおける政策一貫性強化を重視。 2002年閣僚会議において「先進国の政策一貫性」の追求を明言。2003年6月、2004年5月にPCD会議を開催。2005年の閣僚会議でPCDに関連するOECD事務局の取り組み、及び各メンバー国の成果について報告を行う予定。以上に加え、貿易に関連したPCD調査を行っている他、2003年秋より地域別アプローチの調査を実施。(最初の対象が東アジア。今後アフリカ等他地域の調査を実施予定。)

・1997年に現労働党政権が成立、抜本的な援助改革を実施。 援助(国際協力)白書において、貧困削減目標を達成するため、政策一貫性を図っていくことを明示。 特に援助のアンタイド化推進。WTOとの関わりにおいて先進国における途上国産品アクセス促進、途上国貿易キャパシティー強化支援を推進。 ・Select Committee on International Development に よ り Policy Coherenceに配慮した援助政策のあり方を示したFirst Reportが下員に提出(2004.12.7)

2003年のフランス・アフリカ・サミット(ヤウンデ)、及び、エビアンG8サミットにおいて、仏大統領が「民主主義的な人間の顔をしたグローバリゼーション」のメッセージの下で政策一貫性強化をコミット。 アフリカの綿花セクターなど特定分野での開発支援とEUへの市場アクセス強化にイニシアチブをとっている。

PCD の 対象 と な る政策:明文化 さ れ ているもの

貿易(農業含む)、移民、安全保障

環境、貿易・農業。 投資、政治的安定と社会的統一の推進及び紛争への効果的対応。経済、金融の安定化。

明文化された法律、政策文書は存在しない。

機 構 上 の取組み

・「政策一貫性」をテーマとした各部局の参加を伴う水平プログラム設置。 ・OECD事務局内に「政策一貫性」担当部署を2005年迄設置。 ・DAC援助審査会合(Peer Review)において政策一貫性の観点からの評価を2000年以降行っている。

・1997年援助改革において外務省(Foreign and Commonwealth Office)から援助庁を分離、国際開発省(DFID)を設立。 ・DFID長官は閣内大臣(国際協力大臣)が務める。 ・国際開発、貿易、産業、国防、外交、人権共同等各省庁委員会にDFID代表が参加、PCDを推進。

・98年援助改革で旧協力省が外務省内に吸収され、外交・援助政策一元化が進展。 ・CICID(国際開発協力省庁間委員会)が援助と他政策の調整に関わっている。またSGCI(欧州経済協力省庁間委員会)がEU政策との調整を行っている。 ただPCDを推進するための専担部署は政府、援助機関レベルとともに設けられていない。

OECD 対援 助 国 審査 に お ける PCD 関連の言及

該当せず 2002年のDAC対英援助審査会合では英国のPCDに係る対応について高く評価。 特に強いリーダーシップ、既存の政府内調整メカニズムの効果的活用、DFIDの経験、分析力が動員されていることが成功への要因とし、今後もPCDの努力を継続していくことを求めている。

2004年5月のDAC対仏援助審査会合では、PCDにつき仏政府が大臣レベルでの関与強化、CICIDの中にPCDユニットを設けるなど政策的、機構的枠組を強化するよう勧告。

出典:OECD・DAC Peer Review 各年版、各種会議資料等 含む OECD 資料および各国政策メモランダ

ム等を用いて作成

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ドイツ オランダ スウェーデン フィンランド

・MDG達成への具体的指針としてProgram of Action 2015を策定(2001.4)、内閣承認済み。 本 ActionProgram の 中 では、貧困削減を援助政策の目的と位置づけること、また貧困削減をすべての国内政策策定の重要な要素として考慮すること(「政策一貫性」の追求)を提唱。特に、NGO、民間企業等の多様な関係者の協力要請を強調。

・70年代以降伝統的に援助と他の政策の「統合」を重視(1989年のThe Quality of Aid、1993年のA World in Dispute等の政策文書に示される)。 最近の動向は以下のとおり。 ・PCD政策メモランダム(Memorandum on Coherence between Agricultural and Development Policy )の公表(2002.12) ・ 新 援 助 政 策 (Mutual interests, mutual responsilities: Dutch development coopereation en route to 2015)を策定(2003.10) 。同政策内でPolicy Coherence Indexでトップランクを保つことを明示的な目標としている。

