CONFIDENTIAL
KW-6002
第 2 部(モジュール 2): CTD の概要(サマリー)
2.4 非臨床試験の概括評価
協和発酵キリン株式会社
KW-6002 2.4 非臨床試験の概括評価
CONFIDENTIAL - 2 -
略号及び用語の定義一覧
略号 略号 略していない用語
ACTH Adrenocorticotropic hormone(副腎皮質刺激ホルモン) ALP Alkaline phosphatase(アルカリホスファターゼ) ALT Alanine aminotransferase(アラニンアミノトランスフェラーゼ) AST Aspartate aminotransferase(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ) Bil Bilirubin(ビリルビン) cAMP Cyclic adenosine monophosphate(環状アデノシン1リン酸) Cho Cholesterol(コレステロール)
COMT Catecol-O-methyltransferase(カテコール-O-メチル基転移酵素) CRF Corticotropin-releasing factor(副腎皮質刺激ホルモン放出因子) CYP チトクローム P450 GABA Gamma-aminobutyric acid(ガンマアミノ酪酸) GFAP Glial fibrillary acidic protein(グリア線維酸性蛋白質) Glu Glucose(血糖) hERG Human ether-a-go-go-related gene(ヒト ether-a-go-go 関連遺伝子) IC50 50% inhibitory concentration(50%阻害濃度)
IPSC Inhibitory post synaptic current(抑制性シナプス後電流) KB Binding constant(結合定数) Ki Inhibition constant(阻害定数) Ki,app 見かけの阻害定数 kinact 最大不活化速度定数 L-DOPA Levodopa plus benserazide: ratio is 4:1(レボドパにベンセラジド塩酸塩を重量比
4:1 で混合したもの) MAO Monoamine oxidase(モノアミン酸化酵素) MC Methylcellulose(メチルセルロース) MPTP 1-Methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine hydrochloride NADPH Nicotinamide adenine dinucleotide phosphate, reduced form PL Phospholipid(リン脂質)
T3 トリヨードサイロニン
T4 サイロキシン TSH Thyroid stimulating hormone(甲状腺刺激ホルモン) UVA Ultra-violet A(A 領域紫外線)
KW-6002 2.4 非臨床試験の概括評価
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用語の定義 用語 定義
AUC 血漿中薬物濃度―時間曲線下面積
AUC0-∞ 無限大時間までの血漿中薬物濃度―時間曲線下面積
AUC0-t 投与後 t 時間までの血漿中薬物濃度―時間曲線下面積
Cmax 最高血漿中薬物濃度
FDA 米国食品医薬品局
GLP 医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準 ICH 日米 EU 医薬品規制調和国際会議 M1 4’-O-脱メチル体 M1* 3’-O-脱メチル体 M2 1-β-水酸化-4’-O-脱メチル体 M3 3’,4’-O-ジ脱メチル体 M4 4’-O-脱メチル体の硫酸抱合体 M5 4’-O-脱メチル体のグルクロン酸抱合体 M6 1-脱エチル-4’-O-脱メチル体 M7 3’,4’-O-ジ脱メチル体のモノ硫酸抱合体 M8 1-β-水酸化体 M9 4’-O-脱メチル体の還元体 M10 3’,4’-O-ジ脱メチル体の還元体 M11 4’-O-脱メチル体の還元体のグルクロン酸抱合体 M12 3’,4’-O-ジ脱メチル体の還元体のモノグルクロン酸抱合体 M13 1-脱エチル-3’,4’-O-ジ脱メチル体の還元体 M14 1-β-水酸化-3’,4’-O-ジ脱メチル体の還元体 M15 1-β-水酸化-3’,4’-O-ジ脱メチル体の還元体のモノ硫酸抱合体 M16 1-脱エチル-4’-O-脱メチル体の硫酸抱合体 M17 1-カルボキシメチル体 M18 3’,4’-O-ジ脱メチル-1-カルボキシメチル体の還元体 M19 3’,4’-O-ジ脱メチル体の還元体のモノ硫酸抱合体 S9 mix 肝臓のホモジネート 9000×g 上清分画に補酵素等を加えたもの tmax 最高血漿中薬物濃度到達時間
KW-6002 2.4 非臨床試験の概括評価
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目次
略号及び用語の定義一覧 ........................................................................................................2
目次 ............................................................................................................................................4 2.4 非臨床試験の概括評価 ................................................................................................................ 5 2.4.1 非臨床試験計画概略 ................................................................................................................ 5 2.4.2 薬理試験 .................................................................................................................................... 6 2.4.2.1 効力を裏付ける試験 ............................................................................................................ 6 2.4.2.2 副次的薬理試験 .................................................................................................................... 8 2.4.2.3 安全性薬理試験 .................................................................................................................... 8 2.4.2.4 薬力学的薬物相互作用試験 .............................................................................................. 10 2.4.3 薬物動態試験 .......................................................................................................................... 10 2.4.3.1 吸収...................................................................................................................................... 10 2.4.3.2 分布...................................................................................................................................... 11 2.4.3.3 代謝...................................................................................................................................... 12 2.4.3.4 排泄...................................................................................................................................... 14 2.4.3.5 薬物動態学的薬物相互作用 .............................................................................................. 15 2.4.3.6 その他の薬物動態試験 ...................................................................................................... 15 2.4.4 毒性試験 .................................................................................................................................. 15 2.4.4.1 単回投与毒性試験 .............................................................................................................. 15 2.4.4.2 反復投与毒性試験 .............................................................................................................. 16 2.4.4.3 遺伝毒性試験 ...................................................................................................................... 18 2.4.4.4 がん原性試験 ...................................................................................................................... 19 2.4.4.5 生殖発生毒性試験 .............................................................................................................. 19 2.4.4.6 局所刺激性試験 .................................................................................................................. 21 2.4.4.7 その他の毒性試験 .............................................................................................................. 21 2.4.5 総括及び結論 .......................................................................................................................... 23 2.4.6 参考文献一覧 .......................................................................................................................... 26
