肝疾患の診断と治療の最先端
高松赤十字病院 消化器内科 小川 力
平成28年10月27日 モーニングセミナー
本日の内容
• 肝機能障害(脂肪肝、NASH)
• ウイルス性肝疾患(C型肝炎)
• 肝細胞癌の最新の診断と治療(US、RFA等)
脂肪肝とは
• 検診で指摘の肝機能障害で最多
• 成人の2~3割が脂肪肝を有する
• 診断にはUS(肝腎コントラスト)やCTが有用
• 採血ではAST/ALTの上昇に加え、コリンエステ
ラーゼ、中性脂肪が高値を呈する
• 最近ではNAFLD、NASH等の用語が用いられる
NASH、NAFLDとは
• NAFLD(ナッフルド、ナッフルディ)は非アルコール性
脂肪性肝疾患(=nonalcoholic fatty liver disease)の
ことで、他の肝疾患が否定的で、飲酒歴のない症例
(20g/日以下)で、肝生検でアルコール性肝炎類似し
た肝脂肪沈着を特徴とする肝障害
• NASH(ナッシュ)は非アルコール性脂肪性肝炎
(=nonalcoholic steatohepatitis)のことで、NAFLDの
重症型、肝硬変への進展、HCCの発癌が指摘
瓶ビール(中)500ml/日
NASH・NAFLDの診療ガイド 2015 文光堂より
NASH、NAFLDの進展とHCCのrisk
HCCの発癌率(5年間)・C型肝硬変は30.5%・NASH肝硬変は11.3%・アルコール性肝硬変は7.1%
脂肪肝からNASHを見分けるには?
単純性脂肪肝とNASH鑑別
• まずはUSで肝障害の程度をcheck+脾腫の有無• AST/ALT高値症例(進行すると低下するので注意)• 特に血小板低下症例(15万以下)はNASHの可能性大
画像診断:脂肪肝
アルコール性脂肪肝、肝障害
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)
単純性脂肪肝
(非アルコール性脂肪肝)脂肪肝炎(NASH)
慢性肝疾患
HBs抗原、HCV抗体、各種自己抗体
肝生検
飲酒歴 ウイルス性肝疾患
なし あり
NAFLD/NASH診断アルゴリズム
なし:男女とも20g/日未満あり
画像診断:脂肪肝
NAFLDの20-30%
NASHの最終診断には肝生検が必要です
実際の肝生検の様子を動画で提示します
肝生検の様子(動画)
肝生検でとれた組織
線維化の進行(C型ウイルス)
F1 F2
F3 F4(肝硬変)提供:今井康陽先生(市立池田病院副院長)
年間発癌率約0.5%
年間発癌率約1.5%
年間発癌率約5%
年間発癌率約8%
軽い肝炎 中等度肝炎
肝硬変の手前 肝硬変
肝生検は入院が必要で血をサラサラする薬を飲んでいる人は原則できません
肝生検に代わる新しい方法が開発されつつあります
高齢化社会を迎え、脳梗塞、不整脈の既往歴を持つ人は増え、抗凝固剤、抗血小板剤の処方頻度は増えています
FibroScan(ファイブトスキャン)について
(長所)Evidenceもあり、保険適応があり(短所)通常のエコーと別に、高額の専用機が必要四国でもほとんど普及していない
非侵襲的な肝臓の硬さの測定方法(当院での動画)
3.3 ± 0.2 kPa
慢性肝炎(F1) 肝硬変(F4)
21.1 ± 4.4 kPa
各社の超音波エコーで肝臓の硬さを測定可能
超音波検査に引き続き、肝臓の硬さを簡便に測定する方法が多数報告されている
Elastgraphy(エラストグラフィー)と呼ばれる、新しい検査の方法
肝胆膵に加え、Elastgraphyができる超音波センターの体制づくりを!
