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人材派遣業界における顧客満足度の決定要因
~差別化戦略を実現するために~
2010.9.12
プロジェクト研究Ⅰ 丹沢研究室
0951101001E 越前谷 学
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目次
1. 問題意識(1)人材派遣業界の成り立ち(2)人材派遣市場拡大の背景(3)人材派遣業界の現状差別化の必要性
2. 先行研究人材ビジネスの課題 Five Forces分析 所有権理論
3. 仮説
4. 検証
5. 結論と今後の課題
6. 参考文献
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1 - (1) 人材派遣業界の成り立ち
人材派遣業とは企業から業務の依頼を受け、派遣会社がスタッフの選任をし、役務の提供を行う
ことである。1986年12月に労働者派遣法が施行され、人材派遣ビジネスが開業される。その後数度
にわたる規制緩和により派遣可能業務が開放されたことにより、人材派遣市場は急激に拡大した。
42010/6/20日本経済新聞朝刊
1999年以降、人材派遣市場は段階的に規制緩和を進めてきた。2004年3月には製造業派遣が解禁され、人材派遣市場は一気に拡大。ピークの08年度には国内の派遣労働者は400万人近くに達した。ただ、08年秋の金融危機後の雇用調整に伴い、製造業を中心に派遣社員の雇い止めが大量に発生。「派遣切り」などが社会問題化した。09年度の派遣労働者数は約230万人と前年より4割も落ち込んだ。
1 - (1) 人材派遣業界の成り立ち 変遷
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1 - (1) 人材派遣業界の成り立ち 派遣市場浸透率
欧州と日本では、派遣労働が果たした積極的な役割が認識され、過去10年間に派遣労働浸透率は着実に上昇し、
2007年にアメリカに追いつくという状態になった。2008年に欧米の浸透率はマーケットの経済危機の前兆を反映し
1.7%に下落したが、日本の浸透率は着実に上昇し2.2%に達した。
社団法人日本人材派遣協会 「世界の労働者派遣事業 主要統計調査2008」
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1 - (2) 派遣市場拡大の背景 労働市場の環境変化
◇高度経済成長の終焉◇尐子高齢化社会◇国際競争の高まり◇新興国台頭
◇労働力のポータブル化(雇用の流動化)
◇派遣労働市場の拡大◇一人当たり収入の伸び悩み
◇格差社会◇持たざる経営へのシフト(アウトソーシング拡大)
◇外部労働市場の活用◇労働三種の神器の崩壊
(終身雇用・年功序列・労働組合)◇労働分配率の低下・成果主義人事制度の導入◇女性の社会進出
構造(Structure)
行動(Conduct)
成果(Performance)
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1 - (3) 人材派遣業界の現状 国別売上げ収益
2008年度は日本・アメリカ両国が共に売上収益で21%を占め市場を牽引した。イギリスは全体の15%
を占め、第3位に留まった。地域別で見ると、欧州が全体の48%、北米が24%、アジア・太平洋が23%
を占めた。
社団法人日本人材派遣協会 「世界の労働者派遣事業 主要統計調査2008」
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1 - (3) 人材派遣業界の現状 世界の派遣会社数
世界の人材派遣会社数は71,000社あり、日本が最大の派遣会社数を誇る。国別に比較すると欧州は
51%を占め、アジア・太平洋地域が30%、北米が11%である。日本・イギリス・ドイツのトップ3カ国で全
人材派遣会社数の58%を占めている。日本は約20,000社あり、他国に比べ競争は激しい。
社団法人日本人材派遣協会 「世界の労働者派遣事業 主要統計調査2008」
日本の派遣会社は乱立状態にある
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1 - (3) 人材派遣業界の現状 世界の派遣事業所数
世界各地に171,000事業所が存在する。全事業所中、アジア・太平洋地域が48%、欧州が33%、
北米が14%を占めた。トップ3ヵ国は日本・アメリカ・イギリスで全事業所数の69%を占めている。特に
日本は80,000以上の事業所があり圧倒的な数となっている。
社団法人日本人材派遣協会 「世界の労働者派遣事業 主要統計調査2008」
日本の派遣会社の一事業所あたりの収益は低い
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1 - (3) 人材派遣業界の現状 国内市場規模とシェア
2010/8/14 日本経済新聞朝刊
▼国内人材派遣業界のシェアはリーディング企業であってもシェア10%に満たない。上位5社のシェア合計でも僅かに21%である。
▼ハーフィンダール指数にて当てはめると、人材派遣市場は「完全競争」の状態であると考えられる。
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1 - (3) 人材派遣業界の現状 派遣社員の賃金下落
人材派遣料金の低迷が続いている。2008年のリーマン・ショック以降の景気低迷で、企業が人件費の抑制を続けているためだ。最悪期を脱して昨年に比べ需要は上向き始めたとの声は多いが、派遣時給の引き上げにはつながっていない。派遣会社間の料金競争も激化。企業の募集状況が好転したのは一部業種にとどまり、当面は厳しい雇用環境が続きそうだ。リクルートがまとめた「派遣スタッフ募集時平均時給調査」によれば、3大都市圏(関東・東海・関西)の6月の平均時給は前年同月比0.5%減の1450円。24カ月連続で前年実績を下回った。
2010/6/20 日本経済新聞朝刊
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1 - (3) 人材派遣業界の現状 派遣業界の利益構造
▼派遣料金のコストの70%は派遣スタッフへの賃金である。業界の平均的な利益率は僅か1.5%程度である。
▼企業努力による利益構造改革は可能だろうか?
