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The Society of Rheology 87th Annual Meeting @Baltimore, MD 参 …

Date post: 24-Jan-2022
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69 CORRESPONDENCE Nihon Reoroji Gakkaishi Vol.44, No.1, 69~73 (Journal of the Society of Rheology, Japan) ©2016 The Society of Rheology, Japan 1. はじめに 米国 レオロジー学会 (The Society of Rheology; SOR) 87th Annual Meeting が,2015 10 11 日(日)から 15 日(木) の日程で,Hyatt Regency Baltimore にて開催された.筆者の 恩師であり,上司である渡辺宏本会会長が同 Meeting にて Bingham Award を受賞されるにあたり,筆者は「カバン持ち」 として参加する文字通り once-in-a-lifetime の機会を頂いた. 以下,その概要を報告する. 2. SOR Annual Meeting Bingham Award について SOR Annual Meeting は,基本的に年 1 度,10 月に開催され る.但し 4 年に一度 International Congress on Rheology (ICR) が開催される年の Annual Meeting は,翌年の 2 月に開催さ れる.(つまり ICR の翌年には,2 月と 10 月に開催される .例年,実質 3 日半の会議で,口頭発表は約 10 セッションの 300 件前後,参加者は 400~500 名くらいの規模である.北 米が中心であるが,欧州,韓国を始めとするアジアからの 参加者も多い.筆者は 2010 年以降,毎回参加している. Bingham Award 1948 年以来毎年,レオロジーに対し傑出 した科学的な貢献をした個人に贈られている.歴代 Bingham Medalist のリスト 1) をご覧いただければ,各分野でおなじみ の名前も多数見受けられると思う.これは,Bingham 博士が 1920 年代に "Rheology" の語を生み出され,以来米国・カナ ダがレオロジー研究の中心としてこの分野を牽引してきた ことの証左とも言える.この中で,2001 年に,土井正男本 会元会長が,北米以外で初の Bingham Medalist として名を連 ねておられる.おそらくは,土井先生のために規則を改正し, 北米以外にも門戸を開いたのだと思う.以降,欧州の 4 名の 先生方も受賞されている.なお欧州レオロジー学会 (European Society of Rheology) は,概ね 4 月の Easter Break 頃に開かれ る欧州レオロジー年会 (Annual European Rheology Conference) にて,2 年に一度,Weissenberg Award を授与しているが,対 象は欧州で研究活動をしている人に限られる.(ちなみに本 年は Dimitris Vlassopoulos 先生 (Univ. Crete and FORTH, Greece) が受賞された .)このように,Bingham Award は,レオロジー の分野では最も権威ある世界的な賞であるといえる. 3. Tribute to Alexei Likhtman 残念ながら悲しいニュースで会議の幕を開けることに なった.Alexei Likhtman 先生 (Univ. Reading, UK) が不慮の事 故で亡くなった.Likhtman 先生は,今回の会議のために学 生とともに渡米されていたが,welcome reception 当日 (10/11) の昼前に,Baltimore 近郊の Annapolis Rock で写真撮影中に 誤って転落されたとのことであった.Likhtman 先生は,若 い(44 歳)ながらも絡み合い高分子ダイナミクスの理論 / ミュレーションで世界的に著名な研究者であり,近年では slip-link/slip-spring シミュレーションに精力的に取り組んでお られた.解析的理論では,例えば束縛解放と主鎖方向の平 衡化を取り入れた修正管模型 (Likhtman-McLeish) 2) や,高速 流動下での管模型 (Graham-Likhtman-McLeish-Milner; GLaMM) 3) などにその名を残されている.渡辺先生や特に増渕雄一先 生と親しくされており 4) 2012 4 月から 6 月まで京大化研 に客員教授として滞在された.最近も,渡辺・増渕両先生は, あるテーマについて頻繁にメールで議論しておられた.(両 先生は,現在も,残された学生の面倒を少しみておられる .Likhtman 先生はとても優秀な研究者であるが,穏やかな人柄 であったのが印象的であった.また,Likhtman 先生は律儀 で信頼のおける人であったので,渡辺先生は,退職後に当研 究室の誘電・粘弾性のデータを全て彼に託そうかと半ば本気 で考えていたほどである.それだけに,日曜夕方の welcome reception の場で,Local Committee Chair Kalman Migler 博士 (NIST) から悲報を非公式に伝えられた時は,到底信じられ るものではなく,ショックのあまりただ絶句するばかりで あった.Likhtman 先生をよく知る人たちはみな同じ気持ち だったと思う.しかし,複数のニュースサイト 5) で(ほぼ同 じ文面ながら)報じられているのを確認すると,受け入れざ るを得なかった.この訃報は,翌日月曜朝の Plenary Lecture の前に,Greg McKenna SOR 会長 (Texas Tech Univ.) から参加 者全員へ伝えられ,皆で黙祷を捧げて Likhtman 先生の早す ぎる死を悼んだ. 4. Regular session (1st day) など 筆者は主に Polymer Melt & Solution (PM) セッションにいた ので,以下同セッションの記述が中心になることをお許し 願いたい.PM セッションでは,まず絡み合いに関する発表 3 件があった(そのうち 1 件は Alexei が話す予定であったが, 座長の Vlassopoulos 先生の計らいで Alexei の写真が投影さ れ,追悼の時間となった ; Fig. 1).引き続いて,片末端に会 合基を有する Rouse 鎖の粘弾性緩和に関する理論解析 6) (渡 辺先生)と実験(筆者)の発表を行った.会合性高分子の モデルとしては最も単純な系を扱っているのであるが,そ の粘弾性挙動はそう単純ではないよ,という我々の主張を The Society of Rheology 87th Annual Meeting @Baltimore, MD 参加記 京都大学化学研究所 松宮 由実 (原稿受理:2015 11 4 日)
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CORRESPONDENCE

