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ホログラフィックフェムト秒レーザー加工(SLM:Spatial Light...

Date post: 22-Oct-2020
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1.まえがき 近年の社会的な環境意識の高まりによって,製造工程に おける環境に対するコストの評価が重要となっている.レ ーザー加工は,高いレーザー利用コストから,高付加価値 製品の製造プロセス以外では実用化困難であるとされて いた.しかし,半導体加工技術等,化学的な処理を含む多 くの加工法と比較して,ドライプロセスであるレーザー加 工は,低エネルギーで低排出であり経済性に優れた技術で あるという認識が確立しつつある. フェムト秒レーザーは,半導体光検出器や太陽電池上へ のナノ構造の形成による検出感度の高帯域・高感度化や金 属に特殊な光沢感を与えるカラードメタルなどの表面修 飾技術,フォトニック結晶や3次元光導波路などの3次元 構造形成技術,多光子顕微鏡によるバイオサイエンス,レ ーザーパルスの時間的偏光制御による分子の量子制御な ど,新しい研究開発に用いられており,本研究で進められ ているフェムト秒レーザーパルスの並列光制御技術を簡 便な方法で提供できれば,科学や産業を支える基盤的な技 術の一つになり得る. フェムト秒レーザー加工は,材料の内部や表面に特徴的 な加工を行う有効なツールである.加工分解能がサブミク ロンオーダであり,ミリメートル以上の実用的なデバイス サイズを実現するためには,膨大な数のパルス照射を必要 とする.そのため,加工スループットの向上は,産業利用 の上で重要な課題である.その課題に対して,従来のビー ム走査によるレーザー加工と同様に,レーザーのハイパワ ー化と高繰り返し化,ステージやスキャナの高速化に加え て,並列加工法が有効である.特に,空間光変調素子 SLMSpatial Light Modulator)に表示された計算機 ホログラム(CGH Computer-Generated Hologram)は, 任意で可変な並列のフェムト秒レーザー加工を実現する [1].これは,ホログラフィックフェムト秒レーザー加工 と呼ばれ,集光ビームの整形による面加工[2]3 次元的 な一括加工[3]を実行し,以下の様な特徴を有する. (1) 加工スループットの向上 計算機ホログラムによるビーム分割や整形により, 単一パルスで同時多数の並列加工や大面積一括加工 を可能とし,加工スループットを向上する. (2) 光利用効率の向上 レーザー加工のいくつかの例において,レーザーが 出射するパルスエネルギーと所望の加工を行うため の適切なパルスエネルギーとの間には差があり,減光 素子を用いてパルスエネルギーを低減して,加工対象 に照射する.このエネルギーギャップは,パルスを並 列化することで埋めることができ,エネルギーロスを 減らせる. (3) 可変並列加工 SLM の使用は,変更可能なビーム整形を可能とし, ビームの並列化と走査から成る新しいビーム照射ス キームへと発展する.可変並列ビームとビームスキャ ナや移動ステージとの協調動作は,産業利用における 高速加工において重要である[4,5](4) 透明材料中への 3 次元加工[3,6,7] 焦点距離の異なるレンズを同時に生成し,異なる深 さや高低差のある表面に同時加工を実行できる.また, 回折型アキシコンレンズにより生成された長焦点ビ ームによる高アスペクト比のナノチャンネル加工が 実行される[8].その焦点の長さは,その修正型アキ シコンレンズにより制御できる. (5) 瞬時加工 加工中にターゲットの動きや変形がある場合,適切 な位置への加工を困難にする.その場合,レーザー加 工システムは,物体計測システムを含むフィードバッ クビーム制御システムを必要とする.単一ショットの 並列加工は,瞬時に加工を終了できるため,計測シス テムの測定回数や要求される速度性能を低減する.さ らに,ビーム走査による加工の場合,その前の加工の 際に発生したプルームやデブリによって,適切なレー ザー照射の妨げとなり精密な加工の障害となるが,単 一ショットの加工の場合,その問題は緩和される. (6) 光学系の補正 加工光学系や加工対象を含め,光源から加工部位ま での間には光学的な不完全性を有する.典型例として, 加工対象と周辺媒質の屈折率ミスマッチに由来する 球面収差が,集光径を拡大させる.これは,CGH ビーム整形のための位相分布に加え,収差補正のため の位相分布を加えることにより解消される[9,10].ま た,SLM 自身の有する空間的不均一性や空間周波数 Review ホログラフィックフェムト秒レーザー加工 早崎 芳夫 * Y. Hayasaki * 宇都宮大学 オプティクス教育研究センター 教授 - 55 -
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  • 早崎 芳夫

