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Title 魚類によるクラゲ摂餌の生理生態学的研究( Dissertation...

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Title 魚類によるクラゲ摂餌の生理生態学的研究( Dissertation_全文 ) Author(s) 多賀(宮島), 悠子 Citation 京都大学 Issue Date 2014-03-24 URL https://doi.org/10.14989/doctor.k18325 Kyoto University
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Page 1: Title 魚類によるクラゲ摂餌の生理生態学的研究( Dissertation ......7.以下を一部改稿:Miyajima-Taga Y, Masuda R, Yamashita Y, Feeding efficiency of black scraper

Title 魚類によるクラゲ摂餌の生理生態学的研究(Dissertation_全文 )

Author(s) 多賀(宮島), 悠子

Citation 京都大学

Issue Date 2014-03-24

URL https://doi.org/10.14989/doctor.k18325

Kyoto University

Page 2: Title 魚類によるクラゲ摂餌の生理生態学的研究( Dissertation ......7.以下を一部改稿:Miyajima-Taga Y, Masuda R, Yamashita Y, Feeding efficiency of black scraper

Right

学位規則第9条第2項により要約公開; 許諾条件により本文は2019-08-26に公開; 1.以下を一部改稿:Miyajima Y,Masuda R, Kurihara A, Kamata R, Yamashita Y, Takeuchi T,Juveniles of threadsail filefish, Stephanolepis cirrhifer, cansurvive and grow by feeding on moon jellyfish Aurelia aurita,Fisheries science, 77(1), 41-48, 2011. DOI: 10.1007/s12562-010-0305-8 2.以下を一部改稿: Miyajima Y, Masuda R,Yamashita Y, Feeding preference of threadsail filefishStephanolepis cirrhifer on moon jellyfish and lobworm in thelaboratory, Plankton and Benthos Research, 6(1),12-17, 2011.DOI: 10.3800/pbr.6.12 3.以下を一部改稿:宮島(多賀)悠子, 益田玲爾, 栗原紋子, 山下洋, 竹内俊郎, ミズクラゲ給餌によるマダイ人工孵化稚魚の横臥傾向の改善, 日本水産学会誌, 80 (6), 934-945, 2014. DOI: 10.2331/suisan.80.934 4.以下を一部改稿:宮島(多賀)悠子, 益田玲爾, 栗原紋子, 山下洋, 竹内俊郎, カワハギに対する補助餌料としてのエチゼンクラゲ給餌効果, 日本水産学会誌, 81 (4), 701-714,2015. DOI: 10.2331/suisan.81.701 5.以下を一部改稿:Miyajima-Taga Y, Masuda R, Morimitsu R, Ishii H,Nakajima K, Yamashita Y, Ontogenetic changes in thepredator‒prey interactions between threadsail filefish and moonjellyfish, Hydrobiologia, 772, 175-187, 2016. DOI:10.1007/s10750-016-2658-1 6.以下を一部改稿:Miyajima-Taga Y, Masuda R, Yamashita Y, Larvae of the threadsailfilefish Stephanolepis cirrhifer feed on eggs and planulae of thejellyfish Aurelia sp. under laboratory conditions, Plankton andBenthos Research, 11(3), 96-99, 2016. DOI: 10.3800/pbr.11.967.以下を一部改稿:Miyajima-Taga Y, Masuda R, YamashitaY, Feeding efficiency of black scraper Thamnaconus modestuson giant jellyfish Nemopilema nomurai evaluated through fieldobservations and tank experiments, Environmental biology offishes, 100(10), 1237-1249, 2017. DOI: 10.1007/s10641-017-0639-5 8.以下を一部改稿:Miyajima-Taga Y, Masuda R,Kurihara A, Komi R, Yamashita Y, Takeuchi T, Efficacy offeeding tiger puffer Takifugu rubripes on moon jellyfish withrespect to nutritional composition and behavioural traits,Aquaculture Nutrition, 24(1), 504-514, 2018 (This is the peerreviewed version of the above article, which has beenpublished in final form at DOI: 10.1111/anu.12583. This articlemay be used for non-commercial purposes in accordance withWiley Terms and Conditions for Self-Archiving.)

Type Thesis or Dissertation

Textversion ETD

Kyoto University

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博士学位論文

魚類によるクラゲ摂餌の生理生態学的研究

The ecophysiology of fish feeding on jellyfish

京都大学大学院 農学研究科 応用生物科学専攻

フィールド科学教育研究センター

舞鶴水産実験所

里海生態保全学分野

多賀(宮島) 悠子

Yuko Miyajima Taga

2014

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目次

第 1章 緒言…………………………………………………………………………………….1

第 2章 クラゲ類の給餌が魚類の成長、体成分と行動に与える影響……………………...7

2-1. カワハギの餌としてのミズクラゲの有効性…………………………………………..9

2-2. カワハギの餌としてのエチゼンクラゲの有効性……………………………………23

2-3. ミズクラゲ給餌によるトラフグの体成分と行動の改善……………………………41

2-4. ミズクラゲ給餌によるマダイの体成分と行動の改善………………………………62

第 3章 カワハギ科魚類によるクラゲ類への捕食圧と摂餌選択性……………………...81

3-1. ウマヅラハギのエチゼンクラゲに対する捕食圧……………………………………82

3-2. ミズクラゲとイシイソゴカイに対するカワハギの摂餌選択性……………………95

第 4章 魚類とクラゲの捕食-被食関係の個体発生…………………………………….107

4-1. カワハギ、ウマヅラハギおよびマダイ仔稚魚におけるミズクラゲメデューサ回避

能力の個体発生………………………………………………………………………..109

4-2. カワハギにおけるミズクラゲ摂餌行動の個体発生………………………………..127

第 5章 総合考察

5-1. 魚類養殖用餌料としてのクラゲ類の有用性………………………………………..139

5-2. 魚類のトップダウンコントロールによるクラゲ類大量発生の防御……………..144

要約……………………………………………………………………………………………149

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謝辞……………………………………………………………………………………………153

引用文献………………………………………………………………………………………155

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第 1章 緒言

クラゲ類とは、刺胞動物の中で浮遊生活を送る肉食性ゼラチン質動物プランクトンで

あり、広義では有櫛動物門に属する動物群を含む(安田 2003; Arai 2005)。クラゲ類は

主に、付着生活期であるポリプ期とストロビラ期、および浮遊生活期であるエフィラ期、

メテフィラ期、メデューサ期とプラヌラ幼生期をその生活史に持ち(上 2010; Ikeda et al.

2011)、クラゲ類のポリプ(無性世代)は出芽とポドシストと呼ばれる休眠芽によって

無性的に増殖するとともに、ストロビレーションを起こしてストロビラへと変態し、ス

トロビラの先端から無性生殖によりエフィラ(有性世代)を放出する。浮遊生活期であ

るエフィラは、メテフィラを経てメデューサへと成長する。そして、メデューサは有性

生殖を行い、受精卵はプラヌラ幼生となり、基質に付着してポリプに変態するという生

活サイクルを持つ。有性世代の寿命は 1年ほどであるが、ポリプの寿命は半永久的であ

り、ミズクラゲ Aurelia sp.はポリプの生物量の増加によって(Han and Uye 2010)、エチ

ゼンクラゲ Nemopilema nomurai は蓄積したポドシストが一斉にポリプになることよっ

て(Kawahara et al. 2006)、メデューサの大量発生をもたらす。このように、クラゲ類は

魚類に比べて高い成長率を示すとともに盛んに無性生殖を行うため、生物量を急激に増

加させることができる。

近年、クラゲ類の大量発生が汎世界的に相次いでおり(Graham 2001; Arai 2005; Pauly

and Graham 2009; Condon et al. 2013)、本邦では、瀬戸内海でミズクラゲが 1990 年代以

降に(上・上田 2004)、東アジア縁海域でエチゼンクラゲが 21 世紀に入り顕著に増加

していることが報告されている(Kawahara et al. 2006; Uye 2008)。これらは地球温暖化、

海洋の富栄養化や貧酸素化、人工護岸の増加、魚類の乱獲といった人間活動由来の海洋

環境と生態系の変化によって生じたと考えられている(Arai 2001; Purcell et al. 2007;

Pauly and Graham 2009)。ポリプの増殖速度は水温上昇に伴って急激に増大するため、

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地球温暖化によって大量のメデューサが発生することとなる(上 2010)。また、海洋の

富栄養化は大型の珪藻類から小型の渦鞭毛藻への遷移をもたらすため、後者を餌とする

小型の動物プランクトンが優占する。その結果、視覚捕食者である魚類よりも、餌料サ

イズ依存性の低い接触捕食者のクラゲ類のほうが小型の餌生物の摂餌に有利であり、そ

の結果クラゲ類が増加する(石井 2005; 永井 2005)。ミズクラゲは低酸素に対する耐

性が高いことが知られており(Breitburg et al. 1999; Keister et al. 2000; Shoji et al. 2005;

Thuesen et al. 2005)、これにより貧酸素水塊の存在は他の生物に比べてクラゲ類に有利

である。クラゲ類のポリプは固い基質に付着する性質があり、基質資源を巡って他の付

着生物と競合するが、人工護岸に代表される海洋構造物やプラスチックゴミなどの人工

物はポリプの新たな基質資源となり得るため、クラゲ類の増加に寄与する(上 2010)。

一方、魚類の乱獲は魚類資源量を減少させるだけでなく食物網構造を変化させるため、

クラゲ類の生物量にも影響を与えることが示唆されている(Purcell and Arai 2001)。

Greve and Parsons(1977)は、海洋の食物網はその最上位が魚類である経路とクラゲ

類である経路に二分されるとしており、前者の経路から後者の経路にシフトすることが

懸念されている(Sommer et al. 2002)。すなわち、珪藻などの大型の植物プランクトン

からカイアシ類などの大型の動物プランクトンに至る生食食物連鎖を経て、動物プラン

クトン食性魚と魚食性魚が最上位の捕食者として優占する生産性の高い食物網から、細

菌を出発点として微小植物プランクトンや微小動物プランクトンに至る微生物食物連

鎖を経て、被嚢類やカイアシ類などの中・大型動物プランクトンを経由し、動物プラン

クトン食であるクラゲ類が優占する生産性の低い食物網へ移行する可能性が指摘され

ている(Purcell and Arai 2001; 上 2010)。

しかしながら、クラゲ類は魚類をはじめとする様々な生物の餌料として利用されるた

め、必ずしも食物網の最上位となるわけではなく(Arai 1988; Mills 1995)、実際にはク

ラゲ類と魚類とが複雑に関係した食物網を形成していると考えられる(Longhurst 1985;

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reviewed by Purcell and Arai 2001)。クラゲ類はさらに、魚類と複雑な相互関係(捕食者、

競合者、寄生宿主と餌料)を持つことが明らかになっている。クラゲ類は魚類の卵や仔

稚魚の重要な捕食者であるため、クラゲ類の大量発生は魚類の加入量を減少させること

で魚類資源量に重大な影響を与えることが指摘されており(Brodeur et al. 2002; Purcell

2003; Purcell et al. 2007; Pauly et al. 2009)、実際にミズクラゲ Aurelia auritaがタイセイヨ

ウニシン Clupea harengus の浮遊期仔魚に与える捕食圧によって、タイセイヨウニシン

の資源量が左右されることが報告されている(Möller 1984)。また、クラゲ類は動物プ

ランクトン食性の稚魚や成魚と競合関係にあることから(Purcell and Arai 2001)、クラ

ゲ類の増加は魚類の資源量に負の影響を与えると考えられる(van der Veer 1985; Arai

1988; Bailey and Houde 1989; Shiganova 1998; Sommer et al. 2002)。実際、クシクラゲの一

種 Mnemiopsis leidyi は 1988 年から黒海で大量発生をはじめ、それに伴ってメソ動物プ

ランクトンと魚類の資源量が減少したことが報告されており(Shushkina and Vinogradov

1991)、これは魚類がM. leidyi との競争に負けた結果であるとされている(Vinogradov et

al. 1996)。

一方で、魚類はクラゲ類に片利共生することが知られる(reviewed in Mansueti 1963)。

マアジ Trachurus japonicus 稚魚はしばしばクラゲ類のメデューサに寄り付くが、これは

マアジが捕食者から身を守るためシェルターとしてメデューサを利用するとともに、メ

デューサの集めた餌生物を横取りする行動であることが分かっている(Masuda et al.

2008)。また、クラゲ類を摂餌する魚類は多数存在することが知られる(Arai 2005)。カ

ワハギ Stephanolepis cirrhiferやウマヅラハギ Thamnaconus modestusを含むカワハギ科の

多くの魚種に加え(Masuda et al. 2008)、イボダイ科、マナガツオ科、カサゴ科、サバ科

など 124種の魚類がクラゲ類を摂餌することが報告されており、マンボウ類 Mola sp.な

ど 11種類ではクラゲ食に特化している(Purcell 1985; Arai 1988; Pauly et al. 2009)。

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また、魚類以外では爬虫類、鳥類、甲殻類と軟体類がクラゲ類を摂餌することが知ら

れる。ウミウシ類はポリプを盛んに摂餌することが(Hernroth and Gröndahl 1985a; 平野・

平野 2004; Hoober 2012)、オサガメ Dermochelys coriacea をはじめとするウミガメ類

(Holland 1990)やマユグロアホウドリ Thalassarche melanophrys などの海鳥(Suazo 2008)

はメデューサを摂餌することが報告されている。また、セミエビ科やイセエビ科のフィ

ロゾーマ幼生はエフィラやメデューサを摂餌することが示唆されている(Sims and

Brown 1968; Suzuki et al. 2006; Pauly et al. 2009; Wakabayashi et al. 2012)。しかしながら、

これらクラゲ摂餌生物に比べて魚類は大きな生物量を持つため、魚類の捕食圧がクラゲ

類の生物量により大きな影響を与えると推測される。また、クラゲ摂餌魚の多様性を考

慮すると、クラゲ類の専食性魚類よりも広食性魚類による捕食圧がより重要であると考

えられる(Purcell and Arai 2001)。

このように、魚類をはじめとする多くのクラゲ摂餌生物の存在が報告されているにも

かかわらず、クラゲ摂餌生物の生物量やクラゲに対する捕食圧に関する情報はほとんど

なく、クラゲ類は食物網のデッドエンドと認識されることが多い(Verity and Smetacek

1996)。Pauly et al.(2009)は、クラゲ類の餌料となる動物プランクトンの生産量の増加

によってクラゲ類の生物量は増加するが、クラゲ類の捕食者であるウミガメ類の死亡率

や浮魚の漁獲圧が増加してもクラゲ類の生物量は増加しないことを生態系モデルによ

って示し、クラゲ類の生物量はトップダウンコントロールよりもボトムアップコントロ

ールの影響を強く受けると推察している。しかしながら、クラゲ摂餌生物の捕食圧に関

する情報がほとんどないことから(Purcell and Arai 2001; Arai 2005)、クラゲ摂餌生物の

クラゲ類に対する捕食圧は過小評価されている可能性が高く、トップダウンコントロー

ルの可能性を否定できないとも Paulyらは考察している。また、瀬戸内海ではクラゲ類

の発生量とクラゲ摂餌魚であるイボダイ Psenopsis anomala の漁獲量の間に正の相関が

あることが明らかになっており、クラゲ類から魚類へのボトムアップコントロールの可

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能性が伺える(上・上田 2004)。このように、魚類とクラゲ類の相互関係は魚類にとっ

て不利益な可能性と有益な可能性を秘めていると考えられる。

近年の汎世界的なクラゲ類の大量発生は、漁業や沿岸工業に甚大な影響を及ぼしてい

る(Arai 2005)。本邦においても、対馬海流に運ばれて来遊するエチゼンクラゲや内湾

域で大発生するミズクラゲが大きな問題となっている。クラゲ類の大量発生は漁獲物の

損傷や鮮度低下、漁網の破損といった漁業被害や(林 1998; 飯泉 2005)、さらには冷

却水の取水口にクラゲ類が大量に流入することによる沿岸の工業施設への損害(川辺

2005)を招き、その被害は後を絶たない(安田 1988, 2003)。一方で、大型のクラゲ類

は古くから東南アジアなどで加工されて食用として利用されており、本邦ではエチゼン

クラゲの近縁種であるビゼンクラゲ Rhopilema esculenta などが食用とされてきた。しか

し、漁業や工業への被害を引き起こすことが多いエチゼンクラゲやミズクラゲはこれま

であまり食用にされず、沿岸漁業で混獲されたこれらの大部分は海洋に投棄されている。

近年ではクラゲ類を廃棄処理するのではなく、付加価値を創出する有効利用法の開発が

進んでいる。例えば、吸水性と栄養価に着目した土壌改良剤や農業肥料としての利用や

(Fukushi et al. 2004; 河野ら 2012)、クラゲ類の自己溶解液を用いた赤潮藻類殺藻剤(内

田ら 2011)、さらには塩クラゲ(岡崎 2005)や調味料(小谷ら 2007)といった食品の

開発などがこれにあたる。また、コラーゲン(大河原ら 2004; 内田ら 2005)やムチン

(Masuda et al. 2007; 丑田 2010)といったクラゲ類からの有価物の抽出も試みられてい

る。しかしながら、これらのクラゲ類の利用には脱塩などの前処理が必要であることが

多く、コストがかかるために実用化されているものは必ずしも多くはない。そのため、

これらの有効利用策は、混獲されたクラゲ類の処理や大量発生したクラゲ類の駆除とい

う観点からは、十分な推進力を持ち得ていない。

近年、多くの研究者が、魚類からのトップダウンコントロールによりクラゲ類の大量

発生を防御し得る可能性について言及している(reviewed by Arai 2005)。クラゲ類の大

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量発生が沿岸漁業や工業へもたらす被害を考慮しても、魚類の餌料という観点からクラ

ゲ類と魚類の相互関係についての理解を深めることは、クラゲ類の優占しつつある現代

の海洋生態構造の実態を解明し、魚類によるクラゲ類のトップダウンコントロールの可

能性を明らかにする上で必須である。しかしながら、魚類のクラゲ摂餌に関する生態学

的・栄養学的な研究はこれまでほとんどなされておらず、その実態は不明な点が多い。

そこで、本研究では、魚類の餌料としてのクラゲ類の重要性について、カワハギ科魚

類を主たる対象とした給餌実験、行動実験や生態調査を通して、生理生態学的に評価し

た。本章に続く第 2章では、魚類餌料としてのクラゲ類の有効性を栄養学的な観点から

調べることで、低栄養といわれるクラゲ類の魚類餌料としての役割について検討した。

また、魚類はクラゲ類をそのままの状態で餌料として利用することから、大量発生した

クラゲ類の新たな有効利用策として、魚類の養殖用餌料としての活用ができれば、煩雑

な前処理が不要となるために、他の利用法よりも容易に普及できる可能性がある。この

ことから、第 2章では、魚類の養殖用餌料としてのクラゲ類の潜在性についても考察し

た。第 3章では、天然での魚類のクラゲ類に対する捕食圧を算出するとともに、クラゲ

類と他の餌生物に対する魚類の摂餌選択性や摂餌効率を比べることで、魚類の餌料とし

てのクラゲ類の生態学的価値について検討し、天然環境下での魚類によるクラゲ類の利

用実態について考察した。第 4章では、クラゲ摂餌魚類とクラゲ類の捕食-被食関係の

個体発生を調べることで、これら魚類のクラゲ摂餌への適応の可能性や魚類の生活史に

おけるクラゲ類の役割の変化について理解を深めた。第 5章では、魚類餌料としてのク

ラゲ類の有用性と、魚類のトップダウンコントロールによるクラゲ類大量発生の防御の

可能性について、総合的に考察した。

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第2章 クラゲ類の給餌が魚類の成長、体成分と行動に与える影響

クラゲ類は水分を多量に含み、ミズクラゲでは体成分の 95 %以上が水である。しか

しながら、灰分を除く固形成分の大部分はタンパク質(2.1-28.6 %)、脂質(3.5-11.5 %)、

および炭水化物(0.1-1.1 %)が占める(Lucas 1994)。また、ミズクラゲは高度不飽和脂

肪酸(highly unsaturated fatty acid:HUFA、全脂肪酸の 24.1-24.3 %)を多く含み(Fukuda

and Naganuma 2001)、そのうち魚類の必須脂肪酸である n-3HUFAのドコサヘキサエン

酸(DHA)は全脂肪酸の 3-7 %、エイコサペンタエン酸(EPA)は 10-16 %、そして n-6HUFA

のアラキドン酸(ARA)は 2-9 %含有することから、魚類の餌料としてクラゲ類が貢献

する可能性がある。実際、Runge et al.(1987)は、タイセイヨウマサバ Scomber scombrus

にヒドロクラゲの一種 Aglantha digitale を給餌し、A. digitale の炭素と窒素含量は小型カ

イアシ類(Pseudocalanus sp.など)10個体分に相当すると報告している。しかしながら、

魚類の餌料としてのクラゲ類の栄養学的な評価はこれまでほとんどなされていない。

本邦では多くの魚種で高い養殖技術が確立されており、産業として成立している一方

で、ブリSeriola quinqueradiata、マアジTracuhrus japonicus、ヒラメParalichthys olivaceus、

マダイ Pagrus major やギンザケ Oncorhynchus kisutch などの養殖魚の多くは、天然魚と

比べて脂質過多の状態に陥りやすく(Wood et al. 1957; 志水ら 1973; 佐伯・熊谷 1984;

國崎ら 1986; 森下ら 1988; 畑江ら 1989; 青木ら 1991)、高カロリーな餌を与えること

による健康状態の悪化が懸念されている。また、Wood et al.(1957, 1960)は、ギンザケ

稚魚の天然個体と養殖個体の体成分を比較したところ、養殖個体は天然個体に比して脂

質含量が有意に多く、タンパク質含量が少ないことを示し、体成分の相違が栽培漁業に

おける放流後の生残率に影響を与える可能性を指摘している。一方で、Shikata and

Shimeno(1994)は、DHAや EPAを主とする n-3HUFAがコイ Cyprinus carpioの肝膵臓

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や血清中での脂質生成を抑制することを報告しており、n-3HUFA を高率に含むクラゲ

類の給餌が人工種苗の脂質蓄積を抑制する可能性が考えられる。

魚類の必須脂肪酸でありミズクラゲに多く含まれる ARAや EPAは、魚類のコルチゾ

ル分泌を調節するセカンドメッセンジャーとして働くことが知られ、コルチゾル生成に

深く関わっている。実際、餌料の ARA 添加はヨーロッパヘダイ Sparus auratus のコル

チゾル感受性を下げ(van Anholt et al. 2004)、ストレス反応を軽減することが分かって

いる(Koven et al. 2001)。一方、ラット Rattus norvegicus ではコルチゾル分泌に関わる

副腎皮質刺激ホルモンの血中濃度が、脅しに対する回避行動と関係していることが明ら

かになっている(Leshner 1982)。魚類の人工種苗は天然個体に比べて、外敵に対する恐

怖や驚愕を示す行動が弱いために、放流直後の被食率が高いことが指摘されており、人

工種苗のストレス感受性と行動との関係が注目される。

本章では、クラゲ類の給餌が魚類の生残と成長、体成分、および行動に与える影響に

ついて検討した。魚類の餌料としてのクラゲ類の栄養学的な評価を行うことは、魚類の

餌生物としてのクラゲ類の潜在的価値を明らかにするだけでなく、大量発生したクラゲ

類の有効利用策の提案にもつながる。本章第 1節と第 2 節では、ミズクラゲとエチゼン

クラゲの給餌が、代表的なクラゲ摂餌魚の一つであるカワハギの生残と成長、および体

成分に与える影響についてそれぞれ検討し、両種のクラゲの給餌がカワハギに与える影

響を比較した。第 3節では、本邦において最も商業的価値の高い養殖・栽培漁業の対象

種の一つであるトラフグ Takifugu rubripes へのミズクラゲの給餌が、魚体成分と行動特

性へ与える影響について検討した。トラフグはカワハギと同じフグ目に属するが、天然

環境と飼育環境のどちらにおいても、クラゲ類を摂餌したという報告はない。トラフグ

は肝臓に脂質を蓄積しやすいため(Ando et al. 1993; Takii et al. 1995)、養殖環境下では

脂質含量の多い餌料の給餌によって肝機能障害を発症することがある。このように、ト

ラフグは飼育時における脂質の過剰蓄積が懸念されるため、ミズクラゲに含まれる

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n-3HUFA が脂質蓄積へ与える影響に注目して実験を行った。第 4 節では、トラフグと

同じく本邦の水産重要種であるマダイにミズクラゲを給餌した。カワハギほど頻繁では

ないものの、マダイのクラゲ摂餌は天然環境下でしばしば観察される(益田 玲爾、未

発表)。マダイ幼稚魚は対ストレス反応として横臥行動を示すことが知られており、横

臥傾向の強い個体ほど捕食されにくいことが分かっている(内田ら 1993)。本節では、

ARAや EPAが多く含まれるミズクラゲの給餌が横臥行動に与える影響に注目し、実験

を行った。本章ではすべてクラゲ類のメデューサ(以下クラゲ)を実験に用いた。

2-1. カワハギの餌としてのミズクラゲの有効性

本邦沿岸で大量発生をしばしば引き起こすクラゲ類の一つとして、ミズクラゲが挙げ

られる。上・上田(2004)は瀬戸内海における 1982-2002 年のミズクラゲ現存量、海洋

環境と漁獲量の経年変動を調査した結果、1992-2002 年のミズクラゲ現存量の増加が顕

著であり、それに伴って漁業被害が急増したことを報告している。定置網や底曳網に入

網したミズクラゲは、網の破損や漁獲物の損傷・鮮度低下を招き、混獲されたミズクラ

ゲの大部分は海洋へ投棄されている。前述したように、ミズクラゲは体成分の 95 %以

上が水分であり、有機物であるタンパク質、脂質、および炭水化物含量は少ないものの

(Lucas 1994)、全脂肪酸に占める n-3HUFA(DHA、EPA など)や n-6HUFA(ARA な

ど)含有率は高い(Fukuda and Naganuma 2001)。

代表的なクラゲ摂餌魚であるカワハギは、フグ目カワハギ科に属する漁獲対象種であ

り、北海道から中国西部にかけての西部太平洋に分布する( Fish Base:

http://www.fishbase. org/Summary/speciesSummary.php?ID=531&AT=Threadsail+filefish)。

カワハギの食味は、同じフグ目であり本邦における最高級魚の一つであるトラフグに似

ており、食用魚として好まれている。また、トラフグと異なり、カワハギは肝臓にテト

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ロドトキシンを含まないために肝臓も食用となり、肝和えなどの調理に適した活魚は特

に商品価値が高まっている。近年の主要魚類の魚価低迷により、水産養殖業における対

象魚種の多様性が求められているなかで、カワハギは西日本を中心に養殖対象魚種とし

て注目されている(成田ら 2011)。カワハギ養殖には、他魚種と比較して(1)重量当

たりの単価が高い、(2)成長が早く、商業サイズに成長するのに 1年しか要さない、(3)

小割式養殖生簀の網に付着した藻類や小動物を摂餌するため、他魚種との混合養殖に向

く、といった利点が挙げられる。カワハギの養殖用種苗は、従来は天然で採捕されたも

のが主に用いられてきたが、種苗の供給が不安定であることから種苗生産技術の開発が

進められており、長崎県(中田ら 2010)、大分県(景平ら 2010)、熊本県(木村ら 1996)

などで、親魚からの採卵技術が開発されている(成田ら 2011)。

本節では、カワハギ稚魚を 4 つの異なる給餌区で、すなわち飢餓区(Starved:S、対

照区)、ミズクラゲのみを給餌するクラゲ区(Jellyfish:J)、オキアミのみを給餌するオ

キアミ区(Krill:K)、およびミズクラゲとオキアミの両方を給餌する混合区(Jellyfish and

Krill:JK)で飼育した。また、各区のカワハギの脂質と脂肪酸組成を調べた。

【材料と方法】

給餌実験

人工孵化のカワハギ稚魚[給餌実験開始時で 65-67 日齢(days post hatching:dph)、

日清マリンテック株式会社、愛知]計 160個体を実験に用いた。供試魚は、京都大学舞

鶴水産実験所に移送後、すみやかに直射日光の当たらない屋外に設置した 200 Lのポリ

エチレン製黒色円形実験水槽 8 面に 20 個体ずつ収容した。移送後 2 日間は自然水温で

供試魚を馴致し、1日 2回オキアミを飽食量に達するまで給餌した。飼育水は濾過海水

を換水して用いた。

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馴致後、2-フェノキシエタノールで麻酔し、供試魚の実験開始時の標準体長(Standard

length:SL)と魚体湿重量(Wet body weight:BW)を計測した。実験開始時の SL と

BW はそれぞれ 35.6 ± 2.7 mm と 1.41 ± 0.34 g[平均 ± standard deviation(SD)]であり、

実験区間に有意差はなかった[one-way analysis of variance(ANOVA)]。サイズ計測後、

3 色のイラストマー蛍光標識(Northwest Marine Technology, Inc.、USA)を組み合わせて

注射することで供試魚を個体識別した。注射後、供試魚はそれぞれの実験水槽に戻し、

無給餌で 24時間馴致した。

給餌実験は 2008 年 11 月 13 日から 16 日間行った。実験には以下の 4 つの給餌区に、

それぞれ 2水槽を用いた[飼育密度:20 individuals (ind) tank-1で、計 8水槽]。飢餓区(S):

実験中、給餌を行わない、クラゲ区(J):ミズクラゲのみを給餌、オキアミ区(K):オ

キアミのみを給餌、混合区(JK):ミズクラゲとオキアミの両者を給餌。J 区と JK区で

は、ミズクラゲを釣り糸で吊し、供試魚が常にミズクラゲを摂餌できるようにした。K

区と JK 区では、7:00 と 14:00 にオキアミを過剰量給餌した。供試魚の摂餌量は餌料の

給餌時と回収時の湿重量の差とし、ミズクラゲでは毎日 14:00に、オキアミでは給餌か

ら 30 分後に計測した。餌生物の付着水分は、計量前に目合い 1 mm のタモ網を用いて

15秒間干出し除去した。ミズクラゲは京都大学舞鶴水産実験所の浮桟橋付近で採集し、

濾過海水を換水させた 500 Lのミズクラゲ飼育水槽にすみやかに移送した。ミズクラゲ

はアルテミア Artemia sp.ノープリウス幼生を 1日 1回給餌することで飼育し、最終給餌

から約 23時間後にカワハギに供した。

給餌実験は自然水温(25.4 ± 1.2o C、平均 ± SD)で行い、飼育水温に水槽間で有意差

は見られなかった(repeated measures one-way ANOVA)。供試魚間の噛み合いを最小限

にとどめるために、給餌実験中は強水流と強爆気で飼育した。最終給餌の 42 時間後に、

2-フェノキシエタノールの過剰投与によって供試魚を安楽死させ、実験終了時のサイズ

を計測した。

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水分、脂質および脂肪酸組成分析

実験終了時に生残していたすべての個体を S区では 1試料として、J 区では 2試料と

して、K 区と JK区では無作為に抽出した 10 個体をそれぞれ 2試料としてプールし、水

分、脂質および脂肪酸組成の分析に供した。餌生物のミズクラゲとオキアミは、各 1試

料を分析に用いた。分析に用いたすべての個体は、肝重量、および肝臓湿重量× 102 / BW

として算出した比肝重値(%)を計測した。

肝臓を除いた魚体、肝臓と餌生物の水分含量は、110 oCで 3-4時間乾燥させることで

計測した。魚体(肝臓を含む魚体全体)と餌生物は、MS-3 ホモジナイザー(株式会社

日本精機製作所、東京)を用いて 10000 rpmで 5 分間ホモジナイズした後、脂質と脂肪

酸の分析に供した。脂質はクロロホルム-メタノール(2:1, v/ v)用い、Folch et al.(1957)

の方法で抽出した。極性脂質(Polar lipid:PL)と中性脂質(Neutral lipid:NL)は Juaneda

and Rocquelin(1985)の方法に従って、シリカカートリッジ(Sep-Pak plus; 日本ウォー

ターズ株式会社、東京)を用いて分類した。極性溶媒としてクロロホルム-メタノール-

蒸留水(65:35:4, v/ v/ v)を、非極性溶媒として 1, 2-ジクロロエタン-クロロホルム-酢酸

(92:8:0.1, v/ v/ v)を用い、TLC/ FIDイアトロスキャン法(MK-10; 三菱化学メディエ

ンス株式会社、東京)で脂質クラスを分類した(Ratnayake and Ackman 1985)。15 ml の

エタノールに溶解した 50 %水酸化カリウム(KOH)を用いて、80 oCで 40 分加熱する

ことで脂質を鹸化した。鹸化物はメタノールに溶解させた 6.7 %フッ化ホウ素(BF3)を

用いて 80 oCで 20分間加熱し、エステル化させた(Morrison and Smith 1964)。脂肪酸メ

チルエステルは、ヘキサン(20 mg ml-1)で希釈し、シリカキャピラリーカラム(フィ

ルム厚:30 cm × 0.32 mm × 0.25 μm、SUPELCOWAXTM 10; Supelco Inc.、USA)を充填さ

せたガス液体クロマトグラフィー(GC-14B; 株式会社島津製作所、京都)で脂肪酸組成

を調べた。注入ポートと検出器の温度はそれぞれ 205 oC と 250 oC とした。カラムの温

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度は、170 oCから 1 oC min-1のペースで 250 oCまで上昇させた。脂肪酸メチルエステル

は、標準試料(Supelco Inc.、USA)の滞留時間と比較することによって同定した。成分

分析の結果は、S 区と餌生物の 1 試料の値を、J、K、および JK 区では 2 試料の平均値

で示した。

データ解析

初回給餌から最終給餌 48時間後までの 18日間に生残した個体数の割合を生残率とし

た。突発的な事故によって死亡した個体は生残率の算出から除外した。SL と BW の日

間成長率(GLと GW)は、Yamashita and Bailey(1989)の式を変形した以下の式から算

出した。

GL (%) = [ (La / Lb)1/d - 1] × 100 …式(2-1-1a)

GW (%) = [ (Wa / Wb)1/d - 1] × 100 …式(2-1-1b)

ここで、La(mm)と Wa(g)はそれぞれ実験終了時の、Lb(mm)と Wb(g)はそれぞ

れ実験開始時の SL と BW を示す。d(日)は給餌実験の経過日数を示す。実験開始時

と終了時の肥満度(K)は以下の式から算出した。

K = [BW (g) / SL (cm)3] × 1000 …式(2-1-2)

S区の斃死個体と J 区と K 区の水槽からの飛び出し個体は、日間成長率と実験終了時の

肥満度の分析から除外した。

BW 当たりの日間摂餌量は、以下の式より推定した。

Daily food intake per BW = Fd / Wd …式(2-1-3)

Fd(g)は給餌 d日目(1 < d < 16)の個体ごとのミズクラゲ摂餌量を示し、Wd(g)は

給餌 d日目の推定 BW を示す。各日の BW の増加は、式(2-1-1b)を変形させた式を用

いて推定した。

Wd (g) =Wb [1 + (Gw / 100) ]d …式(2-1-4)

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ミズクラゲとオキアミの餌料転換効率はそれぞれ J 区と K区のデータを用いて、以下の

式から算出した。

Food conversion efficiency (%) = [observed body weight gain (g) / total food intake during

experiment per individual (g)] × 100 …式(2-1-5)

餌料転換効率は湿重量(% in wet basis:% w.b.)と乾燥重量(% in dry basis:% d.b.)の

両方で算出し、乾燥重量は湿重量から水分を除した値として算出した。実験期間中の各

個体の総摂餌量は、水槽毎の総摂餌量を水槽内の供試魚数で割った値とした。

統計処理

実験区間の比較の前に、すべてのデータは同一実験区の 2水槽間に有意差がないこと

を確認し(実験前後の魚体サイズ:Willcoxon test、その他:Student’s t-test)、同一実験

区の 2水槽の個体をプールして統計解析を行った。実験開始時の魚体サイズについては、

one-way ANOVAを用いて実験区間の差を検定した。実験終了時の魚体サイズ、日間成

長率と肥満度は、Tukey honestly significant difference(HSD)test で実験区間の比較をし

た。実験前後の肥満度の差は Student’s t-testで検定した。餌料転換効率はMann-Whitney

U-test で両餌料間の差を検定した。飼育水温の実験区間の差は repeated measures one-way

ANOVA で、BW 当たりの日間摂餌量の各区の水槽間および実験区間の差は、repeated

measures one-way ANOVAで検定し、Bonferroni 補正を行った(adjusted a = 0.014)。すべ

ての検定の有意水準は a = 0.05 とした。本実験では小型の稚魚を用いたため、十分な試

料数が得られず、栄養分析の結果は統計解析を行わなかった。

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【結果】

生残と成長

J区と K区の水槽から飛び出して死亡した個体がそれぞれ 2個体および 1個体あった

ことを除き、実験期間を通して J、K および JK 区に斃死個体は観察されなかった。一

方で、S区の実験終了時の生残率は 50 %であった(Table 2-1-1)。

実験終了時の供試魚の SLとBWは、すべての実験区間で有意に異なった[n = 20(S)、

38(J)、39(K)および 40(JK)、Tukey HSD test、Table 2-1-1]。SLと BW の日間成長

率はどちらも JK 区で最も高い値を示し、次いで K 区、J 区、S 区の順であり、すべて

の実験区間に有意な差がみられた(Tukey HSD test、Fig. 2-1-1a)。実験開始時の肥満度

は実験区間に有意差はなかったが、実験終了時の肥満度は K区と JK区の間を除くすべ

ての実験区間で有意に異なった(Tukey HSD test、Fig. 2-1-1b)。S区と J 区では実験前後

で肥満度が有意に減少した(Student’s t-test)。

Table 2-1-1. Final standard length (SL) and wet body weight (BW) and survival rate in

threadsail filefish reared under four different dietary conditions and food conversion efficiencies

of moon jellyfish and krill (mean ± SD). Lower case letters indicate significant differences

among treatment and an asterisk (*) indicates significant difference between jellyfish and krill

(final size: Tukey HSD test, food conversion efficiency: Mann-Whitney U-test).

Treatment

Starved (S) Jellyfish (J) Krill (K) Mixed (JK)

Final SL (mm) 37.41±1.91a 39.52±3.76b 48.78±5.10c 52.41±3.73d

Final BW (g) 1.25±0.13a 1.70±0.51b 3.64±1.22c 4.43±0.88d

Survival rate (%)

(per tank)

50

(35, 65)

100

(100, 100)

100

(100, 100)

100

(100, 100)

Food conversion efficiency (% w.b.)*1

(% d.b.)*2, 3 ― 0.04±0.09

(0.33±0.77)

7.05±3.73*

(6.05±3.19*) ―

*1: % in wet basis

*2: % in dry basis

*3: Food conversion efficiency (%) = [total body weight gain (g) / total food intake (g)] × 100

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Fig. 2-1-1. (a) Daily growth rates (mean ± SD) in terms of standard length (SL) and wet body

weight (BW) and (b) obesity index (mean ± SD) at the initial and final stage of the experiment

in the threadsail filefish reaed using four different dietary conditions. Letters above the bars

indicate significant differences among treatments (Tukey HSD test). Asterisks (*) above the

bracket indicate significant differences between initial and final values (Student’s t-test).

摂餌量と餌料転換効率

K 区と JK 区の BW 当たりの日間オキアミ摂餌量は、それぞれの水槽間で有意に異な

った(repeated measures one-way ANOVA with Bonferroni correction; adjusted a = 0.014、Fig.

2-1-2a)。しかしながら、BW 当たりの日間オキアミ摂餌量の各区の平均値は、K区と JK

区の間に有意差はなかった(K 区:1.12 ± 0.25 g BW-1 day-1、JK区:1.02 ± 0.26 g BW-1 day-1、

repeated measures one-way ANOVA)。

給餌実験初日のミズクラゲ投入直後から、供試魚はすみやかに摂餌を開始した。BW

当たりの日間ミズクラゲ摂餌量は JK 区の水槽間で有意に異なったものの、J 区では水

槽間に有意差は見られなかった(repeated measures one-way ANOVA with Bonferroni

correction; adjusted a = 0.014、Fig. 2-1-2b)。BW 当たりの日間ミズクラゲ摂餌量の各区の

a b

c d

A

B

C D

-2

0

2

4

6

8

Da

ily g

row

th r

ate

(%)

SL BW

(a)

n = 20 n = 38 n = 39 n = 40

AB

CC

20

30

40

Ob

esity in

de

x

Initial Final

Starved (S) Jellyfish (J) Krill (K) Mixed (JK)n = 40, 20 n = 40, 38 n = 40, 39 n = 40, 40

**

(b)

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平均値は、J 区で 24.1 ± 6.1 g BW-1 day-1、JK 区で 12.8 ± 2.4 g BW-1 day-1であり、前者は

後者に比べて有意に多かった(repeated measures one-way ANOVA)。J 区のミズクラゲ摂

餌量は実験期間を通して徐々に増加したのに対し、JK 区ではほぼ一定であった。

餌料転換効率は、湿重量ベースと乾燥重量ベースのどちらにおいても、ミズクラゲに

比べてオキアミで有意に高かった(n = 38(J)、39(K)、Mann-Whitney U-test、Table 2-1-1)。

オキアミの餌料転換効率は、湿重量ベースではミズクラゲの 195.3 倍であり、乾燥重量

ベースでは 18.4倍であった。

Fig. 2-1-2. Daily food intake per fish wet body weight (BW) of krill (a) and jellyfish (b) in each

tank (broken lines) and averages of duplicated tanks in each treatment (solid lines). Upper case

letters indicate a significant difference between treatments (repeated measures one-way

ANOVA) and lower case letters indicate significant differences between duplicated tanks

(repeated measures one-way ANOVA with Bonferroni correction; adjusted a = 0.014)

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

Kri

ll in

take

pe

r B

W (

g)

Krill (K)Mixed (JK)(a)

a

a

bb

AA

0

10

20

30

40

1 6 11 16

Je

llyfish

in

take

pe

r B

W (

g)

Elapsed days of experiment (days)

Jellyfish (J)Mixed (JK)

aAa

bBc

(b)

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魚体成分組成

ミズクラゲの 98.0 %は水分であり、脂質含量はオキアミより著しく少なかった(Table

2-1-2)。J 区と S 区に比べて JK 区と K 区では、比肝重値と肝臓の脂質含量が高い傾向

が見られ、肝臓の水分は前者で後者に比べて顕著に高かった。一方で、肝臓を除く魚体

の水分と脂質含量は実験区間に顕著な差はなかった。肝臓の脂質含量は S区と比べて J

区で低く、S区では J 区に比べて魚体の NL含有率が高く、PL含有率が低かった。一方

で、K区と JK 区では魚体の NLと PLの含有率に大きな差は見られなかった。魚体では

フリーステロール(FS)が優占し、トリグリセリド(TG)の含有率は S 区に比べて J

区で、K 区に比べて JK区で低い傾向が見られた。

全脂肪酸に占める DHAの含有率はオキアミに対してミズクラゲで顕著に低く(Table

2-1-3)、魚体では S 区で最も高く、次いで K 区、JK 区、および J 区の順であった。オ

キアミとミズクラゲの全脂肪酸に占める EPA の含有率は、どちらの餌料も他の脂肪酸

に比べて最も高かった。ミズクラゲの全脂肪酸に占める EPA の含有率はオキアミのそ

れよりも低かったが、魚体の全脂肪酸に占める EPAの含有率は JK区で最も高く、次い

で K区、J 区、および S区の順であった。魚体中の n-3HUFAの含有率は、JK 区と K 区

で J 区と S 区に比べて高い値を示した。ミズクラゲの全脂肪酸に占める ARA の含有率

と含有量はオキアミのそれに比べて顕著に高く、J 区の魚体の全脂肪酸に占める ARA

の含有率は他の区の 2 倍以上となり、JK 区でも K 区より高い値を示した。また、ミズ

クラゲの全脂肪酸に占める n-6HUFA の含有率や含有量もまた、オキアミのそれに比べ

て顕著に高く、n-6HUFAの含有率や含有量は S区に比べて J 区で、K 区に比べて JK区

で高い値を示した。

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Table 2-1-2. Hepatosomatic index, moisture and lipid content of prey items, the whole body

without liver and the liver of the threadsail filefish and lipid composition of prey items and the

whole body at final measurement. SE, sterol esters; TG, triacylglycerides; FFA, free fatty acids;

FS, free sterols; DG, diacylglycerols; MG, monoacylglycerols; PA, phosphatidic acid; PE,

phosphatidylethanolamine; PS, phosphatidylserine; PI, phosphatidylinositol; LPE, lyso-

phosphatidylethanolamine; PC, phosphatidylcholine; Sph, sphingomyelin; LPC, lyso-

phosphatidylcholine.

