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Discussion - ベネッセ教育総合研究所Discussion 先進的な学習実践を通して...

Date post: 27-Jan-2021
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学習の進んでいる層と遅れている層の 二極化が浸透している 毎日、子どもと接しておられる先生方の目から見て、 本当に読解力は落ちているのでしょうか。 読解力の低下を感じる場面があるとすれば、 それはどういうときですか。 中川 子どもによって違うため一概にはいえませんが、以前 に比べて子どもの読解力が落ちていると受け止めている教師 は多いようです。小学校で指導していて困るのは、「総合的な 学習の時間」を使って、子どもたちがさまざまな資料を読ん でまとめるときですね。その際、資料を読みこなし、それを 基に自分の考えをまとめることができずに作業がはかどらな い子どもがかなりいることは確かです。読解力を身に付けさ せなければいけないな、と感じるのはそういうときです。 ただ、PISA の学力調査で問題になっているのは、文章を 読んで自分の意見や解釈を述べるという意味での読解力で す。これまでの国語は文章の内容そのものを問う授業が中心 でした。子どもたちがいわゆるアウトプット型の教育を受け ていない中で、意見発表と結びつけた読解力が、以前と比べ てどう変わったかを比較することには無理があると思います。 水野 広い意味で国語力が低下しているとは感じています。 しかし、従来、日本で指導されてきた読解力という点では、 あまり変化していないのではないでしょうか。子どもたちの 中には、塾などで長文読解の問題を解くトレーニングを受け ている生徒もいます。しかし、従来の国語科の読解では、文 章のスタイルや意図、筆者の狙いについて意見を述べたり、作 者の意見に対し自分の考えを表現したりするなどの指導はさ れてきませんでした。PISA 型の、知識を組み合わせて使いこ なす「読解リテラシー」を問う問題は、日本の読解問題とは まったく異なり、そのためにこの部分の点数が低かったと考 えています。これからは子どもが実社会で生きていく上で、 どういう読解リテラシーが必要になるのか、考える必要があ るでしょう。その場合、日本でも PISA 型の読解力を付けて いくことが求められてくると思います。 学力の視点で幅広く見たとき、 日本の子どもたちの現状をどう捉えていますか。 水野 学習が進んでいる生徒の層が薄く、遅れている生徒の 層が厚くなるなど二極化が浸透しているという印象はありま す。これは学力ということではなく、「努力する」「嫌でも勉 強する」「誠実にやり遂げる」といった生活に対する姿勢が変 10 Discussion 先進的な学習実践を通して 見えてくる読解力の課題 ── 読解力向上の鍵は発信型の授業にあり── 水野美鈴 東京都羽村市立羽村第二中学校教諭 中川智子 神奈川県横浜市立さつきが丘小学校教諭 校現場では、子どもの読解力や学力の問題を どのように捉えているのだろうか。 長年、「子どもの学ぶ姿勢」を育てるため、 小学校と中学校で独自の取り組みを実践してきた2 人の先生に、 先進的な試みを通して見えてくる読解力の課題、 これからの方向性について話し合っていただいた。 そこから浮かんできたのは、日本の教育でも「生きる力としての読解力」が 大きなテーマになるということである。 Q Q
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  • 学習の進んでいる層と遅れている層の

