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Public-Private Partnership Operational Plan 2012 …...Public–Private Partnership Operational Plan...

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官民連携(PPP)業務計画 2012 -2020 ストラテジー 2020 のビジョンの実現に向けて: アジア開発銀行の業務における官民連携(PPP)の新たな役割 アジア開発銀行
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Page 1: Public-Private Partnership Operational Plan 2012 …...Public–Private Partnership Operational Plan 2012–2020 Realizing the Vision for Strategy 2020: The Transformational Role of

Public–Private Partnership Operational Plan 2012–2020

Realizing the Vision for Strategy 2020: The Transformational Role of Public–Private

Partnerships in Asian Development Bank Operations

The Public–Private Partnership Operational Plan 2012–2020 provides a consistent analytical

and operational framework for scaling up public–private partnerships (PPPs) in support of

Strategy 2020. The PPP operations of the Asian Development Bank (ADB) are based on

four pillars: (i) advocacy and capacity development, (ii) enabling environment, (iii) project

development, and (iv) project financing. Applying PPP principles holistically to ADB operations

holds the potential to vastly improve the quality of design and outputs of PPP projects in

support of Strategy 2020 targets. It also provides ADB with an opportunity to significantly

leverage its limited resources in attracting private sector investments and commercial financing

to meet the Asia and Pacific region’s huge and growing infrastructure investment needs.

About the Asian Development Bank

ADB’s vision is an Asia and Pacific region free of poverty. Its mission is to help its developing

member countries reduce poverty and improve the quality of life of their people. Despite

the region’s many successes, it remains home to two-thirds of the world’s poor: 1.8 billion

people who live on less than $2 a day, with 903 million struggling on less than $1.25 a day.

ADB is committed to reducing poverty through inclusive economic growth, environmentally

sustainable growth, and regional integration.

Based in Manila, ADB is owned by 67 members, including 48 from the region. Its main

instruments for helping its developing member countries are policy dialogue, loans, equity

investments, guarantees, grants, and technical assistance.

Printed on recycled paper

Asian Development Bank

6 ADB Avenue, Mandaluyong City

1550 Metro Manila, Philippines

www.adb.org

Printed in the Philippines

ISBN 978-92-9092-850-8

官民連携業務計画 2012 ~ 2020 年 ストラテジー2020 年のビジョンの実現に向けて: アジア開発銀行の業務における官民連携の変革的役割

『官民連携業務計画 2012 ~ 2020 年』は、ストラテジー2020 を支える官民連携(PPP)拡大のための一貫した分析・運営の枠組みを提供します。アジア開発銀行(ADB)のPPP 業務は、(i)提唱と能力育成、(ii)環境整備、(iii)プロジェクト開発、(iv)プロジェクト・ファイナンス、という4つの柱に基づいています。PPPの原則をADBの業務に全体的に適用することで、ストラテジー2020 の掲げる目標を支えるPPPプロジェクトの設計と成果の質を大幅に高められる可能性があります。また、それによりADBは、アジア・太平洋地域の巨大かつ増加の一途をたどるインフラ投資ニーズに応えるために、自身の限られたリソースを大いに活用し、民間セクターによる投資と商業融資を呼び込むことができます。

アジア開発銀行について

ADBは貧困のないアジア・太平洋地域の実現を目指しています。ADBは、開発途上加盟国による貧困の削減と、国民生活の質の改善を支援することを使命としています。経済発展のサクセス・ストーリーが脚光を浴びる一方で、アジア・太平洋地域には、世界の貧困層の 3分の 2 が、また生活費が一日2ドル未満の人々が約18 億人、そのうち9 億 300 万人は一日1.25 ドル未満で暮らしているとされています。ADBは、全ての人々に恩恵が行き渡る(インクルーシブな)経済成長、環境に調和した持続可能な成長、および地域統合の促進を通じて、途上加盟国の貧困削減を支援しています。

ADBはマニラに本部を置き、67の加盟国によって所有され、うち 48カ国はアジア・太平洋地域の国です。開発途上加盟国支援のためにADBが行う支援の具体的手段は、政策対話、融資、出資、保証、無償援助、技術協力などです。

再生紙使用

アジア開発銀行 6 ADB Avenue, Mandaluyong City1550 Metro Manila, Philippines www.adb.org

印刷:フィリピン

ISBN 978-92-9092-850-8

官民連携(PPP)業務計画 2012-2020

ストラテジー2020 のビジョンの実現に向けて:アジア開発銀行の業務における官民連携(PPP)の新たな役割

アジア開発銀行

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官民連携(PPP)業務計画 2012-2020

ストラテジー2020 のビジョンの実現に向けて:アジア開発銀行の業務における官民連携(PPP)の新たな役割

アジア開発銀行

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©2012 アジア開発銀行

無断転載禁ず。2012 年発行。

出版物分類データ

アジア開発銀行官民連携(PPP)業務計画 2012―2020:ストラテジー2020 のビジョンの実現に向けて―アジア開発銀行の業務における官民連携(PPP)の新たな役割

1. 官民連携 2. アジア開発銀行 I. アジア開発銀行

本書に記される見解は執筆者のものであり、必ずしもアジア開発銀行(ADB)、その総務会または加盟国政府の見解や政策を反映するものではありません。

ADBは本書に含まれるデータの最新性を保証せず、データのご使用に関し一切責任を負いません。

本書において特定の領域または地域を「国」と表記しまたは「国」という言葉を使う場合、ADBはその法的またはその他の地位について判断を下すものではありません。

本書の印刷・複製品は個人的または非商業的用途に限り、ADB の文書であることを適切に表示するようお願いします。利用者は、ADB の明示的な同意書なしに本書を再販売・再配布したり、本書を基に二次的な著作物を創作することはできません。

注:本書で「ドル」という場合には米ドルを指します。

6 ADB Avenue, Mandaluyong City1550 Metro Manila, Philippines電話番号 +63 2 632 4444 Fax番号 +63 2 636 2444 www.adb.org

問合せは本部広報局(Department of External Relations)まで。Fax番号 +63 2 636 2648 [email protected]

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iii

目 次

略 語 iv

要 約 v

I. はじめに 1

II. 概念的枠組み 2A. 官民連携(PPP) 2B. ADB の業務における官民連携 3

III. インフラ・ファイナンスの課題 5A. 利用可能な外部のインフラ資金源 5B. 民間セクターによる投資とファイナンス 6

IV. 官民連携の実施原則と指針 8A. 官民連携業務の枠組み 9B. 第 1の柱:提唱と能力育成 9C. 第 2 の柱:環境整備 10D. 第 3 の柱:プロジェクトの策定 11E. 第 4 の柱:プロジェクト・ファイナンス 14

V. 実施計画の実行 16A. 戦略的方向性 16B. 国別支援戦略(CPS) 16C. プロジェクトの優先順位とスクリーニング 17D. 業績評価 18E. ADB 職員の能力育成 20F. 知識管理 23G. スケジュール 24H. モニタリングと評価 24

付 録1. PPP(官民連携)の特徴 262. PPP 案件の組成プロセス 283. バリュー・フォー・マネーおよび政府事業との比較 374. プロジェクト開発基金(PDF) 465. 国際金融公社(IFC)の取引アドバイザリー業務 586. ADB の各部門による活動の統合 617. 成果とモニタリングの枠組み 63

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iv

略 語

ADB―アジア開発銀行 CPM―国別計画策定ミッションCommunity of Practice(CoP)―実務委員会DMC―開発途上加盟国 IFC―国際金融公社 KPI―主要業績評価指標 MP3IC―インフラ能力育成のための多国間官民連携PDF―プロジェクト開発基金(機構)PPP―官民連携PSC―公的セクターとの比較PSD―民間セクター育成PSOD―民間部門業務局PSP―民間セクターによる参画SES―特別評価調査TA―技術支援VFM―バリュー・フォー・マネー

官民連携作業部会 委員長 民間部門業務局副局長 山縣 丞副委員長 南アジア局副局長 M. C. Locsin

地域協力・持続的開発局副局長 W. Umチームメンバー 中央・西アジア局課長 A. Chiplunkar

南アジア局主任民間セクター開発専門官 G. Hauberインドネシア駐在員事務所所 J. Lindborg民間部門業務局上級投資専門官 S. Sampath

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v

要 約

『ストラテジー2020:アジア開発銀行(ADB)の長期戦略枠組み 2008 ~ 2020 年』は、民間セクターの育成と、民間事業への支援業務をアジア・太平洋地域の変革の鍵と位置づけています。ストラテジー2020 の下、ADBは民間セクターとの協力を強化し、アジア・太平洋地域の経済成長を後押しします。官民連携(PPP)は、その目的を実現する上で重要な方策とみなされており、ストラテジー2020 は、ADB の主要業務におけるPPP 推進に力を入れています。このアプローチは、特にコストの一部または全額が回収な可能な場合、国際開発金融機関はプロジェクト・ファイナンスの推進において民間事業者と協力すべきというG20の見解にも沿ったものです。ADBの独立評価局は 2009 年、ADBが 1988 年~ 2008 年に支援を行ったインフラ関連プロジェクトに対する特別評価調査を行いました。ADBの幹部は、この調査報告でなされた提案を踏まえ、ストラテジー2020 を支えているPPPについて、統一的な分析と運営の枠組みとなる業務計画の策定に合意しました。

PPPという表現やそのコンセプトは変遷を経てきており、ADBの政策や手続きを見直し、かつその業務において PPPを主流化する上で、PPPの定義が何かを確認することは重要な意義があります。ADBの業務では、業績ベースの契約(管理・サービス契約)、リース―操業―移転、建設―所有―操業―移転、設計―建設―資金調達―操業、その派生、コンセッションなどのすべての契約が PPPと見なされます。政府調達におけるターンキー方式に基づいた設計や建設契約(エンジニアリング、調達および請負工事契約)は除外します。

アジア・太平洋地域は、2020 年までに少なくとも8 兆ドルのインフラ投資を必要としていますが、従来の資金源から調達可能な資金額は、この投資ニーズを大きく下回っています。大規模なインフラ・ニーズを満たすために各国に与えられた選択肢は、(i)従来の資金源を見直し、そこから更なる資金の調達を模索する、(ii)予算外の調達源からの資金調達を増やすメカニズムを探る、(iii)インフラ整備におけるPPPの役割強化のため、その阻害要因を取り除く、の 3 種類があります。

インフラ・プロジェクトを管理したり関連サービスを提供する上で、一般的に民間企業は政府よりも効率的と考えられています。民間企業を巻き込むことで、最新技術への投資や新たな手法の導入、機構制度の透明化がはかられ、運営の効率向上のきっかけになるからです。しかし、インフラ・プロジェクトの全てが PPPに適しているわけではなく、インフラ整備やサービス提供に民間セクターを呼び込むには要件を定める必要があります。入札と契約が効率的で透明性の高い方法で行われれば、民間企業のインフラ・サービスへの参画には、(i)資源の有効活用、(ii)インフラ施設とサービスの質的向上、(iii)公的セクターの運営改善、(iv)政府調達の改善といった利点が見込まれます。

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vi 要 約

ADBは、開発途上加盟国における業務をとりまく環境や異なる経済状況を勘案し、PPP業務の基本を、1.提唱と能力育成、2.環境整備、3.プロジェクト策定、そして4.プロジェクト・ファイナンス、という4つの柱としています。第 1の柱では、ADBの地域局が中心となり途上国に対して PPPを提唱したり政府の能力開発を促進し、第 2の柱でも、PPP 促進に向けた政策・環境整備をめざすため地域局は途上国への支援を強化し、第 3の柱でも地域局が積極的に PPPを奨励し、プロジェクト案件の発掘や開発ニーズへの対応能力を高めます。第 4 の柱では、民間投資の促進を通じて途上国に変革をもたらすため、ADBの民間部門業務局が、ノンソブリンの商品やその適用、さらに商業的な協調融資(投融資、シンジケーション等)を増やして支援を提供します。地域局も、PPP 案件の資金調達を支援するため、政府への融資をオファーする場合があります。

PPP への支援は、その環境整備からプロジェクト期間全般を通じた包括的な支援、そして政府への資金提供と広範囲にわたることから、ADB の地域局は、それらを国別支援戦略のプロセスに含めています。具体的には、局内の各セクター課や民間部門業務局と連携をとりながら、途上国政府と協力してその国のPPP 戦略を策定します。戦略案には、(i)PPPの促進策とその選択肢を含む国別支援戦略・国別業務計画の作成、(ii) PPP 推進にあたり必要な能力育成・意識啓発・環境整備支援、(iii) PPPプロジェクトの開発・準備への実地支援、(iv)候補となる民間・PPPプロジェクトのリスト作成、(v)民間資金による(必要な場合には政府資金も)PPPプロジェクトの立案、が含まれます。

官民連携や民間セクター育成をより統一的に適用し、ストラテジー2020 を積極的に推進するには、純民間のプロジェクト、次いで PPPプロジェクトへの支援が、政府実施のプロジェクト支援より優先されるようADBの業務を見直す必要があります。PPPと民間セクター育成は不可分であり、PPP への支援は , より広義の民間セクター育成に対する支援の一環でもあります。従ってプロジェクトは、まず民間セクター育成のスクリーニングを経て選ぶことになります。具体的には、PPPをスクリーニングするプロセスにおいて、民間企業の技術・運営・技能支援、参画そして資金が最大に活用できる分野、及びADBの技術支援と財源を最も有効活用できる領域を特定することになります。

ADBは、業務の重点をPPPに移行すると同時に、各局における業績評価方法を見直す必要があります。PPP への支援は、往々にして各セクターの垣根を超えるため、組織内外の様々な部署との協働が求められます。これには、民間企業の参画を促すようなPPPプロジェクトの組成(結果としてADBがそのプロジェクトに融資を行うか否かに関わらず)を目指した PPPアドバイザリー・サービスの提供も含まれます。

地域局の職員が、途上国のニーズによりよく応えるには、PPPの可能性とその選択肢、そしてそれを支えるコンセプトを熟知する必要があります。職員の能力開発においては、PPP全般のスクリーニング、途上国とPPP 支援に関する効果的な対話、PPP 実施にあたり政府が必要とする知識・能力育成を図るTAの準備と管理、そしてプロジェクト・ファイナンスの組成と評価をめざします。地域局において PPP 業務を促進するには、各局のPPP専門官が、PPP 実務委員会の支援を得ながら、案件の構想段階以前、プロジェクトのコンセプト作成から積極的に参画することが望まれます。

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vii要 約

本業務計画は、2 段階に分けて実施されます。第 1段階(2013 年まで)は、ADB 内でPPPを育成・支援すべく業務方針とその手続きを確立します。この第1段階は、PPP への支援を、ADBにおいていかに拡大するかを事実上決定するものです。各地域局は担当の途上国と協議を行い、第 2 段階を実施します。実施計画の初めの 2 年間が終了した段階で、ADB内部で PPP 業務の見直しを行います。

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I. はじめに

1. アジア開発銀行(ADB)のストラテジー20201 は、民間セクター育成と民間セクターへの支援を、アジア・太平洋地域の変革の鍵と位置付けています。ストラテジー2020 の下、ADBは民間部門との協力を強化し、アジア・太平洋地域の経済成長を後押ししていきます。こうした目的を達成する上で、ADBは官民連携(PPP)が重要な方策であると考えており、ストラテジー2020 は、ADB の主要業務の中でもPPP 推進に力を入れています。このアプローチは、特にコストの一部または全額が回収な可能な場合、国際開発金融機関は民間事業者と協力してプロジェクト・ファイナンスを推進すべきというG20 の見解にも沿ったものです。PPPの原則を、ADB の業務全体に取り入れることにより、PPPプロジェクトの立案とその成果を大幅に高め、ストラテジー2020 の掲げる目標に貢献することができます。またそれによりADBは、アジア・太平洋地域において巨大かつ増加の一途をたどるインフラ需要に応えるために、自らの限られた資源を有効活用して、民間投資と民間融資を呼び込むことができます。

2. ADB の独立評価局は、ADBが 1988 年~ 2008 年に支援を行ったインフラ・プロジェクトの特別評価報告(SES)の結果を2009 年に発表しました。ADBが開発途上加盟国におけるPPP 支援の業務戦略や事業計画を策定する上で、SES は貴重な判断材料を提供するものです。SESの評価と提案は、ADBがストラテジー2020に基づきPSD民間セクター育成と民間セクター業務を拡大しつつある今の状況に適ったものと言えます。

3. ADB の幹部は、この評価報告に含まれた提案を踏まえ、ストラテジー2020 を支えるPPPについて、統一的な分析と運営の枠組みとなる業務実施計画の策定に合意しました。PPPの基本理念は普遍的ですが、それをいかに実務に適用するかは、各国のニーズや資源、制約を考慮しなければなりません。そのためには、その国の国別支援戦略や国別業務計画に PPP が設計され、組み込まれる必要があります。本業務計画では、アジア太平洋の全域でADBが行うPPP 支援業務の一貫性を保つため、戦略的原則を確立しています。

1 『ストラテジー2020:アジア開発銀行の長期戦略枠組み 2008 ~ 2020 年』(ADB、2008 年、マニラ)。

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2 官民連携(PPP)業務計画 2012-2020

II. 概念的枠組み

A. 官民連携(PPP)4. PPP では、政府(国、州、省または地方自治体)と民間企業が、契約を通してそれぞれの技能、資産、そして財源を補完的に提供し、リスクとリターンを共有し、市民に最適なサービスと価値を提供することを目指します。図 1は、民間セクターによる幅広い参画を下位区分として、PPPの主な種類を表したものです。

5. 「PPP」と「民営化」という言葉は時として同じ意味で用いられるものの、両者は明確に区別する必要があります。「民営化」においては、物的資産や事業の所有権が、政府から民間企業に移転します。政府が保有する株式を売却して公益事業を手放すことは、民営化に当たります。政府の公益事業または政府が所有する企業が民営化される場合、その公益事業または企業を取得した民間企業は、サービスの提供に責任を負うことになります。インフラおよび公益事業の民営化には、通常、その活動が持つ独占性、株式・事業売却に対する社会的・政治的懸念、サービスの提供に用いられる施設の継続的な運営等に配慮するため、そのセクターに固有の規制を伴います。

図 1 官民連携のスペクトル

コンセッション契約 民 間セクターが新規または既存インフラに投資。システム運営は完全に民間セクターが行う

契約期間中、所有権は民間セクターにあるリ スク特性:政府の収益は予算に基づく。民間セクターの収益は事業収益に基づくというリスクがある。技術的、財務的、運営上のリスクは民間セクターが負う継続期間:約15~50年

リース契約民 間セクターがサービス提供と運営上の投資について全責任を負う

所有権は政府に留まるリ スク特性:民間セクターは収益リスクを、政府は大型投資のリスクを負う。民間セクターもある程度の投資リスクを負う継続期間:約10~30年

管理契約 施設および/または運営の管理所有権は政府に留まるリ スク特性:民間セクターはパフォーマンスと連動した料金を受領。民間セクターによる設備投資は限定的継続期間:約5~15年

サービス契約資産および/または設備の保守所有権は政府に留まるリ スク特性:民間セクターはサービス料金を受領継続期間:約1~5年

所有権/設備投資

民間

民間公的

相対的リスク

官民連携}

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3概念的枠組み

6. PPP には、新たなインフラ資産の建設と保守を伴うもの(グリーンフィールド)と、既存の公共資産の管理を伴うもの(ブラウンフィールド)とがあります。PPP においては、サービスの提供の最終的な責任は政府にありますが、長期にわたりサービスを提供するのは民間事業者です。PPP では、参画者双方(サービスの購入者・事業権の譲与者、民間事業者・コンセッション事業者)の責任は、個別の契約によって規定されます。この契約には、どのような条件で民間事業者が、定期的あるいは最終的な報酬の支払いを受けることができるか、およびその報酬額が物価変動に伴い調整されるのか、などが規定されています。

7. 「PPP」および「PSP」(官民参画)という言葉もまた、往々にして同じ意味で用いられています。PSP 契約という言葉が使われていた 1990 年代当時、各国政府は、パートナーシップの機会を重視するというよりも、むしろ予算の抑制を目的として投資義務を民間企業体に負担させようとしていました。しかしそれには、政府と民間事業者の間にパートナーシップ(つまり契約上の義務やコミットメント)が必要です。PSPスキームがあまりにも野心的で、社会的な影響や課題に十分な配慮がされていない場合には、事業が独占的である故に、ユーザーに課せられる料金や利益をどこまで認めるかといった問題に対して社会的な懸念が高まった例もありました。PSP 時代の経験は、PPP のプロセス全体をどう改良、改善すべきかという価値ある判断材料をもたらすものです。PSP での経験を批判的に分析することが、PPP と言う新しいコンセプトを打ち立てることに貢献しました。その「PPP」とは、パートナーシップを通じたより良い公共サービスの提供と、施設・資産のライフサイクルを通じたバリュー・フォー・マネー(支出額に対して最大の価値を提供すること)の実現に重点を置くものです。

8. PPP のコンセプトとその用語は、時代によって変化してきました。よって、ADBがPPPをより効果的に業務に取り込み、業務における重要な要素と位置付けるべく、方針・手続きを見直す際には、PPP の定義を再確認することは重要な意味を持ちます。PPPとは、効率的で近代的な公的サービスを民間から調達するための一手段であり、単に施設や資産建設のために民間資金を利用することと見なすべきではありません。PPPは、長期間に亘るパートナーシップを通じて、インフラ設備を管理し、公益サービスを提供する手法の一つであるべきです。適切な責任・リスクの負担、経営の分担と相乗作用、新しい技術の導入と開発、施設・資産の効率的な活用、そしてプロジェクトのライフサイクルを通じた管理により、利用者により良いサービスを提供し、納税者により多くのバリュー・フォー・マネーを提供することが目的です。PPP では、サービスの提供、インフラ施設の建設と運営の一部を民間事業者に移管しますが、その他は引き続き政府が所管する必要があります。

B. ADBの業務における官民連携9. ADB の業務では、業績ベースの契約(管理・サービス契約)、リース―操業―移転、建設―所有―操業―移転、設計―建設―資金調達―操業、その派生、コンセッションなどのすべての契約を、PPP と見なします。政府調達においてターンキー方式が採用され、その契約に設計や建設を含む(エンジニアリング、調達および請負工事契約)ことがありますが、それらは除外します。また、業績と報酬が必ずしも連動しない単純なサービス契約(公的施設の運営を民間の請負会社職員に委託する形式のもの)や、

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4 官民連携(PPP)業務計画 2012-2020

例えば完成後 5年間に満たない保証・保守を含む建設契約(対象施設が新しく、基本的な保守のみでよいため、業績に伴うリスクは非常に低い)も除外されています 2。しかし、こうしたサービス契約が、より包括的な PPP へと移行する第 1段階として行われる場合もあります。民営化と資産売却はいずれも民間企業の持つ技能と資金を導入するものではありますが、ADBが行う民営化への支援は、PPP へのそれとは別に捉える必要があり、民営化や資産売却もまた PPPから除外されます。巻末の付録 1(p.26)は、PPPの要素と、PPPが適用されることの多いセクターをリストアップしたものです。

