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New 子宮頸部腺様基底細胞癌の1例 - Gunma University · 2017. 3. 27. · 8.Teramoto...

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子宮頸部腺様基底細胞癌の1例 鹿沼 達哉 , 木暮 圭子 , 西村 俊夫 , 伊吹 友二 , 土田 , 神山 晴美 , 飯島 美砂 , 中村 和人 群馬県太田市高林西町617-1 群馬県立がんセンター 婦人科 群馬県太田市高林西町617-1 群馬県立がんセンター 病理部 症例は, 69 歳女性で, 初めて子宮がん検診を受けたところ, 細胞診で子宮頸部腺癌と診断された. 翌月当科初診. コルポ診 UCF, 経腟超音波断層検査では内膜は線状で菲薄, 子宮腟部, 頚管内, 内膜腔から細胞を採取したが, 再生細胞のみで陰性 との結果であった. 内膜掻爬組織診では組織はほとんど採取されなかったが, 扁平上皮系のがんを疑う所見が認められた. MRI および CT で病巣およびリンパ節腫大は指摘できず,早期の子宮内膜がんと診断し,1 ヶ月後,腹式子宮全摘術と両側付 属器摘出術を行った. 摘出物の病理組織診断は, 子宮頸部の adenoid basal carcinomaで浸潤の深さ ( 病巣の存在は最深部で 3mm未満であった) は浅く, 脈管侵襲も認められないことから, 経過観察とした. 手術から 5, 再発なく経過している. 子宮頸部腺様基底細胞癌が極めて希であるが, このような疾患に遭遇することも考慮し, 術前診断においては円錐切除術に よる病理診断を含め, 侵襲的検査も辞さない対応が必要と判断された. 緒言 腺様基底細胞癌 (adenoid basal carcinoma) は極めて希 な悪性腫瘍で, 基底細胞様癌の中で, 最も高悪性度の腺様 囊胞癌と対極に位置づけられる低悪性度の癌とされてい . 本邦での子宮頸腺様基底細胞癌の純粋型の報告は数例 であり, 臨床病理もあまり知られていない. 症例は 69 歳女 性で, 細胞診で腺癌, 扁平上皮癌, 子宮内膜癌などを疑われ . 画像診断等では存在確認できいまま, 同意を得て, 子宮 全的術を施行した症例である. 摘出標本で, 小さな腺様基 底細胞癌病巣が子宮頸部に確認されたので報告する. 症例 69 歳女性,2G-2P,既往歴特記すべきことなし.152cm,49 kg. XX 7, 初めての子宮がん検診を受けた. 細胞診で 腺癌が検出された.8月当科初診, コルポ診は UCF, TV- USG では内膜は線状で肥厚認めず,子宮腟部,頚管内,内膜 腔から採取したが, 再生細胞のみで陰性との結果であった. 前医からプレパラートを取り寄せ, 再評価したところ, 部は陰性, 頚管内から少量の異型細胞, 内膜からは腺癌陽 性と診断された. 当院での内膜全面掻爬でも組織はほとん ど採取されなかったが, 遠心分離で落として標本作製した. 扁平上皮系のがんを疑う所見であった ( 1). ただし, ER ( ),CEA ( ), cytokeratin5,6, 7 ( ) 20 ( ),8 ( +/-) であった. MRI および CT で病巣およびリンパ節腫大は指 摘できず, 早期の子宮内膜がんと診断し,9 月に腹式子宮全 11 文献情報 キーワード: 腺様基底細胞癌, 子宮頸部腫瘍 投稿履歴: 受付 平成27年11月30日 修正 平成27年12月8日 採択 平成27年12月10日 論文別刷請求先: 鹿沼達哉 〒373-8550 群馬県太田市高林西町617- 群馬県立がんセンター 電話:0276-38-0771 E-mail:tkanuma gunma-cc.jp 症例報告 2016;66:11~14
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Page 1: New 子宮頸部腺様基底細胞癌の1例 - Gunma University · 2017. 3. 27. · 8.Teramoto N,Nishimura R,Saeki T,et al. Adenoid basal carcinoma of the uterine cervix:report of