    二極化が浸透している

    毎日、子どもと接しておられる先生方の目から見て、

    本当に読解力は落ちているのでしょうか。

    読解力の低下を感じる場面があるとすれば、

    それはどういうときですか。

    中川 子どもによって違うため一概にはいえませんが、以前

    に比べて子どもの読解力が落ちていると受け止めている教師

    は多いようです。小学校で指導していて困るのは、「総合的な

    学習の時間」を使って、子どもたちがさまざまな資料を読ん

    でまとめるときですね。その際、資料を読みこなし、それを

    基に自分の考えをまとめることができずに作業がはかどらな

    い子どもがかなりいることは確かです。読解力を身に付けさ

    せなければいけないな、と感じるのはそういうときです。

    ただ、PISAの学力調査で問題になっているのは、文章を

    読んで自分の意見や解釈を述べるという意味での読解力で

    す。これまでの国語は文章の内容そのものを問う授業が中心

    でした。子どもたちがいわゆるアウトプット型の教育を受け

    ていない中で、意見発表と結びつけた読解力が、以前と比べ

    てどう変わったかを比較することには無理があると思います。

    水野 広い意味で国語力が低下しているとは感じています。

    しかし、従来、日本で指導されてきた読解力という点では、

    あまり変化していないのではないでしょうか。子どもたちの

    中には、塾などで長文読解の問題を解くトレーニングを受け

    ている生徒もいます。しかし、従来の国語科の読解では、文

    章のスタイルや意図、筆者の狙いについて意見を述べたり、作

    者の意見に対し自分の考えを表現したりするなどの指導はさ

    れてきませんでした。PISA型の、知識を組み合わせて使いこ

    なす「読解リテラシー」を問う問題は、日本の読解問題とは

    まったく異なり、そのためにこの部分の点数が低かったと考

    えています。これからは子どもが実社会で生きていく上で、

    どういう読解リテラシーが必要になるのか、考える必要があ

    るでしょう。その場合、日本でもPISA型の読解力を付けて

    いくことが求められてくると思います。

    学力の視点で幅広く見たとき、

    日本の子どもたちの現状をどう捉えていますか。

    水野 学習が進んでいる生徒の層が薄く、遅れている生徒の

    層が厚くなるなど二極化が浸透しているという印象はありま

    す。これは学力ということではなく、「努力する」「嫌でも勉

    強する」「誠実にやり遂げる」といった生活に対する姿勢が変10

    Discussion先進的な学習実践を通して見えてくる読解力の課題──読解力向上の鍵は発信型の授業にあり──●

    水野美鈴[東京都羽村市立羽村第二中学校教諭]中川智子[神奈川県横浜市立さつきが丘小学校教諭]