    1.まえがき 近年の社会的な環境意識の高まりによって,製造工程に

    おける環境に対するコストの評価が重要となっている.レ

    ーザー加工は,高いレーザー利用コストから,高付加価値

    製品の製造プロセス以外では実用化困難であるとされて

    いた.しかし,半導体加工技術等,化学的な処理を含む多

    くの加工法と比較して,ドライプロセスであるレーザー加

    工は,低エネルギーで低排出であり経済性に優れた技術で

    あるという認識が確立しつつある.

    フェムト秒レーザーは,半導体光検出器や太陽電池上へ

    のナノ構造の形成による検出感度の高帯域・高感度化や金

    属に特殊な光沢感を与えるカラードメタルなどの表面修

    飾技術,フォトニック結晶や3次元光導波路などの3次元

    構造形成技術,多光子顕微鏡によるバイオサイエンス,レ

    ーザーパルスの時間的偏光制御による分子の量子制御な

    ど,新しい研究開発に用いられており,本研究で進められ

    ているフェムト秒レーザーパルスの並列光制御技術を簡

    便な方法で提供できれば,科学や産業を支える基盤的な技

    術の一つになり得る.

    フェムト秒レーザー加工は,材料の内部や表面に特徴的

    な加工を行う有効なツールである.加工分解能がサブミク

    ロンオーダであり,ミリメートル以上の実用的なデバイス

    サイズを実現するためには,膨大な数のパルス照射を必要

    とする.そのため,加工スループットの向上は,産業利用

    の上で重要な課題である.その課題に対して,従来のビー

    ム走査によるレーザー加工と同様に,レーザーのハイパワ

    ー化と高繰り返し化,ステージやスキャナの高速化に加え

    て,並列加工法が有効である.特に,空間光変調素子

    (SLM:Spatial Light Modulator)に表示された計算機ホログラム(CGH:Computer-Generated Hologram)は,任意で可変な並列のフェムト秒レーザー加工を実現する

    [1].これは,ホログラフィックフェムト秒レーザー加工と呼ばれ,集光ビームの整形による面加工[2]や 3 次元的な一括加工[3]を実行し,以下の様な特徴を有する. (1) 加工スループットの向上

    計算機ホログラムによるビーム分割や整形により,

    単一パルスで同時多数の並列加工や大面積一括加工

    を可能とし,加工スループットを向上する. (2) 光利用効率の向上

    レーザー加工のいくつかの例において,レーザーが

    出射するパルスエネルギーと所望の加工を行うため

    の適切なパルスエネルギーとの間には差があり,減光

    素子を用いてパルスエネルギーを低減して,加工対象

    に照射する.このエネルギーギャップは,パルスを並

    列化することで埋めることができ,エネルギーロスを

    減らせる. (3) 可変並列加工

    SLM の使用は,変更可能なビーム整形を可能とし,ビームの並列化と走査から成る新しいビーム照射ス

    キームへと発展する.可変並列ビームとビームスキャ

    ナや移動ステージとの協調動作は,産業利用における

    高速加工において重要である[4,5]. (4) 透明材料中への 3 次元加工[3,6,7]

    焦点距離の異なるレンズを同時に生成し,異なる深

    さや高低差のある表面に同時加工を実行できる.また,

    回折型アキシコンレンズにより生成された長焦点ビ

    ームによる高アスペクト比のナノチャンネル加工が

    実行される[8].その焦点の長さは,その修正型アキシコンレンズにより制御できる.

