U(2)(F), U(3)(F) の既約表現の endoscopic
description
池松泰彦∗
導入
F を標数 0の非アルキメデス局所体とする. 本稿の目的は,ユニタリ群 U(2)(F ),
U(3)(F ) の既約許容表現の同型類の集合を endoscopy に基づいて記述する方法
と, その結果について解説することである.
まず WF を F の Weil 群とする. このとき局所類体論から GL1(F ) の準指標
の集合と, WF の準指標の集合は 1対 1に対応した. さらに F の局所 Langlands
群を LF =WF × SU2(R) とすると, 局所 Langlands 対応から GLn(F ) の既約許
容表現の同型類の集合と, LF の n 次元表現の同型類の集合 Rn は 1対 1に対応
した.
F 上の一般の連結簡約代数群 G でもこのような分類を考えたい. そこで少し
言葉を準備する. G を G の Langlands 双対群とし, LG = G ⋊WF を G の L
群とする. このとき WF 上の連続準同型 ϕ : LF → LG で, ϕ(WF ) の G への射
影の像が半単純元からなるようなものを G の L-parameter と呼ぶ. また二つの
L-parameter が G 共役のとき互いに同値といい, Φ(G) で G の L-parameter の
同値類の集合を表す. さらに IrrG(F ) をG(F ) の既約許容表現の同型類の集合と
する.
G = GLn のときは Φ(GLn) と Rn は同一視できるので, 上で述べた局所
Langlands 対応により IrrGLn(F ) から Φ(GLn) への全単射がある. 従って同様
に, IrrG(F ) から Φ(G) への全単射を構成したいのだが, 一般には全単射は構成
できない. しかし次の二つの問題を解決することで IrrG(F ) は Φ(G) を用いて記
述できる. 一つ目は, IrrG(F ) から Φ(G) へのファイバーが有限の全射写像を構
成することである. そして二つ目は, その写像の各ファイバー (L-packet) の内部
を記述することである. このような問題を解決するのが, G(F ) の共役類の分類問
1
2
題に端を発する endoscopy である. そしてこのようにして得られる既約許容表現
の記述を endoscopic descriotion と呼ぶ.
endoscopic description が出来ている例として, まず G = SL2 の場合があ
る. これは Labesse-Langlands [LL] らにより解決した. また準分裂なユニタリ群
U(2), U(3) の場合は Rogawski [R] により解決した. さらに G がシンプレクティ
ク群, 直交群の場合は Arthur [A] により解決された.
さて本稿の目的をもう一度詳しく述べると, 非アルキメデス局所体の二次拡
大 E/F に関する準分裂なユニタリ群 G = U(2), U(3) に対する endoscopic
description を [R] に従って解説することである. この場合 IrrG(F ) から Φ(G)
へのファイバーが有限の全射を構成するために, GL2(E), GL3(E) の twisted
endoscopy を用いる. そしてそのとき定まる各 L-packet の内部を記述するため
に, U(1)×U(1), U(2)×U(1) との standard endoscopy を考える.
U(1)×U(1)standard endoscopy−−−−−−−−−−−−→ U(2)
twisted endoscopy−−−−−−−−−−−→ GL2(E)
U(2)×U(1)standard endoscopy−−−−−−−−−−−−→ U(3)
twisted endoscopy−−−−−−−−−−−→ GL3(E)
この場合を解説する理由としては, ともに U(2), U(3) は F ランク 1 の代数群
であり構造が比較的簡単であることと, U(3) の endoscopy は U(2) の endoscopy
よりも複雑で U(2) では起きない現象を持っていることが挙げられる. また証明
についてであるが, Arthur-Selberg 跡公式などを用いるため大部分は結果を述べ
るだけになっている. なので詳しい証明などは [R] を見てもらいたい.
本稿の構成は以下の通りである.
1章では軌道積分と表現がどのような関係にあるのかを見るために一つの定理
を紹介する.
2章ではユニタリ群 U(n) の定義を述べ, その L 群を計算する.
3章では U(n) の standard endoscopy について説明する. 3.1 では U(n)(F )
共役と U(n)(F ) 共役との差から得られる安定共役類の内部構造を記述する方法
を説明し, そこから 3.2 で新しい軌道積分のクラスを定義する. 3.3 では 補助デー
タである endoscopic datum を定義し, 分類する. 最後に 3.4 では軌道積分の移行
を解説する.
4章では GLn(E) を U(n) の係数制限 U(n) の F 有理点の群として捉えて,
さらに U(n) の L 群を計算する.
5章では GLn(E) の twisted endoscopy について説明する. 流れは 3章とほ
ぼ同様なので詳しい説明は省き, 結果のみを述べることとする.
6章では U(n) の L-parameter について考える. まず 6.1 で L-parameter に
ついて復習し, 6.2 から 6.4 では U(1), U(2), U(3) の L-parameter の分類につい
て述べる.
3
7章では U(2), U(3) の既約許容表現の endoscopic description について解説
する. 7.1 では 5章の内容を用いて, L-packet の構成方法について説明する. 最後
に, 7.2, 7.3 では U(2), U(3) の L-packet を構成した後, 3.4 の軌道積分の移行を
用いて, L-packet の内部構造を記述する.
記号. これ以降では F を標数 0 の非アルキメデス局所体とし, F を F の代数閉
包とする. さらに Γ を F の絶対ガロア群とし, WF を F の Weil 群とする. ま
た E を F の二次拡大, σ をそのガロア群の生成元とし, ωE/F を E/F に付随す
る F× の二次指標とする. wσ を WF \WE の元として一つ固定しておく. 位相
群 H に対して H0 を単位元の連結成分とする. π0(H) = H/H0 とする. Z(H)
を H の中心とする. H が可換のとき HD を Pontryagin 双対とする.
謝辞. サマースクールでの講演の機会を与えて下さったオーガナイザーの原下秀
士先生,今野拓也先生,平賀郁先生に感謝申し上げます. 特に指導教官の今野先生
には今回の講演のために御指導して頂きました. 心より感謝致します. また報告
書作成において院生室2の方々には色々と助言して頂いた. 有難うございます.
1 Harish-Chandraの定理
G を F 上の連結簡約代数群とし, G(F ) 上のコンパクトな台を持つ局所定数関
数の空間を C∞c (G(F )) とする. 線型写像 T : C∞
c (G(F ))→ C が
T (f ◦Ad(g)) = T (f), f ∈ C∞c (G(F )), g ∈ G(F )
を満たすとき, T は G(F ) 上の不変超関数であるという. I(G(F )) を G(F ) 上の
不変超関数のなす空間とする. さらに G(F ) の元 γ に関する正規化した軌道積分
を J(γ) で表す ([若槻, 3]). また G(F ) の既約許容表現 π に関する指標を Θ(π)
で表す ([若槻, 5]).
このとき次の定理が成り立つ.
定理 1.1 (Harish-Chandra).
I(G(F )) = Span{J(γ) | γ ∈ G(F )reg}
= Span{Θ(π) | π ∈ IrrG(F )temp}.
ただし弱位相に関して閉包を取っている. また G(F )reg は G(F ) の正則半単純元
全体とし, IrrG(F )temp は G(F ) の既約緩増加表現全体とする.
2 ユニタリ群 U(n)
ここでは準分裂なユニタリ群 U(n) を定義し, その L 群等を計算する. 一般的
な L 群の定義などは [今野 3] を見よ.
4
まず
In =
1
−1. . .
(−1)n−1
として, F 上の連結簡約代数群 U(n) を
F 代数 R に対して, U(n)(R) = {g ∈ GLn(E ⊗R) | gIn∗g = In}
により定義する. ただし ∗g = σ ⊗ idR(tg) であり, σ ⊗ idR は g の各成分に作用
する.
以下 G = U(n) とする. G(F ) を求めよう.
補題 2.1. E から F への埋め込みを一つ固定しておく.
(i) E ⊗ F ∋ a⊗ b 7→ (ab, σ(a)b) ∈ F ⊕ F は同型を引き起こす.
(ii) E ⊗ F 上の Gal(E/F )×Gal(F/F ) の作用を右辺に移すと次のように書ける.
σ ⊗ idR(x, y) = (y, x),
idE ⊗τ(x, y) =
(τ(x), τ(y)), τ ∈ Gal(F/E)
(τ(y), τ(x)), τ /∈ Gal(F/E).
証明. (ii) の前半のみ示す. α を (i) で得られる同型とし, (x, y) = α(a⊗ b) とする. そのとき
σ ⊗ idR(x, y) := α ◦ (σ ⊗ idR) ◦ α−1(x, y)
= α ◦ (σ ⊗ idR)(a⊗ b)
= α(σ(a)⊗ b)
= (σ(a)b, ab)
= (y, x)
系 2.2.
(i) 補題 2.1 (i) から次の同型が引き起こされる.
GLn(E ⊗ F ) ∼= GLn(F )×GLn(F ).
(ii) GLn(E ⊗ F ) 上の Gal(E/F )×Gal(F/F ) の作用を右辺に移すと補題 2.1 (ii)
と同じ式が得られる.
5
証明. αi を 補題 2.1 (i) で得られる同型 α と第 i 成分への射影との合成とす
る. そのとき引き起こされる同型写像は,
GLn(E ⊗ F ) ∋ (gij) 7−→ (α1(gij), α2(gij)) ∈ GLn(F )×GLn(F )
で与えられる. あとは明らか.
上の系から GLn(E ⊗F ) での等式 gIn∗g = In のGLn(F )×GLn(F ) での
像は,
(g1, g2)(In, In)(tg2,
tg1) = (In, In)
と書ける. 従って G(F ) の GLn(F )×GLn(F ) での像は,
(g1, Intg−1
1 I−1n )
からなる部分群に一致する. これは第一成分の射影により GLn(F ) と同型である.
