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デジタルトランスフォーメーション - Oracle...エグゼクティブサマリー...

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デジタルトランスフォーメーション 日本の地域銀行への提言 柳川 英一郎 2017 9
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Page 1: デジタルトランスフォーメーション - Oracle...エグゼクティブサマリー 本稿は日本の地域銀行にデジタルトランスフォーメーションによる銀行業モデルの転換を提言する

デジタルトランスフォーメーション

日本の地域銀行への提言

柳川 英一郎

2017年 9月

Page 2: デジタルトランスフォーメーション - Oracle...エグゼクティブサマリー 本稿は日本の地域銀行にデジタルトランスフォーメーションによる銀行業モデルの転換を提言する

目次

エグゼクティブサマリー ........................................................................................................1

課題認識.......................................................................................................................2

地域銀行が認識すべき経営環境の変化 ........................................................................2

デジタルな時代風景 .....................................................................................................4

何故、現代化が必要か? ............................................................................................6

銀行において、デジタルとは何を意味するか? ......................................................................8

デジタルとは? .............................................................................................................8

バンキングにおけるデジタルのフレームワーク .......................................................................9

新たなバンキングモデルを求めて .......................................................................................16

顧客との距離を縮める、フリクションレスなプロセスと組織 ..................................................16

デジタルのインパクト ....................................................................................................17

新たな銀行業のパラダイム:モジュラーモデルへ ..............................................................18

モジュラー・コアバンキング .............................................................................................18

日本の地域銀行への提言..............................................................................................20

デジタル銀行への指針 ................................................................................................20

背景 ............................................................................................................................21

セレントによる関連レポート ..............................................................................................22