KW-6002 2.4 非臨床試験の概括評価
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2.4 非臨床試験の概括評価 イストラデフィリンは選択的なアデノシン A2A 受容体拮抗薬であり、パーキンソン病を対象
疾患とし、レボドパ製剤との併用療法を適応としている。パーキンソン病は進行性の神経変性
疾患であり、振戦、固縮、無動及び姿勢保持障害が特徴的な症状として知られている。これら
の運動障害は中脳黒質緻密層から線条体へ投射するドパミン神経細胞の変性及び脱落に伴う線
条体のドパミン含量の減少によると考えられている。パーキンソン病の治療法としては線条体
のドパミン補充を目的としたレボドパ製剤が現在でも最も有効であるが、レボドパ治療の長期
化に伴ってウェアリング-オフ現象やジスキネジア等の運動合併症が出現するようになり、進
行期パーキンソン病治療上の大きな問題となっている。これらへの対策として、長時間作用型
のドパミンアゴニスト、レボドパ製剤との併用により脳内ドパミン代謝を抑制する B 型モノア
ミン酸化酵素(MAO-B)阻害薬及び血中レボドパ濃度半減期を延長するカテコール-O-メチル
基転移酵素(COMT)阻害薬が開発され、治療に用いられているが、問題は十分には解決され
ていない。
大脳皮質、線条体及び淡蒼球を経由して視床に投射する大脳基底核回路の機能異常は、種々
の錐体外路疾患の症状発現に深く関わっており、パーキンソン病では淡蒼球から視床への抑制
性の刺激が過剰な状態にあることで無動が生じると考えられている1)。アデノシン A2A 受容体
は、上記の大脳基底核回路中の間接経路を構成する線条体から淡蒼球外節に投射するγ-アミ
ノ酪酸(GABA)及びエンケファリンを含む中型有棘ニューロンに特異的に発現している。こ
の間接経路の活性はアデノシン A2A 受容体の刺激を介し興奮的に調節されていることが知られ
ている2-4)。このアデノシン A2A受容体を遮断することにより、パーキンソン病の病態である淡
蒼球から視床への過剰な抑制性刺激が緩和され、大脳基底核回路のバランスが回復することが
明らかになってきた2, 3)。このような病態生理学的理解を背景に、アデノシン A2A受容体の拮抗
薬であるイストラデフィリンは、長期的レボドパ治療におけるドパミン受容体刺激に基づいて
生じる問題をドパミン系の薬物とは異なる機序から解決しうる抗パーキンソン病薬として期待
される4)。
各開発段階における非臨床薬理、薬物動態及び毒性試験を以下のとおり実施した。
2.4.1 非臨床試験計画概略 <薬理試験>
効力を裏付ける試験として in vivo パーキンソン病モデルにおける運動不全改善作用を単独処
置及びレボドパとの併用で検討した。また、イストラデフィリンの生化学的特性を in vitro の
受容体結合試験、細胞内環状アデノシン 1 リン酸(cAMP)の蓄積を用いて検討した。更に淡
蒼球神経活動に対する影響を電気生理学的、神経化学的に検討した。
安全性薬理試験のうち、マウスの中枢神経系に対する作用、イヌにおける心血管系に対する
作用(探索的試験)についてはイギリスにおける「Good Laboratory Practice(1986 年制定、
1989 年改訂)」に準拠して検討した。Human ether-a-go-go-related gene (hERG)電流に対する
作用、心筋梗塞イヌにおける催不整脈作用、イヌにおける反応性充血に対する作用、及びマウ
スにおける胃腸管系に対する作用の検討は「安全性薬理試験ガイドライン(平成 13 年 6 月 21
日、医薬審発第 902 号)」に従って検討した。マウス、ラット、ウサギを用いたその他の中枢
神経系、心血管系、胃腸管系に対する作用の検討は平成 年~ 年に一般薬理試験として実施
しており、本承認申請において参考資料として提出する。
KW-6002 2.4 非臨床試験の概括評価
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<薬物動態試験>
薬物動態試験として非標識体及び 14C 標識したイストラデフィリン(14C-イストラデフィリ
ン)を用いて、マウス、ラット、イヌにおける経口投与後の血漿中濃度推移及びラット、イヌ
における静脈内投与後の血漿中濃度推移を検討した。更に Caco-2 細胞を用いて、膜透過性を
検討した。分布については 14C-イストラデフィリン又は 3H 標識したイストラデフィリン(3H-
イストラデフィリン)を用いて、ラットにおける組織内分布、in vitro、 in vivo での血清又は血
漿蛋白結合率、血球への移行を検討した。マウス、ラット、イヌを用いて血漿中代謝物の検討
を行い、尿糞中代謝物(ラット、イヌ)、胆汁中代謝物(ラット)、脳中代謝物(ラット)を
評価した。更に in vitro 試験により代謝酵素の同定、酵素誘導及び阻害を検討した。排泄につ
いては、ラット、イヌを用いて尿糞中排泄及びラットを用いて胆汁中、乳汁中排泄について評
価した。レボドパとの血漿中濃度推移における相互作用を、ラットを用いて評価した。更にパ
ーキンソン病モデル動物である 1-Methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine hydrochloride
(MPTP)処置マーモセットにおける血漿中濃度推移を評価した。
非臨床薬物動態試験における投与経路は、臨床投与経路である経口投与とし、一部の試験で
は静脈内投与を実施した。各種動物試験に用いた被験物質は結晶未粉砕品、結晶粉砕品又はヒ
ドロキシプロピルメチルセルロース混合粉砕品であり、投与剤形はメチルセルロース又はヒド
ロキシプロピルメチルセルロースを用いた懸濁液又は粉末を充填したゼラチンカプセルであっ
た。
<毒性試験>
毒性試験として単回投与毒性試験、反復投与毒性試験、一連の in vitro 及び in vivo 遺伝毒性
試験、がん原性試験並びに生殖発生毒性試験を実施した。その他の毒性試験として、抗原性試
験、毒性発現機序に関する試験として副腎皮質関連ホルモンへの影響に関する試験、依存性試
験及び光毒性試験を実施した。更に、レボドパ併用投与時の安全性を評価する目的で、併用単
回投与によるトキシコキネティクス並びに併用投与による反復投与毒性試験及び生殖発生毒性
試験を実施した。
臨床投与経路が経口であることから、動物を用いた試験は経口投与で実施し、一部の試験で
は静脈内投与を実施した。局所刺激性試験は実施しなかった。
すべての重要な毒性試験は、日本、イギリス、アメリカ又はスイスの GLP に適合した試験
であり、国内、海外又は ICH のガイドライン又はガイダンスに準拠して実施した。
2.4.2 薬理試験
2.4.2.1 効力を裏付ける試験 イストラデフィリンの薬理作用を評価するため、パーキンソン病モデルマウス及び霊長類を
用いた行動薬理学的試験により抗パーキンソン病作用を検討した。本剤はレボドパ製剤(末梢
性ドパ脱炭酸酵素阻害剤との合剤)との併用での使用が想定されているため、L-DOPA 併用下
における抗パーキンソン病効果についても検討した。
レセルピン処置パーキンソン病モデルマウスにおいて認められる、運動障害の一指標である
カタレプシー反応に対し、イストラデフィリンは単回経口投与(0.04~2.5 mg/kg)により緩解
作用を示した。また、有意なカタレプシー緩解作用を示さない用量の L-DOPA(12.5 mg/kg、
閾値用量)と併用した場合、イストラデフィリン(0.04~2.5 mg/kg)のカタレプシー緩解作用
は単独投与時より強いものであった(2.6.2.2.1.1)。
KW-6002 2.4 非臨床試験の概括評価
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MPTP を処置したコモンマーモセット(MPTP 処置マーモセット)にイストラデフィリン
(0.3~10 mg/kg)を経口投与したところ、用量の増加に伴った抗パーキンソン病活性を示した。
イストラデフィリンの抗パーキンソン病活性の発現は血漿中濃度の用量に伴う増加とよく相関
していた(2.6.2.2.1.2.1)。
L-DOPA 誘発ジスキネジアはヒトにおいて L-DOPA の長期療法時に発症するドパミン補充療
法における運動合併症の一つであるが、MPTP 処置マーモセットにおいても L-DOPA の反復処
置でジスキネジアが発症することが知られている。ジスキネジア原性を獲得させた MPTP 処置
マーモセットにおいて、イストラデフィリン反復投与による影響を確認したところ、イストラ
デフィリンによるジスキネジアの誘発は認められなかった(2.6.2.2.1.2.2)。
MPTP 処置マーモセットにおいて、イストラデフィリン(10 mg/kg)を L-DOPA(2.5、5、
7.5 mg/kg)と併用したところ、最大抗パーキンソン病活性の増強と作用持続時間の延長が認め
られた。また、イストラデフィリンの併用により L-DOPA 投与時の作用発現時間(ON 時間)
は有意に延長された(2.6.2.2.1.2.3)。更に、L-DOPA 反復処置によりジスキネジア原性を獲得
させた MPTP 処置マーモセットにおいて、イストラデフィリン(10 mg/kg)と L-DOPA(2.5
mg/kg)の併用により、L-DOPA 単独投与により発現するジスキネジアの最大値を増悪せず、
イストラデフィリンはジスキネジアの重症度を軽度抑制すると考えられた(2.6.2.2.1.2.4)。
イストラデフィリンの抗パーキンソン病効果における作用機序を検討するために以下の試験
を行った。イストラデフィリンのラット及びヒトアデノシン受容体サブタイプに対する結合活
性を in vitro 結合試験にて確認したところ、標識物質のアデノシン A2A 受容体への結合に対し
て高い阻害能を示し、ヒトアデノシン A2A 組換え受容体に対するイストラデフィリンの結合阻
害活性は阻害定数(Ki 値)が 12.4 ± 0.601 nmol/L であった。ヒトアデノシン A1及び A3組換え
受容体に対する結合阻害活性は 50%阻害濃度(IC50)値がそれぞれ 1000 nmol/L 以上、10000
nmol/L 以上と算出された(2.6.2.2.2.1.1)。また、in vitro においてアドレナリン、ドパミン、