Nihon Reoroji Gakkaishi Vol.44, No.1, 69~73(Journal of the Society of Rheology, Japan)©2016 The Society of Rheology, Japan

1. はじめに

米国 レオロジー学会 (The Society of Rheology; SOR) 87th Annual Meeting が,2015年 10月 11日(日)から 15日(木)の日程で,Hyatt Regency Baltimoreにて開催された.筆者の恩師であり,上司である渡辺宏本会会長が同Meeting にて Bingham Award を受賞されるにあたり,筆者は「カバン持ち」として参加する文字通り once-in-a-lifetimeの機会を頂いた.以下,その概要を報告する.

2. SOR Annual Meeting と Bingham Awardについて

SOR Annual Meeting は,基本的に年 1度,10月に開催される.但し 4年に一度 International Congress on Rheology (ICR) が開催される年の Annual Meeting は,翌年の 2月に開催される.(つまり ICRの翌年には,2月と 10月に開催される .)例年,実質 3日半の会議で,口頭発表は約 10セッションの計 300件前後,参加者は 400~500名くらいの規模である.北米が中心であるが,欧州,韓国を始めとするアジアからの参加者も多い.筆者は 2010年以降,毎回参加している.

Bingham Award は 1948年以来毎年,レオロジーに対し傑出した科学的な貢献をした個人に贈られている.歴代 Bingham Medalistのリスト 1) をご覧いただければ,各分野でおなじみの名前も多数見受けられると思う.これは,Bingham 博士が1920年代に "Rheology"の語を生み出され,以来米国・カナダがレオロジー研究の中心としてこの分野を牽引してきたことの証左とも言える.この中で,2001年に,土井正男本会元会長が,北米以外で初の Bingham Medalist として名を連ねておられる.おそらくは,土井先生のために規則を改正し,北米以外にも門戸を開いたのだと思う.以降,欧州の 4名の先生方も受賞されている.なお欧州レオロジー学会 (European Society of Rheology) は,概ね 4月の Easter Break頃に開かれる欧州レオロジー年会 (Annual European Rheology Conference)にて,2年に一度,Weissenberg Awardを授与しているが,対象は欧州で研究活動をしている人に限られる.(ちなみに本年は Dimitris Vlassopoulos先生 (Univ. Crete and FORTH, Greece)が受賞された .)このように,Bingham Awardは,レオロジーの分野では最も権威ある世界的な賞であるといえる.

