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CHAPTER 8 環境社会配慮 -...

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ファイナルレポート(メイン) 8 章 環境社会配慮 JICA インドネシア国 8-1 2011 8 水力開発マスタープラン調査 CHAPTER 8 環境社会配慮 8.1 はじめに M/P において水力開発に係る候補地点は、HPPS21999)を参考にしながら、優先順位付 けが行われた。今後はこの計画をもとに投資プログラムが具体化していくことになる。 一方インドネシアではこれまで、さまざまな水力開発計画が策定されながらも、新規の水力 開発について顕著な進捗が見られない。その原因として、それまで実施された調査において、 自然・社会環境に関する問題が確認されなかった、もしくは十分に検証されなかったことが 挙げられる。現在計画が中断している ADB 融資による「Poigar 第二発電所計画」がそのよ い例である。当該例では、工事中にプロジェクトサイトが国立公園内に位置することが判明 したため、工事中断に追いやられた。 JICA JICA ガイドラインに基づいて、マスタープランにおいて、戦略的環境アセスメント SEA)を適用することを求めている。 SEA の目的は、早期段階からモニタリング段階まで、 広範囲な環境社会要因を考慮することで適切な環境社会配慮を実施することである。 7 章ですでに述べたように候補プロジェクトの分類評価は、できるだけ早期に環境社会面 での問題を把握するための IEE レベルの環境社会配慮の一環として、3 つの自然・社会環境 要因のパラメーターに基づいて行われた。 本章では、まずインドネシアにおける環境行政の枠組みおよび用地取得方針について概説し た後、本 M/P で選択された候補案件の発電システムの環境社会面の特質について、整理した。 その結果は「環境チェックリスト」をして示した。さらに SEA による政策決定支援を念頭に、 M/P の環境社会配慮面からの代替案の検討を行った。 本調査に関しては、3 回のステークホルダー協議が開催され、その場での議論は DFR におい て考慮された。 8.2 環境関連法律及び環境行政 8.2.1 環境行政 環境行政に関しては、2002 年に環境管理庁 (BAPEDAL)が環境省に吸収されて以来,環境省が 中央政府レベルの 責任官庁であり、その責任分担事項は以下のとおりである。
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Page 1: CHAPTER 8 環境社会配慮 - JICA環境影響評価準備書(KA-ANDAL)は環境影響評価(ANDAL)の範囲を規定した文書。. 2) 環境影響評価書(ANDAL) ANDAL 予想される環境影響およびその評価を記載した書類である。これには代替案の

ファイナルレポート(メイン) 第 8 章 環境社会配慮

JICA インドネシア国 8-1 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

CHAPTER 8 環境社会配慮

8.1 はじめに

本 M/P において水力開発に係る候補地点は、HPPS2(1999)を参考にしながら、優先順位付

けが行われた。今後はこの計画をもとに投資プログラムが具体化していくことになる。

一方インドネシアではこれまで、さまざまな水力開発計画が策定されながらも、新規の水力

開発について顕著な進捗が見られない。その原因として、それまで実施された調査において、

自然・社会環境に関する問題が確認されなかった、もしくは十分に検証されなかったことが

挙げられる。現在計画が中断している ADB 融資による「Poigar 第二発電所計画」がそのよ

い例である。当該例では、工事中にプロジェクトサイトが国立公園内に位置することが判明

したため、工事中断に追いやられた。

JICA は JICA ガイドラインに基づいて、マスタープランにおいて、戦略的環境アセスメント

(SEA)を適用することを求めている。SEA の目的は、早期段階からモニタリング段階まで、

広範囲な環境社会要因を考慮することで適切な環境社会配慮を実施することである。

第 7 章ですでに述べたように候補プロジェクトの分類評価は、できるだけ早期に環境社会面

での問題を把握するための IEE レベルの環境社会配慮の一環として、3 つの自然・社会環境

要因のパラメーターに基づいて行われた。

本章では、まずインドネシアにおける環境行政の枠組みおよび用地取得方針について概説し

た後、本 M/P で選択された候補案件の発電システムの環境社会面の特質について、整理した。

その結果は「環境チェックリスト」をして示した。さらに SEA による政策決定支援を念頭に、

M/P の環境社会配慮面からの代替案の検討を行った。

本調査に関しては、3 回のステークホルダー協議が開催され、その場での議論は DFR におい

て考慮された。

8.2 環境関連法律及び環境行政

8.2.1 環境行政

環境行政に関しては、2002 年に環境管理庁 (BAPEDAL)が環境省に吸収されて以来,環境省が

中央政府レベルの 責任官庁であり、その責任分担事項は以下のとおりである。

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ファイナルレポート(メイン) 第 8 章 環境社会配慮

JICA インドネシア国 8-2 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

- 環境に関する戦略、方針環境基準の立案,

- 有害物質の規制・管理,

- 環境モニタリング,

- 能力開発,

- 環境影響評価,

- 環境に関連する研究,

- 環境関連の情報収集,

- 環境管理および広報活動等

図 8.2.1 は環境省の組織を示す。

MINISTRY

Secretary of the MinistryExpert Staffs

Inspector

Dpt. of Environmental Spatial

Dpt. of Environmental Pollution Control

Dpt. of Environmental Degradation Control &

Natural Resources Conservation Development

Dpt. of Hazardous and Toxic Waste Management

Dpt. of Environmental Compliance

Dpt. of Community Empowerment and

Environmental

Dpt. of Capacity Building &Technical Infrastructure

Development

出典:State Ministry of Environment 図 8.2.1 環境省組織図

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ファイナルレポート(メイン) 第 8 章 環境社会配慮

JICA インドネシア国 8-3 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

8.2.2 環境保護管理法 (NO.32/2009)

インドネシアでは、1982 年に環境管理法(法律第 4 号/1982)が施行され、環境影響評価(Analisis Mengenai Dampak Lingkungan: AMDAL)の実施に関わる責任が規定された。2009 年に施行され

た環境保護管理法(法律第 32 号/2009)では、環境影響評価に関わる基本事項を以下のとお

り規定している。

(1) 環境影響評価の実施が必要な行為

‐ 地形および自然景観の改変を伴う事業・活動 ‐ 再生可能・不可能な自然資源の開発 ‐ 自然資源の消耗・破壊・劣化を引き起こす可能性のある事業・活動 ‐ 自然環境及び社会環境に影響を及ぼす可能性のある事業・活動 ‐ 自然保護地区及び文化財に影響を及ぼす可能性のある事業・活動 ‐ 新種の動植物および微生物の導入 ‐ 生物及び非生物的な物質の製造及び利用 ‐ 高いリスクを有し、国家安全保障に影響を与える活動 ‐ 環境に影響を与える可能性のある先進技術の適用

(2) 環境影響評価に関わる文書に含まれるべき内容

‐ 事業の影響の分析 ‐ 事業予定地域周辺における活動の評価 ‐ 事業に対する一般市民の提案及び意見 ‐ 事業実施に伴う影響の特性及び定量的な影響の検討 ‐ 環境面での事業の妥当性を判断するための総合的な影響の評価 ‐ 環境管理・モニタリング計画

8.2.3 AMDAL 実施が義務付けられる事業

環境影響評価(AMDAL)実施が義務付けられるプロジェクトの種類・規模は、環境省令第 11 号

/2006 で規定されている。このうち表 8.2.1 に電力開発関連の事業・活動を示す。

表 8.2.1 AMDAL)実施が義務付けられるプロジェクト(電力開発関連) 番号 事業 規模

1 送電線の建設 規模:≧150 kV

2 以下の施設の建設

a. ディーゼル、ガス、蒸気(石炭燃焼)、コンバインドサイクル

発電所(石炭燃焼)

規模:≧ 100 MW(1 箇所)

b. 地熱発電所 規模:≧ 55 MW

c. 水力発電所 ダム高:≧15m もしくは

貯水池面積:≧200ha も

しくは

規模:≧ 50 MW

d. その他の発電所(海洋利用、太陽光、風力、バイオマス等) 規模:≧ 10 MW

出典:State Ministry of Environment Regulation No.11/2006

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JICA インドネシア国 8-4 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

8.2.4 環境影響評価(AMDAL)

(1) AMDAL に必要な書類

インドネシア国の環境影響評価(AMDAL)では、以下の文書の提出が必要となる。それぞれの

文書に求められる構成は、環境省令第 8 号/2006 に規定されている。これらの内容を以下に

示す。

1) 環境影響評価準備書(KA-ANDAL)

環境影響評価準備書(KA-ANDAL)は環境影響評価(ANDAL)の範囲を規定した文書。.

2) 環境影響評価書(ANDAL)

ANDAL 予想される環境影響およびその評価を記載した書類である。これには代替案の

検討およびプロジェクト実施に必要な環境緩和策の検討が含まれる。

3) 環境管理計画 (RKL)

RKL はANDALで予想された環境影響を緩和するための環境管理について記載したもの

である。

4) 環境モニタリング計画 (RPL)

RPL は策定された環境管理計画の実効性を検証するものである。

(2) AMDAL 実施の手続き

インドネシアにおける環境影響評価(AMDAL)手続きの流れは、図 8.2.2 の通り政令 27 号/1999

に規定されている。

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JICA インドネシア国 8-5 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

Public Consultation

Submission of Documents to KLH

Information on AMDAL Study Plan to Secretariat of AMDAL EvaluationCommittee

Announcement on Activity Plan and Public Consultation

Preparation of Terms of Reference(KA-ANDAL/TOR-Environmental Impact Analysis)

Evaluation of KA-ANDAL/TOR-(Environmental Impact Analysis)

Preparation of ANDAL/Environmental Impact Analysis,RKL/Environmental Management Plan and RPL/Environmental

Monitoring Plan Documents.

Evaluation of ANDAL, RKL and RPL

75 days

75 days

Permission Declined

Approval Letter on EnvironmentalFeasibility by State Minister for

Environment/ Governor/ Regent/ Mayor

Permission Granted

Preparation of Activities forEnvironmental Management (UKL) andActivities for Environmental Monitoring

(UPL)

Recommendation from ResponsibleInstitution

Screening Process: List of Obligatory AMDALActivities (Decree of State Minister for

Environment No. 11 of 2006)

Feasible

Not Feasible

Start

End

AMDAL RequiredAMDAL Not Required

KLH: Kementrian Lingkungan Hidup(Ministry of Environment)

出典:Government regulation No.27/1999 を基に調査団作成

図 8.2.2 AMDAL 実施の手続きフロー図

(3) AMDAL 委員会

インドネシアでは、環境影響評価の実施計画、予測・評価結果、環境管理計画及びモニタリ

ング計画のレビューのため、専門の AMDAL 委員会が設置される。AMDAL 委員会は、事業の

規模に応じた承認権者(環境大臣、州知事、県知事/市長)により、対象事業ごとに設置される。

環境保護管理法(第 32 号/2009)の第 30 条に、AMDAL 委員会は、以下の機関の代表者により

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JICA インドネシア国 8-6 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

構成するよう規定されている。

1) 環境関連機関

2) 関連する技術機関

3) 事業の分析に必要な専門知識を有する専門家

4) 事業により予想される影響の分析に必要な専門知識を有する専門家

5) 事業により影響を受ける可能性のあるコミュニティ

6) 環境 NGO

AMDAL 委員会は、事業の種類・規模等に応じ、中央 AMDAL 委員会、州 AMDAL 委員会、県

/市 AMDAL 委員会に区分される。それぞれの委員会が担当する事業の種類・規模は、環境省

令第 5 号/2008 で規定されている。その概要を以下に示す。

1) 中央 AMDAL 委員会:事業地域が複数の州を含むもの、又は他国を含むもの

2) 州 AMDAL 委員会:事業地域が複数の県/市/地域を含むもの

3) 県/市 AMDAL 委員会:事業地域が単一の県/市/地域であるもの

8.3 用地取得および住民移転に係る政策

8.3.1 文化財

インドネシアにおける文化財維持管理の基本法は文化財法(第 5 号/1992)であり、同法にて

教育文化省を管轄官庁と規定している。教育文化省が報告している 新情報によると、2007年時点でのインドネシア全土における文化財の合計は 8,232 箇所とのことである。