Govrnt. Bill: Shared Responsibility: Sweden's Policy for Global Development 議 会 承 認(2002年.3月) 内容:投資・貿易・社会保障・環境・教育・産業・雇用等に関するスウェーデン政府の全政策を当該政策が途上国の持続的開発に与えるインパクトを考慮して策定する。

政府構造が垂直的であり、省庁間、担当部局を超えたコミュニケーションは困難な面あり。 (2004年5月DAC/PCD会合におけるフィンランド代表発言)

貿易・環境・安全保障 EU政策との整合性 現在は以下の4テーマを中心として活動。①EUの農業政策(特に砂糖・綿花・コメ)改革、②WTO-Trips、③途上国における持続可能な漁業、④途上国に対する非関税貿易障壁

全ての政策

予算を追加して、外務省内にAction Program 2015 ユニットを設置、また各省に担当局を設置。 活動内容は①PCDの予備評価の実施、②今後のPCDに対する全省の取組み方針について定期協議、③PCD白書の発行。

・ 外 務 省 国 際 協 力 総 局(DGIS)内に5人から構成される政策一貫性ユニットを設置(2003)し外務省内外の他部局との連携を図っている。当該ユニットでは、様々な政策を開発に関する一貫性の観点からレビューし、議会、NGO等に情報提供することを目的としている。 具体的な活動内容としては、輸出関税の引き下げを実施。

・PCD年次報告書を議会に提出(各自取組みの現状をベースラインとして報告)。

・全閣僚の参加によるジョイントベンチャー形成(2004.2) ・PCD促進を目的とした期限付き(4年間)開発政策委員会発足(2003.10)活動内容は、①年次報告のとりまとめ、②議会及び省庁との連携、③政策一貫性に関する協議促進。

2001年のDAC対独援助審査会合では、様々な関係者との連携強化を促進するとし て Program of Action 2015の採用を評価。特にEU政策との政策整合性の追及を目指している点が高く評価されている。ただし、援助以外の政策の一貫性評価機関としてのBMZの機能及び権限の強化等、政策の一貫性実現のための実施上の措置が必要であるとしている。

2001年のDAC対蘭援助審査会合では、オランダ政府のPCDに対する強いコミットを歓迎しつつ、国際開発大臣をサポートするPCD推進のメカニズムが確立していないこと、開発協力閣僚レベル委員会のPCDに係るマンデート拡大の必要性、外務省のオランダ政府各種政策が途上国開発に与えるインパクト分析能力強化の必要性を指摘

1999年のDAC対スウェーデン援助審査会合では、権限委譲等を含む外務省の機構改革を政策一貫性に良い影響を与えるとして評価している。この一方で、さらに貿易・環境・安全保障・農業・難民含む移民の各分野における政策と援助政策の統合が必要であるとしている。 具体的な改善項目として輸出信用供与にかかわる環境基準規制の統一、債務削減、援助のアンタイド化が指摘されている。

2003年のDAC対フィンランド援助審査会合では、政策一貫性追求のために政策面での措置、追求のための政治的意思、分析能力の3つが欠けているとして、政策一貫性については低い評価をうけている。具体的な改正項目としては、EUのCommon Agricultural Policy改革への効果が期待される高水準の農業助成金の削減の実行、譲許的ローンの廃止が推奨されている。

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図表 12-1(つづき):OECD 及び OECD 加盟国における政策一貫性(PCD)に係る取組み

デンマーク EU・EC ノルウェー 政 策 上 の位置付け

途上国開発を考慮した政策一貫性に関する条項(1992)制定(マーストリヒト条約) Article III-316; 1、 Article III-292; 2(h).(欧州憲法;比准中)

政策文書あり。しかしPCDを進める上で同国の国内の高い農業保護政策が足かせになるのではないか、というコメントもノルウェー側からでている(財務総合政策研究所・OECD共同調査、2004年6月パリ会合)。

PCD の 対象 と な る政策:明文化 さ れ ているもの

全ての政策。援助政策を規定する ゙Strategy 2000" で「経済、政治、多国間・二国間を含め、デンマークの開発政策はすべての関連する政策と関わりをもつ」と述べている。

