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[研究ノート] 「政策の窓」モデルを用いた大学入試政策の分析 可能性 中村 恵佑 1.本研究の問題設定 現在、高大接続改革の一環として大学入試改革が本格化している。この改革 では、学力試験中心の大学入試を見直し、記述式や英語の四技能の測定等を導 入した新共通テストの創設、アドミッション・ポリシーの強化等による多面的 な入試方法の促進等の大幅な改革が目指されている。このような大規模な改革 は共通一次試験やセンター試験の導入等これまでも行われたが、高大接続の問 題の解決を意識している点や、「非認知能力」等の多様な能力の評価を具体的 に推進している点で特異な改革である。この改革の方向性は、少子化や大学進 学率の上昇等による従来の大学入試の機能不全等が指摘される中で特に1990年 代後半から審議会等で次々と提案され(根津 2016 17~18頁)、今回の改革で 漸く実行に移される。以上を踏まえ、本論文では公共政策学の分析枠組みであ る「政策の窓」モデル(キングダン 2011=2017)を用いて「なぜ今、長年の 懸案事項だった大学入試の抜本的な改革が実行されたのか (1) 」という疑問を 明らかにする。 2.本研究の意義 現在の大学入試改革についての通説的な理解は、新自由主義というイデオロ ギーの下グローバル人材の育成を標榜する第二次安倍晋三政権や財界のトップ ダウンにより改革が実行されたという見解である。しかし、この理解だけでは 本論文の疑問への応答として不十分である。例えば、森喜朗政権も新自由主義 的教育改革をトップダウンで実行しており、内閣直属の教育改革国民会議は大 学入試改革について現在の改革と類似の内容を提言したが実行されなかった。 すなわち、新自由主義というイデオロギーやトップダウン型改革という政治的 要因のみに着目して現在の大学入試の政策決定や改革の実行を説明することは 184 日本教育政策学会年報 第25号 2018年
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[研究ノート]

「政策の窓」モデルを用いた大学入試政策の分析可能性

中村 恵佑

1.本研究の問題設定現在、高大接続改革の一環として大学入試改革が本格化している。この改革では、学力試験中心の大学入試を見直し、記述式や英語の四技能の測定等を導入した新共通テストの創設、アドミッション・ポリシーの強化等による多面的な入試方法の促進等の大幅な改革が目指されている。このような大規模な改革は共通一次試験やセンター試験の導入等これまでも行われたが、高大接続の問題の解決を意識している点や、「非認知能力」等の多様な能力の評価を具体的に推進している点で特異な改革である。この改革の方向性は、少子化や大学進学率の上昇等による従来の大学入試の機能不全等が指摘される中で特に1990年代後半から審議会等で次々と提案され(根津 2016 17~18頁)、今回の改革で漸く実行に移される。以上を踏まえ、本論文では公共政策学の分析枠組みである「政策の窓」モデル(キングダン 2011=2017)を用いて「なぜ今、長年の懸案事項だった大学入試の抜本的な改革が実行されたのか(1)」という疑問を明らかにする。

2.本研究の意義現在の大学入試改革についての通説的な理解は、新自由主義というイデオロギーの下グローバル人材の育成を標榜する第二次安倍晋三政権や財界のトップダウンにより改革が実行されたという見解である。しかし、この理解だけでは本論文の疑問への応答として不十分である。例えば、森喜朗政権も新自由主義的教育改革をトップダウンで実行しており、内閣直属の教育改革国民会議は大学入試改革について現在の改革と類似の内容を提言したが実行されなかった。すなわち、新自由主義というイデオロギーやトップダウン型改革という政治的要因のみに着目して現在の大学入試の政策決定や改革の実行を説明することは