8.3.2 社会的弱者

貧困層、女性世帯主の家庭、少数民族等の社会的弱者に特化した法令はないが、インドネシ

ア憲法および人権にかかる法令(第 39 号/1990)が人権に係る基本法である。加えて、イン

ドネシアは 2005 年に国際人権規約を批准している。

8.3.3 用地取得および住民移転

(1) 関連法令

インドネシアにおける土地の基本法令は農地にかかる基本法令(第 5 号/1960)である。表 8.3.1

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JICA インドネシア国 8-7 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

に基本的な所有権をまとめる。

表 8.3.1 土地所有権の形態 権利の種類 概要

所有権 (Hak milik)

世襲制で も権力がある。政府が定める要件を満たすインドネシア人およ

び企業のみ所有でき、譲渡が可能である。 耕作権 (Hak guna usaha)

政府が直接管理する土地耕作権。5ha 以上の耕作地については 25 年以上の

使用権、25 年では不足の場合は 35 年の使用権が与えられ、譲渡が可能であ

る。 建設権 (Hak guna bangunan)

構造物の建設または構造物の所有権。インドネシア国民およびインドネシ

アに拠点を置く企業に 30 年間与えられ(20 年間の延長も可能)、譲渡が可

能である。 使用権 (Hak pakai)

土地所有権の有無に関わらず、政府が管理する土地の使用または生産物を

採集できる権利。インドネシア国民、インドネシア在住の外国人、インド

ネシアに拠点を置く企業、インドネシアに駐在所を置く外国企業に対して

無料または有料で一定期間与えられる。合意が得られた場合、譲渡可能で

ある。 賃貸権 (Hak sewa)

土地所有者に対して料金を支払うことで賃貸できる権利。インドネシア国

民、インドネシア在住の外国人、インドネシアに拠点を置く企業、インド

ネシアに駐在事務所を置く外国企業に対して与えられる。 開拓権 (Hak membuka tanah)

土地を開拓する権利。インドネシア国民およびインドネシア国法令にて定

められた者に対して与えられる。 林産物採集権 (Hak memungut hasil hutan)

林産物を採集できる権利であり、インドネシア国民およびインドネシア国

法令にて定められたものに対して与えられる。 出典: 農地にかかる基本法例(第 5 号/1960)を基に調査団が作成

法令第 20 号/1960 がインドネシアにおける用地取得の基本法令であり、大統領令や他の政令

にて用地取得および住民協議の手続きが定められているが、住民移転の手続きについて規定

している法令はなく、事業実施者や関連機関との協議に基づいて進められる。表 8.3.2 にイ

ンドネシアにおける用地取得関連法令を示す。

表 8.3.2 関連法令 法令名 概要

Law No. 20/1961 regarding Revocation of Right to Land and Materials on Land

公的権力による用地取得について規定。また、公的権力によ

る用地取得は 終手段であることも定義。 Presidential Decree No. 36/2005 regarding Procurement of Land for Realizing Development for Public Interest

公共事業における用地取得手続きについて規定。

Presidential Decree No. 65/2006 regarding Amendment of Presidential Decree No. 36/2005 regarding Procurement of Land for Realizing Development for Public Interest

Presidential Decree No.36/2005 の改定について規定。事業実施

による用地取得の対象となる人々への補償に基づく用地取

得を規定。

Head of National Land Affairs Agency Decree No. 03/2007 regarding Guideline for Land Acquisition for Public Facilities

用地取得の基本法。Presidential Decree No.36/2005 および

65/2006 に基づいた用地取得、住民協議、補償および苦情申

し立てについて規定。 出典:JICA 調査団

(2) 公共事業における用地取得

Head of National Land Affairs Agency Decree No. 36/2005 にて、中央政府または地方政府が実施

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ファイナルレポート(メイン) 第 8 章 環境社会配慮

JICA インドネシア国 8-8 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

する以下の開発事業を公共事業と定めている。

- 公共道路、高速道路、道路(地上、高架、地下道)、上水施設、下水処理施設

- 貯水池、ダム、灌漑、その他の水源管理施設

- 港湾、空港、鉄道、バスターミナル

- 廃棄物処理施設

- 自然・文化財保護区

- 発電所、変電所、送電線

(3) 用地取得および住民移転の管轄機関

公共事業にかかる用地取得は用地取得委員会(Land Provision Committee: LPC)および土地価

格評価チーム(Land Price Appraisal Team: LPAT)が中心となり実施される。LPC や LPAT は

表 8.3.3 に示すとおり、事業要件により地域ごとに設置される。

表 8.3.3 用地取得委員会の構成 県/市レベル 州レベル 国家レベル

対象用地の立地

1 つの県/市内 2 つ以上の県/市にまたがる場合

2 つ以上の州にまたがる場合

委員長 県知事/市長 州知事 内務省地方局長

副委員長 県知事/市長に任命された県/市の担当者

地元の県知事/市長 公共事業省の担当者

委員 - 県/市の土地管理事務所の長官、または県知事/市長に任命された職員 - 用地取得実施に関連する地区長(群長、村長など)、または県知事/市長に任命された職員

- 土地管理地域事務所の所長 - 用地取得実施に関連する地区長(群長、村長など)、または県知事/市長に任命された職員

- 国家土地管理組織の担当官 - 用地取得実施に関連する省庁の担当官 - 関連する州知事、または任命された職員 - 市長/県;知事、または任命された職員

出典:Head of National Land Affairs Agency Decree No. 03/2007 を基に調査団作成

LPC および LPAT の業務分掌を以下に示す。

表 8.3.4 用地取得委員会および土地価格評価チームの業務分掌 LPC のタスク LPAT のタスク

- 用地取得の対象となるコミュニティーとの

協議 - 立地、周辺の開発計画、インフラ整備状況等

を考慮した補償費用の概算 - 用地、建物、穀物、取得が必要な土地の建造

物に関するインベントリー調査 - LPCへ補償費用概算結果の報告

- 取得が必要な土地の法的所有権の確認 - 土地所有者および事業実施者間の交渉支援 - 補償費用の概算 - 用地取得進捗状況の確認 - 用地取得に係る必要書類の作成

出典 e: Head of National Land Affairs Agency Decree No. 03/2007 regarding Guideline for Land Acquisition for Public Facilities を基に調査団作成

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JICA インドネシア国 8-9 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

Presidential Decree No.65/2006 に従い、用地取得にかかる補償は以下に示す方法にて実施され

る。

- 金銭

- 代替地の提供

- 移転

- 上記の組み合わせ、または,

- その他関係者間で合意した方法

(4) 用地取得および住民移転の手続き

開発地域が 1ha 以上の公共事業における用地取得は Head of National Land Affairs Agency Decree No.3/2007 に規定さている以下に示す手続きにて実施される。

1) 準備期間

事業実施機関は用地取得にかかる書類を準備し、地域の土地管理局へ提出・承認を受け

る。地域の土地管理局は提出された書類を審査し、表 8.3.5 に示す条件付で用地取得を承

認する。

表 8.3.5 用地取得の条件 用地取得面積 承認条件

25 ha 以下 1 年間の用地取得期限 25 ha 以上 2 年間の用地取得期限 50 ha 以上 3 年間の用地取得期限

出典: Head of National Land Affairs Agency Decree No. 03/2007 regarding Guideline for Land Acquisition for Public Facilities を基に調査団作成

上記期間以内に 50%以上の用地取得が済んだ場合には期間の延長が認められる。

LPC が設置され、事業実施機関とともに被影響住民を対象とした住民協議を行う。25%以上の被影響住民が用地取得に対して反対した場合、LPC は事業実施者に対して代替地

の検討を提案する。

2) インベントリー準備期間

コミュニティーから合意を得られた場合、LPC は敷地境界線、土地利用、土地所有、建

物およびその他の構造物にかんするインベントリー調査を行う。調査結果は村/区/市/県

などの役所やウェブサイトでの 7 日間公開し、市民からの意見を徴収する。

土地価格は LPC より指名を受けた土地価格評価機関1が評価する。土地評価は市場価格

(Selling Value of Taxed-Object: NJOP)もしくは土地価格評価チームによる土地価格によ

り実施する。

1 土地評価機関がない場合は、土地評価チームが設置される。

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JICA インドネシア国 8-10 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

3) 交渉期間

LPC が議長となり、土地所有者および事業実施機関との交渉を行う。また、以下の条件

を満たすことにより、対象地域での事業実施が可能となる。

- 用地取得が 75%以上完了した場合

- 75%以上の被影響住民が補償金額に合意した場合

用地取得に関する交渉が交渉開始後 120 日以内に合意に至らなかった場合は、管轄の地

方裁判所に供託する。

4) 用地取得実施

LPC が用地取得に関する報告書を作成し、補償金額を含んだ用地取得に関する決定合意

文書が発効される。土地所有者は決定合意文書に異論がある場合、文書発効後 14 日以内

に異議申し立てができ、管轄機関は 30 日以内に対応を行う必要がある。金銭による補償

の場合は交渉合意後 60 日以内に支払われ、他の補償方法の場合は交渉にて合意した期間

内に補償が実施される。用地取得に関する手続きの概要を図 8.3.1 に示す。

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ファイナルレポート(メイン) 第 8 章 環境社会配慮

JICA インドネシア国 8-11 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

Project Proponent Tasks

Land Acquisition Committee TasksLand Authority Tasks

Preparation of LandAcquisition Form

Infomration Disclosure onProject/Land Acquisition

(within 14 days of

Evaluation of LandAcquisition Form

Establishment of LandAcquisition Committee

Preparation of PropertyInventory

Examination of AlternativeArea

Information Disclosure

Re-investigation

1 Year Extention of LandAcquisition PeriodJudicial Judgment

Negotiation

Prep

arat

ion

for

App

rova

lIn

vent

ory

Prep

arat

ion

Perio

dN

egot

iatio

n Pe

riod

Submission

Approval with condition

Agreement more than 75%of affected land owners

Agreement more than 75%of affected land owners

Fail to obtain agreement(75% of affected land owners)

Comments from publicNo comments or solvingcomments

Agreement of landownership transferring

Preparation of megotiationrecord

Compensation payment

Fail to obtain agreement(75% of affected land owners)

Consultation with affectedland owners

with project proponent

出典: Head of National Land Affairs Agency Decree No. 03/2007 regarding Guideline for Land Acquisition for Public

Facilities を基に調査団作成 図 8.3.1 用地取得手続きの概要

8.3.4 JICA 環境社会配慮ガイドラインとの比較

(1) JICA 環境社会配慮ガイドライン(2010 年 4 月)における要求事項

用地取得および費自発的住民移転にかかる JICA 環境社会配慮ガイドライン(2010 年 4 月、

以下 JICA ガイドライン(2010 年 4 月))の基本方針の概要を以下に示す。ODA 事業の場合、

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ファイナルレポート(メイン) 第 8 章 環境社会配慮

JICA インドネシア国 8-12 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

相手国側がこれらの要求事項を満たすことが必要である。本調査では JICA 環境社会配慮ガイ

ドライン(2004 年 4 月)が適用になるが、事業を実施する際には JICA ガイドライン(2010年 4 月)が適用になることから、インドネシア関連法令と JICA ガイドライン(2010 年 4 月)

