+ All Categories
Home > Documents > Socio express...Socio express 社会科教育法...

Socio express...Socio express 社会科教育法...

Date post: 10-Sep-2020
Category:
Upload: others
View: 0 times
Download: 0 times
Share this document with a friend
2019 年 春号 中学社会通信 エクスプレス Soc i o express 社会科教育法 新学習指導要領で,社会科の “ 問い ” はどう変わるか/藤本将人 授業実践レポート 論理的な説明力を育てるための授業実践/中村洋介 「まちづくりを考える」授業実践/板倉宏明 授業にちょこっとデジタル教科書 近世の日本と世界の学習でのワンポイント活用例/小口眞人 2 6 8 10
Transcript

2019 年 春号中学社会通信

エクスプレスSocio express

社会科教育法 新学習指導要領で,社会科の “問い ”はどう変わるか/藤本将人

授業実践レポート 論理的な説明力を育てるための授業実践/中村洋介

「まちづくりを考える」授業実践/板倉宏明

授業にちょこっとデジタル教科書 近世の日本と世界の学習でのワンポイント活用例/小口眞人

2

6

8

10

2 教育出版 Socio express 2019 年春号

 前者の授業では,ある社会事象について「ど

うなっているのか」「なぜそうなっているの

か」という問いが,また,後者の授業では,「ど

うすべきか」「どうしたいか」という問いが発

せられることが多い。

 「どうなっているのか」「なぜそうなってい

るのか」という問いは,授業で扱う社会事象

の特質について実証性をもって探求しようと

するものであり,「どうすべきか」「どうした

いか」という問いは,社会事象に対する自ら

の判断や行動について納得性をもって探求し

ようとするものである。

 現行の学習指導要領に基づく授業では,実

証性もしくは納得性のどちらかに重きを置い

た授業が行われる傾向が強かったのではない

か。そして,新学習指導要領では,実証性を

踏まえて納得性にまで踏み込んで授業を行う

必要があるのではないか。本稿で伝えたい私

の主張は,このようなものである。

●2.�新学習指導要領はどのような人材の育成を求めているのか

 考察の手始めとして,新学習指導要領の前

文に注目してみよう。前文には,学習指導要

領制定の趣旨や目的,基本原則などが書き記

されている。三段落目に以下のような記述が

あるので,引用する。

「これからの学校には,こうした教育の目

的及び目標(教育基本法第2条のこと,筆

●1.はじめに 私は大学で社会科教員の養成に携わってい

ることもあって,現場の先生方とお話をする

機会に恵まれている。教育実習生の指導のた

めに学校を訪問したり,各種研究会に参加し

たりする中で,先生方が,今,どのようなこ

とに興味や関心をもたれているかを知ること

がある。

 新しい学習指導要領が告示されて二年にな

る。昨今の先生方の興味・関心は新学習指導

要領に掲げられた理念をいかに自身の授業に

実現するか,に集約できると言えそうである。

現に各地の教育現場や研究会では,新学習指

導要領で示されたキーワード(例えば,「見方・

考え方」「主体的・対話的で深い学び」など)

がテーマとして掲げられており,その実現の

ための実践・研究が積み重ねられつつある。

 さて,先生方が作成した指導案を分析した

り,授業後の協議会での議論をうかがったり

すると,先生方の指導理念には大きく二つの

類型が存在していることに気づく。

 一つは,社会に関する知識の正確無比な理

解を大切にした指導であり,これはいわゆる

正解がある問題に解答する授業として展開さ

れるものである。もう一つは,現代社会特有

の問題について学習者なりの答えの創造を求

めた指導であり,いわゆる正解がない問題に

解答する授業として展開されるものである。

●ふじもと まさと/宮崎大学准教授

藤本 将人

社会科教育法

新学習指導要領で,社会科の“問い”はどう変わるか-実証性を求める問いを踏まえてさらに納得性を求める問いへ-

教育出版 Socio express 2019 年春号 3

者補注)の達成を目指しつつ,一人一人の

生徒が,自分のよさや可能性を認識すると

ともに,あらゆる他者を価値のある存在と

して尊重し,多様な人々と協働しながら

様々な社会的変化を乗り越え,豊かな人生

を切り拓き,持続可能な社会の創り手とな

ることができるようにすることが求められ

る。このために必要な教育の在り方を具体

化するのが,各学校において教育の内容等

を組織的かつ計画的に組み立てた教育課程

である。」(下線は筆者による)

