2015年4月にフランクフルトで開催されたIAF/TCの付属として行われたTraining Session
において、当時、FDISとして賛否投票が進行中であったISO/IEC 17021-1について、起案
担当のCASCO/WG21の共同コンビナーの一人を務めていたRandy Dougherty氏(ANAB
所属、IAF議長)が講演した。
本資料の次ページ以降はそのために配布され、JACB品質技術委員会が翻訳をした上
で、パワーポイントのスピーカーズノート機能を使っていくつかの解説を加えた。
品質技術委員会は間違ったメッセージを与えないように注意を払っていますが、疑問
があれば原文に遡って確認していただくことを奨める。
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このページ以降がランディ・ドーハティ氏のパワーポイント資料である。スピーカーズ
ノートは、品質技術委員会によるものであり、必ずしも講演者のRandy Dougherty氏の
講演を再現していないかもしれないことをご了解願う。
前身を遡ると1996年発行のQMS認証機関の運営のためのISO/IECガイド62と1999年発
行のEMS認証機関の運営のためのISO/IECガイド66にいたる。
ISOマネジメント認証活動の広がりに応えてガイド規格から要求規格に変えるために、
ISO/IECガイド62とISO/IECガイド66とを統合することになった。CASCOにWG21を設置して
検討をはじめた2000年から、2006年のISO/IEC17021 の発行、2011年の改正を経てき
た改正検討の経緯を振り返った後、2015年に発行されるISO/IEC 17021-1 への改正の
概要を説明することにする。
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ISO/IEC17021はISOの中の政策委員会の一つである適合性評価委員会CASCOに設置
されたWG21が担当してきた。
WG21の活動は、二人の共同コンビナー(幹事)の下に進めてきた。アリスターは日本
規格協会に似た、規格開発活動を行うと共に、認証活動も行っているフランスの
AFNORの所属であり、IAFでも積極的な活動をしている。
ランディは米国で認定活動を行っているANABに所属し、現在IAFの議長を担当している。
認定活動を専門とするランディと認証活動を専門とするアリスターの二人が共同して規
格開発を行ってきている。
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2000年にCASCOに設置されたWG21は、当初はQMS認証機関の運営のためのガイド62
とEMS認証機関の運営のためのガイド66を置き換えて、一つの要求規格を作成するた
めに設置された。
しかし、WG21を設置後、QMS、EMSから始まったマネジメントシステム規格は広がりを
見せ始めていたので、単にガイド62とガイド66を置き換えるだけではなく、全てのMS規
格の認証活動にも適用可能な規格とすることの必要性が認識された。
また、ガイド62、66の適用を補足するためにIAFで指針文書が出ていたので、ISO/IEC
17021の中で取り組むべき文書は取り込むこととした。
また、ISO/WG23が、公平性と利害関係者の利害衝突、機密性と信頼、異議申し立てと
苦情、情報公開と透明性等の検討を行って、ISO/PASMS認証に関する共通要素を指針
として取りまとめるための検討をしていた。このWG23との情報共通化を図り、原則に
基づいたパフォーマンスを要求する規格を作成することを方針として検討を進めていっ
た。
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検討の結果、2006年9月にISO/IEC17021は発行された。
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2006年版では審査のプロセスと力量を含めた審査チームの活動についてはISO19011
を全面的に参照して行う事になっていた。しかし、ISO19011は第三者審査活動に止ま
らず、第1者、第2者にも適用することを意図して作られているために、ISO/IEC 17021:
2006発行後の実施状況を見ていると戸惑いが見られ、第三者に特化した規定としてわ
かりやすくする必要があると考えられた。
このため、2006年版をさらに改正して、審査実行プロセスの規定と、審査チームを含む
CBの審査員の力量要求規定を、MS審査に共通して適用可能なI範囲で、ISO19011を
参照しつつ、要求事項を直接規定する改正をすることとした。
この改正では、各種MSに固有な追加規定をTC176 やTC207で行うためのテンプレート
となるような規定をしていこうと言うことになっていた。
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この結果、2011年2月にISO/IEC17021:2011が部分改定として発行された。
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できた2011年版は、この図に示されるように、青色で示されるMS審査共通の枠組みを
与えるもので、各認証機関はMS規格共通部分の仕組みをこれに適合するように準備
し、専門MS規格対応の仕組みを該当固有MS規格担当のISO/TCなどが制定する固有
力量要求基準に適合するように準備して運用し、維持することになる。
MS規格毎の追加固有力量要求をISO/IEC17021のパート規格として発行することになっ
ていたので,2011年版のISO/IEC17011はパート1として発行された。
このシートは、ISO/IEC17021-1に引き続いて追加制定された力量要求規定のリストを示
しており、TCによって、17021のパート規格として補足力量規定を行ったものと、当該
MS規格の関連規定として規定を行ったものとがあることを示している。
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2011年改正が行われた後に、さらに改正作業を開始する事になったわけであるが、そ
の必要性は上記のように認識された。
まず、2011年版は部分改正であって、2006年版の部分は改正されないでいる。ISOの
業務規定では、規格発行後5年までに見直すことが必要と規定されているので、17021
が必要とされる以上、二つ目、三つ目の理由も含め、規格全体の見直しが必要であっ
た。
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今回の改正ではこれらのインプット情報が検討された。
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今次改正のためのWG21の会議の経緯はこのようになっている。
なお、DISが賛成多数で承認されてから,直接ISO/IEC規格として発行することを考えら
れたが、中央事務局からFDISを経過しないと発行できないという指示があり、FDISを発
