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The FirstCreator of the 45-degree Line Diagram: The ...

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MACRO REVIEW, Vol.31, No.2, 36-79, 2019 36 <総 説> 45 度線モデル」について 松谷 泰樹 * 中央大学経済学部 <要旨> 一般の経済学の教科書に掲載されている,有効需要の論理に基づいて国民所得の決定を明らかにしてい る「45 度線モデル」は,「45 度線図」を用いて示されているが,それがケインズ経済学によるものである との言及にとどまり,その考案者が誰であるのかについては,ほとんど明記されていない。茂木 (2014) 緒方 (2010) によれば,その考案者は Samuelson (1948a) Klein (1947) であるとされている。また, Krugman (2011) によっても, Samuelson (1948a) が最初の考案者であるとされているが, Cate (2013) Dixit (2012) Guthrie (1997) Montgomery (2010) による経済学説史的研究によれば,Samuleson (1939) が「45 度線モデル」の最初の考案者であるとされている。しかしながら,本稿では,現代の教科書に示されてい る「45 度線モデル」には 3 つのヴァージョンがあることを明らかにするとともに,Samuelson (1939) より 以前の Kalecki (1929; 1933; 1938) において,すでに「45 度線モデル」を構築することができていたという ことを明らかにする。そして,その「45 度線モデル」は,Kalecki (1929) における「福祉の経済学」の視 点を考慮に入れれば,容易に,現代の標準的な「45 度線図」として描くことができるものであることが 明らかにされる。 <キーワード> 45 度線モデル,有効需要の原理,国民所得,ケインズ,カレツキ,松谷の 45 度線図 The First Creator of the 45-degree Line Diagram: The Economics of Michał Kalecki Hiroki MATSUYA Faculty of Economics, Chuo University, Tokyo, Japan <Abstract> The aim of the present paper is to demonstrate who is the first creator of the 45-degree line diagram, or the Keynesian Cross; neither Paul Samuelson (1948a) in Economics (1st ed.), Lawrence Klein (1947) in The Keynesian Revolution, Paul Samuelson (1939) in "A Synthesis of the Principle of Acceleration and the Multiplier" nor Ivar Jantzen (1935) in "Lidt planøkonomisk Teori (On the Theory of Planned Economy)," it is Michał Kalecki (1929; 1933; 1938) in "W sprawie aktywizacji bilansu handlowego (On Activating the Balance of Trade)," Próba teorii koniunktury ( Essay on the Business Cycle Theory ), and "The Determination of Distribution of the National Income," respectively. In inquiring into making of the 45-degree line diagram, the present study clarifies the attribute of the model which is that the national income is determined by the principle of effective demand in three equivalent views: production, distribution, and expenditure, the equilibrium national income is achieved by equilibrating saving with investment, the crowding-out effect will not occur when the national income is under the full-employment national-income level and money supply is not constant, widening income inequality decreases the national income, and the basic consumption included in the consumption function means its perspective on the economics of welfare. From the last aspect, furthermore, the Kalecki Cross (or the Matsuya Cross) of the two-sector model is easily transformed into the more standard type of the 45-degree line diagram, which is one of the three versions of the Keynesian Cross diagram in textbooks, whose differences are spotted in the treatment of the 45-degree line.
Transcript

MACRO REVIEW, Vol.31, No.2, 36-79, 2019

36

<総 説>

「45 度線モデル」について

松谷 泰樹*

中央大学経済学部

<要旨>

一般の経済学の教科書に掲載されている,有効需要の論理に基づいて国民所得の決定を明らかにしてい

る「45度線モデル」は,「45 度線図」を用いて示されているが,それがケインズ経済学によるものである

との言及にとどまり,その考案者が誰であるのかについては,ほとんど明記されていない。茂木 (2014) や

緒方 (2010) によれば,その考案者は Samuelson (1948a) や Klein (1947) であるとされている。また,

Krugman (2011) によっても,Samuelson (1948a) が最初の考案者であるとされているが,Cate (2013),Dixit

(2012),Guthrie (1997),Montgomery (2010) による経済学説史的研究によれば,Samuleson (1939) が「45

度線モデル」の最初の考案者であるとされている。しかしながら,本稿では,現代の教科書に示されてい

る「45 度線モデル」には 3つのヴァージョンがあることを明らかにするとともに,Samuelson (1939)より

以前のKalecki (1929; 1933; 1938) において,すでに「45 度線モデル」を構築することができていたという

ことを明らかにする。そして,その「45度線モデル」は,Kalecki (1929) における「福祉の経済学」の視

点を考慮に入れれば,容易に,現代の標準的な「45 度線図」として描くことができるものであることが

明らかにされる。

<キーワード>

45 度線モデル,有効需要の原理,国民所得,ケインズ,カレツキ,松谷の 45度線図

The First Creator of the 45-degree Line Diagram:The Economics of Michał Kalecki

Hiroki MATSUYA

Faculty of Economics, Chuo University, Tokyo, Japan

<Abstract>

The aim of the present paper is to demonstrate who is the first creator of the 45-degree line diagram, or the

Keynesian Cross; neither Paul Samuelson (1948a) in Economics (1st ed.), Lawrence Klein (1947) in The Keynesian

Revolution, Paul Samuelson (1939) in "A Synthesis of the Principle of Acceleration and the Multiplier" nor Ivar

Jantzen (1935) in "Lidt planøkonomisk Teori (On the Theory of Planned Economy)," it is Michał Kalecki (1929;

1933; 1938) in "W sprawie aktywizacji bilansu handlowego (On Activating the Balance of Trade)," Próba teorii

koniunktury (Essay on the Business Cycle Theory), and "The Determination of Distribution of the National Income,"

respectively. In inquiring into making of the 45-degree line diagram, the present study clarifies the attribute of the

model which is that the national income is determined by the principle of effective demand in three equivalent views:

production, distribution, and expenditure, the equilibrium national income is achieved by equilibrating saving with

investment, the crowding-out effect will not occur when the national income is under the full-employment

national-income level and money supply is not constant, widening income inequality decreases the national income,

and the basic consumption included in the consumption function means its perspective on the economics of welfare.

From the last aspect, furthermore, the Kalecki Cross (or the Matsuya Cross) of the two-sector model is easily

transformed into the more standard type of the 45-degree line diagram, which is one of the three versions of the

Keynesian Cross diagram in textbooks, whose differences are spotted in the treatment of the 45-degree line.

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<Keywords>

45-degree line diagram, Keynesian Cross, Samuelson Cross, Kalecki Cross, Matsuya Cross

1. はじめに

財市場と貨幣市場の同時均衡を分析するマクロ経済モデルとして,IS-LM モデルは,どんな経済学の教

科書にも掲載されているが,その場合,それがノーベル経済学賞を受賞したジョン・ヒックス (Hicks

1937)(1) によって,ケインズ『一般理論』(Keynes 1936) を平易に解説する過程において考案されたもので

あると明記されていることが多い (例えば,Darby and Melvin 1986, p. 86; 千種ほか 1970, 307 頁; 中谷

2007, 132 頁; 茂木 2014, 593-594 頁; 木村 2014, 125, 142 頁,を見よ)。ところが,より根本的なマクロ経済

学の問題である,有効需要の論理に基づく短期国民所得決定のメカニズムを,「45度線図」を用いて示す

「45 度線モデル」 (したがって,本稿において「45度線モデル」と「45 度線図」は同義的に扱われる) は,

どんな経済学の教科書にも掲載されているが,それがケインズの経済学によるものであるとの言及にとど

まり,通常,そのモデルの考案者は明記されていない。ただし,例外もある。茂木 (2014, 450-451 頁) は,

45 度線モデルの基盤となる構成要素である消費関数を説明するなかで,Keynes (1936) の消費についての

考え方を平易に示したものとしてSamuelson (1948a)(2) を紹介している。また,緒方 (2010, 36頁) は,Keynes

(1936) の国民所得決定の理論を,「米国流の『ケインジアンの経済学』」として,Klein (1947)(3) が定式化

する際に用いたのが「45 度線モデル」であるとしている。 一方,ノーベル経済学賞を受賞したポール・

クルーグマン (Krugman 2011, p. 7)(4) は,「45度線モデル」の考案者をサミュエルソン (Samuelson 1948a) と

見なしたうえで,「サミュエルソンの 45 度線モデル (the Samuelson cross) は……あまりにも粗雑で,あま

りにも時代遅れで言及するには全く値しない……しかしながら今なお,多くの高名な経済学者たちが主張

していることよりも,ずっと洗練されている基本的な論点を提示している」と明言している。

本稿の目的は,以上のような現状に鑑み,誰が「45 度線モデル」の最初の考案者であるのかを明らか

にすることである。その場合,形成過程をたどるなかでモデルの性格についても確認するが,一般的な経

済学の教科書に掲載されている「45 度線図」には,3つのヴァージョンがあることが明らかにされる。ま

た,それは,それらが依拠する「45 度線図」が 3 種類あることによるものであることが示される。さら

に,そのことは,「45 度線図」が,ケインズ経済学の「解釈」によって描かれているものであることを示

すものであるが,しかし,カレツキの場合,その著作において明示されている構成要素を取り出して組み

立てることにより,直接的に「45度線図」が描かれることが,明らかにされる。

緒方 (2010, 36 頁)は,「45 度線モデル」の考案者を,Samuelson (1948a)以前のKlein (1947) に求めてい

るが,その場合,「ケインズ体系の全礎石を形づくるところの構築素材をあらわしている」(Klein 1947, p.

115) ものとして描かれたのが,「45 度線モデル」であるということが,クライン自身によって主張されて

いる。しかし,そのおよそ 20 年後にクラインは,Kalecki (1933)(5) を取り上げて,その独創性について,

「カレツキの景気循環モデルは,事実,〔ケインズ『一般理論』の〕単純モデルの本質的なあらゆる構成

要素を組み込んでいる……ケインズの大評判にくらべれば,カレツキの数学的な論文は……ほとんど注

意を惹かなかったが,〔もし,カレツキの論文に注意を払っていたならば,〕結局,理論家たちは,その重

要性を見抜いていたであろうし,『一般理論』以前のカレツキのモデルを十分に評価したであろう」 (Klein

1966, p. 224) と述べている。しかしながら,実際,このKalecki (1933) においては,有効需要の論理にも

とづいて,国民所得のうち利潤所得の決定までしか示されておらず,これに,国民所得の分配理論を提示

したKalecki (1938) を接合することにより,初めて,賃金所得をも含めた国民所得全体の決定を論じるこ

とができるものなのである。それは,松谷 (2004) によって,「カレツキ経済学の基本構造」として,す

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でに立証されている通りである。Klein (1947, p. 115) が描いた,「ケインズ体系の骨子」を示す図としての

「45 度線図」は,彼自身の『一般理論』の解釈の上に考案されたものであると考えられるが,しかし,

それ以前に,カレツキ (Kalecki 1929; 1933; 1938) によって,この「45 度線図」を描くことができていた

ということを,本稿では,その基礎をKalecki (1929) にまでさかのぼることによって明らかにしたい。

2. 「45 度線モデル」について

ここでは,一般的な経済学の教科書に掲載されている「45 度線図」と,そのもとになっているとされ

る Klein (1947) と Samuelson (1948a) において描かれた「45 度線図」について確認し,検討を加えること

にする。

2.1 経済学の教科書における記載

一般に経済学の教科書に,総需要によって国民所得が決定されることを明らかにする,「45 度線モデル」

を示す図として描かれているものは,以下に挙げる,千種ほか (1970, 284 頁) に見られるようなグラフで

ある。

図 1 千種ほか (1970, 284 頁)

図 1 において,縦軸は,総需要を測る軸である。一方,横軸は,国民生産物の価値,すなわち,国民所

得を測る軸である。すなわち,生産された付加価値が,生産活動に従事した経済主体に分配されているこ

とを表わす軸であるとされている。つまり,総供給を表わす軸である。したがって,縦軸は,国民所得を

「支出面」から測る軸であり,他方,横軸は,国民所得 Y を「生産面」かつ「分配面」から測る軸であ

ることを意味している。また,原点を通って両軸と 45 度をなす直線が描かれているが,この補助線は,

「総需要と総供給の均衡」を表わすものであるとされている。そして,趨勢を伴わない封鎖経済体系が想

定され,人口の増減,技術進歩,中央銀行の金融政策,政府の財政政策を捨象すれば,総需要 E は,消

費支出Cと投資支出 Iから成るものとされる。図 1では,この総需要関数が,直線で表わされるとされて

おり,それがEE 線として描かれている。EE 線は,消費関数C(Y)を表わした右上がりの直線の上に,国

民所得の変化にたいして何らの影響も受けないという独立投資を想定した,投資支出 I を加えた分だけ上

方に平行移動させることにより描かれている。EE 線は,45 度線と点E0において交わっているが,その交

点E0から横軸にたいして垂線を下ろすと,垂線の足Y0が得られるが,そのOY0の水準に短期国民所得が

決定されるというのである。それは,総支出を表わす EE 線が,「総需要と総供給の均衡」を表わす「45

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度線」と一致することによりもたらされている国民所得であることから,この Y0が均衡国民所得水準を

表わしているというのである。

「45 度線モデル」を紹介する,どんな経済学の教科書でも,EE 線は直線で描かれている(6)。そして,

「45 度線モデル」は,ケインズ経済学によるものであるとされている。EE 線の下方に平行に描かれてい

る直線は,いわば,EE 線の土台を築いているものであるともいえるが,それは,消費関数C(Y)を表わす

直線である。いま,この直線を CC 線と呼ぶことにしよう。茂木 (2014, 450-451 頁) によれば,この CC

線の導出は,Samuelson (1948a) によるものであるとされている。というのは,それによって,ケインズ

の消費にかんする考え方が,平易に説かれたとされているからである。ケインズ自身の消費についての考

え方は,『一般理論』(Keynes 1936) の第 8 章「消費性向(1)――客観的要因 (The Propensity to Consume: I. The

Objective Factors)」に示されているが,そこでは,消費の決定について,次のように分析が加えられてい

る。すなわち,「社会が消費に支出する額は,明らかに,(1)一部はその所得額に,(2)一部は他の客観的な

付帯状況に,そして(3)一部は社会を構成している諸個人の主観的な必要,心理的性向,習慣,および所

得が彼らのあいだに分割される諸原理 (産出量が増加するにつれて修正を被るかもしれない) とに依存

している 」(Keynes 1936, pp. 90-91) というのである。茂木 (2014, 451 頁) によれば,このケインズの考え

方を整理し,「消費は『所得に依存する部分』と,『所得に依存しない部分』からなる」と解釈して描いた

のが,Samuelson (1948a) の「45 度線図」であるというのである。それは,消費支出をC,そして,所得

に依存する部分をC(Y),所得に依存しない部分をAとすれば,C = C(Y) + A として表わすことができる

というのである。その場合,もちろん,C(Y)は所得の増加に伴って増加するので,消費関数は,右上がり

の CC 線として描かれるとしている。そしてさらに,茂木 (2014, 451 頁) によれば,「所得に依存する部

分C(Y) をより簡単に,所得の一定割合が消費に振り分けられると考えて」,C(Y) を cY に置き換えて,

また,0 < c < 1 とすれば,消費関数は,C = A + cY として,直線で 45 度線図に描くことができると

しているのである。

なぜ,0 < c < 1 とされるのだろうか。これは,ケインズのいう「現代社会の基本的な心理法則 (a

fundamental psychological rule of any modern community) 」(Keynes 1936, p. 97) にもとづいているからである。