以上により G(F ) ∼= GLn(F ) であることがわかった.
次に半単純元, 正則半単純元について思い出す. γ ∈ G(F ) が半単純とは
GLn(F ) での像が対角化可能となることである. G(F )ss を G(F ) の半単純元全
体とする. また γ ∈ G(F ) が正則半単純とは GLn(F ) での像の固有多項式が分離
的となることである. これは Gγ が極大トーラスとなることと同値である. ただ
し Gγ は G での γ の中心化群を表す. G(F )reg を G(F ) の正則半単純元全体と
する.
最後に L 群を求めよう. G の Borel pair (Bn, Tn)を
Bn : G の右上三角行列からなる Borel 部分群
Tn : G の対角行列からなる極大トーラス
となるように取る. 上の同型写像で Bn(F ) と Tn(F ) は, GLn(F ) の右上三角行
列からなる部分群と対角行列からなる部分群に同型になるので, 同一視しておく.
このとき G の based root datum (X∗,∆, X∗,∆∨) が次のように与えられる.
X∗ = X∗(Tn) = ⊕iZϵi, ϵi(diag(t1, ..., tn)) = ti,
∆ = {αi := ϵi − ϵi+1 | 1 ≤ i ≤ n− 1},
X∗ = X∗(Tn) = ⊕iZϵ∨i , ϵ∨i (t) = diag(1, ...,
it, ..., 1),
∆∨ = {α∨i := ϵ∨i − ϵ∨i+1 | 1 ≤ i ≤ n− 1}.
以上の事から, G の Langlands 双対群 G は GLn(C) となることがわかる. また
この based root datum へのガロア群 Γ の作用は
τ(ϵi) =
ϵi, τ ∈ Gal(F/E)
−ϵn−i+1, τ /∈ Gal(F/E)
6
で与えられる. 次に GLn(C) の Borel 部分群 Bn を右上三角行列からなる部分
群とし, 極大トーラス Tn を対角行列のなす部分群とし, Borel pair (Bn, Tn) を固
定する. そのとき GLn(C) の based root datum と G の based root datum の双
対は同一視できる. その同一視を通して Γ は GLn(C) の based root datum へ作
用する. この作用を A と表しておく. Xi を (i, i + 1) 成分が 1 で他が 0 となる
n × n 行列とすると, {Xi}i は GLn(C) のルートベクトルの集合となる. これに
より GLn(C) の分裂 (Bn, Tn, {Xi}i) が一つ固定される.
補題 2.3. G の L 群は次のように与えられる.
LG = GLn(C)⋊WF ,
g ⋊ w · g′ ⋊ w′ =
gg′ ⋊ ww′, w ∈WE
gIntg′−1I−1
n ⋊ ww′, w /∈WE .
証明. Γ の GLn(C) への作用で, 次の (1), (2) を満たすものを考える.
(1) 分裂 (Bn, Tn, {Xi}i) を保つ.
(2) GLn(C) の based root datum 上に引き起こされる Γ の作用が上で得た作用
A と一致する.
そのような作用は次の式で与えられる.
τ(g) =
g, τ ∈ Gal(F/E)
Intg−1I−1
n , τ /∈ Gal(F/E).
このことから補題が従う.
3 Standard endoscopy
ここでは [R] の 3章, 4章に従って, ユニタリ群 U(n) の Standard endoscopy
について解説する. 一般の場合の Standard endoscopy については例えば [今野 1]
を見よ.
3.1 安定共役
G = U(n) とし, γ, γ′ を G(F ) の元とする. γ, γ′ が共役のとき, つまりある
g ∈ G(F ) があって γ′ = g−1γg が成り立つとき γ ∼ γ′ と表すことにする. 次に
γ, γ′ が安定共役であるとは, ある g ∈ G(F ) があって γ′ = g−1γg が成り立つこ
ととする. そしてこのとき γ ∼st γ′ と表すことにする. 安定共役は共役より弱い
同値関係なので γ の安定共役類は共役類の合併になる. 従って
Ost(γ) = {γ′ ∈ G(F ) | γ′ ∼st γ}/ ∼
7
が定義できる. これも γ の安定共役類と呼ぶことにしよう. G(F ) の半単純元 γ
の安定共役類 Ost(γ) たちのなす集合を Ost(G) で表す.
次に Ost(γ) の内部を記述するために, 非可換群のガロアコホモロジーを簡単
に復習しよう (例えば [S, p.123] を参照). まず G′ を F 上の代数群とする. その
とき G′(F ) は Γ が作用する群である.
定義 3.1.
(i) Z1(F,G′) := {a. : Γ ∋ s 7→ as ∈ G′(F ) | ast = ass(at), s, t ∈ Γ}(ii) as, bs ∈ Z1(F,G′) とする.
as ∼ bsdef⇐⇒ ∃g ∈ G′(F ) s.t. bs = g−1ass(g), s ∈ Γ.
(iii) H1(F,G′) := Z1(F,G′)/ ∼
H1(F,G′)は as ≡ 1を基点とする点付き集合となる. ただし G′ が可換なら群
になる. もし G′ から G′′ への F 準同型があるなら, H1(F,G′) から H1(F,G′′)
への自然な点付き集合の射が定まる.
さて G(F ) の元 γ, γ′ は安定共役としよう. このとき定義から γ′ = g−1γg と
なる G(F ) の元 g が存在する. それから定まる 1-cocycle {gs(g−1)}s∈Γ を fγ′ と
表すことにする.
補題 3.2. (i) fγ′ ∈ Z1(F,Gγ), ただし Gγ は γ の G での中心化群
(ii) fγ′ の H1(F,Gγ) での像 [fγ′ ] は g の取り方によらない.
(iii) [fγ′ ] は Ker(H1(F,Gγ)→ H1(F,G)) に入る.
(iv) Ost(γ) ∋ [γ′] 7→ [fγ′ ] ∈ Ker(H1(F,Gγ)→ H1(F,G)) は全単射である.
ただし射 H1(F,Gγ)→ H1(F,G) は自然な埋め込み Gγ → G から得られる.
証明. これらは定義から従う.
D(Gγ) := Ker(H1(F,Gγ) → H1(F,G)) とする. 上の補題から Ost(γ) と
D(Gγ) の間には自然な全単射が存在することがわかった. ここで H1(F,Gγ) は
有限集合なので, D(Gγ) も有限集合である. 従って Ost(γ) は有限個の共役類の
合併となることがわかる.
続いて γ が正則半単純のときを詳しく見てみよう. このときが特に重要であ
る. まず T = Gγ は極大トーラスであった. 従って次の Kottwitz の定理が成り
立つ.
定理 3.3. ([K, 定理 1.2]) 次のような可換図式がある.
H1(F, T ) −−−−→ H1(F,G)
≀y ≀
yπ0(T
Γ)DZ(G)Γに制限−−−−−−−−−→ π0(Z(G)
Γ)D
8
従って E(T ) := Ker(π0(TΓ)D → π0(Z(G)
Γ)D) とおくと, これは D(T ) と同
型になる. 特に D(T ) は H1(F, T ) の部分群である. さらに補題 3.2 から Ost(γ)
と E(T ) の間には全単射がある. これにより安定共役類 Ost(γ) の内部が L 群を
用いて記述できた.
最後に G = U(2), U(3) のときに現れる極大トーラス T とその E(T ) に関す
る命題について述べる.
命題 3.4. ([R, 3.4, 3.5, 3.6])
(i) U(n) の二つの極大トーラス T, T ′ が F 同型ならば安定共役である. つまり
ある g ∈ U(n)(F ) があって, Ad(g) はその間の F 同型を引き起こす.
(ii) U(2), U(3) の極大トーラス T は F 同型を除いて次のタイプに分かれる.
U(2) の極大トーラス T E(T )
ResE/F Gm {1}U(1)×U(1) Z/2Z
TK {1}
U(3) の極大トーラス T E(T )
ResE/F Gm ×U(1) {1}U(1)×U(1)×U(1) Z/2Z× Z/2Z
TK ×U(1) Z/2ZTL {1}
ただし TK は ResK/F UEK/K(1) を表し, K は E と異なる全ての二次拡大を
走る. そして TL は ResL/F UEL/L(1) を表し, L は F の全ての三次拡大を走る.
3.2 安定軌道積分
G = U(n), γ ∈ G(F )reg, T = Gγ とする. 3.1 から
Ost(γ)∼−→ D(T )
∼−→ E(T )
だった. そこで [γ′] ∈ Ost(γ) の E(T ) での像を inv(γ, γ′) と表すことにする. そ
して K(T ) = E(T )D とする. これは Coker(π0(Z(G)Γ)→ π0(T
Γ)) に同型である.
定義 3.5. κ ∈ K(T ), f ∈ C∞c (G(F )) に対して,
Jκ(γ, f) :=∑
[γ′]∈Ost(γ)
κ(inv(γ, γ′))J(γ′, f) κ 軌道積分,
Jst(γ, f) :=∑
[γ′]∈Ost(γ)
J(γ′, f) 安定軌道積分.
ただし各 J(γ′) を定めるために必要な Gγ′(F ) 上の測度は, γ′ = g−1γg として,
Gγ(F ) 上の測度の Ad(g) : Gγ′(F )→ Gγ(F ) による引き戻しで定める.
9
一般に Jκ(γ) は γ の取り方に依存するが, Jst(γ) は γ の取り方に依存しな
い. つまり γ と γ′ が安定共役ならば Jst(γ) = Jst(γ′) である. 従ってこの意味
で安定軌道積分 Jst(γ) は良い不変超関数になっていることが分かる. そこでこの
安定軌道積分を用いて次のように安定超関数を定める.
定義 3.6. (i) G(F ) の不変超関数 T が KerT ⊃∩
γ∈G(F )reg
Ker Jst(γ) を満たす
とき T を安定超関数という.
