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V þqtéY - manara.jp · Mo Ï º Â {w $ )pK Ð æ «ç ÓÄ t A i¶ \° c mt Ï ZT º Â {U I ^...

Date post: 21-Oct-2020
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20
業家倶楽部 2015年12月号 8 文中敬称略特 集 ----- 第 1 部 オンリーワンを創り続け 女性が幸せに生きる 社会に貢献 性が幸せに生きる社会を創るという理念を掲感と無添加をモットーとした粧品で躍進るランクアップ。創 10 年で、売上 75 円、8 億5 201 5年 9 期見達成、急成長を遂げる。率いる女性ベンチャーの岩崎裕 美子は、広告代理店からの転身組。自らの肌荒れ解決を目的に、効果が実でき 製品に徹底してこだわる。女性を活用、残業ゼロで右肩上がりの成を続けるラアップの因は こにあるのか。
Transcript
  • 企業家倶楽部 2015年12月号・8

    (文中敬称略)

    特集 ----- 第 1部

    オンリーワンを創り続け女性が幸せに生きる社会に貢献女性が幸せに生きる社会を創るという理念を掲げ、実感と無添加をモットーとした化粧品で躍進するランクアップ。創業10年で、売上高75億円、経常利益8億5千万円(2015 年9月期見込)を達成、急成長を遂げる。率いる女性ベンチャーの岩崎裕美子は、広告代理店からの転身組。自らの肌荒れ解決を目的に、効果が実感できる製品に徹底してこだわる。女性を活用、残業ゼロで右肩上がりの成長を続けるランクアップの勝因はどこにあるのか。

  • 9・企業家倶楽部 2015年12月号

     2015年10月2日、眩しいほど

    の秋晴れが輝くこの日、東京・銀座

    のイベント会場に、多くの女性が次々

    と集まってきた。13時きっかりに、

    白いスーツに身を包んだスラリとした

    美人が、中央に進み出た。そして明

    るい声で語りだした。

    「皆さんランクアップにようこそ、入

    社内定おめでとうございます。私た

    ちは化粧品業界のベンチャーです」

    会場は静まり返り、社長の岩崎裕

    美子の話に耳を傾ける。2016年

    の入社内定式が開催されているのだ。

    華やかな会場には社員43名と、内定

    者3名が一堂に会す。

    「ランクアップは私と取締役の日髙由

    紀子が理想の化粧品を目指して起こ

    した会社です。最初はなかなかうま

    くいかず、故郷の北海道に帰ろうか

    と思ったこともありました。それが

    今年10周年を迎え、こんなに多くの

    社員に囲まれる会社になったことを

    嬉しく思います。諦めずに頑張って

    きてよかった。当社は今年、売上75

    億円を達成します。社員一人当たり

    の売上げが1億円あれば優良企業と

    いわれますが、当社ははるかに上を

    行っています」

    誇らしげな岩崎のことばに、集ま

    った社員たちの顔には“

    一緒に頑張っ

    てきた”