Prey item*1 Treatment*1

Jellyfish Krill Starved

(S)

Jellyfish

(J)

Krill

(K)

Mixed

(JK)

Hepatosomatic index 1.07 1.56 3.56 4.21

Whole body without liver

Moisture (%) 97.95 77.22 84.47 81.54 81.02 80.51

Lipid (%d.b.)*1 3.00 9.74 5.25 6.40 5.96 6.41

Neutral lipids*2 1.63 6.17 2.28 2.01 1.75 1.93

Polar lipids*2 1.37 3.57 3.07 4.53 4.23 4.46

Liver

Moisture (%)*3 87.22 84.89 60.00 52.63

Lipid (%d.b.)*1 23.63 16.44 66.36 73.48

Whole body*4

Neutral lipid (area, %)*5

SE 1.31 0.45 1.25 1.05 0.58 0.73

TG 30.95 22.18 3.49 0.14 3.64 2.63

FFA 1.74 32.50 2.07 2.71 3.80 3.14

FS 12.72 5.10 32.16 24.37 18.55 20.75

DG+MG 7.62 3.09 3.64 2.49 2.70 2.91

Subtotal 54.34 63.32 42.60 30.75 29.26 30.17

Polar lipid (area, %)*5

PA 3.60 2.56 2.78 3.92 2.85 3.78

PE 11.39 9.74 18.20 20.88 19.49 16.29

PS 11.84 1.06 5.01 5.21 4.08 2.75

PI ND*6 ND ND ND 1.51 3.19

LPE 3.48 1.30 1.41 1.46 1.28 2.67

PC 11.54 18.50 26.87 31.36 36.27 34.27

Sph 1.14 1.62 2.46 3.04 2.29 4.10

LPC 2.67 1.91 0.67 3.37 2.98 2.79

Subtotal 45.66 36.68 57.40 69.24 70.74 69.83

The results of prey items and fish in treatment S are shown as a measurement of a single sample, and those in the J, K

and JK treatments are shown as the average of duplicate samples.

*1: % in dry basis.

*2: g per 100g in dry basis.

*3: Value obtained from freeze dry method.

*4: Including liver.

*5: % per whole lipid.

*6: Not detected.

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Table 2-1-3. Whole body fatty acid composition of the threadsail filefish at final measurement

and prey items. ARA, arachidonic acid; DHA, docosahexaenoic acid; EPA, eicosapentaenoic

acid; HUFA, highly unsaturated fatty acid.

Prey item*1 Treatment*1

Jellyfish Krill Starved (S) Jellyfish (J) Krill (K) Mixed (JK)

Fatty acid composition (area, %)

14:0 1.00 4.13 0.87 0.71 1.04 0.85

15:0 0.38 0.39 0.31 0.50 0.33 0.35

16:0 4.63 21.11 16.34 11.61 16.66 14.04

16:1n-7 2.27 9.00 2.00 2.75 2.08 2.46

17:0 0.37 1.76 0.14 0.37 0.29 0.37

16:3n-6 1.48 0.97 0.09 0.91 0.48 0.29

16:3n-3 11.59 1.92 8.20 8.05 6.07 7.19

18:0 3.29 1.17 5.70 4.44 3.87 3.68

18:1 2.68 10.56 13.45 10.12 10.12 8.52

18:2n-6 0.62 1.03 1.56 0.80 1.35 1.03

18:3n-6 0.12 0.06 0.11 0.05 0.07 0.08

18:3n-3 1.60 0.42 0.20 0.28 0.51 0.48

18:4n-3 0.74 2.70 0.36 0.43 0.99 0.46

20:0 0.83 0.04 0.22 0.15 0.07 0.05

20:1 0.42 0.11 0.15 0.15 0.12 0.17

20:2n-6 ND*5 0.06 ND 0.06 0.04 0.02

20:3n-6 0.09 0.03 ND 0.10 0.11 0.10

20:4n-6 (ARA) 5.61 0.73 2.91 6.03 1.76 2.94

20:3n-3 ND 0.05 ND 0.02 0.08 0.06

20:4n-3 0.97 0.44 0.59 0.89 0.74 0.90

20:5n-3 (EPA) 22.32 26.50 10.35 11.79 15.28 15.62

22:0 ND 0.03 ND 0.11 0.03 0.04

22:1 0.46 0.10 ND 0.57 0.41 0.50

22:4n-6 ND 0.03 ND 0.13 0.08 0.08

22:5n-6 1.08 0.28 0.46 0.97 0.56 0.85

22:5n-3 0.90 0.25 1.30 1.30 1.54 1.49

22:6n-3 (DHA) 0.88 6.28 15.49 9.50 14.40 13.66

Σn-3 HUFA*2 25.07 33.52 27.73 23.51 32.04 31.73

Σn-6 HUFA *3 6.78 1.14 3.37 7.29 2.54 3.99

ARA*4 0.17 0.07 0.15 0.39 0.10 0.19

EPA*4 0.67 2.58 0.54 0.76 0.91 1.01

DHA*4 0.03 0.61 0.81 0.61 0.86 0.88

Σn-3 HUFA*2, 4 0.75 3.26 1.46 1.51 1.91 2.04

Σn-6 HUFA*3, 4 0.20 0.11 0.18 0.47 0.15 0.26

*1: The results of prey items and whole body in treatment S are shown as a measurement of a single sample, and

those in the J, K and JK treatments are shown as the average of duplicate samples.

*2: Total n-3 highly unsaturated fatty acids (HUFA: 20:3n-3; 20:4n-3; 20:5n-3; 22:5n-3; 22:6n-3)

*3: Total n-6 HUFAs (20:2n-6; 20:3n-6; 20:4n-6; 22:4n-6; 22:5n-6)

*4: g per 100g in dry basis

*5: Not detected.

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21

【考察】

本給餌実験の結果、S区の生残率が 50 %であったのに対し、J 区では供試魚の斃死は

見られず、SL と BW の両方で成長が見られた。また、実験終了時の肥満度は S 区に比

べて J 区で有意に大きかった。つまり、カワハギは 16日間の飼育期間の代謝を維持し、

いくばくかの成長をもたらすことができるだけのエネルギーをミズクラゲから得たと

考えられる。しかしながら、J 区では K区に比べてかなり成長が劣り、肥満度も実験前

後で減少したことから、長期間の飼育におけるミズクラゲのみの給餌は、カワハギの正

常な成長には不十分であると推察される。一方本実験では、カワハギの噛み合いを防止

するために強水流と強曝気で飼育を行ったため、供試魚は常に遊泳せざるを得ず、通常

の飼育環境よりもエネルギーの消費が激しかったと考えられる。さらに、本実験に用い

たミズクラゲの水分含量(98.0 %)は天然個体(96.1-96.9 %、Lucas 1994)に比べて高

く、また、脂質含量(3.0 % d.b.)は天然個体(3.5-11.5 % d.b.)に比べて低かった。こ

れは、ミズクラゲの餌としてアルテミアノープリウス幼生を用いたため、天然環境より

も低栄養になったものと思われる。Fukuda and Naganuma(2001)は、アルテミアを給

餌したミズクラゲの脂肪酸組成は、天然のミズクラゲよりもアルテミアの組成に近くな

ると報告している。このため、天然のミズクラゲを給餌した場合に比べて、アルテミア

を給餌したミズクラゲを用いて飼育したカワハギの成長が悪くなった可能性がある。

天然環境下でクラゲ類に寄り付いているマアジは、クラゲ類の集めた未消化の小形動

物プランクトンを摂餌することから(Masuda et al. 2008)、クラゲ摂餌魚でも同様にクラ

ゲ類の集めた動物プランクトンを餌として利用している可能性がある。また、クラゲ類

の寄生生物であるクラゲノミ類もマスノスケOncorhynchus tschawytschaやギンザケとい

ったクラゲ摂餌魚の胃内容物から多数見つかっており(Schabetsberger et al. 2003)、これ

ら寄生生物も餌生物として貢献すると考えられる。一方で、ミズクラゲは飼育環境下で

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は約 3 時間でカイアシ類を消化するため(2000)、本実験では供試魚は直接アルテミア

を摂餌することはなかったと考えられる。これらのことから、天然のミズクラゲを給餌

した場合、J 区の成長率は本実験の結果よりも高くなると予想される。

JK 区のミズクラゲ摂餌量が実験期間中おおよそ一定であったのに対し、J 区のミズク

ラゲ摂餌量は実験期間を通して徐々に増加した。J 区では大量にミズクラゲを摂餌した

にもかかわらず、ごくわずかな成長しか見られなかったことを考慮すると、ミズクラゲ

摂餌量の増加は慢性的な栄養不足に起因するものであると考えられる。ミズクラゲの餌

料転換効率はオキアミのそれに比べて有意に低かったことからも、ミズクラゲはカワハ

ギにとって効率的な餌料ではないと言える。

S 区と J 区の比肝重値と肝臓の脂質含量は K 区と JK 区に比べて低かったが、肝臓を

除いた魚体の脂質含量は実験区間に顕著な差はなかった。このことから、ミズクラゲに

比べて高いオキアミの脂質含量は、主に肝臓に反映されたと思われる。また、S 区と J

区の栄養状態が悪かったことが、これらの実験区で肝臓の水分含量が比較的高かったこ

とに反映されたと推察される(鄭ら 1995)。S 区の魚体の PL 含有率は他の区に比べて

低かったのに対して、J区では K 区や JK 区と似た値をとったことから、S 区と異なり J

区の供試魚は致死的な栄養状態にはなかったと考えられる。しかしながら、J 区の肝臓

の脂質含量と魚体の NL 含有率、TG 含有率は S 区に対して低い値をとった。また、JK

区でも K 区に比べて TG含有率が低い傾向が見られた。このことから、ミズクラゲの給

餌には、肝臓の脂質含量や魚体の TG含有率を低下させる効果があると推察される。

魚体の全脂肪酸に占める DHA の含有率は、S 区で最も高い値を示した。これは、飢

餓条件下では魚体内の DHAが保存されやすいためであると考えられる(de Silva et al.

1997)。ミズクラゲは ARA や n-6HUFA を高率に含有しており、J 区や JK 区では ARA

や n-6HUFA の含有率や含有量がそれぞれ S 区と K 区に比べて顕著に多かった。また、

ARAほど顕著ではないものの、ミズクラゲ給餌による EPA含有率の向上が観察された。

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このことから、ミズクラゲ給餌にはこれらの脂肪酸の含有率を向上させる効果がある可

能性が高い。一方で、ミズクラゲ給餌による DHAや n-3HUFA含有率の向上は観察され

なかった。この理由としては、オキアミの DHAおよび n-3HUFA含量がミズクラゲのそ

れぞれ 7倍と 4倍であったことが挙げられる。本実験で用いたミズクラゲの全脂肪酸に

占める DHA 含有率(0.88 %)は、Nichols et al.(2003)の報告しているミズクラゲの

DHA含有率の結果(9.8 ± 1.8 %)の 1/ 11に過ぎなかった。Holland et al.(1990)は、オ

サガメとその主な餌であるクラゲ類 Rhizostoma sp.、Amelia sp.、Cyanea sp.、Chrysaora sp.

の脂肪酸分析を行い、餌のクラゲ類の n-3、n-6HUFA、特に DHA、ドコサペンタエン酸、

EPA、および ARA 含有率が、オサガメの各脂肪酸の含有率に反映されていたと報告し

ている。今後は、本実験で用いた個体よりも高い栄養価を持つ天然個体のミズクラゲを

用いて、本実験と同様の検討を行う必要がある。

2-2. カワハギの餌としてのエチゼンクラゲの有効性

前節では、ミズクラゲを摂餌することがカワハギの成長や生残に有効であることを示

した。しかし、クラゲ類の駆除や有効利用を目的として養殖餌料への利用を考えた場合、

ミズクラゲと同様に本邦で漁業被害が特に深刻なエチゼンクラゲの魚類餌料としての

栄養評価を行うことは必須である。エチゼンクラゲは傘径が通常 60-100 cm(湿重量

60-150 kg)程度、最大で 200 cm(150-200 kg)になる大型のクラゲであり(Yasuda 2003;

Kawahara et al. 2006; Yoon et al. 2008)、2002 年頃から日本海へ大量に出現するようにな

った(上野 2003)。京都大学舞鶴水産実験所のある若狭湾へは秋季から冬季にかけて出

現し、ミズクラゲと同様に甚大な漁業被害を引き起こしている。エチゼンクラゲの大量

出現による漁業被害は 1938 年頃にもあり、その後 1958 年(下村 1959)、1995 年にも

報告されているが、2002 年以降は頻繁に発生し、2009 年には北海道や太平洋側にも大

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量に出現した(岩谷ら 2010)。近年は、本種の大量出現の頻度が高まるとともに、出現

量の増大が指摘されている(上 2005)。エチゼンクラゲは、その中膠部(傘部内部)に

約 97 %の水分を含み、タンパク質含量は固形分の約 5 %(湿重量で約 2 %)であり、固

形分の約 10 %はムチンなどの多糖類が占める(岡崎 2005)。

本節では、カワハギ稚魚へのエチゼンクラゲ給餌の効果を明らかにすることを目的と

し、エチゼンクラゲ給餌が供試魚の生残と成長、および脂質、脂肪酸と遊離アミノ酸

(Free amino acid:FAA)組成に与える影響を調べた。また、エチゼンクラゲの給餌が

魚体へ与える影響を前節のミズクラゲ給餌の場合と比較した。

【材料と方法】

給餌実験

人工孵化のカワハギ稚魚(松本水産株式会社、宮崎)計 120 個体を実験に用いた。供

試魚は京都大学舞鶴水産実験所に移送し、2-フェノキシエタノールで麻酔した後、魚体

サイズを計測した。実験開始時の SLと BWはそれぞれ 64.5 ± 5.5 mmと 7.8 ± 2.4 g(平

均 ± SD)であり、実験区間に有意な差はなかった(SL:one-way ANOVA、BW:

Kruskal-Wallis test)。サイズ計測後、供試魚はイラストマー蛍光標識(Northwest Marine

Technology, Inc.、USA)で個体識別し、200 Lのポリエチレン製黒色実験水槽 8面に 15

個体ずつ収容した。実験水槽は屋内に設置し、蛍光灯を 8:00 から 20:00 まで点灯させた

[12 Light(L):12 Dark(D)]。飼育水は濾過海水を換水して用いた。供試魚を 40時間

無給餌で馴致した後に給餌実験を開始した。

給餌実験は 2009 年 11 月 7 日から 30 日間行った。実験には以下の 4 つの給餌区に、

それぞれ 2水槽を用いた(飼育密度:15 ind tank-1で、計 8水槽)。飢餓区(S):実験中、

給餌を行わない、クラゲ区(J):エチゼンクラゲのみを給餌、配合区(Pellets:P):配

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合飼料のみを給餌、混合区(Jellyfish and Pellets:JP):エチゼンクラゲと配合飼料の両

者を給餌。S区は J 区の、P区は JP区の対照区とした。J 区と JP区では常時エチゼンク

ラゲを摂餌可能な状態にし、P区と JP区では毎日過剰量(1個体当たり 1 g day-1、BW

の約 13 %)の配合飼料(おとひめ S2; 日清丸紅飼料株式会社、東京)を 1 日 10 回

(7:00-16:00の 1時間毎)に分け、自動給餌機で給餌した。給餌時と回収時の湿重量の

差をエチゼンクラゲの摂餌量とし、毎日 12:00に計量した。エチゼンクラゲの付着水分

は、計量前に目合い 1 mm のタモ網を用い 15 秒間干出することで除去した。これらを

直径 15 cm前後の断片に切断してから供試魚に給餌した。エチゼンクラゲは、京都府舞

鶴市冠島沖で採集し、餌として供するまでの最大 7日間を無給餌で濾過海水を換水させ

た直径 4 mの円形水槽で飼育した個体、舞鶴市小橋の砂浜に打ち上げられた個体、およ

び舞鶴市神崎沖の定置網に入網した個体を用いた。

給餌実験中の各区の飼育水は 22 oCに設定したヒーターで水温を調整し、各区の飼育

水温は、20.2 ± 1.0 oC(S、平均 ± SD)、19.8 ± 0.9 oC(J)、18.9 ± 1.0 oC(P)、および 19.5

± 1.0 oC(JP)であった。最終給餌の 24時間後に、2-フェノキシエタノールの過剰投与

によって供試魚を安楽死させ、実験終了時の魚体サイズを計測した。

水分、脂質、脂肪酸および遊離アミノ酸分析

実験終了時の供試魚およびエチゼンクラゲの水分含量、脂質組成、NL および PL 中

の脂肪酸組成および FAA 組成の分析を行った。供試魚は各実験区からそれぞれ 9 個体

を無作為に抽出し、3 個体ずつプールすることで 3試料を作出し、肝臓を除く魚体と肝

臓に分けて分析に供した。エチゼンクラゲは冠島沖で採集した個体を用い、3試料を分

析に供した。水分、脂質、および脂肪酸については第 2章 1節と同様の方法で分析を行

った。試料の FAA組成は、2 %のスルホサリチル酸とともに試料をホモジナイズし、3000

rpm で 15 分間遠心分離した後、自動アミノ酸分析器(JLC-500/v; 日本電子株式会社、

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東京)で分析した。本節では配合飼料の分析を行っていないが、本節で用いた配合飼料

は本章第 4節と同様のものであり、その分析結果は Table 2-4-4、2-4-5、2-4-6に示す。

また、前節ではミズクラゲの FAA は計測していないが、本章第 3 節、第 4 節ではミズ

クラゲの FAA組成を計測したため、エチゼンクラゲとの比較には Table 2-3-4、2-4-6の

値を参考にした。

データ解析

初回給餌から最終給餌の 24時間後までの 31日間に生残した個体数の割合を生残率と

し、突発的な事故によって死亡した個体は生残率の算出から除外した。SL と BW の日

間成長率は式(2-1-1a, b)から、実験開始時と終了時の肥満度は式(2-1-2)から算出し

た。斃死個体と飛び出しにより死亡した個体は、死亡日が不明な個体のみ成長率と実験

終了時の肥満度の算出から除外した。BW 当たりの日間エチゼンクラゲ摂餌量は式

(2-1-3, 4)を用いて、エチゼンクラゲの餌料転換効率は式(2-1-5)を用いて算出した。

統計処理

実験区間の比較の前に、すべてのデータは同一実験区の 2水槽間に有意差がないこと

を確認し(P 区の実験開始時の SL、J 区と P 区の実験開始時の BW、P 区の成長率、お

よび S 区の肥満度:Mann-Whitney U-test、BW 当たりの日間エチゼンクラゲ摂餌量:

repeated measures one-way ANOVA、その他:Student’s t-test)、同一実験区の 2水槽の個

体をプールして統計解析を行った。ただし、JP 区の肥満度でのみ水槽間に有意差が見

られた。実験開始時の SLと BW は、それぞれ one-way AOVAと Kruskal-Wallis test を用

いて実験区間の差を検定した。実験終了時の SLは Tukey HSD testで、実験終了時のBW、

日間成長率および実験開始時と終了時の肥満度は Steel-Dwass test で実験区間の差を検

定した。Mann-Whitney U-test を用いて実験開始時と終了時の肥満度の差を検定した。飼

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育水温と日間エチゼンクラゲ摂餌量は repeated measures one-way ANOVA で実験区間の

比較を行った。Welch’s t-test で、S区と J 区の間および P区と JP区の間の栄養分析の結

果を比較した。すべての検定の有意水準は a = 0.05 とした。

【結果】

生残と成長

水槽から飛び出して死亡した個体(J 区:3個体、P区:3個体、JP区:5個体)を除

くと、飼育期間を通して斃死個体は S区でのみ観察された(Table 2-2-1)。S区の実験終

了時の生残率は 67.9 %であった。

Table 2-2-1. Final standard length (SL), wet body weight (BW) and survival rate in threadsail

filefish reared using four different dietary conditions and food conversion efficiency of giant

jellyfish (mean ± SD). Lower avobe letters indicate significant differences among treatments

(final SL: Tukey HSD test, final BW: Steel-Dwass test).

Treatment

Starved (S) Jellyfish (J) Pellets (P) Mixed (JP)

Final SL (mm) 62.0±6.3a 67.0±5.8b 72.7±4.5c 82.1±5.3d

Final BW (g) 6.2±2.3a 8.9±2.3b 13.0±2.7c 19.1±3.8d

Survival rate (%)

(per tank)

67.9

(61.5, 73.3)

100

(100, 100)

100

(100, 100)

100

(100, 100)

Food conversion efficiency (% w.b.)*1

(% d.b.)*2, 3 ― 0.05±0.11

(0.37±0.78) ― ―

*1: % in wet basis

*2: % in dry basis

*3: Food conversion efficiency (%) = [total body weight gain (g) / total food intake (g)] × 100

実験終了時のサイズ、および SL と BW の日間成長率はすべて JP 区で最も大きく、

次いで P区、J 区、S区の順であり、すべての実験区間で有意に異なった[n = 28(S)、

30(J)、28(P)および 27(JP)、final SL:Tukey HSD test、final BW, growth rates:Steel-Dwass

test、Table 2-2-1、Fig. 2-2-1a]。実験開始時の肥満度は S区と JP区の間に有意な差があ

った(Steel-Dwass test、Fig. 2-2-1b)。実験終了時の肥満度は JP区で最も高い値を示し、

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28

a

abab

b

A

B

C C

20

25

30

35

40

Starved (S) Jellyfish (J) Pellets (P) Mixed (JP)

Ob

esity in

de

x Initial Final

* *(b)

Starved (S) Jellyfish (J) Pellets (P) Mixed (JP)n = 30, 28 n = 30, 30 n = 30, 28 n = 30, 27

*

次いで P区、J 区、S区の順であり、P区と JP区の間を除くすべての実験区間に有意な

差が見られた(Steel-Dwass test.)。P区と JP区では実験前後で肥満度が有意に増加した

のに対し、J 区では実験前後の肥満度に有意差は見られず、S 区では実験開始時に比べ

て実験終了時で有意に減少した(Mann-Whitney U-test)。

Fig. 2-2-1. (a) Daily growth rates [median (25-75 percentile)] in terms of standard length (SL)

and wet body weight (BW), and (b) obesity index [median (25-75 percentile)] on initial and

final day of the experiment in threadsail filefish reared using four different dietary conditions.

Letters avobe the bars indicate significant differences among treatments (Steel-Dwass test).

Asterisks (*) avobe the bracket indicate significant differences between initial and final value

(Mann-Whitney U-test)

摂餌量と餌料転換効率

給餌実験初日のエチゼンクラゲ投入直後から、供試魚はエチゼンクラゲを旺盛に摂餌

した。BW 当たりの日間エチゼンクラゲ摂餌量は、J 区で 5.6 ± 2.6 g BW-1 day-1(平均 ±

SD)、JP区で 4.1 ± 1.7 g BW-1 day-1であり、前者は後者に比べて有意に高い値を示した

(repeated measures one-way ANOVA、Fig. 2-2-2)。エチゼンクラゲの餌料転換効率は、

0.05 ± 0.11 % w.b.(0.37 ± 0.78 % d.b.)であった(n = 27、Table 2-2-1)。

a

bc

d

A

B

C

D

-2

-1

0

1

2

3

Da

ily g

row

th r

ate

(%

)

SL BW

(a)

n = 28 n = 30 n = 28 n = 27

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Fig. 2-2-2. Daily jellyfish intake per fish wet body weight (BW) in average of duplicated tanks

in each treatment. Lower case letters indicate a significant difference between the J and JP

treatments (repeated measures one-way ANOVA)

魚体成分組成

本実験で用いたエチゼンクラゲは水分を

97.4 ± 1.3 %、脂質を 1.9 ± 0.0 % d.b.含有し、NL

が 1.1 g per 100 g d.b.、PLが 0.8 g per 100 g d.b.

含まれていた(Table 2-2-2)。エチゼンクラゲ

の脂質は遊離脂肪酸が優占し、TGは全脂質の

7.7 ± 0.0 %を占めた。比肝重値、および肝臓を

除く魚体と肝臓の水分、脂質含量と脂質組成は

S 区と J 区の間および P 区と JP 区の間に顕著

な差は見られなかったが、肝臓を除く魚体の

TG含有率は S区に比べて J 区で有意に少なか

った(Welch’s t-test、Table 2-2-3)。肝臓を除く

魚体の脂質含量は、4実験区間で顕著な差が見

られなかったが、肝臓の脂質含量は S 区と J

区に比べて P区と JP区で多く、前者は後者に

比べて肝臓の水分が多かった。

0

5

10

15

1 5 9 13 17 21 25 29

Je

llyfish

in

take

pe

r B

W (

g)

Elapsed day of experiment (days)

Jellyfish (J, average)

Mixed (JP, average)

a

b

Table 2-2-2. Moisture, lipid content

and lipid composition of the giant

jellyfish (n = 3, mean ± SD).

Giant jellyfish

Moisture (%) 97.4±1.3

Lipid (%d.b.)*1 1.9±0.0

Neutral lipids*2 1.1±0.0

Polar lipids*2 0.8±0.1

Neutral lipids (area, %)*3

SE 4.5±1.1

TG 7.7±2.0

FFA 20.7±3.9

FS 14.1±2.6

DG+MG 10.5±2.1

Subtotal 56.9±1.8

Polar lipids (area, %)*3

PA ND*4

PE 15.9±3.3

PS ND

PI ND

LPE 12.2±1.8

PC ND

Sph 5.4±1.3

LPC 6.3±0.8

Subtotal 42.4±1.8

*1: % in dry basis.

*2: g per 100g in dry basis.

*3: % per whole lipid.

*4: Not detected.

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30

Table 2-2-3. Hepatosomatic index, moisture, lipid content and lipid composition of the whole

body without liver and the liver of the threadsail filefish at final measurement (mean ± SD).

Asterisks (*) indicate significant differences between the S and J treatments or between the P

and JP treatments (n = 3, Welch’s t-test).

Treatment

Starved (S) Jellyfish (J) Pellets (P) Mixed (JP)

Hepatosomatic index 2.3±0.1 2.5±0.2 8.6±1.1 9.8±0.8

Whole body without liver

Moisture (%) 81.5±0.4 81.0±0.3 79.5±0.7 79.6±0.3 Lipid (%d.b.)*1 5.4±0.5 6.0±0.3 7.0±0.4 7.0±0.1

Neutral lipids*2 2.1±0.4 2.2±0.2 3.3±0.3 3.0±0.2

Polar lipids*2 3.3±0.2 3.8±0.3 3.8±0.2 3.9±0.2

Neutral lipids (area, %)*3

SE 1.1±0.7 1.9±0.6 1.3±0.6 3.2±1.8

TG 7.6±0.3* 1.5±0.5 2.1±1.2 3.6±1.8

FFA 11.3±8.6 10.4±3.8 21.4±1.3 21.3±3.2 FS 16.5±4.4 23.5±6.8 17.8±1.9 16.8±4.9 DG+MG 2.2±0.3 3.0±0.5 2.7±0.7 2.4±0.4

Subtotal 39.7±3.8 41.1±9.1 46.4±3.9 45.1±3.2

Polar lipids (area, %)*3 PA 3.3±2.0 3.9±0.9 3.8±0.2 2.9±1.6

PE 17.8±2.4 20.5±4.0 18.6±2.9 18.2±1.3

PS ND*5 1.4±1.2 0.3±0.4 ND PI ND ND 0.6±0.4* ND LPE 5.6±1.4 5.4±1.7 2.7±1.9 3.0±0.7

PC 20.5±2.3 20.8±2.0 23.2±2.4 19.1±2.5

Sph 3.4±0.9 3.0±0.4 2.2±0.9 2.6±0.6

LPC 10.1±2.5* 4.8±2.2 3.2±0.9 7.5±2.2* Subtotal 61.4±3.8 59.9±9.1 54.5±3.9 53.2±3.2

Liver

Moisture (%)*4 68.1±1.1 67.6±2.3 36.3±0.9 34.5±2.6 Lipid (%d.b.)*1 63.2±3.8 63.2±3.6 81.5±1.9 79.9±1.7 Neutral lipids*2 56.9±5.7 56.2±5.0 78.9±1.6 76.9±1.1

Polar lipids*2 6.3±2.0 7.0±1.6 2.6±0.3 2.9±0.7

Neutral lipids (area, %)*3

SE 3.8±2.1 0.8±0.1 0.4±0.3 1.1±1.0

TG 68.2±13.0 67.4±11.2 92.8±0.7 88.0±6.7 FFA 7.3±2.6 4.1±0.4 1.8±0.1 4.2±4.5

FS 2.4±0.7 1.4±0.3 1.4±0.2 2.3±1.5 DG+MG 8.9±5.0 15.1±7.8 0.5±0.2 0.9±0.6

Subtotal 89.4±3.7 90.5±3.2 96.9±0.4 96.8±0.8

Polar lipids (area, %)*3 PA ND ND ND ND PE 4.9±2.2 6.1±2.6 1.2±0.3 2.2±1.5 PS 0.9±0.3 0.7±0.1 0.3±0.0 0.1±0.1

PI ND ND ND ND LPE 2.3±0.5 2.1±0.5 0.7±0.1 0.4±0.3

PC 0.5±0.1 0.4±0.1 0.1±0.0 0.2±0.2

Sph 0.6±0.2 0.5±0.1 0.2±0.1 0.2±0.1

LPC 1.0±0.3 1.2±0.3 0.5±0.1 0.5±0.2

Subtotal 10.2±3.7 11.1±3.2 3.2±0.4 3.7±0.8

*1: % in dry basis. *2: g per 100g in dry basis. *3: % per whole lipid. *4: Value obtained from freeze dry method. *5: Not detected.

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31

エチゼンクラゲには ARA と EPA が多く含まれ、それぞれ主に PL と NL に含まれて

おり、n-3HUFA と n-6HUFA はそれぞれ NLと PL に多く含まれていた(Table 2-2-4)。

一方で、DHAは NLと PLのどちらにも多く含まれていた。

Table 2-2-4. Fatty acid composition of the giant jellyfish in neutral and polar lipids (n =3, mean

± SD).

Giant jellyfish Neutral lipids Polar lipids

Fatty acid composition (area, %) 14:0 11.9±0.8 2.4±0.4 15:0 1.6±0.4 0.7±0.1

16:0 13.2±3.1 11.8±1.8 16:1n-7 6.2±1.5 1.4±0.3 17:0 0.3±0.0 2.0±0.1

16:3n-6 0.2±0.1 2.0±0.2 16:3n-3 0.3±0.3 11.2±0.4 18:0 2.5±0.4 23.7±0.2 18:1 3.0±0.6 2.8±0.2 18:2n-6 0.7±0.1 0.7±0.1 18:3n-6 0.2±0.1 1.6±0.1

18:3n-3 0.4±0.3 0.5±0.0 18:4n-3 1.4±0.2 0.3±0.1 20:0 0.2±0.1 0.4±0.0 20:1 0.3±0.1 1.3±0.3 20:2n-6 0.6±0.1 0.1±0.0 20:3n-6 0.7±0.1 0.1±0.0 20:4n-6(ARA) 1.1±0.1 5.6±0.2 20:3n-3 0.5±0.0 0.2±0.0 20:4n-3 0.8±0.1 0.1±0.0 20:5n-3(EPA) 13.6±1.9 4.3±0.2 22:0 0.1±0.1 ND*4

22:1 0.1±0.0 0.2±0.0

22:4n-6 0.5±0.6 2.0±0.2

22:5n-6 0.1±0.2 0.3±0.0 22:5n-3 0.5±0.2 1.5±0.1 22:6n-3(DHA) 2.8±0.5 3.8±0.7 Σn-3HUFA*1 15.4±2.5 9.9±0.9

Σn-6HUFA*2 3.2±0.5 8.1±0.5

ARA*3 0.01±0.00 0.05±0.00 EPA*3 0.16±0.02 0.04±0.00 DHA*3 0.03±0.01 0.03±0.00 Σn-3HUFA*1, 3 0.21±0.03 0.08±0.01 Σn-6HUFA*2, 3 0.04±0.00 0.07±0.00

*1: Total n-3 highly unsaturated fatty acids (HUFA: 20:3n-3; 20:4n-3; 20:5n-3; 22:5n-3; 22:6n-3) *2: Total n-6 HUFAs (20:2n-6; 20:3n-6; 20:4n-6; 22:4n-6; 22:5n-6) *3: g per 100g in dry basis. *4: Not detected.

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32

肝臓を除く魚体の NL 中の脂肪酸組成は、S 区と J 区の間に大きな差は見られなかっ

たが(Table 2-2-5a)、肝臓の NL中の EPA、DHA、n-3HUFAの含量は J 区でのみ他区よ

りも低い傾向が見られた(Table 2-2-5b)。P区と JP区を比較すると、肝臓を除く魚体の

NL中の全脂肪酸に占める DHAの含有率と含量は JP区に比べて P区で有意に多かった

(Welch’s t-test)。一方で、肝臓の NL中の全脂肪酸に占める ARAと n-6HUFA の含有率

と含有量、および EPA含有率は P区に比べて JP 区で有意に高かった。

Table 2-2-5. Fatty acid compositions of the whole body without liver (a) and the liver (b) of the

threadsail filefish at final measurement in neutral lipids (mean ± SD). Asterisks (*) indicate

significant differences between the S and J treatments or between the P and JP treatments (n = 3,

Welch’s t-test). (a) Whole body

without liver

Treatment

Starved (S) Jellyfish (J) Pellets (P) Mixed (JP)

Fatty acid composition (area, %)

14:0 3.7±2.7 2.5±0.5 3.1±0.8 3.1±1.0

15:0 2.5±1.8 0.9±0.5 0.5±0.1 0.5±0.1

16:0 7.4±2.9 6.6±0.7 14.0±2.4 12.8±2.3

16:1n-7 1.5±0.4 1.9±0.5 3.6±0.9 2.9±0.4

17:0 0.7±0.3 0.2±0.2 0.2±0.0 0.2±0.1

16:3n-6 0.2±0.0 0.2±0.0 0.1±0.1 0.1±0.0

16:3n-3 0.2±0.2 0.3±0.2 0.3±0.1 0.2±0.1

18:0 2.6±0.3 2.7±0.0 2.3±0.0 3.0±0.3*

18:1 3.9±0.5 5.0±1.1 7.9±0.5 6.4±0.9

18:2n-6 1.0±0.2 1.0±0.0 2.4±0.2 2.1±0.5

18:3n-6 0.2±0.1 0.2±0.1 0.1±0.0 0.2±0.1

18:3n-3 0.4±0.2 0.5±0.3 0.7±0.2 0.5±0.2

18:4n-3 1.2±0.4 1.2±0.1 1.4±0.2 0.7±0.6

20:0 0.4±0.1 0.3±0.1 0.2±0.1 0.2±0.1

20:1 0.4±0.3 0.3±0.1 0.2±0.1 0.2±0.1

20:2n-6 1.2±0.2 1.2±0.0 0.6±0.2 1.2±0.2*

20:3n-6 1.5±0.4 1.6±0.1 0.8±0.1 1.1±0.2

20:4n-6(ARA) 2.5±0.6 2.7±0.1 1.3±0.1 1.4±0.4

20:3n-3 0.9±0.3 0.6±0.5 0.6±0.2 0.4±0.1

20:4n-3 1.6±0.4 1.7±0.2 1.2±0.1 1.3±0.3

20:5n-3(EPA) 16.5±3.7 17.6±0.5 21.6±0.6 19.2±4.0

22:0 0.1±0.0 0.1±0.0 0.0±0.1 0.1±0.0

22:1 0.4±0.1 0.3±0.1 0.2±0.1 0.3±0.0

22:4n-6 0.2±0.2 0.4±0.3 0.2±0.1 0.1±0.1

22:5n-6 ND*4 0.1±0.1 0.1±0.0 0.2±0.2

22:5n-3 0.4±0.4 1.2±1.1 1.4±0.7 1.2±1.3

22:6n-3(DHA) 3.4±0.5 4.5±0.9 9.5±0.7* 6.1±1.7

Σn-3HUFA*1 22.8±4.8 25.5±1.2 34.2±1.1 28.3±7.2

Σn-6HUFA*2 5.4±1.3 5.9±0.5 3.0±0.3 4.0±0.7

ARA*3 0.05±0.00 0.06±0.01 0.04±0.00 0.04±0.01

EPA*3 0.34±0.07 0.38±0.03 0.70±0.05 0.58±0.10

DHA*3 0.07±0.02 0.10±0.04 0.31±0.00* 0.18±0.05

Σn-3HUFA*1, 3 0.47±0.09 0.55±0.04 1.11±0.06 0.85±0.19

Σn-6HUFA*2, 3 0.11±0.01 0.13±0.01 0.10±0.01 0.12±0.02

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33

(b) Liver Treatment

Starved (S) Jellyfish (J) Pellets (P) Mixed (JP)

Fatty acid composition (area, %)

14:0 6.8±3.2 5.3±0.9 5.4±1.0 5.2±0.9

15:0 0.7±0.2 0.9±0.2 0.5±0.1 0.5±0.0

16:0 28.0±2.3 27.8±1.8 24.5±1.0 24.6±0.2

16:1n-7 11.5±2.6 11.7±1.2 11.0±0.4 10.5±0.8

17:0 0.4±0.0* 0.4±0.0 0.5±0.1 0.4±0.1

16:3n-6 0.4±0.1 0.4±0.1 0.3±0.0 0.4±0.0

16:3n-3 0.4±0.1 0.3±0.0 0.6±0.2 0.4±0.2

18:0 3.1±0.6 4.3±0.1 4.2±0.4 4.1±0.2

18:1 16.2±1.4 17.4±1.4 19.2±2.0 19.3±1.1

18:2n-6 2.8±0.6 2.5±0.9 3.7±0.2 3.6±0.1

18:3n-6 0.1±0.0 0.1±0.0 0.1±0.1 0.1±0.0

18:3n-3 0.6±0.1 0.5±0.2 1.0±0.1 1.0±0.1

18:4n-3 1.2±0.2 0.9±0.2 1.9±0.3 1.7±0.3

20:0 0.1±0.0 0.2±0.0* 0.1±0.0 0.1±0.0

20:1 1.9±0.3 2.3±0.3 2.0±0.6 2.6±0.2

20:2n-6 0.1±0.0 0.1±0.0 0.1±0.0 0.1±0.0

20:3n-6 ND 0.0±0.0 ND 0.0±0.0*

20:4n-6(ARA) 0.2±0.1 0.4±0.1 0.3±0.0 0.6±0.1*

20:3n-3 0.1±0.0 0.1±0.0 0.1±0.0 0.1±0.0

20:4n-3 0.4±0.1 04±0.1 0.5±0.1 0.5±0.0

20:5n-3(EPA) 4.2±1.7 2.5±1.0 6.9±0.2 7.4±0.2*

22:0 ND ND ND ND

22:1 0.8±0.2 1.0±0.2 1.1±0.0 1.3±0.1

22:4n-6 0.1±0.0 0.2±0.0* ND 0.1±0.1

22:5n-6 0.1±0.0 0.1±0.1 0.1±0.0 0.1±0.0*

22:5n-3 1.3±0.4 0.8±0.3 1.1±0.1 1.2±0.1

22:6n-3(DHA) 5.7±2.8 3.0±1.9 6.9±0.2 6.9±0.8

Σn-3HUFA*1 11.6±4.9 6.7±3.3 15.5±0.3 16.2±0.9

Σn-6HUFA*2 0.5±0.2 0.7±0.1 0.5±0.0 0.9±0.1*

ARA*3 0.14±0.07 0.23±0.05 0.21±0.03 0.44±0.05*

EPA*3 2.43±1.24 1.45±0.67 5.42±0.25 5.72±0.23

DHA*3 3.34±1.91 1.71±1.22 5.47±0.14 5.34±0.65

Σn-3HUFA*1, 3 6.77±3.47 3.87±2.16 12.25±0.46 12.43±0.88

Σn-6HUFA*2, 3 0.28±0.14 0.42±0.08 0.36±0.04 0.73±0.10*

*1: Total n-3 highly unsaturated fatty acids (HUFA: 20:3n-3; 20:4n-3; 20:5n-3; 22:5n-3; 22:6n-3)

*2: Total n-6 HUFAs (20:2n-6; 20:3n-6; 20:4n-6; 22:4n-6; 22:5n-6)

*3: g per 100g in dry basis.

*4: Not detected.