2 ただし、特に経済規模が小さい脆弱な途上国では、長期の建設契約を単純な建設契約にするよりも、長期保証と保守を付帯させることが好まれる。

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III. インフラ・ファイナンスの課題

A. 利用可能な外部のインフラ資金源10. 2010 年から2020 年までのアジア諸国のインフラ需要は 8 兆ドルと試算され 3、うち 68%が新規インフラの建設、32%が既存インフラの保守と建て替えです。この期間、年間の平均インフラ需要は、約 7,500 億ドルにのぼります。ボックス1(囲み)ではADB の開発途上加盟国におけるインフラ需要の例を表しています。

11. 従来の資金源から動員できる額は、上記のインフラ需要を大きく下回っています。インフラ建設に提供されうる資金額は、ADBが 110.2 億ドル 4、世界銀行が 230 億ドル 5 で、

ボックス 1 ADBの開発途上加盟国におけるインフラ・ファイナンスの需要

インド:ゴールドマン・サックスの試算によれば、2010 ~ 2020 年にインドのインフラ需要を満たすために必要な調達額は 1.7 兆ドル。出典:「インドはその巨大なインフラ需要に対応可能(India CAN Afford Its Massive Infrastructure Needs)」。『Global Economics Paper』187(ゴールドマン・サックス、2009 年 9月)。

マレーシア:2011~2015年にかけてのPPPプロジェクト52件に200億ドル(年間50億ドル)が必要。出典:『第 10 次マレーシア計画・2011年~ 2015 年』(マレーシア政府、2011年、クアラルンプール)。

ベトナム:2011~ 2020 年のインフラ投資に1,670 億ドル必要。うち 650 億ドルは、民間セクターから調達予定(年間約 65 億ドル)。出典:ベトナム政府、計画・投資省試算。

インドネシア:2011~2025年のインフラ投資に2,110 億ドル必要。うち1,050 億ドルは民間セクターから調達予定(年間約 42 億ドル)。出典:『経済発展の加速・拡大のための基 本計画 2011 ~ 2025 年(Master Plan for Acceleration and Expansion of Economic Development, 2011-2025)』(インドネシア政府、2011年、ジャカルタ)。

タイ:2009 ~ 2012 年に 480 億ドル必要。うち 49 億ドルは民間セクターから調達予定(年間約16億ドル)。出典:『2009 年第二次景気刺激プログラム』(タイ政府、バンコク)。

3 『シームレス・アジアに向けたインフラストラクチャー(Infrastructure for a Seamless Asia)』(ADB およびアジア開発銀行研究所、2009 年、マニラ)。

4 『アジア開発銀行年次報告 2009』(ADB、2010 年、マニラ)。民間部門業務局は、域内の官民連携プロジェクト47件に対し、62.5 億ドル以上(ローン、株式、政治リスク保証、部分信用保証、信用補完融資スキーム、および Bローンを含む)を提供した。

5 『世界銀行年次報告 2009』(世界銀行、2010 年、ワシントンDC)。この数字には、全セクターに対する支援総額と、アルバニア、アルメニア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ブルガリア、クロアチア、グルジア、カザフスタン、キルギス共和国、コソボ、マケドニア、モルドバおよびモンテネグロへの支援額が含まれる。

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6 官民連携(PPP)業務計画 2012-2020

増大する域内のインフラ需要の一部を満たすのみです。ADB の通常資本財源(OCR)と譲許的条件による貸付(アジア開発基金、技術協力のための無償援助など)を含めた二国間及び国際開発金融機関からの融資は、この地域の経済・社会インフラと公的サービスへの投資に必要な資金のごく一部を満たすに過ぎません。

12. 域内諸国では、巨大な投資不足が経済成長に悪影響を及ぼつつあり、更なる資金の手当が早急に必要とされています。域内諸国に与えられた選択肢は、主に3つ、すなわち(i)従来の資金源を見直し、そこから更なる資金の調達を模索する、(ii)予算以外の資金源からの資金調達を増やすようなメカニズムを探る、(iii)インフラ建設におけるPPP 拡大の妨げとなる問題を取り除く、があります。ADBは、近代的で効率的なインフラ・サービスを提供する上で加盟途上国が直面する課題の克服を支援しています。従って、PPP 促進を目的とするADBの活動は、ADBによるインフラ支援業務の重要な部分を占めます。

B. 民間セクターによる投資とファイナンス13. 一般的に民間企業は、インフラ・プロジェクトの管理とそのサービスの提供において、政府より効率的であると考えられています。民間企業の参画により、新技術への投資、新たな手法の導入、責任分担の明確化と透明化がはかられ、インフラ・プロジェクト運営の効率が向上する可能性が高まります。PPPによってガバナンスが向上し、透明性、競争、説明責任が促進され、バリュー・フォー・マネーが向上することもしばしばです。とりわけ長期契約を伴うPPPは、公的サービスの提供や施設の建設において政府に多くのメリットをもたらします。通常、PPPプロジェクトでは、公開かつ透明性の高い入札が行われ、入札参加者に対しては、入札の評価や発注方法に関する十分な情報が提供されますが、これはとても重要です。従来のプロジェクトと異なり、PPPプロジェクトでは、リミテッド・リコース・ファイナンス(限定償還請求権付き金融)により融資が行われますが、PPPプロジェクトの入札において、民間事業者と銀行が競うのは、インフラ施設を建設する権利のみではなく、政府との長期契約に基づく施設の設計・建設・操業・保守に必要な初動の投融資を提供する権利をも競うからです。よって、プロジェクトに参画する投資家と銀行は、契約がどのようにして、どのような条件で発注されるかを確認する必要があります。インフラ・サービスの提供に、民間事業者を参画させるメリットとしては、以下が挙げられます 6。(i) 資源の有効活用。政府と民間事業者との間でリスクが適切に分担され、適切に管理

されているPPP 契約は、その施設の耐用期間にわたり資源を有効に活用することができます。これは民間事業者が、施設の設計コスト・建設工事の品質に対して、施設の保守費用・ライフサイクルを通じた設備投資、あるいは既存施設の場合は、拡張費用を比較・検討するインセンティブを持っているからです。

(ii) 施設とサービスの質的向上。PPPプロジェクトには銀行と事業者が資金を提供するため、こうした政府外部関係者による審査が強化されます。多額の資金が事業に投じられることになるため、これらの外部関係者は通常、政府がプロジェクトを策

6 詳細は、『新興市場の官民連携に民間セクターを関与させるには(How to Engage with the Private Sector in Public―Private Partnerships in Emerging Markets)』((E. Farquharson、C. Torres de Mästle、and E. R. Yescombe、J. Encinas 共著、2011年、ワシントンDC、世界銀行官民インフラ助言ファシリティー)参照。

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7インフラ・ファイナンスの課題

定して必要資金の借り入れを行うプロジェクトの場合と比べ、はるかに大規模で詳細なデュー・デリジェンスと施設・サービスの品質確保を行います。

(iii) 政府業務の改善。PPP 実施プロセスの中で、政府には新しい取り組み・技能を必要とする新たな思考・行動様式が求められますが、それは、広範な経済改革とビジネス環境の改善といった課題につながります。一例を挙げれば、PPPは、競争を促進し、調達方法や公的サービスの質を改善する手段ともなりえ、単に民間企業の持つ資源を活用するための手段にとどまりません。PPPは、民間セクターとの一度限りの金融取引ではありません。このためPPPは、確固たる政策基盤、政府による長期的なコミットメント、そして健全で確立された法制度に基づく必要があります。優秀な民間事業者は、これらの点を検討した後、プロジェクト参画の是非を決定します。

(iv) 政府調達の改善。インフラ・プロジェクトをPPP 方式により契約・実施することで、政府は自らの調達手段と能力の強化をはかることができます。PPPプロジェクトを立案、準備、実施することにより、政府はその戦略策定プロセスを改善、プロジェクト管理や交渉スキルを高め、金融手法を理解、長期にわたる複雑な契約取引を進める能力を培うことができます。

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8 官民連携(PPP)業務計画 2012-2020

IV. 官民連携の実施原則と指針

14. PPP では、インフラの開発・運営の一部を民間事業者に委託しますが、その他は政府が引き続き所管します。政府が民間事業者に期待することは、技術、新たな問題解決法、専門知識などです。これらには、政府の従来の調達方法では育成・取得が難しい技能、経営管理手法、テクノロジーが含まれます。多くのPPPプロジェクトでは、ベスト・プラクティス(最も効果的で信頼できると見なされる方法)と国際基準が適用されますが、PPPプロジェクトでは、これを国内基準と組み合わせることで質の高いサービスを提供します。また政府は、国内基準と国際基準との間にあるギャップを解消しようとするので、将来的に海外からの投資を呼び込む場合にも役立ちます。

15. 従来の政府プロジェクトと比べて、PPPプロジェクトはその立案に長い時間を要し、また複雑です。しかしPPPプロジェクトの組成プロセスを通じ、プロジェクトを継続させるために求められるスペックやコスト、支援、手続きがはっきりします。こうした点は、政府が実施するプロジェクトでは、あまり明らかにされることがありません。従来の政府調達では、政府がプロジェクトに予算を配分し管理する能力と意向を持っていることが漠然とながらも想定され、そのことが厳密に追及されることはありません。政府はプロジェクトの運営、予算や実行に関わる重要な基準に十分な注意を払わなかったり、基準そのものを規定しないケースも少なくありません。途上国の政府が PPP モデルを採用すれば、こうした問題は透明化され、ADBと支援方法を話し合う議論の場にあげることもできます。PPPの評価指標を用いることは、ひいては政府がADBに提案するプロジェクト案を、ほぼ例外なく改善することにつながります。

16. しかし全てのインフラ・プロジェクトに PPP 手法が有効というわけではありません。PPPが成功を収めるには、いくつかの要件をクリアする必要があります。政府が行う公共設備支出やサービス提供が代用できるということではなく、PPPにできることは、政府の公益事業、公的な開発援助、その他の資金源を補完するということです。英国のような成熟した市場では、PPP(英国では「プライベート・ファイナンス・イニシアティブ(PFI)」という言葉を使用)は、政府による公共サービスへの投資に、小さいながらも重要な役割を果たしており、政府による調達契約全体の約10 ~15%を占めます。これは 1990/91年~ 2005/ 06 年に実施された PPP 案件 625 件、総額 600 億ポンド(1,000 億ドル)以上に相当します 7。これに対し、インド計画委員会の第 11次 5 年計画(2007~ 2012 年)は、全インフラ投資の約 3 割を民間投資に頼るという野心的な目標を設定しています。

7 『プライベート・ファイナンス・イニシアティブ:長期的パートナーシップの強化(Private Finance Initiative: Strengthening Long-Term Partnerships)』(英国財務省、2006 年 3月、ロンドン)p.15より。

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9官民連携の実施原則と指針

A. 官民連携業務の枠組み 17. ADB の PPP 業務は「提唱と能力育成」、「環境整備」、「プロジェクト策定」、および「プロジェクト・ファイナンス」という4つの柱から成っています。図2は、ADBが加盟途上国に対するPPP 支援を行う上で、どのような活動がそれぞれの柱に該当するかを示したものです。

B. 第 1の柱:提唱と能力育成 加盟途上国政府に対するPPP 支援では、ADB の地域局が中心的役割を果たします。

18. 相手国政府の職員、機関、そして政策決定者を対象に研修を行い、能力育成と理解促進を図ります。また、政府のPPP 政策に対する適切な意見・評価を、民間投資家や金融機関に求めることもあります。こうした能力育成は、途上国政府が PPPを実施するにあたり、新たな役割を果たせるように支援するものですが、PPPを通じて公共サービスを効果的に提供するには、政府機関や手続き、プロセスを絶えず見直し、改良していくことが課題となります 8。途上国政府職員にはまた、民間企業とのパートナーシップを効果的に管理する能力の育成も必要で、PPP事業に習熟した専門家や、アドバイザーの協力は特に重要です。PPPプログラムの確立には、政府の最上層部による政治的な関与と支援が不可欠です。

8 同様の例として、公益事業などにおける国有企業(SoE)の民営化がある。企業化は、かつて政府の一部門として運営されていた事業に、職業的経営、説明責任、そして持続可能な経営というコンセプトをもたらした。一部の公益サービスに PPP 手法を導入することで、民営化と同様、長期間にわたり持続的な改善がもたらされる可能性がある。

図 2 ADBの官民連携業務の枠組みにおける4つの柱第1の柱 第2の柱 第3の柱 第4の柱

提唱と能力育成 環境整備 プロジェクト策定 プロジェクト・ファイナンス• 意識啓発• リーダーシップの育成• セクター計画と民間セクターの開発アジェンダにおけるPPP の可能性を特定• 政 府およびADB職員の能力開発• 外部知識管理のための関係の強化

• 国別またはセクターごとの PPP開発の促進、指導、管理を目的とした政策上、法律上、規制上および制度上の枠組み作り

• ADBプロジェクトのサイクルと PPP開発プロセスを一致させる• 先駆的プロジェクトの組成を支援• 発注から融資のクロージングまで、プロセス全体を通じてアドバイザリーを含む支援を提供(専門家による支援、ツールキット、取引アドバイザー費用の支出、調達支援など)

• 信用補完商品(例:株式、長期債、劣後債の借り換え、協調融資、保証)の提供• 信用保証ファシリティーの確立• バイアビリティ・ギャップ・ファンディング(viability gap funding、赤字額を補助金の形で補てんすること)などのスキームを通じて政府に金融支援を提供

地域局の管轄 民間部門業務局と地域局PPP = 官民連携

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10 官民連携(PPP)業務計画 2012-2020

19. 政府は、自国の開発政策に沿った形で PPPの導入が可能などうかを分析し、セクター毎のロードマップを策定できる能力を十分に備えていなければなりません。政府におけるプロジェクト実施主体は、プロジェクトの戦略上の位置づけ、そのプロジェクトが(調達方法に関わらず)財政的に負担できるのか、そのプロジェクトに商業採算性があり民間銀行の融資が可能か、更にプロジェクト実施に必要な資源、技能や体制が、その実施主体に備わっているかを明確にしなければなりません。

20. ADB は、必要に応じて、多国間官民連携(MP3IC)9 やアジアPPPネットワーク10 等の既存のイニシアティブを調査したり、既に進行中の他のADBイニシアティブと重複しないか、当該業務が相手国のニーズや背景に沿ったものかどうかチェックを行います。

C. 第 2 の柱:環境整備ADB の地域局は、民間部門業務局と協力して加盟途上国への支援を強化し、PPP 促進に求められる環境整備を進めます。

21. 加盟途上国政府は、インフラ事業に PPP 方式を導入することが決まると、政策・法環境がまだ十分に整備されていない状態であっても、往々にしてすぐプロジェクトを実行しがちです。開発において、「実践しながら学ぶ」ことで物理的成果をおさめることも可能かもしれませんが、PPPプロジェクトを確実に成功させるには、多くの前提条件が満たされる必要があります。途上国において民間企業が PPP への参入を躊躇する主な原因としては、政府に PPPを支援・推進する政策・法的、リスクに応じたリターンをバランスよく市場に根ざした形で認める枠組みがないことが挙げられます。投資法、税法、また契約の強制力と契約者の権利、土地の所有権および資源の配分といった問題は、すべて PPPプロジェクトの実行可能性に影響します。各セクターの収益構造、利用料金の改訂、提供可能な担保・保証などもしばしば政策・法令な裏づけを必要とするもので、プロジェクトの実行可能性を大きく左右します。個別のPPPプロジェクト契約にこうした環境整備が記されている場合には、その成果があったとしても当該セクターまたはプロジェクトに限りとなるリスクが高まります。結果、政府の能力育成につながらず、次のPPPプロジェクトを生み出すような環境整備には結びつきません。

22. 従って強化すべき対象となるのは、政府組織の体制、政策や方針、法制度、投資規則、および金融市場の機能です。PPP 参画者の信頼を高める方法としては、以下が挙げられます。(i) 全てのセクターにおいて、PPPプロジェクトに提供される政府の支援とその範囲を

9 ADB は 2008 年、各国の多様な PPP 実務担当者を対象とする学習プログラムの開発・導入を目的とするMP3IC(能力育成イニシアティブ)を、世界銀行研究所および米州開発銀行と共同で設立した。MP3IC はPPPコア学習プログラムという学習・知識教材の普及を目指している。これは、大学院向けに作成された実践的でインタラクティブ形式のマルティメディア研修モデュールで構成されており、国や地域レベル、および国際的な学術機関が提供する修了証や学位プログラムとリンクできる。また、PPP 環境整備状況指数の作成やPPPに対する各国のアプローチの比較、複数のPPP 関連書の発行(グローバルPPP 能力育成ソースブック)、PPP ナレッジ・ポータルの運営、PPPビデオ対話シリーズの発行も行っている。ADBがパートナーとなっているMP3IC 内でも、PPPに関する知識の創出と共有が可能。

10 PPPに関する地域フォーラムであるアジアPPPネットワークは、知識の共有や研修の機会を求める地域の実務者のニーズに応えるものである。

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11

規定する(ii) PPP の持続的な収益モデルを支えるメカニズムを政府内に構築する(iii) PPP の財政負担と経済的利益が持続的なものとするため、途上国が負う財政リスク

を管理できるようなメカニズム構築を支援する(iv) 随意契約にも適用可能な、透明で安定し、柔軟また迅速かつ公平な調達システムを

確立する(v) PPP が適切な調達方法かを見極める際に用いる評価方法(例:予算から見た実行

可能性、バリュー・フォー・マネー11 や政府事業との比較、または政府サービスの質)を確立し、それを継続的に検証して政府の意思決定に反映させるプログラムを策定する

(vi) PPPプロジェクトに必要な土地の収用・整備を、ADBの環境・社会保護基準に沿って安定、公平かつ迅速に実施できるシステムの策定を支援する

D. 第 3 の柱:プロジェクトの策定ADB の地域局は、PPPを積極的に推奨し、途上国のプロジェクト発掘・開発能力を高めます。

23. 計画と準備が入念であるほど、効率良くプロジェクトが実施できます。多くのPPPプロジェクトで、融資が実行されなかったり、実行後に遅延が生じたり、業績が予想を下回ったり、進行中のプロジェクトが中止に追い込まれたりするのは、プロジェクトの準備不足が直接の原因である可能性があります。

24. ADBの各地域局は、途上国政府が PPPプロジェクトを発掘・準備できるよう、収益、経済、財政、契約構成の観点から、またリスクの配分やプロジェクト・ファイナンスについても的確な助言ができるようその能力開発を支援します。既に政策・法的な環境整備が進んでいる国の場合は、ADBは政府に対し助言することで PPP 活動を支えます。ADBは、政府と民間事業者との交渉において、中立的な仲介者として携わることで政府を支援できるという、ユニークな立場にあります。ADBは、(i)途上国のPPP 活動支援に必要なリソースを有し、途上国への直接融資業務の経験を通じてその国が各セクターで抱えている課題を深く理解しています。また(ii)民間部門業務局の民間企業向け投融資業務を通じて、民間の投資行動を理解するとともに、民間金融機関の融資を呼び込むことができます。ADBはこれらの技能、資源、知識を活用して、途上国政府のPPP 促進活動を支援します。政府が必要とする支援とは、よく計画・準備され民間資金を呼び込めるようなPPPプロジェクトを多く組成することであり、そうしたな支援を政府に提供することで、ADBは自らの資源をより効果的に活用します。

25. PPP プロジェクトの開発・準備に提供されるADBの支援は、特に PPP 制度の新しい国においては、その作業過程にわたって途上国政府を先導します。ADBの支援の対象となるのは、プロジェクトの実施以前であれば政策決定者、プロジェクトの準備期間中はプロジェクト・チーム、プロジェクトの運営開始後はプロジェクトの監督部門です。従ってADBは、セクター分析と開発計画の立案、また、国別支援戦略や国別業務計画といっ

官民連携の実施原則と指針

11 バリュー・フォー・マネーの詳細な解説は巻末の付録 3(p.37)を参照。また本業務計画への適用に関しては第 28 節に記載。

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12 官民連携(PPP)業務計画 2012-2020

たロードマップ策定の早い段階で、 PPP 実施に向けた相手国の準備状況を考慮しながら、PPPの可能性について協議します。国別支援戦略や国別業務計画に盛り込まれたPPP 案件の立案作業を地域局が支援し、それらPPPプロジェクトに対する相手国政府の関与を強めます。付録 2(p.28)では、PPPプロジェクトの策定を、段階ごとに解説しています。

26. ADB が、インフラ開発に振り分けられる資金は、国、セクターともに限られているため、ADBの支援では PPPプロジェクトの育成・促進が優先されます。政府が、国内金融市場から資金を調達でき、インフラ需要がADBの提供できる支援額を大きく上回るような国の場合、ADBの支援の大半は案件の育成に当てられます。プロジェクト組成のためのアドバイザリー・スキルの提供や、案件の組成を支援する融資など、初期段階からの支援を通じて、民間による投融資が可能な案件を創出します。これによりADBの提供する資金が、民間資金を効果的に動員することが期待されます。これに対して、政府が国内金融市場から調達できる長期資金が限られ、ADBがプロジェクト資金を融資することが必要とされる国では、ADBは短期的には従来どおり政府プロジェクト(ソブリン)融資を続けますが、その後は民間企業が参画するPPPプロジェクトの発掘・育成に注力します。

27. ADBは、相手国政府との協議の早い段階で、プロジェクトが PPPとして実施可能かを判断するため、経済・政治・社会状況を勘案した国別のスクリーニング・テストを行います。一般的なPPPスクリーニングのチェックリストは表 1に示されています。

28. プロジェクトが PPPに適しているか判断する際には、そのファンダメンタルズを分析して、民間企業を参画させる範囲や、プロジェクトが政府セクターによって実施された場合のメリットを評価します。この評価は、政府が実施するプロジェクトとの比較を通じ、バリュー・フォー・マネー(VFM)分析に基づき行われます。この手法により、プロジェクトの立案・組成過程を通じて、そのPPPプロジェクトが有益で、利用料金も適正かどうかも確認できます。これは、政府そしてプロジェクトの参画者に安心感を与えます。(付録 3、 p.37)。

29. 途上国政府は、入札の発注に先立ち、プロジェクト準備をしっかり行う必要がありますが、それにはプロジェクトを立案・構築する技能・技術が必要です。例えば予備設計、技術・運転仕様、各種調査(例:交通量、環境への影響)、資金調達案と銀行団との予備会議、そして入札・契約書類の準備と言った作業は、外部の専門家を雇って行われます。これらの作業は、国際的な経験豊富な専門家による助言が必要な場合が多く、費用がかさむ可能性もあります。しかしながら、これらの作業をないがしろにすることは、プロジェクトが PPPとして成功する可能性を損なう恐れがあります。

30. 民間企業を巻き込んだ PPPプロジェクトを準備するには、資金と専門的助言が必要です。このため、プロジェクト開発基金または機構(PDF)12 を当該国内に設立する場合があります。PDFは、プロジェクトの準備からそのプロジェクトが融資を受けられるまでに必要な資金を提供します。この準備作業は極めて重要であるにも関わらず、専門家を雇う費用が高額だからという理由で、政府は十分な予算をこれらの作業に振り分けることに積極的ではありません。これは、専門家の助言がもたらす価値や時間のメリットを見過ごすものです。PDFを設立することにより、プロジェクトを準備する際に発生する問題の解決

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13官民連携の実施原則と指針

に必要な資金を確保できるのです。ただし、PDFを効果的に運用・活用するには、入念な企画・運営が必要です。PDFを設立・運営するに当たって、資金の調達と使途配分、また資金の回収方法には多くの選択肢が存在します。ADBを含む開発金融機関、政府、また民間企業も、PDFの設立を支援します。付録 4(p.46)では、PDFを設計・運営する上で考慮すべき原則を解説しています。

表 1 一般的なPPPスクリーニングおよびプロジェクト選別のチェックリストスクリーニング基準 はい いいえ1. そのプロジェクトが政府の優先事項であることは明らかにされている(国家開発計画に言及されている)か?政府機関が、そのプロジェクトの全期間(7年、10 年、15 年、20 年超)にわたり、プロジェクトの対価として、またはプロジェクトを支援するために必要な支払いを行う能力があることが初期評価(予算計画)に示されているか?