子宮頸部腺様基底細胞癌の1例

鹿沼 達哉 ,木暮 圭子 ,西村 俊夫 ,伊吹 友二 ,土田 秀 ,神山 晴美 ,飯島 美砂 ,中村 和人

1 群馬県太田市高林西町617-1 群馬県立がんセンター 婦人科2 群馬県太田市高林西町617-1 群馬県立がんセンター 病理部

要 旨

症例は,69歳女性で,初めて子宮がん検診を受けたところ,細胞診で子宮頸部腺癌と診断された.翌月当科初診.コルポ診

はUCF,経腟超音波断層検査では内膜は線状で菲薄,子宮腟部,頚管内,内膜腔から細胞を採取したが,再生細胞のみで陰性

との結果であった. 内膜掻爬組織診では組織はほとんど採取されなかったが, 扁平上皮系のがんを疑う所見が認められた.

MRIおよび CTで病巣およびリンパ節腫大は指摘できず,早期の子宮内膜がんと診断し,1ヶ月後,腹式子宮全摘術と両側付

属器摘出術を行った.摘出物の病理組織診断は,子宮頸部の adenoid basal carcinomaで浸潤の深さ (病巣の存在は最深部で

も 3 mm未満であった)は浅く,脈管侵襲も認められないことから,経過観察とした.手術から 5年,再発なく経過している.

子宮頸部腺様基底細胞癌が極めて希であるが,このような疾患に遭遇することも考慮し,術前診断においては円錐切除術に

よる病理診断を含め,侵襲的検査も辞さない対応が必要と判断された.

緒言

腺様基底細胞癌 (adenoid basal carcinoma)は極めて希

な悪性腫瘍で,基底細胞様癌の中で,最も高悪性度の腺様

囊胞癌と対極に位置づけられる低悪性度の癌とされてい

る.本邦での子宮頸腺様基底細胞癌の純粋型の報告は数例

であり,臨床病理もあまり知られていない.症例は 69歳女

性で,細胞診で腺癌,扁平上皮癌,子宮内膜癌などを疑われ

た.画像診断等では存在確認できいまま,同意を得て,子宮

全的術を施行した症例である.摘出標本で,小さな腺様基

底細胞癌病巣が子宮頸部に確認されたので報告する.

症例

69歳女性,2G-2P,既往歴特記すべきことなし.152 cm,49

kg.XX年 7月,初めての子宮がん検診を受けた.細胞診で

腺癌が検出された. 8月当科初診, コルポ診はUCF, TV-

USGでは内膜は線状で肥厚認めず,子宮腟部,頚管内,内膜

腔から採取したが,再生細胞のみで陰性との結果であった.

前医からプレパラートを取り寄せ,再評価したところ,腟

部は陰性,頚管内から少量の異型細胞,内膜からは腺癌陽

性と診断された.当院での内膜全面掻爬でも組織はほとん

ど採取されなかったが,遠心分離で落として標本作製した.

扁平上皮系のがんを疑う所見であった (図 1).ただし, ER

(+),CEA (-),cytokeratin5,6,7(+)で 20(-),8(+/-)

であった. MRIおよび CTで病巣およびリンパ節腫大は指

摘できず,早期の子宮内膜がんと診断し,9月に腹式子宮全

― ―11

文献情報

キーワード:

腺様基底細胞癌,子宮頸部腫瘍

投稿履歴:

受付 平成27年11月30日

修正 平成27年12月8日

採択 平成27年12月10日

論文別刷請求先:

鹿沼達哉

〒373-8550 群馬県太田市高林西町617-

群馬県立がんセンター

電話:0276-38-0771

E-mail:tkanuma@gunma-cc.jp

症例報告

2016;66:11~14

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摘術と両側付属器摘出術を行った. 摘出物の病理組織診断

は,子宮頸部の adenoid basal carcinomaで浸潤の深さ (病

巣の存在は最深部でも 3 mm未満であった)は浅く,脈管

侵襲も認められない (図 2)ことから,経過観察とした.手

術から 5年,再発なく経過している.