セロトニン、GABA、ベンゾジアゼピン、アセチルコリン、グルタミン酸、オピオイド、カン
ナビノイドを含む各種受容体への結合能は極めて低く(2.6.2.2.2.1.2)、ヒト組換え MAO-A、
MAO-B 及びブタ肝臓由来の COMT を阻害しなかった(2.6.2.2.2.1.3)。更に、イストラデフィ
リンは PC-12 細胞において、単独では細胞内 cAMP に影響を与えなかったが、アデノシン A2A
作動薬 CGS21680 により誘導される cAMP 蓄積を抑制し、この蓄積抑制から求めた結合定数
(KB値)は 0.74 ± 0.23 nmol/L であった(2.6.2.2.2.1.4)。以上より、イストラデフィリンはア
デノシン A2A受容体選択的な拮抗作用を有することが明らかとなった。
アデノシン A2A 受容体は、線条体-淡蒼球間接経路 GABA 作動性中型有棘細胞 に特異的に
発現していることが報告されている2, 3)。そのため、パーキンソン病の病態発現において重要
な役割を果たしていると考えられている線条体-淡蒼球間接経路に対する、イストラデフィリ
ンの影響を電気生理学的、神経化学的手法によって検討した。
電気生理学的検討として淡蒼球 GABA シナプス伝達に及ぼすイストラデフィリンの作用に
ついて検討した。淡蒼球ニューロンにおける GABAA 受容体を介したシナプス後電流
(Inhibitory post synaptic current(IPSC))を、ラット脳スライス標本を用いたパッチクランプ
法により検討したところ、アデノシン A2A受容体作動薬 CGS21680 により増強される淡蒼球神
経細胞の IPSC をイストラデフィリンは抑制した(2.6.2.2.2.2.1)。本結果から、イストラデフ
ィリンはアデノシン A2A 受容体刺激によるラット淡蒼球 GABA シナプス伝達促進作用を抑制
し、線条体-淡蒼球の間接経路の過度な GABA 出力を低下させることによって、抗パーキン
ソン病活性を示していると推察された。
KW-6002 2.4 非臨床試験の概括評価
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In vivo におけるイストラデフィリンの抗パーキンソン病活性の作用機作を検討するため、ド
パミン神経毒である 6-ヒドロキシドーパミンを片側の内側前脳束(medial forebrain bundle)
に注入し、片側黒質ドパミン神経を破壊したラットを用い、淡蒼球の GABA 遊離に対するイ
ストラデフィリンの影響について検討した。片側ドパミン神経破壊ラットの淡蒼球における
GABA 細胞外濃度は、正常ラットより高い値(2 倍程度)を示し、淡蒼球の GABA 神経終末の
活動性は亢進していた。この GABA 遊離の増加は、イストラデフィリン(1 mg/kg)投与によ
り減少した(2.6.2.2.2.2.2)。本試験の結果からも、イストラデフィリンはアデノシン A2A 受容
体拮抗作用により、線条体-淡蒼球の間接経路の過度な GABA 作動性出力を低下させること
によって、抗パーキンソン病活性を示すものと考えられ、線条体-淡蒼球間接経路の神経活動
の調節がイストラデフィリンの抗パーキンソン病活性発現に重要であると考えられた。
2.4.2.2 副次的薬理試験 副次的薬理試験は実施していない。
2.4.2.3 安全性薬理試験 安全性薬理試験として、中枢神経系、心血管系、呼吸系及び胃腸管系に及ぼすイストラデフ
ィリンの影響を検討した。
中枢神経系に対する作用として、マウスを用いて一般症状及び行動並びに自発運動量に対す
る影響を検討した。イストラデフィリンはマウスに対して、自発運動量の増加とともに中枢興
奮、接触反応の亢進、身づくろい行動増加等の作用を示した。これらの作用は、イストラデフ
ィリンが有する運動機能亢進作用に基づき現れていると考えられ、主薬効である抗パーキンソ
ン病作用を一部反映しているものと考えられる。しかし、自発運動量の増加は最大強度におい
ても活動過敏(hyperactivity)にまでは到らず、正常な運動を妨げるものではなかった。また、
霊長類のモデルにおいてはレボドパ等のドパミン神経を賦活する薬剤と異なり、正常な運動を
妨げる過剰な亢進作用を示さない(2.6.2.2.1.2.1)ことから、げっ歯類で認められたイストラデ
フィリンの中枢作用は本剤の主薬効発現を阻害するものではないと考えられる(2.6.2.4.1.1、
2.6.2.4.1.2)。
中枢神経系に及ぼす作用を検討したその他の試験として、マウスを用いて、筋弛緩、協調運
動、ペントバルビタール誘発睡眠時間及びけいれんに対する影響を、マウス、ラット、ウサギ
及びイヌを用いて正常体温に及ぼす影響を、ラットを用いて自発脳波、条件回避行動に及ぼす
影響をそれぞれ検討した。イストラデフィリンはペントバルビタール誘発睡眠時間を短縮した
が、通常、安全性上の問題となる延長作用とは逆の作用であり、イストラデフィリンの臨床で
の使用に際して問題にはならないと判断した。また、イストラデフィリンはマウス、ラット、
ウサギの体温をそれぞれ 0.3 mg/kg 以上、1 mg/kg 以上、300 mg/kg の用量で上昇させた。げっ
歯類においては体温を上昇させる用量と自発運動量を増加させる用量、経時変化がほぼ一致し
ており、自発運動量の増加に伴って二次的に体温上昇作用が発現している可能性が考えられた。
また、大動物になるほど作用の発現用量が高くなっており、イヌでは体温上昇が認められない
ことより、ヒトにおいて体温上昇が発現する可能性は極めて低いものと考えられた。その他の
試験においては、イストラデフィリンの影響は認められなかった(2.6.2.4.1.3)。
心血管系に対する影響を検討するため、hERG 電流に及ぼす影響の検討、ラット及びイヌを
用いたテレメトリー試験、イヌを用いた心筋梗塞モデル及び心冠動脈の反応性充血に対する影
響の検討を行った。
KW-6002 2.4 非臨床試験の概括評価
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In vivo における QT 延長リスクを評価するため、in vitro 試験としてイストラデフィリンの
hERG 電流に及ぼす影響を検討した。イストラデフィリンは灌流液に溶解しうる最高濃度の 2
μmol/L まで hERG 電流に影響せず、in vivo で QT 延長を引き起こすリスクは低いと考えられた
(2.6.2.4.2.1)。
テレメトリーシステムを装着したラット及びイヌを用いて、正常動物の心血管系及び呼吸系
に及ぼす影響を検討した。ラットに 0.3~10 mg/kg の用量でイストラデフィリンを投与したと
ころ、0.3 mg/kg から収縮期、拡張期血圧の上昇、心拍数の増加が認められた。同用量で自発
運動量が増加していたことから、血圧上昇、心拍数の増加は自発運動量の増加に伴って生じた
ものであると考えられた。イヌに 8、40 及び 400 mg/kg の用量を投与したところ、全投与量群
において投与後 8 時間まで散発的に拡張期血圧及び平均血圧の溶媒投与群と比較した一過的な
高値が認められた。また、400 mg/kg において投与 6 時間後の一時点においてのみ心拍数の溶
媒投与群と比較した高値が認められ、イストラデフィリンは心血管系に軽度の影響を及ぼすと
考えられた。しかし、イストラデフィリン投与群の血圧及び心拍数増加の絶対値は最大でもそ
れぞれ 20 mmHg、20 拍/min と軽度であり、イストラデフィリン投与群においては溶媒投与群
で認められた血圧、心拍数の下降が認められずに投与前値が維持されていたことを考慮すると、
イストラデフィリンの血圧、心拍数に対する作用はヒトでは特に重大な影響を及ぼすものでは
ないと考えられた。この他の心血管系パラメータ(収縮期血圧、心電図)、呼吸系パラメータ
は変化しなかった。イヌに最高投与量の 400 mg/kg を投与したときのイストラデフィリンの非
結合型の Cmaxは 187.8 ng/mLであり、イストラデフィリンを 20 mg 又は 40 mg をヒトに投与し
た場合の非結合型の Cmax のそれぞれ 18.2 倍、10.2 倍であった(比の計算には、日本人健康成
人男性の 14 日間反復経口投与試験(治験番号: 6002-0104、資料番号 5.3.3.1-8)の結果(20 及
び 40 mg/日の非結合型の Cmaxが各々10.30 及び 18.35 ng/mL)を用いた)。以上の結果より、イ
ストラデフィリンはヒトにおいて、心血管系及び呼吸系に重大な影響を及ぼす可能性は低いと
考えられた(2.6.2.4.2.2.1、2.6.2.4.2.2.2)。
虚血又は再灌流障害時には心筋からアデノシンが内因性に放出され、アデノシン A1 受容体
を介した陰性変時作用及び陰性変伝導作用、アデノシン A2A 受容体を介した血管拡張作用によ
ってアデノシンが心筋保護物質の一つとして作用することが知られている5)。イストラデフィ
リンによるアデノシン A2A 受容体拮抗作用が虚血、再灌流時の心血管系に及ぼす影響を検討す
るため、無麻酔のイヌを用いて、冠動脈結紮による心筋梗塞モデルにおける不整脈の発生頻度
に及ぼす影響を検討した。また、麻酔下のイヌを用いて冠動脈の結紮-再灌流による冠血流の
反応性充血に及ぼす影響を検討した。イストラデフィリンはいずれの試験においても心血管系
のパラメータに顕著に影響しなかった。冠動脈の結紮による心筋梗塞モデルでは、心筋梗塞発
症 2 日後に致死性の心室細動を発生させず、頻脈の発生頻度にも影響しなかった。また反応性
充血モデルにおいても、アデノシンが原因物質の一つと考えられている冠動脈の結紮-再灌流
後の冠動脈血流量の一時的な増加反応に影響しなかった。イストラデフィリンがこれらの試験
条件下で心筋虚血、再灌流時の症状を悪化させることがなかったことから、心筋虚血時におけ
るイストラデフィリンの使用には注意を要するものの、臨床で心筋虚血を悪化させる等の影響
を与える可能性は低いと考えられた(2.6.2.4.2.2.3、2.6.2.4.2.2.4)。
胃腸管系に対する影響を検討するため、マウスを用いて小腸輸送能を、ラットを用いて小腸
輸送能及び胃排出能を検討したところ、イストラデフィリンは単独で小腸輸送能、胃排出能に
影響しなかった。ラットにおいてイストラデフィリン(100 mg/kg)とレボドパ/カルビドパ
(250 /25 mg/kg)の併用時の影響を検討したところ、小腸輸送能には影響がなかったが、胃排
KW-6002 2.4 非臨床試験の概括評価
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出能に抑制が認められた。レボドパ/カルビドパのみの投与によっても胃排出能抑制作用が認
められており、併用による抑制作用はレボドパの胃排出能抑制作用に起因するものであること
が示唆された(2.6.2.4.3)。
2.4.2.4 薬力学的薬物相互作用試験 効力を裏付ける試験の項に記載した。
2.4.3 薬物動態試験
2.4.3.1 吸収 絶食下雄性マウス、ラット及びイヌにイストラデフィリンを単回経口投与し、薬物動態パラ
メータを算出した。それぞれ 0.3~30 mg/kg、0.3~300 mg/kg 及び 0.3~300 mg/kg において、
tmaxはそれぞれ 0.5~5.0 時間、2.0~6.5 時間及び 1.0~12 時間であった。tmaxは 0.3 mg/kg ではど
の動物種においても 2 時間以内であり、速やかな吸収を示したが、用量の増加に伴い遅延した。
AUC はマウスで用量比よりも大きい増加を示したが、ラットでは 30 mg/kg まで用量に比例し