すなわち,「人間性に関するわれわれの先験的知識と詳細な経験的事実とから大いなる確信をもって依拠

することのできる基本的な心理法則,それは,人間は所得が増えるとおしなべて消費を増やす傾向をもつ

が,それは所得の増加ほどではない」(Keynes 1936, p. 97) というものである。換言すれば,C を消費額,

Y を所得とし,それぞれの変化を⊿C,⊿Yで表わせば,双方は同じ符号をもつが,前者は後者より小さ

い,つまり,微小な変化についてまで見てみても,dC/dYは正,かつ 1より小さいものとして捉えられて

いるのである。そして,「経済体系の安定性は,本質的には実際に広く見られるこの法則に依存している」

(Keynes 1936, p. 97) とされているのである。

dC/dY は,限界消費性向と呼ばれているものであるが,ケインズは,これについて論じる際に,「消費

性向がかなり安定した関数で,そのため総消費額は一般には主として総所得額に依存し……性向それ自体

の変化の影響は副次的だと見なしていいとしたら,そのときこの関数の正常な形状はいったいどのような

ものになるであろうか」(Keynes 1936, p. 96) という問いから出発しているのである。したがって,「〔限界

消費〕性向それ自体の影響を副次的」と見なし,所得の変化にたいして何らの影響も受けないものとする

ならば,消費関数は,CC 線のように,直線の形で,「45 度線図」に描かれうるものであると考えられる。

2.2 Klein (1947)

それでは,次に「45 度線モデル」の考案者であると見なされている,Klein (1947) について見てみよう。

Klein (1947) における「45度線図」は,第 4章「論争の展望 (APolemical Digression)」の中の「貯蓄-投資

論争 (The Saving-Investment Controversy)」(Klein 1947, pp. 110-117) において示されているものである。Klein

(1947, p. 110) は,貯蓄を S,投資を I という記号を使って表わせば,「S = I というケインズの命題をめぐ

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る有名な議論は,定義の問題に徒に時間を浪費したものとして,笑い話の種になるのが常である」として

いるが,しかしながら,「この態度は問題点から著しくはずれている」と批判を加えることから議論を始

めている。そして,その理由として,「尤も,この論争で特に問題なのは,その解決が政策よりも理論に

たいして一そう重要だという点にある」ことを挙げている。また,これに加えて,「経済政策における最

も著名な指導者たちのなかには,貯蓄-投資方程式なるものが何だか全くわかっていない者もあることは,

疑いもなく本当である」としている。Klein (1947, pp. 110-117) は,これらの理由により,議論を展開しよ

うとしているのである。

結論としては,S = I をめぐる論争についてのあらゆる混乱は,「すべてその原因を,関数表 (schedules)

と可測値 (observables)とを区別しなかったことに求めうる」(Klein 1947, p. 110) としている。「貯蓄表

(savings schedule)」というのは,「貯蓄,所得および利子率のあいだの関係のことであって,利子率の値と

国民所得の値の種々可能な組合わせの各々に対応した貯蓄の大きさを示すものである」(Klein 1947, p. 110)

としている。一方,「投資表 (investment schedule)」というのは,「投資,所得および利子率のあいだの関

係を指すのであって,利子率の値および国民所得の値の種々可能な組合わせの各々に対応した投資の大き

さを示すものである」(Klein 1947, p. 110) とされている。そのうえで,Klein (1947, p. 110) は,「適切な第

1 次接近」として,貯蓄も投資も,利子率に無関係であると想定して,議論を進めている。そうすると,

貯蓄と所得の間には,1 つの関係が得られる。また,これとは独立した関係が,投資と所得の間にも得ら

れる。そして,「もしこれら 2 つの関数表がわれわれの信ずるように滑らかな曲線であるとすれば,貯蓄

表から計算された貯蓄が,投資表から計算された投資に等しくなるような,一義的な国民所得水準が存在

するであろう」(Klein 1947, p. 110) としているのである。したがって,Klein (1947, p. 110) が明言している

ように,「これが関数表という意味での貯蓄-投資方程式にほかならない」ものであるとされているのであ

る。

ただし,注意すべき点がある。「可測的な貯蓄 (observable savings)」とは,「貯蓄と投資を均等せしめる

一義的な国民所得が知られるとき,この場合の貯蓄表から計算される特定の貯蓄水準のこと」(Klein 1947,

pp. 110-111) であるとされている。一方,「可測的な投資 (observable investment)」とは,「これと同一の国

民所得水準において投資表から計算されるもの」(Klein 1947, p. 111) であるとされている。したがって,

貯蓄や投資の「可測値 (observable values)」というのは,「ただ 1 つの点」であるのにたいして,貯蓄や投

資の「関数表 (schedules)」というのは,「曲線に沿う諸点の連続的な系列を形成する」ものであるとされ

ているのである (Klein 1947, p. 111)。

Klein (1947, p. 111) によれば,「経済過程 (economic process)」とは,「貯蓄表と投資表の交点もしくは均

衡点の系列よりなるものとして観察される」とされている。すなわち,「各時点の国民所得の観測された

水準は,これを貯蓄-投資表のある組合わせに対応する所得の均衡水準として考えることができる」(Klein

1947, p. 111) ものであるとされているのである。したがって,「貯蓄ならびに投資の観察された水準とは,

所得の観察された水準に対応するそれぞれの関数表上の 2つの値のこと」(Klein 1947, p. 111) であるので,

「貯蓄および投資の関数表に沿うその他一切の値は観測されない」(Klein 1947, p. 111) ことになるとされ

ている。ゆえに,「それらは貯蓄および投資の仮説的水準であって,実際に生じた水準以外の国民所得水

準に対応するもの」(Klein 1947, p. 111) なので,「この仮説的な諸水準における貯蓄と投資とは等しくない」

(Klein 1947, p. 111) とされている。

Klein (1947, p. 111) は,Keynes (1936, p. 63) において示された関係式を引いて,貯蓄と投資の均等につ

いて言及している。その関係式とは,以下のようなものである。

所得 = 生産物の価値 = 消費 + 投資

貯蓄 = 所得 - 消費

ゆえに 貯蓄 = 投資

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そして,これらの関係式における,貯蓄および投資は,可測値であることを,Klein (1947, p. 111) は明言

している。そのうえで,Klein (1947, p. 111) は,「伝統的な分析は貯蓄が所得に依存することに気づいてい

たのだが,しかし,所得が投資に次の仕方で依存するという事実を看過してしまった。すなわち,投資が

変化した場合,丁度貯蓄の変化を投資の変化に等しくするに必要な程度に,所得も必然的に変化せねばな

らぬということこれである」(Keynes 1936, p. 184) というケインズの言及を取り上げて,この考え方によ

って,均衡を達成するための調整過程が展開されうるとしている。

これらの考察をふまえて,Klein (1947, p. 115) は,「ケインズ体系の全礎石を形づくるところの構築素材

をあらわしている」グラフとして,図 2 のような,「45 度線図」を描いているのである。それは,貯蓄-

投資方程式をグラフに表わそうとした場合,直接に貯蓄表と投資表をもとにして描くことができるもので

あるとされているが,経済政策を含む現在の議論で広く用いられているという理由で,消費表と投資表を

もとにして,描かれている。

図 2 Klein (1947, p. 115)

その場合,Klein (1947, p. 113) が言及しているように,「説明上の目的のために」,国民所得は,政府部

門と海外部門は捨象されている。図 2 において,図 1 と同様に,横軸は,国民所得 Y を測る軸であり,

縦軸は,消費C,投資 I,貯蓄 Sを測る軸であるとされている。そして,「両軸にたいしてひとしく 45 度

の勾配をもっている直線は,これに沿って進めば水平座標が常に垂直座標と同じになる直線」(Klein 1947,

p. 114) として描かれている。曲線C は,消費表であり,「それぞれの社会所得水準 (水平軸) に対応して

社会がどれだけを消費財に支出 (垂直軸) するかを示している」(Klein1947, pp. 114-115)。そして,「C曲線

上の各点にたいし,われわれは各所得水準に対応する投資水準を垂直に付け加える。そうすると,投資表

というのは,C 曲線と (C + I) 曲線の垂直距離のこととなり,各所得水準にたいして特定の投資水準を与

えている」(Klein 1947, p. 115) とされている。よって,Klein (1947, p. 115) においても,図 1 の場合と同じ

ように,投資は独立投資が暗黙的に想定されていることがわかる。ゆえに,「貯蓄は,45度線とC 曲線の

垂直距離によって与えられる」(Klein 1947, p. 115) ものであるとされているのである。

なぜ,C 曲線と (C + I) 曲線は,曲線として描かれているのであろうか。1つの理由としては,前節で

すでに示したように,限界消費性向が「現代社会の基本的な心理法則」を反映したものとして,正で 1

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より小さい値をもつものとして扱われているからであろう。もう 1 つの理由としては,その限界消費性向

の裏返しでもあるのだが,「所得が増加すれば多くの場合,それにともなって貯蓄も増加し,所得が減少

すれば貯蓄も減少する。その変化の度合いは,後よりも最初のほうが大きいと言っていいだろう」(Keynes

1936, p. 97) というケインズの言説に基づいているものであると思われる。

Klein (1947, p. 115) は,彼が考案した「45 度線モデル」の性格に関して,「所得の値Y0については二様

に解釈できる」(Klein 1947, p. 115) としている。1 つ目は,「この〔Y0という水準の〕所得からの消費支出

に,同じ所得からの投資支出を加えたものが,正確にこれと同じ所得になるといった性質の一義的な所得

水準である」(Klein 1947, p. 115) というものである。したがって,この場合,「この型のグラフでは,均衡

所得水準は,常に総支出をあらわす (C + I) 曲線 (消費プラス投資表) が 45 度線に交叉するところに与え

られる」(Klein 1947, p. 115) ことになるとされている。そして,2 つ目は,「投資を (C + I) 曲線とC 曲線

の垂直距離ではかり,貯蓄を 45 度線とC曲線の直線の垂直距離ではかると,Y0とは,その投資が貯蓄に

等しくなるような唯一つの所得水準だということになる」(Klein 1947, p. 115) というものである。この場

合,「均衡貯蓄水準 S0は均衡投資水準 I0に等しいが,S も I も,ともに異なる関数表によってはかられて

いる」(Klein 1947, p. 115) というものなのである。

2.3 Samuelson (1948a)

次に,Samuelson (1948a) について見てみよう。Samuelson (1948a, p. 256) では,投資が,国民所得や雇

用の水準を決定するのに,なぜ重要であるのかという観点から,消費,貯蓄,所得の関係を明らかにしよ

うとしている。その場合,貯蓄と投資の均等により,国民所得決定のメカニズムが論じられているのだが,

その説明のなかで,「45 度線モデル」が提示されているのである (Samuelson 1948a, p. 260)。よって,以下

では,まず,Samuelson (1948a) における,貯蓄と投資の均等による国民所得の決定のモデルについて確

認し,そのうえで,その「45 度線モデル」について確認したい。

Samuelson (1948a, p. 259) によれば,どのようにして,貯蓄と投資によって国民所得が決まるのかとい

うことについて,図 3のようなモデルを用いて論じられるとされている。ここでは,Klein (1947) の場合

と同様に,封鎖経済が想定されている。そしてさらに,説明上,政府部門は捨象されている (Samuelson

1948a, p. 259)。

図 3 Samuelson (1948a, p. 259)

図 3 において,横軸は,国民所得(NI) を測る軸である。また,縦軸は,貯蓄(S)と投資(I)を測る軸であ

る。横軸にたいして水平に描かれた II 線は,Klein (1947) の場合と同様に,独立投資を想定した投資表で

ある。SS線は,貯蓄表である。これは,Samuelson (1948a, pp. 207-213) における消費性向と貯蓄性向につ

いての考察から導き出されており,貯蓄は,所得の増加関数として捉えられている。この SS線は,グラ

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フでは,直線で描かれているように見えるが,よく見ると,わずかに凹状に湾曲して描かれている。それ

は,所得が増加するにつれて限界消費性向が小さくなる,すなわち限界貯蓄性向が大きくなるという貯蓄

性向が反映されて描かれているからである (Samuelson 1948a, p. 257)。すなわち,ケインズのいう「現代

社会の基本的な心理法則」(Keynes 1936, p. 97) と,それにかかわる,「所得が増加すれば多くの場合,そ

れにともなって貯蓄も増加し,所得が減少すれば貯蓄も減少する。その変化の度合いは,後よりも最初の

ほうが大きいと言っていいだろう」(Keynes 1936, p. 97) という見解に基づいていると思われるが,実際,

Samuelson (1948a, pp. 207-209) においては,米国労働省の統計が示されており,限界消費性向が所得の増

加に伴い逓減するという経験的事実に基づいて,このグラフは描かれているものと思われる。

Samuelson (1948a, p. 259)は,「貯蓄表と投資表の交点が,国民所得がその方向に引き寄せられるところ

の均衡である」としている。このメカニズムが,図 3によって説明されているのである。まず,この交点

の右側の国民所得水準の説明から始めている。その領域では,貯蓄が投資支出を上回っている。この場合,

消費と投資の合計が,国の産出量にたいする要素費用,すなわち,国民所得の水準に達していない状況に

あるとされている。つまり,家計は,企業が投資し続けたいと考えている水準を上回って貯蓄しているの

で,それだけ消費に支出することを控えていると考えられるのである。よって,この場合,企業にたいす

る注文が少なすぎ,意図せざる在庫がたまっている状況を引き起こしていると考えられる。要するに,企

業は,現在の産出量を正当化するのに十分な売上げを得られていない状況にあるとされているのである。

したがって,この場合,企業は,生産を縮小し,労働者を解雇するであろうというのである。これにより,

国民所得水準は低下する。どこまで,低下していくのであろうか。それは,家計が,ちょうど,企業の望

む投資水準に一致するような水準に貯蓄するという所得水準まで,低下するというのである。つまり,家

計が消費を控えた分だけ,企業が投資するという水準まで,国民所得が低下するというのである。そして,

これ以下に,国民所得水準が低下することはないとされているのである。それは,なぜか。というのは,

この貯蓄と投資が一致する国民所得水準では,企業の側においては,在庫が棚にたまっているわけでもな

く,しかしながら,売上げが活発すぎて増産を強いられているわけでもなく,よって,さらに労働者を解

雇するわけでもないような状況であるとされているからである。したがって,この水準では,生産も雇用

も国民所得からの支出も同じ状態であり続ける,「均衡」状態にあるとされているのである。

つぎに,この「均衡」状態を表わす,貯蓄表と投資表の交点の左側の国民所得水準について見てみよう。

この領域では,国民所得は,企業の意図された投資水準が,家計の意図された貯蓄を上回っているという,

低い水準にある。この場合,消費支出と投資支出の合計が,当該水準の生産にたいする要素費用である国

民所得の水準を上回っているのである。つまり,経常的な生産以上に財が消費されている状態であり,在

庫の意図せざるはきだしを余儀なくされているのである。この場合,企業は,どうするか。生産を拡大し,

雇用を増やすであろう。これは,所得の増加をもたらし,さらなる消費の増加をもたらすであろう。した

がって,企業は,さらに生産を拡大し,雇用を増やし,その結果,国民所得水準は上昇していく。OBと

いう国民所得水準では,貯蓄が 0,すなわち,所得の全てを消費に回している状態を示している。しかし,

国民所得は,生産にたいする要素費用であり,消費と投資にたいする支出の合計は,企業が費用として支

払ったものからの取り返しなのである。たとえプラスの貯蓄が発生しても,つまり,その貯蓄の分だけ消

費が減少しても,BM という国民所得水準の領域においては,要素費用である国民所得から企業の取り返

しである消費と投資の合計が,国民所得を上回っているのである。この場合,企業は,当該の産出量を正

当化するのに十分な売上げを得ている状況を表わしているので,さらに生産を増やし,雇用を増やし,そ

れによって,さらに高い国民所得水準へと到達するのである。しかしながら,いったん,OM という国民

所得に到達すると,その場合,控えられた消費支出をちょうど補う分だけの投資支出がなされているとい

う国民所得水準は,いわば,企業の国民所得からの取り返しである売上げと,企業の生産活動における要

素費用である国民所得とが一致しており,企業が,さらに生産を増加したり,雇用を増加したり,あるい

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は,在庫の意図せざるはきだしや,ましてや,意に反する在庫がたまっているわけでもない。よって,企

業は,このような,貯蓄と投資の「均衡」した状態に,生産と雇用を落ち着かせようとするというのであ

る。この国民所得の水準が,いわゆる,「均衡国民所水準」と呼ばれているものなのである。

それでは,今度は,Samuelson (1948a, pp. 260-261) における「45度線モデル」について見てみよう。こ

れは,貯蓄表と投資表の交点によって国民所得が決まることを示す論理に代わる,第 2の方法として示さ

れているものである。それは,図 4 のように,図示されている。そこでは,横軸は,国民所得を測るもの

とされ,また,縦軸は,消費と投資を測るものとされている。さらに,横軸および縦軸にたいして,45

度の勾配をもつ直線が,補助線として描かれている。この 45 度の勾配をもつ補助線上では,横軸で測ら

れている,国民所得の水準と,縦軸で測られている,人々が支出しようとする消費と投資の合計が,ちょ

うど等しくなっていることを表わしているとされている。つまり,Klein (1947) の場合と同様に,総供給

と総需要の均等を表わすものとして,「45度線」が描かれているのである。

図 4 では,Samuelson (1948a, pp. 207-211) の考察により,消費は,所得の増加関数としてとらえられる

ことが明らかにされているので,消費表は,右上がりの CC 線で描かれている。ただし,この CC 線は,

直線で描かれているように見えるが,そうではない。わずかに凸状に湾曲した曲線で描かれているのであ

る。CC 線の勾配は,所得の増加にたいする消費の増加の比率としての,限界消費性向を表わしているが,

その値は,Keynes (1936) や Klein (1947) の場合と同様に,正で 1より小さく,また,所得が増加するに

つれて逓減するものとされている。そして,図 3 の場合と同様に独立投資を想定して,消費表を表わす

CC 線の上に平行して,投資表を描けば,それは,C+I 線として描かれる。よって,このC+I 線と 45 度線

との交点 E によって決定される国民所得の水準 OM が,図 3 における,貯蓄と投資の均等により決定さ

れた均衡国民所得水準 OM に対応するものであるとされているのである。なぜ,この交点 E によって,

均衡国民所水準が決定されるのであろうか。それは,この交点 E によって得られた国民所得の水準が,

45 度の補助線のもつ,横軸と縦軸の値を厳密に一致させるという性質により,「企業が,国の生産高をそ

の水準に維持することを正当化するのに,ちょうど十分な額だけを取り返している」(Samuelson 1948a, p.