 下線に示したように,新学習指導要領は,

全教育課程を通して「持続可能な社会の創り

手」の育成を理念に掲げている。

 先述の通り,各地の教育現場では,理念の

実現に向けた実践・研究がすでに進められて

いるが,社会科授業の具体的な報告が紙面上

で公表された例はまだ少ない。そこで,実際

に生徒たちが教室の中で「あらゆる他者を価

値のある存在として尊重し」「様々な社会的変

化を乗り越え」「持続可能な社会の創り手とな

る」ように「組織的かつ計画的に組み立て」

られた次の授業実践を紹介したい。筆者と宮

崎県の先生方が協働して開発した授業である。

●3.�育成の手立て-組織的かつ計画的に組み立てた問いの構造-

 紹介するのは,宮崎県西米良村立西米良中

学校に勤務されている草刈淳教諭の授業であ

る。2017年7月4~7日,第3学年を対象に,

単元「グローバル化により生まれた人権問題

を考える-社会的ジレンマから見たファスト

ファッション-」を実践した。中学校学習指

導要領〔公民的分野〕「2 内容」における「C

 私たちと政治」「⑴人間の尊重と日本国憲法

の基本的原則」を受けたものである。

 本実践は全3時間を予定した。授業中の問

いを構造的に組み立てることで,組織的かつ

計画的に「社会の創り手」を育成しようとし

たものである。上図は,新学習指導要領の「総

則」で示された「資質・能力」の「三つの柱」

と授業で取り扱う問いの構造を示したもので

ある。

 授業は,大きく3つのパートに分けている。

第1時 ジレンマ問題の把握,常識的見

方・考え方の表出(取り上げる社会事

象はどうなっているのか)

第2時 ジレンマ問題の分析,科学的見

方・考え方の獲得(取り上げる社会事

象はなぜそうなっているのか)

第3時 科学的見方・考え方からの解決

策の考察・構想(解決のためにはどうす

べきか,あなたは実際にどうしたいか)