    (5) 瞬時加工 加工中にターゲットの動きや変形がある場合,適切

    な位置への加工を困難にする.その場合,レーザー加

    工システムは,物体計測システムを含むフィードバッ

    クビーム制御システムを必要とする.単一ショットの

    並列加工は,瞬時に加工を終了できるため,計測シス

    テムの測定回数や要求される速度性能を低減する.さ

    らに,ビーム走査による加工の場合,その前の加工の

    際に発生したプルームやデブリによって,適切なレー

    ザー照射の妨げとなり精密な加工の障害となるが,単

    一ショットの加工の場合,その問題は緩和される. (6) 光学系の補正

    加工光学系や加工対象を含め,光源から加工部位ま

    での間には光学的な不完全性を有する.典型例として,

    加工対象と周辺媒質の屈折率ミスマッチに由来する

    球面収差が,集光径を拡大させる.これは,CGH にビーム整形のための位相分布に加え,収差補正のため

    の位相分布を加えることにより解消される[9,10].また,SLM 自身の有する空間的不均一性や空間周波数

    ホログラフィックフェムト秒レーザー加工 写真位置

    削除しない

    でください

    Review

    ホログラフィックフェムト秒レーザー加工

    早崎 芳夫 *Y. Hayasaki

    * 宇都宮大学 オプティクス教育研究センター 教授

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  • 応答特性が補正される[11,12].光学系の有する収差や微小なミスアライメント等の前もって同定が困難

    な静的な不完全性が,光学系内で補正される[13-15].これは,CGH のシステム内最適化法と呼ばれる.

    (7) 適応的補正 加工システムの機械的動きや空気ゆらぎが,動的で

    予想困難な波面の乱れを与える.補償光学を挿入して

    CGH を実時間で最適化し,加工システム内の動的な変化に追従する.

    (8) 能動的制御 物体の状態を計測しながら,その状態にあわせて最

    適なビームを能動的に生成し,加工を行う.例えば,

    平面加工において,物体の面形状を計測しながら,適

    切な位置に焦点位置を補正しながら加工を行う.

    これらの特徴を備えたホログラフィックなレーザー照

    射法は,2 光子顕微鏡[16],2 光子造形[17-21],光導波路形成[22-24],体積型回折格子[25,26],遺伝子導入[27]に適用されている.また,材料表面のナノ構造[28-30]の高速形成にも有望である[31].これまでのほとんどの研究は,原理確認的実証研究であったが,先にも述べたように,産

    業応用に向けて加工スループットの向上は必須である.そ

    の加工スループットを決める重要なファクタは,並列ビー

    ム数であるが,その解析的・実験的限界の検証がなされて

    こなかった.それは,ホログラフィックレーザー加工シス

    テムにおける多くの同定困難な不完全性が,その限界を示

    す大規模並列加工の実現を妨げていたからである. 本報告では,ホログラフィックフェムト秒レーザー加工

    システムでの CGH の設計法,特に,CGH のシステム内最適化の有用性について述べる.次に,システム内最適化

    されたCGHを用いた 1,000ビーム以上の大規模並列加工を示す.最後に,今後の展開を述べる. 2.加工システム

    図 1 は,ホログラフィックフェムト秒レーザー加工システムを示す.このシステムは,フェムト秒レーザーシステ

    ム(Coherent, Micra and Legend Elite),LCOS-SLM( Liquid-Crystal on Silicon SLM; Hamamatsu, X10468),計算機(PC; Intel Core i5 3.20 GHz, 2 GB RAM)から構成される.フェムト秒レーザーシステムから出射されたレーザーパルス(中心波長λc = 800 nm)は,ビームエキスパンダによりビーム径を拡大され,

    LCOS-SLM を照明する.レーザーパルスは,出射面において 45 fs であるが,CGH における波長分散の影響を低減するために,波長フィルタにより半値全幅Δλ = 8 nm のスペクトル幅(パルス幅τ = 110 fs)に制限された.LCOS-SLM 上の CGH により回折されたパルスは,フーリエ変換レンズの焦点で所望のパターンを形成する.

    SLM の多くは,回折角を大きくすると,回折効率が低下する特性を有する.その低下分は非回折光となり,レンズ

    の焦点面のビームストップで除去される.今回の実験では,

    最大並列数を知るために,全周波数面を使うので,そのビ

    ームストップは使用されていない.ビームサンプラ(BS:Beam Sampler)によって分割されたパルスが,冷却 CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ(BITRAN, BU-40)を用いて取得される.計算機は,計測された並列ビームの強度分布の情報を用いて CGH を再計算する.並列パルスの強度計測と CGH の再計算は,並列パルスの十分な均一性が得られるまで繰り返される. 十分に最適化された並列パルスは,レンズと 60 倍対物

    レンズ(OL)(NA = 0.85)で構成される縮小光学系を介してサンプル表面に照射される.なお,対物レンズは応用に合

    わせて選択されるが,LCOS-SLM の像を対物レンズの瞳に合わせる必要がある.入射エネルギーE は,サンプル面での回折光の平均エネルギーとして表される.E = EfrontTOSTOL/N ここで,Efront はレーザーの出射エネルギー,TOS,TOL は,それぞれ,光学系と OL の透過率,Nは回折点数である.サンプルにはスーパーホワイトクラウ

    ンガラス(B270, Schott)を使用する.加工の様子を観察するために,ダイクロイックミラー(DM:dichroic mirror),ハロゲンランプ(HL:halogen lamp),IRカットフィルタおよびCCDイメージセンサが用いられる.