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エグゼクティブサマリー

本稿は日本の地域銀行にデジタルトランスフォーメーションによる銀行業モデルの転換を提言する。

今日の地域銀行にとって、デジタルのインパクトを変革の契機と受け止め、ビジネスと ITのアーキテ

クチャを再考し、モジュール設計に取り組むことが最重要課題である。デジタルが金融サービスの需

要サイド(消費者)に引き起した地殻変動は、金融サービスの供給サイド(金融機関)に大き

な津波をもたらした。そのインパクトを正しく認識し、新たなビジネスモデルとそれを司る IT ソーシング

の模索が必要である。

基幹システムの現代化を考える際には、都市銀行の「片寄」、地域銀行の「共同化」など、銀行

業界に固有の事情に対するデジタルのインパクトを正しく認識する必要がある。デジタルは、①人

口構造の変化、②可処分所得の変化、③運用環境の悪化、④規制緩和といった経済環境上

の要因以上に、銀行のビジネスモデルとそれを支える IT アーキテクチャに大きな衝撃をもたらしてい

る。

顧客が金融/銀行サービスに期待する水準は加速度的に上昇している。銀行の対応についての好

悪はよりはっきりとし、「好ましくない」銀行との取引をやめ、「好ましい」金融機関との取引にシフトす

る。デジタルによって顧客は簡単に銀行をスイッチできるようになり、「好ましくない」取引経験のレ

ビューは瞬時に拡散する。こうして顧客の経験は瞬く間に共有され、アナログ銀行は置いてきぼりと

なる。

デジタルの津波は決して一過性のものではない。ネットワークとデジタル機器の普及が消費者の生

活様式を変え、デジタルコンテンツ/サービスの拡大は止まることを知らない。デジタルは、金融/銀行

サービスの需要者たる消費者の状況を日々変化させている。音楽業界や旅行業界がどのように変

化したかを振り返れば、金融業界の明日も容易に想像出来よう。

規制当局や業界団体の動きも明らかに変化した。「金融機能の安定を確保し、金融商品取引

利用者の保護を図るとともに、金融の円滑を図る」との基本姿勢は不変であるが、当局の方針は、

その先にある「顧客企業の成長と地域経済への貢献」に軸足を移している。加えて、地方経済成

長の鈍化、人口減少、運用環境の悪化は、今までに経験したことのない状況にある。

変革を求める地域銀行にとって、デジタルトランスフォーメーションこそ起死回生の切り札となり得る。

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課題認識

地域銀行が認識すべき経営環境の変化

「合従連衡」、「再編」、「業態転換」といったキーワードが今日の地域銀行を取り巻く経営環境を

象徴することに異論は無かろう。地域銀行に限らず、日本の銀行業を取り巻く事業環境は、①市

場、②商品・サービス、③顧客関係の 3点で、かつてない変換点にある。

人口減少と市場の縮小

最新の政府統計(社会保障・人口問題研究所推計値)は、2040年の人口は 2010年に比

して全国平均で 16%減少し、全ての都道府県で減少すると示している。特に、三大都市圏以外

での減少率は高く、10%以上の減少は 42県、20%以上は 25道府県と予測している。

人口動態の変化は、複数の要素から地域銀行の経営基盤を揺さぶる。人口減少顧客数減

少銀行市場の縮小といった直線的な影響に加え、人口減少経済規模の縮小銀行市場

の縮小といった間接的な影響が大きい。経済活動の縮小均衡は、金融取引、特に銀行における

預金、貸出金、為替といった主要業務の根底を揺るがす。

このことは、大都市圏に顧客基盤を持ち、全国規模で事業を営むメガ銀行にも不可避である。そ

こでメガ銀行は各種手数料ビジネス、有価証券運用へのシフト以上に、海外業務への傾斜を強

めている。最近のメガ銀の決算においては、海外事業収益比率が全体収益を左右する状況が続

いている。

国内市場の縮小は、人口動態の変化という超マクロな社会環境変化を背景に避けられない。人

口減少だけでなく、人口構成の変化(少子高齢化)があり、経済規模の縮小の背景には産業

構造の変化もある。このような経済環境変化に対応出来る事業モデルの変革が急務である。もは

や、人口増加、経済規模拡大を前提とした事業モデルは有効でない。

貸出金事業が困難な経済環境

資金収支(貸出金利と預金金利の差、所謂「利ザヤ」)の縮小も止まらない。全国銀行の総資

金利ザヤは低下の一途を辿り、伝統的な銀行業モデル(低利な預金を集め、高利な貸出金で

運用する)は崩壊寸前にある。貸出金利の価格競争と貸出先の不足は、人口減少、地方経

済成長の鈍化に加え、永続する低金利、マイナス金利政策を背景に恒常化した。

利ザヤ悪化の要因は、貸出先の減少に伴う過当競争にあることは明らかだ。金融事業はその性

質上、金利、期間、金額の 3要素以外に差別化の難しい事業であり、価格競争に陥りやすい。

金利以外の差別化要素をどこに見出せばよいだろうか?ここで、今日の地域銀行が取り組むべき、

「ブランド」による差別化が登場する。

利ザヤの縮小、貸出先と融資残高の減少に対峙する地域銀行にとって、ブランド戦略は事業戦

略の根幹をなす。貸出金利の維持、貸出先や融資残高の増強に加え、顧客や提携企業、提携

他行とのノウハウ共有や事業機会共有を志向した、コラボレーション型の事業戦略が不可欠であ

る。こうした戦略は、地域銀行以外においては既に行われ珍しいことではない。

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r: 課題認識

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顧客関係、顧客期待の激変

市場環境の変化(人口減少、貸出事業の困難性)以上に、顧客関係の変化は長い時間をか

けて地域銀行の経営環境を激変させた。今日の地域銀行には、新たな顧客関係の構築が最優

先課題である。

同業他業態(メガ銀行、信用金庫、信用組合、系統金融機関など)との過当な競合に明け暮

れるうちに、自行ブランドのバックボーンであった地域経済における人縁、地縁は薄れ、地域名を冠

した銀行というだけで、その独自性は希薄である。永年かけて構築した顧客データベースに、成長

戦略を支える顧客情報や顧客関係は見出せていない。

加えて、他業態との競合圧力は高まる一方である。インターネット専業金融機関(銀行、保険、

証券)が競合に加わり、これまで無縁であった ECサイト、価格比較サイトにおいて、自行の商

品・サービスは比較対照され、顧客によるレビューまで表示される。非金融業者、通信事業者が

金融サービスに参入し、フィンテックスタートアップとの競合/共創の時代に突入した。グローバル規模

の大手 ITサービス企業やオンライン小売企業との関係も、考慮しなければならない。今日、地域

経済とグローバル経済の間に、垣根は存在しない。

新たな顧客関係の構築は、現在の顧客の期待を理解するところから始まる。この点でも、過去の

成功体験は通用しない。インターネットが無かった時代、デジタルに精通した顧客はいなかったのだ。

地域銀行に固有な課題と対応

地域銀行は生き残りをかけ、業態転換に取り組んでいる。利益率の向上と経費率の低減が不可

欠だ。相次ぐ合併や持ち株会社による経営統合は、地域銀行が直面しているこうした圧力を反

映している。利益率の改善には、行員数の最適化、類似サービスの統合による一人当たり利益

水準の確保、差別化されたサービスの提供による市場機会の拡大が対策として考えられる。経費

率の低減においては、現金取り扱い以外の全ての取引の電子化、店舗と行員の再配置とその弾

力的な運営、顧客の金融リテラシーの向上に寄与するコンタクトセンターの活用などが挙げられる。

地域経済を取り巻く人口減少と市場の縮小、資金収支の悪化は、決して一時的な現象ではな

い。事業機会の拡大と利益源の確保のためには、「顧客中心主義」の徹底、ライフサイクルに応じ

た「永続する顧客関係の構築」が不可欠である。顧客行動がデジタルにシフトした時、アナログな

銀行は顧客のニーズに対応できない。新たなデジタル銀行が、新たな顧客関係における中心とな

ることは自明だ。

個人顧客との関係においては、顧客のライフサイクルに応じた金融ニーズの全てをリアルタイムに捕

らえ、適切な商品サービスを提供すること。法人顧客との関係においては、企業の事業サイクル

(創業、成長、成熟、事業承継など)に応じた適切なコンサルティングと金融サービスの提供が、

新たなデジタル銀行の役割となる。

利益率と経費率の改善、顧客ライフサイクルに応じたニーズの認知、顧客企業の事業収益確保

のために、地域銀行は顧客のデジタルな行動様式を理解し、自らを「デジタルバンク」に変化させる

必要がある。

金融行政は既に大きく転換し、「金融検査マニュアル」は廃止された、もはや画一的な金融検査と

それを前提とした銀行経営は存在しえない。今日の地域銀行に期待される経営は、各行に共通

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する「リレバン」の徹底と、「リレバン」遂行にふさわしい組織と ITへの移行である。「持ち株会社」や

「合併」による合従連衡は、ダイナミックに業態を転換する契機となるが、その実現にはデジタルト

ランスフォーメーションによる圧倒的な収益構造の革新が不可欠だ。(リレバン:長期継続する顧

客関係から、経営者の資質や事業の将来性についての情報を得て、融資を実行するビジネスモデ

ル。)

図 1:事業環境の変化

出典:セレント

デジタルな時代風景

今日の消費者は、モバイル機器から、リアルタイムに、期待する商品サービスにアクセス出来る。加

えて、デジタルな商品サービスはきめ細かくカスタマイズ出来る。一方、そうしたデジタル化の流れに

取り残され、不便で孤立した商品サービスも存在する。不動産取引や関連金融サービスはその典

型で、デジタル顧客にとって、そこだけが未開の地のように簡便なアクセスが阻害されている。

ホテルやエアライン、コンサートやレストランの利用と同様に、顧客はシームレスなサービスを求めてい

る。不動産会社や金融機関は、自社の都合ではなく、顧客のデジタルライフ、つまり、快適で合理

的な商品の選択や比較、購入や支払手続きを優先させる必要がある。

以下に、あるミレニアム世代の夫婦の日常と、デジタル銀行(Digi-Bank:架空の銀行)の対応

を通じて、未来の金融サービスの姿を描写する。これは架空の設定であるが、こうしたデジタル銀行

の出現は決して空想ではない。

都心のコンサルティング会社に勤務する 29歳の太郎は、婚約者の花子と目黒の賃貸住宅に

居住中だが、結婚を機に、ファミリー向けの郊外住宅の購入の検討を始めた。

太郎が注目したのは、直通線が予定される綱島駅付近の物件。早速、スマホで物件検索を

開始し、その界隈の印象をソーシャルメディアで友達に尋ね、物件情報を収集する。

Digi-Bankはソーシャルリスニングによって、太郎のニーズをキャッチ。彼の要望に合致する物

件広告を次々と表示し、太郎との距離を縮めていく。

顧客の期待水準

• ベースラインの上昇

• 顧客が嫌う経験の存在

• つながる経験の経済効果と脅威

デジタルの津波

• デジタルは生活様式の変化

• デジタルは一過性の変化でない

• デジタルは需要サイドを変える

新規参入者

• デジタルディスラプターの脅威

• 現在及び未開拓な利益源を追及する新興勢力との連携、活用

「金融検査マニュアル」の終焉

• 市場の構造変化に対応した金融行政の変化と、新たなビジネスモデルへの要請

§

?新たなバンキングモデルとは

可処分所得の減少人口構造の変化

規制緩和運用環境の悪化

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r: 課題認識

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太郎はスマホで、Digi-Bankが提供する住宅ローンシュミュレーションを活用し、マイホーム購