    という満足の表情が浮かぶ。

    岩崎はさらに続ける。

    「皆さんが入社したらたくさんの仕事

    を任せたい。小さな会社ですが、や

    りたいことができる会社です。3人に

    期待しているのは、1期生、2期生

    にない個性を発揮し、いい意味で会

    社をかき回して欲しいということで

    す。そして先輩社員を大いに刺激し

    ていただきたい。皆さん、私たちの会

    社を選んでくれてありがとう。一緒

    に仕事ができることを楽しみにしてい

    ます」。岩崎の温かくもパワフルな挨

    拶に、会場には高揚感が漂う。

    続いて、内定証書の授与である。

    リクルート姿に身を包んだ学生一人

    ずつに、岩崎から内定証書が手渡さ

    れる。と、社長の岩崎が声を挙げた。

    「ごめんなさい。名前を読み間違えた

    のでやり直します!」。緊張感が漂っ

    ていた会場は一瞬で和み、笑い声が

    響く。そしていつものアットホームな

    雰囲気に変化した。

    未来を創る新人パワー

     続いて内定者一人ひとりのプレゼン

    が始まった。それはこの会社の未来

    を示唆する力強い内容であった。

    1番バッターはストリートダンスが

    得意という北條咲綺である。緊張し

    た面持ちで、マイクを握ると語りだ

    した。「私がランクアップを選んだの

    は、その理念です。挑戦する心、こ

    こに賛同したからです。特技はスト

    リートダンスです。その映像をご覧

    下さい」。しかし、なかなか映像が上

    手く出ない。すると彼女はやおら、

    ストリートダンスを踊りだした。ほん

    の10秒だが、会場には驚きと感嘆の

    声が漏れた。「スゴイ!カッコイイ!」

    2番目は東北出身の、食べること

    もつくることも大好きという佐々木

    春佳である。震災で全てを無くした

    東北大学のヨット部のマネージャーと

    して、50人分の食事をつくってきた

    という。画面には彼女がつくった料

    理が何種類も映し出される。会場か

    らはスゴイ!の声。「私は人の役に立

    つ仕事がしたい、ランクアップでは人

    の役に立つ事業を手がけたい」と結

    んだ。

    そして3人目も個性的だ。大学院

    を中退、既に大手予備校で働いてい

    る野中真夏である。新しいことに挑

    戦するのが好きで、既に予備校では

    京都支社を立ち上げ、成功に導いた

    という。「ランクアップは新人でも新

    規事業を任せてもらえる。だから私

    は教育の分野で新規事業を立ち上げ

    たい」。力強い宣言に会場からは驚き

    と感嘆の声が響く。

    初々しくも力強い内定者の発表は、

    どの人も個性豊かで、社員たちの心

    を鷲づかみにした。この3人が新しい

    ランクアップの力になってくれる。会

    場に集まった誰もが信じた。そして

    自分も負けてはいられない。そんなや

    る気スイッチに火が灯った内定式とな

    った。

    一番前の席で3人のプレゼンを聴い

    ていた岩崎は、満面の笑みを浮かべ

    うなずいた。今年もチャレンジングで

    個性的な3人を採用できた。そして

    確信した。必ずや彼女たちが切磋琢

    磨し、未来のランクアップを創ってく

    れると。

    化粧品業界の新常識

    ランクアップという会社は知らない

    が、マナラのホットクレンジングゲル

    なら御存知の方もいるであろう。今

    や累計販売個数500万個という、

    大ヒット商品に成長した。通信販売

    でここまで人気商品となっているのに

    はワケがある。

    そこには岩崎の強いポリシーがあ

    る。無添加でしかも効果が実感でき

    ない製品は売らないという方針だ。

    特集 ----- 第 1部

  • 企業家倶楽部 2015年12月号・10

    これは大変な決意である。それだけ

    自信がある製品ということである。

    本来なら美容ドリンク等サプリメン

    トも手掛けたいところだが、効果が

    測定できないので販売しないと語る。

    徹底しているのだ。その誠実さがお

    客の共感を生み、今や定期購入会員

    は20万人に及ぶ。

    そこには時代背景もある。「今は

    効果が実感できる良い製品であれば、

    会社の大小は関係な

    くお客様が選んでく

    れる」と岩崎。無

    名の弱小企業が手が

    けるホットクレンジ

    ングゲルがここまで

    ヒット製品になった

    のは、時代のあと押

    しがあったともいえ

    る。

    「インターネット時

    代の今は、お客様が

    ブランドを創る時代」

    と日本最大の美容関

    連クチコミサイト、

    アットコスメを運営

    するアイスタイル社

    長の吉松徹郎は語

    る。実際ホットクレ

    ンジングゲルは、アッ

    トコスメの2014年クレンジングジェ

    ル部門で1位に輝いている。実際に使

    用したお客のクチコミだから信ぴょ

    う性が高い。それだけにお客との信

    頼関係は重要だ。その点、効果の実

    感と安全という、相反する2つの条

    件をクリアしたマナラ化粧品は、お

    客の心を掴むには十分だ。まさに化

    粧品業界の新常識にチャレンジした

    製品といえる。

    ホットクレンジングゲル

    で名を馳せる

    ランクアップとはどんな会社なの

    か、御存知ない向きに、紹介しよう。

    岩崎が2005年、前職の広告代理

    店をスピンアウト、部下だった日髙

    由紀子と共に、立ち上げた会社であ

    る。主力のホットクレンジングゲルが

    売上全体の5割強を占める。なぜク

    レンジング?と思うが、化粧はメイク

    アップよりも落とすことが重要であ

    ることを、岩崎自身が身を持って体

    験しているからだ。

    このホットクレンジングゲルの誕生

    物語は壮絶だ。メイクがしっかり落

    とせて、肌に優しい理想のクレンジン

    グを求めて、どれだけ全国の業者を

    訪ねたことか。「そんなの無理、でき

    ません」。「安定剤を少し使ったら分

    離することはないのに・・・」。業者

    のこうした囁きに一切岩崎は耳を貸

    すことはなかった。頑固一徹、自分

    の理想を求め、まっすぐに突き進む

    だけだった。今でこそ無添加、美容

    液で洗うという発想が知られている

    が、10年前の当時は常識では考えら

    れなかったのだ。

     もうこれ以上ダメだと思ったとき、

    埼玉のあるメーカーが一緒にやりま

    しょうと、賛同してくれたのだ。な

    ぜここまでこだわるのか。自分の肌そ

    のものが実験だったからである。バリ

    バリの営業マンだった岩崎は、連日の

    深夜帰宅で、肌がボロボロだった。実

    年齢より老けてみえる女性を救いた

    い。女性をもっと若々しく元気にし

    たい。その使命感が折れそうな心を

    強くした。

    そして2006年6月、ようやく

    完成。この渾身の力を込めた製品ホ

    ットクレンジングゲルを、肌荒れで悩

    む女性に訴えていった。製品には「感

    動化粧品マナラホットクレンジングゲ

    ル」と名付けた。マナラとは岩崎の

    出身地北海道の方言で、ナマラ(す

    ごく・とても)を文字ったものだ。「使

    って頂ければその良さが実感でき

    る」。岩崎は自信満々だった。

    販売チャネルは得意の通信販売を

    選んだ。岩崎も日髙も元々化粧品の

    通販が得意の広告代理店で働いてい

    たから、そこはお手のものだ。「どの

    ように見せたらお客様の心を捉える

    ことができるか。どのキャッチコピー

    ならお客様の心に刺さるか」、熟知し

    ていた。かつての経験がモノをいった。

    そして初年度から黒字を達成、マ

    ナラのホットクレンジングゲルの名が

    ジワジワと知れ渡っていった。働く仲

  • 間も増えていった。オフィスも銀座に

    移転、順調に成長を続けていたかに

    思えた。

    本音研修で

    暗黒時代から脱却

    創業10年で売上75億円、経常利

    益8億5千万円(2015年9月期

    見込)を達成するまでに成長させた、

    敏腕女性経営者として名を馳せる岩

    崎だが、ここまでくるのは順風満帆

    ではなかった。明るく闊達な会社に

    見えるが、つい3年前までは暗黒の時

    代だった。「うちの会社暗かったんで

    す。今の明るさが夢のようです」と

    語る岩崎は、2012年の事件を忘

    れてはいない。

    「岩崎さん大変です。すぐきて社員

    の皆さんに謝ってください」。研修会

    社からの連絡で、すぐさ

    ま会場の青山に駆けつけ

    た岩崎は、その光景を今

    でも忘れてはいない。研

    修に参加していた社員た

    ちが、最終日の決意表明

    のところで、全員泣き出

    したのだ。「私たち期待

    されていないのに会社にで

    きることなんかないんで

    す」そ

    れは「ワクワク冒険

    島」という2泊3日の研

    修の最終日だった。社員

    たちが素直であればこ

    そ、それまで溜まってい

    たものが吹き出したのだ。

    岩崎は驚き、戸惑い、社

    員たちに謝罪した。そし

    てハッと気がついた。日髙

    と2人で立ち上げた会社だけに、全

    て2人で決めていた。超ワンマンな会

    社になっていたのだ。

    優秀な社員を採用しているにも関

    わらず、出番を与えていなかった。

    期待されないことで不満が渦巻いてい

    た。社員30人足らずの小さな会社に

    も関わらず、トップと社員の間にズ

    レが生じていた。

    「日髙も私もバリバリの営業出身だか

    ら数値目標が明確で達成の欲求が強

    い。しかし数値目標で測れない仕事

    は承認の欲求なんです。そこを認め

    ていなかった」

    「とにかく皆に謝りました。そして

    うちはベンチャーなんだから“

    挑戦”

    する会社にしたいと明確に伝えまし

    た。それまで伝えているつもりでも伝

    わっていなかった」と当時を振り返る。

    雨降って地固まる。その後は中堅社

    員の育成や、社員のモチベーションア

    ップ、人事評価制度も整えた。この

    事件をきっかけに、本音で語れる会

    社に生まれ変わったのだ。社内が明

    るく闊達に変身した。その軸となる

    風土は“

    挑戦”

    である。

    その岩崎を感動させたのが、20

    15年6月10日の10周年のサプライ

    ズイベントである。朝礼の時間、いき

    なり10周年のお祝いが始まった。部

    屋の飾り付けは、残業ゼロのはずの

    社員が夜中までかかって飾り付けた

    という。10年の歴史が映し出され、

    社員からの感謝のメッセージ。そして

    岩崎の家族からのメッセージが映し出

    された。岩崎は感動で震えた。そし

    て心に誓った。この仲間と一緒に手

    を携え、皆が輝ける会社にしたい。

    女性が

    活躍できる会社

     

    昨今、ランクアップを語るとき、

    製品そのものよりも「残業ゼロでも

    増収を続けている会社」として有名

    だ。まさに女性活用で名を上げてい

    るともいえる。そこには岩崎の苦い体

    験が生きている。前職の広告代理店

    では夜中までの長時間労働で、社員

    は2〜3年で辞めていた。社員数43

    名のランクアップだが、その内41名が

    女性、しかもその半数が、働くママ

    である。

    「何人産んでも何度でも戻って来て欲

    しい」。岩崎のことばに、感動したと

    語るのは、開発担当の佐々木美絵で

    ある。大手化粧品メーカーから転身

    してきた佐々木は、今2度目の育休

    中だ。岩崎自身も41歳で出産、子

    育てをしながら社長業に奮闘してき

    11 ・ 企業家倶楽部 2015年12月号

    特集 ----- 第 1部

    円)

    平成22年10月~

    平成23年9月

    平成23年10月~

    平成24年9月

    平成24年10月~

    平成25年9月

    平成25年10月~

    平成26年9月

    平成26年10月~

    平成27年9月

    8000800

    600

    400

    200

    0

    6000

    4000

    2000

    0

    (経常利益)

