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The Period for Influencing Preferences and Dislikes toward ...

Date post: 05-Feb-2022
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205 1)岐阜県スポーツ科学トレーニングセンター 〒502-0817 岐阜県岐阜市長良福光青襖2070-7 2)岐阜大学教育学部 〒501-1193 岐阜県岐阜市柳戸1-1 1)Gifu Sports Science Training Center 2070-7, Aofusuma, Nagarafukumitu, Gifu, Gifu, Japan (502-0817) 2)Faculty of Education, Gifu University 1-1, Yanagido, Gifu, Gifu, Japan (501-1193) 教育医学 第57巻 第 2 号 205~212頁(2011年10月) 大学生の運動・スポーツおよび保健体育の授業に対する 好き嫌いに影響を及ぼす時期 福冨恵介 1) ,春日晃章 2) ,篠田知之 1) The Period for Influencing Preferences and Dislikes toward Exercise and Sports, Health Classes and Physical Education among University Students Keisuke FUKUTOMI 1) , Kosho KASUGA 2) and Tomoyuki SHINODA 1) Abstract This study aimed to examine the period during which university studentspreferences or dislikes toward exercise and sports, health classes and physical education can be best influenced. Questionnaires ( six items ) examining exercise and sports, physical education and health education were administered to 653 university students ( 391 males and 262 females ) . The following results were obtained. 1. Some differences were found between males and females with regard to a preference or dislike toward exercise and sports ; the rate of males who answered like a lotwas significantly higher than that of females, and the rate of females who answered somewhat dislikewas significantly higher than that of males. 2. The rates of preferences or dislikes toward exercise and sports from kindergarten nursery school were higher in males and females. Further, the rates of preferences or dislikes from junior high school onwards were similar to that from kindergarten nursery school. 3. Regarding physical education, the pattern of preferences that were developed in childhood had a strong influence until when the person was in university. 4. University students had low levels of interest in health education. Further, most decisions about preferences or dislikes toward health education were made during junior high school. キーワード:運動・スポーツ,保健体育,好き嫌い,大学生 Keywords exercise and sports, health classes and physical education, preferences and dislikes, university students
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Page 1: The Period for Influencing Preferences and Dislikes toward ...

福冨恵介,春日晃章,篠田知之

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1)岐阜県スポーツ科学トレーニングセンター  〒502-0817 岐阜県岐阜市長良福光青襖2070-72)岐阜大学教育学部  〒501-1193 岐阜県岐阜市柳戸1-1

1)Gifu Sports Science Training Center  2070-7, Aofusuma, Nagarafukumitu, Gifu, Gifu, Japan (502-0817)2)Faculty of Education, Gifu University  1-1, Yanagido, Gifu, Gifu, Japan (501-1193)

教育医学 第57巻 第 2号 205~212頁(2011年10月)

大学生の運動・スポーツおよび保健体育の授業に対する 好き嫌いに影響を及ぼす時期

福冨恵介1),春日晃章2),篠田知之1)

The Period for Influencing Preferences and Dislikes toward Exercise and Sports, Health Classes and Physical Education

among University Students

Keisuke FUKUTOMI1), Kosho KASUGA2) and Tomoyuki SHINODA1)

Abstract

 This study aimed to examine the period during which university students’ preferences or dislikes toward exercise and sports, health classes and physical education can be best influenced. Questionnaires (six items) examining exercise and sports, physical education and health education were administered to 653 university students (391 males and 262 females). The following results were obtained. 1. Some differences were found between males and females with regard to a preference or dislike toward exercise and sports; the rate of males who answered “like a lot” was significantly higher than that of females, and the rate of females who answered “somewhat dislike” was significantly higher than that of males. 2. The rates of preferences or dislikes toward exercise and sports from kindergarten・nursery school were higher in males and females. Further, the rates of preferences or dislikes from junior high school onwards were similar to that from kindergarten・nursery school. 3. Regarding physical education, the pattern of preferences that were developed in childhood had a strong influence until when the person was in university.  4. University students had low levels of interest in health education. Further, most decisions about preferences or dislikes toward health education were made during junior high school.