260) という状態を表わしているからなのである。したがって,図 3 で表わされた,貯蓄と投資によって

決定された均衡国民所得と,図 4で表わされた,消費と投資によって決定された均衡国民所得は,同じも

のを,それぞれ異なる側面からとらえたものに他ならないとされているのである。

図 4 Samuelson (1948a, p. 260)

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2.4 考察

以上,一般的な経済学の教科書における「45度線モデル」と,それを考案したとされる Klein (1947) と

Samuelson (1948a) による「45度線モデル」について,確認した。そこで気づいた点が 2 つある。それは,

まず,原点を通って,縦軸と横軸にたいして 45 度の勾配をもつ補助線のもつ意味である。茂木 (2014) と

緒方 (2010) は,それぞれ,「45 度線モデル」の考案者として,Samuelson (1948a) と Klein (1947) を挙げ

ているが,それらにおける「45度線」は,「総供給」と「総需要」の均等を表わす補助線として描かれて

いるものである。しかしながら,茂木 (2014, 456-457頁) と緒方 (2010, 36-37 頁)(7) によって示されている

「45 度線図」は,そのようなものではなく,縦軸に取った「総供給」と横軸に取った「国民所得」の均

等を表わす補助線として「45度線」が描かれているのである。すなわち,この「45度線」は,図 5 (茂木

2014, 457 頁) に見られるように,生産に携わった経済主体にたいして,所得が分配されることを表わす補

助線として,描かれているのである。

図 5 茂木 (2014, 457 頁)

もう 1点として挙げられる違いは,Klein (1947) にせよ,Samuelson (1948a) にせよ,「総需要関数」が

曲線で描かれているのにたいし,茂木 (2014, 457 頁) にせよ,緒方 (2010, 36-37 頁) にせよ,それが直線

で描かれるものであるとされているということである。したがって,これら 2 つの理由により,茂木 (2014,

457 頁) と緒方 (2010, 36-37 頁) において示されている「45 度線図」は,Klein (1947) や Samuelson (1948a)

において描かれているものと同じものとは認めにくく,それゆえ,両者を「45 度線モデル」を最初に考

案したものとする見解にも与し難い。さらに,このことは,茂木 (2014, 457 頁) や緒方 (2010, 36-37 頁) に

おいて示された「45 度線図」は,先に示した,千種ほか (1970, 284 頁) を代表とする,数多くの教科書

に見られる「45 度線図」とは異なるものであることもまた明らかである(8)。つまり,教科書に掲載されて

いる「45 度線モデル」には,千種ほか (1970, 284 頁) に代表されるような「第 1 のヴァージョン」と,

茂木 (2014, 457 頁) や緒方 (2010, 36-37 頁) によって示されているような「第 2のヴァージョン」がある

ことがわかる。そして,前者は,その「45度線」のもつ性質から,明らかにKlein (1947) や Samuelson (1948a)

に依拠しているものであると見なすことができるが,後者については,そうではない。それでは,「第 2

のヴァージョン」としての「45 度線モデル」は,いったい何に依拠するものなのであろうか。

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3. 経済学説史的考察

ところで,「45 度線モデル」は,経済学説史においてはどのように,取り扱われているのであろうか。

この問いかんする文献は少ないものの,Cate (2013),Dixit (2012),Guthrie (1997),Montgomery (2010),

Schneider (1962) がある。

3.1 Cate (2013)

Cate (2013, p. 339) は,ケインズ『一般理論』 (Keynes 1936) を単純化したモデルについて,3つあると

している。第 1は,「総支出-総生産モデル (the aggregate expenditure-aggregate production diagram)」である。

第 2は,「総需要・総供給モデル (the aggregate demand-aggregate supply diagram)」である。第 3は,「IS-LM

モデル (the IS-LM diagram)」である。このうち,第 1と第 2 が,「45 度線モデル (the Keynesian Cross)」と

呼ばれているものであるとされている (Cate 2013, p. 339) 。そして,この「45 度線モデル」が最初に考案

されたのは,Samuelson (1939) においてであると主張されている (Cate 2013, p. 339)。

3.2 Dixit (2012)

Dixit (2012) は,「ポール・サミュエルソンの遺産 (Paul Samuelson's Legacy)」と題する論文において,

その「マクロ経済学,金融および財政政策」にたいする学術的貢献について考察している。そのなかで,

「これら〔乗数理論と加速度原理についての〕2 つの論文のうち後者〔Samuelson (1939)〕において,45

度線図 (the Keynesian cross diagram) を提示していたのである……Samuelson (1948c)〔本稿においては

Samuelson (1948b) として表記〕」は,45 度線モデルを総合的に扱い概説しており,現在でも彼の教科書『経

済学』(Samuelson 1948a) は,そのモデル,とりわけ倹約のパラドックスをはじめとする諸概念,を普及

させたのであった」(Dixit 2012, p. 27) としている。このことは,Klein (1947) や Samuelson (1948a) に先立

って,Samuelson (1939) により,「45 度線モデル」が提示されていたことを明らかにするものである。

3.3 Guthrie (1997)

3.3.1 Guthrie (1997) による「45度線モデル」

Guthrie (1997, p. 315) は,「いわゆる『45 度線モデル』 (the so-called 'Keynesian Cross' )」という名称は,

一般に,「総供給線 (aggregate supply line)」として解釈される,45 度の「均衡線 (equilibrium line)」に由来

するものであるとしている。このモデルは,横軸で「所得 (あるいは産出量)」,縦軸で「総支出」を測り,

この 2 次元空間に「総支出曲線 (aggregate expenditure curve)」を描くことにより,その図式が完成される

ものであるとされている (Guthrie 1997, p. 315)。そして,この図式は,「ケインズ『一般理論』を高度に濃

縮した解釈による幾何学的な説明」 (Guthrie 1997, p. 315) であるとされている。そして,「総支出 (total

expenditure)」を,「所得 (Y)」および「利子率 (r)」の関数である「消費 (C)」と,「利子率 (r)」だけの関

数である「投資 (I)」からなるものとすれば,「均衡」状態について,次式が得られるとしている。

C (Y, r) + I (r) = Y

一方,「流動性選好 (liquidity preference)」,すなわち,「貨幣需要 (L)」は,「所得 (Y)」と「利子率 (r)」

の関数であり,「均衡」状態においては,外生的に与えられた「貨幣供給 (M*)」と均等になるとされてい

る。よって,次式が得られるとされている。

L (Y, r) = M*

そして,線型性を仮定すれば,2 つの方程式と 2 つの未知数を備えた,「〔解が得られる〕確定体系

(determinate system)」が得られるとされているのである。Guthrie (1997, p. 315) では,以下の図6 (Guthrie 1997,

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p. 315)において見られるように,所得水準 Y1で「均衡」が得られるとされているが,その場合,「総支出」

と「所得」が均等になっているとされている。Guthrie (1997, p. 316) によれば,このような「45 度線図」

を,最初に発表したのは Samuelson (1939)であるとされているのである。

図 6 Guthrie (1997, p. 315)

このような「45度線図」の魅力について,Guthrie (1997, p. 315) は,次のように述べている。「幾何学的

に『巧み (neat)』であり,その基礎をなす方程式体系が非常に単純化されており代数的な操作に適してい

る」(Guthrie 1997, pp. 316-317)。そして,「これら 2つの性格が相俟って,主流派のもつ方法論の方向性と

親和性が高いので,まったく機械論的な方法によって,学部学生を訓練し,試験するすることを可能にし

ている」(Guthrie 1997, p. 317) ものであるとされているのである。

3.3.2「45度線モデル」がもつ政治的側面

より政治的な主張として見るならば,「45 度線図」は,「積極的財政主義 (fiscal activism)」を合理的に説

明するモデルであると,Guthrie (1997, p. 317) は明言している(9)。第二次世界大戦後,不況をぶり返すこと

がなかったのは,より大きな政府による経済の管理について,裁量の余地がないことを,米国のケインズ

経済学者たちが確信していたことによるものであるとされている (Guthrie 1997, p. 317)。その一方で,多

くのケインズ経済学者たちは,景気後退,スタグネーション,失業を撲滅するには,金融政策は効果のな

いものであるとも確信していたのである (Guthrie 1997, p. 317)。「45度線モデル」についての訓練を受けた

学部学生の世代は,繁栄を維持する代表的な手段として,租税,移転支出,政府購入,政府借入金のそれ

ぞれの変更の受容を教え込まれたのであるとされている (Guthrie 1997, p. 317)。

さらに,Guthrie (1997, p. 317) によれば,この「45度線モデル」は,「政治的積極行動主義の計画 (a program

of political activism)」を合理的に説明することについても,また,好都合であるというのである。という

のは,このモデルは,所得分配や所得再分配について、どんな明示的な考察をも回避しているからである

というのである。このことは,経済学者の視点から見れば,確かに一種の欠陥といえるものであるとされ

ているのであるが,政治的積極行動主義によってもたらされる所得再分配の効果を覆い隠すことによって,

おそらく,そのモデルのもつ政治的要求を有効に進めることになるであろうとされている。

3.3.3 Jantzen (1935) について

「45 度線図」を最初に発表したのは Jantzen (1935) であるとする経済学者もいるが,それについて

Guthrie (1997, pp. 317-318) は異を唱えている。その理由を 2 つ挙げている。まず第 1に,Jantzen (1935) の

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「45 度線図」には,45 度の勾配をもつ「均衡線 (equilibrium line)」だけが描かれており,ケインズ的な「支

出曲線 (expenditure curve)」が描かれていないことを挙げている。第 2に,Jantzen (1935) が刊行されたの

は,ケインズ『一般理論』(Keynes 1936) が出版される数カ月前であり,Jantzen (1935) が前もってKeynes

(1936) の草稿やゲラに目を通した証拠はないということを挙げている。

しかし,この 2 つめの理由については,あくまでも「45 度線モデル」をKeynes (1936) に依拠すること

に固執した見解であるといえる。本稿のように,「45度線モデル」は,有効需要の論理に基づく短期国民

所得決定のメカニズムを,「45 度線図」を用いて示しているものと捉えれば,Guthrie (1997, pp. 317-318) が

挙げる第 2 の理由は,的外れのものとなる。それは,実際,Kalecki (1929; 1933; 1938) によって証明され

るものであることが,本稿において示される。

3.3.4 「45度線モデル」の問題点

Guthrie (1997, p. 316) は,「45 度線モデル」の問題点を指摘している。米国のケインズ経済学者は,「45

度線図」の両軸における所得と支出という変数を名目値として解釈する傾向にある。「45 度線」を単に「均

衡線 (equilibrium line)」として描く限り,実質産出量の変化と物価水準を 1 つにまとめることについては,

何らの論理的誤謬ももたらされない。しかしながら,いったん,「45 度線」を「総供給曲線 (aggregate supply

curve)」と解釈するならば,物価水準は一定と想定されなければならず,その場合,両軸における所得と

支出は実質値で測られることになるとしている。物価水準について明示することなく,「インフレ・ギャ

ップ」と「デフレ・ギャップ」について議論するという論理は,好意的に解釈しても,疑問の余地がある

とされているのである。

Guthrie (1997, p. 318) によれば,Samuelson (1948b) や Hansen (1953) による「45 度線モデル」の根底に

あるのは,既存の資本ストック,組織,技術を前提とすることにより,雇用と所得が一意的な因果関係を

示すような,産出量と雇用の間に想定されている関数関係であるとされている。したがって,論理的に,

産出量と支出は実質値でなければならず,そして,物価は一定とされなければならないとしている。

Samuelson (1948b) や Hansen (1953) による「45 度線モデル」は,原著にたいする解釈として,ケイン

ズの考え方を適切に表現しているものと見なしうるのかということについて,疑問の余地があるとされて

いる (Guthrie 1997, p. 318) 。その理由を 3つ挙げている。第 1 に,ケインズは,「賃金単位」を用いて,

平均賃金率により名目値をデフレートしている。第 2に,ケインズ独自の「総需要関数 (aggregate demand

function)」と「総供給関数 (aggregate supply function)」は,産出量ではなく,雇用によって表わされている。

第 3に,ケインズは,決して,インフレーションとデフレーションを,容易に可逆性を示しうる財政金融

政策による解決に従う,対称的な現象として扱うことはしない,というものである。

3.3.5. 考察

いわゆる「45度線モデル」の場合,ケインズ経済学との「調和 (integration)」が,何といっても,問題

となるものであることが,このようなGuthrie (1997, p. 316) に見られるような「批判」により,浮き彫り

にされている。それは,すなわち,「45 度線モデル」というものが,ケインズ経済学の「解釈」によって

形成されているものであるということを明らかにするものである。しかし,カレツキの「45 度線モデル」

の場合,そのような問題は生じない。なぜならば,それは,カレツキ経済学の「解釈」によるものではな

く,カレツキの一連の 3つの論文よって示された「構成要素」を,そのままの形で取り上げることにより,

単に直接,「組み立て (assembly)」ているものにすぎないからである。その場合,「解釈」をめぐる問題が

発生する余地などない。「解釈」によって〔モデル〕構築する場合,「オリジナル」との「調和」という側

面において,何らかの一筋縄ではいかない側面が現れがちなのは,避けられないものであるのかもしれな

い。

3.5 Montgomery (2010)

Montgomery (2010) は,「45度線モデル (the Keynesian cross diagram)」についての経済学説史的考察をお

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こなっている。Montgomery (2010, p. 329) によれば,「45 度線モデル」は,古典派経済学に由来するもの