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できず、より詳細に政策形成・決定過程を分析することでそれ以外の要因がどのように政策決定や改革の実行に寄与しているかを検討する必要がある。以上のような大学入試政策の政策形成・決定過程の分析は以下に述べるような重要な意義を持つ。従来の大学入試政策研究では大学入試の「政策・制度内容」に関する研究が主流だった。例えば、AO入試やセンター試験の方式や内容の問題点を指摘しその改善を提起する研究(佐々木 2012等)、各国の入試制度を比較する研究(中島編 1986等)等が一般的である。一方で、大学入試の「政策形成・決定過程」に関する研究については、その過程を叙述する研究はあるが、分析枠組み等を用いて体系的な分析を行ってはおらず研究の蓄積が非常に少ない(2)。しかし、こうした研究は政策決定を改善する可能性を持つ。例えば秋吉は、公共政策学において政策過程分析を意味する「of の知識」について、政策の決定、実施、評価に際して、政策分析等によってもたらされた知識が「どのように活用されていたのか、もしくは活用されなかったのかということに留意し」、そうした知識の「活用の様態に影響を及ぼした要因について分析」することで「政策決定を改善するための知識が提供される」としている(秋吉 2015 23頁)。大学入試政策研究について言えば、政策・制度内容の研究により浮かび上がった大学入試の問題を改善する政策案が政府で形成され決定事項になるためには、どのような条件や要素が揃った政策形成・決定過程を踏むべきかを分析することが重要である。具体的には、各アクターが大学入試に関する問題をどのように認識していたかという点と、具体的な政策案が各アクターによりどのように形成され決定事項となったかという点に着目して分析を行う。このような各アクターの問題認識と政策形成の流れを踏まえた鳥瞰的な分析により、イデオロギーや政治的要因だけに還元されない大学入試改革が実現に至る条件が見出されるだろう。以上より、本研究は政策・制度内容の分析が中心だった大学入試政策研究に政策形成・決定過程の分析を加え、そこから新たな知見を得るという学術的意義を有する。またそれにより適切な大学入試政策の形成やその決定の実現に有益な知見を与えられるという社会的意義も有している。

3.「政策の窓」モデルの概要 (3)

キングダンは、アジェンダ・セッティングやそのアジェンダ(4)に関わる政策案の作成・列挙を左右する要因とは何かという問題関心の下、政策過程を

「政策の窓」モデルを用いた大学入試政策の分析

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「政策の窓」モデルによって捉える。このモデルでは、政策過程に「問題」、「政策」、「政治」の「三つの流れ」が各々独立して存在しているとする。「問題の流れ」においては、現状に関する指標、劇的な出来事や危機の発生、現行のプログラムに関するフィードバックという三つの要因により問題の認知が促される。「政策の流れ」の中には、議員や行政官、専門家といった多様なアクターが供給する様々なアイディアが存在し、それらが議論を通じて修正され、最終的にごく少数のアイディアのみが検討対象となる。「政治の流れ」は、政策形成に携わる人々が特定の時期に特定の政策案に対してどの程度受け入れの姿勢を示すかに関わり、その姿勢は、国民のムード、利益集団の支持もしくは反対、議会における勢力図の変化や行政府における重要人物の交代等によって左右される。これら「三つの流れ」が、後述の「問題の窓」又は「政治の窓」の開放により合流したときに特定の政策案が提示され、大規模な政策転換も起こり得る。この決定的な瞬間の到来を「政策の窓」の開放と表現する。以上のように、「政策の窓」モデルの特徴のうち、特に「政策過程全体を考慮に入れ」(松田 2012 40頁)て政策転換を分析する視点が現在の大学入試改革の要因を鳥瞰的に分析するために特に重要な視点となると考えられる。

4.事例分析本節では、大学入試改革が提案された森政権当時と比較し、現在の改革が実行できた理由の検証を「政策の窓」モデルを用いて行う。森政権下の教育改革国民会議は、新自由主義的教育改革を提言した点で第二次安倍政権と共通しており、大学入試改革に関しては記憶力偏重の大学入試を改めその多様化を目指すという理念の下、各大学がその理念や目標に基づき、年複数回行い学年を問わず何度でも受験できる高校での学習達成度試験、面接、小論文、推薦、あるいはこれらを総合的に行うアドミッション・オフィス入試等を採用し大学入試を多様化することを提言した。しかし、そうした学習達成度試験は導入されず、またアドミッション・ポリシーを明確にした入試の多様化を促す積極的かつ実効的な政策を行ったとは言い難い(5)。このように森政権の教育政策は第二次安倍政権と共通点がありつつも大学入試改革が実行されなかったという点で、現在の改革(6)が実行された理由を検討する上での比較対象として適している。現在の改革に関してまず「政治の流れ」を概観すると、2012年12月の衆議院議員選挙で自民党が圧勝して与党に復帰し第二次安倍政権が誕生した出来事が