考察

最初にAdenoid basal carcinoma(腺様基底細胞癌)が報

告 されたのは 1966年である.本邦では 1995年の 2例の報

告 から始まる. WHOの分類では扁平上皮癌の亜型とさ

れている が,表 1に示すように本邦の子宮頸癌取り扱い

規約では, 扁平上皮でも腺系でもないその他の癌に分類さ

れ,腺様囊胞癌と合併することがあるとされている. 世界

でも数十例の報告があるが,純粋型の報告は少ない. 組織

学的には,基底細胞様の充実性小胞巣の一部に腺管形成を

みる癌で,中心部が扁平上皮への分化を示すことがある.

我々の症例のHE標本でも記述通りの所見が認められた

(図 2).

この症例の臨床的問題点について考察すると,細胞診で

は子宮内膜からの腺癌が疑われたこと,内膜組織診では,

少量の扁平上皮癌を疑う所見が得られたこと,画像診断で

は造影 CT,造影MRI (拡散強調画像)でも内膜および頸管

領域に異常を検出できなかったことから,子宮内膜癌 (腺

扁平上皮癌)の 1a期と診断し,術式を決定せざるを得な

かったため,リンパ節郭清の要否について結論を得られぬ

まま手術に踏み切らざるを得なかった, などの課題残され

た.

提出物のマクロおよびミクロ所見を考慮すると,細胞診

で腺癌あるいは扁平上皮癌との確診がつかなかったことは

腺様基底細胞癌であれば,納得のできる結果であった.し

かし,組織診に際しては,子宮頸管内を全面掻爬していれ

ば陽性所見が得られた可能性はあり,また子宮頸部円錐切

除術を行っていれば確定診断を得られた可能性はある.年

齢や頸部腺癌を強く疑う所見が得られなかったことなどを

考慮すると適切な選択肢とは判断できなかった.しかし,

コルポスコープ所見がUCFであったので,十分考慮され

るべきであったかもしれないと考えている.

摘出物では,子宮頚部に小さな,低悪性度の,細胞診断所

見に合致した病変を確認でき (図 3),結果的には手術侵襲

の大きさは適当であったことが確認された. 諸家の報告で

も, 子宮内膜癌で摘出した子宮頸部に偶然発見 されたり,

CIN3 や扁平上皮癌 で摘出された子宮頸に発見された,

という報告が多い.Jeongら は,腺様囊胞癌 (ACC)が腺様

基底細胞癌 (ABC)の,より悪性度の高いタイプと考えられ

ることから, これらの細胞像の相違について述べている.

ACCでしばしば認められ腺様構造がABCではほとんど

子宮頸部腺様基底細胞癌

図1 子宮頸部細胞診

扁平上皮系の異型を示唆する. 免疫染色では, Cytoker

atin20(-),Cytokeratin7(+),

Cytokeratin5/6 (+), Cytokeratin8 (+/-), CEA (-),

Vimentin (-),P63(+),ER (+)

-

図2 摘出物病理標本 (HE染色)

A: CEA(-),CK5/6(+),CK8(+/-),ER (+),Vimentin(-),MIB-1(+),p53(+),CGA(-),Cynaptophysin(-),CD6

(-)

B: 拡張した腺管構造に接し,島状胞巣が集簇する領域を認める.

A B

― ―12

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認められず, また 5例中 4例のABCは扁平上皮癌と合併

し,細胞診像は SCCであり, 1例の純粋型ABCでは表面

にはでていなかったが細胞診判定はASC-USであった,と

報告している.我々の例でも腺癌や扁平上皮癌と細胞像は

定まらず診断は混乱し (図 1),また苦慮した.上皮面に少し

顔を出すように存在したが,極めて小さな病変であった純

粋型のAGC (図 3)が,子宮摘出で発見されたことは,患者

さんにとっては幸運であったかもしれない.

*この論文の要旨は,第 63回日本産科婦人科学会総会で

報告した.