て増加し、30~300 mg/kg の用量範囲では用量比よりも少ない増加を示した。イヌにおいて検
討した用量範囲では用量比ほどは増加しなかった。0.3 mg/kg での生物学的利用率は、ラット
で 34.3%、イヌで 30.5%であった(2.6.4.3.1.1.1、2.6.4.3.2.1.1、2.6.4.3.3.1.1)。絶食下イヌに単
回経口投与したときの血漿中濃度推移に二峰性が認められたため、摂餌後にイストラデフィリ
ンを投与したときの血漿中濃度推移を検討した。摂餌後 30 分にイストラデフィリンを投与す
ることにより二峰性は消失し、絶食下に比較して高用量ほど AUC の増加は大きく、AUC0-∞は
0.3~300 mg/kg の用量範囲で用量比に比例して増加した。0.3 mg/kg での生物学的利用率は
42.3%であった(2.6.4.3.3.1.1)。イストラデフィリンは水への溶解度が 0.6 μg/mL と非常に低
く低溶解性の化合物であるため、高用量では溶解律速による吸収の飽和が生じ、30 mg/kg 以上
の用量で AUC が用量比ほど増加しなかったと考えられる。吸収の飽和は、イヌに絶食下経口
投与したときが顕著であり、最低用量である 0.3 mg/kg から AUC の増加は用量比より小さかっ
た。高用量では血漿中濃度推移に二峰性が認められたが、未変化体が吸収されず消化管内に残
存している可能性が考えられ、その未吸収の薬剤の再吸収により二峰性が生じたと考えられた。
イヌにおける高用量投与時の低い吸収性は摂餌により改善し、絶食下投与の AUC に比較して
摂餌後の AUC は増加した。このことからイストラデフィリンの用量が高い場合、吸収におけ
る食事の影響が大きくなる可能性が考えられた。
雄性ラット及びイヌにイストラデフィリンを 0.3 mg/kg で単回静脈内投与したとき、全身ク
リアランスはそれぞれ 1.05 及び 1.13 L/h/kg であり、定常状態における分布容積はそれぞれ
3.44 及び 6.60 L/kg であった(2.6.4.3.2.2、2.6.4.3.3.2)。
雌雄ラット及びイヌにイストラデフィリンを 1 日 1 回 28 日間反復投与したところ、検討し
た用量範囲で Cmax及び AUC0-24は両動物種で用量比ほどは増加しなかった。ラットでは反復投
与による蓄積を認めなかったが、イヌでは投与 23 及び 28 日目で AUC0-24がそれぞれ 1.2~2.7
倍及び 1.1~4.4 倍に増加し、反復投与による AUC0-24 の増加を認めた。また、ラット及びイヌ
とも血漿中濃度推移の雌雄差は小さかった(2.6.4.3.2.1.2、2.6.4.3.3.1.2)。
膜透過性を検討するため Caco-2 を用いて評価したところ、イストラデフィリンは高膜透過
性の化合物であると考えられた。また、イストラデフィリンは P 糖蛋白の基質である可能性は
低いと考えられた。一方、イストラデフィリンは Caco-2 での P 糖蛋白によるジゴキシンの輸
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送を阻害し、その IC50は 0.667 μg/mL(1.74 μmol/L)であった(2.6.4.3.4)。このことから臨床
試験においても P 糖蛋白の基質となる薬剤と相互作用を起こす可能性が考えられた。
2.4.3.2 分布 雄性ラットに 14C-イストラデフィリンを 3 mg/kg で単回経口投与したときの放射能は広く組
織に分布し、投与後 2 又は 6 時間に小腸、大腸、白色脂肪、褐色脂肪、肝臓、副腎、ハーダー
腺、胃、腎臓、膵臓、甲状腺及び腸間膜リンパ節は血漿中放射能濃度の 2 倍より高い放射能濃
度を示した(2.6.4.4.1.1)。脳中放射能濃度は血漿中放射能濃度と同程度であったが、別途検
討した脳中代謝物プロファイルにおいてイストラデフィリンの脳における Kp 値は 1.69~2.21
であったこと(2.6.4.5.2.4)から、イストラデフィリンは作用点である脳においてより高濃度
に分布すると考えられた。また、消化管以外では脂肪に高い分布を示したが、イストラデフィ
リンの脂溶性によるものと考えられた。
投与後 48 時間で血漿中放射能濃度の 2 倍より高濃度であった組織は、大腸、小腸、肝臓、
甲状腺、腎臓、膵臓、胃、精巣及び白色脂肪であったが、血漿中放射能濃度が Cmax になる投
与後 2 時間の組織中放射能濃度に比較して、大腸で約 1/3、甲状腺で約 1/9 及びその他の組織
では約 1/15 以下に低下した(2.6.4.4.1.1)。また、ラットにおける尿糞中排泄試験においても
投与後 168 時間の屍体中の残存放射能は投与放射能の 0.1%であったことから、蓄積は低いと
考えられた。
妊娠 12 及び 19 日目のラットに 14C-イストラデフィリンを 3 mg/kg で単回経口投与したとき
の放射能は、雄性ラットと同様に母体の白色脂肪に高濃度に分布した。妊娠 12 日目の胎児中
放射能濃度は母体血液中放射能濃度より低く、母体血液中放射能濃度の 0.7 倍であったが、妊
娠 19 日目では母体血液中放射能濃度より高く、また消失も緩やかであった。14C-イストラデフ
ィリンを妊娠ラットに投与したときの放射能は、妊娠 12 日目よりも妊娠 19 日目の胎児に移行
しやすいと考えられた(2.6.4.4.3)。 14C-イストラデフィリン(ヒトは 3H-イストラデフィリン)の in vitro 血清蛋白結合率は、ラ
ット、妊娠ウサギ、イヌ及びヒトにおいてそれぞれ 96%、98%、91~93%及び 95~97%であり、
検討した濃度範囲でおおむね一定の値であり、顕著な種差は認められなかった(2.6.4.4.2.1)。
雄性ラットに 14C-イストラデフィリンを 3 mg/kg で単回経口投与したときの ex vivo 血清蛋白結
合率は、投与後 0.5、2 及び 6 時間でそれぞれ 95%、94%及び 92%であった。雄性イヌに 14C-イ
ストラデフィリンを 3 mg/kg で単回経口投与したときの ex vivo 血漿蛋白結合率は、投与後 0.5、
2 及び 8 時間でそれぞれ 94%、92%及び 91%であった(2.6.4.4.2.2)。
雄性ラット及びイヌに 14C-イストラデフィリンを 3 mg/kg で単回経口投与したときの血液中
放射能濃度は血漿中放射能濃度より低く、血漿中放射能濃度に対する血液中放射能濃度比は雄
性ラットで 0.61~0.74 及び雄性イヌで 0.65~0.89 であり、イストラデフィリンの血球移行性は
低いと考えられた(2.6.4.4.2.3)。
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2.4.3.3 代謝 イストラデフィリンの推定代謝経路を図 2.4.3.3-1に示す。
図2.4.3.3-1 イストラデフィリンの推定代謝経路
P、U、F 及び B は、それぞれ血漿、尿、糞及び胆汁中に認められた代謝物を示す。M、R、D 及び H は、それぞれマウス、ラ
ット、イヌ及びヒトに認められた代謝物を示す。
UDPGT:UDP- glucuronosyltransferase
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In vitro 及び in vivo の検討からイストラデフィリンは 4’-O-脱メチル化反応を受けた後、4’-O-
脱メチル化反応により生成したフェノール性水酸基がグルクロン酸及び硫酸抱合を受ける代謝
がヒトを含むすべての種で主な代謝経路であった。1-β-水酸化反応もすべての種で共通な代謝
反応であった。そのほかに 4’-O-脱メチル体(M1)又は 3’,4’-O-ジ脱メチル体(M3)のスチリ
ル基が還元を受けた代謝物も認められた。
雄性マウスに 14C-イストラデフィリンを 3 mg/kg で単回経口投与したとき、血漿中の主成分
は未変化体であり、主代謝物は M1 及びそのグルクロン酸抱合体(M5)であった。また、M1
の硫酸抱合体(M4)及び 1-β-水酸化体(M8)が認められた(2.6.4.5.2.1.1)。雄性ラットに14C-イストラデフィリンを 3 mg/kg で単回経口投与したとき、血漿中の主成分は未変化体であ
り、主代謝物は M1 及び M5 であった。また、M3 のモノグルクロン酸抱合体、3’-O-脱メチル
体(M1*)のグルクロン酸抱合体、M4、1-β-水酸化-4’-O-脱メチル体(M2)及び M8 が認めら
れた(2.6.4.5.2.1.2)。雄性イヌに 14C-イストラデフィリンを 3 mg/kg で単回経口投与したとき、
血漿中の主成分は未変化体であり、主代謝物は M4 及び M5 であった。また、4’-O-脱メチル体
の還元体(M9)のグルクロン酸抱合体(M11)、M1*のグルクロン酸抱合体、M8、イストラ
デフィリンの cis 体及び M1 が認められた(2.6.4.5.2.1.3)。ヒト血漿中の主な代謝物は 4’-O-脱
メチル化、1-β-水酸化、フェノール性水酸基のグルクロン酸及び硫酸抱合により生じる M4、
M5 及び M8 であり、ヒト特異的な代謝経路はないと考えられた(2.6.4.5.2.1.4)。
雄性ラット及びイヌに 14C-イストラデフィリンを 3 mg/kg で単回経口投与したとき、尿中に
未変化体はほとんど認められなかった。ラットの尿中における主代謝物は M1 及び M3 であり、
イヌの尿中における主代謝物は M1、M4、M5 及び M11 であった。ラットの糞中の主代謝物は
M1、M3 及び M3 の還元体(M10)であった。イヌの糞中に未変化体は多く認められ(投与放
射能の 28.3%)、その他の主代謝物は M1 及び M10 であった(2.6.4.5.2.2)。胆汁中代謝物を
確認するため、胆管カニューレを施した雄性ラットに 14C-イストラデフィリンを 3 mg/kg で単
回経口投与したとき、胆汁中には未変化体は認められず、主代謝物は M4 及び M5 であった
(2.6.4.5.2.3)。雄性ラットに 14C-イストラデフィリンを 3 mg/kg で単回経口投与したとき、脳
内の総放射能の約 8 割以上が未変化体であり、代謝物はわずかであった(2.6.4.5.2.4)。代謝
物のうち M1 は未変化体と同程度のアデノシン A2A 受容体に対する親和性を有する
(2.6.2.2.3.1)が、脳内における割合は低く in vivo での薬理作用に対する寄与は小さいと考え
られた。
In vitro 試験として雌雄ラット及び雌性ウサギ肝細胞における代謝を検討したところ、主代謝
経路は、O-脱メチル化反応及びそのグルクロン酸抱合であった。そのほか、1-脱エチル体、3-
脱エチル体、M8 及びイストラデフィリンの cis 体が認められた。ラットとウサギの肝細胞で代
謝物プロファイルの質的な違いはなかった(2.6.4.5.3.1)。
代謝酵素の同定を目的に、ヒト肝ミクロソーム及びチトクローム P450(CYP)分子種特異
的な阻害薬を用いた検討を行ったところ、ヒト肝ミクロソームにおいてイストラデフィリンは
主に CYP3A4/5 で代謝されると考えられた。また、各種ヒト CYP 分子種発現ミクロソームを
用いた検討からイストラデフィリンは、主に CYP1A1、CYP3A4 及び CYP3A5 で代謝され、わ
ずかであるが CYP1A2、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C18 及び CYP2D6*1 も代謝に関与すると考
えられた。CYP1A1、CYP3A4 及び CYP3A5 発現ミクロソームを用い代謝速度パラメータを算
出したところ、CYP1A1 は CYP3A4 及び CYP3A5 に比較して、1 pmol のチトクローム P450 当