    校現場では、子どもの読解力や学力の問題を

    どのように捉えているのだろうか。

    長年、「子どもの学ぶ姿勢」を育てるため、

    小学校と中学校で独自の取り組みを実践してきた2人の先生に、

    先進的な試みを通して見えてくる読解力の課題、

    これからの方向性について話し合っていただいた。

    そこから浮かんできたのは、日本の教育でも「生きる力としての読解力」が

    大きなテーマになるということである。

    Q

    Q

  • 化しているからではないかと思います。特にそれを強く感じ

    るようになったのは、この7、8年の間ですね。最近は努力をす

    れば報われるという社会状況ではありません。そうした社会

    全体の変化が生徒たちの意識にも影響していると感じます。

    中川 小学校の場合も、読解力の高い子どもは教師以上に内

    容を深く読みますが、反対にできない子どもはそもそも内容

    に関心を示さないという状況があります。それはこれまでの

    指導の在り方、親の子どもとの関わり方や、教育への関心の

    持ち方といった家庭環境から生じる差かもしれません。

    しかし、小学校の子どもたちを見ていると、前向きに伸び

    ていこうという気持ちはあるように思います。子どもたちの

    良いところは見つけてあげたいし、そういう子どもたちが中

    学校でも頑張っていけるように、さらに子どもに密着した支

    援をしていくことが大切です。

    コミュニケーションを軸とした

    読解力の向上に取り組む

    そうした中で、お2人は子どもの読解力を

    高める指導を実践されています。

    中川先生は「コミュニケーション能力の育成」を掲げ、

    主導的に動かれていますね。

    中川 最初から読解力と結びつけてコミュニケーション学習

    を取り入れたわけではないのです。10年ほど前、国際化が指

    摘される一方で、教育の現場ではいじめや不登校が問題化し

    始めたころ、自分たちの気持ちを伝え合える子どもを育てた

    いと考えたのが発端でした。国立教育政策研究所の有元秀文

    先生にも来校いただき、子どもがコミュニケーション力を身

    に付けると人権意識が育まれるなどいろいろな面でよい点が

    あることも学びました。

    最初は国語の時間に、1人の子どもが他の子どもの前で自

    分のことを話すプライベート型のコミュニケーションから出

    発したのです。そうすると、お互いに相手の話すことを聞き、

    理解して、認め合うようになる。「共感する力」「自己主張す

    る力」「質問する力」「歩み寄る力」などコミュニケーション

    に必要な力が育まれるわけですね。その後さらにコミュニケ

    ーションを広く捉え、学校の全教師の理解と協力の下、全教

    科の基礎としてコミュニケーション学習を取り入れるように

    なりました。現在では学校の教育目標の中心に「コミュニケ

    ーション能力の育成」を設定し、取り組んでいます。

    そもそもコミュニケーションと読解力は、

    どのように結びつくのですか。

    中川 コミュニケーションの学習が進んでくると、自分の気

    持ちだけでなく、自分の考えを発表する場面が増えてきます。

    また、「総合的な学習の時間」が導入された時、子どもたちが

    自分で資料を調べたり読んだりしたことを基に、自分の意見

    を教室で説明する学習が増えてきました。その際、本人が内

    容をきちんと理解していないとみんなに正確に伝えることが

    できません。それでコミュニケーションをしながら、調べた

    中身をより深く読み取ることができる方法はないだろうかと

    あれこれ考えた末に出会ったのが、スペインのモンセラット・

    サルトさんが提唱している『読書へのアニマシオン~75の作

    戦~』(柏書房/2001年)でした。

    「読書へのアニマシオン」は、読んだ本についての楽しいク

    イズやゲームを通して豊かな感性と心を育てます。例えば、同

    書中の作戦31「どうして」では、それぞれの児童に同じ本を読

    んでもらいます。その後、アニマシオンの時間には本の内容に

    関する質問カードを1人ずつに渡し、自分が受け取ったカード

    に対する意見を発表させるのです。「なぜ、主人公はそういう

    行動を取ったのでしょうか」などといった質問ですね。この

    時、他の子どもにも意見をいわせますから、互いに意見を交換

    することで、話の内容を掘り下げて読み、考えを深めることが

    できます。

    どうしても答えられない子どもには、別の子どもとカード

    を交換させる場合もあります。この作戦なども子どもの集中

    力を高め、読解力を引き出し、想像力を豊かにさせます。「面

    白かった」という反応が多いですよ。

    水野 「読書へのアニマシオン」もそうですが、子ども同士

    がお互いにコミュニケートすることは大事だと思います。文

    章にしても1人で読んだだけでは偏った見方になります。内

    容について意見交換することで、同じことでも人によってさ

    まざまな見方があることを知るでしょうし、それはしっかり

    と文章を読みこなすことにもつながりますからね。 11

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    特集 読解力(reading literacy)、日本の教育の何が問われているのか

    Q

    Q

  • 中川 私の学校では、児童に取り組ませたいアニマシオンの

    作戦や、読ませたい本を選んで、学年ごとに計画を立てカリ

    キュラムとして実践しています。

    また、週に3回、朝の15分間を「さつきの時間」と称して、

    各クラスでコミュニケーションを主体とした帯タイムを設けて

    います。独自のカリキュラムを基に内容は学年やクラスごとに

    それぞれ工夫しています。基本的に、スピーチや子ども同士の

    インタビューや話し合い活動を多く行っていますね。この「さ

    つきの時間」を利用して、「読書へのアニマシオン」を行う場合

    もあります。

    さまざまな本や文章を読んだ後、意見を発表する機会が多く

    なるためかも知れませんが、私たちの学校にはみんなの前で自

    分の考えを述べることに抵抗の少ない子どもが多いとの評価を

    いただいています。

    「読解と表現の一体化」で

    生徒の「主体性」を育む

    水野先生は「読解と表現の一体化」ということを

    いわれています。これを学習指導の場で

    実践するための工夫をお聞かせください。

    水野 生徒にはなるべく多様な文章を読ませた方がよい、と

    私は考えています。それも読みっ放しではなく、自分が読み

    取ったことを、何らかの形で表現させます。読んだことを表

    現活動に結びつけないと、本当に内容を理解するのは難しい

    と思うからです。内容をスピーチしたり、討論形式で話し合っ

    たりするなど表現の仕方は多種多様です。物語をシナリオや

    朗読劇に仕立ててみんなの前で発表することもあるし、本に

    書かれていたことに対する自分の考えをまとめ、意見文とし

    て廊下に掲示することもあります。

    生徒たちは普段、あらゆる種類の文章に接しているわけで

    すね。教科書の文章だけでなく、文学作品や論文、広告、イ

    ンターネットの書き込み、雑誌の文章もありますし、図表・

    グラフなどもあります。さまざまな文章を読んで、内容を把

    握し表現するためには生徒の主体性が大事です。自分で課題

    を持ち、それを解決しようとして何度も読む、真剣に学習材

    料と向き合う、その中から自分なりの課題解決を行い、それ

    を表現する。課題解決する中で、自分の中で一度学習材料を

    消化し、それを表現するという過程を通して、初めて読解力

    が身に付くのだと考えています。そのような意味で学習にお

    いては「主体的」ということが基本になると考えています。

    普段、討論やディベートに慣れていない生徒のために

    工夫していることはあります?

