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研究レポート...研究レポート No.255 April 2006...

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研究レポート No.255 April 2006 国会活性化に向けた制度改革に関する考察 主席研究員 武石礼司 富士通総研(FRI)経済研究所
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研究レポート

No.255 April 2006

国会活性化に向けた制度改革に関する考察

主席研究員 武石礼司

富士通総研(FRI)経済研究所

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国会活性化に向けた制度改革に関する考察

主席研究員 武石 礼司 [email protected] 【 要 旨 】 日本は議院内閣制を採用しており、政治(統治)の中核を担う内閣が、議会の多数派の

支持を基盤に構成され、議会に対し責任を負っている。現在では世界中の殆どの国で、「行

政国家現象」と呼ばれる行政機能の拡大傾向が見られ、行政府の権限と機能の拡大の傾向

が生じている。他方、立法府である議会の地位は低下する傾向が見られる。しかし、行政

府が縦割り組織として形成されてきた弊害が、近年グローバル化が進む中で顕著となり、

行政府における改革も、内閣府の強化を始めとして徐々にではあるが進められている。 国会に関しても、国民から選挙により選ばれている議員で構成されるという利点を生か

せるよう改革を進め、実質的な審議を担うことが期待されている。ただし、法律案の与党

による事前審査が極めて大きな役割を果たす一方で、国会の委員会および本会議は審議時

間も短く、形式化してしまっている。実質的な審議の場としての機能を充実させるための

改革が必要となっている。 国会の委員会および本会議での審議スケジュール作りに内閣を関与させる、内閣による

法案の委員会提出後における修正の容認、与党閣外委員による質問の一部容認、委員会お

よび本会議の議事定足数規定の緩和、国会の委員会における法案の逐条審議の手続き規定

の作成、国会法の会期不継続原則(国会法 68 条)の改正、行政手続法への計画手続・行政

立法手続に関する国会関与の規定の追加、を行う必要が生じている。

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【 目 次 】

1.はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 2.改革の停滞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 3.国会の活動・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 4.政策決定システム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22 5.改革続行のための制度改正・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32

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国会活性化に向けた制度改革に関する考察

富士通総研 経済研究所 武石 礼司

[email protected].はじめに

本稿では、政策決定が行われるに際して、オープンな議論を経た上で、誰がどのように

して決定したのかが国民にわかる制度が導入されていることは、国民の政治に対する信頼

性を呼び覚まし、政治・経済・社会のあらゆる面での活性化等の様々な付随的な効果を引

き出すとの考え方に立ち、国の政策決定の透明性を確保するためには、どのような制度の

枠組みを構成することが望ましいか、必要な制度改革は何かを検討する。 一例をあげれば、エネルギー分野での規制改革は、近年、その進捗が停滞気味となって

いるが、一定程度の規制が必要とされる産業においても、その規制は過剰であったとの指

摘がなされており(鶴田 1997)、戦後 60 年を経た今日、制度の改革を続行させる必要性は

未だ大きいと考えられる。さらにいっそうの規制改革を進め、「管理されすぎる国家」(佐

藤ほか 1998 p.11)から脱し、需要家サイドから見た、公平・公正な制度枠組みを構築し直

す必要性が指摘されている1。特に、不徹底な自由化は超過利潤を生み出す場合があり、一

定程度までの徹底した自由化を進めることが、公平・公正な競争条件の整備に結びつく2。

1例えば、電力部門においても自由化が進むとともに、重要家に着目することが も重要となり、マーケテ

ィングおよびブランド戦略を立て、顧客本位のソリューションを提供する重要性が指摘されている(青木

および西村 2003)。 2経済産業研究所の戒能一成研究員が 2005 年 12 月に発表した「電気事業・都市ガス事業における政策制度

変更の定量的影響分析」(発行日/NO. 2005/12 05-J-034)によれば、

http://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/05j034.pdf、以下のように電力自由化の推進により成果があっ

たとの評価が出されている。

この論文では、地域別の一般電気事業者・都市ガス事業者の料金・価格設定や設備投資・操業費用の推移を

財務諸表などの公開文献を用いて模式的に再構成し、電気事業者・都市ガス事業者の経営挙動への政策制度

変更の影響を定量的に推計し、さらに総余剰変化とその分配を推計することにより、地域独占型の規制産

業に対する政策制度変更の有効性とその問題点を実証的に分析・評価することを試みている。

分析・評価の結果、電気事業・都市ガス事業とも、「部分自由化」などの政策制度変更の影響により、設備

投資の合理化や操業費用の低減など経営努力の強化が認められ、過去 15 年間の平均費用の 15~20%の低

減のうち 4~5%分が政策制度変更による影響であると推計されている。

電気事業においては、政策制度変更の前後を通じてこれらの平均費用の低減が産業用料金・価格と家庭用

料金に適切に反映され、総余剰変化は増加を続けるという結果となり、政策制度変更が経済厚生を有効に

拡大したものと推定された、としている。 一方、「都市ガス事業においては、政策制度変更上の問題に起因して、平均費用の低減が産業用料金・価格

には反映されたが家庭用料金には反映されなかった形跡があり、家庭用都市ガス市場では消費者余剰が増

1

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規制緩和を進める中で、従来型の制度の枠組みを変更していく必要性が生じていることは