●4.社会を知るための問い-実証性の探求-① どうなっているのか-事実を知る- 本単元では,世界を席巻しているファスト

ファッションの流行を取り上げ,一見消費者

資質・能力 問い 特質

知識及び技能  

思考力,判断力,表現力等

学びに 向かう力,人間性等

どうなっているのか 事実を知る 社会を知る

実証性の探求なぜそうなっているのか 仕組みを知る

どうすべきか 論理的に判断する 社会に生きる

納得性の探求どうしたいか 実質的に判断する

●⬆ 図 授業で取り扱う問いの構造

4 教育出版 Socio express 2019 年春号

して建物の老朽化が進んでいたという事実を

知る。建物に亀裂が入るほど老朽化していた

にも関わらず,工場主は労働者を働かせ,ま

た労働者も危険を知りながら,その建物内で

働いていた。工場主は安全管理のために修繕

すべきであることを認識しながらも,先進国

のアパレル企業が押し付けるコスト低下の要

求を飲まざるを得えず,その費用が用意できな

かった。生徒はこうした事実を知るのである。

 危険かつ低賃金であるとは知りながらも,

当地の人々にとってはこの工場で働くことが

安定した収入を得られる道であった。老朽化

した工場であっても就労希望者は跡を絶たな

かった。

 コストを抑えたい先進国のアパレル企業,

生活を安定させたい発展途上国の労働者,修

繕したいが費用を用意できず働かせ続ける工

場主。こうしたジレンマのすべての背景には,

流行を取り入れつつも低価格の洋服を買い求

める先進国の消費者の欲求があることを生徒

は知る。

 どうなっているのか,なぜそうなっている

のかと問うことで追究されるのは事実に基づ

く実証性である。事実と事実の背後にある仕

組みを知ることは,社会を知ることである。

本単元でも前半2時間は社会を知り,実証性

を探求する授業を行った。このことにより,

「あらゆる他者を価値のある存在として尊重」

する態度が養われたと考えている。

●5.�社会に生きるための問い-納得性の探求-① どうすべきか-論理的に判断する- 第3時では,第1,2時の学習を踏まえ,

判断する訓練を行った。では実際にどうすべ

にとっていいことづくめのように見える服の

生産が,実は発展途上国における人権侵害に

より成立しているという事実を捉える。

 生徒は,途上国の工場主,労働者,先進国

のアパレル企業,消費者がそれぞれに自らの

幸福を追求する権利を行使し続けたことによ

って,途上国の工場で建物の崩壊事故が生じ

た事実を知る。この事故によって,本来亡く

なるはずではなかった多くの人が亡くなっ

た。生徒は,安価に購入できる,流行のファ

ッションに身を包むことが幸せであるという

判断を世界中の多くの人々が積み重ねた結

果,国家レベルでの貧困が生み出されている

現実を知ることになる。

 多様な要求をそれぞれが追求した結果,社

会的に望ましくない状態が生まれること,す

なわち「社会的ジレンマ」という見方・考え

方を駆使し,社会における自らの生き方を考

えるというのが本実践のねらいである。

 第1時では,単元の学習内容と生徒の生活

との結びつきを認識させるために,生徒に普

段着ている服を持参させる。持参した服の中

には有名なファストファッションブランドの

ものもある。多くの服はタグに生産国が印字

してあり,生徒が服の生産国を確認すること

が容易だ。確認した国の中からバングラデシュ

を取り上げ,同国で起きた「ラナ・プラザ」ビ

ルの崩壊事故を報じたニュース映像を見せる。

② なぜそうなっているのか-仕組みを知る- 崩壊した商業ビル「ラナ・プラザ」内には.