行して改めて賛否投票を行う事となった。
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以下、ISO/IEC17021-1の変更点について説明する。
まず、9章の構成を大幅に入れ替えて、認証審査活動を行っていく順番により近く再編
成して、実際の活動で読み取ってもらえるようにした。このことで、規格の理解が間違
いないものになることを期待している。
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認証機関の本体から離れた場所にある事務所、支店やフランチャイジーなどの管理が
十分でなかったり、機関の要員の管理が十分でなかったりする場合、認証活動の有効
性が低いことがIAFで問題点として指摘され、議論となった。この対策として、箇条6.2で
CBに対して、離れた事務所を持つ場合の管理や、機関の要員の管理の説明責任を要
求することになった。
また、審査員だけでなく、認証決定に与る要員に対するコントロールを効果的に行って
いる事の説明責任を9.5で規定している。
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認証マークの使用についてもIAFで議論となっていたので、誤解のないように、このシー
トに示すように、運送用の梱包であれば、認証を取得している表明と関連情報を表示
することができることを明示した。ただし、認証、認定マークは製品が認定、認証されて
いるという誤解を与えるので認められない。また、製品と一体になっている箱などに表
示することは認められていない。
原則は、製品が認証されていると誤解されないことである。
また、梱包に表示をする場合は、認証機関名を含めることを求められていることに注意
が必要である。
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審査工数関係については、「審査工数」と「マネジメントシステム認証審査工数」という
用語を定義して、前者を審査計画策定から報告書提出までの審査チームが関与する
全時間、後者をオープニングミーティングからクロージングミーティングまでの現地審査
時間ということを明確にして、混乱の起こらないようにした。ただし、用語として紛らわし
いところがあるので、他と話をする場合や文書に書く場合は、相互に確認するなど注意
が必要である。
9.1.4.3では、MS審査の現地工数とその正当性を記録することを求めているが、正当性
の根拠については、ISO/IEC TS17023に示されている工数の指針に対応していることと、
改正IAF/MD5に示されている審査時間の規定に従っていることが必要である。
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不適合については、従来用語として表明されていなかった「重大(メジャー)」と「軽微
(マイナー)」の二つのランク分けが明確となった。これによって、不適合への対応が適
切になることが期待される。
認証審査の基本原則として4.8に加えられた「Risk-based approach」は、ISO9001改正で
強調された考えかたである。
5.2.3で要求されている公平性担保のための仕組みについては、公平性委員会を明示
して要求されている訳ではないが、ISO/IEC17065の5.2の規定を参考にすれば公平性
委員会を持つことを考えることも適切である。
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その他の公平性関連の要求としては、原則としてコンサルをした要員にコンサルをした
組織の審査を2年間は禁止するなどの規定を明記した。
一方、認証機関を認証機関が審査、認証することができるかどうかという問題に対して
は、QMSに関しては認証できないが、QMS以外では審査を容認できることが明記され
た。
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情報の公開については議論を呼んでいたが、8.1で認証のプロセスについて「要請がな
くても公開しなければならない」ことを明確にした。
但し、2011年版の8.3で要求していた被認証組織の登録簿の要求は削除されているこ
とに注意しなければならない。ただし、禁止規定が行われたのではない。
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シフトで交代業務を行っている組織に対しては、審査プログラムの策定の時にその影
響の大きさを検討をすることの要求が9.1.3.5に加わった。ただし、必ずしも、立会で審
査をして判断をしなければならないと言うことを要求している訳ではない。
9.1.3.4には、認証の移転を受ける場合には、以前の不適合に関する是正処置につい
ての報告書及び文書のような十分な証拠を収集し、保持しなければならないことが明
示された。
9.1.6には、複数のマネジメントシステムの認証を行う場合は、適切な審査を行うための
審査計画に関する説明責任を持つように要求した。
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9.5.3.2には、初回審査の第二段階審査で直ちに是正を要するメジャー不適合が観察さ
れて、その修正と是正処置が6ヶ月も過ぎても検証できない場合、認証のためには再
度第二段階審査を行わなければならないことが明記された。
これに関連し、初回認証の後の第1回サーベイランスは、2011年版では第二段階審査
終了日を起点として12ヶ月を超えないこととしていたが、改正により認証決定日を起点
とする12ヶ月を超えないことに要求が変わった。
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再認証の有効期限については、元の認証期限に基づいて定めるか、再認証日に基づ
いて決めるか議論があったが、9.6.3.2.3で元の有効期限に基づいた決定が明記された。
有効期限までに再認証審査が実施されて、機関による検証ができてなければ再認証
は行えないという9.6.3.2.4の規定はあるが、未完了だった再認証活動が6ヶ月以内に
完了した場合は、再認証を認める、6ヶ月を過ぎた場合は第二段階審査を必要とすると
いう規定が9.6.3.2.5に加わった。
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9.4.8.3に、審査報告書には、マネジメントシステムの能力と内部監査及びマネジメント
レビューの有効性に関係したMSの適合性と有効性を記述する要求が加わった。
これは、今回取り下げられたTS17022を制定したときの検討から来ている。
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附属書Aは、ISO/IEC TS17021-2、3を参考に改正された。
XとX+で関連性の大きさを区別することは意味が薄いと考えられて、Xだけに一本化さ
れた。
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