りの代謝固有クリアランスは高かった(2.6.4.5.3.2)。ヒト肝臓中での CYP 分子種の存在量か
ら全身クリアランスにおける CYP1A1 の寄与はあると考えられ、喫煙により CYP1A1 が誘導
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された場合、イストラデフィリンのクリアランスが上昇する可能性が考えられた。なお、ヒト
肝細胞株 HepaRG で酵素誘導を評価した結果、イストラデフィリンは CYP1A2 も CYP3A4 も誘
導しなかった(2.6.4.5.4.1.1)ため、ヒトにおいて CYP1A2 及び CYP3A4 を誘導する可能性は
低いと考えられた。
ラットにおける甲状腺ホルモン(総サイロキシン(総 T4)及び総トリヨードサイロニン
(総 T3))及び甲状腺刺激ホルモン(TSH)の血漿中濃度とラット肝臓中 UDP-グルクロノシ
ルトランスフェラーゼ活性の関連性について検討するため、雌雄ラットにイストラデフィリン
を 1 日 1 回 4 週間反復経口投与したとき、100 及び 320 mg/kg の用量でイストラデフィリンは
肝ミクロソーム中の UDP-グルクロノシルトランスフェラーゼ活性を誘導しなかった。血漿中
の甲状腺ホルモンである総 T4 濃度は雄性ラットの 320 mg/kg 投与群で有意な減少を示したが、
その変化は陽性対照であるフェノバルビタールに比較すると小さいものであった
(2.6.4.5.4.1.2)。イストラデフィリンの UDP-グルクロノシルトランスフェラーゼ活性の誘導
を介した血漿中甲状腺ホルモンへの影響は小さいものと考えられ、ラットがん原性試験の最高
用量群の雄等において認められた肝細胞の小葉中心性肥大及び甲状腺の濾胞腺腫の発現率のわ
ずかな増加に対する関与を支持するものとはならなかった。
ヒト肝ミクロソームにおける各種 CYP 分子種特異的代謝反応に対するイストラデフィリン
の阻害を検討した結果、イストラデフィリンはテストステロン 6β 水酸化反応及びニフェジピ
ン酸化反応のみ阻害し、CYP3A4/5 を阻害すると考えられた。そのほかの代謝反応に対する阻
害は認められなかった。CYP3A4/5 に対する阻害は前処置により強くなったため、阻害形式は
不可逆阻害であると考えられた(2.6.4.5.4.2)。不可逆阻害作用のメカニズムを検討した結果、
イストラデフィリンはテストステロン 6β 水酸化反応を阻害するとともに、肝ミクロソーム蛋
白と NADPH 依存的に結合したことから、不可逆結合に基づく不可逆阻害であると考えられた
(2.6.4.5.4.3.1)。この不可逆阻害はヒト肝細胞でも認められ、見かけの阻害定数(Ki,app)は
7.27 ~ 18.0 μmol/L 、最大不活化速度定数( kinact )は 0.0327 ~ 0.0427 min-1 であった
(2.6.4.5.4.3.2)。しかし、ヒト肝ミクロソームと比較して、ヒト肝細胞の不可逆結合は弱くな
った(2.6.4.5.4.3.3)。以上の結果から、in vivo では阻害が弱くなる可能性があるものの、臨床
試験においても CYP3A4/5 阻害に基づく相互作用が起こる可能性が考えられた。
2.4.3.4 排泄 雄性ラットに 14C-イストラデフィリンを 3 mg/kg で単回経口投与したとき、投与後 168 時間
までに尿及び糞中にそれぞれ投与放射能の 21.2%及び 78.4%が排泄され、主排泄経路は糞中で
あると考えられた。また、投与後 168 時間での屍体中の残存放射能は投与放射能の 0.1%であ
り、体内への残存は少ないと考えられた(2.6.4.6.1.1.1)。雄性イヌに 14C-イストラデフィリン
を 3 mg/kg で単回経口投与したとき、投与後 168 時間までに尿及び糞中にそれぞれ投与放射能
の 6.8%及び 92.7%が排泄され、ラットと同様に主排泄経路は糞中であると考えられた。また、
総回収率が 100.0%であり、体内への残存はほとんどないと考えられた(2.6.4.6.1.1.2)。
雄性ラットに 14C-イストラデフィリンを 3 mg/kg で単回経口投与したとき、投与後 48 時間ま
でに投与放射能の 77.5%が胆汁中に排泄され、主排泄経路は胆汁中排泄を介した糞中排泄であ
ると考えられた(2.6.4.6.2.1.1)。腸肝循環を検討した結果、放射能の再吸収率は 83.1%と見積
もられた(2.6.4.6.2.1.2)。ラット胆汁中には未変化体は認められないことから、イストラデフ
ィリンは代謝を受けた後に、胆汁中排泄を介して主に糞中に排泄されるものと考えられた。
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分娩 9 日目の授乳ラットに 14C-イストラデフィリンを 3 mg/kg 単回経口投与したとき、乳汁
中放射能は投与後 1.0 時間に最高濃度 4590 ng eq./mLに達し、乳汁中放射能濃度の AUC0-∞は授
乳ラットの血液中放射能濃度の AUC0-∞の 5.8 倍であった。また、ラット乳児の血液中放射能は、
投与後 12 時間に最高濃度 79 ng eq./mLに達し、その後緩やかに消失した。14C-イストラデフィ
リン由来の放射能は高濃度に乳汁に移行し、授乳により乳児に吸収されたと考えられた
(2.6.4.6.3.1)。生殖発生毒性試験においても、経口投与後の未変化体は血漿中濃度より高濃
度に乳汁中に移行が認められていることから(2.6.6.6.3.1)、授乳によりイストラデフィリン
が乳児に吸収されると考えられた。
2.4.3.5 薬物動態学的薬物相互作用 ラットを用いたレボドパ/カルビドパ併用毒性試験において、イストラデフィリン単独投与
では強い毒性が発現しない用量で致死を含む重篤な毒性が発現した(2.6.6.8.4.2)ことから、
レボドパ/カルビドパ併用によるイストラデフィリンの血漿中濃度への影響を検討した。
雄性ラットにイストラデフィリンを 1、3 及び 100 mg/kg で単回経口投与したとき、100
mg/kg でレボドパ/カルビドパ(250/25 mg/kg)の併用により、イストラデフィリンの AUC0-tが
増加した。しかし、イストラデフィリンに対する M1 の AUC の比は有意な影響を受けなかっ
た(2.6.4.7.1.1)。イストラデフィリンを 0.3 mg/kg で単回静脈内投与したとき、レボドパ/カル
ビドパ(250/25 mg/kg)の併用により、血漿中濃度推移は影響を受けなかった(2.6.4.7.1.2)。14C-イストラデフィリン(1、100 mg/kg)の吸収に対するレボドパ /カルビドパ(250/25
mg/kg)併用の影響を検討した結果、1 mg/kg においては顕著ではないものの、100 mg/kg にお
いてイストラデフィリンの吸収が増加した(2.6.4.7.1.3)。以上の結果から、レボドパ/カルビ
ドパは、イストラデフィリンの代謝や分布に影響は与えず、特に高用量においてイストラデフ
ィリンの吸収を増加させることにより、併用時のイストラデフィリンの血漿中濃度を上昇させ
ていると考えられた。
別途レボドパ/カルビドパの胃排出能に対する影響を検討したところ、レボドパ/カルビドパ
は胃排出能抑制作用を示したため(2.6.2.4.3.2)、イストラデフィリンとレボドパ/カルビドパ
の相互作用は腸における吸収過程にあると考えられた。
2.4.3.6 その他の薬物動態試験 パーキンソン病モデル動物である MPTP 処置マーモセットにイストラデフィリンを 0.3、1、
3 及び 10 mg/kg で経口投与したとき、tmax は用量の増加に従い遅延したものの、Cmax 及び
AUC0-72は用量の増加に伴い増加した(2.6.4.8.1)。
2.4.4 毒性試験
2.4.4.1 単回投与毒性試験 単回経口投与したときの毒性を、マウス、ラット、イヌ及びサルを用いて検討した。その結
果、概略の致死量は、マウス及びラットで 2000 mg/kg、イヌで 1200 mg/kg、サルは 2700 mg/kg
を超えると考えられた。一般状態観察では、マウス及びラットでは共通して薬理作用と考えら
れる自発運動の亢進又は興奮症状が投与日に認められた。イヌ及びサルでは明らかな毒性兆候
は認められなかった。重要な試験における概略の致死量を表 2.4.4.1-1に示す。
KW-6002 2.4 非臨床試験の概括評価
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表2.4.4.1-1 重要な単回経口投与毒性試験における概略の致死量
動物種/
系統
投与方法
(溶媒/投与形態)
投与量
(mg/kg)
性及び動物数 概略の致死量
(mg/kg)
記載位置
マウス/ICR 強制経口 (1%MC) 0, 2000 雌雄各 5 例/群 > 2000 2.6.6.2.1
ラット/SD 強制経口 (0.5%MC) 0, 2000 雌雄各 5 例/群 > 2000 2.6.6.2.2
強制経口 (1%MC) 0, 2000 雌雄各 5 例/群 > 2000 2.6.6.2.3
イヌ/ビーグル 強制経口
(ゼラチンカプセル)
1200 雄 2 例/群 > 1200 2.6.6.2.4
強制経口
(ゼラチンカプセル)
50, 150, 300, 600,
1000
雌雄各 1 例/群 > 1000 2.6.6.2.5
サル/アカゲ 強制経口 (0.5%MC/1
週間間隔の漸増)
0 → 100 → 300
→ 900 → 2700
雌雄各 3 例 > 2700 2.6.6.2.6
2.4.4.2 反復投与毒性試験 反復経口投与したときの毒性を、ラットを用いた 4 週間及び 26 週間反復経口投与並びにイ
ヌを用いた 4 週間、26 週間及び 52 週間反復経口投与により検討した。重要な試験における無
毒性量一覧を表 2.4.4.2-1に示す。
表2.4.4.2-1 重要な反復経口投与毒性試験における無毒性量の一覧
動物種/系
統
投与期間 投与量 (mg/kg/日) 無毒性量
(mg/kg/日)
記載位置
ラット 4 週間 (+4 週間休薬) 0, 6, 30, 160, 800 30 2.6.6.3.1
/SD 26 週間 0, 3, 6, 30, 160 30 2.6.6.3.2
4 週間 0, 25, 100, 400 25 2.6.6.3.3
イヌ 4 週間 (+4 週間休薬) 0, 25, 100, 400 100 2.6.6.3.4
/ビーグル 26 週間 0, 16, 80, 400 16 2.6.6.3.5
4 週間 0, 30, 100, 300 30 2.6.6.3.6
4 週間 (+4 週間休薬) 0, 300 評価せず 2.6.6.3.7
52 週間 (+12 週間休薬) 0, 10, 30, 100 10 2.6.6.3.8
ラットの反復投与毒性試験について、国内で実施した 4 週間反復経口投与毒性試験(0、6、
30、160 及び 800 mg/kg/日)では、6 mg/kg/日以上の群で自発運動の増加(おおむね試験前半の
2 週間のみ)、30 mg/kg/日以上の群で血中 ALT の軽微な上昇及び摂餌量の増加、160 mg/kg/日
以上の群で血中の AST の軽微な上昇、副腎の重量高値及び束状帯細胞の腫大、800 mg/kg/日群
では血中の Bil、Cho、Glu 及び PL の軽微な上昇、腎臓及び肝臓の重量高値、腎臓の近位尿細
管上皮の空胞化並びに膵臓の腺房細胞の単細胞壊死及び空胞化が認められた。これらの変化は
4 週間の休薬により、回復性を示した(2.6.6.3.1)。その後に実施した 26 週間反復経口投与毒