キーワード:運動・スポーツ,保健体育,好き嫌い,大学生Keywords :exercise and sports, health classes and physical education, preferences and dislikes,

university students

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大学生の運動・スポーツおよび保健体育の授業に対する好き嫌いに影響を及ぼす時期

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Ⅰ.緒  言

 わが国の子どもたちの体力低下が叫ばれて何年も経つが,競技スポーツに必要な体力だけでなく,健康な生活を送るための体力も低下しつつあり,将来,子どもたちが豊かな生活や人生を送っていくことについても懸念されている11).また,今では青年期の体力低下,さらには生活習慣病,うつ病,自殺の増加までもが問題視されるようになってきており,体力低下は将来のわが国の活力低下にもつながる可能性があり非常に危惧される事態である2).このような現状の中,文部科学省は毎年国民の体力・運動能力調査を行い,国民の体力の増進に取り組んでいる. 同省が実施した平成21年度体力・運動能力調査によると,小学生,中学生,高校生,および成年の全ての体力テスト項目で,ほとんど毎日(週 3日以上)運動・スポーツを実施している群が最も高い値を示した3).また,同じく平成22年度全国体力・運動能力,運動習慣等調査報告書4)によると,男女とも,運動やスポーツをすることが「好き」な集団は,それ以外の集団に比べて,体力合計点が高く,1週間の総運動時間が長かったことが明らかになっている.これらの調査結果から,運動・スポーツに対して「好き」という好意的な感情をもつことが運動実施頻度を高め,体力向上につながり,さらには生涯にわたる体力の維持・増進や健康の保持につながっていくと考えられる. 運動・スポーツに対する好き嫌いに関して,運動嫌いの原因が「運動有能感」の欠如であることが指摘されている9).また,幼少期は自己概念が形成されはじめる時期であり,この時期に子ども達がどのような運動経験をするかということが,その後の運動の好き嫌いに大きな影響を与えることにもなる6).幼少期は運動・スポーツに対する「好き・嫌い」のイメージを形成し始める時期であり,この時期に運動嫌いにさせないことが重要である.ただし,児童期にたとえ運動嫌いだとしても,中学生期に運動好きになった生徒は,運動嫌

いな生徒よりも体力得点が高いことが明らかとなっている18).つまり,幼少期だけでなく,児童期,青年初期においても運動好きを育てることで体力向上につながる可能性があることが考えられる.また,児童生徒が運動または体育に対して実際どのような感情を抱いているかに関する研究には,小学生12)16)17),中学生16)17),高校生16)を対象とした研究がみられ,各学校期における運動好き,運動嫌いの現状が報告されている.そして,運動を好きになるまたは嫌いになる時期について,秦泉寺ら17)は,小学校高学年から中学校 1年生にかけての変化が男女とも最も高く,好きになる生徒よりも嫌いになる生徒が多いことを指摘している.このように,小学校期および中学校期における運動の好き嫌いの変容を検討した報告はみられるが,幼児期から高校期までを含めて,どの時期から運動に対する好き嫌いの感情を抱くのかを検討した研究はみられない.運動を「好き」もしくは「嫌い」になりやすい時期が明らかになれば,その時期に運動・スポーツおよび体育の指導に関わる指導者に指導上の配慮を促すことができると思われる. 一方,体力低下が危惧される中,学校教育における保健体育の授業では「体育実技」が重視されがちだが,「保健」も自らの健康を適切に管理する実践力を育成するための重要な分野である13).しかし,実際には「保健」に対する子どもの興味関心が低く,高める工夫も少ないことが指摘されている13).今後,「体育実技」と併せて「保健」の授業に対する工夫が望まれるが,そのために「保健」に対する好き嫌いの感情を抱き始める時期はいつ頃からなのかを明らかにすることは,保健指導を行う上で重要な示唆を与えると考える. そこで本研究は,大学生を対象とし,アンケートによる過去への振り返り調査という手法を用いて,運動・スポーツおよび保健体育の授業に対して,好き嫌いの感情を抱き始める時期を明らかにすることを目的とした.