であるとされている。なかでもとりわけ,Mill (1844) に由来するものであると主張している(10)。それは,

「45 度線モデル」の核心には,在庫調整メカニズムを認めることができるからであるとしている。

Montgomery (2010, p. 329) は,その根拠として,Mill (1844, pp. 68, 70) における,景気の悪い時期における,

あらゆる商品について,売れ残りの商品で埋め尽くされている倉庫の状態に直面する商人の様子や,あら

ゆる種類の商品が,販売する側における漠然とした不安や購入する側における漠然とした気乗り薄がある

場合,長期にわたりに売れ残り続けるという様子についての叙述を挙げている。もちろん,そうした商品

在庫の蓄積や減少にかんする在庫調整メカニズムの分析ということになれば,それによって景気循環が引

き起こされることを考察したHawtrey (1913) が挙げられるべきであろうが,Montgomery (2010, p. 329) で

は,Hawtrey (1913) による在庫蓄積および減少と集計的経済活動のかかわりについての理解が言及されて

いる。しかしながら,古典派の経済学者やその伝統の継承者に欠けていたのは,「集計的需要 (aggregate

demand)」について,その概念や重要性を,とりわけ景気循環とのかかわりにおいて,十分理解はしてい

たものの,それをケインズ経済学に見られるような様式で概念化することができなかったことであるとし

ている (Montgomery 2010, p. 329)。したがって,「45度線モデル」の理論枠組みの歴史は,厳密な意味で,

Keynes (1936) から始まるものであるとされている (Montgomery 2010, p. 329)。

そのKeynes (1936) について,第 22 章「景気循環に関する覚書 (Notes on the Trade Cycle)」を,Montgomery

(2010, pp. 329-330) は取り上げている。つまり,景気が下降傾向にあるとき,「恐慌に突入して新規投資が

にわかに跡絶えると,おそらく未販売財の余剰ストックが累積していくであろう……ところで,ストック

を一掃する過程は負の投資を意味し,この負の投資はますます雇用の足を引っ張ることになる。そしてス

トックが一掃されてしまうと,目に見えて雇用の改善が進むだろう」(Keynes 1936, p. 318) という言説を

引用し,まさにここに,「45度線モデルの趣意 (the message of the Keynesian cross diagram)」(Montgomery 2010,

p. 330) が見出されるとしているのである。

この「45 度線モデル」の誕生に寄与する,ケインズ自身の理論枠組みは,第 3 章「有効需要の原理 (The

Principle of Effective Demand)」に見出すことができるとされている(Montgomery 2010, p. 330)。そこでは,

「総供給 (aggregate supply)」と「総需要 (aggregate demand)」の交点により,「有効需要 (effective demand)」

が決定されるというモデルが展開されているのである。ただし,そのモデルは,Keynes (1936) において

は図示されていないが,企業が所与の労働者を雇用するのに最小限必要な売上高と雇用量とを右肩上がり

の関係として,「総供給」は捉えることができるものであるということを特徴とするものである。そして,

「総需要」が,企業が所与の労働者を雇用するのと引き換えに実際に得ることができる売上高を表わすも

のとして,現実的な条件の下で,「総供給」よりも勾配が緩やかな右上がりの曲線として描かれるもので

あるとされているのである (Montgomery 2010, p. 330)。

Montgomery (2010, p. 330) は,このようなKeynes (1936) における理論枠組みを,今日では標準的なも

のであるとされている「45 度線」を特徴とし,それよりも勾配が緩やかな「C + I 曲線」を「計画的支出

(aggregate expenditures)」として組み合わせることによる,1つのヴァージョンとして,初めて発表したの

は,どうやら Samuelson (1939) であるらしいとしている。そして,この「45 度線モデル」の理論枠組み

を教授する先駆となったのが,Samuelson (1948a) であるとしているのである (Montgomery 2010, p. 330)。

ただし,「45 度」の補助線は,初期の解釈では,Guthrie (1997, p. 316) によっても言及されているように,

一種の「総供給曲線 (aggregate supply line)」として扱われている場合もあることが,Montgomery (2010, p.

330) においても指摘されている(11)。しかし,現代における「45 度線モデル」のより標準的なアプローチ

では,「45度線」は,縦軸と横軸の値が均等になることを表わす補助線として扱われているものであると

されている (Montgomery 2010, p. 330)。

MACRO REVIEW, Vol.31, No.2, 36-79, 2019

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3.6 Samuelson (1939)

それでは,Samuelson (1939) について見てみよう。Samuelson (1939) は,「加速度原理と乗数の総合 (A

Synthesis of the Principle of Acceleration and the Multiplier)」について書かれた論文であるが,その中で,「任

意の期間の国民所得は,消費支出額と純投資額との合計に等しい。ケインズ分析によれば,消費支出は,

ある一定の心理的法則によって,受け取られた所得に関連づけられる。所得が増加するにつれて,限界お

よび平均消費性向は低下し,限界消費性向はつねに 1より小さい」(Samuelson 1939, p. 789) とされ,図 7

のような「45 度線図」が描かれているのである。その場合,「定常状態においては,消費の時間的増加は

ゼロのはずであり,したがってまた誘発的投資もゼロに等しいはずである」とされ,この純投資ゼロの状

態と両立する「定常水準 (stationary level) 」を導き出しているのである。それはすなわち,平均消費性向

が 1 に等しいという条件によって決定されるものであるとされている。よってこの場合,縦軸で消費 C,

横軸で所得Yを測る 2 次元空間において,均衡は,消費は所得の増加関数であるとして,C = F (Y) で表

わされる消費関数と,45 度の直線が交わる所得水準 OZ に決定されることになるとされている。しかし

ながら,「健全な社会 (healthy society) 」においては,「つねに何ほどかの自生的純投資の連続的な流れが

存在する」(Samuelson 1939, p. 790) ものであるとされている。したがって,「自生的投資の存在は,消費

関数を点線の曲線水準まで高めるもの」(Samuelson 1939, p. 791) であるとされ,このような社会において

は,「定常的均衡水準 (stationary equilibrium level) 」がON に決定されることになるとされている。このよ

うにSamuelson (1939) では,ケインズ分析に基づいて,消費と投資により国民所得が決定されるという「45

度線図」が描かれている。そして,この「45度線モデル」が,「経済原論 (Principles of Economics) 」の教

科書である Samuelson (1948a) に掲載されることにより,普及していったとされている (Montgomery 2010,

p.330) 。

図 7 Samuelson (1939, p. 790)

3.7 Samuelson (1948b)

しかしながら,その一方で,その教科書が刊行された同じ年に,もう 1 つの「45 度線図」が異なる様

式で描かれているのである。それが,Samuelson (1948b) である。Samuelson (1948b) は,「所得決定の簡単

MACRO REVIEW, Vol.31, No.2, 36-79, 2019

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な数学 (The Simple Mathematics of Income Determination)」と題された論文である。そこでの「論考は,専

門の文献ではすでに十分論じつくされた問題を取り扱っているのであるから,純粋に解説的なものであ

る」(Samuelson 1948b, p. 134) とされており,「できるだけ簡単な数学」(Samuelson 1948b, p. 134) が用いら

れているとされている。その場合,「所得分析の核心」(Samuelson 1948b, p. 134) として,真っ先に取り上

げられているのが,「『貯蓄と投資』が所得を決定するといういちばん単純なケインズモデル」(Samuelson

1948b, p. 134) であるとされている,「45度線モデル」なのであるが,それが,Samuelson (1939) や Samuelson

(1948a) とは異なる様式によって,導出されているのである。

それでは,Samuelson (1948b, p. 134) における「45 度線モデル」について確認してみよう。そこでは,

「国民所得 (市場価格による)Yは,定義により,消費支出C と純投資 Iの和に等しい」(Samuelson 1948b,

p. 134) とされている。したがって,次式が得られるとしている。

Y= C + I

そして,さらに,「もしもケインズがこの恒等式以上にでなかったとすれば,われわれは不確定な体系

をもっているというにすぎない」(Samuelson 1948b, p. 134) と明言したうえで,次のようにも述べている。

「彼は所得決定のいちばん単純なモデルにおいて,次の 2 つの仮説をつけ足した」(Samuelson 1948b, p.

134) 。すなわち,1 つは,「消費は所得の関数である」(Samuelson 1948b, p. 134) ということ。もう 1つは,

「投資は,ある与えられた時点をとるならば一応は定数とみなしてもよい」(Samuelson 1948b, p. 134) と

いうことである。これらは数学的に,

C = C (Y)

および

I = I―

として書き表すことができるものであるとされているが,これらをさらに,最初の恒等式に代入すれば,

Y= C (Y) + I―

が得られるとされている。これが,「いちばん単純なケインズ所得体系」(Samuelson 1948b, p. 134)であり,

「1つの未知変数を決定するための1つの方程式であるから,確定体系である」(Samuelson 1948b, p. 134) と

されているのである。そして,Samuelson (1948b, pp. 134-135) は,この「基本方程式 (fundamental equation)」

について,「消費性向 (the propensity-to-consume schedule)」の特に重要な役割」に着目したうえで,「経済

思想史にとって決定的に重要である」と主張し,「それは,ケインズの考え方の核心をなす」ものである

としている。そのうえで,「もしも,これが雇用分析にたいして何ら教えるところがないなどというので

あれば,ケインズ体系は無益でもあり,かつ人を誤るものということになってしまう」(Samuelson 1948b,

p. 135) としている。

なお,Samuelson (1948b, p. 135) は,この「いちばん単純なケインズ的均衡」を図示するならば,Bishop

(1948, p. 319) が描いているような,「例の周知の 45 度線図」になるとしている。それは,「縦軸には,消

費関数 C(Y) を所得にたいして描く。それから投資は消費の上に重ねられる。これら 2 つが合して,〔基

本方程式〕の右辺を構成する。左辺 Y は,所得にたいして描かれた所得そのものであるから,換言すれ

ば,45 度線がそれを示す」(Samuelson 1948b, p. 135)。つまり,Samuelson (1948b) の場合,横軸に取られ

た国民所得が縦軸の方向に 45 度だけ回転させた形での直線として,再度,描かれているということにな

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る。そのうえで,この「基本方程式」の右辺に掲げられた「C (Y) + I―

と 45 度線との交差は,いちばん単

純な『ケインズ交点 (Keynesian-cross) 』」(Samuelson 1948b, p. 135) を表わすものであるが,すなわち,「供

給と需要の『マーシャル交点 (Marshallian-cross) 』と論理的には相似したものを与えてくれる」(Samuelson

1948b, p. 135) としているのである。

さらに,Samuelson (1948a) における「45 度線図」についての論述とは,順序が逆になるが,「この幾何

学的表示に代わるものとして,われわれは,貯蓄と投資との交点をもって所得決定を表わしてもよい」

(Samuelson 1948b, p. 135) としている。その場合,「基本方程式」の消費の項を左辺に移すだけで,「貯蓄

性向 (the propensity-to-save schedule)」とも呼ばれるべきもの S(Y)が得られるとされている。よって,先の

「基本方程式」は,次のように書き表されるとしている。

Y - C (Y) = I―

よって,

S (Y) = I―

が得られるとされている。そして,これを図示するならば,次のようになるとしている。つまり,「横軸

には所得をとるが,縦軸には今度は,貯蓄または投資の正および負のいずれの量をもとれるようにしなけ

ればならない。投資量は水平の線として描かれる。そして貯蓄の線は,下から投資量と交差して,45 度

線の図において示されると同じような均衡国民所得 (equilibrium income) を生みだすわけである」

(Samuelson 1948b, p. 136) というのである。

そしてさらに,この「基本方程式」から「通常の乗数概念 (the usual multiplier)」が導き出されるとして

いる。それは,「きわめて簡単であって,パラメーターである投資 I―

の変化が,所得におけるどのような

変化をひきおこすか,ということを問えばよい」(Samuelson 1948b, p. 136) としている。まず,「基本方程

式」から,

dI / dY = 1 - C' (Y)

が導き出されるとしているが,これより,次式が得られるとされている。

[ dY / dI―

] = 1 / (1 - C' (Y) )

これが「乗数公式 (the multiplier formula)」(Samuelson 1948b, p. 136) であるとされているのである。ここ

でのC' は,それぞれ異なった所得水準における,「限界消費性向 (margin propensity to consume)」である

とされている。ここで,Samuelson (1948b, p. 136) は,所得についての「基本方程式」と「乗数公式」の

うち,「前者こそがより基本的なものである」(Samuelson 1948b, p. 136) と明言している。というのは,「そ

れをとおして,われわれは,投資における大小いずれもの変化を調べることができる」(Samuelson 1948b,

p. 136) からであるとしている。「しかもそのさい,普通によくやるように消費関数を近似に線型のものと

みる必要もないのである」(Samuelson 1948b, p. 136) と主張している。その理由を以下のように証明して

いる。もしも消費が所得にたいしての 1次関数C = a + bY として表わされるならば,

Y= (1 / 1-b) (a + I―

)

これより,

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⊿Y= (1 / 1-b)⊿I―

が得られることになるとされている。

一方,Cが曲線型をとるならば,その場合,

⊿Y= (1 / 1-C―

' )⊿I―

が得られることになるとされている。ただし,ここにおけるC―

' は,「新旧両所得の中間における限界消費

性向」(Samuelson 1948b, p. 137) を指すことになり,それは「基本的所得方程式」によってのみその値を

完全に正確に求めることができるものであるとされているのである。

3.8 佐藤 (1989)

実は,この Samuelson (1948b) と同じような方法で「45 度線図」を描いている教科書もある。それが,

佐藤 (1989) である。佐藤 (1989, 35 頁) は,「ケインズの国民所得決定理論のもっとも簡単な図は,入門

書の冒頭で紹介される 45度線図です」としている。そして,「ケインズは国民所得統計の助けを借りずに,

国民所得決定理論を作り上げました。実際には,ケインズ理論ができたからこそ,国民所得統計が作られ

るようになったのです。ケインズの天才性はここにあるといえましょう」(佐藤 1989, 35 頁)と明言してい

る。その佐藤 (1989, 36 頁) による「45度線図」(図 8) について確認してみよう。

図 8 佐藤 (1989, 36 頁)

そこでは,「物価・賃金・利子率の貨幣面は無視して,財貨生産の実物面に焦点が合わされます……〔ま

た〕政府も海外部門も考えない経済を例にとる」(佐藤 1989, 35 頁) とされている。その場合の「45 度線

図」において,「横軸は総生産≡総供給ですから,Ysとします。45 度線はこの Ysを再度図示しています。

総生産は総所得でもあり,その総所得に対応して総支出=総需要が決定されます……総需要 Yd = C + I

であり,I は外生変数とし,Cは所得の関数として,消費関数を導入しますと,Yd= Ysとなる点を均衡産

出解とすることができます」(佐藤 1989, 35 頁) とされている。そして,佐藤 (1989, 35 頁) は,「もう少

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し一般化すると,Ydを Ysの 1 次関数として」,以下のように

Yd= aYs+ b

と表わすことができるとしている。その場合,1 > a > 0,b > 0 であるとされている。すなわち,そこでは,

「aは限界支出性向で正の小数」,「bは縦軸の切片で正」と仮定されているのである(佐藤 1989, 35 頁)。

この Yd の定式化は,ケインズが『一般理論』(Keynes 1936)の第 3章「有効需要の原理」において示し

た,「有効需要(D)」を構成する 2つの要素,すなわちD1とD2,に基づくものであると考えられる。ケイ

ンズ (Keynes 1936, p. 28) によれば,D1とは,「社会の所得とそこから消費支出に充てられると期待される

額」であり,「われわれが消費性向と呼ぶ社会の心理的特性に依存する。すなわち,消費は,消費性向に

なんらかの変化がないかぎりは,総所得水準,したがって雇用水準 N に依存する」ものであるとされて

いる。一方,D2は,「新規投資に振り向けると期待される額」(Keynes 1936, p. 29)であるが,「投資規模は

利子率と当期の投資規模を変えていったときの資本の限界効率表との関係に依存し,資本の限界効率はと

いえば資本資産の供給価格とその期待収益との関係に依存する」(Keynes 1936, p. 147) ものであるとされ,

いわば,所得や雇用に依存することのない支出であるとされているのである。

このようなケインズ経済学の解釈に基づくものであると考えられる,佐藤 (1989) の示す「45 度線モデ

ル」においては,「均衡解」が,以下のように,

Y* = Yd= Ys

より,

Y* = b / (1 - a) > 0

として得られるとされている。したがって,「b を増加させると,総需要関数が上方へシフトして,均衡

産出水準を増加させます」(佐藤 1989, 35頁) とてしいる。そして,このような b と均衡産出水準の関係

は,以下のように定式化できるものであるとされている。

⊿Y*/⊿b = 1 / (1 - a)

