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Title 電磁鋼板の磁化機構に関するマルチフィジックスモデル ......2 第1章...

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Title 電磁鋼板の磁化機構に関するマルチフィジックスモデル の開発( Dissertation_全文 ) Author(s) 伊藤, 俊平 Citation 京都大学 Issue Date 2017-03-23 URL https://doi.org/10.14989/doctor.k20376 Right Type Thesis or Dissertation Textversion ETD Kyoto University
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Page 1: Title 電磁鋼板の磁化機構に関するマルチフィジックスモデル ......2 第1章 序論 [12]と呼ぶ.この磁歪によって鉄心材料に加わる内部応力や外部より機械

Title 電磁鋼板の磁化機構に関するマルチフィジックスモデルの開発( Dissertation_全文 )

Author(s) 伊藤, 俊平

Citation 京都大学

Issue Date 2017-03-23

URL https://doi.org/10.14989/doctor.k20376

Right

Type Thesis or Dissertation

Textversion ETD

Kyoto University

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電磁鋼板の磁化機構に関する

マルチフィジックスモデルの開発

伊藤 俊平

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目 次

第 1章 序論 1

1.1 はじめに . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1

1.2 電磁鋼板 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2

1.3 単純化磁区構造モデル・集合磁区モデル . . . . . . . . . . 3

1.4 論文の構成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

第 2章 ベクトル単板磁気試験器を用いた測定 7

2.1 歪みゲージを用いた磁歪計測 . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

2.2 磁歪の計算 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

2.3 方向性電磁鋼板の測定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

2.4 まとめ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

第 3章 磁気弾性エネルギーを考慮した集合磁区モデル 15

3.1 従来の単純化磁区構造モデル・集合磁区モデルの概要 . . . 15

3.2 単純化磁区構造モデルの内部エネルギー . . . . . . . . . . 16

3.2.1 外部磁界エネルギー . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

3.2.2 結晶磁気異方性エネルギー . . . . . . . . . . . . . . 16

3.2.3 静磁エネルギー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

3.2.4 磁壁エネルギー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

3.2.5 エネルギーの規格化 . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

3.3 極小解の算出方法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19

3.4 ピンニング磁界 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19

3.5 人工的なポテンシャルエネルギー . . . . . . . . . . . . . . 20

3.6 集合磁区モデルの内部エネルギー . . . . . . . . . . . . . . 20

3.7 従来モデルによる解析 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21

3.7.1 方向性電磁鋼板の解析結果 . . . . . . . . . . . . . . 21

3.7.2 無方向性電磁鋼板の解析結果 . . . . . . . . . . . . 22

3.8 磁気弾性エネルギーを考慮した集合磁区モデル . . . . . . . 23

3.8.1 磁気弾性エネルギー . . . . . . . . . . . . . . . . . 24

3.9 磁気弾性エネルギーを考慮した集合磁区モデルによる解析 26

3.9.1 無方向性電磁鋼板の解析結果 . . . . . . . . . . . . 26

3.9.2 方向性電磁鋼板の解析結果 . . . . . . . . . . . . . . 27

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3.10 まとめ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 28

第 4章 6磁区を単位セルとした集合磁区モデル 31

4.1 6つの磁区を持つ単純化磁区構造モデル・集合磁区モデル . 31

4.2 人工的なポテンシャルエネルギー . . . . . . . . . . . . . . 32

4.3 磁歪の計算手法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 35

4.4 6磁区単純化磁区構造モデルによる解析 . . . . . . . . . . . 35

4.5 6磁区を単位セルとした集合磁区モデルによる解析 . . . . 38

4.5.1 方向性電磁鋼板の解析結果 . . . . . . . . . . . . . . 38

4.5.2 無方向性電磁鋼板の解析結果 . . . . . . . . . . . . 41

4.5.3 圧縮応力下の磁化曲線に関する考察 . . . . . . . . . 44

4.6 磁束密度を入力とした解析 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 46

4.6.1 解析手法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 47

4.6.2 任意の方向への交番磁束下の解析 . . . . . . . . . . 48

4.6.3 円回転磁束下の解析 . . . . . . . . . . . . . . . . . 48

4.7 まとめ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 53

第 5章 内部応力の分布を考慮した集合磁区モデル 57

5.1 内部応力と磁気弾性エネルギーの関係 . . . . . . . . . . . . 57

5.2 内部応力の計算手法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 59

5.3 内部応力の分布を考慮した集合磁区モデルによる解析 . . . 60

5.3.1 方向性電磁鋼板の解析結果 . . . . . . . . . . . . . . 60

5.3.2 無方向性電磁鋼板の解析結果 . . . . . . . . . . . . 63

5.4 まとめ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 68

第 6章 ピンニングサイトの分布を考慮した集合磁区モデル 69

6.1 ピンニング磁界とエネルギーの関係 . . . . . . . . . . . . . 69

6.2 ピンニングサイトの分布を考慮したピンニング磁界 . . . . 72

6.3 ピンニングサイトの分布を考慮した集合磁区モデルによる解析 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 74

6.3.1 ピンニング磁界 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 74

6.3.2 無方向性電磁鋼板の解析結果 . . . . . . . . . . . . 76

6.4 密度関数とピンニング磁界の関係について考察 . . . . . . . 79

6.5 測定結果に基づいた密度関数を用いた解析 . . . . . . . . . 82

6.6 磁壁移動に対応してピンニングの影響を考える手法について 83

6.7 消磁状態におけるピンニングについて . . . . . . . . . . . . 86

6.8 磁化容易軸とヒステリシス幅の関係について . . . . . . . . 87

6.9 分布ピンニングモデル (W)を用いた解析 . . . . . . . . . . 89

6.10 測定結果に基づいた密度関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . 90

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6.11 測定結果に基づいた密度関数を用いた分布ピンニングモデル (W)による解析 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 96

6.12 内部応力の分布を考慮したモデル . . . . . . . . . . . . . . 99

6.13 まとめ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 102

第 7章 結論 103

第 8章 謝辞 105

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第1章 序論

1.1 はじめに

近年,モータを初めとした電気機器に対する小型化・高出力化・高効率化の要求が高まっている.これらの要求を実現するために,電気機器の計算機シミュレーションを用いた最適設計が行われている.そのため,電気機器の最適設計を実現する上で,電磁鋼板を初めとした鉄心材料の特性を説明する高精度なモデルが必要とされており,現在開発が進められている.鉄心材料の特性の表現手法として,cmからmmといったマクロな領域

の解析には,プレイモデル [1],プライザッハモデル [2, 3],ストップモデル [4]などのマクロモデルが用いられている.この中でも,プレイモデルはプライザッハモデルと数学的に等価であり,記憶容量と計算コストが低いことが知られており,特に等方性ベクトルプレイモデルおよび異方性行列を用いたモデル [5]は無方向性電磁鋼板の異方性を含んだ特性を精度よく表現することに成功している.しかし,これらは現象論的なモデルであり鉄心材料の計測結果を必要としており,材質,結晶粒構造,欠陥・不純物などの材料パラメータから特性を算出することはできない.そのため,電気機器の要求する性能を材料開発へ反映させることは困難である.nmから µmといったミクロな領域においては Landau-Lifshitz-Gilbert

(LLG)方程式に基づいて電子のスピンの振る舞いを計算するマイクロマグネティックスシミュレーション [6]が広く用いられている.しかし,マイクロマグネティックスシミュレーションを cmからmmといったマクロな領域の解析に用いることは計算コストの観点から非常に困難である.このようにマクロスケールの鉄心材料の特性を物理的に説明することが

困難な理由として,中間のスケールに位置する µmからmmといった磁区・結晶サイズの理論が未確立であることが上げられる.中間スケールの物理的モデルとしては,フェーズ理論 [7]や磁区構造モデル [8, 9, 10]などのいくつかのモデルが提案されているが,中間スケールからマクロスケールにかけての理論の確立には至っていない.鉄心材料のマクロスケールの磁気特性は,中間スケールの各結晶内部に

発生する磁区構造やミクロスケールの磁壁移動や磁化回転といった磁化過程 [11]に由来している.また,電磁鋼板ではそれぞれの結晶内部で磁化が向いた方向に変形し歪みが発生することが知られており,この歪みを磁歪

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2 第 1章 序論

[12]と呼ぶ.この磁歪によって鉄心材料に加わる内部応力や外部より機械的に加わる応力が,磁壁移動などの磁化過程に影響を与えている.このため,近年では機器製造時に鉄心材料に加わる機械的な応力が磁気特性の劣化を招くことが大きな問題となっている [13, 14].しかし,現状では応力特性の有効なモデルの開発が十分に進んでおらず,応力特性の正確な評価のためには多くの測定結果を必要としている.また,電磁鋼板などの鉄心材料の内部には格子欠陥や結晶粒界などのピンニングサイトが存在している.このピンニングサイトによって磁壁の移動が妨げられ,ピンニング型のヒステリシスが発生し,これが鉄損を生む要因となっている.このように,電磁鋼板のマクロな磁気特性は,磁気的・力学的な影響に基づいており,これらを表現するマルチフィジックスモデルが必要とされている.近年では,中間スケールからマクロスケールの現象を説明するマルチス

ケールな手法がいくつか提案されている.文献 [15]では,単一磁区の集合として磁化状態を表現するモデルが提案されており,電磁鋼板の磁化曲線の再現が行われている.文献 [16]においては確率変数に基づいた磁区の平衡を仮定したモデルが提案されており,このモデルによって電磁鋼板の磁化曲線および磁歪を再現することに成功している.文献 [17, 18]においては 2つの磁区によって鉄心材料の磁化過程を表現

する単純化磁区構造モデルが提案されている.さらにこのモデルをマクロスケールに拡張するために,単純化磁区構造モデルを単位セルとして,それを多数集合させた集合磁区モデルが提案され,方向性電磁鋼板の解析に用いられている [19].このモデルでは,マイクロマグネティックスシミュレーションと同様の方法によってセル間の静磁エネルギーを計算しており,材料の形状などを考慮した解析が可能である.しかし,従来の集合磁区モデルは応力やピンニングサイトの影響を十分

に評価できず,また磁壁移動に関連した一部の現象を再現できないといった問題を持つ.そこで,本研究ではこの集合磁区モデルの持つ問題を解決し,応力やピンニングサイトの影響を考慮し磁壁移動や磁化回転といった磁化過程に基づいて電磁鋼板の特性を再現する,マルチフィジックスモデルの実現を目指す.

1.2 電磁鋼板

電磁鋼板は電気機器の鉄心材料として広く用いられている材料であり,ある一方向に対し高磁束密度,高透磁率といった良い磁気特性を示すように結晶磁化容易軸がなるべく同じ向きを向くように製造された方向性電磁鋼板と,全方向に良い特性を示すように結晶磁化容易軸が様々な方向を向くように製造された無方向性電磁鋼板の 2種類に分けられる.方向性電磁

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1.3. 単純化磁区構造モデル・集合磁区モデル 3

鋼板は主に変圧器など磁束が鉄心材料内部で一定の方向へ向く電気機器に用いられ,無方向性電磁鋼板はモータなど材料内部で様々な方向に磁束が向く機器に用いられている.電磁鋼板は多数の結晶を持ち,その内部では磁気モーメントが同じ向き

を向いた複数の小領域に分かれた構造を取っており,それぞれの領域を磁区,この構造のことを磁区構造と呼ぶ.鉄心材料は材料内部の静磁エネルギーなどのエネルギーの和が極小となるような磁気的に安定な磁化状態を取り,磁区構造はその結果発生すると考えられる.磁区と磁区の境界のことを磁壁と呼び,磁区の磁化ベクトルの角度の差によって 90◦磁壁と 180◦

磁壁の 2つに分けられる.電磁鋼板の磁化過程はこの磁壁が移動する磁壁移動と磁区内の磁化ベクトルの向きが変化する磁化回転によって説明できる.マクロスケールの磁気特性はこれらのミクロスケールの磁化過程に由来しているため,電磁鋼板の特性を材料のパラメータなどから物理的に説明するモデルを実現するためには,これらの磁化過程に基づいたモデルが必要となる.

1.3 単純化磁区構造モデル・集合磁区モデル

これまで,電磁鋼板を初めとした鉄心材料の基本的な磁化機構を明らかとするために,2つの磁区によって現象を単純化して鉄心材料の中間スケールの磁化状態を表現する単純化磁区構造モデルが提案されている.このモデルでは,2つの磁区の内部では磁化ベクトルの向きが一定であると仮定し,この磁化ベクトルの向きと 2つの磁区の体積比によって磁化状態を表現している.磁化状態は内部のエネルギーの和が極小となるように決定される.集合磁区モデルは単純化磁区構造モデルをマクロスケールまで拡張す

るために,多数集合させたモデルである.磁化状態はセルごとの 2つの磁区の体積比と磁化ベクトルの向きによって表現され,単純化磁区構造モデルと同様に全体の内部エネルギーが極小となるように磁化状態が決定される.これまで,このモデルを用い電磁鋼板の特性に関する解析が行われている.しかし,従来の集合磁区モデルには大きく分けて 3つの問題が存在す

る.第 1の問題は 90◦ 磁壁移動による磁化過程を十分に表現できておらず,電磁鋼板の一部の特性を再現できていないことである.第 2の問題は磁気弾性エネルギーを考慮していなかったため,鋼板加工時に加わる応力や磁歪の影響などによって発生する内部応力の影響を考慮できないことである.第 3の問題はピンニングサイトによって発生するピンニング型のヒステリシスを簡略化された手法によって表現していることため,初磁化曲

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4 第 1章 序論

線や各振幅毎の磁化曲線を十分に表現することができないことである.本論文では,従来の単純化磁区構造モデル・集合磁区モデルのこれらの

問題点を解決し,力学的・磁気的な関係による鉄心材料のマクロスケールの特性を説明するマルチフィジックスモデルを開発することを目的とする.

1.4 論文の構成

以下では本論文の構成を説明する.

(1)ベクトル単板磁気試験器を用いた測定

鉄心材料のモデル化を行うにあたって,測定結果との比較を行う必要がある.特に,電磁鋼板は異方性を持ち,方向によって磁化特性が異なることが知られているため,異方性の評価を行う上でベクトル励磁下の磁気特性の測定を行う必要がある.これまで,ベクトル励磁下の測定を行う手法の一つとして,誘導機の固定子を用いたベクトル単板磁気試験器が使用されていた.しかし,この磁気試験器には方向性電磁鋼板の磁化曲線を正しく測定できないといった問題が存在している [20].また,電磁鋼板の磁化過程を評価するうえで磁歪の測定が重要となるが,これまでこの磁気試験器を用いた磁歪の計測は行われていなかった.そこで,第 2章ではベクトル単板磁気試験器を用いた,電磁鋼板の磁化

曲線および磁歪の測定手法について考察する.この磁気試験器を用いて得られた測定結果と解析結果との比較によって,次章以降では電磁鋼板の特性のモデル化に関しての議論を行う.

(2)磁気弾性エネルギーを考慮した集合磁区モデル

これまで,2つの磁区を持つ単純化磁区構造モデル・その集合である集合磁区モデルをモデルを用いて,方向性・無方向性電磁鋼板の磁化過程解析が行われていた.しかし,磁気弾性エネルギーの計算を行っていないため,電気機器製造時に加わる応力が電磁鋼板の磁気特性に与える影響を再現することはできなかった.そこで,第 3章では,集合磁区モデルに新たに磁気弾性エネルギーを導入することで応力の影響を考慮した解析を行い,応力による磁化特性の変化の再現を目指す.

(3)6磁区を単位セルとした集合磁区モデル

第 3章では,2つの磁区を持つ単純化磁区構造モデルの集合である 2磁区集合磁区モデルを用いた解析を行ったが,第 3章の議論の中でこのモデ

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1.4. 論文の構成 5

ルには 90◦磁壁移動を十分に表現できないといった問題点が存在することが明らかとなった.そこで,第 4章ではこの問題を解決するために,新たに 6つの磁区を持つ単純化磁区構造モデルおよび集合磁区モデルを提案する.この6磁区モデルを用いて方向性・無方向性電磁鋼板に関する解析を行うことで,モデルの有用性に関する検証を行う.

(4)内部応力の分布を考慮した集合磁区モデル

第 4章まで,集合磁区モデルに導入していた磁気弾性エネルギーの計算では,磁性材料内部で応力が一様であることを仮定していた.しかし,実際には応力は結晶磁化容易軸の分布や各結晶ごとの磁歪の影響により磁性材料内部で分布している.そこで第 5章では,内部応力の分布を考慮した集合磁区モデルを提案し,電磁鋼板の磁気特性の解析を行う.

(5)ピンニングサイトの分布を考慮した集合磁区モデル

これまで,集合磁区モデルにおいては,ピンニングサイトの影響を磁化の変化の逆向きに発生する一定の大きさのピンニング磁界によって表現していた.しかし,この方法ではヒステリシスループの幅が常に一定となってしまい,各振幅毎のヒステリシスループ幅の違いや初磁化曲線などを再現することはできない.そこで,第 6章ではピンニングの影響をピンニングサイトの強度分布に基づいて与える方法を新たに提案し,電磁鋼板の磁化曲線の解析を行う.

(6)結論

第 7章では,本論文において得られた結論についてのまとめを行い,今後の展望について述べる.

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第2章 ベクトル単板磁気試験器を用いた測定

電磁鋼板の磁気特性のモデル化に取り組むにあたって,測定結果との比較を行う必要がある.本章では電磁鋼板の磁気特性の測定について議論する.方向性・無方向性電磁鋼板は結晶磁化配置の影響などによって異方性を持つ.電磁鋼板の磁化曲線の測定手法として単板磁気試験器が広く用いられているが,単板磁気試験器を用いた手法はスカラー磁気測定であるため,電磁鋼板の磁束密度と磁界のベクトル的な関係を測定することはできない.このため,異方性を評価するためにはそれぞれの方向に切り出した多くの測定試料を必要とする.また,円回転磁束などのベクトル励磁下における磁気測定を得ることはできない.そこで,本章では 2次元ベクトル磁気試験器を用いたベクトル励磁下の測定手法についての考察を行う.測定結果と集合磁区モデルによる解析結果との比較については次章以降において行う.

2.1 歪みゲージを用いた磁歪計測

鉄心材料が磁化する際に,磁化の方向に伸びる形で内部の結晶粒が変形することが知られており,この現象を磁歪と呼ぶ.電気機器を設計する上では,磁歪によって磁性材料が変形する際に発生する振動・騒音が問題の一つとなる.180◦磁壁移動の際には,2つの磁区の磁歪による伸びの向きが同じであるため磁歪はほとんど発生しないが,90◦磁壁移動の際には磁歪による変形の向きが 90◦変化しするため大きな磁歪が発生することが知られている.また,この自発磁歪は材料の特性に影響を与えており,逆に外部から圧縮・引張応力が加わり磁性体が変形した場合も,それによって磁気特性が変化する.そのため,電磁鋼板の磁化過程を考える上で,この磁歪に関する測定結果との比較が重要となる.これまで,ベクトル単板磁気試験器を用いた無方向性電磁鋼板の測定が

行われており [21],波形制御を用いることで任意の方向の交番磁束下の特性や円回転磁束下の測定が可能であることが分かっている [20].この 2次元磁気試験器に 3軸歪みゲージを用いた磁歪計測を加えることで,ベクトル励磁下の磁歪の測定を行った.この測定システムについて説明する.

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8 第 2章 ベクトル単板磁気試験器を用いた測定

H-coil

width between the

sample and the

magnetic shield

magnetic shield

B-coil

a stator of 2-pole

induction motor

circular sample

excitation coil

along the RD

excitation coil

along the TD

TD

ND

TD

RD

図 2.1: 2次元ベクトル磁気試験器

図 2.1にベクトル単板磁気試験器の模式図を示す.この磁気試験器では,単相 2極誘導機の回転子を取り除いた固定子を用いて電磁鋼板に磁束密度Bを印加する.直角方向 (TD)には主巻線によって,圧延方向 (RD)には補助巻線によって励磁することにより,ベクトル的に磁束密度Bを印加することが可能となる.固定子の形状は内径,外形,厚さがそれぞれ 77mm,132 mm,40mmであり,スロット数は 24である.試料は直径 76mmの円形であり,試料の中心部に 0.3 mm程の穴を 4つあけ,この穴に導線を通すことで圧延方向・直角方向の磁束密度を検出する Bコイルとしている.磁界の検出には,ガラスエポキシ板にポリウレタン導線を 730回巻いたH コイルを用いており,測定試料の上下にそれぞれ圧延方向・直角方向を向くように設置している.また,この磁気試験器では図 2.1に示されるように鋼板の上下に磁気

シールドを設置している.磁気シールドとしては測定試料と同一種類の円形の電磁鋼板を用いる.これにより,磁気シールドと試料の間の領域での磁界の板厚方向成分を小さくすることができる [20].電磁鋼板の試料に図 2.2のように 3軸の歪みゲージを貼りつけることに

よって磁歪を測定する.歪みゲージは金属の変形に伴う導電率の変化から歪みを測定するセンサであり,3軸歪みゲージを用いることで鋼板面内の3つの方向に発生する磁歪を計測することができる.図 2.3にこの測定システムによる測定の流れを示す.まず,ファンクションジェネレータで波形を生成し,その波形を電流出力のパワーアンプを用いて増幅し,磁気試

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2.2. 磁歪の計算 9

RD

TD

��∘

���∘

���∘

図 2.2: 3軸歪みゲージ

�������� ��� ��

�� �� �� �� ����� ��

��� ��� ������ ��

����� �������� ������ ��������

���� �� ����������

� ���� ��������

� ���� � ���� � !"�# $"%$&

�������������������������

�'(��)��

図 2.3: 測定システム

験器へと励磁する.得られたH コイル,Bコイルの信号をシグナルアンプによって,歪みゲージの信号を歪みアンプによって増幅し,デジタルオシロスコープで読み取る.得られた信号を元に,磁束密度波形が目的の正弦波となるようにフィードバック制御を行うことで,任意のベクトル励磁下の磁界,磁束密度,磁歪の関係を得ることができる.