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福冨恵介,春日晃章,篠田知之

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Ⅱ.方  法

1 .対象 G大学の全学共通教育体育を受講した大学生653名(男子391名,女子262名)を対象とした.男子の平均年齢は18.5±1.2歳,女子は18.3±1.5歳(平均値±標準偏差)であった.本研究のプロトコルは岐阜大学医学研究等倫理審査委員会において承認されている. 

2.アンケート調査 表 1に示す 6項目のアンケートを2009年 5月に実施した.アンケートは,「運動・スポーツをすることが好きか」,「体育実技が好きだったか」および「保健の授業が好きだったか」の 3項目と,それぞれの項目に対して「その思いはいつ頃からか」を尋ねた.それぞれの項目の回答に対し,最も該当する番号 1つに丸を付けさせた.

表1 実施したアンケート項目①-1 あなたは運動・スポーツをすることが好きですか?      1:非常に好き   2:やや好き   3:どちらとも言えない   4:やや嫌い   5:非常に嫌い -2 その思いはいつ頃から?      1:幼稚園・保育所  2:小学校  3:中学校  4:高等学校②-1 あなたは体育(実技)の授業が好きでしたか?      1:非常に好き   2:やや好き   3:どちらとも言えない   4:やや嫌い   5:非常に嫌い -2 その思いはいつ頃から?      1:小学校     2:中学校    3:高等学校③-1 あなたは保健の授業が好きでしたか?      1:非常に好き   2:やや好き   3:どちらとも言えない   4:やや嫌い   5:非常に嫌い -2 その思いはいつ頃から?      1:小学校     2:中学校    3:高等学校

3 .解析方法 「運動・スポーツ」,「体育実技」,および「保健の授業」に対する,現在の好き嫌いの思いについて性別に集計した.そのうち,“非常に好き” または “やや好き” と回答した学生をまとめて,「好き」という思いはいつ頃からかを集計し,同様に,“非常に嫌い” または “やや嫌い” と回答した学生についても「嫌い」という思いはいつ頃からかを集計した.

 統計処理には,男女間で好き嫌いの傾向に差があるかを検討するためにマン・ホイットニーのU検定を適用した.また,男女間で好き嫌いの思いを抱いた時期に差があるかを検討するために独立性の検定を適用した.いずれも統計的有意水準を 5%とし,有意な主効果が認められた場合には,どのカテゴリーの度数が乖離しているのかを調べるために,期待度数と観察度数の差を表す調整済み標準化残差を算出して検討した.

Ⅲ.結  果

1 .運動・スポーツについて 図 1 は,「運動・スポーツをすることが好きか」という質問項目に対する,男女別の回答の割合,回答者数,および検定結果を示している.マン・ホイットニーのU検定の結果,男子と女子の間に有意な差が認められた(p<0.05).そこで調整済み標準化残差を算出した結果,男子は “非常に好き” と回答した学生の割合が有意に高く(p<0.05),女子は“やや嫌い” と回答した学生の割合が有意に高かった(p<0.05).

図1 「運動・スポーツをすることが好きか」に対する男女別の回答の割合,回答者数,および検定結果

注)( ):回答者数,*:調整済み標準化残差有意確率5%未満

38.5(150)

42.8(167)

11.5(45) 4.9

(19)2.3(9)

26.8(70)

41.8(109)

14.9(39)

13.8(36) 2.7

(7)0

20

40

60

非常に好き

やや好き

どちらとも言えない

やや嫌い

非常に嫌い

男子 女子

(%)

マン・ホイットニーのU検定男子 女子

平均順位 平均順位 E(U) V(U) z p349.4 291.1 50895 4880393.3 4.128 0.000

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大学生の運動・スポーツおよび保健体育の授業に対する好き嫌いに影響を及ぼす時期

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 図 2は,運動・スポーツをすることが「好き」または「嫌い」になり始めた時期の男女別回答の割合,回答者数,および検定結果を示している.独立性の検定の結果,「好き」になり始めた時期および「嫌い」になり始めた時期ともに,男女間で有意な差は認められな

かった.また,男女とも小学校期から好き嫌いの感情を抱き始めた学生の割合が最も高く,次いで幼児期からが高かった.さらに,中学校期から運動・スポーツが「好き」または「嫌い」になった学生の割合は,幼児期とほぼ同程度であった.