  • 企業家倶楽部 2015年12月号・12

    た。だからこそ、仕事も子供も両方

    手にしたいという女性の心が痛いほど

    わかる。「なぜ子供を産んだら戦力

    外になってしまうのか」、「子供を産

    んだらなぜキャリアを捨てなければ

    ならないのか」。前職で、働く女性の

    限界を感じた岩崎だけに、自分が起

    業したら、女性が一生輝ける会社に

    したいという強い意志があった。だか

    らこそ女性たちのパワーが炸裂、残

    業ゼロでも創業以来右肩上がりの成

    長を実現している。

    海外展開にも意欲

    2015年9月28日、岩崎はシン

    ガポールのショッピングモールサンテッ

    クシティにいた。主力製品ホットクレ

    ンジングゲルを催事で紹介するため

    に、自ら乗り込んだのだ。「意外にも

    ホットクレンジングゲルを御存知の方

    が多く驚いた」という岩崎。現地の

    人々の反応の良さに、イーコマースで

    販売することを即決したと、興奮冷

    めやらぬ顔で語る。

     既に台湾ではホット

    クレンジングゲルのネ

    ット販売を実現。7

    月には台湾の美容家

    向けにイベントを実

    施した。製品は日本

    から送っているが、ゆ

    くゆくは現地法人を

    立ち上げ、展開を加

    速したい考えだ。主

    力のホットクレンジン

    グゲルをもっと世界に

    アピールしたい。まず

    は同じような肌を持

    つアジアの女性たちの

    悩みを解決したいと

    意気込む。

     海外戦略は現地で

    の販売も大切だが、2020年まで

    はインバウンド対応が重要と睨む。

    アジアから大勢の観光客が来日、ロフ

    トなどの店頭で、ホットクレンジング

    ゲルを見つけて買ってくれている。そ

    のためには店頭でのチャネル拡大は大

    切な要素だ。今はロフトや東急ハンズ、

    アットコスメストアに並んでいるが、

    店頭のチャネルにも力を入れていきた

    いという。但し、百貨店と値崩れし

    そうなドラッグストアでの販売は考え

    ていない。

    安全・安心で効果が実感できるマ

    ナラの化粧品は、必ず世界の人に理

    解してもらえると、自信をのぞかせ

    る岩崎。まずは親日の台湾、シンガ

    ポールからスタートし、じわじわと

    拡大したい考えだ。

    女性が幸せに生きる

    社会に貢献

    女性が幸せに生きる社会を創ると

    いう理念を掲げるランクアップ。新規

    事業は化粧品にこだわらない。女性

    が生き生きと輝く社会に貢献する事

    業ならどんなことでも挑戦OKだ。

    まずは美容関連からスタート。日焼

    け防止の帽子や傘、足が細くなる着

    圧ストッキングは一足1万円以上とい

    う高価格ながら売れている。

    その新規事業を担当するのが新卒

    の若手社員だ。差し当たり、育児、

    教育、介護サービスなどが視野に入

    ってくる。2年後には新規事業をス

    タートさせたいと意気込む岩崎だが、

    発想は柔軟だ。「失敗したっていいん

    です。やり直せば」。この明るさ、潔

    さが岩崎の持ち味だ。このパワフルな

    リーダーに導かれ、新卒者たちが、

    ランクアップのどんな未来にチャレン

    ジするのか、楽しみだ。

    「キャリアのある女性が一生働き続け

    られる社会にするために、影響力の

    ある会社になりたい」と宣言する岩

    崎。純粋でパワフルで誠実、全て本

    音ベースだから、岩崎の周りには多

    くの応援団が集まってくる。

    この10年間、岩崎の熱い志とパワフ

    ルな行動力で、ここまで走ってきた。

    しかしこの先、成長に比例し、超え

    なければならないハードルは幾つも出

    てくるであろう。それを乗り越え、

    どこまで成長できるか。

    女性の時代と言われて久しい。確

    かに今の日本は女性が元気だ。その

    元気を持続し、本当に輝ける社会に

    なれるか。岩崎率いるランクアップが、

    女性パワーを全開し、どこまで上り

    詰めるか楽しみだ。

    特集 ----- 第 1部

    シンガポールでホットクレンジングゲルを紹介

  • 「私たちの想いが詰まった化粧品を

    よろしくお願いします!」

     9月14日、東京・銀座の本社会議

    室で行われたランクアップの会社見学

    会。同社代表の岩崎裕美子は、創業

    から自社ブランド「マナラ」誕生に至

    る軌跡、会社拡大と挫折、そして再

    生とブレイクスルーまでを熱く語った。

     嬉しかった体験談、憤りを覚えた

    事件、苦悩の日々̶

    ̶

    。場面に応じ

    て声のトーンを変える表現力は女優

    さながらだ。溢れ出る情熱に触れた

    多くの人が「つい応援したくなる」と

    語るのも頷ける。

     これまで、「子どもを産むと働けな

    い」とされてきた女性たちに活躍の

    場を提供。本来実力を持っている彼

    女たちが嬉々として働ける居場所と

    なっている。

     そんなランクアップが業績を伸ばし

    続けている秘訣とは何か。

    強さの秘密1・

    ダブル洗顔要らずの

    クレンジングゲル

     もはやランクアップの代名詞と言っ

    ても過言では無い大ヒット商品「ホッ

    トクレンジングゲル」。通常メイクを

    落とす際には、まずクレンジングオイ

    13・企業家倶楽部 2015年12月号

    強さの秘密

    (文中敬称略)

    「maNara(マナラ)」ブランドの化粧品販売で快走するランクアップ。その裏には、常識破りの製品開発、自社への共感を呼ぶ広告宣伝、顧客に対する丁寧なサービスという3つの合わせ技があった。風通しの良い社風の下、挑戦を続ける同社の強さの秘密に迫る。

    特集 ----- 第 2部

    ランクアップの強さの秘密Secret strength of Rankup

    強い愛社精神の下美容業界の常識に挑む

    会社見学会にて熱弁を振るう岩崎社長

    常識破りの

    開発

  • ルなどで化粧自体を落とし、その後

    残った汚れをさらに洗顔して落とさ

    ねばならない。

     一方、ホットクレンジングゲルを

    使えば、メイクを落としながら洗顔

    まで同時に行えてしまう。さらに、

    セラミド、ヒアルロン酸、スクワラン

    といった成分が肌の保湿まで手助けし

    てくれるという代物だ。

     これまでも、いわゆる「ダブル洗顔」

    不要を謳ったクレンジングは発売され

    ていたが、やはり汚れが気になり、2

    度洗いするという女性が多かった。

    その結果、顔の脂分がとれすぎて乾

    燥肌に繋がるケースが散見されたので

    ある。

     そこへ行くとこのホットクレンジング

    ゲルは、「洗顔後に突っ張らず、乾燥

    しにくい」(40代・女性)、「気になっ

    ていた毛穴の黒ずみもきちんと落ち

    る」(30代・女性)、「洗い流すだけで

    肌にもちもち感が出て、気持ち良か

    った」(60代・女性)と幅広い年齢層

    から大好評。またその名の通り、「手

    に取った時点で温かくなってビック

    リ!」「まるで蒸しタオルを顔に乗せ

    ているよう!」と驚きの声も多く寄

    せられ、「使うだけで顔のマッサージ

    にもなる」と絶賛されている。

    実感できない製品は

    売らない

     ホットクレンジングゲルがこれだけ

    の人気を博している背景には、「実感

    できない製品は売らない」という岩崎

    の確固たる信念がある。使用したお

    客に「これで肌が変わった!」という

    喜びを感じてもらうことに最もこだ

    わっているのだ。彼女がここまで「実

    感」を重視するのは、元々ホットクレ

    ンジングゲルが「自分が欲しい化粧品

    を作る」という発想から生まれた製

    品であることに起因する。

     今から遡ること十余年前、岩崎は

    前職の広告代理店で、営業部長とし

    てバリバリのキャリアウーマン人生を

    送っていた。仕事が終わらず、終電

    で帰る毎日。睡眠や食生活は乱れ、

    肌はボロボロであった。営業先などで

    は、実際の年齢より年上に見られる

    ことも多かったとか。そんな中、よ

    り肌に優しい化粧品を目指して自分

    なりに調べを進めていた岩崎は、衝撃

    の事実に驚愕する。

    「まさか、台所用洗剤と同じ成分で

    顔を洗っていたなんて!」

     巷で広く売られているクレンジング

    オイルに含まれる石油系の界面活性

    剤は、汚れと同時に脂質やたんぱく

    質まで洗い流してしまう諸刃の剣だ

    ったのである。こうした経験から岩

    崎は、「効果が実感できて、肌にも

    良い化粧品を自分で作るしかない」

    と独自の製品開発を決意。起業に踏

    み切った。

    業界素人が作った化粧品

     しかし、岩崎の情熱とは裏腹に、

    各メーカーの反応は芳しくなかっ

    た。「魔法のようなクレンジングを作

    りたい!」という岩崎の想いは、「いか

    に利益を上げるか」を最重要事項と

    する企業の常識の壁にぶち当たったの

    だ。終いには「化粧品で肌を良くす

    るという考え方自体が幻想」とまで

    言われる始末だったが、岩崎は諦め

    ず、全国を飛び回って片っ端から研

    究者・開発者に会う日々が続いた。

     ついに協力的な企業と出会い、共に

    開発を進めることとなったものの、石

    油系界面活性剤を使わないというハ

    ードルは高く、その道は予想以上に

    困難を極めた。それでも、岩崎の「無

    茶ぶり」は続く。分からないことが

    あれば、開発企業に即電話。呼び鈴

    の嵐は、担当者が「電話恐怖症にな

    る」と参ってしまう程であった。

     発売予定日の差し迫ったある日、

    仕上がった試作品を使ってみた取締

    役の日髙は「今までで一番良い。これ

    なら及第点かな」と思った。しかし、

    岩崎の答えは「やり直し」。「これで

    はお客様が感動しない」というのであ

    る。「発売を延期してでも納得のいく

    製品を出す」と即決。一切の妥協を

    許さず、採算度外視でこだわった。

     こうした血の滲むような努力の

    末、ホットクレンジングゲルが誕生。

    岩崎が業界の常識に精通していれ

    ば、無添加という発想自体が出なか

    っただろう。業界に染まっていない言

    わば「素人」が、自分の欲しいと思

    う製品を消費者の立場になって徹底

    的に突き詰めた結果、生み出された

    企業家倶楽部 2015年12月号・14

    広告では「伝わる」を追求

  • 産物なのである。

     ホットクレンジングゲルに端を発す

    「自分が欲しいモノをつくる」という

    製品づくりは、今に至るまで顕在。

    ランクアップの差別化された製品開

    発力に繋がっている。

     現在、製品の柱に成長した「モイ

    ストウォッシュゲル」も「朝、顔は汚

    れていない」という事実から生まれた

    製品の一つだ。97・5%が美容液成

    分でできており、「洗わない洗顔」を

    謳う同製品は、「毛穴の汚れが落ち

    て、かつ乾燥もしない」スキンケアを

    目指した開発担当者の佐々木美絵

    が、60回以上に及ぶ試作を繰り返し

    た末に誕生した。

     開発する上での肝は「製品の分かり

    易さ」。何のために使う製品か、明確に

    伝えられることが重視される。特に

    ランクアップは、今までに無かった化

    粧品を生み出しているため、それが

    消費者の潜在的なニーズに沿っている

    ことを示さねばならないのだ。

     例えば、リップクリームのようにス

    ルスルと伸ばして使えるファンデーシ

    ョン「BBリキッドバー」は忙しい女

    性の化粧時間短縮を手助けする製

    品。その製品開発は「美容革命」と

    呼べるかもしれない。

    強さの秘密2・

    「伝わる」広告を追求

     さて、前述のような苦労を重ねて

    待望の製品が生まれてくるわけだ

    が、化粧品業界が多数の企業がひし

    めく「激戦区」であることもまた事

    実。いかに良い製品ができたとて、消

    費者に対する見せ

    方が下手では売れ

    るものも売れない。

     そもそも商品数

    が多すぎて、消費

    者としても何を使

    ったらいいか分から

    ないというのが本音

    だろう。そうした

    中で抜きん出るた

    めに重要となるの

    が広告宣伝である。

     巷の化粧品広告では「元から」美

    しい有名女優や海外モデルの写真がで

    かでかと掲載され、抽象的な表現や

    「流行り」の成分をアピールしたも

    のも多い。一方、マナラの広告を見る

    と、「うるおい実感96・1%」(ホット

    クレンジングゲル)、「30秒でシミ・

    くすみをカバー」(BBリキッドバー)