貿易、外交と援助、次に共通農業政策(CAP)と共通漁業政策(CFP)が対象 Everything But Arms; EBA (2001) EUのクォータ、関税を貧困途上国に対してなくすことを目標とする。(バナナ、米、砂糖には本格自由化前に移行期間を設ける)。

機 構 上 の取組み

特になし、但し、デンマーク国際開発省(DANIDA)の外務省への一元化の下で各種外交政策と援助政策の一貫性確保が図られている。

・EC事務局内の再編成を対外関係総局(Relex)を中心に進め、EC内のPCD推進を図っている。 ・メンバー国間でPCD推進のための非公式エキスパート・ネットワークを設置。 ・EC援助においてCSP(国別戦略書)の中でPCDに言及することを2000年に義務づけ。

・'93年にノルウェー政府により設置された「南北援助政策委員会」はPCDを進めるため一定の役割をはたしている。 ・外務省内部は援助と関連分野の政策協調がしやすいように再編を実施('90年代末)

OECD 対援 助 国 審査 に お ける PCD 関連の言及

2003年のDAC対デンマーク援助審査会合では、同国のPCDに対する対応を評価しつつも、「非公式な」タイド援助政策の存在に懸念を示している。

2002年のDAC対EC援助審査会合では、上記EBAや組織再編などECがPCDとの関連で努力していることを評価。しかしEU内のCAPやCFPなど、PCDのために改善すべき点が残っていることを指摘(西アフリカへの牛肉、トマト濃縮果汁輸出への補助金など例示)。

1999年の対ノルウェー援助審査会合では、ノルウェー政府が途上国の貧困削減支援への強いコミットをしていることを評価。但しPCDの推進のための政府省庁間調整メカニズムはまだ十分確立していないとコメント

出典:OECD・DAC Peer Review 各年版、各種会議資料等 含む OECD 資料および各国政策メモランダ

ム等を用いて作成

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カナダ 米国 オーストラリア 日本 ・9.11テロを振返って新しい国際政策を策定。3D&Tアプローチ、開発・外交・防衛・貿易分野を、外務大臣が中心となって取りまとめ ・カナダの援助効果を強化するポリシーステートメン ト (Canada making a difference in the world: A policy statement on strengthening aid effectiveness) において政策一貫性への取組み(最貧国に対する市場アクセス付与拡大、援助アンタイド化推進等)を初めて明言(2002.9)。

・伝統的に米国の政治経済的利益に忠実な援助政策を推進。OECDのPCDに係る一連の活動に対しても距離を置いている。 ・ USAID 発行の白書 ゙ US Foreign Aid: Meeting with the Challenge of the Twenty-first Century"(2004)内においてPCDに言及。

外交貿易省(DFAT)白書In the National Interest,1997において国内政策と援助を含む対外政策策定にあたってはwhole of governmentアプローチの重要性強調。ただし、オーストラリアは、国益と一体化した援助を行う旨明言しており、政策一貫性も途上国開発という観点からの配慮ではない。

新ODA大綱(2003年制定)内にて、政策一貫性について明示的に記載。

(上記ポリシーステートメントによる)外交・防衛・貿易・援助

貿易・安全保障

貿易・投資

・CIDA大臣は'96年以降閣内大臣として閣議に参加。 ・関係閣僚による開発、貿易に関する協議会をアドホックに開催。制度的枠組構築進展中。

USAID 及 び State Departmentが協働しJoint Management Council 及びJoint Policy Councilを設置。 (現地における取組み) 大使館のコーディネーション能力強化

・AusAIDに担当者設置。Commitment to Development Index 2003の結果を受けてオーストラリアの政策に関する委託調査を実施し、Center for Global Developmentにフィードバックする等、積極的に反論。 (現地における取組み) 途 上 国 政 府 機 関 へ のAusAID職員の派遣

(現地における取組み) ODAタスクフォース(特にJETROとの連携重要)の設置

2001年の対加援助審査会合で、カナダは、①省庁間でCIDAを含めPCDに係るモニタリングを強化するメカニズムをつくること、②カナダの援助と他政策の途上国に対するインパクト分析、③途上国への市場アクセス付与拡大を勧告。