(ii) SI(G(F )) を G(F ) の安定超関数からなる空間とする. これは安定軌道積分
のなす部分空間の I(G(F )) での閉包と同じである.
最後に γ と安定共役な元 γ′ の中心化群を T ′ として, Jκ(γ), (κ ∈ K(T ))と
Jκ′(γ′), (κ′ ∈ K(T ′)) の関係について調べよう.
補題 3.7. γ′ = g−1γg とする.
Ad(g−1) : T −→ T ′
は γ を γ′ に写す F 上の同型で, g の取り方に依存しない.
補題 3.8. Ad(g−1) は D(T ) から D(T ′) への同型を引き起こす. これは g の取
り方に依らない.
証明. まず補題 3.7 から Ad(g−1) は H1(F, T ) ∼= H1(F, T ′) を引き起こす. こ
のとき D(T ) が D(T ′) に写ることを示せばよい. [γ′′] ∈ Ost(γ) に対応する D(T )
の元を as = hs(h−1) とする. そのとき
Ad(g−1)(as) = g−1hs(h−1)g = g−1hs(h−1g) · (g−1s(g))−1
となる. g−1hs(h−1g), g−1s(g) はともに D(T ′) の元であり, D(T ′) は群なので,
Ad(g−1)(as) も D(T ′) の元である. 従って前半が示された. 後半は明らか.
この補題から E(T ) ∼= E(T ′)を得る. またその双対群の間の同型 K(T ) ∼= K(T ′)
を得る.
補題 3.9. κ ∈ K(T ) と κ′ ∈ K(T ′) は上の同型で対応しているとする.
(i) κ(inv(γ, γ′′)) = κ′(inv(γ′, γ′′)) · κ′(inv(γ′, γ))−1, ∀[γ′′] ∈ Ost(γ).
(ii) κ(inv(γ, γ′)) = κ′(inv(γ′, γ))−1
(iii) Jκ′(γ′) = κ(inv(γ, γ′))Jκ(γ)
証明. (i) まず D(T ) と E(T ) を同一視しておく. 次に γ′ = g−1γg, γ′′ =
h−1γh とする. すると κ′ = κ ◦ Ad(g), inv(γ′, γ) = g−1s(g), inv(γ, γ′′) =
10
hs(h−1), inv(γ′, γ′′) = g−1hs(h−1g) となる. 従って
κ(inv(γ, γ′′)) = κ(hs(h−1))
= κ′(g−1hs(h−1)g)
= κ′(g−1hs(h−1g)s(g−1)g)
= κ′(g−1hs(h−1g)) · κ′(s(g−1)g)
= κ′(inv(γ′, γ′′)) · κ′(g−1s(g))−1
= κ′(inv(γ′, γ′′))κ′(inv(γ′, γ))−1.
よって (i) が示された.
(ii) これは (i) に γ′′ = γ′ を代入すれば得られる.
(iii) これは (i), (ii) から従う.
3.3 Endoscopic data
ここでは endoscopic datumと呼ばれる補助データについて説明する. G = U(n)
とする.
定義 3.10. 次の五つの条件を満たすとき, (H, s, ξ) を G の endoscopic datum
という.
(i) H は F 上の連結準分裂代数群である.
(ii) s は G の半単純元である.
(iii) ξ : LH → LG は WF 上の準同型である.
(iv) ξ は H から (Gs)0 への同型を引き起こす.
(v) λ(w) := sξ(w)s−1ξ(w)−1 ∈ B1(WF , Z(G))となる.
さらに endoscopic datum (H, s, ξ) が ξ(Z(H)Γ)0 ⊂ Z(G)Γ を満たすとき
elliptic であるという.
また二つの endoscopic datum (H, s, ξ) と (H ′, s′, ξ′) が同型であるとは, あ
る g ∈ G があって gξ(LH)g−1 = ξ′(LH ′), gsg−1s′−1 ∈ Z(G) が成り立つことである.
例 3.11. H = G, s = 1, ξ = idLG としたとき, これは G の elliptic endoscopic
datum になる. そこで (G, 1, idLG) を自明な endoscopic datum という.
例 3.12. m を 0 以上 n 以下の整数とする. E× の準指標 χ, χ′ は, χ|F× =
ωn−mE/F , χ
′|F× = ωmE/F を満たすとし, WE の準指標と同一視する. このとき
G = U(n) の elliptic endoscopic datum が次のように定まる.
H = U(m)×U(n−m), s =
(−1m
1n−m
),
11
ξ : LH ∋ (h1, h2)⋊ w −→
h1χ(w)
h2χ′(w)
⋊ w, w ∈WE h1Im
h2In−m
I−1n ⋊ wσ, w = wσ.
この endoscopic datum の同型類は χ, χ′ の取り方に依存しない. また m と
n−m を入れ替えても同型類は変わらない.
補題 3.13. ([R, 4.6]) U(n) の elliptic endoscopic datum (H, s, ξ) の同型類は上
の例 3.12 で尽くされる.
証明. いくつかの Step に分けて示す.
Step1
同型で取り替えることで, s =
s11n1
s21n2
. . .
sr1nr
としてよい.
ただし n1 + · · · + nr = n で, 各スカラー si は互いに異なるとし, s1 = −1 とする. このとき
Gs = (Gs)0 =
GLn1(C)
. . .
GLnr (C)
となる. また定義 3.10 (iv) から, ξ により H と (Gs)
0 は同型である. よって
H = GLn1(C)× · · · ×GLnr (C) としてよい.
Step2
ξ(h⋊ w) = ξ(h)η(w)⋊ w, (η(w) ∈ G) と書くことにする. 従って
λ(w) = sη(w)w(s−1)η(w)−1
となる. ただし w(s−1) は w の s−1 への作用を表している. 補題 2.3 の証明から
w(s−1) =
s−1, w ∈WE
InsI−1n , w ∈WE
である. 従って
λ(w) =
sη(w)s−1η(w)−1, w ∈WE
sη(w)InsI−1n η(w)−1, w ∈WE .
12
一方 λ(w) ∈ B1(WF , Z(G)) より, Z(G) = C× のある元 z があって λ(w) =
z−1w(z) となる. よって
λ(w) =
1, w ∈WE
z−2, w ∈WE ,
となる. 二つの式を比較すれば w ∈ WE のとき η(w) ∈ Gs となる. また WE は
G へ自明に作用するので, η|WE は Gs への準同型となることがわかる.
Step3
w ∈WE , x ∈ Z(H) に対して,
ξ(w(x)) = ξ(wxw−1) = ξ(w) · ξ(x) · ξ(w)−1
= η(w)⋊ w · ξ(x) · (η(w)⋊ w)−1
= η(w) · ξ(x) · η(w)−1
= ξ(x) (∵ η(w) ∈ Gs)
となる. 従って
ξ(Z(H)Γ) = ξ(Z(H)wσ )
である. また elliptic の定義から, ξ(Z(H)Γ)0 ⊂ Z(G)Γ = {±1} である. このこ
とから Z(H) = (C×)r の元 (z1, ..., zr) に対して, wσ((z1, ..., zr)) = (z−11 , ..., z−1
r )
とならなくてはいけない. 故にz−11 1n1
. . .
z−1r 1nr
= ξ((z−1
1 , ..., z−1r ))
= ξ(wσ((z1, ...zr)))
= ξ(wσ) · ξ((z1, ..., zr)) · ξ(wσ)−1
= η(wσ)⋊ wσ ·
z11n1
. . .
zr1nr
· (η(wσ)⋊ wσ)−1
= η(wσ)In
z−11 1n1
. . .
z−1r 1nr
I−1n η(wσ)
−1.
(z1, ..., zr)は Z(H) の任意の元なので, η(wσ)In ∈ Gs を得る.
13
Step4
z−2 = λ(wσ)
= sη(wσ)InsI−1n η(wσ)
−1
= s2 (∵ η(wσ)In ∈ Gs)
となる. 従って z がスカラーであることと, s の取り方から s2 = 1 となる. よっ
て si = ±1 となる. 故に r ≤ 2 となる. r = 1 のときは自明な endoscopic datum
が出てくるので, r = 2 とする. このとき s1 = −1, s2 = 1 であり,
ξ(LH) = ⟨Gs ⋊WE , η(wσ)⋊ wσ⟩ = ⟨Gs ⋊WE ,
(In1
In2
)I−1n ⋊ wσ⟩
となる. このことから, (H, s, ξ) は例 3.12 で m = n1 としたときの elliptic
endoscopic datum と同型である.
例 3.12と補題 3.13から U(2), U(3)の非自明な elliptic endoscopic datumは
同型を除いて唯一つしかない事がわかる. そこで U(2), U(3) の非自明な elliptic
endoscopic datum を次のように一つ固定しておく. まずは E× の準指標 µ0 で
F× への制限が自明になるものを一つ固定する.
U(2) のとき
H = U(1)×U(1), s =
(−1
1
),
ξ : LH ∋ (h1, h2)⋊ w −→
h1µ0(w)
h2µ−10 (w)
⋊ w, w ∈WE −h1h2
⋊ wσ, w = wσ.
U(3) のとき
H = U(2)×U(1), s =
(−12
1
),
ξ : LH ∋ (h1, h2)⋊ w −→
h1µ0(w)
h2
⋊ w, w ∈WE −h1h2
⋊ wσ, w = wσ.
14
3.4 Transfer
G = U(2), U(3) として, (H, s, ξ) を上で固定した elliptic endoscopic datum
とする. ここでは軌道積分の移行について説明する. まずは AH/G : Ost(H) →Ost(G) を定義しよう. 一般的な定義については [今野 1, 6.1] を見よ.
定義 3.14. E = F (δ), δ2 ∈ F× とする.