について比較検討を行った。

- 影響を 小化するために、実効性のある方策が講じられなければならない。また、用地

取得および住民移転の回避が不可能な場合は、損失に対する補償について、被影響住民

との協議を行うべきである。

- 非自発的住民移転及び生計手段の喪失の影響を受ける者に対しては、相手国より十分な

補償及び支援が適切な時期に与えられなければならない。補償は可能な限り再取得価格

に基づき、事前に行われなければならない。また、移転住民が以前の生活水準や収入機

会、生産水準において改善または少なくとも回復できるように努めなれければならない。

- 非自発的住民移転及び生計手段の喪失に係る対策の立案、実施、モニタリングには影響

を受ける人々やコミュニティーの適切な参加が促進されていなければならない。また、

影響を受ける人々やコミュニティーからの苦情に対する処理メカニズムが整備されてい

なければならない。

- 大規模非自発的住民移転が発生するプロジェクトの場合には、住民移転計画が作成・公

開されていなければならない。住民移転計画作成に当たり、事前に住民へ情報が公開さ

れた上で、これに基づく影響を受ける人々やコミュニティーとの協議が行われていなけ

ればならない。

(2) JICA ガイドラインとインドネシアの関連法令におけるギャップ

用地取得および被自発的住民移転にかかる JICA ガイドラインとインドネシアの関連法令に

おけるギャップの概要を表 8.3.6 に示す。

表 8.3.6JICA ガイドラインとインドネシア関連法令にける比較 項目 JICA ガイドライン/ OP4.12 インドネシア関連法令

RAP 作成 PAPs の適切な参加に基づく RAP の作成。 国内法では、RAP 作成に関する記述はなく、

RAP作成が事業実施者の責務という記述もな

い。 生計回復支援 相手国は、移転住民が以前の生活水準や収

入機会、生産水準において改善または少な

くとも回復できるように努めなれければな

らない。

国内法では、特に記述はない。

不法占拠者へ

の支援 不法占拠者は移転に対する支援を提供され

なければならない。 影響を受ける建物の法的所有者または宗教上

の所有者は、損失に対する補償を受ける権利

を有する。 補償算定 可能な限り、再取得価格による補償が行わ

なければならない。 補償はNJOPまたは第三者的な土地評価者が

算定する市場価格を基に算定。 社会的弱者へ

の支援 女性、子供、老人、貧困層、少数民族など

社会的弱者への適切な支援について検討し

なくてはならない。

国内法では、特に記述はない。

住民参加 住民移転計画およびの生計回復のための計

画、実施、モニタリングにおいて、影響を

受ける住民およびコミュニティーの適切な

参加が促進されていなければならない。

事業概要と用地取得に関する情報を事業承認

後14日以内に公開する。加えて、用地取得の

対象となる土地所有者に対する協議が必要で

あり、協議結果をホームページやメディアを

通じて公開しなくてはならない。

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ファイナルレポート(メイン) 第 8 章 環境社会配慮

JICA インドネシア国 8-13 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

異議申し立て 影響を受ける人々やコミュニティーからの

苦情に対する処理メカニズムが整備されて

いなければならない。

国内法では、特に記述はない。

モニタリング 環境管理計画、モニタリング計画など適切

なフォローアップの計画や体制、そのため

の費用及びその調達方法が計画されていな

ければならない。

国内法では、特に記述はない。

出典: JICA ガイドライン、Head of National Land Affairs Agency Decree No. 03/2007 regarding Guideline for Land Acquisition for Public Facilities を基に調査団作成

(3) インドネシアでのドナー支援事業における実績

世界銀行(WB)、アジア開発銀行(ADB)、JICA などインドネシアでは様々なドナーが多

岐にわたる事業に対して支援を実施しており、PLN においては、ADB 支援による事業が現時

点では も多い。PLN 職員への聞き取り調査によると、2000 年以降ドナー支援事業に限って

用地取得および住民移転計画(Land Acquisition and Resettlement Action Plan:LARAP)を作成

しており(インドネシア関連法令では作成の義務について規定はない)、2011 年 1 月現在で

13 件の LARAP を作成したとのことである。

(4) JICA ガイドラインにおける要求事項を満たすためのアクションプランの考察

過去に作成したLARAPでは、表 8.3.7にて確認したギャップを以下に示す方針にて対応した。

表 8.3.7 ドナーポリシーのギャップを解決するために PLN 実施した方針 確認したギャップ 過去の対応方針

RAP 作成 ドナーポリシーを考慮した LARAP の作成。 生計回復支援 必要に応じて、補償に加えて必要な生計回復支援をPAPsとの協議に基づいて

支援。 不法占拠者への支援 森林省などの関連省庁と協議の上で、不法占拠者への支援を提供。 補償算定 補償額は市場価格に基づいて算定。市場価格では不十分な場合、PAPsとの協

議に基づいて金銭以外での追加補償を実施。 社会的弱者への支援 社会的弱者との協議に基づいて必要な支援を提供。

住民参加 ANDAL調査および用地取得における住民協議を実施することにより住民参

加を確保。 不服申し立て 村長が不服を取りまとめ、PLNの地域事務所へ提出。

モニタリング AMDALにおける環境モニタリング内で内部モニタリングを実施し、外部モ

ニタリングはコンサルタントを雇用し実施。

出典:調査団

JICA 支援事業においては、表 8.3.6 にて確認されたギャップを解決することが必須事項であ

る。PLN においては表 8.3.7 に示す通りドナー支援事業におけるインドネシア関連法令とド

ナーポリシー間のギャップを解決してきていることから、JICA 支援による事業実施の場合に

おいても、過去の事例を参照しながら JICA ガイドラインとインドネシア関連法令間のギャッ

プを解決することが可能と想定される。

8.4 ステークホルダー協議

インドネシア法令における AMDAL 調査手続きにおいて、ステークホルダー協議(または住

民協議)を 3 回実施(i)AMDAL 手続き前の事業概要説明、ii)ANDAL 調査の TOR 準備段階、

iii)ANDAL/RLK/RPL 準備段階)することが求められている。故に、インドネシア法令上、マ

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ファイナルレポート(メイン) 第 8 章 環境社会配慮

JICA インドネシア国 8-14 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

スタープラン作成段階やプレ FS 段階における住民協議の実施義務はない。一方で、JICA ガ

イドラインでは、事業計画の早い段階から情報公開や住民参加を重要視している。

本調査では JICA ガイドラインの基本方針に従い、調査の初期段階、インテリム報告書作成段

階、およびドラフトファイナル報告書作成段階の各段階においてステークホルダー協議を実

施した。各ステークホルダー協議の概要を以下に示す。

(1) 第 1 回ステークホルダー協議

第 1 回ステークホルダー協議は、調査団支援の下で MEMR および PLN 主導により 2010 年 2月 16 日に MEMR の会議室にて開催された。マスタープラン作成段階でのステークホルダー

協議は一般的ではないことから、多岐に渡るステークホルダーに対して招待状を送付するこ

とでステークホルダー協議開催を周知し、合計 60 名程度が出席した。ステークホルダー協議

での概要を以下に示す。

表 8.4.1 第 1 回ステークホルダー協議の概要 項目 概要

目的 - 調査の目的 - 調査方法とスケジュール - JICA ガイドラインの概要

出席者 MEMR、PLN、環境省、NGOs、知識人など 主な協議内容 - カウンターパート以外の機関は本調査での技術移転に参加可能か

- 1999 に実施した HPPS2 と本調査との違いは何か - 本調査では、地方での緊急電力需要はどのような位置づけか - 本調査で JICA ガイドライン(2004 年 4 月)を適用する理由は何か - どのような関係機関が本調査に参加するのか

出典:JICA 調査団 出席者からのコメントは主として調査の手法に向けられ、これに対し基本方針が説明された。

(2) 第 2 回ステークホルダー協議

第 2 回ステークホルダー協議は、調査団の支援の下で MEMR および PLN 主導により 2010 年

6 月 22 日に MEMR の会議室にて開催され、50 名程度が参加した。ステークホルダー協議概

要を以下に示す。

表 8.4.2 第 2 回ステークホルダー協議の概要

項目 概要 目的 - 調査の概要

- 調査の中間報告 - 今後の調査概要

出席者 MEMR、PLN、森林省、NGOs、知識人など 主な協議内容 - 上流地域の保護は必要である。

- 森林利用に係る手続きの確認が必要である。 - 建設段階における、社会、経済、文化等へもたらす影響の検討が必要である。 - 堆砂対策について説明願う。 - プレ FS 選定において、スマトラが優先地域であったように見受けられる。

出典:JICA 調査団

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ファイナルレポート(メイン) 第 8 章 環境社会配慮

JICA インドネシア国 8-15 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

主として森林省から調査の円滑な実施に係る情報が提供された。

(3) 第 3 回ステークホルダー協議

以下に示す目的を達成するために第 3 回ステークホルダー協議を開催した。

i) マスタープランを含むドラフト報告書の説明

ii)プレ FS 調査結果の説明

iii)マスタープランおよびプレ FS 調査における環境社会配慮の説明

第 3 回ステークホルダー協議では、プレ FS 調査付近にて省および県の関連機関を対象とした

フォーカスグループディスカッション形式の協議、およびジャカルタにて中央省庁を対象と

した集会スタイル協議の 2 種類の協議を開催した。フォーカスグループディスカッション形

式の協議はメダンおよびブキットティンギにて計 2 回開催した。

北スマトラ州に位置する Simanggo-2 水力のプレ FS 調査結果を協議するために 2011 年 6 月

16 日にメダンにてフォーカスグループディスカッション形式の協議を開催した。20 名程度が

参加した。概要は以下の通りである。

表 8.4.3 第三回ステークホルダー協議(フォーカスグループディスカッション) 項目 概要

目的 Simanggo-2 のプレ FS 調査結果 参加者 MEMR,、PLN、州ならびに県政府職員 主な協議内容 - 実施主体ならびに事業規模

- 地方政府からの調査許可取得の必要性 - EIA 段階における住民参加の重要性

出典:JICA 調査団

また、西スマトラ州に位置する Masang-2 水力のプレ FS 調査結果を協議するために 2011 年 6月 23 日にブキットティンギにてフォーカスグループディスカッション形式の協議を開催し

た。40 名程度が参加した。概要は以下の通りである。

表 8.4.4 第三回ステークホルダー協議(フォーカスグループディスカッション) 項目 概要

目的 Masang-2 のプレ FS 調査結果 参加者 MEMR,、PLN、州ならびに県政府職員 主な協議内容 - PLN と地方政府間の調整・協力の必要性

- EIA 段階における住民参加の重要性 - 堆砂、洪水、減水等の環境影響

出典:JICA 調査団

ジャカルタでの集会スタイルの協議は 2011 年 6 月 28 日に開催し、約 50 名が参加した。概要

は以下の通りである。

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ファイナルレポート(メイン) 第 8 章 環境社会配慮

JICA インドネシア国 8-16 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

表 8.4.5 第三回ステークホルダー協議(集会スタイル) Item Description

目的 - プレ FS 調査結果 - フォーカスグループディスカッションの結果 - マスタープラン調査の結果

参加者 MEMR,、PLN、環境省、森林省、BAPPENAS、BPPT、IBRD、NGOs(WWF, Pelangi, IIEE)主な協議内容 - 大使用水量と事業規模決定の理由

- プロジェクト周辺地域における電力供給貢献の有無 - CDM の適用 - EIA 段階における住民参加の重要性 - 森林保全に係る関連機関との調整・協力の必要性

