歩行者密度と感染者数との関連について(1) ヨーロッパの場合 2020/12/15 大木島 真
○緒言 GOTOトラベルと感染者との関連性について議論が行われている。旅行が感染の直接的エビデ
ンスはないのかもしれないが、GOTOトラベルが旅行を促進し、ウイルスの伝播拡散を誘発する
蓋然性を高めるとともに、歩行者密度が上がり結果として感染のリスクが高まることが推察される。 そこで、歩行者の密度と感染者の増減についてネットに提供されているデータに基づき欧州の例
並びに東京都、大阪市、北海道札幌市を題材にして考察した。 歩行者の密度と感染者の増加には、ダイレクト結びつかないが、一挙に歩行者密度を強い強度で
60%程度(昨年1月13日時点での歩行者数に比べ)まで歩行者密度を減少させれば、感染者数
もダイレクトに減少することが伺える。中途半端な歩行者密度の減少では感染者数の減少に結びつ
かないように思われる。 なお、感染者数に替えて重傷者数と歩行者密度を比較すると、より高い相関(相関係数0.41)
がみられた。covid-19の対策が重傷化を防止することであり、高齢者への感染を回避する
ことであり、市中感染や家庭内感染を防止することであり、歩行者密度を下げることが必要である
と推察された。 ○分析に用いたデータ 感染者数 アメリカコロナ感染者数 - Google 検索について7日の移動平均値 歩行者数(密度) 新型コロナウイルス対策 - 移動傾向レポート - Apple についてWalkin
gの7日移動平均値(2020/1/13 の歩行者数を100) 感染者数と歩行者密度は14日のギャップがあるものとして比較検討した ○結果 フランスの場合 3月下旬 第一波の感染に対して ロックダウン
により歩行者密度(2020.1.13 の歩行者数を 100 とし
た場合の歩行者数の比率)は20%まで下がり、感
染者は抑制された。その後、8月下旬まで徐々に歩
行者密度が高まり、その後減少に転じる。一方、感
染者数阿、9月下旬まで微増するが9月下旬から激
増に転じる。 フランス政府のロックダウン第二弾により、10
月下旬には一挙に歩行者密度は40%まで減少する
こととなり、感染者数は一挙に減少することになっ
た。 なお、11月下旬、ロックダウンが緩和されたこ
とにより、歩行者密度が徐々に増加傾向にあり、感
染者数は横ばいとなっている イタリアの場合 ほぼ、フランスと同じ傾向にある。 10月中旬から歩行者密度は40%まで減少、感染
者数も11月中旬をピークに一挙に減少している。 なお、11 月中旬以後、後行者密度は低くどまりし
ており、感染者数も減少し続けている イギリスの場合 フランス・イアリアと同じような傾向を辿ってい
るが、11月上旬に歩行者密度が一気に80%まで
減少し、感染者数も減少に転じた。しかし、11月中旬以後ロックダウンを緩和したことにより、
歩行者密度は100%まで上昇し、感染者数も増加に転じている。
ドイツの場合 大筋のパターンはフランス・イアリア・ドイツ
と同じであるが、10月上旬から歩行者密度は減
少を続けているが、減少速度は小さく、11月中
旬から減少速度は停滞状況にある。感染者数は、
10月中旬急上昇は解消され、一時減少傾向にあ
ったが、最近は増加傾向に転じた。 米国の場合 ニューヨークの歩行者は3月中旬1月13日に
対して10%程度まで急激に減少、その後漸増1
0月中旬でやや減少するが11月下旬から拡大
している。ロサンゼルスは、3月中旬40%程度
まで減少し、祖語の100%程度まで回復してい
る。米国全体では、ほぼロサンゼルスに酷似して
いるが、8月中旬には140%まで上昇し、その
後100%に減少している。 米国全体での感染者数は、7 月中旬をピークに
一旦山を形成するが9月中旬には減少する。その
後10月中旬以後爆発的に拡大している。7 月の
第二派波の減少の要因は歩行者密度では説明がつかない。夏場の環境要因により減少したものと思
われる。 インドの場合 3月25日から「世界最大」のロックダウン・全
土封鎖(生活必需品の買い物を除いて外出禁止)
を開始し、5月下旬ごろまで感染を阻止してきた
が、失業した出稼ぎ労働者が路上にあふれだし、
6月1日から段階的に解除、一か月毎に4回に分
け活動制限を解除した。感染者も 8 月中旬をピー
クに増加に転じ、その後減少となり、10 月15日
以後ほぼ解除した。歩行者密度は、ロックダウン
の段階的解除に従って、徐々に増加し、9月下旬
には100%を回復、その後の増加をし 12 月中旬には140%となったが、感染者は減少し続け
ている。
歩行者密度と感染者数との関連について(2)南半
球の場合 ニュージーランドの場合 歩行者密度は、3月中旬20%程度まで減少し、
感染者数も4月中旬にはほぼ0まで減少した。その
後歩行者密度は90%前後に増加するが、8月中旬
にやや感染者が増加する局面で、歩行者密度を強制
的に減少させ、それとともに感染者数も減少させて
いる。その後再び歩行者密度は増加するが、90%
前後で抑制されており、感染者の増加はない。適時
に一挙に歩行者密度を減少させ、90%前後で維持
していれば、感染者をほぼ抑えることができるように推察される オーストラリアの場合 歩行者密度は3月中旬ロックダウンにより一挙
に40%まで減少、感染者数もほぼ0まで減少し
た。その後、歩行者密度は徐々に増加し、7月中