図2 運動・スポーツをすることが「好き」または「嫌い」になり始めた時期の男女別回答の割合,回答者数,および検定結果 注)( ):回答者数

24.1(76)

48.3(152)

21.9(69)

5.7(18)

27.9(50)

46.4(83)

20.7(37)

5.0(9)

0

20

40

60

幼稚園・保育所

小学校

中学校

高等学校

(%)

28.6(8)

46.4(13)

21.4(6)

3.6(1)

18.6(8)

55.8(24)

20.9(9)

4.7(2)

幼稚園・保育所

小学校

中学校

高等学校

男子 女子

「好き」になり始めた時期カイ二乗値 自由度 p

0.913 3 0.822カイ二乗値 自由度 p

1.083 3 0.781

「嫌い」になり始めた時期

2 .体育実技について 図 3 は,「体育の授業が好きだったか」という質問項目に対する,男女別の回答の割合,回答者数,および検定結果を示している.分析の結果,男子と女子の間に有意な差が認められ(p<0.05),調整済み標準化残差を算出した結果,女子は “やや嫌い” と回答した学生の割合が有意に高かった(p<0.05). 図 4は,体育実技が「好き」または「嫌い」になり始めた時期の男女別回答の割合,回答者数,および検定結果を示している.「好き」になり始めた時期および「嫌い」になり始めた時期ともに,男子と女子の間に有意な差は認められなかった.また,男女とも小学校期から体育実技に対して好き嫌いの感情を抱き始めた学生の割合が最も高かった. 3.保健の授業について 図 5 は,「保健の授業が好きだったか」という質問項目に対する,男女別の回答の割合,回答者数,および検定結

図3 「体育の授業が好きだったか」に対する男女別の回答の割合,回答者数,および検定結果

注)( ):回答者数,*:調整済み標準化残差有意確率5%未満

37.1(145)

41.9(164)

13.8(54) 4.6

(18)2.6(10)

32.4(85)

34.7(91)

17.2(45) 11.1

(29) 4.6(12)

0

20

40

60

非常に好き

やや好き

どちらとも言えない

やや嫌い

非常に嫌い

男子 女子

(%)

マン・ホイットニーのU検定男子 女子平均順位 平均順位 E(U) V(U) z p

332.0 294.3 48006 4506672.3 2.696 0.007

図4 体育実技が「好き」または「嫌い」になり始めた時期の男女別回答の割合,回答者数,および検定結果 注)( ):回答者数

70.5(217)

21.8(67)

7.8(24)

68.0(119)

18.9(33) 13.1

(23)

0

20

40

60

小学校

中学校

高等学校

(%)67.9(19)

14.3(4)

17.9(5)

65.9(27)

24.4(10)

9.8(4)

小学校

中学校

高等学校

男子 女子

「好き」になり始めた時期カイ二乗値 自由度 p

3.832 2 0.147

「嫌い」になり始めた時期カイ二乗値 自由度 p

1.684 2 0.431

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福冨恵介,春日晃章,篠田知之

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果を示している.分析の結果,男女間で保健の授業に対する好き嫌いの傾向に有意な差は認められなかった.また,男女とも “どちらとも言えない” と回答した学生の割合が最も高かった. 図 6は,保健の授業が「好き」または「嫌い」になり始めた時期の男女別回答の割合,回答者数,および検定結果を示している.「好き」になり始めた時期の男子と女子の間に有意な差が認められ(P<0.05),高校期から保健の授業が「好き」と感じている学生の割合は女子が有意に高かった.また,男女とも,中学校期から保健に対して好き嫌いの感情を抱き始めた学生の割合が高かった.