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34

また、肝臓を除く魚体の PL中の全脂肪酸に占める ARAと n-6HUFAの含有率と含有

量は、S区に比べて J 区で、P区に比べて JP区で有意に高かったが(Welch’s t-test、Table

2-2-6a)、EPA の含有率は J 区に比べて S 区で、DHA 含有量は S 区に比べて J 区で有意

に多かった。肝臓の PL中の全脂肪酸に占める ARAと n-6HUFA含有率と含有量は S区

に比べて J 区で、DHAと n-3HUFAの含有量は J 区に比べて S区で有意に多かった。肝

臓の PL中の脂肪酸組成に P区と JP区の間に顕著な差はなかった(Table 2-2-6b)。

Table 2-2-6. Fatty acid compositions of the whole body without liver (a) and the liver (b) of the

threadsail filefish at final measurement in polar lipids (mean ± SD). Asterisks (*) indicate

significant differences between the S and J treatments or between the P and JP treatments (n = 3,

Welch’s t-test). (a) Whole body

without liver

Treatment

Starved (S) Jellyfish (J) Pellets (P) Mixed (JP)

Fatty acid composition (area, %)

14:0 045±0.0 0.4±0.1 0.9±0.0 1.0±0.1

15:0 0.2±0.0 0.2±0.0* 0.2±0.0 0.2±0.0*

16:0 18.6±0.9 17.0±0.6 18.8±0.7 19.7±0.1

16:1n-7 2.0±0.1 2.1±0.1 2.0±0.1 2.0±0.1

17:0 0.1±0.0 0.2±0.0* 0.1±0.0 0.1±0.0

16:3n-6 0.4±0.1 0.5±0.3 0.4±0.2 0.4±0.2

16:3n-3 3.9±0.1* 3.3±0.1 2.7±0.2* 2.3±0.1

18:0 9.5±0.2 10.8±0.2* 7.6±0.6 7.7±0.2

18:1 18.8±0.5 17.2±1.2 18.2±0.4 17.2±0.8

18:2n-6 1.5±0.1* 1.0±0.1 2.1±0.1 2.1±0.1

18:3n-6 0.1±0.0 0.3±0.0* 0.1±0.0 0.2±0.0

18:3n-3 0.1±0.0 0.1±0.0 0.1±0.0 0.2±0.0

18:4n-3 0.1±0.0 0.1±0.0 0.1±0.0 0.2±0.0

20:0 0.3±0.0* 0.3±0.0 0.2±0.0 0.2±0.0

20:1 0.4±0.1 0.4±0.1 0.6±0.1 1.0±0.3

20:2n-6 0.1±0.0 0.1±0.0 0.1±0.0 0.1±0.0

20:3n-6 0.1±0.0 0.1±0.0 0.1±0.0 0.1±0.0

20:4n-6(ARA) 2.2±0.2 5.0±0.5* 1.8±0.1 2.4±0.1*

20:3n-3 0.0±0.0 0.0±0.0 0.0±0.0 0.1±0.0

20:4n-3 0.1±0.0 0.1±0.0 0.2±0.0 0.2±0.0

20:5n-3(EPA) 7.4±0.4* 6.0±0.7 9.9±0.9 10.3±0.8

22:0 ND*4 ND ND 0.0±0.1

22:1 0.3±0.0 0.2±0.0 0.3±0.1 0.3±0.0

22:4n-6 0.1±0.0 0.7±0.1* 0.1±0.0 0.2±0.0*

22:5n-6 0.5±0.1 0.6±0.0 0.5±0.1 0.4±0.0

22:5n-3 1.9±0.1 2.1±0.2 2.0±0.2 2.0±0.0

22:6n-3(DHA) 24.4±0.9 25.6±0.7 25.9±0.7 23.4±1.4

Σn-3HUFA*1 33.8±1.1 33.8±0.9 38.0±0.6 36.0±1.2

Σn-6HUFA*2 3.0±0.2 6.4±0.6* 2.6±0.3 3.3±0.2*

ARA*3 0.07±0.00 0.19±0.02* 0.07±0.00 0.10±0.01*

EPA*3 0.24±0.01 0.23±0.04 0.37±0.05 0.41±0.05

DHA*3 0.80±0.07 0.97±0.05* 0.98±0.03 0.92±0.09

Σn-3HUFA*1, 3 1.11±0.08 1.29±0.10 1.44±0.08 1.42±0.12

Σn-6HUFA*2, 3 0.10±0.00 0.24±0.03* 0.10±0.01 0.13±0.01*

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(b) Liver Treatment

Starved (S) Jellyfish (J) Pellets (P) Mixed (JP)

Fatty acid composition (area, %)

14:0 1.7±0.8 1.7±0.5 1.5±0.2 1.2±0.3

15:0 0.4±0.1 0.7±0.1* 0.3±0.0 0.3±0.1

16:0 33.6±3.9 36.7±0.7 28.1±1.5 21.2±6.1

16:1n-7 4.0±1.6 5.7±1.7 3.0±0.7 2.2±0.9

17:0 0.1±0.0 0.2±0.0* 0.1±0.0 0.1±0.0

16:3n-6 2.9±0.8 3.1±0.7 0.9±0.3* 0.4±0.2

16:3n-3 0.3±0.0 0.3±0.0 0.1±0.1 0.2±0.1

18:0 8.5±0.4 10.9±0.2* 8.5±1.3 6.5±1.6

18:1 12.0±2.9 12.8±2.1 9.6±2.1 6.6±2.3

18:2n-6 1.5±0.3 1.2±0.3 2.1±0.0 1.5±0.5

18:3n-6 0.1±0.0 0.5±0.1* 0.2±0.0 0.2±0.0

18:3n-3 0.1±0.0 0.1±0.0 0.2±0.0 0.2±0.1

18:4n-3 0.2±0.1 0.1±0.0 0.3±0.1 0.3±0.1

20:0 0.3±0.0 0.4±0.1 0.2±0.0 0.3±0.1

20:1 1.1±0.4 1.0±0.3 0.7±0.2 0.5±0.2

20:2n-6 0.1±0.0 0.1±0.1 0.2±0.3 0.0±0.0

20:3n-6 0.0±0.0 ND 0.2±0.0 0.1±0.1

20:4n-6(ARA) 0.8±0.3 2.9±0.7* 1.3±0.2 1.6±0.6

20:3n-3 ND ND 0.1±0.0 0.9±0.9

20:4n-3 0.1±0.0 0.1±0.1 0.2±0.0 0.2±0.0

20:5n-3(EPA) 3.8±1.6 3.1±1.5 9.5±0.5 7.9±3.0

22:0 ND ND ND 0.0±0.0

22:1 0.7±0.3 0.7±0.3 0.5±0.2 0.4±0.1

22:4n-6 0.0±0.0 0.3±0.1* 0.0±0.0 0.1±0.0*

22:5n-6 0.2±0.1 0.1±0.1 0.3±0.0 0.2±0.0

22:5n-3 0.9±0.3 0.6±0.2 1.0±0.2 0.9±0.2

22:6n-3(DHA) 16.8±7.5 7.4±5.1 16.5±2.1 15.6±3.8

Σn-3HUFA*1 21.6±9.5 11.2±6.8 27.2±1.8 25.5±6.1

Σn-6HUFA*2 1.2±0.5 3.5±0.9* 1.9±0.4 2.1±0.7

ARA*3 0.05±0.01 0.19±0.04* 0.03±0.01 0.05±0.02

EPA*3 0.22±0.04 0.20±0.05 0.25±0.02 0.24±0.10

DHA*3 0.97±0.21* 0.46±0.20 0.43±0.11 0.47±0.18

Σn-3HUFA*1, 3 1.25±0.26* 0.70±0.26 0.71±0.11 0.76±0.28

Σn-6HUFA*2, 3 0.07±0.01 0.23±0.04* 0.05±0.01 0.06±0.02

*1: Total n-3 highly unsaturated fatty acids (HUFA: 20:3n-3; 20:4n-3; 20:5n-3; 22:5n-3; 22:6n-3)

*2: Total n-6 HUFAs (20:2n-6; 20:3n-6; 20:4n-6; 22:4n-6; 22:5n-6)

*3: g per 100g in dry basis.

*4: Not detected.

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36

エチゼンクラゲの FAA総含量は 1894 mg per 100 g d.b.であり、中でもタウリンを多く

含んでいた(Table 2-2-7)。肝臓を除く魚体の FAA含量は必須 FAA、非必須 FAAとも S

区に比べて J区で有意に多かったが、P区と JP区の間に差は見られなかった(Welch’s test、

Table 2-2-8)。一方で、肝臓の必須 FAA含量は J 区に比べて S区で有意に多く、非必須

FAA含量は J 区で有意に多かった。肝臓の必須 FAA含量は P区と JP区の間に有意な差

はなかった。肝臓を除く魚体に含まれるタウリンは、S 区に比べて J 区で、P 区に比べ

て JP区で有意に多く、肝臓では S区に比べて J区で有意に多かった。

Table 2-2-7. Free amino acid content of the giant jellyfish (n = 3, mean ± SD). Arg, arginine;

Lys, lysine; His, histidine; Phe, phenylalanine; Tyr, tyrosine; Leu, leucine; Ile, isoleucine; Met,

methionine; Val, valine; Thr, threonine; Trp, tryptophan; Tau, taurine; Ala, alanine; Gly,

glycine; Glu, glutamic acid; Ser, serine; Asp, aspartic acid; Pro, proline

Giant jellyfish

Essential amino acid*1

Arg 93.3±2.8

Lys 166.2±10.2

His 37.9±1.5

Phe 65.3±3.3

Tyr 63.3±1.9

Leu 124.5±2.7

Ile 74.1±1.9

Met 37.1±1.7

Val 87.8±3.0

Thr 73.2±2.2

Trp ND*2

Subtotal 822.8±24.4

Non-essential amino acid*1

Tau 462.6±10.6

Ala 118.8±2.8

Gly 126.6±3.1

Glu 160.0±3.4

Ser 94.1±3.2

Asp 72.9±1.6

Pro 37.0±1.7

Subtotal 1072.1±24.4

Total 1894.9±48.5

*1: mg per 100g in dry basis.

*2: Not detected.

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37

Table 2-2-8. Free amino acid contents of the whole body without liver and the liver of the

threadsail filefish at final measurement (mean ± SD). Asterisks (*) indicate significant

differences between the S and J treatments or between the P and JP treatments (n = 3, Welch’s

t-test). Treatment

Starved (S) Jellyfish (J) Pellets (P) Mixed (JP)

Whole body without liver

Essential amino acid*1

Arg 27.5±3.2 61.2±13.0* 111.3±34.0 65.7±7.0

Lys 54.3±5.6 81.0±4.8* 311.5±83.3 156.3±35.1

His 12.1±1.6 15.9±1.9 44.5±7.1 33.8±4.9

Phe 13.2±0.4 25.7±4.7* 41.3±11.4 27.3±0.9

Tyr 15.7±0.5 27.5±3.7* 41.7±10.2 28.2±2.4

Leu 31.0±2.9 39.8±7.0 64.7±19.9 41.3±4.0

Ile 16.5±0.8 18.5±3.3 28.4±9.7 16.8±1.1

Met 14.6±0.4 21.9±3.0* 31.3±7.5 21.9±1.0

Val 24.6±2.2 28.6±3.7 44.8±10.8 28.0±1.8

Thr 25.5±0.4 35.4±3.9* 101.3±22.4 63.2±1.5

Trp ND*2 ND ND ND

Subtotal 233.5±16.1 348.5±47.1* 832.8±212.4 486.5±31.9

Non-essential amino acid*1

Tau 913.2±8.6 1624.7±115.2* 754.0±82.4 1132.1±32.1*

Ala 82.1±2.2 106.8±7.7* 259.8±11.6 225.8±22.5

Gly 145.1±10.1 253.8±42.5* 306.1±23.4 249.5±29.4

Glu 49.6±7.7 59.2±1.9 127.8±21.9 94.4±2.2

Ser 31.1±2.3 44.9±2.7* 57.1±7.1* 39.0±2.4

Asp 33.7±3.8 45.7±0.5* 144.8±22.4 100.7±13.0

Pro ND ND 89.8±9.8* 65.0±11.6

Subtotal 1254.8±28.5 2135.0±75.4* 1739.4±167.5 1906.4±13.4

Total 1488.4±43.8 2483.5±99.8* 2572.3±374.8 2392.9±43.0

Liver

Essential amino acid*1

Arg 7.0±0.8 9.0±2.7 9.8±1.8 8.2±2.7

Lys 60.6±11.0* 34.2±3.9 28.3±5.1 18.2±1.6

His 6.2±0.5 6.3±1.0 4.7±0.9 4.1±0.4

Phe 6.1±2.1 6.0±0.8 4.2±0.9 2.8±0.9

Tyr 7.5±1.8 7.6±1.2 4.4±1.9 4.5±1.6

Leu 22.9±2.8* 16.1±1.9 10.1±2.0 8.9±1.7

Ile 7.7±1.3 5.1±1.0 4.0±1.8 3.2±0.9

Met 10.7±3.5 7.5±1.4 4.7±0.6 5.4±0.8

Val 14.6±2.1* 9.4±1.2 6.8±1.9 5.6±1.3

Thr 12.0±4.5 12.0±1.9 10.5±2.6 7.6±1.5

Trp ND ND ND ND

Subtotal 155.9±8.0* 112.4±7.8 87.6±17.9 67.1±12.3

Non-essential amino acid:1

Tau 232.0±59.2 563.1±79.1* 191.9±31.8 215.9±24.1

Ala 48.5±10.5 55.9±4.0 43.5±8.3 38.0±10.0

Gly 64.1±7.8 73.8±6.1 34.7±5.4 29.0±2.5

Glu 95.7±23.9 87.0±12.4 56.9±16.4 48.2±2.1

Ser 18.1±4.4 13.5±2.0 9.2±0.4 7.6±1.7

Asp 19.1±2.2 15.9±3.7 10.7±2.2 6.6±1.1

Pro ND 22.4±8.1* 18.1±5.0 12.6±5.2

Subtotal 477.5±74.9 831.6±70.7* 346.9±62.0 357.9±41.0

Total 633.3±79.9 944.0±70.5* 452.5±79.7 425.0±51.4

*1: mg per 100g in dry basis.

*2: Not detected.

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38

【考察】

S区の生残率が 67.9 %であったのに対して、J区では供試魚の斃死は見られず、また、

SL と BW の両方で成長が見られた。このことから、前節のミズクラゲ給餌と同様に、

カワハギはエチゼンクラゲのみを摂餌することで、30日間の飼育期間の代謝を維持し、

成長できることが分かった。しかしながら、J 区では P 区に比べてかなり成長が遅く、

実験終了時の肥満度も有意に小さかったことから、長期間の飼育においてはミズクラゲ

と同様に、エチゼンクラゲのみの給餌はカワハギの正常な成長には不十分であると推察

される。

エチゼンクラゲのみを給餌した本実験のカワハギ稚魚(実験前 BW:7.8 ± 2.4 g)は 1

日に BWの 5.6 ± 2.6倍のエチゼンクラゲを摂餌した。一方で、前節のカワハギ稚魚(実

験前BW:1.41 ± 0.34 g)は 1日にBWの 24.1 ± 6.1倍のミズクラゲを摂餌した(Fig. 2-1-2)。

両クラゲ種間の摂餌量の差は、刺胞毒の強さや固さ、魚体内での消化速度といったクラ

ゲの性質の違いによるものだけではなく、供試魚のサイズや飼育水温の違いなどの影響

も大きいと考えられる。一方で、餌料転換効率はミズクラゲで 0.04 ± 0.09 % w.b.(0.33 ±

0.77 % d.b.、Table 2-1-1)であったのに対して、エチゼンクラゲでは 0.05 ± 0.11 % w.b.

(0.37 ± 0.78 % d.b.)とほぼ同様の値を示したことから、魚類餌料としての両種のクラ

ゲのカロリー面での価値はほぼ同じであると考えられる。

本実験で用いたエチゼンクラゲの水分含量(97.4 ± 1.3 %)は、前節で用いたミズクラ

ゲ(98.0 %、Table 2-1-2)とほぼ同様であったが、脂質含量(1.9 ± 0.0 % d.b.)はミズク

ラゲ(3.0 % d.b.)に比べて低く、エチゼンクラゲ(NL:1.1 g per 100 g d.b.、PL:0.8 g per

100 g d.b.)は、前節のミズクラゲ(NL:0.7 g per 100 g d.b.、PL:1.2 g per 100 g d.b.)よ

りも NLが多く含まれていた。しかしながら、どちらのクラゲも配合飼料(17.7 ± 0.1 %

d.b.、Table 2-4-4)やオキアミ(9.7 % d.b.、Table 2-1-2)と比べて脂質含量が少なかった。

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ミズクラゲの脂質は TG(31.0 %、Table 2-1-2)が優占していたが、エチゼンクラゲでは

7.7 ± 2.0 %しか含まれず、遊離脂肪酸が優占した。供試魚の肝臓の NL含量は S区と J 区

よりも P 区と JP 区で高い値を示したことから、配合飼料の給餌により、脂質は主に肝

臓に NLとして蓄積されたと考えられる。また、本実験ではカワハギ稚魚へのエチゼン

クラゲの給餌に n-3HUFA 含量の増加の効果は見られなかったものの、ミズクラゲ給餌

の場合と同様に、J 区では TG 含有率が S 区よりも有意に低かったことから、クラゲ類

の給餌に TG含量を減少させる何らかの効果があると推察される。

ミズクラゲ(5.6 %、Table 2-1-3)と同様に、エチゼンクラゲ(NL:1.1 ± 0.1 %、PL:

5.6 ± 0.2 %)には PL中に ARAが高率に含まれており、これは配合飼料(0.5 ± 0.1 %、

Table 2-4-5)の ARA含有率よりかなり高かった。一方で EPAはエチゼンクラゲ(NL:

13.6 ± 1.9 %、PL:4.3 ± 0.2 %)に比べて前節のミズクラゲ(22.3 %)に多く、DHAは前

節のミズクラゲ(0.9 %)に比べてエチゼンクラゲ(NL:2.8 ± 0.5 %、PL:3.8 ± 0.7 %)

に高率で含まれていた。配合飼料は EPA(11.4 ± 0.9 %)をエチゼンクラゲと同程度、DHA

(8.5 ± 0.6 %)をエチゼンクラゲより高率に含有していた。n-3HUFA はミズクラゲ(25.1 %)、

配合飼料(21.3 ± 1.3 %)、エチゼンクラゲ(NL:15.4 ± 2.5 %、PL:9.9 ± 0.9 %)の順に、

n-6HUFA はエチゼンクラゲ(NL:3.2 ± 0.5 %、PL:8.1 ± 0.5 %)とミズクラゲ(6. 8 %)で

配合飼料(1.0 ± 0.4 %)に比べて高率で含まれていた。しかしながら、Fukuda and Naganuma

(2001)はミズクラゲの全脂肪酸に占める ARA含有率は 2-9 %、EPAは 10-16 %、DHA

は 3-7 %としているのに対し、Nichols et al.(2003)はミズクラゲの DHA含有率を 9.8 ±

1.8 %と報告しており、これら HUFAは他の脂肪酸に比べて含有率が高いものの、その

割合はクラゲの状態や時期、餌条件によって大きく変動するものと推察される。

ARA と n-6HUFA の含有率と含有量は、肝臓の NL 中では P 区に比べて JP 区で、肝

臓を除く魚体の PL 中では S 区に比べて J 区で、P 区に比べて JP 区で、そして肝臓の

PL 中では S 区に比べて J 区で有意に多かったことから、カワハギ稚魚へのエチゼンク

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ラゲ給餌は ARAをはじめとする n-6HUFA含有率を高めることが分かった。これは、配

合飼料に比べてエチゼンクラゲでこれらの脂肪酸含有率が高かったことによると考え

られる。一方、EPA や DHA といった n-3HUFA はエチゼンクラゲより配合飼料に多く

含まれており、エチゼンクラゲ給餌にこれらの脂肪酸の含有率を高める効果は観察され

なかった。また、肝臓の NL中の EPA、DHAと n-3HUFAは J 区でのみ低い傾向が見ら

れた。エチゼンクラゲと J 区の脂肪酸分析では、数値データはないものの DHA 以上の

長鎖の脂肪酸が検出されており、より長鎖の脂肪酸がエチゼンクラゲに多く含まれてい

た可能性がある(栗原 紋子、未発表)。一方で、肝臓の PL中の全脂肪酸に占める DHA

と n-3HUFA 含有量は J 区に比べて S 区で有意に多かった。この理由としては、飢餓条

件下では魚体内の HUFA、特に DHA が保存されやすいため、その含有率が高まること

が挙げられる(de Silva et al. 1997)。BW の成長率を考慮すると、S区では J 区よりもよ

り強い飢餓状態にあったと考えられることから、DHAや n-3HUFAは S区で J 区より高

い値を示したものと推察される。

エチゼンクラゲの FAA総含量(1894 mg per 100 g d.b.)は、第 3節と第 4節に示した

ミズクラゲ(276 mg per 100 g d.b、Table 2-3-5; 284 mg per 100 g d.b.、Table 2-4-6)や配合

飼料(1374 mg per 100 g d.b、Table 2-4-6)と比較して高い値を示した。ミズクラゲはグ

リシンが最も多く、次いでタウリンが多く含まれていたが、エチゼンクラゲではタウリ

ンが優占した。肝臓を除く魚体に含まれるタウリンは S区に比べて J 区で、P区に比べ

て JP 区で有意に多く、肝臓では S 区に比べて J 区で有意に多かったことから、エチゼ

ンクラゲの給餌には魚体のタウリン含量を高める効果がある可能性が高い。これは、エ

チゼンクラゲの FAA 含量が配合飼料のそれと比較して多く、全体として魚体の組成に

反映されやすかったためであると考えられる。

含硫アミノ酸の一つであるタウリンは水産生物の組織に広く、かつ多量に分布してお

り(松成ら 2003)、その生理作用として、海産生物の浸透圧調整物質となることが古く

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41

から知られている。これに加え、ヒラメ、ブリ、クロマグロ Thunnus orientalis やマダイ

ではタウリン合成に関わるシステイン硫酸脱炭酸酵素の活性が微弱であるために、体内

でのタウリン合成が不十分であることが明らかになっており(Yokoyama et al. 2001; 後

藤 2002; 竹内 2005)、飼料へのタウリン添加がヒラメ稚魚の成長や飼料効率の改善に

有効であることが分かっている。このような効果は、マダイ、スギ Rachycentron canadum

やヨーロッパキダイ Dentex dentex 稚魚でも報告されている(Lunger et al. 2007;

Chatzifotis et al. 2008)。また、ヒラメ稚魚に低タウリン含有飼料を与えると摂餌行動が

緩慢になり、天然個体と異なる行動を示すが、タウリンの多い餌料を与えることでこれ

らの行動が改善されることが明らかになっている(古田 1993; 朴ら 2000; Park et al.

2002; reviewed by 松成ら 2003; Kim et al. 2005)。これは、網膜形成に関与するタウリン

の欠乏により餌がよく見えない、またはタウリンが神経伝達物質として働くことから、

行動制御機能がうまく伝達できず、行動に異常をきたしている可能性が指摘されている

(竹内 2010)。マダイ稚魚でも低タウリン含有飼料の給餌により、不活発な摂餌行動や

体色の黒ずみが生じる(Matsunari et al. 2008)。また、タウリンの飼料への添加は、マダ

イやブリの緑肝症の症状の軽減に有効であることも示されている(Goto et al. 2001)。一

方で、ブリ稚魚は餌料のタウリン含量を反映しやすく、ブリの天然稚魚の遊離アミノ酸

含有量は人工種苗に比べて多く、タウリンは人工種苗より 2-4倍多く含有することが報

告されている(松成ら 2003)。これらのことから、カワハギへのエチゼンクラゲの給餌

は、養殖魚の成長の改善や天然個体に近い性質の放流種苗の作出に効果的である可能性

がある。

2-3. ミズクラゲ給餌によるトラフグの体成分と行動の改善

本章 1、2 節では、カワハギはクラゲ類のみを摂餌することで生残や成長が可能であ

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42

り、カワハギにとってクラゲ類はエネルギー源となることを示した。また、クラゲ類に

は特に ARA などの n-6HUFA が多く含まれており、魚体にその組成が反映されること、

およびクラゲ類の給餌によって魚体の TGの蓄積が抑制されることが示された。本節で

は、カワハギと同じフグ目であり、かつ本邦で最も商業的価値の高い魚種の一つである

トラフグにおいて(林 1997)、ミズクラゲ給餌が行動と体成分へ与える影響について検

討した。

トラフグ飼育の主な障害として、噛み合いによる尾鰭の損傷が指摘される(西塔・國

崎 1998)。トラフグ種苗間の噛み合いは、傷口からのビブリオ菌や滑走細菌の感染を招

き、養殖魚の死亡率を増加させる。このような噛み合いは飢餓、水質の悪化や飼育密度

が高いことによるストレスによって生じ(Hosoya et al. 2008)、これらストレスの緩和策

はいまだ十分ではなく、現在は稚魚期に歯を切除することで噛み合いによる魚体の損傷

を防いでいる。そこで本節では、ミズクラゲを常時与えて飢餓状態を防ぐことで、供試

魚の噛み合い行動が減少するという仮説を立て、その検証を行った。

多くの養殖魚では一般に、高カロリーな餌を与えることによって、天然魚と比べて過

剰な脂質蓄積が生じ(Wood et al. 1957; 志水ら 1973; 佐伯・熊谷 1984; 国崎ら 1986;

森下ら 1988; 畑江ら 1989; 青木ら 1991)、結果として健康状態の悪化を招くことが知

られる。トラフグでは、過剰な脂質は主にステリルエステルと TGの形で肝臓に蓄積し

やすいことが分かっている(Ando et al. 1993; Takii et al. 1995)。一方、栽培漁業におい

て、トラフグの人工種苗は天然個体に比べて放流後の被食率が高く、特に放流直後の短

期間に集中的に被食が起こることが知られるが(Shimizu et al. 2008)、このようなトラ

フグの栽培漁業における被食の主要因は、行動特性が天然個体に劣ることによるとされ

る。人工種苗の行動特性は、栄養学的要因によっても引き起こされることが知られ

(reviewed by Le Vay et al. 2007)、人工種苗の高い被食率と脂質含量との関係が疑われる。

本実験では、トラフグ稚魚へのミズクラゲ給餌の効果を明らかにすることを目的とし、

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ミズクラゲ給餌が(1)生残と成長、(2)脂質、脂肪酸とアミノ酸組成、(3)噛み合い

行動、および(4)その他の行動特性、すなわち活動性、反射反応性と突進速度へ与え

る影響について検討した。飼育実験は、供試魚間の噛み合いを防ぎ体成分分析に供する

ための単独飼育(Exp. 1)と、クラゲ給餌の噛み合い行動への影響を観察するための複

数飼育(Exp. 2)を行った。

【材料と方法】

Experiment 1:単独飼育実験

人工孵化のトラフグ稚魚(実験開始時 89 dph、松本水産、宮崎)計 40個体を実験に

用いた。供試魚は京都大学舞鶴水産実験所に移送し、2-フェノキシエタノールで麻酔し

た後、実験開始時の魚体サイズを計測した。実験開始時のSLとBWはそれぞれ 42.4 ± 1.6

mm と 2.35 ± 0.24 g(平均 ± SD)であり、実験区間に有意な差はなかった(Welch’s

ANOVA)。供試魚はそれぞれ飼育水槽(28 × 16 × 18 cm3、w × d × h)に単独で収容し、

止水条件で配合飼料を摂餌するまで 69 時間馴致した後、給餌実験を開始した。飼育水

槽の側面は黒色のビニールシートで覆い、上面はメッシュ状の蓋をした。直射日光の当

たらない屋外に水槽を設置し、蛍光灯を 8:00 から 20:00 まで点灯させた(12L:12D)。

飼育水は 1日 1回全量を交換した。

単独飼育実験[Experiment 1(Exp. 1)]は 2009 年 6月 12日から 20日間行った。実験

には以下の 4給餌区に、それぞれ 10水槽を用いた(飼育密度:1 ind tank-1で、計 40水

槽)。飢餓区(S):実験中、給餌を行わない、クラゲ区(J):ミズクラゲのみを給餌、

配合区(P):配合飼料のみを給餌、混合区(JP):ミズクラゲと配合飼料の両者を給餌。

S区は J 区の、P区は JP区の対照区とした。J 区と JP区では常時ミズクラゲを摂餌可能

な状態にし、P区と JP区では 1日当たり体重の約 5 %(実験開始 1-12日:0.12 g day-1、

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13-20日:0.18 g day-1)の配合飼料(おとひめ EP1; 日清丸紅飼料株式会社、東京)を、

9:00、12:00 と 14:00の 3回に分けて給餌した。配合飼料の残餌は 1日 1回除去した。給

餌時と回収時の湿重量の差をミズクラゲ摂餌量とし、毎日 12:00に計量した。ミズクラ

ゲの付着水分は、計量前に目合い 1 mm のタモ網を用いて 15 秒間干出することで除去

した。ミズクラゲは京都大学舞鶴水産実験所の浮き桟橋付近で採集し、濾過海水を換水

させた 500 L のミズクラゲ飼育水槽に収容した。すべてのミズクラゲは採集後 24 時間

以内に供試魚に給餌した。供試魚に供する 4時間前にミズクラゲを栄養強化水槽に移送

し、解凍した冷凍コペポーダ(シーホースウェイズ株式会社、鹿児島)を 2 g L–1の密

度で与え、ミズクラゲを 1時間栄養強化した。栄養強化後、ミズクラゲは飼育水槽に戻

した。ミズクラゲがコペポーダの消化に要する時間は約 3時間以内と報告されているた

め(Bamstedt and Martinussen 2000)、供試魚がコペポーダを直接摂餌することはなかっ

たと考えられる。

実験は自然水温(21.9 ± 2.1 oC、平均 ± SD; range:18.4-25.1 oC)で行い、飼育水温は

水槽間に有意な差はなかった(repeated measures one-way ANOVA)。最終給餌の 48時間

後に、供試魚を 2-フェノキシエタノールで麻酔し、実験終了時のサイズを計測した。実

験前後のサイズ計測後に、P区のすべての個体の尾鰭の写真を撮影し、噛み合いが生じ

ない場合の尾鰭面積の増加を画像解析ソフト(ImageJ; National Institutes of Health、USA)

で計測した。

Experiment 2:複数飼育実験

複数飼育実験は Exp. 1と同年同時期に行った。各給餌区にそれぞれ 3水槽(45 × 30 ×

30 cm3、w × d × h)を用い、各水槽にトラフグを 4個体ずつ収容したことを除き(飼育

密度:4 ind tank-1で計 12水槽)、Exp. 1と基本的に同様の行程とした。実験開始時の SL

と BW はそれぞれ 42.1 ± 2.0 mm と 2.31 ± 0.24 g (平均 ± SD)であり、実験区間に有

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意な差はなかった(Welch’s ANOVA)。すべての供試魚は、実験開始時のサイズ計測後

に、尾鰭基部にイラストマー蛍光標識(Northwest Marine Technology, Inc.、USA)を注

射することで個体識別した。飼育水は自然水温(21.1 ± 1.1 oC、平均 ± SD; range:18.6-22.3

oC)で換水させ、飼育水温は水槽間に有意な差は見られなかった(repeated measures

one-way ANOVA)。実験開始時と終了時のサイズ計測後、すべての供試魚の尾鰭を写真

撮影した。

遊泳率、反射反応率と突進速度の計測

Exp. 1 の最終給餌直後(給餌開始から 20 日後)に生残していたすべての供試魚を、

行動特性の計測に用いた(S区:n = 8、J 区:n = 6、P区:n = 10、JP区:n = 8)。側面

を黒色ビニールシート、底面を白色ビニールシートで覆った 10L の円形透明水槽(水

深 4 cm)に供試魚を 1 個体ずつ収容した。2分間の馴致の後、供試魚の行動をデジタル

ビデオカメラ(PCR-PC350; ソニー株式会社、東京)を用いて録画した。供試魚は馴致

後の最初の 90秒間を自由遊泳させた後、背後から 3 ml のガラス製駒込ピペットでつつ

く接触刺激を 20秒間隔で 5回与えた。活動性の指標としての遊泳率(%)、刺激に対す

る反射反応率(%)、および遊泳能力としての突進速度(SL sec-1)の 3項目をビデオ映

像の解析により計測した。遊泳率は、馴致後の最初の 90 秒間に遊泳していた時間の割

合と定義した。反射反応率は、各個体が 5回の接触刺激に対して反応した回数の割合と

した。突進速度は、録画映像の接触刺激を与えた直後の 3フレーム(= 9/ 25 秒)の供試

魚の総移動距離から算出した。突進速度は、少なくとも 1回以上の反射反応を示した個

体でのみ計測し、個体ごとの平均値を算出した(S区:n = 8、J 区:n = 6、P区:n = 7、

JP区:n = 6)。

水分、脂質、脂肪酸および遊離アミノ酸組成分析

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Exp. 1後の魚体(肝臓を含む魚体全体)および餌料の水分含量、脂質組成、脂肪酸組

成および FAA 組成分析を行った。各実験区からそれぞれ 6 個体を無作為に抽出し、2

個体ずつプールすることで 3試料を作出し、分析に供した。ミズクラゲと配合飼料はそ

れぞれ 3試料を分析に供した。水分、脂質、および脂肪酸については第 2章 1節と、FAA

については第 2章 2節と同様の方法で分析を行った。

データ解析

初回給餌から最終給餌の 48時間後までの 22日間に生残した個体数の割合を生残率と

し、突発的な事故によって死亡した個体は生残率の算出から除外した。SL と BW の日

間成長率は式(2-1-1a, b)から、実験開始時と終了時の肥満度は式(2-1-2)から算出し

た。BW 当たりの日間ミズクラゲ摂餌量は式(2-1-3, 4)を用いて、ミズクラゲの餌料転

換効率は式(2-1-5)を用いて算出した。ただし、Fd (g)は給餌開始 d日目(1 < d < 22)

の個体ごとのミズクラゲ摂餌量(Exp. 1)、または水槽ごとのミズクラゲ摂餌量(Exp. 2)

を示し、Wd(g)は給餌 d日目の個体の推定 BW(Exp. 1)、または同水槽内の個体の推

定 BW の総和(Exp. 2)を示す。斃死個体と飛び出しにより死亡した個体は、死亡日が

不明な個体のみ成長率と肥満度の算出から除外した。

尾鰭残存率は以下の式から算出した。

Remaining rate of caudal fin (%) = [final fin area (cm2) / estimated intact fin area (cm2)] × 100

…式(2-3-1)

推定完全尾鰭面積は以下の式から推定した。

Estimated intact fin area (c𝑚2) = 1

n∑

𝑆𝑖

𝐿𝑖2

𝑛𝑖=1 ×𝐿𝑔𝑖

2 …式(2-3-2)

ここで、n は Exp. 1の P区の個体数(n = 10)を、Si は Exp. 1の P区の i番目の個体の

尾鰭面積を、Li は Exp. 1 の P区の i 番目の個体の実験終了時 SLを、Lgi は Exp. 2 の個

体の実験終了時 SLを表す。

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統計処理

日間ミズクラゲ摂餌量を除く Exp. 2 のすべてのデータは、実験区間の比較の前に同

一実験区の 3水槽間に有意差がないことを確認し(one-way ANOVA)、同一実験区の 3

水槽の個体をプールして統計解析を行った。生残率の実験区間の差は Kaplan–Meier

method を用いて Log-rank test で検定し、Bonferroni 補正(adjusted a = 0.0083)を行った。

両飼育実験の実験開始時のサイズと肥満度、Exp. 2 の実験終了時の肥満度と実験開始時

の尾鰭面積はWelch’s ANOVAで実験区間の比較を行った。両飼育実験の実験終了時の

サイズと SLと BWの日間成長率、Exp. 1の実験終了時の肥満度、および Exp. 2の実験

終了時の尾鰭面積は Tukey HSD test で実験区間の差を検定した。尾鰭残存率は

Steel-Dwass test で検定を行うことで実験区間の差を調べた。両飼育実験の実験開始時と

終了時の間の肥満度、遊泳率の S区と J 区の間、および反射反応率と突進速度の S区と

J 区、P区と JP区の間は Student’s t-test で検定した。遊泳率の P区と JP区の間、および

栄養分析の S区と J 区、P区と JP区および両餌料の間はMann-Whitney U-test で結果を

比較した。両飼育実験の飼育水温の実験区間の相違、および J 区と JP 区の日間ミズク

ラゲ摂餌量の相違は repeated measures one-way ANOVA で検定した。すべての検定の有

意水準は a = 0.05 とした。

【結果】

生残と成長

Exp. 1 では、実験区間の有意差はなかったものの、S区と J 区において各 3個体が斃

死したのに対して、P 区と JP 区では斃死個体は見られなかった(Log-rank test with

Bonferroni correction, adjusted a = 0.0083、Fig. 2-3-1a)。Exp. 2 では、S区と J 区でそれぞ

れ 9個体が斃死したのに対して、P区と JP区では斃死個体は見られず、S区と J 区に比

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べて P区と JP区の生残率は有意に高かった(Fig. 2-3-1b)。Exp. 1では J 区と JP区でそ

れぞれ 1個体と 2個体が、Exp. 2 では P区と JP区でそれぞれ 4 個体と 1個体が水槽か

らの飛び出しにより死亡した。

Fig. 2-3-1. Survival rates of tiger puffers in each treatment in the solitary (a) and group (b)

rearing experiments. Lower case letters indicate significant differences among treatments

(Log-rank test with Bonferroni correction, adjusted a = 0.0083).

実験終了時の Exp. 1 の SLは P区で最も大きく、次いで JP区、S区、J 区の順であっ

たのに対して、BW は P区で最も大きく、次いで JP、J、S区の順であった(それぞれ n

= 10、Table 2-3-1)。一方で、実験終了時の Exp. 2の SLと BWはどちらも、JP区、P区、

J 区、S区の順に大きかった(それぞれ n = 11)。実験終了時の Exp. 1のサイズと Exp. 2

の BW は、S 区と J 区の間を除くすべての実験区間で有意な差が見られ、Exp. 2 の SL

は S区と J 区に比べて P区と JP区で有意に大きかった(Tukey HSD test)。

Exp. 1 の SL と BW の日間成長率は、どちらも P 区で最も高い値を示し、次いで JP

区、J 区、S区の順であり、SLの S区と J 区の間を除くすべての実験区間に有意差が見

20

40

60

80

100

1 6 11 16 21

Su

rviv

al ra

te (%

, so

lita

ry)

Starved (S)

Jellyfish (J)

Pellets (P)

Mixed (JP)

(a)

20

40

60

80

100

1 6 11 16 21

Su

rviv

al ra

te (

%, g

rou

p)

Elapsed time of experiment (days)

(b) aa

bb

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られた(Tukey HSD test、Fig. 2-3-2a)。Exp. 2では SL、BW とも、P区と JP 区で S区と

J 区に比べて有意に大きかった(Tukey HSD test、Fig. 2-3-2b)。

Fig. 2-3-2. Daily growth rate (mean ± SD) in terms of standard length (SL) and wet body weight

(BW) of tiger puffer reared using four different dietary conditions in the solitary (a) and group

(b) experiments. Letters above the bars indicate significant differences among treatments (Tukey

HSD test).

実験開始時の Exp. 1の肥満度は実験区間に有意差はなかったが(Welch’s ANOVA)、

実験終了時の肥満度は P 区と JP 区の間を除くすべての実験区間に有意差が見られた

(Tukey HSD test、Fig. 2-3-3a)。Exp. 2 では実験開始時と終了時の両方で、実験区間に

有意な差は見られなかった(Welch’s ANOVA、Fig. 2-3-3b)。Exp. 1と 2 のどちらにおい

ても、S 区と J 区では実験開始時に比べて実験終了時で肥満度は有意に減少した

(Student’s t-test)。

a a

cb

AB

D

C

-3

0

3

6

SL BW

n = 10 n = 10 n = 10 n = 10

(a)

a

a

b b

A A

B B

-3

0

3

6

SL BW

Starved (S) Jellyfish (J) Pellets (P) Mixed (JP)

n = 11 n =11 n = 11 n = 11

(b)

Daily

gro

wth

ra

te (

%,

gro

up

) D

aily

gro

wth

ra

te (

%, so

lita

ry)

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50

Fig. 2-3-3. Obesity indexes (mean ± SD) in terms of initial and final measurements of tiger

puffer reared using four different dietary conditions in the solitary (a) and group (b) experiments.

Letters above the bars indicate significant differences among treatments (Tukey HSD test).

Asterisks (*) above the bracket indicate significant differences between initial and final values

(Student’s t-test).

摂餌量と餌料転換効率

Exp. 1の BW 当たりの日間ミズクラゲ摂餌量は、J 区で 12.7 ± 9.9 g BW-1 day-1(平均 ±

SD)、JP区で 6.7 ± 3.8 g BW-1 day-1であり、Exp. 2 では J 区で 4.4 ± 3.7 g BW-1 day-1、JP

区で 1.6 ± 0.9 g BW-1 day-1であった(Fig. 2-3-4a, b)。両飼育実験とも、JP 区に比べて J

区の摂餌量は有意に多かった(repeated measures one-way ANOVA)。どちらの飼育実験

でも、実験初日からミズクラゲの摂餌が見られたものの、供試魚は給餌開始 10 日後か

らミズクラゲを大量に摂餌し始めた[実験開始 1-9 日の BW 当たりの日間ミズクラゲ

摂餌量(J 区および JP 区):4.5 ± 2.1 および 3.8 ± 1.5 g BW-1 day-1(Exp. 1)、1.4 ± 0.5お

A

B

C

C

20

25

30

35

40

Ob

esity in

de

x (

so

lita

ry)

Initial Final

n = 10, 10 n = 10, 10 n =10, 10 n = 10, 10

* *

(a)

20

25

30

35

40

Ob

esity in

de

x (

gro

up

) Initial Final

Starved (S) Jellyfish (J) Pellets (P) Mixed (JP)

n = 12, 11 n = 12, 11 n = 12, 11 n = 12, 11

(b) *

*

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よび 1.4 ± 0.8 g BW-1 day-1(Exp. 2)、実験開始 10-20日の BW 当たりの日間ミズクラゲ

摂餌量:20.8 ± 7.7および 9.5 ± 3.2 g BW-1 day-1(Exp. 1)、6.9 ± 3.3および 1.8 ± 0.9 g BW-1

day-1(Exp. 2)]。Exp. 1でのみ、JP区で大量の配合飼料の残餌が実験開始後から数日間

観察された。ミズクラゲの餌料転換効率は、Exp. 1 で-0.07 ± 0.04 % w.b.(n = 10、-0.35 ±

0.22 % d.b.)、Exp. 2で-0.19 ± 0.07 % w.b.(n = 11、-0.90 ± 0.32 % d.b.)であった(Table 2-3-1)。

Fig. 2-3-4. Daily jellyfish intake per fish body weight (BW) in the solitary (a) and group (b)

rearing experiments (mean ± SD). Lower case letters indicate significant differences between

the J and JP treatments (repeated measures one-way ANOVA).