出典:JICA 調査団

ステークホルダー協議の出席者からは EIA 段階での住民参加の重要性、ならびに関連機関と

の調整・協力の必要性が指摘された。

ステークホルダー協議での詳細な質疑を Appendix-2 に添付する。

8.5 M/P に対する IEE レベルの環境社会配慮

8.5.1 はじめに

既に述べた通り、インドネシアの環境関連法によると M/P の段階では、特に環境調査を実施

することは求められていない。一方、JICA はマスタープランにおいて、戦略的環境アセスメ

ント(SEA)の一環として、IEE レベルの検討を行うことを求めている。

そのため、本 M/P では、 “Project classification”の過程で、①森林区分、②住民移転、③プロ

ジェクトにより現出する湛水面積の 3 つの要因に基づく「開発難易度」を指標にした IEE レ

ベルの検討を行い、プロジェクトの優先順位づけに際して重要な役割を果たした。

ここでは、IEE レベルの検討の一環として、本 M/P に含まれる発電形式毎の環境特性に基づ

いた環境チェックリストの作成、および代替案の検討をおこなった。

8.5.2 M/P の概要

第 7 章で提案した M/P によれば、2011 年から 2027 年の間に計画される一般水力は表 7.4.2 に

あるように計 72 箇所である。

8.5.3 発電形式毎の環境社会配慮

(1) 環境社会配慮面から見た各発電形式の特徴

当該 M/P では流れ込み式発電および貯水池式水力発電による案件から構成されている。ここ

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ファイナルレポート(メイン) 第 8 章 環境社会配慮

JICA インドネシア国 8-17 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

ではこの2つの発電形式に関する問題点と対策について検討した。

1) 流れ込み式発電

a) 問題点

流れ込み式の水力発電所の建設にあたっては、導水管や発電所を地上に設置する場

合には、住民の移転を要する場合がある。また減水区間の出現によって、当該区間

内での灌漑用水や生活用水の取水などの水利用や内水面漁業に支障が生じて、結果

的に周辺住民の生活や生計に影響を及ぼす可能性がある。減水区間の出現は、絶滅

危惧種/貴重種/希少種の生息に影響を与える可能性もあり、遡河性・降河性魚類の移

動を妨げることも考えられる。導水管や発電所の建設は文化財に影響を及ぼす可能

性があり、導水管や発電所の出現によって、観光資源となっている景観に影響を生

じることもあり得る。開渠や導水管といった線状の構造物の設置は、野生動物の移

動を制限し、その生息地が分断する恐れがある。また、開渠や導水管に沿って人々

の新たな進入路が確保されることによって、密漁や森林破壊を誘発する可能性があ

る。流れ込み式の水力発電は化石燃料を燃やすことがないため、地球温暖化への影

響が極めて少ない発電方式である。しかしながら、工事中の大気汚染や騒音振動、

水質汚濁によって周辺の環境に影響を及ぼす恐れがある。

b) 対策

流れ込み式水力発電所の建設にあたっては、住民移転が必要なサイトでの立地は避

けることが望ましい。また、減水予定区間における水利用や漁業についても事前に

十分に調査し、これらに必要な 低維持流量を確保する等して、周辺住民の生活や

生計への影響を 小限に止める必要がある。減水予定区間に生息する絶滅危惧種/貴重種/希少種(遡河性・降河性魚類を含む)についても、事前に十分に調査して、重

大な影響を生じないことを確認しておく必要がある。導水管や発電所の建設予定地

における文化財の有無や、水力発電所の建設予定地周辺の観光資源としての価値に

ついても事前に十分な調査を行って、これらに重大な影響がないことを確認してお

かなければならない。

発電所の建設にあたっては、建設予定地の周辺に生息する野生動物についても十分

に調査して、開渠や導水管の設置がこれらの移動を妨げないことを確認する必要が

ある。開渠や導水管に沿って出現する未開発地域への進入路については、ゲートを

設けて立ち入りを制限したり、定期的に見回りを行ったりして密漁や違法伐採を防

止する必要がある。

工事中の大気汚染や騒音振動、水質汚濁に関しては、関連する規制基準を満たすよ

うに適切な対策を講じる必要がある。

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ファイナルレポート(メイン) 第 8 章 環境社会配慮

JICA インドネシア国 8-18 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

2) 貯水池式水力発電

a) 問題点

貯水池の建設にあたって、建設予定地に多数の住民が居住している場合には、大規

模な住民移転を必要とする。また、ダム下流での水利用や漁業、河川交通並びに生

態系に影響を及ぼす恐れがある。貯水池の建設によって貴重な文化財が水没する可

能性もあり、貯水池の出現によって観光資源となっている景観に影響を生じること

もあり得る。一方で、貯水池が観光客を引き付けたり、漁業の機会を提供したりす

る可能性もある。しかしながら、貯水池の水質が悪化した場合には、灌漑用水や生

活用水の取水といった下流での水利用や漁業に影響を及ぼし、周辺住民の生活や生

計に影響を与える恐れがある。工事中の大気汚染や騒音振動、濁水等の水質汚濁に

よって周辺の環境に影響を及ぼす恐れもある。

貯水池への栄養塩の流入状況によっては、貯水池内で富栄養化が進行し、植物プラ

ンクトンや浮き草が大量に発生して死滅し、その結果メタンを発生する可能性があ

る。メタンは CO2 の 21 倍の地球温暖化効果を持つ温室効果ガスであり、貯水池の建

設は、むしろ温室効果ガスの排出源になってしまうこともありうる。

b) 対策

貯水池式水力発電所の建設にあたっては、多数の住民が移転を余儀なくされるサイ

トでの立地は避けることが望ましい。ダム下流における水利用や漁業、河川交通並

びに生態系についても事前に十分に調査して、貯水池の下流における河川流量の低

下による周辺住民の生活や生計、生態系への影響を 小限に止める必要がある。ダ

ムや貯水池、発電所の建設予定地における文化財の有無や、水力発電所の建設予定

地周辺の観光資源としての価値についても事前に十分な調査を行って、これらに重

大な影響がないことを確認しておかなければならない。住民の生活に不可欠な河川

交通がダムによって寸断される場合には、代替の交通手段を提供する必要がある。

発電所の建設にあたっては、建設予定地域に生息する動植物や生態系についても事

前に十分に調査して、貯水池等の建設によって、絶滅危惧種や貴重種、希少種、貴

重な生態系に重大な影響を及ぼさないことを確認しておかなければならない。

また、遡河性や降河性の魚類が川に生息している場合には、必要に応じて、川に沿

って移動できるようにダムに魚道を設ける必要がある。

富栄養化等による貯水池の水質の悪化は、下流での水利用や漁業、下流域に生息す

る生物に影響を与えるだけでなく、温室効果ガスであるメタンの発生に繋がる恐れ

もあるため、貯水池の水質のモニタリングを行い、必要に応じて周辺地域での排水

規制等の対策を講じなければならない。工事中の大気汚染や騒音振動、水質汚濁に

関しては、関連する規制基準を満たすように適切な対策を講じる必要がある。

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ファイナルレポート(メイン) 第 8 章 環境社会配慮

JICA インドネシア国 8-19 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

(2) 環境チェックリスト

ここでは前章での 2 つの発電形式の特徴を参考に、今後水力発電計画を進める際に留意すべ

き項目を抽出した環境チェックリストを以下の通り作成した。

表 8.5.1 環境チェックリスト 環境項目 主なチェック事項

社会環境

(1) 住民移転 (a) プロジェクトの実施に伴い非自発的住民移転は生じ

るか。生じる場合は、移転による影響を 小限とする

努力がなされるか。

(b) 移転する住民に対し、移転前に補償・生活再建対策に

関する適切な説明が行われるか。

(c) 住民移転のための調査がなされ、再取得価格による補

償、移転後の生活基盤の回復を含む移転計画が立てら

れるか。

(d) 補償金の支払いは移転前に行われるか。

(e) 補償方針は文書で策定されているか。

(f) 移転住民のうち特に女性、子供、老人、貧困層、少数民

族・先住民族等の社会的弱者に適切な配慮がなされた

計画か。

(g) 移転住民について移転前の合意は得られるか。

(h) 住民移転を適切に実施するための体制は整えられる

か。十分な実施能力と予算措置が講じられるか。

(i) 移転による影響のモニタリングが計画されるか。

(j) 苦情処理の仕組みが構築されているか。 (2) 生活・生計 (a) プロジェクトによる住民の生活への悪影響が生じる

か。必要な場合は影響を緩和する配慮が行われるか。

(b) プロジェクトにより周辺の地域利用が変化して住民の

生計に悪影響を及ぼすか。

(c) 関連施設が住民の既存水域交通及び周辺の道路交通に

悪影響を及ぼすか。

(d) 他の地域からの人口流入により病気の発生(HIV 等の

感染症を含む)の危険はあるか。必要に応じて適切な

公衆衛生への配慮は行われるか。

(e) 下流の水利用維持のための 低流量は供給されるか。

(f) 下流水の流量の変化、あるいは海水浸入により、下流

の水利用や土地利用に影響は生じるか。

(g) 水を原因とする、もしくは水に関係する疾病(住血虫

症、マラリア、糸状虫症等)は発生する恐れはあるか。

(h) 河川等における漁業権、水利権、山林入会権等が阻害

されることはあるか。 (3) 文化遺産 (a) プロジェクトにより、考古学的、歴史的、文化的、宗

教的に貴重な遺産、史跡等を損なわないか。また、当該国の国内法上定められた措置が考慮されるか。

(4) 景観 (a) 特に配慮すべき景観への悪影響はないか。必要な対策は取られるか。

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ファイナルレポート(メイン) 第 8 章 環境社会配慮

JICA インドネシア国 8-20 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

(5) 先住民族、少数民族 (a) 当該国の少数民族、先住民族の権利に関する法律が守られるか。

(b) 少数民族、先住民族の文化、生活様式への影響を軽減する配慮がなされるか。

自然環境

(1)保護区 (a) サイトは当該国の法律・国際条約等に定められた保護

区内に立地していないか。プロジェクトが保護区に影響を与えないか。

(2)生態系

(a) サイトは原生林、熱帯の自然林、生態学的に重要な生息地(珊瑚礁、マングローブ湿地、干潟等)を含むか。

(b) サイトは当該国の法律・国際条約等で保護が必要とされる貴重種の生息地を含むか。

(c) 下流域の水生生物、動植物及び生態系への悪影響はあるか。生態系への影響を減らす対策はなされるか。

(d) ダム等の構造物により遡河性魚類(サケ、マス、ウナギ等、産卵のため河川と海の間を移動する種)の移動を妨げる恐れはあるか。これらの種への影響を減らす対策はなされるか。

(3)水 象 (a) 堰等の構造物の設置による水系の変化に伴い、地表

水・地下水の流れに悪影響を及ぼすか(特に流れ込み式水力発電の場合)。

(4)地形・地質

(a) ダム湖による土砂等の捕捉により、下流域への土砂流入量が減少し、河床低下、土壌侵食等が生じるか。また、ダム湖への土砂の堆積による貯水池の容量減少、上流域の河床上昇、土壌堆積が生じるか。これらの可能性について調査され、必要な対策が講じられるか。

(b) プロジェクトにより計画地周辺の地形・地質構造が大規模に改変されるか(特に流れ込み式水力発電)。

(5)地球温暖化 (a) 貯水池の富栄養化による温室効果ガス(メタンガス)

の発生はないか。

汚染対策

(1)水 質

(a) ダム湖/貯水池の水質は当該国の環境基準等と整合するか。動植物プランクトンの異常発生する恐れはあるか。

(b) 放流水の水質は当該国の環境基準等と整合するか。 (c) 試験湛水前の樹木の伐採などダム湖/貯水池の水質悪

化防止のための対策が計画されるか。 (d) 下流の河川流量が低下することで、水質が悪化し、環

境基準を下回る区間が生じるか。 (e) ダム湖/貯水池の底部からの放水(通常表面水より水

温が低い)による下流域への影響を考慮した計画か。

(2)廃棄物 (a) 掘削により発生した土砂は当該国の規定に従って適

切に処理・処分されるか。

その他

(1)工事中の影響

(a) 工事中の土地使用、採石、砂取り、土捨て等が植生を乱し、土壌侵食につながらないか。

(b) 工事により陸生の動物に影響が及ばないか。 (c) 工事による排水が周辺の水環境を乱さないか。 (d) 工事中の汚染(騒音、振動、濁水、粉塵、排ガス、廃

棄物等)に対して緩和策が用意されるか。 (e) 工事により自然環境(生態系)に悪影響を及ぼさない

か。また、影響に対する緩和策が用意されるか。 (f) 工事により社会環境に悪影響を及ぼさないか。また、

影響に対する緩和策が用意されるか。

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ファイナルレポート(メイン) 第 8 章 環境社会配慮

JICA インドネシア国 8-21 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

(2)運転 (a) ピーク・オフピーク時の水位変動により地元住民に危

険が生じないか。適切な緩和策がとられているか。

(3)モニタリング

(a) 上記の環境項目のうち、影響が考えられる項目に対して、事業者のモニタリングが計画・実施されるか。

(b) 当該計画の項目、方法、頻度等は適切なものと判断されるか。

(c) 事業者のモニタリング体制(組織、人員、機材、予算等とそれらの継続性)は確立されるか。

(d) 事業者から所管官庁等への報告の方法、頻度等は規定されているか。

出典:JICA 環境社会配慮ガイドラインを基に調査団作成

8.5.4 代替案の検討

7章ではM/P策定の過程でシナリオの比較(代替案の検討)が行われた。代替案の検

討は以下のシナリオに対して行われた。

ゼロオプション:水力開発は行わず必要な電力をすべて火力発電で賄う。

現実的シナリオ:政策主導シナリオの内の優先水力開発案件のみを実施する。達成

できない電力需要は火力発電で補う。

政策主導シナリオ:国家エネルギー政策の目標にできるだけ近づくように水力開発

を実施する。

代替案の検討では以下の環境社会配慮面からパラメーターを盛り込んだ。

(1)保護区地域に含まれる候補案件数

(2)予想される住民移転数

(3)予想される湛水面積

(4)温室効果ガス(CO2,NOx、SOx)の排出量 環境社会配慮面に限ったシナリオ比較(代替案)の結果は以下の通りである。

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ファイナルレポート(メイン) 第 8 章 環境社会配慮

JICA インドネシア国 8-22 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

表 8.5.2 代替案比較検討 項目 保護区地域内に

位置する候補案

件数

予想される住民

移転数(世帯) 予想される湛水

面積(ha) 温室効果ガスの

排出量

シナリオ0 0 0 0 SOx: 41,104 tons/year NOx: 264,431 tons/year CO2: 37.1 MT/year

現実的シナ

リオ 0 2,500 114,000 SOx:

18,177 tons/year NOx: 118,383 tons/yearCO2: 16.6 MT/year

政策主導シ

ナリオ 20 46,000 298,000 SOx: Nil

NOx: Nil CO2: Nil

出典:JICA 調査団

8.6 結論および 提言

提案された M/P は環境への負荷が比較的低い流れ込み式発電の案件が上位に位置してお

り、貯水池建設による環境影響が懸念される貯水池式の案件も湛水面積の小さいものが

選定されており、環境社会配慮面からは妥当な MP であると考えられる。

今後本 MP に基づいて、確実に水力発電開発を進めるためには、プロジェクトが選定さ

れた段階(FS)で、上記の環境チェックリストにしたがって、必要な環境社会配慮の基

本事項を検討し、環境認証(EIA:AMDAL もしくは,UKL+UPL)取得に必要な環境緩和策

の策定を含む環境調査を実施することが重要である。ちなみに円借款を前提に進める場

合は、SHM の開催や情報公開を含む JICA 環境社会配慮ガイドラインの要求事項との整

合性について留意し、両者の調査スコープに乖離がないことを確認しておくことも不可

欠である。

また用地取得に関しては、LARAP 作成の規定はインドネシアにはないが、円借款を前提

に進める場合は、JICA ガイドラインに基づく LARAP 提出が必要となるため、LARAP 作

成に必要な調査・手続きについて予め確認しておくことが必要である。

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ファイナルレポート(メイン) 第 9 章 プレ F/S 対象案件の選定

JICA インドネシア国 9-1 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

第9章 プレ F/S 対象案件の選定

9.1 プレ F/S 候補案件の選定

第 7 章で述べた水力開発マスタープランの策定と平行して、本調査で実施するプレ F/S の候補案

件選定を本調査の初期段階で実施した。

候補案件選定にあたっては、以下を考慮した。

- 第 7 章で検討した環境面での開発難易度が A もしくは B の案件で、かつ経済性が高いこと

- 相互排他的な小水力 IPP 案件が建設、もしくは PPA の段階まで進んでいないこと

カウンターパートとも協議の上、条件を満足する下記 8 件をプレ F/S の候補案件として選定した。

表 9.1.1 プレ F/S 候補案件の概要

Sirahar Simanggo-2 Province : North Sumatra Province : North Sumatra Catchment Area : 207 km2 Catchment Area : 480 km2 Type of Development : Run-of-river Type of Development : Run-of-river Installed Capacity : 35.4 MW Installed Capacity : 59.0 MW Annual Total Energy : 228.3 GWh Annual Total Energy : 366.9 GWh Max. Plant Discharge : 16.7 m3/s Max. Plant Discharge : 38.1 m3/s Average Net Head : 256.3 m Average Net Head : 187.4 m Reservoir Reservoir

- Full Supply Level : EL.389.5m - Full Supply Level : EL.497.0m - Min. Operation Level : EL.384.0m - Min. Operation Level : EL.490.1m - Active Storage Volume : 0.4 mil.m3 - Active Storage Volume : 0.8 mil.m3 Weir Weir

- Type : Gated Weir - Type : Gated Weir - Crest Elevation : EL.392.5m - Crest Elevation : EL.500.0m - Weir Height : 12.5m - Weir Height : 15.0m Headrace Tunnel Headrace Tunnel

- Type : Pressure - Type : Pressure - Length : 2,990.0m - Length : 4,750.0m - Diameter : 3.0m - Diameter : 4.1m Surge Tank Surge Tank

- Height : 21.1m - Height : 30.7m - Diameter : 12.0m - Diameter : 16.3m Penstock Penstock

- Type : Inclined Pressure Shaft - Type : Inclined Pressure Shaft - Length : 524.0m - Length : 429.0m - Diameter : 2.3m - Diameter : 3.2m Tailrace Tailrace

- Type : Open Channel - Type : Open Channel - Length : 30.0m - Length : 30.0m - Width : 16.8m - Width : 22.9m

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Gumanti-1 Anai-1

Province : West Sumatra Province : West Sumatra Catchment Area : 129 km2 Catchment Area : 86 km2 Type of Development : Run-of-river Type of Development : Run-of-river Installed Capacity : 15.8 MW Installed Capacity : 19.1 MW Annual Total Energy : 85.4 GWh Annual Total Energy : 109.2 GWh Max. Plant Discharge : 11.6 m3/s Max. Plant Discharge : 11.0 m3/s Average Net Head : 165.5 m Average Net Head : 210.4 m Reservoir Reservoir

- Full Supply Level : EL.1,077.3m - Full Supply Level : EL.501.6m - Min. Operation Level : EL.1,073.6m - Min. Operation Level : EL.493.6m - Active Storage Volume : 0.2 mil.m3 - Active Storage Volume : 0.2 mil.m3 Weir Weir

- Type : Gated Weir - Type : Gated Weir - Crest Elevation : EL.1,080.3m - Crest Elevation : EL.504.6m - Weir Height : 10.3m - Weir Height : 14.6m Headrace Tunnel Headrace Tunnel

- Type : Pressure - Type : Pressure - Length : 3,000.0m - Length : 2,500.0m - Diameter : 2.6m - Diameter : 2.6m Surge Tank Surge Tank

- Height : 17.7m - Height : 21.0m - Diameter : 10.5m - Diameter : 10.3m Penstock Penstock

- Type : Inclined Pressure Shaft - Type : Inclined Pressure Shaft - Length : 600.0m - Length : 1,000.0m - Diameter : 2.0m - Diameter : 1.9m Tailrace Tailrace

- Type : Open Channel - Type : Open Channel - Length : 30.0m - Length : 30.0m - Width : 14.5m - Width : 14.7m

Endikat-2 Cibareno-1

Province : South Sumatra Province : Banten Catchment Area : 306 km2 Catchment Area : 161 km2 Type of Development : Run-of-river Type of Development : Run-of-river Installed Capacity : 22.0 MW Installed Capacity : 17.5 MW Annual Total Energy : 179.8 GWh Annual Total Energy : 117.0 GWh Max. Plant Discharge : 19.8 m3/s Max. Plant Discharge : 21.1 m3/s Average Net Head : 134.1 m Average Net Head : 100.4 m Reservoir Reservoir

- Full Supply Level : EL.721.9m - Full Supply Level : EL.386.3m - Min. Operation Level : EL.714.2m - Min. Operation Level : EL.379.3m - Active Storage Volume : 0.4 mil.m3 - Active Storage Volume : 0.3 mil.m3 Weir Weir

- Type : Gated Weir - Type : Gated Weir - Crest Elevation : EL.724.9m - Crest Elevation : EL.389.3m - Crest Length : 14.9m - Crest Length : 14.3m Headrace Tunnel Headrace Tunnel

- Type : Pressure - Type : Pressure - Length : 3,700.0m - Length : 3,255.0m - Diameter : 3.2m - Diameter : 3.2m Surge Tank Surge Tank

- Height : 25.4m - Height : 24.2m - Diameter : 12.8m - Diameter : 13.1m Penstock Penstock

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- Type : Inclined Pressure Shaft - Type : Inclined Pressure Shaft - Length : 500.0m - Length : 429.6m - Diameter : 2.5m - Diameter : 2.6m Tailrace Tailrace

- Type : Open Channel - Type : Open Channel - Length : 30.0m - Length : 30.0m - Width : 16.0m - Width : 15.6m

Cimandiri-1 Masang-2

Province : West Java Province : West Sumatra Catchment Area : 428 km2 Catchment Area : 409 km2 Type of Development : Run-of-river Type of Development : Run-of-river Installed Capacity : 24.4 MW Installed Capacity : 39.6 MW Annual Total Energy : 167.5 GWh Annual Total Energy : 256.1 GWh Max. Plant Discharge : 31.0 m3/s Max. Plant Discharge : 33.2 m3/s Average Net Head : 95.3 m Average Net Head : 144.3 m Reservoir Reservoir

- Full Supply Level : EL.374.2m - Full Supply Level : EL.361.9m - Min. Operation Level : EL.369.8.2m - Min. Operation Level : EL.354.9m - Active Storage Volume : 0.5 mil.m3 - Active Storage Volume : 0.6 mil.m3 Weir Weir

- Type : Gated Weir - Type : Gated Weir - Crest Elevation : EL.377.2m - Crest Elevation : EL.364.9m - Crest Length : 12.2m - Crest Length : 14.9m Headrace Tunnel Headrace Tunnel

- Type : Pressure - Type : Pressure - Length : 2,350.0m - Length : 6,700.0m - Diameter : 3.8m - Diameter : 3.9m Surge Tank Surge Tank

- Height : 21.5m - Height : 33.5m - Diameter : 15.1m - Diameter : 15.5m Penstock Penstock

- Type : Inclined Pressure Shaft - Type : Inclined Pressure Shaft - Length : 2,600.0m - Length : 500.0m - Diameter : 3.1m - Diameter : 3.1m Tailrace Tailrace

- Type : Open Channel - Type : Open Channel - Length : 30.0m - Length : 30.0m - Width : 18.1m - Width : 20.2m

出典: HPPS2 (1999)

9.2 相互排他的な IPP 案件の進捗

上記案件リストには相互排他的な小水力 IPP 計画が存在するものも含まれている。しかしながら、

そうした IPP 計画はまだ建設あるいは PPA ネゴの段階には至っておらず、調査段階にあるにすぎ

ない。従いそうした計画の存在は各案件の評価にあたり重要な要素であるとは見做さなかった。

9.3 自然・社会環境

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9.3.1 環境面での現地踏査

前節で挙げた 8 件のプレ F/S の候補案件について現地踏査を行い、主として以下の項目の確認を

試みた。

(1) 非自発的移転

プロジェクト実施に伴う非自発的移転が発生する可能性の確認を試みた。

(2) 減水区間における土地利用ならびに水利用

プロジェクト実施に伴い取水口地点と発電所地点間で減水区間が発生する。このため、当該区間

における土地利用と灌漑を含む水利用について確認を試みた。

(3) 土壌浸食ならびに堆砂

プロジェクト実施に伴い土壌浸食や堆砂の発生する可能性について、周辺の地形や土壌からの

確認を試みた。

(4) その他

固有の少数民族の存在、あるいは地元住民による河川水利用等の情報につき、地元住民へのイン

タビューを通じ情報収集を試みた。

9.3.2 現地踏査の結果

現地踏査で得られた知見概要を以下に纏める。詳細はサポーティングレポートに記載する。

<一般>

- 取水堰ならびに発電所地点で非自発的住民移転が発生する可能性は低い。既設道路の拡幅に

より発生する可能性はあるが、その影響は深刻ではないと想定される。

- いずれのサイトも地形的に安定している。

- ほとんどのサイトで構造物が二次林内に位置する。

- 減水区間における土地利用ならびに水利用については、この現地踏査の段階では把握しきれ

なかった為、更なる調査が必要である。

- 多くのプロジェクトが森林内に位置する為、アクセス道路のレイアウトにあたっては極力短

くするようにするのが望ましい。

<個別>

- Masang- 2 は生産林、Anai-1 は一部が保護林に位置し、森林の利用にあたり手続きが必要で

ある。

- 同様に Endicat-2 も一部が保護林に位置している模様であるが、確認が必要である。

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- Cimandiri-1 では既設灌漑施設への影響が懸念される。