(i) G = U(2) のとき, h ∈ GL2(E) を h
(δ
−δ
)∗h = I2 を満たす元とする.
このとき準同型 Ad(h) : H(F ) ∋ (z1, z2) 7→ h
(z1
z2
)h−1 ∈ G(F ) が定ま
る. そこで
AH/G : Ost(H) ∋ Ost(γH) 7−→ Ost(Ad(h)(γH)) ∈ Ost(G)
とする. これは well-defined な写像で, δ, h の取り方に依存しない.
(ii) G = U(3) のとき, h ∈ GL3(E) を h
δ
−δ1
∗h = I3 を満たす元と
する. このとき準同型 Ad(h) : H(F ) ∋ (z1, z2) 7→ h
(z1
z2
)h−1 ∈ G(F ) が
定まる. そこで
AH/G : Ost(H) ∋ Ost(γH) 7−→ Ost(Ad(h)(γH)) ∈ Ost(G)
とする. これは well-defined な写像で, δ, h の取り方に依存しない.
定義 3.15. γH ∈ H(F )reg に対して, AH/G(Ost(γH)) が正則半単純元の安定共
役類となるとき, γH を G 正則という. H(F )G−reg を G 正則元からなる集合と
する. また AH/G(Ost(γH)) の元 γ に対して, γH を γ の像という*.
次に γH ∈ H(F )G−reg に対して, それを像とする γ を一つ取る. このとき
K(Tγ) の元 κ = κγ,γHを決める手順を述べる. ただし Tγ = Gγ とする. 同様に
TγH= HγH
とする. γ′ = Ad(h)(γH) は γ と安定共役なので, γ′ = g−1γg と書
ける. Tγ の Langlands 双対群を Tγ で表す. このとき Ad(g) は Tγ′ から Tγ へ
の同型を引き起こす. また同様に Ad(h) は TγHから Tγ′ への同型を引き起こす.
つまり,
Tγ′ ∼= Tγ , TγH∼= Tγ′
である. 従って TγHから Tγ への同型がある. よって ξ−1(s) ∈ Z(H) ⊂ TγH
の
Tγ での像が定まる. これは
K(Tγ) ∼= Coker(π0(Z(G)Γ)→ π0(Tγ
Γ))
∗γ を γH の像とは言わない.
15
の元 κ = κγ,γHを決める.
このようにして γH とそれを像とする γ から Jκ(γ) が定まるが, これはもち
ろん γ の取り方に依存する. しかし補題 3.9 から 定数倍を除けば γ の取り方に
依存しないことが証明できる. また δ, h の取り方にも依存しない.
さて我々のここでの目的は軌道積分の移行であった. それは Jst(γH) を Jκ(γ)
のある定数倍に写す線型写像
Span{Jst(γH) | γH ∈ H(F )G−reg} −→ I(G(F ))
で,定義域が SI(H(F ))に延びるものを構成することである. そのために Langlands-
Shelstad は transfer factor と呼ばれる関数 ∆H/G を導入した. 詳しくは [LS],
[今野 2, 2] を見てもらうとして, ここでは ∆H/G の性質と U(2) の場合の例だけ
を述べることにする.
∆H/G の性質
∆H/G : H(F )G−reg ×G(F )reg −→ C
(i) ∆H/G(γH , γ) = 0⇐⇒ γH は γ の像
(ii) γH と γ′H が安定共役なら ∆H/G(γH , · ) = ∆H/G(γ′H , · )
(iii) γ と γ′ が共役なら ∆H/G( · , γ) = ∆H/G( · , γ′)(iv) γ と γ′ が安定共役なら ∆H/G(γH , γ
′) = κγ,γH(inv(γ, γ′))∆H/G(γH , γ)
例 3.16. G = U(2), γH = (zz′, zσ(z′)), (z, z′ = x+ δy ∈ E×) を γ の像とする.
∆H/G(γH , γ) = λ(E/F, ψ)ωE/F (−z′ − σ(z′)
2δ)µ0(z
′)κ(inv(γ, ηH(γH)).
ただし ψ は F の非自明指標で, λ(E/F, ψ) は Langlands の λ 因子である. ま
た ηH(γH) = z
(x δ2y
y x
)とする.
このとき次の定理が成り立つ.
定理 3.17. ([R, 4.9]) C∞c (G(F )) の任意の元 f に対して, C∞
c (H(F )) のある元
fH があって,
Jst(γH , fH) =
∑γ
∆H/G(γH , γ)J(γ, f),∀γH ∈ H(F )G−reg
が成り立つ.
この定理から H の各安定超関数 J に対して, G の不変超関数 TranGH(J) を
TranGH(J)(f) := J(fH)
により定めることが出来る. 従って線型写像
TranGH : SI(H(F )) −→ I(G(F ))
が得られ, 我々の目的を満たす線型写像ができた.
16
4 ユニタリ群の係数制限 U(n)
ここではユニタリ群の係数制限 U(n) を定義し, その L 群等を計算する.
まず F 上の連結簡約代数群 U(n) を
F 代数 R に対して, U(n)(R) = {g ∈ GLn(E ⊗ E ⊗R) | gIn∗g = In}
により定義する. ただし ∗g = σ ⊗ idE ⊗ idR(tg) である. 従って
U(n) := ResE/F U(n) ( ∼= ResE/F GLn)
である. また idE ⊗σ ⊗ idR は U(n) 上の位数 2 の F 自己同型を引き起こす. こ
れを ε と表すことにする. 以下 G = U(n) とする.
まず G(F ) について考える. 補題 2.1 で F を E に変えることで, 同型
E ⊗ E ∼= E ⊕ E を得る. よって
GLn(E ⊗ E) ∼= GLn(E)×GLn(E)
を得る. また左辺の自己同型 σ ⊗ idE , idE ⊗σ を右辺に写すと,
σ ⊗ idE(g, g′) = (g′, g),
idE ⊗σ(g, g′) = (σ(g′), σ(g))
となる. よって G(F ) の GLn(E) ×GLn(E) での像は, (g, Intg−1I−1
n ) からなる
部分群に一致する. 従って G(F ) は GLn(E) に同型である. またそのとき自己同
型 ε は
ε(g) = Inσ(tg)−1I−1
n , g ∈ GLn(E)
と書ける.
次に G(F ) を求めよう.
補題 4.1. (i) E⊗E⊗F ∋ a⊗b⊗c 7→ (abc, σ(a)bc, aσ(b)c, σ(ab)c) ∈ F⊕F⊕F⊕Fは同型を引き起こす.
(ii) E ⊗E ⊗ F 上の Gal(E/F )×Gal(E/F )×Gal(F/F ) の作用を右辺に移すと
次のように書ける.
σ ⊗ idE ⊗ idR(x, y, z, w) = (y, x, w, z),
idE ⊗σ ⊗ idR(x, y, z, w) = (z, w, x, y),
idE ⊗ idE ⊗τ(x, y, z, w) =
(τ(x), τ(y), τ(z), τ(w)), τ ∈ Gal(F/E)
(τ(w), τ(z), τ(y), τ(x)), τ /∈ Gal(F/E).
17
系 4.2. (i) 補題 4.1 (i) の同型から次の同型が引き起こされる.
GLn(E ⊗ E ⊗ F ) ∼= GLn(F )×GLn(F )×GLn(F )×GLn(F )
(ii) GLn(E ⊗E ⊗ F ) 上の Gal(E/F )×Gal(E/F )×Gal(F/F ) の作用を右辺に
移すと補題 4.1 (ii) と同じ式が得られる.
上の系から GLn(E ⊗ E ⊗ F ) での等式 gIn∗g = In の GLn(F )×GLn(F )×
GLn(F )×GLn(F ) での像は,
(g1, g2, g3, g4)(In, In, In, In)(tg2,
tg1,tg4,
tg3) = (In, In, In, In)
と書ける. 従って G(F ) の GLn(F )×GLn(F )×GLn(F )×GLn(F ) での像は,
(g1, Intg−1
1 I−1n , g3, In
tg−13 I−1
n )
からなる部分群に一致する. これは第一成分と第三成分の射影により GLn(F )×GLn(F ) に同型となる. 以上により G(F ) ∼= GLn(F )×GLn(F ) であることがわ
かった.
G(F )ss,ε を G(F ) の ε-半単純元の集合とする. さらに G(F ) の ε-正則半単
純元の集合を G(F )reg,ε とする ([若槻, 6]). δ ∈ G(F ) に対して, Gδε = {g ∈G | g−1δε(g) = δ} を ε-中心化群という. このとき ε-正則半単純であることと, ε-
中心化群がトーラスになることは同値である.
次に L 群を求めよう. まず G の Borel 部分群 Bn を右上三角行列からなる部
分群とし,極大トーラス Tn を対角行列のなす部分群とする. そのようにして Borel
pair (Bn, Tn) を固定する. 上の同型で Bn(F ) と Tn(F ) は, GLn(F ) × GLn(F )
の右上三角行列からなる部分群と対角行列からなる部分群に同型になるので, 同
一視しておく. このとき G の based root datum が次のように与えられる.
X∗(Tn) =⊕i
Zϵi ⊕⊕j
Zϵ′j ,
ϵi(diag(t1, ..., tn), diag(t′1, ..., t
′n)) = ti,
ϵ′j(diag(t1, ..., tn), diag(t′1, ..., t
′n)) = t′j ,
∆ = {αi := ϵi − ϵi+1 , βj := ϵ′j − ϵ′j+1 | 1 ≤ i, j ≤ n− 1}.