3. Tribute to Alexei Likhtman

残念ながら悲しいニュースで会議の幕を開けることになった.Alexei Likhtman先生 (Univ. Reading, UK) が不慮の事

故で亡くなった.Likhtman 先生は,今回の会議のために学生とともに渡米されていたが,welcome reception当日 (10/11)の昼前に,Baltimore近郊の Annapolis Rockで写真撮影中に誤って転落されたとのことであった.Likhtman先生は,若い(44歳)ながらも絡み合い高分子ダイナミクスの理論 /シミュレーションで世界的に著名な研究者であり,近年ではslip-link/slip-springシミュレーションに精力的に取り組んでおられた.解析的理論では,例えば束縛解放と主鎖方向の平衡化を取り入れた修正管模型 (Likhtman-McLeish)2)や,高速流動下での管模型 (Graham-Likhtman-McLeish-Milner; GLaMM)

3) などにその名を残されている.渡辺先生や特に増渕雄一先生と親しくされており 4),2012年 4月から 6月まで京大化研に客員教授として滞在された.最近も,渡辺・増渕両先生は,あるテーマについて頻繁にメールで議論しておられた.(両先生は,現在も,残された学生の面倒を少しみておられる .)Likhtman 先生はとても優秀な研究者であるが,穏やかな人柄であったのが印象的であった.また,Likhtman先生は律儀で信頼のおける人であったので,渡辺先生は,退職後に当研究室の誘電・粘弾性のデータを全て彼に託そうかと半ば本気で考えていたほどである.それだけに,日曜夕方の welcome receptionの場で,Local Committee Chair の Kalman Migler 博士 (NIST) から悲報を非公式に伝えられた時は,到底信じられるものではなく,ショックのあまりただ絶句するばかりであった.Likhtman 先生をよく知る人たちはみな同じ気持ちだったと思う.しかし,複数のニュースサイト 5) で(ほぼ同じ文面ながら)報じられているのを確認すると,受け入れざるを得なかった.この訃報は,翌日月曜朝の Plenary Lectureの前に,Greg McKenna SOR会長 (Texas Tech Univ.) から参加者全員へ伝えられ,皆で黙祷を捧げて Likhtman 先生の早すぎる死を悼んだ.

4. Regular session (1st day) など

筆者は主に Polymer Melt & Solution (PM) セッションにいたので,以下同セッションの記述が中心になることをお許し願いたい.PMセッションでは,まず絡み合いに関する発表3件があった(そのうち 1件は Alexeiが話す予定であったが,座長の Vlassopoulos先生の計らいで Alexeiの写真が投影され,追悼の時間となった ; Fig. 1).引き続いて,片末端に会合基を有する Rouse鎖の粘弾性緩和に関する理論解析 6)(渡辺先生)と実験(筆者)の発表を行った.会合性高分子のモデルとしては最も単純な系を扱っているのであるが,その粘弾性挙動はそう単純ではないよ,という我々の主張を

The Society of Rheology 87th Annual Meeting @Baltimore, MD 参加記

京都大学化学研究所 松宮 由実

(原稿受理:2015年 11月 4日)

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実験的に証明できたと思うのだが,試料の特性解析に関して suggestionを頂いた.筆者としても気になっていた点であるので ,すぐに追加実験を検討することにした.午後は,Ole Hassager 先生 (Tech. Univ. Denmark) のグルー

プからの伸張粘度に関する 2件の発表で始まった.Nicolas Alvarez 先生 (Drexel Univ.) は,絡み合い数の同じポリスチレンとポリメタクリル酸メチルの一軸伸張粘度挙動の違いについて議論していた.ここで John Dealy 先生 (McGill Univ., Canada) の御登場である.Dealy 先生は御年 78歳,1998年受賞の Bingham Medalistである.Dealy先生は最前列にお座りになり,見込みのある学生・若手研究者の発表を見るや,恒例のイベントとして,やおら立ち上がって有難いアドバイスを下さるのである.(それとは別に,Dealy 先生と Akronの某グループとのやりとりもなかなか面白い .)今回 Dealy 先生は,粘度成長関数を logでなく linearでプロットしなさい,とスクリーンの前で懇々とお説教なさった.これにはNicolasも苦笑いするしかなかったようだ.筆者が 2012年の夏に共同研究と称して Hassager Groupにお邪魔した際に,Nicolas, Jose Manuel Roman Marin博士とQian Haung博士には大変お世話になった.当時,NicolasとJoseはポスドク,Qianは博士課程学生だった.以来,おそらく Nicolasが中心となってフィラメント伸張レオメータを小型化・商品化 (VADER1000)し,製造販売会社 (Rheo Filament ApS) を設立した.この度,他社に勤めていた Joseが,Rheo Filament社に Customer Service Managerとして加わったとのことである.今回,機器展示のために Joseも来ていたので,筆者は再会を喜んだ.なお,筆者らのグループが世界で最初の彼らの顧客である. 今回,珍しく土井先生が中国からお越しになっていた.土井先生クラスになると超ご多忙で,このような(イベント的ではない)普通の海外の学会に,(主体的に)お出になるという発想があまりなかったそうである.SOR Meeting には,2001年の Bingham Award受賞以降も何度かご出席になったそうだが,今回は情報の入手の容易さという点で非常に感心しておられた.本会理事の井上正志先生は,各分野のトピックの流行がよく分かると仰っていた.確かにプログラムの編成が上手いときには,各分野のトレンドを概観しやすくなっている.そういう意味で,今回の session