- 減水区間は Simmango 2 が も長く (約 7.8km) and Gumanti-1 が も短い (約 3.2km)。

9.4 地質

9.4.1 概要

表 9.4.1 に示すように、選定された 8 つの流れ込み式開発有望地点に対して現地踏査を実施した。

また、比較参照のため、2 つの民間電力事業(IPP)地点の踏査を行った。その 1 つは工事中であ

る Simanggo-1 地点であり、もう一つは、PPA 手続中の Gunung-2 地点である。

表 9.4.1 選定した有望地点

No. Scheme Name Project ID Type Province Remarks 1 Sirahar 1-186-01 ROR N. Sumatra Candidate site for Pre F/S 2 Simanggo-2 1-190-41 ROR N. Sumatra Candidate site for Pre F/S 3 Gumanti-1 1-071-01 ROR W. Sumatra Candidate site for Pre F/S 4 Anai-1 1-155-01 ROR W. Sumatra Candidate site for Pre F/S 5 Masang-2 1-163-02 ROR W. Sumatra Candidate site for Pre F/S 6 Endikat-2 1-074-17 ROR S. Sumatra Candidate site for Pre F/S 7 Cibareno-1 2-108-01 ROR W. Java Candidate site for Pre F/S 8 Cimandiri-1 2-107-01 ROR W. Java Candidate site for Pre F/S 9 Simanggo-1 1-190-40 ROR N. Sumatra IPP project under construction

10 Gunung-2 1-190-26 ROR N. Sumatra IPP project at process of PPA

出典: 調査団

本セクションでは、各有望地点の現地踏査結果をまとめ、各地点での開発計画や施工に関連する

地質的な問題や提言を示す。また現場踏査の写真はサポーティングレポートに添付する。

9.4.2 地質面での現地踏査

(1) Sirahar 計画候補地点(1-186-01)

Sirahar 流れ込み式水力開発計画候補地点は、Doloksanggul 市南西約 40km の Pakkat 村付近に位置

しており、地理的にバリサン山脈西山麓境界にある。Sirahar 川は、Pinapan 山(標高 2,037m)に源を

発し、バリサン山脈西斜面を南西に流れ、Aek Betugarigis 川と合流した後、 終的にインド洋に

注いでいる。

取水堰サイト(N2°7’17.78”、 E98°29’19.94”) は Sirahar 川の下流に、発電所サイト(N2°5’41.10”、E98°30’6.07”)は取水堰の約 3km 下流に位置する。本候補地点周辺で Sirahar 川は、全般に急峻な

V 字谷となっている。取水堰サイト付近の Sirahar 川は、河床幅が 10~15m、河床勾配が 5 度前後

である。

既存の地質図によれば、本地域では、主に Kluet 地層(Puk)と Tobu 凝灰岩層(Qvt)が分布している。

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Kluet 地層は、主に二畳紀前期~石炭紀後期の石英質砂岩、粘板岩、シルト岩や千枚岩等から構

成され、本地域の基盤岩となっている。一方、Tobu 凝灰岩層は、更新世の流紋岩質凝灰岩を主体

とし、Kluet 地層を覆っている。

取水堰サイトの両岸とも、石英質砂岩と溶結凝灰岩が広く露出している。露頭観察から、石英質

砂岩は、一般に堅硬な岩塊状で、亀裂や割れ目が僅かに発達している。一方、凝灰岩は、堅硬で

あるが、亀裂が非常によく発達している。それら岩盤が堅硬であることから、取水堰の基礎に適

していると推定される。

また、取水堰サイトの約 1,000m 上流では、深さ 100m 前後の滝が確認され、地質構造により深く

横切ったものと推定された。また取水堰サイトの直上流両岸斜面では、垂直亀裂の発達による小

規模な岩盤崩壊が確認されたものの、規模が小さいことから、当計画の実施に影響がないと考え

られる。

取水堰付近の河床には、堅硬な砂岩や凝灰岩の河床砂礫や玉石が大量に分布しており、コンクリ

ート骨材として採取が可能であると考えられる。

また、取水堰サイト付近で GPS 測定により現河床標高が約 260m であり、期待の標高 380m と大

きく異なるため、プレ FS 調査前に河床レベルを再確認する必要がある。

(2) Simanggo-2 計画候補地点(1-1901-41)

Simanggo-2 流れ込み式水力開発計画候補地点は、Doloksanggul 市西約 40km の Rarabintang 村付近

に位置しており、地理的にバリサン山脈西斜面にある。Simanggo 川は、バリサン山脈西斜面に

Simangan Dungi 山(標高 1460.0m)と Ginjang 山(標高 1685.2m)から源発し、南西に流れ、Cinendang川と合流した後、 終的にインド洋に流入している。

当候補地点は Simanggo 川の中流に位置している。取水堰サイト(北緯 2°18’6.01”、東経

98°25’19.30”)付近では、Simanggo 川が南北に流れ、河床幅が 20~25m、河床勾配が約 3 度であ

る。一方、発電所サイト(北緯 2°18’38.39”、東経 98°25’ 30.00”)付近では、Simanggo 川が東西方

向に流れ、河床幅が 30m、河床勾配が 1~2 度である。

既存の地質図によると、本地域の地質は、主に Kluet 地層(Puk)と Tobu 凝灰岩層(Qvt)が分布して

いる。Kluet 地層は二畳紀前期~石炭紀後期の石英質砂岩、粘板岩、シルト岩や千枚岩等から構

成され、本地域の基盤岩となっている。一方、Tobu 凝灰岩層は、更新世の流紋岩質凝灰岩を主体

で、Kluet 地層を広く覆っている。また、複数の断層も本候補地点周辺に分布しており、その中の

2本は Simanggo 川に沿って伸びている。

取水堰及び発電所サイトの両岸及び河床では、露出している溶結凝灰岩は、弱く風化し亀裂や割

れ目が少なく全般的に堅硬な状態であるため、構造物の基礎岩盤に適していると推定される。

また、発電所周辺の河床には、河床砂礫が分布しており、その量が限られるが、細粒骨材として

採取可能である。また、既存の地質図に示すように、石英質砂岩が広く分布しており、コンクリ

ート骨材やロック材等として採取できると考えられる。

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(3) Gumanti-1 計画候補地点(1-071-01)

Gumanti-1 流れ込み式開発計画候補地点は、西スマトラ州パダン市南東約 60km の Talang Barat村付近、Gumanti 川の 源流に位置している。

地質的に Gumanti 川は、異なる二つ地層の分布境界に沿って東南に流下している。既存の地質図

により、当計画地点付近の右岸側では、二畳紀 Barisan 層の堆積岩起源の変成岩が分布し、主に硬

質砂岩、千枚岩、粘板岩、石灰岩、ホルンフェルスから構成されている。一方、左岸側では、第

三紀中新世 Ombilin 層上部層の堆積岩が分布し、主に砂質粘土岩、凝灰質・石英質・石灰岩質砂

岩、安山岩質礫岩からなっている。

取水堰サイトの上流側では、第四紀初期の火山噴出物溶岩が平坦台地をなして、取水堰サイト付

近及びその下流では先第三系~第三系山体が川両側に張り出し、河床幅が約 20m に狭まって地形

的に取水堰サイトとして適していると考えられる。

取水堰サイト付近は、両岸側から尾根が迫り勾配 40~50 度の急峻な谷を呈している。取水堰左岸

では第三系頁岩が露出し全般に弱く風化し堅硬である。また取水堰サイト直下流の右岸斜面に小

規模な表層崩壊が見られた。河床の右岸側には幅 10m 程度で砂礫主体の河床堆積物が分布する。

当サイトにおいて表層風化を確認する必要があるが、全般に取水堰基礎として問題はないと推定

される。

取入口サイト付近は、新鮮で堅硬な頁岩が露出しているが、既存の地形図と異なって取水口の直

上流部で河川流路が大きく右曲折しているため、現計画位置より若干下流側に移すことが望まれ

る。

導水トンネルは、左岸側で第三紀堆積岩からなる山体に位置している。トンネルラインにおいて

大規模な崩壊や地すべり、断層等は認められなかったことから、トンネル掘削に大きな地質的問

題はないと推測される。

発電所は、傾斜 40~50 度の山体前面にあり、その背後山体斜面では現在農耕地に改作されており、

地すべりや崩壊が見られなかった。従って、基礎に地質的問題は少ないと推定される。

また建設材料は、基本的に河床砂礫から採取が可能と考えられる。また計画候補地点上流側の安

山岩質溶岩は、塊状で風化も弱く原石として採取が可能である。

(4) Anai-1 計画候補地点(1-155-01)

Anai-1 流れ込み式水力開発計画候補地点は、西スマトラ州パダン市北約 50km の Sicincin 村付近

で Anai 川の上流に位置している。

取水堰サイト付近では、Anai 川の両岸斜面が急峻地形で勾配 70 度以上となっている。また両岸

とも粘板岩や頁岩は露出しており、全般に弱風化で堅硬である。また堰付近の河床幅が約 10m程

度で一部に河床砂礫が覆われている。地質的に堰基礎として問題はないと推定される。

取水口は、高さ約 100m、勾配 70~80 度の左岸急斜面に計画されている。取水口付近には小規模

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な表層崩壊や落石崩壊が発生し、一部の崩落土砂が未だ河床に堆積しており、 近に崩壊したも

のと推定される。

導水トンネルは、左岸側山体に位置し、かぶり厚さが 150~200m であると推定される。既存の地

質図によれば、当導水トンネルの地質は、主に硬質な粘板岩と頁岩からなり、また約 300m 上流

付近に小断層が分布している。現地踏査から、トンネルラインには大規模な崩壊地形は認められ

なかった。従って、当導水トンネルは、掘削安定性の観点から、重大な地質的問題はないと推定

される。

発電所サイト付近では、硬質粘板岩が露出しており、その背後斜面が勾配約 40 度の急傾斜となっ

ている。全般的に発電所付近の斜面が安定しており、地すべりや崩壊は認められなかった。

また発電所の下流に河床砂礫が豊富に分布しており、コンクリート骨材に適する材料と推定され

る。なお取水堰の上流側に分布している安山岩質溶岩は、塊状で風化も弱く原石として採取が可

能である。

アクセス道路設置に関して、計画した取水堰と発電所は、河川に平行している道路近傍に位置し

ておりアクセス問題は少ないと考えられる。

(5) Masang-2 計画候補地点(1-163-02)

Masang-2 流れ込み水力開発計画候補地点は、西スマトラ州パダン市北方約 90km、Maninjau 湖北

15km、Masang 川上流に位置している。

既存の地質図によれば、当候補地点周辺では、全域にわたり第四期火山噴出物に覆われており、

凝灰岩が主体で安山岩質(或いは玄武岩質)熔岩が部分的に分布している。また本計画地点は、

スマトラ大断層(GSF)から約 2km の距離にあり、その大断層は Masang 川の右岸側でほぼ Masang川と平行して伸びている。

取水堰サイトは、Masang川とその支流であるGutung川の合流点の約 500km下流に位置している。

Gutung 川は、一般に河床幅が 10m で河床砂礫が広く覆われている。取水堰付近では Masang 川の

両岸斜面とも沖積堆積物が広く分布し、右岸で幅約 200~300m、左岸で幅約 50m の段丘堆積物が

分布している。また谷には河床砂礫が広く分布しており主に粗砂と礫から構成され径 1m 以上の

安山岩玉石も多く含まれている。

導水トンネルは、スマトラ大断層(GSF)の反対側の左岸側に計画されている。導水トンネルラ

インにおいて露頭が少ないため、既存の地質図により主に安山岩質凝灰岩が分布していると推定

された。また複数の小断層は、導水トンネルラインと斜交していることから、掘削上破砕帯や地

下水流入等の地質問題が遭遇する可能性があると推定される。

左岸側に計画している発電所サイト周辺では、安山岩質凝灰岩が露出し、露頭観察より凝灰岩は

全般に弱風化し亀裂がすくない。なお、発電所サイト付近に地滑りや不安定な地形は認められな

かった。

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JICA インドネシア国 9-9 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