ただし X∗(Tn),∆∨ は省略する. 以上のことから G の Langlands 双対群 ˆG は
GLn(C)×GLn(C) となる. またこの based root datum への Γ と ε の作用は
τ(ϵi) =
ϵi, τ ∈ Gal(F/E)
−ϵ′n−i+1, τ /∈ Gal(F/E),
18
τ(ϵ′j) =
ϵ′j , τ ∈ Gal(F/E)
−ϵn−j+1, τ /∈ Gal(F/E),
ε(ϵi) = ϵ′i , ε(ϵ′j) = ϵj
で与えられる. 次に GLn(C) × GLn(C) の Borel 部分群 Bn を右上三角行列か
らなる部分群とし, 極大トーラス Tn を対角行列のなす部分群として, Borel pair
(Bn, Tn) を固定する. そのとき GLn(C) × GLn(C) の based root datum と G
の based root datum の双対には明らかな同型がある. その同型を通して Γ は
GLn(C) × GLn(C) の based root datum へ作用する. Xi を (i, i + 1) 成分が 1
で他が 0 となる n× n 行列とすると {Xi × 0, 0×Xi} は GLn(C)×GLn(C) のルートベクトルの集合をなす. 以上により GLn(C)×GLn(C) の分裂が一つ固定される.
補題 4.3. G の L 群は次のように与えられる.
LG = (GLn(C)×GLn(C))⋊WF ,
(g1, g2)⋊ w · (g′1, g′2)⋊ w′ =
(g1g′1, g2g
′2)⋊ ww′, w ∈WE
(g1Intg′−1
2 I−1n , g2In
tg′−11 I−1
n )⋊ ww′, w /∈WE .
また ε から得られる ˆG の外部自己同型で, 上の分裂を保つ ˆG の自己同型を ε と
すると
ε(g1, g2) = (g2, g1)
となる.
5 Twisted endoscopy
ここでは [R] の 3章, 4章に従って, GLn(E) の twisted endoscopy について解
説する. 一般の場合の twisted endoscopy については [KS] を見よ.
5.1 安定 ε-共役
ここでは安定 ε-共役とひねり付き安定軌道積分を定義する. G, ε は 4章の通
りとする.
G(F ) の元 δ, δ′ が ε-共役であるとは,
∃g ∈ G(F ) s.t. δ′ = g−1δε(g)
となることである. このとき δ ∼ε δ′ と表す. そして G(F ) の元 δ, δ′ が安定 ε-
共役であるとは,
∃g ∈ G(F ) s.t. δ′ = g−1δε(g)
19
となることである. このとき δ ∼ε−st δ′ と表す. また δ の ε-安定共役類を
Oε−st(δ) := {δ′ ∈ G(F ) | δ′ ∼ε−st δ}/ ∼ε
で定義する. G(F ) の ε-半単純元 δ の ε-安定共役類 Oε−st(δ) たちのなす集合を
Oε−st(G) と表す.
補題 3.2 と同様にこの Oε−st(δ) はガロアコホモロジーを用いて記述できる.
補題 5.1. Oε−st(δ) ∼= Ker(H1(F, Gδε)→ H1(F, G)).
ここで Shapiro の補題と Hilbert の定理 90 からH1(F, G) ∼= H1(E,GLn) =
{1} となる. 従って Oε−st(δ) ∼= H1(F, Gδε) である.
以下 δ を ε-正則半単純とする. つまり T = Gδε がトーラスの場合を考え
る. このとき Dε(T ) := H1(F, T ) は群である. δ′ ∈ Oε−st(δ)のDε(T ) での像を
inv(δ, δ′) と表すことにする. そして Kε(T ) = Dε(T )D とする.
定義 5.2. κ ∈ Kε(T ), φ ∈ C∞c (G(F )) に対して,
Jκε (δ, φ) :=
∑[δ′]∈Oε−st(δ)
κ(inv(δ, δ′))Jε(δ′, φ) ひねり付き κ 軌道積分
Jstε (δ, φ) :=
∑[δ′]∈Oε−st(δ)
Jε(δ′, φ) ひねり付き安定軌道積分
ただし Jε(δ) は捻られた軌道積分である ([若槻, 6]).
5.2 Twisted endoscopic data
ここでは twisted case の endoscopic datum について述べる. ここでも G, ε
は 4章の通りとする.
定義 5.3. 次の五つの条件を満たすとき, (H, s, ξ) を (G, ε) の endoscopic datum
という.
(i) H は F 上の連結準分裂代数群である.
(ii) s は ˆG の ε-半単純元である.
(iii) ξ : LH → LG は WF 上の準同型である.
(iv) ξ は H から ( ˆGsε)0 への同型を引き起こす.
(v) λ(w) := sε(ξ(w))s−1ξ(w)−1 ∈ B1(WF , Z(ˆG))
さらに endoscopic datum (H, s, ξ) が ξ(Z(H)Γ)0 ⊂ Z(G)Γ を満たすとき
elliptic であるという.
また二つの endoscopic data (H, s, ξ) と (H ′, s′, ξ′) が同型であるとは, ある
g ∈ G があって gξ(LH)g−1 = ξ′(LH ′), gsε(g)−1s′−1 ∈ Z(G) が成り立つことである.
20
例 5.4. H = G, s = 1, ξ : LG ∋ g ⋊ w 7→ (g, g)⋊ w ∈ LG としたとき, これは
(G, ε) の elliptic endoscopic datum になる.
注意 5.5. 補題 3.13 と同じ方法で (G, ε) の elliptic endoscopic datum は分類で
きる. 詳しくは [R, 4.7] を見よ.
5.3 Twisted transfer
ここでは G = U(2), U(3) とする.
命題 5.6. ([R, 3.10])
(i) G(F )ss,ε の各元 δ に対して, N(δ) := δε(δ) は G(E)ss にはいる.
(ii) G(F )ss,ε の各元 δ に対し, G(F )ss の元 γ があって γ と N(δ) は G(F ) 共役
となる.
(iii) N : Oε−st(G) ∋ Oε−st(δ) 7→ Ost(γ) ∈ Ost(G) は全単射となる.
N : Oε−st(G)→ Ost(G) をノルム写像という. また上のような γ を δ のノル
ムと呼ぶ.
定理 5.7. ([R, 4.10, 4.11]) C∞c (G(F )) の任意の元 φ に対して, C∞
c (G(F )) の
ある元 φG があって次の等式が成り立つ.
Jstε (δ, φ) = Jst(γ, φG), ∀δ ∈ G(F )reg,ε, ∀γ ∈ G(F )ss δのノルム.
6 U(n) の L-parameter
6.1 L-parameter
ここでは L-parameter に関連することを復習する (他には [三枝] などを参照せ
よ). G は F 上の連結簡約代数群とする.
定義 6.1. 次の二つの条件を満たすとき, ϕ : LF → LG を G の L-parameter と
呼ぶ.
(1) ϕ は WF 上の連続準同型である.
(2) LFϕ−→ LG
proj.−→ G での WF の像は半単純元からなる.
ただし LF =WF × SU2(R), SU2(R) = {g ∈ SL2(C) | gtg = 12} である.
L-parameter の同値関係を次のように定める.
ϕ ∼ ϕ′def⇐⇒ ∃g ∈ G s.t. ϕ′ = Ad(g)ϕ.
さらに Φ(G) を G の L-parameter の同値類の集合とする.
21
定義 6.2. ϕ ∈ Φ(G) に対して Sϕ = CentG(Imϕ), Sϕ = π0(Sϕ/Z(G)Γ) とする.
後で U(1), U(2), U(3) の L-parameter を分類するために, いくつかの定義と
補題を準備する. 以下 G = U(n) とする.
定義 6.3. SU2(R) は同型を除いて r 次元既約表現を唯一つ持つ. それを ρr と
書く.
G の L-parameter ϕ に対して, 準同型 ϕE : LE → GLn(C) を
LE
ϕ|LE−→ LGproj.−→ GLn(C)
により定める. このとき ϕE は GLn(E) の L-parameter と同一視でき, LE の完
全可約 n 次元表現となる. 従って
ϕE =⊕i
τi ⊠ ρni , τi ∈ IrrWE , (n =∑i
ni dim τi)
と書ける. ただし, IrrWE は WE の既約有限次元表現の同型類の集合である. ま
た ϕ(wσ) = X ⋊ wσ とすると, ϕ は組 (ϕE , X) で決まる.
補題 6.4. ϕE : LE → GLn(C) を GLn(E)の L-parameter とし, さらに X を
GLn(C) の半単純元とする. このとき組 (ϕE , X) が G の L-parameter から得ら
れるための必要十分条件は次の二つの条件を満たすことである.
(i) XIn は LE 同型tϕ−1
E∼= ϕE ◦Ad(wσ)を与える. つまり
ϕE ◦Ad(wσ)(l) = XIn · tϕ−1E (l) · I−1
n X−1, l ∈ LE
が成り立つ.
(ii) ϕE(w2σ) = XIn
tX−1I−1n が成り立つ.
補題 6.5. ϕE : LE → GLn(C) を LE の既約 n 次元表現とする. さらに ϕE ◦Ad(wσ) ∼= tϕ−1
E と仮定する.
(i) ある X ∈ GLn(C) があって ϕE ◦Ad(wσ) = XIntϕ−1
E I−1n X−1 が成り立つ. こ
のような X はスカラー倍を除いて一意である.
(ii) ϕE(w2σ) = c(ϕE)XIn
tX−1I−1n となる c(ϕE) ∈ {±1} がある.
(iii) c(ϕE) = 1 のとき ϕE は G の L-parameter に同値を除いて一意に延びる.
c(ϕE) = −1 のとき ϕE は G の L-parameter に延びない.
(iv) ϕE は G の L-parameter ϕ に延びるとする. そのとき Sϕ = {1} である.
証明. (i) これは Schurの補題から明らか.