尾鰭の噛み合い

Exp. 1の P区の実験開始時と終了時の平均尾鰭面積は、それぞれ 0.6 ± 0.1 cm2と 1.6 ±

0.2 cm2であった。Exp. 2の実験開始時の尾鰭面積は実験区間に有意差は見られなかった

(Welch’s ANOVA、Table 2-3-1)。Exp. 2の実験終了時の尾鰭面積は JP、P、J、S区の順

に大きく、尾鰭残存率は P区で最も高く、次いで JP、J、S区の順であった(Table 2-3-1)。

0

10

20

30

40

1 6 11 16 21

Je

llyfish

in

take

pe

r B

W(g

, so

lita

ry)

(a)

a

b

0

6

12

18

1 6 11 16 21

Je

llyfish

in

take

pe

r B

W

(g, g

rou

p)

Elapsed day of experiment (days)

Jellyfish (J)

Mixed (JP)

(b)

a

b

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Exp. 2の実験終了時の尾鰭面積と尾鰭残存率はともに、S区と J 区に比べて P区と JP区

で有意に大きかった(実験終了時尾鰭面積:Tukey HSD test、尾鰭残存率:Steel-Dwass test)。

Table 2-3-1. Final standard length (SL), wet body weight (BW), caudal fin area and remaining

rate of caudal fin in tiger puffer reared using four different dietary conditions and food

conversion efficiency of moon jellyfish (mean ± SD). Lower case letters indicate significant

differences among treatments (Remaining rate of caudal fin: Steel-Dwass test, others: Tukey

HSD test)

Treatment Starved (S) Jellyfish (J) Pellets (P) Mixed (JP)

Exp. 1

Final SL (mm) 42.53±1.46a 37.43±2.84a 61.70±1.41c 57.40±1.66b

Final BW (g) 1.62±0.25a 1.65±0.50a 6.92±0.34c 5.68±0.36b

Food conversion efficiency (% w.b.)*1

(% d.b.)*2, 3 ― -0.07±0.04

(-0.35±0.22) ― ―

Exp. 2

Final SL (mm) 40.49±2.32a 42.04±1.85a 55.71±6.59b 60.21±3.31b

Final BW (g) 1.81±0.30a 1.99±0.21a 5.37±1.55b 6.51±1.12c

Initial caudal fin area (cm2) 0.61±0.15 0.56±0.14 0.58±0.11 0.57±0.14

Final caudal fin area (cm2) 0.21±0.21a 0.24±0.26a 0.82±0.35b 0.92±0.36b

Remaining rate of caudal fin (%) 30.1 ± 29.8a 31.5 ± 35.6a 66.0 ± 21.4b 63.9 ± 24.0b

Food conversion efficiency (% w.b.)*1

(% d.b.)*2, 3 ― -0.19±0.07

(-0.90±0.32) ― ―

*1: % in wet basis

*2: % in dry basis

*3: Food conversion efficiency (%) = [total body weight gain (g) / total food intake (g)] × 100

行動特性

P区でのみ、配合飼料を給餌しても反応を示さない個体が飼育実験中に頻繁に観察さ

れた。これらの供試魚は、活動性が低く常に水槽底部に接していた。遊泳率は S区と J

区の間には有意差はなかったものの(Student’s t-test)、P区では JP区に比べて有意に低

かった(Mann-Whitney U-test、Fig. 2-3-5a)。遊泳行動を示した供試魚の大部分は、突進

行動や水槽壁面への衝突といったパニック状態と思われる遊泳行動ではなく、巡航遊泳

を行っていた。反射反応率についても、S 区と J 区の間に有意差はなかったが、P 区で

は JP区に比べて有意に低かった(Student’s t-test、Fig. 2-3-5b)。突進速度には S区と J

区の間およびP区と JP区の間のどちらにも有意な差は見られなかった(Student’s t-test、

Fig. 2-3-5c)。

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Fig. 2-3-5. (a) Active swimming rate [median (25-75 percentile)], (b) stimulus response rate

[median (25-75 percentile)], and (c) burst swimming speed per standard length (SL) (mean ±

SD). Asterisks (*) indicate significant differences between the S and J treatments or between the

P and JP treatments (a: Student’s t-test between the S and J treatments, Mann-Whitney U-test

between the P and JP treatments; b: Student’s t-test; c: Student’s t-test).

S区と J 区では遊泳率、反射反応率ともに高い個体が目立った(Fig. 2-3-6a, b)。P区

では遊泳率が高い個体と低い個体の二峰分布をとり、反射反応率は概して低く、全く遊

泳せず反射反応を示さない個体が多数観察されたのに対して(Fig. 2-3-6c)、JP区では反

射反応率にばらつきが大きかったものの、遊泳率は高い個体が多かった(Fig. 2-3-6d)。

0

50

100

Active

sw

imm

ing

ra

te (

%)

n = 8 n = 6 n = 10 n = 8

(a) *

0

50

100

Stim

ulu

s r

esp

on

se

ra

te (

%)

n = 8 n = 6 n = 10 n = 8

(b) *

0

1

2

3

4

5

6

Bu

rst sw

imm

ing

sp

ee

d

(S

L s

ec

-1)

Starved (S) Jellyfish (J) Pellets (P) Mixed (JP)

n = 8 n = 6 n = 7 n = 6

(c)

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Fig. 2-3-6. The correlations of active swimming rate and stimulus response rate of the starved [S,

(a)], jellyfish [J, (b)], pellets [P, (c)] and mixed [JP, (d)] treatments.

魚体成分組成

本実験で用いたミズクラゲの全脂質に占める PL含有率は、配合飼料に比べて有意に

高かったのに対して、ミズクラゲの総脂質、NLと PL含量および NL含有率、特に TG

含有率は配合飼料に比べて有意に低かった(Mann-Whitney U-test、Table 2-3-2)。J 区の

全脂質に占める PL 含有率は S 区に比べて有意に高かったのに対して、J 区の NL 含量

と含有率は S区に比べて有意に低く、J 区の TG含有率は概して低かった(Mann-Whitney

0

20

40

60

80

100

0 20 40 60 80 100

(a)

Starved (S) n = 8

n = 1

n = 2

n = 3

n = 4

0

20

40

60

80

100

0 20 40 60 80 100

(b)

Jellyfish (J) n = 6

0

20

40

60

80

100

0 20 40 60 80 100

(c)

Pellets (P) n = 10

0

20

40

60

80

100

0 20 40 60 80 100

(d)

Mixed (JP) n = 8

Stim

ulu

s r

esp

on

se

ra

te (

%)

Active swimming rate (%)

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U-test、Table 2-3-2)。また、JP区の全脂質に占める PL含有率は P区に比べて有意に高

かったのに対し、JP 区の総脂質含量、NL 含量と NL 含有率、特に TG 含有率は P 区に

比べて有意に低かった。P区と JP区の NL含量の大部分は TGからなり、S区と J 区で

はホスファチジルコリン(PC)と FSが優占した。

Table 2-3-2. Moisture, lipid content and lipid class of the whole body of tiger puffer at final

measurement and prey items (mean ± SD). Asterisks (*) indicate significant differences

between the S and J treatments, between the P and JP treatments, or between jellyfish and

pellets (n = 3, Mann-Whitney U-test).

Treatment Prey item

Starved

(S)

Jellyfish

(J)

Pellets

(P)

Mixed

(JP) Jellyfish Pellets

Moisture (%) 83.9±1.0 84.1±1.3 79.7±0.1 79.8±0.8 96.7±0.2* 3.7±0.2

Lipid (%d.b.)*1 7.1±0.5 6.7±0.8 19.4±0.3* 16.3±0.8 0.7±0.0 17.7±0.0*

Neutral lipids*2 2.8±0.2* 2.1±0.2 14.8±0.9* 11.7±0.5 0.2±0.0 13.8±0.1*

Polar lipids*2 4.3±0.4 4.6±0.6 4.7±0.1 4.7±0.3 0.5±0.0 4.0±0.1*

Neutral lipids (area, %)*3

SE 2.3±2.0 4.3±0.9 0.2±0.1 0.4±0.3 4.4±1.3* 0.3±0.0

TG 7.6±12.8 0.3±0.1 70.0±1.5* 62.8±1.6 7.0±3.1 70.2±0.9*

FFA 1.7±0.7 2.1±0.2 0.5±0.1 0.8±0.5 2.6±0.5* 0.2±0.1

FS 25.1±11.6 21.4±0.7 3.7±0.3 5.3±0.8* 12.1±0.4* 2.0±0.4

DG + MG 2.7±1.5 3.8±1.1 1.5±0.4 2.2±0.4 3.8±0.7 5.1±1.2

Subtotal 39.3±1.7* 31.9±1.9 76.0±1.7* 71.4±2.1 29.9±4.5 77.7±0.4*

Polar lipids (area, %)*3

PA 8.0±4.7 5.6±2.7 1.3±0.3 1.4±0.7 5.0±2.4* 1.4±0.1

PE 15.1±0.6 19.4±3.0* 7.0±1.4 7.0±1.0 16.5±1.4* 3.3±0.2

PS 3.3±0.9 3.0±2.6 0.8±0.7 1.9±0.9* 14.0±2.2* 0.1±0.1

PI 1.2±1.0 0.3±0.5 0.1±0.1 0.2±0.2 4.4±1.9* 0.0±0.0

LPE 2.2±2.4 3.0±3.3 0.3±0.4 0.5±0.4 1.0±1.8 0.1±0.1

PC 25.1±3.0 28.7±5.3 12.7±1.0 15.7±1.3* 20.9±2.0* 15.6±0.2

Sph 5.0±0.2 7.9±0.8* 1.6±0.4 1.6±0.2 3.7±0.5* 0.0±0.0

LPC 0.6±0.6 0.3±0.4 0.2±0.2 0.4±0.1 4.6±2.4* 1.9±0.0

Subtotal 60.7±0.2 68.1±0.2* 24.0±0.5 28.6±0.9* 70.1±0.0* 22.3±0.1

*1: % in dry basis.

*2: g per 100 g in dry basis.

*3: % per whole lipid.

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全脂肪酸に占める ARA、EPA、DHAと n-3および n-6HUFAの含有率は、配合飼料に

比べてミズクラゲで有意に高かった(Mann-Whitney U-test、Table 2-3-3)。n-3HUFA 含

有率の J 区と S 区の間を除き、魚体の ARA、DHA と n-3 および n-6 HUFA 含有率は S

区に比べて J 区で、P 区に比べて JP 区で有意に高く(Mann-Whitney U-test)、J 区の

n-3HUFA含有率は、有意差はなかったものの S区に比べて高い傾向が見られた。

Table 2-3-3. Whole body fatty acid composition of the tiger puffers at final measurement and

prey items (mean ± SD). Asterisks (*) indicate significant differences between the S and J

treatments, between the P and JP treatments, or between jellyfish and pellets (n = 3,

Mann-Whitney U-test). Treatment Prey item

Starved (S) Jellyfish (J) Pellets (P) Mixed (JP) Jellyfish Pellets

Fatty acid composition (area, %) 14:0 1.6±0.7 1.1±0.4 5.5±0.4* 4.3±0.5 2.5±0.2 8.7±0.4* 15:0 0.5±0.2 0.5±0.1 0.5±0.0 0.4±0.5 0.8±0.1* 0.5±0.0 16:0 15.3±0.5 15.1±1.3 21.4±0.5* 19.6±0.8 12.5±1.3 20.4±1.1* 16:1n-7 1.7±0.2 2.5±0.4* 9.6±0.5 8.7±0.9 3.4±0.3 8.3±0.4*

17:0 1.4±1.9 0.4±0.1 0.4±0.0 0.3±0.0 1.6±0.2* 0.5±0.1 16:3n-6 0.5±0.0 0.6±0.1 0.3±0.0 0.3±0.0 0.7±0.1* 0.3±0.1 16:3n-3 2.7±1.0 2.5±1.0 0.7±0.1 0.7±0.1 7.0±1.3* 0.6±0.1 18:0 8.3±2.0 10.8±0.3* 5.0±0.2 4.9±0.2 10.0±0.2* 2.0±0.1

18:1 14.2±1.3 12.7±0.4 19.3±0.4 18.3±1.7 3.5±0.2 16.4±1.1* 18:2n-6 3.9±0.3* 3.1±0.3 2.6±0.1 2.5±0.2 1.0±0.2 2.4±0.2*

18:3n-6 0.3±0.1* 0.1±0.0 0.1±0.0 0.1±0.0 0.2±0.1 0.1±0.0 18:3n-3 0.2±0.2 0.3±0.1 0.7±0.0 0.7±0.1 0.6±0.2 0.9±0.0* 18:4n-3 0.7±0.1 0.5±0.2 1.4±0.0* 1.3±0.1 0.8±0.2 2.6±0.1* 20:0 0.3±0.2 0.3±0.0 0.1±0.0 0.1±0.0 0.0±0.0 0.1±0.0 20:1 0.4±0.2 0.4±0.1 3.2±0.2 3.3±0.4 0.2±0.0 2.3±0.8*

20:2n-6 0.6±0.2 0.5±0.0 0.2±0.0 0.2±0.0 0.1±0.0 0.1±0.1 20:3n-6 0.1±0.0 0.1±0.0 0.1±0.0 0.1±0.0 0.1±0.0* 0.0±0.0 20:4n-6(ARA) 2.9±0.2 4.5±0.4* 0.8±0.1 1.0±0.0* 5.8±0.8* 0.4±0.0 20:3n-3 0.2±0.1 0.7±0.8 0.1±0.0 0.1±0.0 0.1±0.0 0.0±0.0 20:4n-3 0.6±0.1* 0.3±0.1 0.5±0.1 0.6±0.1 0.3±0.0 0.7±0.1*

20:5n-3(EPA) 6.0±0.2 6.2±0.7 6.8±0.6 7.9±0.9 22.8±0.8* 13.5±0.2 22:0 0.2±0.1 0.2±0.0 0.0±0.0 0.1±0.0 0.1±0.1 0.1±0.0 22:1 0.6±0.2 0.4±0.1 1.9±0.1 2.1±0.2 1.8±2.9 1.3±0.1 22:4n-6 0.3±0.1 0.7±0.2* 0.1±0.0 0.1±0.0 0.6±0.1* 0.0±0.0 22:5n-6 1.2±0.3 1.1±0.1 0.2±0.0 0.2±0.0 0.3±0.1 0.3±0.2 22:5n-3 2.2±0.3 2.8±0.5 3.0±0.2 3.3±0.5 2.3±0.4* 0.8±0.0 22:6n-3(DHA) 9.6±1.3 12.4±1.5* 10.4±0.6 12.1±1.2* 8.4±1.5* 6.1±0.6 Σn-3HUFA*1 18.6±1.7 22.4±2.8 20.8±0.8 24.1±1.9* 33.9±2.3* 21.1±0.8

Σn-6HUFA*2 5.2±0.8 7.0±0.6* 1.3±0.1 1.6±0.1* 7.0±0.9* 1.0±0.2

ARA*3 0.2±0.0 0.3±0.1* 0.1±0.0 0.1±0.0 0.0±0.0 0.1±0.0*

EPA*3 0.4±0.0 0.4±0.1 1.1±0.1 1.0±0.1 0.2±0.0 2.4±0.0*

DHA*3 0.6±0.1 0.7±0.2 1.6±0.1 1.6±0.2 0.1±0.0 1.1±0.1* Σn-3HUFA*1, 3 1.1±0.1 1.3±0.3 3.2±0.2 3.1±0.2 0.2±0.1 3.7±0.1* Σn-6HUFA*2, 3 0.3±0.1 0.4±0.1 0.2±0.0 0.2±0.0 0.0±0.0 0.2±0.0*

*1: Total n-3 highly unsaturated fatty acids (HUFA: 20:3n-3; 20:4n-3; 20:5n-3; 22:5n-3; 22:6n-3) *2: Total n-6 HUFAs (20:2n-6; 20:3n-6; 20:4n-6; 22:4n-6; 22:5n-6) *3: g per 100g in dry basis.

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ミズクラゲの FAA の大部分はグリシンが占め、次いでタウリンが優占した(Table

2-3-4)。グリシンを除くすべての必須および非必須 FAA含量は、ミズクラゲに比べて配

合飼料で有意に高かった(Mann-Whitney U-test)。一方で、P区と JP区のグリシン含量

に有意差はなかったが、 J 区のグリシン含量は S 区に比べて有意に高かった

(Mann-Whitney U-test)。魚体ではタウリンが優占し、JP区では P区に対し有意に高い

値を示した。

Table 2-3-4. Free amino acid contents of the whole body of the tiger puffer and prey items

(mean ± SD). Asterisks (*) indicate significant differences between the S and J treatments,

between the P and JP treatments, or between jellyfish and pellets (n = 3, Mann-Whitney U-test).

Treatment Prey item

Starved

(S)

Jellyfish

(J)

Pellets

(P)

Mixed

(JP) Jellyfish Pellets

Essential amino acid*1

Arg 17.5±10.2 33.1±15.2 30.5±9.0 29.8±2.3 6.2±3.6 141.6±0.7*

Lys 56.4±10.6 77.1±22.0 46.4±7.9 55.6±9.8 6.1±1.3 38.2±0.5*

His 18.5±2.3 20.3±3.1 12.1±1.6 13.5±0.7 0.0±0.0 147.1±1.5*

Phe 31.6±18.3 28.8±14.6 23.5±3.9 23.5±1.2 5.2±1.0 23.0±0.4*

Tyr 16.2±9.4 28.5±12.6* 25.1±3.3 27.3±1.5 6.4±0.7 18.1±0.6*

Leu 20.0±3.6 45.0±19.5* 28.8±6.2 33.2±0.5 7.4±0.4 47.8±0.2*

Ile 22.6±2.4 33.8±12.3* 22.6±4.4 26.7±1.7 5.9±0.3 29.5±0.8*

Met ND 18.0±7.8* 17.2±3.3 17.8±1.6 ND 5.1±0.7*

Val 18.5±3.1 38.5±14.4* 24.6±4.7 29.0±0.6 5.0±1.0 35.1±0.1*

Thr 16.0±1.7 33.2±11.5* 29.6±6.1 29.7±0.2 3.8±1.3 23.2±0.1*

Trp ND*2 ND ND ND ND ND

Subtotal 179.5±24.7 356.4±129.0 260.5±49.6 286.2±6.6 44.0±1.4 508.7±3.2*

Non-essential amino acid*1

Tau 950.5±65.2 1098.0±189.3 754.4±8.4 811.5±30.2* 70.6±23.8 314.0±1.6*

Ala 30.1±8.7 72.4±21.6* 140.0±11.8 145.7±11.2 12.7±6.9 98.3±0.5*

Gly 27.8±5.0 47.9±12.9* 133.9±16.7 111.1±7.6 133.0±49.7* 67.3±0.6

Glu 39.3±6.8 75.1±12.0* 44.3±4.3 46.3±5.9 17.0±5.2 34.5±0.2*

Ser 27.8±5.2 50.3±15.7* 51.7±6.9 55.0±0.9 3.2±1.0 9.9±0.3*

Asp 37.7±5.0 66.7±22.2* 48.6±8.1 53.4±0.5 4.9±1.0 14.0±0.4*

Pro ND ND ND ND ND 98.4±1.6*

Subtotal 1113.3±91.8 1410.4±267.9 1223.0±9.8 1172.9±42.7 241.4±87.1 636.3±1.7*

Total 1292.8±116.4 1766.9±393.5 1509.2±14.0 1433.4±91.5 285.4±87.0 1145.0±4.7*

*1: mg per 100 g in dry basis.

*2: Not detected.

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【考察】

本実験の結果、単独、複数飼育のいずれのトラフグもミズクラゲを摂餌し、ミズクラ

ゲのみを与えた場合には、トラフグは 1日に BWの 13倍(Exp. 1)または 4 倍(Exp. 2)

ものミズクラゲを摂餌した。これは本種がミズクラゲを摂餌することを明らかにした初

めての報告である。しかし、大量のミズクラゲ摂餌にもかかわらず、トラフグは成長や

生残に十分な栄養をミズクラゲから得ることはできず、餌料転換効率も負の値をとった。

第 2章 1節で示したように、カワハギではトラフグと異なり給餌初日からミズクラゲを

大量に摂餌し、1日に魚体重の 24倍と、より大量のミズクラゲを摂餌することで生残・

成長した。このようなフグ目の 2 魚種間のミズクラゲ給餌による生残と成長の違いは、

ミズクラゲ摂餌量、消化、代謝、そして活動に伴うエネルギー消費の相違によるものと

思われる。しかしながら、本実験のトラフグは実験開始 10 日目からミズクラゲを顕著

に摂餌し始め、実験開始 10 日目以降に限定すると、ミズクラゲのみを与えた場合には

1 日に BW の 21倍(Exp. 1)、または 7倍(Exp. 2)のミズクラゲを摂餌した。また、

Exp. 1では BWの日間成長率と実験終了時の肥満度が S区に比べて J区で有意に高かっ

た。これに加え、J 区の全脂質に占める PL 含有率は S 区に比べて有意に高かったこと

からも、健康状態は S区よりは良好であったことが伺える。これらのことから、より長

期的な飼育では成長への正の効果がみられる可能性がある。また、継続的なミズクラゲ

給餌による空腹時間の減少によってトラフグの噛み合い行動が減ると予想したが、その

傾向は見られなかった。トラフグは断続的なミズクラゲ摂餌に 10日を要したことから、

実験開始初期に空腹に伴う噛み合い行動が頻繁に起こった可能性が考えられる。

Exp. 1と Exp. 2ではミズクラゲ摂餌量に大きな相違がみられた。これは、集団飼育で

は餌料の占有を巡る競争が生じるため、ミズクラゲを摂餌できない個体が発生したこと

によると考えられた。また、S区と J 区の生残率が Exp. 2で Exp. 1よりも低かった理由

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として、噛み合いによる負傷や競争によるエネルギーの消耗が激しかったことが考えら

れる。

Exp. 2 では P区と JP 区の間に成長率の有意差は見られなかったが、Exp. 1では P区

で JP区よりも成長率が有意に高かった。これは、実験初期に JP区で大量の配合飼料の

残餌があったことによるものと推察され、小型の水槽にミズクラゲを入れたストレスに

よって生じたと考えられた。ミズクラゲの摂餌により配合飼料の摂餌量が減少したこと

も要因として考えられるが、ミズクラゲ摂餌量が多くなる実験開始 10日以降では、Exp.

1 の P 区と JP 区の間で配合飼料の残餌量に違いは観察されなかった。したがって、ト

ラフグがミズクラゲを摂餌することによって配合飼料の摂餌量が減少し、残餌が生じた

とは考えにくい。

本実験では、P区では JP区に比べて総脂質含量、NL含量、特に TG含量が高かった。

Kikuchi et al.(2009)は、トラフグの餌料の脂質レベルは 11 % w.b.以下にする必要があ

り、脂質の多い餌料の給餌は魚の健康状態を低下させると報告している。餌料中の脂質

含量の上昇による魚への好ましくない効果は、ヒラメ(菊池ら 2000)やスギ(Craig et

al. 2006)でも報告されている。本実験で用いた配合飼料の粗脂肪量は約 18 % d.b.(約

17 % w.b.)であったことから、小型の水槽で飼育したために遊泳可能な範囲が狭かった

こともあり、P区の供試魚の健康状態が悪かった可能性がある。一方で、JP 区で脂質含

量がP区に比べて低かった理由の一つとして、n-3HUFAの存在が考えられる。Shikata and

Shimeno(1994)は DHAと EPAを主とする n-3HUFAを含有した餌料をコイに給餌した

ところ、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼや NADP-リンゴ酸-デヒドロゲナーゼと

いった脂質新生酵素の活性が下がるとともに、血清中の TGとコレステロールレベルお

よび肝膵臓の脂質含量が減少したことから、n-3HUFA に肝膵臓と血清中の脂質新生を

抑制する効果があることを報告している。本実験で用いたミズクラゲの n-3HUFA 含有

量は配合飼料よりも低いものの、全脂肪酸に占める n-3HUFA 含有率は配合飼料よりも

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高く、ミズクラゲの摂餌量が多量であることを考慮すると、ミズクラゲ摂餌から得られ

る n-3HUFA量は少なくないと考えられる。実際に JP区では、P区より魚体の n-3HUFA

含有率が高かった。第 2章 1節(Table 2-1-2)、第 2節(Table 2-2-3)でも、ミズクラゲ

やエチゼンクラゲのみのカワハギへの給餌により、J 区の魚体の TG 含有率が S 区のそ

れよりも減少したことから、クラゲ類の給餌はフグ目魚類の脂質蓄積に何らかの影響を

与える可能性が考えられる。しかしながら本実験では、餌料の種類だけでなく、Exp. 1

の P 区と JP 区の実験初期の配合飼料の摂餌量にも違いがあり、このことが魚体の脂質

含量に影響を与えたことも考えられる。このため、ミズクラゲ給餌の魚体脂質含量への

影響をより詳細に明らかにするには、ストレスが生じにくい大型の水槽を用いて、魚体

の脂質含量を調べる必要がある。

Fukuda and Naganuma(2001)は、天然のミズクラゲには ARA(全脂肪酸の 6 %)、 EPA

(23 %)、DHA(8 %)が多く含まれると報告している。本実験に用いたミズクラゲは

この先行研究と同様に、これら n-3、n-6HUFAを多く含んでいた。本章第 1節および第

2 節では、クラゲ類の給餌によってカワハギの ARAと n-6HUFA含量が増加したが、本

実験では ARAと n-6HUFAだけではなく、DHAと n-3HUFAにおいてもミズクラゲ給餌

の影響が見られた。これは、本章第 1節で用いたミズクラゲ(DHAと n-3HUFA:0.88 %

と 25.07 %、Table 2-1-3)やエチゼンクラゲ(NL:2.8 %と 15.4 %、PL:3.8 %と 9.9 %、

Table 2-2-5, 2-2-6)より、本実験で用いたミズクラゲの DHAと n-3HUFA 含有率(8.4 %

と 33.9 %)が高かったためであると推察される。一方で、飢餓条件下では魚体内の HUFA

含有率、特に DHA含有率が高まることが知られており(de Silva et al. 1997)、第 2章第

1, 2 節では、S 区のカワハギは J 区より DHA の含有率が高かった(Table 2-1-3、Table

2-2-6b)。本実験では、Exp. 1の BWの成長率を考慮する限り、S区では J 区よりもより

強い飢餓状態にあったと考えられる。しかしながら、ARAや DHA、n-6HUFA の割合は

J 区で S区より高い値を示しことから、やはりミズクラゲ給餌にはこれらの脂肪酸の含

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有率を高める効果がある可能性が高い。

ミズクラゲに含まれる主な FAA は、グリシンとタウリンであった。一方で、魚体で

はタウリンが優占し、JP 区では P 区に比べてタウリン含量が有意に高かった。西塔・

國崎(1998)は、トラフグの筋肉中の FAA は、天然個体と養殖個体の両者ともタウリ

ンが優占しており、高いタウリン含量はトラフグの浸透圧調節に関係していると考察し

ている。これらのことから、ミズクラゲ給餌が浸透圧調節に与える影響についても、今

後検討する価値がある。

本実験の S 区と J 区の供試魚は、高い活動性と反射反応性を示した。ブリ稚魚では、

飢餓と活動性に正の相関関係が見られることから(Sakakura and Tsukamoto 1998)、本

実験における S区と J 区での高い活動性と反射反応性も、低い栄養状態によるものと考

えられる。一方で、JP 区では P区に比べて高い活動性と反射反応性が観察され、P区で

は行動実験中に全く活動せず反射反応を示さない個体が観察された。このように外部か

らの刺激に対し逃避行動を示さないことは、捕食者からの被食を受け易いと考えられる。

JP区ではその正の成長率から、S区や J 区と異なり、栄養状態が悪かったとは考えにく

い。本実験のミズクラゲには配合飼料に比べて ARA が高い割合で含まれ、JP 区では P

区よりも魚体の ARA 含有率が高かった。餌料としての ARA の魚体内における生理学

的な動態は明らかではないが、餌料の ARA 添加はヨーロッパヘダイのストレス反応を

軽減することが分かっており(Koven et al. 2001; van Anholt et al. 2004)、P 区と JP区の

行動の相違はストレス反応の相違による可能性も考えられる。本実験の P区では、飼育

水槽の大きさを除いて実際の養殖現場と似た給餌条件で飼育しており、同区での脂質蓄

積による健康状態の悪化が低い活動性と反射反応性につながった可能性も考えられる。

ミズクラゲ給餌の行動への影響を明らかにするためには、天然魚の行動を基準として比

較することを含めた、さらに詳細な実験が求められる。

ミズクラゲの給餌はトラフグの突進行動には影響を与えなかった。アユ Plecoglossus

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altivelis の最大遊泳速度(Tsukamoto et al. 1990)、あるいはヒラメの突進速度に天然個体

と人工種苗の間で差がないことが報告されており(Miyazaki et al. 2004)、突進速度は放

流後の種苗の被食の主要因となりにくいと考えられる。今後は持続遊泳速度などの他の

遊泳能力についても検討が必要である。

2-4. ミズクラゲ給餌によるマダイの体成分と行動の改善

前節では、トラフグにミズクラゲを給餌した結果、魚体中の脂質含量の減少や DHA

に代表される n-3HUFA や ARA などの n-6HUFA の含有率の増加に加え、活動性や反射

反応性の向上が見られた。本節では、本邦における主要な養殖および栽培漁業の対象種

の一つであるマダイにおいて、ミズクラゲ給餌が行動と体成分へ与える影響を検討した。

マダイ稚魚の放流後の主要な死亡要因の一つは、トラフグと同様に放流直後の被食に

あることが明らかになっており、全長 10-40 mmのマダイ稚魚は、カマス属 Sphyraena sp.、

ハオコゼ Hypodytes rubripinnis、スジハゼ Acenatrogobius pflaumiなどからの被食によっ

て放流後 7-10日以内に急激に減耗することが報告されている(Tsukamoto et al. 1989; 塚

本 1991)。放流直前のマダイは、ハンドリングのストレスによりパニック状態にあり

(Tsukamoto et al. 1989; 塚本 1991)、天然個体とは異なる行動を発現することが被食に

つながると考えられる(山岡ら 1991a, b; 山田ら 1992 ; reviewed by 内田ら 1993)。

マダイ幼稚魚が新しい環境に置かれた際に発現する恐怖・驚愕を示す行動として、横

臥行動が知られている。この行動は捕食者からの防御機能を持ち、天然個体は人工種苗

に比べて横臥傾向が強く、人工孵化稚魚の放流直後の被食回避能力と横臥傾向には相関

があることが指摘されている(内田ら 1993)。一方で、前述したように ARA はヨーロ

ッパヘダイのストレス感受性に関する生理機構に関わることが指摘されている(Koven

et al. 2001; van Anholt et al. 2004)。本章第 1節と第 3節の結果、ミズクラゲは ARAを

高率に含有し、ミズクラゲ給餌によってカワハギやトラフグ魚体中のこれら脂肪酸の含

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有率が上昇することが明らかになった。また前節では、ミズクラゲ給餌がトラフグの活

動性や反射反応性に何らかの影響を与える可能性も示唆された。これらのことから、マ

ダイへのミズクラゲの給餌が、魚体への ARA の蓄積を通して横臥行動の向上に有効で

ある可能性が考えられた。本実験では、この仮説を検証するため、マダイ稚魚を前節と

同様の 4つの給餌区で長期間にわたり飼育し、マダイの魚体成分および横臥傾向へのミ

ズクラゲ給餌の影響を検討した。

【材料と方法】

給餌実験

L型シオミズツボワムシ Brachionus plicatilis、アルテミアノープリウス幼生、および

配合飼料を給餌して飼育した人工孵化のマダイ稚魚(実験開始時 89 dph)210 個体を京

都府栽培漁業センターより提供して頂き、実験に用いた。供試魚は京都大学舞鶴水産実

験所に移送し、2-フェノキシエタノールで麻酔した後、実験開始時の魚体サイズを計測

した。実験開始時の SLと BW はそれぞれ 71.5 ± 4.5 mm と 9.61 ± 1.62 g(平均 ± SD)

であり、実験区間に有意な差はなかった(one-way ANOVA)。サイズ計測後、2-フェノ

キシエタノールを過剰投与することで 10 個体を安楽死させ、体成分分析に供した。供

試魚はイラストマー蛍光標識(Northwest Marine Technology, Inc.、USA)を注射し個体

識別した。側面を水色のビニールシートで覆った 200L のポリカーボネート製透明円形

水槽 20 面に、供試魚をそれぞれ 10 個体ずつ収容し、濾過海水を換水させた条件で 48

時間馴致した後、給餌実験を開始した。直射日光の当たらない屋外に水槽を設置し、蛍

光灯を 8:00 から 20:00 まで点灯させた(12L:12D)。

給餌実験は 2010 年 9月 7日から 108日間行った。前節と同様の 4給餌区を設定し、S

区と J 区ではそれぞれ 3水槽、P区と JP区ではそれぞれ 7水槽を用いた(飼育密度:10

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64

ind tank-1で、計 20水槽)。

給餌実験に先立ち、供試魚の配合飼料の飽食量を計測した。小型容器(28 × 16 × 18 cm3、

w × d × h)に単独でマダイ稚魚 5個体を収容し、15:00と翌日の 9:00に配合飼料(おと

ひめ S2; 日清丸紅飼料株式会社、東京)を飽食するまで給餌し、給餌量を計測した。そ

の結果、マダイ稚魚の飽食量は BWの 2.1 ± 1.0 % (平均 ± SD、N = 5, n = 10)である

ことが示された。

実験開始 12、24、37、49、60、72、および 84 日目に、P区と JP区の各水槽から供試

魚を 3 個体ずつ無作為に選出して BW を計測し、これらは水槽に戻した。P 区と JP 区

の個体の毎日の推定 BW を、式(2-1-4)を用いて算出した。P 区と JP 区では、両区の

推定 BW の平均値の約 2.1 %(実験開始 1-11日:1.7 g、12-23 日:1.9 g、24-36日:2.1 g、

37-48日:2.2 g、49-59 日:2.3 g、60-71日:2.3 g、72-108日:2.4 g)の配合飼料を、1

日 2回に分けて給餌した。J 区と JP区では、供試魚が常時ミズクラゲを摂餌可能な状態

にした。ミズクラゲは舞鶴湾内で採集し、濾過海水を換水させた 500 Lの水槽にすみや

かに移送した。すべてのミズクラゲは採集 1週間以内に供試魚に与えた。ミズクラゲは、

解凍した冷凍コペポーダ(シーホースウェイズ株式会社、鹿児島)を適宜給餌した。た

だし、供試魚への給餌前の 20 時間は、ミズクラゲへの給餌は行わなかった。ミズクラ

ゲがコペポーダを完全に消化するまでに要する時間は約 3 時間であり(Bamstedt and

Martinussen 2000)、供試魚が直接コペポーダを摂餌することはなったと考えられる。

給餌時と回収時のミズクラゲの湿重量の差を摂餌量とし、毎日 12:00 にタモ網でミズ

クラゲを水槽内からすみやかに回収し(所要時間:約 30 秒)、計量した。計量前に目合

い 1 mmのタモ網で 15秒間干出することでミズクラゲの付着水分を除去した。P区では、

給餌実験開始 80 日目から、タモ網で 30 秒間水槽内をかき混ぜることで JP 区における

ミズクラゲの処理と同様のストレスを供試魚に与えた。

飼育水は、実験開始 1-65 日は自然水温で、66-108 日はヒーターで水温を 24 oC に調

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節して用いた(21.3 ± 4.7 oC、平均 ± SD; range:11.0–29.2 oC)。飼育水温に実験区間に

有意な差はなかった(repeated measured one-way ANOVA)。最終給餌の 48 時間後に、供

試魚を 2-フェノキシエタノールで麻酔し、実験終了時のサイズを計測した。

横臥行動の発現強度の計測

給餌実験開始 94-97 日目の P 区および JP 区の供試魚の横臥行動の発現強度を、下記

の 2つの実験(Exp.1、Exp. 2)から観察した。給餌実験水槽の供試魚 1個体を、タモ網

を用いて可能な限り短時間で捕獲し、適度なストレスを与えるため 30 秒間空気中に曝

露した後、濾過海水を満たした 10 Lの緑色円形実験容器に収容した(Exp. 1)。収容か

ら 1分以内に供試魚が最初に示した行動パターン、および魚体の縞模様の発現率を計測

した。マダイの行動パターンは、内田ら(1993)に基づき、横臥期 a、横臥期 b、浮上

期、回転遊泳期、正常遊泳期を定義した。横臥行動とは、マダイが魚体に縞模様を生じ

て水槽底に接して静止する行動であり、横臥期 aでは体を横臥し、横臥期 bでは背鰭を

上にして腹部を底に接している(Fig. 2-4-1)。また浮上期では、魚体の縞模様は淡くな

り、稚魚は胸鰭だけを動かして水槽底部を離れて浮上するものの移動せず、一定の位置

に定位する。回転遊泳期は、水平方向に回転することに始まる断続的な移動行動を示す

ステージ、正常遊泳期は、攻撃行動や索餌行動をともなう連続的な遊泳行動を示すステ

Fig. 2-4-1 Red sea bream tilting the body on the bottom, exhibiting dark stripes and the dorsal

fin turned up.

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66

ージである。

一般にマダイ稚魚は、強いストレスに晒されると、横臥期、浮上期、回転遊泳期、正

常遊泳期の順にストレスから回復し、横臥期 a, bは可逆的に発現する。また、ハンドリ

ングのストレスに対して背鰭を立てる行動を示す個体もあることから(内田ら 1993)、

移送後に背鰭を立てる行動を示した個体の割合も計測した。P区で 40個体、JP区で 41

個体を実験に用いた。実験は直射日光の当たらない屋外で実施し、実験水温は 14.4 oC、

実験照度は 280 lux(LUX METER LX-1332; 株式会社カスタム、東京)であった。

続いて、Exp. 2を以下の手順で行った。給餌実験水槽の供試魚 1個体をタモ網を用い

てすみやかにすくい、30 秒間空気中に曝露した後に、濾過海水を満たした 10 Lの移送

用円形容器に収容した。この魚をさらに、棒で 30 秒間追い回した後、側面を黒色のビ

ニールシートで覆ったプラスチック製観察容器(28 × 16 × 18 cm3、w × d × h)にタモ網

を用いて移送した。この移送から 60 分後までの、横臥行動と回転遊泳の発現率、およ

び横臥行動と遊泳(回転遊泳または正常遊泳)を開始するまでに要した時間を計測した。

また、移送 10 秒後までに供試魚が水槽壁面への衝突行動を示した個体の割合を算出し

た。実験は 60分間で打ち切りとし、P区と JP区でそれぞれ Exp. 1 と重複した 39個体

を実験に用いた。実験は室内の蛍光灯下で実施し、実験水温は 15.2 oC、照度は 2600 lux

であった。

水分、脂質、脂肪酸および遊離アミノ酸組成分析

給餌実験開始時と給餌実験終了時の P区と JP 区の魚体(肝臓を含む全魚体)、および

実験に用いたミズクラゲと配合飼料の水分含量、脂質組成、脂肪酸組成および FAA 組

成分析を行った。給餌実験開始時の個体、P 区と JP 区から、それぞれ 9 個体を無作為

に抽出し、3個体ずつプールすることで 3試料を作出し、分析に供した。ミズクラゲは

3 個体を分析に用い、1個体ずつ凍結乾燥法で水分含量を算出後、3個体をプールして 1

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試料として 3回分析を行った。配合飼料は乳鉢ですりつぶし、これを 3試料に分けて分

析した。水分、脂質、および脂肪酸は、第 2 章第 1 節と、FAA は第 2 章第 2 節と同様

の方法で分析を行った。

データ解析

初回給餌から最終給餌までの 108日間に生残した個体数の割合を生残率とし、突発的

な事故によって死亡した個体は生残率の算出から除外した。SL と BW の日間成長率は

式(2-1-1a, b)から、実験開始時と終了時の肥満度は式(2-1-2)から算出した。斃死個

体と突発的な事故により死亡した個体は、死亡日が不明な個体のみ成長率と肥満度の算

出から除外した。BW 当たりの日間ミズクラゲ摂餌量は式(2-1-3, 4)を用いて、ミズク

ラゲの餌料転換効率は式(2-1-5)を用いて算出した。ただし、J 区の魚体の水分含量が

不明であるため、湿重量ベースの餌料転換効率のみ算出した。

統計処理

生残率の実験区間の差は Kaplan–Meier method を用いて Log-rank test で検定し、

Bonferroni 補正(adjusted a = 0.0083)を行った。実験開始時のサイズと肥満度は、one-way

ANOVAで実験区間の差を検定した。実験終了時のサイズと肥満度、日間成長率の実験

区間の差は Tukey HSD test を用いて比較した。実験開始時と終了時の肥満度の差は

Student’s t-test で調べた。Exp. 1の各行動パターン、縞模様と背鰭を立てる行動の発現率、

Exp. 2の横臥行動と回転遊泳の発現率、および水槽壁面への衝突行動の発現率は、Square

test を用いて実験区間の差を検定した。Exp. 2の横臥行動と遊泳の開始に要した時間は、

Kaplan-Meier method を用いて、Log-rank test で実験区間の差を比較した。P 区と JP区の

間および餌料間の成分組成の差はWelch’s t-test で検定した。飼育水温と BW 当たりの日

間ミズクラゲ摂餌量は、repeated measures one-way ANOVAを用いて実験区間の差の検定

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を行った。すべての検定の有意水準は a = 0.05とした。

【結果】

生残と成長

生残率は P 区と JP 区で最も高く、次いで J 区、S 区の順であり、P 区と JP 区の間を

除くすべての実験区間に有意な差が見られた(Log-rank test with Bonferroni correction:

adjusted a = 0.0083、Fig. 2-4-2)。S区では 1個体、J 区では 3個体、P区では 39個体、

および JP 区では 36 個体が突発的な事故(野生動物による捕食や水槽からの飛び出し)

により死亡した。

Fig. 2-4-2. Survival rates of red sea bream in each treatment. Letters indicate significant

differences among treatments (Log-rank test with Bonferroni correction, adjusted a = 0.0083).

実験終了時のサイズと SL と BW の日間成長率はともに、S 区と J 区に比べて P 区と

JP区で有意に大きく(Tukey HSD test、Table 2-4-1、Fig. 2-4-3a)、S区と J 区の成長率は

負の値を示した。実験開始時の肥満度は実験区間に有意な差は見られなかったが

(one-way ANOVA)、実験終了時の肥満度は S 区に比べて P 区と JP 区で有意に大きか

った(Tukey HSD test、Fig. 2-4-3b)。P区と JP区では肥満度が実験開始時に比べて終了

時で有意に増加したのに対し、S区では有意に減少した(Student’s t-test)。J 区では実験

前後の肥満度に有意な差は見られなかった。

0

20

40

60

80

100

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110

Su

rviv

al ra

te (

%)

Elapsed day of experiment (days)

Starved (S)

Jellyfish (J)

Pellets (P)

Mixed (JP)

aa

b

c

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Table 2-4-1. Final standard length (SL) and wet body weight (BW) in red sea bream reared

under four different dietary conditions and food conversion efficiency of jellyfish on a wet

weight basis (mean ± SD). Lower case letters indicate significant differences among treatments

(Tukey HSD test).