2002年の対米援助審査会合では、米国政府が一般特恵関税(GSP),アフリカ成長機会法(AGOA)等で途上国からの輸入促進に重要なイニシアチブを取っていることを評価。 しかし一方で、綿花を含め米農業への補助金政策が途上国の農業及びUSAIDの農業政策にネガティブなインパクトを与えていることを指摘。特に米議会が米国自身の利益に関心が集中していること、USAID活動にしばしば制約を設けていることを憂慮。今後の課題としては、①高い政治レベルでのPCDコミット、②USAIDへのより強いリーダーシップ付与、③政府関係機関の間のPCD調整メカニズム確立、④ミレニアム・チャレンジ・アカウント援助におけるPCD配慮などを勧告。

2000年の対豪援助審査会合で、豪州は先進国の途上国農産品等に対する市場開放に向けてイニシアチブをとっていることを評価(ケアンズグループの活動等)。但し同国が自国にとってより利益の小さい分野(繊維品など)でもより積極的なイニシアチブをとるよう勧告。

2003年のDAC対日援助審査会合では、以下の点につきPCDの今後の課題として提言がなされた。 ①開発のためのPCD(農業を含む)に係る日本政府としての方針作り、国民の理解を得るための活動に努力すること。②適切な政策決定を行うために、日本政府がPCDに係る分析能力を強化すること。③対外直接投資や地域経済協力の環境・社会・ガバナンス面をモニタリングするシステムを確立すること。

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一の推進及び紛争への効果的対応、④経済・金融の安定化の 4 項目を挙げ、それらの PCDを開発の観点から図るよう、英国政府の関連諸官庁に求めている。これ以降、英国は OECDに対し他の PCD「推進派」の国々とともに、PCD 促進に向けた「唱道的」な役割も担う

ことになった。尚、2002 年 7 月に制定された、同国の国際開発法では PCD は明示的に規

定されていないが、貧困削減を上位目標に掲げ、援助の商業的利益のための使用を禁じる

等、間接的に PCD をサポートする規定振りとなっている。 次に 2003 年になるとスウェーデンにおいて、同国の投資・貿易・社会保障・環境・

教育・産業・雇用を含む全政策の策定過程において、当該政策が途上国の持続的開発

に与える影響を考慮するという法案が議会承認された。これは PCD が OECD メンバ

ー国の中で始めて国内法により法制化されたという意味で OECD 側からも注目され

た。 ここで 2 国間の取組みではないが EU(欧州経済委員会:EC)の動きには触れてお

く必要があろう。前述のように EU は’90 年代の早い時期(1992 年)に、マーストリ

ヒト条約の中で PCD について明示的に言及した。これは当然 EU 加盟国の政策を拘束

するもので、EU各国がPCDに配慮する上でその後触媒的な効果をもたらしていった。

その後マーストリヒト条約のPCD規定にも基づきつつ、ECはEU加盟国に向けてPCDへの取組み推進を求めてきており、その範囲は援助と貿易・外交・農業政策等広範囲に

及んでいる。2001 年には EU は、‘Everything but Arms’(EBA)の政策を打出したが、

これは EU のクォータ、関税を貧困途上国に対して全面的になくすことを目標とするも

ので、EC としての PCD に対する取組みの一環である。もちろん、これらの PCD を巡

る法制度・政策は EU 加盟各国の個別政策と軋轢が生じる場合も多く、EC と各加盟国

の間で不断の調整が続けられている。なお、2004 年 10 月 29 日にローマで調印され、

現在加盟国で順次批准中である欧州憲法の中においても PCD に関連する記述がみられ

る。MDGs を EU および加盟国の共通の開発目標とした上で、それぞれの外交政策策

定に当たっては、途上国に与える影響を考慮する(Article III-316;1)、また、EU 内の

政策は互いに整合的であるべきであるとしている(Article III-292;2(h))。 上記のオランダ、英国、スウェーデン、EU を、PCD を最も熱心に推進していくグ

ループに分類するならば、第 2 番目のグループは、PCD の重要性は認識しつつも、国

内政策の上位目標として位置づけるにはいたらず、様々なレベルの政策文書内で PCDの重要性について言及しているグループである。ドイツ、カナダ、フィンランド、ノル

ウェー、オーストラリア、デンマーク等がこのグループに属し、OECD 加盟国内にお

ける多数派を占める。ドイツ、カナダの両国は PCD を MDGs、テロ対策等の具体的な

政策目標と関係付けをしている。まずこの中でドイツについては、2001 年 4 月に MDGs達成への具体的指針として Action Program 2015 を策定し、この中で PCD の追求をし