    水野 中学1年生の5クラスで「中学生が携帯電話を持つこと

    の是非」を討論したことがあります。この時は、まずクラスを

    携帯電話の「容認派」と「反対派」の半々に分けました。その

    上であらかじめ新聞記事や雑誌、インターネットなどから集

    めておいた携帯電話に関する26種類の賛否両論の文章を生徒

    に読ませ、これを根拠に議論させたのです。中には賛否どち

    らにも取れる文章やグラフ、図表も交えました。「反対派」の

    生徒は「電磁波が健康に有害」「犯罪に巻き込まれる」など自12

    Discussion先進的な学習実践を通して見えてくる読解力の課題

    Q

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    みずの みすず●

    東京都羽村市立羽村第二中学校教諭。

    生徒に文章、映像、図表、グラフなど多様な内容を読ま

    せ、読むだけでなく表現することも含めた「読解と表現

    の一体化」を指導理念とする。

    2004年、「“ヒロシマ”に関連した2つの学習」で読売教

    育賞国語教育部門最優秀賞を受賞。

  • 分の主張を補強する文章を選んで意見を発表し、「容認派」も

    「賛成する根拠」を文章から選んで反論します。

    賛否両方に使える文章やグラフも示した結果、面白い討論

    になりました。例えば、中学生の半数が携帯電話を所持して

    いることを示すグラフをめぐっては、「半数も持っているのだ

    から認めてもらいたい」「いや、半数しか持っていないのだか

    ら認める必要はない」と、賛否両方の意見の根拠として使わ

    れ、討論が盛り上がりました。

    中川 さつきが丘小学校でも朝読書の形で、子どもたちが好

    きな本を読んだ後に内容を紹介し合う時間を設けています。

    シナリオや朗読劇も十分な理解を基に自分の言葉でコミュニ

    ケートするという意味で読解力養成の場になりますね。

    水野 子どもたちの理解する姿勢につながりますね。私は

    「文章を批判的に読む」ことが大事だと思っていますが、日本

    では「批判的に読む」というと、相手を批判し、揚げ足を取

    るといったマイナスのイメージで受け取られがちです。そう

    ではなく、「批判的に読む」とは「目的、経験、教養に照らし

    ながら、文章の内容や表現について吟味し、価値、質、真実

    性、正確度などを評価し、判断する」ということです。中川

    先生が実践されているコミュニケーションを軸とした指導は、

    自分だけの読みに偏ることなく、他の人の意見を聞き、深く

    広く考えることができるので、「批判的に読む」という点で有

    効だと思います。

    「読解と表現の一体化」を図る指導が大事だと思われた

    きっかけは何でしたか。

    水野 教師になって初めの20年間は、勤務した学校がどこも

    生活指導困難校で、教師主導の従来の授業ではなかなか生徒

    が食いついてくれませんでした。どうしたら生徒の興味を惹

    く授業ができるかを試行錯誤しているうちに、「理解」と「表

    現」を一体化させた発信型の学習に行き着いたのです。

    例えば、古典の『平家物語』もただ読んでワークシートに

    まとめて終わるのではなく、まず私が有名な七つの段を紙芝

    居にして見せました。これを参考に、自分たちで気に入った

    段を放送劇や紙芝居、群読(グループで声を合わせて読む)、

    架空インタビューなどの形で発表してみようと呼びかけたの

    です。生徒たちは読み方の工夫や、効果音をどうするかなど、

    お互いに工夫しながら熱心に発表しました。

    本来、生徒は「自分を表現したい」という気持ちを持って

    います。発信型学習を考えるようになったのはそれからです。

    「総合的な学習の時間」をいかに活用するかが

    PISA型の「読解リテラシー」を育む鍵になる

    そうした実践を続けてこられたお2人は、

    今、PISA型の読解力観によって日本の

    教育の何が問われているとお考えですか。

    中川 PISAの学力調査では、単なる知識を超えた学力が測

    定されています。水野先生がおっしゃるように子どもが自分 13

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    特集 読解力(reading literacy)、日本の教育の何が問われているのか