2. そのプロジェクトには、大規模な新規設備投資(2,500 万ドル超)が必要か?a 3. そのプロジェクトには、長期的な保守、測定可能なパフォーマンスや運営実績、定期更新が必要か?

4. 初期分析で、そのプロジェクトは技術的・経済的・環境的に実行可能という結果が出ているか?

5. プロジェクトを財政的に実行可能するような、革新的な仕組みはあるか?6. 同じセクターで、国際的、地域内または国内の官民連携が開発されたことはあるか?

7. 民間セクターは興味を示しているか?

8. 民間セクターはプロジェクトに関するリスクを取ることに納得しているか?納得していない場合、信頼に足るカウンターパーティーまたは政府自身が何らかの支援を提供できるような形に、リスクを構成することは可能か?

9. 収益フローは明確に特定できるか(政府から、一般利用者から直接、またはその両方から)?

10.プロジェクトのパフォーマンスを、明確で定量化可能な成果や主要業績評価指標(KPI)によって測定することは可能か?a 新規設備投資額は、そのプロジェクトが官民連携(PPP)スペクトルにおいてどこに位置づけられているのかといった多くの要素によって決まる。サービス契約や管理契約において、民間セクターが設備投資を行う必要は、ほとんど、または全くないことは明らかだが、民間セクターを比較的新しいPPP 市場かセクター(下位セクター)に関与させることは、良い方法と言えるだろう。一方、民間セクターとの協力実績がある地域や、そうした契約に有利な枠組みが存在する場合は、パフォーマンス・ベースの管理契約やコンセッション・ベースの仕組みを検討してもよいだろう。PPP プロジェクトの組成には多額の取引コストを伴う。そのため、プロジェクトの資本は、そうした費用に見合う規模でなければならない。世界の途上国に関する評価によれば、資本コスト2,500 万ドルが PPP プロジェクトの適格基準の1つという結果が出ている。しかしADBでは、地域局が地域ごと、国ごとにコスト基準を柔軟に定めることができる。

12 プロジェクト組成の予算は、プロジェクトの総予算と比較すれば、さほど大きな額ではない。しかしこの予算とその配分(使途)は、恐らくプロジェクトの準備作業の中でも最も重要なものと言える。プロジェクト策定のコストは通常、平均してプロジェクト総経費の約 5%に相当する。規模の大きいプロジェクトでは、プロジェクトの総費用の1~ 2%まで低下するが、規模の小さいプロジェクトでは 7~10%となる場合もある。複雑なプロジェクトでは、開発費用が上昇する場合がある。プロジェクト・ファイナンスが広く用いられるPPP 案件では、プロジェクトの総経費に関わらず、法務や案件のストラクチャリングにかかる費用はほぼ一定額となっている。途上国において先行事例となるようなPPP 案件を組成するアドバイザリー支援の費用としては、平均 200 万~300 万ドルが必要とされる。

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14 官民連携(PPP)業務計画 2012-2020

31. PDF 設立を支援することに加え、PPP 案件の組成を目的とするアドバイザリー業務にTAを用いることは有効です。ADBは、アドバイザリー業務を継続的に提供できるよう、手数料徴収形のTAを利用する場合があります。世界銀行グループの民間セクター部門である国際金融公社(IFC)をはじめ、他の開発金融機関も、TAをPPP 案件への支援に活用しています。IFCは新興国の中央・地方政府に対し、PPP 案件の実施に必要な助言を行うとともに、TA資金をPPP 契約業務に関わる外部専門家(財務、法務、技術)への支払いに充てています。IFC では更に、TA資金の活用に加え、顧問料そしてIFC 職員の人件費を賄う目的として、案件の成功報酬等を徴収しています。IFC が PPPアドバイザリー・サービスに充てる資金をどのように調達しているかは、付録 5(p.58)に記載されています。

32. PPPアドバイザリー・サービスを途上国政府に提供する際に、ADBの地域局は利益相反の可能性を厳密かつ効果的に管理する必要があります。ADBが PPPアドバイザリー・サービスを提供するにあたり、PPP 案件がその国に対するADBの支援業務に対する条件であったり、約束するものであってはなりません。また、ADBが政府のアドバイザーを務めている案件に対して融資を検討する際には、利益相反が生じる可能性があります。案件の審査では、不偏性と独立性を確保するため、その案件の担当者とは別のADB 職員が携わる必要があります。ADB 地域局のPPP 実行規則の一環として、アドバイザリー・チームと融資チームの独立性、客観性、機密性を担保するための手続きが、業務指示書に記載されます。

E. 第 4 の柱:プロジェクト・ファイナンスADBの民間部門業務局は、民間企業への支援及び民間銀行との協調融資を拡充することで、その支援をより効果的なものとし、途上国における民間投資の拡大を通じて変革をもたらします。ADB の地域局も、政府に融資を行うことで、PPP 案件の資金調達を支援する場合があります。

33. 政府の返済保証を条件としない民間企業向けの支援には、融資、保証、ローン・保証のシンジケーション、その他の金融支援 (例:プロジェクト開発融資)が含まれます。ボックス 2は、ADBにより政府への直接融資と、政府返済保証のない民間企業への融資が共に実行されたプロジェクトの例を示しています。

34. ADB の提供する資金がより大きな資金を動員できるよう、ADBの協調融資および信用補完商品の利用が推進されます。初めに、輸出信用保険、銀行融資(必要な場合は保証をを提供)、および開発金融機関のもつ協調融資ファシリティー(例:国際協力銀行(JBIC)の国際環境保全業務(GREEN)13)等を検討します。ADBは、自身の信用補完商品だけでなく、他の信用補完機関(例:開発銀行、輸出信用機関、輸出入銀行、民間保険)との協働を検討し、また PPP 案件に保証を供与する途上国機関(例:インドネシア・インフラ保証基金)を支援します。

13 JBIC は、鳩山イニシアティブに基づき、GREENを通じて 2012 年末までに発展途上国に対し最大 40 億ドルを融資することを提案した。これによりJBIC は、温室効果ガスの大幅な低減につながるプロジェクトに投融資を行う民間企業・銀行に保証を提供します。

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15官民連携の実施原則と指針

ボックス 2 ナムトゥン2(Nam Theun 2)プロジェクト12 億ドル規模のナムトゥン 2は、ラオス人民民主共和国最大の水力発電プロジェクトであり、同国の国内総生産(GDP)の 3 分の1 近い費用を投じて建設されました。これは、同国と地域の発展、貧困の削減、そして再生可能な新しい電力源の提供を目的とした多目的プロジェクトです。このプロジェクトの運営会社であるナムトゥン 2 電力会社(NTPC)は、仏電力公社(Électricité de France)(35% 株主)、ラオス政府(25%)、タイ発電公社‘U(Electricity Generating Public Company、25%)、イタリアン・タイ・ディベロップメント(Italian-Thai Development、15%)によって共同所有されています。

ナムトゥン 2プロジェクトは、地域局と民間部門業務局の協力によって優れたプロジェクトが生まれた良い例です。2005 年に締結された融資合意にもとづき、ADBは以下を提供することでこのプロジェクトを支援しました。(i) NTPC 株式の購入資金として、政府への政府融資 2,000 万ドル(ii) NTPC への直接的な民間セクター融資 5,000 万ドル(iii) NTPC への政治リスク保証 5,000 万ドル

NTPCはプロジェクトの所有者として 25 年間のコンセッション契約を結んでおり、政府はその間、20 億ドル超と推定される使用料、配当金、租税を蓄積し、貧困削減プログラム支援に役立てます。2010 年 3月15日、NTPC は発電サービスを全面的に開始し、タイ王国電力庁(Electricity Generating Authority of Thailand)に 1,000メガワットの電力を供給しています。現在ではラオスの国営公益事業、ラオス電力公社(Electricité du Laos)にも電気を供給しています。

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V. 実施計画の実行

A. 戦略的方向性35. PPP プロジェクトの組成と、それに必要な政府の能力開発を支援することは、PPPプログラムが成功を収める上で極めて重要です。大規模な支援が必要と考えられるのは、(i)民間セクターの役割をとり入れたインフラ開発計画、(ii)フィージビリティ・スタディ、土地収用および社会・環境評価等のプロジェクト準備作業、(iii)政府によるPPP 支援の実行と管理、(iv)政府と民間企業間における適切なリスク分担、(v)PPPアドバイザリー業務、です。PPP 戦略が、特定のセクターに限定されることは稀です。PPPの考え方とその理解者を取り込むという、包括的な取り組みが求められます。ADBは、他の開発機関や金融機関と密接に連携し、その活動が重複しないよう配慮しつつ、各パートナーの比較優位を活用して途上国におけるPPP への支援を拡大します。ADBの各部門が PPPに果たす役割と取り組みは、付録 6(p.61)に記載されています。

36. ADBでは、地域局と民間部門業務局が途上国政府、民間企業や銀行との窓口であり、民間資金をPPP 案件に呼び込む上で重要な役割を担っています。地域局は、PPP 推進のための施策や制度の枠組み作り、制度整備を通じた PPP 案件の開発と資金調達への支援、案件発掘と育成の支援、必要に応じてモデルプロジェクト実現のため、信用補完を含む政府への直接融資を行います。また地域局は、プロジェクト組成に必要な制度構築のガイドラインを提供し、民間企業や銀行の参画が可能となるような案件の組成を支援し、案件の入札や交渉を指導します。民間部門業務局の役割には、国別支援戦略や国別業務計画の策定の際に地域局を補佐して、可能性のあるPPPプロジェクトを発掘することがあります。また、PPP 案件への融資、民間銀行との協働とローン・シンジケーション、案件に関わるプライベート・エクイティ・ファンドへの投資、及び PPPプロジェクトが長期資金の調達を行えるように資本市場と金融機関を支援することなどが含まれます。また民間部門業務局は、民間銀行や保証会社からの協調融資および信用補完商品を手配し、地域局のPPP 業務と融資を支援します。

B. 国別支援戦略(CPS)37. ADB の PPP 支援は、各種制度の整備から、プロジェクトのライフサイクルを通して行われる政府への支援、より幅の広い金融支援など、複数の分野に広範囲にまたがるものであることから、国別支援戦略の策定プロセスと連動させる必要があります。現状ではこうした支援は、個々のセクター毎に行われているため、特定のプロジェクトに限定された固有の課題を把握する上では役立ちますが、より広範囲な制度環境を整備する機会を逸することになりかねません。PPPを促進する制度環境が未整備であるにも関わらず、一部セクターのみに焦点を当てて取り組むことは、案件やセクターが変わるたびに制度整備のプロセスをコストと時間をかけて繰り返すことになりかねません。個別の支援を複数のセ

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17実施計画の実行

クターを通して俯瞰した場合、結果がばらばらだったり、統一性に欠ける指針を政府に提示する結果にもつながります。従って地域局では、関係する様々なセクターを念頭に置いて国(または州、省)のPPP 戦略を策定する必要があり、地域局の各セクター部門と民間部門業務局との密接な連携が求められます。国別支援戦略の策定には、中央業務サービス部、協調融資業務部、法務局といったADB の他の部署の参画も必要です。途上国政府側は、特定のセクターにのみPPPの活用を検討している場合でも、いずれ他のセクターに活用されるという前提で PPP 政策を作成する必要があります。特に、政府の所管する投資制度、政府の債務管理及び予算作成は、PPP 案件を成功に導く重要な要素です。PPPを用いたセクター支援は、ADBの各部門とPPP専門家の密接な協議に基づいて、継続性と一貫性が確保される必要があります。図 3は、国別支援戦略と国別業務計画策定の際のPPP 支援のしくみを図示したものです。

38. 本業務計画の実施に際して必要となる戦略的変更点(表 2)としては、(i)PPP の促進策とその選択肢を含む国別支援戦略・国別業務計画の作成、(ii) PPPを推進するにあたり必要な能力育成・意識啓発・環境整備支援、(iii) PPPプロジェクトの開発・準備への実地支援、(iv)候補となる民間・PPPプロジェクトのリスト作成、(v)民間資金による(必要な場合には政府資金も)PPPプロジェクトの立案、があります。ADBの各国駐在員事務所においても、カントリーディレクターと主な職員が、PPPの可能性とその選択肢、PPP 支援のコンセプトを熟知し、ADBのPPP 支援を当該国に対してしっかり伝える役割を果たします。

C. プロジェクトの優先順位とスクリーニング39. PPPと民間セクター育成をより統一的に適用し、ストラテジー2020 を積極的に推進するには、純民間のプロジェクト、次いで PPPプロジェクトへの支援が、政府プロジェクトへの(=ソブリン)支援より優先されるよう、ADBの業務を見直す必要があります。PPPと民間セクター育成は不可分であり、PPP への支援は、広義の民間セクター育成支援に含まれます。従ってプロジェクトは、まず民間セクター育成のスクリーニングを経て選ぶことになります。具体的には、PPPのスクリーニング・プロセスを通じて、民間企業の技術・運営・技能支援、参画そして資金が最大に活用できるような分野、及びADBの技術支援と財源を最も有効活用できる領域を特定します。

40. 政府へのプロジェクト(ソブリン)融資は、民間または PPPによるプロジェクトの実施が不可能か、政府による支援なしでは実現が難しいと判断される場合にのみ検討されます。ソブリン融資プロジェクトにおいてさえ、部分的に PPPを取り入れたり、少なくとも何らかの形での民間企業の参画が可能な場合はあります。国別支援戦略においてADBが支援するとされたプロジェクトは、上述の優先順位(民間、PPP、政府)に基づき事前実行可能性評価の際に、仕分けられます。(図 4)。

41. スクリーニングに用いられる判定基準は、相手国との協議に基づき、その国やセクターの状況に合わせて調整・決定されます。民間事業者と政府間の適切なリスク分担や、政府の財政負担の割合などに関して基準を定めます。国・セクターの基準には、民間銀行による融資の可能性、スケジュール、アフォーダビリティ、プロジェクトの事業者、利用者の反応などを盛り込みます。こうした要素はいずれも、スクリーニングにかけたプロジェ

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18 官民連携(PPP)業務計画 2012-2020

クトがどう分類されるかを決定します。このスクリーニングを経て、国別支援戦略に基づき提案されたプロジェクトの中から、よく構築され、経済的にも実行可能な民間プロジェクトとPPPプロジェクトが選ばれて実施されます。

42. PPPをプロジェクトや計画に効果的に組み込むため、地域局は PPPに関する専門知識と能力を高めて、適切な段階において、体系的にプロジェクトの審査とモニタリングを行います。地域局は、PPPを含む複雑なプロジェクトの審査、実施、運営に専門家を活用します。

D. 業績評価43. ADB は、業務の重点をPPP へと移行するのに伴い、各部門の業績評価方法も見直す必要があります。PPP への支援は、往々にしてセクターの垣根を超えるため、組織内外の様々な部署との協働が求められます。これには、民間企業の参画へとつながるPPPプロジェクトの組成(結果 ADBがそのプロジェクトに融資を行うか否かに関わらず)を目指した PPPアドバイザリー・サービスの提供が含まれます。このため、ADB の業務を適切に評価する、新たな指標を確立する必要があります。ADBは、PPPプロジェクトに実践的なおかつ長期的に関与することを目指しており、その目的を反映した新しい指標に

図 3 国別支援戦略・国別業務計画プロセスにおけるADBのPPP支援

国別支援戦略の策定前

国別支援戦略

国別業務計画

PPPの環境整備 金融市場の開発 個別プロジェクトセクター開発改革

政府の計画支援

方針/枠組み 方針/枠組み 資本市場の開発

資本市場への参加

インフラ・ ファイナンス・ファシリティー 融資可能なPPP

プロジェクト

セクター改革デモンストレーションPPPプロジェクト

地域局が管理するプロジェクト設計機関

TAの無償援助および/またはローン

TAの無償援助および/またはローン

TAの無償援助および/またはローン

OCR融資 /保証

リスクの分配 /財務商品

TA アドバイ ザリー PDF協調融資

公的/民間保証商品

公的融資商品

民間融資商品

リスクの分配 /財務商品

PPP専門家の支援を受けた現地事務所代表者が協議

PPP専門家の支援を受けた地域局内セクターとADBによる

テーマ横断的協議

OCR = 通常資本財源、PDF = プロジェクト開発資金または融資枠(開発途上加盟国の資金との協調融資)

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19実施計画の実行

は、プロジェクトの早い段階における政策決定者との協議、プロジェクト組成期間中における継続的な関与、そして重要なこととして、プロジェクト運営開始後の適切なモニタリングが含まれます。

44. PPP プロジェクトの主要業績評価指標(KPI)は、各途上国の状況に即して設定されるべきですが、実現したプロジェクトの案件数と、第三者から提供された資源(特に民間資金)を主な指標とすべきであり、ADBが提供した融資金額を指標とすべきではありません。ADBが提供する支援がどういった形(=保証、協調融資、PPPアドバイザリーの

表 2 PPP業務計画の実施を促進するための戦略的変革案

国別支援戦略・国別業務計画のプロセスにおける現行の方法 PPP業務計画の実施を促進する戦略的変革点

地域局の各セクター部門が、局内の民間セクター育成担当官との協議により、または単独でセクターごとの計画を設計しているため、国別計画との統合が不十分。

複数セクターにまたがる全体的な計画が必要。PPPに関しては、特定のセクターに関する計画を立案する前に、対象国でのPPPの実行方法に影響を及ぼすような、何らかの形の環境整備支援を国レベルで行う必要がある。

ジェンダー、環境、社会的基準という互いに交差する主流テーマを特定セクターに関する計画の一部として検討・実行しているが、PPPを互いに交差するテーマとして体系的に検討することは行われていない。

各セクター部門の助言をすり合わせ、互いに交差するテーマとしてPPPを推進。

特定プロジェクトの支援計画において行われるPPPに関するリソースとの協議が間接的だったり、事前に行われていない。

PPP担当者が、CPSの前段階における相手国政府との協議に参加し、CPS案に最初に盛り込むべきニーズや問題、提案される行動を特定する。PPP担当者を、国別計画策定ミッション(CPM)チームの不可欠な部分として加える。

CPSの前段階における計画立案や相手国政府との協議が、必要が生じた時のみ行われている。

先を見越したニーズ評価と、CPSに対するアプローチを決定するために、CPSの前に内部セクターや部門を横断した戦略会議が必要。CPSの前段階で、セクター別のPPP専門家と、民間部門業務局の専門官が対象を絞った協議を行い、関連政府機関と戦略的コンセプトを話し合い、PPPインフラやサービス開発の明確な戦略分野、方向性、目的を特定する。民間セクターのステークホルダーと踏み込んだ協議を行い、PPPプロジェクトに参加する要件と関心を見極め、これらのパラメーターをCPSの前段階における政府との協議に盛り込む。国としてのPPP目標(方針、財政、セクター目標を含む)と、CPSの前段階での特定プロジェクトに関するアクションや協議とのつながりを特定する。

ほぼCPSに沿ってプロジェクトを実行している。

合意されたPPPの原則が実現されるよう、コンセプト決定前にCPSに基づくプロジェクト案をスクリーニングし、民間セクターの関与と協調融資の機会を活用できるその他の手段を特定する。

民間セクターの開発計画が、政府の計画とは別個に作成されている。

地域局および民間部門業務局は、途上国でのPPP開発推進機会を共同で特定すべきである。

CPS = 国別支援戦略

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20 官民連携(PPP)業務計画 2012-2020

ような非融資型支援)であるにせよ、PPPは ADBが提供した資金と専門知識を効果的に活用することができます。作成されるKPI は、測定可能な実績に基づかなければなりません。例えば、第 1の柱では、能力育成と研修は重要な作業ですが、研修を受けた政府職員の人数をKPIとするのではなく、結果 PPPを促進する法律・政策がいくつ成立したか、そして最終的には、PPPとして立案されたプロジェクト数をKPIとすべきです。ADBのPPP 業務と途上国への支援に用いられるKPIを、図 5にまとめています。地域局は、PPP 支援効果を測定する地域ごとの手法を確立します(図 6に指針を掲載)。付録 7(p.63)では、業務計画の成果の枠組みを示しています。

E. ADB 職員の能力育成45. ADB の職員は、PPPの可能性とその選択肢のみならず、プロジェクト・ファイナンスに用いられる民間企業へのノンソブリン投融資、民間セクター参画、協調融資、保証業務にも精通している必要があります。地域局は、プロジェクトを準備するにあたり、TAを用いて技術・環境・社会評価を行うことに習熟していますが、PPPプロジェクトでは、以下の作業を行う知識と技能も求められます:財務分析、民間融資の可能性の評価、法制度の審査、リスク低減手段の検討、入札・契約書類の作成(それぞれのPPP 手法に即した)、政府規制の策定、案件の監査と評価。

46. 地域局は、以下の作業に求められる技術と知識が異なることを理解する必要があります。すなわち、(i)プロジェクト案件のスクリーニング全般、PPPの役割とその利点に関する建設的な対話、(ii)制度整備を支援するTAの準備と管理、プロジェクトの立案、適切なPPP 方法を検討する上で必要な作業要綱(terms of reference)の作成、(iii)PPP案件へのアドバイザリー・サービスの提供。また、地域局の職員は、VFM評価とPSC(公