そして,「これが乗数です」(佐藤 1989, 36 頁) とされている。また,この場合,「乗数は 1 / (1 - 限界支

出性向) であり,1 より小ですので乗数は 1より大きくなります」(佐藤 1989, 36 頁) とされている。

このように佐藤 (1989, 35-36 頁) においては,「45 度線モデル」が,「45 度線」を「総供給曲線」とと

らえて,それと,有効需要を表わすものとされている,「総需要曲線」との交点から横軸に引いた垂線の

足の水準に「均衡国民所得」が得られるとされているのである。それは,Samuelson (1948a) や Klein (1947),

さらには,Samuelson (1939) が示すような「45 度線図」ではなく,むしろ,図 9として描かれているよう

な,Davidson (1994, p. 28) において,右上がりの総供給曲線Z と右上がりの総需要曲線D とを用いて,そ

れらの交点 E の水準に「均衡国民所得」が決定されるという,ケインズ体系を概観するものとして描い

ている,「総需要と総供給の一般理論」を表わす図のほうに,きわめてよく似ているものなのである。

ただし,もちろん,佐藤 (1989, p. 36) の「45度線図」においても,「均衡国民所得」の達成について,

以下に示される叙述のように,在庫調整過程が想定されている。「ケインズが考えた経済は数量調整の世

界ですから,均衡を達成する模索過程も価格変動に依存しません。生産者がY1 > Y* という生産水準を選

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んだとすると,Ys = Y1 であり,この予想総所得に対応して,家計・企業は総需要 Ydを計画します。Ys >

Yd なので,差額の超過供給は,財貨なら在庫を増やし,サービスならむだになります。このマーケット・

シグナルが生産者に過剰生産を知らせることになりますから,次期には生産水準が切り下げられます。こ

の試行錯誤の結果,Ys → Y* となります」(佐藤 1989, p. 36 頁)。確かに,これは,いわゆる「45 度線モデ

ル」に見られる特徴的な性質の 1 つを示すものであるが,もう 1 つの特徴的な性質と見なされる,「貯蓄

と投資の均等による均衡国民所得決定」のメカニズムが,佐藤 (1989, p. 36) の「45 度線図」においては,

欠落しているのである(12)。そして,この佐藤 (1989, p. 36) の「45 度線モデル」では,その「45 度線」が,

Samuelson (1948b) の場合と同じく,「総供給曲線」として扱われていることにより,これを「45 度線モデ

ル」の「第 3のヴァージョン」として捉えることができるのである。

図 9 Davidson (1994, p. 28)〔総需要Zwl,総供給Dwlは,いずれも賃金単位で測られている。〕

3.9 Schneider (1962)(13)

Schneider (1962) では,その第3章において,「国民所得の決定と変動 (The Determinants of National Income

and its Fluctuations)」について論じられているが,そのなかで,「私の知る限り,現在では一般に使用され

ている,この有用な『45度線図』は,1935 年に,デンマークのイーヴァ・ヤンツェン (Ivar Jantzen) によ

って書かれた,『計画経済の理論について (Lidt planøkonomisk Teori )』(Nordisk Tidsskrift for teknisk Økonomi,

Vol. 1, 1935)と題される著作〔Jantzen (1935)〕において,所得決定の理論の展開にたいして初めて用いられ

たものである」 (Schneider 1962, p. 100) とされている(14)。Schneider (1962, pp. 100-101) によれば,Jantzen

(1935) は,1939 年に英訳 ("On the Theory of Planned Economy") されて,論文集 (Jantzen 1939) の中に収録

されているとのことである。そして,Schneider (1962, p. 101) は,「その著作は,経済学説史の観点からき

わめて興味深いものである」とし,「私の知る限りでは,輸出,輸入,および国民所得の関係についての

最初の分析と外国貿易乗数理論の明晰な展開を含んでいるものである」と論評しているのである。

3.10 Jantzen (1935)

Jantzen (1935) を「45 度線モデル」の最初の考案者と認めることについて,Guthries (1997, p. 317-318) は,

疑問の余地があるとしているが,Schneider (1962, pp. 100-101) の主張を考慮に入れて,Jantzen (1935) の「45

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度線モデル」を確認してみよう。Jantzen (1935, p. 99) では,確かに,「45度線図」を用いて,国民所得の

決定が示されている。しかし,それは,私たちの多くが知る,いわゆる「45 度線図」とは全く異なる,

図 10 として描かれているものである。Jantzen (1935, p. 99) においては,いわば,1 国の経済全体 (a

composite economy circle) の「営業勘定 (operating accounts)」にもとづいて描かれているものであるが,そ

の場合,一般的に経済学の教科書に掲載されている「45 度線図」とは異なり,海外部門を最初から理論

枠組みに組み込むことによって,それにより初めて,海外部門を控除した形での「国民所得 (national

income)」が,「最適収入 (optimum revenue)」(Jantzen 1935, p. 99) として得られることを示しているもので

ある。

図 10 Jantzen (1935, p. 99)

その「45度線図」では,「営業勘定」をもとにして,縦軸で「輸入 (importation, K)」,横軸で「総生産 (total

production, T)」を測るものとされている。そして,横軸にたいして 45 度の補助線を,この 2 次元空間に

描くことにより,「総生産 (T)」をも測るものとされている。さらに,この「総生産 (T)」から,生産に用

いられる,いわば「費用」と見なされている,「輸入 (K)」を控除したものが,「利潤 (R)」としての「国

民所得」であるとされており,よって,これについても,縦軸で測られるとされているのである。そして,

「輸入 (K)」は,「総生産 (T)」の増加関数であるとされている。Jantzen (1935) では,以上のように,2

次元空間に 45 度の補助線を引いているのであるが,それはいわば,「営業勘定」に基づいて,「総供給」

と「総需要」が一致していることを表わす直線として描かれているものである。この場合,「輸入 (K)」

も確かに,「総需要」を構成する 1 要素であるので,その意味で,需要によって「国民所得 (R)」が決定

されるということを示している。しかしそれは,「総生産 (T)」と「輸入 (K)」との差が最大になるよう

な生産水準に,「最適収入」としての「国民所得 (R)」が決定されるというものであり,通常,私たちが

知っている「貯蓄と投資の均等」によって「均衡国民所得」が決まるというメカニズムを示すものではな

い。さらに,この Jantzen (1935) が示す「45度線モデル」は,私たちが知っている「45 度線モデル」とい

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うものが,Montgomery (2010) が述べているように,「在庫調整モデル」としての性格を有するものであ

るが,その性格が欠落した,異なる種類のものであることを示している。

以下,そうした Jantzen (1935) による「45度線モデル」の性格について,私たちの多くが知る,いわゆ

る「45 度線モデル」との違いに注意を払いながら,確認してみよう。

(1) T は,「総生産 (total production)」を意味するが,それは,T = Z + E として定式化されるものであると

されている。Zは,「国内市場向け総生産 (total production less exports; production for the home market)」であ

るとされている。E は「輸出 (exportation)」である。この関係式が示していることは,「営業活動勘定」と

いう「貸借対照表」による「恒等関係」である。

(2) まず最初に,2次元空間を規定するために描かれた縦軸の「輸入 (K)」と横軸の「総生産 (T)」が均等

になることを表わすものとして,「45 度線」が引かれているわけではない。それはあくまでも,横軸にた

いしての 45 度の補助線ということで,「総生産 (T)」を表わすために引かれたものである。(この「45 度

線」の扱いは,「第 3のヴァージョン」と同じものである。)

(3) もし,この「45度線図」が,T = K を表わすならば,定義より,T = R + K なので,その場合,「総

生産 (T)」が非負であっても,「国民所得 (R)」は,ゼロということになってしまう。

(4) したがって,「国民所得 (R)」が発生するのは,「45 度線」と,生産にたいする費用と見なされている

「輸入 (K)」を表わす「K 曲線」との交点より東側における,両線によって規定される領域である。

(5) K (T) の接線の傾きが 1 となる場合,すなわち,その接線が 45 度線と平行になる場合,「最適解」と

しての「均衡国民所得 (Rmax)」が得られるとされている。

(6) Jantzen (1935) における「45 度線」は,いわば,「総供給」曲線であると見なされるものであるが,そ

れは,また,「営業勘定」により,「総需要」と一致する曲線でもあるとされている。いわば,「セイの法

則」に支配されている状態を表わす 1 本の直線である。したがって,この 1本の「45 度線」だけでは,「国

民所得 (R)」は不確定になってしまう。よって,「総需要」を反映した形で描かれるK曲線を,「費用関数」

としての性質をもつものとして,導入する必要があると考えられるのである。つまり,Jantzen (1935) の

「45 度線モデル」は,Samuelson (1939; 1948a; 1948b) やKlein (1947),そして,一般的なマクロ経済学の

教科書において示されているような,いわゆる「45度線モデル」として,「総供給曲線」と「総需要曲線」

との交点により,国民所得が決定されるという理論枠組みではなく,45 度線から「費用曲線」としての

K 曲線が最も乖離した「総生産 (T)」の水準に,「最適解」としての「国民所得 (R)」が決定されるという

ものなのである。そして,このときの「国民所得 (R)」が「国民生産体系の潜在能力 (the capacity of the system

for national production)」を示すものであるとされているが,それはいわば,一種の「均衡国民所得」を表

わしているものと見なされる。ただし,その場合の「均衡国民所得」は,すなわち,「完全雇用」を表す

生産水準として見なされるものであるので,「不完全雇用」均衡の可能性を示し,「非自発的失業」にたい

しての説明を与える,いわゆるKeynes (1936) に由来するものとして一般的に認知されている「45度線モ

デル」とは,性格が大きく異なるものとなっているのである。「均衡」へと向かう経済活動のメカニズム

が,いわゆる「45 度線モデル」において,在庫調整メカニズムにより示されているが,その場合の「均

衡」についても,必ずしも「完全雇用均衡」を意味するものではないということが示され得るのであるが,

この Jantzen (1935) においては,経済活動のメカニズムにより向かう「均衡」が,明らかに「完全雇用均

衡」をもたらすものであるとされているのである。したがって,そうしたモデルの性格をふまえれば,

Schneider (1962, pp. 100-101) の主張は受け容れ難く,Jantzen (1935) が「45度線モデル」を最初に考案し

たものと認めることはできない。

4. Kalecki (1929; 1933; 1938)

MACRO REVIEW, Vol.31, No.2, 36-79, 2019

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実は,もう 1 つ,教科書に掲載されている,いわゆる「45 度線モデル」の原型として,Kalecki (1929; 1933;

1938)(15) を見出すことができるのである。「45度線モデル」の考案者として,まれにではあるが,Klein (1947)

や Samuelson (1948a) に言及している教科書はあるものの,この Kalecki (1929; 1933; 1938) にふれている

ものは,皆無である。カレツキ自身が「45 度線モデル」の先駆者としての認識があったかどうかという

ことについては不明であるが,有効需要の論理に基づく短期国民所の決定について,これらカレツキの一

連の論文により「45 度線図」を描くことができるのである(16)。ここでは,そのカレツキによる「45 度線

モデル」について,形成過程をたどることにより,その成立を明らかにする。

4.1 Kalecki (1929)

Kalecki (1929) は,Osiatyński (1990) が述べているように,まさにカレツキによる理論的研究の最初の論

文であり,当時のポーランド経済がかかえる重要な現実的問題を取り上げている。それは,どのようにし

て貿易収支は黒字化されうるかという問題であった(17)。その場合,Kalecki (1929) が用いた方法は,国民

所得のバランスシートであった。高校卒業後,兵役を終えてからの,グダィンスク・ポリテクニック(Gdańsk

Polytechnic) 在学中に,経済問題に興味をもつようになったカレツキは,物理学における熱力学の法則と

同じように経済法則を定式化したいと考えたのであった。熱力学の法則は,エネルギーの流入と流出のバ

ランスシートとして理解されるならば,それとカレツキによる国民所得のバランスシートの方法との間に

は,類似性が認められるとされている (Osiatyński 1990, p. 423)。このような国民所得のバランスシートの

方法は,カレツキの景気循環理論の基礎となり,資本主義,社会主義,および,発展途上諸国の経済を分

析する際に,カレツキによって好んで用いられるようになったものであるとされている(Osiatyński 1990, p.

423)。

そのような背景のなかから誕生したのが,カレツキの最初の経済理論の論文であるKalecki (1929) なの

である。そこでの結論は,輸入制限や新たな輸出市場の獲得は,貯蓄の増加をもたらし,それによって貿

易収支が改善されうるというものであるが,より根本的には,投資そのものについて,政府が,公企業に

たいして直接制限を加えたり,民間企業にたいする信用制限を通して,制限すべきであるというのである。

ただし,その場合,将来の貿易収支にたいする影響の観点から,明確に企業を選抜すべきであるとしてい

るのである(Kalecki 1929, pp. 19-20)。しかしながら,そうした理論を展開するKalecki (1929) について,こ

こで,注目したいことは,消費と投資による国民所得の決定を示す「45 度線モデル」を 2 次元空間に図

示する場合,その枠組みとなる縦軸と横軸,そして,両軸にたいして 45 度の勾配をもつ補助線が,はっ

きりと明示されているということなのである。Kalecki (1929, p. 15) において,社会の産出量は,当該社会

における生産過程において生み出された価値の増加であり,当該社会における支出と均等するものである

とされている。つまり,生産された付加価値が,所得として分配され,それが支出と均等するという,い

わゆる「三面等価の原則 (national income in three equivalent views)」が明示されているのである。Kalecki

(1929, p. 15) が,第 1に示すバランスシートは,以下の表 1として表わされているものである。なお,Kalecki

(1929) のモデルでは,論理を展開するうえで,政府部門が捨象されている。

表 1 Kalecki (1929, p. 15)

___________________________________________________________

Social output Final consumption

Increasing property, equipment, and stocks

Active trade balance account

表 1 において,左側の項目に掲げられている Social output は,「社会の産出量」である。右側の項目と

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して掲げられている Final consumptionは「消費」,Increasing property, equipment, and stocks は「投資」,Active

trade balance account は「輸出」を表わしている。そして,もし,当該社会において,「輸出」ではなく「輸

入」がなされている場合には,バランスシートの右側にたいして Active trade balance account を掲げる代わ

りに,左側にPassive trade balance account (「輸入」)が掲げられるとされている(Kalecki 1929, p. 15)。また,

「社会の所得 (Social income)」については,「海外からの移転所得 (Transfer of income from abroad)」を控除

すれば,バランスシートの左側において,表 2 のように,記載できるとされている。

表 2 Kalecki (1929, p. 15)

_____________________________________________________________________________________

Social income less Final consumption

Transfer of income from abroad Increasing property, equipment, and stocks

Active trade balance account

また,所得を用途別に捉えれば,表 3 が得られるとされている。その場合,バランスシートにおいて,

左側には項目として,「消費 (Final consumption)」,「貯蓄 (Increase of funds saved)」,そして「海外への移転

所得 (Transfer of income abroad)」と「海外からの移転所得 (Transfer of income from abroad)」が記載されて

いるので,この場合,右側に記載されている最後の項目は,「輸入」と「輸出」を加味した「貿易収支」

を表わしているものと見なされる。そしてさらに,表 3 を整理すれば,表 4として表わされるバランスシ

ートが得られるとされている。

表 3 Kalecki (1929, p. 15)

_____________________________________________________________________________________

Final consumption Final consumption

Increase of funds saved Increase in property, equipment, and stocks

Transfer of income abroad less Active trade balance account

Transfer of income from abroad

表 4 Kalecki (1929, p. 15)

_____________________________________________________________________________________

Increase in funds saved Increase in property, equipment, and stocks

Active balance of transferred incomes Active trade balance account

したがって,表 4の左側の最後の項目として掲げられているActive balance of transferred incomes は,「海

外からの移転所得の純増」を表わしているものと見なされる。表 4 から,次式が得られるとされている

(Kalecki 1929, p. 16)。

貿易収支 = 貯蓄 - 投資 + 海外からの移転所得の純増

この式の左辺は,Active trade balance account とされているのであるが,これを Passive trade balance account