2.2 磁歪の計算

2.1項で述べたように,3軸の歪みゲージを用いることで,鋼板面内の圧延方向,直角方向,45◦ 方向に発生する歪みを測定することができる.この測定結果から,任意の方向の磁歪を計算する手法について説明する.歪み ϵは 2階のテンソルによって

ϵ =

ϵ11 ϵ12 ϵ13

ϵ21 ϵ22 ϵ23

ϵ31 ϵ32 ϵ33

(2.1)

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10 第 2章 ベクトル単板磁気試験器を用いた測定

と表される.ただし ϵij = ϵjiである.歪みの座標軸を圧延方向,直角方向,板厚方向 (ND)に取れば,歪み

ゲージによって得られた圧延方向からの角度 0◦,45◦,90◦方向の磁歪 ϵ0◦,ϵ45◦,ϵ90◦ より,鋼板面内の歪みは

ϵ11 = ϵ0◦ , ϵ22 = ϵ90◦, ϵ12 = ϵ45◦ − ϵ0◦/2− ϵ90◦/2 (2.2)

と計算できる.また,磁歪テンソルの座標変換を行うことで任意の方向の磁歪を求めることができる.

2.3 方向性電磁鋼板の測定

これまで,この磁気試験器を用い,無方向性電磁鋼板のベクトル励磁下の測定が行われてきた.しかし,この磁気試験では方向性電磁鋼板の特性を適切に得ることができないことが知られている [20].そこで,本節ではベクトル単板磁気試験器を用いた方向性電磁鋼板のベクトル励磁下の測定手法について考察する.図 2.4に,単板磁気試験器,ベクトル単板磁気試験器によって測定され

た方向性電磁鋼板の圧延,直角方向の磁化特性を示す.ただし,両者の測定で用いられた方向性電磁鋼板は同一の物ではないため,定量的な比較はできない.ベクトル単坂試験器による測定では従来と同様の条件を用い,B コイル幅,H コイル幅を 20 mm,磁気シールド幅を 12.5 mmと定めた.単板磁気試験器によって得られた磁化曲線と比較し,ベクトル単板磁気試験器によって得られた方向性電磁鋼板の圧延・直角方向の磁化曲線は大きく異なっており,ベクトル単板磁気試験器では方向性電磁鋼板の磁化曲線が正しく測定できていないことが分かる.この原因の一つとして,方向性電磁鋼板の結晶粒径は無方向性電磁鋼板と比較して大きく,結晶粒径と比較しBコイル幅の 20 mmが小さいことが考えられる.そこで,Bコイル,Hコイル幅を 38 mmとした試料を用いて同様の測

定を行った.図 2.5(a)に得られた磁化曲線を示す.B コイル幅を長くすることによって,圧延方向の磁化特性が表現でき,直角方向の透磁率が小さくなっていることが分かる.しかし,図 2.4(a)の直角方向の磁化曲線において見られた,300 A/m 程度から磁化曲線の傾きが大きく増加するといった特性を得ることはできなかった.そこで,試料と磁気シールド間の磁界が十分に一様になっていないことが原因になっているのではないかと考え,磁気シールド幅を 5 mmに狭め同様の測定を行った.得られた磁化曲線を図 2.5(b),(c)に示す.Bコイル幅 20 mmの条件では,磁気シールド幅を狭くした場合においても,方向性電磁鋼板の特性を再現できていないが,Bコイル幅 38 mmの条件では磁気シールド幅を 5 mmにするこ

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2.3. 方向性電磁鋼板の測定 11

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-400 -200 0 200 400

B(T

)

H(A/m)

RDTD

(a)

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-400 -200 0 200 400

B(T

)

H(A/m)

RDTD

(b)

図 2.4: 方向性電磁鋼板の磁化曲線の測定結果: (a) 単板磁気試験器,(b)

ベクトル単板磁気試験器

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12 第 2章 ベクトル単板磁気試験器を用いた測定

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-400 -200 0 200 400

B(T

)

H(A/m)

RDTD

(a)

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-400 -200 0 200 400

B(T

)

H(A/m)

RDTD

(b)

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-400 -200 0 200 400

B(T

)

H(A/m)

RDTD

(c)

図 2.5: ベクトル単板磁気試験器を用いた方向性電磁鋼板の磁化曲線の測定結果: (a) B コイル幅 38 mm,磁気シールド幅 12.5 mm,(b) B コイル幅 20 mm,磁気シールド幅 5 mm,(c) Bコイル幅 38 mm,磁気シールド幅 5 mm

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2.3. 方向性電磁鋼板の測定 13

-2.5

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

2.5

-400 -200 0 200 400

B(T

)

H(A/m)

RDTD

(a)

-2.5

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

2.5

-400 -200 0 200 400

B(T

)

H(A/m)

RDTD

(b)

図 2.6: 低グレード方向性電磁鋼板の磁化曲線の測定結果: (a) Bコイル幅20 mm,(b) Bコイル幅 38 mm

とによって,圧延・直角方向のそれぞれの特性が測定できていることが分かる.続いて,図 2.5にて測定を行った電磁鋼板と比較し小さな結晶粒径を持

つ低グレードの方向性電磁鋼板を用いて同様の測定を行った.磁気シールド幅は 5 mmとした.得られた磁化曲線を図 2.6に示す.高グレード材の結果と同様に,Bコイル幅 20 mmの条件の結果と比較し,Bコイル幅 38

mmの条件の方が図 2.4(a)の方向性電磁鋼板の圧延方向,直角方向それぞれの特性をよく再現できていることが分かる.よって,次章以降においてはBコイル幅 38 mm,磁気シールド幅 5 mm

の条件で測定を行い,得られた磁化曲線・磁歪と集合磁区モデルによって得られた解析結果との比較を行う.

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14 第 2章 ベクトル単板磁気試験器を用いた測定

2.4 まとめ

本章では,誘導機の固定子を用いたベクトル単板磁気試験器を用いて電磁鋼板の磁気特性を測定する手法について議論した.以下に本章にて得られた結果を示す.

• 従来は誘導機の固定子を用いたベクトル単板磁気試験器では,方向性電磁鋼板の磁化曲線を得ることができなかったが,Bコイル,H

コイルの幅を大きく取り,磁気シールドの幅を従来よりも狭くすることによって,圧延方向・直角方向の磁化曲線の測定が可能になることを示した.

• 円形鋼板試料に 3軸歪みゲージを貼り付けることで,方向性・無方向性電磁鋼板のベクトル励磁下の任意の方向の磁歪を測定することが可能となった.

次章以降では,これらの手法によって得られた磁化曲線・磁歪と解析結果の比較検討を行う.

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15

第3章 磁気弾性エネルギーを考慮した集合磁区モデル

これまで,図 3.1に示される 2つの磁区を持つ単純化磁区構造モデルおよび,それを多数集合させた集合磁区モデルが提案され,方向性,無方向性電磁鋼板の磁気特性の解析が行われてきた [17, 18, 19].本章ではこの集合磁区モデルに新たに磁気弾性エネルギーを導入することで応力の影響を考慮した鉄心材料の磁気特性の解析を行うことを目的とする.まず,次節より従来の単純化磁区構造モデル・集合磁区モデルについて説明する.

3.1 従来の単純化磁区構造モデル・集合磁区モデルの

概要

単純化磁区構造モデルは磁区を 2つに単純化し,磁区内の磁化が同じ向きを向くと仮定することで中間スケールの鉄心材料の基本的な磁化機構を明らかにすることを目的に提案されたモデルである.単純化磁区構造モデルでは磁化の向きと磁壁位置によって表現される磁化状態を全体の内部エネルギー eが極小となるように決定している.このとき,磁化過程の変化に掛かる時間スケールが外部磁界の変化の時間スケールと比較して十分に小さいと仮定している.ここで,全体の内部エネルギーとは,外部磁界エネルギー,結晶磁気異方性エネルギー,静磁エネルギー,磁壁エネルギーの和である.集合磁区モデルは,単純化磁区構造モデルをマクロスケールに拡張する

ことを目的とし,単純化磁区構造モデルをセルとして扱い,それを多数集合させたモデルである.磁化状態は各セル内の 2つの磁区の磁化ベクトルの向きと磁区の体積比によって表現され,全てのセルの内部エネルギーの和が極小となるように決定される.

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16 第 3章 磁気弾性エネルギーを考慮した集合磁区モデル

(a)単純化磁区構造モデル (b)集合磁区モデル

図 3.1: 集合磁区モデル

3.2 単純化磁区構造モデルの内部エネルギー

3.2.1 外部磁界エネルギー

磁気モーメントが磁界中に存在する場合,磁気モーメントが磁界と同じ方向を向くように力が作用する.この力によるポテンシャルエネルギーを外部磁界エネルギーもしくはゼーマンエネルギーと呼ぶ.強磁性体に外部磁界Hapを印加した際に生じる単位体積あたりの外部磁界エネルギーは

−µ0M ·Hap (3.1)

と与えられる.ここで,µ0は真空透磁率,M は自発磁化である.磁区構造モデルにおいては磁区内部の磁化ベクトルの向きが一定であると仮定しているため,外部磁界エネルギーは各磁区ごとに与えられる.すなわち,セルの体積を V,磁区 i (i = 1, 2)の自発磁化をMi,自発磁化の大きさをMS,その向きをmi = (sin θi cosϕi, sin θi sinϕi, cos θi),磁区の体積比を riとすれば,外部磁界エネルギーEapは

Eap = −∑i

∫Vi

µ0M i ·HapdV = −V · µ0MS

∑i

rimi ·Hap (3.2)

と表される.ただし,r2 = 1− r1である.

3.2.2 結晶磁気異方性エネルギー

強磁性体には,自発磁化が結晶内の特定の方向に向きやすい特徴を持ち,これを結晶磁気異方性と呼ぶ.ここで,磁化の向きやすい方向を磁化容易軸,向きにくい方向を磁化困難軸とよぶ.強磁性体の中でも鉄やニッケルは立方異方性を持っており,3つの容易軸を持つ.この特性は磁化の向きに応じて磁性体の内部エネルギーが変化することによるものと捉えることができ,このエネルギーを結晶磁気異方性エネルギーと呼ぶ.本研究では電磁鋼板を扱うため,立方異方性を考える.

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3.2. 単純化磁区構造モデルの内部エネルギー 17

3つの磁化容易軸に対する自発磁化ベクトルmiの方向余弦を (α1,i, α2,i, α3,i)

とすれば,磁区 iにおける単位体積あたりの結晶磁気異方性エネルギーは

K1(α21,iα

22,i + α2

2,iα23,i + α2

3,iα21,i) (3.3)

で与えられる.ここで,K1は結晶磁気異方性定数である.磁区内の磁化ベクトルの向きは一定であるため,結晶磁気異方性エネルギーEanは

Ean = V K1

∑i

ri(α21,iα

22,i + α2

2,iα23,i + α2

3,iα21,i) (3.4)

と計算される.

3.2.3 静磁エネルギー

磁性体の内部には自発磁化の影響によって磁界が発生しており,この磁界のことを減磁界と呼ぶ.静磁エネルギーとは減磁界と自発磁化の相互作用に関するエネルギーである.静磁エネルギーは磁性体内部の各場所における自発磁化の影響を受けて場所によって大きさが異なるため,これを正確に計算すると計算コストが大きくなる.そこで,単純化磁区構造モデルでは,規格化平均磁化

m = (mx,my,mz) =∑i

rimi (3.5)

に磁性体の形状によって決まる減磁界係数 kx,ky,kzをかけることによって減磁界Hstを

Hst = −MS(kxmx, kymy, kzmz) (3.6)

と与えている.静磁エネルギーEstは

Est = −∑i

∫Vi

µ0

2Hst ·MidV (3.7)

= −V · µ0MS

2

∑i

riHst ·mi (3.8)

= −V · µ0MS

2Hst ·m (3.9)

= V ·µ0M

2S

2(kxm

2x + kym

2y + kzm

2z) (3.10)

と計算される.

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18 第 3章 磁気弾性エネルギーを考慮した集合磁区モデル

3.2.4 磁壁エネルギー

磁壁エネルギーは磁壁に発生する,スピン間の交換エネルギー,結晶磁気異方性エネルギー,静磁エネルギーの和である.この磁壁エネルギーが極小となるように.磁壁内部ではスピンは一方の磁区の磁化方向からもう一方の磁区の磁化方向へと徐々に向きを変えている.磁壁にはブロッホ磁壁とネール磁壁の 2種類が存在し,磁性体の厚みによって決まっている.本研究では電磁鋼板を対象としているためブロッホ磁壁を仮定する [22].このとき,磁壁を挟む 2つの磁区の磁化ベクトル間の角度を θw,磁区の面積を Swとすれば,磁壁エネルギーEwは

Ew =1

2γNSw(1− cos θw) (3.11)

と計算される.ただし,γNは 180◦磁壁の単位面積あたりのエネルギーであり

γN = 4√AK1 (3.12)

と与えられる [8, 10].ここで,Aは交換スティフネス定数と呼ばれる磁性体固有の定数である.

3.2.5 エネルギーの規格化

磁化過程の解析の結果を汎用的に利用するために,上記のエネルギーに関して結晶磁気異方性エネルギーを基準とした無次元化を行う.すなわち,単一セルの体積を V として,各エネルギーを V K1で割ることで規格化すると,

eap = Eap/(V K1) = −2h ·m (3.13)

ean = Ean/(V K1) =∑i

ri(α21,iα

22,i + α2

2,iα23,i + α2

3,iα21,i) (3.14)

ew = Ew/(V K1) =w

2(1−m1 ·m2) (3.15)

est = Est/(V K1) = sxm2x + sym

2y + szm

2z (3.16)

(3.17)

となる.ここで,

h =Hap

κMS, κ =

2K1

µ0M2S

, w =4Sw

V

√A

K1(3.18)

sx =kxκ, sy =

kyκ, sz =

kzκ

(3.19)

である.ただし,hは規格化外部磁界ベクトルである.

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3.3. 極小解の算出方法 19

図 3.2: スカラーストップヒステロン

3.3 極小解の算出方法

磁化状態は全磁気エネルギーが極小となるように決定される.磁化ベクトルの向き,磁区の体積比を変数ベクトル x = (ϕ1, θ1, ϕ2, θ2, r1)で表すと,磁気エネルギー eは xの関数である.eが極小となるのは磁化状態が

∂e

∂x= 0 (3.20)

を満たす場合である.単純化磁区構造モデルではこれを満たす xを人工的な状態方程式

dx

dt= y,

dy

dt= − ∂e

∂x− βy (3.21)

が定常状態となるまで積分計算することによって求める.ここで,yは中間変数,βは散逸係数である.

3.4 ピンニング磁界

一般的に磁性材料の内部には格子欠陥や結晶粒界などのピンニングサイトが分布しており,このピンニングサイトによって磁壁の移動が妨げられ,これがピンニング型のヒステリシスを生む要因となっている [23].単純化磁区構造モデルでは,ベクトルストップヒステロンによって表現される磁化の変化と逆向きに発生する一定の大きさのピンニング磁界を導入す

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20 第 3章 磁気弾性エネルギーを考慮した集合磁区モデル

ることで,ピンニングサイトの影響を表現している [19].ピンニング磁界hp = (hpx, hpy, hpz)を与える式を以下に示す.

hpx =pxηSηx(m), hpy =

pyηSηy(m),

hpz =pzηSηz(m), (3.22)

Sη(m) = (Sηx, Sηy, Sηz) =η(m−m0 + S0

η)

max(η, |m−m0 + S0η)|)

,

ここで,Sηは半径ηのベクトルストップヒステロン [4],(m0,S0η)は (m,Sη)

の前時点における値,px,py,pzはピンニング磁界の大きさである.また,図 3.2にスカラーストップヒステロンの特性を示す.スカラーストップヒステロンの特性により,ピンニング磁界は自発磁化ベクトルmの変化の向きと逆向きの一定の大きさを取る.単純化磁区構造モデルではピンニング磁界の影響を外部磁界と同様に考慮し,∂e/∂xに ∂ep/∂x = −2hp

∂m∂x

を加えている.ここで,epはピンニングエネルギーである.これにより,磁壁が移動するためにはピンニング磁界の大きさと同じだけの外部磁界が余分に必要となる.

3.5 人工的なポテンシャルエネルギー

変数 riは磁区の体積比を表すため,定義域は 0 ≤ ri ≤ 1となる.2磁区の単純化磁区構造モデルでは,人工的なポテンシャル関数

∂epw,i

∂r1=

2pwr1 − cw (0 < r1)

2cw(r1 − 1/2) (0 ≤ r1 ≤ 1)

2pw(r1 − 1) + cw (r1 > 1)

(3.23)

を eに加えることで,rが定義域の外へ出ないよう制限している.ここで,pw,cwは人工的ポテンシャル関数の大きさを与える定数である.

3.6 集合磁区モデルの内部エネルギー

集合磁区モデルの磁化状態は各セルの磁化状態を表す変数ベクトルx(j)

(j = 1,…)から構成される変数ベクトルX によって表現される.変数ベクトルX は単純化磁区構造モデル同様全体のエネルギー eが極小となるように,式 (3.21)の x,yベクトルを変数ベクトルXとそれに対応した中間変数ベクトル Y に置き換えた人工的状態方程式を定常状態まで積分計算することによって与えられる.

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3.7. 従来モデルによる解析 21

�� ���������

�����

����� ��������

�����

��

��

図 3.3: 方向性電磁鋼板の 3つの容易軸配置

集合磁区モデルの各エネルギーは単一セルの体積をV としたとき,V K1

で割ることで規格化される.外部磁界エネルギー,結晶磁気異方性エネルギー,磁壁エネルギー,ピンニングエネルギーは各セルのエネルギーを単純化磁区構造モデルと同様に求め,それを合計することによって計算される.静磁エネルギーはマイクロマグネティックシミュレーションと同様の手法 [19]を用いることによって

est−global = −∑j

hst(j) ·m(j), (3.24)

と計算される.ここで,hstは各セルの規格化減磁界であり

hst(j) = −∑j′

s(j − j′)m(j′), (3.25)

s(j) = (1/κ)N(j), (3.26)

と計算される.ここで,N(j)はセルの形状・配置によって決定される減磁界係数行列である.

3.7 従来モデルによる解析

従来の 2磁区を単位セルとした集合磁区モデルを用い,方向性・無方向性電磁鋼板に関する解析を行った.

3.7.1 方向性電磁鋼板の解析結果

まず,集合磁区モデルを用いて,方向性電磁鋼板の圧延・直角方向の磁化特性の解析を行った.セル分割数を 16× 4× 1,解析対象の圧延方向・直角方向・板厚方向のサイズ比を 16 : 4 : 10−1とし,結晶磁気異方性定数をK1 = 3.8× 104 Jm−3,飽和磁化を µ0MS = 2.2 Tとした.また,ピンニング磁界を px = 1.0 × 10−3, py = 2.5 × 10−3, pz = 0と仮定した.方

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22 第 3章 磁気弾性エネルギーを考慮した集合磁区モデル

-2.5-2

-1.5-1

-0.5 0

0.5 1

1.5 2

2.5

-100000 -50000 0 50000 100000

µ 0M

(T)

H(A/m)

RDTD

図 3.4: 従来の 2磁区を単位セルとした集合磁区モデルの解析によって得られた方向性電磁鋼板の磁化曲線

向性電磁鋼板は図 3.3のような容易軸配置を持つため,3つの容易軸をそれぞれ e1 = (1, 0, 0), e2 = (0, 1/

√2, 1/

√2),e3 = (0,−1/

√2, 1/

√2)方向

を向くように定めた.図 3.4に 2磁区の集合磁区モデルによって解析された方向性電磁鋼板の

磁化曲線を示す.また,図 3.5,図 3.6にある一つのセルにおける圧延・直角方向の磁化過程を示す.形状異方性,結晶磁気異方性の影響などにより,方向性電磁鋼板の圧延・直角方向の透磁率の違いが表現できている.しかし,直角方向の磁化曲線を見ると,解析結果においては磁化曲線の傾きがほぼ一定であるのに対し,図 2.4(a)の測定結果においては低外部磁界下においては微分透磁率が小さく,外部磁界が 200 A/mを超えた付近から微分透磁率が大きく増加していることが分かる.これは,低磁束密度下においては主に 180◦磁壁移動によって磁化が進んでいるのに対し,高磁束密度下においては主に 90◦磁壁移動によって磁化するために見られる現象であると考えられている [24].図 3.6の磁化過程を見ると,低磁束密度下においても磁化が磁化回転によって進んでおり,90◦磁壁移動が十分に表現できていないことが測定結果と解析結果の違いの原因であると考えられる.