COBP = 国別業務計画、CPS = 国別支援戦略

図 4 プロジェクト・ファイナンスの選択肢の初期評価

民間融資プロジェクト公的・民間融資

公的融資

プロジェクト

診断計画 CPS/COBPサイクル

(CPSに基づいた)プロジェクトの特定

(民間セクターの内容と資金   調達の可能性に基づいた) プロジェクトのスクリーニング

プロジェクトプロジェクト

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21実施計画の実行

的セクター比較)の構築に必要な技能を備えていなければなりません。地域局は、プロジェクト・サイクルを通して求められるこれらの技能を、自らの局内で育成する必要がありますが、短期的には、民間部門局の職員に参加してもらって補填できると考えられます。地域局職員に求められる技能を正確に把握するために、スタッフの技能と研修状況の調査を必要に応じ実施します。

1. 研修 47. 職員の能力育成が必要と考えられる業務は、主に次のようなものです。すなわち、(i)案件全般のスクリーニング、(ii) PPPに関する途上国政府との効果的な対話、(iii) PPP 促進に必要な能力育成を図るTAの準備と監理、(iv) PPPプロジェクトの発掘と準備(特にプロジェクト・ファイナンスを組成し評価する能力)。PPPプロジェクトは、プロジェクト・ファイナンスによって融資されることを基本とします。この基本は、ADBのプロジェクト立案、準備、融資実行にわたるプロセスをより強固にするもので、ADBが提供する支援形態がソブリンかノンソブリンかにかかわりません。ADBの人事局は、プロジェクト・ファイナンスの研修を行っています。この研修に基本、中級、そしてより高度な技能、分析、商業的な構成を含めて、これらがADBの業務にどのように適用できるかを検討します。こうした研修は、プロジェクトが抱える課題を、基本的な要素に分解・再構築するのに必要な共通の言語と認識を確立する上で有益です。これをADB 職員に徹底し、民間セクター育成を推進する組織文化を育み、そして何よりも、PPPプロジェクトの成功体験を評価・活用できるような制度を築くことが重要です。

図 5 PPP活動と開発途上加盟国支援における主要業績評価指標(KPI)第1の柱 第2の柱 第3の柱 第4の柱

提唱と能力育成 環境整備 プロジェクト組成 プロジェクト・ファイナンス

• PPPの準備支援を受けた新たな途上国‒ 国ごとの支援を通じて‒ 一部の地域、または地域全体に対する支援を通じて

注:中間結果。第2の柱と第3の柱の成果に反映

• ADBの助言に従って、セクター別指針、ツールキット、基準書、PPP調達実務、支援プロセスの普及など、PPPに関する方針、法規制改革を導入した途上国の数‒ 国レベルで‒ 半公営企業レベルで

注:中間結果。第3の柱の成果に反映

• PPPプロジェクトの組成を推進している途上国の数• PPP案件として開発が始まったプロジェクトの数• ADBが支援し、以下との融資合意段階まで達したPPPプロジェクトの数‒ 政府のみ‒ 政府と民間セクター(合同)または民間セクターのみ

• 実施されたプロジェクトの価値総額• 提供されたプロジェクト・ファイナンスの総額• ADB資金のレバレッジ比率

COBP = 国別業務計画、CPS = 国別支援戦略

PPP診断と、その結果に基づいた計画をCPSまたはCOBPに組み込む

融資のクロージングまでたどり着いたPPPプロジェクトの数

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22 官民連携(PPP)業務計画 2012-2020

2. PPPに関するメンタリング 48. 地域局のPPP 業務拡充を支援するため、PPP専門家は、PPP 実務委員会の支援の下、プロジェクトの構想段階以前、即ちコンセプト作成により積極的な役割を果たします。地域局は遅くとも構想書の承認を行う際には、PPP専門家をプロジェクトのスクリーニングに関与させ、プロジェクト・チームと積極的に協議させます。複雑なプロジェクトの場合、PPP専門家はプロジェクト・チームの主要メンバーとして加わります。特に複雑で難しいと見なされるプロジェクトでは、PPP 実務委員会に調査、助言、協議を依頼できます。

3. PPP 実務委員会 49. PPP 実務委員会は、PPPの手法やソブリン・ノンソブリン投融資業務に関してADB 職員の知識管理と能力育成を担当し、地域協力・持続的開発局を事務局とします。またPPP 実務委員会は、人事局と協力して PPP 研修プログラムを作成するほか、PPPに関するイベントや会議を開催し、PPP 実務者を招いて政策、契約、その他 PPPに関する経験を、ADB 職員と話し合う機会を設けます。PPP 実務委員会は、加盟途上国やその他の地域でのPPPの成功・失敗事例を分析し、その情報をADB内で共有します。

4. 官民連携職員の人的リソース50. ADB の業務において、PPP 案件を立案・実施するには、幅広い経験と知識が必要です。できれば PPP 案件の経験が豊富な正規職員を多く育成し、ADB 内にデータ・プールと

図 6 ADBによるPPP支援のパフォーマンス測定プロセス

ADBの戦略目標

CPSおよびCOBPに沿った主な事業成果。成果は(a)クライアント(途上国政府)の視点、(b)経営目標、(c)PPP実務委員会が評価した創造価値で測定される。

実際の成果およびPPP実施計画に記載されたKPIに照らしてPPP業務の直接的な貢献度を測定する。

実際の成果に基づいて測定した、4つの柱、結果、成功度に対するPPPプロフェッショナルの貢献度。

主要結果領域• 定められた指標目標を満たす• クライアント満足度• サービスの質

PPPのプロフェッショナル• 人事採用、研修、雇用• キャリア開発および育成

RDセクター・チーム• PPPの専門知識について地域局のセクター・チームを支援 • 地域局セクター・チームの満足度

PPP実務委員会• 独立したレビューとフィードバック

COBP = 国別業務計画、CPS = 国別支援戦略、KPI = 主要業績評価指標

プロセスおよび活動• インセンティブ• リソースの可用性とパフォーマンスとのバランス• 提供されたサービスの質• ソート・リーダーシップの発揮

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経験ある人的資源を確保する必要があります。より多くのPPP 案件が実現するにつれ、このデータ・プールも拡充しますが、経験を積んだ外部のPPP専門家を招くことも必要となります。地域局は、国別支援戦略と国別業務計画の策定を通じて、組成されるであろうPPPプロジェクトの数と、必要とされるADB 職員の関与の程度を予測します。それを基に、途上国政府の要求に応えられるよう、適切な技能を備えた人員を十分に用意する必要があります。PPPプロジェクトの実現性が高い地域局では、他局より多くのPPP正規職員が必要となる場合があります。

51. PPP専門家は、国別支援戦略・国別業務計画、分析、戦略そして開発計画の策定に助言を行います。これには、PPP が直面する課題を政府・民間企業と協議すること、またその国やセクターに即して、現実的で新しい取り組みを検討することが含まれます。またPPP専門家は、プロジェクト・チームの一員として、プロジェクト・サイクルを通してプロジェクトを検証することで、地域局におけるPPP 業務の質を確保します。また PPP専門家は、PPP 促進に必要な環境整備を推進するためにTAを立案、実施します。

52. PPP専門家の業務量は、プロジェクトのスクリーニング、協議および人材育成の初期段階では膨らむので、これら業務に必要な時間と費用は予算に盛り込んでおきます。案件のスクリーニングや立案、評価プロセスへの参画といった作業は、専門家個 人々の業務能力開発計画に含めます。PPPプロジェクトの数が増えるにつれて、地域局は支援を継続的に行うために PPP専門家を増員する必要があります。

F. 知識管理 53. PPP 実務委員会は、PPPに関する知識を共有する場として、ADBの実務者間に統一された PPP 施策を確立することに貢献します。PPP 実務委員会は、国別支援戦略や国別業務計画、個々のプロジェクトを策定する際に、PPPの可能性特定に用いることができる基本的考え方を確立できるよう支援します。また、事前実行可能性調査に基いた PPP案件のスクリーニング、TAおよび融資案件のピアレビュー(同僚評価)も実施します。プロジェクトの担当者は、プロジェクト案を準備して PPP 実務委員会に提出することによって、実践を通して学ぶことができ、スキルを伸ばすことができます。PPP 実務者が、PPP 実務委員会と協力し合うことは重要であり、こうした評価作業を支援するために十分な時間と費用を予算に含む必要があります。このように、PPP 実務委員会の活動は、各委員(及び参加者)の業務計画の一部ととらえる必要があります。

54. PPP 業務では、継続的な学習と改善が求められます。ADB がその支援を拡充するにあたり取得した知識は、プロジェクト・サイクルの各段階において文書化されます。必要があれば、PPP 実務委員会を通して、優れた実務例のケーススタディーを作成します。PPP 実務委員会は、ADBや他の機関が支援・実施した PPP 案件の成果を検証し、ADBのPPP 施策の拡張や改善に活かします。更に、入札準備の際に一部セクターで求められる書類など、知的成果物の作成も支援します。PPP 実務委員会は知識の普及に努め、PPPに関して他の情報チャンネルと互いに協力します。

実施計画の実行

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24 官民連携(PPP)業務計画 2012-2020

G. スケジュール 55. 本業務計画は、2 段階に分けて実施されます。第 1段階(2012 ~ 2013 年)では、ADB内でPPPを育成・支援すべく、業務方針とその手続きを確立します(図7)。この第1段階は、PPP への支援をADBにおいていかに拡大するかを事実上決定するものです。地域局は担当の国と協議を行い、第 2 段階を実施します(図 8)。主な作業としては、国別支援戦略・国別業務計画の一環として PPP 実施計画を作成し、政府のプロジェクト組成を支援するTAや融資を準備したり、PPPアドバイザリー業務を行うことなどです。

56. 最初の 2 年間が経過した段階で、ADBのPPP 業務の再検証を行います。2014 ~ 2020年の作業に含まれる可能性があるのは以下の事項です。(i) PPP 支援に振り向ける財源の追加(ii) 業務マニュアルとプロジェクト管理指示書の改訂(必要に応じ)(iii) 様々な関係者・参画者への継続的な研修(iv) 統合されたプロジェクト開発・準備業務とそれに対する支援(v) PPPアドバイザリー・サービスの強化

H. モニタリングと評価57. 目標達成状況は、年毎に評価されます。それを補佐するものとして、年央には方向性評価を行い、PPPプロジェクトに動員された資金額とADBが行った支援の開発効果を基に、ADB の活動が正しい方向に向かっているかを確認します。2012 年以降、ADBは PPPプロジェクトの発掘、構築、交渉、実施等を評価する基準を策定し、それを体系的に監視します。これによりADBは、そのリソースをより有効的に管理し、様々な要求に応えるべく計画を立てることができます。また複雑なPPP 案件の評価の際には、期間、投資額、そして成果を補正することが必要です。案件組成期間の各段階で検証を行い、必要な時間と資源の確保を図ります。ADBの地域局とPPP 実務委員会は共同で成果を評価します。

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25実施計画の実行

図 7 PPP業務計画実行のための主な活動

PPPの態勢を整える(2012~2013年)2012年 2013年

運営ガイドラインと職員向け指示書の作成

PPP取引に関するインセンティブの提示

PPPプロジェクトの特定を支援するCPSプロセスの見直し

ADB職員、途上国関係者および民間セクターの研修ニーズへの対応

CPS = 国別支援戦略

PPPの態勢を整える(2012~2013年)

図 8 PPP業務計画実行のための地域局の主な活動

地域局のPPP計画の実行

環境整備

PPP案件組成の支援

PPP取引アドバイザリー・マンデートの作成

資金調達の組成

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付録 1PPP(官民連携)の特徴

1. PPP(官民連携)。PPPは一般的に、(i)プロジェクトの実施期間、(ii)アセット・ファイナンス、プロジェクト実施期間中の責任と所有権、(iii)成果に基づく収益、(iv)成果およびサービス仕様、(v)民間事業者とのリスク配分、という主要な 5つの要素によって特徴づけられます。各要素については次の通りです。

2. 実施期間。政府と民間事業者の協働は通常は中長期にわたるものであり、期間中に発生する様々な局面に対応できるような契約が必要です。契約期間を通じ継続してモニタリングを行うことにより、民間事業者による長期的で効率のよい施設管理が可能となります。

3. アセット・ファイナンスとプロジェクト実施期間中の責任と所有権。アセット・ファイナンス(プロジェクト・ファイナンス)は、参画者(政府、民間企業)間の複雑な契約を伴います。建設された施設の所有権は、通常契約期間の終了とともに政府側に移転されます。民間事業者は、契約期間中の運営・保守の責任を負うことになるため、プロジェクトのライフサイクルを通じて保守費用(と建設費用)が最適化されるような施設を建設することになります。

4. 成果に基づく収益。建設される施設ではなく、施設を基に提供されるサービスの仕様と提供に重点が置かれます。成功しているPPPプロジェクトでは、運営事業者がそれらを満たすことが、支払いの条件となります。PPPの利点は、単に民間の融資を活用することに留まりません。施設の運営効率を高め、事業リスクを大幅に民間事業者に移転することにあります。

5. 成果およびサービスの仕様。民間事業者と政府が果たすべき役割・責任は異なります。民間事業者は、政府の要求に従い、プロジェクトの様々な業務(設計、建設、修復、操業、保守、資金調達)に参画します。政府は、公益、サービスの質、および価格政策において達成すべき成果を定義します。政府は、必要であれば財政支援(例:アベイラビリティ・ペイメント、サービスの可用性に対して政府から支払われる対価)、最低収益保証、銀行融資の保証、また又はバイアビリティ・ギャップ・ファンディングを提供します。政府からの財政支援が見込まれる場合、実際いはその支援がサービス利用料の補完を目的とするものであっても、契約上はサービスの提供やアベイラビリティ(可用性)に対して資金が調達されたという内容になります。政府は、プロジェクトの業績評価をその契約期間にわたって行い、民間事業者が施設を長期的に効率よく運営・管理していることを確認する必要があります。従って政府もまた、プロジェクトの効果や偶発債務の順守状況のモニタリングに責任を負うことになります。

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6. 民間事業者とのリスク配分。従来の建設契約、ターンキー契約で政府が負担していたリスクは、政府と民間事業者と間で分担されます。ただし民間事業者が、必ずしもPPPプロジェクトにおける、すべての、或いは大半のリスクを負担するわけではありません。

7. リスクを評価、管理、対処できる官民両セクターの参画者の能力に応じ、案件ごとにリスク配分を決定します。その際に用いられる最も重要な原則は、各リスクを分解、定量化して、そのリスクを最も効率的に管理できる参画者に割り当てることです。これまでに世界各地で PPP が実施されたことのあるセクターには以下が含まれます。(i) エネルギー発電、送電、配電、および街灯(ii) 通信 (iii) 運輸(港湾、道路・高速道路、橋、鉄道、空港、大量輸送施設などの都市交通施設、

バス停および駐車場)(iv) 上下水道処理、海水淡水化施設(v) ごみ処理施設、液体廃棄物処理場(vi) 病院、保健サービス(vii) 学校、教育施設、高等教育機関(viii) 観光インフラ、会合・会議・展示場(ix) 政府庁舎、低所得者向け住宅、スタジアム、刑務所、伝票発行、情報通信技術

システム(x) 刑務所、矯正サービス

PPP(官民連携)の特徴

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付録 2PPP 案件の組成プロセス

1. PPP の優れた策定プロセスは、案件の成功に不可欠です。このプロセスにはいくつかの重要なステップが含まれています。それらを確固たるものとし、プロジェクトへの融資を可能とするには、多くの分野にわたる専門的な技能が必要です。本業務計画の第3の柱(プロジェクト組成)において、ADBの支援効果を向上する上で、このプロセスは重要な一部となります(付録 6、 p.61)。

A. プロジェクト組成段階2. 案件組成の主眼は、その案件が商業ベースで実現されるよう立案、準備することです。プロジェクトは、適切に立案、構成されなければなりません。政府が審査・承認を行えるように、また民間事業者がプロジェクトの実行可能性と投資収益を判断できるよう、適切に構築される必要があります。また事業パートナー選定にあたっては、厳正で透明性の高い選定根拠に基づかなくてはなりません。

3. 政府の視点。政府は、プロジェクトが、最低コストで建設・操業・保守が可能で、かつバリュー・フォー・マネーを提供する確認を求めます。また政府は、プロジェクトが利用料金、環境・社会的基準、法例、および設計と性能において、政府の基準に合致していることを確認します。更に、政府の支援が求められる場合には、その支援の必要性と形式が明確に示されていなければなりません。

4. 商業的視点。商業的な懸念事項と要件としては、以下が含まれます。(i) プロジェクトのコンセプトと事業範囲が明確であること(ii) 収益フローがしっかりしていること(iii) 特に投資家に好感されるプロジェクト構成 (iv) 想定されるプロジェクトのリスク(v) 政府による支援の範囲(vi) 厳密かつ網羅的な契約の枠組み

5. インフラ・プロジェクトを商業(民間)ベースで実施するには、政府と民間事業者双方の課題を克服する必要があります。案件の策定に際して準備される検討書類には、これらの課題の検討結果と提案、そしてその根拠が含まれます。検討書類には、プロジェクトの事前実行可能性調査、民間融資の可能性に関する評価、環境・社会的評価、契約の枠組み、入札手続き、リスク管理計画が含まれます。

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29PPP案件の組成プロセス

1. プロジェクト実行可能性および融資可能性に関する詳細な評価6. 案件組成の一環として実施される、実行可能性および融資可能性の評価(投資対効果検討書)には、以下が含まれます。(i) 実行可能性評価。民間事業者の参画を促すには、プロジェクトへの投資資金が回

収できることを示さなければなりません。プロジェクトの実行可能性を、民間事業者の行う審査に十分に耐えうるよう明確に示す必要があります。

(ii) プロジェクト費用試算。具体的には次の項目が含まれます。(a) 工事完成時までの物価スライド(b) 建設期間中の利息(c) 初期運転資金(d) その他資金コスト(剰余金、または銀行団が要求する財務条項を満たすに必要

な引当金を含む)(iii) 収益性。事業会社のキャッシュフローを予測するにあたり、利用者がそのサービ

スに料金を支払う用意があることを証明する必要があります。実行可能性調査は、キャッシュフローに基づき、プロジェクトの実行可能性を明らかにするものです。プロジェクトの財務的な実行可能性は、ディスカウント・キャッシュフロー分析手法を用いて分析します。コストの低い代替資金源を利用できるよう法制を整備する必要があります。立案に際しては、政府の財政的な制約、プロジェクトのキャッシュフロー、そして資本市場からの資金調達を考慮に入れる必要があります。

(iv) 資金調達戦略。操業キャッシュフローに基づき、最適な資金調達を検討します。検討すべき課題は、負債・資本比率、負債の借入期間、最適な資本構成、適切な負債のコスト、建設資金の借り入れ、および余剰資金の再投資の必要性です。支出は、プロジェクトの資金調達能力と返済要件を考慮して調整します。

(v) 信用構造。信用構造は、建設・操業期間を通したリスク管理の枠組みを提供します。建設リスクには、建設そのもののリスクと財務リスクが含まれます。建設そのもののリスクとは、技術および物流面でのリスクを指します。財務リスクでは、プロジェクトの建設予算と土地収用費用を考慮します。財務リスクは、主にプロジェクトの流動性要件と資金の借り入れが合致するかです。運営事業者に関するリスクとは、需要の創出能力、運営能力、債務返済能力に関係しています。

(vi) 資産価値の保全。投資資金の回収は、利用者が支払う料金、または政府の支払いによります。このためプロジェクト設備は、適切なサービスの供給が可能なように、契約で定められた水準に達していなければなりません。また、(a) 利用料金と提供されるサービスが見合っている場合は、利用者はサービスを利

用して料金を払いますが、(b) 設備が満足な状態ではない、サービスの提供が一定しない、またサービスの

質が契約水準に達しない場合には、利用料金は支払われません。(vii) リスク管理。設備劣化のリスクを低減する唯一の方法は、納期を守り、質の高い

工事を手掛けると定評のある請負会社を選ぶことです。調達においては、現地業者優遇とは一線を画し、最も実力のある業者を透明性の高い方法で選びます。国際的な投資家と開発金融機関の参画するプロジェクト・ファイナンスの組成において、透明性の高い入札・調達プロセスは欠かせません。

(viii) 適時実行。商業採算性を確保するには、プロジェクトを遅滞なく実施する必要があります。建設期間中の金利やインフレによってコストが増大すると、プロジェクトは

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30 付録2

実行不能となります。適時実行を確実にするためには以下が重要です。(a) 設計・エンジニアリング業務が準備され、建設計画が練りあげられ、建設に速

やかに着手できる(b) プロジェクトの資金が、その優先順位に従って全額調達可能である(c) 完工に対するリスクを低減し、またプロジェクトを十分に融資可能なものとする

ため、契約がターンキー形式で締結されている

7. このように、実行可能性および融資可能性評価(「投資対効果検討書」)は、融資の可能性を判断する十分かつ詳細な根拠、政府による支援がある場合はその内容と規模、およびプロジェクト実行の技術的基盤を提示します。これに基づき、詳細な資金と資源の動員を策定します。

2. 環境・社会的評価8. インフラ・プロジェクトでは、環境・社会への影響がほぼ例外なく重要な問題となります。あらゆるセクター(例:有料道路)において、環境・社会に対する影響は、建設、失職者の再就職、環境・社会的な影響への対処など、一時的な費用となる傾向があります。水供給システムでは、液体廃棄物処理、下水、排水は継続的に測定されます。プロジェクト組成の早い段階で、建設費用、操業・保守費用を検討します。さもなければプロジェクトはその設計要因を満たせず、その実行が不可能となります。

9. プロジェクト組成の際、環境・社会的評価は、実行可能性の評価と並行して実施されるのが通常です。環境・社会的評価は、プロジェクトの環境・社会的影響を見極め、その影響を最小限に抑える適切な方策を立てることに重点が置かれ、その方策はプロジェクト契約書に盛り込まれます。また、関係者の環境・社会的影響の削減義務を、法的拘束力のある契約として盛り込みます。

3. 契約の枠組み10. PPP プロジェクトの根幹は、プロジェクトの資金調達と実施を可能にする契約です。契約に基づき、PPPプロジェクトは、キャッシュフローから資金を回収するプロジェクト・ファイナンスにより、資金を調達します。契約文書は、商業ベースでインフラ・プロジェクトを実施するPPP 方式を支えるものです。法的拘束力のある契約を通じて、参加者間でリスクが適切に振り分けられます。

11. 例えば民間銀行が、道路プロジェクトの実行可能性を評価する際には、予想交通量を推測します。実際の交通量が、予想された交通量を下回った場合、プロジェクトの融資者には、契約書の財務条項を除いて、資金を回収する手段は存在しません。道路は転売価格がゼロであるため、そうした資産を担保として保有することは意味がありません。