入計画を検討する。Digi-Bankは、新物件のメール通知機能、モバイルマップ、生活情報な

ど、アナリティクスに基づく更なるサービスやツールを提供し、太郎はついに、理想的な家を見つ

け出した。

太郎は、初めてのマイホーム購入に際して、物件探索段階からの関与と信頼から、引き続き

Digi-Bankの不動産購入支援サービスを利用することを検討する。仕事が忙しい太郎と花

子は、平日の空き時間にもできるビデオ会議での担当者との面談を希望し、短時間でも効率

的なサポートを期待した。

Digi-Bank側のサービス担当者となったのは、住宅ローン専門スタッフのさくら。さくらは、太郎と

花子の財務状況を確認しながら、借り入れと返済、抵当権の設定など、住宅ローンに必要な

情報とアドバイスを、リアルタイムで提供した。また、さくらは、太郎と花子のためのデジタル金庫

を設定、全ての情報のセキュリティを確保するとともに、手続きの遅延を防止。もちろん、太郎、

花子自身も、これらの情報をシームレスに管理、家具や家電品、保険など、住宅関連の

様々な機会に活用することができる。

めでたく、二人はマイホームを購入。太郎と花子は、Digi-Bankでの利用経験をツイート、記

念写真をフェースブックに投稿。それを知った Digi-Bankは、提携するホームセンターのクー

ポンを贈呈した。二人の家計は、自然と Digi-Bankを中心に回りだす。

Digi-Bank と二人の関係は更に続く。統合化され、デジタル化された Digi-Bankプラット

フォームは、二人の重要なライフイベントをフラグ表示する。Digi-Bank のデジタルの目が出産、

転職などの重要ライフイベントを検知し、住宅ローンの返済金額の変更、マイカーローン、各種

保険の推奨や見直し、貯蓄や投資のアドバイスなど、タイムリーに、金融のプロからのアドバイ

スと、適切な商品サービスの推奨を継続する。

Digi-Bankのデジタルプラットフォームは、太郎と花子の Digi-Bankへのロイヤリティを維持し、

その上、Digi-Bankの効率的な顧客管理を実現すると同時に、二人のライフイベントと関連

する人々や企業を Digi-Bankの金融サービスへと結びつける、オープンプラットフォームとなる。

オムニチャネルで顧客と接し、アナリティクスと自動化に基づいて自社の商品やサービスを推奨し、

顧客の消費活動全般を、自行の金融サービスへ引き寄せる。それには自行の体制を変革し、

自らが金融/非金融を問わず商品やサービスの価値連鎖の要となれるようにすることが必要であ

る。今日の銀行は、顧客のデジタルライフから遊離しては存在しえない。デジタルは、時間と空間

を越えて顧客との絆を結び、その絆は銀行のブランドそのものを体現する。

表 1:デジタルが加速する変化

既に波及 現在進行中 今後顕在化

顧客期待 多くの選択肢

様々な購入チャネル

非伝統的な金融サービスの台

金融機関への信頼の低下

使いやすさ

タイムリーな情報提供とアラート

コンビニ ATM の日常化

店舗利用頻度の低下

手間のかからない商品・サービス

利用開始

消費関連サービス全般と金融

サービスの連携

投資・財務管理の最適化サー

ビス

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r: 課題認識

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テクノロジー 顧客情報や行動を共有する

インターネットサービスの普及

インターネット上での予約/購入/

サービス利用の日常化

モバイルとアプリ

検索機能の高度化

アナリティクス

P2P プラットフォーム

AI と将来予測データ分析

ブロックチェーン/分散型元帳

ロボティックプロセスオートメー

ション(RPA)

IoT と業界構造の再定義

競争環境 EC サイト

価格比較サイト

インターネット専業金融機関

(銀行、保険、証券)

フィンテックスタートアップ

新規参入の金融機関

非金融業の金融サービス

通信事業者の金融サービス

グローバルメジャーIT

オンライン小売企業

出典:セレント

何故、現代化が必要か?

銀行の基幹システムは、必ずしも計画的で秩序だった変遷を辿ったわけではない。ある意味で行き

当たりばったりではあるが極めて低リスクな方法で現在の状態に辿りついたと言える。地域銀行は、

加速度的にシステム共同化への移行を進めた。

地域銀行の共同化

従前より、協同組織金融機関(信用金庫、信用組合、労働金庫、農協、漁協)においては、

必要とするシステム機能の拡充、制度改正への対応、安定稼働とシステムリスクに対処するため、

同一業態毎に共同センターを設立し、基幹システムの開発/運用/保守を外部委託するのが一般

的であった。2000年代を通じて、この傾向は地域銀行(地方銀行、第二地方銀行協会加盟

行)へと伝播した。協同組織金融機関同様に、制度改正に伴う追加コストの抑制、運用コスト

の削減、信頼性と処理能力の確保がその理由として挙げられる。地域銀行においても、基幹シス

テムに関するリソースとノウハウを単独で確保することは容易ではなく、これが共同化への移行を加

速したものと推測される。

地域銀行の基幹システムは、従前から自営運用とシステム共同化運用が存在したが、共同化運

用が加速的に増加した。

自営運用:自行単独で、仕様決定からシステムの開発/運用までを自前で行う、若しくはこう

した業務を外部委託する形態

システム共同化運用:複数の金融機関がシステムを共同開発する、若しくはシステムの仕様

を共同で決定しその開発/運用/保守を共同で外部委託する形態

システム共同化には、大別すると以下の形態がある。

都市銀行の基幹システムをパッケージ化し、複数銀行が共同利用

地域銀行が基幹システムを開発し、複数銀行が共同利用

ベンダーが基幹システムを開発しベンダーのデータセンターで稼働させ、複数銀行が共同利用

地域銀行とベンダーが共同で基幹システムを開発し、複数銀行が共同利用

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r: 課題認識

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背景となる事情は異なるものの、日本の銀行が抱える基幹システムは決して最新とは言えない。

地域銀行の共同システムは、1990年代から 2000年代の前半にかけて構築され、その設計思

想、適用技術、運用と保守において 20年以上の歴史を持つ。その背後には、共同する機関での

「コスト按分」が最優先であり、「金融検査マニュアル」が存在した時代背景がある。これは、今日の

地域銀行が認識すべき経営環境の変化とは全く違う文脈である。

ITの課題と顧客関係の課題

現存する多くの基幹システムは、商品サービスを構築し提供するための基盤(システムプラット

フォーム)として設計され、運用・保守されている。度重なる商品サービスの追加、新たな顧客チャ

ネル(電話/インターネット/モバイルなど)と外部接続(全銀/日銀/外部センターなど)の変更は、

このシステムプラットプラットフォームに ITの課題をもたらした。つまり、データモデルの硬直性、アプリ

ケーションの柔軟性欠如、ITの重複とそれに起因する労力という課題であり、構造的な経年劣化

によるものである。

今日の地域銀行は、新たな顧客関係の構築が最優先課題であり、そのためのアーキテクチャ構築

には、対内的な商品サービスの提供プロセス改善より、対外的な顧客経験の向上を図る必要が

ある。つまり、ユーザーインターフェースを重視し、シンプルで、チャネルや商品間で機能が一貫してお

り、API による内外の統合が容易で、コラボレーションやイノベーションを誘引するような基盤にする

必要がある。

現代化プロジェクトにおいては、IT上の課題と顧客関係上の課題を同時に追求しなければならな

い。デジタルトランスフォーメーションは、新たなデジタルチャネルの追加に止まらない。過去のレガ

シーアーキテクチャから、現代的な顧客経験プラットフォームへの転換が不可欠であり、この視点を

欠くと、レガシーを再生産してしまう。

対症療法(表面的な症状の消失あるいは緩和を主目的とする治療法)の限界がきており、今こ

そ、原因療法(症状の原因そのものを制御する治療法)が待望される。原因の中核は、銀行取

引を記録し、顧客との銀行サービス全般を司る、勘定系システムであることは明白である。

デジタル化は競争力の源泉

これまで、銀行システムの歴史とはすなわち、機械化の歴史であった。つまり人の手を介することを

予めソリューションとしてプログラムし、システムに置換し、事務処理の効率化を図るものであった。し

かし、今日のデジタル化がもたらす経済効果は、人手の置換による効率化をはるかに超え、競争

力そのものと言える。

勘定系システムと、顧客関係を司るシステム(Systems of Engagement: SoE)の現代化、デ

ジタル化は以下のような経済効果をもたらす。

増収効果:

– 新たな顧客セグメントの増加、既存顧客への浸透率、利用率の向上

– 新商品サービスの増加、新たなバリューチェーン(デジタル事業者との共創)の創出

コスト削減効果:

– 支店ネットワーク、IT開発とオペレーション部門、本部組織の運営コストの最適化

– 事務処理コスト、オペレーショナルリスクの削減、ガバナンスコストの最適化

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r: 銀行において、デジタルとは何を意味するか?