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流れの契機となる。当時の政権公約の中では、「教育再生」という理念の下に大学入試改革を含めた多くの教育改革が列挙され(2012年自民党政策パンフレット 10頁)、選挙に勝利した後、安定した政権運営の下で内閣に設置された教育再生実行会議が大学入試改革を含めた新自由主義的な教育改革を具体的に提言していった。一方森政権は第二次安倍政権ほど政権運営が盤石ではなかったが、教育改革国民会議が多くの新自由主義的な教育改革案を検討しており、その中では大学入試改革も検討対象となっていた。このように、新自由主義的な教育改革を標榜する政権がトップダウンにより次々と大学入試改革を含めた教育改革を検討・推進していったという「政治の流れ」があり、その中で入試改革が「政府アジェンダ」となったと考えられる点が両政権に共通している。次に「問題の流れ」についてだが、ここでは「カテゴリー」という概念に着目する。キングダンは、「状況は、われわれがその状況を変えるために何かするべきであると信じるようになって初めて問題として定義され」るが、その際状況が「ある特定のカテゴリーに分類されることによって、そのカテゴリーの問題として定義される」と述べる(キングダン 2011=2017 198頁=263頁)。そして、「おかれたカテゴリーの違いによって、人は全く異なった形で問題をとらえる」がゆえに「問題の定義をめぐる闘いの多くは、使われるカテゴリーとその使われ方に集中する」と指摘する(同上 111頁=152頁)。以上を踏まえ両政権の状況を概観する。森政権当時、中央教育審議会の1999年12月の答申で初等中等教育と高等教育との接続を重視した入学者選抜の改善が提起されていたが、教育改革国民会議は「一人ひとりの才能を伸ばし、創造性に富む人間を育成する」(教育改革国民会議報告 項目3)という問題意識から入試改革の提案を行っており、「高大接続の改善」という問題認識は殆どなかったと言える。すなわち、大学入試の状況のカテゴリーの仕方が中教審と教育改革国民会議とで異なったため「問題の流れ」が弱かった。一方現在の改革では、教育再生実行会議の第四次提言が、これからの世界や日本を担う人材の育成に当たって必要な多様な力を伸ばす高等学校と大学の間をつなぐ大学入学者選抜が、高等学校や大学の教育に大きな影響を与えていると指摘し、大学入試の改善のみを問題にせず、「高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の在り方について、一体的な改革を行う必要」があると提言している。これは中教審の2014年12月の高大接続改革に関する答申の方向性と一致する。このように森政権当時とは異なり、教育政策を主に形成する中教審と教育再生実行会議が揃って大学入試

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の状況を「高大接続の問題」としてカテゴリーすることで、強い「問題の流れ」を作り出すことができた。最後に「政策の流れ」については、現在の改革において新たに導入される二つの新テストの政策案は第四次提言内の「達成度テスト」であるとの指摘が多い。しかし、それが発表される以前に、例えば、国立大学協会、日本私立大学連盟、全国高等学校長協会、日本私立中学高等学校連合会、大学入試センター等の諸団体代表を含む「高校段階の学力を客観的に把握・活用できる新たな仕組みに関する調査研究」で「高大接続テスト」という政策案の検討が行われていた(佐々木 2016 17~18頁)。また、2012年に中教審に設置された高大接続特別部会が、「達成度テスト」案が発表される以前の第6回部会で「高等学校学習到達度テスト(仮称)(7)」を審議し、その後に出された第四次提言も踏まえ審議が継続され、前述の2014年12月の中教審答申が発表された。更に、各大学の入試における多面的・総合的評価方法の確立や多様な背景を持つ受験者の選抜といった大学入試の多様化政策については、ディプロマ・ポリシーとカリキュラム・ポリシーと合わせアドミッション・ポリシーの策定を各大学に省令により義務付けそれらのガイドラインを文部科学省が策定する(中教審大学分科会大学教育部会 2016)という新たな政策が行われた。これも、高大接続特別部会の議論をまとめた2014年12月の中教審答申の「各大学においては、それぞれの強み、特色や社会的役割に応じたアドミッション・ポリシーが策定されることが必要であ」り、「国は、各大学におけるアドミッション・ポリシーの策定について法令上位置付けるよう検討する」(24頁)という政策案が発端となっている。すなわち、現在の改革までに高大接続という問題把握を基にした調査研究チームや高大接続特別部会のような有識者会議が設置され大学入試改革に関する政策案が練られており、その方向性に沿う政策案が教育再生実行会議から出された際にそれらの作成を加速させられたという「政策の流れ」があった。一方森政権当時は、共通テスト改革に関しては、前述の1999年の中教審の答申で大学入試センター試験の改善が提唱されたが(第5章第4節)、高等学校での到達度評価のための全国レベル等の共通試験には否定的だった(第2章第3節)し、アドミッション・ポリシーを前提とした大学入試の多様化も提案されていたがそれに対する実効的な方策が提案されたわけではない(第5章第3節)。結果、教育改革国民会議が学習達成度試験や入試の多様化を提言してもそれを着実に推進するために利用できる政策案が十分に練られていなかっ