12. 契約の枠組みは、プロジェクトの投資家と融資者が負担するリスクのレベルを見極め、その結果として融資期間や条件を決定します。

13. プロジェクト策定時に、以下を含む契約の枠組みを記載した合意書を作成します。すなわち、プロジェクト実行案、プロジェクト参加者間の責任分担、契約不履行が発生した

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31PPP案件の組成プロセス

場合の対応策、プロジェクトリスクの割当、環境・社会的影響の評価。

14. この契約の枠組みは、できるだけ民間事業者を選定する前に完成させることが大事です。さもなければ参画者の責任分担が未定で、プロジェクトは未確定部分を残すことになり、後々不要な遅延が生じる恐れがあります。

15. 法制度の詳細検討を終え、プロジェクトの実施体制が整った後、プロジェクト参画者との協議に基づき、契約書類をドラフトします。

4. 調達プロセス16. 透明性の欠如は、PPPプロジェクトの成功を阻害する主な要因の一つです。そのため政府および国際開発金融機関は、競争入札に基づく透明度の高い調達手続きを、融資条件とする例が増えています。従って、案件組成における主要な活動の一つは、政府や国際開発金融機関が求める要件を満足させる実施方法を策定することです。

17. 通常、実施プロセスの詳細報告は、以下の三つの成果を含みます。(i) 調達手続きに関わる詳細な指示書。これには、開発・運営事業者の選定方法に関

する詳細な指示書が含まれます。具体的には、事前資格審査通知、提案書の評価方法、奨励されるべき交渉方法、調達プロセスの各段階における入札者への詳細な指示書です。

(ii) 入札文書。これには、全ての関連書類、適格とされた入札参加者に、詳細な提案書の提出を促す明確な手続き、および事業者の評価と選定手続きが含まれます。

(iii) 評価。提出された提案を評価するための詳細な指示書が含まれます。

18. 民間事業者が、プロジェクトを開発段階から実施段階に進めるのに必要となる詳細な実施手順が、文書の重要な部分を占めます。

5. リスク管理計画19. インフラ・プロジェクトは、プロジェクト・サイクルを通して様々なリスクにさらされるため、それらのリスクを低減する適切な措置が必要とされます。一般的な民間インフラ・プロジェクト、PPPプロジェクトにおけるリスク低減は、以下を通じて行われます。(i) 契約(ii) 保険(iii) 投資家―銀行―ステークホルダーの多様化

20. リスクを特定・評価する作業には、リスクの特定、評価、配分、管理と削減を含みます。プロジェクトのライフサイクルを通して特定されたリスクに対処するため、プロジェクト毎のリスク管理計画が必要です。リスクには通常、以下が含まれます。(i) 政治的リスク (ii) 商業的リスク (iii) 技術的リスク(iv) 環境・社会的リスク (v) 資金調達リスク、為替リスク

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32 付録2

(vi) 法的枠組みに関するリスク (vii) 不可抗力リスク(viii) その他、労務管理等のリスク

B. PPPプロジェクトにおけるリスクへの対応21. いかなる案件取引においても、完全にリスクを排除することは不可能です。契約にかかわる全ての参画者は、リスクを負担します。しかし以下の手法により、リスクを容認可能な水準に抑え管理することが可能です。(i) リスクの特定。プロジェクトのコスト、性能、タイミング、採算性を損なう事象や行

動は何か(例:インフレ率が予想を大幅に上回る場合、プロジェクトはどうなるのか?) (ii) リスクの重大性を見極める。リスクが現実となった場合の具体的なコスト増、遅延、

性能低下はどの程度か? (iii) リスクの配分。リスクは、それを最もよく管理できる参画者によって管理される必要

があります。管理することができない参加者にリスクを負担させた場合、そのコストが増大し、プロジェクトのリスクが更に増加します。

(iv) リスクの低減。プロジェクトに悪影響を及ぼす事象が発生する可能性を低減するには何をすべきかを決定します(例:洪水による損害を軽減するため、すべての構造物を100 年に 1度の洪水による上昇水位より高い所に建てる)。

(v) リスクの費用化。リスク対応にかかるコストを見極めます(例:洪水保険の費用)。

22. リスクは、プロジェクト策定と実施の様々な段階(例:開発、建設、操業)に存在します。PPPプロジェクトの組成・実施過程は複雑で、高い技能を要求し、長期間を要することから、財政的なコミットメントが必要となります。プロジェクトがどの段階にあるかに関係なく、リスクを理解し、適切に配分する古典的な手法は、第 29 節で後述する手法、および図A2に示すリスク管理サイクルの通りです。

23. リスクの特定。この段階では、プロジェクトに関する全てのリスクを特定します。プロジェクトは民間投資を呼び込むために構築されるものであることから、政府の影響を受ける可能性のある全ての問題を特定することは重要です。具体的には以下のような問題が含まれます。 (i) プロジェクト実施の遅延 (ii) 契約の解約・取り消し (iii) 法律改正 (iv) 新たな課税 (v) 代替施設の建設 (vi) 政府の支援が必要な新たな事象 (vii) インフラ・リスク(例:政府による土地提供、または土地使用・通行許可)

24. 投資家・銀行から見た PPPプロジェクトの主要リスクには、以下のようなものがあります。 (i) プロジェクトに直接関わるリスク (ii) 規制・制度に関するリスク (iii) マクロ経済のリスク (iv) 国有化および収用(政治的リスク)

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33PPP案件の組成プロセス

(v) プロジェクトの遅延 (vi) コスト超過 (vii) 需要予測リスク(例:利用量や利用料金) (viii) 性能リスク(例:技術やプロセス) (ix) 操業・保守リスク (x) 不可抗力(例:地震、洪水、その他自然災害) (xi) 政治的・社会的リスク(xii) 外国為替リスク

25. リスク評価。特定されたリスクが実現する可能性と、実現した場合の影響の大きさを見極めます。

26. リスク配分。リスクに対処する責任を、いかに参画者に割り当てるか、またはリスク分担を含む手法を用いて、リスク対処への同意を取り付けます。

27. リスクの定量化。リスクの発生する可能性、重要性、および結果に基づき、リスクの金銭的価値を計算します(表 A2)。

28. リスクの低減。リスクが発生する可能性と、その影響を低減するよう努めます。時には、プロジェクトの一部の「リスクを取り除く」ことで、最適なリスク移転が可能になることがあります(ただし、ある程度を超えて(または下回るレベルで)行うと、リスク移転による効率化のメリットを失う)。

図 A2 リスク管理サイクル

リスクの特定

モニタリングとレビュー

リスク評価

リスク配分リスクの低減

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34 付録2

29. リスクを効率よく配分、低減することは、インフラ・プロジェクトへの融資の実行を可能とします。また参画者には、建設、操業に際して適切な動機を与えます。一部リスクの配分が適切に行われなかったとしても、プロジェクトの資金調達は可能かもしれません。しかしその結果、費用と、最終的にはユニタリー・ペイメント(=サービス提供に対する対価を、建設、保守等などに分類せず、一体のものとして支払う総額)や利用料金が上昇します。これは、投資家や銀行が、より大きいリスクを負担する見返りとして、より多くの報酬を期待するためです。

30. 監視と評価。既に特定されたリスクと、プロジェクトの進捗、環境変化に伴い発生するリスクを監視、評価します。新たなリスクは、評価、配分、低減、監視します。これは、プロジェクトの実施期間を通じて続けられます。

C. PPPプロジェクトに関するリスクの類型31. PPP プロジェクトの主たる財務リスク源は以下の通りです。 (i)例えば政府、顧客、経営者、請負会社または事故が原因で、建設費用が予算を超過する、(ii)金利・為替の変動、プロジェクトの遅延により資金調達コストが上昇する、(iii)(例えば交通量および交通単位量当たりの支払額の変化により)収益が予想を下回る。

32. 他のリスクほど重大ではないものの、財務リスクもまた操業、保守、管理コストと関係します。経済的観点から見た主なリスクは、コスト超過、遅延、および実際の需要が当初の推定を下回る場合などです。

33. 通常、人はリスクを回避したり、リスクを低減・排除するために、保険という形を通じて何らかの対価を支払う用意があります。異なった投資が負担するリスクの違いが、それぞれが期待する最低利益率が異なる理由です。

表 A2 リスク管理マトリックス

リスクの種類 具体的リスク責任者

民間セクター 政府現場リスク設計、建設およびコミッションスポンサーおよび資金調達操業市場ネットワークおよびインターフェース業界との関係および社会的混乱政策および政府の方針不可抗力資産の所有権

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35PPP案件の組成プロセス

34. 民間企業のインフラ投資が持続的な成功を収めるために、政府はプロジェクトの想定リスクと、実際のリスクの両方を低減する必要があります。効率的なリスク管理は、最低限のコストで最もよくリスクを管理できる参画者が、リスクを低減すべきという原則に基づきます。表 A2は、通常のリスク管理マトリックス(一部リスクのみ)の構造を示しています。

D. 契約の枠組み決定と契約に関する合意書の締結 35. 契約書は、PPPプロジェクトの根幹を成します。契約の草案はプロジェクト組成段階で作成されますが、他の契約書は、運営事業者の選定後に合意されます。

36. プロジェクトの主要要件は、プロジェクトの組成時に特定され、その後、契約書のドラフトに盛り込まれます。入札の際に、契約草案の写しが各応札業者に交付され、応札者は入札段階で、契約書草案に変更(あれば)を申し入れるよう求められます。このように応札業者は、統一された契約書に基づき正式提案を行います。

37. 入札業者の選定を完了するに当たり、最終的な交渉・合意に基づく契約書を策定、締結します。銀行融資の実行前 1に締結しなければならない契約書は以下の通りです。 (i) コンセッション(事業権利)合意書(ii) 株主合意書(iii) 入札合意書(iv) 建設契約 (v) 操業・保守契約

E. 運営事業者の選定 38. プロジェクトを実施する適切な事業者の選定は、PPPプロジェクトのプロセスにおける極めて重要な活動です。適切な民間セクターの運営事業者を選ぶことによって以下が決定します。(i) プロジェクトの技術力 (ii) プロジェクトに対する投資家、銀行からの信頼度(特に建設期間中)

39. 運営事業者の選定基準は、評価基準も含めて、プロジェクト策定時に決定します。従って、実施報告書に記載されている詳細なプロセスが、運営事業者の選定基準となります。

40. 運営事業者の選定に際して、透明性の高い国際競争入札が行われるかどうかは、金融機関、国際開発金融機関、その他の機関投資家にとり重要な参画要件です。運営事業者の選定や財・サービスの調達が透明性の高い方法で行われない場合には、通常、融資の実行がより困難となります。運営事業者が選定されると、プロジェクト開発段階で作成されたすべてのプロジェクト文書は、評価の枠組みも含めて各応札業者に交付されます。競争入札ではない方法で事業者が既に選定されている場合には、プロジェクトに必要な財およびサービスの調達は、透明性の高い入札によって実施する必要があります。

1 プロジェクトの契約と資金調達がすべて完了し、これらの合意書が締結され、融資の前提条件が満たされた時。

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36 付録2

F. 融資の実行 41. よく構築され、商業採算性のあるインフラ・プロジェクトは、以下の特徴を備えたものとなります。 (i) 金融機関による融資の可能性(ii) 環境・社会的基準の順守(iii) 各参画者に責任を割り当てる包括的な契約の枠組み(iv) 最も効率よくプロジェクトを実施する透明度の高い調達 (v) 詳細かつ包括的な経営的視点

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付録 3バリュー・フォー・マネーおよび政府事業との比較

A.PPPプロジェクトにおけるバリュー・フォー・マネー 1. PPP プロジェクトのバリュー・フォー・マネー(VFM)は、民間企業による関与の効率性、有効性および経済性、そしてリスクの適切な配分を通じて実現されます。VFMの評価は、PPP評価プロセスの極めて重要な要素です。途上国政府はVFMの実現可能性に基づき、PPP 手法による調達の是非を判断し、また PPP 手法にてプロジェクトを実施する場合には、適切なPPP 方式を決定します。

2. VFM分析において、プロジェクトの(基本的な)需要リスクを誰が負担するのかが鍵になります。ADBが支援する初期のPPPプロジェクトの多くは、有料道路、空港、港湾といった経済インフラ・プロジェクトでした。これらのプロジェクトは市場の需要に基づいているので、そのプロジェクトによって提供される施設やサービスに対価を支払うかをエンドユーザーが判断します。プロジェクトの採算性改善のために、政府の財源が直接利用されることはほとんどありません。このため、これらのプロジェクトの多くでは、バリュー・テストは行われてきませんでした。また多くの政府が、財源不足のために、これらのプロジェクトの実施を民間企業に依存しています。民間資金を利用してプロジェクトが実現しないと、建設できるインフラは限られるためです。国内投資家(実際はその銀行)には、これらプロジェクトの需要リスクを負担することは難しくないかもしれません。しかし、国際的なスポンサーとそのプロジェクトにファイナンスする銀行にとって、これは重要なリスクと言えます。

3. 途上国政府が社会インフラ・プロジェクト(例:教育、保健)に PPPの活用を模索すると、需要リスクを負担することが多くなります。例えば、学校サービスへの需要は将来の人口動態だけでなく、教育の発展度合いによっても変わります。同様に将来の医療サービスへの需要は、治療方法の進化に影響され、矯正施設(刑務所等)への需要も、政府の刑事政策の影響を受けます。投資家と銀行は、こうした需要リスクを管理できないため、このリスクを負担しません。従って政府は、バリュー・テストによってプロジェクトがその実施期間を通して、VFMを提供することを確認する必要があります。

4. 競争入札プロセスが完了するまでは、PPP 手法を採用することによってVFMがどのように改善するか最終評価を下すことができません。PPPプロジェクトが VFMを実現できるかを評価するには以下の2点が不可欠です。(i) プロジェクトが VFMを実現する要因を特定する (ii) それら要因に関して、民間事業者が VFMを実現する可能性を分析する

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5. VFM分析により、PPP が VFMを実現できる可能性だけでなく、以下についても判断することができます。 (i) 最も適切なPPP 方式(ii) 最適なPPPの範囲(iii) VFMの実現を調達プロセス完了時点で評価する基準

B. PPPプロジェクトにおけるバリュー・フォー・マネーの決定要因 6. プロジェクトのVFM実現は、プロジェクトの種類、セクター、実施国により異なります。多くのプロジェクトに共通する要因もありますし、途上国政府の戦略目標と関係していることもあります。一般的にPPPは、以下によりVFMを向上させます。 (i) プロジェクト・ライフサイクルを通してのコスト削減(ii) リスク配分の改善(iii) プロジェクトの合理的かつ効率的な実施(iv) サービスの品質向上 (v) 新たな収益源の開拓

7. 政府と国際開発金融機関は、政府、民間事業者、または PPPのうち、どれがそのプロジェクトの実現に最適か分析・判断する必要があります。この作業により政府は、プロジェクトの経済的利益をより明確にできます。またその政策決定を、ステークホルダーにより良く理解させることができます。

8. VFM分析は、プロジェクトの実施方式(政府事業、民間事業、PPP)に関わらず、提供される財やサービス、そしてそのコストに基づいて正確に行われます。分析では、そのプロジェクトの策定・建設・操業・長期保守を含むライフサイクルにわたる総コストと、各選択肢における対価の支払いに重点を置きます。政府が行う事業では、サービスの提供にかかる費用、プロジェクト開発費用、また運営費用が、一般予算の中に埋もれて明確でない場合が多く見られます。客観的なVFM分析では、これらのコストを分析・分解して、各プロジェクトに割り当てる必要があります。

9. 更に、政府事業との比較をより合理的に行うには、費用やサービスの提供に伴うリスクを考慮しなければなりません。政治的に難しい場合もありますが、政府事業の率直な実績が必要です。また分析を難しくするのは、政府が「楽観バイアス」に囚われがちであるという事実です。これは、計画の実施結果について楽観的になり過ぎる傾向を指します。政府の「楽観バイアス」は、プロジェクト費用を過小に見積もったり、非現実的なプロジェクト実行スケジュールを立案したり、自らの実行能力や管理能力を過大評価していたり、プロジェクトの範囲や目的が野心的過ぎたりといった形で顕れます。これらは、政府の過去の実績と比較すれば明らかになります。

10. VFM分析では、政府が過去の実績を分析するか、政府実施事業のパフォーマンスをPPPプロジェクトのパフォーマンスに引き上げるために必要な追加投資額を算出します。政府事業に関して揃える情報 2 には予算・積算、コスト超過、運営実績(コスト・質の両面)、保守予算と費用(どの程度が予算化され、またどの程度保守が実施されたかを評価)といった客観的な過去のデータに加えて、PPPプロジェクトの評価に用いる基準を含めま

付録3

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39バリュー・フォー・マネーおよび政府事業との比較

す。このような詳細な分析は、有効な比較を行う上で重要です。

C. PPP 業務計画と途上国における潜在的なバリュー・フォー・マネーの評価 11. 多くの途上国政府は、長年に亘り民間企業とエンジニアリング- 調達 - 建設契約を締結した貴重な経験を持っています。また途上国の多くは、数多くのインフラ・プロジェクトの実施に当たり、開発機関から資金援助を受けています。通常、それらのプロジェクト情報は、開発機関と共有され、途上国政府において文書化、保存されています。

12. 民間企業が VFMを提供できるか否かは、当該プロジェクトや、最近の類似プロジェクトでの実績を比較して検討されます。それらの情報は、机上調査、政府の技術チームや民間事業者(候補)との協議を通じて入手することができます。とは言え、全ての途上国においてそうした情報を入手できるわけではありません。それら情報を入手するのが容易ではない場合、プロジェクトを担当する地域局は、類似の例から基準となりそうな情報の収集に努める必要があります。

13. アドバイザリー・チーム(=ADBスタッフ、プロジェクト実施機関、PPPアドバイザーから構成)が、民間企業が VFMを実現できるか評価する際に利用できる情報源は、先行事例の検証と市場調査です。

14. 先行事例の検証。先行事例を検証する際の課題点は、プロジェクトごとに異なります。一般的には、民間事業者の類似プロジェクトにおける経験と見解を見極めることです。特に注目すべきは、以下の点です。(i) プロジェクトの範囲(施設の建設とサービスの提供とのバランスを含む) (ii) 効率の良いリスク配分の可能性(特に需要リスクと残余価値リスク) (iii) 利用料金、他の収益、政府の財政負担減につながる他の施設活用法 (iv) 当該プロジェクトの建設中および運用中のVFM実現の可能性(類似プロジェクトで

予想、もしくは達成されたVFMから類推)

15. PPP の実施初期には、途上国分析に必要な情報が足りず、他国の類似プロジェクトの情報を利用する必要があるかもしれません。しかし将来のPPPプロジェクトに生かせるよう、実施したプロジェクトのデータベースを構築、維持、監理することは重要です。

16. 市場調査。ADB の地域局と途上国政府は、次の事項を認識する必要があります。PPPプロジェクトの実現には、(i)投資家、民間事業者(出資者を含む)が、(a)プロジェクトの採算性と途上国政府の支払い能力と信用リスク、そして(b)政策、法制度の安定と確実性に満足しており、かつ(ii)民間事業者は、要求されるサービスの提供が可能で、リスクを負担できること、が必須です。従って、プロジェクトの基本方針が決まり、大まかな運営仕様が定まった段階で、民間企業や銀行の反応を市場調査を通じて見極めます。

17. 民間企業の関心度は、市場調査、または先行プロジェクト(同じ国で実施されたプロジェ

2 多くの途上国政府は、土木工事や主要インフラの建設を、国際開発金融機関や二国間支援により実施しているので、こうした情報を収集することはそれほど困難ではない。

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40 付録3

クトや、モデルとなるような類似プロジェクト)から予測することができます。しかしプロジェクトが、大規模、革新的、また複雑な場合には、個別の市場調査を実施する必要があります。この市場調査では、プロジェクト特有の問題に焦点を当てます。民間事業者のプロジェクト実施能力、民間企業による経済規模の実現、および専門知識の有無等の要素を考慮します。最も重要な要素は、民間事業者の関心度合いと、プロジェクト実施能力があげられます。

18. また市場調査では、銀行とも協議を行い、その懸念するリスクを理解する必要があります。(新たな大規模設備投資を必要とする)PPPプロジェクトは、リミテッド・リコース・ファイナンスに基づき、資金調達が行われます。このため、プロジェクトに対する銀行の関心を見極めることは大変重要です。従来の政府プロジェクトと異なり、返済順位の高い融資者(銀行)が、プロジェクトへの貸付金利と財務指標をどう設定するかは、PPPプロジェクトのVFM実現の可否に大きく影響します。

19. 効率良くまた効果的な市場調査を行うために、プロジェクトの趣意書やインフォメーション・メモランダムを、民間事業者に提供します。これには、プロジェクトの想定範囲と規模、サービス内容、想定される契約条件、リスク配分案を記載します。

20. 政府プロジェクトとPPPプロジェクトの比較を例示するため、表 A3に組成・策定プロセスと調達プロセスの比較を記載しています。

21. 一部の政府プロジェクトでは、ターンキー方式による設計 - 建設モデル、または長期間保証や運営を採用することがあります。政府プロジェクトでは、設計、建設、操業、保守責任等を組み合わせる(かつ、それに伴いリスクを配分する)ことは稀です。

図 A3 政府との比較からバリュー・フォー・マネーまで:主要ステップ

政府との比較(PSC) 官民連携(PPP)

バリュー・フォー・マネー

民間セクターに移転されるリスク

競争中立性

基本コスト

政府に留まるリスク

サービスに対する支払いコスト(収益フロー)

政府に留まるリスク

租税や課徴金、保険など、民間セクターが支払う可能性のあるすべての要素を盛り込む

実際のサービス提供コスト。政府が見積る、資産の建築と保守に必要な支出

常に政府が負担するリスク。通常、政府でも民間セクターの供給業者でもコストは変わらない

}

出典:『官民連携:インフラ提供とプロジェクト・ファイナンスにおける世界的革命(Public-Private Partnership: The Worldwide Revolution in Infrastructure Provision and Project Finance)』(D. GrimseyおよびM. K. Lewis、2004年、マサチューセッツ州ノーサンプトン:エルガー社)。

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41バリュー・フォー・マネーおよび政府事業との比較

ボックス A3 政府との比較モデルの作成(例)政府との比較政府との比較(PSC)により、政府が同じ成果と同じサービス水準を求められたと仮定して、同じプロジェクトを建設・操業した場合のコストを導き出すことができます。PSC の算出には以下が求められます。 (i) 成果を達成できるプロジェクト設計案(ii) 建設費用の見積り(iii) 資金調達コストの見積り、および (iv) プロジェクトの全期間を通じた運営費用の見積り