organizer, technical program 担当の先生方のご苦労の賜物かと思う.

5. Bingham lecture & Banquet (2nd day)

Bingham Award Lectureは火曜の朝であった.筆者や井上先生,Nitash Balsara 先 生 (UC Berkeley),Ron Larson 先 生 (Univ. Michigan),Michel Cloitre先生 (ESPCI, France),Evelyne van Ruymbeke先生 (Université catholique de Louvain, Belgium)など関係者がニコニコしながら前方中央の席を陣取った.Rheology Bulletin の Editorである Faith Morrison先生 (Michigan State Univ.) は特等席でカメラを構えておられた.Lew Fetters 先生(現Forschungszentrum Jülich)は,Ralph Colby先生 (Penn State Univ.) とともに最前列でご覧になっていた.司会のVlassopoulos先生による紹介 (Fig. 2)の後,渡辺先生の受賞講演 "Slow dynamics of components in miscible polymer blends " である.講演の導入として,A型高分子であるポリイソプレン (PI)

の誘電データと粘弾性データを併用した管模型の精密化に関する一連の研究について概説された.推薦人である Tim Lodge先生 (Univ. Minnesota) による紹介記事 7)では,このテーマが取り上げられている .しかし,講演の本題は,講演題目通り PI/ポリ p-tert-ブチルスチレン (PtBS) 相溶性ブレンド系のダイナミクスであった (Fig. 3).卒業生のQuan Chen君(現・

Fig. 1. Alexei Likhtman先生.本来なら(予稿によると),リングポリマーの絡み合いに関する話が聞けるはずだった.Rest in Peace.

Fig. 2. Vlassopoulos先生によるご紹介.Vlassopoulos先生は,今回初日から最後までご多忙でした.

Fig. 3. 本題はこれから.浦川理先生の写真が若い.

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松宮:The Society of Rheology 87th Annual Meeting @Baltimore, MD参加記

中国科学院長春応用化学研究所教授)が博士課程で行った研究テーマである.PIと PtBSは,LCST型の相溶性を示すが,構造・屈曲性や運動性は大きく異なり ,従来検討されてきた系の中で最も動的非対称性が大きい.このため,PI/PtBS ブレンドは,異種高分子の「絡み合い」を詳細に検討するための最適なモデル系である.講演では,成分ごとに packing length の重みが異なることを考慮した高分子ブレンド系の絡み合い長(管径)に関する混合則 (Chen-Watanabe)と平均場近似に基づく従来の混合則 (Pathak et al., Haley-Lodge) との差を議論し,絡み合い由来の平坦部剛性率の組成依存性は前者で記述されるという極めて最近の結果 8)も紹介された.最近は「体を張って笑いを取る」ことを信条としておら

れる渡辺先生には,又とない機会である.「随所に小ネタを仕込んであるんや」と仰るほど,今回は,いつになく念入りにスライドを準備されていた.受賞講演では定番のスタイルである関係研究者を顔写真とともに紹介する形式にするため,普段のやたらと情報量の多いスライドから情報を厳選してなんとかスペースを捻出していた.それでもやはりファイルサイズが大きかったのだろう,講演中に思いがけずMacがスタックするトラブル (Fig. 4)に 3度程見舞われた.だが,そんなことでは狼狽もせず話を続けられ ,「スライドのこの辺にこういう図が出てくると思います」などとやって会場を沸かせていた.渡辺先生お気に入りの,PIと PtBSの運動性の差をネコで示した模式動画も ,予定通り(特に女性の)聴衆の笑いを誘っていた.最後に Alexeiを含む共同研究者であり友人でもある人々に対する謝辞と,来夏京都で開催する ICR2016の案内で講演を締めくくられた.自己採点では 60点(ぎりぎり可)の出来とのこと.各賞の授与式は,同日夜の Banquetで,デザートとコーヒーが供された後に執り行われた.今回,SOR Fellowship Award が新設された.レオロジーの発展に多大な貢献をした方々,具体的には歴代 SOR会長・役員と歴代 Bingham Medalistが対象である.最初ということで,土井先生も含めて沢山の受賞者がいらっしゃった (Fig. 5).また,McKenna 会長は翌日で 2年の任期を終え,木曜日から Gareth McKinley 先生 (MIT)が次期 SOR会長に就任することが発表された.

