Title マーチの相互学習モデルについて( 正誤表追加版 )
Author(s) 志村, 健一
Citation 琉球大学経済研究(70): 75-90
Issue Date 2005-09
URL http://hdl.handle.net/20.500.12000/272
Rights
正誤表
p.87 Sub組織コード学習(m,n)の上から5行目
誤「For i=3 to n+2」 → 正「For i=3 to m+2」
※この正誤表は2008年3月5日に追加されました。
マーチの相互学習モデルについて
志村健一
1.はじめに
Marchにより提案された相互学習モデルについての検討を行うために、Ex-
celVBAによりプログラムを作成した。Marchの相互学習モデルについては、Ma-
rchの論文(March(1991)、あるいはCohen&Sproull(eds.)(1996)での再
掲論文)だけでは不明確な点があるとして、高橋(1998)により問題点が指
摘されている。そして高橋(1998)では、March(1991)のモデルの定式化を
行い、Marchの結果についての検討を行っている。そうして得られた結論は、
大幅にMarchの結論を修正するものとなっている。しかもMarchのプラグラム
が公開されていないことなどから、きちんとした結果の検討を行うことを困
難にしていると指摘している。
ところでこうして得られた高橋の結論についてもいくつかの疑義が提起さ
れている。(兼城(2005))しかし、これも高橋(1998)にそのプログラムに
ついて示されていないこともあって、検証しがたいものとなっている。
そこで本論文では、Marchの相互学習モデルの高橋により定式化されたもの
を実現しているプログラムと、その途中経過を出力するプログラムを作成し
たので、これを報告する。これによりプログラムそのものの検討、及び結果
の妥当性についての検討が容易になるものと思われる。
以下2でマーチの相互学習モデルについてまとめる。そして3で作成した
プログラムについて、主な変数の説明、出力の例示、副プログラムなどにつ
いて記し、付録としてプログラムリストをのせた。4で若干の議論と今後の
課題などをまとめた。
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琉球大学・經濟研究(第70号)2005年9月
2.マーチの相互学習モデルについて
ここでは高橋(1998)により定式化されたMarch(1991)の相互学習モデルについて以下にまとめる。
March(1991)、高槻(1998)の論文では、現実を、次元ベクトル、組織の
メンバ数をn人、メンバの確信をbj=(b川bj2,…,bjm)としている。
しかしシミュレーションは、図1に示すように、組織メンバを行方向に配置
し、現実の成分を列方向に配置して考えるようである。そこで本論では、プ
ログラムの作り易さ、読み易さを考慮して、現実をn次元ベクトル、組織の
メンバ数を、人、メンバの確信をbi=(bil,bi2,…,biD)と定義してい
る。
(1)現実
組織外部の現実を表し、組織メンバは、この現実が何であるかを知ろうと
していると仮定している。現実はn次元ペクトルで、各成分はlか-1の値を
独立に確率0.5でとるとする。
r=(r,,T2,…,r、)
(2)組織メンバと組織コードの確信
、人の組織メンバがおり、各々は、各期、現実の各成分に対しての確信
(belief)を持っている。メンバiは現実のn次元ベクトルの各成分について、
確信としてlかOか-1の値を持つ。下記のようにメンバiのn次元ベクトルを
メンバiの確信という。
b【=(bil,bI2,…,bin)
同様に、組織コードもn次元ベクトルで、確信をもっており、各成分は1か
0か-1の値をとる。これを組織コードの確信と呼び、次のn次元ペクトルで
現す。
c=(Cl,c2,…,CID
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マーチの相互学習モデルについて(志村健一)
各組織メンバの確信を表すn次元ベクトルの各成分は、初期値として1か0
か-1の値を等確率で与えられる。組織コードの確信を表すn次元ベクトル
のすべての成分は初期値を0に設定している。
(3)知識レベル
与えられる現実に対して、任意の期の確信の「知識レベル」を次のように
定義する。
①組織コードの知識レベル:組織コードの確信が現実と一致している割合。
②組織メンバの知識レベル;組織メンバの確信が現実と一致している割合。
(4)組織コードからのメンバの学習
個々のメンバは、組織への社会化あるいは組織コードの教育の結果として、
確信を毎期連続的に修正すると考える。この各メンバにおける学習プロセス
に関しては、次のような仮定が置かれている。
①もし組織コードの第j成分がCFOであれば、
組織メンバiの確信の第j成分bijは変わらない。
②もし組織コードの第j成分cjと組織メンバiの確信の第j成分bijが同じ
なら、bijは変わらない。
③もし組織コードの第j成分cjと組織メンバiの確信の第j成分bijが異な
れば、bijの値は確率plでcjと同じ値に変わる。
ここで、確率plは組織メンバの組織コードからの学習率を表すパラメータ
で社会化率(socializationrate)と呼ばれる。ここでは、plは全メンバに
共通のものと仮定されている。
(5)優秀グループからの組織コードの学習
組織コードの学習について、高橋(1998)でより明確に定義されている。ま
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ずMarch(1991)は、組織コードよりも高い知識レベルをもった個人のグルー
プを優秀グループ(superiorgroup)と呼んでいる。この優秀グループの第