性試験(0、3、6、30 及び 160 mg/kg/日)では、3 mg/kg/日以上の群で自発運動の増加(おおむ
ね投与開始後 2~3 週間のみ)、6 mg/kg/日以上の群で摂餌量増加、30 mg/kg/日以上の群で体重
の高値、160 mg/kg/日群では血中 Bil の軽微な上昇、副腎、腎臓及び肝臓の重量高値、副腎束
状帯細胞の腫大及び脳の鉱質沈着巣並びに肝細胞の小葉中心性脂肪化の程度の亢進が認められ
た(2.6.6.3.2)。また、前記の試験とは別施設(海外)で実施した 4 週間反復経口投与毒性試
験(0、25、100 及び 400 mg/kg/日)では、100 mg/kg/日以上の群で、前記の 4 週間反復経口投
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与毒性試験と同様の変化が認められたほか、肺で重量高値、肺胞マクロファージの増加及び肺
胞壁の肥厚を伴う肺炎の発現例数の増加及び程度の亢進が認められた(2.6.6.3.3)。
イヌの反復投与毒性試験について、国内で実施した 4 週間反復経口投与毒性試験(0、25、
100 及び 400 mg/kg/日)では、100 mg/kg/日以上の群で副腎重量の高値、400 mg/kg/日群で体重
減少傾向及び血中の ALT、Bil 及び Cho の軽微な上昇が認められ、これらの変化は 4 週間の休
薬により回復した(2.6.6.3.4)。その後に実施した 26 週間反復経口投与毒性試験(0、16、80
及び 400 mg/kg/日)では、80 mg/kg/日以上の群で副腎束状帯細胞の過形成及び肝臓の胆汁栓、
400 mg/kg/日群で血中の ALT、AST、ALP、Bil 及び Cho の軽微な上昇又は上昇傾向、肝細胞の
空胞化並びに肺胞マクロファージの増加が認められた(2.6.6.3.5)。また、前記の試験とは別
施設(海外)で実施した 4 週間反復経口投与毒性試験(0、30、100 及び 300 mg/kg/日)では、
100 mg/kg/日以上の群で体重増加率の減少、副腎束状帯細胞の肥大及び肺胞マクロファージ増
加の発現例数増加、300 mg/kg/日群で血中の ALT、AST、Bil 及び Cho の軽微な上昇又は上昇
傾向、小葉中心性肝細胞の肥大/淡明化、中隔肥厚を伴う肺炎の発現例数増加並びに膵臓外分
泌部の萎縮と間質の細胞密度増加の発現例数増加が認められ、これらの変化は 4 週間の休薬に
より回復した(2.6.6.3.6、2.6.6.3.7)。その後に実施した 52 週間反復経口投与毒性試験(0、10、
30 及び 100 mg/kg/日)では、30 mg/kg/日以上の群で下垂体重量の高値並びに副腎の重量高値及
び束状帯細胞の肥大、100 mg/kg/日群で血中の ALT、AST、Bil、Cho の軽微な上昇及び肺胞マ
クロファージの増加が認められた。これらの変化は 12 週間の休薬により回復性を示した
(2.6.6.3.8)。
重要な反復経口投与毒性試験における無毒性量及び最低毒性量並びに臨床試験における定常
状態での全身的曝露量の比を表 2.4.4.2-2に示す。
KW-6002 2.4 非臨床試験の概括評価
CONFIDENTIAL - 18 -
表2.4.4.2-2 重要な反復経口投与毒性試験における無毒性量、最低毒性量及びそのもとと
なる毒性所見並びにイストラデフィリンの定常状態の AUC0-24 をもとにした
全身的曝露量の比
ヒトの全身的曝露量との比
動物種/ 投与期間 投与量 対 20 mg/日 対 40 mg/日
系統 (記載位置) (mg/kg/日) 毒性所見 雄 雌 雄 雌
ラット/ 4 週 30 − 2.6 1.6 1.4 0.9
SD (2.6.6.3.1) 160 副腎皮質の病理学的変化 11.4 6.4 6.3 3.5
4 週 25 − 1.9 1.2 1.0 0.7
(2.6.6.3.3) 100 副腎皮質、肺及び膵臓外分泌部の病
理学的変化
11.8 6.6 6.5 3.7
26 週 30 − 2.6 1.6 1.4 0.9
(2.6.6.3.2)*1 160 副腎皮質及び肝臓の病理学的変化 11.4 6.4 6.3 3.5
イヌ/ 4 週 100 − 6.0 8.7 3.4 4.8
ビーグル (2.6.6.3.4) 400 体重の減少傾向 20.2 10.3 11.2 5.7
4 週 30 − 1.8 2.0 1.0 1.1
(2.6.6.3.6) 100 体重増加量の減少並びに副腎皮質及
び肺の病理学的変化
12.5 5.8 6.9 3.2
26 週 16 − 1.4 1.4 0.8 0.8
(2.6.6.3.5)*2 80 副腎皮質及び肝臓の病理学的変化 4.9 8.6 2.7 4.8
52 週 10 − 1.5 1.4 0.8 0.8
(2.6.6.3.8) 30 副腎皮質の病理学的変化 3.8 2.7 2.1 1.5
投与量において、太字は無毒性量及び下線は最低毒性量を示した。
全身的曝露量の比の計算に用いたヒトの AUC0-24 は、日本人健康成人男性の 14 日間反復経口投与試験 (治験番号: 6002-
0104、資料番号: 5.3.3.1-8) の結果 (20 及び 40mg/日が各々4406及び 7925 ng・h/mL) を用いた。
−: 著変なし。
*1: AUC0-24の値は、ラット 4週間反復経口投与試験その 1 (資料番号:4.2.3.2-2) の値を用いた。
*2: AUC0-tの値を用いた。
2.4.4.3 遺伝毒性試験 イストラデフィリンの遺伝毒性を以下の試験で検討した。細菌(ネズミチフス菌及び大腸
菌)を用いる復帰突然変異試験として 2 つの試験で評価した結果、代謝活性化の有無にかかわ
らず各々最大用量の 5000 μg/プレートまで陽性所見は認められなかった(2.6.6.4.1、2.6.6.4.2)。
哺乳類の培養細胞(チャイニーズハムスターの肺由来線維芽細胞)を用いる染色体異常試験で
は、直接法(添加濃度範囲: 0.1~0.4 mg/mL、培養時間: 24 又は 48 時間)及び代謝活性化法
(添加濃度範囲: ラット肝 S9 mix 非存在下で 1.25~5.0 mg/mL及び S9 mix 存在下で 0.18~0.72
mg/mL、培養時間: 6 時間 )ともに陽性所見は認められなかった(2.6.6.4.3)。げっ歯類を用い
る骨髄小核試験では、最高投与量 2000 mg/kg までを雄性マウスに単回経口投与し、投与後 24
時間で評価した結果、陽性所見は認められなかった(2.6.6.4.4)。げっ歯類を用いる不定期
DNA 合成試験では、最高投与量 2000 mg/kg までを雄性ラットに単回経口投与し、投与後 2~4
時間又は 12~14 時間で肝細胞を回収して評価した結果、陽性所見は認められなかった
(2.6.6.4.5)。
以上より、すべての試験において遺伝毒性を示唆する結果は認められず、イストラデフィリ
ンが遺伝毒性を示す可能性は低いと判断した。
KW-6002 2.4 非臨床試験の概括評価
CONFIDENTIAL - 19 -
2.4.4.4 がん原性試験 イストラデフィリンのがん原性を、マウス及びラットを用いて、各々104 週間反復経口投与
により検討した。これらの試験の最高投与量は、13 週間反復経口投与による用量設定試験の
結果をもとに、FDA の Executive Carcinogenesis Assessment Committee からの助言6) を参考にし
て設定した。
マウスを用いたがん原性試験の投与量は、13 週間反復経口投与(0、60、125、250 及び 500
mg/kg/日)による用量設定試験(2.6.6.5.1)の結果から最大耐量を 250 mg/kg/日と判断し、0、
25、125 及び 250 mg/kg/日を設定した(69 例/性/群)。その結果、イストラデフィリン投与に
関連した腫瘍の発現例数増加は認められなかった(2.6.6.5.3)。
ラットを用いたがん原性試験の投与量は、13 週間反復経口投与(0、40、80、160 及び 320
mg/kg/日)による用量設定試験(2.6.6.5.2)の結果から最大耐量を 320 mg/kg/日と判断し、0、
30、100 及び 320 mg/kg/日を設定した(52 例/性/群)。その結果、イストラデフィリン投与に
関連した腫瘍の発現例数増加は認められなかった(2.6.6.5.4)。
以上の試験において、イストラデフィリンに関連した腫瘍の発現頻度に増加が認められなか
ったことから、イストラデフィリンはがん原性を示さないと判断した。
なお、ラットがん原性試験において、イストラデフィリン投与に起因する非腫瘍性病変とし
て、脳の鉱質沈着巣の発現増加(30 mg/kg/日以上の群)を確認したことから、これ以降、表
2.4.4.4-1に示す試験について、脳組織の再評価又は追加評価を行った。その結果、イストラデ
フィリン投与に関連すると考えられる脳の鉱質沈着巣又はその発現例数の増加及び程度の亢進
は、ラットの 13 週間以上の投与試験においてのみ認められた。また、いずれの試験において
も、鉱質沈着に関連する神経細胞壊死やグリア反応等の組織病変は認められず、死亡を含む一
般状態における異常を伴うものではなかった。
表2.4.4.4-1 再評価及び追加評価による脳の鉱質沈着巣の発現状況の一覧
動物種 系統
投与
期間
GLP
適用
検査を実施した
投与量群
(mg/kg/日) 脳の鉱質沈着巣の有無 記載位置
マウス ICR 104 週 適用 0, 25, 125, 250 対照群を含む全群で発現。発現
の例数及び程度に用量相関な
し。
2.6.7.10.3
ラット SD 4 週 適用 0, 800 全例に発現なし。 2.6.7.7.1
4 週 適用 0, 400 全例に発現なし。 2.6.7.7.3
26 週 適用 0, 3, 6, 30, 160 160 mg/kg/日群の雌雄で発現。 2.6.7.7.2
Wistar 13 週 適用 0, 40, 80, 160, 320 80 mg/kg/日以上の群の雌及び
160 mg/kg/日以上の雄で発現。 2.6.7.10.2
104 週 適用 0, 30, 100, 320 対照群では雌に発現。 30 mg/kg/日以上の群の雌雄で発
現例数及び程度の亢進。
2.6.7.10.4
イヌ ビーグル 26 週 適用 0, 16, 80, 400 全例に発現なし。 2.6.7.7.5
52 週 適用 0, 10, 30, 100 全例に発現なし。 2.6.7.7.8
2.4.4.5 生殖発生毒性試験 イストラデフィリンの生殖に及ぼす影響を、ラットを用いた受胎能及び着床までの初期胚発
生に関する試験、ラット及びウサギを用いた胚・胎児発生に関する試験並びにラットを用いた
出生前及び出生後の発生並びに母体の機能に関する試験により検討した。重要な試験の無毒性
量の一覧を表 2.4.4.5-1に示す。
KW-6002 2.4 非臨床試験の概括評価
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表2.4.4.5-1 重要な生殖発生毒性試験における無毒性量の一覧
試験種
動物種/
系統 投与期間
投与量
(mg/kg/日)
無毒性量
(mg/kg/日) 記載位置
受胎能及び着
床までの初期
胚発生に関す
る試験
ラット/ SD
雄: 交配前 4 又は 9 週か
ら交配後 4 週まで 雌: 交配前 2 週から妊娠
7 日まで
0, 1, 6, 30 親動物の一般毒性: 30
親動物の生殖: 30 次世代の発生: 30
2.6.6.6.1.1
雄: 交配前 4 週から交配
後 6 週まで
雌: 交配前 2 週から妊娠
7 日まで
0, 160, 360, 800
親動物の一般毒性: <160
親動物の生殖: 160 次世代の発生: 800