代表的な肝硬変の身体所見手掌紅斑
クモ状血管腫
酒渣(しゅさ)鼻
手掌の内側と外側が目立って赤い
クモの巣の様に細い毛細血管の拡張
手掌紅斑 クモ状血管腫
注意:肝硬変で必ず見られる身体所見ではない
肝硬変の身体所見(下腿浮腫)
脛骨(けいこつ)前面で強く骨に向かって指で押す
指の形に一致し陥凹 数秒でゆっくりと戻る
中等度以上であれば靴下をずらしても、浮腫は分かる(特にキツイ靴下の場合)
進行した肝硬変の身体所見
クモ状血管腫
黄疸 腹水
黄疸や腹水を認める進行した肝硬変症例は、C型肝炎の新薬の治療は受けれません
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 消化器疾患・生活習慣病学のHPよりhttp://www.kufm.kagoshima-u.ac.jp/~intmed2/research/group-a/group-a2.html
HCCの原因
全国でHBV、HCV陰性のHCCが増加!HCC全体の30-40%
門脈腫瘍塞栓
左葉全体がHCC
腹水
食道胃静脈瘤
72歳 男性 NASH:HBs-Ag 陰性 HCV-Ab陰性
DMにて近医フォロー中。3カ月前から腹部違和感を認め、軽度の肝機能障害を指摘。
Stage ⅣA AFP 147.9 、PIVKA-2 18337
NASHのHCC症例
小活1
国民病になりつつある脂肪肝の中にNASHが存在する
NASHは肝硬変、肝臓癌を発症することがある
NASHの診断には肝生検が必要であるが、Plt低下、
エラストグラフィーで繊維化(+)症例が高リスク群
Plt 15万以下
本日の内容
• 肝機能障害(脂肪肝、NASH)
• ウイルス性肝疾患(C型肝炎)
• 肝細胞癌の最新の診断と治療(US、RFA等)
C型肝炎について
C型肝炎ウイルスの感染経路
・現在のおもな感染経路は注射器の共用!
・家族内感染はほとんどなし
・母子感染は10%程度(母乳は大丈夫)
茶山一彰:名医のわかりやすい肝臓の病気(同文書院)を一部改訂
・輸血(1992年以前)
・輸入の非加熱血液製剤
・覚醒剤(注射器の共用)
・入れ墨
・ピアス
・針刺し事故(医療従事者)
輸血後感染は約40%と言われている
ただし透析を長期間している人の感染率は高いと報告されている
C型慢性肝炎は、自覚症状はほとんどありませんが、放っておくと肝硬変や肝がんへ進展する場合があります。
肝発がんリスク
感 染
急性肝炎 治癒
慢 性 肝 炎
感染期間(年)
※:肝線維化の程度による分類
年間 0.5%
年間1.5%
年間 5%
年間 8%
F0※ 血小板
18万以上
血小板15~18万
F1※
F2※
F3※
F4※
血小板13~15万
血小板10~13万
血小板10万以下
肝硬変
肝がん
70%
C型慢性肝炎の線維化と発がん
日本肝臓学会:慢性肝炎の治療ガイド2006を改変
ALT(GPT)より血小板が重要
Plt 15万以下
日本におけるC型肝炎ウイルスのタイプ
1b70%
2a20%
2b10%
昔は難治性、インターフェロンの効きにくいのタイプと言われていた
1型
2型
C型肝炎は1型と2型の2つのタイプに分けられ治療薬が違う
国内第3相臨床試験:
主要評価項目:SVR12率
ギリアド・サイエンシズ株式会社 社内資料(国内第3相臨床試験:GS-US-337-0113)
1型
ハーボニー®
+2型
ソバルディー®
C型肝炎、肝硬変はほぼ治る時代に!
簡単にC型肝炎の治療の歴史を・・・
32
約10年 約10年インターフェロンフリーの時代
インターフェロンの治療効果
40
60
20
80
50~60%
100
0
ペグインターフェロン+ リバビリン併用療法
48-72週間(2004年12月)
インターフェロン+リバビリン併用療法
24週間(2001年12月)
20%(%)
ウイルス陰性化率
インターフェロン単独療法24週間(1992年)
2%
1型高ウイルス量のC型肝炎に対する治療効果
16%
ペグインターフェロン単独投与48週間
(2003年12月)
ペグインターフェロン+リバビリン
+テラプレビル3剤併用療法、24週間
(2011年11月)
70~80%
ペグインターフェロン+リバビリン
+シメプレビル3剤併用療法、24週間
(2013年12月)
80~90%
インターフェロンのみ
2剤併用
3剤併用
インターフェロンフリーの時代
医薬品産業政策研究所 リサーチペーパーシリーズNo.32
患者がIFN治療に同意しない理由n = 32 【複数回答】
(%)
C型肝炎の治療の歴史(1型:昔の難治性)
1989 C型肝炎ウイルス(HCV)発見
1992. 3 IFN療法 24週 承認
2001. 11 IFN α-2b+RBV 24週 承認
2004. 10 PEG-IFN α-2b+RBV 48週 承認(1型高ウイルス量)
2005. 12 PEG-IFN α-2b+RBV 24週 承認(1型高ウイルス量以外)
2011. 9 テラプレビル+PEG-IFN α-2b+RBV 承認(1型高ウイルス量)
12 PEG-IFN α-2b+RBV 承認(C型代償性肝硬変)
2013. 9 シメプレビル+PEG-IFN α-2b+RBV 承認(1型高ウイルス量)
2014. 7DCV+ASV 承認(1型のC型慢性肝炎又はC型代償性肝硬変のIFN不適格又は
不耐容例及び前治療無効例)
9 バニプレビル+PEG-IFN α-2b+RBV 承認(1型高ウイルス量)
2015. 3 DCV+ASV 効能・効果追加(1型のC型慢性肝炎又はC型代償性肝硬変)
7 SOF/LDV 承認(1型のC型慢性肝炎又はC型代償性肝硬変)
9 OBV/PTV/r 承認(1型のC型慢性肝炎又はC型代償性肝硬変)
2016. 9 EBR+GZR 承認(1型のC型慢性肝炎又はC型代償性肝硬変)
今後も様々な新薬が登場予定です!