例えば、政府が以下の前提に基づいて新規プロジェクトの建設を希望しているとします。(i) 見積建設費用:100ドル(ii) 当初の運営費用:30.00ドル。20 年間にわたり年率 5%の割合で上昇(iii) 政府の資本コスト:10%(iv) プロジェクト全期間の現在価値の割引率:10%(v) 運営費用:363.40ドル(vi) プロジェクト費用の現在価値総額(割引率 10%):100+363.4=463.40ドル(PSC)

リスク調整後ベースでの政府との比較リスク調整後ベースでの政府との比較(RA-PSC)は、政府がプロジェクトを実行する上でリスクを負う可能性と、リスクが及ぼす影響の大きさを評価するものです。このリスクは、政府が過去に行ったプロジェクトについての事実データ分析に基づき、以下が含まれます。 (i) 建設費用のコスト超過リスク(ii) プロジェクトの完成が遅れるリスク(iii) 運営費用が予想を上回るリスク、および (iv) 政府にとってのその他の関連リスク

例えば、経験を積んだ政府のステークホルダーとPPPアドバイザー(例:土木技師、公的予算担当者、調達専門官、法務専門官、消費者組合)のワークショップでは、このプロジェクトは以下の主な 3つのリスクに直面すると推定されます。(i) 建設費用のコスト超過(推定 60.00ドル。発生の可能性:66%。よってリスクのコスト:60.00

ドルの 66%)= 39.60ドル (ii) 完成の遅れ(推定 2 年間。コストへの影響 20.00ドル。発生の可能性:75%。よってリスク

のコスト:20.00ドルの 75%)= 15.00ドル(iii) 技術および運営の不備(20 年間。推定コスト15.00ドル。発生の可能性:33%。よってリス

クのコスト:20× [15.00ドルの 33%])= 99.00ドル

過去に行われた類似プロジェクトの公的調達に基づき、プロジェクト・チームは、リスクの大きさとして最も可能性が高いのは以下のとおりと推定します。(i) PSC = 463.40ドル (ii) 政府のリスクのコスト(39.60ドル + 15.00ドル + 99.00ドル)= 153.60ドル (iii) RA-PSC 総額(463. 40ドル + 153.60ドル)= 617.00ドル

民間セクターとの比較 PPP の参照モデル(入札前)とPPPを落札した入札(入札後)には、以下が必要です。 (i) 民間セクターが建設リスク、完成リスクおよび運営リスク(政府より低い)を管理できる可能

性と、リスクの大きさについての推定 (ii)民間融資の推定コスト(政府より高い)

PPPの推定 VFM 総額は以下のとおりです。(i) 政府機関が提示するアフォーダビリティ(例:予算制限によって決定)= 650.00ドル (ii) PPPを落札した入札:初めは年間 40.00ドル。20 年間にわたり年率 5%の割合で上昇。 (iii) 落札した入札の正味現在価値(割引率 10%)= 484.50ドル (iv) バリュー・フォー・マネー = RA-PSC(617.00ドル)― PPP 落札した入札(484.50ドル)

= 132.50ドル(RA-PSC の約 21%)

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42 付録3

22. VFM分析において重要なことは、異なった選択肢(政府プロジェクトか民間プロジェクトか)を評価する際に用いる割引率です。通常は、ディスカウント・キャッシュフロー分析を用いて各々のキャッシュフローを比較します。比較される政府プロジェクトのキャッシュフロー特性とPPPプロジェクトのそれとは異なるため、ディスカウント・キャッシュフロー分析により比較します。各セクターのリスクと機会資本コストは同じではありません。政府プロジェクトの分析に、政府のソブリン債務コストまたは類似の金利を適用する場合があります。この場合、政府が当該プロジェクトに資金を配分する機会コストや、プロジェクトリスクを見逃すことになります。このためリスク調整後の指標が必要となります。VFM分析の結果は割引率に大きく左右されるため、往々にして議論の対象となります。何に基づいて割引率を決定したにせよ、その理由と決定要因は明確にされる必要があります。

23. VFMの検証を通じて PPPの環境整備、民間企業育成における課題等を特定することも可能です。建設、操業、資金調達のコストが高いのは、民間事業者、銀行が課すリスクプレミアムが大きいことを示しています。PPPプロジェクト実施にあたって、政府が明確、確実性、客観性、透明性の高いプロセスを提示できた場合、VFMが改善する可能性があります。

24. 最適と考えられたプロジェクトの範囲に基づいたVFM分析で、アフォーダビリティが課題となることがあります。しかし、プロジェクトを変更・調整したり、提供されるサービスを縮小・拡大することによってVFMを改善するには綿密な検証が必要です。このようにVFM分析は、異なるプロジェクトの範囲 , 参画者間のリスク配分、提供するサービスの質を仮定して行います。

25. 政策決定者と開発金融機関は、異なった政策によって提供されるサービスの真のコストを知る必要があり、そのためにVFM分析は重要な方法です。またVFM分析は、政府のリスクや財政負担がより適切となるようプロジェクトを修正するうえでも有効です。但し、コストの正確な推測が難しく、リスクの判断は主観的なため、VFM分析には限界があることを理解する必要があります。

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43バリュー・フォー・マネーおよび政府事業との比較表 A3 政府・モデルおよび官民連携モデルによるプロジェクト開発の比較

政府モデル

共通要素

PPPモデル

活動

備考

活動

備考

計画立案

管轄省庁との協議に基づく計画立

案コミッション

リソース配分

計画立案コミッションの担当

当局

計画立案

管轄省庁との協議による計画立案コミッション

プロジェクトの特定

管轄省庁が担当

プロジェクトの特定

管轄省庁(PPP部門があればPPP部門との協議

による)

承認

予算を背景に、計画に基づいて管

轄省庁が承認

比較的大規模なプロジェクトでは政

府当局(例:内閣)の承認が必要な

場合も

管轄省庁が政府当局(例:内閣、上級PPP委員

会)の同意を得て承認

設計契約の締結

複雑なプロジェクトのサービスに関

する入札

または

それほど複雑でないプロジェクトに

ついてはセクターの管轄省庁が実

施 一時的な資本予算から資金を調達

国内設計基準

開発前

(i) 資産の仕様

(ii) 運営の仕様

(iii) パフォーマンス

仕様

(iv) 商業的な仕様

(v) ステークホルダ

ーとの協議

PPP部門および/または管轄省庁が政府の財務

担当部門と協議

政府は、政府内または外部コンサルタントの協力

を得て、予備設計ならびに環境/社会調査を実

施する場合がある

年次予算もしくは特別に設計された開発基金、ま

たは双方を資金源とする

政府はPPPの機会を活用して、設計基準または

パフォーマンス基準を一般的な政府のプロジェク

トに適用される水準より高い水準まで引き上げる

場合がある

次ページに続く

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44 付録3

表A3(続き)

政府モデル

共通要素

PPPモデル

活動

備考

活動

備考

土地収用

管轄省庁が(政府の関連部門と協

議の上)土地を取得

一時的な資本予算から資金を調達

土地規制当局(国、州、省ま

たは地方自治体)

土地収用

政府は、開発サイトを事前に特定したり、プロジ

ェクトのための土地権を割り当てる場合がある。

土地は政府が取得するか、民間セクターの元に残

すか、または双方の組み合わせ

政府が資金を提供する(コストは民間セクターか

ら回収)か、または民間セクターが資金を提供

承認

管轄省庁が、プロジェクトに対する

認可と承認の取得とそうした承認に

必要な調査の実施に責任を負う

管轄省庁(例:環境庁)の規

制当局

承認

民間セクターが、プロジェクトの建設、資金調達

および操業に関する認可と承認の取得に責任を

負う政府は、一部の承認(例:土地)について責任の

一部を負う場合がある

建設契約の締結

多くの場合、政府は注文内容の変

更またはコストの変動に責任を負う

コストが増加した場合、特殊・特別

予算の承認が必要な場合もある

入札(プロジェクト全

体)

すべての仕様と要件を1つのパッケージにまとめ

操業契約の締結

運営に関する責任は、部分的・全面

的に民間の請負会社に割り当てら

れるまたは

管轄の官庁部門の下、政府が運営

いずれの場合も(年次承認に基づ

いて)割り当てられた年間運営予算

から資金を調達

落札業者との契約締結一連の契約に基づいて必要とされるすべてのコン

セッション、権利およびパフォーマンスに関する交

渉 (金額の大小に関わらず)落札業者が操業・保

守の全コストに責任を負い、追加報酬が支払わ

れることはない

契約の全期間に対する支払いは事前に決定され

ており、多くの場合、特定の経済的要因に応じた

調整も事前に決定されている

次ページに続く

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45バリュー・フォー・マネーおよび政府事業との比較

表A3(続き)

政府モデル

共通要素

PPPモデル

活動

備考

活動

備考

保守契約の締結

保守に関する責任は部分的・全面

的に民間の請負会社に割り当てら

れるまたは

管轄の官庁部門の下、政府が運営

保守は運営予算項目に分類され

る。多くの場合、(予算規則を理由

として)主要な保守のために長期的

資金を提供する要件または能力は

ない。

予算は毎年承認を受ける必要があ

設計―建築―資金調

達―操業フォーマット

(または類似の構造)

に基づくプロジェクト

の実行

受注した入札業者が資産の設計、建築、資金調

達およびサービス運営に責任を負う。資産の質、

完成については一定のパフォーマンスが求められ

る 民間セクターの関係者が保守コストと建設スケジ

ュールに責任を負い、操業期間中は利用者から

徴収した、または契約に基づき政府から支払われ

たサービス料金のみから運営費用を賄う

監督と規制

管轄省庁が、仕様の決定と予算(プ

ロジェクト期間中の改定に従う)に

従ったプロジェクト実行に責任を負

う 利用料金は立法機関の承認した方

針に従って管理される

場合により、利用料金に関する規制

委員会の承認が必要

(アフォーダビリティを目的と

した)利用料金に対する補助

金の予算化、および操業・保

守コストをカバーする管轄省

庁を支援するための租税の予

算化および/または政府財源

の配分

監視と規制

政府は、契約の順守状況を確認するため監督と

モニタリングを行う

(プロジェクト契約で事前に定められていない場

合)料金は規制当局による承認が必要

PPP = 官民連携

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46

付録 4プロジェクト開発基金(PDF)

1. 民間企業が参画するプロジェクトが失敗する主な原因に、プロジェクトの準備不足があげらます。プロジェクトが、適切な契約やリスクの配分、収益性、政府による支援、プロジェクトの実行可能性や環境・社会的影響の評価、資源(例:水、風、太陽光、ガス埋蔵量)の評価、適切な用地の確保を伴うことなく競争入札にかけられることが、あまりに多いと言えます。多くの場合、こうした状況は、政府が専門のコンサルティング会社やアドバイザーを雇用して必要な準備作業を行う費用を惜しんだり、時間がかかり過ぎると考えたことが原因です。案件の組成や準備には先行費用が発生します。重要な公益サービスの提供や設備の完成が遅れたり、実現しなかった場合の損害、民間事業者が課すリスクプレミアム(プロジェクトが準備不足でリスクが高いと判断)と比べれば、この先行費用は補って余りあることが過去の事例から判明しています。

2. プロジェクト準備に必要な先行費用を確保するため、プロジェクト開発・準備を目的とする開発資金プール、すなわちプロジェクト開発融資基金・機構(PDF)を設立することが増えています。PDFは、プロジェクトの準備に要する先行費用の一部もしくは全額を、競争入札まで、場合によっては融資が実行されるまで賄うことにあります。PDFの資金は、助成金または融資(もしくはその組み合わせ)という形で提供される場合があります(入札が不調に終わった場合は、融資を助成金に転換)。通常、PDFは「回転資金」として設立され、プロジェクト開発・準備のために PDF が提供した資金は、プロジェクトの落札業者から回収されます。

3. PDFは、資金提供のみが目的ではありません。PDFを効率的に運用することで、支援されたプロジェクトが成功する可能性が高まり、PDFに提供された初期投下資金(シード・ファンディング)の減衰を防いでその持続性を高める必要があります。そのためには、PDF 資金の使途、返済方法等の条件を設定する必要があります。PDF 資金の目的性を高めることは、官民双方がプロジェクトに参画する際に安心感をもたらします。

4. PDFは、複雑なインフラやサービス・プロジェクトが適切に計画・開発されることを支援します。また、民間企業や銀行の参画が、可能なプロジェクトの実現に重要な役割を果たします。

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47

A. 構造設計 5. PDFを構築する際は、以下の要素を考慮する必要があります。(i) 規模(ii) 資金の供出元(iii) 目的(iv) 支援対象(v) リスクの配分方法(vi) 資金の管理・運用方法とその評価

1. 規模 6. プロジェクト開発・準備の予算は、プロジェクトの総予算と比較すれば、さほど大きな額ではありません。しかしこの予算とその配分(使途)は、恐らくプロジェクトを準備する作業の中でも最も重要なものと言えるでしょう。プロジェクト開発費用は通常、平均してプロジェクト総費用の約 5%に相当します。規模の大きいプロジェクトでは、プロジェクトの総費用の1~ 2%まで低下し、規模の小さいプロジェクトでは 7~10%となる場合もあります。特に複雑なプロジェクトでは、開発費用が上昇する場合があります。プロジェクト・ファイナンスが広く用いられるPPPプロジェクトでは、プロジェクトの総費用額に関わらず、法務や案件のストラクチャリングにかかる費用はほぼ一貫しており、1件当たりの開発費用の総額は、100 万ドル~ 500 万ドルが相場です。ただし、複雑なプロジェクトでは 1,000万ドルを上回る場合もあります。PDFの資金提供の対象に土地収用を含めた場合には、この数字ははるかに大きくなる可能性があります。従って年間数十件のプロジェクト案件を計画、準備するには、年間約1億ドルの資金をPDFに投入する必要があります。

7. PDFヘの初期拠出金と年間拠出金。PDFに拠出する資金額(初期、およびその後)を算定するには、PDFの立ち上げ期間と、その期間中に PDF が支援するプロジェクトの成功確率を考慮する必要があります。これらは当初必要な資金額、追加で必要な資金額、また PDFに拠出される資金の性質に大きな影響を及ぼします。第一に、成功確率の高いプロジェクトを開発・準備するには時間を要します。また、PDF が支援したプロジェクトが必ず成功するとは限りません。よって、プロジェクト開発・準備を支える制度が未だ新しい場合には、プロジェクトの失敗する確率は高く、知識・経験が蓄積されるにつれ成功確率が高まるような学習曲線を想定します。PDF が提供した資金を、プロジェクトの落札事業者から回収するとしても、プロジェクトの開発・準備から融資の実行まで 1~4 年を要するため、PDFへの拠出金の算定には、資金を回収するまでの期間を考慮に入れる必要があります。PDF が落札業者から回収する費用には、失敗に帰したプロジェクトに PDF が提供した費用も含める必要があります。さもなければプロジェクト成功率が100%を下回った場合には、毎年 PDFに追加で資金を拠出する必要があります。ボックスA4.1は、PDFの運営と資金調達のしくみを表しています。

8. PDFの規模を検討するには、PPP の制度、その性格と成熟度を考慮します。当初はPDFの規模を小さいものにおさえたり、特定セクターに重点を置く(例:少数の管轄省庁と協力する)ことが望ましいと言えます。そうすることで PPP 制度の運用に習熟し、PDF 活用に必要な能力・経験を培う時間を確保することができるためです。

プロジェクト開発基金(PDF)

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48 付録4

ボックス A4.1 プロジェクト開発基金(PDF)設立の経済的側面

前提:(i) プロジェクト1件当たりの平均開発費用:300万ドル (ii) プロジェクト1件当たりの平均開発期間:3年間 (iii) プロジェクト開発は時間と共に加速し、年間5件からスタートしてピーク時には年間30件

まで増加 (iv) 成功率の学習曲線は、成功率50%からスタートし、時間と共に95%まで上昇(v) 成功した案件に、その案件開発に関する直接費用を負担させる(お金の時間的価値や、

開発に失敗したプロジェクトをカバーするためのリスク配分のマークアップは考慮しない)

結果:(i) 最初の2年間は全額拠出が必要 (ii) 学習曲線効果のため、当初7年間の正味回収額は少ない (iii) PDFの自己資本調達率は、5年目に50%、10年目に75%に達する (iv) 上記前提に基づくと、最初の10年間の年間平均拠出額は600万~700万ドル。この所要

額は、毎年新たに追加されるプロジェクトの数によって大きく左右される

表 A4.1 基金の運営に関する前提

基金設立からの年数

基金への投入額(ドル)

基金のリターン(ドル)

基金の正味規模(ドル)

開始されたプロジェクト数

成功率(%)

実現した件数

1 5,000 ‒ 5,000 5 0 0 2 7,000 ‒ 7,000 7 0 0 3 6,500 2,500 9,000 9 50 3 4 7,150 3,850 11,000 11 55 4 5 6,600 5,400 12,000 12 60 5 6 5,850 7,150 13,000 13 65 7 7 6,600 8,400 15,000 15 70 8 8 8,250 9,750 18,000 18 75 10 9 8,000 12,000 20,000 20 80 1210 6,700 15,300 22,000 22 85 1511 6,000 18,000 24,000 24 90 1812 5,980 20,020 26,000 26 91 2013 5,920 22,080 28,000 28 92 2214 5,820 24,180 30,000 30 93 2415 3,680 26,320 30,000 30 94 2616 1,500 28,500 30,000 30 95 2917 1,500 28,500 30,000 30 95 2918 1,500 28,500 30,000 30 95 2919 1,500 28,500 30,000 30 95 2920 1,500 28,500 30,000 30 95 29

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49プロジェクト開発基金(PDF)

2. 基金の構成 9. PDFに資金を拠出するのは、開発金融機関、政府、民間企業など様々です。PDFは、助成金、融資、また政府の拠出金で構成されます。

10. プロジェクトの策定・実施は高いリスクを伴い、一定の割合で失敗に終わるプロジェクトが出ます。従って、PDFへの拠出金をすべて融資(負債)で賄うことはできません。政府が出資者となってリスクを負担する、または融資の一部を補助金に転換できるといった選択肢を残すことにより、プロジェクトが失敗し投下した費用が回収できない場合に備える必要があります。

11. 政府が資金を拠出することは、PDFの負担するリスクを調整・分担し、PDFの提供する資金の有効活用に貢献します。政府は、PDFの資金が有効に活用されるよう環境整備を図り、PDFの支援するプロジェクトが成功し、提供された資金が回収されるよう努めます。開発援助機関は技術支援を提供して、政策変更リスクを低減する環境整備を支えます。

3. 政府または民間セクターによる支援 12. PDFは、政府・民間事業者によるプロジェクト開発・準備に利用することができます。PDFの資金は、国際競争入札や、融資が実行されるまでに必要なプロジェクト策定に利用できます。政府に、PPP 案件組成に習熟した組織、またはそれを所管とする省庁が不在な場合、PDFは民間企業が行うプロジェクト組成も支援します。PDFの形態に関わら

図 A4.1 プロジェクトの成功率または失敗率

35

30

25

20

15

10

5

0

100

90

80

70

60

50

40

30

20

10

0

プロジェクトの数

成功率

%

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20

失敗したプロジェクト 成功したプロジェクト 成功率(右軸)

出典:アジア開発銀行

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50 付録4

図 A4.2 プロジェクト開発の年間キャッシュフロー

PDF = プロジェクト開発基金出典:アジア開発銀行

35,000

30,000

25,000

20,000

15,000

10,000

5,000

0

PDFの年間キャッシュフロー(単位:1,000ドル)

50

45

40

35

30

25

20

15

10

5

0

プロジェクト件数

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20

PDFへの年間拠出額 PDF資金の回収/PDFの自己資本調達その年に開始された件数(右軸)

成功したプロジェクト(右軸)

図 A4.3 プロジェクト開発基金の自己資本調達率

PDF = プロジェクト開発基金出典:アジア開発銀行

100

90

80

70

60

50

40

30

20

10

0

PDFの資金源に占める割合

プロジェクト件数

50

45

40

35

30

25

20

15

10

5

01 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20

%

PDFへの年間拠出額 PDF資金の回収/PDFの自己資本調達その年に開始された件数(右軸)

成功したプロジェクト(右軸)

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51プロジェクト開発基金(PDF)

ず、PDFの支援の受益者となるには一定の資格を要求され、それら受益者とは、資金利用と返済条件を記した合意書を作成することが望まれます。民間企業が PDFの資金を利用するには、その企業も資金を負担して(例:最低でもPDFの提供資金と同額を拠出)、PDFとともにリスクを分担します。同様に、政府が PDFの資金提供を受ける場合にも、単なる政府予算の補填に留まらないよう、業績評価基準やPDFの明確な利用・管理計画を提出します。政府が PDF 資金を利用する場合には、民間企業の場合と比較して簡単と思われますが、プロジェクトの組成に関わる課題は同様です。

13. 政府、民間企業のどちらが PDF 資金の受益者となる場合でも、プロジェクトの成功確率を高めるには、必要な経験と能力、それを支援する業務手続きとシステムを兼備していなければなりません(表 A4.2)。

14. PDFに資金・ノウハウを拠出する民間企業は、政府に対し、政策・制度整備を通して案件組成を支援することを期待します。民間企業によるプロジェクトの組成は、本来政府が果たすべき役割を政府に代わって行うものではありません。例えば、土地収用を民間企業に委ねた場合、プロジェクトの完成が遅れたり、土地取得費用が大幅に増加し、その増加分が利用者や政府に転嫁される恐れがあります。プロジェクト遅延やコスト増の結果、PDFの資金が枯渇し、プロジェクトそのものが失敗に終わる可能性も高まります。PDFの受益者が政府、民間企業のどちらかに関係なく、プロジェクトの開発・準備作業においては、官と民の責任分担を明確にする必要があります。

B. 運用設計の原則 15. PDFの資本構成には、PDFが負担する高いリスクを考慮する必要があります。特にモラル・ハザードを回避するため、PDFの構成には慎重さが求められます。また PDFの資金は、どのようなプロジェクトにも提供されるわけではありません。プロジェクト案は、適切な原則に基づき、セクター開発計画に沿ったものでなければなりません。PDF 資金の利用申請者は、厳密な事前審査を通過する必要があります。申請時には少なくとも事前実行可能性調査は完了しており、できれば収益予測を含む事業計画書が準備されていることが望まれます。

表 A4.2 プロジェクト開発基金の利用資格政府 民間セクター

プロジェクト開発機関の(他の政府部門からの)独立性

目的のために資金源を特定し、確実なものにする能力

開発を実施および/または管理する上で必要なスキル

パフォーマンスと資金の用途に関する説明責任プロジェクトの開発、資金調達、実行に関する明確な手法を有していること(例:民間入札業者へのエグジット、建築―操業―移転または建築―操業―所有モデル)