    といったように実際のデータを多用。

    また掲載する媒体や場所によって、

    同じ製品でも使用する写真を差し替

    えるといったこだわりようだ。なんと

    なく「良さそうな」広告ではなく、「ど

    のようなタイミングに、どの部位に使

    う製品で、どれだけの人が実感でき

    ているか」が明確に伝わることを是と

    して制作している。

     新規顧客の開拓もさることなが

    ら、既存の会員客に対するアプロー

    チも見逃せない。

     ランクアップの化粧品を購入したお

    客に届く隔月刊の会報誌『マナラ倶

    楽部』。ここには、製品の使い方や開

    発者の想いが掲載されているのはもち

    ろん、一般客からのアンケートなど、

    愛用者の声が多数寄せられている。

     コンテンツは、自社製品に関する情

    報に止まらない。会社での出来事を

    はじめ、美容に良いレシピ、旅先のご

    当地スイーツといった女性を軸とし

    た記事が、社員の手で書かれている。

    ページには、担当者が顔写真と名前

    入りで掲載。等身大のランクアップ社

    員の姿が間近に感じられる。

     多くの社員が広告塔となって制作

    物などに全面的に出ている点、本来

    通販では分かりにくい会社の顔がよ

    く見えるため、お客の安心と信頼に

    繋がっている。各製品の裏にあるスト

    ーリーに共感したユーザーがランク

    アップのファンとなることで、客単価

    をアップさせているのだ。

    縦横無尽にSNSを活用

     ツイッター、フェイスブック、インス

    タグラムといったSNSをフル活用し

    ている点も、ランクアップの特徴だろ

    う。フェイスブックページ「感動化粧

    品 マナラ」を覗くと、担当者による

    製品開発の裏話から、30秒でできる

    簡単メイクの動画まで、興味深く見

    ることができる。

     もちろん、社長の岩崎も頻繁に登

    場。最近ではシンガポールで行われた

    マナラの限定販売イベント、来春から

    入社する新卒の内定式、ラジオ番組

    出演時などの様子が掲載されてい

    る。

    15・ 企業家倶楽部 2015年12月号

    強さの秘密

    2

    ランクアップの強さの秘密特集 ----- 第 2部 Secret strength of Rankup

    共感を呼ぶ

    広告宣伝

    隔月刊の会報誌『マナラ倶楽部』

  • 企業家倶楽部 2015年12月号・16

     これまでは大手企業の資本や考え

    方に乗っかっていた人々も、インターネ

    ットの発達に伴い、個人の力を増して

    きた。「モノの先にあるコトが重要」

    とはよく言ったものだが、女性が欲

    しいのは化粧品では無く、それを使っ

    た先にある「若々しくて美しい自

    分」。大手から中小ブランドに至るま

    で自由な製品選びが可能となった現

    在、ランクアップの誇る「共感」の力

    は旧来ブランドに対抗しうる強みと

    なっている。

    強さの秘密3・

    アウトソースして

    かつ理念共有も

    諦めず

     ランクアップのファンづく

    りに欠かせないのが顧客対

    応である。「正直、似たよ

    うな製品はどんどん出てく

    る」と語る岩崎が価格競争

    に陥ることを危惧せずにど

    っしり構えていられるの

    も、一度掴んだ顧客の心を

    がっちり握って離さない自

    信があるからだ。

     実際に注文するとランク

    アップから委託を受けた80人体制のコ

    ールセンターに繋がり、元気で明るい

    対応を受けられる。だが、このアウト

    ソースに際しては紆余曲折があった。

     事実上お客との最初の接点にあた

    る受電を重要視したランクアップは、

    元々自前でコールセンターを持とうと

    していた。しかし、増え続ける顧客

    に対応しきれなくなり、一部をアウ

    トソースすることになる。

     すると今度は、自社とコールセンタ

    ーによる対応の質に差が生じてしまっ

    たのである。お客からすれば同じ番

    号にかけているのに、日によってオペ

    レーターの対応が変わる。この違和感

    がクレームに繋がり、緊急課題とし

    て持ち上がった。

     前述した広告やサイトなどで顔の

    見える会社であることは間違いない

    が、やはり電話の第一声は企業の印

    象を決める上で大事な要素。最終的

    に社員を派遣してコールセンターにま

    で製品への想いや自社の理念を浸透さ

    せ、現在のような体制を整えた。

     通常、委託を受ける側は「コールセ

    ンター業務」が仕事となるが、カスタ

    マーサービス部リーダーの上山由紀は

    「オペレーターには私たちのパートナ

    ーとして、常に社員のような気持ち

    でいて欲しい。月に1回は熊本にあるコ

    ールセンターに顔を出します」と語る。

     業務をアウトソースしながら、かつ

    自社製品にかける想いも共有。ラン

    クアップは貪欲に二兎を追う。

    クレームではなく

    「ご指摘」

     注文を受けるだけでなく、お客の

    気持ちを汲み、改善に繋げるまでが

    コールセンターの役割。そんな業務を

    サポートするのが受注管理システム

    だ。日髙が「ランクアップの情報シス

    テム部門」と信頼を寄せるフォービ

    スが、その構築を担っている。

     代表の家永慎太郎も「注文を受け

    たオペレーターが電話中に全ての入力

    を終えられるよう、一つの画面に顧

    客情報として入力すべき項目を集約

    する工夫を施した」と解説。注文と

    登録を同時に行えるよう、お客が電

    話の途中で情報を変更しても前の画

    面に戻ることなく即応できるように

    した。

     またランクアップのお客は、使用頻

    度によって「製品Aは45日ごと、製

    品Bは3カ月ごと、製品Cは隔月で

    第2土曜に」といった具合に、6カ月

    以内であれば定期便の期間を好きな

    ように指定可能だが、そうしたニー

    ズにも応えている。

     さて、コールセンターから上がって

    きたお客の声は、担当部署や、必要

    と判断されれば全社で共有される。

    「たとえ製品に不満があっても、声

    を上げることなく、店や購入先を変

    えるのが普通の顧客行動。それをわ

    ざわざ言って下さっているのだからあ

    りがたい」と上山は謙虚に語り、そ

    うした声はクレームではなく「ご指

    摘」と呼んでいる。

    強さの秘密

    3

    丁寧な顧客対応

    ランクアップのフェイスブックページ「感動化粧品 マナラ」

  • 17 ・ 企業家倶楽部 2015年12月号

     これまでも、「量が少なくなってき

    た際に取りにくい」との声からプレミ

    アムクリームのスパチュラ(へら)を長

    くしたり、「容器の口が狭すぎて使い

    切れない」という要望に応じてホット

    クレンジングゲルのチューブ口を広げ

    たりするなど、数々の改善を行って

    きた。こうしたきめ細やかで誠実な

    対応も、ランクアップが支持される要

    因となっている。

    強さの秘密4・

    何人でも子供を産んで

    また戻ってきて欲しい

     ここまで紹介した開発力、宣伝

    力、サービス力の根底にあるのが、ラ

    ンクアップの社風である。社員全員が

    揃って会社と自社製品を愛している

    からこそ、自信と情熱に溢れた製品

    紹介を行い、当事者意識を持って改

    善にも取り組める。

     各人が社について考えた意見を、

    社長にすら物申せる風通しの良い雰

    囲気が醸成されていることが強みだ。

     様々な改善提案があるのも、雰囲

    気のみならず「改善を買う」という

    社内制度があるためだ。すなわち、

    社員がランクアップで生じている何ら

    かの問題を提起し、その原因を述べ

    た上、解決策を提案すると、採用・

    不採用に関わらず500円もらえる

    というもの。昨年は年間で420件が

    寄せられ、その都度改善が行われた。

     充実した社員への支援制度も、こ