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銀行において、デジタルとは何を意味するか?

デジタルとは?

銀行の現代化において、デジタルが重要であることにはほぼ全ての人が同意する。

一方、バンキングにおいて「デジタル」が何を意味するかをめぐる解釈はさまざまであり、業界内で統

一された見解はない。金融機関の経営幹部に「貴社にとってデジタルはどのような意味を持つか」と

質問すると、多様な、そして時には矛盾した答えが返ってくる。現代化プロジェクトを通じて、複数の

金融機関に「デジタル」の定義を問うてみたところ、その回答は様々であった。いずれも間違いでは

ないけれども、十分に安定した定義だとは感じられず、「デジタル」の本質は正しく捉えられていない

と感じる。

これまで手にしたことのなかったデータを利用して、新たな方法で顧客を引きつけること

企業がそのステークホルダーとやり取りする方法を根本から変えてしまうようなテクノロジー活用、

多くの場合それはインターネット、モバイル、ビッグデータに関連する

他社より先を進むこと。新興企業に対抗するための防衛手段

STP(ストレート・スルー・プロセッシング)の可能性を現実化すること

ペーパーレス化

デジタルを定義する特性としてエクゼクティブが思い描くものの中では、「顧客エクスペリエンス」と「モ

バイル」が大きいが、そこで挙げられた属性は、オムニチャネルからソーシャル、変革、効率性まで、

実に広範に亘る。

デジタルは勿論、新しいトレンドではない。仮に、デジタルの厳密な定義を「手作業による処理を

コンピュータによる処理に置き換えることを可能にするテクノロジー」とするならば、デジタルバンキング

はメインフレームによってバンキングトランザクションの処理が行われはじめた 1950 年代から存在し

ていた。

次のブームは、1990 年代のオンラインバンキングの黎明期であろう。2つの局面に共通するのは、

それまで人手(銀行員、銀行の利用者)に頼っていた作業をテクノロジーが代替したことで、日本

市場では、銀行の店舗規制の緩和、撤廃にあわせた、店舗外 ATMの大量展開が該当する。

現在、少なくとも以下の 5つの異なるトレンドが同時に襲来し、銀行サービスと銀行利用者の金融

行動を根本から変革する、デジタルの洪水の渦中にある。

1. モビリティとコネクティビティ

2. ソーシャル

3. クラウド

4. 「ビッグデータ」

5. 人工知能とロボット工学

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r: 銀行において、デジタルとは何を意味するか?

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これまでの金融機関、いわばアナログな金融機関にとって、これらのトレンドは脅威であると同時に、

そのビジネスモデルを再設計するための恰好の機会である。現代の銀行業におけるデジタルの定義

は、単に「手作業をコンピュータに置き換える、機械化」以上のものでなくてはならない。

例えば、個人向けオンラインバンキングの普及率はどうであろうか。ATMカードの発行枚数との比

較で、暫定的な普及率を想定すると、都市銀行で 32%、信託銀行 23%、地方銀行 9%、第

二地銀 4%、業態合計でも 18%と極めて不振である。不振の理由は、セキュリティに関する不安

とされるが、これは銀行のオンラインサービスに限らない技術的な課題で、サイバーセキュリティは業

界全体に共通のテーマである。日本のオンラインバンキングシステムは、その 9割以上をベンダーの

提供するアウトソーシングサービスに依存しており、個別銀行の課題ではない。

一方で、果たして銀行は、顧客の望むサービスを提供できているだろうか。インターネット利用は、

全世代に遍く普及し、シルバー世代への浸透も顕著である。また、オンラインショッピングの普及は、

生産年齢人口の全世代において 30%を越えている。インターネット市場全体の拡大に、アナログ

な銀行は追随出来ていない。事実、銀行が提供するオンラインバンキングのサービスメニューは、

ATMのサービスメニューの踏襲に過ぎない。利用者がセキュリティ上の不安から保守的なのを理由

に、斬新なオンラインサービスの開発が停滞している。

インターネットはチャネル戦略ではなく、ブランド戦略と捉えるべきである。デジタル世代の消費者は、

ATMで代替できる古典的なサービスをデジタルバンキングとは感じないだろう。それはつまり、斬新

な顧客経験ではない。小売の世界では、オムニチャネルでない百貨店や零細小売店は閉店を余

儀なくされ、コンビニとオンラインショッピングが隆盛を極める。銀行の世界でも、単なる機械化による

銀行の効率性とコスト削減を主眼としたチャネル戦略ではもはや通用しない。

図 2:個人向けオンラインバンキングサービスの現状

出典:FISC、MICS、セレント

バンキングにおけるデジタルのフレームワーク

セレントはバンキングにおけるデジタルを、単なる新アプリや別チャネルの導入を越えた、広い意味で

捉える。デジタルは金融機関に組織構造の変革を要求していると考える。

図3は、セレントが提唱するバンキングにおけるデジタルのフレームワークの全体像を示す。以降、4

つの層から成るフレームワークを順に探究する。

(左軸:契約口座数、発行枚数、右軸:契約率)

(契約数、枚数:百万) (契約率)

0%

10%

20%

30%

40%

50%

0

50

100

150

200

250

300

都銀 信託 地銀 第二地銀 その他銀行 信金 信組 労金 農協・漁協 合 計

■オンラインバンキングサービス契約口座数 ■ ATMカード発行枚数 ◆オンラインバンキング契約率

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r: 銀行において、デジタルとは何を意味するか?

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① ブランドエクスペリエンス:金融機関のブランドエクスペリエンスを顧客ごとにカスタマイズしなが

らも、あらゆるチャネルおよびやり取りの場で一貫性を保ちつつ提供すること

② 新たなケーパビリティ:その土台となるのは、分析と自動化

③ 経営モデル:運営モデル、すなわち商品やサービス、組織、カルチャー、スキル、IT の変革

④ ゴール:明示可能かつ持続可能な経済的価値の提供

図 3:バンキングにおけるデジタルのフレームワーク

出典:セレント

① ブランドエクスペリエンス:チャネルと顧客経験の一体化

フレームワークの第 1 番目の階層は、ブランドエクスペリエンスである。

バンキングにおけるデジタルとは、ブランドエクスペリエンスを顧客ごとにカスタマイズしながらも、あらゆ

るチャネルで一貫性を保ちつつ提供することと考える。デジタルとは銀行と顧客の間におけるやり取り

の仕方の問題と解釈出来る。

アナログな銀行が、金利、金額、期間の組み合せで単純な金融商品を提供した時代とは異なり、

今日のデジタルな銀行は、自社のブランドが表しているもの(卓越したサービスや顧客価値など)

を明確にし、顧客とのやり取りのすべてにおいて一貫したブランドエクスペリエンスを提供するよう努め

ている。

これは、どの状況においてもそっくり同じエクスペリエンスを提供すべきであるとか、あらゆるチャネルが

まったく同じ機能を持っていなければならないという意味ではない。つまり、異なるチャネルで、同一の

商品サービスを提供することではない。重要なのは、「外観」やエクスペリエンスによって伝達される

価値を一貫させ、顧客が、銀行のチャネルではなく、そのブランドに印象づけられるようにすることだ。

バンキングにおけるデジタルとは・・・

その土台となるのは・・・

変わる必要があるのは・・・

実現したいのは・・・

全てのチャネルと顧客接点で、カスタマイズ化しつつも統一された金融機関独自のブランド経験を顧客に提供する

アナリティクス 自動化

商品・サービス

実証可能かつ持続可能な経済価値

IT 組織体制と人員

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r: 銀行において、デジタルとは何を意味するか?