PDFの配分と並んで開発機関自身の予算をリスクにさらすこと

顧客を熟知しており、および/またはプロジェクト参加者の健全性を確認していること

管理能力、開発能力各参加者の過去の実績合弁会社契約書、定款開発を行う企業の自己資本(その証拠も含む)プロジェクトに関する債券発行枠プロジェクトの事業計画書PDFの配分と並んでリスクにさらされる自己資本の額

PDF = プロジェクト開発基金

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52 付録4

16. PDFを構築するにあたって、PDF が提供する資金の利用資格、PDFの業務範囲、利用条件を記した契約書を準備する必要があります。

1. 利用資格 17. プロジェクトの策定・実施には高いリスクが伴うことから、PDFの支援が見込まれるプロジェクトや関係者は、事前資格審査をクリアする必要があります。事前資格審査項目には以下が含まれます。(i) プロジェクトの必要性(すなわち、プロジェクトの目的と政府の開発計画が合致して

いるか) (ii) プロジェクトは PPP 方式による建設・運営に適しているか(すなわち、官と民者の

役割が明確であり、収益モデルがはっきりしていること) (iii) 以下を含む、プロジェクトの基本情報 (a) 資金調達、建設および運営案を説明した予備事業計画書 (b) 建設地、使用される技術、コスト、想定される環境・社会的課題を含む事前実

行可能性調査 (iv) 事業内容や過去の実績を含んだ、PDFを利用しようとする企業の資格 (v) PDF が課す要求や条件(例:監査権、現地視察)への同意 (vi) 案件組成に要されるアドバイザーの業務範囲と予算

18. プロジェクト開発の初期段階では、プロジェクトに関して多くの不明点があることは避けられません。ただし、PDFの利用条件は、明確で透明性が高く、客観的に適用されるべきです。

2. 支援の範囲 19. PDFの支援は、プロジェクト策定に必要な調査、ストラクチャリングおよび予備的な法律業務、プロジェクトの実行可能性(財政・技術・経済・社会的側面から)の評価に用いられます。また透明度の高い国際競争入札を経て、プロジェクトを実施する準備をします。プロジェクトの開発・準備には様々な作業がありますが、PDFの資金は、プロジェクトの開発・準備に直接関係する作業にのみ利用されます。PDF が提供する資金の用途には、以下が含まれます。 (i) 技術的な実行可能性の調査 (ii) 交通量調査、資源調査(例:水、風、太陽光、ガス埋蔵量)、需要予想、市場予測、

システムのモデル化、収益予想などの特別調査 (iii) 予備エンジニアリング、設計および技術仕様の決定 (iv) 技術、商業運営仕様の決定 (v) 財務モデリングを含むプロジェクトの財務構成、民間銀行、二国間援助機関、

国際開発金融機関との予備協議、政府による財政支援の必要性とその構成 (vi) 調査および区画記録の取得(vii) (入札のための)技術仕様の決定 (viii) 資源配分計画(例:水使用権、燃料供給) (ix) 環境調査 (x) 住民移転・復旧調査 (xi) 土地調査・区画記録の取得

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53プロジェクト開発基金(PDF)

(xii) 社会的影響を軽減する計画とその費用 (xiii) エンジニアリング、調達、建設にかかる費用の計算、資金調達と予備費 (xiv) 経済評価、バリュー・フォー・マネーの評価 (xv) 特別目的事業体(SPV)の設立 (xvi) 許可、承認及び認可(可能な範囲で) (xvii) プロジェクトが必要とする土地、土地使用権の取得(xviii) 契約書の作成(政府のPPP 法制度に基づいたものが作成されていない場合)

20. PDF 業務の所掌範囲と方針は予め策定しておく必要があります。その業務には、参画を検討している企業や政府、国民に、そのコストやメリットを十分に理解させることも含まれます。PDFの支援で策定されるのは、プロジェクトの予備設計と運営基準、プロジェクト実施の前提条件、参画者間の責任分担とリスク配分、収益計画、利用料金の設定基準などです。プロジェクト開発・準備に必要な作業は、セクター、プロジェクトごとに異なります。しかしPDF が支援する基本的な作業内容等は、予め特定します。こうすることでプロジェクトが失敗に終わった場合でも、資金使途が不明瞭といった批判を回避できます。

21. PDFは、その資金の使途項目に上限を設けたり、資金が使用されないよう除外項目を設けます。使途が制限、または禁止される項目例としては以下の通りです。 (i) 開発事業者の給与とオーバーヘッドコスト (ii) 開発事業者の輸送コスト (iii) 一般的な法定費用(例:会社登記、資本化、ビザ) (iv) 合弁会社契約および株主合意に関する費用(v) 開発事業者の資金調達コスト(特に株主資本)(vi) 開発事業者の支払うべき租税公課 (vii) 過度なコンサルタントの利用(例:弁護士に書類をレビューさせるのではなく、草案

を作成させる)

22. プロジェクトは、すべて異なります。特にプロジェクトが新しく、難しい課題の克服を目的にしている場合には、違いは顕著です。その場合、PDF 資金の管理者は、その案件をを例外として取り扱います。また、PDFのの資金と資金によって賄われる費用には制限があるため、プロジェクト組成を意図する事業体(官民とも)も資金を提供します。これにより、それら事業体も、プロジェクト策定に伴うリスクを分担します。

23. プロジェクトの開発・準備作業を行う上で、作業範囲、質、期間そして費用は重要な要因です。これらのバランスには、注意を払う必要があります。資格を持たないコンサルタントが実施した技術的実行可能性調査は、たとえそれが網羅的でも、投資家を説得し、プロジェクトの資金調達を実現する上ではあまり役に立ちません。国際経験が豊富なコンサルティング会社であっても、その請け負った業務範囲(または予算)が限定的であれば、その評価・報告は、プロジェクトの問題点を十分に検討したものとはならない可能性があります。従って PDF 設立にあたり、PDF が支援する作業とその成果物がどのようにプロジェクトの実現に貢献するかを、現実的に判断することが求められます。

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54 付録4

3. 利用条件 24. PDFの資金は、契約書に基づいて供与される融資と同じです。プロジェクト融資が実行されれば、PDF が提供した資金は回収されます。プロジェクト失敗のリスクをプロジェクト開発事業者とPDF が分担するということは、コストの分担とも捉えられます。

25. PDF が資金を提供するにあたり、作成される合意書に盛り込まれるべき点は以下の事項です。(i) 作業の期限(ii) 費用・支出の証明(iii) 費用の制限及び除外項目(iv) 監査権(v) 定期的な報告と実績評価(vi) インティグリティ・チェックと継続的な法令順守(vii) リスク負担に関する合意(viii) PDF が提供した資金が助成金に転換される際の条件(ix) 契約終了の権利(x) 紛争条項 (xi) PDF が提供した資金を、成功したプロジェクトから回収する際の要件

26. これらの点は、法律、商業、技術的な観点から実務的に検討される必要があります。

C. 立案に関する課題 27. PDFの立案は、必ずしも容易ではありません。それには、政治・経済状況、政策環境、そしてプロジェクトが直面する課題を考慮する必要があります。PDFの立案には、以下のような課題が含まれます。(i) 例えば 9 割程度完成しており、最終的に完成する可能性の高いプロジェクトである

にも関わらず、予算が枯渇した場合はどうするか? (ii) プロジェクトの失敗をどの段階で判断するのか?資金の拠出者は、サンク(埋没)コ

ストをどう考えるのか?失敗に終わったプロジェクトに投じた資金はどうなるのか?(iii) 投下した資金を、どのように回収するのか?資金コスト、その時間的価値、また

PDFのポートフォリオ・リスクについて負担を求めるのか? (iv) 資金の管理は、どの機関が行うのか(政府、独立した機関、開発金融機関なのか)? (v) PDF が設立される国において、資金はどの様な形で提供するべきか?PDF が政府

内に設立されるような場合、会計上の取り扱いは?適用される会計方針は、PDFを運用する特別目的会社の設立方法に影響を及ぼすか?

28. これらの課題に対する回答は、PDF 参画者との協議を通じて、ケースバイケースで決定されます。それに影響を与える要因は、PDFの総資金額、市場の状況、PDFに資金を提供する機関のリスク許容度などです。

29. PDFの運営を目的とする会社を設立したり、信託口座を利用することで、資金の管理と保全を図ることができます。また資金の出納に関しては、明確な規則と管理が定められます。特定の事業体の予算を実質的に増やす結果となるような形態は、回避する必要があります。

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55プロジェクト開発基金(PDF)

1. 資金の割り当て 30. PDFの資金をどのように振り分けるかは、資金の拠出者と拠出方法に大きく左右されます。開発金融機関の提供する資金は、多くの場合、政府の財務管理要件に従う必要があります。中央政府が一元的に PDF 資金の管理と分配を行う国もあれば、中央省庁(例:財務省)が PDF 資金を受領し、セクターを管轄する省庁に移管して管理させている国もあります。PDF が複数セクターの開発を推進することを目指すのであれば、PDFの立案時に、各セクター毎の割り当てを考慮する必要があります。例え資金が中央で管理されても、セクター毎の割り当ては必要です。管轄する省庁が、その割り当てを明確にするよう要求することもあります。ただしPPP 案件の準備状況は、セクターごとに大きく異なる可能性もあります。PDF 資金の利用資格・条件は、PDFに資金を拠出する機関とPDFを運営する機関との間で合意する必要があります。

31. 政府予算を実質的に補うことになるようなしくみには、注意が必要です。そのような場合は、コントロールが困難で、資金回収も複雑となります。政府の会計規則では、回収された資金は収益と分類され、一般的な入金として計上されることが多くあります。特に、政府の財政状態が逼迫、資金管理統制が実施されているような時に、PDF が遅滞なくその資金を回収することが困難となる恐れがあります。一般的に、政府の予算配分に資金の回収を頼るようなPDFの立案は避けるべきです。

2. 独立機関によるプロジェクト開発基金の管理 32. 複雑な政府予算の配分を考えると、独立機関または信託形式によりPDFを運営することが望ましいと言えます。それら機関に、政府及び出資者の代表が参加することは構いませんが、必要な資格と技能を持つ機関が、独立の立場から資金を管理することが理想です。単に財務と会計の専門知識を有している「ファンドマネージャー」では、不十分です。「ファンドマネージャー」は、有望なプロジェクトを発掘できる経験を積んだ専門家のチームを擁する必要があり、これら専門家が、PDFの設計に携わる重要性が軽視されていることがありますが、それは誤りです。信託形式を採用するには、PDF 資金の使途・分配方法を明確かつ客観的にする必要があります。信託の受託者は、自己の裁量や私見を差し挟むことなく、具体的な指示に応じ、また明確な基準に従って行動します。信託構造では、受託者に指示をし、PDFの評価や管理を行う委員会が必要になる場合があり、その場合この委員会は、適切な資格を有し、必要な技能を備えた委員により構成される必要があります。

3. 資金の回収 33. 一般的に、PDFに拠出された資金は「回転」します。つまり、ある案件への融資が実行されると、PDF が提供した資金はプロジェクトの実施体から回収され、新たなプロジェクトに再利用されることを前提としています。しかしPDFの規模と条件を検討するには、以下の実務的な課題を考慮する必要があります。(i) 初期の資本額と資金拠出のタイミング。プロジェクトの開発・準備には、数ヶ月から

数年を要しますが、PDFはその間にも、次の新しいプロジェクトに、継続的に資金を提供する必要があります。よって PDFの資金規模は、資金の回収・再利用が始まるまでに、必要と予想される資金額を賄える規模でなければなりません。よってその額は、予想されるPDFの年間支援額の数倍に達する可能性があります。

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56 付録4

(ii) 失敗に終わったプロジェクトの会計処理。ある割合で、失敗するプロジェクトが発生します。それらのプロジェクトに提供された PDFの資金は、回収が不能になるすので、会計上の処理をする必要があります。この「失われた」資金を助成金に転換して、償却することが求められます。プロジェクトが失敗することも、PDF立案時の予算に織り込む必要もあります。プロジェクトが失敗に終わり回収不能となった資金を補填するために、PDFの持つ資金を補充する必要となる場合があります。

(iii) 成功したプロジェクトからの資金の回収。PDF が成功したプロジェクトから、資金を回収するには多くの方法が考えられますが、々にメリットとデメリットがあります。(a) プロジェクトに提供された PDFの資金と同額を回収(b) PDF が提供した資金に利息を加えて(時間的価値)、回収 (c) PDF がプロジェクトに提供した資金と、他に発生するであろう回収不能資金の

補填分をリスクプレミアムにつけて回収

34. プロジェクトが失敗し、提供した資金が回収不能となるリスクを考慮して、成功したプロジェクトから回収される資金に、リスクプレミアムを上乗せするという考え方がありますが、プロジェクトを策定する立場からは、他の関係者の失敗や、それを管理すべき政府の能力や経験不足に伴う損失を穴埋めさせられることは、不公平なやり方とみなされます。。そのプロジェクトが失敗したのは、事業者に十分なプロジェクト開発・準備の能力が備わっていなかったのかもしれないし、そうした事業者の事前審査を政府が適切に行っていなかったせいかもしれません。また、政府の支援が足りなかったり、途中で政策が変更した(特に新たな政策の導入)、またはプロジェクトのコンセプトそのものが適切ではなかったからかもしれません。従って、PDFに資金を拠出する際には、参画者間で種々検討を行うことは重要です。提供した資金に加えて利息(時間的価値)を回収するというコンセプトも、程度は小さいながら同様の問題を抱えており、特にプロジェクトの開発・準備期間が長期の場合はなおさらです。提供した資金と同額をPDF が回収する方法は、上記に比べれば分かりやすく、参画者の同意を得やすいと言えるでしょう。

35. PDF が提供した資金と同額を回収する方法として、回収不能となった資金を補填するために PDFの資金を定期的に補充する必要があります。この形態のPDFと、追加資金の拠出の影響については、ボックスA4.1で解説しています。

D. 注記 36. PDFは、開発途上国がインフラ整備で直面する深刻な財源不足に対応するものです。しかしPDFは万能薬ではないし、PPPを推進する環境が整っていないのであれば、PDFを導入すべきではないでしょう。インフラ開発において、金融・財政的な支援に力点が置かれる傾向があります。むろん資金の調達は重要ですが、PDFの資金を利用できる能力と技能が不可欠です。それがあって初めて、限られた資金を有効に活用してインフラ開発を成功に導くことができます。

E. アジア・太平洋地域のPDF 37. ボックスA4.2 およびA4.3 は、インドとインドネシアにおけるPDFの実例を紹介しています。

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57プロジェクト開発基金(PDF)

ボックス A4.2 インドにおけるプロジェクト開発基金インド政府は、インド・インフラ・プロジェクト開発基金(IIPDF)を回転資金として設立しました(基本融資額 10 億ルピー)。同基金は、信頼に足る融資可能なPPPプロジェクトの開発支援を目的としており、民間セクターも利用することができます。

政府機関は、IIPDFを利用することで PPPプロジェクト開発費用を賄うことが可能となり、この費用には、実行可能性調査、環境への影響調査、財務ストラクチャリング、法的レビュー、ならびにコンセッション契約書や商業的評価書といったプロジェクト資料の作成費用が含まれます。

IIPDF は助成基金ではありません。通常、政府の実施機関によるプロジェクト開発費用を最大75%まで援助しますが、入札プロセスが完了した時点でプロジェクト開発費用は落札業者から回収されます。

IIPDFはこれまで、プロジェクト費用総額約 4 億 2,500 万ルピーのうち 3 億 2,300 万ルピーを35件のプロジェクトに対し提供してきました。

ボックス A4.3 インドネシアのプロジェクト開発基金インドネシアでは、PPPプロジェクトの準備態勢が十分に整っていないことが、インフラ開発を妨げる最も深刻な原因の1つとなっています。2005 年 1月に開かれたインドネシア・インフラ・サミットでは、90 件超のプロジェクトが民間セクターに紹介されました。しかしこれらのプロジェクトの進捗状況ははかばかくなく、例えば有料道路プロジェクトに対して関心を示し、事前資格審査を申請した投資家はわずか 6 件であり、関心を示した投資家の数が 0 ~ 2ということも珍しくありません。このように投資家の関心が低い主な理由は、PPPプロジェクトの技術的・財政的な面に関する信頼に足る情報、特にプロジェクトに影響を及ぼす様々なリスクについての詳細な分析が不足していることが原因であり、政府がリスク分担支援に消極的なのもそのためです。

最近、ADB が支援する「インフラ改革セクター開発プログラム」a の広い範囲に改善された法律上、規制上、制度上の枠組みが導入されたことで、インフラ開発に対する民間セクターの効果的な参画を支援する環境が誕生しました。中でも、民間セクターによるインフラ提供への参画に関する大統領規則(Perpres)67/2005 は、規則や規制を明確にすることで、民間投資家にとっての確実性を高めています。とは言え、PPPプロジェクトに関する包括的で信頼できる情報が存在せず、またプロジェクトのリスクが、それを管理するのに最も適した関係者に明確に分配されない限り、民間セクターによる大規模な参画増は、あまり見込めないと予想されます。政府は、「インフラ改革セクター開発ミニ・プログラム」(財務省令 38/2006)に記載されたリスク管理の枠組みによって、リスク配分の問題に対応しています。効果的なリスク配分の妨げともなっている、プロジェクトの準備態勢が不十分という問題に対処するため、インドネシア政府はADBにインフラ・プロジェクト開発ファシリティー(PDF)の設立支援を要請しました。このプロジェクトは以下の 3 つの要素で構成されています。(i) 以下の開発を含む、PPPプロジェクトの準備と取引の実行 (a) PDFの中央政府部分(電力や有料道路、輸送など大型プロジェクトの準備と入札にかか

る資金を提供) (b) PDFの地方政府部分(比較的小規模な地方のインフラ・プロジェクトの準備と入札にか

かる資金を提供) (ii) PDFに対する技術的アドバイザリー・サービスとPPP プロジェクトの推進能力および実行

能力の育成 (iii) PDFに対する調達・管理サービス

a 『総裁から理事会への報告および推奨事項:提案されるプログラム群、ローン、技術協力の無償援助、およびインフラ改革セクター開発プログラムのためのオランダ政府からインドネシア共和国に対する助成金の管理(Report and Recommendation of the President to the Board of Directors: Proposed Program Cluster, Loans, Technical Assistance Grant, and Administration of Grant from the Government of the Netherlands to the Republic of Indonesia for the Infrastructure Reform Sector Development Program)』。(ADB、2006 年、マニラ)。

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58

付録 5国際金融公社(IFC)の 取引アドバイザリー業務

1. 中核業務。PPPに対する取引アドバイザリー業務の一環として、国際金融公社(IFC)は以下の業務を実施しています。(i) 融資可能なプロジェクトの特定 (ii) デュー・ディリジェンスの実施 (iii) プロジェクト契約書の作成 (iv) 最適な財務構造についての助言 (v) 適格投資家の特定 (vi)売却、交渉およびクロージング

2. 報酬体系。報酬体系は以下に基づいています。 (i) コスト回収を前提とした報酬設計(ii) 政府から支払われる報酬 10 ~ 30%プラス、(iii) 成功したプロジェクトの投資家から支払われる成功報酬 70 ~ 90%

3. 多分野にまたがる専門家チームの管理。IFC は、取引アドバイザーとしての役割の一環として、一つのマンデートに携わる多くの専門家やコンサルタントを管理します。IFCは通常、以下を含む、多分野にまたがる専門家とコンサルタントから成るチームを結成します。 (i) プロジェクトの設計と建設費用について助言するエンジニア (ii) クライアント機関と IFC の間で商業的条件が決定された後、プロジェクト契約書を

作成する(通常は国際弁護士事務所の)弁護士および現地の顧問弁護士 (iii) ほとんどの国において大規模建設プロジェクトを進める前に必要とされる環境コンサ

ルタント (iv) 会計および税務に関する問題に対処するための会計士

4. 商業・財務ストラクチャリング。IFC は価値評価を行い、いくつかある取引構造の選択肢のうち、経済的利益率が最も高い選択肢の判定を支援します。価値評価に用いられる最も重要なツールは財務モデルであり、このモデルは経済的なインプットだけでなく、デュー・ディリジェンスの結果も反映します。

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59国際金融公社(IFC)の取引アドバイザリー業務

5. デュー・ディリジェンスの実施。見込み投資家による投資の評価を支援するため、IFCは以下に関するデュー・ディリジェンス資料を作成します。(i) エンジニアリング調査、利用料金の分析、操業と保守の技術仕様などの技術的項目、

契約違反に対する罰則一覧、および契約の監督・モニタリング計画 (ii) コンセッション契約書の条件および規制環境などの法的問題 (iii) 債券または株式証券の発行にかかる資金源、および予想される投資収益などの財

務的な考慮事項

6. プロジェクトの市場調査。IFC は、以下のツールを用いて案件の市場調査を行います。(i) ティーザー(プロジェクトの経済的側面と投資機会について説明した簡単な資料) (ii) インフォメーション・メモランダム、趣意書(コンセッションの内容を詳細に説明した

販促資料) (iii) 主要金融市場の投資家に取引を紹介するロードショー(営業活動) (iv) 事前に選ばれた入札業者向けに電子データルームに掲載されるデュー・ディリジェン

ス資料 (v) 入札業者会議(投資家は現地を視察し、規制当局と面談することが可能)

図 A5 サービスの範囲

出典:国際金融公社

第1段階(プロジェクト開発)

• 戦略を立てる• 承認を得る

• 弁護士、エンジニアその他のアドバイザーを特定・選任する

• 法律、財務、規制、技術に関するデュー・ディリジェンス• 是正措置を実施する

• 規制当局および基本的規制を創設する法令を作成する• プロジェクト契約書を作成する

• 宣伝• データルームの開放• 事前資格審査• バイサイドのデュー・ディリジェンス

• 入札内容を評価する• プロジェクト契約を締結する• 最終交渉

• 契約の締結• 支払い• 正式な移譲

• プロジェクト資金を引き出す• インフラの建築̶このプロセスの終了日を商業運転開始日と呼ぶ

• 利用者がインフラにアクセス• 利用料金によって投資家は債務を返済し、配当金を得る• 継続的保守

• プロジェクトの資金調達のため、スポンサーがローンまたは債券を発行する

第2段階(プロジェクトの完成)

マンデート・ レターの締結

契約アドバイザー

内部デュー・ ディリジェンス 規制の枠組み 入札プロセス

の立ち上げ

落札業者の選択 資金調達 融資の

クロージング 建設 操業

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60

7. 調達プロセスの管理。IFCは以下の 4つのステップを実施します。(i) 入札業者の事前資格審査(関心を示している関係者に対し、以下の提示を求める)(a) プロジェクトを実施するための技術力(b) 資格と過去の実績 (c) プロジェクトを実施するための資金力