3.7.2 無方向性電磁鋼板の解析結果

続いて,従来モデルを用いて無方向性電磁鋼板の圧延方向の磁化特性の解析を行った.解析対象のサイズ比を 8 : 8 : 10−4,セル分割数を 8×8×1

とし,結晶磁気異方性定数,飽和磁化を方向性電磁鋼板の解析と同じ値とした.また,ピンニング磁界を px = py = 1.5 × 10−3, η = 0.01と仮定

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3.8. 磁気弾性エネルギーを考慮した集合磁区モデル 23

図 3.5: 解析結果に基づく圧延方向の磁化過程

図 3.6: 解析結果に基づく直角方向の磁化過程

した.従来は無方向性電磁鋼板の容易軸配置として,方向性電磁鋼板の基本的な容易軸配置 (図 3.3)を鋼板内部で回転させた配置が用いられていた[25].しかし,この配置は実際の無方向性電磁鋼板の容易軸配置と大きく異なっている.そこで,結晶磁化容易軸はランダムに分布していると仮定し,図 3.7に示されるような結晶配置を用いた.図 3.8に解析によって得られた磁化曲線を,図 3.9に単板磁気試験器を

用いた測定によって得られた磁化曲線を示す.測定結果を見ると無方向性電磁鋼板は方向性電磁鋼板よりも低い磁束密度で磁化が飽和している.これは,低磁束密度下では磁壁移動によって磁化が進むのに対し,高磁束密度下では磁化が磁化回転によって進行し,磁化回転領域では磁化のために多くの外部磁界を必要とすることによるものである.図 3.8の解析結果では,このような磁化の飽和特性が得られていない.これは,2磁区の集合磁区モデルによる解析結果においては低磁束密度領域においても磁化回転によって磁化が進んでおり,低磁束密度領域での磁壁移動が適切に表現できていないことによるものであると考えられる.

3.8 磁気弾性エネルギーを考慮した集合磁区モデル

続いて,集合磁区モデルに磁気弾性エネルギーの影響を加えることで,材料の加工時に加わる機械的応力が磁気特性に与える影響を再現できるかの検証を行った.

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24 第 3章 磁気弾性エネルギーを考慮した集合磁区モデル

RD

TD

ND

図 3.7: 乱数によって得られた無方向性電磁鋼板の解析に用いた [100]極点図 (ステレオ投影法によって表されたで結晶方位)

3.8.1 磁気弾性エネルギー

新たに集合磁区モデルに導入した磁気弾性エネルギーについて説明する.磁気弾性エネルギーはスピン間の相互作用に間するエネルギーである.磁性体に応力が加わった場合には,磁性体が変形し歪みが発生する.このとき,内部ではスピン間の距離が変化することによりスピンの相互作用エネルギーが変化する.このエネルギーを磁気弾性エネルギーと呼ぶ.磁区 iにおける単位体積あたりの磁気弾性エネルギーは

Eel,i = −3

2λ100σ(α

21,iγ

21 + α2

2,iγ22 + α2

3,iγ23 −

1

3)

−3λ111σ(α1,iα2,iγ1γ2 + α2,iα3,iγ2γ3 + α3,iα1,iγ3γ1)(3.27)

で与えられる.ここで,λ100, λ111は磁歪定数,σは応力の大きさ,(γ1, γ2, γ3)は応力の結晶容易軸に対する方向余弦である.ただし,引張応力を正,圧縮応力を負と定義する.セル全体の磁気弾性エネルギーは

Eel = V∑i

riEel,i (3.28)

と計算される.他のエネルギー同様,結晶磁気異方性エネルギーを基準とし規格化する

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3.8. 磁気弾性エネルギーを考慮した集合磁区モデル 25

-2.5-2

-1.5-1

-0.5 0

0.5 1

1.5 2

2.5

-30000 -20000 -10000 0 10000 20000 30000

µ 0M

(T)

H(A/m)

図 3.8: 従来の 2磁区を単位セルとした集合磁区モデルの解析によって得られた無方向性電磁鋼板の磁化曲線

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-300 -200 -100 0 100 200 300

B(T

)

H(A/m)

図 3.9: 測定によって得られた無方向性電磁鋼板の磁化曲線

ことにより,以下のような規格化磁気弾性エネルギー eelを得る.

eel = Eel/(V K1)

=∑i

ri

{−3

2Λ100σ(α

21,iγ

21 + α2

2,iγ22 + α2

3,iγ23 −

1

3) (3.29)

−3Λ111σ(α1,iα2,iγ1γ2 + α2,iα3,iγ2γ3 + α3,iα1,iγ3γ1)}

ここで,

Λ100 = λ100/K1,Λ111 = λ111/K1 (3.30)

である.集合磁区モデルにおける磁気弾性エネルギーは外部磁界エネルギーなど

と同様に,各セルにおけるエネルギーの合計として計算される.

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26 第 3章 磁気弾性エネルギーを考慮した集合磁区モデル

-2.5-2

-1.5-1

-0.5 0

0.5 1

1.5 2

2.5

-30000 -20000 -10000 0 10000 20000 30000

µ 0M

(T)

H(A/m)

σ=0 MPaσ=-40 MPa

図 3.10: 2磁区を単位セルとした集合磁区モデルの解析によって得られた応力 σ = 0,−40 MPa下における無方向性電磁鋼板の磁化曲線

3.9 磁気弾性エネルギーを考慮した集合磁区モデルに

よる解析

3.9.1 無方向性電磁鋼板の解析結果

無方向性電磁鋼板に圧縮応力を加えた際には,その方向に磁化させた際の透磁率が減少する,鉄損が増加するなど,磁気特性が劣化することが知られている [14].従来の集合磁区モデルにより,新たに磁気弾性エネルギーを加えることによって,これらの応力による磁気特性の変化が表現できるかを検証した.解析対象のサイズ比を 8 : 8 : 10−4,セル分割数を 8 × 8 × 1,結晶磁気異方性定数をK1 = 3.8 × 104 J/m3,磁歪定数をλ100 = 2.3× 10−5, λ111 = −5.0× 10−6と定めた.また,ピンニング磁界を px = py = 1.5× 10−3, η = 0.01と仮定した.結晶磁化容易軸はランダムに分布していると仮定し,図 3.7に示されるような結晶配置を用いた.図 3.10に解析結果を示す.図 3.10より分かるように応力の有無に関わ

らず,磁化曲線はほとんど変化しておらず,圧縮応力による透磁率の減少などを再現することができていない.これは,磁化ベクトルが磁化困難軸方向を向いた際の結晶磁気異方性エネルギー Ean/V = 1.27 × 104 J/m3

が圧縮応力 σ = −40 MPa下において磁化ベクトルが応力と同じ方向を向いた際に発生する磁気弾性エネルギー Eσ/V = 9.2× 102 J/m3と比較して非常に大きいため,応力の影響がほとんど現れなかったことによると考えることができる.そこで,結晶磁気異方性エネルギーの影響を小さくするために,結晶磁

気異方性定数K1 = 3.8× 102 J/m3と定め,同様に無方向性電磁鋼板の解

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3.9. 磁気弾性エネルギーを考慮した集合磁区モデルによる解析 27

-2.5-2

-1.5-1

-0.5 0

0.5 1

1.5 2

2.5

-1500 -1000 -500 0 500 1000 1500

µ 0M

(T)

H(A/m)

σ=0 MPaσ=-40 MPa

図 3.11: 2磁区を単位セルとした集合磁区モデルの解析によって得られた応力 σ = 0,−40 MPa下における無方向性電磁鋼板の磁化曲線 (κ =

2.0× 10−4)

析を行った.解析によって得られた磁化曲線を図 3.11に示す.応力の影響によって透磁率が減少していることが分かる.よって,図 3.10において応力の影響が現れなかったのは磁気弾性エネルギーが結晶磁気異方性エネルギーと比較して小さいためであることが分かる.しかし,結晶磁気異方性定数は材料によって決まる定数であり,応力の影響の再現のためにこれを変更するのは物理モデルを確立するといった観点から相応しくないため改善方法を考える必要がある.例えば,無方向性電磁鋼板の圧延方向に圧縮応力を加えた場合には,3

つの容易軸の中で圧延方向と直角に近い容易軸方向に磁化が向いたとき磁気弾性エネルギーが小さくなる.これにより直角に近い方向へ磁化した状態から外部磁界を加えた場合には,実際は 90◦磁壁移動によって圧延方向に近い容易軸を向いた磁区の体積が増加することによって磁化が進むと考えられる.しかし,現状の 2磁区モデルにおいては,主に磁化回転によってのみ磁化が進んでおり,磁化回転においては結晶磁気異方性の影響が非常に強く応力の影響が現れなかったと考えられる.すなわち,応力の影響を再現するためには 90◦磁壁移動を適切に表現できるモデルが必要である.

3.9.2 方向性電磁鋼板の解析結果

方向性電磁鋼板は,良い磁気特性を得るために絶縁被膜によって圧延方向に引張応力が加わるように製作される.そこで,磁気弾性エネルギーを

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28 第 3章 磁気弾性エネルギーを考慮した集合磁区モデル

-2.5-2

-1.5-1

-0.5 0

0.5 1

1.5 2

2.5

-100000 -50000 0 50000 100000

µ 0M

(T)

H(A/m)

RDTD

図 3.12: 2磁区を単位セルとした集合磁区モデルの解析によって得られた方向性電磁鋼板の磁化曲線

考慮した集合磁区モデルを用いて,この引張応力の影響を考慮できるかの検証を行った.セル分割数を16×4×1,解析対象のサイズ比を16 : 4 : 10−1

とし,容易軸配置として図 3.3を用いた.結晶磁気異方性定数,磁歪定数,飽和磁化は無方向性電磁鋼板の解析と同じ値を用いた.また,ピンニング磁界を px = 1.0 × 10−3, py = 2.5 × 10−3, pz = 0と仮定した.また,絶縁被膜によって圧延方向に 8 MPaの引張応力が加わっていると仮定し,σ = 8.0× 106 Paとし磁気弾性エネルギーを計算した.図 3.12に,2磁区を単位セルとした集合磁区モデルによって解析された

圧延・直角方向の方向性電磁鋼板の磁化曲線を示す.磁気弾性エネルギーを考慮していない場合の磁化曲線と比較し,図 3.4の磁化曲線はほとんど変化しておらず,図 2.4(a)の方向性電磁鋼板の直角方向の磁化曲線の測定結果を再現できていないことが分かる.

3.10 まとめ

本章では,2つの磁区を持つ単純化磁区構造モデルの集合である,2磁区の集合磁区モデルに新たに磁気弾性エネルギーを導入し,方向性,無方向性電磁鋼板の磁気特性の解析を行った.得られた結果は以下のとおりである.

• 磁気弾性エネルギーを導入し,無方向性電磁鋼板の圧縮応力下の解析を行った.しかし,得られた磁化曲線は無応力下と比較しほとんど変化せず,圧縮応力による透磁率の低下や鉄損の増加を再現することができなかった.これは,2磁区を単位セルとした集合磁区モデル

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3.10. まとめ 29

では,主に磁化回転によって無方向性電磁鋼板の磁化が進んでいることによると考えられる.磁化回転は結晶磁気異方性エネルギーの影響を強く受け,結晶磁気異方性エネルギーが応力による磁気弾性エネルギーよりも大きいために,応力の影響がほとんど表れなかったと予想される.実際の無方向性電磁鋼板では,低磁束密度下では主に 180◦,90◦磁壁移動によって磁化が進んでいるため応力の影響を再現するためには,この磁壁移動を表現するモデルが必要であると考えられる.

• 方向性電磁鋼板では絶縁被膜によって圧延方向へ引張応力が加わっているため,磁気弾性エネルギーによってこの影響を考慮できないか検証した.しかし,得られた結果は磁気弾性エネルギーの有無に関わらず変化せず,方向性電磁鋼板の直角方向の特性を十分に再現することはできなかった.解析結果における直角方向への磁化過程を確認したところ主に磁化回転によって磁化が進行しており,方向性電磁鋼板の直角方向の特性を再現するためには,90◦磁壁移動による磁化を表現する必要があると考えられる.

このように方向性・無方向性電磁鋼板の応力下の特性を再現するためには90◦磁壁移動を十分に表現するモデルが必要であると考えられる.そこで,第 4章ではこの問題を解決する新たなモデルを提案する.

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31

第4章 6磁区を単位セルとした集合磁区モデル

2つの磁区を持つ単純化磁区構造モデル・集合磁区モデルには立方異方性を持つ磁性材料の,90◦磁壁移動を十分に表現できないといった問題が存在していた.そこで,本章ではこの問題を解決する新たなモデルを提案する.

4.1 6つの磁区を持つ単純化磁区構造モデル・集合磁

区モデル

本章では,図 4.1(a)のような 6つの磁区を持つ単純化磁区構造モデルおよび,それを多数集合させた 6磁区の集合磁区モデルを提案する.6つの磁区の磁化ベクトルは主に立方異方性の3つの磁化容易軸方向を向いており,各磁区の体積比の変化により,90◦ 磁壁移動および 180◦ 磁壁移動をそれぞれ表現することが可能と考えられる.6つの磁区を持つ単純化磁区構造モデルでは,磁区の磁化ベクトルの向き (m1, · · · ,m6)と体積比 (r1, · · · , r6)によって磁化過程が表現される.ただし,r6 = 1- r1- r2

- r3- r4- r5 である.磁化ベクトルmi(i = 1, · · · , 6)を角度 (θi, ϕi)によってmi = (sin θi cosϕi, sin θi sinϕi, cos θi)と表現し,未知数 (θi, ϕi, ri)

は全磁気エネルギー eを極小とするように決定される.ここで,全磁気エネルギー eは,外部磁界エネルギー,結晶磁気異方性エネルギー,静磁エネルギー,磁気弾性エネルギーの和とする.6磁区モデルでは磁区の占める体積が磁壁の占める体積と比較し十分大きく,磁壁エネルギーの影響を無視できると仮定している.各セル内のエネルギーは 6つの磁区に発生するエネルギーの和として,2磁区を単位セルとした集合磁区モデルと同様に計算される.各エネルギーは,各セルの体積を V としたとき,V K1で割ることで規格化される.

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32 第 4章 6磁区を単位セルとした集合磁区モデル

(a)単純化磁区構造モデル (b)集合磁区モデル

図 4.1: 6つの磁区を持つ集合磁区モデル

4.2 人工的なポテンシャルエネルギー

2磁区の集合磁区モデルでは,人工的なポテンシャル関数 (3.23) を eに加えることで,rが定義域の外へ出ないよう制限していた.6磁区の集合磁区モデルにおいても同様に

∂epw,i

∂ri=

2pwri (0 < ri)

0 (0 ≤ ri ≤ 1) (i = 1, · · · , 6)2pw(ri − 1) (ri > 1)

(4.1)

epw =6∑

i=1

epw,i (i = 1, · · · , 6) (4.2)

∂epw∂ri

=∂epw,i

∂ri− ∂epw,6

∂r6(i = 1, · · · , 5) (4.3)

のような人工的なポテンシャルを eに加えることで,riの範囲を制限することができると考えられる.しかし,この方法を用いて解析を行ったところ,人工的な状態方程式

(3.21)を積分計算するにあたって極小解に近いと思われる結果は得られるものの,Xが極小解付近において振動し, ∂e

∂X = 0を満たす値に収束しないといった問題が発生した.これは,ポテンシャル関数の影響で ri ≃ 0, 1

において ∂e∂riが急激に変化するために厳密な極小解を得ることが困難であ

るためであると考えられる.そこで,この問題を解決するために ri ≃ 0, 1における riとエネルギー

eの関係について考察する.まず全体のエネルギー eを

e = e′ + epw (4.4)

のように,人工的なポテンシャルエネルギー epwとそれ以外のエネルギー

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4.2. 人工的なポテンシャルエネルギー 33

e′ に分けて考える.0 ≤ ri ≤ 1の場合には ∂epw,i

∂ri= 0となる.ri < 0

,ri > 1となる場合については 3つの状態に場合分けして考える.

ある磁区 iに対し ri > 1となる場合人工的な状態方程式 (3.21)の収束時には

∂e

∂ri=

∂e′

∂ri+

∂epw∂ri

= 0 (i = 1, · · · , 5) (4.5)

が成り立つ.r6 > 1となる場合,式 (4.1),(4.3),(4.5)より ri (i =

1, · · · , 5)は

∂e

∂ri=

∂e′

∂ri+ 2pwri − 2pw(r6 − 1) = 0 (i = 1, · · · , 5) (4.6)

を満たす.よってpwを十分に大きく取れば ri (i = 1, · · · , 5)は ri ≃ 0

へと収束する.

ri1 > 1 (i1 = 6)の場合には,式 (4.1),(4.3),(4.5)より riは

∂e

∂ri1=

∂e′

∂ri1+ 2pw(ri1 − 1)− ∂epw

∂r6= 0 (4.7)

∂e

∂ri=

∂e′

∂ri+ 2pwri −

∂epw∂r6

= 0 (i = i1, 6) (4.8)

を満たすため,ri1 ≃ 1,ri ≃ 0 (i = i1, 6)へと収束する.

0 ≤ r6 ≤ 1の場合0 ≤ r6 ≤ 1,ri < 0 (i = i1, · · · , iNr)の場合を考える.式 (4.5)よりri > 0となる ri (i = i1, · · · , iNr)は

∂e′

∂ri= 0 (i = i1, · · · , iNr) (4.9)

を満たす値に収束する.また ri < 0となる ri (i = i1, · · · , iNr)は

∂e′

∂ri+ 2pwri = 0 (i = i1, · · · , iNr) (4.10)

を満たすよう収束するため, ∂e′

∂riの値にかかわらず ri ≃ 0へと収束

する.

r6 < 0の場合r6 < 0,ri < 0 (i = i1, · · · , iNr)の場合を考える.収束時には式(4.5)が成り立つため,ri > 0となる ri (i = i1, · · · , iNr)は

∂e′

∂ri− 2pwr6 = 0 (i = i1, · · · , iNr) (4.11)

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34 第 4章 6磁区を単位セルとした集合磁区モデル

を満たすため∂e′

∂ri1= · · · = ∂e′

∂riNr

= 2pwr6 (4.12)

が成り立つ.すなわち,ri (i = i1, · · · , iNr)は∂e′

∂riの値が一致する

ように収束する.

ri < 0となる ri (i = i1, · · · , iNr)は

∂e′

∂ri+ 2pwrj − 2pwr6 = 0 (i = i1, · · · , iNr) (4.13)

を満たす.よって,ri (i = i1, · · · , iNr)は∂e′

∂riの値にかかわらず

ri ≃ 0へと収束する.

上記の議論のように,未収束の状態から人工的状態方程式の反復計算によってX を変化させていった場合には,riは 0から 1の範囲に収まるように収束する.そこで,人工的ポテンシャルを考えず, ∂e

∂X の代わりに∂e′

∂X を用いて人工的状態方程式の積分計算を行い,ri < 0 (i = 1, · · · , 5)のときには ri→ 0,ri > 1 (i = 1, · · · , 5)のときには ri→ 1と置き換えることによって,ri ≃ 0, 1における ∂e

∂riの急激な変化を抑えつつ,同様の結

果を得ることができると考えた.また,人工的ポテンシャルを用いた方法ではすべての riが ∂e

∂ri= 0を満たすまで反復計算を行っているが,上記の

riを置き換える方法では,置き換えを行った riに関しては収束時においても ∂e′

∂ri= 0を満たさない.そこで,ri < 0,ri > 1 (i = 1, · · · , 5)の時に

は ri→ 0,ri→ 1と置き換え,この riに関しては ∂e′

∂ri= 0を満たしていな

い場合においても収束していると見なすこととした.また r6 < 0の場合には,ri < 0 (i = i1, · · · , iNr)となる riが ri ≃ 0,

r6 ≃ 0を保ちつつ,0 ≤ ri ≤ 1となるすべての riの ∂e′

∂riの値が一致するよ

うに変化すると考えられる.そこで,人工的ポテンシャルを用いる代わりに 0 ≤ ri ≤ 1となるすべての riを ri→ ri + r6/(5−Nr),r6→ 0と置き換えることで,r6 = 0を保ちつつ ∂e′

∂riの値が一致するように変化し,同様の

結果が得られると考えた.ただし,Nrは ri < 0となる ri(i = 1, · · · , 5)の数である.また,ri→ ri+r6/(5−Nr)と置き換えた結果,ri < 0となる場合には,ri→ 0と置き換えることとした.r6 < 0の場合には,0 ≤ ri ≤ 1

となる riに関しても ∂e′

∂ri= 0が成り立たない.そこで,r6 < 0の場合に

は,0 ≤ ri ≤ 1となるすべての riに関しての ∂e′

∂riの値の差が 10−5以下と

なった場合において,収束していると見なすこととした.上記の方法を用いて,6つの磁区を持つ単純化磁区構造モデル,集合磁

区モデルによる解析を行ったところ,人工的な状態方程式 (3.21)の積分計算が収束し,人工的ポテンシャルを用いた方法と同じ結果を得ることができた.よって,次節以降においてはこの方法を用いた解析を行うこととする.