5つの縫製工場が入り,3000人以上が働い

ていた。なぜ工場が崩壊し,多くの人が亡く

なったのか,第2時で,生徒は原因の一つと

教育出版 Socio express 2019 年春号 5

する権利を制限するという案である。いずれ

も背後にある価値観をつかんだ上での論理的

な解答と評価することができるだろう。

 すべての授業を終えた後,「あなたは現実

の社会で実際にどうしたいか」と問うてみた。

すると「この問題を解決するための具体的な

取り組みまで考えてみたけれど,どこかの問

題が解決したとしても,どこかの問題が悪化

していくので,すべてを解決するのは難しか

ったです」という感想を述べた生徒がいた。

 どうすべきか,どうしたいかと問うことで

追究されるのは判断に基づく納得性である。

論理的かつ実質的に判断することは,社会に

生きることである。本単元を通して,生徒は

「様々な社会的変化を乗り越え」「持続可能な

社会の創り手となる」ための第一歩を踏み出

したとは言える。しかし,その実質的側面へ

の踏み込みはまだ浅く,さらに深く考察して

いくことが今後の課題として残されている。

新学習指導要領で「学びに向かう力,人間性」

を「資質・能力」の柱の一つとして定めたか

らには,「感想」をもつだけではなく,実社

会において「判断」する主体になるよう生徒

を導くことが必要であろう。

 新学習指導要領で社会科の“問い”はどう

変わるか。実証性を求める問いを踏まえて,

さらに納得性を求める問いへ。このように組

織的かつ計画的に授業を組むことができれ

ば,新学習指導要領の理念は達成されるので

はないだろうか。これが実践を通して得た本

稿の問いに対する答えである。

きか,どうしたいかと問うことで,自らの判

断についての納得性を探求していった。

 ファストファッションのおかげで,先進国

の消費者の多くはお金をかけずにおしゃれを

楽しむことができる。先進国のアパレル企業

は,服の製造コストを下げることで高い収益

を上げることができる。途上国の工場主は,

先進国のアパレル企業から仕事を受けること

で工場を閉鎖せずに済む。その工場で働く労

働者は安定した収入を得ることができ,生活

の向上が望める。しかし,結果的には,工場

で働く多くの人が亡くなることになった。

 消費者,企業,労働者はそれぞれ,自らの

利益となる行動をとり続けた。ここには途上

国側の工場主,労働者と先進国側の企業,消

費者との間で,豊かさを求める欲求のぶつか

り合いが存在している。論理的に考えた場合,

どのような解決策を提案することができるだ

ろうか。唯一絶対の正解はない。

② どうしたいか-実質的に判断する- どうすべきかの問いに対して,生徒は次の

ように解答している。「売った値段の半分を

発展途上国が,半分を先進国企業が得る」「外

国企業は,発展途上国の工場に服を作らせて

もいいが,その工場を買い取らなければなら

ないようにする」。途上国の豊かさを追求す

る権利を保障するため,先進国企業の豊かさ

を追求する権利を制限するという案である。

 別の生徒は次のように解答している。「発

展途上国税をつくる」「作ったものをバングラ

デシュ内で売って,お金を貯めてからまた再

開する」。途上国の豊かさを追求する権利を

保障するため,先進国消費者の豊かさを追求

6 教育出版 Socio express 2019 年春号

●1.はじめに 2020年度から実施される「大学入学共通

テスト」では,国語や数学で記述式が導入さ

れ,2024年には社会科系科目でも記述式が

検討されている。導入のねらいは,知識量だ

けでなく,複数の情報を統合し構造化して新

しい考えをまとめる思考・判断の能力や,そ

の過程を表現する能力を評価することにある

(高大接続システム改革会議「最終報告」,2016)。

これらは,現代社会の課題解決や社会参画に

必要な能力として捉えることができる。

 このように思考・判断した過程を表現する

力は,思考・判断の段階で事象の背景や理由

を整理して順序立て,論理的に説明する力と

言い換えることができる。論理的に示すため

には,多様な情報から取捨選択して事象と事

象の関連性や因果関係をつなぎ,全体像を俯

瞰する必要がある。

 教科書を活用して,論理的な思考,判断,

表現の力をどのように育てていくか。「高地

の地域と人々の暮らし」と「アフリカ」の学

習を例に,授業者が用意した問いに対して,