    うした改善提案の中から生まれたも

    のが多い。PC用メガネの支給や毎月

    2000円の書籍購入負担に始ま

    り、岩崎の地元である北海道から旬

    の野菜が届く無農薬野菜支給という

    ユニークな制度まである。

     約40名の社員中、半数がママという

    女性の会社であることから、時間休

    を取れるのはもちろん、ベビーシッタ

    ーを雇う費用まで会社が負担する。

    「何人でも子供を産んで、また戻っ

    て来て!」というのは岩崎の口癖だ。

     しかし、これだけ制度が充実して

    いても、「子どもがいない人は制度が

    あっても使えない」との声も。そう

    した背景から、スポーツクラブの費用

    を月2万円まで会社が助成し、「豊

    かな感性を磨くため」美術館へ行く

    のをサポートするといった制度も導入

    した。

     一般の会社では却下されておかし

    くないような提案でも、一度は必ず

    検討し、仮に意向に沿えなくとも理

    由を伝える。「なぜ」を伝えることで、

    その裏にある想いが浸透し、コミュニ

    ケーションにもなっているのだ。

    働き方に

    革命を起こす

     夢のような支援環境が整っているラ

    ンクアップだが、最初から良好な雰囲

    気ではなかった。岩崎本人も「今で

    は信じられないかもしれませんが、雰

    囲気が暗い会社だった」と回顧する。

     元々、広告代理店での激務から「女

    性が幸せに働ける会社」を目指して

    創業されたランクアップ。8時半出社

    17時半退社の会社ではあったが、子

    育て支援などの制度は整っていても、

    その根底にある想いまでは社員に浸

    透していなかったのだ。

    「こんな広告じゃ伝わらない。もっと

    写真を大きくして!」

     会社と製品のためを思って動いて

    も、最終的に決定するのは全て岩崎

    と日髙。社員たちは精神的に参って

    しまい、思考停止に陥っていた。「私

    たち以上に会社のことを考えている人

    間はいないと思っていましたが、実は

    皆、会社のことをよく考えてくれてい

    た」と日髙も語るように、実際には

    給料や短時間労働ではなく、「やりが

    い」をモチベーションとする人材が揃

    っていたのである。

     岩崎曰く「どことなく悪い雰囲気

    が漂っていた」というランクアップの

    社風改革にコンサルタントとして携わ

    ったリンクアンドモチベーションの田中

    允樹は、当時をこう振り返る。

    「当時は全ての組織系統が岩崎さん

    と日髙さんに統括されている『鍋蓋

    式』の会社でした。そこで、理念を

    共有した中間管理職を育てることで

    ピラミッド型の組織を目指したので

    す」

    「企業の器は、社長の器以上に大き

    くはならない」とはよく言ったものだ

    が、組織としての限界を突破したラ

    ンクアップには、今や挑戦する文化が

    根付き、社内で新事業が次々と生ま

    れる素地も整った。

     コールセンターを含め、発送業務や

    システム開発、『マナラ倶楽部』制作

    など、「理念共有型」のアウトソーシ

    ングを行うことで、現在でも定時勤

    務は守られている。社員40数名なが

    ら2015年9月期は売り上げ75億

    円、経常利益8億5000万円を見

    込むというから驚きだ。

    「女性が輝ける社会」を提唱し、新

    しい働き方を自ら実践するランクアッ

    プが、次世代企業として日本におけ

    る「労働革命」の先駆けとなるか。

    今後の飛躍に期待したい。

    強さの秘密

    4

    特集 ----- 第 2部 Secret strength of Rankupランクアップの強さの秘密

    愛社精神

  • 特集 ----- 第 3部

    企業家倶楽部 2015年12月号・18

    「挑戦」が好き岩崎裕美子

    ほぼ残業なしで17時を過ぎるとオフィスには社員がほとんどいなくなるという。社員数は43名、売上は70億円を超え、業績は右肩上がりで伸びているというから驚きだ。ある事件をきっかけに会社は転機を迎える。「女性が子供を産みながら一生好きな仕事を続けられる社会を目指したい」と、ランクアップ岩崎裕美子社長は創業の想いを語る。

    ランクアップ 代表取締役プ

    ( 聞き手は本誌編集長 徳永健一)

  • 19・企業家倶楽部 2015年12月号

    特集 ----- 第 3部

    ベンチャーは

    差別化で勝負

    美容・化粧品業界の市場規模が

    2兆円と大きなマーケットですが、

    最近のトレンドについて岩崎社長は

    どのようにお考えですか。

    岩崎 化粧品業界のトレンドは移り

    変わりが速いと思います。以前は大

    手化粧品会社が強く、ブランドで製

    品を選ぶ時代でしたが、今は製品の

    成分であったり、メーカーがどうい

    う想いで作っているかなど、「機能」

    で自分の好みに合わせて購入する時

    代になってきました。私たちのよう

    に後発でまだ小さなメーカーでもし

    っかり特徴を打ち出していけば、売

    上を伸ばせる時代だと思います。

    ランクアップの製品の特徴は何

    ですか。

    岩崎 「無添加」で肌に安全で安心

    して使えることです。効果があって

    も肌に必要ない成分は入れません。

    毒を塗ってまで綺麗になりたくあり

    ませんから。あくまで消費者目線で

    効果が実感できて、肌が綺麗にな

    るものを作っています。自分目線を

    持っているので、マーケティングは

    していません。

     もともと起業したのは、前職で夜

    遅くまで働き詰めで肌がボロボロに

    なってしまい、自分の肌を改善した

    いというのが始まりです。自分の肌

    さえも改善できなければ、人の肌を

    綺麗に出来ません。マーケティング

    調査をすると架空の人物像が出来上

    がります。30代の女性はこういう悩

    みがあるので、こういった製品を作る

    と売れますといった方法はしたくな

    かった。

    私たちは差別化できる製品を作る

    のが得意です。ベンチャーは差別化

    できなければ生き残れませんから。

    まず、自分たちで効果が実感できな

    いものは売りません。例えば、今で

    もまだ製品化できていないものがあ

    りますが、それは美容サプリメント

    です。アンチエイジングを目指して

    いるので美容サプリメントも販売し

    たいのですが、モニターの実験で若

    返るとか肌が蘇るといった充分な効

    果が得られていません。ですので、

    自分たちが納得したものしか販売し

    ていません。

    売れるかどうかではなく、自分

    たち自身が本当に欲しいかどうかと

    いう究極の顧客目線がランクアップ

    の特徴となっているのですね。まず

    「効果」が実感でき、そして「無添

    加」という明確なコンセプトがあり

    ました。すぐに製品は完成したの

    ですか。

    岩崎 化粧品を作ったことがなかっ

    たので苦労しました。製品開発に当

    たって何社も製造メーカーを訪ねま

    した。「女性を確実に綺麗にする化

    粧品を作りたい。あなたならどうい

    う成分を入れますか?」と聞いて回

    りました。すると、「原価はどうし

    ますか?」「最近はこういった成分

    が入っていると売れます」という返

    事が返ってきました。

     私は原価はどうでもよく、肌が綺

    麗になれば何万円かかってもいいと

    伝えましたが、話が噛み合いません

    でした。価格帯は効果のある製品が

    出来てから考えようと思っていまし

    たので、メーカーを見つけるのにさ

    え苦労しました。そんな中、私たち

    の想いに共感してくれる担当者が現

    れ、試作を繰り返し、「ホットクレ

    ンジングゲル」が誕生しました。

    累計販売

    500万本突破

    問 主力製品の「ホットクレンジン

    グゲル」は発売から10年で累計販売

    数が500万本を超えたそうです

    ね。ロングヒットを続けているのは

    なぜでしょうか。

    岩崎

    クレンジング(メイク落とし)