注1 賃金に対する事業主負担割合は、労災保険 0.45%、雇用保険 0.9%、健康保険・介護保険 4.8%、厚生年金保険約7.5%(平成20年4月末現在)、これらが派遣料金全体に占める割合は合計約10.4%となる。
出典日本人材派遣協会
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1 - (3) 人材派遣業界の現状 今後の法改正問題
<22年の通常国会提出 労働者派遣法改正案まとめ>常時雇用される労働者以外の労働者派遣や製造業務への労働者派遣を原則として禁止するとともに、派遣労働者の保護及び雇用の安定のための措置の充実を図る等、労働者派遣事業に係る制度の抜本的見直しを行う。
▼ 登録型派遣の原則禁止(専門26業務等は例外)
▼ 製造業務派遣の原則禁止(常時雇用(1年を超える雇用)の労働者派遣は例外)
▼ 日雇派遣(日々又は2か月以内の期間を定めて雇用する労働者派遣)の原則禁止
▼ グループ企業内派遣の8割規制、離職した労働者を離職後1年以内に派遣労働者として受け入れることを禁止
⇒法案が可決されると最大で40万人の雇用が減尐する可能性有⇒人材派遣各社はビジネスモデルの転換を迫られている
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1. 問題意識 差別化の必要性
人材派遣業界を取り巻く環境 -外的・内的環境-
競合過多 × 収益力低下 × 法規制
このような状況下の中、人材派遣各社はどのような戦略を立て、生き残りを図るか?
Case Study▼コストリーダーシップ戦略は有効か?No,人材派遣業のコストはほぼ不変であり、原価率低減は至難の業である。企業努力では限界がある原価=派遣スタッフの時間給+社会保険料等
▼多角化戦略は有効か?Yes but…製品を持たない業界であることから、多角化戦略はデザインしにくい教育・研修等への進出の可能性はあるが、収益性は疑問である
▼差別化戦略は有効か?Yes,他社との障壁を上げることにより、その企業独自の優位性を保つことが可能となる
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2.先行研究① 人材ビジネスの課題
日本における人材関連ビジネスの発展と課題-人材派遣と職業紹介を中心にして- 東洋大学兼任講師 平野賢哉
アメリカにおいては人材関連ビジネス自体が成長産業として多くの雇用機会を提供しているように、雇用環境の厳しい日本においても、人材関連ビジネスが雇用機会を提供する、すなわち人材の社会的再配分の機能を果たすことが期待される。
これからの人材派遣会社に求められること▼単なる仲介業務ではなく、求職者の業務遂行能力を適切に査定すること▼カウンセリングや教育訓練を行うこと▼派遣スタッフ・求職者の能力評価システムを確立すること
派遣労働者のスキルを証明する公的な資格として、「事務専門士」制度があるが、十分に機能しているとは言い難い。複数の人材派遣会社に登録し、定着性があるわけではないため、業界として共通の能力評価システムの確立が求められる。
<考察>業界標準の能力評価システム、もしくは単独企業でも能力アセスメントの信頼性が高まれば差別化に繋がるのではないか?