    図1 ホログラフィックフェムト秒レーザー加工システ

    ム.BS:ビームサンプラー,PM:プリズム,DM:ダイクロイックミラー,HL:ハロゲンランプ,OL:対物レンズ.

    3.CGH の最適化法

    3.1 コンピュータ内最適化

    通常,CGH は,計算機の中で所望の出力を得られるように十分に最適化された後,SLM に表示して,その所望の出力を再生する.コンピュータ内では,回折効率 99%以上,目標値に対する再生の精度 99%以上の CGH が得られる.しかし,光学系には理想的な状態からの多様なズ

    レがあるので,コンピュータ内で最適化された CGH を何も考慮せずに SLM に表示すると,高い再生精度は得られない.原理確認の研究では問題ないが,実用デバイスの作

    製には使えない.そのため,ホログラフィックな方法は良

    くないと判断されることがあるが,それは間違いである.

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  • 3.2 SLM の空間応答特性を考慮したコンピュータ内最

    適化

    SLM は,空間的なローパスフィルタの特性を有する.すなわち,与える縞が細かくなると,縞のコントラストは

    低下する.言い換えれば,CGH によって曲げる光の角度を大きくすると,その回折効率は減少する.これを解決す

    る方法として,2 つの方法がある.1 つは,この空間応答特性を CGH の最適化プログラムの中に組み込むことである[11].まず,SLM の空間応答特性を計測する.そして,CGH の高速フーリエ変換像に対して,計測した SLMの空間応答特性を掛け合わせて逆フーリエ変換を行えば,

    実際の SLM 内の位相分布状態を表現できる.ホログラム最適化法の多くは,高速フーリエ変換を使うので,複素画

    像の乗算が 1 回増えるだけで,計算負荷は少ない.もう 1つの方法は,CGH を通常の方法で最適化して,計測した空間応答特性の逆特性を乗じ,SLM に表示する方法である[12].経験的には,前者の方法が良いが,後者の方法は,表示の際に特性の微調整を行いながら,良好な再生像を探

    索できる. 3.3 システム内最適化

    SLM の空間応答特性の空間的不均一,レーザー光の空間分布,屈折率ミスマッチによる球面収差などの前もって

    知ることのできる加工システムの不完全性を考慮しても,

    光学系には,微小なミスアライメントや収差等の事前の同

    定が困難な未知の不完全性があるため,十分な精度を得ら

    れない場合がある.そこで,CGH を光学系の中で最適化するシステム内最適化法が考案された[13].システム内最適化法には,光強度最適化法[13]と第 2 高調波最適化法[15]が実証された.光強度最適化法は,CGH の再生像を観測して,その再生像が所望の画像になるように最適化を

    する方法である.第 2 高調波最適化法は,CGH の再生像で第 2 高調波を発生し,その第 2 高調波画像を所望の画像にするように最適化をする方法である.第 2 調波最適化法では,第 2 高調波の強度に依存するピーク強度を最適化できる.すなわち,パルスの空間的・時間的なプロファイ

    ルを考慮して,ホログラムを最適化できる.第 2 高調波最適化法の方が,フェムト秒レーザー加工では高い精度を得

    られるが,実験系が煩雑になるので要求に応じて選択され

    る. 図 2 は,CGH の第2高調波最適化法の最適化過程を示す.黒丸が並列第 2 高調波の均一性,白丸が第 2 高調波の総和を示しており,並列パルスが,光強度の低下なく,

    徐々に均一化される.

    図2 18点並列ビームの第2高調波最適化法による最適化.

    均一性の変化(黒丸)と第2高調波強度の総和(白丸). 内部に示された図は,i回目の繰り返しにおける第2高調波並列ビームの空間プロファイル.