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たという点で「政策の流れ」が生じなかった。以上のように現在の改革の実行までに「三つの流れ」が形作られていたが、

「政策の窓」が開き改革が実行されるにはこれらが合流する必要がある。キングダンは、「政策の窓」は「問題の流れ、あるいは政治の流れの中で生じる出来事によって開く」と指摘しており、そうした出来事を各々「問題の窓」と「政治の窓」と呼んでいる(キングダン 2011=2017 203頁=270頁)。現在の改革では、特に二段階の「政治の窓」の開放という決定的な瞬間によって流れが合流したと考えられる。第一段階は、教育再生実行会議が高大接続改革の一つとして現在の大学入試改革を提言したことである。ここで提言された「達成度テスト」や多面的・総合的に評価・判定する入試等具体的内容を含む改革案が高大接続特別部会で審議対象となり、それまでに部会で検討されていた改革案と合流した。すなわち、提言によって中教審と教育再生実行会議という二つの政策提唱者が結びつき「政策の流れ」を強くすることができた。第二段階は、上記改革案を踏まえた2014年12月の中教審答申を受け、具体的な改革の方向性が2015年1月の文部科学大臣決定の「高大接続改革実行プラン」で示されたことである。当時の文部科学大臣だった下村博文は、教育改革や教育再生を自らの政策理念として数々の教育関係の役職を歴任し(下村博文公式WEB「プロフィール」)、大学入試改革に対しても強い決意を持っていた(8)。ゆえに、中教審答申の約一か月後に速やかに同プランを作成し「三つの流れ」の合流の好機を捉えられた。以上の二段階の「政治の窓」の開放(9)が契機となって、「政治の流れ」が他の二つの流れを巻き込む形で「三つの流れ」が合流して改革が「政府アジェンダ」から「決定アジェンダ」となり「政策の窓」が開き、その後、正式な決定・実行に向け高大接続システム改革会議やワーキンググループ等で具体的な政策内容の検討が行われた。一方森政権では、これまで見てきたように内閣直属の教育改革国民会議による大学入試改革を含めた様々な教育改革の検討という「政治の流れ」が存在し、その最終報告の中に大学入試改革が具体的に提言されることで「政治の窓」も開かれたが、「問題の流れ」と「政策の流れ」が弱かったあるいは生じなかったために「三つの流れ」が合流して「政策の窓」が開くことはなく、結果的に抜本的かつ具体的な改革は実行されなかった(10)。以上の結論を整理して図化すると次ページの図1、2のようになる。

「政策の窓」モデルを用いた大学入試政策の分析

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5.まとめと含意本論文では、なぜ現在の大学入試改革が実行されたのかという問いを「政策の窓」モデルを用いて検証した。現在の改革では、高大接続の改善の認識で一致したという「問題の流れ」、その問題の解決のための詳細な政策案が予め作成されるという「政策の流れ」、そして教育改革を強力に推進する政権への交代や内閣直属の教育改革を推進する諮問会議が存在した「政治の流れ」という「三つの流れ」があった。そして、第四次提言を契機として改革案が完成したことと、改革に強い意欲を持った文部科学大臣による改革の決定という「政治の窓」が契機となって「三つの流れ」が合流し、「政策の窓」が開き改革が実行された。一方森政権当時では「政治の流れ」や「政治の窓」は存在したが、「問題の流れ」や「政策の流れ」が弱かったあるいは生じなかったことで「三つの流れ」が合流せず抜本的かつ具体的な改革が実行されなかった。以上より、政治主導の有無は現在の改革で重要な位置を占めるが、適切な問題認識とそれが反映された詳細な政策案の作成という各々の流れと、ある時点でそれらが合流するという条件も必要となることが示された。また、政策内容に着目すると大学入試政策に大幅な変化がないように見えても、政策形成・決定過程に着目することで、この十数年は改革の条件を整えるために必要な準備段階でありその意味で大学入試政策は着実に変化していたという新たな知見が得られた。更に、本研究の視点は日本の教育政策研究にも理論的な貢献をなしうる。二宮(2005)は日本の教育政策一般に「政策の窓」モデルを適用できる可能性を示している。そこでは、「三つの流れ」の概念によりそこで交渉等を行う各アクターの限定された役割が明らかになる中で、「政策形成への影響力の強い」アクターでも、「その意志が『権威的決定点』に辿り着かない」こと