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4.3. 磁歪の計算手法 35

4.3 磁歪の計算手法

90◦磁壁移動などによって発生する磁歪は,磁性材料の磁化過程を理解する上で重要となる.そこで,6つの磁区を持つ集合磁区モデルを用いた解析において磁歪を計算する手法を示す.結晶磁化容易軸を座標軸として取った場合には,ある磁区 iの自発磁歪

テンソル ϵdµ,iは

ϵdµ,i =3

2

λ100(α21,i − 1/3) λ111α1,iα2,i λ111α1,iα3,i

λ111α1,iα2,i λ100(α22,i − 1/3) λ111α2,iα3,i

λ111α1,iα3,i λ111α2,iα3,i λ100(α23,i − 1/3)

(4.14)

で与えられる.セル全体の磁歪テンソル ϵgµは

ϵgµ =6∑i

riϵdµ,i (4.15)

と計算される.材料全体の磁歪は,各セルの磁歪テンソル ϵgµを圧延方向・直角方向・板厚方向を座標軸とした座標系へ座標変換し,それらを平均することによって求められる.

4.4 6磁区単純化磁区構造モデルによる解析

まず,6磁区単純化磁区構造モデルを用いて [100],[110],[111]方向へ磁化した際の解析を行った.ただし,形状異方性を無視して各方向の特性を見るために,静磁エネルギーを無視した解析を行った.図 4.2に得られた磁化曲線を示す.ただし,横軸は規格化外部磁界を示す.磁化容易軸である [100]方向へはすぐに磁化が飽和しているのに対し,困難軸である [111]

方向への磁化には大きな外部磁界を必要としている.得られた磁化曲線は立方異方性の単結晶の理論的な磁化曲線 [22]と一致しており,立方異方性を適切に表現できていることが分かる.続いて,6磁区単純化磁区構造モデルを用いて,方向性電磁鋼板の圧延・直

角方向の磁化特性の解析を行った.形状比を (sx, sy, sz) = (0.001, 0.001, 50)

となるように定め, 2磁区モデルの際と同様に図 3.3のような容易軸を仮定した.磁歪定数を λ100 = 2.3 × 10−5,λ111 = −5.0 × 10−6と定め,ピンニング磁界を px = 1.0 × 10−3, py = 2.5 × 10−3, pz = 0と仮定した.また,方向性電磁鋼板では鉄損を低下させるために圧延方向への引張応力が加えられている [26].そこで,絶縁被膜によって圧延方向に 8 MPaの応力が加わっていると仮定した.

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36 第 4章 6磁区を単位セルとした集合磁区モデル

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

1.1

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

M/M

S

h

[100] [110] [111]

図 4.2: 6 磁区単純化磁区構造モデルを用いた解析によって得られた[100],[110],[111]方向の磁化曲線

図 4.3に単純化磁区構造モデルによる解析結果を示す.6磁区モデルによって圧延方向と比較し直角方向への磁化には大きな磁界が必要な点など,それぞれの方向の方向性電磁鋼板の定性的な特性が再現されていることが分かる.図 4.4,図 4.5にそれぞれ圧延方向,直角方向への磁化過程を示す.2磁区モデルでは直角方向には磁化回転によって磁化していたのに対し,6磁区モデルでは 90◦磁壁移動によって磁化していることが分かる.絶縁被膜による圧延方向への引張応力の影響で,磁化ベクトルが圧延方

向となる [100]方向を向いた状態が最も磁気弾性エネルギーが小さくなる.そのため,90◦磁壁移動によって磁化が [010]方向を向くと磁気弾性エネルギーが大きくなる.低外部磁界下においては,この磁気弾性エネルギーの増加量が 90◦磁壁移動に伴う外部磁界エネルギーの減少量よりも大きいため,ほとんど磁化が進んでいない.外部磁化が大きくなると,磁壁移動に伴う外部磁界エネルギーの減少量が大きくなるため 90◦磁壁移動によって [010],[001]方向の磁区の体積が大きくなっている.90◦磁壁移動が始まる外部磁界の大きさは,[100]磁区が∆r減少し [010]磁区が∆r増加した際の外部磁界エネルギー,磁気弾性エネルギー,ピンニングエネルギーの変化∆eap,∆eel,∆epから

∆eap +∆eel +∆ep < 0  (4.16)

−2hy ·√2

2∆r +

3

2Λ100σ∆r + 2hpy ·

√2

2∆r < 0 (4.17)

hy >3

2√2Λ100σ + hpy (4.18)

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4.4. 6磁区単純化磁区構造モデルによる解析 37

-2.5-2

-1.5-1

-0.5 0

0.5 1

1.5 2

2.5

-800 -600 -400 -200 0 200 400 600 800

µ 0M

(T)

H(A/m)

RDTD

(b1)

(b2)

(a1)

(a2)

(a3)

(b3)

(b4)(b5)

図 4.3: 6磁区単純化磁区構造モデルを用いた解析によって得られた圧延・直角方向の磁化曲線 [100] (red line) and [011] (green line)

図 4.4: 単純化磁区構造モデルによる解析によって得られた圧延方向の磁化過程

図 4.5: 単純化磁区構造モデルによる解析によって得られた直角方向の磁化過程

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38 第 4章 6磁区を単位セルとした集合磁区モデル

RD

TD

ND

図 4.6: 乱数によって得られた方向性電磁鋼板の解析に用いた [100]極点図

より, 32√2Λ100σ + hpyとなる.解析に用いたパラメータから計算すると,

規格化外部磁界は 7.64× 10−3,外部磁界は 264 A/mとなり,図 4.3の解析結果と一致していることが分かる.

4.5 6磁区を単位セルとした集合磁区モデルによる解析

4.5.1 方向性電磁鋼板の解析結果

続いて,6磁区単純化磁区構造モデルを多数集合させた 6磁区の集合磁区モデル (図 4.1(b))によって方向性電磁鋼板の磁化過程の解析を行った.解析において絶縁被膜によって圧延方向に 4 MPaの応力が加わっていると仮定した.容易軸は±10◦の範囲で分布していると仮定し,図 4.6の極点図に示されるような結晶配置を用いた.また,解析対象のサイズ比を8 : 8 : 10−4,セル分割数を 8× 8× 1とした.ピンニング磁界は px = 1.0

× 10−3, py = 2.5 × 10−3, pz = 0と仮定した.図 2.1,図 2.2のベクトル単板磁気試験器と歪みゲージを用いた測定結

果と集合磁区モデルを用いた解析結果の比較を行った.図 4.7,図 4.8に測定および解析によって得られた方向性電磁鋼板の圧延方向,直角方向の磁化曲線を示す.また,図 4.9,図 4.10に測定および解析によって得られた磁歪を示す.磁歪の図に関してはM = 0において磁歪が 0となるよう

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4.5. 6磁区を単位セルとした集合磁区モデルによる解析 39

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-400 -200 0 200 400

B(T

)

H(A/m)

RDTD

図 4.7: 測定によって得られた方向性電磁鋼板の磁化曲線

-2.5-2

-1.5-1

-0.5 0

0.5 1

1.5 2

2.5

-400 -200 0 200 400

µ 0M

(T)

H(A/m)

RDTD

図 4.8: 集合磁区モデルによって得られた方向性電磁鋼板の磁化曲線

-40

-30

-20

-10

0

10

20

30

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

Mag

neto

stric

tion(

×10-6

)

B(T)

RD ε||mRD ε⊥ mTD ε||mTD ε⊥ m

図 4.9: 歪ゲージを用いた測定によって得られた方向性電磁鋼板の磁歪

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40 第 4章 6磁区を単位セルとした集合磁区モデル

-40

-30

-20

-10

0

10

20

-2.5 -2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2 2.5

Mag

neto

stric

tion(

×10-6

)

µ0M(T)

RD ε||mRD ε⊥ mTD ε||mRD ε⊥ m

図 4.10: 集合磁区モデルによって得られた方向性電磁鋼板の磁歪

図 4.11: 集合磁区モデルによる解析結果に基づく圧延方向の磁化過程

に,ϵ− ϵ0とM の関係を図示している.ここで,ϵ0はM = 0における磁歪 ϵの値である.単純化磁区構造モデルによって得られた結果と比較し,結晶配置を分布

させることによって滑らかな磁化曲線が得られていることが分かる.圧延方向には主に 180◦磁壁移動によって磁化しているため,磁歪がほとんど発生していないのに対し,直角方向には主に 90◦磁壁移動によって磁化しているため大きな磁歪が発生している.高磁束密度領域において圧延方向の磁歪の大きさが減少しているのは磁化回転によるものである.図 4.11にあるセルの圧延方向の磁化過程を示す.このセルは [100]方向

と鋼板表面の間に角度(潜り角)を持っているため,180◦磁壁移動によって磁化した際に鋼板表面に磁極が発生する.この磁極を打ち消すために[010],[001]方向の磁区が発生している.これらの磁区はランセット磁区に対応していると考えられる.ランセット磁区とは還流磁区の一種であり,磁化容易軸と鋼板表面の間に角度が存在するとき,静磁エネルギーを低減するために鋼板表面に発生する磁区のことである.このランセット磁区によって圧延方向に磁化した際に,圧延方向の磁歪の大きさが増加している.

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4.5. 6磁区を単位セルとした集合磁区モデルによる解析 41

4.5.2 無方向性電磁鋼板の解析結果

続いて,無方向性電磁鋼板の解析を行った.電磁鋼板は,機械的応力によって特性が劣化することが知られているが,単板磁気試験器の両端から鋼板に引張・圧縮応力を加えることによって応力下の磁化特性の測定が可能であり,応力が磁化曲線に与える影響を調べるためにこの手法が用いられている [14].磁気特性の応力依存性の測定については同志社大学の藤原耕二教授に依頼し,頂いた測定結果と集合磁区モデルによる無方向性電磁鋼板の解析結果を比較した.解析においては,結晶磁化容易軸がランダムに分布していると仮定し,

図 3.7の極点図に示されるような結晶配置を用いた.また,解析対象のサイズ比を 8 : 8 : 10−4,セル分割数を 8× 8× 1とした.ピンニング磁界はpx = py = 2.5× 10−3, pz = 0,η = 0.01と仮定した.図 4.12に測定,解析によって得られた無応力下の磁化曲線を,図 4.13

に 3軸歪みゲージとベクトル単盤試験器を用いた測定によって得られた無方向性電磁鋼板 JIS:35A300の圧延方向とそれと垂直な方向の磁歪を,図4.14に解析によって得られた無応力下の磁歪を示す.また,図 4.15に一部のセルの磁化過程を示す.図 4.15において黒線はセルの境界を,セル内の緑線で区切られた領域は模式的な磁区の体積比を示している.このモデルでは各セルの平均磁化を磁区ごとの磁化ベクトルの向きと体積比によって計算しているため,この図におけるセル内の緑線で区切られた領域の配置は意味を持たない.無応力下においては測定結果,解析結果の磁歪が共にバタフライ曲線を描いており定性的な特性を再現できている.しかし,測定結果においては磁束密度 0.3 T付近において圧延方向への磁歪による縮みが最も大きくなっているのに対し,解析結果においては磁束密度 1.4

T付近において磁歪による縮みが最も大きい.外部磁界を正から負へ変化させた際の無応力下の磁化過程を見ると,磁

束密度 1.6 Tにおいては 3つの磁化容易軸の中で圧延方向に近い方向を磁化が向いた 2つの磁区からなる磁化状態を取っている(図 4.15(a1)).最も圧延方向に近い容易軸方向を向いた単磁区状態を取らないのは,2つの磁区によって板厚方向に発生する磁極を打ち消すことで,静磁エネルギーを小さくするためである.外部磁界を減少させていくと,主に 180◦

磁壁移動によって圧延方向の磁化が減少していく(図 4.15(a2)).磁束密度 -1.4 Tにおいては,主に圧延方向に近い方向を磁化が向いた 2つの磁区を持つが,セルによっては静磁エネルギーを抑えるために 90◦磁壁移動によって別の方向を向いた磁区が発生している(図 4.15(a3)).図 4.14において磁束密度の減少に伴い圧延方向への磁歪による伸びが減少しているのは,この 90◦磁壁移動によるものである.磁束密度 -1.6 Tにおいては90◦磁壁移動によって 2磁区状態を取っており,このため圧延方向への伸

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42 第 4章 6磁区を単位セルとした集合磁区モデル

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-300 -200 -100 0 100 200 300

B(T

)

H(A/m)

(a) 測定結果

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-300 -200 -100 0 100 200 300

µ 0M

(T)

H(A/m)

(b) 解析結果

図 4.12: 無方向性電磁鋼板の無応力下の磁化曲線

-4

-2

0

2

4

6

8

10

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

Mag

neto

stric

tion(

×10-6

)

B(T)

ε||mε||m

図 4.13: 測定によって得られた無方向性電磁鋼板の無応力下の磁歪

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4.5. 6磁区を単位セルとした集合磁区モデルによる解析 43

-3

-2

-1

0

1

2

3

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

Mag

neto

stric

tion(

×10-6

)

µ0 M

ε||mε||m

図 4.14: 解析によって得られた無方向性電磁鋼板の無応力下の磁歪

びが増加している(図 4.15(a4)).磁束密度 1.5 T以上の高磁束密度下においては主に磁化回転によって磁化が進んでおり,この際圧延方向への伸びが減少しているのは λ111が負であるためである.図 4.16に無応力下・応力下における無方向性電磁鋼板の磁化曲線の測

定結果,解析結果を,図 4.17に解析によって得られた 40 MPaの圧縮応力下の磁歪を,図 4.18に一部のセルの応力下の磁化過程を示す.測定結果と比較して,応力による透磁率の低下やヒステリシスループ幅の増加に伴う鉄損の増加が再現できていることが分かる.測定結果では,引張応力下と比較し圧縮応力下における透磁率の減少が大きく,解析結果においてもこの引張応力と圧縮応力の影響の違いを再現できている.引張応力下の測定結果では,低磁束密度下における磁化曲線・微分透磁率は無応力下とほとんど変わらず,高磁束密度下において微分透磁率が減少している.一方,解析結果では磁化曲線全体の微分透磁率が減少しており,測定結果のこの特徴を再現することはできていない.外部磁界を正から負へ変化させた際の圧縮応力下の磁化過程を見ると,

磁束密度 1.6 Tにおいては,無応力下同様圧延方向に近い方向を磁化が向いた 2つの磁区からなる磁化状態を取っている(図 4.18(b1)).磁化が圧縮応力下において磁気弾性エネルギーが大きくなる方向を向いているため,磁化のために大きな外部磁界を必要とする.このため,圧縮応力下では透磁率が大きく減少している.引張応力下では圧延方向に近い方向を磁化が向いた磁区の磁気弾性エネルギーが小さくなるため,磁化のために大きな外部磁化がを必要とせず,圧縮応力下と比較し透磁率の変化が少ない.外部磁界を減少させていくと,主に 90◦磁壁移動によって圧延方向と垂

直に近い向きの磁化を持つ磁区の体積が増加し(図 4.18(b2)),磁束密度

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44 第 4章 6磁区を単位セルとした集合磁区モデル

(a1) (a2)

(a3)(a4)

図 4.15: 解析によって得られた無方向性電磁鋼板の無応力下の磁化過程:

(a1) µ0MS = 1.6 T,(a2) µ0MS = −0.1 T,(a3) µ0MS = −0.58 T,(a4)

µ0MS = −1.6 T

0 Tにおいては圧延方向と垂直に近い 2種類の磁化を持つ磁化状態を取っている.これは,圧縮応力下では圧延方向と垂直な向きに磁化が向いた際に最も磁気弾性エネルギーが小さくなることによるものである.このように磁化の向きが圧延方向からその垂直方向へと大きく変化するため,無応力下と比較し大きな磁歪が発生している.

4.5.3 圧縮応力下の磁化曲線に関する考察

図 4.16(a)の圧縮応力下の磁化曲線を見ると,低磁束密度下において高磁束密度下よりも微分透磁率が高く,磁化曲線の幅が広くなっている.これは,以下のように説明できる.圧縮応力下では,材料内部では磁気弾性エネルギーが小さくなる圧延方向から垂直に近い向きに磁化が向く.外部磁界を加えると,磁束密度 0.5 T程度の範囲ではその方向を向いた磁区が180◦磁壁移動によって磁化する.この領域では,磁壁移動によって磁気弾性エネルギーが変化しないため微分透磁率が高く,磁化曲線の幅が広いのは外部磁界と磁化の向きが大きく異なるためピンニングサイトの影響に逆らい磁壁移動を起こすために必要な外部磁界が大きくなったためと考えられる.磁束密度 0.5 T以上の範囲では,90◦磁壁移動によって磁気弾性エネルギーが大きくなる圧延方向に近い向きを向いた磁区が形成され,この磁気弾性エネルギーの増加を打ち消すために大きな外部磁界が必要とされるため,微分透磁率が小さくなっている.

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4.5. 6磁区を単位セルとした集合磁区モデルによる解析 45

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-1000 -500 0 500 1000

B(T

)

H(A/m)

0 MPa-20 MPa-40 MPa+40 MPa

(a) 測定結果

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-1000 -500 0 500 1000

µ 0M

(T)

H(A/m)

0 Pa-20 MPa-40 MPa+40 MPa

(b) 解析結果

図 4.16: 無方向性電磁鋼板の応力下・無応力下の磁化曲線

-15

-10

-5

0

5

10

15

20

25

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

Mag

neto

stric

tion(

×10-6

)

µ0M

ε||mε||m

図 4.17: 解析によって得られた無方向性電磁鋼板の 40 MPaの圧縮応力下の磁歪

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46 第 4章 6磁区を単位セルとした集合磁区モデル

(b1) (b2)

(b3)

(b4)(b5)

図 4.18: 解析によって得られた無方向性電磁鋼板の 40MPaの圧縮応力下の磁化過程: (b1) µ0MS = 1.6 T,(b2) µ0MS = 0.8 T,(b3) µ0MS = 0

T,(b4) µ0MS = −0.8 T,(b5) µ0MS = −1.6 T

図 4.16(b)の解析結果を見ると,低磁束密度下における微分透磁率や磁化曲線の幅の増加を再現することができていない.これは,図 4.18のように圧延方向から垂直に近い向きに磁化が向いた 2つの磁区が 180◦磁壁移動によって磁化すると,板厚方向に磁極が発生しこの磁極によって静磁エネルギーが増大するため,低磁束密度領域において 180◦磁壁移動が少ししか発生していないことによるものである.このような違いが発生する原因として,静磁エネルギーの計算を簡略化していることがあげられる.例えば,図 4.19(a)のように,二つの磁化容易軸の異なる結晶粒が隣接

している場合には,図 4.19(b)のような磁区構造を取ることによって,鋼板表面の磁極による静磁エネルギーを発生させることなく,180◦磁壁移動によって磁化を進めることができる.しかし,集合磁区モデルでは静磁エネルギーをセルごとの平均磁化から計算しているため,それぞれのセル内の板厚方向の平均磁化を 0としない限り静磁エネルギーが発生してしまうため,実際よりも 180◦磁壁移動が起きにくくなっていると考えられる.

4.6 磁束密度を入力とした解析

前節までは集合磁区モデルを用いて圧延方向・直角方向へ励磁した際の磁気特性の解析を行ったが,電磁鋼板は異方性を持つため方向ごとに特性が異なることが知られている.そこで,本節では任意の方向への交番磁束下や円回転磁束下などのベクトル励磁下の解析を行い,磁化曲線や磁歪の測定値との比較を行う.

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4.6. 磁束密度を入力とした解析 47

��

��

���

���

��

��

図 4.19: 2つの隣合う結晶粒の磁区構造の例

4.6.1 解析手法

これまでの集合磁区モデルでは,ある大きさの外部磁界を加え,その条件において ∂e

∂X = 0を満たす磁化状態を求めてきた.しかし,任意の方向への交番磁束や円回転磁束下での磁化状態を得るためには,目標となる規格化磁化ma = (max,may)に対し,規格化平均磁化mave = (mavex,mavey)

がmave = ma を満たし, ∂e∂X = 0となる X および外部磁界ベクトル

h = (hx, hy, 0)を求める必要がある.そこで,式 (3.21)に加えて外部磁界 hx,hyを未知数とした人工的な状

態方程式,

dhxdt

= gx,dhydt

= gy

dgxdt

=(max −mavex)

R− βhgx (4.19)

dgydt

=(may −mavey)

R− βhgy

を定常状態まで積分計算することによってベクトル励磁下における磁化状態を求めた.Rは定数であり,gx, gy は中間変数,βhは散逸係数である.定常状態まで計算を行えば,dhx/dt = 0,dgx/dt = 0,dhy/dt = 0,

dgy/dt = 0となるため,max = mavex,may = maveyを満たし,目的の外部磁界 hを得ることができる.