    3.4 システム内最適化を適用した最適回転角法

    システム内最適化のコンセプトは,あらゆる CGH の最適化法に適用できる.ここでは,最適回転角法(ORA: optimal rotation angle) (32)を光強度最適化法に基づくシステム内最適化のために改良した方法を示す. ホログラム面上の位置 h での振幅 ah と位相φh(i)を有する複素振幅と,再生面上の位置 r での複素振幅 Ur(i)との関係は, Ur(i) wr(i) ah exp[i(hr h(i) )]h , ここで,i は繰返し回数,φhrは,h から r への光伝搬による位相,wr(i)は回折光強度を制御する重み係数である.回折光強度の総和 Σr|Ur(i)|2 を最大化するために,位相φh(i)に加える位相変化Δφh(i)は

    h(i) tan1(S2 / S1)

    S1 wr(i)ah cos[r (hr h

    (i) )]r

    S2 wr(i)ah sin[r (hr h

    (i) )]r

    で計算される.ここで,φrは再生面の位置rでの位相である.CGHの位相 φh(i) は,Δφh(i) により次式,

    h(i+1) h

    (i) h(i).

    で更新される.

    さらに,各回折点での光強度を調整するために,Ir(i) も,また,再生光強度 Ir(i ) = |Ur(i )|2 を用いて,以下の式で 更新される

    )(

    )()1(ir

    dri

    rir I

    Iww

    ここで,Ird は所望の光強度,α は定数である.位相の更新量Δφh(i ) と重みwr(i ) は Ir(i ) がIrd に十分に近づくまで,繰り返し更新される.

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  • 4.大規模並列加工の実験 図 3(a) は,コンピュータ内でのみ最適化された CGHの光学再生像とその光強度プロファイルを示す.並列ビー

    ム数は 1,005 である.再生像中の中央の輝点は,非回折の0 次光である.再生中のピーク強度の最大値に対する最小値である均一性 U は,0.32 であった.コンピュータ内では,U > 0.99 となるような高い品質の再生であったが,光学系での再生品質は低下した.ことに,高空間周波数領

    域におけるピーク強度が,SLM の空間周波数特性に依存して低下した. 図 3(b) は,SLM の空間応答特性を与えた再生を含む計算機内最適化されたCGHの再生像とそのプロファイルを示す.その光学再生の高周波成分は改善したが,光学シス

    テムの未同定の不完全性によって,U = 0.46 に性能低下した.その時,コンピュータ内の再生も,回折光のサイド

    ローブや高次回折光の相互干渉により U = 0.8 に低下した. 図 3(c) は,システム内最適化により生成された CGHの再生像とプロファイルである.その高空間周波数領域の

    回折光領域が増強され,U は 0.84に向上した.この値は,空間応答特性を与えた再生を含む計算機内最適化の再生

    と同じであった.

    図3 (a) コンピュータ内でのみ最適化されたCGHの光学再生像とその光強度プロファイル.(b) SLM の空間応答特性を与えた再生を含む計算機内最適化さ

    れた CGH の再生像とそのプロファイル.(c) システム内最適化により生成されたCGHの再生像とプロファイル. (d) CGH最適化過程における繰り返しに対する均一性の変化である.鎖線は,SLM の空間応答特性を与えた計算機内再生による最適化過

    程である.黒丸は,システム内最適化の過程,白丸

    は全光量を示す. 図 3(d) は CGH 最適化過程における繰り返しに対する

    U の変化である.鎖線は,図 3(b)に示す,SLM の空間応

    答特性を与えた計算機内再生による最適化過程である.黒

    丸は,図 3(c)に示す,システム内最適化の過程を示す.白丸は全光量を示す.最適化プロセスの 100 回の繰り返しで,124 分を要した.両者ともほぼ同じ性能を示しており,システム内最適化が,光学系の性能限界で CGH を最適化していることを示す. 5.今後の展開

    研究開発の方向としては,学術的には,時空間的に制御

    されたフェムト秒レーザーパルスと物質との相互作用の

    研究,工学的には,0.99以上の均一性を得られる空間光変調素子の開発,高スループット化のための手法,ホログラ

    フィックピコ秒レーザー加工とホログラフィックナノ秒

    レーザー加工,ハイパワーレーザーに対応可能な高ダメー

    ジしきい値を有する空間光変調素子等の開発,商用的には,

    穴あけ加工,切断加工,剥離加工,表面修飾等の応用分野

    への開発である.

    謝 辞

    本研究は,公益財団法人天田財団からの一般研究助成に

    より実施した研究に基づいていることを付記するととも

    に,同財団に感謝いたします.

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