慈恵ICU勉強会 2015年5月26日
青栁佑加理
JAMA February 3, 2015 Volume 313, Number 5
急性外傷性凝固障害 重症外傷患者の25%はER 到着時、凝固障害を起こしている。 受傷後数分で始まり病院到着前の段階でも認められる。
(ACoTS : Acute Coagulopathy of Trauma-Shock)
2012.11.27 ICU勉強会 奥田/讃井Haemorrhage control in severely injured paIentsより抜粋
MTP Massive Transfusion Protocol(MTP)とは、RBC+FFP+PCを決められた比率で準備し、早期に投与する方法。重症外傷患者の輸血において、MTPを使用して生存率 が改善したという報告が多い。 – CoSon BA, Au BK, Nunez TC, et al.:Predefined massive transfusion protocols are associated with a reducIon in organ failure and posInjury complicaIons. J Trauma 2009;66:41-‐9 《MTP例》 治療開始24hrでRBC>20u輸血される場合 ①低血圧の許容 (sBP80-‐100mmHg程度) ②細胞外液大量投与の回避 ③先行的にFFPやPCを輸血(1:1:1を目標に) ーHolcomb JB, Jenkins D, Rhee P et al. Damage Control Resuscitation: Directly Addressing the Early Coagulopathy of Trauma. J Trauma 2007;62:307-310
u 多施設後ろ向き 観察研究 重症外傷で RBC輸血>10 単位の713 症例 FFP/RBC > 1.1、0.9 -‐ 1.1、<1.1 の 3 群に分けて検討 6 時間以内、24 時間後、30日後の死亡率は、FFP をより多く 投与した群で低かった (Vox Sang. 2008 ;95:112-‐119) u 多施設後ろ向きカルテ調査 入院後24 時間以内にRBC >10U輸血した 466 症例 高FFP/RBCと高PC/RBCの組み合わせが30日死亡率が低かった。統計学モデルの解析では、FFP:RBC を1:1 が 適(Ann Surg 2008; 248: 447-‐458) u 後ろ向き研究 24hr以内にRBC>10U輸血された外傷患者657 症例について 入院後 12or24 時間後の死亡率は、PC/RBCが高くなるにつれ低下。多変量解析でも、高いPC/RBC比は、入院後24 時間の生存率改善に対する独立因子 (J Am Coll Surg 2010; 211: 573-‐579)
ただしFFP:RBC高比率投与がベストかどうかは分からない、という報告あり
Crit Care Med 2013;41:1905-1914
• Design: 単施設後ろ向きコホート研究 • Methods: 741人の外傷患者において、 plasma:RBC投与比率と死亡リスクを調査した 低比率群を<0.85、高比率群を≧0.85と定義 • Primary outcome: 30日死亡率 2013.8.13 慈恵ICU勉強会 上野恵子先生 外傷による出血と凝固異常の管理より抜粋
大量輸血における製剤の比率について、 FFP及びPCを早期に高比率で早期より投与した方が生存率を改善する可能性があるといった報告が多かったが、多施設の大規模な前向き研究は無かった。
⬇ 適切な比率については 現在も不明確である。
• Design: 前向き観察研究 • ObjecIve: 1)早期からのFFP及びPC介入 2) FFP及びPC/RBC比率 と院内死亡率の関係を調査する。 • Seing: アメリカの10のlevel 1外傷センター • PaIent: 受傷後6時間以内に何らかの輸血が施行された
1245人を前向きに追跡したデータのうち、24時間以内に RBC/FFP/PCを計3単位以上投与された905人
方法
輸血投与の方法は各施設のプロトコールに沿う。 実際に投与された輸血比率でグループ分け ●Low group; < 1:2 ●Moderate group; 1:2 ~ 1:1 ●High group; > 1:1 Primary Outcome:院内死亡率
実際の投与
FFP:RBC PC:RBC
死亡原因
6時間後まで:失血死
それ以降: 脳損傷