Treatment

Starved (S) Jellyfish (J) Pellets (P) Mixed (JP)

Final SL (mm) 69.6±1.4a 70.5±3.8a 108.9±6.4b 109.1±5.4b

Final BW (g) 7.3±0.2a 9.0±1.7a 43.2±7.1b 42.2±3.7b

Food conversion efficiency (%w.b.)*1,2, ― -0.01±0.01 ― ―

*1: % in wet basis

*2: Food conversion efficiency (%) = [total body weight gain (g) / total food intake (g)] × 100

Fig. 2-4-3. (a) Daily growth rate (mean ± SD) in terms of standard length (SL) and wet body

weight (BW) and (b) obesity index (mean ± SD) in terms of initial and final day of the

experiment in red sea bream reared using four different dietary conditions. Letters above the

bars indicate significant differences among treatments (Tukey HSD test). Asterisks (*) above the

bracket indicate significant differences between initial and final values (Student’s t-test).

摂餌量と餌料転換効率

供試魚は給餌開始直後からミズクラゲを摂餌し始めた。BW当たりの日間ミズクラゲ

a a

b b

A

A

B B

-2

-1

0

1

2

Daily

gro

wth

ra

te (

%)

SL BW(a)

n = 28 n = 26 n = 40 n = 52

A

AB

B B

0

10

20

30

40

Ob

esity in

de

x

Initial Final

*

* *(b)

Starved (S) Jellyfish (J) Pellets (P) Mixed (JP) n = 30, 28 n = 30, 26 n = 70, 40 n = 70, 52

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摂餌量は、J 区で 5.3 ± 2.1 g BW-1 day-1(平均 ± SD)、JP区で 1.3 ± 1.2 g BW-1 day-1であ

り、前者は後者に比べて有意に多かった(repeated measures one-way ANOVA、Fig. 2-4-4)。

JP区では飼育開始 20日前後から摂餌量が減少し始め、40 日前後からはほぼ横ばいとな

った。飼育期間を通して飼育水温(全水槽の平均 ± SD)は徐々に低下した。マダイ

のミズクラゲに対する餌料転換効率は-0.01 ± 0.01 % w.b.であった(n = 26、Table 2-4-1)。

Fig. 2-4-4. Daily intake of jellyfish per fish body weight (BW) of red sea bream in each

treatment (solid lines, mean ± SE) and water temperature (broken line, mean ± SD). Lower case

letters indicate significant difference between the J and JP treatments (repeated measures

one-way ANOVA).

横臥行動の発現

Exp. 1で、横臥期 a + bと横臥期 a の行動を移送後に最初に示した個体の割合、およ

び魚体に縞模様を発現した個体の割合は、P区に比べて JP区で有意に多かった(Square

test、Table1 2-4-2)。一方で、浮上期と回転遊泳期の行動を示した個体の割合は、JP 区

に比べて P区で有意に多かった。背鰭を立てる行動を示した個体は、有意差はなかった

ものの JP区で多い傾向が見られた。Exp. 2では、移送後 60分間の横臥行動の発現率は

P 区に比べて JP 区で有意に高かったが、回転遊泳の発現率は両区の間に有意な差はな

かった(Square test、Table1 2-4-3)。水槽壁面への衝突行動の発現率は JP 区で有意に少

0

10

20

30

0

4

8

12

16

0 20 40 60 80 100

Wate

r te

mp

era

ture

(oC

)

Je

llyfish

in

take

pe

r B

W (

g)

Elapsed day of experiment (days)

Jellyfish (J)

Mixed (JP)

Water temperature

a

b

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なかった。横臥開始に要した時間は JP 区で有意に短かったが、遊泳開始に要した時間

は同区で有意に長かった(Log-rank test、Table 2-4-3)。

Table 2-4-2. Behavioral patterns, exhibiting rate of stripes and turning up rate of dorsal fin after

transference of red sea bream in Exp.1 (mean ± SD). Asterisks (*) indicate significantly

difference between the P and JP treatments (Square test).

Treatment Pellets (P, n = 40) Mixed (JP, n = 41)

Tilting stage (a + b, %) 37.5 85.4*

Tilting stage a (%) 15.0 53.7*

Tilting stage b (%) 22.5 31.7

Recovery stage (%) 55.0* 14.6

Rotational swimming stage (%) 7.5* 0.0

Exhibiting rate of stripes (%) 50.0 80.5*

Turning up rate of dorsal fin (%) 67.5 80.4

Table 2-4-3. Tilting and rotational swimming rates within 60 min after transference (mean ± SD),

crushing rates to tank wall (mean ± SD), latency to the onset of tilting behavior [median (25-75

percentile)] and swimming latency [median (25-75 percentile)] of red sea bream in Exp. 2.

Asterisks (*) indicate significantly different rates between the P and JP treatments (tilting rate,

rotational swimming rate and crushing rate: Square test, others: Log-rank test).

Treatment Pellets (P, n = 39) Mixed (JP, n = 39)

Tilting rate within 60 min (%) 71.8 94.9*

Rotational swimming rate within 60 min (%) 97.4 89.7

Crushing rate (%) 58.9* 12.8

Latency to the onset of tilting behavior (sec) 49 (25-3600)* 12 (8-21)

Swimming latency (sec) 367 (11-610) 1098 (430-1810)*

魚体成分分析

本実験に用いたミズクラゲの全脂質に占める PLの含有率は、配合飼料に比べて有意

に高かったのに対し、ミズクラゲの総脂質、NLと PL含量および NL含有率、特に TG

含有率は配合飼料に比べて有意に低かった(Welch’s t-test、Table 2-4-4)。一方で、水分、

脂質含量、NL と PL の含有率は、P 区と JP 区の間に大きな差はなかった。P 区の魚体

からはホスファチジルイノシトール(PI)は検出されなかったが、JP 区からは PI が微

量ながら検出された。ホスファチジルエタノールアミン(PE)、PI、PC の総量は、JP

区(9.1 ± 1.9 area %、2.85 ± 0.64 mg per 100 g d.b.)で P区(8.8 ± 1.1 area %、2.63 ± 0.35 mg

per 100 g d.b.)よりも高い値をしたが、両区の間で有意な差は見られなかった(Welch’s

t-test)。

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Table 2-4-4. Moisture, lipid content and lipid class of the whole body of the red sea bream at

initial and final mearsurement and prey items (mean ± SD). Asterisks (*) indicate significant

differences between the P and JP treatments or between jellyfish and pellets (n = 3, Welch’s

t-test).

全脂肪酸に占める ARA、EPAと n-3および n-6HUFAの含有率は、配合飼料に比べて

ミズクラゲで有意に高かったが、DHA 含有率と EPA、DHA と n-3HUFA 含有量は配合

飼料でミズクラゲより高かった(Welch’s t-test、Table 2-4-5)。脂肪酸組成は P 区と JP

区の間に有意な差はなかった。

ミズクラゲの FAAの大部分はグリシンが占め、次いでタウリンが優占していた(Table

2-4-6)。グリシンを除くすべての必須および非必須 FAA含量は、ミズクラゲに比べて配

合飼料で有意に高かった。魚体ではタウリンが優占したが、タウリン含量は P 区と JP

区の間に有意な差は見られなかった。

Whole body of red sea bream Prey item

Initial Final

Pellets (P) Mixed (JP) Jellyfish Pellets

Moisture (%) 74.6±0.8 69.0±0.6 68.4±0.3 98.1±0.5* 5.5±0.1

Lipid (%d.b.)*1 14.2±1.4 29.9±1.4 31.3±1.5 1.9±0.0 17.7±0.1*

Neutral lipids*2 10.0±1.0 26.6±1.3 27.9±1.5 0.7±0.0 14.2±0.1*

Polar lipids*2 4.2±0.4 3.2±0.5 3.4±0.8 1.2±0.0 3.4±0.1*

Neutral lipids (area, %)*3

SE 1.5±0.3 0.4±0.1 0.2±0.0 2.2±0.4* 1.0±0.2

TG 62.1±1.7 86.6±1.6 87.2±2.6 13.8±3.7 72.8±2.1*

FFA ND*4 ND ND 0.1±0.2 1.1±1.9

FS 4.9±1.1 0.9±0.1 0.7±0.1 17.6±2.7* 2.9±0.4

DG 0.9±0.1 0.5±0.1 0.6±0.0 1.3±0.2 1.7±0.1

MG 1.0±0.2 0.6±0.1* 0.4±0.1 2.9±0.2* 1.1±0.0

Subtotal 70.5±0.3 89.2±1.4 89.1±2.5 38.0±1.7 80.6±0.2*

Polar lipids (area, %)*3

PA 1.0±0.4 0.9±0.1 0.8±0.3 2.7±0.5 2.2±0.2

PE 13.1±0.8 3.6±0.5 3.8±1.3 15.7±1.6* 2.9±0.1

PS 0.1±0.1 0.3±0.1 0.2±0.2 16.1±0.3* 1.2±0.1

PI ND ND 0.2±0.1 ND ND

LPE 0.4±0.3 0.5±0.3 0.3±0.2 6.2±1.2* 1.0±0.4

PC 12.3±0.7 5.1±0.3 5.2±0.6 14.4±1.2* 9.7±1.0

Sph 1.8±0.5 0.3±0.1 0.4±0.1 3.3±0.5* 1.2±0.2

LPC 0.9±0.3 0.1±0.0 0.1±0.0 3.6±0.4* 1.2±0.3

Subtotal 29.5±0.3 10.8±1.4 10.9±2.5 62.0±1.7* 19.4±0.2

*1: % in dry basis.

*2: g per 100 g in dry basis.

*3: % per whole lipid.

*4: Not detected.

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73

Table 2-4-5. Whole body of fatty acid composition of the red sea bream at initial and final

measurement and prey items (mean ± SD). Asterisks (*) indicate significant differences

between the P and JP treatments or between jellyfish and pellets (n = 3, Welch’s t-test).

Whole body of red sea bream Prey item

Initial Final

Pellets (P) Mixed (JP) Jellyfish Pellets

Fatty acid composition (area, %)

14:0 6.3±0.7 7.0±0.5 7.9±0.6 3.0±0.4 10.0±0.9*

15:0 0.5±0.0 0.4±0.0 0.5±0.0 0.9±0.2 0.5±0.0

16:0 20.6±0.8 19.1±0.9 19.8±0.6 8.4±1.0 20.1±0.8*

16:1n-7 5.3±0.2 6.4±0.5 6.4±0.3 3.0±0.2 6.5±0.3*

17:0 0.3±0.0 0.3±0.0 0.4±0.1 2.5±0.3* 0.5±0.0

16:3n-6 0.2±0.0 0.2±0.0 0.2±0.1 1.5±0.1* 0.2±0.0

16:3n-3 1.1±0.5 0.8±0.2 0.6±0.1 10.6±0.8* 0.9±0.0

18:0 4.2±0.5 3.9±0.2 4.1±0.2 4.3±0.4* 2.4±0.1

18:1 17.3±1.9 19.5±0.3 19.0±0.7 3.4±0.2 15.7±0.0*

18:2n-6 4.6±0.2 4.0±0.1 4.0±0.1 0.5±0.2 4.1±0.1*

18:3n-6 0.1±0.0 0.1±0.0 0.0±0.0 0.1±0.0 0.1±0.0

18:3n-3 0.9±0.1 0.9±0.0 0.9±0.1 0.3±0.0 1.1±0.0*

18:4n-3 1.4±0.3 1.4±0.1 1.5±0.1 1.5±0.2 2.4±0.1*

20:0 0.1±0.1 0.1±0.0 0.1±0.0 0.2±0.0 0.2±0.1

20:1 3.7±0.4 3.9±0.3 4.0±0.2 1.1±1.0 3.5±0.4*

20:2n-6 0.2±0.0 0.1±0.0 0.1±0.0 1.1±0.8 0.1±0.0

20:3n-6 0.1±0.1 0.1±0.0 0.1±0.0 0.7±0.3 0.1±0.0

20:4n-6(ARA) 0.7±0.1 0.4±0.1 0.5±0.1 3.9±0.7* 0.5±0.1

20:3n-3 0.1±0.0 0.1±0.0 0.1±0.0 0.3±0.1* 0.1±0.0

20:4n-3 0.8±0.1 0.8±0.1 0.8±0.1 1.5±0.3* 0.5±0.0.

20:5n-3(EPA) 7.3±1.1 6.9±1.0 7.5±0.5 24.6±2.0* 11.4±0.9

22:0 0.0±0.0 0.0±0.0 0.0±0.0 0.2±0.0* 0.0±0.0

22:1 1.7±0.2 2.5±0.6 2.5±0.5 0.7±0.2 2.5±0.3*

22:4n-6 0.0±0.0 0.1±0.0 0.0±0.0 0.2±0.0* 0.1±0.0

22:5n-6 0.4±0.4 0.2±0.0 0.1±0.1 2.9±0.5* 0.2±0.3

22:5n-3 2.0±0.3 2.1±0.1 2.1±0.0 1.8±1.1 0.8±0.2

22:6n-3(DHA) 11.0±1.0 10.3±0.5 9.7±1.1 2.7±0.5 8.5±0.6*

Σn-3HUFA*1 21.0±1.9 20.2±1.4 20.2±0.6 30.9±2.4* 21.3±1.3

Σn-6HUFA:2 1.3±0.0 0.9±0.2 0.9±0.2 8.7±0.4* 1.0±0.4

ARA*3 0.1±0.2 0.1±0.0 0.2±0.0 0.1±0.0 0.1±0.0

EPA*3 1.0±0.1 2.1±0.4 2.4±0.1 0.5±0.0 2.0±0.2*

DHA*3 1.6±0.1 3.1±0.3 3.1±0.4 0.1±0.0 1.5±0.1*

Σn-3HUFA*1, 3 3.0±0.2 6.1±0.7 6.5±0.3 0.6±0.1 3.8±0.3*

Σn-6HUFA*2, 3 0.2±0.0 0.3±0.1 0.3±0.1 0.2±0.0 0.2±0.1

*1: Total n-3 highly unsaturated fatty acids (HUFA: 20:3n-3; 20:4n-3; 20:5n-3; 22:5n-3; 22:6n-3)

*2: Total n-6 HUFAs (20:2n-6; 20:3n-6; 20:4n-6; 22:4n-6; 22:5n-6)

*3: g per 100g in dry basis.

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Table 2-4-6. Free amino acid contents of the whole body of the red sea bream at initial and final

measurement and prey items (mean ± SD). Asterisks (*) indicate significant differences

between the P and JP treatments or between jellyfish and pellets (n = 3, Welch’s t-test).

Whole body of red sea bream Prey item

Initial Final

Pellets (P) Mixed (JP) Jellyfish Pellets

Essential amino acid*1

Arg 13.4±1.6 10.5±2.4 12.2±1.8 2.2±0.3 221.3±1.0*

Lys 2.0±0.3 80.1±45.7 49.2±44.5 9.1±1.1 45.5±0.3*

His 81.7±5.3 68.8±7.7* 49.2±9.4 6.9±1.2 115.1±0.5*

Phe 7.4±1.1 4.7±1.5 5.7±0.8 3.2±0.2 22.3±0.4*

Tyr 9.1±0.7 5.0±1.3 6.3±0.4 4.2±0.1 20.6±0.6*

Leu 11.0±0.5 8.5±1.7 9.8±2.2 4.5±0.2 44.4±0.2*

Ile 5.0±0.2 3.8±0.6 5.1±1.1 2.1±0.0 21.7±0.0*

Met 2.3±0.3 1.8±0.3 3.2±1.8 0.4±0.7 6.9±0.6*

Val 9.2±0.6 7.7±1.4 9.7±1.7 3.7±0.1 28.3±0.4*

Thr 24.8±1.8 33.6±7.5 20.6±2.6 4.3±0.2 22.7±1.0*

Trp ND*2 ND ND ND ND

Subtotal 166.6±7.6 225.2±57.2 171.1±52.0 40.7±2.2 549.0±2.3*

Non-essential amino acid*1

Tau 535.3±12.3 547.1±50.7 567.8±21.6 62.6±0.6 387.2±2.1*

Ala 103.1±4.5 73.5±13.7 71.2±0.7 13.6±0.1 91.8±0.7*

Gly 77.2±4.2 82.0±5.8* 53.4±1.4 139.1±2.8* 94.5±0.9

Glu 112.8±10.0 35.1±4.2* 23.4±5.0 19.1±0.4 48.5±0.4*

Ser 28.5±2.4 27.2±3.0 24.1±4.2 5.3±0.3 19.2±0.3*

Asp 26.2±5.5 8.4±4.3 7.8±0.4 3.1±0.4 23.8±0.2*

Pro ND ND ND ND 160.5±6.2*

Subtotal 883.1±17.7 773.1±31.1 747.7±17.0 242.8±3.6 825.5±5.7*

Total 1049.7±25.3 998.3±31.5 918.8±60.8 283.5±4.4 1374.4±3.7*

*1: mg per 100g in dry basis.

*2: Not detected.

【考察】

マダイ稚魚は実験開始直後からミズクラゲを摂餌し始め、J 区では BW の約 5倍のミ

ズクラゲを毎日摂餌したものの、成長率は負の値をとった。しかしながら、J 区の生残

率は S 区より有意に高く、S 区の肥満度は実験前後で有意に減じたのに対し、J 区では

そのような変化は見られなかった。第 1節で示した通り、カワハギはミズクラゲのみの

給餌で 100 %生残し(Table 2-1-1)、体長・体重とも増加した(Fig. 2-1-1)。一方、第 3

節の J 区のトラフグの生残率は S区と有意差はなく(Fig. 2-3-1)、負の成長率を示し(Fig.

2-3-2)、肥満度も実験前後で有意に減少したことから(Fig. 2-3-3)、トラフグへのミズ

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クラゲ給餌のカロリー面での貢献はほとんどないと考えられた。また、各魚種のミズク

ラゲの餌料転換効率は、カワハギで 0.04 ± 0.09 % w.b.(Table 2-1-1)、トラフグで-0.19 ±

0.07 % w.b.(Exp. 2:複数飼育、Table 2-3-1)、マダイで-0.01 ± 0.01 % w.b.であった。こ

れらのことから、マダイはカワハギのように生残や成長ができるほどのエネルギーをミ

ズクラゲのみから得ることはできないが、トラフグと異なり、若干のエネルギーをミズ

クラゲから得ていたと考えられた。

このようなミズクラゲ給餌の生残と成長への影響の相違は、天然環境下での 3魚種の

クラゲ摂餌の頻度と一致する。すなわち、カワハギは天然環境でも頻繁にクラゲ類を摂

餌し(Masuda et al. 2008)、トラフグは天然でのミズクラゲ摂餌の報告がない。一方で、

マダイではクラゲ類の摂餌が時折観察される(益田 玲爾、未発表)。カワハギはトラフ

グおよびマダイと比べて多量のミズクラゲを摂餌できたことからも、ミズクラゲ摂餌に

適応的であることが伺える。トラフグとマダイを比較すると、前節のトラフグ単独飼育

(Exp. 1)の J 区の生残率は給餌開始 22日目で 66.7 %、複数飼育(Exp. 2)では 25.0 %

であったのに対し、本節のマダイでは 95.8 %と生残率に大きな差が見られた。前節のト

ラフグは、ミズクラゲのみの給餌では 1日に BWの 13倍(Exp. 1)または 4 倍(Exp. 2)

と本節のマダイ(5倍)と同等かそれ以上のミズクラゲを摂餌したことから、ミズクラ

ゲ摂餌量によってこれら魚種間の生残の差が決定されたとは考えにくい。また、本実験

の飼育水温(21.3 ± 4.7 oC)と前節の飼育水温[21.9 ± 2.1 oC(Exp. 1)と 21.1 ± 1.1 oC(Exp.

2)]に大きな違いはなかった。トラフグとマダイへのミズクラゲ給餌がその生残に大き

な差を生じた要因として、水流や飼育密度、個体サイズといった飼育条件面での影響だ

けではなく、刺胞毒の分解にかかるコストや消化吸収に伴うエネルギー消費といったク

ラゲ摂餌への適応に依存する要因の影響が指摘できる。

本実験では、JP区のミズクラゲ摂餌量は飼育開始 20日目から顕著に減少し、日間ミ

ズクラゲ摂餌量は 1.3 ± 1.2 g BW-1 day-1に留まったが、これは、水温の低下に伴って摂

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餌活性が下がったことによる可能性が高い。実際、給餌開始 15日目の JP区のミズクラ

ゲ消費量は 4.6 ± 1.4 g BW-1に上った。一方で、J 区では慢性的な栄養不足から、水温が

低下してもミズクラゲ摂餌量が大きく減少しなかったと考えられた。また、本実験では、

魚体の脂質組成や脂肪酸組成へのミズクラゲ給餌への影響は観察されなかった。これは、

マダイのミズクラゲ摂餌量が少なかったために、ミズクラゲに多く含まれる ARA など

の脂肪酸の組成がマダイの魚体の組成に反映されにくかったことによると考えられる。

これらのことから、適水温下で飼育した場合には、摂餌量の増加を通して生残や成長、

魚体成分へ、より強い影響を与える可能性があり、今後の検討が求められる。

ミズクラゲにはグリシンやタウリンが多く含まれていたが、第 3 節のトラフグの場合

と異なり(Table 2-3-4)、これらのアミノ酸は魚体の遊離アミノ酸組成に反映されなかっ

た。これは、マダイのクラゲ摂餌量がトラフグの摂餌量よりも少なかったことに加え、

本研究で用いたミズクラゲ(284 mg per 100 g d.b.)の遊離アミノ酸含量は、配合飼料

(1374 mg per 100 g d.b.)よりもかなり低く、グリシンやタウリンといったミズクラゲ

に独特の含量の多さは、絶対値で見ると小さいため、魚体全体に反映されにくかったも

のと思われる。

Exp. 1の結果から、JP区の多くの個体は、移送のストレスに際して、対ストレス反応

の第一段階である横臥行動を最初に発現したが、P区ではその次の段階である浮上や回

転遊泳を最初に発現する個体が多かった。また Exp. 2 では、JP 区では P 区に比べて横

臥傾向が強く、横臥行動発現に要する時間が短いことが明らかになった。一方で、JP

区では P区に比べて、横臥期から次の対ストレス行動である遊泳行動に移るのに要する

時間が長かったことから、JP 区の個体はストレスからの回復に時間を要し、横臥行動

を長い時間発現し続けることが明らかになった。内田ら(1993)は、天然個体(全長約

70 mm)と人工種苗(約 44 mm)のマダイ稚魚を 70 L円形水槽に収容した際の行動を

比較した結果、人工種苗 15個体のうち 10個体が収容 1分後に横臥行動を示し、これら

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の個体は 30 分後までには浮上、回転遊泳を経て正常遊泳を示すようになったが、天然

魚は収容 1分後には実験魚 10個体すべてが横臥行動を示し、この 10個体は実験終了ま

での 120分間にわたって横臥行動を示し続けたと報告している。本実験では、遊泳開始

に要した時間は P区で 367 秒、JP区で 1098 秒であったことから、内田ら(1993)の天

然個体ほどの強い横臥傾向はなかったものの、ミズクラゲを給餌したことで行動特性が

天然個体に近づいた、すなわち刺激に対してより敏感になったことが伺える。人工種苗

が放流後に直ちに泳ぎまわることは被食リスクを高めると考えられる。恐怖や脅しから

回復し正常な遊泳行動を示すまでの時間と攻撃されやすさや被食の程度に相関がある

ことは、マダイだけでなくトゲウオ Gasterosteus aculeatus でも指摘されている(Giles

1983)。これらのことから、配合飼料を給餌した個体に比べてミズクラゲを給餌したマ

ダイの放流後の生残率は高まる可能性が高く、今後は実際にこれらの個体を放流し、放

流後の行動と生残について検討する必要があろう。

本実験の結果、P区ではストレスに晒された際に激しい遊泳行動を生じる個体が多く

存在することが明らかになった。このような異常な遊泳行動は、供試魚がパニック状態

にあるために生じると考えられる。同様の異常遊泳は、放流直前のハンドリングのスト

レスによっても生じ(Tsukamoto et al. 1989; 塚本 1991)、人工種苗では放流後に突然突

進するなどの天然個体と異なる行動が観察されている(山岡ら 1991a, b; 山田ら 1992;

reviewed by 内田ら 1993)。このように異常な遊泳行動を示す個体は、やはり捕食者に

発見されやすく被食リスクが高いと予想され、放流後の生残に不利である可能性が高い。

また、本実験では縞模様の発現率が P 区に比べて JP 区で有意に高く、背鰭を立てる行

動も JP区で多い傾向が見られた。横臥行動に伴う体色変化は隠蔽色として(福原 1978;

Fukuhara 1985)、背鰭を立てる行動は被食を軽減する行動として説明されるため

(Hoogland et al. 1957; Reist 1980)、やはり JP区の個体は P区の個体よりも捕食者回避

に有利であろう。

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人工種苗の行動特性は、主として栄養学的要因と環境要因によって引き起こされる

(reviewed by Le Vay et al. 2007)。本実験の JP区の場合では、供試魚がタモ網で追い掛

け回される(ミズクラゲをタモ網で回収する)ことにより、横臥傾向が強くなることも

予想された。実際に、捕食者であるブリの存在をマダイが学習することで横臥傾向は強

くなるという(山岡ら 1991c)。しかしながら、本実験では P 区においても、給餌実験

開始 80 日目から給餌終了までの 28 日間は、タモ網で追いかけるという JP 区と同様の

ストレスを与えた。P 区(28 日間)と JP 区(108 日間)ではタモ網で追い掛け回した

期間が異なるものの、カダヤシ科魚類 Brachyraphis episcopi やヒラメでは、手網追尾に

よる行動特性の変化は 14日間で起こるとされているため(Brown et al. 2007; Takahashi et

al. 2013)、P区でも十分に行動特性の変化が起こり得た可能性が高く、P区と JP区の環

境要因に大きな差はなかったと考えられる。また、ミズクラゲは刺胞毒を持つため

(Ovchinnikova et al. 2006)、マダイがミズクラゲを脅威と認識することで行動特性に変

化をもたらした可能性もある。もっとも、第 3 章第 1 節で述べる通り、マダイ稚魚は

20 mm(SL)までには十分な刺胞毒耐性を獲得しているため、本実験に用いたマダイ稚

魚(72 mm)にとって刺胞毒はさしたる脅威とはならず、さらに天然環境下でもミズク

ラゲはマダイの餌となることからも、この可能性は低いであろう(Fig. 4-1-8b, c)。以上

をふまえると、両実験区間の横臥傾向の相違は、栄養学的要因による可能性が高い。

内田ら(1993)は、横臥行動の発現のし易さに個性が認められたことに着目し、横臥

行動は偶発的に起こるものではなく、個体の生理的特性を反映した行動であると報告し

ている。したがって本実験においては、ミズクラゲの摂餌によって供試魚に何らかの生

理学的変化が起こり、横臥傾向が強まったと考えられる。横臥行動は外部刺激に対する

恐れや警戒が生じた際に発現する行動であることから(内田ら 1993)、ミズクラゲの給

餌が特に恐怖応答に関わる生理学的特性に変化をもたらした可能性が高い。しかしなが

ら、第 2章第 3節のトラフグへのミズクラゲ給餌の結果と異なり、ストレス反応やコル

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チゾル感受性に影響を与える可能性が指摘されているARAの含有率に P区と JP区間で

有意な差は見られなかった。本実験では魚体全体を用いて脂肪酸分析を行ったが、ARA

はリン脂質、特に PE、PC、PIとして存在し、脳や血中に多く含まれることから、これ

らの組織の脂肪酸組成にミズクラゲ給餌が何らかの影響を与えた可能性が考えられる。

実際、これらのリン脂質は JP 区で P 区に比べて若干ながら多い傾向が見られたことか

らも、神経組織に着目した脂肪酸分析を行う必要がある。

本給餌実験後のマダイ稚魚を用いて、ミズクラゲ給餌がマダイの恐怖応答学習能力に

与える影響について検討した研究では、ミズクラゲ給餌によって本種の逃避学習能力が

向上することが示されている(高橋 宏司、未発表)。逃避学習能力に関係する魚類の恐

怖や快感といった情動性の中枢は小脳にあるとされていることから(Yoshida and Hirano

2010)、特に小脳構造に両実験区間で差がある可能性が高い。ミズクラゲにも高率に含

まれる EPA や DHA などの n-3HUFA の給餌は小脳の発達に関わることが知られ、ヒラ

メ仔魚では EPAや DHAを与えることで脳の発達が促進され、特に小脳が有意に肥大す

ることが分かっている(Furuita et al. 1998)。このように、DHAをはじめとする n-3HUFA

の給餌もまた、ARA と同様に脳の発達や行動へ影響すると考えられる。すなわち、ミ

ズクラゲ給餌による EPA や DHA などの n-3HUFA の摂取がマダイ稚魚の小脳構造の発

達を引き起こし、横臥性を向上させた可能性がある。しかし、脳内に蓄積されている

HUFA含量は全魚体に対して微量であるため、やはり魚体全体を用いての分析では実験

区間の差が見られなかったと考えられる。

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第3章 カワハギ科魚類によるクラゲ類への捕食圧と摂餌選択性

多くの魚種がクラゲ類を摂餌することが報告されているが、クラゲ類を選択的に摂餌

するマンボウなどのごく一部の魚種を除き、大部分のクラゲ摂餌魚は広食性の機会食者

である(Arai 2005)。Mianzan(1996)は、アルゼンチン沿岸域で採集した 69 魚種の胃

内容物を年間を通して調べた結果、そのうちの 15-23 %の個体の胃内容物の 7-17 %が刺

胞動物で占められていたと報告している。しかしながら、クラゲ類の組織は柔らかいた

め、魚体サンプルを冷凍または固定して保存すると容易に失われてしまう(Arai 2005)。

これに加え、ゼラチン状生物に対する魚類の消化速度は速いことが知られ、Arai et al.

(2003)はシロザケ Oncorhynchus ketaによるクシクラゲの一種 Pleurobrachia bachei の

消化速度は、タラバエビ属 Pandalus sp.に対するそれの 20倍以上速いと報告している。

そのため、フィールドで採集した魚類の胃内容物から得られた情報は、魚類の餌として

のクラゲ類の寄与を過小評価している可能性があり、天然環境下での魚類餌料としての

クラゲ類の重要性を正しく反映しているとは考えにくい。このことから、クラゲ摂餌魚

の捕食圧をフィールド調査のみから直接かつ定量的に調べることは困難であると言え

る。一方、近年、多くの研究者が魚類のトップダウンコントロールによるクラゲ類の大

量発生の防御の可能性について言及しており(reviewed by Arai 2005)、魚類のクラゲ類

に対する捕食圧や摂餌行動の実態の解明が求められる。

前章では、クラゲ類を摂餌することによる魚体への様々な効果について報告した。し

かしながら、トラフグやマダイはミズクラゲのみから十分な栄養を確保することは困難

であり、また、カワハギでは他の餌料の給餌に比べてクラゲ類のみの給餌では成長が劣

ったことから、クラゲ類は決してカロリー面で優れた餌料ではないことが伺える。この

ように低カロリーかつ刺胞毒を持つクラゲ類を多くの海産魚が摂餌することは、クラゲ

摂餌に何らかの生態学的利点があることを意味する。そこで本章第 1節では代表的なク

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ラゲ摂餌魚の一つであるウマヅラハギのエチゼンクラゲ摂餌の実態を、メソコスム実験

と消化管内容物調査から明らかにし、魚類によるクラゲ摂餌行動とその捕食速度につい

て考察した。第 2節では、ミズクラゲとイシイソゴカイ Perinereis nuntia vallata に対す

るカワハギの嗜好性と摂餌選択性を飼育環境下で調べることにより、ミズクラゲに対す

る摂餌効率をイシイソゴカイのそれと比較し、クラゲ類と他の餌生物が混在する環境で

の魚類のクラゲ類への採餌行動について検討した。本章ではすべてクラゲ類のメデュー

サ(以下クラゲ)を実験に用いた。

3-1. ウマヅラハギのエチゼンクラゲに対する捕食圧

これまで多くの研究者が魚類の餌としてのクラゲ類の重要性について様々なアプロ

ーチから評価してきたが、そのいずれもが十分かつ正確なものではなく(reviewed by

Arai 1988)、クラゲ類に対する魚類の捕食圧を直接かつ定量的に調べることは困難であ

ると考えられてきた。瀬戸内海では、クラゲ類の発生量とイボダイの漁獲量の間に正の

相関があることが明らかにされているものの(上・上田 2004)、直接的な捕食圧につい

ては不明である。また、魚類の胃内容物中に占めるゼラチン質残渣の量から餌としての

クラゲ類の寄与を検討したこれまでの研究は(Tarverdiyava 1972 など; reviewed by Arai

1988, 2005)、クラゲ類の消化速度が他の餌生物と大きく異なり(Arai et al. 2003)、また、

同じくゼラチン質の形状をとる原索動物のサルパとの判別が困難であることから、魚類

の餌としてのクラゲ類の寄与を十分に評価しているとは言えない。そこで本節では、メ

ソコスム実験と消化管内容物調査を組み合わせることにより、この課題に取り組んだ。

すなわち、大型水槽内におけるウマヅラハギ幼魚のエチゼンクラゲに対する捕食速度と

天然のウマヅラハギのエチゼンクラゲ摂餌状況を総合することにより、天然でのウマヅ

ラハギのエチゼンクラゲに対する捕食速度を推定した。

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【材料と方法】

フィールド採集

2009 年 10月 23 日および 11月 6日に、京都府舞鶴市冠島沖において、エチゼンクラ

ゲそれぞれ 3個体をシュノーケリングにより採集した。また、2009 年 9月 16 日、10月

23 日および 11 月 6 日の 14:00 前後に、同所でウマヅラハギ幼魚を、それぞれ 25 個体、

48 個体および 36個体採集した。幼魚の採集は、シュノーケリングでタモ網 2本を用い

ることで行った。幼魚の採集時の天候はすべて快晴であった。エチゼンクラゲは採集後、

船上ですみやかに天然海水を満たした 70 L白色円形容器に収容した。2009 年 10月 23

日に採集したウマヅラハギのうち 36個体と 11月 6日に採集したすべての個体は、曝気

した天然海水を満たした 70 L 白色容器に船上ですみやかに収容した。残りのすべての

ウマヅラハギ幼魚は、氷の入ったクーラーボックスにすみやかに入れることで冷蔵した。

両生物は京都大学舞鶴水産実験所に移送後、エチゼンクラゲは、濾過海水を換水させ、

直射日光のあたる屋外に設置した 2.5 t実験水槽(2.35 × 1 × 0.7 m3、w × d × h)に 1個体

ずつ収容し、活かして輸送したウマヅラハギ幼魚は、濾過海水を換水させ、直射日光の

当たらない屋外に設置した黒色のポリエチレン製 200 L円形飼育水槽に収容した。エチ

ゼンクラゲは、実験開始までアルテミアノープリウス幼生を餌として適宜与え、ウマヅ

ラハギ幼魚は実験開始まで無給餌で 3日間(10月 23日採集個体)または 1日間(11月

6 日採集個体)飼育した。

消化管内容物量調査

2009年 9月 16日、および 10月 23日に採集し、すみやかに冷蔵したウマヅラハギ幼

魚それぞれ 25個体と 12個体の SL、BWと消化管内容物量を、採集から 12 時間以内に

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計測した(天然採集区)。エチゼンクラゲはホルマリンやアルコールを用いた固定法で

は溶出が大きいため、本調査では冷蔵によって魚体を保存した。また、2009 年 11 月 6

日に採集後、飼育水槽に無給餌で 24 時間収容し空胃の状態にしたウマヅラハギ幼魚 24

個体に、過剰量のエチゼンクラゲ(3 kgの断片)を給餌し飽食させた(飽食区)。給餌

開始 3時間後に、2-フェノキシエタノールを過剰投与することでウマヅラハギ幼魚を安

楽死させ、すみやかに SL、BW と消化管内容物量を計測した。天然採集区と飽食区の

ウマヅラハギ幼魚の SLと BW を Table 3-1-1に示す。BW(消化管重量を含む)に対す

る消化管内容物重量の割合を表す消化管内容物指数(Gut content index:GCI、%)を両

区で算出した。

Table 3-1-1. Standard lengths (SL), wet body weights (BW) and gut content indexes (GCI) of

field collected juveniles of back scraper and their giant jellyfish satiated counterparts (mean ±

SD). There was no significant difference in the GCI between these two groups (p = 0.18, nested

measured one-way ANOVA).

Treatment

Field collected Satiated

Date 2009/9/16 (n = 25) 2009/10/23 (n = 12) mean±SD 2009/11/6 (n = 24)

SL (mm) 99.5±7.9 134.5±11.3 110.8±18.9 131.4±8.9

BW (g) 22.7±5.4 55.2±14.8 33.2±18.0 44.0±8.8

GCI (%) 10.7±2.8 11.9±2.3 10.8±3.0 12.0±1.5

メソコスム実験

フィールド採集したエチゼンクラゲおよびウマヅラハギ幼魚を用いてメソコスム実

験を行った。メソコスム実験は、2009 年 10 月 23 日に採集したエチゼンクラゲを用い

て 2009年 10月 26日 11時 30分(期間 A)に、また 11月 6日に採集したエチゼンクラ

ゲを用いて 11月 7日 11時 15分(期間 B)に開始し、それぞれ 72時間行った。実験区

と対照区を設定し、期間 A の 3 試行と期間 Bの 1 試行の計 4試行を実験区、期間 B の

2 試行を対照区とした。期間 A、Bの実験中の水温はそれぞれ 20.0 ± 0.9 oC、および 19.3

± 1.7 oC(平均 ± SD)であり、試行間の水温に有意差はなかった(repeated measures

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one-way ANOVA)。エチゼンクラゲは実験開始時に湿重量(Wet weight:WW)を測定し

た後、2.5 t 実験水槽に再度 1個体ずつ収容した(Fig. 3-1-1a)。

Fig. 3-1-1. (a) 2.5 t tanks of mesocosm experiment (about 1 m depth) and (b) associating

behavior of black scraper to giant jellyfish.

実験開始時のエチゼンクラゲのWW は、実験区で 15.0 ± 13.2 kg(平均 ± SD)、対照区

では平均 24.0 kgであった(Table 3-1-2)。実験区では、エチゼンクラゲ 1個体の収容さ

れた水槽に、空胃のウマヅラハギ幼魚を 12 個体ずつ収容し、供試魚のエチゼンクラゲ

に対する摂餌行動を観察した。本実験では、エチゼンクラゲの餌生物となる動物プラン

クトンの存在しない濾過海水を用いた。また、採集や移送によってエチゼンクラゲに損

傷が生じた。このため、餌不足やハンドリングストレスによるエチゼンクラゲの溶出が

生じることが予想された。そこで、ウマヅラハギ幼魚を収容せずにエチゼンクラゲのみ

を収容した対照区を設け、エチゼンクラゲの生存時間と斃死時のWWを計測し、1時間

当たりの溶出率(% h-1)を算出した。実験区ではエチゼンクラゲがほぼ消滅し供試魚の

摂餌行動が見られなくなった時点で、対照区ではエチゼンクラゲが斃死した時点で実験

を終了した。エチゼンクラゲは、拍動が完全に停止した時点で斃死したものとみなした。

実験終了後、エチゼンクラゲのWW を計測し、実験開始時と終了時のWW の差をエチ

ゼンクラゲ摂餌量とした(Table 3-1-2)。実験終了直後に供試魚を 2-フェノキシエタノ

ールで麻酔し、SL と BW を計測した。実験に用いたウマヅラハギの SL と BW はそれ

ぞれ、136.1 ± 10.2 mm(平均 ± SD)と 48.2 ± 11.6 gであった(Table 3-1-2)。

(a) (b)

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エチゼンクラゲに対する供試魚の摂餌強度の指標として、エチゼンクラゲに寄り付い

ている個体の割合を寄り付き率(Association rate:AR)として計測した(Fig. 3-1-1b)。

エチゼンクラゲと供試魚の距離が目視で SLの 2倍以下の場合を、寄り付いていると定

義した。AR は、実験開始 72 時間後までの 5:00-19:00 の 1時間毎および 23:00 に、5分

間隔で 3回ずつ計測し、その平均値を算出した。また、エチゼンクラゲの状態を同時に

観察し、斃死または消滅までに要した時間を計測した。これを実験開始時の WW で割

った値を、WW当たりの斃死、または消滅に要した時間として算出した。ARの観察時

の水温と照度を、水温計および lux 照度計(LUX METER LX-1332; 株式会社カスタム、

東京)を用いて、水面直上において計測した。2005 年 3月 16日に光量子計を用いて計

測して得られた、本実験のサンプリング地点である京都府舞鶴市冠島の沖の 3地点(水

深 74、77、83 m)の水深 0 m照度と水深 5 m照度は、それぞれ 141.21 ± 8.7 μmol m-2 sec-2

と 105.2 ± 16.9 μmol m-2 sec-2(平均 ± SD)であり(横田 高士、未発表)、これらのデー

タから得られた水深 5 mでの光の減衰係数 k = 0.59 ± 0.03(平均 ± SD)を用いて、水深

5 mの推定照度を算出した。ただし、期間 Aの実験開始 18-21 時間後の ARと照度のデ

ータは欠損した。

データ解析

ウマヅラハギ幼魚の天然での BW 当たりの推定日間エチゼンクラゲ摂餌量(g BW-1

day-1)を以下の式から推定した。すなわち、飽食区の ARを 100 %と仮定し、天然での

ARの推定値を、飽食区の GCIに対する天然採集区の GCIの割合とした。

Estimated daily jellyfish intake per BW = daily jellyfish intake per day of 100 % AR × (field

collected GCI/ satiated GCI) …式(3-1-1)

ARを 100 %とした時の BW 当たりの日間エチゼンクラゲ摂餌量は以下の式から算出し

た。

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Daily jellyfish intake per BW of 100 % AR = [jellyfish intake (g) × daylight time (h)] ⁄ [total

BW (g) × total daylight time until extinction (h) × average AR of daylight time] …式(3-1-2)

実験時の日照時間は 11 時間(6:00-17:00)であった。総 BW(g)は、同一水槽内の供

試魚の BW の総和とした。平均日中 AR は実験期間中の日中(6:00-17:00)の AR の平

均値とした。魚類は BW の何倍もの大量のクラゲを 1日に摂餌し(第 2 章)、なおかつ

魚類のクラゲ類に対する消化速度は他生物に比べて十分に大きいため(Arai et al. 2003)、

本実験では、捕食速度の算出に、エチゼンクラゲに対するウマヅラハギの消化速度を考

慮しなかった。また、エチゼンクラゲの溶出率を用いて実験開始時から終了時までのエ

チゼンクラゲの溶出量を算出した。得られた溶出量をエチゼンクラゲ摂餌量から除した

値を用いて、溶出を補正した場合の BW 当たりの推定日間摂餌量も算出した。

統計処理

メソコスム実験の実験水温は repeated measures one-way ANOVAで各試行間の有意差

を調べた。ウマヅラハギ幼魚の GCIは、nested one-way ANOVAを用いて実験区間の差

を比較した。ARと照度の相関は Spearman’s rank correlation test を用いて検定した。すべ

ての検定の有意水準は a = 0.05 とした。

【結果】

消化管内容物量

GCIは天然採集区で 10.8 ± 3.0 %(n = 24)、飽食区で 12.0 ± 1.5 %(n = 37、平均 ± SD)

であり、実験区間に有意な差は見られなかった(p = 0.18、nested one-way ANOVA、Table

3-1-1)。天然採集区の GCIは飽食区の 90.4 %であった。天然採集区の消化管内容物の大

部分は、採集時の状況から消化中のエチゼンクラゲと推測されるゼラチン状の粒状物で

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88

あった(Fig. 3-1-2a, b, c)。

寄り付き率、照度と BW当たりの推定日間エチゼンクラゲ摂餌量

実験区と対照区のエチゼンクラゲの実験終了時の WW をそれぞれ、Table 3-1-2 と

3-1-3に示す。実験区では実験開始後 64.7 ± 39.2 時間、対照区では 166.7 時間(71.5 と

262.0 時間)でエチゼンクラゲが斃死した。WW 当たりの斃死に要した時間は、実験区

で 5.3 ± 1.7 h kg-1(平均 ± SD)、対照区で平均 8.3 h kg-1(2.4 h kg-1と 14.1 h kg-1)であっ

た。実験区のエチゼンクラゲは、実験開始後 126.8 ± 63.3時間でほぼ消滅し、供試魚の

摂餌行動が観察されなくなった(Table 3-1-2)。実験区のWW当たりの消滅までに要し

た時間は、11.5 ± 6.0 h kg-1であった。エチゼンクラゲの溶出率は平均で 0.59 % h-1(0.88 %

h-1と 0.30 % h-1)と算出された。

供試魚は、エチゼンクラゲの触手、口腕、胃腔や生殖巣から摂餌しはじめ、これらを

摂餌し終えてから傘部を摂餌した。期間AのARは、日中平均(6:00-17:00)で 31.1 ± 7.3 %

(a) (b)

(c)

Fig. 3-1-2. (a) Gut, (b) gut content and (c)

gelatinous particulate matter in gut content

of field-collected black scraper.