また、建設材料について基本的に河床砂礫から採取が可能であり、河床礫は径 50cm 前後の安山

岩質岩塊が豊富に分布し、風化も弱く原石として採取できると考えられる。また取水堰の約 2km上流では、複数の河床砂礫採取地点が現地踏査時に操業中である。

(6) Endikat-2 計画候補地点(1-074-17)

Endikat-2 流れ込み式水力開発計画候補地点は、南スマトラ州 Benkulu 市東南部約 150km、スマト

ラ島 西端で Endikat 川源流部に位置している。本候補地点付近の Endikat 川は、全般に 30 度以

上で比高差 150~200m 程度の急峻な谷となっている。

本候補地点は、地理的にバリサン山脈東山麓に位置し、大スマトラ断層から約 30km の距離にあ

る。候補地点周辺の地質は完新世火山岩が主体で、主に玄武岩質火山角礫岩、溶岩および凝灰岩

から構成されている。現地踏査から、取水堰サイト周辺では溶結凝灰岩と部分溶結凝灰岩が露出

しており、両者とも強く風化している。また取水堰サイト周辺においては、川幅が約 10~20m、

左岸側に段丘や沖積堆積物が幅広く発達している。なお、取水堰サイトの約 50m 上流右岸におい

て幅 300m、長 200m 規模の地すべり地形が確認され、現在安定しているが、当開発計画の施工及

び運用により再活動する可能性があると考えられる。

このため、当地すべり地形のインパクトを考慮して、約 400m 上流の代替堰サイトを踏査した。

その代替堰サイトは地形地質的に原計画サイトと同様であり、取水堰サイトとして地質的に適し

ていると考えられる。

導水トンネルラインは右岸側で頂部が 800~850m の平坦な火砕流台地に位置している。僅かの露

岩から、トンネルラインの地質は溶結凝灰岩と弱溶結凝灰岩が主体であると想定される。また露

頭観察から、凝灰岩は、全体に弱風化し、亀裂が僅かに発達していることから、トンネルレベル

付近では新鮮、若しくは弱風化した凝灰岩であると予想される。

発電所サイトは、右岸部で凝灰岩からなる 20~30 度勾配の緩斜面に位置している。一方、左岸側

はほぼ垂直の切り立った凝灰岩崖をなしている。

また、本候補地点付近では、安山岩主体の河床礫が多く分布しており、建設材料として質・量と

も適していると考えられる。なお取水堰サイトへのアクセスは、容易で既設舗装道路から約 500mまで付近にアクセスが出来る。ただし、堰と発電所サイト間のアクセスは、新たに建設する必要

がある。

(7) Cibareno-1 計画候補地点(2-108-01)

Cibareno-1 流れ込み式水力計画候補地点は、西ジャワ州スカブミ市西約 80km、Pelabuhanratu 市北

西約 30km の Gunungkaramat 村付近に位置している。取水堰サイト(南緯 6°51’21.50”、東経

106°25’48.27”)は Cibareno 川の中流に、また発電所サイト(南緯 6°52’51.81”、東経 106°25’3.00”)は Cibareno 川右岸に位置している。Cibareno 川は、Halimun 山(標高 1,929m)から源を発し、Halimun山南部斜面を南に流下して Pelabuhan 湾に注いている。

本候補地点は、活火山弧構造地帯に位置している。既存の地質図によれば、本候補地点周辺の地

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ファイナルレポート(メイン) 第 9 章 プレ F/S 対象案件の選定

JICA インドネシア国 9-10 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

質は、Cikotok 地層(Temv)が主体となり、Cimapag 地層(Tmc)が局所的に分布している。Cikotok 地

層は、始新世前期~漸新世の火山角礫岩、凝灰岩および溶岩から構成されている。一方、Cimapag地層は、主に中新世前期の集塊岩と粘土岩からなり、凝灰岩と溶岩も含まれている。その二つの

地層は、本計画地点付近において断層により接している。

現地踏査から、取水堰サイト付近は、Cibareno 川が深く切り込まれ両岸とも凝灰質角礫岩及び安

山岩質凝灰岩が露出している。露頭観察から、凝灰質角礫岩及び安山岩質凝灰岩は、全般に弱~

中程度に破砕され 2 つ系の亀裂や割れ目が見られた。また Cibareno 川谷では、一般に河床幅が 10~15m、河床勾配が約 3~5 度であり、安山岩質凝灰岩や硬質砂岩の玉石が多く分布している。こ

れらの河床礫や玉石はコンクリート骨材として適していると考えられる。

また、取水堰下流の右岸斜面には岸小規模の表層崩壊が見られるが、大規模な地すべりが確認さ

れなかったことから、開発計画地点として地質的に大きな問題は無いと推定される。

(8) Cimandiri-1 計画候補地点(2-107-01)

Cimandiri-1 流れ込み式開発計画候補地点は、西スマトラ州ジャカルタ市西南約 70km、スカブミ市

付近に位置している。Cimandiri 川は、本当候補地点周辺で東西に大きく繰り返し蛇行しながら西

方に流下している。

既存の地質図によれば、本候補補地点周辺では、おおむね Cimandiri 川を境として以北には第四紀

火山噴出物が比較的緩やかな山体を形成し、南側には第三紀堆積岩が分布している。

取水堰サイトは、Cimandiri 川とその支流の合流点下流にあり、左岸側は、幅 100m、 高 30m 程度

の安山岩体やせ尾根をなしており、右岸側は、基盤岩または段丘堆積物からなる広範な緩斜面と

なっている。高さ 25m 程度の堰設置は可能と思われるが、堤長が長大化となるため、代替サイト

として原計画サイト下流 100m 地点に両岸や河床に露岩し、右岸側火山岩からなる尾根が張り出

した比較的狭い地点を選定し踏査した。

取入口は取水堰サイトの約 400m の上流で勾配約 40 度の急傾斜地に計画されている。山腹斜面に

小規模な剥落が見られるものの、取入口サイトとして地質的に問題は少ないと考えられる。

導水トンネルラインでは、露頭が少ないため、既存の地質図よれり、主に第四紀火山岩からなる

ものと想定され、下流側では沖積層堆積物が出現すると推定される。発電所は、左岸側で広範な

河川沖積層からなる平坦地に計画されている。発電所周辺において露岩は認められなかった。

建設材料としては基本的に広範囲で分布している河床砂礫から採取が可能で質・量とも適してい

ると考えられる。また既存道路より本候補地点付近までアクセスが可能である。ただし候補地点

内のアクセス設置が必要である。

(9) Simanggo-1 計画候補地点(1-190-40)/民間電力事業計画地点

Simanggo-1 流れ込み式開発計画候補地点は、Doloksanggul 市西約 40km 西の Parlilitan 村付近で

Simanggo 川の上流に位置している。

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ファイナルレポート(メイン) 第 9 章 プレ F/S 対象案件の選定

JICA インドネシア国 9-11 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

当候補地点付近では、民間電力事業が計画され現地踏査時に建設中である。この民間電力事業の

土木建設は 2005 年に開始し 2010 年に完成した。

現場踏査から、Simanggo-1 計画地点での民間電力事業は、主に取水堰、開水路、ヘッドタンク、

水圧路、地表発電所からなる。民間事業の取水堰(北緯 2°19’46.6”、東経 98°25’18.2”)は、Simanggo-1取水堰の計画サイトとほぼ同じ場所で弱風化した弱溶結凝灰岩に位置している。一方、民間事業

の発電所(北緯 2°20’11.4”、東経 98°25’55.7”)は、Simanggo-1 取水堰の約 1,500m 下流左岸で

Simanggo-1 発電所計画サイトの約 2km 上流に位置している。取水堰と同様に民間電力事業の発電

所周辺の地質は、弱風化した凝灰岩である。

(10) Gunung-2 計画候補地点/民間電力事業地点

Gunung-2 流れ込み式開発計画候補地点は、Kabanjahe 市南約 50km の Kutabuluh Pasar 村付近に位

置している。民間電力事業は Gunung-2 地点内に計画され、現地踏査の時に PPA 手続中である。

国有電力会社(PLN)メダン支社によれば、この民間電力事業計画は、取入堰、開水路、ヘッド

タンク、水圧路、地表発電所からなる。その取水堰は、Gunung-2 取水堰計画サイトと同じ場所で

ある。一方、その発電所サイトは、Gunung-2 発電所計画サイトの約 600m 上流に位置している。

取水堰付近の Gunung 川は、河床幅が約 10m で直線コースとなっている。地質的に石灰質砂岩と

シルト岩が広く露出しており、特に左岸側で砂岩とシルト岩崖を呈している。露頭観察から、取

水堰付近両岸の岩盤は、弱く風化・破砕されているが、既存の地質図によると Gunung 川に沿っ

て地域規模の断層が分布していることから、河床の基礎岩盤がよく破砕されたと想定される。従

って、河床岩盤の破砕状況を確認する必要があるが全般に当開発計画の堰基礎として地質的問題

はないと推定される。

一方、発電所サイト周辺では、表土と植が厚いため露岩が確認されなかった。また発電所サイト

付近の Gunung 川は、河床幅が約 50m、河床勾配が非常に緩く河床堆積物が広く分布している。

河床堆積物は主に粗砂からなり、大きな玉石も多く含んでいることから、コンクリート骨材に適

していると推定される。

9.4.3 地質面での評価

既存の地質図と調査報告書のレビュー、地形図と衛星画像の判読及び現地踏査の結果に基づき、

選定された有望地点においていずれにおいても重大な地質的制約や問題は認められなかった。従

って表 9.4.2 に示すように、各有望候補地点は地質及び地質工学的観点から実現可能性が高い。た

だし、既述のように各地点の地質は未だ不明な点が多いことから、建設可能性を 終的に評価す

るためには、詳細な地質調査が必要である。

表 9.4.2 地質の評価結果

No. Scheme Name Geological Foundations

Construction Material Accessibility Geological

Evaluation

1 Sirahar Very good Nearby available Difficult OK

2 Simanggo-2 Good Nearby available Slightly difficult OK

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JICA インドネシア国 9-12 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

3 Gumanti-1 Good Nearby available Easy OK

4 Anai-1 Good Nearby available Easy OK

5 Masang-2 Good Nearby available Slightly difficult OK

6 Endikat-2 Good Nearby available Slightly difficult OK

7 Cibareno-1 Good Nearby available Slightly difficult OK

8 Cimandiri-1 Good Nearby available Slightly difficult OK

出典: 調査団

9.5 水文

9.5.1 水文面での現地踏査

8 件のプレ F/S の候補案件について現地踏査を行い、目視ならびに簡単な計測により河川流量の確

認を行った。

主に確認を行ったのは以下の 3 点である。

- 取水堰地点の流量

- 河川における土砂生産の程度

- 河床堆積物の状況

9.5.2 現地踏査の結果

現地踏査の結果を表 9.5.1 に纏める。

概ね河川勾配が 1/100 から 10/100 の間で,分布しているため、河川の平均流速を 2 m/sec と仮

定して河川流量を概算した。

土砂生産の程度は目視により、a) Clean:シルト・粘土分が少ない、b) Mean :シルト・粘土

分の含有が一般的、c) Muddy:砂、シルト・粘土が多い、に分類した。

河床堆積物は目視で状況を確認した。

表 9.5.1 流量・土砂生産の確認

No. Scheme Name Estimated Water Flow (m3/sec)

Sediment Load Concentration Riverbed Materials

1 Sirahar 20 Clean Rock outcrop with some boulder and gravel

2 Simanggo-2 50 Clean Rock outcrop

3 Gumanti-1 20 Clean Rock outcrop with boulder and gravel

4 Anai-1 20 Clean Rock outcrop with boulder and gravel

5 Masang-2 30 Mean Rock outcrop with much

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JICA インドネシア国 9-13 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

boulder and gravel

6 Endikat-2 20 Mean Rock outcrop with much boulder and gravel

7 Cibareno-1 30 Clean Rock outcrop, locally with boulder and a little gravel

8 Cimandiri-1 30 Mean Rock outcrop with much boulder and gravel

出典: 調査団

9.5.3 水文面での評価

評価結果を表 9.5.2 に示す。いずれの案件も水文の観点からは実現性が高いと判断される。

表 9.5.2 水文の評価結果

No. Scheme Name Water Flow Sediment Load Evaluation

1 Sirahar More Low OK 2 Simanggo-2 More Low OK 3 Gumanti-1 More Low OK 4 Anai-1 More Low OK 5 Masang-2 More Low OK 6 Endikat-2 More Low OK 7 Cibareno-1 More Low OK 8 Cimandiri-1 More Low OK

Notes: 1) More = water flow is more than or nearly the same as the expected, 2) Less = water flow is much less than the expected, 3) Low = sediment load concentration is low and thus no significant concern with implementation of hydropower project.