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チャネルの最適化においては、以下の ABCのような段階が考えられる。

図 4:チャネルと顧客経験の一体化

出典:セレント

A)各チャネルを個別に最適化

– 支店の数や位置は適切か? 支店に関してどのようなビジョンを描いているのか? たとえば、

旗艦支店は数店にして、小規模なサテライト支店を置く、ハブ・アンド・スポーク・モデルを

目指すか?

– ATM の数や場所は適切か? 特定の ATM を最新化(テレビ窓口や両替機を設置す

るなど)して、顧客サービスと自行の経済を向上させることは可能か?

– オンラインバンキングおよびモバイルバンキングの特徴や機能はどのようなものであるべき

か? デジタルバンキングを提供するのに最適なプラットフォームは何か?

B)チャネルシステム全体の最適化によりオムニチャネルで顧客経験を提供

– 顧客が異なるチャネル間を継ぎ目なく移動できるようにする。たとえば、以前に保存してお

いたアプリケーションのプロセスから再開するときや、窓口と対話するときに、データの再入

力や反復の必要がないようにする。

– 各チャネルにはそれぞれ違いがあり、モバイルチャネルと支店でのやり取りは異なるものの、

すべてのチャネルで顧客情報を共有し、融合された顧客経験を提供する。

– 相互で強化し合うチャネルの構築:モバイルバンキングアプリ内や支店内のキオスク端末

でライブのビデオチャットが可能など、デジタルテクノロジーを対面チャネルで利用することは、

バンキングにおけるデジタルに不可欠な要素である。

C)エコシステムの形成と銀行チャネル以外との連携

– デジタルな金融機関が顧客との関係を保つには、顧客のところへこちらから向かい、顧客

が必要とするときに利用可能な存在になる必要がある。そのためには、金融サービスを含

むエコシステムを形成(若しくは参加)し、その一員として自社を顧客の近くに配置する

ことが不可欠である。

– API(アプリケーションプログラムインターフェース)の解放(若しくは連携)を通じて、第

三者のチャネルからもバンキングサービスを利用できるようにする。

– 金融機関のチャネルを通じて、(限定的若しくは開放的に)第三者の商品およびサービ

スを利用可能にするという選択肢も可能となる。

銀行チャネル(現在と将来)

支店 オンライン POS モバイルウェアラブル

A

B

チャネルシステムの最適化によりオムニチャネルで顧客経験を提供

幅広いエコシステムへのリンク

C

幅広いエコシステムとの統合

これら全てを顧客ごとにオーダーメイド化し、リアルタイムで提供

各チャネルを個別に最適化

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r: 銀行において、デジタルとは何を意味するか?

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日本の文脈では、以下の事柄を早急に議論すべきである。

オムニチャネルのあるべき姿の定義と自社のケーパビリティに関する議論

チャネルのケーパビリティを最大限に活用できる商品サービス設計(顧客の期待に沿うように。

オンラインバンキングは、支店、ATMの代替チャネルではない)

先行する小売や物流、テレコムの事例研究とコラボレーションの可能性

どのチャネルでどのような機能を利用したいかを顧客が自由に選択できるように、銀行は柔軟性に

投資すべきである。顧客のデジタル行動は急激に変化している。顧客がオンラインでの金融取引に

保守的であることを理由にオンラインバンキングをデジタルバンキングに進化させる努力を怠ってはな

らない。顧客行動が変化した瞬間に選ばれる銀行がデジタルの勝者となる。また、その変化を誘導

するテクノロジーも既に存在している。

②アナリティクスと自動化

アナリティクス

フレームワークの第 2番目の階層は、アナリティクスと自動化である。それは、銀行が具備すべき新

しい能力であり、現代化、デジタル化を可能にする。第 1階層のチャネルと顧客経験の一体化と、

第 3階層の新たな経営モデル、すなわち商品やサービス、組織、カルチャー、スキル、IT の変革を

結びつけるエンジン部分である。

銀行のブランドエクスペリエンスを個々の顧客にとって最適な形にし、リアルタイムで提供する上で、

さまざまなソースから得た広範なデータに基づくアナリティクスがきわめて重要な役割を果たす、とセ

レントは考える。

図 5:アナリティクスとは

出典:セレント

先端市場においては既に、IoTデータの①発信②蓄積/分析/販売③活用、といった 3階層のサー

ビス分離(モジュール化)が進展している。フィンテックの取り組みにおいてもこの 3分野で、新たな

サービス事業が誕生している。ここで、②IoTデータの蓄積/分析/販売による『情報のサービスビュー

ロー』となりえたものが成功の鍵を握るだろう。クレジットカードやローンの審査時に参照する『クレジッ

トヒストリー』と同様に、保険の引受審査時に『安全運転履歴』や『健康管理履歴』が活用される

時代が到来するだろう。

様々なソースから得た多様なデータを使って・・・

・・・リアルタイムで顧客ごとに最適なサービスを提供

商品の関係

アナリティクス

取引

双方向サービス(データ、音声)

ソーシャル

当局

センサー(モノのインターネット)

金融機関の内部

外部

アラート/通知

価格設定

リスク管理

商品設計

第三者の提案

サービスレベル

クロスセル

クリックごとのデータを分析/保管

銀行の提案

アドバイス/ PFM

チャネルの融合(ソーシャル等)

金融機関の内部

外部

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r: 銀行において、デジタルとは何を意味するか?