(ii) 以下を明記した提案書の要求 (a) 市場、交通量・流などに関するデータ (b) アベイラビリティ、サービス、その他の成果要件 (c) 価格計算式の提案 (d) コンセッション契約書の草案

(iii) 入札期限、入札形式、評価基準の決定 (iv) 望ましい入札業者が選定できたら、最終的な契約締結に向けた第一歩として基本合

意書(LOI)を締結します。

8. 融資のクロージングの支援。IFCは通常、プロジェクト契約の締結に至るまでの交渉プロセスを監督し、すべての前提条件が満たされていることも含め、クロージング時点で法的要件が順守されていることを確認します。

付録5

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61

付録 6ADBの各部門による活動の統合

部門名

計画立案

実行 モニタリング国別支援戦略(CPS)以前

国別支援戦略(CPS)

国別業務計画

地域局

CPSの前段階のPPPに対する提言支援需要、リソースおよび実行可能なソリューションについて相手国と協議PSPまたはPPPのソリューションを優先

C P S 期 間 中 に 当 該 国 のPPP・PSPプロジェクトの体系を整える年間のPPP案件を特定(局内の各セクターおよびPPPのリソースと協議)各部門にリソースを割り当て、その国のニーズを反映させた予算を立てる各セクター部門とPPP専門家が共同でPPP・PSP案件を設計PPP専門家が地域局の部門および駐在員事務所によるプロジェクトのコンセプト作りを支援(構想書の前段階)PDFの設計および相手国との交渉(地域局の部門、駐在員事務所およびPPP専門家との合同協議)

PPPとセクター専門家が案件のコンセプト作り、設計、実行を支援特定プロジェクトにPDF資金を割り当てる予想されるプロジェクトの財務構造を設計し、協調融資、民間部門業務局による参画の必要性を促す先行スキル支援と資金調達も含め、PPPプロジェクトを実行

品質保証と品質管理、初期支援案件が及ぼす影響と結果について相手国と協議案件設計に含まれる結果のモニタリングに積極的に関与プロジェクト完成報告書からのフィードバック

民間部門業務局

民間セクターの投資家や融資者と連携し、最新の市場の要件や選好についてADB地域局や相手国に助言商業的融資者の市場での地位、資本市場について助言し、融資条件に関する情報を提供リスク管理商品の可用性と適用可能性を確認

民間部門業務局の融資および/または商業融資を受けるために地域局が提案したプロジェクトを審査ソブリン融資に頼らずプロジェクト入札業者の支援に参加

出資要件を早い段階で特定し、直接投資と出資を行う商業的な協調融資と、ソブリン/ノンソブリン融資保証の取り決めを行う

PPP案件、商業的な協調融資、および市場全般のパフォーマンスをモニタリング

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62 付録6

部門名

計画立案

実行 モニタリング国別支援戦略(CPS)以前

国別支援戦略(CPS)

国別業務計画

PPP実務委員会

知識管理、ブレインストーミング、最新の開発動向の共有、PPPコンセプトの調整

地域局はPPPコンセプトについてPPP 実務委員会と協議し、プロジェクト設計の改善に関する経験を共有し、早期に支援を表明

プロジェクト案の設計の質、影響、リスクについて入念なピア・レビューを行う

DBのPPP案件とアジア全体のPPP案件のパフォーマンスと実行状況をモニタリング

協調融資業務部

当該国の信用状況に関する開発融資機関や輸出信用機関の意見、融資条件に関する情報を調べる

開発金融機関によるソブリン協調融資の出資要件と出資機会を早期に特定

リスク管理部

PPPの実行に関する当該国のリスク管理能力評価にあたり、必要に応じて地域局を支援

ノンソブリン取引のリスクを評価

ノンソブリン勘定の管理を支援

独立評価局、 特別評価研究

過去のPPP・PSPプロジェクトの成功事例と失敗事例についてパフォーマンスのフィードバックを提供。強化や改善が必要な点については勧告

プロジェクトのコンセプトをチェックし、過去の教訓が一貫して適用されているか確認

ADBのPPPプロジェクト全般をレビューし、プロジェクトの計画立案と銀行リソース開発にフィードバックを提供

法務局

PPPアドバイザリー活動が予定される国の規制・法的環境のレビューに関して地域局を支援途上国においてPPPを実施するうえで求められる規制・法的環境改善について、地域局の改革提案や実行を支援

PPP契約書の作成とレビューに関して地域局のPPPアドバイザリー・チームを支援必要な法的契約書および合意書の作成と締結において地域局や民間部門業務局を支援する

必要に応じ、地域局や民間部門業務局に法的支援を提供

中央業務サービス部

PPP活動をより良く、より堅固なものにするために、当該国における過去の経験を活かして改善余地のある領域を特定

PPPプロジェクトの適切な調達について助言を提供する堅固な調達環境を実現するためプロジェクト・チームに助言する

PPPプロセスに沿って教訓と得られた成果を特定し、計画立案、コンセプト、執行段階へのフィードバックを提供することで成果のモニタリングを支援

地域協力・持続的開発局

当該国においてADB以外の開発金融機関が行ったプロジェクトやPPPモデル、各国でのパフォーマンスに関する情報などを管理することでPPP実務委員会の知識管理を事務局として支援

知識普及知識管理の成果物作成と知識共有のため、各案件へのフィードバックを収集

戦略・政策局

予想される出資要件に関する、実施部門からのフィードバックをチェック

融資商品、量、融資支援の性質に対する需要をモニタリング

当該国の開発目標に照らしてパフォーマンスを評価予算要件を予想

予算・人事・経営システム局

PPP実務委員会や民間部門業務局の支援を得て、プロジェクト・ファイナンスやPPPに必要なスキルを教える研修プログラムを作成PPP実務委員会と協力し、人材育成計画を見直し、適切なスキルを備えた専門的人材の最低必要量を確保

ADB の各部門による活動の統合(続き)

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63

次ページに続く

表 A7.1 PPP業務計画2012~2013年

(2020年までPPP関連のパフォーマンスの進捗をチェックするテンプレート)

主要成果領域と結果

ADBの支援に伴う成果の数値化

結果指標(2011年をベースラインとし、それ以降

の期間の目標)

所管

第1の柱(P1) PPPa 活用に関する国別支援と能力育成に対するADBの提言支援強化

P1:途上国におけるPPPの準備態勢

を整えるための、ADBによる支援

を強化する

注:(i) 能力育成の内容は、当該国に

おけるPPPの準備態勢によって

異なる。ここに記載されている

活動範囲は、4つの柱すべての

ニーズに対応している

(ii) 第一の柱の中間結果は、第二・

第三の柱を達成するためのイ

ンプットとなるものであること

から、最終的なものではないと

認識する必要がある

(iii) 大規模なPPP活動が実施され

る国では、地方自治体やセクタ

ー単位でPPPを準備する例が

増えていく可能性があるが、国

全体としてのカウントは変わら

ない。その場合、ADB地域局

は内部参考用に、個別のモニタ

リング・報告メカニズムを導入

することも可(付録6の表)

P1.1:ADBの提唱、能力育成プログラムやイベン

ト実施。その実績を数値化する例としては以

下の方法がある。

(i) 承認された融資・グラントのうち、能力育

成に関する部分の数と価値(コスト表)

(ii) 国別PPP戦略や業務計画を実行するため

の途上国側イニシアティブに含まれる能力

育成関連項目の件数と予算額

(iii) ADB職員の勤務時間、コンサルタントの人

月、およびそのために割り当てられた価値

P1.1:(ADBの提唱や能力育成によって)PPPの運用

基盤が強化した国の数

目標:2011年末時点の数を基準に、毎年増やしていく

国・地方単位でのセ

クター・イベントは、

地域局が担当

P1.2:地域・地区への提唱、能力育成プログラム、

イベントの実施(実績としてはP1.1と同様)

P1.2:(ADBが支援および能力育成を行ったことによ

り)PPPの準備態勢が改善された国の数

目標:2011年末時点の数を基準に、毎年増やしていく

地方単位での活動・

イベントは、地域局

が担当

複数国を含む地域単

位のイベントは、地

域協力・持続的開発

局が担当

付録7

成果とモニタリングの枠組み

次ページに続く

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64 付録7

次ページに続く

主要成果領域と結果

(ADBの支援による)成果

結果指標(2011年をベースラインとし、それ以降

の期間の目標)

所管

第2の柱 PPP環境整備のための枠組み作りに対するADBの支援強化

P2:途上国におけるPPP環境整備の

枠組み改善

注:(i) 政策上、法律上、規制上、およ

び組織上の枠組みを対象とす

る(ii) 第三・第四の柱の結果実現のイ

ンプットとしてリンクする

(iii) 大規模なPPP活動が実施され

る国では、地方自治体やセクタ

ー単位でPPPの枠組みが増え

ていく可能性があるが、国全体

としてのカウントは変わらない。

その場合、ADB地域局は内部

参考用に個別のモニタリング・

報告メカニズムを採用すること

も可(付録6の表)

P2:対象国が、ほぼADBの助言に沿って、PPPに

関する政策、法律、規制、セクターおよび組織

改革(国レベルまたは国内の半公営企業レベ

ル)を採用。実績を数値化する例としては以下

の方法がある

(i) 当該国においてPPPに関する政策、法令が

新規に導入されたり既存の規定が強化・改

善された場合(セクター別のガイドラインや

ツールキット、基準の文書化、PPP調達実

務など)、その実現に貢献したADBのプロ

ジェクト・TAの件数や金額

(ii) PPPの組織インフラの新設や改良(例:民

間セクターのPPP参画を奨励するPPP部門

やセンターなどの機関の設立)

(iii) ADB職員の勤務時間、コンサルタントとし

ての人月、およびそのために割り当てられ

た価値

注:民間セクターに関しては、ADBが相手国に民

間セクター育成全般の立ち上げや強化(例:全

体的な投資環境、金融/資本市場、会計/与

信基準および健全なコーポレート・ガバナンス

の改善、改良および強化)を目的とした、技術

協力および金融支援を提供することが望まし

いが、ここに盛り込むことは意図していない

P2:ADBの支援によりPPP環境整備の枠組みが改善

した国の増加

目標:2011年末時点の数を基準に、毎年増やしていく

地域局

表 A7.1(続き)

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65

次ページに続く

主要成果領域と結果

(ADBの支援による)成果

結果指標

(2011年を基準に、それ以降の期間の目標)

所管

第3の柱 プロジェクト候補の発掘とプロジェクト策定に対するADBの支援を強化

P3.1:何らかのPPPアプローチb に基

づいて開発されたPPPプロジェク

ト数の増加

P3.1.1:途上国が、開発の優先セクターにおいて、

国別PPPロードマップやADBの国別支援戦

略・業務計画に基づいたPPPプロジェクト実

施に同意。その実績の数値化としては以下の

方法がある。

(i) プロジェクトやセクター別基準に沿っ

た、PPPの候補案件リスト

(ii) 上記リストのうち実現した案件に対する事

前実行可能性の調査実施件数

P3.1.1:ADBの支援を受けてPPPプロジェクトの開発

を行っている国数

目標:2011年末時点の数を基準に、毎年増やしていく

地域局

P3.1.2:策定・実施がスタートした案件

P3.1.2:ADBの支援を受けて開発が始まったPPPプロ

ジェクトの件数

目標:2011年末時点のプロジェクト数を基準として、毎

年増やしていく

地域局

P3.1.3:PPPプロジェクト組成・実施c サイクルに

おいて締結されたPPPプロジェクトの発注。

その実績としては、クライアントとの間に合意

された以下のような事項が挙げられる。

(i) 職員の勤務時間中に提供された技術上の

助言サービス

(ii) コンサルタントの人月・価値という形で提供

されたADBによる金融支援

(iii) プロジェクトの入札評価報告書

P3.1.3.1:ADBの支援を受けて政府のみからの融資に

基づく実行契約を締結したPPPプロジェクトd の数

目標:2011年末時点の数を基準に、毎年増やしていく

注:結果指標P3.2.1とリンク

地域局

注:上記P3.1.2.1およびP3.1.2.2に示された結果指

標の達成に向けた進捗状況は、以下のような

事項の途中段階での成果とみなすこともでき

る。

P3.1.3.1:PPPプロジェクトとしての開発が完成し

たプロジェクトの数

P3.1.3.2:クライアント主導による入札が始まった

プロジェクトの数

P3.1.3.3:クライアントによるPPPプロジェクトとし

ての入札が終了した(が未発注の)プロジェク

トの数

P3.1.3.2:ADBの支援を受けて官民の両セクター、ま

たは民間セクターのみからの融資に基づく実行契

約を締結したPPPプロジェクトe の数

目標:2011年末時点の数を基準に、毎年増やしていく

注:結果指標P3.2.1とリンク

地域局

表 A7.1(続き)

成果とモニタリングの枠組み

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66 付録7

主要成果領域と結果

(ADBの支援による)成果

結果指標

(2011年を基準とした、それ以降の期間の目標)

所管

P3.2:何らかのPPPアプローチに基づ

くPPPプロジェクト開発を目的とし

たADB財源の利用額と回収額が

増加

P3.2:ADB財源の利用、および合意に基づく民

間セクターの入札業者からの資金回収(民間

セクター融資を伴うプロジェクトに適用)、ま

たは政府からの払戻し(公的融資のみを利用

するプロジェクトの場合)に関する合意

P3.2.1:プロジェクト開発を目的とするADBからの資金

提供額(通常資本財源、グラント、その他のリソース

(分割を伴う))

目標:2012年末を基準に、プロジェクト開発融資額を

毎年増やしていく

注:結果指標 P3.2.2およびP4.2とリンク

地域局

P3.2.2:ADBのプロジェクト開発融資のうち、継続的

なプロジェクト開発に用いられた回転資金の金額と

シェア(%)

目標:2012年末を基準に、プロジェクト開発融資の回

転額を毎年増やしていく

地域局

第4の柱 ADBは、PPPプロジェクト候補を対象としたプロジェクト・ファイナンスのレバレッジを支援

P4:当該プロジェクトに対してADBが

融資支援を行うことにより民間投

資を呼び込み、プロジェクトの価

値を向上

注:レバレッジ倍率の推定は、政府と

ADBから融資を受けたプロジェク

トに民間セクターの投資を呼び込

んだ場合のみ行う。ADBの支援し

か受けていない公的融資プロジェ

クトはカウントしない

P4.1:プロジェクトが結果指標P3.1.2.2に基づい

て開発され、ADBから融資を受けたか否か

に関わらず、PPP合意書の締結後、融資のク

ロージングまで到達

P4.1.1:ADBの支援によって創出されたプロジェクトの

価値総額

注:結果指標P4.2とリンク 目標:2011年末を基準とし

て、プロジェクトの価値総増額を毎年増やしていく

地域局、

民間部門業務局

P4.1.2:ADBが提供したプロジェクト・ファイナンス総

額注:結果指標P4.2とリンク

目標:2012年末を基準とした、PPPプロジェクトを対象

とするADB融資の年間利用額

地域局、

民間部門業務局

表 A7.1(続き)

次ページに続く

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67成果とモニタリングの枠組み主要成果領域と結果

ADBの支援による成果

結果指標

(2011年を基準とした、それ以降の期間の目標)

所管

P4.2:ADBの財源を利用したレバレッジ

P4.2:ADBによる融資のレバレッジ倍率

=(ADBによって創出された案件の価値)

(案件開発に対するADBからの融資

  + 案件に対するADBからの融資)

目標:2011年末時点を基準として、ADBからの融資

のレバレッジを毎年高めていく

地域局、

民間部門業務局

a PPPの準備態勢があまり整っておらず、国・セクター内のPPPの可能性が認識されていない途上国に対しては、より多くの支援が必要となる。PPPの準備水準が中~上程度

である国に関しては、4つすべての柱にわたって、国・セクター別ニーズに応じた能力育成が実施可能。

b ADBの本業務計画2012~2020年は、「PPPとは、政府(国、州、省または地方)と民間企業の間の契約上の取り決めを指し、それを通じて政府および民間セクターそれぞれ

のスキル、資産および/または財源を補完的に割り当てることでリスクとリターンを共有し、市民に最適なサービスと価値を提供することを目指す」と定義している。

c PPPの案件リストは、政府または民間セクターのプロジェクトリストとは明確に区別される。本業務計画に記載された、事前実行可能性のスクリーニングは、公的融資のみ、

および公的融資と民間融資の両方を用いたPPPプロジェクトの候補について、その適性を事前チェックする判断基準となる。パフォーマンス・ベースのサービス契約や、リス

ク分担を伴う管理契約といったプロジェクトは公的融資を受けることに適しているが、リース、建築―操業―移転、およびコンセッション方式といった高度なタイプのPPPで

は、そのプロジェクトの融資可能性に基づいて、公的融資と民間融資の両方を合わせることが想定される。

d PPP業務計画に記載のとおり、通常、パフォーマンス・ベースのサービス契約、管理契約またはアフェルマージュ契約(コンセッション契約とは異なり、施設等に関する追加

投資を政府機関が負担し、追加投資分も含め政府機関の所有となる)を指す。

e 本業務計画に記載のとおり、通常、リース、建築―操業―移転、およびコンセッション(およびその派生型)を指す。

表 A7.1(続き)

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68 付録7

表 A7.2 モニタリングと詳細な取り組みの報告に関する指標

主要成果領域と結果

ADBの支援による成果

結果指標

(2011年を基準とした、それ以降の期間の目標)

所管

第1の柱 PPP活用促進に向け、国別支援と能力育成に対するADBの支援を強化

P1:PPPというしくみの利用を推進す

るため、ADBの支援を強化

P1.1:ADBが援助する国・セクターへの政策提

言、または能力育成プログラムやイベントの実

オプションの下位指標P1.1.1~P1.1.2(地域局がP1.1だ

けでは国内の取り組みを十分に説明できないと考える

場合に利用)

P1.1.1:PPPの準備態勢を整えることを目的とした、国

内一部地域を対象としたイベントの件数(ADBが

提唱と能力育成を提供)

P1.1.2:PPPの準備態勢を整えることを目的とした、セ

クターを対象としたイベントの件数(ADBが提唱と

能力育成を提供)

国別、または同地域

の複数国におけるセ

クター別イベントにつ

いては地域局

第2の柱 PPP環境整備のための枠組み作りに対するADBの支援を強化

P2:途上国におけるPPP環境整備の

枠組みの改善

P2:対象国が、ADBの助言に沿ってPPPに関す

る方針、法律、セクター、規制および組織改革

(国レベルまたは国内の半公営企業レベル)

を採用

オプションの下位指標(地域局がP2.1だけでは国内の

取り組みを十分に説明できないと考える場合に利用)

P2.1.1:ADBの支援を受けてPPP環境整備の枠組み

を見直したり、組織としての取り決めを承認・容認

した地域的事業体の数

P2.1.2:ADBの支援を受けてPPP環境整備の枠組み

を見直したり、組織としての取り決めを承認・容認

したセクター別事業体の数

地域局

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Public–Private Partnership Operational Plan 2012–2020

Realizing the Vision for Strategy 2020: The Transformational Role of Public–Private

Partnerships in Asian Development Bank Operations

The Public–Private Partnership Operational Plan 2012–2020 provides a consistent analytical

and operational framework for scaling up public–private partnerships (PPPs) in support of

Strategy 2020. The PPP operations of the Asian Development Bank (ADB) are based on

four pillars: (i) advocacy and capacity development, (ii) enabling environment, (iii) project

development, and (iv) project financing. Applying PPP principles holistically to ADB operations

holds the potential to vastly improve the quality of design and outputs of PPP projects in

support of Strategy 2020 targets. It also provides ADB with an opportunity to significantly

leverage its limited resources in attracting private sector investments and commercial financing

to meet the Asia and Pacific region’s huge and growing infrastructure investment needs.

About the Asian Development Bank

ADB’s vision is an Asia and Pacific region free of poverty. Its mission is to help its developing

member countries reduce poverty and improve the quality of life of their people. Despite

the region’s many successes, it remains home to two-thirds of the world’s poor: 1.8 billion

people who live on less than $2 a day, with 903 million struggling on less than $1.25 a day.

ADB is committed to reducing poverty through inclusive economic growth, environmentally

sustainable growth, and regional integration.

Based in Manila, ADB is owned by 67 members, including 48 from the region. Its main

instruments for helping its developing member countries are policy dialogue, loans, equity

investments, guarantees, grants, and technical assistance.

Printed on recycled paper

Asian Development Bank

6 ADB Avenue, Mandaluyong City

1550 Metro Manila, Philippines

www.adb.org

Printed in the Philippines

ISBN 978-92-9092-850-8

官民連携業務計画 2012 ~ 2020 年 ストラテジー2020 年のビジョンの実現に向けて: アジア開発銀行の業務における官民連携の変革的役割

『官民連携業務計画 2012 ~ 2020 年』は、ストラテジー2020 を支える官民連携(PPP)拡大のための一貫した分析・運営の枠組みを提供します。アジア開発銀行(ADB)のPPP 業務は、(i)提唱と能力育成、(ii)環境整備、(iii)プロジェクト開発、(iv)プロジェクト・ファイナンス、という4つの柱に基づいています。PPPの原則をADBの業務に全体的に適用することで、ストラテジー2020 の掲げる目標を支えるPPPプロジェクトの設計と成果の質を大幅に高められる可能性があります。また、それによりADBは、アジア・太平洋地域の巨大かつ増加の一途をたどるインフラ投資ニーズに応えるために、自身の限られたリソースを大いに活用し、民間セクターによる投資と商業融資を呼び込むことができます。

アジア開発銀行について

ADBは貧困のないアジア・太平洋地域の実現を目指しています。ADBは、開発途上加盟国による貧困の削減と、国民生活の質の改善を支援することを使命としています。経済発展のサクセス・ストーリーが脚光を浴びる一方で、アジア・太平洋地域には、世界の貧困層の 3分の 2 が、また生活費が一日2ドル未満の人々が約18 億人、そのうち9 億 300 万人は一日1.25 ドル未満で暮らしているとされています。ADBは、全ての人々に恩恵が行き渡る(インクルーシブな)経済成長、環境に調和した持続可能な成長、および地域統合の促進を通じて、途上加盟国の貧困削減を支援しています。

ADBはマニラに本部を置き、67の加盟国によって所有され、うち 48カ国はアジア・太平洋地域の国です。開発途上加盟国支援のためにADBが行う支援の具体的手段は、政策対話、融資、出資、保証、無償援助、技術協力などです。

再生紙使用

アジア開発銀行 6 ADB Avenue, Mandaluyong City1550 Metro Manila, Philippines www.adb.org

印刷:フィリピン

ISBN 978-92-9092-850-8

官民連携(PPP)業務計画 2012-2020

ストラテジー2020 のビジョンの実現に向けて:アジア開発銀行の業務における官民連携(PPP)の新たな役割

アジア開発銀行

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