22
(ii) (i) より l ∈ LE に対して
ϕE(w2σ)ϕE(l)ϕE(w
2σ)
−1 = ϕE(w2σlw
−2σ )
= XIntϕE(wσlw
−1σ )−1I−1
n X−1
= XInt(XIn
tϕE(l)−1I−1
n X−1)−1I−1n X−1
= XIntX−1tI−1
n ϕE(l)tIn
tXI−1n X−1
= (XIntX−1I−1
n )ϕE(l)(XIntX−1I−1
n )−1.
従って Schur の補題から ϕE(w2σ) = c(ϕE)XIn
tX−1I−1n となるスカラー c(ϕE)
がある. ここで (i) に w = w2σ を代入すると c(ϕE)
2 = 1 がわかる.
(iii) ϕE が G の L-parameter ϕ に延びるとする. このとき ϕ(wσ) = X ⋊ wσ と
すれば, この X は (i) の等式を満たす. さらに
ϕE(w2σ)⋊ w2
σ = ϕ(wσ)2 = XIn
tX−1I−1n ⋊ w2
σ
から c(ϕE) = 1 となる. 逆に c(ϕE) = 1 のとき, ϕ(wσ) = X ⋊ wσ とすれ
ば補題 6.4 から ϕ は G の L-parameter に延びる. またスカラー α に対して,
Ad(α) ◦ ϕ(wσ) = α2X ⋊ wσ となるので, X の取り方は ϕ の同値類を変えない.
(iv) まず Z(G) = C×, Z(G)Γ = {±1}である. さらに
Sϕ = CentG(ImϕE) ∩ CentG(ϕ(wσ))
= Z(G) ∩ CentG(ϕ(wσ))
= {z ∈ Z(G) | zϕ(wσ)z−1 = ϕ(wσ)}
= {±1}.
従って Sϕ = {1} を得る.
定義 6.6.
IrrWE,ε := {ϕE ∈ IrrWE | ϕE ◦Ad(wσ) ∼= tϕ−1E },
IrrWE,ε,+ := {ϕE ∈ IrrWE,ε | c(ϕE) = 1},
IrrWE,ε,− := {ϕE ∈ IrrWE,ε | c(ϕE) = −1}.
ただし IrrWE の元 ϕE は SU2(R) 上自明になるように LE へ延ばし, c(ϕE) を
定めている.
6.2 U(1) の L-parameter
GL1(F ) = F× の L-parameter の同値類の集合 Φ(F×) は WF の準指標の集
合と同一視できる. また F× の準指標の集合を Π(F×) とすると局所類体論から
23
Π(F×) ∼= Φ(F×) を得る ( [原下, 系 1.9] を参照). 同じことが Π(E×) に対しても
成り立つ.
次に U(1) の L-parameter について考える. まず χ ∈ Π(F×) に対して, E×
の準指標で F× への制限が χ になるもの全体を Π(E×, χ) と表すことにする.
補題 6.7. E×/F× ∋ [z] 7→ z/σ(z) ∈ U(1)(F ) は同型である.
証明. これは Hilbert の定理 90 である.
この補題から Π(E×, 1F×) ∼= Π(U(1)) となる. ただし Π(U(1)) は U(1)(F ) の
準指標の集合を表す. そこで η ∈ Π(E×, 1F×) の Π(U(1)) での像を ηu と表すこ
とにする.
補題 6.8. χ ∈ Π(E×) とする. また χ に対応する Φ(E×) の元を χ′ とする.
(i) χ ◦ σ = χ−1 であることと, χ′ ◦Ad(wσ) = χ′−1 であることは同値である.
(ii) (i) のとき, χ|NE/F (E×) = 1 となる. さらに χ′(w2σ) = ±1 である.
(iii) (i) のとき, χ′(w2σ) = 1 ならば χ|F× = 1 となる. また χ′(w2
σ) = −1 ならばχ|F× = ωE/F となる.
証明. これは [T, p.4] にある三つの可換図式から従う.
補題 6.9. Φ(E×)ε,+ := {χ′ ∈ Φ(E×) | χ′ ◦Ad(wσ) = χ′−1, χ′(w2σ) = 1} とする.
(i) Φ(U(1)) ∋ ϕ 7→ ϕE ∈ Φ(E×)ε,+ は全単射である.
(ii) Π(E×, 1F×) ∋ χ 7→ χ′ ∈ Φ(E×)ε,+ は全単射である.
証明. (i) これは補題 6.5 で n = 1 とすればよい.
(ii) これは補題 6.8 から従う.
これらの結果を組み合わせて,
Π(U(1)) ∼= Φ(U(1))
を得る.
6.3 U(2) の L-parameter
U(2)の L-parameter ϕ を分類しよう. ϕ(wσ) = X ⋊wσ とする. 以下では局所
類体論により E× の準指標と WE の準指標を同一視する.
(1) ϕ|SU2(R) = 1 のとき
このとき ϕE はある χ ∈ Π(E×) があって, ϕE = χ ⊠ ρ2 と書ける. この場合を
CaseA と呼ぶことにする. 同値で取り替えて,
ϕE : LE ∋ w ×
(a b
c d
)7−→ χ(w)
(a b
c d
)∈ GL2(C)
24
としておく.
CaseA
補題 6.10. (i) X はスカラーである. さらに χ|F× = 1 となる.
(ii) CaseA の L-parameter ϕ の同値類は ϕE で決まる.
(iii) 各 χ ∈ Π(E×, 1F×) に対して同値を除いて唯一つ L-parameter ϕ があって,
ϕE = χ⊠ ρ2 をみたす.
(iv) Sϕ = {1} となる.
証明. (i) g を SU2(R) の任意の元とする. ϕE(wσgw−1σ ) = ϕE(g) より X ⋊
wσ · g · (X ⋊ wσ)−1 = g となる. よって XI2
tg−1I−12 X−1 = g となるが, 左辺は
XgX−1 に等しいので, X はスカラーでなくてはいけない. これから前半が従う.
次に後半を示す. w ∈WE とする.
χ(wσww−1σ )⋊ wσww
−1σ = ϕ(wσww
−1σ )
= X ⋊ wσ · χ(w)⋊ w · (X ⋊ wσ)−1
= XI2χ(w)−1I−1
2 X−1 ⋊ wσww−1σ
= χ(w)−1 ⋊ wσ.
従って χ(wσww−1σ ) = χ(w)−1を得る. 後は補題 6.6 から χ(w2
σ) = 1 を示せばよ
い. これは
χ(w2σ)⋊ w2
σ = ϕ(w2σ)
= (X ⋊ wσ)2
= XI2tX−1I−1
2 ⋊ w2σ
= 1⋊ w2σ
よりいえる.
(ii)(iii)(iv) これらは ϕE = χ ⊠ ρ2 としたとき, c(ϕE) = 1 を示せば, 補題 6.5 か
ら従う. ϕE ◦ Ad(wσ) = Intϕ−1
E I−1n が成り立つので X = 1 と取れる. よって
c(ϕE) = 1 である.
(2) ϕ|SU2(R) = 1 のとき
このとき ϕ = ϕ|WF:WF → LG としてよい. さらに ϕE :WE → GL2(C)は完全
可約な 2 次元表現である. 従って次の Caseに分けることが出来る.
CaseB ϕE は既約 2 次元表現,
CaseC ϕE は 2 つの 1 次表現の直和.
25
CaseB
このとき補題 6.5 から ϕ は IrrWE,ε,+ に入る 2 次元表現と一対一に対応して
いる.
CaseC
このとき ϕE = χ1 ⊕ χ2 と書ける. そこで同値で取り替えて,
ϕE :WE ∋ w 7−→
(χ1(w)
χ2(w)
)∈ GL2(C)
とする. また補題 6.4 (ii) から ϕE ◦Ad(wσ) ∼= tϕ−1E であったので, χ1 ◦Ad(wσ)⊕
χ2 ◦ Ad(wσ) ∼= χ−11 ⊕ χ
−12 を得る. 従って CaseC はさらに細かく分ける事が出
来る.
CaseC1 χ1 = χ2 かつ χ2 = χ−11 ◦ σ,
CaseC2 χ1 = χ2 かつ χi = χ−1i ◦ σ (i = 1, 2),
CaseC3 η = χ1 = χ2 ただし η ∈ Π(E×, 1F×),
CaseC4 µ = χ1 = χ2 ただし µ ∈ Π(E×, ωE/F ).
CaseC1
補題 6.11. (i) X は対角行列である.
(ii) CaseC1 の L-parameter ϕ の同値類は ϕE で決まる.
(iii) 任意の χ ∈ Π(E×), (χ = χ−1 ◦σ) に対して同値を除いて唯一つ L-parameter
ϕ があって, ϕE = χ⊕ χ−1 ◦ σ を満たす.
(iv) Sϕ = {1}である.
証明. (i) 補題 6.4(ii) から w ∈WE に対して,(χ1(wσww
−1σ )
χ2(wσww−1σ )
)= XI2
(χ1(w)
−1
χ2(w)−1
)I−12 X−1
が成り立つ. 従って χ1 = χ2 かつ χ2 = χ−11 ◦ σ から XI2 は反対角行列になる.
よって X は対角行列である.
(ii) ϕ′ を G の L-parameter で, ϕ′E = ϕE = χ1 ⊕ χ2 を満たすとする. さら
に ϕ′(wσ) = X ′ ⋊ wσ とする. このとき (i) から X ′ も対角行列である. 従
ってある α, β ∈ C× があって X ′ =
(α2
β2
)X となる. このとき ϕ′ =
26
Ad(
(α
β
)) ◦ ϕとなり (ii) が従う.
(iii) このとき X = 12 とすれば, 組 (ϕE , 12) は補題 6.4 から G の L-parameter
に延びる. また一意性は (ii) から従う.
(iv) これは省略する.
残りの Case も同様の方法で証明できるので, 以下では結果だけを書く.
CaseC2
(i) χi|F× = ωE/F , (i = 1, 2) である. また X は反対角行列になる.