j成分の多数意見について、March(1991)では正確な定義がなかったため、
高橋(1998)では、0を除いた多数意見と明確化している。次に、優秀グルー
プの多数意見が組織コードと異なる場合に限り、多数派の数から少数派の数
を引いたものをkjと定義する。MarcM1991)はその注1で、このkjについて
ふれているが、その定義は矛盾しており、高橋(1998)でより明確に定義さ
れたものである。組織コードの学習については、次のような仮定が置かれて
いる。
①組織コードの確信cjが優秀グループの第j成分に関する多数意見と同じ
なら、cjは変わらない。
②組織コードの確信cjが優秀グループの第j成分に関する多数意見と異な
るなら、cjは多数意見に合わせて独立に確率qで変更する。
ここでq=1-(l-P2)k'とする。
③優秀グループが空、または第j成分に関して多数意見がないなら、c』は変
わらない。
ここで確率p2は組織コードの学習率を表すパラメータであるが、March
(1991)では名前がつけられていない。確率qの定義についてもMarcM1991)
では問題があり、高橋(1998)により検討が行われている。そしてMarch(1991)
のシミュレーション結果についての誤りが指摘されている。
(6)均衡とロックイン
March(1991)では、組織メンバの知識レベルの平均をとって「平均知識レ
ベル」と呼び、これを指標として使用している。組織メンバと組織コードの
確信は段々に収束していくが、知識レベルが上がるにしたがって、知識に関
してはより同質的になっていく。Marchは均衡の定義について「すべての組織
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マーチの相互学習モデルについて(志村健一)
メンバと組織コードが同じ確信を共有するとき、均衡が達成される。均衡は
安定的である。」と述べている。特に均衡での平均知識レベルを「平均均衡知
識レベル」(averageequilibriumknowledgelevGI)と呼ぶ。定義から、均
衡状態では、すべての組織メンバと組織コードの確信は一致しているので、組
織メンバの平均知識レペルと組織コードの知識レベルも一致する。
本論文では、以上の高橋により定式化されたMarchの相互学習モデルを実現
するプログラムと、その途中経過を出力するプログラムを作成したので、そ
の概要を次章で報告する。
3.プログラムと出力結果について
ここでは主な変数と各サブルーチンについての説明、並びに結果の見方に
ついて解説する。プログラムリストは、付録とした。
まず組織を表す変数としてはcel(。,.)配列を使用する。その内容は図l
のように、組織メンバを行方向に配置し、現実の要素を列方向に配置して考
える。行は、現実、組織コード、m人の組織のメンバからなる(m+2)行で
ある。一方、列は現実の要素数、、(知識レベルに関連して)現実と一致する
確信の数を示す列、優秀グループを示す列の(n+2)列からなる。またresult
(.,.)は実験の結果を入れる配列であり、その内容を同じく図2に示した。
cel(...)
層
123
m+2
図1.cel(...)配列の要素の使い方について
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、+1、+2 ̄ 匂..▲、
風爽興溺I 現拠圏恭2 000 現奥田粥、
In日。貢ド圏粥1 lllBNコードlH粥2 HM§コード興粛、 hHaコードのI、独瞬I
ml6RIン11.1の奥幾I 翻俄II》バlの日粥2 、卸)バlのFH昂、 HUaj狐.lの知■豚I jiIMl田劣)、-7か否か
1m即ン、.、の擾鵜I 1m嵐メバmの圏粛2 釦包メンバmの国濃、 日幽メンハ,mの10,レベル メin.】M日劣グループ100百か
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2
:4result(.,.) 1
1234
Ip2●npl*公1
1期2W⑩I姐
図2.result(.,.)配列の要衆の使い方について
ここで、npl:plの実験回数(何種類のplの実験をするか)
np2:p2の実験回数(何種類のp2の実験をするか)
uplim:収束判定回数の上限
nr:同じ(pLp2)で繰り返す実験回数
なおresult(.,.)配列にある変数nnrは、nr回の実験で、相互学習の反復回
数がupIimを超えたものを除いた実験回数を入れる変数である。またデバッグ
用の変数としてJinがある。デバッグの結果はsheet3に出力するプログラム
となっているが、linはそれまでに、何行目まで出力に使用しているかを示す
変数である。この変数を活用して、出力をコントロールしている。
SubSimuIation(・):相互学習を行なうための主プログラム。相互学習を行
うためのプログラムの構造は以下のようである。変数1によるForループ
が相互学習の繰り返し部分である。
Call組織の初期値化(、,、)
Call優劣判別(m,、)
Forl=1ToupIim
,学習部分
Call優劣判別(m,、)
Call組織コード学習(、,、)
Callメンバ学習(、,、)
-80-
マーチの相互学習モデルについて(志村健一)
Callmarch判定(、,n,march)
Ifmarch=!'均衡mThenExitFor
Nextl
result(.,.)配列に結果を収納
sub組織の初期値化(・):組織を示すcel(.,.)に初期値を与える副プロ
グラム(以下もすべて副プログラムであるが、副プログラムと書くこと
を省略する。)
subシートの初期化(・):sheetlとsheet3のクリアを行なう
Submarch判定(・):メンバ学習とコード学習を1回ずつ行なう度に、均衡に