    ですが、「毛穴の黒ずみが取れる」

    というのが口コミで広がって、汚れ

    が取れ、さらに肌に優しいという点

    が支持されたのではないでしょう

    か。クレンジングとは肌を洗剤で洗

    っているのと同じことです。メイク

    は食器の油汚れと同じで、女性は毎

    日、食器洗剤で洗顔しているような

    もの。だから、刺激が強くて肌が荒

    れてしまう。私も以前は、洗顔後は

    顔がお猿さんみたいに赤くなってい

    ました。肌に優しいクレンジングが

    あればいいなと考え、美容液と同じ

    成分で作ったので、肌が突っ張ら

    ず、洗顔も一度で済み、手間が掛か

    らないのもメリットです。

    リピーターも多いと聞きました。

    ファンになってもらうためにどんな

    取り組みをしているのでしょうか。

    岩崎

    前職で広告代理店の営業をし

    ていた経験があります。販売会社は

    製品を売るだけで、雑だと思いまし

    た。どのように使って欲しいのかな

    ど、案内書が入っていません。マナ

    ラでは製品が届いた時には分かりや

    すい使用方法が入っています。パン

    フレットを同封し、次にどうして欲

    しいのかアクションが取れるような

  • 企業家倶楽部 2015年12月号・20

    なサービス」を心掛けています。

    こんなことがありました。紫外線

    をカットする帽子が2週間で300

    0枚売り切れました。でもその帽子

    は、ツバが大きくて風が吹くと目の

    前に落ちてきて視界をさえぎること

    がありました。自転車に乗っていて危

    ないという指摘を頂いたので、300

    0人全員に「もし危ない思いをして

    いたら返金します」と手紙を出しま

    した。誠意をもって対応します。そ

    れも社員の声から出てきたものです。

    会社の

    ターニングポイント

    皆さん、明るくて元気な印象で

    すが、是非、会社のカルチャーにつ

    いて教えて下さい。

    岩崎

    今は会社の雰囲気も明るく

    て、挑戦する風土がありますが、以

    前は暗い会社でした。会社設立から

    今まで売上は右肩上がりで、お陰さ

    まで資金繰りに困ったことは一度も

    ありませんでしたし、お客様に誠実

    な対応をするという理念は浸透して

    いたのですが、心がひとつという感

    じではありませんでした。

    原因は経営陣にありました。私と

    取締役の日髙の二人で始めた会社で

    す。立ち上げ期は分からないことば

    かりで苦労しました。会社の方針、

    仕事のやり方に渡るまで全て二人で

    決めていました。猫の手も借りたい

    くらい多忙でしたので、中途採用を

    始めると、銀座にオフィスがある化

    粧品会社と言うことで人気が有り、

    一人の採用枠に700人の応募があ

    りました。とても優秀な人材を採用

    できたのにも関わらず、何もかも私

    と日髙で決めて、作業員の様な仕事

    の仕方をさせていました。

    社員には彼女らなりのアイデアが

    あったと思います。でも私たちの方

    が会社を興して苦労してきた先輩だ

    から、「まだあなたは分からないよ

    ね」という感じで、私たちの言うこ

    とを聞いていれば間違いないと考え

    ていました。二人で何でも決めて、

    理念も発表するものだから、聞いて

    いる社員は反応がいまいち。白けて

    いる雰囲気は感じていましたが、私

    たちは毎日二人で仕事のことばかり

    ずっと話していたので、これが最高

    だと思っていました。「何でこんな

    いいのに皆分からないのだろう?」

    と不思議でした。

    それが、どういうきっかけで変

    わったのでしょうか。

    岩崎 会社の雰囲気が悪くストレス

    で休職する人が出てきました。前職

    に比べたら残業はないし、給料だっ

    て安くはないし、何でなんだろうと

    思いましたが、何とか改善しなけれ

    ばと金融機関の紹介を受けて、外部

    の研修を受けました。

     前半は管理職のみ2泊3日の研修

    でしたが、会社の強み弱み、自分の

    強み弱みが理解でき、客観的に全体

    像を把握できる良い研修でした。し

    かし、後半の一般社員が参加した研

    修で事件が起きたのです。

    事件とは穏やかではないです

    ね。何が起こったのですか。

    岩崎

    その位のインパクトがありま

    した。研修はとても中身が充実して

    いて2日目まで順調に進みました。

    問題の3日目に「会社の方向性は分

    かった。自分たちの適性も理解しま

    した。それでは、あなたたちは会社

    に対して何ができますか」という課

    題が出て、それぞれ発表する機会が

    ありました。

    そしたら、参加していた社員が全

    員泣き出した。「私たちは会社にま

    るで認められていないのに何が出来

    るか考えられない」と。優秀な人材

    を採用できているにも関わらず、や

    りがいの感じられる場面を作ってあ

    げられていなかったのが原因です。

    社員は承認欲求が満たさせず、それ

    まで我慢していたのです。

    「岩崎さん、大変です。皆に謝って

    ください。会社に認められていない

    と泣いていますよ」と講師から電話

    がありました。すぐにタクシーに乗

    って青山の研修会場へ駆けつけまし

    た。そのときに初めて社員はやりが

    いを求めていると知りました。

    会社が変わる良い転機になりま

    したね。

    岩崎

    その研修は会社のことを真剣

    に考えないと答えが出ないカリキュ

    ラムになっていて、夜中まで課題が

    出され、きついものでした。だから、

    3日目に押さえていた思いが爆発し

    たのでしょう。社員一人ひとりの不

    満を引き出そうと意図したものでは

    ありませんでしたが、自然とそうな

    りました。

    結果としてとても良かったと思っ

    ています。その日をきっかけに会社

    の雰囲気が暗かった本当の理由が分

    かり、社員と対話が出来るようにな

    りました。

    その後、具体的にはどんな改善

    をしたのでしょうか。

    岩崎

    当時はしっかりとした評価制

    度がなく、新しく作ることにしまし

  • 21・企業家倶楽部 2015年12月号

    特集 ----- 第 3部

    た。前職の営業職時代には組織のマ

    ネジメントは難しくありませんでし

    た。売上目標などは数字で決まって

    いるので、達成したかどうかのみの

    指標なので楽でした。

    しかし、通販会社は製造・宣伝・

    配送部門があって、コールセンター

    もあります。誰か一人がスターでは

    なく、皆の協力があって売上が立つ

    会社なので、評価制度を作るのが難

    しかったです。

    価値観を共有

    評価制度を作るときのポイント

    は何でしょうか。

    岩崎

    これまでは何となく出来てる

    からいいねで昇格していましたが、

    基準が明確ではありませんでした。

    そこで、評価制度を作る前に、会社

    の価値観をはっきりさせようと考え

    ました。

    中途採用が多く、前職でのスキル

    を持って入社してくる人がほとんど

    で、価値観採用では有りませんでし

    た。私たち経営陣の想いやミッショ

    ンに対して賛同しているわけではな

    い。そんな理由から会社に対する忠

    誠心は持ちにくかったと思います。

    そこで、私と日髙で会社の価値観

    を明確にしようということで、「挑

    戦」が好きだということを発表しま

    した。価値観はその人それぞれなの

    で無理に合わせることはできない。

    それよりも私たちの価値観を打ち出

    せば、社員は選ぶ権利があります。

     会社の理念や製品誕生の背景な

    ど、ちゃんと説明していなかったと

    反省しました。自分たちは何度も説

    明したつもりだったのですが、伝わ

    っていなければ意味が無いでしょ

    う。何度もコミュニケーションを取

    ることが必要だと学びました。

    岩崎社長の夢について聞かせて

    ください。

    岩崎「女性活用」と「長時間労働

    撲滅」の2つが私たちの強みですの

    で、キャリアのある女性が一生活躍

    できる社会にしたいと思います。キ

    ャリアがあっても出産するために好

    きな仕事を諦め、会社を辞めていく

    人を多く見てきました。育児のため

    定時に帰ったら戦力外と見なされま

    すから。厳しいですがそれが日本の

    現状です。子供を産むのを諦めて仕

    事を一生続けるか、子供を産むなら

    仕事を諦めるかという二者択一の選

    択は怖くて、将来のキャリアプラン

    も考えられません。

    だから、キャリアのある女性も、

    子供を産みながら仕事も辞めずに済

    むモデルケースを実証し、そのノウ

    ハウを社会に還元していきたい。私

    たちの情熱で女性が幸せになる社会

    を作ることが夢です。

    岩崎裕美子(いわさき・ゆみこ)

    p r o f i l e

    15年間広告代理店に勤務し、多くの通信販売の化粧品会社を担当する。平成11年からの 6年間は取締役営業本部長として活躍。その後、株式会社ランクアップを立ち上げる。自らのブランド「マナラ」は、自身の肌で試作を繰り返し、苦労の末に完成。肌に悩む女性から多くの評価を得て、全国に広がっている。

  • 企業家倶楽部 2015年12月号・22

    お客様目線で   こだわり抜くランクアップの社員に共通するのは、創業者の岩崎に勝るとも劣らない仕事への情熱だ。自分たちが一消費者として感動できる製品・サービスだけを提供する。そのための妥協は一切しない。全員で一丸となってひた走るランクアップ社員の想いとは。 (文中敬称略)