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(平均 ± SD)であり、朝(6:00-9:00:40.1 ± 34.6 %)、夕(15:00-17:00:42.4 ± 25.3 %)

に高く、昼間(10:00-14:00:27.6 ± 30.3 %)に低く、夜間(18:00-5:00:0.5 ± 2.0 %)の

摂餌はほとんど観察されなかった(Fig.3-1-3a)。期間 Aの昼間には、供試魚は実験水槽

の陰に集まる個体が多く観察された。一方で、期間 B では、AR の日中平均は 56.9 ±

36.0 %であり、朝(66.0 ± 36.8 %)、夕(54.6 ± 30.7 %)だけでなく昼間(50.0 ± 37.0 %)

にも高い値を示し、夜間の摂餌はほとんど観察されなかった(0.7 ± 2.4 %、Fig.3-1-3b、

Table 3-1-3)。実験期間中、一部の個体がエチゼンクラゲを独占し、他個体を追い払う行

動が観察された。

期間 Aでは晴れの日が続き、昼間(49.4 ± 23.0 × 103 lux、平均 ± SD)に高い照度が

観察され、最大照度は 73.1 × 103 luxに及んだ(Fig.3-1-3a、Table3-1-2)。朝、夕、およ

び夜間の照度はそれぞれ 12.8 ± 14.3 × 103 lux、10.9 ± 11.0 × 103 lux、0.0 ± 0.0 luxであり、

日中の平均照度は 24.4 ± 21.7 × 103 luxであった。一方で、期間 Bでは、期間中の天候が

曇りまたは雨の時間が長く、昼間でも照度が低かった(29.0 ± 20.3 × 103 lux、Fig.3-1-3b、

Table 3-1-2)。朝、夕、および夜間の平均照度はそれぞれ 9.1 ± 10.5 × 103 lux、8.8 ± 9.2 ×

103 lux、0.0 ± 0.0 lux であり、日中の平均照度は 15.7 ± 11.6 × 103 luxであった。期間 A

の水深 5 mの推定照度は最大で 54.5 × 103 lux、期間 Bでは 51.5 × 103 luxであった。

ARと照度との間には有意な負の相関関係が見られ(Spearman’s rank correlation test、

Fig. 3-1-4)、ウマヅラハギの寄付き行動は 0.01 lux から観察され始め、100 %の寄り付き

率を示した最大照度は 50.2 × 103 luxであった。ウマヅラハギ幼魚の天然での BW 当た

りの推定日間エチゼンクラゲ摂餌量は 9.8 ± 1.8 g BW-1 day-1、エチゼンクラゲの溶出を

補正した場合には 6.1 ± 3.2 g BW-1 day-1と推定された(Table 3-1-2)。

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Table 3-1-2. Wet weights (WW) at initial and final times and elapsed times to mortality and

extinction of giant jellyfish, standard length (SL), wet body weight (BW), association rate (AR)

and estimated daily jellyfish intake speeds per BW of black scraper and light intensity of

experimental trials (mean ± SD).

Experimental trial

Replications (term) 1 (A) 2 (A) 3 (A) 4 (B) mean±SD

Giant jellyfish

WW(kg)

Initial 10.0 3.5 12.5 34.0 15.0±13.2

Final 0.3 0.2 0.5 1.5 0.6±0.6

Elapsed times (h)

Mortality (h)

(per WW, h kg-1)

48.5

(4.9)

26.5

(7.6)

65.5

(5.2)

118.5

(3.5)

64.7±39.2

(5.3±1.7)

Extinction (h)

(per WW, h kg-1)

96.5

(9.7)

70.5

(20.1)

124.5

(9.8)

215.8

(6.3)

126.8±63.3

(11.5±6.0)

Black scraper

SL (mm) 136.2±6.9 132.6±.8.6 132.4±12.5 143.1±9.3 136.1±10.2

BW (g) 48.8±9.4 45.5±10.8 43.0±11.4 55.4±12.0 48.2±11.6

AR (%)

6:00-9:00 50.0±35.6 3.3±8.3 41.7±29.5 66.0±36.8 51.0±36.8

10:00-14:00 33.9±28.5 5.2±6.2 34.3±34.8 50.0±37.0 34.5±33.5

15:00-17:00 46.7±27.6 32.1±14.7 32.5±28.0 54.6±30.7 45.7±26.9

18:00-5:00 1.4±3.2 0.0±0.0 0.0±0.0 0.7±2.4 0.6±2.1

Daytime(6:00-17:00) 43.5±30.9 13.6±18.5 36.2±31.3 56.9±36.0 41.9±33.3

Estimated daily jellyfish intake per BW (g BW-1 day-1)

(Calibrated with elution rate)

8.4

(5.9)

12.2

(10.1)

10.2

(6.1)

8.4

(2.3)

9.8±1.8

(6. 1±3.2)

Light intensity (×103 lux)

6:00-9:00 12.8±14.2 9.1±10.5 11.8±13.0

10:00-14:00 49.4±23.0 29.0±20.3 44.5±23.4

15:00-17:00 10.9±11.0 8.8±9.3 10.4±10.5

18:00-5:00 0.0±0.0 0.0±0.0 0.0±0.0

Daytime (6:00-17:00) 24.34±21.7 15.7±11.6 26.5±24.6

Table 3-1-3. Wet weights (WW) of giant jellyfish at initial and mortal times, elapsed time to

mortality and elution rate of giant jellyfish in control trials.

Control

Replications (term) 1 (B) 2 (B) mean

WW(g)

Initial 29500 18500 24000

At death 11000 4210 7605

Elapsed times (h)

Mortality (h)

(per WW, h kg-1)

71.5

(2.4)

262.0

(14.1)

166.7

(8.3)

Elution rate (% h-1) 0.88 0.30 0.59

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Fig.3-1-3. Association rate (AR) of black scraper juveniles with a giant jellyfish, actual light

intensity of 0 m depth and estimated light intensity of 5 m depth in (a) term A [n = 3, median

(25-75 percentile) ] and (b) term B (n = 1).

Fig. 3-1-4. Correlation of association rate (AR) and light intensity during daytime (6:00-17:00).

There was a significant correlation between AR and light intensity (p < 0.05, Spearman’s rank

correlation test). Broken lines indicate the maximum estimated light intensities of 5 m depth

(term A: 54.5 × 103 lux, term B: 51.5 × 103 lux).

0

20000

40000

60000

80000

0

20

40

60

80

100

12:00 0:00 12:00 0:00 12:00 0:00 12:002009/10/27 2009/10/28 2009/10/292009/10/26

(a)

0

20000

40000

60000

80000

0

20

40

60

80

100

12:00 0:00 12:00 0:00 12:00 0:00 12:00

Date

Association rate

Actual light intensity of 0 m depth

Estimated light intensity of 5 m depth

2009/11/8 2009/11/9 2009/11/102009/11/7

(b)

Associa

tio

n r

ate

(%

) Lig

ht in

ten

sity

(lux)

0

20

40

60

80

100

0 20000 40000 60000 80000

Asso

cia

tio

n r

ate

(%

)

Light intensity (lux)

6:00-9:00

10:00-14:00

15:00-17:00

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92

【考察】

昼間の照度が高かった期間 A には、薄明薄暮時にウマヅラハギ幼魚のエチゼンクラ

ゲに対する摂餌行動が頻繁に観察されたが、日中の照度が低かった期間 B ではそうし

た傾向はなく、昼間でも ARは高かった。これに加え、寄り付き率と照度に有意な相関

が見られたことから、ウマヅラハギ幼魚のエチゼンクラゲに対する摂餌強度は時間帯で

はなく照度に依存し、高い照度下では摂餌行動が抑制されることが示唆された。このよ

うに、高照度よりも低照度を好み、照度が低いほど活動性や摂餌成功率が高まることは

他の魚種でも報告されている(Einfalt et al. 2012; Meakin and Qin 2012)。一方で、照度が

高いと予想される快晴の昼間の 14:00に採集した天然のウマヅラハギ幼魚は、GCIが飽

食区の 90.4 %に相当し、飽食区と遜色ないほど旺盛にエチゼンクラゲを摂餌していた。

本実験では、水深 1 mの水槽をメソコスム実験に用いたため、幼魚は晴天時には高い照

度環境下に晒されたと推察され、実際に、直射日光を避け水槽の陰にとどまる個体が実

験中に多く観察された。しかしながら、太陽光は海水中で減衰することが知られており、

ウマヅラハギ幼魚が主に生息する水深 5 m以深の浅瀬の海底の藻場では(益田 玲爾、

未発表)、昼間でも高い照度には晒されず、日中を通して高い摂餌活性を維持している

と考えられる。本実験で得られた水深 5 mの推定照度は最大で 54.5 × 103 luxに留まっ

ているのに対して、ウマヅラハギ幼魚が 100 %の寄り付き率を示した最大照度は、この

値に近い 50.2 × 103 luxであったことからもこの仮説が支持される。実際に、本実験で

のフィールド採集では、ウマズラハギは生息域に流されてきたエチゼンクラゲを旺盛に

摂餌するが、水深 5 m以浅を漂泳するエチゼンクラゲに対する摂餌には消極的である様

子が観察された(Fig. 3-1-5)。これは、高照度下では魚類や鳥類といった捕食者に見つ

かりやすいためであると考えられる(Meakin and Qin 2012)。これらの結果を総合する

と、ウマヅラハギは、岩礁域や藻場などの生息域内に侵入したエチゼンクラゲを旺盛に

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摂餌するが、生息域外となる照度の高い表層を遊泳するエチゼンクラゲを追いかけてま

で摂餌することはあまりないと推察される。

Fig. 3-1-5. Photographs at field sampling point, offshore of Kanmuri island, Maizuru, Kyoto. (a)

Black scraper feeding on giant jellyfish in seaweed bed and (b) few fish fed on giant jellyfish

drifting near the surface.

本実験では、飼育実験とフィールド調査の総合的なアプローチにより、生息場にエチ

ゼンクラゲが存在した場合のウマヅラハギのエチゼンクラゲに対する捕食速度を定量

評価した。Oviatt and Kremer(1977)は、ニシマナガツオ Peprilus triacanthusのクシク

ラゲの一種Mnemiopsis leidyiに対する飼育環境下での捕食速度と天然での両者の生物量

の関係を求め、その捕食速度は 121 ml Mnemiopsis m-2 day-1であると推定している。本実

験に用いたウマヅラハギの生物量は明らかでないが、本種全体がクラゲ類に与えるイン

パクトについては今後検討すべき課題である。実験に用いたサイズのウマヅラハギ幼魚

は 200個体程の群れを形成することが多いことから(益田 玲爾、未発表)、幼魚の生息

場にエチゼンクラゲが豊富に存在する場合には、一群れの本種幼魚が 1 日に 59-94 kg、

つまり 3-4個体のエチゼンクラゲを摂餌可能であると推測される。本実験で用いたウマ

ヅラハギをはじめとしたクラゲ摂餌魚の多くは、クラゲの触手、口腕、胃腔や生殖巣と

いった器官から摂餌する(Arai 1988 および本実験)。その理由として、これらの器官が

傘部に比べて柔らかいことに加え、ミズクラゲでは傘部よりも生殖巣や口腕の総有機物

量が高いことが報告されていることから(Lucas 1994)、傘部よりも刺胞を多く含有する

(a) (b)

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ものの、これらの器官を選択的に摂餌することで栄養学的な利益を得ていると思われる。

一方で、触手、口腕や胃腔はクラゲ類の生存に重要な役割を持つため、これら器官を失

ったクラゲ類はすみやかに斃死すると考えられる。よって、ウマヅラハギが生態的に駆

除可能なエチゼンクラゲのバイオマスは、本実験で試算した推定日間摂餌量から得られ

る値よりもさらに大きいものとなると予想される。本実験では、12 個体のウマヅラハ

ギ幼魚は、65 時間でエチゼンクラゲを死亡させ、126 時間で消滅させた。試行数の不

足のため、統計的な解析はできなかったものの、対照区(8.3 h kg-1)に比べて実験区(5.3

± 1.7 h kg-1)のWW 当たりのエチゼンクラゲの斃死に要した時間は短い傾向が伺えた。

このことから、やはりウマヅラハギ幼魚は、エチゼンクラゲの駆除にある程度の効果を

もたらすと考えられる。しかしながら、本実験で用いたエチゼンクラゲは移送の際に受

けたストレスや餌不足の影響を多大に受けていたと予測されるため、本実験の結果だけ

ではその効果を厳密に判断することはできない。

天然採集区の GCIから得られた摂餌強度(90.4 %)は、メソコスム実験から得られた

AR(すなわち摂餌強度)の値より高い傾向が見られた。これは、メソコスム実験では

一部の個体がエチゼンクラゲを独占して他個体を追い払っていたことに起因すると考

えられる。こうした行動は、限られた餌資源に対する競争によってもたらされるもので

あり、餌が豊富な環境であれば起こりにくいであろう。よって、エチゼンクラゲが大発

生し、ウマヅラハギの生息場にエチゼンクラゲが豊富に存在する条件下では、メソコス

ム実験で得られた ARより高い値を示すであろう。本実験の結果、ウマヅラハギ幼魚は

天然環境下で 1日に BW の 10倍(溶出を考慮しても 6倍)ものエチゼンクラゲを摂餌

すると推定されたが、GCIの算出に用いた天然採集魚の多くはエチゼンクラゲに寄り付

いていた個体を用いたため、得られた推定捕食速度は本種の生物量全体での値を反映す

るものではない。しかしながら、近年のクラゲ類の大量発生により、ウマヅラハギの生

息場へのクラゲ類の来遊量と来遊機会は多くなりつつあると予想されるため、ウマヅラ

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ハギとクラゲ類との遭遇機会は増大する可能性が高い。このことから、広食性の本種の

餌料としてのクラゲ類の寄与は高まりつつあり、ウマヅラハギの生息場にエチゼンクラ

ゲが存在する条件下では本実験の結果のように飽食に近い状態までクラゲ類を摂餌す

ると考えられる。

3-2. ミズクラゲとイシイソゴカイに対するカワハギの摂餌選択性

前節では、ウマヅラハギのエチゼンクラゲに対する摂餌行動について検討し、その結

果、ウマヅラハギはその生息域内に侵入したクラゲ類のみを主に摂餌するであろうと考

察した。しかしながら、ウマヅラハギやその近縁種であり本節で扱うカワハギは沿岸の

岩礁域や藻場を生息場にしており、生息域内に他の餌生物も豊富に存在していると予想

される。ウマヅラハギやカワハギは雑食性であり、末廣(1937)は、カワハギ(BW:

6.1-21.7 g)は魚類や表在性生物である端脚類、等脚類や蔓脚類、埋在性生物である多毛

類や斧足類、Sargassum sp.などの海藻類などを摂餌していたと報告している。これらの

餌生物はクラゲ類よりも高カロリーである可能性が高いが、なぜクラゲ摂餌魚はこうし

た高カロリーの餌生物だけではなく、低カロリーなクラゲ類を摂餌するのかは明らかで

ない。

そこで本実験では、ミズクラゲとイシイソゴカイを与えた際のカワハギの摂餌選択性

を調べることで、カワハギがクラゲ類を餌とすることの生態学的な利点について検討し

た。イシイソゴカイを含む多毛類はしばしば、沿岸域や河口域の埋在動物相の最優占種

となっており(Fujii 2007)、底生魚の主要な餌であるとともに、釣り餌として広く流通

していることから、本実験の比較対照餌料として用いた。実験では、両餌生物を視認可

能な砂を敷かない水槽、およびイシイソゴカイが潜砂するためにミズクラゲがより利用

しやすい砂を敷いた水槽を用いて、カワハギの採餌行動を観察した。

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【材料と方法】

摂餌選択性実験

シオミズツボワムシ、アルテミアおよび配合飼料を給餌して飼育したカワハギの人工

孵化幼魚(日清マリンテック株式会社、愛知)を実験に用いた。供試魚は京都大学舞鶴

水産実験所に移送後、すみやかに 500 Lのポリエチレン製黒色円形水槽に収容し、配合

飼料(おとひめ S2; 日清丸紅飼料株式会社、東京)を与え、約 10 ヶ月間、濾過海水を

用いて自然水温で飼育した。

実験は 2009年 5月 16日から 6月 6日に、ガラス製水槽を用いて以下の 4実験区を設

定して行った。砂底の水槽にミズクラゲを提示(Jellyfish and Sand substrate:JS)、砂底

の水槽にイシイソゴカイを提示(Lobworm and Sand substrate:LS)、砂底の水槽にミズ

クラゲとイシイソゴカイを提示[Mixed(Jellyfish and Lobworm)and Sand substrate:MS]、

ガラス底の水槽にミズクラゲとイシイソゴカイを提示(Mixed and Glass substrate:MG)。

砂底のある JS区、LS区およびMS区は天然環境を模した設定であり、MG区(砂なし)

はカワハギの餌生物に対する嗜好性を検討するために設定した。各区とも 10 試行を行

い、各試行に 1 個体のカワハギを用い、これらは再び実験には用いなかった。JS 区、

MS 区、および MG 区では、ミズクラゲ 1 個体を釣り糸を用いて上部から吊すことで、

水槽底に沈むことを防ぐとともに、水槽の上部 11 cmを自由遊泳できるようにした(Fig.

3-2-1)。予備実験の結果、JS区の条件下で、釣り糸で吊さないミズクラゲをカワハギに

提示した場合、カワハギのミズクラゲ摂餌量は吊した場合の 57 %であることが分かっ

た。しかしながら、ミズクラゲを常にビデオの録画可能な範囲に置くため、本実験では

ミズクラゲを吊した状態で用いた。LS 区、MS 区、および MG 区ではイシイソゴカイ

を 1個体ずつ水槽に収容した。実験に用いた幼魚の SL(76.2 ± 6.3 mm、平均 ± SD)、

BW(13.3 ± 3.0 g)、ミズクラゲの湿重量(56.9 ± 16.0 g; 傘径: 9.3 ± 1.3 cm)、およびイシ

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イソゴカイの湿重量(1.0 ± 0.2 g)は実験区間で有意差はなかった(one-way ANOVA)。

また、各試行に用いたミズクラゲの成熟状況に明確な差は見られなかった。ミズクラゲ

は京都大学舞鶴水産実験所の浮き桟橋でタモ網を用いて採集し、濾過海水を換水させた

水槽に移送し、餌は与えなかった。すべてのミズクラゲは採集後 24 時間以内に実験に

用い、供試魚に提示する際には空胃の状態であった。イシイソゴカイは釣具店(株式会

社アングラーズ、大阪)で購入し、濾過海水を換水させた水槽に移送し、餌は与えなか

った。すべてのイシイソゴカイは購入後 48 時間以内に実験に用いた。砂底水槽では、

ガラス製実験水槽(90 × 30 × 30 cm3、w × d × h)の白色の底に、京都大学舞鶴水産実験

所周辺の多毛類の生息環境域から採集した明黄灰色の砂を 2 cmの深さで敷設した(Fig.

2-3-1)。水深は、砂の表面から水面までを 22 cmとした。各水槽の餌消費量は、実験前

後の餌料の湿重量の差とした。

飼育水は、自然水温(18.2 ± 1.2 oC、平均 ± SD)の濾過海水を止水で用い、実験区間

の水温に有意な差はなかった(one-way ANOVA)。各試行の実験前には、ポリカーボネ

ート製のトリカルネットを用いて、実験水槽を 2区画に分け、一方は観察者等の人影の

影響を最小限に抑えるために区画の半分を黒色のビニールシートで覆った馴致区画

(compartment B + C)、他方は全く覆われていない実験区画(compartment A + B)とな

るようにした(Fig. 3-2-1)。

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Fig. 3-2-1. Schematic drawing of an experimental tank used in the mixed prey and sand bottom

(MS) treatment. The tank divider was moved from X to Y after the lobworm had completely

buried itself in the sand. Except for the front of the experimental compartment (compartment A

+ B), the tank was covered with a black vinyl sheet.

SLと BW を計測後、幼魚を実験水槽の馴致区画に投入した。12 時間の馴致の後、配

合飼料を 2-3粒与えることで供試魚の摂餌活性を確認した上で、餌生物を compartment A

に投入した。イシイソゴカイが完全に潜砂したのを確認した後、仕切り板 Xを取り除

き、供試魚が実験区画に留まるように仕切り板 Yを挿入し、実験を開始した。実験は

30 分間行い、採餌行動はデジタルビデオカメラ(DCR-PC100; ソニー株式会社、東京)

を用いて録画した。

ビデオ画像を解析をすることで、反応潜時、索餌時間、および摂餌時間を算出した。

反応潜時は、実験開始から供試魚がミズクラゲまたは砂底をつつくまでにかかった時間

(JS, LS, MS 区)、あるいはミズクラゲまたはイシイソゴカイをつつくまでにかかった

時間(MG 区)とした。イシイソゴカイを与えていない JS 区も含め、砂底区では砂を

つつく行動をイシイソゴカイの索餌行動と見なした。実験中につつき行動が見られなか

った場合の反応潜時は 1800 秒(= 30 分)とした。幼魚が砂底をつつく間隔が 30 秒以

内のときは、これを一連の索餌行動と見なし、この行動の時間の総和を総索餌時間とし

た。カワハギにミズクラゲを提示した場合にミズクラゲをつつく間隔は、通常最大 30

Experimental compartment

2cm

22cm

Sand

11cm

Acclimatization compartment

Compartment A: 30cm Compartment B: 30cm Compartment C: 30cm

X Tank divider

Y

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秒であったため、この時間を索餌・摂餌時間の基準とした。採餌時間は索餌時間と摂餌

時間の総和とした。また、摂餌効率の指標として、単位採餌時間当たりの摂取有機物量

(mg min-1)を算出した。ミズクラゲの有機物量は、Lucas(1994)の報告している、総

湿重量の 0.003 % (傘径 81-90 mmと 100 mm<のミズクラゲの平均値)を適用した。イ

シイソゴカイの有機物量は、イシイソゴカイを 110 oCで 13時間乾燥させた後、550 oC

で 2 時間燃焼させることで算出した。これによると、イシイソゴカイの水分含量は

77.7 %であり、有機物量は湿重量の 2.97 ± 0.77 %であった。

統計処理

実験前の餌湿重量、ミズクラゲ摂餌量と単位採餌時間当たりの摂取ミズクラゲ有機

物量については、それぞれ one-way ANOVAを用いて実験区間の差を検定した。反応潜

時は、Kaplan–Meier method を用いて Log-rank test で検定し、Bonferroni 補正(adjusted

a = 0.0083)を行った。採餌時間の実験区間の差は Steel-Dwass test を用いて検定した。

反応潜時、採餌時間と単位採餌時間当たりの摂取有機物量の餌生物種間の差は、

Mann-Whitney U-test を用いて検定した。すべての検定の有意水準を a = 0.05 とした。

【結果】

カワハギは砂底条件(JS、MS 区)ではミズクラゲを先に摂餌したのに対し、ガラス

底条件(MG区)ではイシイソゴカイを先に摂餌した。JS区とMS区では、砂底に対し

てよりもミズクラゲに対する反応潜時が有意に短かった(Mann-Whitney U-test、Fig.

3-2-2a)。また、有意な差は見られなかったものの、MG区におけるイシイソゴカイに対

する反応潜時は、ミズクラゲに対する反応潜時の 25 %であった。イシイソゴカイまた

は砂底に対する反応潜時は MG区で最も短く、次いで MS区、LS区、JS区の順であり、

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100

MG区と JS区の間に有意な差が見られた(Log-rank test with Bonferroni correction, adjusted

a = 0.0083)。一方で、ミズクラゲに対する反応潜時は MS区で最も短く、次いで JS区、

MG 区の順であり、MS 区と MG 区の間に有意な差が見られた(Log-rank test with

Bonferroni correction, adjusted a = 0.0083)。

実験中、カワハギはミズクラゲを摂餌する際に触手から摂餌を開始し、続いて胃腔、

生殖巣と口腕を摂餌し、傘の大部分は摂餌しなかった。また、カワハギはイシイソゴカ

イを摂餌する前に、採餌時間の大部分をイシイソゴカイを口にくわえた状態で遊泳する

行動に費やした。MS 区ではイシイソゴカイに対する採餌時間に比べて、ミズクラゲに

対する採餌時間が有意に長く、いずれの供試魚も 30 分以内にイシイソゴカイを発見で

きなかった(Mann-Whitney U-test、Fig. 3-2-2b)。一方で、MG区のイシイソゴカイに対

する採餌時間は、ミズクラゲに対する採餌時間に比べて有意に長く(Mann-Whitney

U-test)、LS 区と MS 区のイシイソゴカイに対する採餌時間に比べても有意に長かった

(Steel-Dwass test)。ミズクラゲの採餌時間は、JS区で最も長く、次いでMS 区、MG区

であり、MS区と MG区の間に有意な差が見られた(Steel-Dwass test)。

MG区では、30分の実験時間中に 0.8 ± 0.4 g(平均 ± SD、BWの 5.5 ± 3.0 %)のイシ

イソゴカイを摂餌した(Fig. 3-2-2c)。MG区の試行のほとんどにおいて、カワハギはイ

シイソゴカイを摂餌し終えた後にミズクラゲを摂餌した。JS 区、MS 区と MG 区では

13.1 ± 4.9 g(BW の 98.9 ± 25.1 %)のミズクラゲを摂餌し、ミズクラゲ消費量に実験区

間の差は見られなかった(one-way ANOVA)。JS区、MS区とMG区のカワハギは、与

えられたミズクラゲの 23.7 ± 8.5 % を実験時間内に消費したのに対し、 MG 区では与

えられたイシイソゴカイの 86.42 ± 8.8 %を摂餌した。MG区のカワハギのうち 7個体は、

与えられたイシイソゴカイをすべて摂餌し、残りの 3個体はイシイソゴカイの一部を残

したが、残余部位に特定の傾向は見られなかった。

MS区の単位採餌時間当たりの消費イシイソゴカイ有機物量が 0 mg min-1となったの

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101

に対し、同区における消費ミズクラゲ有機物量は正の値をとった(Mann-Whitney U-test、

Fig. 3-2-2d)。一方で、MG 区では単位採餌時間当たりの消費イシイソゴカイ有機物量

(6.84 ± 6.89 mg min-1、平均 ± SD)は消費ミズクラゲ有機物量に比べて有意に多かった

(9.1 倍、Mann-Whitney U-test)。単位採餌時間当たりの消費ミズクラゲ有機物量は、

MG区で 0.75 ± 0.10 mg min-1、JS区で 0.34 ± 0.70 mg min-1、MS区で 0.09 ± 0.05 mg min-1

となり、実験区間で有意な差はなかった(one-way ANOVA)。

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Fig. 3-2-2. (a) Response latency of threadsail filefish for lobworm (or bottom) and jellyfish

expressed as median (25-75 percentile). (b) Total foraging time of threadsail filefish on

lobworm and jellyfish [median (25-75 percentille)]. (c) Food consumption of threadsail filefish

on lobworm and jellyfish (mean ± SD). (d) Organic matter consumption per unit foraging time

of threadsail filefish on lobworm and jellyfish (mean ± SD). Lower case and upper case letters

indicate significant differences among treatments [(a): p < 0.05, Log-rank test with Bonferroni

correction, adjusted a = 0.0083; (b): p < 0.05, Steel-Dwass test; (c) p = 0.14, one-way ANOVA;

(d) p = 0.16, one-way ANOVA]. Asterisks (*) over the bracket indicate significant differences

between prey items (p < 0.05, Mann-Whitney U-test). ND indicates that no data were available.

a abab bAB

A

B

0

600

1200

1800 lobworm or bottom

jellyfish

*

*

ND

(a)

ab aa

b

AB

A

B

0

300

600

900 lobworm

jellyfish

* *

ND

(b) *

A

A A

0

5

10

15

20

25 lobworm

jellyfish

ND ND

(c)

0 0

ND AA

A

0

4

8

12

16 lobworm

jellyfish

Jellyfish (JS) Lobworm (LS) Mixed (MS) Mixed (MG)Sand Glass

(d)

ND

*

*

0 0

Re

sp

onse

la

ten

cy

(se

c)

To

tal fo

rag

ing

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(s

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Fo

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n

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0 m

in (

g)

Org

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pe

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gin

g tim

e

(m

g m

in-1

)

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103

【考察】

ミズクラゲとイシイソゴカイの両者が即座に摂餌可能な状態にあるとき、カワハギは

イシイソゴカイを好んで摂餌した。しかしながら、反応潜時の結果から、カワハギはミ

ズクラゲのみを視認可能な場合には、ミズクラゲを選択的に摂餌することが明らかにな

った。底質の異なる実験区間における反応潜時の違いは、イシイソゴカイの餌としての

利用しやすさが関わっていると考えられる。また、カワハギは限られた時間(= 30 分)

の中で大量のミズクラゲを摂餌可能であり、ミズクラゲが視認可能かつイシイソゴカイ

が視認不可能な場合のカワハギの摂餌効率(単位時間当たりの有機物摂取量)は、イシ

イソゴカイと異なりミズクラゲでは正の値をとった。一方で、両餌生物が視認可能な場

合では、カワハギの摂餌効率はミズクラゲよりもイシイソゴカイにおいて著しく高かっ

た。この結果から、カワハギの嗜好性はミズクラゲよりもイシイソゴカイで高いものの、

カワハギは摂餌効率の良い餌としてミズクラゲを利用していると考えられる。

ミズクラゲの体成分の 96 %は水分からなり、固形分は 4 %に過ぎない (Lucas 1994)。

しかしながら、第 2章で示したように、カワハギはミズクラゲから少なからずエネルギ

ーを摂取することができる。一方、イシイソゴカイの水分含有率は湿重量の 78 %であ

り(本実験)、脂質含有率は 1.0 %である(齋藤ら 2006)。Olive et al.(2009)は、タマ

シキゴカイ Arenicola marina の全脂肪酸に対する EPA含有率を 11.5 %と報告している。

また、Arai(2005)は、ミズクラゲの単位湿重量当たりの熱量は節足動物の 20 %以下で

あると報告しており、やはりクラゲ類は他の一般的な魚類の餌生物に比べて低カロリー

であることが伺える。それに加えて、ミズクラゲを含むクラゲ類は、刺胞毒をもつため、

その消化には代謝や中和のコストも必要となる。これらのことから、両餌生物が利用可

能であるときに、カワハギがイシイソゴカイを選択的に摂餌するのは驚くべきことでは

ない。

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104

ミズクラゲは視認できるがイシイソゴカイを視認することのできない砂底条件の実

験区では、カワハギはミズクラゲに対して選好性を示し、イシイソゴカイへの索餌時間

は短かった。イシイソゴカイは一般に底砂中や岩の下に埋在するため、視覚によりこれ

らを探索するのは困難である。カワハギが埋在性生物を索餌するときは、口から水を吹

きつけて砂中から餌生物を露出させるか(Meysman et al. 2005)、または岩の表面をつい

ばむことで摂餌する。サイズが大きく浮遊性のミズクラゲを索餌する場合に比べて、こ

のタイプの索餌行動は多くの努力を必要とするため、カワハギはミズクラゲを摂餌する

ことで索餌エネルギーを節約できる可能性が高い。また、餌生物の移動能力は摂餌選択

性に重要な影響を与えることが分かっており、例えばローチ Rutilus rutilus 当歳魚の摂

餌選択は、餌生物の被食回避能力によって決定されるという(Peterka and Matena 2009)。

これは、移動性が高い餌生物のほうが採餌にエネルギーを要し、獲得が難しいためであ

ろう。本実験では扱っていないが、多毛類と同様にカワハギの主な餌である甲殻類はク

ラゲ類に比べて移動性が高いため、やはり採餌エネルギーをクラゲ類よりも多く必要と

する可能性が高い。このため、甲殻類の摂餌に比べてクラゲ類を摂餌することは採餌エ

ネルギーの節約につながる可能性があり、今後の検討が求められる。

本実験の結果からも、カワハギは大量のミズクラゲを摂餌することが伺えた。ミズク

ラゲは一般に他の餌生物に比べて大きく、本実験で扱ったミズクラゲの湿重量はイシイ

ソゴカイのおよそ 60倍であった。これに加え、クシクラゲで報告されているように(Arai

et al. 2003)、魚類にとってクラゲ類は消化が容易であることが予想される。カワハギは

ついばみ食者であるため(末廣 1934)、ミズクラゲのサイズや硬さは摂餌効率を考える

上で不利にならないであろう。すなわち、カワハギは一度ミズクラゲを発見すると短時

間に大量消費が可能であるため、栄養価が低くても摂餌する利点は大きいと考えられる。

第 2 章第 1 節で、カワハギ稚魚は 1 日に体重の 24 倍ものミズクラゲを摂餌して生残し

かつ成長することを示した。本実験のクラゲ消費速度(30 分で全湿重量の 98.9 %)を

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105

考慮すると、1日中ミズクラゲを提示していた場合、代謝を維持するのに十分な量を摂

餌していたと推測される。

本実験では、カワハギは 30 分間という実験時間の中で、潜砂したイシイソゴカイを

発見し、摂餌することができなかった。その原因としては、人工孵化幼魚の餌探索能力

が天然魚に比べて劣る可能性、あるいはカワハギにとって 1800 cm2の範囲にいるイシ

イソゴカイ(5.6 ind m-2)を 30分間で探し出すのは困難である可能性が考えられた。し

かしながら、MS区の条件下に置いた天然のカワハギ幼魚の行動を観察したところ、30

分間でイシイソゴカイを探し出すことはやはりできなかった[多賀(宮島) 悠子、未

発表]。カワハギの摂餌能力を評価する上で、イシイソゴカイの密度を変えたときの本

種の採餌行動を詳しく観察する必要がある。

前述したように、餌生物の移動能力は摂餌選択性に重要な影響を与える。本実験では、

ミズクラゲの移動能力は釣り糸で吊すことによって制限された。予備実験の結果から、

自由遊泳させた場合のミズクラゲ消費量はミズクラゲを吊した場合の 57 %であり、本

実験のミズクラゲ消費量は自由遊泳させた場合に比べると過大評価されている。天然環

境下では、クラゲ類は通常海流に乗って漂流する(Albert 2007)。前節のウマヅラハギ

と同様に、カワハギは基本的に底生魚であり、沿岸加入以降は固定的な生息域を持つた

め、生息域の範囲外に流されたミズクラゲを追って摂餌することは稀であろう。しかし

ながら、近年頻繁に起きているクラゲ類の大発生は、クラゲ類がカワハギの生息域内に

来遊する機会を増やし、このためカワハギによるクラゲ摂餌の機会も増加していると考

えられる。

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106

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107

第4章 魚類とクラゲの捕食-被食関係の個体発生

クラゲ類は仔魚の重要な捕食者であり、仔魚のバイオマスの重要な決定要因となり得

る(Brodeur et al. 2002; Purcell 2003; Purcell et al. 2007)。仔魚のミズクラゲからの被食回

避行動の発達については、マダイ、マアジ、マサバ Scomber japonicusやカタクチイワシ

Engraulis japonicus(Nakayama et al. 2003; Masuda 2006; Ohata et al. 2012)などを用いて検

討されているが、魚類の回避能力の獲得要因については不明な点が多い。一方で、カワ

ハギ科をはじめとした多くの魚種が天然環境下でクラゲ類を摂餌することも報告され

ている(Purcell 1985; Arai 2005; Pauly et al. 2009)。ここで、クラゲ類とクラゲ摂餌魚は、

生活史の中で捕食-被食関係の逆転を生じることが予想されるが、これまでクラゲ類と

クラゲ摂餌魚の生活史に着目して両者の関係を調べた研究は皆無である。

カワハギ科魚類はインド-西太平洋の熱帯・温帯域のサンゴ礁、岩礁域、藻場や砂底

域に広く分布し、一部は大西洋や紅海にも生息する。代表的なクラゲ摂餌魚であるカワ

ハギは北海道以南の日本海から南シナ海にかけての温帯域に分布し(Ivankov and

Samylov 1979; Randall and Lim 2000)、主な生息場は沿岸の藻場や岩礁域である。カワハ

ギの生態については不明な点が多いものの、初夏に付着沈性卵を産卵し、稚魚はしばし

ば流れ藻や(Safran 1990; Safran and Omori 1990)、あるいはエチゼンクラゲやスナイロ

クラゲ Rhopilema asamushi などのメデューサに寄り付く(益田 玲爾、未発表)。潜水観

察によれば、メデューサに寄り付く稚魚のサイズは 6-30 mm(SL、益田 玲爾、未発表)、

一方沿岸の藻場や岩礁域で見られる最小サイズは 20 mm(SL)であり(Masuda et al.

2010)、沿岸への加入サイズは概ね 20-30 mmと推定される。また、カワハギはその生活

史を通して、浮遊物に寄り付いた一部の個体以外は、群れを形成しない(益田 玲爾、

未発表)。カワハギは成長が早いことが知られ、養殖環境下では約 1 年で市場出荷サイ

ズに成長し、最大で 30 cmほどになる(Novicov et al. 2002)。前述したように、カワハ

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ギは魚類、表在性ベントス、埋在性ベントスや海藻などを摂餌するが(末廣 1934)、ミ

ズクラゲ、エチゼンクラゲやアカクラゲ Chrysaora melanaster などのメデューサの摂餌

もしばしば観察される(Masuda et al. 2008; 多賀(宮島) 悠子、未発表)。カワハギ科

魚類の中には刺胞動物のポリプを摂餌するものが多く報告されているが(Brooker et al.