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2. 先行研究② Five Forces分析
人材派遣業界
<新規参入の脅威>・メーカー、商社、銀行などの関連会社
・ネット広告求人企業
<代替品の脅威>・パート・アルバイトなど直接雇用・ハローワーク
<買い手の交渉力>・メーカー、商社、銀行などの一般法人
・官公庁などの公益法人
<売り手の交渉力>・求人サイト運営会社・ネット広告企業
Five Forces
マイケル E.ポーター
人材派遣業界におけるFive Forces分析
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2. 先行研究② Five Forces分析
<Five Forcesによる分析>
◆新規参入の脅威製品、資産を持たないため、業界への参入障壁は極端に低い。規模の経済性は発揮できにくい。
◆業界内の競合企業との敵対関係製品、サービスの差別化が図りにくい為、超過利潤を得ることは難しい。
◆代替品の脅威人材の流動化が進み、オンライン・インタラクティブな移動が可能となる。労働力過多になるとパート・アルバイトなどの安価な労働力に取って代わられることがある。
◆買い手の交渉力買い手の交渉力はマーケットの景気に左右される。景気が良い時は労働力が必要となるため交渉力は弱まる。逆に景気が悪く、労働力が過剰になってくると買い手の交渉力は強まる。
◆売り手の交渉力買い手の交渉力と同様に、マーケットの景気に左右される。上述とは逆の動きになる。
※その他要因として、今後の法規制により市場自体の縮小が予測される
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2. 先行研究③ 所有権理論
<所有権理論>
新制度派経済学の一分野で主に財の発生させるプラス・マイナスの外部性に対して所有権がどのような働きをするかを分析する経済理論である。
「所有権」の定義▼財のある特質を自由に使用する権利▼財のある特質が生み出す利益を獲得する権利▼他人にこれらの権利を売る権利
「所有権」の特徴▼所有権は分割されたり、統合されたりする▼所有権は強化されたり、希薄化されたりする▼所有権は人に帰属されたり、人から取り去られたりする
所有権理論では「所有権」の概念は、法律上で使用される定義に比べて弾力的に使われる。たとえば、企業組織内のある職務につくメンバ-は、経営資源としての人、物、金、そして情報を使用する権利をもつ。このような権利もまた、所有権理論では「所有権」として扱われることになる。
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2. 先行研究③ 所有権理論
<考察>登録型の派遣スタッフの平均登録会社数は3~4社程度と言われている。派遣会社1社だけに帰属してしない派遣スタッフに所有権を設定することが可能か?特定派遣への移行が差別化戦略に繋がるか?
登録型派遣派遣会社に登録し、仕事がある時だけ働く雇用形態。
仕事をしている期間(派遣契約期間)は派遣会社の雇用となるが、派遣契約期間が終わった時点で雇用関係も終了する。
登録は比較的安易にできる。
特定派遣派遣会社の正社員(もしくは契約社員)として派遣先にて勤務する。
派遣先との契約期間が終わっても派遣会社との雇用関係は保持される。登録型に比べ、登録(契約)のハードルは高い。
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3. 仮説 派遣業界の特色と顧客満足度の決定要因
<派遣業界の特色>
▼特定の商品(Products)を持たない▼サービスの制御が難しい▼顧客はB to B + B to C
顧客満足の決定要因を探り、新しい決定要因を見つけることができれば差別化につながる。
差別化のためには顧客満足度の決定要因を探ることが必要である
派遣会社
企業 派遣スタッフ
B to CB to B派遣会社にとってはどちらもお客様
派遣業界の商品(サービス)=派遣スタッフの生み出す労働力 + 派遣会社の提供するサービス
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3.仮説 顧客満足度の構成要素
人材派遣会社選定の決定要因
派遣スタッフクオリティ
(業務遂行スキル)
派遣スタッフクオリティ
(ヒューマンスキル)
派遣会社の対応力
ブランド・問題解決能力
派遣会社の対応力
登録者数/地域補完性
派遣スタッフ
派遣会社
形式知
暗黙知
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顧客満足度=
コスト×派遣スタッフの質×人材派遣会社の対応力
顧客満足度 コスト スタッフの質 対応力
高 低 高 高
低 高 低 低
4.検証 顧客満足度の決定要因
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4.検証 顧客満足度の決定要因
派遣会社の対応力
派遣スタッフの質
高
低
高低
顧客満足度
コストが一定であれば顧客満足度は「派遣スタッフの質」と「派遣会社の対応力」の2軸にて表される
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5.結論と今後の課題
-要因と今後の課題-
▼人材派遣会社の対応力の向上
顧客満足度をコスト×派遣スタッフの質ということだけでなく
派遣会社からの付加価値を増大させることが必要となる
▼派遣スタッフの質を評価する仕組みづくりの創出
▼顧客満足度を図る数値を業界標準(ディファクトスタンダード)にする
人材派遣会社は単なるマッチングビジネスでは今後の成長は見込めない
差別化を推し進めることが、過当競争の中で生き残る唯一の方策である
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6.参考文献
▼競争の戦略M.E.ポーター (著), 土岐伸 (翻訳), 服部照夫 (翻訳), 中辻万治 (翻訳)
▼菊澤研宗 『組織の経済学入門ー新制度派経済学アプローチ』
▼日本における人材関連ビジネスの発展と課題-人材派遣と職業紹介を中心にして- 東洋大学兼任講師 平野賢哉信州短期大学紀要40-53,2001
▼社団法人日本人材派遣協会「世界の労働者派遣事業 主要統計調査2008」
▼CIETT「The agency work industry around the world 2010 edition」
▼厚生労働省 定期刊行資料賃金構造基本統計調査
▼総務省 労働力調査