2.6.6.6.1.2
胚・胎児発生
に関する試験 ラット/ SD
妊娠 7 日から同 17 日ま
で 0, 40, 200, 1000
母動物の一般毒性: 200
母動物の生殖: 1000
次世代の発生: 200
2.6.6.6.2.1
ウサギ/ JW
妊娠 6 日から同 18 日ま
で 0, 50, 200, 800
母動物の一般毒性: 200
母動物の生殖: 800
次世代の発生: 200
2.6.6.6.2.2
出生前及び出
生後の発生並
びに母体の機
能に関する試
験
ラット/ SD
妊娠 7 日から哺育 21 日
まで 0, 6, 25, 100, 400
母動物の一般毒性: 100
母動物の生殖: 25 次世代の発生 (F1): 6 次世代の発生 (F2): 400
2.6.6.6.3.1
ラットを用いた受胎能及び着床までの初期胚発生に関する試験として 2 つの試験を実施し、
親動物の一般毒性学的影響に対する無毒性量は、160 mg/kg/日で副腎重量の高値が認められた
ことから 30 mg/kg/日と判断した。親動物の生殖に及ぼす影響に対する無毒性量は、360 mg/kg/
日以上の群で着床率の低下傾向及び低下が認められたことから 160 mg/kg/日と判断した。次世
代の発生に対してイストラデフィリン投与の影響は認められなかった(2.6.6.6.1.1、
2.6.6.6.1.2)。
ラットを用いた胚・胎児発生に関する試験において、母動物の一般毒性学的影響に対する無
毒性量は、1000 mg/kg/日で投与期間初期に体重増加量の減少が認められたことから 200 mg/kg/
日と判断した。母動物の生殖に対するイストラデフィリン投与の影響は認められなかった。次
世代の発生に及ぼす影響に対する無毒性量は、1000 mg/kg/日群で胎児体重の低値及び骨格変異
(頚椎椎弓骨化核の分離)の発現例数増加が認められたことから 200 mg/kg/日と判断した。
(2.6.6.6.2.1)。
ウサギを用いた胚・胎児発生に関する試験において、母動物の一般毒性学的影響に対する無
毒性量は、800 mg/kg/日で投与期間に体重増加量及び摂餌量の減少が認められたことから 200
mg/kg/日と判断した。母動物の生殖に対するイストラデフィリン投与の影響は認められなかっ
た。次世代の発生に及ぼす影響に対する無毒性量は、800 mg/kg/日群で胎児生存率、胎児体重
及び胎盤重量の低値並びに催奇形性(小眼球及び欠指)が認められたことから 200 mg/kg/日と
判断した。(2.6.6.6.2.2)。
ラットを用いた出生前及び出生後の発生並びに母体の機能に関する試験において、母動物の
一般毒性学的影響に対する無毒性量は、400 mg/kg/日で投与期間に便量の減少、削痩及び自発
運動の減少が認められたことから 100 mg/kg/日と判断した。母動物の生殖に及ぼす影響に対す
る無毒性量は、100 mg/kg/日以上の群で全児が死亡した母動物数が増加したことから 25 mg/kg/
日と判断した。次世代の発生に及ぼす影響に対する無毒性量は、25 mg/kg/日以上の群で生後 4
KW-6002 2.4 非臨床試験の概括評価
CONFIDENTIAL - 21 -
日生存率及び離乳後体重の低値傾向が認められたことから、6 mg/kg/日と判断した。しかし、
F1 出生児の行動発達、発育分化、離乳時剖検、生殖器発育及び分化、行動及び学習、性周期及
び生殖能に関する検査並びに F2 の検査項目では、イストラデフィリン投与の影響は認められ
なかった。(2.6.6.6.3.1)。なお、哺育 4 日時点において、イストラデフィリンは血漿中より
も乳汁中に高濃度に存在した。
以上より、イストラデフィリンは、親動物の生殖能及び次世代の発生に影響を与え、催奇形
性も認められている。また、乳汁移行性も高いことから、妊娠している可能性のある女性及び
妊婦に対する使用は禁忌とし、授乳期の女性に対しては、本剤投与中は授乳を避けるべきであ
ると考えられた。
2.4.4.6 局所刺激性試験 イストラデフィリンの臨床投与経路が経口であることから、局所刺激性は検討しなかった。
2.4.4.7 その他の毒性試験
2.4.4.7.1 抗原性試験 感作マウス血清を用いたラット受身皮膚アナフィラキシー試験、モルモットを用いた能動的
全身性アナフィラキシー試験及び感作モルモット血清を用いた同種受身皮膚アナフィラキシー
試験を行った結果、抗原性を示唆する変化は認められなかった(2.6.6.8.1)。
2.4.4.7.2 毒性発現の機序に関する試験 ラット及びイヌを用いた反復投与毒性試験では副腎の重量増加及び束状帯細胞の腫大等の変
化が認められたことから、イストラデフィリンの副腎皮質関連ホルモンへの影響について、雄
性ラットを用いて検討した。単回経口投与(0、2.5、10、25 及び 100 mg/kg)では、2.5 mg/kg
以上で血漿中の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、コルチコステロン及びアルドステロンの高
値が認められた。7 日及び 14 日間反復経口投与では、これらホルモンの変動は認められなかっ
た。一方、13 日間反復経口投与し、その 24 時間後に副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)
を単回静脈内投与することで下垂体の反応性を確認した結果、下垂体の CRF に対する反応性
は保持されていた(2.6.6.8.2.2)。
以上より、ラット及びイヌを用いた反復投与毒性試験で認められた副腎への影響は、イスト
ラデフィリンによる ACTH 分泌刺激が一因と考えられた。反復投与により ACTH の分泌が認
められなかった理由は不明であるが、少なくとも下垂体の CRF に対する反応性にはイストラ
デフィリン投与は影響していないものと考えられた。
2.4.4.7.3 依存性試験 雄性ラットを用いて、単回経口投与による急性中枢神経効果並びに 4 週間の混餌投与及び 1
週間の休薬による身体依存形成能を検討した。単回投与(1~256 mg/kg)の一般状態観察では、
全投与群でイストラデフィリン投与の薬理作用と考えられる運動の持続が投与後数時間認めら
れた。混餌投与において、投与期間中の 1 日平均薬物摂取量は、イストラデフィリン低濃度群
で 9.9~19.6 mg/kg、イストラデフィリン高濃度群で 41.1~74.2 mg/kg、陽性対照物質のジアゼ
パム群で 191.4~571.2 mg/kg であった。休薬期間において摂餌量(対照群と比較)及び体重
(投与期間の終了時点と比較)の減少がイストラデフィリン低濃度群及びジアゼパム群で認め
られ、その程度はジアゼパム群の方が強く、体重は減少した。イストラデフィリン高濃度群で
KW-6002 2.4 非臨床試験の概括評価
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これらの休薬期間の変化は認められなかった。イストラデフィリン低濃度群の休薬期間中のみ
に認められた摂餌量及び体重増加量の減少は、同群で投与期間中を通じて摂餌を促進させる効
果が認められたことからそのリバウンド現象であり、退薬症候ではないと考えられた。以上よ
り、本試験条件下において、イストラデフィリンの身体依存性は認められないものと判断した
(2.6.6.8.3.1)。
コカインによる強化効果発現が確認されている雄性アカゲザルを用いて、イストラデフィリ
ンの静脈内自己投与(0.125、0.25 及び 0.5 mg/kg/infusion)による 2 時間の実験時間における摂
取回数を指標とした強化効果の検索を実施した。その結果、イストラデフィリン投与では 4 例
中 2 例で溶媒投与時と比較して摂取回数の増加が認められたことから、イストラデフィリンは
強化効果を有するものと判断した(2.6.6.8.3.2)。
2.4.4.7.4 光毒性試験 イストラデフィリンの光毒性を 1 つの in vitro 試験及び 2 つの in vivo 試験で評価した。
マウス由来の 3T3 線維芽細胞を使用した in vitro 試験では、イストラデフィリン(0.69~
14.00 μg/mL)で処理した後に A 領域紫外線(UVA)照射(8 J/cm2)を行い、細胞生存性に対
する影響から光毒性を検討した結果、光毒性は認められなかった(2.6.6.8.4.1.1)。
ヘアレスラット(雌性 RORO-n)にイストラデフィリンの 400 mg/kg を単回又は 1 日 1 回 7
日間反復経口投与した後に UVA(5~35 J/cm2)を皮膚に照射したところ、単回投与では 30
J/cm2 以上、反復投与では 20 J/cm2 以上の照射で軽度な皮膚紅斑反応が惹起され、多量の UVA
を照射する本試験条件下では軽度な光毒性を示すものと考えられた(2.6.6.8.4.1.2)。
一方、有色ラット(雄性 Long-Evans 系)にイストラデフィリン(25~400 mg/kg)を 1 日 1
回 3 日間反復経口投与した後に、陽性対照(8-メトキシソラレン)投与動物で光毒性が惹起さ
れる UV 量(最低紅斑誘発 UV 量の半量: 0.01 J/cm2)を皮膚と眼に照射した結果、光毒性を示
唆する異常所見は認められなかった(2.6.6.8.4.1.3)。
以上より、イストラデフィリンは、最低紅斑誘発 UV 量の半量程度の UV 曝露量では、皮膚
及び眼に対する光毒性を誘発しないものと考えられた。一方、多量(20 J/cm2 以上)の UVA
照射条件下では軽度な皮膚紅斑反応を惹起する可能性があり、この UVA 光量はヒトが日常生
活において長時間野外活動を行った際に曝露しうる光量であることから、過量の紫外線曝露条
件下では本薬により光毒性が誘発されるリスクを否定できないものと考えられた。
2.4.4.7.5 レボドパ/カルビドパ併用投与試験 今回の医薬品製造販売承認申請では、レボドパ製剤を使用している患者を対象としているこ
とから、イストラデフィリンの毒性に対するレボドパ/カルビドパ併用の影響を検討するため、
ラットを用いた単回経口によるトキシコキネティクス及び 4 週間反復経口投与毒性試験、イヌ
を用いた 13 週間反復経口投与毒性試験並びにウサギを用いた胚・胎児発生に関する試験で評
価した。重要な試験及びその結果の一覧を表 2.4.4.7.5-1に示す。
KW-6002 2.4 非臨床試験の概括評価
CONFIDENTIAL - 23 -
表2.4.4.7.5-1 重要なレボドパ/カルビドパ併用試験及びその結果概要の一覧
動物種
試験種類 投与量(イストラデフィリ
ン/レボドパ/カルビドパ 、
mg/kg)
結果概要 記載位置
ラット 単回経口投与 に
よるトキシコキ
ネティクス
100/0/0, 100/250/25,
100/250/62.5
レボドパ/カルビドパの併用により、
イストラデフィリンの全身的曝露量
が増加した。レボドパに対するカル
ビドパの比を変えて併用しても、イ
ストラデフィリンの全身的曝露量に
顕著な差は認められなかった。
2.6.6.8.4.2.1
4 週間反復経口
投与毒性試験
0/0/0, 25/250/25, 100/250/25,
400/250/25, 0/250/25
レボドパ/カルビドパの併用によりイ
ストラデフィリンの全身的曝露量が
増加し、100/250/25 及び 400/250/25
mg/kg 群で死亡が発現した。
2.6.6.8.4.2.2
4 週間反復経口
投与毒性試験
0/0/0, 0/10/1, 0/50/5,
0/250/25, 100/10/1, 100/50/5,
100/250/25, 100/0/0
レボドパ/カルビドパの併用投与量の
増加に伴い、イストラデフィリンの