出典: 調査団

9.6 地形

9.6.1 地形面での現地踏査

8 件のプレ F/S の候補案件について現地踏査を行い、目視ならびに簡単な計測により地形の確認を

行った。

主に確認を行ったのは以下の 2 点である。

- 取水堰地点と発電所地点の標高

- 主要構造物の適正なレイアウトができる地形条件かどうか

9.6.2 現地踏査の結果

現地踏査の結果を表 9.6.1 と表 9.6.2 に纏める。

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JICA インドネシア国 9-14 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

取水堰地点と発電所地点の標高を簡易 GPS で計測し表 9.6.1 に示した。同表には計画上の標高と

落差を比較の為に示している。

また表 9.6.2 には地形条件を大きく 2 分して示した。即ち a) Good:適正な構造物レイアウトが可

能、 b) N.G:適正なレイアウトができない。

表 9.6.1 標高・落差の確認

No. Scheme Name

Planed Level or Head (m) Checked Elevation and Head (m) Ave.

operating level

Tailwater level

Ave. net head El. At weir El. At

powerhouse Head1)

1 Sirahar 386.8 120.0 256.3 260 120 140 2 Simanggo-2 493.5 295.0 187.4 530 330 200 3 Gumanti-1 1,075.4 900.0 165.5 1,090 920 170 4 Anai-1 497.6 275.0 210.4 510 290 230 5 Masang-2 358.4 200.0 142.7 380 215 165 6 Endikat-2 718.0 575.0 134.1 760 620 140 7 Cibareno-1 382.8 275.0 100.4 430 300 130 8 Cimandiri-1 372.0 260 95.3 380 260 120

Note: 1) Head = Difference in elevation between the proposed weir and powerhouse sites.

表 9.6.2 地形条件の確認

No. Scheme Name Topography Remarks

1 Sirahar Poor Head is far less. 2 Simanggo-2 Good 3 Gumanti-1 Good 4 Anai-1 Good 5 Masang-2 Good 6 Endikat-2 Good 7 Cibareno-1 Good 8 Cimandiri-1 Poor Penstock becomes too long.

出典: いずれも調査団

9.6.3 地形面での評価

評価結果を表 9.6.3 に示す。Sirahar と Cimandiri-1 を除く 6 件については落差ならびに地形条件

の観点から問題ないと考えられる。 Sirahar は取水堰と発電所間の落差が約 140m と確認された

が、これは当初計画に比べ非常に小さい値となっている。一方 Cimandiri-1 は極端に長い圧力管路

を要するレイアウトにならざるを得ない。

表 9.6.3 地形の評価結果

No. Scheme Name Head Topography Evaluation

1 Sirahar Less N.G. To be Discarded 2 Simanggo-2 More Good OK 3 Gumanti-1 More Good OK 4 Anai-1 More Good OK 5 Masang-2 More Good OK

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JICA インドネシア国 9-15 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

6 Endikat-2 More Good OK 7 Cibareno-1 More Good OK 8 Cimandiri-1 More N.G. To be Discarded

出典: 調査団

両案の経済性がその地形により著しく損なわれる為、比較検討においていずれも不採用とす

る。

9.7 アクセス道路と送電線

9.7.1 アクセス道路

現地踏査結果ならびに地形図を元に、取水堰ならびに発電所へのアクセス道路長を概略で見

直した。結果を表 9.7.1 に示す。

表 9.7.1 プレ F/S プロジェクト候補のアクセス道路計画案

Project Length to Intake Weir

(km)

Length to P/H (km)

Total Length (km)

Sirahar 5 5 10 Simanggo-2 4 4 8 Gumanti-1 1 1 2 Anai-1 0 1 1 Endikat-2 2 2 4 Cibareno-1 5 3 8 Cimandiri-1 2 0 2 Masang-2 1 2 3

出典: 調査団

9.7.2 送電線

送電線(電源線)開発において、本来であればルートゾーンの選定、アクセスする流通設備の設

備容量等、技術的課題、経済性、環境社会配慮、気象条件上の懸念等、多角的に送電線建設ルー

トを検討するがあるが、ここでは、簡易的に至近の電力設備(変電所、もしくは送電線)へのア

クセスを想定し、送電線建設距離に大きく依存する送電損失感度(Impact)という形式で評価した。

今回このような簡便な評価方法を用いたのは、現時点における詳細検討は不確定要素が大きいこ

と、また、一般に水力発電所建設に係る総費用において、主たる費用である水力発電所建設費が

大部分を占め、変圧器及び開閉設備、送電設備といった流通設備建設費用は小さい(概ね~10%程度)こと、つまり流通設備に関する建設費用を詳細に見積もり比較することは現時点で得策で

はなく、概要にて判断することが肝要であると判断したためである。

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JICA インドネシア国 9-16 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

(1) 系統アクセス方式想定

各水力ポテンシャルサイトは、既存送電、変電設備及び将来計画送電、変電設備の至近端の系統

アクセス点へ連系することを想定する。本来であれば、既設変電設備(変電所:GI)への系統ア

クセス点を選定する場合、GI に拡張設備を設置可能な空き用地があるか等が検討課題となるが、

今回の検討においてはこのような詳細な検討は行わない。

系統アクセス点へのアクセス方法として、以下の2種のいずれかをアクセス方式として採用する。

また、これらのアクセス方法の共通条件を列記する。

- Extension

- Branching

(共通条件)

- 系統アクセス点への送電線延伸は、並行 2 回線1とする。

- 水力ポテンシャルの想定発電定格容量と各電圧階級標準送電線種の送電容量と対比し、

適正なアクセス系統電圧階級を選定する。ただし、RUPTL に記載の通り、Jamali 系統に

おける 70kV 送電線は将来淘汰されるため、70kV 送電線へのアクセスは検討から外す。

1) Extension

水力ポテンシャルサイトからの至近流通設備が変電所(GI)である場合、サイトより送電線を

延伸し、当該 GI へアクセスする。この場合の必要な流通設備は以下の通り。

- 選定電圧階級 IBT+Trf.B:2Units(発電機定格容量により変圧器容量決定)

- 選定電圧階級 LB :2Units×2 箇所

- 選定電圧階級送電線 :水力ポテンシャルサイト~至近変電所間 2 回線

2) Branching2

水力ポテンシャルサイトからの至近流通設備が送電線である場合、本送電線をπ分岐しサイ

トへ接続する。この場合の必要な流通設備は以下の通り。

- 選定電圧階級 IBT+Trf.B :2Units (発電機定格容量により変圧器容量決定)

- 選定電圧階級 LB :4Units

- 選定電圧階級送電線 :水力ポテンシャルサイト~至近送電線分岐箇所間 4 回線

1 インドネシア国における標準的な送電線設備は並行 2 回線にて形成されているため。 2 T 型分岐という選択肢もあるが、インドネシア系統において T 型分岐による他端子系統運用をしている箇所が少

ないため、π型分岐にて検討することとした。

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JICA インドネシア国 9-17 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

GI ’A                                  GI ’B

Extension

Branching 図 9.7.1 系統アクセス形式

上記必要設備を比較すると、同等規模の発電機定格容量をもつ水力ポテンシャル間では送電

線亘長の違いが費用差として現れる。送電線亘長の相違は、送電損失と等価であるため、送

電損失を評価することが費用の大小を評価することと等価となる。

(2) 送電損失感度

(1)にて想定した送電線に関し、送電損失を感度分析する。適用送電線には各電圧階級にて現在 Java系統において使用頻度の高い送電線種を採用3し、送電損失感度を求める。

適用電圧階級 評価電線種 RAC(effective level/km) 500kV Dove×4 0.104 275kV Zebra×2 0.071 150kV Zebra×2 0.071

ここで各送電線に流れる電流より I2×RAC を求め、送電損失を計算する。本送電損失が概ね 0.5%4を超えない場合問題ないと Normal と判断し、これを超える場合インパクトを Big、極端に少ない

場合はインパクトを Small と評した。

(3) 送電線亘長の見積もり

表 9.7.2 に現場調査及び 新の送電線建設計画に基づき再設計した Pre-FS 候補プロジェクトの送

電線延長を示す。

表 9.7.2 プレ F/S プロジェクト候補の送電線計画案

候補 電圧 (kV) 亘長 (km) アクセスポイント Sirahar 150 58 PLTP Pumuk Bukit Simanggo-2 150 40 Dolok Sanggul Gumanti-1 150 80 Solok Anai-1 150 40 Singkara Endikat-2 150 32 Pagar Alam Cibareno-1 150 50 Bunar Cimandiri-1 150 18 Sukabumi

3 Java 系統における送電線は大容量送電仕様のため、送電ロスは小さくなる傾向にある。特に外島系統においては

これより低容量仕様の送電線を使用する予定である。 4 送配電損失を 10%以下に低減させる目標をもっているインドネシア国において、系統全体における総合的な送

電ロスは 3%前後を目標にしなければならない。これより、サイト~至近端流通設備への局所的な送電ロスは

低限の 0.5%とした。また、本来は無効電力に関する損失も考慮する必要があるが、このような局所的な検討に

おいて、余り意味をもたないため、検討項目から除外した。

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JICA インドネシア国 9-18 2011 年 8 月 水力開発マスタープラン調査

Masang-2 150 36 Simpan Empat, Maninjau

出典: 調査団作成

9.8 プレ F/S 対象案件の選定

環境面、技術面及び経済面での比較を表 9.8.1 に示す。

経済性が比較的に高いこと、ならびに環境面・技術面での困難性が現時点で低いと予想されるこ

とから、本調査において Simanggo-2 と Masang-2 のプレ F/S を実施することが推奨される。事業

の実現性を確認するために、環境面ならびに技術面の詳細な評価が必要である。

HPPS2 で計画された Simanggo-2 と Masang-2 の レイアウトを添付する。

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ファイナルレポート(メイン)

9章

プレ

F/S対象案件の

選定

JICA

インドネ

シア国

9-19

2011年

8月

水力開発マスタープラン調査

表 9.8.1 プレ F/S 対象案件の選定結果

出典:調査団作成

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ファイナルレポート(メイン)

9章

プレ

F/S対象案件の

選定

JICA

インドネ

シア国

9-20

2011年

8月

水力開発マスタープラン調査

Intake

P/H

H/TS/T

P/T

I/W

Intake

P/H

H/TS/T

P/T

I/W

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ファイナルレポート(メイン)

9章

プレ

F/S対象案件の

選定

JICA

インドネ

シア国

9-21

2011年

8月

水力開発マスタープラン調査

Intake

P/HH/T

S/T

P/T

I/WIntake

P/HH/T

S/T

P/T

I/W


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