ていく姿勢を示した。またカナダにおいては 2002 年 9 月に発表した援助効果発現強化

を追求するポリシーステートメントの中で PCD への取組み(最貧国に対する市場アク

セス付与拡大、援助アンタイド化推進等)に初めて言及した。 第 3 番目のグループは、PCD について政府の政策上直接的な言及を行っていない

グループである。フランス、米国等がこのグループに属する。フランスについては、

明示された政策文書こそないものの、仏大統領が 2003 年の G8 エビアンサミット等

におけるスピーチ内で、PCD に言及している。これはサブサハラ・アフリカの最貧

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国に対して、フランスを含めた EU 側の PCD を特に貿易との関係(EU 側の市場開

放やアフリカ諸国に対する貿易キャパシティー・ビルディング支援)で実現していこ

うというイニシアチブであるが、厳密な意味での PCD をフランスの政策体系の中で

導入したものではない。米国については、従来 PCD に対して自国の国内政策への干

渉にあたると懸念して否定的な立場をとっていた。しかしながら 2004 年に発刊され

た USAID 発行の白書 Foreign Aid: Meeting with the Challenge of the Twenty-first Century では PCD の重要性について強調している。自国の政策への悪影響を避ける

という米国の立場に変わりはないものの、2001 年の 9 月 11 日テロを経て、テロとの

戦いを前面に据えた援助政策を構築する中で、徐々に援助政策の位置づけを変えてき

ているものと考えられる。 12.3.2. 機構上の措置 次に、PCD の実効性を保つための機構上の措置として、各国政府が採用した措置につい

て概観する。機構上の措置としては、主に既存の中央政府機構の改編と PCD 担当部門の

新規設置の 2 つがあげられる。中央政府の機構改編の目的は、政策関係者間の利害調整、

具体的な政策提言であり、内容としては例えば援助以外の分野における政策関連会合への

援助担当大臣の参加が挙げられる。こうした取組みを実施している国として、英国(貿易、

産業、国防、外交等分野別の各省庁委員会への DFID 代表の参加、DFID 長官(大臣)を

議長とする開発にかかる省庁間ワークショップの発足等。1997 年以降)、フランス(CICID3

の設置、1998 年)、フィンランド(全閣僚の参加による「ジョイントベンチャー」の形成、

2004 年)、カナダ(CIDA 長官の閣議参加。1996 年以降)が挙げられる。既存機構の改編

について興味深い点は、近年、援助政策と外交政策の整合性強化を目的とした援助実施機

関の外務省への統合化(ノルウェー、デンマーク、フィンランド、フランス4等)が観察さ

れる中、英国においては、援助庁が外務省から独立したことである。ただし、この英国に

おける機構改革は、PCD の流れに否定的なものではなく、反対に国際開発省としてその機

能強化を図り5、PCD をより強化するものとして解釈される。 一方、PCD の実効性担保のシステムとして、新規に担当部門が設置される場合、その目

的は、関係者間における協議の場の提供、並びに PCD に関するモニタリングレポートの

定期発刊等、PCD 関連の分析や広報活動を中心としたものである。これらの PCD 担当部

門は外務省または援助実施機関の一部署として、あるいは独立した委員会として設置され

ている。PCD 専担部門を設置している国は、オランダ、フィンランド等である。また、ノ

ルウェー、ドイツ、オーストラリアでは専担ではないが、既存の部署において PCD モニ

タリングのための新規予算が追加配賦された。また前項で述べたように、PCD の法制化を

行い、PCD を積極的に推進しているスウェーデンでは、政府による PCD のモニタリング

を目的とした年次白書の議会への提出が義務付けられている。米国では、USAID 及び国

務省(State Department)間で外交政策と援助政策目的の整合性の追求、及び、政策決定

機関間の連携強化を目的として Joint Management Council 及び Joint Policy Council を

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 3 CICID:国際協力開発省庁間委員会。フランス政府としては初めて援助と関連する他の政策の協議を組

織だって行う場が作られた。 4 フランスのケースにおいては、旧協力省が外務省に統合された。 5 国際開発省が設立された際、その長官は閣内大臣と位置づけられた。

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設置した。 政策策定・法制度面、機構面の双方において各国間における取組みには多様性が存在す