Ⅳ.考  察

 本研究の目的は,運動・スポーツおよび保健体育の授業に対して好き嫌いの感情を抱き始める時期を明らかにすることであった.まず,基礎的データとして,大学生が運動・スポーツおよび体育実技に対して,どのような思いを持っているかを検討した結果,運動・スポーツに対しては男子81.3%,女子68.6%,体育実技に対しては男子79.0%,女子67.1%の学生が好意的な感情を抱いていることが明らかとなった(図 1,3).また,女子は男子と比べて運動・スポーツが “非常に好き” と答えた学生の割合は有意に低かったが,“やや好き” と答えた学生の割合に有意な違いは認

図5 「保健の授業が好きだったか」に対する,男女別の回答の割合,回答者数,および検定結果

注)( ):回答者数

6.0(23)

12.5(43)

60.3(232)

15.6(60) 5.7

(22)3.5(9)

13.8(36)

60.4(157)

18.5(48) 3.8

(10)

0

20

40

60

80

非常に好き

やや好き

どちらとも言えない

やや嫌い

非常に嫌い

男子 女子

(%)

マン・ホイットニーのU検定男子 女子平均順位 平均順位 E(U) V(U) z p315.7 310.3 47063 3731342.6 0.422 0.673

図6 保健の授業が「好き」および「嫌い」になり始めた時期の男女別回答の割合,回答者数,および検定結果

注)( ):回答者数,*:調整済み標準化残差有意確率5%未満

32.9(23)

64.3(45)

2.9(2)

24.4(11)

57.8(26)

17.8(8)

0

20

40

60

80

小学校

中学校

高等学校

(%)

31.3(25)

60.0(48)

8.8(7)

32.8(19)

53.4(31)

13.8(8)

小学校

中学校

高等学校

男子 女子

「好き」になり始めた時期カイ二乗値 自由度 p

7.856 2 0.020

「嫌い」になり始めた時期カイ二乗値 自由度 p

1.063 2 0.588

められなかった.徳永ら14)は,1979年に大学に入学した男子832名,女子205名を対象にアンケートを実施し,運動が嫌いな学生は男子6.9%,女子20.5%であったことを報告している.また,秦泉寺ら17)は,1991年に小学 5年生から中学 3 年生までの男子1927人,女子1766人を対象に運動および体育の嫌悪調査を行い,男子よりも女子の方が体育嫌いであったことを明らかにしている.約30年前,約20年前のデータからすでに女子の方が男子よりも運動嫌いであることが報告されており,本研究の結果も同じような傾向が示された.つまり,以前から女子の運動嫌いが危惧されてきたにも関わらず,現在においてもあまり改善されていないことが示唆された.また,運

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大学生の運動・スポーツおよび保健体育の授業に対する好き嫌いに影響を及ぼす時期

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動・スポーツに対する「好き」という思いの程度に男女差があったことも合わせて考えると,再度,特に女子に対する運動および体育指導について検討していく必要があると思われる. 運動・スポーツをすることが「好き」または「嫌い」になった時期は,小学校期からが最も多く,次いで,幼児期および中学校期からが多かった(図 2).これまで多くの研究で,幼少期に運動・スポーツに興味を持たせ,運動有能感を形成させることの重要性が述べられており2)6)8)10),本研究でもこれらの主張を支持する結果であった.しかし,注目したいのは,中学校期から運動・スポーツが「好き」または「嫌い」になった学生の割合が,幼児期とほぼ同程度であったことである.この結果は,中学校期も,幼児期と並んで,運動・スポーツに対する好き嫌いの感情が形成され,それまでの思いから変化する可能性のある重要な時期であることを示唆している.幼少期の運動・スポーツ指導では,単一化,固定化せずにさまざまな運動遊びを経験させること7)や,できる楽しさを強く求めるよりは,運動をすることそれ自体が楽しいという経験を十分に積むことが重要であるといわれている6).それに対して,青年初期は第二次性徴が始まる時期であり,思春期にあたることから,幼少期とは異なり身体のみならず心理的な発育発達段階に合わせた運動指導を行うことが必要である11).これらのことから,幼児期と同程度に運動・スポーツに対する好き嫌いが形成されることが示唆された中学校期には,幼少期のように「様々な種目を,多様に経験させる」ことよりも,「生徒に合った種目を,より専門的に経験させる」ことが重要であると思われる.幼少期の運動・スポーツに関して,総合型地域スポーツクラブなどでの運動教室やスポーツクラブなどが多くみられるようになってきている一方で,青年初期を対象とした運動・スポーツ指導はそのほとんどが学校の部活動に依存しているのではないだろうか.そのような中,中学校の部活動に近年,地域の指導者が入って社会人コーチと