と見なすことにより,次式が得られるとされている(Kalecki 1929, p. 16)。

貿易収支赤字 + 海外からの移転所得の純増 = 投資 - 貯蓄

この式が,当時のポーランドが直面していた貿易収支赤字の状況を表わすものであるとされている。よっ

て,この場合,左辺の第 1 項および第 2 項双方は,海外への通貨の流出を表わしており,これが通貨の安

定性を脅かすものであるとされている。したがって,投資と貯蓄の差を縮小させることにより,貿易収支

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は改善されるものであるとされているのである (Kalecki 1929, p. 16)。

このようなKalecki (1929) の理論から,Samuelson (1939),Klein (1947),Samuelson (1948a),Samuelson

(1948b) と同様に,海外部門を捨象すれば,国民所得の決定を明らかにする「45 度線モデル」を図示する

ための枠組みである縦軸と横軸を,図 11 のように描くことができる。

図 11 45-degree line diagram directly drawn from Kalecki (1929)

そこにはさらに,両軸にたいして 45 度の勾配をもつ補助線を描くことができるのであるが,その「45

度線」こそが,Kalecki (1929) の「国民所得のバランスシート」から得られる,縦軸と横軸の値が均等で

あることを表わす,「45度線モデル」の形成にとって決定的に重要な「補助線」なのである。

4.2 Kalecki (1933)

都留 (2006, 113 頁) によれば,国民所得推計は,アメリカでも 1930 年代以降はじめてその端緒につい

たものであるとされているが,Kalecki (1929) に,その先駆けとなるものを見出すことができるのである。

しかし,その時期のカレツキの業績には,「もっと重要なもの」(都留 2006, 113 頁) があるとされている。

それが,1933 年にポーランド語で発表された「景気循環について」と題された論文,Kalecki (1933) であ

る(18)。

Kalecki (1929) による国民所得のバランスシートで示された「三面等価の原則」は,恒等関係を表わす

ものであるが,国民所得の決定にかかわる論理を有効需要の原理を用いて示そうとしたのが,Kalecki

(1933) である。そのKalecki (1933) によるモデル,および,それに関連するKalecki (1938) については,

カレツキの国民所得決定の論理の成立とその過程を明らかにする,松谷 (2004) において,すでに取り上

げられているが,カレツキの「45 度線モデル」の導出にあたり,再度,ここで,確認しておくことにす

る。また,次節では,Kalecki (1938) についても,同様に再度,確認することにする。

Kalecki (1933) は,資本主義経済における景気循環の自律的メカニズムを,投資と資本ストックの相互

関係から,明らかにすることを主題にしているものである。しかし,その根底には,有効需要の論理にも

とづいた,国民所得のうちの利潤所得の決定の理論が,含まれている。その場合,Kalecki (1933) による

モデルでは,Samuelson (1939),Klein (1947),Samuelson (1948a),Samuelson (1948b) における「45度線モ

デル」と同様に,趨勢の伴わない封鎖経済体系が想定され,政府部門は捨象されている。また,人口の増

減,技術進歩,中央銀行の政策も,また,捨象されている。つまり,いわゆる「短期」の経済が想定され

ている。さらに,集計化された経済的諸変数には,物価変動の効果を除去した実質値が用いられている。

これらは,次節で確認をおこなう,Kalecki (1938) についても同様であるとされている。

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Kaelcki (1933) により,国民所得のうち,利潤所得の決定を示すモデルとして,以下の 3 本の方程式が

得られる。

(1) P = C + A

(2) C = B0 +λP

(3)A= A-

(1),(2) 式は,Kalecki (1933, pp. 68-69) において,明示されているものである。(1) 式は,実質粗利潤 P,

すなわち,資本家の実質総所得が,彼らの消費C と粗蓄積 A (在庫の増加,固定資本の再生産と拡張) の

和に等しいものとされている。単純化のため,景気循環を通じて,在庫は一定であると仮定されているの

で,Aは投資財の生産に等しいとされている。(2) は,資本家の消費C を表わしており,固定的な資本家

の基礎消費部分B0と,粗利潤に比例する部分 λPから成り立っている。通常,B0の値は,正であるとされ

ている。また,λは,1 より小さい正の係数で,資本家の限界消費性向を表わすものであるとされている。

そして,粗蓄積Aについては,「45度線モデル」の導出にあたり,Kalecki (1933) における議論を単純

化して,一定A-

として表わしている。この単純化は,時点 t における投資 Atは,それ以前の時点におい

て決定されるという,Kalecki (1933, pp. 75-76) において展開された議論にもとづいている。そこでは,投

資財の注文が I,その生産はAで示され,あらゆる投資財の注文から引渡しまでの時間は,平均建設期間

θ として扱われている。また,投資財の生産Atは,It-θ/2に近似的に均等になるとされているので,

(4)At = It-θ/2

と定式化できるものとされている。(4) 式の右辺は,時点 It-θ/2における投資財注文量 I を表わすものであ

るとされ,

(5) It-θ/2 =a ( B0 + At-θ/2 ) - bKt-θ/2

として示すことができるものであるとされている。(5)式において,投資財注文量 I は,粗蓄積 A の増加

関数であり,資本設備量K の減少関数であるとされている。a および b は,正の係数である。この(5)式は,

Kalecki (1933, p. 74) において,資本設備量K にたいする投資財注文量 I が,粗収益性P/K の増加関数であ

り,かつ,利子率の減少関数として示されているものを,利子率は景気の変動と同じ方向に変動するもの

とされていることにより,線型関数として書き直されたものである。

したがって,以上,(1),(2),(3)式の 3つの方程式において,資本家の基礎消費 B0を一定とし,資本家

の限界消費性向 λ をパラメーターと見なせば,未知数は,粗利潤 P,資本家の消費C,粗蓄積Aの 3つで

ある。よって,方程式の本数と未知数の個数が一致していることがわかる。このことは,Kalecki (1933) よ

り得られるモデルでは,外生変数と見なされる粗蓄積A の値がA-

として与えられれば,国民所得のうち利

潤所得としての粗利潤Pが決定されることを表わしているのである。

では,国民所得のうちの,もう一方の所得である,賃金所得は,どのようにして決定されるのであろう

か。それについての理論を展開しているのが,Kalecki (1938) である。

4.3 Kalecki (1938)

都留 (2006, 113 頁) によれば,カレツキは,1929 年末にワルシャワの景気循環および物価問題研究所

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(Instytut Badania Koniunktur Gospodarczych i Cen) に採用されると,「資本制社会の国民所得は階級的所得分

配を明らかにするものでなければならぬという視点に立って統計的分析を行った」とされている。したが

って,Kalecki (1938) は,そこでの研究にもとづく,理論的研究成果として見なしうるものであると思わ

れる。

Kalecki (1938) における主題は,国民所得における労働分配率が,景気循環を通じて増減はするものの,

趨勢として比較的安定した傾向をもつことを,英米両国における統計的事実として確認 (Kalecki 1938, pp.

98-99) したうえで,そのメカニズムを理論的に解明することである。そこでの論理展開のなかで,利潤

所得の国民所得全体にたいする比率を表わす式として,

(6) P = ( 1-α) Y

を導き出すことができる。(6)式において,P は粗利潤,Y は国民所得を表わしている。α は,1 より小さ

い正の値をとる,労働分配率を表わしている。

以下では,どのようにして(6)式が得られるのかについて,確認することにする。Kalecki (1938) では,

まず,企業が当該生産物価格を設定する際の費用構造について,分析が加えられている。その場合,短期

限界費用 m が,限界的な減価償却費,俸給,賃金,原材料費の合計として定義されている。他方,企業

の生産物価格 p は,単位生産物当たりの平均企業家所得 (利潤および利子) に,減価償却費,俸給,賃金,

原材料費の各平均費用を,合計したものとして定義されている。そして,そこでは,(7)式として表わさ

れている,Lerner (1934, p. 169) の独占度の概念 μ(19) ,

(7) μ=( p - m ) / p

が援用されているのであるが,Kalecki (1938, p. 100) は,これを「企業の独占度 μ」と呼んでいる。Kalecki

(1938, p. 102) は,この「企業の独占度 μ」により,すべての企業の生産物価格と限界費用を集計し,(8)

式のように,平均独占度μ-

を導出している。

(8) μ-

= ( Π + M + S ) / T ≡ P / T

この場合,Π,M,Sは,それぞれ,企業家所得,減価償却費,俸給の集計値を示している。また,Pは,

それら 3項目の合計であり,Kalecki (1938, p. 102) によって,「粗資本家所得および俸給」と呼ばれている

ものであるが,すなわち,粗利潤を示している。そして,T は総売上高を示している。

Kalecki (1938, p. 102) においては,粗国民所得Yは,粗利潤P と賃金Wの和に等しいことが明示され

ているので,(8)式は,(9)式として,書き換えることができるとされている。

(9) ( Y - W ) / T = μ-

さらに,この(9)式の両辺に,T / W を掛けることにより,(10)式が得られるとされている。

(10) W / Y = 1 / ( 1 + μ-

・T / W )

(10)式は,国民所得における労働分配率を表わしている。ただし,Kalecki (1938) の修正版であるKalecki

(1939, p. 29) によれば,総売上高対総賃金費用比率 T / W は,独占度の上昇に伴い上昇するとされている。

その理由として,独占度の上昇は,原材料価格の下落を背景に,賃金にたいする企業の生産物価格の上昇

を表わすものであることが挙げられている。よって,(10)式より,国民所得における労働分配率は,独占

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度に依存し,独占度が上昇するならば,労働分配率は減少するものであることが明らかにされている。

いま,労働分配率を,記号 αを用いて表わせば,次式を得る。

(10') 1 / ( 1 + μ-

・T / W ) = α

したがって,(10)式は,(11)式として,書き換えられることになる。

(11) W =αY

(11) 式は,独占度を反映する係数 α の値が,独占度が上昇すれば小さくなり,国民所得に占める賃金の

比率が低下することを表わしているのである。

そして,一方,粗国民所得Yは,粗利潤Pに賃金Wを加えたものに等しいので,粗利潤 Pについても

同様に,

(6) P = ( 1-α) Y

として表わすことができるということになる。資本家と労働者からなる 2 階級モデルである,カレツキの

「45 度線モデル」の導出は,国民所得の分配率を決定する,このKalecki (1938) より導出された (6)式を

導入することによって,初めて可能になるものなのである。

4.4 Kalecki (1929; 1933; 1938) による「45度線モデル」

以上のKalecki (1929),Kalecki (1933),Kalecki (1938) において明示された,あるいは,それらから導出

された構成要素を用いることによって,カレツキの「45 度線モデル」を構築することができる。それは,

以下の8本の方程式によって,初めて,成立しうるものなのである。その場合,Samuelson (1939),Klein (1947),

Samuelson (1948a),Samuelson (1948b) におけるモデルと同様に,封鎖経済が想定され,政府部門は捨象さ

れている。

(12) Ys = Y

(13) Y = P + W

(6) P = ( 1 - α) Y

(14) Cw = W

(2) C = B0 +λP

(3)A= A-

(15) Yd = C + A+ Cw

(16) Ys = Yd

以上の 8 本の方程式において,(12)式は,Kalecki (1929, p. 15) において示された表 1および表 2 から得

られるものである。それは,社会全体における付加価値の生産である総生産Ys は,その生産に携わった

経済主体にたいして,所得として,余すことなく分配されるので,国民所得 Y に等しいことを表わして

いる。また,その国民所得Yは,Kalecki (1933) および Kalecki (1938) においては,資本家と労働者から

なる 2 階級モデルが想定されているので,(13) 式のように,粗利潤 Pと賃金Wの和に等しいものとして

表わすことができる。(6) 式は,すでに示したように,Kalecki (1938) にもとづいて導出した,国民所得に

占める利潤の分配を表わしている。(14) 式は,Kalecki (1933, p. 69) における,「労働者の貯蓄を捨象する」

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64

という仮定から,労働者の消費Cwは,賃金Wに等しいことを表わしている。この場合,労働者の限界消

費性向は,資本家とは異なり,1 に等しいものとして捉えられるので,(14)式が,すなわち,労働者の消

費関数を表わしていることになる。一方,(2) 式は,Kalecki (1933, p. 69) において明示されているもので

あるが,それは,資本家の消費関数を表わしている。その場合,資本家の消費 C は,基礎消費部分 B0と

粗利潤に比例した λPの 2つの部分から成り立っていることを示している。B0の値は,通常は正であると

されている。λ は,1より小さい正の係数で,資本家の限界消費性向を表わしている。(3) 式は,Kalecki (1933)

から導出された投資関数である。ある時点における粗蓄積 A は,その時点より以前に決定された外生変

数として扱われていることにより,当該時点における投資Aは,所与で,一定A-

として表わすことができ

るのである。(15) 式は,総支出 Ydを表わしている。それは,Kalecki (1929, p. 15) において,消費と投資

から成り立つものとされている。しかしながら,さらに,Kalecki (1933) および Kalecki (1938) によって,

社会全体の消費は,資本家の消費Cと労働者の消費Cwとの和として捉えられるとされているので,それ

に,投資Aを加えることにより,得られるものである。(16) 式 は,一般に「マクロ均衡条件」と呼ばれ

ている関係式であり,総生産ないし総供給Ysと総支出ないし総需要Ydの事後的な均衡を示すものとして,

Kalecki (1929, p. 15) における,国民所得のバランスシートから導出されるものである。

これら 8 本の方程式で構成されるモデルの未知数は,国民所得Y,粗利潤 P,賃金W,資本家の消費C,

粗蓄積ないし投資 A,労働者の消費 Cw,総生産ないし総供給 Ys,総支出ないし総需要 Ydの 8 つであり,

方程式の本数と未知数の個数は,一致する。したがって,このモデルによって示される体系は,(17) 式

のように 1 本の式として表わすこともできる「確定体系」なのである。

(17) Y* = { 1 / (1 -α) ( 1 -λ) } A-

+ B0 / (1 -α) ( 1 -λ)

(17) 式において,資本家の基礎消費部分 B0は,一定と仮定されている。また,労働分配率 α を決定する

平均独占度μ-

は,短期において不変と想定されるので,α はパラメーターと見なすことができる。そして,

資本家の限界消費性向 λもパラメーターと見なすことができるものである。よって,当該時点における粗

蓄積,すなわち,投資 A の水準が,過去の時点において決定されたものとして,いわば独立投資のよう

に,一定A-

として与えられれば,当該の時点における国民所得が,均衡国民所得 Y*として,決定される

ことを,(17)式は,表わしているのである。

このような,Kalecki (1929),Kalecki (1933),Kalecki (1938) から得られる,有効需要の論理にもとづく

短期国民所得の決定を明らかにしている体系を,図式化するならば,Samuelson (1939),Klein (1947),

Samuelson (1948a),Samuelson (1948b) が示しているような,「45度線モデル」として,「カレツキの 45 度

線モデル (the Kalecki Cross)」ないし「松谷の 45 度線モデル (the Matsuya Cross)」と呼ぶことができるよ

うなものを,図 12 として描くことができるのである(20)。

図 12として描かれた「45 度線モデル」は,資本家と労働者からなる 2 階級モデルなので,縦軸と横軸

が,それぞれ二重になって描かれている。つまり,外側の大きな縦軸と横軸によって描かれた 2 次元空間

によって,国民所得の決定が示されているのにたいして,内側の小さな縦軸と横軸による 2次元空間によ

って,国民所得のうちの利潤所得の決定が示されている。外側の縦軸は,総生産ないし総供給 Ysを測る

ものであるが,また,労働者の消費Cw,資本家の消費C,粗蓄積ないし投資Aを測る,いわば総需要を

測る,軸でもあり,横軸は,賃金 W,利潤 P,国民所得 Y を測る軸である。一方,内側の縦軸では,資

本家の消費Cと粗蓄積 Aを測り,横軸では,資本家の所得である利潤 P を測る。また,このような 2 次

元空間において,縦軸と横軸の双方にたいして 45 度の勾配をもつ補助線が原点Oから直線で引かれてい

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るが,外側の両軸にたいしての 45 度線は,(12) 式で示されているように,総生産 Ysと国民所得 Y が等

しいことを表わし,一方,内側の両軸にたいしては,(1) 式で示されているように,粗利潤P が,資本家

の消費Cと粗蓄積Aの和に等しいことを表わしている。

図 12 「カレツキの 45 度線図 (the Kalecki Cross diagram)」

あるいは「松谷の 45度線図 (the Matsuya Cross diagram)」

まず,内側の 2次元空間について見てみよう。そこには,(2)式により,基礎消費の水準をB0 ( > 0 ) と

し,限界消費性向 λ を 1 より小さい正の係数とする資本家の消費 C が,粗利潤 P の増加関数として,45

度線と交わる直線で描かれている。一方,粗利潤 P は,資本家の消費 C だけでなく,粗蓄積 A,すなわ

ち投資需要にも依存しているので,投資水準が一定 A として与えられれば,資本家の消費 C の上に平行

した形で,投資水準 A を示すことができる。このようにして描かれた,資本家の消費需要 C に投資需要

A を加えた直線は,45 度線と,点 E で交わる。この交点から内側の横軸に垂直に下ろして得られる垂線

の足 P* が,資本家の総所得である粗利潤の水準を示している。これは,いわば,「均衡資本家所得」と

でも呼べる水準である。このように,Kalecki (1933) によって明示された(1),(2)式,そして,Kalecki (1933)

から導出された(3)式により,有効需要の論理にもとづく利潤決定の理論が,図 6 の内側の 2次元空間に,

1 つの 45 度線図として描くことができる。

次に,外側の 2 次元空間について見てみよう。横軸は,国民所得Yを測る軸であるが,Kalecki (1933, p.