学習者が多様な情報の中から必要な情報を取

り出し,構造を俯瞰しながら地域の特徴を捉

えていった実践を報告する。

●2.「高地の地域と人々の暮らし」の実践 教科書p.34 ~ 35では,アンデス山脈に位

置するボリビアの生活の例が取り上げられて

いる。高地の人々の営みの共通性と多様性を

示すために,同じく高地であるチベットの

人々の生活と比較した。チベットの教材は,

教科書や副教材にあるアンデスの記載内容や

写真と対照しやすいように,プリント教材を

作成した。学習者には,両地域の共通点と相

違点を見つけるための問いを用意し,これに

ついて4人一組のグループで,調べながら協

議することとした。

 両地域の共通点として,高地・高原に位置

すること,比較的低温で,極端に暑くもなく

寒くもない気候であること,樹木が少ないた

め石材を石壁などに活用した住居があるこ

と,標高が上がるにつれ畑作から牧畜に移行

すること,家畜を食用とすること,農業が主

な産業であることがあげられた。相違点とし

て,アンデスがリャマやアルパカ,チベット

がヤクという家畜の違い,じゃがいもとヤク

のバターという保存食の違い,キリスト教と

仏教という信仰の違いなどがあげられた。

 次に,地形,気候,農業,文化について,

両地域の共通点を考え,図1のように整理し

た。そして,両地域には世界遺産があり,今

後観光開発が進むと予想されていることを伝

えた後で,観光地として多くの人々が訪れる

ようになると両地域はどのように変化する

か,という問いを設けた。その問いに対する

学習者の考えが,図1の点線枠内である。学

中村 洋介

●なかむら ようすけ/公文国際学園中等部・高等部教諭

論理的な説明力を育てるための授業実践~教科書とシステム図を活用した「高地の地域と人々の暮らし」と「アフリカ」の学習~

授業実践レポート 地理的分野

教育出版 Socio express 2019 年春号 7

み込み,グループで語句の関係性について協

議する。そうして作成した図の例が図2であ

る。図の作成後,各グループがクラス全員に

図を見せながら,図について説明する時間を

つくり,情報を共有した。

 図2のように,ものの流れを示したシステ

ム図を教室全体で共有した後で,教科書p.67

にあるように,モノカルチャー経済の下では,

生産者の収入が少なくなるという事実を示

し,対策としてフェアトレードの活動がある

ことを紹介した。

●4.まとめ 地域の構造を俯瞰する目的で図1,2の「シ

ステム図」を作成させた。学習で扱った事象

の関連性をシステム図に整理し,図に基づい

て説明することで,論理的に説明する力をつ

けようというのがねらいである。

 両地域ともこれからの発展に課題を抱えて

いる地域である。よりよい方向へどのように

社会の構造を変えていくべきか。システム図

を活用することで,地域の構造が視覚化され,

構造の要因が順序立てて考えやすくなる。

習者の一人は,自動車の排出ガスで二酸化炭

素が増えて温暖化が進み,これまで気候に合

わせて営んでいた牧畜は衰退し,観光客向け

のサービス業が発展するのではないかと説明

した。図を使うと,牧畜の縮小による食文化

への影響についても考えやすくなる。

●3.「アフリカ」の実践 アフリカでは,多様な自然環境と文化が広

がり,豊富な資源を生かした経済活動が盛ん

である。一方で,植民地支配を根源とする,

モノカルチャー経済による南北問題が重要な

課題である。モノカルチャー経済の理解は,

授業者からの解説のみでは難しいと感じてい

る。そこで,アフリカ主要国の一次産品が占

める輸出品の特徴を明らかにしたうえで,モ

ノカルチャー経済を俯瞰的に捉えるために,

学習した語句を図に示す活動を行った。

 一次産品が占める輸出品はアフリカの自国

の経済にどのような影響を与えるかという問

いを設けた。学習で扱った「モノカルチャー

経済,カカオ,コーヒー,茶,プランテーシ

ョン,輸出,植民地」の語句に,アフリカの

住民の労働が学習者自身に関わる問題として

捉えることができるように「自分」と「アフ

リカの農家」を加え,これらの語句をつない

で説明していく。作業は,付箋紙にこれらの

語句を書いて白紙に自由に貼り,語句どうし

を矢印で結びながら矢印が意味する内容を書

き加える。学習者は教科書の本文や図表を読

●⬆ 図1  高地地域の変容(学習者が作成したシステム図を再現)