2013など)、メデューサ以外の生活史段階のクラゲ類に対する魚類の摂餌はこれまで報

告されていない。

このようなカワハギの生活史を考慮すると、本種はその発育段階の大半にわたり、浮

遊期(すなわちメデューサ)や付着期(すなわちポリプ)のクラゲ類との遭遇の機会が

あると推察される。ミズクラゲは沿岸域で最も普通に見られるクラゲ類であり、本種の

メデューサは初夏から秋にかけて有性生殖を行い、受精卵はプラヌラ幼生となる。また、

ミズクラゲのポリプは年間を通し観察される。このため、カワハギ仔稚魚は夏から秋に

かけてミズクラゲの受精卵、プラヌラ幼生やメデューサと、また、年間を通してポリプ

と遭遇の機会があると予想される。

そこで本章では、ミズクラゲに対するカワハギの行動を個体発生を追って観察するこ

とで、様々な発育段階におけるミズクラゲとカワハギの捕食-被食関係を詳細に明らか

にすることを目的とし、第 1節ではカワハギのミズクラゲメデューサに対する回避行動

の個体発生を、第 2節ではミズクラゲ受精卵とプラヌラ幼生、メデューサへのカワハギ

の摂餌行動の個体発生、ならびにポリプへの摂餌行動の水温依存性について検討した。

また、第 1節ではクラゲ回避能力の獲得要因として刺胞毒耐性と突進速度の発達の可能

性を考え、これらについても個体発生を追って検討した。さらに、より沖合においてし

ばしば群れを形成して生息し、カワハギと同様にクラゲ類への寄り付きや摂餌頻度が高

いウマヅラハギ、およびクラゲ類を摂餌するもののカワハギやウマヅラハギに比べると

天然環境下でのクラゲ摂餌の観察頻度が低く、メデューサへの稚魚の寄付き行動は観察

されないマダイ(益田 玲爾、未発表)で同様の検討を行い、本種のクラゲ類に対する

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109

適応の可能性とその生活史におけるクラゲ類の役割の変化について理解を深めた。

4-1. カワハギ、ウマヅラハギおよびマダイ仔稚魚におけるミズクラゲメデュー

サ回避能力の個体発生

【材料と方法】

初期飼育

日清マリンテック株式会社(愛知)より 2010 年(期間 A)に購入したウマヅラハギ

受精卵、および 2011 年(期間 B)に購入したカワハギ、ウマヅラハギ、マダイ受精卵

を京都大学舞鶴水産実験所に移送し、濾過海水を換水させた 500 Lのポリエチレン製黒

色円形水槽 2面(期間 A)、および 6面に各魚種それぞれ 2面ずつ(期間 B)収容した。

ウマヅラハギの受精卵は 2010 年 6 月 24 日に孵化を開始した(期間 A)。また、カワハ

ギ、ウマヅラハギおよびマダイの受精卵はそれぞれ 2011年 7月 3日、6月 1 日、6月 2

日に孵化を開始した(期間 B)。カワハギとウマヅラハギ仔魚は 2-10 dph は SS型シオミ

ズツボツボワムシ Brachionus rotundiformis を、10-12 dph は S型シオミズツボワムシ B.

rotundiformisを、13 dph以降は L型シオミズツボワムシ B. plicatilisとアルテミアノープ

リウス幼生を給餌した。マダイ仔魚は 2-11 dph は S 型シオミズツボワムシを、12 dph

以降は L型シオミズツボワムシとアルテミアノープリウス幼生を用いて飼育した。シオ

ミズツボワムシとアルテミアはマリングロス EX(日清マリンテック株式会社、愛知)

で栄養強化したものを用いた。給餌は 1日 2回行った。

メデューサからの回避能力(Exp. 4-1-1)

実験には 2、5、8、11、16、29 dphのウマヅラハギ仔魚(期間 A)、および 2、7、12、

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110

17、22 dph のカワハギ仔魚、2、7、12、17、22、32、42 dph のウマヅラハギ仔魚、およ

び 2、7、12、17、22、27、32、42 dph のマダイ仔魚(期間 B)を用いた。各日齢の仔

稚魚の標準体長(SL)、および鱗の形成の有無を実体顕微鏡で観察した。ただし、仔魚

の屈曲完了までは脊索長を SLとした。各日齢の SLは Fig. 4-1-1に示す。なお、マダイ

では、22 dphと 27 dphの SLの値が逆転した。

仔魚が水面にトラップされるのを防ぐため(Tagawa et al. 2004)、ポリエチレングリコ

ールを 1 µg ml-1の濃度で溶解した濾過海水(PW)を入れた 10 Lの透明円形水槽(30 cm

× 15 cm、Φ × d)を実験に用いた。期間 Aには、活発に拍動しているミズクラゲメデュ

ーサ 3個体を水槽に収容し 5分間馴致した後、いずれのメデューサからも傘径以上離れ

た位置にウマヅラハギ仔魚 1個体を 10 ml ピペットを用いて静かに投入し、仔魚の行動

を 15分間観察した。期間 Bには、水槽に仔魚 1個体を投入し、投入後一定時間(2-17 dph:

5 分、22-32 dph:15分、42-47 dph:30 分)馴致した後、活発に拍動しているミズクラ

ゲメデューサ 3 個体を投入し、メデューサを投入してから 15 分間の仔魚の生残を観察

した。メデューサは舞鶴水産実験所の浮桟橋周辺で採集し、濾過海水を換水させた飼育

水槽に速やかに移送し、採集から 24 時間以内に実験に用いた。実験に用いたメデュー

サの大部分は成熟個体であった。実験水温は、22.5 ± 1.3 oC(平均 ± SD、期間 A)およ

び 22.7 ± 2.1 oC(期間 B)であった。実験に用いたミズクラゲの直径は 10.1 ± 0.8 cm(平

均 ± SD、期間 A)および 9.4 ± 1.0 cm(期間 B)であり、それぞれの期間内の試行間に

有意な差はなかった(n = 20, p = 1.00、one-way ANOVA)。期間 Bでは、ミズクラゲを

投入せずに同様の操作を行う対照区を設定し実験を行った。両期間の各魚種とも、それ

ぞれの日齢で 10試行を行った。ミズクラゲ投入 15 分後の仔魚の生残率を以下の式から

算出した:

Survival rate (%) = [number of survived fish at 15 min after the mudusae were introduced

(ind)/ 10 (ind)] × 100 …式(4-1-1)

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111

SL と生残率の関係を以下のロジスティック生残モデルで近似し、捕食者回避の変曲

点を調べた:

S = {1 + e[–g(L–L50)]}−1 …式(4-1-2)

ここで S は生残率、g は生残率の傾き、Lは供試魚の SL、そして L50 は S = 0.5 の時

の SLを示す。Microsoft-Excel’s Solver を用い、gと L50 の値を最小二乗法に当てはめる

ことで算出した。

また、供試魚の能動的接触回数、ついばみ回数、受動的接触回数、および接触後逃避

率を算出した。能動的接触回数は実験中に供試魚がメデューサに向かって遊泳すること

でメデューサに接触した回数、ついばみ回数は供試魚がメデューサをついばんだ回数と

した。受動的接触回数は能動的接触を除くメデューサへの接触回数とし、接触後逃避率

はメデューサへの受動的接触のうち接触後にメデューサの触手に捕獲されることなく

脱出した回数の割合とした。メデューサからの回避能力は、捕食者認知能力や遊泳能力

といった「メデューサの起こす水流を感知し、触手との接触を避ける能力」と、刺胞毒

への耐性や触手に絡まっても逃げ出すことができる筋力の発達といった「メデューサに

接触しても生残できる能力」のいずれか、もしくは両方によって獲得されると予想され

たため、受動的接触回数を前者の、接触後逃避率を後者の指標とした。

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112

Term A Term B Black scraper Filefish Black scraper Red sea bream

Fig. 4-1-1. Standard length of fish (mean ± SD) on the elapsed days post hatching (dph) on each

day of the trials in Experiment 4-1-1, 4-1-2, 4-1-3, 4-2-1, 4-2-2 in term A and term B with

photographs of fishes.

50dph: 37.9±4.0mm

42dph: 14.0±2.4mm

2dph: 2.0±0.1mm 2dph: 2.4±0.1mm 2dph: 2.4±0.2mm 2dph: 3.1±0.2mm

5dph: 2.0±0.1mm 7dph: 2.7±0.2mm 7dph: 2.6±0.3mm 7dph: 3.8±0.2mm

8dph: 2.1±0.2mm 12dph: 3.8±0.5mm 12dph: 3.5±0.4mm 12dph: 4.4±0.2mm

11dph: 2.3±0.2mm 17dph: 4.9±0.8mm 17dph: 4.1±0.4mm 17dph: 5.4±0.3mm

16dph: 2.7±0.4mm 22dph: 8.7±1.4mm 22dph: 4.7±0.8mm 22dph: 6.0±0.5mm

29dph: 8.2±1.8mm 27dph: 8.9±0.9mm 32dph: 8.7±0.8mm 27dph: 5.6±0.2mm

40dph: 21.8±2.4mm 42dph: 14.2±2.1mm 32dph: 8.7±0.6mm

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113

刺胞毒耐性(Exp.4-1-2)

実験は、Exp. 4-1-1と同じ日齢の各魚種を用いた。PW を入れたガラス製シャーレ(23

cm × 10 cm、Φ × d、期間 A)または 10 L円形水槽(期間 B)に、ミズクラゲメデュー

サ 1個体を口腕側が上になるように収容し、仔魚 1個体を 10 ml ピペットを用いて静か

にメデューサの傘縁部に投入し、メデューサの触手に接触させた。各魚種の各日齢でそ

れぞれ 10 試行ずつ行った。投入直後にメデューサの傘から脱出した個体は、メデュー

サの触手に接触しなかったものとみなし、データ解析から除外した。投入 5分後に生残

していたすべての個体を、PWの入った小型プラスチック容器(10 × 8 × 5 cm3、w × d ×

h)に静かに移送し、投入 5、15 および 60 分後(期間 A)または、投入 5 分後および

60 分後(期間 B)の仔魚の生残を観察した。対照区として、同様の操作をメデューサ

の入っていない水槽を用いて、各魚種の各日齢でそれぞれ 5 試行(期間 A)または 10

試行(期間 B)行った。SL と投入後の生残率の関係をロジスティック生残モデル(式

4-1-2)で近似し、刺胞毒耐性の変曲点を求めた。

突進速度(Exp. 4-1-3)

PW を入れたガラス製シャーレ(期間 A:10 cm × 2 cm、期間 B:23 cm × 10 cm、Φ ×

d)に、仔魚 1 個体を投入し、1 分間馴致した。馴致後、仔魚が計 5 回反射反応を示す

まで、ワイヤー(直径約 0.4 mm)を用いて仔魚の背後から接触刺激を 5 秒間隔で与え

た。実験中は、デジタルビデオカメラ(Xacti DMX; 三洋電機株式会社、大阪)を用い

て録画し、仔魚の 5回の反射反応の平均突進速度を算出した。突進速度は、仔魚が反射

反応を示した直後の 3コマ(1/ 10秒)の移動距離の和から算出した。実験には、Exp. 4-1-1

と同じ日齢の同じ魚種を用い、両期間とも、各魚種の各日齢でそれぞれ 10 試行を行っ

た。ただし、期間 Aの 16 dph のデータはカメラの故障により欠損した。実験中に仔魚

が死亡した場合、データ解析から除外した。SL と突進速度の関係は直線回帰により近

似した。

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114

統計処理

ミズクラゲの傘径は one-way ANOVAで、Exp. 4-1-1と Exp. 4-1-2の生残率の各日齢の

実験区と対照区の間の相違は Kaplan–Meier method を用いて Log-rank testで比較した。

能動的接触回数、ついばみ回数、受動的接触回数、および接触後逃避率の日齢間の差は、

Steel-Dwass test を用いて検定した。すべての有意水準は a = 0.05とした。

【結果】

魚類のメデューサ回避能力の個体発生

カワハギとウマヅラハギは、それぞれ 3.8 mmと 3.5 mmで頭部と下顎に棘状鱗が観察

された(Fig. 4-1-2a, b)。一方でマダイでは、14.0 mmで頭部と体側の広い範囲に鱗が観

察された(Fig. 4-1-2c)。

(a) (b)

(c) Fig. 4-1-2. Photomacrographs of (a) filefish

of 3.8 ± 0.5 mm standard length (SL) larva

[12 days post hatching (dph)], (b) black

scraper of 3.5 ± 0.4 mm SL (12 dph) and (c)

red sea bream of 14.0 ± 2.4 mm SL (43

dph) of Experiment 4-1. Filefish and black

scraper formed spiny scales in buccal and

mandibular area and red sea bream formed

them both in buccal and trunk areas.

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115

カワハギとウマヅラハギでは、マダイより小さいサイズからメデューサ回避の能力を

獲得していることが明らかになった。ロジスティック生残モデルから得られた期間 A

のウマヅラハギの変曲点は 3.4 mmであり(Fig.4-1-3a)、期間 Bの変曲点はカワハギ(3.2

mm)で最も小さく、次いでウマヅラハギ(3.4 mm)、マダイ(6.7 mm)の順であった

(Fig.4-1-3b)。期間 Bの対照区のすべての試行の生残率は 100 %であり、すべての魚種

で実験区に比べて対照区で生残率が有意に高かった(実験区、対照区ともに各日齢、各

魚種で n = 10、Log-rank test)。

Fig. 4-1-3. The relationship between the standard length of fish and survival rate in Exp. 4-1-1

in term A (a) and term B (b) was fitted to a logistic survivorship model. The curves were fitted

by black scraper y = {1 + e[-3.9(x-3.4)]}-1 (R2 = 0.8) in term A and filefish y = {1 + e[-6.0(x-3.2)]}-1 (R2

= 1.0), black scraper y = {1 + e[-9.7(x-3.4)]}-1 (R2 = 0.9) and red sea bream y = {1 + e[-7.3(x-6.7)]}-1 (R2

= 0.8) in term B.

能動的接触とついばみ行動はウマヅラハギでのみ観察され(Fig. 4-1-4, 4-1-6)、期間 A

では 2.3-2.9 mmで、期間 Bでは 4.1 mmで顕著に多かった(Steel-Dwass test)。ついばみ

行動は主にメデューサの傘の上部に対して行われ、口腕や触手、生殖巣への接触やつい

ばみ行動は観察されなかった。また、ミズクラゲの分泌した粘液をついばむ個体も観察

された。カワハギでは 8.7 mm(Fig. 4-1-5c)で、ウマヅラハギでは 8.2 mm(期間 A、Fig.

4-1-4c)と 4.7 mm(期間 B、Fig. 4-1-6c)で、マダイでは 8.7 mm(Fig 4-1-7c)でメデュ

ーサへの受動的接触はなくなった。期間 Bのウマヅラハギでは、8.7 mm以上のサイズ

で再度受動的接触が観察されるようになった。一方で、仔魚の接触後逃避率は日齢を経

3.4

0

20

40

60

80

100

0 5 10 15 20

Su

rviv

al ra

te (

%)

(a)

3.43.2 6.7

0

20

40

60

80

100

0 5 10 15 20

Filefish

Black scraper

Red sea bream

Inflection point

(b)

Standard length (mm)

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116

るにつれて高まる傾向がみられ、カワハギでは 3.8 mm(Fig. 4-1-5d)で、ウマヅラハギ

では 2.3 mm(期間 A、Fig. 4-1-4d)と 3.5 mm(期間 B、Fig. 4-1-6d)で、マダイでは 5.6

mm(Fig. 4-1-7d)で、それ以前の日齢よりも有意に高まった(Steel-Dwass test)。

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117

Fig. 4-1-4. (a) The number of active contact with medusa (mean ± SD), (b) pecking on medusa

(mean ± SD), (c) passive contact with medusa (mean ± SE) and (d) escape rate after contact

with medusa (mean ± SE) of black scraper in Exp. 4-1-1 in term A. Lower case letters indicate

significant differences among ages (Steel-Dwass test).

0

1

2

3

4

1 2 3 4 5 6 7 8 9

a a

b ab

b

(a)

0

4

8

12

16

1 2 3 4 5 6 7 8 9

Num

be

r o

f p

eckin

g(t

ime

s p

er

15

min

)

aaa

b

aba

(b)

aa

a

ab

ab b0

1

2

3

4

1 2 3 4 5 6 7 8 9

(c)

aaab

b

b

0

25

50

75

100

1 2 3 4 5 6 7 8 9

Standard length (mm)

(d)

Nu

mb

er

of

active

co

nta

ct

(tim

es p

er

15

min

)

Num

be

r o

f pa

ssiv

e c

on

tact

(tim

es p

er

15

min

) E

scap

e r

ate

afte

r co

nta

ct

(%

)

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118

Fig. 4-1-5. (a) The number of active contact with medusa, (b) pecking on medusa, (c) passive

contact with medusa and (d) escape rate after contact with medusa of filefish in Exp. 4-1-1 in

term B (mean ± SE). Lower case letters indicate significant differences among ages

(Steel-Dwass test).

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

2 4 6 8 10 12 14

(a)

0

2

4

6

8

2 4 6 8 10 12 14

Nu

mb

er

of p

eckin

g

( tim

es p

er

15

im

n) (b)

a

a

a

a

b

0

0.5

1

1.5

2

2.5

2 4 6 8 10 12 14

(c)

a

ab

b b

0

25

50

75

100

2 4 6 8 10 12 14

Standard length (mm)

(d)

Nu

mb

er

of

active

co

nta

ct

(tim

es p

er

15

min

) N

um

be

r o

f pa

ssiv

e c

on

tact

(tim

es p

er

15

min

) E

scap

e r

ate

afte

r co

nta

ct

(%

)

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119

Fig. 4-1-6. (a) The number of active contact with medusa, (b) pecking on medusa, (c) passive

contact with medusa and (d) escape rate after contact with medusa of black scraper in Exp.

4-1-1 in term B (mean ± SE). Lower case letters indicate significant differences among ages

(Steel-Dwass test).

0

1

2

3

4

5

6

7

8

2 4 6 8 10 12 14

(a)

0

2

4

6

8

2 4 6 8 10 12 14

Nu

mb

er

of p

eckin

g

( tim

es p

er

15

im

n) (b)

a

ab

a

abc cbc

abc

0

0.5

1

1.5

2

2.5

2 4 6 8 10 12 14

(c)

a

ab

b

bb b

0

25

50

75

100

2 4 6 8 10 12 14

Standard length (mm)

(d)

Nu

mb

er

of

active

co

nta

ct

(tim

es p

er

15

min

) N

um

be

r o

f pa

ssiv

e c

on

tact

(tim

es p

er

15

min

) E

scap

e r

ate

afte

r co

nta

ct

(%

)

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120

Fig. 4-1-7. (a) The number of active contact with medusa, (b) pecking on medusa, (c) passive

contact with medusa and (d) escape rate after contact with medusa of red sea bream in Exp.

4-1-1 in term B (mean ± SE). Lower case letters indicate significant differences among ages

(Steel-Dwass test).

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

2 4 6 8 10 12 14

(a)

0

2

4

6

8

2 4 6 8 10 12 14

Nu

mb

er

of p

eckin

g

( tim

es p

er

15

im

n) (b)

a aa

a

a

a

b b

0

0.5

1

1.5

2

2.5

2 4 6 8 10 12 14

(c)

a aa

abab

b

0

25

50

75

100

2 4 6 8 10 12 14

Standard length (mm)

(d)

Nu

mb

er

of

active

co

nta

ct

(tim

es p

er

15

min

) N

um

be

r o

f pa

ssiv

e c

on

tact

(tim

es p

er

15

min

) E

scap

e r

ate

afte

r co

nta

ct

(%

)

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121

刺胞毒耐性と突進速度の個体発生

期間 Aのウマヅラハギでは、接触 5分後(Fig. 4-1-8a)、15 分後および 60 分後の生残

率に違いは見られなかった。期間 B のカワハギとウマヅラハギでは、実験開始 5 分後

(Fig. 4-1-8b)と 60分後(Fig. 4-1-8c)の生残率がともにマダイよりも高く、小さいサ

イズから刺胞毒耐性を獲得していた。ロジスティック生残モデルから得られた各魚種の

変曲点は、期間 Aの実験開始 5分後のウマヅラハギでは 3.7 mmであった。期間 Bでは

実験開始 5分後、60分後とも、ウマヅラハギ(4.1と 4.3 mm)とカワハギ(4.3 と 4.3 mm)

でマダイ(8.7 と 11.4 mm)よりも小さかった。6.0 mmと 14.0 mmのマダイの 60分後の

生残率が 90 %であったのを除き、対照区ではすべての魚種のすべての日齢で生残率は

100 %であった。両期間のすべての魚種で、対照区は実験区より生残率が有意に高かっ

た(実験区、対照区ともに各日齢、各魚種で n = 10、Log-rank test)。

突進速度と SL の関係は、3 魚種ともほぼ線形に近似された。得られた線形曲線から

算出した期間 Aのウマヅラハギの突進速度は、体長 3.2 mmで 9.0 mm sec-1、体長 3.4 mm

で 9.4 mm sec-1、および 6.7 mmで 15.0 mm sec-1であった(Fig. 4-1-9a)。期間 Bのカワ

ハギ、ウマヅラハギ、マダイの突進速度はそれぞれ、体長 3.2 mmで 12.0、13.0および

12.8 mm sec-1、体長 3.4 mmで 12.6、13.4および 13.1 mm sec-1、6.7 mmで 23.3、17.0 お

よび 21.0 mm sec-1であった(Fig. 4-1-9b)。

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122

Fig. 4-1-8. The relationships between the standard length of fish and survival rates of 5 min later

in term A (a) and 5 min (b) and 60 min (c) in term B in Exp. 4-1-2 fitted to a logistic

survivorship model. The curves were fitted to (a) black scraper y = {1 + e[-5.1 (x-3.7)]}-1 (R2 = 0.9),

(b) filefish y = {1 + e[-15.0(x-4.3)]}-1 (R2 = 1.0), black scraper y = {1 + e[-78.3(x-4.1)]}-1 (R2 = 1.0) and

red sea bream y = {1 + e[-5.7(x-8.7)]}-1 (R2 = 1.0) and (c) filefish y = {1 + e[-15.0(x-4.3)]}-1 (R2 = 1.0),

black scraper y = {1 + e[-22.3(x-4.3)]}-1 (R2 = 1.0) and red sea bream y = {1 + e[-3.4(x-11.4)]}-1 (R2 =

1.0).

Fig. 4-1-9. The relationship between standard length of fish and burst swimming speed in Exp.

4-1-3 in term A (a) and term B (b) fitted to simple linear regression lines; black scraper y = 1.7x

+ 3.6 (R2 = 0.9) in term A and filefish y = 3.2x + 1.7 (R2 = 0.9), black scraper y = 1.2 x + 9.3 (R2

= 0.9) and red sea bream y=2.3 x + 5.3 (R2 = 0.9) in term B.

3.7

0

20

40

60

80

100

0 5 10 15 20

Su

rviv

al ra

te (

%)

Standard length (mm)

(a)

4.34.1 8.7

0

20

40

60

80

100

0 5 10 15 20

Su

rviv

al ra

te (

%)

FilefishBlack scraperred sea breamInflection point

(b)

Red sea bream

4.34.3 11.4

0

20

40

60

80

100

0 5 10 15 20

Su

rviv

al ra

te (

%)

Standard length (mm)

(c)

5

15

25

35

45

1 2 4 8 16

Burs

t sw

imm

ing s

peed

(mm

sec

-1)

(a)

5

15

25

35

45

2 4 8 16

FilefishBlack scraperRed sea bream

(b)

Standard length (mm)

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123

【考察】

本実験の結果、天然環境でクラゲ摂餌頻度の高いカワハギとウマヅラハギでは、マダ

イより小さいサイズからメデューサからの回避能力が発達することが明らかになった。

つまり、これらのカワハギ科魚類はミズクラゲの多い環境により適応していることが示

唆される。Masuda(2006)はマアジ、マサバとマダイ仔魚を用いて、Exp. 4-1-1と同様

の実験を行った結果、マアジとマサバでは約 6 mm(SL)で生残率が 100 %となり、同

サイズのマダイより生存時間が有意に長かったと報告している。Exp. 4-1-1のカワハギ

とウマヅラハギの生残率が 100 %になるのは、マアジやマサバと同様に 6 mm前後であ

った。マアジは全長 10 mmからクラゲ類に片利共生する(Masuda 2009)。一方、クラ

ゲ摂餌の個体発生については明らかではないものの、マサバやその近縁種であるタイセ

イヨウマサバはクラゲ類を選択的に摂餌することで知られる(Purcell and Arai 2001; 益

田 玲爾、未発表)。また、Ohata et al.(2012)は、Exp. 4-1-1と同様の手法を用いてカタ

クチイワシの生残を観察した結果、11.9 mm(SL)で生残率 50 %を示した。このように、

カワハギ科魚類やマアジ、マサバのようにクラゲ類と密接な生活史を持つ魚種、マダイ

のように時折クラゲ類を摂餌する魚種、およびカタクチイワシのように専らクラゲ類に

捕食される魚種の間にはメデューサからの回避能力の獲得サイズに大きな差がある。こ

のことから、仔魚のサイズだけではなく、魚種の違いによってクラゲ類からの捕食圧の

影響が大きく異なる可能性が高いと考えられる。

メデューサに寄り付くカワハギの最小サイズは 6 mm 程度であることから(益田 玲

爾、未発表)、カワハギ科魚類はメデューサからの回避能力や刺胞毒耐性を完全に獲得

した直後からメデューサへの寄り付きを始めると考えられた。前述したように、魚類の

メデューサからの回避能力は、捕食者認知能力や遊泳能力といった「メデューサの起こ

す水流を感知し、触手との接触を避ける能力」と、刺胞毒への物理的・科学的耐性や触

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124

手に絡まっても逃げ出すことができる筋力の発達といった「メデューサに接触しても生

残できる能力」のいずれか、もしくは両方によって達成されると予想される。本実験で

は、Exp. 4-1-1のカワハギとウマヅラハギの生残率が50 %であった体長3.2 mmと3.4 mm

における突進速度や、メデューサに受動的に接触しなくなったサイズに 3魚種間で大き

な相違は見らなかった。また、メデューサに受動的に接触しなくなったサイズは、メデ

ューサからの回避能力や刺胞毒耐性を獲得したサイズ、あるいは接触後逃避率が有意に

増加したサイズより大きかった。これらのことから、カワハギとウマヅラハギにおいて

は、「メデューサの起こす水流を感知し、触手との接触を避ける能力」の発達は、メデ

ューサからの回避能力の獲得の主要因とはならない可能性が高い。一方で、カワハギ科

魚類では、刺胞毒耐性の発達とメデューサ回避能力の発達に同調した傾向が見られたこ

とから、刺胞毒耐性などによる「メデューサに接触しても生残できる能力」の獲得がカ

ワハギ科魚類のメデューサからの回避能力の獲得に大きく貢献している可能性が高い。

刺胞毒耐性の獲得は、刺胞毒に対する抗体形成や免疫の獲得による生理的変化、およ

び表皮や鱗といった体表構造の発達によって刺胞毒が真皮層へ到達しなくなる形態的

変化によると考えられる。ミズクラゲは、アウレリンという K+チャネル遮断毒素を刺

胞にもつことが知られるが(Ovchinnikova et al. 2006)、クラゲ類と同じ刺胞動物である

イソギンチャク Heteractis magnifica や Entacmaea quadricolor では細胞溶解性や溶血性

のタンパク質毒素を体表の粘液中に分泌することが知られ、これらは魚類に対して有害

であることが分かっている。しかし、これらの種のイソギンチャクと共生関係にあるク

マノミ Amphiprion precula は、イソギンチャクの刺胞毒に対する免疫を後天的に獲得す

ることによって、刺胞毒から魚体を保護している可能性が示唆されている(Mebs 1994)。

また、エボシダイ Nomeus gronovii は、その寄生宿主であるカツオノエボシ Physalia

physalis の刺胞毒に対する抗体を持つことが示唆されている(Arai 1988; reviewed by

Purcell and Arai 2001)。本実験では、ウマヅラハギは刺胞毒への耐性を獲得するサイズ

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125

[Exp. 4-1-2 の生残率 50 %を示す SL:3.7 mm(期間 A)、4.1-4.3 mm(期間 B)]と同等

か、より小さいサイズ(期間 A:2.3-2.9 mm、期間 B:4.1 mm)で、他の日齢に比べて

能動的接触回数やついばみ回数が有意に多く、ミズクラゲの分泌する粘液へのついばみ

行動も観察された。一方で、後述のように近縁種のカワハギはミズクラゲの受精卵また

はプラヌラ幼生やメデューサへの摂餌をそれぞれ体長 4.9 mm(Fig. 4-2-2b)と 21.8 mm

(Fig. 4-2-3)で開始しており、ウマヅラハギのついばみ行動の観察されたサイズより大

きい。これらのことからウマヅラハギ仔魚は、ミズクラゲの粘液などに含まれる刺胞毒

を摂餌することによって、刺胞毒に対する抵抗性を獲得している可能性が考えられる。

一方、カワハギではウマヅラハギのような能動的な接触は観察されなかったため、カワ

ハギ科の 2魚種間の相違を含めた生理学的な検討が必要である。

しかしながら、本研究ではミズクラゲに遭遇した経験のない人工孵化稚魚を実験に用

いたため、供試魚は実験開始時にミズクラゲの刺胞毒に対する免疫を獲得していないは

ずである。また、実験中のごく短期間にミズクラゲの刺胞毒に対する免疫を獲得したと

も考えにくい。このため、カワハギのミズクラゲの刺胞毒への耐性の獲得は主として形

態学的な発達によると考えられる。クマノミ類では魚体表面の粘液層を除去するとイソ

ギンチャクの刺胞毒に対して致死的になることが分かっており、体表構造が刺胞毒への

抵抗力に影響を与える可能性が指摘されている(reviewed by Mebs 1994)。また、エボシ

ダイでもその体表構造がカツオノエボシの刺胞毒に対する抵抗性を与える可能性が示

唆されている(Arai 1988; reviewed by Purcell and Arai 2001)。本実験に用いた魚種の粘液

層の発達については不明であるが、カワハギとウマヅラハギでは、刺胞毒耐性の獲得

(4.1-4.3 mm)より若干小さいサイズ(3.5-3.8 mm)ですでに頭部や下顎に棘状鱗が観

察された。一方でマダイでは、本研究では体長 14.0 mmではじめて鱗が観察されたが、

体側中央部の鱗の形成は 7.9 mm(SL)から始まるとされる(木下 1988)。いずれにせ

よ、カワハギ科魚類の鱗の形成開始はマダイよりもかなり早いことが伺える。したがっ

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126

て、体表構造が刺胞毒耐性の獲得に影響を与えた可能性は高く、今後は鱗や粘液、表皮

厚の発達についても、さらなる検討が求められる。

一方で、マダイでは刺胞毒耐性の獲得がメデューサからの回避能力の獲得よりかなり

遅かったことから、刺胞毒耐性の獲得はメデューサからの回避能力の主要因とはならな

いと考えられた。また、マダイの受動的接触が見られなくなるサイズ(8.7 mm)とメデ

ューサからの回避能力を完全に獲得するサイズがほぼ同じであることから、「メデュー

サの起こす水流を感知し、触手との接触を避ける能力」が回避能力獲得の主要因として

寄与していると考えられる。

Costello and Colin(1994)は、ミズクラゲメデューサはその拍動が起こす流速よりも

逃避速度の遅い餌(フジツボノープリウス幼生など)を摂餌することを報告しており、

傘径 0.8-7.1 cmのメデューサの起こす流速は 80-320 mm sec-1であり、傘径の大きな個体

ほど起こす流速は大きい傾向にあることを示した。Exp. 4-1-1で用いたメデューサの傘

径は 9.4-10.1 cm であったことから、実験に用いたメデューサの起こす流速は 320 mm

sec-1以上であると考えられる。しかしながら、Exp. 4-1-1のマダイの生残率が 50 %とな

る体長 6.7 mmでのマダイの突進速度は 21.0 mm sec-1に過ぎず、メデューサの起こす水

流よりも十分に小さいと推察される。このため、マダイにおいても突進速度はメデュー

サからの回避能力の主要な獲得要因とならないと考えられた。Bailey(1984)はタイセ

イヨウダラ Gadus morhua、ヌマガレイ属の一種 Platichthys flesus、プレイス Pleuronectes

platessa、タイセイヨウニシンとターボット Seophthalmus maximus のミズクラゲに対す

る被食率を調べた結果、やはり仔魚の被食率と遊泳速度に相関は見られなかったと報告

している。

また、Nakayama et al.(2003)は、餌料中の HUFAの欠乏によってマダイのミズクラ

ゲからの回避能力が低下したことから、マダイの回避能力の獲得は遊泳能力以外の要因

による可能性が高いことを指摘している。彼らは、メデューサとの接触を避ける能力は、

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127

メデューサを感知する感覚器官、メデューサから逃避する遊泳器官あるいは行動を調整

する中枢神経の発達などによって生じると考察している。ここで海産魚では、餌料中の

HUFAはすみやかに中枢神経系に組み込まれることから(Masuda et al. 1999)、HUFAの

欠乏したマダイがミズクラゲから逃避する行動を示さなかったのは、HUFAの欠乏によ

って中枢神経系の発達が遅れた可能性があると Nakayama らは指摘している。これらの

ことからマダイでは「メデューサの起こす水流を感知し、触手との接触を避ける能力」

のうち、中枢神経系に起因する捕食者認知能力の発達が回避能力の獲得に大きく寄与し

ている可能性が高い。

4-2. カワハギにおけるミズクラゲ摂餌行動の個体発生

【材料と方法】

初期飼育

Exp. 4-2-1 および 4-2-2 の供試魚は、Exp. 4-1の期間 Bと同一水槽で飼育したものを用

いた。

受精卵またはプラヌラ幼生に対するカワハギ仔魚の摂餌行動の個体発生(Exp. 4-2-1)

PW を入れた 10 L円形水槽に、成熟したメスのミズクラゲメデューサ(傘径 19.4 ± 3.6

cm、平均 ± SD)1個体を 15分間収容した後、水槽から取り除き、10 ml ピペットで水

槽内の PW を 5 ml 採取した。この水槽にカワハギ仔魚 10個体を収容し、15分後に取り

上げ、採取した PW と仔魚の消化管内容物中のミズクラゲ受精卵またはプラヌラ幼生の

個体数を、実体顕微鏡下で計測した。対照区として、メデューサを投入せず同様の操作

を行った(各日齢で n = 10)。実験には 2、7、12、17、22 dphのカワハギ仔魚を用いた。

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128

メデューサに対するカワハギ仔稚魚の摂餌行動の個体発生(Exp. 4-2-2)

PW を入れた 30 L円形水槽に、カワハギ仔稚魚を 10個体(22、27 dph)または 5個

体(40、50 dph)収容し、供試魚が配合飼料を摂餌するまで(=摂餌活性が回復するま

で)馴致した。馴致後、ミズクラゲメデューサ 3 個体を 15 分間収容し、カワハギのメ

デューサついばみ頻度と摂餌を開始するに要した時間である反応潜時を計測した。15

分間摂餌行動が観察されなかった場合の反応潜時は 900 秒とした。ついばみ頻度(times

min-1)は下記の式から算出した:

Pecking frequency (times min-1) = number of pecking during 15 min (times)/ [number of fish

(ind)× 15 (min)] …式(4-2-1)

実験はそれぞれの日齢で 3試行を行った。実験に用いたメデューサの傘径は 9.5 ± 3.6 cm

(平均 ± SD)であり、試行間に有意差はなかった(n = 4, p = 0.41、one-way ANOVA)。

ポリプに対するカワハギ当歳魚の摂餌行動の水温依存性(Exp. 4-2-3)

天然海域で採集されたカワハギ当歳魚(n = 5、実験開始前 SL:11.9 ± 0.8 cm、BW:

54.5 ± 12.8 g、平均 ± SD)を、深さ 2 cmにわたり白色砂を敷き、水深は砂上から 22 cm

になるように設定した 60 cm実験水槽(60 × 30 × 30 cm3、w × d × h、Fig. 4-2)に馴致し

た。供試魚は愛媛県農林水産研究所水産研究センターの養殖筏周辺で採集された個体を用

いた。水槽水温を 10、15、17.5、20、25、30 oCの 6 水温区に設定し、実験時の水温は

目標水温の± 1 oC以内とした。各実験区で 3試行の実験を舞鶴水産事実験所で行った(6

水温区× 3 試行× 5 供試魚)。それぞれの供試魚には各水温区の試行を順不同で行った。

実験開始 1時間前に配合飼料を 5粒水槽内に投入することで、供試魚の摂餌へのモチ

ベーションを確認するとともに、配合飼料に対する反応潜時を計測した。供試魚が 30

分間配合飼料を摂餌しなかった場合は、供試魚に摂餌へのモチベーションがないものと

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129

みなし実験を行わなかった。実験は、ミズクラゲポリプ 40個体(2.0 ind cm-2)が付着

したスライドグラス(26 × 76 mm2)をレールを通して水槽内に縦向きに落下させるこ

とで開始し(Fig. 4-2-1)、初回摂餌から(供試魚がスライドグラスをつつき始めてから)

10 秒後にスライドグラスを回収し、ポリプへの反応潜時を計測した。供試魚が 10秒以

内に摂餌行動を止めた場合は、その時点で実験を終了した。ポリプは、東京海洋大学 石

井晴人助教より提供して頂いた。これらは、東京湾で 2012 年 6 月に採集した成熟した

メスのメデューサから採取したプラヌラ幼生を、飼育用のスライドグラスに固着させる

ことでポリプに変態させ、アルテミアノープリウス幼生を 1日 1回給餌して飼育したも

のである。本実験において、ポリプは楊枝を用いて飼育用スライドグラスから剥がし、

濾過海水を換水させた飼育容器の中に並べた実験用のスライドグラスの上に静かに載

せ、再度固着するまで 1週間程度、解凍した冷凍コペポーダ(シーホースウェイズ株式

会社、鹿児島)を 1日 1 回給餌して飼育した。実験開始直前に余分なポリプは除去した。

実験は 1時間間隔で 3試行繰り返し行った。供試魚のポリプへの摂餌行動が実験開始か

ら 30分間見られない場合は、その時点で実験を終了し、ポリプへの反応潜時は 1800秒

とした(Table 4-2-1)。3試行目が終了してから 1時間後に、配合飼料を 5粒水槽内に投

入することで配合飼料への反応潜時を計測し、実験前後の反応潜時の平均値を配合飼料

への反応潜時と定義した。ポリプついばみ速度(ind sec-1)を以下の式から算出した。

Polyp feeding speed (ind sec-1) = [number of initial polyps (40 ind) – number of final polyp

(ind)]/ [duration of feeding (sec)] …式(4-2-2)

給餌水温と魚類の摂餌の関係は二次曲線に良く近似されることが多いため(Marchand et

al. 2002 など)、本実験でも実験水温とポリプ摂餌速度の関係を二次曲線で近似した。

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130

Fig. 4-2-1. Schematic drawing of the experimental tank used in Experiment 4-2-3.

統計処理

Exp. 4-2-2 のメデューサの傘径の試行間の差は one-way ANOVA で検定した。

Mann-Whitney U-testで Exp. 4-2-1の消化管内容物中のミズクラゲ受精卵またはプラヌラ

幼生の個体数の実験区と対照区間のそれぞれの日齢での相違を検定した。Exp. 4-2-1の

消化管内容物中のミズクラゲ受精卵またはプラヌラ幼生の個体数の日齢間の差、および

Exp. 4-2-3のポリプ摂餌速度の水温区間の差は Steel-Dwass test を用いて検定した。Exp.

4-2-3の配合飼料とポリプへの反応潜時の水温区間の差はKaplan-Meier methodを用いて

Log-rank test で検定し Bonferroni 補正を行い[adjusted a = 0.003(配合飼料)、a = 0.005

(ポリプ)]、各水温区の配合飼料とポリプの反応潜時の間は Kaplan-Meier method を用

いて Log-rank test で検定を行った。ただし 15 oC区では反応潜時の反復数が不足したた

め解析からは除外した。すべての有意水準は a = 0.05 とした。

【結果】

受精卵またはプラヌラ幼生に対するカワハギ仔魚の摂餌行動の個体発生

体長 4.9 mmの個体の消化管内容物中に長径約 200 µmのミズクラゲ受精卵とプラヌ

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131

ラ幼生が多数[50(21-95)、median(25-75 percentile)]観察され(Fig. 4-2-2a)、ミズク

ラゲ受精卵またはプラヌラ幼生の個体数は他の日齢に対して有意に多かった(各日齢で

n = 10、Steel-Dwass test、Fig. 4-2-2b)。採取した PW からはいずれの試行においてもミ

ズクラゲ受精卵またはプラヌラ幼生は観察されなかった。4.9 mm の供試魚は水槽中の

ミズクラゲの粘液をついばむ行動を示した。消化管内容物中のミズクラゲ受精卵または

プラヌラ幼生数は、4.9 mm のサイズを除くすべての日齢で実験区と対照区の間に有意

差は見られなかった[実験区、対照区ともに各日齢で n = 10、Mann-Whitney U-test:p =

0.78(2.4 mm SL)、0.60(2.7 mm)、0.70(3.8 mm)、0.02(4.9 mm)、8.7 mmでは実験区、

対照区ともに、いずれの個体の消化管内からも受精卵やプラヌラ幼生は観察されなかっ

た]。

Fig. 4-2-2. (a) Photograph and (b) the number of jellyfish fertilized eggs or planula larvae in the

larval gut content obtained in Exp. 4-2-1 [median (25-75 percentile)]. Letters indicate

significant differences among ages (Steel-Dwass test).

メデューサに対するカワハギ稚魚の摂餌行動の個体発生

カワハギ稚魚は 21.8 mmからミズクラゲメデューサを摂餌し始めた(Fig. 4-2-3)。反

応潜時は 21. 8 mmで 578.3 ± 463.7 秒(n = 3)、37.9 mmで 433.1 ± 162.9 秒(n = 3)であ

った。

a a a

b

a

0

20

40

60

80

100

2 3 4 5 6 7 8 9Standard length (mm)

Experimental trial(b)(a)

Num

be

r o

f fe

rtili

ze

d e

ggs o

r p

lan

ula

larv

ae

in t

he g

ut

con

ten

ts (

ind

.)

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132

Fig. 4-2-3. The pecking frequency of filefish juveniles on medusae in Exp. 4-2-2 [median

(25-75 percentile)].

ポリプに対するカワハギ当歳魚の摂餌行動の水温依存性

10 oC区および 17.5 oC区では、水槽からの飛び出しによる死亡がそれぞれ 1個体あっ

た。カワハギは 15 oC区から配合飼料とポリプを摂餌し始め、20 oC以上の水温区では、

すべての個体のすべての試行でポリプの摂餌が見られた(Table 4-2-1)。15、17.5、20、

25、30 oC 区のポリプ摂餌速度はそれぞれ 0.0(0.0-0.1)、0.2(0.2-1.1)、3.1(1.1-3.1)、

3.4(3.1-3.5)、2.8(2.4-3.4)ind sec-1であった[median(25-75 percentile)、Fig. 4-2-4]。

摂餌速度は 0-17.5 oC区に比べて 20-30 oC区で有意に大きかった(Steel-Dwass test)。カ

ワハギのポリプ摂餌速度と水温の関係を二次曲線に近似すると、ポリプ摂餌速度は 26.8

oCで最大値(3.1 ind sec-1)を示し(Fig. 4-2-4)、実測の最大ポリプ摂餌速度は 3.9 ind sec-1

(20.6と 29.8 oC)であった。

Table 4-2-1. The number of fish used in Exp. 4-2-3, those fed pellets prior to a trial, those fed

polyps, and the number of trials in each treatment.

Treatment

10 oC 15 oC 17.5 oC 20 oC 25 oC 30 oC

No. of fish 4 5 4 5 5 5 Feeding pellets 0 1 3 5 5 5 Feeding polyps 0 1 3 5 5 5

Trials 4 7 10 15 15 15

0

5

10

15

20

0 10 20 30 40

Pe

ckin

g fre

qu

en

cy

(tim

es. m

in-1

)

Standard length (mm)

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133

Fig. 4-2-4. The relationship between the water temperature and polyp feeding speed in Exp.

4-2-3 fitted to a quadric curve: y = -0.02x2 + 1.06x – 11.04 (R2 = 0.6). A diamond represents

each trial and an open circle represents the average for each treatment [median (25-75

percentile)]. Lower case letters indicate significant differences among treatments (Steel-Dwass

test).

両餌料ともに反応潜時は水温区間に有意差は見られなかったものの、10-17.5 oC 区で

は 20-30 oC 区に比べて長い傾向が見られた[Log-rank test with Bonferroni correction,

adjusted a = 0.003(Pellets)、0.005(Polyps)、Fig. 4-2-5]。20-30oC区の配合飼料への反応

潜時[11.2(6.5-23.4)秒、median(25-75 percentile)]は、ポリプ[66.4(23.0-141.8)秒]

へのそれに比べそれぞれ有意に短かった(Log-rank test)。

Fig. 4-2-5. The response latencies of pellets (average of prior to and after a trial) and polyps in

Exp. 4-2-3 [median (25-75 percentile)]; n = number of trials of pellets and polyps. There was no

significant difference among treatments of response latency in pellets or polyps (Log-rank test

with Bonferroni correction adjusted a = 0.003, 0.005, respectively). Asterisks (*) over the

bracket indicate significant differences between pellts and polyps (Log-rank test). Treatment of

15 oC was omitted from the analysis because of the shortage of replication.