69) において,労働者は貯蓄しないものと想定されているので,賃金所得 W は,すべて消費されるもの

として扱われている。よって,(14) 式より,労働者の限界消費性向を 1 とする,労働者の消費Cwが,45

度線と重なり合う形で描かれている。そして,その賃金水準Wは,横軸にOM として示される。利潤水

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66

準 P については,内側の 2 次元空間内に描かれた 45 度線図における「均衡資本家所得」としての利潤水

準 O'P*が,そのまま同じ水準で,外側の 2 次元空間の横軸に MY*として描かれている。また,この利潤

水準は,(6) 式より,国民所得にたいする利潤の分配率を用いて表わせば,( 1 -α) Y である。また,賃

金の分配率は,利潤の分配率と表裏の関係にあるので,賃金水準 W を表わす OM は,αY として示され

る。そして,賃金Wと利潤P の合計が,国民所得Yとして,示されている。一方,外側の縦軸には,こ

の賃金水準 W と同じ水準を表わす,労働者の消費需要 Cwが,45 度線にしたがって得られることが示さ

れている。また,「内側の 45度線図」から得られた,資本家の消費需要水準C と投資需要水準Aもまた,

外側の縦軸に示されている。そして,それら 3 つの需要水準の合計が総需要 Ydとして,縦軸に示されて

いる。したがって,縦軸で測られる,これら 3 つの構成要素からなる有効需要によって,45 度線にした

がい,横軸において国民所得が,均衡国民所得Y*として決定されることが示されている。これが,Kalecki

(1929),Kalecki (1933),Kalecki (1938) から得られる,「カレツキの 45度線モデル」である。

5. 考察

Kalecki (1929; 1933; 1938) による 45 度線モデルにおいて決定される国民所得Y*は,なぜ,均衡国民所

得と呼ぶことができるのであろうか。それは,Samuelson (1939),Klein (1947),Samuelson (1948a),Samuelson

(1948b) において示された「45 度線モデル」と同様に,貯蓄と投資の均衡によってもたらされる国民所得

であることを意味しているからなのである。つまり,具体的には,Samuelson (1948a, p. 259) が,図 3を

用いて示しているように,「貯蓄表と投資表の交点が,国民所得がその方向に引き寄せられるところの均

衡」を示しているのである。そして,Samuelson (1948a, p. 260) においては,貯蓄表と投資表の交点によ

って国民所得が決まることを示す論理に代わる,第 2の方法として,「45度線モデル」が示されているの

であるが,そこでの論理と同じ論理が,すでに,Klein (1947, p. 115),さらには,Samuelson (1939, p. 790) に

よる「45 度線モデル」として示されているのである。しかしながら,同じ論理は,両者に先立つKalecki

(1929; 1933; 1938) によって示されうる「45 度線モデル」によって,すでに明らかにされていたのである。

すなわち,図 12 において,資本家の消費Cを表わす直線の上に,粗蓄積Aが一定として与えられ,Cに

たいする平行線として描かれているが,この 2つの直線の差であるEDは,投資水準Aを表わしているだ

けでなく,同時に,貯蓄水準をも表わすものとして描かれているのである。つまり,Samuelson (1939, p. 790),

Klein (1947, p. 115),Samuelson (1948a, p. 260),Samuelson (1948b) と同様に,貯蓄と投資が均衡する水準に,

国民所得が決定されるということを示しているのである。それが,均衡国民所得 Y*であるというのであ

る。なぜならば,図 12 における 45 度線は,付加価値としての総生産 Ysが,国民所得として分配される

Y と等しいことを表わしているので,労働者の消費Cwの上に加えられた資本家の消費Cを上回る所得を

表わすED は,すなわち,貯蓄を表わすものに他ならないからである。Krugman (2011, p. 7) が,45 度線

モデルを重視しているのは,このように,簡単な有効需要にもとづく論理で,国民所得の決定を示すこと

ができるからなのであろうが,そのことを,「〔45 度線モデルは〕あまりにも粗雑で,あまりにも時代遅

れで言及するには全く値しない……しかしながら今なお,多くの高名な経済学者たちが主張していること

よりも,ずっと洗練されている基本的な論点を提示している」(Krugman 2011, p. 7) ものとして捉えられて

いるのである。

ただし,このような均衡国民所得は,完全雇用国民所得と必ずしも一致するものではないことに,注意

を払う必要がある(21)。なぜならば,生産過程において新たに生み出された付加価値が,総生産として扱わ

れ,それが所得として分配されるのは,その生産に携わった経済主体にたいしてのみだからである。した

がって,その生産に参加していない経済主体にたいして,所得は分配されないということになる。つまり,

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図 12 では,均衡国民所得がY*として示されているのであるが,この水準が必ずしも完全雇用国民所得と

一致するものではないということなのである。Y*よりも高い水準にYfという国民所得が示されているが,

これが完全雇用国民所得であるとしよう。その場合,生産に参加できていない経済主体が,Y*Yf として

示されているが,これが「失業」を表わしているのである。図 12 における均衡国民所得は,「三面等価の

原則」を表わすものではあるが,それは決して,完全雇用を表わしているわけではないのである。Samuelson

(1939),Klein (1947),Samuleson (1948a),Samuelson (1948b) による「45 度線モデル」の場合と同じように,

Kelcki (1933) においても,投資は自律的な変数であると見なされている。したがって,Samuelson (1948a,

p. 259) が論じているように,投資と貯蓄の均等する水準に,国民所得は引き寄せられ,均衡国民所得水

準に落ち着くというメカニズムが働いているのである。その場合の均衡国民所得の水準が,完全雇用国民

所得水準以下ならば,有効需要が不足していることを意味しているのである。

「45 度線モデル」では,政府部門が捨象されていた。つまり,民間部門だけで,完全雇用が達成でき

ない状態にあるならば,その不足している有効需要を,政府部門が補うように支出すれば,すなわち,図

12 の場合ならば,45度線上の点F を通るような,( C + A) 線にたいして平行な直線を描くような財政政

策を打ち出すことによって,失業は解消され,完全雇用国民所得水準に到達しうるという,しごく簡単な

論理なのである。Krugman (2011) が 45度線を高く評価しているのも,そういうモデルの性格なのである。

実際,Krugman (2011) は,古典派の復活を思わせるような最近の議論にたいして警鐘を鳴らし,財政政

策による需要創出が,同じ額だけの民間部門の需要を削減するという「クラウディング・アウト」効果と

いうものを否定しているのである。もし,「クラウディング・アウト」効果が起きるとすれば,経済にお

ける貨幣供給量が不変であり,また,完全雇用の状態にあるときであろう。しかし,経済が完全雇用状態

にあるときに,財政刺激策を打ち出す政府など,どこにあるというのであろうか。

Kalecki (1929; 1933; 1938) による「45 度線モデル」は,資本家と労働者からなる 2 階級モデルで,それ

が,Samuelson (1939),Klein (1947),Samuelson (1948a),Samuelson (1948b) による「45 度線モデル」と,

大きく異なっている点であり,また,特徴でもある。その場合,労働分配率 α が,平均独占度μ-

の影響を

受けて変化するものであることは,Kalecki (1938) において示されている。労働分配率 α は,1 未満の正

の値をとるものであるが,平均独占度μ-

の動きと反対の動きを示すというものなのである(22)。短期におい

て,平均独占度μ-

は不変と想定されているので,労働分配率 α はパラメーターと見なしうる。ただし,い

ったん,平均独占度μ-

が上昇すれば,労働分配率 αは低下することになる。この場合,図 12 を,低下した

労働分配率αに合わせて書き換えることにより,均衡国民所得Y*の水準が低下することが確かめられる。

また,このことは,(17) 式によっても確かめることができる。労働分配率の低下は,いわば,所得格差

の拡大を意味するものであるが,これについて,Samuelson (1948a, pp. 257-258) も,その「45 度線モデル」

を説明するなかで取り上げている。彼自身の「45 度線モデルは」,カレツキとは異なり,2 階級モデルと

いう形をとっているわけではない。どのように分析されているのであろうか。それは,所得格差が拡大す

るということは,国民所得の多くが,少数の経済主体によって占められるということを意味している。そ

の場合,限界消費性向について見てみると,所得が高くなればなるほど,限界消費性向の値は小さくなっ

ていくことにより,所得格差が拡大した場合の限界消費性向は,それ以前の限界消費性向よりも,小さな

値をとるということになるとされているのである。よって,Samuelson (1948a, p. 260) において示される

「45 度線図」の消費表 C は,起点の位置は変わらないとしても,それが描く曲線は,以前の勾配よりも

小さくなるので,以前に描いた曲線よりも下方に描かれることになるとされているのである。そして,そ

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れに平行した形で消費表の上に投資表が描かれるので,以前よりも西側で 45 度線と( C + I ) 線が交わる

ことになる。したがって,( C + I ) 線と 45度線との交点から横軸にたいして下ろした垂線の足に,均衡

国民所得 Y*が得られることになるというのだが,その水準が以前に比べて,低い水準に低下しているこ

とを示すことになるというのである。このように,Samuelson (1948a, pp. 258-260) で示された,「45 度線

モデル」における,所得格差の拡大についての分析は,消費表と投資表が,限界消費性向が所得の増加に

伴ってより小さな値をとるようになるという前提に基づいて,なだらかな凸状に湾曲した曲線として描か

れていることによって可能になるものなのである。

Samuelson (1948a) と同様に,Samuelson (1939),Klein (1947),Samuelson (1948b)においても,消費表と

投資表が,以上のような限界消費性向の性質を反映させて,なだからな右上がりの曲線で描かれるものと

されている。しかし,「教科書における 45度線モデル」では,直線で描かれている。しかも,それについ

ては,何らのことわりもなく,直線に書き換えられて描かれているのである。私の知る限り,この点につ

いてふれているのは,茂木 (2014, 451 頁) だけである。そこでは,Samuelson (1948a) によるKeynes (1936)

の消費にかんする考え方を紹介したうえで,「消費関数を,所得に依存する部分 C(Y) と,所得に依存し

ない部分Aの和であると考えましょう。これを記号で書けば,C = C(Y) + A となります。もちろん,所

得の増加に伴って C(Y) は増加するので,C'(Y) > 0 となっています。ここで,所得に依存する部分 C'(Y)

をより簡単に,所得の一定割合が消費に振り分けられると考えて, C(Y) = cY と置き換えると,消費関

数は,C = cY + A となります」と説明しているのである。通常,教科書に記載されている「45度線モデ

ル」の原型が,Klein (1947) ないし Samuelson (1948a) に求められるとしても,それらにおいて,消費曲

線や投資曲線は,理論的に意義あるものとして曲線で描かれているのである。それを単純化することによ

り,直線として描くことについて,何ら問題は生じないのであろうか。

ところが,Kalecki (1933) においては,Samuelson (1939),Klein (1947),Samuelson (1948a),Samuelson

(1948b) が,Keynes (1936) を解釈することによって,なだらかな消費表と投資表を描くことにより「45

度線モデル」を構築しているのとは異なり,消費関数が 1次関数の形で,明示されているのである。しか

も,Keynes (1936) 以前にである。先の所得格差の拡大による国民所得縮小の問題を参考にして考えてみ

れば,茂木 (2014, 452-453 頁) が「ケインズ型消費関数」における,所得にたいする消費の割合である「平

均消費性向」について説明しているように,図 12において,原点O'から資本家の消費C を表わす直線に

たいして接線を引くと,その接線の勾配が,所得の増加に伴い,小さくなっていくことが示されるのであ

る。この勾配が,資本家の平均消費性向を表わしているのであるが,ようするに,所得が増加すれば,所

得に占める消費の割合が小さくなっていくことを示しているのである。Kalecki (1929; 1933; 1938) により

得られる「45 度線モデル」は,2 階級モデルであり,したがって「分配要因」としての労働分配率 α が組

み込まれていることにより,それによって,所得格差拡大による国民所得の減少を明らかにすることがで

きるものであるが,その「45 度線モデル」に組み込まれているような,正で 1 より小さい値の限界消費

性向をもつ資本家の消費関数を用いることによって,異なる手法によるものではあるが,同様に,所得格

差拡大によって国民所得が減少することを明快に示すことができるのである。そのようにとらえれば,教

科書に記載されている「45 度線モデル」において,消費関数および投資関数が直線で描かれていること

について,平均消費性向が,限界消費性向の性質を代替するものとして用いられていると解釈することに

より,曲線が直線に変えられて描かれているということの謎が解明されうるのである。そして,教科書に

記載されている「45 度線モデル」ということになると,せいぜい考案者として挙げられているKlein (1947)

や Samuelson (1948a) とは異なり,それらに先立ち,1 次関数の形で消費曲線を描くことにより,現代の

標準的な「45 度線モデル」を形成する基盤的構成要素を提示していた Kaelcki (1933) が注目されるべき

であると考えるのである。

そして,そのモデルでは,Kalecki (1929) により,「45 度線」を縦軸と横軸の均等を表わすものとして

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捉え,「45 度線」は,「総生産」 (=「総供給」) と「国民所得」の均等を表わす直線として用いられてい