●⬆ 図2  モノカルチャー経済の構造(学習グループ作成のシステム図)

地形高原

気候低温

観光客の移動などでタクシーなどの車が増え,二酸化炭素の影響で気温が上がると思う。

農業牧畜

観光客に向けたおみやげ屋やホテルを経営する人々が増えて,サービス業が発展すると思う。

文化リャマ・アルパカ(アンデス)ヤク(チベット)※ じゃがいも(アンデス)・ヤクのバター(チベット)

気温が高くなると,牧畜は衰退して農業(畑)が発展する。

→ → →

8 教育出版 Socio express 2019 年春号

●1.はじめに 本校は,兵庫県宝塚市にある,男女共学・

非宗教の幼・小・中・高の私立学校で,中学

は4クラス,高校は7クラスという規模であ

る。私立なので校区がなく,阪神間の広範囲

に生徒が居住しており,ほとんどの生徒が,

阪急またはJRで電車通学している。当然のこ

とながら,居住環境は,生徒によりまちまち

である。このような学校において,地域学習

をどのように行えばよいかを考えた末に,学

校の所在地・宝塚市を取り上げることにした。

●2.授業づくりの準備 身近なまちである宝塚市を題材として,ま

ちづくりのアイデアを発表させようと企画し

た。宝塚市子ども政策課の協力を得て,各ク

ラスのテーマを決め,地元の地域に関する現

状を把握したうえで,よりよいまちづくりに

ついて,生徒自ら問題提起する内容の実践を

試みた。テーマは,A組→市の財政,B組→

市の観光,C組→市のまちづくり・都市計画,

D組→市の交通である。宝塚市子ども政策課

の課長に来校いただき,趣旨を説明して依頼

したところ,協力を快諾いただいた。そして,

各テーマにふさわしい課を選び,派遣依頼な

どの仲介をしてくださった。

●3.授業の実践内容 第1時と第2時は,ゲストティーチャーに

よる講義と題して,宝塚市職員による講義を

行った。A組は財政課,B組は観光企画課,

C組は政策推進課兼シティプロモーション担

当と文化政策課,D組は道路管理課と道路政

策課の職員が,それぞれの業務内容と課題を

生徒に講義してくださった。生徒は,メモを

とりながら,毎回,市職員の方への質問・感

想を書いた。内容や語り口も課によってさま

ざまだったが,観光企画課の比較的若手の職

員は,中学生を相手にした話が得意であった

ようで,クイズ形式で話を進めるなど,講義

を盛り上げてくださった。

 第3時と第4時は,グループ討議と題して,

各クラスで6グループをつくり,班ごとに市

の問題点を挙げ,それに対する対策を考えて

いった。アイデア・意見を付箋に書き,模造

紙に貼り付けながら分類し,その模造紙を廊

下に掲示することで,他のクラスの生徒にも,

考えてもらえるよう工夫した。話し合いを円

滑に進行するため,本校卒業生の法科大学院

生が来校してくれ,彼と筆者が生徒の班に入

って,討議の進行を助けることにした。

 第5時では,発表会を行った。班ごとに,

模造紙や自作のパワーポイント,スライドを

用いながら,市の問題点を挙げるとともに,

対案を提示していった。生徒から出た主な意

見を以下に挙げる。

A組(財政)…新たな財源として,ショッ

ピングモールの新設

板倉 宏明

●いたくら ひろあき/雲雀丘学園中学校・高等学校教諭

「まちづくりを考える」授業実践

※この授業実践は,2017 年 9~ 11月に 3年生で行ったものである。

授業実践レポート 公民的分野

教育出版 Socio express 2019 年春号 9

のお返事」をいただくという,生徒と市長と

の間で,意見の相互交換がしばらく続いた。

●5.授業を行ってみて この授業は,3年生の「社会総合」という

科目で実施したものである。本校は,1年・

2年で地理・歴史を週に各2時間ずつ並行し

て学び,3年生では週3時間の公民を学ぶ。

「社会総合」は週1時間の授業で,これまで

学んだ内容を踏まえて,総合的に社会科を学

ぶ科目である。2017年度は,1学期に戦後

史(10時間),2学期に沖縄研修旅行の事前

学習(5時間)行い,その後,「まちづくりを

考える」の実践を行った。

 生徒も筆者も,市長から直接返事をいただ

けるとは思ってなかったので,大変驚いたと

ともに,地域の身近な問題を考えることは,

民主主義を学ぶことになるという,まさに,

ブライスの「地方自治は民主主義の学校」と

いう言葉を実感することができた。

 自分たちの住む地域を身近に感じ,地域に

おかれた問題を意識することが政治を学ぶ最

良の近道である。3年後に18歳になると選

挙権が与えられる生徒たちが,「投票しても

何も変わらない」と考えるのではなく,「自

分の意見が,政治を良い方向に変える大きな

一歩になるのだ」ということが学べる,良い

機会になった。

B組(観光)…観光施設として,既存の手

塚治虫記念館を大幅にリニューアルし,

インスタ映えする施設に

C組(まちづくり・都市計画)…鉄道の新線

建設,大学病院の誘致,ゆるキャラ作成

D組(交通)…阪急電車の改良

 これらの意見に対し,市の担当課長に来校

いただき,発表への意見をいただいた。

 第6時は,「市長への提言」と題して,各

班が発表した内容をもとに,市の課長からの

意見を参考にしながら,市長への提言を班ご

とにまとめて,市へ提出した。

●4.授業の展開 「市長への提言」を市役所に提出したとこ

ろ,市長から「ぜひ来校して,直接,生徒に

返事をしたい」との言葉をいただき,学年集

会を開催し,市長からの返事を聞くことにな

った。2018年1月31日,市長が来校され,

生徒が考えた提言のすべてに目を通され,そ

の一つ一つに対して,丁寧にユーモアを交え

ながら,答えてくださった。その場で答えら

れなかった内容に対して,後日,担当課長を

通じて返事をいただいたものもあり,生徒は

自分たちの提言に対して,市長自らが返事を

してくださったことに,大いに喜んでいた。

 そこで,次の授業で,生徒全員が「市長へ

のお礼」を書いたところ,また,「市長から

●⬆  生徒の発表に対しコメントする市の職員●⬆  グループ討議で作成した,アイデアや,意見を書いた付箋を貼った模造紙

10 教育出版 Socio express 2019 年春号

◆�単元名:第4章 近世の日本と世界 4 経済

の成長と幕政の改革「⑭連判状にまとまる

人々」「⑮繰り返される政治改革」(教科書

pp.120-123)

◆本時の目標:

 幕府による政策とそれを主導した人物

(徳川綱吉・徳川吉宗・田沼意次・松平定信)

について整理し,それぞれを相互に比較し

ながら理解を深める。

 政策の結果などを,百姓一揆や打ちこわ

しをはじめとした人々の反発行動から考察

する。

小口 眞人

●おぐち まひと/和洋九段女子中学校・高等学校教諭

近世の日本と世界の学習でのワンポイント活用例 ~マーカー&キャプチャで政策比較~

授業にちょこっとデジタル教科書歴史

学習活動 留意点 デジタル教科書・教材

1時間目

導入⃝前時までの復習を行う。 ・経済や産業の発展,元禄文化

について再確認させる。・必要に応じて,デジタル教科書で資料や動画を提示。

展開①

⃝政策と人物をまとめる。 【問】だれの政策が,最も批判が少なかったのかを考えよう。

⃝生徒を4人の人物ごとにグループ分けし,内容や情報を共有させる。

・各自で,ワークシートに政策と人物を記入させる。

・生徒に考えさせる政策と人物を,教師があらかじめ決めておく。ワークシートの作業状況を見て提示し,考えさせる。・考えの根拠とした教科書本文をメモするよう指示する。

・デジタル教科書で紙面を拡大し,投影。・プロジェクタを使用。

2時間目

展開②

⃝分かれたグループで,担当する人物について,批判が少なかったと思われる政策を考え,発表させる。

⃝グループの代表者に,クラス内で発表を行わせる。

⃝各グループの発表後,クラス全体の意見として,批判が少なかったと考える政策と人物を一つ選ばせる。

・グループ内での発表後,グループの意見として批判の少なかったと考える政策と人物を一つ選定し,クラス内で発表させる。

・プロジェクタ,電子黒板を使用。・デジタル教科書の本文にマーカー機能などで線を引き,画面キャプチャ機能で保存。ホワイトボート機能を使って,キャプチャした画像をまとめて貼り付けて,相互に比較できるようにする。