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48 第 4章 6磁区を単位セルとした集合磁区モデル

4.6.2 任意の方向への交番磁束下の解析

まず,方向性電磁鋼板の任意の方向への交番磁束下の磁化特性の解析を行い,ベクトル単板磁気試験器を用いた測定によって得られた,低グレード方向性電磁鋼板の磁化曲線や磁歪との比較を行った.図 4.20(a),図4.21(a)に方向性電磁鋼板を圧延方向から 15◦, 30◦, 45◦, 60◦, 75◦の方向に磁化させた際の磁化曲線の測定結果を,図 4.22に磁歪の測定結果を示す.それぞれの方向の磁化曲線では,H = 400 A/m程度において材料によって定まる飽和磁束密度より低い値で磁化が飽和している.この時の磁束密度は,圧延方向に近い 15◦方向で大きく,結晶磁気異方性の困難軸となる55◦方向に近い 60◦方向で最も小さくなっていることが分かる.また,ヒステリシスループの幅は,15◦方向が最も小さく,90◦方向に近づくほど大きくなっていることが分かる.図 4.20(b),図 4.21(b),図 4.23に 6磁区集合モデルによって解析され

た磁化曲線および磁歪を示す.解析においては絶縁被膜によって圧延方向に 4 MPa の応力が加わっていると仮定した.解析対象のサイズ比を8 : 8 : 10−4,セル分割数を 8× 8× 1とし,図 4.6の結晶配置を用いた.ピンニング磁界は px = 1.0 × 10−3, py = 2.5 × 10−3, pz = 0と仮定した.測定結果同様,磁化の飽和が見られ,その際の磁束密度は 60◦方向で最も小さくなっている.消磁状態においては [100],[100]方向を向いた 2つの磁区を持っており,磁束密度の飽和時には磁壁移動によって [100],[010],[001]

方向を向いた 3つの磁区を持つ磁化状態に変化している.この時の磁束密度は各磁区の磁化の向きと平均磁化の向きが近いほど大きくなる.そのため,困難軸に近い 60◦で飽和時の磁束密度が最も小さく,圧延方向となる0◦方向に近づくほど大きくなっている.磁化が飽和するまでの領域では,0◦から 45◦方向では主に 180◦磁壁移動によって磁化しているため磁歪は小さいが,60◦から 90◦方向では主に 90◦磁壁移動によって磁化しているため,大きな磁歪が発生している.磁化が飽和した後は磁化回転によって磁化が進んでおり,この領域では磁歪が減少している.これは,磁歪定数λ111が負であるためである.

4.6.3 円回転磁束下の解析

続いて,方向性電磁鋼板の円回転磁束下における解析を行った.図 4.24

に,磁束密度 1.5 T, 1.6 T, 1.7 Tの円回転磁束下における磁界ベクトル軌跡の測定結果,解析結果を示す.集合磁区モデルによって,円回転磁束下における磁界の変化を再現できていることが分かる.測定結果,解析結果共に容易軸方向である 0◦方向が磁化に必要な外部磁界が最も小さく,困難軸となる 55◦方向が最も大きくなっている.

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4.6. 磁束密度を入力とした解析 49

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-400 -200 0 200 400

B(T

)

H(A/m)

15°30°45°

(a)測定結果

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-400 -200 0 200 400

µ 0M

(T)

H(A/m)

15°30°45°

(b)解析結果

図 4.20: 15◦,30◦,45◦方向への交番磁束下の BHループ

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50 第 4章 6磁区を単位セルとした集合磁区モデル

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-400 -200 0 200 400

B(T

)

H(A/m)

60°75°

(a)測定結果

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-400 -200 0 200 400

µ 0M

(T)

H(A/m)

60°75°

(b)解析結果

図 4.21: 60◦,75◦方向への交番磁束下の BHループ

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4.6. 磁束密度を入力とした解析 51

(a) 15° (b) 30°

-20

-15

-10

-5

0

5

10

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

Mag

neto

stric

tion(

×10-6

)

B(T)

ε||mε⊥ m

-20

-15

-10

-5

0

5

10

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2M

agne

tost

rictio

n(×1

0-6)

B(T)

ε||mε⊥ m

-20

-15

-10

-5

0

5

10

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

Mag

neto

stric

tion(

×10-6

)

B(T)

ε||mε⊥ m

-20

-15

-10

-5

0

5

10

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

Mag

neto

stric

tion(

×10-6

)

B(T)

ε||mε⊥ m

(c) 45° (d) 60°

(d) 75°

-40

-30

-20

-10

0

10

20

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

Mag

neto

stric

tion(

×10-6

)

B(T)

ε||mε⊥ m

図 4.22: 交番磁束下の磁歪の測定結果

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52 第 4章 6磁区を単位セルとした集合磁区モデル

(a) 15° (b) 30°

(c) 45° (d) 60°

(d) 75°

-20

-15

-10

-5

0

5

10

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

Mag

neto

stric

tion(

×10-6

)

µ0M(T)

ε||mε⊥ m

-20

-15

-10

-5

0

5

10

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

Mag

neto

stric

tion(

×10-6

)

µ0M(T)

ε||mε⊥ m

-20

-15

-10

-5

0

5

10

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

Mag

neto

stric

tion(

×10-6

)

µ0M(T)

ε||mε⊥ m

-20

-15

-10

-5

0

5

10

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

Mag

neto

stric

tion(

×10-6

)

µ0M(T)

ε||mε⊥ m

-40

-30

-20

-10

0

10

20

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

Mag

neto

stric

tion(

×10-6

)

µ0M(T)

ε||mε⊥ m

図 4.23: 交番磁束下の磁歪の解析結果

Page 60: Title 電磁鋼板の磁化機構に関するマルチフィジックスモデル ......2 第1章 序論 [12]と呼ぶ.この磁歪によって鉄心材料に加わる内部応力や外部より機械

4.7. まとめ 53

-10000

-5000

0

5000

10000

-8000 -6000 -4000 -2000 0 2000 4000 6000 8000

Hy(

A/m

)

Hx(A/m)

1.7T1.6T1.5T

(a)測定結果

-10000

-5000

0

5000

10000

-8000 -6000 -4000 -2000 0 2000 4000 6000 8000

Hy(

A/m

)

Hx(A/m)

1.7T1.6T1.5T

(b)解析結果

図 4.24: 円回転磁束下の磁界ベクトル軌跡

図 4.25に円回転磁束下における主歪みの測定結果,解析結果を示す.ϵ(+),ϵ(−)はそれぞれ引張・圧縮歪みを示す.測定結果・解析結果共に,方向性電磁鋼板は磁歪によって圧延方向に縮み,直角方向に伸びている.解析によって得られた磁歪は測定結果とよく一致していることが分かる.

4.7 まとめ

本章では,新たに 6つの磁区を持つ単純化磁区構造モデルおよびその集合である集合磁区モデルを提案し,方向性・無方向性電磁鋼板の磁気特性の解析を行った.得られた結果を以下に示す.

• 6磁区集合磁区モデルを用いることで,無方向性電磁鋼板の圧縮応力による透磁率の減少や鉄損の増加といった磁気特性の劣化を再現す

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54 第 4章 6磁区を単位セルとした集合磁区モデル

-20

-15

-10

-5

0

5

10

15

20

-40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40

Mag

neto

stric

tion

ε y(×

10-6

)

Magnetostriction εx(×10-6)

ε(+) 1.7T1.6T1.5T

ε(−) 1.7T1.6T1.5T

(a)測定結果

-20

-15

-10

-5

0

5

10

15

20

-40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40

Mag

neto

stric

tion

ε y(×

10-6

)

Magnetostriction εx(×10-6)

ε(+) 1.7T1.6T1.5T

ε(−) 1.7T1.6T1.5T

(b)解析結果

図 4.25: 円回転磁束下の磁歪軌跡

ることが可能となった.これは,立方異方性の 3つの容易軸に対応した 6つの磁区を用いることで,2磁区モデルでは表現することが難しかった圧縮応力下の 90◦磁壁移動を表現することが可能となったことによるものである.また,このモデルを用いて無方向性電磁鋼板の無応力下・圧縮応力下の磁歪の変化を表現できることを示した.

• 6磁区集合磁区モデルを用いることで,方向性電磁鋼板の圧延・直角方向のそれぞれの磁化曲線を表現することが可能となった.これは,6つの磁区を用いることで,磁化が圧延方向に近い向きを向いた 2磁区状態から磁化が圧延方向から直角に近い向きを向いた磁化状態への 90◦磁壁移動への変化が表現可能になったことによるものである.また,このモデルを用いることで方向性電磁鋼板の圧延・直角方向それぞれの磁歪を再現することができた.

• 外部磁界の大きさを変数とした人工的な状態方程式を積分計算する

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4.7. まとめ 55

ことによって,任意の磁束密度を入力としたベクトル励磁下の解析を行うことができた.これにより,方向性電磁鋼板の任意方向の交番磁束下および円回転磁束下の磁化曲線および磁歪を再現できることを示した.

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57

第5章 内部応力の分布を考慮した集合磁区モデル

第 4章では,磁性材料内に均一に応力が加わっていると仮定することによって,6磁区を単一セルとした集合磁区モデルを用いた応力下・無応力下の磁化特性の解析を行った.これにより,方向性・無方向性電磁鋼板の応力下・無応力下の特性を再現することが可能となった.しかし,実際には多数の結晶を持つ磁性材料内部の応力は一定ではなく,結晶容易軸の分布や磁歪の影響によって分布している.こうした応力の分布は磁気特性や磁化過程に影響を与えており,この影響を考慮することでより正確に電磁鋼板の磁化過程を再現することが可能になると考えられる.そこで,本章では文献 [27]と同様の手法によって応力の分布を考慮した

新たな集合磁区モデルを提案する.次節より応力分布を考慮した磁気弾性エネルギーの計算手法について説明する.

5.1 内部応力と磁気弾性エネルギーの関係

以下では 3つの結晶磁化容易軸を座標軸とした座標系の下で議論を行う.応力 σは歪み同様に 2階のテンソルによって

σ =

σ11 σ12 σ13

σ21 σ22 σ23

σ31 σ32 σ33

(5.1)

と表される.ただし σij = σji である.応力 σ と歪み ϵの関係は4階のテンソルである弾性定数Cgによって表現され,立方晶の場合は弾性テンソル

Cgiiii = c11 (i = 1, 2, 3) (5.2)

Cgiijj = c12 (i, j = 1, 2, 3, i = j) (5.3)

Cgijij = Cg

ijji = c44 (i = 1, 2, 3) (5.4)

によって

σij =∑kl

Cgijklϵkl (5.5)

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58 第 5章 内部応力の分布を考慮した集合磁区モデル

すなわち

σ11 = c11ϵ11 + c12ϵ22 + c12ϵ33 (5.6)

σ12 = c12(ϵ12 + ϵ21) = 2c12ϵ12 (5.7)

· · ·

と表される.以下では簡単のため,このような4階のテンソルと2階のテンソルの計算を

σ = Cg : ϵ (5.8)

と表現する.集合磁区モデルにおけるある磁区 i内の単位体積あたりの磁気弾性エネ

ルギーは,自発磁化ベクトルの方向余弦 (α1,i, α2,i, α3,i)を用いて

−3C2λ100

3∑k=1

ϵkk(α2k,i − 1/3)− 6C3λ111

∑k>l

ϵklαk,iαl,i (5.9)

と計算される.ただし,C2 =12(c11 − c12),C3 = c44である.式 (5.9)に

式(5.7),式 (4.14)を用いることで,磁区内の単位体積あたりの磁気弾性エネルギーはセル内の応力テンソル σgと自発磁歪テンソル ϵdµ,iより

−∑k,l

σgklϵ

dµ,ikl

= −σg : ϵdµ,i (5.10)

と表現できる.ただし,以下においてはこのような 2つの 2階のテンソルの計算を記号 :を用いて簡略化する.セル内の平均自発磁歪 ϵgµは

ϵgµ =6∑i

riϵdµ,i (5.11)

と与えられるため,セル全体の磁気弾性エネルギーは

Eel/V = −6∑i

∑k,l

riσgklϵ

dµ,ikl

= −6∑i

riσg : ϵdµ,i

= −σg : ϵgµ (5.12)

と計算される.第 4章までの集合磁区モデルでは内部応力 σgの代わりとして,外部応力Σを用いて磁気弾性エネルギーを計算しており,式 (3.29)

は外部応力テンソルΣを用いて

Eel/V = −Σ : ϵgµ (5.13)

と書き直すことができる.

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5.2. 内部応力の計算手法 59

5.2 内部応力の計算手法

本章で提案する内部応力の分布を考慮した集合磁区モデルでは,文献[27]と同様の方法を用いて内部応力を計算する.以下ではその手法を説明する.無限の均質な領域内のある領域 Iが自由歪みによって変形する場合を考

える.周囲の領域の影響を無視した際の歪みを表す自由歪みテンソルが ϵf

であるとすると,領域 Iは周囲の領域の影響を受け実際の歪みは ϵIとなる.この ϵf と ϵIの関係は Eshelby tensor[28]と呼ばれる 4階のテンソルSによって

ϵI = S : ϵf (5.14)

と表現できる.R. Hillの理論 [29]を用いると,領域 I内の応力 σIは領域 I内の歪み ϵI

と材料全体の歪みEと材料全体の応力Σを用いて

σI −Σ = −C∗ : (ϵI −E) (5.15)

と計算される.ここで,C∗は Hill’s constraint tensorと呼ばれる 4階のテンソルであり,

C∗ = CALL : (S−1 − I) (5.16)

と定義される.CALLは材料全体の弾性テンソルであり,磁歪が存在しない場合においては

Σ = CALL : E (5.17)

が成り立つ.歪みは応力による弾性歪みと磁歪による歪みに分けることができ,

E = Ee +Eµ = CALL−1: Σ+Eµ (5.18)

ϵI = ϵIe + ϵIµ = CI−1: σI + ϵIµ (5.19)

と表現される.ここで,Ee,Eµはそれぞれ全体の弾性歪み,磁歪による歪みであり,ϵIe,ϵIµはそれぞれ領域 Iの弾性歪み,磁歪による歪みである.また,CIは領域 I内の弾性テンソルである.式 (5.15),式 (5.18),式 (5.19)より領域 Iの内部応力は

σI = BI : Σ+ L∗inc : (Eµ − ϵIµ) (5.20)

と計算される.ここで,BI,L∗incは

AI = (CI + C∗)−1 : (CALL + C∗) (5.21)

BI = CI : A : CALL−1(5.22)

L∗inc = CI : (CI + C∗)−1 : C∗ (5.23)

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60 第 5章 内部応力の分布を考慮した集合磁区モデル

と計算される 4階のテンソルであり,BIは材料全体の応力と各セルの局所的な応力の関係を表し,L∗

incは自発磁歪と局所的応力の関係を表す.材料全体の磁歪Eµは

Eµ =< tBI : ϵg > (5.24)

と計算される.ただし,tBIは

tBIijkl = BI

klij (5.25)

である.また,材料全体の弾性テンソルCALLは以下の構成方程式 (5.26)を満た

すように決定される.

CALL =< CI : (CI + C∗)−1 : (CALL + C∗) > (5.26)

ただし,<>はすべてのセルに関しての平均を行う演算子である.本章では,上記議論における領域 Iの応力 σIと同様の手法を用いることで,各セルの弾性テンソル Cg,Eshelby tensor Sより内部応力 σg を求め,式(5.12)によって磁気弾性エネルギーを計算した.また,本研究においては式 (5.26)を割線法を用いて解くことにより,CALLを得た.

5.3 内部応力の分布を考慮した集合磁区モデルによる

解析

5.3.1 方向性電磁鋼板の解析結果

本章では従来の応力を一定とした集合磁区モデルを一定応力モデル,応力の分布を考慮したモデルを応力分布モデルと呼ぶこととする.一定応力モデル,応力分布モデルを用いて方向性電磁鋼板の解析を行った.解析においてセル数を8×8×1,解析対象のサイズ比を8 : 8 : 10−4とした.容易軸配置として図 4.6を仮定し,結晶磁気異方性定数をK1 = 3.8×104 J/m3,磁歪定数をλ100 = 2.3×10−5,λ111 = −5.0×10−6,飽和磁化をµ0MS = 2.2

Tと定め,ピンニング磁界の大きさを px = 1.0× 10−3,py = 2.5× 10−3

と仮定した.文献 [16] を参照し,弾性定数を c11 = 2.02 × 1011, c12 =

1.22× 1011, c44 = 1.15× 1011と定めた.また,絶縁被膜によって圧延方向に 6 MPaの応力が加わっていると仮定した.図 5.1(a),(b)に一定応力モデル,応力分布モデルを用いた解析によっ

て得られた方向性電磁鋼板の磁化曲線を示す.一定応力モデルによる結果では,直角方向の磁化は外部磁界 190 A/mから始まり,270 A/mにおい

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5.3. 内部応力の分布を考慮した集合磁区モデルによる解析 61

-2.5-2

-1.5-1

-0.5 0

0.5 1

1.5 2

2.5

-400 -200 0 200 400

µ 0M

(T)

H(A/m)

RDTD

(a)

-2.5-2

-1.5-1

-0.5 0

0.5 1

1.5 2

2.5

-400 -200 0 200 400

µ 0M

(T)

H(A/m)

RDTD

(b)

図 5.1: 解析によって得られた方向性電磁鋼板の磁化曲線: (a)一定応力モデル,(b)応力分布モデル

て飽和している.また,この磁化曲線の傾きは直角方向と同じであり,解析対象の形状比によって定まっている.一方,応力分布モデルによる結果では,直角方向の磁化は 155 A/mから始まり,290A/mにおいて飽和しており,圧延方向との磁化曲線の傾きの違いが再現されている.この応力分布モデルと一定応力モデルにおける違いは,各セルにおける

局所的な応力によるものである.例えば,あるセルが直角方向への磁化を始め,90◦ 磁壁移動によって圧延方向と垂直の磁区の体積が増加すると,セルは磁歪によって圧延方向へ縮む.この時,セルの内部の引張応力は絶縁被膜による外部応力よりも大きくなる.式 (5.12)より,圧延方向を向いた磁区の磁気弾性エネルギーは引張応力が大きくなるほど小さくなるため,内部応力を考慮した式 (5.12)によって得られた磁気弾性エネルギーは

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62 第 5章 内部応力の分布を考慮した集合磁区モデル

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-1000 -500 0 500 1000

µ 0M

(T)

H(A/m)

0 Pa-20 MPa-40 MPa+40 MPa

(a)

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-1000 -500 0 500 1000

µ 0M

(T)

H(A/m)

0 Pa-20 MPa-40 MPa+40 MPa

(b)

図 5.2: 解析によって得られた無方向性電磁鋼板の磁化曲線: (a)一定応力モデル,(b)応力分布モデル

一定応力を仮定した式 (5.13)によって得られる磁気弾性エネルギーと比較し小さくなる.そのため,圧延方向を向いた磁区のエネルギーの違いにより,内部応力を考慮したモデルでは一定応力モデルよりも小さい外部磁界下で 90◦磁壁移動が始まる.一方,直角方向の磁化の飽和時の外部磁界は一定応力モデル,応力分布モデルにおいてほとんど同じとなっている.これは飽和時には圧延方向の磁区の体積比が小さいためである.このように,内部応力の影響によって直角方向の磁化曲線の傾きが減少している.

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5.3. 内部応力の分布を考慮した集合磁区モデルによる解析 63

-6

-4

-2

0

2

4

6

8

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

Mag

neto

stric

tion(

×10-6

)

µ0M

ε||mε||m

(a)

-10

-5

0

5

10

15

-2.5 -2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2 2.5

Mag

neto

stric

tion(

×10-6

)

µ0M

ε||mε||m

(b)

図 5.3: 応力分布モデルによって得られた無方向性電磁鋼板の磁歪:(a) 無応力下,(b) 圧縮応力 40 MPa下

5.3.2 無方向性電磁鋼板の解析結果

続いて,無方向性電磁鋼板に関する解析を行った.解析においてセル数を 8×8×1,解析対象のサイズ比を 8 : 8 : 10−4とした.容易軸配置として図 3.7を仮定し,結晶磁気異方性定数をK1 = 3.8× 104 J/m3,磁歪定数を λ100 = 2.7×10−5,λ111 = −1.0×10−5,弾性定数を c11 = 2.02×1011,c12 = 1.22× 1011,c44 = 1.15× 1011,飽和磁化を µ0MS = 2.2 Tと定め,ピンニング磁界の大きさを px = py = 2.5× 10−3と仮定した.図 5.2に無応力下,応力下における磁化曲線の一定応力モデル,応力分

布モデルを用いた解析結果を示す.図 5.3に応力分布モデルによって得られた無応力下,応力下における磁歪を示す.図 5.4に一定応力モデルを用いた解析における 40 MPaの圧縮応力下の磁化過程を,図 5.5,5.6に応力分布モデルを用いた解析における応力下・無応力下の磁化過程を示す.