    Q

    なかがわ ともこ●

    神奈川県横浜市立さつきが丘小学校教諭。

    学校では主に国語教育の推進役を担当し、「コミュニケー

    ション能力の育成」を軸とした読解力の向上に取り組む。

    横浜市小学校国語教育研究会の一員としても活動、『豊か

    な言語活動で確かな国語力を!』(横浜市小学校国語教育

    研究会著)にも携わった。

    Q

  • の意見を発表し、文章を批判的に読むことが必要です。それ

    は「生きる力」に近く、これを育むのは容易ではないのです

    が、教師はその前提となる読解力を養うにはどうしたらよい

    かを学ぶべきです。

    とはいえ、PISAの結果が良くなかったからといって、その

    順位を上げようと躍起になることに意味があるとは思いませ

    ん。重要なのは、どういう子どもを育てるのか、そのために

    どういう教育を目指すのかをはっきりさせることです。

    水野 PISAの学力調査が提起したのは、単に文章を読み解

    くという意味の読解ではなく文章を正確に理解し、そこに書

    かれていることを根拠に、自分独自の「解釈」「意見」を述べ

    る力です。日本の国語科の指導で最も手薄だった部分ですね。

    今後、国語の授業でも読解指導の在り方を変えていく必要

    がありますが、同時に他教科でも読解力を身に付けさせるの

    だという強い意識を持って、生徒の指導に当たることが求め

    られてくると受け止めています。

    PISAの学力観に対する一般の先生方の

    認識はどうでしょうか。

    中川 教師にも温度差があるようです。国語科の教師は読解

    力問題に敏感ですが、教科によってはPISAの調査でどんな

    種類の問題が出されたのかをよく知らない教師もいるかも知

    れません。今後、子どもに自由に意見を発表させるアウトプッ

    ト型の指導が求められることは確かでも、その前にはハード

    ルがあるとの印象も持っています。

    例えば、コミュニケーションのスキルの一つ、ディベート

    にしても意外に教師から敬遠されるケースがあります。「言葉

    のゲームです」と説明しても、相手をやっつけるというイメ

    ージがあるのです。また、それに加えて論題作成は、それぞ

    れの教師の力量に関わります。私の学校では「コミュニケー

    ション能力の育成」「読書へのアニマシオン」について校内研

    修をしてスキルを学んでいますが、人事異動でトレーニング

    された教師が他校に移ってしまうので、常に研修が必要とな

    ってきますね。

    水野 先日、ある研究会に参加しましたが、PISA型読解リテ

    ラシーの分科会にたくさんの教師が参加していました。皆さ

    ん、高い関心をお持ちなのだなと感じました。大学の先生方

    といっしょになって読解力の研究に取り組むグループもあり

    ます。その一方で、あまり関心を持っていない教師もいます。

    PISAで出された文章教材は、インターネットの書き込みと

    かグラフや図表など生活に密着した形の教材で、これまでの

    教科書教材にはなかったものです。そこに抵抗を感じる教師

    も多いと思います。

    しかし、現実の社会では、子どもたちが教科書のようなど

    こからも突っ込まれない“無菌状態”の文章を読み続けるこ

    とはあり得ないわけです。これからは教師も教科書教材に頼

    るだけでなく、日常生活で目にする雑誌や広告、インターネ

    ット記事、映像などを活用した独自の教材を開発して、生徒

    に実社会でも通用する読解力を付けさせていくことが重要に

    なると考えています。

    最後に、日本の教育に突きつけられた

    読解力問題に関して、日々、子どもたちを指導されている

    現場の先生からの提言をお聞かせください。

    中川 これからは日本でも発信型の授業が重要になってくる

    ことは確かでしょう。しかし、いくら自分の考えを発信する

    アウトプットが大事とはいっても、土台になるのはあくまで

    「読む」というインプットです。これが十分でなければよい発

    信はできません。

    今、問われている読解力を高めるという意味では、「総合的

    な学習の時間」をより有効に活用する必要があります。この

    時間では、すでに子どもたちが自分で調べたことを形にする

    活動が行われています。これからも、この活動を続けること

    で子どもたちに読解力を身に付けさせていきたいと思ってい

    ます。

    水野 国語の授業で読解指導を変えていくことが大切です。

    同時に、中川先生が指摘されたように、PISA型の読解力を

    育んでいくためには「総合的な学習の時間」がまたとないよ

    い機会になると思っています。「総合的な学習の時間」の中に

    は、生徒たちが自分で課題を持って調べ、体験し、まとめ、

    発表し、お互いに意見を交換し合う場がたくさんあります。

    この時間こそが、実社会で役に立つ「読解リテラシー」を養う

    場であると考えています。14

    Discussion先進的な学習実践を通して見えてくる読解力の課題

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