    特集 ----- 第 4部

  •  広告代理店の営業部長と営業ウー

    マンとして出会った岩崎裕美子と日髙

    由紀子。「厳しいけれど、社員の立場

    を理解して指針をくれる岩崎を、心

    から尊敬していました」。日髙はそう

    語る。

    その岩崎が代理店を退職し、化粧

    品会社を設立することになった時、

    営業に自信のあった日髙はこんなメー

    ルを送った。

    「いつか私がもっと力を付けたら、一

    緒に仕事がしたいです」

    すると翌日、岩崎

    から「じゃあ、手伝

    って」との連絡が。

    これがランクアップ

    誕生の物語である。

    創業時はホットク

    レンジングゲル、化

    粧水、クリーム、石

    けんの4製品でスタ

    ート。すべて二人の

    思いが詰まったもの

    ばかりだ。その製品作りにおいて、日

    髙は岩崎の強い信念を改めて思い知る

    こととなる。

    「試作の段階で、有名な会社からそ

    れなりにいい製品が提出されてきて

    も、岩崎は言うんです。『感動しない。

    これは世界中の人に伝えたいものでは

    ない。自分が一消費者としてハッとす

    るものでなければ、会社を立ち上げ

    た意味がない』。私は正直、『ここま

    で来て、そう言うか!』と思いまし

    たが、確かに岩崎の言う通り。だか

    らまたやり直すんです」

    もちろん二人がぶつかることもあ

    る。たとえば岩崎が産休中のこと。

    日髙は配送とコールセンターのアウト

    ソーシング化や自前システム構築に不

    眠不休で打ち込んでいた。それを案

    じてくれた岩崎に、彼女はこう言っ

    たのだ。

    「岩崎さんは赤ちゃんがまだ3カ月

    なんだから、大丈夫です。私がやり

    ます」

    これに対して岩崎は、「日髙さんが

    全部やっちゃうから私の居場所がな

    い」とポツリ。日髙も日髙で「これだ

    け働いているのに!」とカチンと来た。

    「岩崎は寂しかったのでしょうね。

    後日、彼女は言いました。『あのとき

    は日髙さんに嫉妬していたの。本当は

    感謝しなきゃいけないのに』って。こ

    れに限らず、喧嘩をすると岩崎は翌

    日、『大人気なかった』って泣いて謝

    ってくれるんです。あんな素直な人、

    見たことありません」

    そんな人間的な魅力と別に、日髙

    は岩崎の経営者としての強みとし

    て、まず判断の速さを挙げる。

    「少しの情報でメリットとデメリット

    を見極める力は天性のもの。それに

    『やる!』と決めたときの実行力と

    スピードもすごいですね」

    そう語る日髙自身は現在、取締役

    を務める他、人事やカスタマーサービ

    ス部、システム部、美容相談室、製

    品開発、宣伝部などを掌握する統括

    部長でもある。その日髙が今、改め

    て噛み締めているのは岩崎への感謝で

    ある。

    「最も尊敬する人の一番近くにい

    て、パートナーとして働けるのは本当

    に幸せなことです。岩崎へは感謝の気

    持ちしかありません」

    そう話す一方で、岩崎へ注文をつ

    けたいこともある。息子が7歳まで

    成長した今、岩崎の中でまたさらに

    「仕事の虫」がムクムクと頭をもた

    げているように見えるからだ。

    「最近、帰る時間が遅くなっている

    ような…

    (笑)。無理をせず、家庭

    も大事にしてほしいですね。でも、そ

    の一方で、私ももっと岩崎と夢を語

    り合いたい。設立当初は毎晩一緒に

    飲んで、前職での思い出話をして二人

    で泣いて、ランクアップをどういう会

    社にしていきたいか話したものです。

    これからもそんな風に大きな夢を一

    緒に叶えたいですね」

    さて、そう語る日髙も実は現在、

    妊娠5カ月の身。岩崎とともに整え

    た産休制度を初めて自ら使い、来年

    4月には念願の母となる。

    23・ 企業家倶楽部 2015年12月号

    特集 ----- 第 4部

    尊敬と感謝を胸に、ともに

    走り続ける岩崎裕美子の右腕

    Yukiko Hidaka

    取締役

    統括部長

    日髙由紀子

  • 企業家倶楽部 2015年12月号・24

    「魅力ある製品を開発するだけでは

    なく、お客様に伝える能力にも長け

    ている」

    現在システム管理を統括している

    近藤充弘とランクアップとの出会いは、

    前職の物流会社時代のこと。彼は数

    多くの製品を管理する中で、開発は

    得意でも営業が上手く行かない企業

    を数多く見てきた。そうした状況下

    で、お客との信頼関係を築き上げ、

    製品の魅力を確実に伝えて売上を伸

    ばす同社を「不思議に思った」という。

    物流会社におけ

    るコールセンターのシ

    ステム管理に従事し

    ていた実績を買わ

    れ、岩崎に入社の誘

    いを受けた近藤。自

    らが目の当たりにし

    た営業力の源は何な

    のか。「どういう世界

    なのか見てみたい」

    との想いから、入社

    を決意した。初の男性社員として、

    入社初日に盛大に迎えられた時のこ

    とは今でも鮮明に記憶に残っている。

    「自分がやるべき仕事や目標は明確

    だった」と入社当時を振り返る近

    藤。彼の使命となったのは、顧客シス

    テムの構築だ。それまで、人の手によ

    って共有されていたお客の情報をIT

    化により数字などのデータで可視化

    し、精度を上げる狙いがあった。

    「今まで感覚的にお客様の情報を共

    有してきましたが、IT化されても

    ほとんど精度が変わらなかった」

     これは、実際に近藤がシステムを

    構築、運用した際の一番の驚きだっ

    た。以前はお客の要望をまずコール

    センターで吸い上げ、社内で共有。個々

    の担当者が情報を得て、社内に発信

    していた。いわば「伝言ゲーム」のよ

    うなもの。口伝えであれば、その情

    報はどこかでズレが生じてもおかしく

    ない。しかし、ランクアップは社内で

    の情報共有の精度が極めて高く、デ

    ータ化しても情報の漏れがほとんど

    見られなかったという。

    ただ、IT化で情報の伝達スピー

    ドは確実に上がり、従来の顧客情報

    管理のノウハウとITが融合し、同社

    の営業力は更に強固なものとなった。

     同社で特徴的なのは、アウトソーシ

    ングを最大限活用していること。シス

    テム構築から、コールセンター、物流管

    理などを外部委託し、自社が持つの

    は顧客情報に特化。お客の細かな要

    望に全神経を集中させている。外注し

    ながらもいかに連携をとるか。その橋

    渡し役が近藤だ。

    「システム部の目標は現場の声をどれ

    だけ拾えるか」

     近藤自身、システム構築を委託し

    ているフォービスはもちろん、コールセ

    ンターにまで足を運び、オペレーター

    の意見や社内の要望などにも耳を傾

    け、働く仲間と共にシステムをつく

    り上げている。オペレーターの使いや

    すいシステムを追求することが、結果

    的にお客の注文時のストレスを減ら

    し、快適な買い物にも繋がるのだ。

    顧客の状況に合わせて画面の配色

    を変え、見やすくするなど、些細な

    ことにも耳を傾け改善を重ね、「こん

    なに使いやすいシステムはない」と言

    われるまでになった。システム関連の

    事業部名がITにコミュニケーションの

    Cを加えたICTになっていることか

    らも、対話を重んじている姿勢が垣

    間見られる。

    かつて広告会社に勤めていた社長の

    岩崎は、自社のマーケティング効果な

    どデータの動向について関心が高く、

    会議で追及することも。そうした期

    待を背負う近藤は「ベンチャー企業だ

    からこそ、製品の売上など細部に至

    るまで情報を全社で共有したい」と

    意気込む。今後の目標は、全社員が

    スマート端末ですぐに必要な情報を

    手にする環境を作り上げることだ。

    「これから会社がどう変わっていくか

    楽しみ」と目を輝かせる近藤。岩崎

    に対し「ずっと元気でいて欲しい。と

    にかく健康でいてさえくれればいい」

    とメッセージを送った。

    システムを通じて

    社内外の声を拾いたいMichihiro Kondo

    経営戦略室

    マネージャー

    近藤充弘

  • 25・企業家倶楽部 2015年12月号

    特集 ----- 第 4部

    通販を中心に製品販売を行うラン

    クアップ。自然とインターネット上の

    ウェブ広告にも力が入る。そのシステ

    ムからデザイン、文章までを一貫し

    て任されているのが、宣伝部リーダー

    の餅原ゆき恵だ。

    餅原が岩崎と出会ったのは、以前

    勤めていた広告代理店。営業が苦手

    で悩んでいた時期に、岩崎から直属の

    アシスタントとして誘われた。方法論

    的な仕事のノウハウだけでなく、「働

    くとは何か」といった本質的な考え

    方まで岩崎から学べ

    たことは、今の餅原

    の原点と言っても過

    言では無い。

    「システムに関して、

    私は担当の餅原を

    信じます」

     当時、前職にあっ

    て事業本部長だっ

    た岩崎が、一アシス

    タントに過ぎなかっ

    た自分を引き上げ、社長の目の前で

    言い放った一言は、今でも餅原の記

    憶に鮮明に刻まれている。仕事に対

    する情熱や一生懸命さを評価し、信

    じるべきものはとことん信頼する。ま

    さに、強さと情の厚さを兼ねそなえ

    た岩崎らしい発言である。

     その後、岩崎はランクアップを立ち

    上げ、餅原とは別の道へ。しかし数

    年後、また岩崎と働きたいと思った

    餅原は、彼女に入社したい旨を打診

    した。3度、4度と断られ、その度

    になぜ転職したいのか深く考えたが、

    やはり「岩崎と共に!」という想いは

    変わらない。最終的には岩崎も情熱

    に負け、餅原は入社する運びとなっ

    た。

    「入社してからは、ただただ必死。

    面接を突破してきた社員がひしめく

    中、私は違う。結果を出さなければ

    認められないと思いました。それなの

    に半年近く売上げが全く上がらず、

    本当に苦しかったです」

    この苦境を打開するため、餅原は

    自らリスティング広告の仕組みから有

    効なキーワードまで猛勉強。感覚的

    に仕事をするのではなく、データとし

    て見える数字を信じて試行錯誤の

    日々を送った。例えば、今まで「公式