そしてメインイベント(と筆者が勝手に思っている)は,毎回恒例,推薦者が Bingham Medalist を面白おかしく紹介する "Roast" である.推薦者の Lodge先生は,渡辺先生が Univ. Minnesota のMatthew Tirrell 研でポスドクをしていた頃からの,30年来の付き合いということである.当時のMinnesotaでのポスドク仲間,いわゆるMinnesota mafiaには,筆者のポスドク時代の上司である Nitash Balsara 先生や,Tony Ryan 先生(Univ. Sheffield) など錚々たる面々がいらっしゃる.(ちなみに,Lodge先生は「上品」なので,mafiaの一員ではないとのこと .)

Roastで Lodge先生がどのような話題(写真,動画 etc)を出されるのか分からないので,渡辺先生は楽しみにされていた.しかし,Lodge先生の "Type A Rheologist" (Fig. 6) と題された講演を見て,情報源が誰であるかをすぐに理解されたであろう.そう,筆者である.この日のために,研究室の写真と動画のストックの中から,公表しても支障なさそうなものをいくつか見繕ってNitash と Lodge 先生に事前に送っておいたのである.Lodge 先生がその中から何をどのように使われるかは,筆者も本番まで知らなかったが,「これは是非流して欲しい」と筆者が思っていた動画を使ってもらえるのは知っていた.ICR 2008 Monterey でのカラオケ,"Hotel California"(八百板隆俊博士撮影)である.Hiroshiといえば karaoke,はレオロジーの世界では割と広く知られており(故 Lihktman先生も客員教授として京都に来る際に,皆に言われたので karaokeに連れて行かれるのを覚悟してきたと仰っていたし,実際に歌いに行った),Monterey での "Hotel California" は Rheology Bulletin にも取り上げられ 9),一部では語り草となっていたようだ.しかし,"Hotel California"よりも会場を爆笑させたのは,高橋良彰先生との「青春アミーゴ」のデュエット@PRCR2010,札幌の動画だった.

Roast の後に,Bingham Medal と Certificate,そして賞金の小切手がMcKenna会長から渡辺先生に授与され,恒例の写真撮影タイムとなった (Fig. 7).二次会では,渡辺先生はLodge先生,Balsara先生に加えて,Colby先生,McKenna会長,McKinley 次期会長,Eric Shaqfeh 先生 (Stanford),Norm Wagner先生 (Univ. Delaware) といった「若手」Bingham medalists や,Jai Pathak博士 (MedImmune),Lynn Walker 先生 (Carnegie Mellon Univ.)など友人総勢 20名超とウィスキーを飲んだらしい.(筆者の知る限り,渡辺先生の挙動は世界中どこでも

Fig. 4. Macのトラブル.渡辺先生の肩あたりに,「レインボーカーソル」が見える.スライド1枚で数分話すからスリープに入ったのかも .そんなことは意に介さず身振りを使って管の説明を続ける渡辺先生.

Fig. 5. 土井先生,SOR Fellowship Award 受賞.特等席でカメラを構えるMorrison先生に,McKenna SOR会長が隠れている.

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Nihon Reoroji Gakkaishi Vol.44 2016

変わらない .)酔っ払うと人種・国籍・文化関係なく人間みんな一緒やな,とは渡辺先生の弁だが,似たような性格の人達が集まってきてるだけじゃないか,とは井上先生のご指摘である.渡辺先生が「飲み代」だと考えていた賞金の小切手は無傷だった.