してより専門的な競技スポーツを提供できる体制がみられるようになってきた.青年初期以降でも運動好きを育てるために,学校だけでなく,地域スポーツも一体となって心身の発育発達段階に合った運動・スポーツ指導を提供していくべきだと考える. 体育実技に対しては,男女とも70%弱の学生が小学校期から好き嫌いの感情を抱き始めたと回答している(図 4).立木15)は,小学校時に体育に否定的な態度を持つ者は,大学生になっても,その大部分が体育に否定的な態度を持っていると報告している.本研究の結果においてもその報告を支持する結果が得られ,大学生期に体育を「嫌い」と感じている学生は,小学生期からその思いを持っていることが明らかとなった.これらのことから,小学校の時に体育実技を嫌いにさせないことが重要であると推察される.荒井ら1)は,女子学生498名を対象として過去への振り返りアンケートを行い,「運動嫌いの内容」は,「速い」「遅い」が友達に知られ,さらに持久走の辛さが伴う陸上が最も多く,次いで,「できる」「できない」が知られ,恐怖感の伴う器械体操が多かったことを報告している.小学校期において,このような体育の単元を児童に魅力的に伝え,体育嫌いを生み出さないような授業を展開していくためには様々な方法が考えられるが, 1つの提案として,体育専門の先生による授業の導入なども検討していく必要があると考える.また,文部科学省スポーツ・青少年局生涯スポーツ課5)は,中学校では保健体育の授業について,男女とも選択制を導入していることに加えて,ティーム・ティーチングを実施している学校の体力合計点は,実施していない学校に比べて高い値を示したことを明らかにしている.児童・生徒の興味関心にあったよりきめ細かい体育授業を展開していくために,選択制やティーム・ティーチングなどの他にも,例えば児童生徒の体力や運動能力に合わせた,体力・運動能力レベル別授業の導入などといった工夫も考えられ,今後検討していくべきではないかと考える. 保健の授業に対しては,男女で好き嫌いの

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福冨恵介,春日晃章,篠田知之

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傾向に有意な差は認められなかった.また,男女とも “どちらとも言えない” と回答した学生の割合が最も高かった(図 5).戸田13)は,保健に対する子どもの興味関心が低く,高める工夫も少ないと述べている.本研究の結果からも保健の授業に対する興味関心の低さが浮き彫りとなった.また,子どもたちに心身の健康を保持増進するための実践力を育成するために,保健の指導方法を工夫すること13),さらに,「食育」「保健指導」をも併せて十分に展開していくこと11)の重要性が言われている.子どもの体力・運動能力の低下が叫ばれている昨今,体育実技には様々な工夫や取り組みがみられるが,一方で保健の授業に対しての取り組みが手薄になっているのではないだろうか.保健では教科書中心の授業展開が多いように思われるが,近年のIT技術の革新で映像や写真などを用いたプレゼンテーションが容易になってきていることを考えると,児童生徒がより興味関心を持って保健の授業を学ぶことができるようなプレゼンテーション用の教材開発を行い,効果的に授業に導入していくことも必要ではないかと考える.さらに大学などで,体育実技だけでなく,保健の授業に関しても専門的に教えることのできる保健体育教諭を育成し,そのように学んだ教員が小学校から授業にあたるようにしていく必要があると考える.