達したかどうかの判定を行う。
subメンバ学習(・):組織コードから組織メンバへの影響を扱う
sub優劣判別(・):優秀グループのメンバには10を、そうでない場合は、-10
をcel(.,n+2)に入れる。
sub組織コード学習(・):優秀グループから組織コードへの影響を扱う。
sub表表示(、):シミュレーションの結果を表示1のような形でsheetlに出
力する。
Substat(・):平均と標準偏差を計算する。
subデバッグ1(・):npl,np2,nr,uplimを出力する。
subデバッグ2(・):各回のpLp2について出力する。
subデバッグ初期値(・):組織の初期値の出力を行なう。
subデバッグcel(・):現実と、組織コード、組織メンバの確信を出力する。
subデバッグcel2(・):組織コードの学習結果を出力する。
subデバッグコード(・):組織コード学習に関連した乱数、確率qを出力す
る。出力をコンパクトにするためsubデバッグcel2(・)出力の右側に
出力している。
subデパッグメンバ(・):メンバ学習に関連した乱数を出力する。出力を.
-81-
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Pわ。●
p]】
P =
§P▲】
マーチの相互学習モデルについて(志村健一)
ンパクトにするためsubデバッグcel(・)出力の右側に出力している。
以上のプログラムを実行した結果を、sheetlについては表示1、その途中
経過を出力したsheet3を表示2として示した。このデバッグ用プログラムに
より、相互学習のプログラム、及びその結果の妥当性についての検討が容易
になるものと考える。
4.おわりに
本論において、マーチの相互学習モデルのデバッグ用プログラムについて
示してきたが、最後にこのプログラムにより得られる結果について、若干述
べておきたいと思う。
我々の相互学習プログラムについて、ここでのデバッグ用プログラムによ
り、途中経過をチェックしたところ、今のところ不都合と思われる点は見出
されていない。もし我々の相互学習プログラムが正しいとするなら、シミュ
レーション結果として得られる知識レベルは相当低くなることが予想され
る。
これは、Marchの結果とも異なるが、高橋論文のp,69図2の結果、あるい
はこの結果の解釈である「社会化率と平均知識レベルの関係において、社会
化率plが大きくなるにしたがって、平均知識レベルはわずかながらも向上するという傾向があり、p2の値が大きくなるほど、より顕著に現れる。しかも、p2が低いほど、平均均衡知識レベルの水準は高い事がシミュレーショ
ンの結果、分かっている。つまりメンバの学習率が高いほうが、学習のパフォーマンスは高いが、組織コードの学習率が高くなると学習のパフォーマンスの水準は低下する」とも矛盾するものである。我々の実験から得られる結論は、「社会化率Plや、p2は、知識レベルには関係せず、ただその収束スピードに影響する」(兼城(2005))といった結論を支持するものであった。
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琉球大学・經濟研究(第70号)2005年9月
これらの詳細な検討については、引き続き報告を予定している。
謝辞
この論文を作成するにあたって、昨年度大学院を修了した兼城舞子さん、現
4年次生である石本可南子さん、福里芽衣さんには、議論を行いながら一緒に
プログラム作成を行うなど大変助けて頂きました。ここに記して感謝いたし
ます。
【参考文献】
l)Cohen,MichaelD.&LeeS・Sproull(eds.)(1996)Organizational
Learning.Sage,ThousandOaks、
2)兼城舞子(2005)「TQM活動と組織学習について」琉球大学大学院人文社会
科学研究科修士論文
3)March,JamesG.(1991〉“ExplorationandexploitationinorganizaIional
learning.”OrganizationScience,2,71-87.
4)March,JamesG.“Explorationandexploitationinorganizational
learning,,,InMichaelD・Cohen&LeeS・Sproull(eds.)(1996)
OrganizationalLearning.Sage,ThousandOaks、
5)高橋伸夫(1998)「組織ルーチンと組織内エコロジー」『組織科学』第32巻
第2号.
-84-
マーチの相互学習モデルについて(志村健一)
付録:チェック用のプログラムリスト
組11N学習睡列(lObug75RlOI非均衡ロツクイン除外した統計蹟噛E正日2002.04.0809,10,122005C(i・24,31,6.7019
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琉球大学・經濟研究(第70号)2005年9月
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マーチの相互学習モデルについて(志村健一)
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-87-
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-88-
マーチの相互学習モデルについて(志村健一)
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琉球大学・經濟研究(第70号)2005年9月
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