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図1 「第二次安倍政権下の大学入試改革における三つの流れ」(著者作成)

図2 「森政権下の大学入試改革における三つの流れ」(著者作成)

を説明できると述べている(85頁)。同論文ではそうしたアクターに内閣は挙げられていないが、昨今の教育政策形成には内閣が強い影響を与えていると考えられる。しかし、大学入試政策のように内閣の提案内容が全て実行されるとは限らず、本研究の分析視角を用いて「問題の流れ」や「政策の流れ」を含む政策形成・決定過程全体を分析することで、教育政策の変化には内閣の影響力以外にいかなる条件が必要かを具体的に明らかにできると考えられる。本分析では、各会議を構成する大学、高等学校、PTA、産業界の関係者・団体や文教族等、個々のアクターの動向には焦点を当てられなかった。そうしたアクターが、「三つの流れ」の創出とそれらの合流という条件が揃う際にどのような役割を果たしているかを分析することで、「三つの流れ」の構造をより深く探索できる。

注(1)政策の形成・実行は、①アジェンダの設定②政策代替案の生成・特定化③

政策代替案の正式な決定・正当化④決定・正当化された政策の実行というプロセスに分かれるが、「政策の窓」モデルは①②③を分析・解明しようとする(小島 2003 16~17頁)。よって「大学入試改革の実行」までの段階とは、現在の大学入試改革の具体的な実施内容・方法が文部科学省により正式に決定される段階である。具体的な実施内容・方法は現在検討中だが、その改革の原案である2015年1月の文部科学大臣による「高大接続改革実行プラン」が第4節で述べるように決定的に重要であり、本論文ではその発表までを分析対象とする。

(2)朴(2014 32頁)は韓国の高等教育政策とその先行研究を概観し、韓国の大学入試政策に後述の「政策の窓」モデルの「三つの流れ」の構図が見られると指摘するが、実際に分析はしておらず、また「政策は、過去に行われた政策を参考にしながら修正を加えられる増分的なものか、それとも政府が変わるたびにまったく新しい政策が考案・実施されるのか」という関心に基づいており、本研究の関心とは異なる。

(3)本節の「政策の窓」モデルに関する説明・表現は、松田(2012 31~46頁)を参考にしている。

(4)ここで言う「アジェンダ」とは、「政府の公職者や政府の外側でこれらの公職者と密接に連携する人々が、特定のときに、かなり真剣な注意を払う主題や問題のリストのこと」である。特に、「注目を集めつつある主題のリスト」である「政府アジェンダ」の中で「積極的な決定の候補になっている主題のリスト」である「決定アジェンダ」が、後述の「政策の窓」の開放によって影響を受ける(キングダン 2011=2017 3~4頁、166頁=16頁、

「政策の窓」モデルを用いた大学入試政策の分析

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222~223頁)。(5)小谷野(2014 55頁)は、「『入試の多様化』は、主に私立大学および中・

低難易度の国公立大学における学力試験を伴わない定員の拡大により生じている」一方で、「高難易度の国立大学における学力試験重視の姿勢は変化していない」と指摘している。

(6)本分析では、現在の大学入試改革の中で重要な改革と位置付けられかつ森政権の改革とも類似する、「大学入学共通テスト」と「高校生のための学びの基礎診断」の新設を柱とした共通テスト改革と、大学入試の多様化を企図したアドミッション・ポリシーの義務付けという二つの抜本的な改革に着目する。なお「高校生のための学びの基礎診断」は、「高大接続改革実行プラン」において「高等学校基礎学力テスト(仮称)」として提案されており、大学入試に活用されることも想定されていた(3頁)ことから、当初は同テストも大学入試改革の一つとして捉えられていたと考えられる。