(ii) CaseC2 の L-parameter ϕ の同値類は ϕE で決まる.
(iii) 任意の µ1 = µ2 ∈ Π(E×, ωE/F ) に対して同値を除いて唯一つ L-parameter
ϕ があって, ϕE = µ1 ⊕ µ2 を満たす.
(iv) Sϕ ∼= Z/2Z である.
CaseC3
(i) XI2 は交代行列になる.
(ii) CaseC3 の L-parameter ϕ の同値類は ϕE で決まる.
(iii) 任意の η ∈ Π(E×, ωE/F ) に対して同値を除いて唯一つ L-parameter ϕ が
あって, ϕE = η ⊕ η を満たす.
(iv) Sϕ = {1} である.
CaseC4
(i) XI2 は対称行列になる.
(ii) CaseC4 の L-parameter ϕ の同値類は ϕE で決まる.
(iii) 任意の µ ∈ Π(E×, ωE/F ) に対して同値を除いて唯一つ L-parameter ϕ が
あって, ϕE = µ⊕ µ を満たす.
(iv) Sϕ ∼= Z/2Z である.
以上により U(2) の L-parameter の分類が出来た. まとめると以下のように
なる.
命題 6.12. Φ(U(2)) ∋ ϕ 7→ ϕE ∈ Φ(GL2(E)) は単射である.
ϕ ϕE SϕCaseA η ⊠ ρ2 η ∈ Π(E×, 1F×) {1}CaseB ϕE IrrWE,ε,+ に入る 2 次元表現 {1}CaseC1 χ⊕ χ−1 ◦ σ χ = χ−1 ◦ σ ∈ Π(E×) {1}CaseC2 µ1 ⊕ µ2 µ1 = µ2 ∈ Π(E×, ωE/F ) Z/2ZCaseC3 η ⊕ η η ∈ Π(E×, 1F×) {1}CaseC4 µ⊕ µ µ ∈ Π(E×, ωE/F ) Z/2Z
27
6.4 U(3) の L-parameter
次に U(3) の L-parameter の分類を考える. ただし証明は U(2) の場合とほと
んど同じなので場合分けと結果のみを載せておく.
CaseA ϕ|SU2(R) は既約 3 次元表現,
CaseB ϕ|SU2(R) は既約 2 次元表現と単位表現の直和,
CaseC ϕE は WE の既約 3 次元表現,
CaseD ϕE は WE の既約 2 次元表現と 1 次表現の直和,
CaseE ϕE は WE の 3つの 1 次表現の直和.
命題 6.13. Φ(U(3)) ∋ ϕ 7→ ϕE ∈ Φ(GL3(E)) は単射である.
ϕ ϕE SϕCaseA η ⊠ ρ3 η ∈ Π(E×, 1F×) {1}CaseB µ⊠ ρ2 ⊕ η µ ∈ Π(E×, ωE/F ), η ∈ Π(E×, 1F×) Z/2ZCaseC ϕE IrrWE,ε,+ に入る 3 次元表現 {1}CaseD τ ⊕ η τ ∈ IrrWE,ε,−, η ∈ Π(E×, 1F×) Z/2ZCaseE1 η1 ⊕ η2 ⊕ η3 ηi ∈ Π(E×, 1F×), ηi = ηj (Z/2Z)2
CaseE2 χ⊕ η ⊕ χ−1 ◦ σ χ = χ−1 ◦ σ ∈ Π(E×), η ∈ Π(E×, 1F×) {1}CaseE3 η1 ⊕ η2 ⊕ η1 η1 = η2 ∈ Π(E×, 1F×) Z/2ZCaseE4 µ⊕ η ⊕ µ µ ∈ Π(E×, ωE/F ), η ∈ Π(E×, 1F×) {1}CaseE5 η ⊕ η ⊕ η η ∈ Π(E×, 1F×) {1}
7 Endoscopic description
ここでは [R] の 11章, 12章, 13章, に従って U(2), U(3) の既約表現の endo-
scopic description について解説する.
7.1 L-packet の構成方法
G = U(n), (n = 2, 3) とする. 3.1 より G(F ) と GLn(E) を同一視しておく.
そして GLn(E) の ε-安定な既約許容表現全体の集合を IrrGLn(E)ε と表す. こ
のとき各 π ∈ IrrGLn(E)ε に対して, 捻られた指標 Θε(π) が定義できた [若槻, 6].
また命題 6.12 , 6.13 と GLn の局所 Langlands 対応 LC ( [三枝]を参照 ) から
Φ(G) ↪→ Φ(GLn(E))LC∼= IrrGLn(E)
という単射を得る. この写像の像は IrrGLn(E)εに入る. よってその像を IrrGLn(E)ε,+
と表すことにしよう.
28
さて, ここでの目的は L-packet の構成方法を述べることである. そのために
はファイバーが有限の全射写像
IrrG(F ) −→ Φ(G)
の構成方法を考えなくてはいけない. しかし上の考察から, これはファイバーが
有限の全射写像
IrrG(F ) −→ IrrGLn(E)ε,+
を構成するということに置き換えられる. そこでこの構成したい写像を BC と書
くことにしよう. BC は base change の略称である. 元々の目的は, G(F ) の既
約許容表現から L-parameter への対応をつくることだったが, この考察により,
G(F ) の既約許容表現から GLn(E) の既約許容表現への対応をつくることに帰着
された. そこでその対応 BC を構成するため, 次の定義を考える.
定義 7.1. (i) IrrG(F ) の有限部分集合 Π に対して,
Θ(Π) :=∑π∈Π
Θ(π)
と定義する.
(ii) IrrG(F ) の有限部分集合 Π と GLn(E) の ε-安定な既約許容表現 π に対して,
Θ(Π)(φG) = Θε(π)(φ),∀φ ∈ C∞
c (GLn(E))
となるとき, 指標等式が成り立つという. このとき ΠCI←→ π と表すことにする.
さらにこのとき各 π ∈ Π に対して, π = BC(π) と定義する.
しかし, この方法だけで写像 BC が完全に定義できる訳ではない. 実際一部の
非緩増加表現に対しては指標等式は成り立たない. その場合どのように定義する
かは 7.2, 7.3 で具体的に述べることにする.
ϕ を G の L-parameter, π = LC(ϕE) とし, もし π に対して上の定義 (ii) を
満たす Π があれば, これが ϕ に付随する L-packet になる.
7.2 U(2) の endoscopic description
ここでは G = U(2)とする. まずは誘導表現の指標等式について述べる. GL2(E)
の誘導表現については [阿部], [近藤] などを参照せよ. U(2)(F ) の誘導表現につい
ては [成田, 命題 7.4] を見よ.
定理 7.2. χ ∈ Π(E×) とする. このとき
IGB2(χ)
CI←→ χ× χ−1 ◦ σ.
29
この定理から χ× χ−1 ◦ σ が既約ならば, IGB2(χ) の各既約部分商の BC での
像は χ× χ−1 ◦ σ となる.
次に χ×χ−1◦σが既約でないときを述べる. これは χ = χ′| |±12
E かつ χ′|NE/F (E×) =
1 と同値である. このとき
JH(χ× χ−1 ◦ σ) = {⟨{χ′| |−12
E , χ′| |12
E}⟩t, χ′ ◦ det}
である.
χ′ = η, (η ∈ Π(E×, 1F×)) のときを述べる. このとき
JH(IGB2(η| |
12
E)) = {StG(η), ηu ◦ det}
である. そして次の指標等式が成り立つ.
定理 7.3.
StG(η)CI←→ ⟨{η| |−
12
E , η| |12
E}⟩t,
ηu ◦ detCI←→ η ◦ det .
従って StG(η) の BC での像は ⟨{η| |−12
E , η| |12
E}⟩t となり, ηu ◦ det の像はη ◦ det となる.
最後に χ′ = µ, (µ ∈ Π(E×, ωE/F )) のときを考える. 定理 7.2 から
IGB2(µ| |
12
E)CI←→ µ| |
12
E × µ| |− 1
2
E
が成り立つが, 左辺の表現は既約な非緩増加表現で, 右辺の表現は既約ではない.
そこで右辺の既約な非緩増加部分商表現である µ ◦ det を対応させる. つまり
IGB2(µ| |
12
E) の BC での像は µ ◦ det と定義する. この場合, 指標等式は成り立た
ない.
定理 7.4. (i) CaseB の任意の L-parameter ϕ に対して, G(F ) の既約超カスプ
表現 π があって, πCI←→ LC(ϕE) が成り立つ.
(ii) CaseC2 の任意の L-parameter ϕ に対して, G(F ) の二つの既約超カスプ表現
π1, π2 があって, {π1, π2}CI←→ LC(ϕE) が成り立つ.
この場合の表現に対しても, 指標等式を使って BC を定める. 以上により
well-definedなファイバーが有限な全射写像
BC : IrrG(F ) −→ IrrGL2(E)ε,+
が定まる. まとめると次の表になる. 記号は 6.3の表と同じである. ただし CaseC1
30
はさらに細かく分かれる.
ϕ ϕE π = LC(ϕE) BC での逆像
CaseA η ⊠ ρ2 ⟨{η| |−12
E , η| |12
E}⟩t StG(η)
CaseB ϕE 既約超カスプ表現 π
CaseC1a χ⊕ χ−1 ◦ σ χ× χ−1 ◦ σ IGB2(χ)
(χ ◦NE/F = | |±1)
CaseC1b η| |12
E ⊕ η| |− 1
2
E η ◦ det ηu ◦ detCaseC1c µ| |
12
E ⊕ µ| |− 1
2
E µ ◦ det IGB2(µ| |
12
E)
CaseC2 µ1 ⊕ µ2 µ1 × µ2 π1, π2
CaseC3 η ⊕ η η × η IGB2(η)
CaseC4 µ⊕ µ µ× µ π(µ)±
L-parameter ϕ に付随する L-packet を Πϕ と表す. また Π(G) を G の
L-packet の集合とする.