● 30分-‐6時間後
Low <1:2 Moderate >=1:2 -‐ <1:1 High >=1:1
HR P値 HR P値 HR P値
FFP:RBC 1.00 -‐ 0.79 0.63 0.55 0.23
PC:RBC 1.00 -‐ 0.79 0.56 0.49 0.29
Low <1:2 Moderate >=1:2 -‐ <1:1 High >=1:1
HR P値 HR P値 HR P値
FFP:RBC 1.00 -‐ 0.42 <0.01 0.23 <0.01
PC:RBC 1.00 -‐ 0.66 0.16 0.37 0.04
● 6-‐24時間後
Low <1:2 Moderate >=1:2 -‐ <1:1 High >=1:1
HR P値 HR P値 HR P値
FFP:RBC 1.00 -‐ 1.41 0.33 1.47 0.26
PC:RBC 1.00 -‐ 1.23 0.46 0.69 0.19
● 24時間-‐30日後
死亡率
ü 患者の死亡は6時間以内では出血死が多かった。
ü 失血死の77%が6時間以内だった。
ü FFP or PC :RBCの比率が高いほど、6時間以内の死亡率は低下傾向がある。
ü 失血死の危険性が減少する6時間以降の輸血比は、死亡率とは有意差なし。
PROMMTT Study
• 初の大規模な多施設前向き研究であった。 • 大量輸血している者に絞ったことでFFPやPCを入れ
る前に死亡した患者による生存バイアスを軽減した。
• しかし、輸血の比率やタイミング、死因の判断は担当医に一任されており、疑問が残る。
⬇ 輸血方法を統一した無作為化比較試験へ
• Design:多施設RCT • Purpose:重傷外傷患者に対する大量輸血においてFFP: Plt:
RBC (1:1:1 vs. 1:1:2)の有用性を比較する • PaIents: 2012年8月-‐2013年12月、北アメリカのLevel1外傷セ
ンターで大量輸血が必要と考えられた患者
Outcome Primary Outcome 24時間および30日時点でのグループ間での死亡率の絶対値
Secondary Outcome (1)止血までの時間 (2)患者のランダム化から止血までで使用された血液製剤の量と種類 (3)止血後から来院後24時間までで使用された血液製剤の量と種類 (4)23の合併症 (5)hospital-‐free days,venIlator-‐free days,ICU-‐free days (6)手術の有無 (7)退院時あるいは30日時点どちらか早い時点での機能予後
Sample Size • N=680 • 2群間の院内死亡率 24時間時点での差異を10% (11% vs 21%)と設定(Power=95%) 30日時点での差異を12% (23% vs 35%)と設定(Power=92%) • 有意水準0.05
• 一次解析は2群を両側マンテル・ハンツェル検定を使用して24時間,30日死亡率を別々に比較
• Intent to treat解析
StaIsIcal analysis
Inclusion Criteria ・ 重症レベル ・15歳以上(年齢不詳の場合50kg以上) ・受傷後直接搬送 ・受傷後1時間以内に1単位以上の輸血 ・大量輸血が予想される(ABCscore>2)
・搬送前に救命措置を受けてきた ・1時間以内の死亡が予想される(致命的脳挫傷等) ・割り付けられる前に救急部で気管切開 ・15歳未満(年齢不詳の場合50kg未満) ・妊娠中 ・20%以上の熱傷 ・気道障害の疑い ・5分以上の胸骨圧迫を伴うCPRを受けた ・DNR ・他の研究に参加中 ・割付前に3単位以上を輸血
Exclusion Criteria
・受傷機転が貫通 ・FAST (+) ・sBP < 90 mm Hg ・HR >120 bpm
割付
・各施設でランダム割付 ・初回輸血投与の直前まで 医師は盲検化
1:1:1群
①PC 6U
②FFP 6U+RBC 6U
1:1:2群
①RBC 2U+FFP 1Uを3セット
PC 6U ➡ RBC 2U+FFP 1Uを3セット
輸血の中止
• 止血の達成 • 死亡 • 明らかに輸血が無益である場合 • 割付後輸血が不必要だった場合 • プロトコールの逸脱
手術室内での止血 術野での出血がコントロールされた時点 IVR室での止血 塞栓術後に造影剤の漏出がなくなった時点
結果
患者背景
両群の患者背景に有意差なし