    サイトは既存客が見るもの」という

    固定概念があったが、実際にデータ

    を取ってみると半数以上が新規顧

    客。そこで、新規のお客用のキャンペ

    ーンページを作ったのも餅原のアイデ

    アだ。

    2年後、この努力は数字として表

    れる。ウェブ広告による売上げは入社

    前と比較して約9倍に膨れ上がり、

    4億3000万円を超えたのだ。これ

    がきっかけとなって、餅原は宣伝部

    リーダーに就任することとなった。

    「岩崎と飲みに行くと、よく入社し

    たての頃のことをいじられるのです

    が、最後は決まって『成長したね〜』

    と言って泣かれます(笑)」

    広告も製品も次々と類似品が出て

    くる時代だが、研究開発を重ね、苦

    労の末に作り上げたホットクレンジン

    グゲルは他社には真似できないという

    自負がある。だからこそ広告作成に

    おいても、お洒落な流行りのキーワー

    ドだけ散りばめたり、難しい専門用

    語や化学成分を引っ張り出したりす

    るような真似はしない。納得して買っ

    てもらうために「伝わるか否か」を

    第一に考え、「売上げに繋がらなけれ

    ば、その広告は無いに等しい」とまで

    言ってのける餅原は、今や厳しいリー

    ダーでもあった。

    そんな彼女は現在、訪日外国人へ

    のマーケティングにも挑戦中。海外事

    業部長を兼任している岩崎と共に働

    くことも増えた。広告業界の常識と

    して、卸の販売では訪日外国人に対

    する広告の効果は計れないとされてい

    るが、この数値化の仕組みを作りだ

    し、壁を打ち破ることが餅原の宣伝

    部リーダーとしての使命だ。

    最後に岩崎へのメッセージを聞く

    と、「売上げ100億円達成の起爆剤

    になりたい。任せてください!」と頼

    もしく語った。

    マナラに初めて出会うお客様に

    製品への情熱を伝えたいYukie Mochihara

    宣伝部

    リーダー

    餅原ゆき恵

  • 入社面接を受けたランクアップか

    らの通知|

    |||

    それは「不採用」。6

    年前、上山由紀に起きたことである。

    リーマンショックにより不動産ディベ

    ロッパーを一斉解雇された上山が、再

    就職のため応募書類を送った会社は

    180社。面接を受けたのが26社。

    その一つがランクアップだった。

    「面接で訪ねた時の社員の方々の挨

    拶がとても明るくて印象的でした。

    暗い世の中で、こんなに気持ちのいい

    会社があるのかと。それに化粧品も

    もらって使ってみた

    ら、肌の弱い私にも

    とても良かったんで

    す」そ

    こで上山は人

    事を掌握する日髙へ

    メールを送る。自

    分を不採用とした

    会社へ“

    感謝”

    を伝

    えるためだ。

    「残念ながら不採

    用でしたが、純粋にお礼を言いたか

    ったんです。『ありがとうございまし

    た。あんなに元気な会社ですごいで

    す』と書きました。それを岩崎が喜

    び、朝礼で発表してくれたと後で聞

    きました」

    そんな誠実な思いが伝わったのか、

    1カ月後、他部署の採用があるとの

    連絡が日髙から届き、今度こそ見事

    採用に。「本当にご縁ですね」と上山

    は振り返る。

    入社後はカスタマーサービス部のア

    シスタントとして勤務。コールセンタ

    ーがアウトソーシングされた現在は部

    のリーダーとして、センターのサポー

    トや、現場で判断できない重要事項

    のジャッジ、顧客対応などに取り組

    む。

     ランクアップのコールセンターのポリ

    シーは、徹底的に相手の立場になって

    寄り添うことだ。

    「注文を受けるだけでなく、相手の

    気持ちを汲み、なぜこうした質問を

    されるのか、どういう思いがあるのか

    考えます。また苦情であってもクレ

    ームでなく“

    ご指摘”

    と捉えるのが鉄

    則。相手は会社のためを思って言って

    くださっているのですから」

    コールセンターのオペレーター一人

    ひとりがランクアップの社員と同じ気

    持ちを持ってくれるよう注力するの

    も上山の務めだ。そのため熊本のコー

    ルセンターへの頻繁な出張、彼女曰く

    「トランシーバーのように」かけまく

    る電話、ビデオ電話でのやり取りを

    密に行う。また顧客の意見や要望は

    担当部署へ繋ぎ、重要ならば全社に

    周知する。

    「たとえばプレミアムクリームのスパ

    チュラ(へら)を長めに改良したり、

    ホットクレンジングゲルのチューブ口の

    サイズを大きくしたり…

    …。それも

    お客様の声から実現したものです」

     今はリーダーとして活躍する上山

    だが、入社直後は慣れない仕事に追

    われ、苦しい時期もあった。そのと

    き胸の内を尋ねてくれたのが岩崎だ。

    「面談で『辛い?』と聞いてくれたの

    で、『メールが多くて辛い』と正直に

    打ち明けたんです。1日に80通もの

    メールが来る上、CCでのメールだと

    どれが重要かもわからず混乱してい

    ましたから。そうしたら岩崎がすぐ

    『CC病やめようよ。CCダメ!』と

    お触れを出してくれたんです。社長

    なのに、こんなに話を聞いて改善して

    くれるんだ!と、とても嬉しかったの

    を覚えています」

    その一方、岩崎の常に明るくハッピ

    ーな人柄も上山のお手本である。

    「以前、グアムへ社員旅行をしたと

    きのこと。私達がホテルのエントラン

    スで、日本から遅れて到着する岩崎

    を待っていたら、アロハのワンピースを

    着て髪に花をつけた岩崎が『お待た

    せ!』って(笑)。今着いたばかりなの

    に誰よりもグアムを楽しんでいるハッ

    ピーさに感動しました」

    自分も置かれた場所で、岩崎のよ

    うにいつも精一杯明るく楽しく、向

    上心を持って生きたい。それが上山

    の抱く願い、そして夢である。

    企業家倶楽部 2015年12月号・26

    いつも明るく楽しくハッピー

    私も岩崎のように輝いていたい

    Yuki Kamiyama

    カスタマーサービス部

    リーダー

    上山由紀

  • 「しわ取りクリームを作るぞ!」

    卒業アルバムに、そんな将来の夢を

    綴った女子高生がいた。製品開発部

    の佐々木美絵である。その夢の通り

    美容業界に進んだ少女は大手化粧品

    メーカーの美容アドバイザーや、美

    容インストラクターとして活躍。だ

    が、その中で美容業界の現実や壁に

    ぶつかることとなった。

    「女性を美しくする化粧品を作りた

    いと思っていたのに、美容部員の立場

    では開発どころか発信もできない。そ

    れに絶望していまし

    た。また美容業界

    では土日出勤や午

    後11時頃まで店頭

    に立つのも当たり

    前。結婚や出産な

    ど将来に不安があ

    りました」

    そんな佐々木が

    派遣会社から紹介

    されたのがランクア

    ップ。美容相談室配属の正社員とし

    ての採用で、土日は休み。「それで即、

    『はい!行きたいです!』と手を挙げ

    ました(笑)」

    2010年の入社後は美容相談室

    を経て、翌年に誕生した製品開発部

    へ異動。佐々木はこう振り返る。

    「それまでも岩崎や日髙に試作品の

    感想を聞かれ、ざっくばらんにたく

    さん意見を言っていたんです。しかも

    高校時代からの想いを叶えられる製

    品開発部は、私にとって夢の世界。

    少しでも多くの方に『本当にきれいに

    なれた』と実感してもらえる製品を

    作りたい!とワクワクしました」

     以来、製品開発に注ぐ佐々木の情

    熱はすさまじい。納得できる製品を

    目指し、研究スタッフとは激しい“

    防”

    を繰り広げる。

    「『もう少しつるっとした感触で』な

    んて感覚的なニュアンスで希望を伝え

    たり、普通はありえない成分同士の

    組み合わせを“

    ムチャぶり”

    したり

    ……

    。研究のスタッフは『この野郎!』

    と思ってるでしょうね(笑)」

     そんな格闘の末、生まれた製品の

    一つがモイストウォッシュゲル。肌を

    乾燥させる洗浄成分はゼロ、大部分

    が美容液成分の画期的な朝用洗顔料

    だ。自分自身が乾燥に悩んでいた佐々

    木が「出したい!」と熱望。最初は

    疑問視していた岩崎も「もう負けた

    よ。面白いかもしれない」と折れ、

    発売してみれば大ヒットとなった。

    佐々木の熱意と信念の勝利である。

    「そんなふうに社員の声を丁寧に聞

    いて反映してくれる風通しのいい社風

    に感謝です。岩崎はとにかくエネル

    ギーとパワーがキラキラしています

    ね。それにフットワークが軽く、行

    動力もすごい。何事も思い立ったら

    すぐ電話して聞いてしまう」

    その岩崎が佐々木の入社以来、何

    度もかけてくれた言葉がある。

    「何人でも子供を産んで、何回でも

    会社に戻って来てね」

     その言葉に安心した佐々木は実

    際、2011年に第一子を出産して

    翌年復帰。実は現在も育休中で、来

    年4月に復帰予定だ。この取材の日

    も6カ月になる第二子、可愛い長男

    を連れての登場であった。

    「育休中もSNSで会社の情報は入

    ってくるし、パーティなど会社のイベ

    ントや、福利厚生の部署ランチに子ど

    も連れで行くこともしばしば。だか

    ら“

    浦島太郎状態”

    になることはあ

    りません。実際、最初の育休から復

    帰したら、まったく変わらない懐か

    しい顔ぶれと新しい社員が迎えてくれ

    て、とても嬉しかったですね」

    そう語る佐々木が見るランクアップ

    の強みとは、まさにその社員達だ。

    「全員がランクアップにもっと良くな

    ってほしいと願い、そのために自分が

    何をすべきか考えながら真剣に仕事

    をしています。私もそんな環境でも

    っと成長していきたいですね」

    高校時代から憧れた世界で一人の

    働くママとして奮闘する佐々木。全

    女性の悲願、究極のしわ取りクリー

    ムの誕生も夢ではないかもしれない。

    27・・企業家倶楽部 2015年12月号

    少女の頃から夢みた世界で

    納得のいく製品づくりに奮闘

    Mie Sasaki


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