系 7.5. 任意の L-parameter ϕ に対して, #Sϕ = #Πϕ が成り立つ.
以上のようにして, G の L-packet が定まったが, これは G の既約許容表現の
集合の完全な記述を与えていない. 例えば CaseC2 に対応する L-packet は 2 個
の元からなり, 今の時点では, π1, π2 の区別はない.
そこで standard endoscopy を用いて, その区別を与える. 固定していた en-
doscopic datum (H, s, ξ) の ξ は写像 Π(H) ∋ Πϕ 7→ Πξ◦ϕ ∈ Π(G) を定める*. こ
の写像もまた ξ : Π(H)→ Π(G) と表すことにする.
定理 7.6. Π ∈ Π(G) に対して,
#Π = 2⇔ Π ∈ Im ξ.
さらにこのとき Π = ξ(θ1 ⊠ θ2), (θi ∈ Π(U(1))) とすると, Π の元 π1, π2 が,
Θ(π1)−Θ(π2) = TranGH(Θ(θ1 ⊠ θ2))
という式で番号付けできる.
7.3 U(3) の endoscopic description
G = U(3) とする. まずは誘導表現の指標等式について述べる. ただし GL3(E)
の誘導表現については [阿部], [近藤] などを参照せよ. そして U(3)(F ) の誘導表
現については [成田, 命題 7.5] を見よ.∗Π(H) = Π(U(1))×Π(U(1)) とする.
31
定理 7.7. χ ∈ Π(E×), η ∈ Π(E×, 1F×) とする. このとき
IGB3(χ⊠ ηu)
CI←→ χ× η × χ−1 ◦ σ.
この定理から χ × η × χ−1 ◦ σ が既約ならば IGB3(χ ⊠ ηu) の各既約部分商の
BC での像は χ× η × χ−1 ◦ σ となる.
次に χ× η × χ−1 ◦ σ が既約でないときを述べる. これは次の (1) または (2)
が成り立つことと同値である.
(1) χ = η| |±1E , (η ∈ Π(E×, 1F×) )
(2) χ = χ′| |±12
E , (χ′|NE/F (E×) = 1)
(1) のとき
JH(η| |−1E × η × η| |E) = {⟨{η| |
−1E , η, η| |E}⟩t, η ◦ det}.
JH(IGB3(η ⊠ ηu)) = {StG(η), ηu ◦ det}.
定理 7.8.
StG(η)CI←→ ⟨{η| |−1
E , η, η| |E}⟩t,
ηu ◦ detCI←→ η ◦ det .
従って StG(η) の BC での像は ⟨{η| |−1E , η, η| |E}⟩t となり, ηu ◦ detの像は
η ◦ det となる.
(2) のとき
JH(χ′| |−12
E × η × χ′| |12
E) = {⟨{χ′| |−
12
E , χ′| |12
E}⟩t × η, χ′ ◦ det× η}
まず χ′ = µ, (µ ∈ Π(E×, ωE/F )) のときを述べる. このとき
JH(IGB3(µ| |
12
E ⊠ ηu)) = {π2(µ, η), πnt(µ, η)}
となる.
定理 7.9. G(F ) のある既約超カスプ表現 πsc(µ, η) があって
{π2(µ, η), πsc(µ, η)} CI←→ ⟨{µ| |−12
E , µ| |12
E}⟩t × η.
従って {π2(µ, η), πsc(µ, η)} の BC での像は ⟨{µ| |−12
E , µ| |12
E}⟩t× η となる. そ
して残った既約非緩増加表現 πnt(µ, η) に対しては, µ| |−12
E × η × µ| |12
E の既約非
緩増加部分商表現である µ ◦ det× η を対応させる. この場合指標等式は成り立た
ない.
次に, χ′ = η′, (η′ ∈ Π(E×, 1F×)) のときを述べる. このとき IGB3(η′| |
12
E ⊠ ηu)
は既約非緩増加表現であるので, η′| |−12
E × η × η′| |12
E の既約非緩増加部分商表現
である η′ ◦ det× η を対応させる. この場合指標等式は成り立たない.
32
定理 7.10. (i) CaseC の任意の L-parameter ϕ に対して, G(F ) の既約超カス
プ表現 π があって, πCI←→ LC(ϕE) が成り立つ.
(ii) CaseD の任意の L-parameter ϕ に対して, G(F ) の二つの既約超カスプ表現
π があって, {π1, π2}CI←→ LC(ϕE) が成り立つ.
(iii) CaseE1 の任意の L-parameter ϕ に対して, G(F ) の四つの既約超カスプ表
現 π1, ..., π4 があって, {π1, ..., π4}CI←→ LC(ϕE) が成り立つ.
この場合の表現に対しても, 指標等式を使って BC を定める. 以上により
well-definedなファイバー有限の全射写像
BC : IrrG(F ) −→ IrrGL3(E)ε,+
が定まる. まとめると次の表になる. 記号は 6.4 の表と同じである. ただし
η′ ∈ Π(E×, 1F×) である.
ϕ ϕE π = LC(ϕE) BCでの逆像
CaseA η ⊠ ρ3 ⟨{η| |−1E , η, η| |E}⟩t St(η)
CaseB µ⊠ ρ2 ⊕ η ⟨{µ| |−12
E , µ| |12
E}⟩t × η π2(µ, η), πsc(µ, η)
CaseC ϕE 既約超カスプ表現 π
CaseD τ ⊕ η LC(τ)× η π1, π2
CaseE1 η1 ⊕ η2 ⊕ η3 η1 × η2 × η3 π1, ..., π4
χ⊕ η ⊕ χ−1 ◦ σ,CaseE2a χ = η| |±1
E χ× η × χ−1 ◦ σ IGB3(χ⊠ ηu)
χ ◦NE/F = | |±1E
CaseE2b η| |−1E ⊕ η ⊕ η| |E η ◦ det ηu ◦ det
CaseE2c η′| |−12
E ⊕ η ⊕ η′| |12
E η′ ◦ detGL2 ×η IGB3(η′| |
12
E ⊠ ηu)
CaseE2d µ| |−12
E ⊕ η ⊕ µ| |12
E µ ◦ detGL2 ×η πnt(µ, η)
CaseE3 η1 ⊕ η2 ⊕ η1 η1 × η2 × η1 π(η1, η2)±
CaseE4 µ⊕ η ⊕ µ µ× η × µ IGB3(µ⊠ ηu)
CaseE5 η ⊕ η ⊕ η η × η × η IGB3(η ⊠ ηu)
L-parameter ϕ に付随する L-packet を Πϕ と表す. また Π(G) を G の
L-packet の集合とする.
系 7.11. 任意の L-parameter ϕ に対して, #Sϕ = #Πϕ が成り立つ.
G = U(2) の場合と同様に各 L-packet の内部を記述しなくてはいけない. 固
定していた endoscopic datum (H, s, ξ) の ξ は写像 Π(H) ∋ Πϕ 7→ Πξ◦ϕ ∈ Π(G)
を定める*. この写像もまた ξ : Π(H)→ Π(G) と表すことにする.∗Π(H) = Π(U(2))×ΠU(1) とする.
33
定理 7.12. (i) η, η′ ∈ Π(E×, 1F×)に対して, ξ({η′u◦det⊠ηu}) = {πnt(η′µ0, η)}となる.
(ii) η ∈ Π(E×, 1F×) に対して, ξ({IU(2)B2
(ηµ−10 | |E)⊠ ηu}) = {ηu ◦ det} となる.
(iii) ΠH ∈ Π(H) を (i), (ii) 以外の H の L-packet とする. このとき Π = ξ(ΠH)
とすると, 各 π ∈ Π に対して ⟨ΠH , π⟩ ∈ {±1} があって次の式が成り立つ.
TranGH(Θ(ΠH)) =∑π∈Π
⟨ΠH , π⟩Θ(π).
この定理を用いて U(3) の L-packet の内部の記述方法を具体例を通して説明
しよう. U(3) の CaseE1 の L-parameter ϕ を考える. つまり ϕE = η1 ⊕ η2 ⊕ η3となるものを例にとる. このとき
Sϕ = {
±1 ±1±1
}/{±13} ∼= (Z/2Z)2
である. 従って L-packet Πϕ の個数は 4 である. 次に Sϕ の完全代表系として
s0 = 13, s1 =
1
−1−1
, s2 =
−1 1
−1
, s3 =
−1 −11
をとる. このとき Hi = (Gsi)
0 Imϕ とおく. 以下 i ≥ 1 とする. wi ∈ G を
Ad(wi)ξ(LH) ⊂ Hi かつ Ad(wi)(s) = si となるように取る. 例えば
w1 =
1
1
1
, w2 =
1
1
1
, w3 = 13
とする. このとき各 i に対して H の L-parameter ϕHi が唯一つあって次の可換
図式が成り立つ.
LE
ϕ|LE //
ϕHi |LE !!CC
CCCC
CCLG
LH
Ad(wi)◦ξ
=={{{{{{{{
そこで ΠHi := ΠϕH
i∈ Π(H) とすると ξ(ΠH
i ) = Πϕ となる. 従って定理 7.12 (iii)
から
TranGH(Θ(ΠHi )) =
∑π∈Πϕ
⟨ΠHi , π⟩Θ(π).
このとき ⟨si, π⟩ := ⟨ΠHi , π⟩, ⟨s0, · ⟩ := 1 とすると次の定理が成り立つ.
34
定理 7.13. Πϕ ∋ π 7→ ⟨ · , π⟩ ∈ IrrSϕ は全単射である.
従って Πϕ の内部が ϕ に付随するデータで記述できた. 同様の記述が他の
Case や U(2) でも成り立つ.
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