全身的曝露量も増加し、100/250/25
mg/kg 群で死亡が発現した。
2.6.6.8.4.2.4
イヌ 13 週間反復経口
投 与 毒 性 試 験
(+4 週間休薬)
0/0/0, 300/0/0, 30/80/20,
100/80/20, 300/80/20, 0/80/20
レボドパ/カルビドパの併用による影
響は認められなかった。
2.6.6.8.4.2.5
ウサギ 胚・胎児発生に
関する試験
0/0/0, 400/0/0, 50/80/20,
200/80/20, 400/80/20, 0/80/20
イストラデフィリン単独の 400
mg/kg 及び レボドパ/カルビドパ併用
の 200 mg/kg 以上の群で催奇形性が
認められた (イストラデフィリン単
独の胚・胎児発生に関する試験の
200 mg/kg 群において、催奇形性は
認められなかった)。
2.6.6.8.4.2.6
ラットを用いたレボドパ/カルビドパ併用による単回投与トキシコキネティクス及び反復投
与毒性試験並びにウサギを用いたレボドパ/カルビドパ併用による胚・胎児発生に関する試験
では、イストラデフィリンの全身的曝露量が、イストラデフィリンの単独投与と比較して増加
した。その結果、レボドパ/カルビドパ併用では、より低いイストラデフィリン投与量から毒
性所見が認められた。しかし、いずれの毒性試験においても、イストラデフィリン又はレボド
パ/カルビドパの単独投与で認められる以外の新たな毒性所見は認められなかった。イストラ
デフィリンの全身的曝露量の増加は、レボドパの胃排出能抑制作用に起因したイストラデフィ
リンの消化管滞留時間の延長による腸での吸収の増大が原因と考えられた(2.6.4.7、
2.6.2.4.3)。一方、イヌを用いたレボドパ/カルビドパ併用による一般毒性試験では、レボドパ/
カルビドパ併用による明らかな影響は認められなかった。また、ラット及びイヌともに、レボ
ドパ及びカルビドパの全身的曝露量に対してイストラデフィリン投与の明らかな影響は認めら
れなかった。
2.4.5 総括及び結論 効力を裏付ける試験として、イストラデフィリンの抗パーキンソン病活性を、パーキンソン
病モデル動物であるレセルピン処置マウス及び MPTP 処置マーモセットを用いて評価した。い
ずれのモデルにおいてもイストラデフィリンは単独投与、L-DOPA 併用時ともに抗パーキンソ
ン病活性を示した。MPTP 処置マーモセットは臨床予測性の高いモデルとして知られているが、
本モデルでは抗パーキンソン病活性だけでなくジスキネジアや嘔吐等 L-DOPA などのドパミン
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系の薬物療法で認められる副作用についても検討可能である。本モデルでイストラデフィリン
は抗パーキンソン病活性を示す用量においてジスキネジア原性を示さず、L-DOPA 誘発ジスキ
ネジアを増悪しないことが明らかとなった。また、観察期間中、嘔吐、けいれん、常同行動な
どのドパミンに由来する症状変化も示さなかった。
イストラデフィリンはアデノシン A2A 受容体に他のサブタイプと比較して高い親和性を示し
た。他の神経伝達物質受容体やトランスポーター、ドパミン代謝に関わる MAO、COMT へは
影響を示さず、アデノシン A2A作動薬による細胞内 cAMP 蓄積を阻害したことから選択的なア
デノシン A2A 受容体拮抗薬であることが示された。この結果はイストラデフィリンが既存の抗
パーキンソン病薬とは異なる作用機作で抗パーキンソン病活性を示していることを示唆してお
り、このプロファイルがドパミンに由来する副作用を示さずに抗パーキンソン病活性を示すこ
とに寄与していると考えられる。パーキンソン病の病態発現において重要な役割を果たしてい
ると考えられている線条体-淡蒼球間接経路に対するイストラデフィリンの影響を電気生理学
的、神経化学的手法によって検討したところ、イストラデフィリンはパーキンソン病状態で活
動性の上昇している線条体-淡蒼球間接経路の活性を抑制する作用をもつことが確認された。
この線条体-淡蒼球間接経路の神経活動の調節がイストラデフィリンの抗パーキンソン病活性
発現に重要であると考えられる。
安全性薬理試験として中枢神経系、心血管系、呼吸系及び胃腸管系に及ぼす影響を検討した
結果、げっ歯類においてイストラデフィリンの薬効の一部と考えられる自発運動量の増加、中
枢興奮作用が認められたが、これらの作用は正常な運動を妨げるものではなく、イストラデフ
ィリンの中枢作用は本剤の主薬効発現を阻害するものではないと考えられる。心血管系、呼吸
系及び胃腸管系に対しては臨床上、問題となる作用は認められなかった。
薬物動態試験の結果から、イストラデフィリンは高用量で吸収の飽和が認められるものの、
低用量での経口吸収性は良好であると考えられた。イストラデフィリンの体内への吸収は摂餌
の影響が認められたが、臨床における影響は大きくないものと考えられた。なお、イストラデ
フィリンは、P 糖蛋白及び CYP3A4/5 阻害作用を有し、既に臨床試験で阻害の程度が評価され、
今後の使用において注意喚起が必要であると考えられた。また、イストラデフィリンは
CYP1A1 で代謝され、CYP1A1 を誘導する喫煙により、イストラデフィリンの薬物動態が影響
を受ける可能性が考えられた。
毒性試験において、単回投与による概略の致死量は、マウス及びラットで 2000 mg/kg 以上、
イヌで 1200 mg/kg 以上、サルで 2700 mg/kg 以上であった。反復投与毒性は、反復投与毒性試
験に加え、がん原性試験の用量設定試験及びがん原性試験の結果を含め評価した。その結果、
肺、副腎、肝臓、脳、膵臓外分泌部、腎臓、心臓及び血管、骨格筋、リンパ及び造血器系器官
並びに外分泌腺(乳腺、涙腺及び唾液腺)等で一般毒性学的な影響が認められた。しかし、い
ずれの影響についても、最低影響量での変化の発現状況、質及び程度又は臨床試験での曝露量
との関係から、臨床上重篤な副作用を惹起する可能性は低いものと考えられた。これらの影響
の最低影響量における変化の内容と臨床試験における定常状態での全身的曝露量(AUC0-24 又
は AUC0-t)との比を表 2.4.5-1にまとめた。
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表2.4.5-1 反復投与により一般毒性学的影響が認められた器官及び組織、最低影響量の変
化の内容並びに最低影響量と臨床試験におけるイストラデフィリンの全身的曝
露量の比のまとめ
ヒトの全身的曝露量との比 a
器官 最低影響量での変化の内容 マウス ラット イヌ
肺 肺炎又はマクロファージを主体とする炎症性変化 25.5/14.2 6.0/3.3 5.8/3.2
副腎 重量高値及び皮質細胞の肥大を主体とする変化 − 4.9/2.7 2.7/1.5
肝臓 血中 ALT の上昇 (マウス)、血中 ALT の上昇及び重
量高値 (ラット)、胆汁栓 (イヌ)
10.5/5.9 1.6/0.9 4.9/2.7
脳 鉱質沈着巣 − 6.0/3.3 −
膵臓外分泌部 腺房細胞の萎縮、空胞化及びアポトーシス 25.5/14.2 6.6/3.7 −
腎臓 重量高値 (マウス)、尿量増加 (ラット) 52.4/29.1 6.6/3.7 −
心臓及び血管 心筋線維化 − 6.0/3.3 −
骨格筋 筋細胞の空胞化 (マウス)、筋原線維の変性/壊死
(ラット)
25.5/14.2 13.7/7.6 −
リンパ及び造
血器系器官
胸腺萎縮 (マウス)、貧血及び WBC 数減少 (ラッ
ト)、WBC 数増加 (イヌ)
43.1/23.9 4.9/2.7 7.9/4.4
外分泌腺(乳
腺、涙腺及び
唾液腺)
涙腺のアデノーシス及び鉱質沈着 (マウス)、乳腺
腺房萎縮及び涙腺のハーダー氏腺化生 (ラット)
25.5/14.2 24.1/13.4 −
その他の変化 がん原性試験における非腫瘍性変化 (鼻腔嗅上皮の
好酸性封入体)
− 13.7/7.6 NA
最低影響量での変化の内容において、下線は病理組織学的な形態異常を伴わない軽微な影響を示した。
−: 著変なし。NA: 適応外。
a: 全身的曝露量の比の計算に用いたヒトの AUC0-24 は、日本人健康成人男性の 14 日間反復経口投与試験 (試験番号: 6002-
0104、資料番号: 5.3.3.1-8) の結果 (20 及び 40 mg/日が各々4406及び 7925 ng・h/mL) であり、20 mg/日との比/40 mg/日の比
で示した。
ラット及びウサギを用いた生殖発生毒性試験の結果から、イストラデフィリンは、親動物の
生殖能及び次世代の発生に影響を与え、催奇形性も認められた。また、乳汁移行性も高いこと
から、妊娠している可能性のある女性及び妊婦に対する使用は禁忌とし、授乳期の女性に対し
ては本剤投与中は授乳を避けるべきであると考えられる。
アカゲザルを用いた静脈内自己投与による強化効果の検討試験においてイストラデフィリン
の強化効果が認められたが、4 例中 2 例での発現であることから、その作用は比較的弱いもの
と考えられた。
光毒性試験の結果から、イストラデフィリンは最低紅斑誘発 UV 量の半量程度の UV 曝露量
では、皮膚及び眼に対する光毒性を誘発しないものと考えられた。一方、多量(20 J/cm2 以
上)の UVA 照射条件下では軽度な皮膚紅斑反応を惹起する可能性があり、この UVA 光量は
ヒトが日常生活において長時間野外活動を行った際に曝露しうる光量であることから、過量の
紫外線曝露条件下では本薬により光毒性が誘発されるリスクを否定できないものと考えられた。
臨床で併用が想定されているレボドパ/カルビドパとの併用投与における毒性を確認したと
ころ、ラット及びウサギにおいてレボドパ/カルビドパとの併用によりイストラデフィリンの
全身的曝露量が増加し、イストラデフィリン投与に関連した影響がイストラデフィリンの単独
投与の場合と比較してより強く認められた。この原因は、レボドパの胃排出能抑制作用に起因
したイストラデフィリンの消化管滞留時間の延長により、イストラデフィリンの腸での吸収が
増加したためと考えられた。この薬物相互作用は、ラットにおいてイストラデフィリンの低用
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量(1 mg/kg)投与では併用の影響が小さいことより、臨床において上記の相互作用が起こる
可能性は少ないと考えられる。なお、併用による新たな毒性発現は認められなかった。
これらの非臨床試験よりイストラデフィリンは、選択的なアデノシン A2A 受容体拮抗作用を
有し、パーキンソン病モデル動物において単独又は L-DOPA との併用により有効な抗パーキン
ソン病活性を示すばかりでなく、L-DOPA 投与により認められるジスキネジアや嘔吐などの副
作用を示さず、長期的なレボドパ治療で生じる問題をドパミン系の薬物療法とは異なる機序か
ら解決しうるパーキンソン病治療薬であることが示唆された。毒性試験において、生殖への影
響及び催奇形性を含む次世代への影響が確認されていることから、妊娠している可能性のある
女性、妊婦及び授乳婦への使用については制限が必要なものの、その他特記するべき毒性は見
出されておらず、薬物動態も良好であったことから、本剤は安全な使用が可能であると判断さ
れた。
2.4.6 参考文献一覧 1. Alexander GE. Crutcher MD. Functional architecture of basal ganglia circuits: neural substrates
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