まとめ

⃝本時のふり返りをさせる。

・政策は立て続けに行われたが,重い負担などもあり,時代を追うごとに民衆の反発行動が目立つようになったという状況を理解する。

・教科書p.121�のグラフを提示する。・プロジェクタを使用。

《本時の展開例》 2時間配当

こんな実践あんな実践

教育出版ホームページ【中学校社会科】のコンテンツをご紹介

教育出版 Socio express 2019 年春号 11

りする際に有効である。本時では,主にデ

ジタル教科書の画面キャプチャ機能を用

い,内容共有の一助として利用した。

◆デジタル教科書活用のねらい:

○クラスでの発表において,マーカーなどの

機能や画面キャプチャ機能を用いながら,

批判が少ないと考える根拠となった教科書

本文などをクラス内で共有したり比較した

りすることができるようにし,本時の課題

に対して生徒の興味や関心を高めるように

する。

◆指導にあたって:

○本時では,17~18世紀にかけて行われた

幕府による政策と,それを主導した人物に

ついて焦点を当て,実施された政策の内容

と,その結果や成果について概観する。時

代に幅があり,単純に比較できない部分が

あるものの,生徒には政策のメリットとデ

メリットの比較・検討を通して,この時代の

状況をつかみ取ってもらいたいと考えた。

○デジタル教科書は大画面に投影でき,生徒

に図版などを提示したり,内容を共有した

●⬆  実際の授業の様子(左)と,根拠となる文を抽出・比較した画面(右)

生徒の声

・自分の担当(批判が少なかったと考える政策と人物)が元から決まっていたので,いつもより難しく,頭をつかった。4 人の人物それぞれに長所と短所があったが,(グループ発表時に)良い意見があったため,(政策と人物を選定するのに)迷った。

・さまざまな見方や切り口があるのだなと思った。また,すべての人を満足させるような政治はなかなかできるものではないのだとも思った。

◆生徒の反応:

○与えられた課題について,自らの考えを構

築し,発表を行う授業形態をとっているが,

本時のように,あらかじめ生徒が担当する

「批判が少なかったと考える政策と人物」

を指定して,活動を行わせるという展開は

生徒にとって新鮮だったようだ。また,人

物ごとにグループにして情報を共有させた

ことで,課題について深く考えることがで

きたようである。

◆授業を終えての感想・今後の課題:

○批判が少なかったと考える根拠を,教科書

に限らずさまざまな資料から検討させれ

ば,学習に深みが増したのではないかと思

う。図書館やインターネットなどの利用も

視野に入れながら,授業展開を再考したい。

○デジタル教科書の画面キャプチャ機能は,

いろいろな場面で活用できそうである。今

後も利用の方途を考えていきたい。

□第 17 回なかよしメッセージ - 教科通信広告 _ 中学校 B5-1/2 / 4C 2019.1.23

https://www.kyoiku-shuppan.co.jp/

〒101- 0051 東京都千代田区神田神保町 2 -10TEL. 03-3238-6862 FAX. 03-3238-6887「地球となかよし」事務局

応募の決まりなど詳しくはホームページを見てね

前回

入選作品

 この地球を救う花は,まずお花なので二酸化炭素を吸って,酸素を出します。それに葉と花びらは太陽光パネルになっているので,発電も出来ます。さらに花びらの部分が風で回って,風力発電も出来る花です。 みんなが大好きな自然と地球が私達の何代も先の未来でも,愛されて続けるように,こんなお花が地球中にたくさん色鮮やかに咲くといいと思いました。(中学 3年)

地球を救う花◎主催/教育出版 ◎協賛/日本環境教育学会◎後援/環境省,日本環境協会,全国小中学校環境教育研究会,毎日新聞社,毎日小学生新聞*協賛・後援団体は昨年実績で,継続申請中です。

小学生・中学生(数名のグループ単位での応募も可)応募資格

2019年 7月1日~ 9月 30日詳細は「優秀作品展示室」とあわせてホームページをご覧下さい。応募期間

作品テーマ

「地球となかよし」という言葉から感じたり,考えたりしたことを,写真(またはイラスト)にメッセージをつけて表現してください。

メッセージ作品募集(2019年度)

①身のまわりの自然が壊されている状況を見て感じたことや,自然環境や生き物を守るための取り組み②さまざまな人との出会いを通して,友好の輪を広げた体験,異文化交流,国際理解に関すること③その他,「地球となかよし」という言葉から感じたり,考えたりしたこと

第17回

応募者全員に参加賞がもらえるよ!