C型肝炎の治療薬(1型)
ヴィキラックス®1日2錠
ハーボニー®1日1錠
12週間
12週間
ダグルインザ®1日1錠
スンべプラ®1日2カプセル
24週間①
②
③
+
薬剤名 治療期間 効果
94.2%
(98.6~)100%
84.7%
C型肝炎の治療薬(2型)
12週間ソバルディ®1日1錠
or
コペガス®1日3~5錠
レベトール®1日3~5カプセル
治療期間
効果
96.4%
副作用がほとんどなく
80歳以上の高齢でも可能
肝生検も必須ではなく
約3ヶ月の(1~)2週間に1回の外来通院で
ほぼ100%治る
非常に高額な薬剤となっています
新しいC型肝炎、肝硬変のでの治療
販売時:C型肝炎の治療費(1型)
ヴィキラックス®5万3602円/2錠/日
ハーボニー®8万171円/錠/日
75万428円/箱/2週
224万4796円/ボトル/月
450万2568円/12週
673万3489円/12週
ダグルインザ®9186円/錠/日
スンべプラ®6561.4円/2錠/日 22万458円/箱/2週
264万5496円/24週
1ヶ月分の単位でしか処方できない
透析症例で使用
新薬価:C型肝炎の治療費(1型)
ヴィキラックス®5万3602円/2錠/日
ハーボニー®5万4796円/錠/日
75万428円/箱/2週
153万4313円/ボトル/月
450万2568円/12週
ダグルインザ®7902円/錠/日
スンべプラ®5694円/2錠/日 19万367円/箱/2週
228万4413円/24週
1ヶ月分の単位でしか処方できない
透析症例で使用
460万2939円/12週
今後の展望(CKD、HD症例)
・1型の症例でも12週間のIFNフリー治療が近づいている
・2型を含め、新薬の開発はめまぐるしく進歩、進展
David Roth, et al. Lancet 2015; 386(10003): 1537-1545.
CKDステージ4~5の重度腎機能障害合併の1型のC型肝炎患者116名に対し、12週間のエルバスビルとグラゾプレビルの併用療法で115名(99.1%)がSVR12を達成
階層区分世帯あたり
市町村民税(所得割)課税年額自己負担額の上限(月額)
甲 235,000円以上 20,000円
乙 235,000円未満 10,000円
※住民票上の世帯の収入が原則ですが、患者さんと同一生計にない方(税制上および医療保険上の扶養関係にないと認められた方)については、課税年額を合算せずに区分けされます。
助成金制度
現在のC型肝炎の治療は非常に高額ですが、1ヵ月 1(-2)万×3ヵ月分で治療可能
愛媛県、徳島県、高知県は肝臓専門医のみ処方可能香川県は例外的も、処方する施設、Drは非常に限定
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
LDV/SOF
SOF+RBV
10095.8
1型
当院でのC型肝炎の新薬の治療成績(SVR12)
2型(%)
ハーボニー® ソバルディー®
平成28年9月末現在のSVR12
C型肝炎の治療の問題点はないのか?
• 副作用のほとんどない治療でほぼ全例治る
• C型肝硬変の初期も対象で、80歳代でも可能
• 入院も不要で、1-2週間の外来通院を3ヶ月
• 高額な薬代も助成金制度を使えば1-2万/月まで
世界一受けたい授業 2時間SP2016年1月9日放送(日本テレビ)
世界一受けたい授業 2時間SP2016年1月9日放送(日本テレビ)
ひとつだけ残念な事・・・・
当院の電子カルテでの感染症の簡易な確認方法
必ず外来、入院Ptの感染症をcheckしましょう。Drだけでなく、コメディカルの方もご協力を!