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64 第 5章 内部応力の分布を考慮した集合磁区モデル

(a1)

(a2)

(a3)

図 5.4: 一定応力モデルによって得られた無方向性電磁鋼板の圧縮応力 40

MPa下の磁化過程:(a1) µ0MS = 0 T,(a2) µ0MS = 0.55 T,(a3) µ0MS =

1.6 T

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5.3. 内部応力の分布を考慮した集合磁区モデルによる解析 65

(b1)

(b2)

(b3)

図 5.5: 応力分布モデルによって得られた無応力下の磁化過程:(b1) µ0MS =

0 T,(b2) µ0MS = 0.6 T,(b3) µ0MS = 1.6 T

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66 第 5章 内部応力の分布を考慮した集合磁区モデル

(c1)

(c2)

(c3)

図 5.6: 応力分布モデルによって得られた圧縮応力 40 MPa下の磁化過程:(c1) µ0MS = 0 T,(c2) µ0MS = 0.6 T,(c3) µ0MS = 1.6 T

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5.3. 内部応力の分布を考慮した集合磁区モデルによる解析 67

セル内の色の濃さは各セルの圧延方向の内部応力の大きさを示している.応力分布モデルでは消磁状態においてそれぞれのセル内の磁気弾性エ

ネルギーが小さくなるよう,各セルの歪みの違いが少なくなる磁化状態を取る.結果,図 5.5(b1)では 3つの容易軸方向それぞれの磁区が発生している.圧延方向の外部磁界を大きくすると,180◦磁壁移動によって磁化が進んでいる (図 5.5(b2)).そのため,磁束密度が 0 Tから 0.7 Tの範囲において磁歪が変化していない.外部磁界をさらに大きくし,磁束密度が0.7 T以上となると,90◦磁壁移動によって圧延方向に近い向きに磁化が向いた磁区の体積比が増加している (図 5.5(b3)).このため,0.7 T以上では圧延方向への磁歪による伸びが発生している.一定応力モデルでは圧縮応力下の消磁状態においてそれぞれのセルは,

圧縮応力下で磁気弾性エネルギーが小さくなるよう,圧延方向と直角に近い向きに磁化が向いた 2つの磁区を持つ (図 5.4(a1)).圧延方向の外部磁界を増加させていくと,90◦磁壁移動によって圧延方向に近い向きを向いた磁区の体積比が増加する.90◦磁壁移動に伴う磁気弾性エネルギー,外部磁界エネルギーの変化量はセルごとの容易軸配置によって異なるため,この磁壁移動が発生するために必要となる外部磁界の大きさはセルごとに異なる.よって,図 5.4(a2)においては一部のセルの磁化状態は消磁状態 (図 5.4(a1))からほとんど変化しておらず,他のセルは 90◦磁壁移動によって磁化が圧延方向を向いている.このようにセル間の磁気弾性エネルギーの相互作用を考慮していないため,各セルの磁化状態は独立的に変化している.一方,応力分布モデルでは,大きな磁気弾性エネルギーの発生を抑える

ため,各セルの歪みと材料全体の歪みの違いが少なくなるような磁化状態を取っている.そのため消磁状態(図 5.6(c1))と比較し,図 5.6(c2)では全てのセルの磁化状態が磁壁移動によって変化している.このように応力分布モデルによって,材料内部の応力分布やセル間の応力による相互作用を考慮した磁化過程が得られていることが分かる.一定応力モデル,応力分布モデルどちらにおいても圧縮応力による透

磁率の減少を再現できている.しかし,一定応力モデルによって得られた 20 MPaの圧縮下の磁化曲線を見ると,低磁束密度下における微分透磁率が高磁束密度下と比較し小さくなっている.この現象は測定結果の図4.16(a)においては見られず,測定結果においては微分透磁率は低磁束密度下の方が大きい.一方応力分布モデルでは測定結果に近い磁化曲線が得られている.図 5.7に測定,解析によって得られた 0 Tから 0.5 T間における平均磁気抵抗率を示す.応力分布モデルを用いることで一定応力モデルよりと比較して,測定結果に近い圧縮・引張応力下における磁化曲線を得ることができていることが分かる.

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68 第 5章 内部応力の分布を考慮した集合磁区モデル

0

100

200

300

400

500

600

-40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40

aver

age

relu

ctiv

ity (

m/H

)

σ(MPa)

uniform stress modeldistributed stress model

measured

図 5.7: 0 T から 0.5 T 間における測定・解析によって得られた平均磁気抵抗率

5.4 まとめ

本章では,電磁鋼板の内部応力を考慮して磁気弾性エネルギーの計算を行う新たな集合磁区モデルを提案し,方向性・無方向性電磁鋼板の解析を行った.得られた成果を以下に示す.

• 内部応力を考慮した集合磁区モデルを用いることで,方向性電磁鋼板の圧延・直角方向の磁化曲線の傾きの違いを再現することが可能となった.これは,内部応力を考慮して磁気弾性エネルギーを計算することによって,磁壁移動に伴うエネルギーの変化量が変化したことによるものである.

• 内部応力を考慮したモデルを用いることで,より測定結果に近い無方向性電磁鋼板の無応力下・応力下の磁化曲線を再現することができた.また,内部応力を考慮することで一定の応力を仮定した一定応力モデルの結果と比較し,セル間の磁歪の差が小さくなるような磁化過程を取ることが分かった.

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69

第6章 ピンニングサイトの分布を考慮した集合磁区モデル

電磁鋼板を含む鉄心材料の持つヒステリシス現象は主に,ピンニングサイトによって磁壁の移動が妨げられることによって発生している.マクロスケールの鉄心材料の特性を再現するためには,このピンニングサイトによるヒステリシスを考慮する必要がある.ピンニング型のヒステリシスを再現する手法としては,磁壁移動に基づいた単純化された手法 [30]や疑似的な摩擦を用いた手法 [31, 32]などが提案されている.また,文献 [33]

ではエネルギーの最小化に基づいて得られたヒステリシスを含まない磁化特性に,文献 [34]に基づいた不可逆的な磁界を加えることで,電磁鋼板のヒステリシスを含んだ特性を再現している.集合磁区モデルではより直接的な表現方法として,磁化の変化とは逆向

きに一定の大きさのピンニング磁界が発生すると仮定し,ストップヒステロンを用いてピンニング磁界を表現することでピンニングサイトの影響を考慮していた.しかし,実際には磁性材料内部では大きさの異なるピンニングサイトが分布しているため,ピンニング磁界は一定ではなく材料内部のピンニングサイトの分布に依存していると考えられる.そこで,本章ではピンニング強度の密度関数に基づいてピンニング磁界を与える新たな手法を提案する.

6.1 ピンニング磁界とエネルギーの関係

まず,ピンニング磁界とエネルギーの関係について考察する.以下の議論においては文献 [31]を参考にしている.簡単のため,図 6.1のように一つのセル内が 180◦磁壁移動によってのみ磁化する場合を考える.全磁気エネルギー eを外部磁界エネルギー eapとピンニングエネルギー ep,と結晶磁気異方性エネルギーや静磁エネルギーなどを含むその他のエネルギーemagに分けて考える.

e = eap(m) + emag(m) + ep(m) (6.1)

このとき,外部磁界エネルギー eapは

eap(m) = −2mh (6.2)

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70 第 6章 ピンニングサイトの分布を考慮した集合磁区モデル

(a)

(b)

図 6.1: エネルギーとmh曲線の関係

(a) (b)

図 6.2: 多数のピンニングサイトが存在する場合のmh曲線

と計算される.ピンニングサイトが存在しない場合,一点にピンニングサイトが存在する場合,多数のピンニングサイトが存在する場合のそれぞれについて考察する.

ピンニングサイトが存在しない場合まず,図 6.1(a)のようにピンニングサイトが存在しない場合を考える.このとき,全体のエネルギーは

e = eap(m) + emag(m) (6.3)

となる.エネルギーが極小となる磁化過程を取ることを考えれば∂e∂m = 0が成り立つため,式 (6.2),(6.3)よりピンニングの影響が存在しない場合における外部磁界 hin(m)はmの関数として,

hin(m) =1

2

∂emag

∂m(6.4)

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6.2. ピンニングサイトの分布を考慮したピンニング磁界 71

と表される.すなわち,エネルギー emagのmに関する偏微分が磁化曲線に対応していることが分かる.

一点にピンニングサイトが存在する場合続いて,図 6.1(b)のようにある一点にピンニングサイトが存在する状態を考える.全体のエネルギーは式 (6.1)となるため, ∂e

∂m = 0を考えれば式 (6.2)より

h = hin(m) +1

2

∂ep∂m

(6.5)

の関係が成り立つ.よって,∂ep∂m 項の影響で,ある一点のピンニン

グサイトによって磁壁の挙動が妨げられ,磁化曲線は図 6.1(b)のような挙動を示す.

多数のピンニングサイトが存在する場合最後に図 6.2のように同じ大きさのピンニングサイトが無数に存在する状態を考える.一点にピンニングサイトが存在する場合と同様に式 (6.5)の関係が成り立つため,磁化は図 6.2(a)のような軌跡を取ると考えられる.この関係は図 6.2(b)のような形で近似できる.すなわち,ピンニングサイトが多数分布しているとすれば,磁化が変化した際の外部磁界と磁化の関係は

h = hin(m)± p (6.6)

と近似できると考えられる.ここで,pはピンニング強度を表し,磁壁がピンニングサイトから抜け出すために必要な磁区内の磁化と同じ向きの規格化外部磁界の大きさをピンニング強度と定義する.

これまでの集合磁区モデルでは磁化の変化の逆向きに一定の大きさのピンニング磁界が発生すると仮定することでピンニングサイトの影響を考慮していた.これは,式 (6.6)の関係をストップヒステロンによって表現されるピンニング磁界 hp(m)を用いて

h = hin(m) + hp(m) (6.7)

と表現したモデルであると考えることができる.すなわち,従来のモデルは一定の大きさのピンニングサイトが無数に存在する状態を表現していると考えられる.

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72 第 6章 ピンニングサイトの分布を考慮した集合磁区モデル

��,� ��,� ��,� ��,� ��,�

⋯⋯

図 6.3: それぞれの領域内のピンニングサイトと磁化ベクトル

6.2 ピンニングサイトの分布を考慮したピンニング磁

続いて,ピンニングサイトの分布を考慮してピンニング磁界を与える方法について考察する.集合磁区モデルにおいて,ピンニングサイトの分布を考慮するためには,ベクトルピンニング磁界 hp(m)をピンニングサイトの分布を考慮した形で定義する必要がある.しかし,結晶磁気異方性や90◦磁壁・180◦磁壁の違いなどを考慮してこれを定義することが困難なため,まずスカラーピンニング磁界 hp(m)を与える方法を考える.簡単のため,図 6.3のように単一のセルをNd個の領域に分け,それぞれの領域において 180◦磁壁移動によって磁化が進むと考える.またそれぞれの領域内には一定の大きさのピンニングサイトが多数存在し,その大きさは領域ごとに異なると仮定する.各領域 iの規格化平均磁化をmd,iとすれば,セル全体の平均磁化は

m =1

Nd

Nd∑i=1

md,i (6.8)

となる.全体のエネルギー eは

e = eap(m) + emag(m) + ep(m) (6.9)

= eap(m) + emag(m) +

Nd∑i=1

ep,i(md,i) (6.10)

で与えられる.ただし,ep,i(md,i)は領域 iに関するピンニングエネルギーである.式 (6.2),(6.8)より,エネルギーのmd,iに関する偏微分は

∂eap∂md,i

= − 2h

Nd(6.11)

∂emag

∂md,i=

1

Nd

∂emag

∂m=

1

Ndhin(m) (6.12)

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6.2. ピンニングサイトの分布を考慮したピンニング磁界 73

となる.エネルギー極小を考えると,∂e/∂md,i = 0より,md,iが変化した際には

h = hin(m) +Nd

2

∂ep,i∂md,i

(6.13)

が成り立つ.そこで,領域 iではピンニングサイトによって磁壁がピン止めされ,磁壁移動によって磁化するためには余分に piの外部磁界が必要となると考え,md,iが変化した際の外部磁界 hと磁化mの関係が

h = hin(m)± pi (6.14)

と表現できると仮定する.|h−hin|が領域 iのピンニング強度 piよりも大きい際には領域 iは 180◦磁壁移動によって磁化し,規格化平均磁化md,i

が−1, 1となると仮定すれば,md,iは hとmの関数として

md,i =

1 (pi < h− hin(m

0))

m0d,i (−pi < h− hin(m

0) < pi)

− 1 (h− hin(m0) < −pi)

(6.15)

と表現できる.ただし,m0,m0d,i はそれぞれ,直前の時点におけるm,

md,iの値であり,|h− hin|が piより小さい際にはmd,iが変化しないことを示す.全体の平均磁化mは式 (6.8)によって得られる.ここで,Nd→∞とし, f(p)を ∫ ∞

0f(p)dp = 1 (6.16)

を満たすピンニング強度 pの密度関数とすれば,mは

m =

∫ ∞

0md(p, h)f(p)dp (6.17)

と計算される.ただし,md(p, h)はピンニング強度が pとなる領域の規格化磁化であり,

md(p, h) =

1 (p < h− hin(m

0))

m0d(p) (−p < h− hin(m

0) < p)

− 1 (h− hin(m0) < −p)

(6.18)

と表される.外部磁界 hの変化量を十分小さくすれば,

h− hin(m0) ≃ h− hin(m) = hp (6.19)

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74 第 6章 ピンニングサイトの分布を考慮した集合磁区モデル

と見なせるためmdはピンニング磁界 hpの関数mdhp(p, hp)によって

md(p, h) = mdhp(p, hp) =

1 (p < hp)

m0dhp(p, hp) (−p < hp < p)

− 1 (hp < −p)

(6.20)

と表現できる.すなわち,平均磁化mは

m =

∫ ∞

0mdhp(p, hp)f(p)dp (6.21)

と与えることができると考えられる.式 (6.21)より,任意のピンニング磁界 hp を与えた際の磁化mを得ることができる.しかし,集合磁区モデルに導入するためには,任意の磁化ベクトルmを与えた際のベクトルピンニング磁界 hpを与える必要がある.そこで,本研究では,hpとmの関係をベクトルストップモデル [35]

によって表現する.まず,式 (6.21)より,m振幅が等間隔のm-hp曲線を多数作成する.このm-hp曲線を元にストップモデルの同定を行い,これを等方性ベクトルストップモデルに拡張する [35]ことにより,任意の磁化ベクトルmを与えた際のベクトルピンニング磁界 hpを表現する.本章では,従来の一定の大きさのピンニング磁界を用いたモデルを一定ピンニングモデル,密度関数の分布を考慮したモデルを分布ピンニングモデル (M)と呼ぶこととする.

6.3 ピンニングサイトの分布を考慮した集合磁区モデ

ルによる解析

6.3.1 ピンニング磁界

図 6.4の (i),(ii)の 2つの密度関数 f(p)を元に同定されたベクトルストップモデルによってピンニング磁界を表現することで,分布ピンニングモデル (M)による解析を行う.ただし,横軸は規格化ピンニング磁界 hpに対応したピンニング強度 pを示す.(i),(ii)の密度関数は無方向性電磁鋼板の直流時の測定結果と保磁力が一致するように共に平均 1.1 × 10−3の正規分布を与えており,(i)は広い分布を仮定し分散を 9.0× 10−8,(ii)は狭い分布を仮定し分散を 2.25× 10−8と定めた.式 (6.21)に基づいて得られた磁化mとピンニング磁界 hpの関係を図 6.5に示す.ピンニング強度の広い分布を仮定した (i)のm − hp曲線は,小さな外部磁界下においてもピンニング強度の小さな領域が磁化するため,mの小さな領域のヒステリシスループ幅が (ii)よりも小さいことが分かる.

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6.3. ピンニングサイトの分布を考慮した集合磁区モデルによる解析 75

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

0 0.0005 0.001 0.0015 0.002 0.0025 0.003

f(p)

p

(i)(ii)

図 6.4: ピンニング強度の密度関数

-1

-0.5

0

0.5

1

-0.002 -0.001 0 0.001 0.002

m

hp

(i)(ii)

図 6.5: 密度関数より得られたピンニング磁界

-1

-0.5

0

0.5

1

-0.003 -0.002 -0.001 0 0.001 0.002 0.003

m

hp

(i)(ii)

図 6.6: ストップモデルの同定に用いられたm− hp曲線

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76 第 6章 ピンニングサイトの分布を考慮した集合磁区モデル

密度関数によらず,hp が減少した際 hp − m曲線の hp > 0の範囲は横軸に平行な直線となっている.これは,mdhp(p, hp) = 1となっている領域が反転し −1となるためには,hpが −pより小さくなる必要があり,hp > 0の範囲では反転が一切起こらないためである.このピンニング磁界を元に,図 6.6のような,mの振幅が等間隔なループを作成し,それを元に同定したベクトルストップモデル [35]によって磁化ベクトルmを入力としたピンニング磁界 hp(m)を与える.

6.3.2 無方向性電磁鋼板の解析結果

一定ピンニングモデル,分布ピンニングモデル (M)の2つを用いて,無方向性電磁鋼板の解析を行った.一定ピンニングモデルにおいては px =

py = 1.1 × 10−3,η = 0.01とし式 (3.22)に基づいたピンニング磁界を用い,分布ピンニングモデル (M)においては図 6.4の2つの分布 (i),(ii)によって得られたピンニング磁界を用いた.また,解析対象のサイズ比を8 : 8 : 10−4,セル分割数を 8 × 8 × 1とした.パラメータとして,結晶磁気異方性定数をK1 = 3.8 × 104 J/m,磁歪定数を λ100 = 2.3 × 10−5,λ111 = - 1.0 × 10−5,飽和磁化を µ0MS = 2.2 Tと定め,結晶配置として図 3.7の分布を用いた.図 6.7(a),図 6.8(a)に無方向性電磁鋼板 JIS:50A470の,交流下の特性

の測定値から予測された応力下・無応力下の直流時の磁化曲線を示す.この直流時の磁化曲線は,複数の周波数下における鉄損の測定結果から得た有効導電率を用いることで,交流時の磁化曲線から計算されている [5, 20].図 6.7(b),図 6.8(b)に無方向性電磁鋼板の応力下・無応力下における磁化曲線の解析結果を示す.図 6.7(b)の無応力下における磁化曲線を見ると,一定ピンニングモデルではヒステリシス幅が常に一定となっているのに対し,分布ピンニングモデル (M)では,各振幅におけるループ幅の違いが表現できていることが分かる.図 6.7(a)の磁束密度 1 T以上の高振幅の磁化曲線を見ると,高磁束密

度領域では磁化曲線の幅が低磁束密度領域よりも広くなっている.また,下降曲線が高磁束密度下において左に膨らみ,磁束密度 0.8 T付近における外部磁界の大きさが磁束密度 0 Tにおける外部磁界よりも大きい.この現象は一定ピンニングモデル,分布ピンニングモデル (M)による解析結果では共に再現できていない.高磁束密度領域で磁化曲線の幅が広くなる原因としては,鋼板表面に発生する磁極が磁壁の移動を妨げることによって発生するピンニングの影響が考えられる.下降曲線が左へ膨らむ原因としては,例えば単磁区状態から逆向きの磁区を生成するために,ピンニングサイトの影響よりも大きな外部磁界が必要となることが考えられるが,詳しい原因については分かっていない.これらの高磁束密度下の特性を再

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6.3. ピンニングサイトの分布を考慮した集合磁区モデルによる解析 77

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-100 -50 0 50 100

B(T

)

H(A/m)

(a)

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-100 -50 0 50 100

µ 0M

(T)

H(A/m)

uniform pinning modeldistributed pinning model M (i)distributed pinning model M (ii)

(b)

図 6.7: 無方向性電磁鋼板の無応力下の磁化曲線: (a) 直流下の測定結果,  (b) 解析結果

現するためには,ピンニングサイト以外の要因や鋼板表面の影響などの他のピンニングサイトの影響を考慮したモデル化を行う必要があると考えられる.図 6.8(b)の 40MPaの圧縮応力下における磁化曲線を見ると,一定ピン

ニングモデルの結果同様,透磁率の低下に加えて応力によってヒステリシス幅が増加し,鉄損が増加する特性が表現できていることが分かる.無応力下と比較して,一定ピンニングモデルとの磁化曲線の違いがほとんど見られない原因としては,図 5.4のように応力下では結晶容易軸配置の違いにより各セル毎の磁化過程が異なることが考えられる.図 6.9(a),(b)に応力下,無応力下における電磁鋼板のヒステリシス損

の測定結果,一定ピンニングモデル,(i)の分布を用いた分布ピンニングモデル (M)によって得られた解析結果を示す.一定ピンニングモデルで

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78 第 6章 ピンニングサイトの分布を考慮した集合磁区モデル

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-1000 -500 0 500 1000

B(T

)

H(A/m)

σ=0 MPaσ=-40 MPa

(a)

σ = 0 MPa

σ = −40 MPa

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-1000 -500 0 500 1000

µ 0M

(T)

H(A/m)

uniform pinning modeldistributed pinning model M - (i)distributed pinning model M - (ii)

(b)

図 6.8: 無方向性電磁鋼板の圧縮応力下・無応力下の磁化曲線: (a) 直流下の測定結果,  (b) 解析結果

は無応力下における鉄損はほぼ振幅に比例しており,測定結果を十分に再現できていなかったが,分布ピンニングモデル (M)では振幅の増加に伴う定性的な鉄損の変化を再現できていることが分かる.振幅 1 T以上において測定結果の鉄損を再現できていないのは,ピンニングサイト以外の要因によるものであると考えられる.圧縮応力下のヒステリシス損を比較すると,無応力下と比較した際の圧縮応力による損失の増加は再現できているが,応力下の損失の大きさは測定結果より小さいことが分かる.無応力下・応力下ともに,一定ピンニングモデルによる損失の解析結果は分布ピンニングモデル (M)と比較して大きく,これは分布ピンニングモデル(M)では低振幅なループにおけるヒステリシス幅が小さくなることによるものである.