ることが確認された。ただしおおよその傾向として、まだ法律上 PCD に対する言及を行

う国は少数派であるが、多くの国で機構上の改革特に、PCD を推進するための PCD 白書

の発刊等の組織的な取組みが進展してきていることが伺える。 12.3.3. OECD における各国の評価 本項では、主に OECD・DAC による『国別援助審査報告(Peer Review)』をもとに、

DAC における PCD のメンバー国評価を概観する。『援助審査報告』では、2000 年以降

PCD が必須の審査項目として含まれている。2000 年以降の各国評価にあたっては、主に

PCD に対する政府内・国民の間での認識の有無、法制度・機構面での改革の有無、及び

PCD 欠如の要因となっている具体的な規制の有無の 3 点が評価対象として考慮されてい

る。前 2 者については、本節前項までに示された事項が評価事項となっている。一方、第

3 項目である PCD が必要とされる具体的な施策については、援助国と援助対象国の経済関

係、援助形態に依存して、各国で大きく異なる。例えば、日本においては、しばしば高い

農業保護政策が、欧州諸国に対してはしばしば移民政策や武器輸出が問題とされる。この

ため統一された基準による評価づけがなされておらず、各国の取組みを評価する上で、基

準の明確化を阻む一因となっているように感じられる。この第 3 項目の具体的な施策の変

更が必要な分野については、多くの国が、貿易・投資分野における規制について言及され

ている。現時点において、貿易・投資以外の環境、移民、安全保障分野における措置の変更

等に関する言及は少ない。また援助分野について負の言及をされるものとして、援助供与

にかかるタイド援助の実施が挙げられる。 評価結果を概観すると、一般に広報・分析活動への取組みに対する勧告が多い。援助審

査において高い評価を得ているのは英国、オランダ、スウェーデン等、PCD への関与を明

示的に政策に織り込むか、法制化した国である。また同様に英国、オランダ、カナダ等、

機構改革を行い PCD に関するモニタリング・広報機能を強化している国に対しては、そ

の措置を評価しながらも機能強化の勧告がされている。また、米国、オーストラリア等に

おいては貿易分野等実態面での積極的な取り組みが推奨されている。 12.4. 日本政府における取組みとその評価 本節では、こうした各国の動きと比較して日本政府の対応を見ることとしたい。PCD に

ついては、2003 年に改訂された ODA 大綱の中で、貿易・投資分野と援助分野における連

携の重要性が明示的に言及されている。ただ ODA 大綱は法的拘束力はもっていない。ま

た PCD を推進することを政策の上位目標に据えるところまでは行っていない。これらの

観点からは、日本は多数派である、PCD により配慮しつつそれに組織だって取り組んでい

くレベルに至っていない第 2 グループに分類される。一方、既存部門での機構改革、担当

部署等の設置といったPCDを念頭においた、中央政府機構での改編は実施されておらず、

機構面での取組みという観点からは、フランス等と同じく PCD に対して消極的な少数派

に分類される。 こうした日本の現状に対して 2003 年に実施された OECD・DAC 援助国審査では、日本

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は PCD に対してまだ消極的な取組みに留まっている国と評価され、次の 3 点が勧告され