クリック!
小活2
B型肝炎、肝硬変は内服でコントロールが可能
C型肝炎、初期の肝硬変はほぼ治る時代
主治医からの肝臓専門医の紹介が重要
コメディカルを含む
本日の内容
• 肝機能障害(脂肪肝、NASH)
• ウイルス性肝疾患(C型肝炎)
• 肝細胞癌の最新の診断と治療(US、RFA等)
造影CT 血管造影 Bモードエコー
肝細胞癌の画像診断
早期の肝細胞癌の診断
造影エコー(ソナゾイド®エコー)
(診断能)
•Bモードより腫瘍検出感度が高い
•微小血管を最も鋭敏に評価できる
保険認可・肝腫瘤性病変・乳房腫瘤性病変
(安全性)
•腎機能障害患者にも使える
•禁忌は卵アレルギー患者のみ
慢性B型肝炎にて通院中、肝機能安定し
半年に一回のUSでフォロー中
B-modeのUSではSOLなしも、AFP上昇ありソナゾイドUSを追加
使用装置: Logiq E9(GE社製)プローブ: C1-5 (3.5MHz)
GE社 Logiq E9使用プローブ 9L
Hepatocellular carcinomamoderately differentiated typeeg,fc(-),s0,vp0,vv0,va0,sm(-)
GE社 Logiq E9使用プローブ 9L
肝臓癌の治療①手術(開腹手術、腹腔鏡手術)
②RFA(ラジオ波焼灼術)
③血管造影(肝動脈塞栓術:TACE等)
④抗癌剤(ネクサバール®)
⑤その他(数年後には免疫療法)悪性黒色腫治療の新たな選択肢ヒト化抗ヒトPD-1モノクローナル抗体
キイトルーダ®
KML16SS013A-0917
http://masa-cbl.hatenadiary.jp/entry/20160507/1462625201
RFA(ラジオ波焼灼術)のイメージ
動画でRFAの光景をご覧ください
現在RFAはドルミカム®(ミダゾラム)を用いた、沈静下RFAを導入し、痛みを感じることなく、無痛RFAを当院では導入
Hyperemic Rim
Coagulation zone
(= RF lesion)
RFA 焼灼範囲の実際
RFA術前・術後CT画像
最後に
• B型肝炎、C型肝炎の再チェックを!
• 気軽にエコー室に来てください
当院の電子カルテでの感染症の簡易な確認方法
必ず外来、入院Ptの感染症をcheckしましょうDrだけでなく、NS、MCさんも
クリック!
ウイルス肝炎検査のフォローの実態
最近の症例70歳代男性、約5年前に手術施行し、C型肝炎陽性を指摘
専門科受診を指示されず?、その後近医でフォロー、US等なし今回無症状であったが、突然の右季肋部痛で紹介受診
右葉の6cmのHCC
門脈の本幹が癌の浸潤で閉塞
肝臓癌の破裂、腹水
StageⅣA:門脈腫瘍塞栓があり、平均余命は約3ヶ月
毎日新聞 東京
2006年 9月2日
肝硬変と診断された患者の癌検査をせずにし肝癌で死亡した患者の遺族が医師を訴えた裁判で、5.100万円もの慰謝料を命じる判決が下された。
「検査を怠り病状の進行を見逃した、初歩的で重大な過失」との遺族の主張が通った判決。
要 点
腹部超音波室の各社の最上位機種のUS
GE:Logiq E9XDclear 日立アロカ:Ascendus東芝:Aplio500
是非気軽にUS室に遊びに?来てください
2016年10月8日日本超音波医学会_四国地方会_ハンズオン講師
2016年11月2-5日 国際学会でUSのハンズオンセミナー講師Asia Pacific Digestive Week (アジア太平洋消化器病週間)
肝臓、超音波に関して、トップクラスの診断、治療
2016年10月29日日本超音波医学会_関西地方会
Oncology 2015; 89: 11-18
Digestive Diseas 2016; 34(6): 696-701
来年医学書院から出版予定「消化器内科レジデントマニュアル(仮)」
分野:「画像診断:腹部超音波・造影超音波」にも執筆
近畿大学 消化器内科教授工藤 正俊 先生
最後に
• 脂肪肝の中でのNASHの拾い上げが重要
• C型肝炎の治療は、ほぼ全例が根治が期待できる
• 専門医への紹介が大きな問題点として残っている
• 肝臓癌の診断、治療も進歩している
• 最先端の医療を発信する施設として更なる進歩を
長時間ご清聴ありがとうございました
Lake Louise, AB Canada