年齢(中央値):34.5 vs 34歳 GCS: 14点 vs 14点 sBP: 102mmHg vs 102mmHg HR: 115回/分 vs 113回/分 RR: 20回/分 vs 20回/分 ABC score>=2: 64% vs 65% Hb: 11.7g/dl vs 11.9g/dl
実際の比率
[FFP/RBC] 1.0 0.5
[PC/RBC] 1.5 0.4
総輸血量
介入から止血までの総輸血量 16U vs 15U 介入後は1:1:1群では輸血必要量が減少
Outcomes
・Primary Outcomes: 24時間後:12.7% vs. 17.0% (p=0.12) 30日後:22.4% vs. 26.1% (p=0.26) 1: 1: 1群で良さそうに見えるが有意差なし。 ・止血が得られた割合は 86.1% vs. 78.1%で1:1:1群で有意に多かった。
1:1:1群
1:1:2群
1:1:1群
1:1:2群
死因
メインの死因は失血死で、24時間後:9.2% vs. 14.6%(p=0.03) と有意に減少。 30日後:10.7% vs 14.7% 有意差なし。
合併症
ARDS 多臓器不全 血栓症 敗血症等の 輸血関連合併症を含め 両群に有意差なし
結論
• 重傷外傷において、大量輸血比率FFP:PC:RBC=1: 1: 1群では1:1:2群に比べ、24時間後および30日後死亡率は低い傾向にあるが有意差は無かった。
• 1:1:1群では止血率が高かった。(86.1% vs 78.1%, p=0.006)
• 1:1:1群では 大の死因である失血死が24h時点において有意に少なかった。(9.2% vs 14.6%, p=0.03)
• 合併症頻度は両群に差異は無かった。
考察
• 重傷外傷において、大量輸血比率FFP:PC:RBC=1: 1: 1群では1:1:2群に比べ、早期に止血を得られやすく、死亡率が減る可能性がある。
Strength
• 今までの研究と異なり、サンプルサイズの大きく、治療割り付けが盲検化され、受傷直後より介入しているため生存・選択バイアスが少ない
• 治療群の入れ替えなし • 治療プロトコルの遵守率が高い • 治療開始まで医療者が盲検化
limitaIon
• 設定していた有意差を出すためだけのSample Sizeに足りていなかった
• FFPとPltそれぞれの効果を分けて検証できなかった
• 輸血を開始した時点で盲検化できなくなった
批判的吟味①
• 課題設定➡輸血比率による死亡率の差を検討することであり明確。
• 研究方法➡多施設共同前向きRCT • 割付➡ランダム割付 • 盲見化➡盲見は輸血直前までのみである。
特にSecondary outcomeにおいては主観的な評価項目であり、既に盲見化されていない評価者においてはバイアスがかかる可能性がある。
• 全員が評価されたか➡intenIon to treat解析
批判的吟味②
• 介入以外の条件➡輸血方法以外のプロトコールはなく不明確。長期死亡率は関与する因子が多いため有意差が出るに至るのは難しかったのではないか。
• 十分なサイズであったか➡想定していたほど2群の死亡率に差がなく、結果として足りなかった。
• 結果➡重傷外傷において、大量輸血比率FFP:PC:RBC=1: 1: 1群では1:1:2群に比べ、24時間後および30日後死亡率は低い傾向にあるが有意差は無かった。しかし失血死が多いのは6時間以内であるため、24時間及び30日後ではなくもっと短期の死亡率を評価するべきであったのではないか。
私見 • 重傷外傷において死因の大部分である失血死を防ぐこと
は総死亡率を下げるのに有意であり、FFP or PCを高比率に輸血すると死亡率が改善する可能性はある。
• 長期死亡に関しては輸血比率以外の要素が大きいため有意差が出づらかったと考える。
• 失血死が多い6時間に限れば有意差がでたのではないか。 • 1:1:1群で合併症頻度に差異はなかったが、総投与量が増
える可能性は考慮しなくてはならない。 • ベッドサイドで包括的に凝固機能を評価できるトロンボエラ
ストグラム(TEG)を使用したGDTの方が、輸血比率固定の方法より良いとする報告もある。CoSon BA, Faz G, Hatch QM, et al. Rapid thrombelastography delivers real-‐Ime results that predict transfusion within 1 hour of admission. J Trauma. 2011;71(2):407-‐414. しかし大量輸血を要する患者に検査結果を待つ自体が危険であるという意見もあり、今後更なる研究が期待される。