6. After the frenzy (3rd and 4th days)

宴のあとは参加者が次第に減っていく.事前連絡なしの No show の講演もちらほらあった.PMセッションで座長を務められていた Savvas Hatzikiriakos 先生 (Univ. British Columbia, Canada) が,「会場に 10人かそれ以下しかいないから,議論が盛り上がらないんだよ」とぼやいておられた.とはいえ,有名ラボからの発表には聴衆が集まる.友人・知人の発表ならやはり聞きに行こうと思ってしまう.水曜夕方に発表をアサインされた Evelyneは,「月曜と火曜がメインで,面白そうな話はだいたい終わっちゃったんだよね」と言ってはいたけれど,彼女の講演は沢山の聴衆を集めて

いた.複数の会合点を持つ絡み合い直鎖高分子の線形粘弾性データを,うまくモデル化して説明していた.彼女は今,SUPOLEN10)という超分子会合系のダイナミクスに関するプロジェクトを率いており,欧州の高分子レオロジー /ダイナミクスの主な研究グループが軒並み参加している.このような背景もあり,会合性高分子のダイナミクスは近年のトレンドのひとつと言えるだろう.

PMセッション の口頭発表は今回全部で 52件あり,Suspension & Colloids の 49件と並んで多かった.律儀なVlassopoulos先生 (session organizer) が,他のセッションがすべて終わった木曜昼前に,会議の大トリを務められた.しかし流石の集客力で,部屋は立ち見が多数の満員で盛況であった.主鎖にデンドリマーのような側鎖を生やしたポリマーについての発表で,議論がかなり盛り上がったが,同じく session organizerである座長の Randy Ewoldt 先生 (Univ. Illinois) の,「続きは日本でやりましょう !」の一言で,お開きとなった.

Fig. 7. Bingham Medalists集合 .前列左から:Greg McKenna 先生,Henning Winter先生,Eric Shaqfeh 先生,渡辺先生,Hans Christian Öttinger先生,Gareth McKinley 先生,Ron Larson 先生.後列左から:土井先生,John Brady先生,William Schowalter先生,Morton Denn 先生,Gerald Fuller 先生,John Dealy先生,Chris Macosko先生,Ralph Colby 先生,Norm Wagner先生.このメンバーで飲みに行こう,と言われても,筆者なら腰が引けます.

Fig. 6b. "Type A Rheologist"."A"が何を表すのかは,講演を見てのお楽しみ.

Fig. 6a. Lodge先生(右)登場 .ご多忙な Lodge先生は,Banquetのためだけにお越しになった.

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松宮:The Society of Rheology 87th Annual Meeting @Baltimore, MD参加記

7. おわりに

以上,SOR Baltimore meeting の参加報告である.遊んでばっかりじゃないか,とのご指摘もあろうかと思うが,北米を中心に世界各国のレオロジー研究者が集まる機会であり,学術に加えて,この期に親交をさらに深めるのは会議参加の重要な目的の一つである.日本の大学からは参加しづらい日程(後期開始直後)ではあるが,日本からより多くの研究者に参加して頂き,国際的な認知度を高めて欲しいと思う.なお,このような多忙な日程の合間を縫って,渡辺先生

は ICR 2016の Chairとして,スポンサー企業などとの打ち合わせに奔走されていたことを付記したい.井上先生は自慢の一眼レフを日本から持参して ,専属カメラマンの労をとって下さった.本稿の写真は井上先生のご提供によるものである.筆者も,上記の Roast の情報提供などの重責を果たしたことを強調しておきたい.

REFERENCES 1) http://www.rheology.org/sor/awards/bingham/default.htm 2) Likhtman and McLeish, Macromolecules, 35, 6332-6343 (2002).

3) Graham, Likhtman, McLeish, and Milner, J Rheol, 47(5), 1171-1200 (2003).

4) http://rheology.jp/nagoya/2015/10/alexei-likhtman先生ご逝去 / 5) 例えば ,

http://www.bbc.com/news/uk-england-berkshire-34503040, http://www.dailymail.co.uk/news/article-3268944/British-

university-physics-professor-dies-falling-50ft-rocks-American-hiking-trip.html

6) Watanabe, Matsumiya, Masubuchi, Urakawa, and Inoue, Macromolecules, 48(9), 3014–3030 (2015).

7) Lodge, Rheology Bulletin, 84(2), 4 (2015). http://www.rheology.org/sor/publications/rheology_b/RB2015Jul.pdf

8) Matsumiya, Rakkapao and Watanabe, Macromolecules, 48(21), 7889-7908 (2015).

9) Morrison, Rheology Bulletin, 78(1), 7 (2009). http://www.rheology.org/sor/publications/rheology_b/RB2009Jan.pdf

10) http://www.supolen.eu


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