るので,「総供給」曲線ではない。しかも,横軸は,Kalecki (1929) により,「雇用」ではなく,「国民所得」

を測るものとして明示されている。そして,「カレツキの 45度線モデル」においては,Kalecki (1933) お

よび Kalecki (1938) により,集計化された経済的諸変数には,物価変動の効果を除去した実質値が用いら

れているので,Guthrie (1997, p. 317) が指摘する「45 度線モデル」の問題は生じない。さらに,Guthrie (1997,

p. 316) が指摘する「45 度線モデル」における,「インフレ・ギャップ」および「デフレ・ギャップ」の分

析にかかわる問題は,単に,それらが示す名称の問題にすぎないように思われる。というのは,そこで示

されている「均衡」への到達は,価格調整ではなく,数量調整によるものだからなのである。いずれにせ

よ,「カレツキの 45 度線モデル」は,Kalecki (1929; 1933; 1938) により,直接,提示されるモデルなので,

Guthrie (1997, p. 316) が指摘するような,Keynes (1936) の考え方を適切に表現しているものなのかどうか

という問題を引き起こすこともなく,有効需要の論理にもとづき,国民所得の決定を示す「45 度線モデ

ル」の導出に成功しているのである。

さて,以上のような考察にもとづけば,一般の経済学の教科書に掲載されている「45 度線モデル」は,

その性質を考えれば,資本家と労働者から成る 2 階級モデルとしてのKalecki (1929; 1933; 1938) から示さ

れる「45 度線モデル」を,凝縮して単純化したものと見なすことができる。というのは,さらに考察を

加えれば,一般の「45 度線モデル」においては,原点 O より上部に「基礎消費」が示されているが,す

でにKalecki (1929) においても,そのなかで「失業保険基金」を導入して,分析が加えられているからで

ある。このことは,Kalecki (1929; 1933; 1938)による「45 度線モデル」が,社会階級という「制度的要因」

を明示的に取り入れ,また,それにより「分配要因」を組み込んでいることに加えて,経済的弱者を考慮

に入れたもう 1 つの「制度的要因」をも組み込んだ,「福祉の経済学」としての視点をもつものであるこ

とを示しているのである。それは,図 12 として表わされた「カレツキの 45度線モデル」ないし「松谷の

45 度線モデル」から,さらに,図 13,また,そこから,図 14 を描くことにより,明確になる。そして,

その図 14 こそが,茂木 (2014, 457 頁) や緒方 (2010, 36-36 頁) によって示されている,「第 2 のヴァージ

ョン」としての「45 度線モデル」に他ならないものなのである。

図 13は,資本家と労働者から成る 2階級モデルとしてのKalecki (1929; 1933; 1938) を,Kalecki (1929) に

おいて示されている「失業保険基金」という「福祉の経済学」としての視点を考慮すれば,原点 O より

上部の B0の水準に「基礎消費」が得られることを示して,描いたものである。その場合の消費関数は以

下のようになる。まず,労働者の消費をCw,賃金をWとすれば,

CW = B0 +ξW

が得られる。ここで ξは,労働者の限界消費性向を表わすものであるが,Kalecki (1933) の仮定により,ξ=

1 である。一方,資本家の消費CKは,粗利潤をP で表わせば,(2) 式より,

CK = B0 +λP

と書き表すことができる。λ は,資本家の限界消費性向で,1より小さい正の値を取るものとされている。

また,独占度を反映した「労働分配率」が αで表わされていることから,

W =αY

そして,

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70

P = ( 1 -α ) Y

が得られる。よって,当該社会の平均的消費Cは,以下のように定式化される。

C = 1/2・{ (B0 +ξW) + (B0 +λP) }

= B0 +(ξ+λ)/2・(W + P)

ここで,(ξ+λ)/2 を ζ とおけば,

C = B0 +ζ(W + P)

を得る。

図 13 Consumption function derived from Kalecki (1929, 1933; 1938), drawn as the curve C

これを図式化すると,図 13 として描かれることになるのである。図 13 では,分配率 α を 0.5 として描

いている。しかしながら,独占度が上昇すれば労働分配率 α の値は小さくなり,その場合,消費曲線 C

は下にシフトすることになる。よって,国民所得は減少する。逆に,独占度が低下すれば労働分配率 α

の値は大きくなり,その場合,消費曲線Cは上にシフトすることになる。よって,国民所得は増加する。

ただし,独占度以外にも,αに影響を与えるものとして,Kalecki (1939, p. 91) においても指摘されている

ように,もちろん,労働組合の交渉力が挙げられるであろう。このことは,Guthrie (1997, p. 317) が

Samuelson (1948a) による「45度線モデル」について指摘していることでもあるが,カレツキの場合につ

いても,独占度を反映した「分配率」という「制度的要因」の下で,「基礎消費」という「福祉の経済学」

の視点を導入することにより,労働者の消費は賃金に等しいとする Kalecki (1933) による仮定を緩和し,

あえて所得分配や所得再分配といった側面にふれることのないような図を描くことにより,「政治的積極

行動主義」によってもたらされる所得再分配の効果を覆い隠すことになるように思われる。その隠蔽効果

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71

は,図 12 を基礎として描いた図 13 から導き出された,図 14 だけを提示されるならば,明らかなことで

ある。

Kalecki (1929; 1933; 1938) における含意は,消費支出と投資支出の決定をみずからおこなう能動的な存

在としての資本家が,また,社会における唯一の貯蓄主体でもあるとされていることから,不況の全責任

は,資本家に帰せられることになるということである。しかしながら,図 12 を基礎として,図 13 を描き,

そして,そこから,図 14を描いたということを無視して,図 14 だけを提示するならば,それは,あたか

も,Samuelson (1939),Klein (1947),Samuelson (1948a),Samuelson (1948b) が,Keynes (1936) を解釈する

ことによって描いたとされる,「45 度線モデル」の示すものに他ならないものとなる。その場合,Klein (1947,

p. 134) が述べているように,「賃銀からの限界消費性向が 1 以下だと考えるならば,貯蓄することの責め

は労働者と資本家とに分担される。このように問題を構成した場合には,資本家は全貯蓄の責任を,完全

雇用水準に応ずる投資を怠った責任を一緒に負う必要はない。彼等は,両方の階級すなわち労働者と資本

家との貯蓄を適切に相殺しなかったことにたいしてのみ責めを負うべきである」とするモデルとして,「45

度線モデル」が提示されることになるのである。しかしそれでも,このようなケインズ経済学から導き出

される「積極的財政主義」にたいする嫌悪から,ケインズおよびケインズ経済学を「政治的な主張」と捉

えて排除しようとする潮流が,実際に,米国で見られることが,Bateman (2010) において詳しく示されて

いるが,そのような情況下にあるならば,「45度線モデル」を最初に考案したものとして,Kalecki (1929;

1933; 1938) が,経済学の教科書に掲載されることについて困難が伴うことは,想像に難くない。事実,

国民所得の利潤と賃金への分割比率を表わす構成要素を結合させることによって,有効需要の論理にもと

づき国民所得の決定を示す,資本家と労働者からなる 2 階級モデルとしての「カレツキ経済学の基本構造」

の成立を,論文集の形で提示した Kalecki (1939) では,「投資の悲劇はそれが有用であるからこそ恐慌を

発生せしめることである。多くの人々は疑いもなくこの理論を逆説的と見なすであろう。しかし,逆説的

であるのは理論そのものではなく,その主題――即ち資本主義経済である」(Kalecki 1939, p. 149) と,そ

の論文集の最終章を結んでいるのである。

図 14 45-degree line diagram derived from Kalecki (1929; 1933; 1938)

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6. むすび

よって,以上の考察により,一般の経済学の教科書に掲載されている,有効需要の論理に基づいて国民

所得の決定を明らかにしている「45 度線モデル」は,縦軸で総供給および総需要,そして,横軸で国民

所得 (あるいは,総生産ないし総供給) を測る 2 次元空間に,両軸に対して 45 度の補助線を引くことに

より得られる「45 度線図」によって示されているものであるが,それは,資本家と労働者から成る 2 階

級モデルとしてのKalecki (1929; 1933; 1938) により示される「45 度線図」を,凝縮し単純化して示された

ものとして見なすことができるものなのである。本稿では,教科書における「45 度線モデル」には,経

済学説史的考察をもふまえて,3つのヴァージョンがあることが明らかにされたが,それらのほとんどは,

「45 度線モデル」の基礎をなす消費関数を 1 次関数として描いているものである。それについては,「カ

レツキの 45度線モデル」に構成要素としての線型の消費関数を与えている,Kalecki (1933) に優先権が認

められること,そして,「45度線モデル」の 3つのヴァージョンのうちの「第 2のヴァージョン」が,ま

さに,Kalecki (1929; 1933; 1938) により示される「45 度線モデル」を凝縮して描いた「45度線図」に他な

らないことが明らかにされた。したがって,経済学の一般的な教科書に記載されている「45度線モデル」

については,ケインズ経済学によるものであるとの言及にとどまり,せいぜい考案者として挙げられてい

る場合についても,Klein (1947) や Samuelson (1948a) が挙げられているにすぎないが,実は,それらよ

りもはるか以前に,また,経済学説史的研究により「45 度線モデル」を最初に考案したとされている

Samuelson (1939) に先がけて,Kalecki (1929; 1933; 1938) によってすでに構築され得ていたものが,「45度

線モデル」なのであると結論づけることができるのである。

*本稿の審査において,匿名の査読者から貴重なご指摘ならびにご教示等をいただいた。なかでも,その

うちの 1人には,本稿における図の多くを,出版に適する体裁に作図していただいた。また,作図してい

ただくなかで,有益なご意見を賜り,再考すべき点が明らかになった。さらに,編集委員長の小島紀徳氏

(元・成蹊大学理工学部教授)には,作図の誤植を修正していただいた。ここに記して,謝意を表する。本

稿を,執筆最中の 2019年 3月 25 日に急逝した,私の家族に捧ぐ。

(1) ジョン・ヒックス (John Richard Hicks, 1904-1989) は,1972 年にノーベル経済学賞を受賞している。

(2) ポール・サミュエルソン (Paul Anthony Samuelson, 1915-2009) は,1970 年にノーベル経済学賞を受賞

している。

(3) ローレンス・クライン (Lawrence Robert Klein, 1920-2013) は,1980 年にノーベル経済学賞を受賞して

いる。

(4) ポール・クルーグマン (Paul Robin Krugman, 1953-) は,2008 年にノーベル経済学賞を受賞している。

(5) ミハウ・カレツキ (Michał Kalecki, 1899-1970) について,都留 (2006, 105 頁) は,「ポーランドのほぼ

中央にウッジ (Łódź) という町がある。カレツキーは,そこで 1899 年 6 月に生まれたのだが……,その

当時,ウッジは帝政ロシアの領土内に組み込まれていた。……ケインズが『一般理論』 (1936 年) で展開

した「ケインズ革命」と呼ばれるほどの新しい理論の骨子を,カレツキーは 1933 年にポーランド語の論

文で発表していた」と紹介している。

(6) EE 線が直線で描かれているのは,CC線が直線で描かれていることによるものである。CC線が直線で

描かれる実証的な理由として,Samuelson (1941) がある。そこでは,通常の最小 2 乗法を利用して所得に

たいする消費の回帰をおこない,C = 27.5 + 0.54 Yという結果を得ているが,これについてピアソンの相

関係数で表わされた回帰の適合度は + 0.97 を越えているとし,きわめて良好であるとしている。EE 線を

直線でなく描いている例もある。例えば,伊藤 (2015, 292 頁) では,ケインズ『一般理論』と同様に,限

MACRO REVIEW, Vol.31, No.2, 36-79, 2019

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界消費性向が所得の増加に伴い逓減するものと捉えて,EE 線は曲線で描かれている。

図 n. 6-1 伊藤 (2015, 288 頁)

図 n. 6-2 伊藤 (2015, 292 頁)

(7) ただし,緒方 (2010, 36-37 頁) では,「45 度線図」の説明はあるものの,実際のその作図は読者の手に

委ねられている。

(8) 伊藤 (2015, 288, 292 頁) の「45 度線図」では,「総需要曲線」が曲線で描かれてはいるものの,その

「45 度線」は,茂木 (2014, 457 頁) や緒方 (2010, 36-37 頁) と同様に,「総供給」と「国民所得」の均等

を表わす補助線として描かれている。注 6 に挙げた 2つの図を参照せよ。

(9)ケインズおよびケインズ経済学の米国における政治的主張とのかかわりの展開について,詳しくは,

Bateman (2010) を参照せよ。

(10) Mill (1844) の参照頁は,Mill (1948) に収録された頁である。

(11) Montgomery (2010, p. 330) が指摘する,このような解釈にもとづく「45度線図」の例として,McConnell

(1969) が挙げられているが,それは下記のMcConnell (1969, p. 231) の図のことであろう。また,Guthrie

(1997, p. 316) では,Dillard (1948) が挙げられている。それは,Dillard (1948, p. 30) の図のことであろう。

しかしながら,その一方,Dillard (1948, p. 34) では,いわゆる標準的な「45 度線図」も描かれている。

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図 n. 11-1 McConnell (1969, p. 231)

図 n. 11-2 Dillard (1948, p. 30)

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図 n. 11-3 Dillard (1948, p. 34)

(12) もちろん,「均衡解」として導出されるY* = Yd= Ys においては,Yd = C + I から,Yd - C = I が得

られ,この左辺は「貯蓄 (S) 」を表わしていることから,S = I という,「貯蓄と投資の均等」による「均

衡国民所得」が得られていることになる。しかしながら,それが,佐藤 (1989, 36 頁) の示す「45 度線図」

では表わされていないのである。したがって,この場合,貯蓄関数を表わす図を,追加的に描くことによ

り,そこで得られる「貯蓄と投資の均等」が,「45 度線図」における「均衡国民所得」と対応することを

示す必要があるだろう。さらに,もう 1点,この佐藤 (1989, 36 頁) の「45度線図」についての疑問点と

して挙げられることがある。それは,「45 度線」(=「総供給曲線」と,それにかかわる「総需要曲線」の

形状である。佐藤 (1989, 35 頁) によれば,「横軸は総生産≡総供給ですから,Ysとします。45 度線はこの

Ysを再度図示しています。総生産は総所得でもあ〔る〕」とされている。そうすると,「総供給」は,「雇

用」の増加関数としてとらえられるものであるので,しかもその場合,ケインズ (Keynes 1936, p. 5) によ

れば,「古典派経済学の第 II 公準」により「収穫逓減法則」が想定されていることから,縦軸に「総供給」

(「所得」),横軸に「雇用量」を取った場合,その 2 次元空間において,「総供給曲線」は,右上がりの,

しかも,逓増する形で描かれるはずである。そして,それをあえて,横軸にたいして 45 度の直線として

原点から描くならば,それに対応した形で,Samuelson (1939),Klein (1947),そして,Samuelson (1948a) に

おいて示されているような形で,「総需要曲線」は,右上がりで,しかも,逓減する形で描かれなければ

ならないと考えられる。

(13) Schneider (1962) は,その訳注によれば,ドイツ語版 (第 5版) に,ドイツ語版 (第 6 版) での主な修

正を加えて,英訳されたものであるとされている。Schneider (1962) の奥付では,そのドイツ語版 (初版) は,

Schneider (1953) であるとされているが,それは第 2版であり,実際の初版は Schneider (1952) である。

(14) この見解は,ドイツ語版 (初版) の Schneider (1952, p. 100) において,すでに表明されている。

(15) 本稿で取り上げるカレツキの著作のうち,ポーランド語で書かれたものについては,すべて英訳版

を参照している。よって,参照した頁を挙げる場合,それは英訳版の頁が記されている。

(16) Samuelson (1939) に先がけて,カレツキ自身が,初めて「45 度線」を用いて描いた図として,Kalecki

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(1937, pp. 88, 91, 95) があるが,それは,「投資決意 (D)」と「投資水準 (I)」との関係についての分析を表

わしているものであり,決して,有効需要の原理にもとづいて国民所得の決定を示しているものではない。

(17) ケインズ (John Maynard Keynes, 1883-1946) の大多数の著作が国際的視点から書かれたものであるよ

うに,カレツキにおいても,当初から,そのような視点で経済分析がなされていたということがわかる。

よって,ケインズにおいては,封鎖経済を想定している『一般理論』(Keynes 1936) は,その著作のなか

でも,まれな 1 冊であるといえる。

(19) Kalecki (1933) は,その抄録が,Kalecki (1971, Ch. 1, pp. 1-14) に,"Outline of a Theory of the Business

Cycle" として収録されている。

(19) アバ・ラーナー (Abba Ptachya Lerner, 1903-1982) が,Lerner (1934) において提示した独占度 μの概念

は,カレツキによる国民所得決定の理論を成立させるだけでなく,そのモデルの性格を形成するうえでも,

不可欠なものである。カレツキ体系における,その摂取のされ方をも含めた詳細については,松谷 (2004,

74-80 頁) を参照せよ。

(20) カレツキ経済学の基本構造を示すものとして描かれた,松谷 (2004, 69 頁) における図 2 には,理論

的な誤謬が含まれている。本稿における図 12 として修正されるべきである。

(21) Kalecki (1933, p. 79) では,景気循環のなかで,「産業予備軍 (a reserve army of unemployed)」の想定が

示唆されている。他方,このKalecki (1933) の仏語抄訳版 Kalecki (1935a, p. 296) および英語抄訳版 Kalecki

(1935b, p. 343) においては,「産業予備軍」の想定が,脚注に明記されている。

(22) 労働分配率 αと平均独占度μ-

の関係の詳細な分析については,松谷 (2004, 72-74 頁) を参照せよ。

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投稿日:2019 年 4 月 12 日; 改訂日:2019 年 10 月 31 日; 受理日:2019 年 11 月 20 日


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