0

600

1200

1800

Resp

on

se

la

ten

cy (

se

c)

Pellets Jellyfish

15oC 17.5oC 20oC 25oC 30oC

n = 1,3 n = 3, 9 n =5, 15 n =5, 15 n = 5, 15Treatment

*

* *

a a

a

b

b

b

0

1

2

3

4

10 15 20 25 30

Po

lyp

fe

ed

ing

sp

ee

d

(in

d. se

c-1

)

Water temperature (oC)

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134

【考察】

カワハギ仔魚は体長 4.9 mmでのみ活発にミズクラゲ受精卵またはプラヌラ幼生を摂

餌することが明らかになった。今回用いた仔魚は、体長 3.8 mmまでは主に SSおよび S

型シオミズツボワムシ(体長 90-170 µm、田中ら 2005)を、それ以上の体長の仔魚に

は主に L 型シオミズツボワムシ(体長 110-240 µm)を給餌して飼育した。一方で、ミ

ズクラゲ受精卵とプラヌラ幼生は長径約 200 µmであった。魚類仔魚の体長や口のサイ

ズは餌料サイズ選択性を決定する大きな要因となることが知られている(澤田ら 2000;

田中ら 2005)。飼育に用いた餌生物のサイズを考慮すると、カワハギ仔魚が体長 4.9 mm

でのみ活発にクラゲ受精卵またはプラヌラ幼生を摂餌した理由として、仔魚の口径に受

精卵やプラヌラ幼生のサイズが餌としてよくマッチしたことが挙げられ、受精卵やプラ

ヌラ幼生は 8.7 mm以上の供試魚の餌生物として認識されるには小さすぎた可能性があ

る。ミズクラゲよりも頻繁にカワハギ科魚類の寄生宿主となるエチゼンクラゲの卵

(60-80 µm)やプラヌラ幼生(長径 170 µm、短径 130 µm)は、ミズクラゲと同じか若

干小さい(Kawahara et al. 2006)。一方で、メデューサに寄り付くカワハギの最小サイズ

は 6 mmであることから(益田 玲爾、未発表)、メデューサに寄り付くサイズの稚魚は

エチゼンクラゲの受精卵やプラヌラ幼生を摂餌せず、より小さいサイズのカワハギが環

境中の潜在的な餌生物の一つとしてこれらを利用している可能性がある。しかしながら、

本実験では PW中にミズクラゲ受精卵またはプラヌラ幼生は検出されなかったため、試

行間で PW 中のミズクラゲ受精卵またはプラヌラ幼生密度に差があったかは確認でき

なかった。このことから、本研究の結果だけでは 4.8 mm以外のサイズで受精卵やプラ

ヌラ幼生への摂餌が起こり得る可能性は否定できない。受精卵やプラヌラ幼生が検出さ

れなかった理由として、受精卵またはプラヌラ幼生は PW中に均一に拡散しているので

はなく、メデューサの分泌した粘液中にまとまって存在する可能性が考えられた。

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135

カワハギは 21.8 mmからメデューサの摂餌を開始することが明らかになった。このこ

とから、カワハギ科魚類はメデューサへの寄り付きから沿岸加入期にかけて(体長 20-30

mm)メデューサへの摂餌を開始すると考えられた。一方、第 2 章第 1 節では、実験開

始時の平均 SL が 35.6 mm のカワハギ稚魚は 1 日に魚体中の 24 倍ものミズクラゲを摂

餌することを明らかにした(Fig. 2-1-2b)。このことから、カワハギは発育段階の初期に、

メデューサに対する捕食能力を急激に発達させると考えられる。ミズクラゲは K+チャ

ネル遮断毒素であるアウレリンを持つにもかかわらず(Ovchinnikova et al. 2006)、体長

21.8 mmのカワハギ稚魚がメデューサを摂餌する際、その影響は観察されなかった。本

実験では、ミズクラゲとの遭遇経験のない人工孵化稚魚を用いたため、カワハギはミズ

クラゲの刺胞毒に対する免疫を実験開始時には獲得していなかった。このため、免疫以

外の何らかの機構の発達によって、カワハギはメデューサを摂餌できるようになると考

えられる。また、クラゲ摂餌魚の中には、摂餌したクラゲ類の逆流を防ぐ咽頭や食道の

構造を持つものが知られるため(reviewed by Purcell and Arai 2001)、メデューサへの摂

餌の開始とこれら器官の形態学的変化の関係を今後検討する必要がある。また、クラゲ

摂餌魚であるイボダイ科の魚やダンゴウオ Cyclopterus lumpusなどでは、大きな胃と長

い消化管を持つことが知られており(Harbison 1993; reviewed by Purcell and Arai 2001)、

これは低栄養かつ消化の早い餌料であるクラゲ類を大量に摂餌するうえで有利である

と考えられる。実際に、クラゲ類を頻繁に摂餌するシロザケでは他のサケ科魚類に比べ

て約 3.5倍も大きな胃を持つ(reviewed by Purcell and Arai 2001)ことからもこの仮説が

支持される。このことから、カワハギのメデューサの摂餌開始に消化管の発達も影響を

与えた可能性があり、これについても検討が必要である。

本実験は魚類が飼育環境下でポリプを摂餌することを示した初めての研究である。カ

ワハギは 15 oC区から配合飼料またはポリプを摂餌し始め、20 oC以上の水温区ではすべ

ての個体がポリプを摂餌した。これに加え、15-17.5 oC区の配合飼料とポリプへの反応

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潜時は、どちらもそれ以上の水温区に比べてかなり長かったことから、低い水温帯では

餌料の種類に関係なく、摂餌活性が下がると考えられた。一方、20oC 以上の水温区で

は、反応潜時はポリプに比べて配合飼料で短かったことから、カワハギの嗜好性はポリ

プより配合飼料で高いことが伺えた。しかしながら、20oC 以上の水温区では、カワハ

ギはポリプを投入してから早い段階(66.4秒)で摂餌を開始した。実験水槽へスライド

グラスを投入することによる供試魚へのストレスを考慮すると、カワハギのミズクラゲ

ポリプに対する嗜好性は十分に高いことが伺える。この推測は他のカワハギ科魚類が付

着性の刺胞動物を摂餌することからも支持される。すなわち、ソウシハギ Aluterus

scriptus はイソギンチャクやヒドロ虫を摂餌することが知られ(reviwed by清水ら 2009)、

テングカワハギOxymonacanthus longirostrisはイシサンゴの一種Acropora nobilissを選択

的に摂餌し、A. nobiliのみを摂餌することで成長する(Brooker et al. 2013)。潜水観察の

結果、カワハギのベントスへの摂餌行動は 17 oC以上で、また、ミズクラゲメデューサ

の摂餌は 19 oC以上で観察された(益田 玲爾、未発表)。これらのことから、カワハギ

のミズクラゲポリプへの摂餌行動は、ベントスへの摂餌行動と同等の水温帯で発現し、

プランクトンであるメデューサへの摂餌水温より低い水温でも生じると考えられた。こ

れは、プランクトンの摂餌に比べて遊泳行動が少なくて済むため、ベントスを採餌する

のに必要なエネルギーが小さいためであろう。

本研究の結果から、温暖化はクラゲ類の大発生の一因として挙げられるものの(上

2010)、クラゲ摂餌魚の活動性もまた水温上昇とともに高まると予想される。京都大学

舞鶴水産実験所のある若狭湾沿岸の海底における冬季の典型的な自然水温は 10-13 oC

であり、5-12月には 15 oCを超えることから(Masuda 2008)、春季から秋季にかけてカ

ワハギによるミズクラゲポリプの摂餌が起こり得ると考えられる。火力発電所や原子力

発電所の周辺海域では取水口にクラゲ類が集約されるためにその生息密度は高く、また、

これらの海中構造物はポリプに新たな付着場を提供する。加えて、発電所の周辺海域は

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温排水の影響で近隣海域より海水温が高くなる(関根・大久保 2000)。このことから、

発電所周辺海域では近隣海域に比べてさらに長い期間、カワハギのポリプに対する摂餌

が起こり得ると予想される。

ミズクラゲポリプの個体群動態は環境や気候条件(Lucas 2001; Purcell 2005; Purcell et

al. 2009, 2012; Holst 2012; Thein et al. 2012)、付着基質(Lucas et al. 1997; Miyake et al. 2002;

Holst and Jarms 2007; Willcox et al. 2008; Hoover and Purcell, 2009)、餌生物(Buss 1990;

Gong 2002)、および捕食者(Hernroth and Gröndahl 1985a, b; Gröndahl 1988)によって決

定される。ポリプの代表的な捕食者としてはウミウシが知られ、エムラミノウミウシ

Hermissenda crassicornis(> 0.92 g)はミズクラゲ A. labiate のポリプを 1 時間に平均で

31.3個体、最大で 102 個体摂餌することが報告されており(Hoover et al. 2012)、これは

1 秒当たりに換算するとそれぞれ 0.0086 ind sec-1、0.028 ind sec-1となる。一方、カワハ

ギは 26.8 oCで最もよくポリプを摂餌し、1秒間に約 3.1個体もの速度でポリプを摂餌し

た。ウミウシの一種Coryphella verrucosaのミズクラゲA. auritaに対する捕食圧は 200 ind

day-1 であるが、C. verrucosa の捕食はポリプの現存量を急激に減少させ(Hernroth and

Gröndahl 1985a)、エフィラの生物量を左右することが示唆されている(Gröndahl 1988)。

ミズクラゲのポリプは春季に大量の浮遊幼生を放出し、これらは夏季にかけて急速に成

長しメデューサとなるが、本実験で明らかにしたカワハギのポリプ摂餌速度は C.

verrucosa よりかなり早いことから、カワハギのポリプ摂餌はその後のミズクラゲメデ

ューサの生物量を左右する可能性が十分に高い。ただし、ウミウシは、低水温下では魚

類よりも活動性が高い(益田 玲爾、未発表)。また、本研究ではごく短期間でのポリプ

摂餌速度を算出したが、カワハギのポリプに対する捕食圧をより正確に明らかにするた

めには、長期の摂餌速度の算出も必要であると考えられる。魚類を用いたトップダウン

コントロールによるクラゲ類の大量発生の防御を考える上では、大きな生物量を持ち実

害を引き起こすメデューサの防除よりも、ポリプ期の防除がより有効であると考えられ、

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今後は天然環境下での魚類によるポリプ摂餌の実態解明が求められる。

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第5章 総合考察

5-1. 魚類養殖用餌料としてのクラゲ類の有用性

本邦における 2010 年の漁業・養殖業の国内生産のうち、養殖業の占める割合は生産

量で 22 %(1,150,000 t)、生産額で 33 %(4,886億円)にのぼり、マダイでは国内生産

量の 82 %を占める 56,653 t が、フグ類は 4,179 tが養殖業によって賄われている(水産

庁 2012)。このように、養殖業は本邦の水産物の重要な供給源となっており、天然の水

産資源量には限界があるために養殖生産量は 2020 年には倍増するとの予測もある

(Tacon and Metian 2008)。一方で、種苗を生産・放流し、その成育を管理することによ

って水産資源を積極的に増大させる栽培漁業は、水産資源の回復と沿岸漁業者の経営の

安定に貢献し得ると考えられ、2011 年には海域栽培漁業推進協議会が設置され、関係

都道府県が連携した種苗の生産や放流体制の構築が進められている。現在 80 種以上が

その対象種となっており、その中にはクラゲ摂餌魚であるマダイやサケ科魚類などが含

まれており、2009 年のマダイとサケの種苗放流尾数はそれぞれ 1,407 万尾と 185,200 万尾

に上る(水産庁 2012)。しかしながら、養殖・栽培漁業に用いられる配合飼料の主原料

である魚粉は、その大半を輸入に頼っており、近年の世界的な需要の増大に伴う魚粉価

格の高騰によって養殖業の経営が圧迫されることが懸念されている(水産庁 2012)。そ

こで近年では、大豆油粕やコーングルテンミールといった安価な植物性タンパク質を利

用した代替飼料の開発が進んでいる(山本 2010)。しかしながら、これらの代替飼料は

魚粉に比べて栄養価が劣るため、アミノ酸をはじめとした様々な栄養素の添加が必要で

ある。

本研究では、大量発生したクラゲ類の有効利用策として魚類養殖餌料への利用を提案

し、ミズクラゲとエチゼンクラゲの栄養学的評価を飼育実験、行動実験と栄養分析によ

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って行った。ミズクラゲとエチゼンクラゲの栄養分析を行った結果、ミズクラゲ(第 2

章第 1, 3, 4節)の水分含量は、エチゼンクラゲ(第 2 章第 2 節)の水分含量とほぼ同様

であることが明らかになった、また、どちらのクラゲも配合飼料やオキアミに比べて脂

質総量は少なかった。しかしながら、両クラゲとも n-3、n-6HUFAが高率で含まれてお

り、特に ARAと EPA含有率は配合飼料に劣らない値を示した。一方で、エチゼンクラ

ゲの FAA 総含量はミズクラゲの約 7 倍も多く含まれ、配合飼料と比較しても高い値を

示した。ミズクラゲはグリシンが最も多く、次いでタウリンが多く含まれていたが、エ

チゼンクラゲではタウリンが優占した。本研究で用いたミズクラゲ(第 2章第 1, 3, 4節)

の成分組成はばらつきが大きかったが、Fukuda and Naganuma(2001)はミズクラゲの

脂肪酸組成は餌生物の脂肪酸組成の影響を受けやすいことを報告していることから、ミ

ズクラゲとエチゼンクラゲは共に脂質含量が低く、HUFAやタウリンが高率に含まれて

いるものの、成分組成はクラゲ種間の差よりも個体の状態による影響が大きいことが分

かった。一方で、カワハギの餌料転換効率はミズクラゲとエチゼンクラゲでほとんど同

じ値を示したことから(第 2章第 1, 2 節)、カロリー源として両者はほぼ同等の価値を

持つことが明らかになった。

本研究では、カワハギにとってミズクラゲ(第 2章第 1節)やエチゼンクラゲ(第 2

章第 2節)はエネルギー源となるものの、その成長はオキアミや配合飼料を給餌した場

合よりも劣ることが明らかになった。また、マダイはミズクラゲからごくわずかのエネ

ルギーしか摂取できないと考えられた(第 2 章第 4 節)。一方で、トラフグではミズク

ラゲはエネルギー源としてほとんど貢献しないことが明らかになり(第 2 章第 3 節)、

クラゲ類を魚類の主餌料として単独で給餌することは困難であることが示された。

本研究の結果、クラゲ類のフグ目魚類への給餌には TGをはじめとする NL含量を減

少させる効果がある可能性が示された(第 2章第 1, 2, 3 節)。天然魚と比べて養殖魚は

脂質過多の傾向にあり(Wood et al. 1957; 志水ら 1973; 佐伯・熊谷 1984; 國崎ら 1986;

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141

森下ら 1988; 畑江ら 1989; 青木ら 1991)、その健康状態の悪化が懸念されているため、

クラゲ類と主餌料の混合給餌がこの問題の解決策となり得る。

一方、フグ目魚類へのクラゲ類の給餌には、ARAをはじめとする n-6HUFA含有率や

DHA をはじめとする n-3HUFA 含有率を向上させる効果があることが明らかになった

(第 2章第 1, 2, 3 節)。ARAや DHAはヒトにとっても必須脂肪酸であり、脳や心臓血

管系で様々な生理活性を持つ必要不可欠な脂肪酸であることが知られ(五十嵐 2012)、

特に ARAは脳の老化防止、DHAは脳機能の維持といった効果があることが分かってい

る(榊原 2010)。これらのことから、n-3、n-6HUFA 含有率の高い養殖魚の作出は、近

年の健康志向に伴う市場の需要ともマッチすることが予想される。

また、クラゲ類に多く含まれる n-3HUFA の魚類への給餌には、脂質生成、糖新生や

アミノ酸分解を抑制し、魚類のエネルギー利用を炭水化物とタンパク質から脂質へシフ

トさせる可能性が示唆されている(Shikata and Shimeno 1994)。このことから、脂質過

多の傾向が強い配合飼料と n-3HUFA を多く含むクラゲ類の混合給餌は、養殖魚の脂質

の過剰蓄積を予防するといった魚体の健康面だけではなく、脂質の効率的なエネルギー

利用の面からも効果的な組み合わせと言え、養殖業の補助餌料としてクラゲ類が有効で

ある可能性が示唆される。

本研究ではエチゼンクラゲのカワハギへの給餌(第 2 章第 2 節)やミズクラゲのトラ

フグへの給餌(第 2章第 3節)によって、タウリン含量が有意に高まった一方で、マダ

イ(第 2章第 4節)では、ミズクラゲの給餌は魚体成分に影響を与えなかった。クラゲ

類の給餌が魚体の脂質、脂肪酸と FAA に与えた影響の 3 魚種間の相違は、各魚種のこ

れら成分の代謝の違いだけではなく、給餌したクラゲの栄養組成の差異が影響した可能

性が高い。このことから、天然採集したクラゲ類を餌料として利用する際には、その鮮

度に留意する必要がある。魚類餌料へのタウリン添加には、種苗の成長や摂餌行動、魚

病症状の改善の効果があるため(竹内 2010)、クラゲ類の給餌よって養殖魚の成長改善

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142

や、天然個体に近い体成分組成や行動特性の種苗の作出が期待される。近年、魚粉の代

替として植物原料を用いた養殖餌料の開発が進んでいるが、植物原料で代替した餌料は

タウリンの不足を招くため、合成タウリンの添加が行われている(竹内 2010)。しかし

ながら、植物原料として大豆油粕や濃縮大豆タンパク質を使用した場合には、タウリン

を添加しても魚粉と同様の効果が得られにくいため、大量のタウリン添加が必要になる

(竹内 2010)。このため、養殖魚の補助的なタウリンの供給源としてクラゲ類の利用が

有効であると考えられる。

本研究の結果、トラフグへのミズクラゲと配合飼料の混合給餌は、供試魚間の噛み合

い行動や突進速度には影響を与えなかったものの、活動性と反射反応を向上させること

が示された(第 2 章第 3 節)。またマダイでは、ミズクラゲの混合給餌は配合飼料の単

独給餌よりもマダイの横臥傾向を高めることが明らかになった(第 2 章第 4 節)。移送

後に異常遊泳を示すことは放流後の被食率の増加につながる可能性が高いが、第 2章第

3 節の配合飼料のみを給餌したトラフグのように、移送後にほとんど遊泳せずに同所に

留まり続けることは、放流後に捕食者から身を隠す行動を示さないことを意味する。ま

た、接触刺激後に反射反応を示さない個体は、捕食者に遭遇した場合にも逃避行動を示

さずに捕食される可能性が高い。一方、マダイでは横臥傾向の強さと放流後の生残率に

は相関があるため(内田ら 1993)、ミズクラゲの給餌によってマダイの放流後生残率が

向上することが期待できる。これらのことから、栽培漁業において放流種苗の行動特性

を改善する補助餌料として、クラゲ類の活用を提言したい。

沿岸漁業で混獲されたエチゼンクラゲやミズクラゲの大部分は海洋に投棄されてい

る(Fig. 5-1-1)。また、コッドエンドを解放してワイヤーを張ったトロール網によって

大量発生した大型クラゲを切断・駆除する方法も、開発・実用化されている(飯泉 2007)。

しかしながら、廃棄や駆除されたクラゲ類の死骸は海底に堆積するため、こうして大量

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Fig. 5-1-1. Photographs of bycatch jellyfishes and fishes from a set net in Maizuru, Kyoto; they

are usually discarded.

に蓄積した死骸は分解される過程で海底水の貧酸素化を引き起こす可能性が指摘され

ている(West et al. 2009)。これら底性環境や生態系への影響を考慮すると、特定の海域

に集約した大量のクラゲ類を短期間で海底に蓄積させることには問題がある。混獲や駆

除したクラゲ類を処理する上で、クラゲ類を海域から取り上げ陸上を移送する場合も多

く、その後の処理法や有効利用法の開発が進められているものの、十分な実用化には至

っていない。本研究で得られた成果は、クラゲ類を養殖用・放流種苗用の補助餌料とし

て有効利用する可能性を拓くものである。魚類餌料としてのクラゲ類の利用には、クラ

ゲ類の移送や貯蔵のための費用はかかるものの、クラゲ類の大量発生海域が養殖場の近

隣であれば移送のコストは最小限で済む。また、特別な処理を要さないために、他の利

用策と比較して低コストで実施できるであろう。以上の点から、魚類餌料としての利用

は、混獲されたクラゲ類の処理や大量発生したクラゲ類の駆除といった観点から、十分

な推進力を持つと考えられる。

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5-2. 魚類のトップダウンコントロールによるクラゲ類大量発生の防御

クラゲ類の大量発生が近年汎世界的に報告されている中で、魚類とクラゲ類の相互関

係に着目してクラゲ類が海洋生態系に与える影響を評価した研究がなされてきている

(Pauly et al. 2009など)。しかしながら、魚類の捕食者や競合者といった立場としての

クラゲ類の情報は多いものの、クラゲ摂餌魚のクラゲ類に対する捕食圧に関する情報は

ほとんどない。また、魚類によるクラゲ類の摂餌についてはこれまでいくつかの報告が

なされてきたが(reviewed by Arai 2005)、魚類の摂餌生態や両者の個体発生に着目した

研究はなされてこなかった。

本研究では、カワハギは生息場内でベントスなどの他の餌生物を求め採餌行動を行っ

ているが、生息場にクラゲ類が来遊した場合には専らクラゲ類の摂餌に従事する可能性

を示した(第 3章第 1, 2節)。近年のクラゲ類の生物量の増大は、生息場内へのクラゲ

類の来遊機会や来遊量を増加させるため、このような摂餌生態を持つカワハギはクラゲ

の生物量の増大に伴ってクラゲ類への依存性が高まり、本研究で試算されたような高い

捕食圧がクラゲ類に対してかかることも多くなるだろう(第 3章第 1, 2節)。Arai(1988)

は、魚類のクラゲ摂餌に関するフィールド研究の結果をまとめ、魚類のうち少なくとも

10 %の魚の胃内容物の少なくとも 5 %はクラゲ類が占めていたと報告している。このよ

うにクラゲ摂餌魚の大部分は広食性魚であるため、クラゲ類の大量発生に伴ってクラゲ

摂餌魚の餌料としてのクラゲ類の寄与率は Arai(1988)の示した寄与率よりもさらに高

まると予想される。

本研究の結果、カワハギ(第 2章第 1節)はマダイ(第 2章第 4節)やトラフグ(第

2 章第 3節)よりも大量のミズクラゲを摂餌できることが示された。また、クラゲ類の

エネルギー源としての貢献度はカワハギ、マダイ、トラフグの順に高くなっており、こ

れは天然環境下での 3魚種のクラゲ摂餌頻度と一致し、これらの順でクラゲ摂餌に適応

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的であることを示唆する。一方、本研究ではカワハギ科魚類のクラゲ摂餌生態について

詳細に調べた結果、カワハギはメデューサに寄り付くサイズよりも小さい 4.9 mmでミ

ズクラゲの卵やプラヌラ幼生を、メデューサに寄り付いていると予想される 21.8 mmか

らメデューサを摂餌することを示した(第 4章第 2節)。また、カワハギは最大速度 3.1

ind sec-1 と、他のポリプ摂餌生物であるウミウシと比べて 100 倍以上も大きい速度で

(Hoover et al. 2012)、ミズクラゲポリプを摂餌することを明らかにした。これらの結果

から、天然環境下での摂餌の実態解明が今後求められるが、カワハギはその生活史の大

部分でクラゲ類を摂餌する可能性が高いことが明らかになった。魚類のメデューサに対

する摂餌についての報告はこれまでもなされてきたが(Arai 2005)、他の発生段階のク

ラゲ類に対する魚類の摂餌の報告例は見当たらない。クラゲ類の発生様式を鑑みると、

ポリプや卵、プラヌラ幼生の生物量を減少させることはその後のメデューサの生物量を

大きく左右するため、これらの発生段階のクラゲ類に対する魚類の摂餌に関する情報は

極めて重要であると考えられる。

これに加えて、ミズクラゲメデューサからの被食回避においても、その能力に魚種間

の相違が認められた。すなわち、カワハギ科魚類はメデューサからの回避能力や刺胞毒

への耐性をマダイよりも小さい時期から獲得していた(第 4 章第 1 節)。このことは、

クラゲ類から受ける捕食圧が魚種によって異なることを示しており、カワハギ科魚類は

クラゲ類の大量発生した海域でもマダイよりも初期減耗しにくく、したがってクラゲの

大量発生がカワハギ資源の増大をもたらし得る。同じくクラゲ摂餌魚であり、クラゲ類

とその生活史において密接な関係を持つことで知られるイボダイの資源量がクラゲ類

(A. aurita、C. melanaster など)の増大と軌を一にして増えていることからも(上・上

田 2004)、この仮説が支持される。

これらを総合して考察すると、カワハギ科魚類のようなクラゲ類に適応的な魚類はク

ラゲ類が大量発生しても減耗しにくく(第 4 章第 1 節)、かつクラゲ類をエネルギー源

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として十分に利用でき(第 2章第 1, 2 節)、その潜在的な捕食圧も大きいと考えられる

(第 3章第 1, 2 節、第 4章第 2節)。このため、クラゲ類の大量発生に伴ってこれら魚

類の資源量が増大する可能性さえ秘めており、魚類のトップダウンコントロールによる

クラゲ類の大量発生の防御は十分に可能のように思われる。しかしながら、実際にはク

ラゲ類は大量発生を続けている(Graham 2001; Arai 2005; Pauly et al. 2009; Condon et al.

2013)。その原因として、クラゲ摂餌魚の乱獲や生息場の減少といった人為的作用によ

るクラゲ摂餌魚の減少が挙げられる。カワハギは韓国の重要な水産資源であるが、韓国

のカワハギ漁獲量は 1990 年代後半から急激に減少しており、2009年の漁獲量(1500 t)

は最盛期の 99 %減となった(An et al. 2013)。このように急激に資源量が減少した原因

として、乱獲や沿岸域の開発、環境汚染などによる生息場の喪失が指摘されている。一

方で、韓国を含む東アジア縁海域では 21 世紀に入り、エチゼンクラゲが顕著に増加し

ていることから(Kawahara et al. 2006; Uye 2008)、カワハギ資源量の減少がエチゼンク

ラゲの生物量に何らかの影響を与えた可能性が疑われる。

クラゲ類を摂餌する魚種は、本研究で扱ったカワハギやウマヅラハギを含むカワハギ

科、イボダイ科、マナガツオ科、カサゴ科、サバ科など多岐に渡り(Arai 2005)、その

中にはイボダイやマダイ、シロザケといった従来から商業的価値の高かった魚種だけで

はなく、カワハギのように本邦での商業的価値が相対的に低く、これまでその資源量や

生態が注目されてこなかった沿岸性魚類も多く含まれている。例えばカワハギでは、そ

の資源量に関するデータは極めて乏しく、定置網漁業などの沿岸漁業で混獲された稚魚

が海洋に投棄されており、その保護策は十分とは言えない。また、本邦周辺海域の 2011

年の資源状況は、52 魚種 84 系群のうち 4 割の 33 系群で低位となっていることが報告

されており、海洋環境の変化による影響、沿岸域の開発等により産卵・生育場となる藻

場や干潟が減少していることや、一部の資源で回復力を上回る漁獲が行われたことなど

がその原因として挙げられる(水産庁 2012)。本邦では、資源管理制度として漁獲可能

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量(TAC)制度による公的規制が行われているが、魚種ごとの漁獲制限が行われる TAC

制度では単一種で水産資源を構成し得る種であるサンマ、スケトウダラ、マアジ、マイ

ワシ、マサバまたはゴマサバ、スルメイカとズワイガニの 7種のみがその対象となって

いる。一方で、2002 年からは資源回復計画が実施され、また 2011 年度からは新たな資

源管理制度が導入され、全国で 1,400 件の資源管理計画が策定されているが、これらは

基本的に早急な資源回復が必要な種を主な対象としている。前述したように、クラゲ摂

餌魚にはカワハギやウマヅラハギのように本邦での商業的価値が相対的に低く、これま

でその生態が注目されてこなかった魚種が多く含まれている。そのため、資源量の実態

すら明らかでない魚種が多く、特定少数の魚種を主な対象とした現在の資源管理政策で

は、その保全が十分ではないと考えられる。

カワハギをはじめとした沿岸性のクラゲ摂餌魚は、その生活史の中で藻場に生息する

時期を持つものが多いが、生息場となる藻場は近年減少しており(秋元ら 2012)、この

こともクラゲ摂餌魚の減少の一因となっているであろう。また、カワハギ科魚類とクラ

ゲ類の生息域を考えた場合、これら魚類の生息場である沿岸域の藻場や岩礁域の広がる

なだらかな斜面では、沿岸性のミズクラゲとの遭遇機会が多くなるのに対し、垂直護岸

の造成はカワハギの生息域を狭めるため、ミズクラゲとの生息域の重複は減少する可能

性が高い。このため、人工護岸などの海岸の開発は魚類のクラゲに対する捕食圧を減少

させると考えられる。一方で、人工護岸はポリプの新たな付着資源を提供するため、ク

ラゲ類の増大につながり得る。

クラゲ摂餌魚のトップダウンコントロールによってクラゲ類の大量発生を防御する

ためには、これまで十分に把握されてこなかったクラゲ摂餌魚の資源量の実態解明やク

ラゲ摂餌魚に対する漁獲制限、漁網の目合い制限による稚魚の混獲防止といったクラゲ

摂餌魚の保全や、その生息場である藻場の保全や造成を進める必要がある。本研究が、

このようなクラゲ摂餌魚に「クラゲ類の大量発生を防ぐ」という価値を付与し、クラゲ

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摂餌魚やその生息場の保全を推進する上での一助となることを期待する。すなわち、ク

ラゲ類の大量発生によって生じる損害を加味し、クラゲ摂餌魚の保全を行うことの長期

的利益を見据えるなど、生態系に配慮した沿岸資源の管理を提言したい。

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要約

近年、クラゲ類の大量発生が汎世界的に報告されており、海洋生態系が魚類中心から

クラゲ類中心の食物網へシフトすることが懸念されている。しかしながら、クラゲ類は

魚類に捕食されることから、必ずしも食物網の最上位にあるわけではなく、実際にはク

ラゲ類と魚類とが複雑に関係した食物網を形成していると考えられる。魚類のクラゲ摂

餌に関する生態学的・栄養学的な研究はこれまでほとんどなされておらず、その実態は

不明な点が多い。そこで本研究では、カワハギ科魚類を中心とした魚類のクラゲ類に対

する摂餌行動を、飼育実験と生態調査から評価した。

(1)クラゲ類の給餌が魚類の生残と成長、体成分、および行動に与える影響につい

て検討した。まず、餌料の栄養分析を行ったところ、ミズクラゲ Aurelia sp.やエチゼン

クラゲ Nemopilema nomurai は配合飼料やオキアミに比べて脂質総量が少なかったが、

両種のクラゲは共に n-3、n-6系高度不飽和脂肪酸(HUFA)、特にアラキドン酸(ARA)、

エイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸(DHA)を高率に含有した。一方で、遊

離アミノ酸はミズクラゲよりもエチゼンクラゲで 7倍近く多く含まれており、どちらの

クラゲもタウリン含量が多かった。

カワハギ Stephanolepis cirrhifer 稚魚にミズクラゲを 16 日間、またはエチゼンクラゲ

を 30日間給餌した結果、1日に魚体重(BW)の 24.1倍または 5.6倍のクラゲを摂餌す

ることで 100 %生残し、体長・体重とも増加することが明らかになった。どちらのクラ

ゲを給餌した場合でも、カワハギ魚体中のトリグリセリド(TG)含量は減少し、ARA

や n-6HUFA 含有率が高まることが分かった。またエチゼンクラゲの給餌では、魚体の

タウリン含量の向上が見られた。

一方で、トラフグ Takifugu rubripes とマダイ Pagrus major 稚魚にそれぞれ 20日間と

108 日間ミズクラゲを給餌したところ、トラフグでは 1 日に魚体重の 4.4-12.7 倍、マダ

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イでは 5.3 倍のミズクラゲを摂餌したが、どちらの魚種も生残や成長に有利な効果は見

られなかった。トラフグ稚魚では、ミズクラゲの給餌によって魚体の総脂質、中性脂質、

特に TGの含量が減少し、ARAと n-6HUFAに加えて DHAと n-3HUFA含有率およびタ

ウリン含量が向上することが示された。また、トラフグ稚魚へのミズクラゲの給餌は、

噛み合い行動や突進速度に影響を与えなかったが、遊泳率や反射反応の発現率を向上さ

せた。マダイ稚魚へのミズクラゲの給餌は、魚体成分には影響を与えなかったが、対捕

食者行動として知られる横臥行動の発現率は向上した。これらの結果からクラゲ類は、

カロリー面で優れた餌料ではないものの、魚体の TG含量の低下や n-3、n-6HUFA含有

率の向上、さらには行動特性の改善といった効果があることが示された。

(2)ウマヅラハギ Thamnaconus modestus 幼魚のエチゼンクラゲ摂餌行動とその捕食

圧を、メソコスム実験と消化管内容物調査から検討した。メソコスム実験の結果、ウマ

ヅラハギのエチゼンクラゲに対する摂餌頻度は照度と有意な負の相関関係があり、高照

度下ではあまり摂餌行動は観察されないのに対し、0.01 lux-50.2 × 103 luxの照度下では

頻繁に摂餌行動が観察された。一方、エチゼンクラゲの来遊する藻場で採集したウマヅ

ラハギ幼魚の消化管内容物指数は、飽食状態の 90.4 %であった。メソコスム実験と消化

管内容物調査から、天然環境下におけるウマヅラハギ幼魚のエチゼンクラゲ捕食圧は

9.8 ± 1.8 g BW-1 day-1と推定された。

ミズクラゲとイシイソゴカイ Perinereis nuntia vallata に対するカワハギの嗜好性と摂

餌選択性を飼育環境下で調べることにより、クラゲ類と他の餌生物が混在する環境での

魚類のクラゲ類への採餌行動について検討した。その結果、両餌料が視認できる場合に

はカワハギ稚魚はイシイソゴカイを先に摂餌し、続いてミズクラゲを摂餌した。すなわ

ち、カワハギの嗜好性はミズクラゲよりもイシイソゴカイに対して高いことが明らかに

なり、またその際の摂餌効率もイシイソゴカイにおいて高かった。一方で、イシイソゴ

カイが潜砂しミズクラゲのみを視認可能な天然環境を模した条件では、カワハギはミズ

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クラゲのみを摂餌した。これらの結果から、カワハギはミズクラゲを、低カロリーでは

あるものの獲得容易な餌として利用していることが示唆された。

一連の結果から、カワハギ科の稚魚は、主な生息場である水深 5 m以深の沿岸の藻場

や岩礁域で主餌料であるベントスを求め採餌するが、生息場にクラゲ類が来遊した場合

には専らクラゲ類を摂餌すると考察された。一方で、これら稚魚が生息場から離れ、水

深 5 mより浅い海域を漂泳するクラゲ類を追って摂餌する機会は少ないと考えられた。

クラゲ類の生物量の増大に伴い、カワハギ科魚類の生息場へのクラゲ類の来遊量や来遊

機会は増加するため、このような摂餌生態を持つカワハギ科魚類の餌料に占めるクラゲ

類の寄与は、クラゲ類の増加に伴って高まると予想される。

(3)ミズクラゲに対する魚類の行動を個体発生を追って観察することで、様々な発

育段階におけるミズクラゲと魚類の捕食-被食関係を詳細に明らかにすることを目的

とし、カワハギ、ウマヅラハギとマダイ仔魚のメデューサに対する回避行動、およびカ

ワハギのミズクラゲ受精卵とプラヌラ幼生、メデューサ、ポリプへの摂餌行動を観察し

た。また、メデューサ回避能力は刺胞毒耐性などの「触手に接触しても生残できる能力」

と、遊泳能力や捕食者認知能力といった「触手に接触しなくなる能力」のいずれか、あ

るいは両者によって獲得されると考えられるため、本研究では刺胞毒耐性と突進速度を

個体発生を追って検討した。

その結果、カワハギとウマヅラハギではマダイより小さいサイズからメデューサから

の回避能力を有していることが明らかになった。また、カワハギ科の仔魚はマダイより

小さいサイズから刺胞毒耐性を持つことが示され、マダイの刺胞毒耐性の獲得時期はメ

デューサ回避能力の獲得時期よりかなり遅かった。一方で、メデューサはその拍動が起

こす流速よりも逃避速度の小さい餌生物を摂餌することが知られるが、仔魚がメデュー

サ回避能力を獲得した体長での各魚種の突進速度は、メデューサの拍動が起こす流速よ

りも十分に小さかった。これらのことから、カワハギ科魚類は刺胞毒耐性といった「触

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手に接触しても生残できる能力」、マダイは捕食者認知能力といった「触手に接触しな

くなる能力」の発達によって、回避能力を獲得する可能性が示唆された。また、カワハ

ギ科魚類の鱗の形成開始時期はマダイよりもかなり早かったことから、カワハギ科魚類

の刺胞毒耐性は鱗の発達によって獲得される可能性が高いと考えられた。

カワハギは体長 4.9 mmからミズクラゲの卵やプラヌラ幼生を、体長 21.8 mmからメ

デューサの摂餌を開始することが明らかになった。カワハギ当歳魚のミズクラゲポリプ

に対する摂餌速度を水温別に計測した結果、26.8 oCで最大速度 3.1 ind sec-1を示した。

一連の結果から、仔魚に対するクラゲ類の捕食圧は、魚体サイズだけでなく魚種の影

響を大きく受け、カワハギ科魚類はクラゲ類の多く存在する海域でも初期減耗しにくい

ことが示唆された。また、カワハギ科魚類はマダイに比べてクラゲ類の摂餌に特化して

おり、その生活史の大半においてミズクラゲを摂餌し得ることが示された。個体サイズ

が小さく、無性生殖によって大量の浮遊幼生を放出するポリプや卵、プラヌラ幼生に対

する魚類の摂餌は、その後のメデューサの生物量に大きな影響を与えると考えられる。

クラゲ類の大量発生により、その駆除方法や有効利用策が模索されている。本研究の結

果から、クラゲ類の魚類への給餌にはその体成分や行動を改善する効果があることが明

らかになり、脂質過多傾向の強い養殖魚や行動特性が天然魚に劣るとされる放流種苗用

の補助餌料としてクラゲ類を有効利用し得る可能性が示唆された。一方で、カワハギ科

魚類はその生活史の大部分においてクラゲ類を摂餌し、その捕食圧も大きいことが示さ

れた。クラゲ摂餌魚には、カワハギ科魚類のように商品価値が従来低く、その資源量や

生態に関する情報に乏しい魚種が多く含まれる。クラゲ類の大量発生を防御するために

は、クラゲ摂餌魚とその生息環境の保全に重点を置いた生態系ベースの漁業管理が望ま

れる。

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153

謝辞

本論文を取りまとめるにあたり、終始御指導と御鞭撻をいただき、御校閲を賜った京

都大学 フィールド科学教育研究センター 舞鶴水産実験所 山下洋教授、益田玲爾准教

授に対し、深甚なる謝意を表します。また、御校閲の上、貴重な御指摘を賜った同大学

フィールド科学教育研究センター 海洋生物環境分野 荒井修亮教授に心から感謝致

します。本論文において栄養分析に尽力して頂き、的確な御助言を賜りました東京海洋

大学 海洋科学技術研究科 生物生産学講座 水族養殖学 竹内俊郎教授、栗原紋子博士、

小味亮介氏に深く感謝の意を表します。また、東京海洋大学 生物資源学講座 増殖生態

学 石井晴人助教、盛満亮氏には、貴重な御助言を頂くとともに、ミズクラゲポリプを

提供して頂きました。ここに心から感謝の意を表します。京都大学フィールド科学教育

研究センター 瀬戸臨海実験所 久保田信准教授、ならびに北里大学 海洋生命科学部

水圏生態学研究室 三宅裕志講師には、ミズクラゲ受精卵の同定をして頂くとともに、

有益な御助言を賜りました。厚くお礼申し上げます。本研究においてゴカイの同定をし

て頂きました福井県立大学 海洋生物資源学部 海洋生物資源学科・生物資源学研究科

海洋生物資源臨海研究センター 富永修教授に深く感謝いたします。本研究においてゴ

カイの栄養に関して貴重な御意見と御助言を頂きました林勇夫博士、ならびにカワハギ

の摂餌生態について有益な御助言を賜りました千葉県立中央博物館分館 海の博物館

川瀬裕司博士に対し、厚くお礼申し上げます。

本研究の実験の一部は、日本科学協会笹川財団、日本学術振興会、および農林水産省

STOPJELLY プロジェクトの研究助成によって賄われました。この場を借りて、深くお

礼申し上げます。本実験で使用したマダイ稚魚を提供して下さった、京都府立栽培漁業

センター 丸山和夫元所長、後藤和也氏、長浜雅和氏、ならびにカワハギ稚魚を提供し

て下さった、愛媛県農林水産研究所水産研究センター 水野かおり氏、中島兼太郎氏に

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深く謝意を表します。ワムシを提供して下さった水産総合研究センター 能登島栽培漁

業センター、ならびに京都府立栽培漁業センターの皆様に厚くお礼申し上げます。

京都大学大学院 農学研究科 応用生物科学専攻 海洋生物増殖学分野 田川正朋准教

授、中山耕至助教、同総合博物館 中坊徹次教授、ならびに同フィールド科学教育研究

センター 舞鶴水産実験所 上野正博助教、甲斐嘉晃助教、佐藤一夫元船長、志賀生実

氏、松尾壽雄氏からは、研究を進める上で、貴重な御意見と多岐にわたる御協力を頂き

ました。ここに厚くお礼申し上げます。飼育技術および実験手法を御教授して頂きまし

た同研究室 福西悠一博士、高橋宏司博士に心から感謝いたします。元同研究室

Dominique Robert 博士(現 カナダ Memorial University of Newfoundland)、ならびに大

畑亮輔博士(現 京都府栽培漁業センター職員)には温かい御援助と御協力を頂きまし

た。ここに深く謝意を表します。

そして、いつも有益な議論と御助言を頂き、多大な援助を賜りました京都大学 フィ

ールド科学教育研究センター 舞鶴水産実験所、ならびに京都大学大学院 農学研究科

応用生物科学専攻 海洋生物増殖学分野の皆様に心から感謝いたします。最後に、筆者

の研究を温かく見守り、援助してくれた両親と夫に感謝の言葉を贈りたいと思います。

ありがとうございました。

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155

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(This is the peer reviewed version of the above article, which has been published in final

form at DOI: 10.1111/anu.12583. This article may be used for non-commercial purposes in

accordance with Wiley Terms and Conditions for Self-Archiving.)


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