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ビックデータ、アナリティクス、AIは、これまでの情報系やデーターウェアハウスの議論を大幅に超える

深さと広がりを持つ。その目的は、銀行事務の機械化、合理化を遥かに超え、新たな金融サービ

スと顧客経験の提供にある。

自動化

自動化も、アナリティクスと同様、銀行にとって新しい概念ではない。金融機関はコンピュータの歴

史と共に、作業の機械化と自動化に努めてきた。1960年代からの 50年余り、銀行は機械化と

自動化の焦点をバックオフィスの作業やストレート・スルー・プロセッシング(STP)に置き、人手を

省き、作業の効率化と正確性を期し、コスト削減を図る取り組みを延々と続けてきた。その重要

性は今も変わらず、STP の目標達成のために取り組まなければならない。

自動化の焦点は、バックオフィスからフロントオフィスおよび顧客エンゲージメントへと、そして一般的

なレベルでの機械化(人手の代替)から、高度でスマートな自動化(人智の代替)レベルへと

移行している。高度でスマートな自動化は、自然言語で話し合い、自ら学習し高度化していく自

動化(AI)、リサーチの自動化、アルゴリズムが顧客を導く自動化(ロボアドバイザー)などという

形で、初期のユースケースとなっている。

図 6:自動化の対象

出典:セレント

こうした新たな自動化は、現代化、デジタル化の対象や方法論を一変させる。これまでの機械化

は、業務プロセスを変えずに、人手を機械に代替することであった。方法論や対象の踏襲とその機

械化であった。そこでは、往々にしてレガシーの再生産を誘導した。これからの「新たな自動化」は、

方法論や対象そのものを変え、やがて、「あったら良い」ことではなく、「必ず具備すべきリソースやノ

ウハウ」に変わる。顧客対応やリスク管理の分野において、「新たな自動化」がいかなる可能性を持

つか検証することは、現代化のロードマップに不可欠となろう。デジタルの洪水に対処するには、もは

や対症療法では効かず、根本的な変化「新たな自動化」が必要とされるのである。

③経営モデル

フレームワークの第 3階層は、実現を目指すべき経営モデルにある。

自動化の対象分野

プロセスの自動化/STP

• ワークフローとプロセス管理ツールを使って重要プロセスを自動化

• コンピュータ同士のやりとり

文書のデジタル化と管理

• デジタル申請書を導入して紙の書類を排除

• 紙の代わりに、画像テクノロジーを使って文書を取り込み、保存

• 電子明細書

リサーチとアドバイスの自動化

• リサーチの自動化(クラウドベース、クラウドソーシングによるアイデア収集など)

• アルゴリズムを使って投資その他のアドバイスを自動化

“Natural Best Friend”

• 次世代テクノロジー「Siri」や「Watson」を使って、音声や書面による顧客とのやり取り

•インプット(OCR/音声分析)

•アウトプット(自動音声/テキスト作成)の両方を自動化

「ありふれた」手法 「最先端の」手法へから

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r: 銀行において、デジタルとは何を意味するか?

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デジタルは銀行の経営モデルを根底から変革すること、つまり組織運営と文化の現代化を迫る。デ

ジタル時代の顧客エクスペリエンスは、商品やサービスの変革と、組織やテクノロジーに関する経営

モデル自体の変革なしでは提供不可能である。

商品サービスの変革

商品内容(What)に加えて、開発方法(How)の変革が重要である。

デジタル技術による、新たな商品とサービスの提供(Whatの議論):

決済におけるイノベーションとして、デジタルウォレット、銀行口座からのダイレクトな小売店決済、

カード口座とリンクされた小売店やメーカーのオファーやリワードなどはいずれも、銀行がデジタル

によって実現したイノベーティブな商品提供の事例である。Moven、Simple、Fidor といったデ

ジタルネイティブ企業は、顧客と銀行をはじめとする金融サービスプロバイダーとの関係を劇的

に再構成した。

商品サービス開発における新たなイニシアチブ(Howの議論):

新たなアイデアの創出に顧客を招致する、新たな商品アイデアをすばやくテストする、欲しいと

思う機能を持つ商品を顧客にデザインしてもらう、などがその例である。ソーシャルメディアを通

じた顧客との関係を積極的に構築し、デジタルチャネルの強化方法に関して、顧客からアイデ

アを反映するプログラムも存在する。銀行が提供するアプリストアも出現し、銀行のオープンな

API(アプリケーションプログラミングインタフェース)を利用して顧客と開発者が共同で金融ア

プリを設計できる環境を提供している。

外部と提携関係構築(Howの議論):

新たなサービス分野、銀行が提供していないネオ金融サービスの分野での外部提携や、新興

企業への投資、買収も商品サービスの変革を促す。モバイル POS、クラウドファンディング、

P2P貸出などの分野での外部提携や買収が進展した。これらはフィンテック、InsurTech、

RegTechなどのキーワードが、現代化プロジェクトとして実践された好事例であり、従来の

M&A とは性格を異にする。

IT組織の革新

モデルの変革は、経営戦略を実現する IT組織、IT提供形態の変革に波及すべきだ。

デジタル社会はバンキング IT に大きな課題を提起している。古い縦割り構造のレガシープラット

フォームのために身動きの取れない銀行は、デジタルに要求されるアジリティ(迅速性)の維持に

苦闘している。CIO(最高情報責任者)は、次のような 5つの共通課題に直面している。

1. ビジネスケースの実現

2. IT とビジネスの戦略課題における優先順位づけ

3. デジタルサービス提供に関する営業要員の育成

4. コスト削減のプレッシャーと新たな財源の確保

5. レガシーシステムによる制約の克服

セレントは対処策として、2つの異なる ITチームの設立=「2 スピード IT」を提案する。

レガシーを維持管理し、最適化する部門

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r: 銀行において、デジタルとは何を意味するか?