北海道支社 〒060-0003 札幌市中央区北3条西3-1-44 ヒューリック札幌ビル 6F TEL: 011-231-3445 FAX: 011-231-3509函館営業所 〒040-0011 函館市本町6-7 函館第一生命ビルディング 3F TEL: 0138-51-0886 FAX: 0138-31-0198東北支社 〒980-0014 仙台市青葉区本町1-14-18 ライオンズプラザ本町ビル 7F TEL: 022-227-0391 FAX: 022-227-0395中部支社 〒460-0011 名古屋市中区大須4-10-40 カジウラテックスビル 5F TEL: 052-262-0821 FAX: 052-262-0825関西支社 〒541-0056 大阪市中央区久太郎町1-6-27 ヨシカワビル 7F TEL: 06-6261-9221 FAX: 06-6261-9401中国支社 〒730-0051 広島市中区大手町3-7-2 あいおいニッセイ同和損保広島大手町ビル 5F TEL: 082-249-6033 FAX: 082-249-6040四国支社 〒790-0004 松山市大街道3-6-1 岡崎産業ビル 5F TEL: 089-943-7193 FAX: 089-943-7134九州支社 〒810-0001 福岡市中央区天神2-8-49 ヒューリック福岡ビル 8F TEL: 092-781-2861 FAX: 092-781-2863沖縄営業所 〒901-0155 那覇市金城3-8-9 一粒ビル 3F TEL: 098-859-1411 FAX: 098-859-1411

中学社会通信 Socio express 〔2012年 春号〕 2012年3月30日 発行

編 集:教育出版株式会社編集局 発 行:教育出版株式会社 代表者:小林一光印 刷:大日本印刷株式会社 発行所: 〒101-0051 東京都千代田区神田神保町2-10  電話 03-3238-6864(お問い合わせ) URL http://www.kyoiku-shuppan.co.jp    

中学社会通信 Socio express 〔2019年 春号〕 2019年3月31日 発行

編 集:教育出版株式会社編集局 発 行:教育出版株式会社 代表者:伊東千尋印 刷:大日本印刷株式会社 発行所: 〒101−0051 東京都千代田区神田神保町2−10  電話 03−3238−6864(内容について) URL https://www.kyoiku -shuppan.co.jp 03−3238−6901(配送について)

北海道支社 〒060−0003札幌市中央区北3条西3−1−44ヒューリック札幌ビル6F TEL:011−231−3445 FAX:011−231−3509函館営業所 〒040−0011函館市本町6−7函館第一ビルディング3F TEL:0138−51−0886 FAX:0138−31−0198東北支社 〒980−0014仙台市青葉区本町1−14−18ライオンズプラザ本町ビル7F TEL:022−227−0391 FAX:022−227−0395中部支社 〒460−0011名古屋市中区大須4−10−40カジウラテックスビル5F TEL:052−262−0821 FAX:052−262−0825関西支社 〒541−0056大阪市中央区久太郎町1−6−27ヨシカワビル7F TEL:06−6261−9221 FAX:06−6261−9401中国支社 〒730−0051広島市中区大手町3−7−2       あいおいニッセイ同和損保広島大手町ビル5F TEL:082−249−6033 FAX:082−249−6040四国支社 〒790−0004松山市大街道3−6−1岡崎産業ビル5F TEL:089−943−7193 FAX:089−943−7134九州支社 〒812−0007福岡市博多区東比恵2−11−30クレセント東福岡E室 TEL:092−433−5100 FAX:092−433−5140沖縄営業所 〒901−0155那覇市金城3−8−9一粒ビル3F TEL:098−859−1411 FAX:098−859−1411

【表紙写真】 上の写真はノルウェー南西部に位置するネーロイフィヨルドで,同国のガイランゲルフィヨルドとともに世界自然遺産に登録されている。氷河の浸食作用で形成された急峻な崖と崖の間は,最も狭い場所で約250mしかない。下の写真は,同じくノルウェーのベルゲン市ブリッゲン地区で,世界文化遺産に登録されている。「ブリッゲン」はノルウェー語で「埠頭」を意味し,かつては交易の拠点として栄えた。写真の建物は、ノルウェーの豊富な木材を利用して建てられた元の商館である。

本資料は,文部科学省による「教科書採択の公正確保について」に基づき,一般社団法人教科書協会が定めた「教科書発行者行動規範」にのっとり,配付を許可されているものです。

Recommended