旬80%まで回復するとともに、感染者数は6月
中旬から7月中旬をピークとする第二の山を形成
する。この山は7月中旬に規制を強化し、歩行者
密度が10%程度減少することもあり、9月中旬
にはほぼ0まで減少している。しかし、歩行者密
度と感染者数の増減とは明確な関連性を説明でき
ない。 ブラジルの場合 3月中旬、一旦歩行者密度は40%まで減少する
が、その後一貫して徐々に増加、9月中旬には10
0%を回復している。感染者は 7 月をピークとする
冬季間の感染増加があり、10月下旬に一旦減少す
るが、その後再び急上昇している。 何もしなければ、インフルエンザと同様、冬季間
に感染増加するものと推察される。
歩行者密度と感染者数との関連について(3) 日本の場合 ○分析に用いたデータ 感染者数 新型コロナウイルス感染者数の推移:朝日新聞デジタル (asahi.com)について7日の移
動平均値 歩行者数(密度) 新型コロナウイルス対策 - 移動傾向レポート - Apple についてWalki
ngの7日移動平均値(2020/1/13 の歩行者数を100) 感染者数と歩行者密度は14日のギャップがあるものとして比較検討した 〇結果 東京都・大阪市の場合 3月中旬の感染を契機とする感染者の増加(陽
性が確認されるのは2週間後の4月上旬)に対し
て、4月上旬から歩行者密度が一挙に60%程度
まで減少し、感染者数も減少し、第一の山を形成
した。 その後、歩行者密度は徐々に増加し、9月下旬
以後増減はあるものの120%まで増加、一旦減
少するが、東京では120%、大阪では140%
に増加、11月下旬に100%近くまで減少した。 一方、感染者は7月中旬(8 月上旬に陽性判明)
感染が増加・減少しているが、歩行者密度とは関
連性が見いだせない。その後12月中旬に歩行者
密度が減少しているが、東京は、増加傾向にあり、
大阪は急上昇は解消したが、横ばいで推移してい
る。 〇重傷者と歩行者密度の関係 感染者と歩行者密度とには大きな相関が見られ
なかったが、感染者を重傷者に限定して比較検討
した。グラフの目盛りは、重度化した日付とし、
歩行者密度の日付は、1か月前の日付、すなわち
4月25日は重傷化の日付であり、3月25日の
歩行者密度となる。 夏の感染者の増加は、若年者を中心にした繁華
街でのクラスターの増加であり、重度者の大きい
な増加につながらず、歩行者密度が増加するとと
もに、重度者も増加していく。 特に東京のgotoが解禁された11月上旬からは歩行者密度は100%を超えると重度者の
増加速度が大きくなっている。3月25日から12月17日までの間の重度者の増減と歩行者密度
の増減には正の僅かな相関が認められる(相関係数
0.47) 札幌市(北海道)の場合 歩行者密度は札幌市、感染者は北海道全域につい
て比較検討した。 3月上旬を谷に、歩行者密度が減少から増加に転
じ、感染者数が4月中下旬をピークに増加した。歩
行者密度は5月上旬に向け60%まで大きく減少
する一方、感染者数も減少に転じた。 その後、歩行者密度は、徐々に増加し、7月上旬
までに100%まで回復したが、東京・大阪に見られる夏場の感染者の増加は見られなかった。 gotoトラベルが開始された8月から10月上旬に向け、120%前後の密度となり、その後
80%まで大きく減少している。感染者は9月中旬から増加に転じ、10月中旬から11月中旬に
爆発的感染となり、歩行者密度の減少により感染者も減少していおり、歩行者密度の減少が感染者
の減少に関わっていることが推察される。 日本の場合 日本全体では、歩行者密度は3月中旬から4月
中旬に向け大きく減少し、ヨーロッパ型の感染の
第一波は終息した。その後9月中旬に向かって、
歩行者密度は徐々に増加し、100%を回復した。 一方6月中旬から東京の歓楽街から発生したク
ラスターが拡大し第二派を形成し、東京都の飲食
店の時短要請により9月中旬に減少したが、歩行
者密度は拡大を続けており、感染者は中途半端に減少し、10 月 1 日からのGOTOトラベル東京
解禁によって第三派を形成しつつある。第二派は若年者を基本とするクラスターの発生であり、市
中感染と結びつく歩行者密度の増減とは切り離すべき感染拡大と解することが妥当と思われる
〇まとめ 各国で行ったロックダウンは、歩行者密度を急激にさせ、感染者の減少させる効果があったもと
と推察された。 ヨーロッパ並びに北海道では、夏の感染の山はなく、歩行者密度の増減と感染者の増減の間には
明確な相関が認められないが、歩行者密度が100%を超え増加すると感染者が増加する関係が推
察された。また、ロックダウンなど強制的に歩行者密度を60%程度まで減少させると感染者数が
減少しており、ある程度の相関が推察された。 東京・大阪に見られる夏の感染の山は特異的であり、若年者によるクラスターの形成によるので
あり、重傷化が起こりにくく、歩行者密度の増加による市中感染の増加とは無関係と推察される。
重傷者の増減と歩行者密度の増減を比較すると、密接な関係が認められる(相関係数0.47) オーストラリア、ブラジルに見るように冬季間は大きなピークを形成する。但しニュージーラン
ドに見られるように歩行者密度を100%以下に抑制するとともに、小規模の感染の増加を歩行者
密度を強制的に低めることで大規模な拡大を防止することが出来ると推察される。