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デジタル化に専念、アジリティを実現する部門

幸いにも既に、日本の大手金融機関は、この「2 スピード IT」へと組織変更を果たし、次なる課題

に取り組んでいる。それは、IT とビジネスの「組織の壁」である。「ITはビジネスプロセスを写す鏡」で

あり、ビジネス部門の ITに関するイニシアチブやオーナーシップの変更が不可避である。2つの異な

る ITチーム間のコミュニケーションのみならず、両組織を取り巻く、ステークホルダーとの位置関係や

距離感は、その実効性を高める上で重要である。

④ 経済価値の実現

フレームワーク 4 階層目、つまりターゲットとすべきゴールは、銀行にとっての経済価値に他ならない。

デジタル改革は、結果として算出可能かつ持続可能な経済的価値を銀行にもたらすものでなくて

はならない。しかし、金融機関、その取り組みが経済的価値にどう変換されていくのかについて明確

な指針を持たないまま、デジタル改革プログラムに着手しがちである。顧客関係を改善する、他行

との競争に対抗するなど、ビジネスケースにしにくい、比較的あいまいな考えが、デジタル投資の論

拠にされている。「レガシー・モダナイゼーション」同様に「デジタル対応」も、ビジネスケースのつかない

「戦略的な投資」では予算化出来ず、継続投資も出来ない。

成果の計測

顧客のエンゲージメントや競争力の強化はもちろん重要であるが、どうやって成果を計測するの

か?デジタルの取り組みの投資の規模と頻度を正当化するためには、以下の 3つの観点から成果

を計測する必要がある。

1. 収入の上昇:顧客維持および浸透、利用の増加、新商品、価格の最適化などが牽引

2. リスクコストの低減:信用損失の減少、不正の抑制、流動性の最適化、オペレーショナルリス

クおよび実行リスクの管理が導く

3. 運営コストの削減:支店ネットワークの再設計、取引コストおよびサービス提供コストの削減、

規制当局への報告の簡素化などが牽引

組織体制の構築

加えて、部門を超えたイニシアチブ体制が重要である。以下の 3つの観点から、組織体制のメカニ

ズムを変えることを提唱する。

組織が有効に機能するための、様々な要因やメカニズムの分析

組織に有効な、デジタル変換に向けたメカニズムの考案とその多様化

異なるグループ組織が効果的に協力するための規律や因果関係

銀行はデジタル変換が必要な理由は ROIの向上にとどまらないことを認識しつつある。一方で、大

手銀行は、リソースが潤沢である故に、その戦略性の見極めと、実行のメカニズムを綿密に計画、

実施、統制、修正することが重要である。

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r: 新たなバンキングモデルを求めて

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新たなバンキングモデルを求めて

日本の地域銀行に、デジタルのインパクトを新たな業態への変革の契機と受け止め、ビジネスと IT

のアーキテクチャを再考し、モジュール設計に取り組むことを提言したい。デジタルが、金融サービス

の需要サイド(消費者)に引き起した地殻変動は、金融サービスの供給サイド(金融機関)に

大きな津波をもたらした。そのインパクトを正しく認識し、新たなビジネスモデルと、それを司る IT

ソーシングの模索が必要である。今回もまた対症療法で泳ぎきるか?それとも抜本的な体質改善

に挑むか?セレントは勿論、後者を提言する。

顧客との距離を縮める、フリクションレスなプロセスと組織

様々な顧客接点を提供し、顧客行動を深く理解するためには、顧客との距離を縮める必要があ

る。新たなバンキングモデルは、フリクションレス(摩擦のない)顧客関係を構築することから始まる。

他産業においては、フリクションレスなプロセスを基点とした新業態が次々と誕生している。食品業

界(ケータリング・サービス)においては、スマートフォン・アプリによる受発注が日常化し、電子商

取引(E コマース)においては、ワン・クリック(物品の購入にかかわる手続きを、顧客のワン・クリッ

クで完結させる)機能が常識となりつつある。フリクションレスなプロセスに関する顧客の期待が高く

なる一方で、金融機関は取り残されつつある。

商品と価格が第一の差別化要素である時代は終わった。顧客の日常生活における「顧客経験」

が、言い換えれば「フリクションレスな顧客関係」こそが、永続する顧客関係の構築と事業機会の

確保に最重要な差別化要素となりつつある。

では、日本の銀行はフリクションレスな顧客関係を築けているだろうか?地域の中心地、郊外の一

等地に店舗を構え、コールセンターやインターネットバンキングを提供するも、残念ながら、顧客との

距離は遠いのではないか。顧客の日常行動の全てのタイミングにおけるニーズを理解し、適時にユ

ニークな商品サービスを提供するだけでなく、さらに顧客に「WOW!(想像を超える感動)体験」

をもたらす、次世代の金融サービスを目指すならば、「フリクションレスなプロセス」がその提供基盤と

なる。

「フリクションレスなプロセス」には、銀行の「フリクションレスな組織」が必要である。現在、銀行の構

造は商品サービスを起点とした、プロダクト・アウト組織である。金融取引のプロセスは柔軟性に欠く

勘定系システムに依存し、支店/本部/関連会社間のバリューチェーンも閉鎖的な組織構造である。

他方、「デジタルバンク」は、顧客中心主義のカスタマー・インの組織、つまり基幹システムと組織の

壁を越え、距離感の無い顧客関係を実現する。顧客が住宅ローンの相談に来店したその瞬間に、

その顧客に最適な商品サービスを提供する。これは「フリクションレスな組織」でのみ実現可能だ。

「フリクションレスなプロセス」はまた、取引の開始から完了までの全てのプロセスにおけるコンタクトポ

イント(顧客接点)、オリジネーションを改善するだけでなく、最適なコスト構造をももたらす。さら

に、ブランドエクスペリエンス、新たなケーパビリティ(データ分析とプロセス自動化)、ふさわしい経

営モデル、組織構造、それがもたらす経済価値と連鎖する。この連鎖がデジタルトランスフォーメー

ションである。

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r: 新たなバンキングモデルを求めて

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デジタルのインパクト

世の中の流れを鉄道に例えるならば、デジタルの新規参入者は、既存の金融システムの上を俊敏

に動き回り、新たな橋をかけ、駅をつくり、時には停車駅を変え、沿線の経済効果の流れを変えつ

つある。

乗降客の少ない地方のローカル線に多少の変更があっても、本線を担う鉄道会社や乗客は気に

も止めないかもしれない。しかし、ローカル線であっても本線への接続があり車両の乗り入れが可能

であれば、乗客の期待や行動様式の変化は、じわじわと商流や金流の変化を導き、沿線の風景

を変化させる。

これまでのフィンテック新規参入者による動きは、駅名や路線図そのものが変化するほどのインパク

トはなかったかもしれない。一方で、本線を担う既存大手金融機関は、アクセラレータプログラムや

ハッカソン、ビジネスコンテストを通じて、こうした新たな事業者を積極的に迎え入れ、軌道修正や

新型車両の導入の機会を窺っている。地域銀行は、この動きに無関心ではならない。むしろ、その

新たな価値連鎖の中核として、金融サービスと商流、顧客エクスペリエンスのプラットフォームになる

べきだ。

金融/銀行サービスにおける新規参入事業者は、利益率の高い分野、利用者が不便に感じてい

る分野、これまでの事業者が利用者の利便性を理解できていなかった分野を中心に参入している。

資金移動から、ペイメント全般に展開され、POSサービスを通じて、ビジネスローンへの参入へと展

開するかもしれない。インボイスやファクタリング、暗号通貨なども、ニッチな分野と看過するうちに、

消費者ローンや資産運用へと進展するかもしれない。

過去の時代の新規参入者は、周辺分野から徐々に中核分野へと進出した。しかし、今日のデジ

タルの津波、つまりフィンテックは、いきなり口座開設や残高照会といったバンキングの幹となる機能

に変革を加え、ウェルスマネジメントにおける革命を誘導する可能性もある。単なる軌道修正や新

型車両の導入に止まらず、乗客の利用目的までを根本から変えてしまうかもしれない。

図 7:新規参入者の浸食分野

出典:オリバーワイマン、セレント

口座開設 残高照会 ペイメント 資金移動

ビジネスローン ウェルスマネージメント

暗号通貨 消費者ローン

インボイス / ファクタリング

投資管理 購入時点サービス(POS)

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r: 新たなバンキングモデルを求めて

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新たな銀行業のパラダイム:モジュラーモデルへ

長らく、日本の銀行業界はインテグラルモデル(垂直統合)を追求してきた。新卒の採用に始まり、

社内教育と人事ローテーションにより、生え抜き社員はやがて幹部候補生へと社内競争を駆け抜

ける。組織は、本部、本店、支店、事務センター、コンピューターセンターに加え、金融サービス、銀

行サービスの関連子会社を多数抱え、巨大なファイナンシャルグループを形成した。金融商品サー

ビスの大半は、自社で製造し販売する。専門性の強い一部の外部調達の商品サービスも、自社

の属するファイナンシャルグループの関連会社、ケイレツ企業の商品サービスが中心であった。

商品サービスの流れは垂直統合の限界を超え、モジュラーモデル(水平・垂直分業)への転換

点がきている。低金利の金融環境は、銀行を、投資信託、保険、信託、不動産関連ローンなど、

多種多様な品揃えを競う金融商品販売会社に変貌させつつある。銀行チャネルには、信頼性の

高いアグリゲーターとして、金融サービス全般でのアドバイザリーサービスが期待される。既に、金融

商品サービスの製造と販売は分化しつつある。

一方で、預金、貸出金、為替の本来業務と、そのための金融インフラ(金融機関ネットワークへの

接続、金融機関相互の資金決済と信用供与、監督当局への報告、それらを司る基幹システム)