文献

1. Baggish MS,Woodruff JD. Adenoid basal carcinoma of the

cervix. Obstet Gynecol 1966;28:213-218.

2. 中村恵美子, 滝沢雅美, 清水敏夫ら. 子宮頸部Adenoid

Basal Carcinoma;その細胞学的特徴と組織学的鑑別.日本

臨床細胞学会雑誌 1995;34:651-656.

3. 台丸 裕,張 栄 ,梅津 隆.子宮頚部の腺様基底癌の 1

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4. Kurman RJ,Carcangiu ML,Herrington CS,et al. WHO

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Ed.2014;195-196.

5. Russel MJ,Fadare O. Adenoid basal lesions of the uterine

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6. Senzaki H, Osaki T, Uemura Y, et al. Adenoid basal

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and literature review. Jpn J Clin Oncol 1997;27:437-441.

7. Hiroi M,Fukunaga T,Miyazaki E,et al. Adenoid basal

carcinoma of the uterine cervix:a case report of the ultras-

tructural findings. Med Electron Microsc 2000;33:241-245.

8. Teramoto N,Nishimura R,Saeki T,et al. Adenoid basal

carcinoma of the uterine cervix:report of two cases with

reference to adenosquamous carcinoma. Pathol Int 2005;55:

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9. Jeong J,Ha SY,Cho HY,et al. Comparison of cytologic

characteristics between adenoid cystic carcinoma and

adenoid basal carcinoma in the uterine cervix. J Pathol

Transl Med 2015;49:396-402.

図3 摘出物マクロ標本

外子宮口に近い頸管腺領域に顕微鏡学的腫瘍を認めた.水平方向 3 mm,縦軸方向 4 mm,Ly(-),V(-),Conflu

ent Invasion (-)

-

表1 子宮頸部上皮性腫瘍WHO組織分類 (抜粋)と子宮頸癌

取り扱い規約上の関係

・扁平上皮系 扁平上皮癌

―扁平上皮癌 ・角化型

―微小浸潤癌 ・非角化型

―上皮内がん ・基底細胞様 (basaloid)・腺系 ・疣状

―腺癌 ・コンジローマ様

―微小浸潤癌 ・乳頭状

―上皮内腺癌 ・リンパ上皮様

―腺異形成 *基底細胞様癌 (basaloid)は,・その他 子宮頸癌取り扱い規約では削

―腺扁平上皮癌 除された.・すりガラス様癌

―腺様囊胞癌

―腺様基底細胞癌

―神経内分泌腫瘍

・カルチノイド

・小細胞癌

*腺様基底細胞癌

― ―13

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Adenoid Basal Carcinoma of the Uterine Cervix:A Case Report

Tatsuya Kanuma,Keiko Kigure,Tosio Nishimura,Yuji Ibuki,Shigeru Tsuchida,Harumi Kamiyama,Misa Iijima and Kazuto Nakamura

1 Department of Gynecologic Oncology,Gunma Prefectural Cancer Center,617-1 Nishi-machi,Takabayashi,Oota,Gunma 373-8550,Japan

2 Department of Pathology,Gunma Prefectural Cancer Center,617-1 Nishi-machi,Takabayashi,Oota,Gunma 373-8550,Japan

Abstract

Adenoid basal carcinoma(ABC)of the uterine cervix is rare neoplasia of low malignancy. There have been

several reports of pure ABC frequently existing with more common malignant or benign uterine lesions of surgical

specimens. We report an ABC of the uterine cervix. This lesion was very small,and reached the mucosal surface

in only a very limited area. Cervical adenocarcinoma was most likely on cytological examination,but magnetic

resonance imaging and positron-emission computed tomography did not depict malignant lesions in the pelvic

cavity. Early endometrial carcinoma and tubal carcinoma could not be ruled out, so under informed consent,simple hysterectomy with bilateral salpingo-oophorectomy was performed. Pathological examination clarified that

there was small pure ABC lesion in the uterine cervix,mostly covered by cervical mucosa.

Key words:adenoid basal carcinoma,uterine cervical cancer

― ―14

子宮頸部腺様基底細胞癌


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