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6.4. 密度関数とピンニング磁界の関係について考察 79

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6

hyst

eres

is lo

ss (

w/k

g)

µ0M(T)

measured

uniform pinning model

distributed pinning model M (i)

(a) σ= 0 MPa

0

1

2

3

4

5

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6

hyst

eres

is lo

ss (

w/k

g)

µ0M(T)

measureduniform pinning model

distributed pinning model M (i)

(b) σ= −40 MPa

図 6.9: 無方向性電磁鋼板のヒステリシス損の測定結果・解析結果: (a) 無応力下,(b) 圧縮応力下

6.4 密度関数とピンニング磁界の関係について考察

前節においてはピンニング強度の密度関数として正規分布を仮定し,ピンニングを表現した.材料ごとに合った密度関数を適切に与えることができれば,それぞれの材料のピンニングの影響を表現できると考えられる.そこで,測定結果の一部から密度関数を予測する手法について考察を行う.消磁状態から磁化が進んだ際のピンニング磁界と密度関数の関係につい

て考察する.消磁状態は

mdhp(p, 0) = 0 (6.22)

と考えることができる.消磁状態からのピンニング磁界の変化は hpを 0

から増加させていった際のmの変化によって求められる.mdhp(p, hp)は

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80 第 6章 ピンニングサイトの分布を考慮した集合磁区モデル

式 (6.20)より

mdhp(p, hp) =

{1 (p < hp)

0 (hp < p)(6.23)

となるため,mは

m =

∫ ∞

0mdhp(p, hp)f(p)dp (6.24)

=

∫ hp

0f(p)dp (6.25)

= F (hp) (6.26)

と計算される.ただし,F (hp)は分布関数である.すなわち,消磁状態から始まるm− hp曲線は分布関数と一致することが分かる.よって,測定結果を元に密度関数,分布関数を予測することが可能と考えられる.また,保磁力と密度関数の関係を考える.高振幅のヒステリシスループにおける保磁力は磁化mを−1から 0まで変化させた際の hpの値となる.磁化mを−1から変化させた際のmdhp(p, hp)は式 (6.20)より

mdhp(p, hp) =

{1 (p < hp)

− 1 (hp < p)(6.27)

となるため,mは

m =

∫ ∞

0mdhp(p, hp)f(p)dp (6.28)

=

∫ hp

0f(p)dp−

∫ ∞

hp

f(p)dp (6.29)

= F (hp)− (1− F (hp)) (6.30)

= 2F (hp)− 1 (6.31)

と計算される.m = 0となるときには F (hp) = 0.5となるため,保磁力は分布関数 F (p)が 0.5となるピンニング強度 pと一致することが分かる.図 6.7(a)の無方向性電磁鋼板 JIS:50A470の直流下の磁化曲線から密度

関数を求める.ただし,消磁状態からの初磁化曲線の代わりとして図 6.10

の正規磁化曲線を用いることとする.この電磁鋼板の直流時の保磁力はおよそ 38 A/mであり,異方性磁界で規格化すると 1.1 × 10−3である.図6.10の磁化曲線を見ると,m = 0.5における規格化外部磁界は 2.2× 10−3

であるため,この曲線を分布関数として用いると保磁力が測定結果より大きくなり,ヒステリシス損を再現することができない.式 (6.7)よりピンニング磁界は,磁化曲線の磁界 h(m)からピンニングが存在しない場合に

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6.4. 密度関数とピンニング磁界の関係について考察 81

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

0 0.0005 0.001 0.0015 0.002 0.0025 0.003

m

h

図 6.10: 無方向性電磁鋼板の正規磁化曲線

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

0 0.0005 0.001 0.0015 0.002 0.0025 0.003

F(p

)

p

図 6.11: 測定結果より得られた分布関数

おけるヒステリシスのない磁化曲線の磁界 hin(m)を引いたものであるが,測定結果からこの hin(m)を求めることは難しい.そこで,正規磁化曲線を元にm = 0.5におけるピンニング強度 pが 1.1 × 10−3となるような分布関数 F (p)(図 6.11)を作成した.図 6.11の分布関数を得るにあたって,測定値の乱れによって密度関数が不連続とならないように,最小二乗法による多項式近似およびスプライン補間を用いた.また,高磁束密度下に磁化曲線は磁化回転の影響などを大きく受けており,この測定結果から高磁束密度下のピンニング磁界を求めることは難しい.そこで,図 6.11の曲線より p = 1.1 × 10−3までの密度関数を作成し,密度関数が対称となると仮定することで全体の密度関数を得た.図 6.12に得られた密度関数を示す.また,図 6.13(b)にこの密度関数を

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82 第 6章 ピンニングサイトの分布を考慮した集合磁区モデル

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

0 0.0005 0.001 0.0015 0.002 0.0025

f(p)

p

図 6.12: 測定結果から得られた密度関数 (iii)

用いて式 (6.21)によって得られた,磁化mを入力としたピンニング磁界hp(m)を示す.密度関数を与えるために用いたm = 0からm = 0.5までの領域のピンニング磁界は測定における初磁化曲線と一致しており,mが0.4以下の小さな領域においては磁化曲線の形状をよく再現できている.

6.5 測定結果に基づいた密度関数を用いた解析

図 6.12の密度関数を用いて,集合磁区モデルによる無方向性電磁鋼板の解析を行った.解析においては,6.3.2項と同様の条件を用いた.図 6.14

に無方向性電磁鋼板 JIS:50A470の磁化曲線の解析結果を示す.測定結果と比較すると,密度関数の設定に用いた初磁化曲線の低磁束密度領域が一致していることが分かる.また,このモデルによって低磁束密度領域の各振幅の磁化曲線をよく再現できていることが分かる.高磁束密度領域における測定結果との差の原因として,表面磁極などの他のピンニングサイトの影響やピンニングサイト以外の要因を考慮していないことに加え,低磁束密度領域の正規磁化曲線を元に密度関数を与えたことが考えられる.図 6.15に無方向性電磁鋼板の各振幅におけるヒステリシス損を示す.振幅 1.1 Tまでの無応力下のヒステリシス損をよく再現できていることが分かる.圧縮応力下のヒステリシス損は正規分布を用いた場合と同様,無応力下と比較して増加しているが測定結果より小さな結果が得られた.

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6.6. 磁壁移動に対応してピンニングの影響を考える手法について 83

-1

-0.5

0

0.5

1

-0.003 -0.002 -0.001 0 0.001 0.002 0.003

m

h

(a)

-1

-0.5

0

0.5

1

-0.003 -0.002 -0.001 0 0.001 0.002 0.003

m

hp

(b)

図 6.13: 規格化された磁化曲線の測定結果 (a)および測定結果より得られたピンニング磁界 (b)

6.6 磁壁移動に対応してピンニングの影響を考える手

法について

ピンニング磁界を用いてピンニングサイトの影響を再現する方法では,平均磁化の変化に対応してベクトルピンニング磁界を与えているため,磁化回転によって磁化が変化する際にも同様にピンニング磁化が発生してしまう.そこで,磁壁の移動に対応してピンニングの影響を与える方法について考える.そのためには6つの磁区の体積比 ri (i = 1, · · · , 6)が変化した際の ∂ep

∂riを与える必要がある.厳密に考えた場合には 90◦磁壁移動と

180◦磁壁移動において発生するピンニングエネルギーの違いや,それぞれの磁壁がどのようにピン止めされるかを考える必要があり,複雑となるためこれを考慮して ∂ep

∂riを与えるのは困難である.そこで,単純化磁区構

造モデルの磁区 1,2が対応する磁化容易軸方向へ外部磁界を加え,2つの

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84 第 6章 ピンニングサイトの分布を考慮した集合磁区モデル

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-100 -50 0 50 100

µ 0M

(T)

H(A/m)

measureddistributed pinning model M (iii)

(a) σ= 0 MPa

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-1000 -500 0 500 1000

µ 0M

(T)

H(A/m)

measureddistributed pinning model M (iii)

(b) σ= −40 MPa

図 6.14: 無方向性電磁鋼板の磁化曲線の解析結果と測定結果との比較

磁区間の 180◦磁壁移動によってのみ磁化する場合を考える.ただし,外部磁界は磁区 1の磁化ベクトルと同じ向きであり,磁区 2の磁化ベクトルと逆向きであるとする.ピンニング磁界 hpを与える方法では,外部磁界と同様にピンニング磁

界の影響を与えたため, ∂ep∂m は

∂ep∂m

= −2hp(m) (6.32)

で与えられる.仮定した条件においてはm = r1 − r2を満たすため

∂ep∂r1

= −2hp(m) = −2hp(2r1 − 1)

∂ep∂r2

= 2hp(m) = 2hp(−2r2 + 1) = −2hp(2r2 − 1) (6.33)

となる.hp(m)はスカラーピンニング磁界であり,磁化mの関数と考え

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6.6. 磁壁移動に対応してピンニングの影響を考える手法について 85

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6

hyst

eres

is lo

ss (

w/k

g)

µ0M(T)

measured

distributed pinning model M (iii)

(a) σ= 0 MPa

0

1

2

3

4

5

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6

hyst

eres

is lo

ss (

w/k

g)

µ0M(T)

measureddistributed pinning model M (iii)

(b) σ= −40 MPa

図 6.15: 測定結果に基づいた密度関数を用いた解析によって得られた無方向性電磁鋼板のヒステリシス損と測定結果との比較

ることができる.ここで,磁区の体積比 riに関する関数 priを

pri(ri) = hp(2ri − 1) (6.34)

と定義すれば,式 (6.33)は

∂ep∂r1

= −2pr1(r1)

∂ep∂r2

= −2pr2(r2) (6.35)

と表現できる.式 (6.35)は2つの磁区が 180◦磁壁移動によって磁化した場合において成り立つ関係であるが,6つの磁区の体積比 riがそれぞれ変化した場合にも磁壁のピン止めによって同様の関係が成り立つと仮定す

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86 第 6章 ピンニングサイトの分布を考慮した集合磁区モデル

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

-400 -300 -200 -100 0 100 200 300 400

µ 0M

(T)

H(A/m)

図 6.16: 分布ピンニングモデル (W)によって得られた無方向性電磁鋼板の磁化曲線

れば,∂ep∂riは

∂ep∂ri

= −2pri(ri) (i = 1, · · · , 6) (6.36)

と与えることができる.pri(ri) (i = 1, · · · , 6)は式 (6.34)によって定義され,それぞれ独立のスカラーストップモデルによって表現できる.∂ep

∂ϕi= 0,

∂ep∂θi

= 0とし,式 (6.36)に基づいてピンニングの影響を与えるモデルを分布ピンニングモデル (W)と呼ぶこととする.

6.7 消磁状態におけるピンニングについて

6.3.2項と同様の条件を用い,図 6.4の (i)の正規分布を用いて分布ピンニングモデル (W)による無方向性電磁鋼板の解析を行った.分布ピンニングモデル (M)では,各セルの平均磁化が 0となるように各磁区の変数ベクトル x(j)の初期値を定め,ベクトルストップモデルの各ヒステロンの初期値を 0とすることで消磁状態からの磁化特性の解析を行っていた.変数ベクトル x(j)を同様に与え,各スカラーストップモデルのヒステロンの初期値を 0として解析を行った結果を図 6.16に示す.初磁化曲線が高振幅のループの上昇曲線よりも大きな磁界を取っている他,上昇曲線と下降曲線が非対称となるなど消磁状態からの磁化曲線を正しく得ることができていないことが分かる.これは,消磁状態における,各磁区 iの体積比 riの初期値とスカラーストップヒステロンの初期値が正しく設定できていないことによるものである.

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6.8. 磁化容易軸とヒステリシス幅の関係について 87

消磁状態の初期値を与える方法として最も単純な方法は振幅の大きな外部磁界を加えることで,磁化を飽和させてから徐々に外部磁界の振幅を小さくし,磁化を 0に近づけていくことである.しかし,集合磁区モデルの解析においてこの手法を用いると非常に時間がかかるため,簡略化した手法を用いることとする.まず,消磁状態における各セルの磁区の体積比 ridemag (i = 1, · · · , 6)

を求める.消磁状態の磁化状態は,大きな外部磁界を加え磁化を飽和させた後に,外部磁界を小さくし平均磁化mが 0となった時の磁化状態と,逆向きに外部磁界を加えた後に平均磁化mを 0としたの磁化状態の中間となると考えれば,消磁状態の磁区の体積比 ridemagは

ridemag = (ridown + riup)/2 (i = 1, · · · , 6) (6.37)

と計算される.ただし,ridown,riupはそれぞれ,mを正の大きな値,負の大きな値から 0へと変化させた際の磁区の体積比である.対称性を考え,磁区 1と磁区 2,磁区 3と磁区 4,磁区 5と磁区 6の磁化の向きがそれぞれ逆とすれば,r1down = r2up,r2down = r1up,· · · であるため,ridemag

は ridownを用いて

r1demag = r2demag = (r1down + r2down)/2

r3demag = r4demag = (r3down + r4down)/2 (6.38)

r5demag = r6demag = (r5down + r6down)/2

と計算される.すなわち,消磁状態の磁区の体積比 ridemagは,大きな外部磁界を加えた後に平均磁化を 0とした際の磁化状態を解析することで予測できる.式 (6.38)によって,ridemagを得た後に,スカラーストップモデルによって表現される関数 pri(ri)に振幅が徐々に小さくなり最終的に ridemagに落ちつくような riを入力として与えることで,それぞれのストップヒステロンの初期値を与える.以上の方法を用いることで消磁状態を適切に与えることが可能となり,図 6.16において発生していた問題が解決した.そこで,以降ではこの手法を用いて分布ピンニングモデル (W)の解析を行う.

6.8 磁化容易軸とヒステリシス幅の関係について

磁化容易軸とヒステリシス幅の関係について考察するために,図 3.3のように方向性電磁鋼板と同じ磁化容易軸を持つ (i)と,(i)を鋼板面内で30◦回転させた (ii) (図 6.17)の2つの結晶配置を考え,それぞれに対し式

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88 第 6章 ピンニングサイトの分布を考慮した集合磁区モデル

RD

TD

ND

図 6.17: 結晶配置 (ii)の極点図

-2.5-2

-1.5-1

-0.5 0

0.5 1

1.5 2

2.5

-150 -100 -50 0 50 100 150

µ 0M

(T)

H(A/m)

(i)(ii)

図 6.18: 単純化磁区構造モデルの解析によって得られた磁化曲線

(a1) (a2) (a3)

RD

TD

(a)(b1) (b2) (b3)

RD

TD

(b)

図 6.19: 単純化磁区構造モデルの解析によって得られた磁化過程:(a) 結晶配置 (i),(b) 結晶配置 (ii)

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6.9. 分布ピンニングモデル (W)を用いた解析 89

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-150 -100 -50 0 50 100 150

µ 0M

(T)

H(A/m)

図 6.20: 密度関数 (i)を用いた分布ピンニングモデル (W)による無方向性電磁鋼板の磁化曲線の解析結果

(6.36)に基づいてピンニングを与えた単純化磁区構造モデルを用いた解析を行った.密度関数として図 6.4の (i)の平均 1.1× 10−3,分散 9.0× 10−8

の正規分布を与え,pri(ri)を定めた.図 6.18に解析によって得られた磁化曲線を,図 6.19に解析によって得られた磁化過程を示す.結晶配置 (i),(ii)共に 180◦磁壁移動によって磁化しており,結晶配置 (i)では 2つの磁区の磁化の向きと外部磁界の向きが同じもしくは反対であるが.結晶配置(ii)では外部磁界の向きと磁化の向きが 30◦異なっている.結晶方位 (i),(ii)のそれぞれの磁化曲線における保磁力は 31.8 A/m,

37.0 A/mであった.結晶方位 (i)と比較し,結晶方位 (ii)の磁化曲線の保磁力が 1.16倍大きな結果が得られた.これは保磁力は磁化の向きと外部磁界の方向が異なる場合には,磁壁移動によって変化する外部磁界エネルギーの量 ∂eap

∂r1が少なくなるため,ピンニングエネルギーの変化 ∂ep

∂riを打

ち消して磁壁移動を起こすために必要な外部磁界の大きさが増加することによるものである.ある磁区内の外部磁界エネルギーは磁化の向きと外部磁界のなす角度 θap−mを用いて

−2mi · h = −2|h| cos θap−m (6.39)

となるため,結晶方位 (i)の磁化曲線の保磁力と比較し結晶方位 (ii)の保磁力は 1/ cos 30◦ ≃ 1.15倍となる.

6.9 分布ピンニングモデル (W)を用いた解析

図 6.4の (i)の平均 1.1 × 10−3,分散 9.0 × 10−8 の正規分布を用いてpri(ri)を定め,6.3.2項と同様の条件を用いて無方向性電磁鋼板の解析を

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90 第 6章 ピンニングサイトの分布を考慮した集合磁区モデル

行った.無応力下の磁化曲線を図 6.20に示す.得られた磁化曲線の保磁力は 44 A/mであり,分布ピンニングモデル (M)を用いた解析によって得られた磁化曲線の保磁力 38 A/mの 1.17倍となった.これは結晶容易軸がセルごとに分布しており,6.8項で述べたように外部磁界の向きと磁区内の磁化の向きが異なるために,磁化のために必要な外部磁界が大きくなったことによるものである.そこで,保磁力が測定結果と一致するように,正規分布 (i)と比較し平均が 0.85倍となる平均 9.2× 10−4,分散6.2× 10−8の密度関数 (iv)を図 6.21のように作成し,同様の条件で無方向性電磁鋼板の解析を行った.分布ピンニングモデル (M)と分布ピンニングモデル (W)の解析によっ

て得られた磁化曲線を図 6.22に示す.無応力下の磁化曲線はどちらのモデルにおいても近い結果が得られたが,圧縮応力下の磁化曲線は分布ピンニングモデル (W)の方がヒステリシス幅が広い結果が得られた.各振幅におけるヒステリシス損の測定結果との比較を図 6.23に示す.無応力下のヒステリシス損は分布ピンニングモデル (M)とほほ同様となったが,応力下の損失は分布ピンニングモデル (W)の方が大きく,測定結果に近い結果が得られた.これは,磁壁移動に対応した形でピンニングの影響を考慮したことによって,複数の磁区の平均磁化からピンニングを与える分布ピンニングモデル (M)よりも応力下のピンニングの影響を適切に考慮できたことによると考えられる.図 6.24に分布ピンニングモデル (W)による応力下・無応力下の磁歪の

解析結果を,図 6.25に無応力下の磁化過程を示す.図 4.14の一定ピンニングモデルによる磁歪と比較して,応力下の磁歪は同様の結果が得られたが無応力下では分布ピンニングモデル (W)の方が磁歪が小さい結果が得られた.これは,図 6.25の磁化過程を見ても分かるように,分布ピンニングモデル (W)では一定ピンニングモデルと比較し 90◦磁壁移動が発生しにくくなっていることによるものである.分布ピンニングモデル (W)ではそれぞれの磁区の体積比が変化する際にエネルギーを必要とするため,外部磁界エネルギーが大きく変化する圧延方向へ近い向きへ磁化が向いた磁区による 180◦磁壁移動が優先的に発生している.

6.10 測定結果に基づいた密度関数

分布ピンニングモデル (W)において測定結果から密度関数を予測する方法について考える.6.4項と同様に考えれば,riが 0.5から 1まで変化した際の pri(ri)から密度関数を予測することができると考えられる.無方向性電磁鋼板は結晶粒ごとに容易軸の向きが異なり,それに伴い結

晶粒ごとの磁化過程も異なる.6.8項で述べたように磁壁移動に対応した

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6.10. 測定結果に基づいた密度関数 91

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

1600

0 0.0005 0.001 0.0015 0.002

f(p)

p

(iv)

図 6.21: 分布ピンニングモデル (W)の解析に用いられた密度関数 (iv)

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-100 -50 0 50 100

µ 0M

(T)

H(A/m)

distributed pinning model M (i)distributed pinning model W (iv)

(a) σ = 0 MPa

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-1000 -500 0 500 1000

µ 0M

(T)

H(A/m)

distributed pinning model M (i)distributed pinning model W (iv)

(b) σ = −40 MPa

図 6.22: 密度関数 (iv)を用いた分布ピンニングモデル (W)による無方向性電磁鋼板の磁化曲線の解析結果

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92 第 6章 ピンニングサイトの分布を考慮した集合磁区モデル

0

1

2

3

4

5

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2

hyst

eres

is lo

ss (

w/k

g)

µ0M(T)

measureddistributed pinning model M (i)

distributed pinning model W (iv)

(a) σ = 0 MPa

0

1

2

3

4

5

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2

hyst

eres

is lo

ss (

w/k

g)

µ0M(T)

measureddistributed pinning model M (i)

distributed pinning model W (iv)

(b) σ = −40 MPa

図 6.23: 無方向性電磁鋼板のヒステリシス損の解析結果

モデルでは容易軸の向きの違いによってピンニングサイトによって発生するヒステリシスループ幅が異なるため無方向性電磁鋼板の磁化過程から密度関数を予測することは難しいと考えられる.そこで,方向性電磁鋼板の磁化曲線から密度関数の予測を行う.図 6.26に方向性電磁鋼板の周波数の異なる交流特性から計算された直

流時の磁化曲線を示す.磁化曲線を見ると,磁束密度 1.5 T以上において磁界が大きく増加しており,磁束密度 1.7 T付近では飽和に近い傾向が見られる.そこで,磁束密度 1.7 T以上では磁化回転によって磁化が進んでおり,磁束密度 1.7 Tにおいて 180◦磁壁移動による磁化が完了していると考え,B = 1.7 Tにおいて ri = 1となると見なし,密度関数を求めることとした.図 6.27(a)に方向性電磁鋼板の正規磁化曲線から得た,riが 0.5から変

化した際の ri − pri曲線を示す.ri = 0.75における priが方向性電磁鋼板

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6.10. 測定結果に基づいた密度関数 93

-3

-2

-1

0

1

2

3

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

Mag

neto

stric

tion(

×10-6

)

µ0M

ε||mε||m

(a) σ = 0 MPa

-15

-10

-5

0

5

10

15

20

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

Mag

neto

stric

tion(

×10-6

)

µ0M

ε||mε||m

(b) σ = −40 MPa

図 6.24: 無方向性電磁鋼板の磁歪の解析結果

(a1) (a2)

(a3)(a4)

図 6.25: 無方向性電磁鋼板の無応力下の磁化過程の解析結果: (a1) µ0M

= 1.6 T,(a2) µ0M = 0 T,(a3) µ0M = −1.5 T,(a4) µ0M = −1.6 T

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94 第 6章 ピンニングサイトの分布を考慮した集合磁区モデル

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40

B(T

)

H(A/m)

図 6.26: 方向性電磁鋼板の直流下の磁化曲線

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

0 0.0005 0.001 0.0015

r i

pri

(a)

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

0 0.0005 0.001 0.0015

r i

pri

(b)

図 6.27: (a) 方向性電磁鋼板の正規磁化曲線から得られた ri − pri 曲線,(b) 密度関数の計算に用いられた ri − pri曲線

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6.10. 測定結果に基づいた密度関数 95

0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 9000

10000

0 0.0001 0.0002 0.0003 0.0004 0.0005 0.0006

f(p)

p

図 6.28: 方向性電磁鋼板の正規磁化曲線より得られた密度関数 (v)

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

-0.0006-0.0004-0.0002 0 0.0002 0.0004 0.0006

r i

pri

図 6.29: 密度関数 (v)より得られた ri − priの関係

の保磁力に対応するため,6.4項と同様にこの値が図 6.26の磁化曲線の保磁力と一致するように図 6.27(b)のような分布関数を作成した.この分布関数から対称性を仮定することによって得られた密度関数 (v)を図 6.28

に,密度関数 (v)より得られた ri − priの関係を図 6.29に示す.この等振幅のループを用いてスカラーストップモデルを同定することで,分布ピンニングモデル (W)による解析が可能となる.