(7)全国規模で行う到達度を把握する希望参加型のテストであり、その成績により AO・推薦入試の場面等の対外的な場面で学力を証明するものとして活用されることが構想されていた(第6回高大接続特別部会 配布資料7(概要))。

(8)下村は、今の学校教育を変えるための一つの方法として大学入試を抜本的に変えるべきだとし、「現在の大学入試のシステムを維持したら、100%、日本は沈没する」と述べている(下村 2014 24~25頁)。

(9)大学入試改革の「政治の窓」が開いたのは大学入試改革を教育改革の一つとして標榜した自民党が政権復帰した時だとも考えられるが、その提言内容が抽象的であったことや、数ある教育改革の中で入試改革がどの程度優先されるかが不透明であったことを考えると、その時点で「政治の窓」が開いて「三つの流れ」が合流したと言うことは早計であり、あくまで大学入試改革に向けての「政治の流れ」が創出されたに過ぎないと判断する方が妥当である。

(10)最終報告に出た様々な教育改革案が、約一か月後に文部科学省によって作成された「21世紀教育新生プラン」として具体化され、その多くが法案提出や予算案の具体的な配当等により具体的に推進されたが、大学入試改革に関しては主に「各大学における取組の促進」と記すに止まっていた(文部科学省 2001)。

参照文献・秋吉貴雄(2015)「公共政策学とは何か?」秋吉貴雄、伊藤修一郎、北山俊哉『公共政策学の基礎 新版』、有斐閣

・教育改革国民会議(2000)「教育改革国民会議報告─教育を変える17の提案─」

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・教育再生実行会議(2013)「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について(第四次提言)」

・高大接続特別部会(第6回)議事録、配布資料7(2018.3.13情報取得)http: //www.mext. go. jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo12/gijiroku/1335886.htmhttp: //www. mext. go. jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo12/shiryo/attach/1334681.htm

・小島廣光(2003)『政策形成とNPO法─問題,政策,そして政治』、有斐閣・小谷野仁(2014)「セクターと難易度による分類の下での近年の大学入学者選抜の分析」繁桝算男編『新しい時代の大学入試』、金子書房

・佐々木隆生(2012)『大学入試の終焉─高大接続テストによる再生』、北海道大学出版会

・佐々木隆生(2016)「高大接続の過去とこれから─入試改革を超えるために」『教育と医学』第64巻第2号、慶應義塾大学出版会

・2012年度自民党政策パンフレット(第46回衆議院議員選挙 自民党政権公約)(2018.3.13情報取得)https://www.jimin.jp/policy/manifest/

・下村博文公式WEB「プロフィール」(2018.3.13情報取得)http://www.hakubun.biz/profile/

・下村博文(2014)「「教育再生」が目指していること【特別インタビュー】」『月刊高校教育』5月号、学事出版

・Kingdon, John W.(2011)Agendas, Alternatives, and Public Policies,Updated Second Edition, Boston: Longman[笠京子訳(2017)『アジェンダ・選択肢・公共政策 政策はどのように決まるのか』、勁草書房]

・中央教育審議会(1999)「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」・中央教育審議会(2014)「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」

・中央教育審議会大学分科会大学教育部会(2016)「「卒業認定・学位授与の方針」(ディプロマ・ポリシー),「教育課程編成・実施の方針」(カリキュラム・ポリシー)及び「入学者受入れの方針」(アドミッション・ポリシー)の策定及び運用に関するガイドライン」(2018.3.13情報取得)http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/houkoku/1369248.htm

・中島直忠編(1986)『世界の大学入試』、時事通信社・二宮祐(2005)「教育政策研究における政策過程アプローチの検討─「政策の窓」モデルの可能性」『〈教育と社会〉研究』第15号

・根津朋実(2016)「カリキュラム研究からみた「高大接続・連携」の諸課題─「教科課程」、「断絶」、「大学0年生」─」『教育学研究』第83巻第4号

「政策の窓」モデルを用いた大学入試政策の分析

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・朴炫貞(2014)『韓国型ロースクールの誕生─法曹養成にみる高等教育と政治体制─』、大学教育出版

・松田憲忠(2012)「キングダンの政策の窓モデル」岩崎正洋編『政策過程の理論分析』、三和書籍

・文部科学省(2001)「21世紀教育新生プラン」・文部科学省(2015)「高大接続改革実行プラン」

(東京大学・大学院生)

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