Ⅴ.結  語

 本研究は,大学生653名(男子391名,女子262名)を対象として,運動・スポーツおよび保健体育の授業に対して,好き嫌いの感情を抱き始める時期を明らかにすることを主たる目的とした.分析の結果,以下の結論を得た.1.運動・スポーツに対する好き嫌いに男女差がみられ,男子の方が運動・スポーツに対して “非常に好き” と感じている学生の割合が高く,女子の方が “やや嫌い” と感じている学生の割合が高かった.2.運動・スポーツに関して,幼少期から好き嫌いの感情が形成されている学生の割合が

男女とも高かった.一方,中学校期から運動・スポーツに対する好き嫌いの感情が形成されている学生の割合が,幼児期とほぼ同程度であったことから,中学校期も運動・スポーツに対して好き嫌いの感情を抱く重要な時期であることが示唆された.3.体育の授業に関して,小学校期に形成された好き嫌いの感情は,大学生期まで大きく影響していることが示唆された.4.大学生は小,中,高校期における保健の授業に対する興味関心が低かったことがうかがえる.また.保健の授業に対して好き嫌いの感情を抱き始めるのは中学校期が最も多かった.

文  献

1)荒井迪夫,周東和好(2003):運動嫌いに関する一考察,淑徳短期大学研究紀要,42,17-31.

2)春日晃章(2010):子どもの活動と性格の育ち,子どもと発育発達,8(2),94-99.

3)文部科学省(2010):平成21年度体力・運動能力調査報告書,42-43.

4)文部科学省(2010):平成22年度全国体力・運動能力,運動習慣等調査報告書,32-33.

5)文部科学省スポーツ・青少年局生涯スポーツ課(2010):運動に親しむ資質や能力の育成上の課題-全国体力・運動能力,運動習慣等調査から見えたこと-,初等教育資料,857,4-7.

6)森司朗(2003):幼少期における運動の好き嫌い,体育の科学,53(12),910-914.

7)中村和彦(2009):いまどきの子どもの体力・運動能力,教育と医学,57(10),904-911.

8)岡浩一朗(2010):教育研究最前線-子どもの身体活動・運動の習慣化をいかに促すか-,初等教育資料,857,78-81.

9)岡澤祥訓(2003):運動好きと自己有能感,体育の科学,53(12),905-909.

10)岡澤祥訓,小畑治(2005):運動有能感を育てる体育の授業の工夫,子どもと発育発達,2(6),376-380.

11)小澤治夫(2009):子どもの発達段階に応じた運動指導の工夫,教職研修,37(12),32-35.

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大学生の運動・スポーツおよび保健体育の授業に対する好き嫌いに影響を及ぼす時期

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12)谷健二,赤田信一,保科義高,山本章(1998) :運動の好ききらいが小学生の運動量と体脂肪率に及ぼす影響,静岡大学教育学部研究報告(自然科学篇),48,35-43.

13)戸田芳雄(2005):保健の授業のこれまでとこれから,子どもと発育発達,2(6),396-397.

14)徳永幹雄,吉川和利,多々納秀雄,小室史恵(1981):九州大学教養部学生の体力及びスポーツ行動,健康科学,3,153-164.

15)立木正(1997):体育嫌いを生み出す原因に関する研究-東京学芸大学学生の意識調査から-,東京学芸大学紀要,49,191-201.

16)米川直樹(2003):体育授業の好感度,体育の科学,53(12),921-924.

17)秦前寺尚,飯野透,太田黒保宏,山本栄二(1993):宮崎県における体育・運動嫌いの実態と嫌いにさせる要因に関する研究,宮崎大学教育学部紀要(芸術・保健体育・家政・技術),74,23-43.

18)城後豊(2010):子どもの学力(生活力)と体力~札幌市体力向上支援事業の取り組み~,子どもと発育発達,8(2),84-88.

(受付:2011年 4 月22日)(受理:2011年 8 月10日)


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