は、岩盤の如く硬直化し、分化を拒んでいる。全ての銀行は個別に、同様なプロトコルとプロセスで、

全銀システム/日銀ネット/統合 ATM/保険業界、証券業界との間の業界ネットワークに接続し、資

金や情報をやり取りし、その結果を監督当局や業界団体に通知する責務を負っている。

金融サービスのアグリゲーターとしてのアドバイザリー業務、金融商品の製造と販売は、既にその一

部がアンバンドリングされ、モジュラーモデル(水平・垂直分業)に移行しつつある。人事や組織も、

その専門性に相応しい変化を起こしつつある。しかし、コアとなる本来業務は変われない。何故

か?ビジネスと ITのアーキテクチャが、その進化を拒んでいるからだ。「片寄」や「共同化」は経験し

たが、アンバンドリングは、日本の銀行業界では未体験である。

図 8:インテグラルモデル(垂直統合)から、モジュラーモデル(水平・垂直分業)へ

出典:オリバーワイマン、セレント

モジュラー・コアバンキング

こうしたアーキテクチャに関する議論を踏まえて、現代化に挑む銀行業界に対して以下のモジュ

ラー・コアバンキングを提案する。

伝統的な銀行業モデルインテグラルモデル

新たなパラダイムモジュラーモデル

金融インフラ

金融商品サービス

アドバイザリー

金融インフラ

アドバイザリー(アグリゲーター)

金融商品サービス

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r: 新たなバンキングモデルを求めて

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そのアーキテクチャは、1)顧客経験の管理、2)商品サービスの管理、プロセスの管理、リスクの

管理、3)インフラの管理、の 3つの階層的なモジュール群から構成される。デジタル化を考慮す

ることは、そのまま現代化につながるため、銀行におけるビジネスケースの観点として強く推奨したい。

図 9:モジュラー・コアバンキング

出典:オリバーワイマン、セレント

I. 顧客経験の管理

II. 商品サービスの管理プロセスの管理リスクの管理

III. インフラの管理

顧客オンボーディング管理

アドバイザリー・エンゲージメント管理

プラットフォーム・デバイス管理

金融インフラ接続

レギュレーション対応

フロード管理 (AML / KYC)

アカウントプロファイル

マネーサービス ローン

ウェルスマネージメント

ビジネスサービス

対顧客:金融商品サービス

銀行内:リスク管理(G

RCM

銀行内:バックオフィスプロセス

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r: 日本の地域銀行への提言

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日本の地域銀行への提言

デジタル銀行への指針

デジタルトランスフォーメーションに着手する銀行にとって、デジタル銀行へのアプローチは、現代化へ

の歩みそのものと言える。以下に、セレントのアドバイスをまとめる。

1. 市場を凝視:市場の動き、特に、成功しているプレーヤーの動きから目を離さない。

これまでのところ、金融機関はデジタルにおいて最先端ではない。銀行以外の金融サービス、

金融以外のサービス事業者に目を配り、新商品/サービス、そのための能力を獲得する機会を

貪欲に探り、提携の可能性を開拓することが肝要である。

2. 顧客エクスペリエンスにフォーカス:顧客中心へ。

商品サービス、従業員の意識、組織の在り方を、顧客中心に変える。そのためには、カル

チャーの革命を促し、従業員の採用から見直す必要性もある。デジタル世代の生活様式はア

ナログ世代とは異なる。銀行は、顧客のデジタル体験を理解し、そこに関与しない限り、顧客

の経済活動のエコシステムにさえ入れない。

3. 柔軟性に投資:ビジネスとテクノロジーの両面で、柔軟性の確保が必須。

デジタルな顧客行動は移ろい易く、変化は急である。投資の対象は、そうした急変化に対応

する能力であり、ビジネス戦略の自由度を確保することにある。システムの柔軟性によって、ビ

ジネスの選択肢は増加し、ビジネス戦略を支えることができる。逆に、固定的なシステムは、顧

客のデジタル対応に追随出来ず、自行の立ち位置を孤立させる。

4. マネタイズのメカニズム:デジタル化は収益に寄与するものでなければ継続不可。

顧客価値の最大化が、自行収益の最大化に直結するようなモデルを構築すべきである。その

ロジックとパラメータによって、規制や経済環境の変化に応じて、アクセルとブレーキを加減する

ことができる。

5. ロードマップの策定:「あったら良い」ではなく、「必須リソースやノウハウ」にフォーカス。

これまでの対症療法を繰り返すことなく、あるべき「デジタル銀行」を明確に掲げた上で、その

実現に効果の高いことに優先投資をする。他行/他社/他産業の動向を注視し、観察すべき

事柄をリスティングする。デジタルの流れは急変する。当初の計画では、その実現時期や効果

が多少不安な事柄も、手順や手段を変えれば奏功する場合がある。大逆転の可能性があ

る戦略を残し、大きな賭けが出来るリスク許容度を計測し、常にその機会を窺う。

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r: 背景

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背景

本レポートはオラクル・コーポレーションの依頼によりセレントが作成したもので、分析と結論はセレン

ト独自のものであり、オラクル・コーポレーションはレポート内容に関する編集権限を有していない。

Oracle Financial Servicesは世界 140カ国にデジタルバンキング、コアバンキング、コーポレート

バンキング分野のスペシャリスト 11,000人以上を擁し、銀行業務の変革に焦点を置いたサービス

を提供している。

オラクルはそのバンキング CX / CRMソリューション、コアバンキングソリューション等において多数の

導入実績を有し、以下の製品・サービス等の提供を通じて、日本の地域銀行のデジタルトランス

フォーメーションをサポートしている。

コアバンキング:Oracle FLEXCUBE

デジタルプラットフォーム:Oracle Banking Digital Experience(OBDX)

デジタルな顧客との関係を維持するため、銀行は現在、以下のような課題に直面している。

レガシーなコアバンキングシステム

IT インフラの高いメンテナンスコスト

顧客のテイラーメイド商品サービスへの要求

銀行の多くはフロントエンドの顧客対応システムにのみデジタルテクノロジーを適用し、バックエンドに

ついては従来のコアバンキングシステムに依存してきた。コアバンキングの現代化は、その開発コスト、

移行期間、システム障害など多くの難題を伴うが、もはやチャネルレイヤーに新たな機能を追加す

るだけでは不十分なことは明らかである。

オラクルは、コアバンキングの現代化をイノベーティブに進めるための 4つのアーキテクチャ原則を提

唱している。

1. トランザクションおよびプロセスシステムのすべての顧客データを外部化し、中央のデータストアか

らアプリケーションに配信されるようにして顧客中心主義を実現する。

2. 商品サービスのプロセスからドメイン機能を除外または抽象化し、Systems of Records

(SoR:勘定取引を記録するシステム)として、そのコンポーネントを共通ストアから管理し

共有する。

3. 業務の簡素化、標準化、効率化を図るため、プロセスの再構築を推進し、その業務プロセス

を前提とした銀行システム基盤を構築する。

4. 再構築する業務プロセスには、顧客の全ての金融行動に対する銀行の対応(ニーズの計測、

オンボーディング、アクティベーション、サービス実施、代金請求および回収まで)を反映させ、

ライフサイクルマネージメントを実現する。

詳細な情報はこちらから:http://ora.cl/kI23J

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