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96 第 6章 ピンニングサイトの分布を考慮した集合磁区モデル

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40

µ 0M

(T)

H(A/m)

図 6.30: 方向性電磁鋼板の解析結果

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40

µ 0M

(T)

H(A/m)

図 6.31: 無方向性電磁鋼板の解析結果

6.11 測定結果に基づいた密度関数を用いた分布ピンニ

ングモデル (W)による解析

高グレード方向性電磁鋼板の正規磁化曲線より得られた密度関数 (v)を用いた分布ピンニングモデル (W)によって,図 3.3,図 3.7の容易軸配置を用い方向性・無方向性電磁鋼板の磁化過程の解析を行った.図 6.30,図6.31にそれぞれの解析によって得られた磁化曲線を示す.結晶磁化容易軸配置の違いによって,圧延方向の 180◦磁壁移動によってのみ磁化が行われている図 6.30の結果と比較し,図 6.31の無方向性を仮定した結果の方が保磁力が 1.21倍大きくなっている.この密度関数を元に,グレードの異なる電磁鋼板のピンニングを与えるこ

とを考える.図 6.32は低グレードの無方向性電磁鋼板である JIS:50A1300

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6.11. 測定結果に基づいた密度関数を用いた分布ピンニングモデル (W)による解析97

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-400 -200 0 200 400

B(T

)

H(A/m)

図 6.32: 低グレード無方向性電磁鋼板 JIS:50A1300の直流下の磁化曲線

0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 9000

10000

0 0.002 0.004 0.006

f(p)

p

(v)(vi)(vii)

図 6.33: 密度関数 (vi),(vii)

の交流時の磁化曲線より推定された直流下の磁化曲線である.図 6.7(a),図 6.32の高グレード,低グレード電磁鋼板のそれぞれの保磁力は 38 A/m,142 A/mである.グレードが異なる際も,ピンニングサイトの強度は異なるが,その分布は似た傾向を持つのではないかと考え,図 6.33のように,方向性電磁鋼板の正規磁化曲線より求めた分布 (v)の密度関数 f(p)

を元に,平均が kp = 3.55,13.2倍となる密度関数 (vi)(vii)を

f ′(p) =1

kpf(

p

kp) (6.40)

のように作成した.それぞれの密度関数を用いて無方向性電磁鋼板の解析を行った.解析に

よって得られた磁化曲線と測定結果の比較を図 6.34(a),(b)に示す.それ

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98 第 6章 ピンニングサイトの分布を考慮した集合磁区モデル

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-150 -100 -50 0 50 100 150

µ 0M

(T)

H(A/m)

measuredsimulated

(a)

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-200 -100 0 100 200

µ 0M

(T)

H(A/m)

measuredsimulated

(b)

図 6.34: 分布ピンニングモデル (W)による無方向性電磁鋼板の磁化曲線の解析結果と測定値の比較: (a)JIS:50A470,(b)JIS:50A1300

ぞれの無方向性電磁鋼板に関する測定結果を用いず,保磁力のみを参考とした密度関数によってそれぞれの振幅ごとの磁化曲線が再現できていることが分かる.保磁力の大きさは結晶粒径などによって決まるため,これらの材料パラメータから保磁力の大きさを推定できるならば,このモデルを用いることで測定を行うことなく振幅ごとの磁化特性を推測できると考えられる.測定,解析によって得られた振幅ごとのヒステリシス損を図 6.35(a),(b)

に示す.高グレードの電磁鋼板に関しては振幅 1.1 Tまでの損失をよく再現できており,低グレード電磁鋼板に関しては高振幅においても測定値に近い損失を得ることができている.高グレードの電磁鋼板において高振幅の鉄損が一致しない原因はピンニングサイト以外の要因によると考えられ,低グレード電磁鋼板ではピンニングサイトの影響が強く他の要因の影

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6.12. 内部応力の分布を考慮したモデル 99

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2

hyst

eres

is lo

ss (

w/k

g)

µ0M(T)

measuredsimulated

(a)

0

1

2

3

4

5

6

7

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2

hyst

eres

is lo

ss (

w/k

g)

µ0M(T)

measuredsimulated

(b)

図 6.35: 分布ピンニングモデル (W)による無方向性電磁鋼板のヒステリシス損の解析結果と測定値の比較: (a)JIS:50A470,(b)JIS:50A1300

響が小さくなったため,高振幅における鉄損を再現できたと考えられる.

6.12 内部応力の分布を考慮したモデル

5章では内部応力を考慮した集合磁区モデルを提案し,方向性・無方向性電磁鋼板の磁化過程の解析を行った.そこで,この内部応力を考慮したモデルに磁壁移動に対応したピンニングを与え,どのような磁化特性が得られるかを検証する.弾性定数などのパラメータは 5.3.2項と同様に定め,図 3.7の結晶配置

を仮定し,無方向性電磁鋼板の磁気特性の解析を行った.密度関数としては図 6.21の (iv)の正規分布を用いた.得られた磁化曲線を図 6.36に,磁歪を図 6.37に示す.ピンニング磁界を用いたモデルによって得られた磁

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100 第 6章 ピンニングサイトの分布を考慮した集合磁区モデル

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-200 -150 -100 -50 0 50 100 150 200

µ 0M

(T)

H(A/m)

図 6.36: 内部応力を考慮し磁壁移動に対応したピンニングを用いた集合磁区モデルによる無方向性電磁鋼板の磁化曲線の解析結果

-4-3-2-1 0 1 2 3 4 5 6

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

Mag

neto

stric

tion(

×10-6

)

µ0M

ε||mε||m

図 6.37: 内部応力を考慮し磁壁移動に対応したピンニングを用いた集合磁区モデルによる無方向性電磁鋼板の磁歪の解析結果

歪 (図 5.3)は磁束密度 0 Tから 0.7 Tにかけて変化していなかったのに対し,分布ピンニングモデル (W)によって得られた磁歪はバタフライループを描いており,測定値 (図 4.9)に近い結果が得られた.図 6.38に磁化過程を示す.応力を考慮した集合磁区モデルによる解析

では,磁束密度 0 Tの際にはセル間の歪みの差を小さくするために 6種類の磁区を持つ磁化状態を取っていた.一方,磁壁移動に対応してピンニングを与えた場合には,磁壁移動を妨げる形でピンニングサイトの影響が考慮されているため,180◦磁壁移動を主として磁化状態が変化しており,磁束密度 0 Tの際には圧延方向に近い方向に磁化を向いた磁区ほど体積比が大きな磁化状態を取っている.このため,図 5.3と比較し磁歪の大きさは小さくなり,より測定結果に近い特性が得られたと考えれらる.

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6.12. 内部応力の分布を考慮したモデル 101

����

����

����

図 6.38: 内部応力を考慮し磁壁移動に対応したピンニングを用いた集合磁区モデルによって得られた無方向性電磁鋼板の無応力下の磁化過程: (a1)

µ0M = 0 T,(a2) µ0M = −0.85 T,(a3) µ0M = −1.7 T

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102 第 6章 ピンニングサイトの分布を考慮した集合磁区モデル

6.13 まとめ

本章ではピンニング強度の密度関数に基づいてピンニングの影響を与える手法を提案し,この手法を集合磁区モデルに導入することで,ピンニングサイトの分布を考慮した電磁鋼板の解析を行った.得られた結果を以下に示す.

• 密度関数に基づいて,磁化mを入力としたスカラーピンニング磁界hpを与え,このピンニング磁界を元に等方性ベクトルストップモデルを同定することで,ベクトルピンニング磁界を与える手法を提案し,このベクトルピンニング磁界を用いた集合磁区モデルを分布ピンニングモデル (M)と名づけた.正規分布を仮定した密度関数を用いた分布ピンニングモデル (M)によって,従来のモデルでは表現が困難だった低振幅下の磁化曲線や初磁化曲線を再現できることを示した.

• 密度関数を初磁化曲線もしくは正規磁化曲線から推測することが可能であることを示し,正規分布を仮定した条件よりもより測定結果に近い特性を得ることができた.

• 密度関数を元に磁壁移動に対応した形でピンニングの影響を与えるモデルを提案し,分布ピンニングモデル (W)と名づけた.分布ピンニングモデル (W)を用いることで,分布ピンニングモデル (M)同様各振幅の磁化曲線を再現できる他,圧縮応力下の鉄損をより精度よく再現できることを示した.

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103

第7章 結論

電磁鋼板を含む鉄心材料の磁気特性は,材料加工時に加わる応力や結晶内部に分布している内部応力,磁性材料内部に分布しているピンニングサイトなどの影響を受けている.そこで本論文では,これらの影響を考慮して電磁鋼板の特性を説明するマルチフィジックスモデルの開発を行った.各章で得られた結論を以下に要約する.第 2章では,誘導機の固定子を用いたベクトル単板磁気試験器を用い

た電磁鋼板のベクトル磁気特性計測の手法について議論した.Bコイル,H コイル幅を従来よりも長くし,磁気シールドと測定試料の間の幅を従来より短くすることによって,従来の手法では難しかった方向性電磁鋼板の磁気特性の計測が可能となった.また,このベクトル磁気試験器に 3軸歪みゲージを用いることで,任意のベクトル励磁下の磁歪の計測が可能となった.第 3章では,従来の 2つの磁区を持つ単純化磁区構造モデルの集合であ

る集合磁区モデルに磁気弾性エネルギーを導入し,応力の影響を考慮して方向性・無方向性電磁鋼板の解析を行った.しかし,応力の有無にかかわらず解析結果はほとんど変化せず,応力による磁気特性の劣化等を再現することはできなかった.これは,応力下における 90◦磁壁移動を十分に表現できておらず,実際の現象とは異なり主に磁化回転によって磁化が進行しているため,結晶磁気異方性エネルギーの影響が強く表れ磁気弾性エネルギーの影響がほとんど表れなかったと考えられる.そこで,4章ではこの問題を解決するための新たなモデルを提案した.第 4章では,従来の集合磁区モデルの 90◦磁壁移動を十分に表現できな

いといった問題を解決するために,6つの磁区を持つ単純化磁区構造モデルおよびその集合である 6磁区の集合磁区モデルを提案した.6つの磁区の磁化ベクトルの向きは 3つの磁化容易軸に平行・反平行な向きに対応している.これにより,90◦,180◦磁壁移動を共に適切に表現することが可能となり,方向性電磁鋼板の圧延・直角方向の磁化曲線および磁歪や無方向性電磁鋼板の圧縮応力による透磁率の低下や鉄損の増加を再現することが可能となった.また,ベクトル励磁下の方向性電磁鋼板の解析を行い,ベクトル単板磁気試験器を用いた測定結果と比較することで,鋼板磁束下や円回転磁束下の方向性電磁鋼板の磁化曲線および磁歪を再現できること

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104 第 7章 結論

を示した.4章までの集合磁区モデルの磁気弾性エネルギーの計算においては,電

磁鋼板の内部の応力は一定であると仮定していた.しかし,実際には結晶磁化容易軸の分布の影響などによって鋼板内部で応力は分布している.そこで,第 5章では,電磁鋼板の内部の応力の分布を考慮した集合磁区モデルを提案し,無方向性・方向性電磁鋼板の磁化曲線の解析を行った.結果,従来の応力を一定としたモデルと比較し,方向性・無方向性電磁鋼板ともに,より測定結果に近い特性を再現することができた.セルごとの磁化過程を観察した結果,内部応力を考慮した集合磁区モデルの解析結果では磁気弾性エネルギーを小さくするためにセル間の磁歪による歪みの差が小さくなるような磁化過程を取っていることが分かった.これまで提案していた集合磁区モデルでは,ピンニングサイトの影響を

磁化の変化の逆向きに発生する一定の大きさのピンニング磁界によって表現していた.しかし,実際にはピンニング磁界は一定ではなく,鋼板内部のピンニングサイトの分布に依存すると考えられる.そこで,第 6章では,ピンニング強度の密度関数に基づいてピンニングの影響を与えることで,電磁鋼板内部のピンニングサイトの分布を考慮した集合磁区モデルを提案した.具体的には,ピンニングの影響をベクトルピンニング磁界によって表現する分布ピンニングモデル (M)と,ピンニングの影響を磁壁移動に対応して与えた分布ピンニングモデル (W)の 2つを提案した.それぞれの手法において,ピンニング強度の密度関数は測定結果の初磁化曲線・正規磁化曲線を用いる他,正規分布を仮定することが可能であると示した.これらのモデルにより,従来の一定のピンニングサイトを用いた手法では表現することが困難であった,振幅毎のヒステリシスループの幅の違いなどを再現することが可能となった.また,分布ピンニングモデル (W)は無方向性電磁鋼板の応力下の鉄損をより精度よく再現できることを示した.以上,本研究では応力やピンニングサイトの分布の影響を考慮して電磁

鋼板の磁化過程を再現するマルチフィジックスモデルの開発を行った.その結果,従来は表現することの難しかった方向性・無方向性電磁鋼板の磁化曲線や磁歪などの多くの特性を表現することが可能となった.今後も各スケールにかけての磁区構造や応力,歪みの変化の表現方法,またそれらに依存したエネルギーの計算方法について議論を進め,中間スケールからマクロスケールにかけての物理モデルを確立すること,さらにそれを材料開発・電気機器設計の分野に応用していくことが望まれる.

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105

第8章 謝辞

本研究を行う機会を与えて下さり,また直接ご指導下さった京都大学工学研究科電気工学専攻松尾哲司教授に厚く御礼申し上げます.本論文に関して適確なご助言を下さった,同志社大学電磁エネルギー応用研究センター開道力先生に深謝致します.電磁鋼板に関する測定データを提供頂き,本論文に関する貴重なご助言を頂きました,同志社大学理工学部電気工学科藤原耕二教授と高橋康人准教授に深く感謝の意を表します.本研究に関して有益なご助言を下さった日立製作所宮田健治氏と李燦氏に深く感謝致します.本論文に関して適確なご助言を下さった京都大学工学研究科電気工学専攻引原隆士教授に心より感謝致します.本論文に関して貴重なご助言を下さった京都大学工学研究科電気工学専攻中村武恒准教授に厚く感謝致します.しばしば有益なご助言と励ましを下さった,京都大学工学研究科電気工学専攻美舩健講師に深く感謝致します.最後に,本論文の作成のみならず日々の研究や学生生活において多くの協力を頂きました松尾研究室の皆様に深く感謝致します.

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107

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111

本論文に関する著者の論文・学会における発表

[36] 伊藤 俊平,美舩 健,松尾 哲司,開道 力,「6磁区モデルの集合による電磁鋼板の磁化過程表現に関する検討」,電気学会マグネティックス研究会資料,MAG-14-105 (2014).

[37] 伊藤 俊平,美舩 健,松尾 哲司,開道 力,「ベクトル励磁下における方向性電磁鋼板の磁化及び磁歪モデリングに関する検討」,電気学会マグネティックス研究会資料,MAG-15-066 (2015).

[38] 伊藤俊平,美舩健,松尾哲司,開道力,高橋康人,藤原耕二,「内部応力の分布を考慮した電磁鋼板の磁化過程表現に関する検討」,電気学会静止器回転機合同研究会資料,SA-16-003,RM-16-003 (2016).

[39] 伊藤 俊平,美舩 健,松尾 哲司,開道 力,高橋 康人,藤原 耕二,「磁区構造モデルにおけるベクトルストップモデルを用いた分布ピンニング磁界表現に関する検討」,電気学会マグネティックス研究会資料,MAG-16-083 (2016).

[40] 伊藤 俊平,美舩 健,松尾 哲司,開道 力,高橋 康人,藤原 耕二,「ピンニングサイトの分布を考慮した集合磁区モデルによる磁化過程解析」,電気学会基礎・材料・共通部門大会講演論文集,6-B-p1-1 (2016).

[41] S. Ito, T. Mifune, T. Matsuo, and C. Kaido, “Macroscopic magne-

tization modeling of silicon steel sheets using an assembly of six-

domain particles,” J. Appl. Phys., vol. 117, no. 17, 17D126 (2015).

[42] S. Ito, T. Mifune, T. Matsuo, and C. Kaido, “Energy-based mag-

netization and magnetostriction modeling of grain-oriented silicon

steel under vectorial excitations,” IEEE Trans. Magn., vol. 52, no.

5, pp. 1 - 4 (2016).

[43] S. Ito, T. Mifune, T. Matsuo, K. Fujiwara, and C. Kaido, “Stress

dependent multiscale representation of magnetization of grain-

oriented silicon steel using assembled domain structure model,”

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112 本論文に関する著者の論文・学会における発表

13th Joint MMM/Intermag Conference, HD-02, San Diego, USA

(2016).

[44] S. Ito, T. Mifune, T. Matsuo, C. Kaido, Y. Takahashi, and K.

Fujiwara, “Magnetomechanically coupled domain model of silicon

steel sheet,” Advances in Magnetics Conference 2016, 124, Bormio,

Italy (2016).

[45] S. Ito, T. Mifune, T. Matsuo, C. Kaido, Y. Takahashi, and K. Fu-

jiwara, “Magnetomechanically coupled domain model of electrical

steel sheet for electric machine core,” submitted to IEEJ Transac-

tions on Power and Energy.

[46] S. Ito, T. Mifune, T. Matsuo, C. Kaido, Y. Takahashi, and K.

Fujiwara, “Domain structure model including pinning effect based

on the statistical density function,” submitted to IEEJ Transactions

on Fundamentals and Materials.

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113

著者による他の論文・学会における発表

[47] 伊藤 俊平,美舩 健,松尾 哲司,鈴木 理明,河野 健二,「プレイモデルと等価回路表現を用いたフェライトコアインダクタの有限要素解析に関する検討」,電気学会静止器回転機合同研究会資料,SA-14-004,RM-14-004,(2014).

[48] S. Ito, T. Mifune, T. Matsuo, K. Watanabe, H. Igarashi, K. Kawano,

Y. Iijima, M. Suzuki, Y. Uehara, and A. Furuya, “Equivalent circuit

modeling of DC and AC ferrite magnetic properties using H-input

and B-input play models,” IEEE Trans. Magn., vol. 49, no. 5, pp.

1985 - 1988 (2013).

[49] S. Ito, T. Mifune, T. Matsuo, M. Suzuki, and K. Kawano, “Fi-

nite element analysis of a ferrite-core inductor with direct current

bias current using an equivalent-circuit model of dynamic hysteretic

properties,” J. Appl. Phys., 17A330 (2014).

[50] T. Matsuo, T. Nakamura, S. Ito, T. Mifune, and C. Kaido, “Effi-

cient methods for macroscopic magnetization simulation described

by the assembly of simplified domain structure models,” Advanced

Electromagnetics, vol. 4, no. 1, pp. 16 - 21 (2015).

[51] T. Nakamura, S. Ito, T. Mifune, T. Matsuo, and C. Kaido, “Repre-

sentation of macroscopic magnetization based on bifurcation prop-

erty of domain structure,” J. Appl. Phys., vol. 117, no. 17, 17E516

(2015).

[52] S. Tejima, S. Ito, T. Mifune, T. Matsuo, and T. Nakai, “Magne-

tization analysis of stepped giant magneto impedance sensor using

assembled domain structure model,” Int. J. Appl. Electrom., vol.

52, no. 1 - 2, pp. 541 - 546 (2016).

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114 著者による他の論文・学会における発表

[53] S. Tejima, S. Ito, T. Mifune, T. Matsuo, and T. Nakai, “Partially-

implicit method for fast magnetization analysis using assembled

domain structure model,” IEEE Trans. Magn, in press.

[54] M. Sakashita, K. Nishi, S. Ito, T. Mifune, and T. Matsuo, “Post-

correction of current/voltage and electromagnetic force for efficient

hysteretic magnetic field analysis,” IEEE Trans. Magn, in press.


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