ている。 ・日本は途上国開発のための(政策)一貫性に関する政策表明を行うとともに、この問

題について国民を啓蒙する方法を模索すべきである。 ・日本は、適切な政策決定を行う能力を向上するために、開発のための政策一貫性に関

する分析能力を高めるべきである。 ・日本は、外国直接投資及び地域経済協力協定における環境、社会、ガバナンスの側面

をモニターする体制を整備すべきである。 12.5. 考察 以上、各国政府レベルにおける PCD への取組み状況を考察し、またその中で日本の位

置づけについても考察した。各国政府の間でも取組み方の進展状況は様々であることが示

された。OECD における評価という観点からは、英国、スウェーデン等、PCD 関連の政

策策定・法制化を進める国、PCD 関連の機構改革を近年実施した国において概ね評価が高

く、日本はその対応がまだ消極的であるとみなされていることが確認された。 こうした 2 国間レベルの取組みに加え、PCD を取り巻く国際的な枠組み作りも進展して

いる。貿易、移民、環境、投資分野に関する WTO 体制下における議論、途上国の開発の

観点から貿易の役割に注目したミレニアム開発目標の第 8 ゴール、開発金融と援助の連携

の重要性を強調したモンテレー合意があげられる。このように欧州諸国政府レベルでの取

り組み、OECD をはじめとする UN、世銀、WTO といった国際機関による一連の国際的

枠組みづくりの下で、PCD は援助を議論する上で近年避けることのできないテーマとなっ

てきている。世銀が MDGs のモニタリングを目的として本年度より公刊を開始している

Global Monitoring Report 2004 においても、MDGs 達成という目的のために、PCD の観

点からの評価が重要だとしている。今後国際社会における PCD 重視の傾向は、来年の

MDGs レビュー会合開催に向け、さらに強まっていくことが予想される。 こうした PCD について民間でもいくつかの試みがみられている。その代表的なものと

して前述の 2003 年に公表された開発コミットメント指標(Commitment to Development Index: CDI)があげられる。

現時点では、PCD に対する取組みについて各国、各機関においてコンセンサスがとれて

いるわけではない。PCD 推進派諸国も PCD 推進が自らの国益に適うことを前提に動いて

いることには留意する必要があろう。日本に対する OECD の評価は厳しいものがあるが、

日本の現状を見ると、ODA 大綱においては、援助・貿易・投資政策の連携を明示してお

り、政府レベルにおける経済協力委員会を含めたPCD協議を行い得る場も存在しており、

OECD 諸国の中で特に日本において PCD への取組みが遅れているとはみなせない。また

東アジアを中心に日本の援助と貿易・投資が対象地域の発展に大きな影響をもたらしたこ

とも疑い得ないところがあり、この点で OECD と日本側の間で 2004 年 6 月迄行った東ア

ジアの PCD 調査は大きな意義を有していると考える。 日本としては自らの援助や貿易・投資政策が援助対象国にどのようなインパクトを時代

毎にもたらしてきたのか、政策間の整合性はどうだったのか引き続き検証していく必要が

あろう。一方で、MDGsへの関わり方を含め、欧州諸国が途上国の開発を政策体系全体の

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中で組織だって捉えようとしている姿勢自体は日本としても学ぶべきところがあると考え

る。このような意味で他ドナーの PCD への取組みに関しては、引き続き日本としてよく

フォローアップし、制度的枠組みを含め、活かせる部分は活かしていく工夫を行うことも

必要ではないかと考える。特に異なる政策を有機的に組み立てて、総合的な視点で途上国

への協力を行っていくこと、また実施した政策等の効果を定量的に把握し、政策間の整合

性を検証していく体制作りが望まれる。

(飯島聰 国際協力銀行 開発金融研究所・次長*)

参考文献

[和文文献] 飯島聰、佐久間真実(2004)「英国援助政策の動向―1997 年の援助改革を中心に」『開発

金融研究所報』vol.19. [英文文献] DFID, UK.(2000)“Eliminating World Poverty: Making Globalizarion Work for the

Poor. ” White Paper on International Development. DFID, UK.(2002)International Development Act. EC.(2004)Consolidated Version of the Treaty Establishing the European Community. Hilker, L. M.(2004)“A Comparative Analysis of Institutional Mechanisms to Promote

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.(1994)“DAC Performance and Plans: Policy Co-ordination and Exchange.” Development Co-operation Report 1994.

.(2001)“Peer Review of Sweden.” The Dac Journal, vol.1, no.4.

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― * 執筆当時。現インドネシア国家開発企画庁・JICA 専門家。

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.(2001)“Chairman’s Overview.” The Dac Journal, Development Co-operation, Report 2000, vol.2, no.1.

.(2001)“Peer Review of Germany.” The Dac Journal, vol.2, no.4. .(2002)“Policy Coherence for Development.” The Dac Journal, Development

Co-operation, Report 2001, vol.3, no.1. .(2003)“Overview by the DAC Chaireman, M. Jean-Claude Faure.” The Dac

Journal, Development Co-operation, Report 2002, vol.4, no.1. .(2003)The Dac Journal, Peer Reviews of Denmark and Finland, vol.4, no.3. OECD DAC.(2004)Extracts from the Development Co-operation Review Series

Concerning Policy Coherence. USAID.(2004)US Foreign Aid: Meeting with the Challenge of the Twenty-first

Century.

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