確かであり、制度そのもの、つまり、政・官(国会、内閣、行政)の役割分担に関しても、

多くの改革の必要性が指摘されるに至っている3。参議院においては、国民に開かれた参議

院を目指すとして、改革を、すでに一部は実施している。制度改革は徐々にではあるがス

タートしていると言える4。 行政の側に関しても、縦割り行政が続いてきたことは、各省庁内部における政策形成過

程が外部からブラックボックスであることを意味する。政府の内部にいる行政官において

も、自己の所属する省庁における政策形成の実質的作法については、日常の業務を通して、

一定程度は把握できるとしても、他の省庁の作法が見えてこないという大きな問題を生じ

させることになった(城山ほか 1999)。 今回、国会、行政、政党の担当者に多数のインタビューを行いつつ考察を行う機会を得

たので、これらの情報を元に、当レポートを作成した5。 今後も、外部環境の変化に柔軟に対応しながら、規制改革・制度改革を続行させていく

ためには、政策決定ための制度的枠組みが柔軟性を維持している必要があると考える。そ

うした柔軟性を持った枠組みにおいては、どのような制度的工夫が施されている必要があ

るかについても、本稿では検討を行った。特に、現状の制度の手直しでどこまで状況が改

善されるのかを考察してみた。結論としては、国会法の部分改正、および、衆参両院での

慣行となっている議会および委員会手続きの改正を行うことで、国会の委員会および本会

議の活性化を図ることが可能であるとの結論に至った。こうした制度改正を行うことで、

衆参両院の審議の活性化を図ることができ、さらに、内閣の機能の活用にも結びつく。国

会の委員会と本会議という情報が開示される場を利用し、議論を尽くすことは、国民から

見てフェアーな社会、政策決定過程が容易に理解できるプロセスを確保していることを意

加しておらず、部分自由化と期を一にして都市ガス事業者の営業利益と自己資本が著しく拡大するなど、

経済厚生上の問題を生じた可能性が示唆された」、と述べている。ガス事業における自由化の進展とともに、

超過利潤が大手企業を中心として生じている可能性が指摘されており、今後、この論文の示唆する点を巡

ってさらなる検討が必要となっている。 3 1971 年にはすでに参議院問題懇談会が、「参議院運営の改革に関する意見書」を取りまとめており、参議

院の独自性をいかにして打ち出すかを検討している。その後、1977 年に「参議院の組織及び運営の改革に

関する協議会」が設置され、参議院における検討は継続して行われてきている。 近では、1999 年に設置

された「参議院の将来像を考える有識者懇談会」が 2001 年 4 月に意見書を提出している。 また、衆議院の側においても、2001 年に「衆議院改革に関する調査会答申」が出されている。 政府の側においても、1996 年 11 月に行政改革会議が設置され、97 年 12 月に本文 123 ページの 終報

告がまとめられた。次いで、具体的な改革プログラムを示す中央省庁等改革基本法が 1998 年に制定され、

これを受けて、内閣法の一部改正をはじめとする 17 件の中央省庁等改革関連法案、さらに内閣官房組織

令・内閣府本府組織令等の関係組織政省令の制定改廃が行われた。さらに、内閣・中央省庁の新体制が 2001年から開始されている。 4 参議院は、改革の一環として、国民に開かれた参議院とするための改革を進めてきている。本会議の傍

聴に対しても、2001 年よりは 10 歳以上の児童に対しても認めることとし、また、議事堂の見学について

も、平日であれば、本会議開会中を除き、予約なしでの個人の見学も受け付けている。 5 今回の調査を実施する元となる調査業務を委託して下さった大手エネルギー企業各社の皆様のご支援を

心から感謝申し上げる。多くのインタビューを実施する機会は、受託業務がなければ開始できなかったこ

とは明白である。

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味する。 今後のいっそうの規制改革の推進に向けて、政・官(国会、内閣、行政)の制度の分析

とその意思決定プロセスの理解、さらには、制度の手直しを進めていくことは、終わりの

ない仕事であるが、極めて重要な視点であることは確実である。規制改革を続行するとの

意見を集約できる場としての国会が機能し、制度的な担保が確立されれば、民意を反映し

ながら、様々な分野で、新しいコンセプトを持った事業体による参入促進が図られる可能

性が確保される。日本の競争力の源泉ともなるベンチャービジネスの芽、創意工夫に基づ

く新規参入を促すことも、このような制度的担保により可能性が拡大し、経済活性化が促

されることも期待できる。制度的基盤を確立する意義は大きい。

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2.改革の停滞 2.1 規制改革のための制度設置

現在では、「基本法」を策定・設置し、その下に個別法案を配置して、制度全体の整合性

を図るという方式が多く用いられるようになってきている。各省庁を横断的に取り込む必

要がある案件も増えてきており、各省庁の管轄範囲を超えた制度作りを積極的に進めてい

かないと、効率的な社会の形成は難しくなってきている。 広範な管轄部署がそれぞれ対応する必要がある案件においては、個別の法案ごとの整合

性をとるために基本法が制定されていることが問題の処理を簡便にする働きをする。こう

した方式は、傘を差した下に個別の法案を設置しているように見えることから、アンブレ

ラ方式、あるいは、フレームワーク方式と呼ばれている(作本直行編 2002 p.226)。例え

ば、行政改革全般に関しては、基本法としての「中央省庁等改革基本法」(平成 10 年 6 月

12 日法律第 103 号)が制定されている。 規制改革が進められてきているエネルギー分野を例として見ると、エネルギー政策の作

成と、その決定および実施の進め方は、図表1にあるように、2002 年 6 月施行のエネルギ

ー政策基本法(平成 14 年 6 月 14 日法律第 71 号)の下、エネルギー基本政策が策定される

ことで政策の基本となる方向性が打ち出されている。電力、ガス、石油、石炭、新エネル

ギー、省エネルギー等の制度の改革の促進および管理制度の改革等に関連する個別法案を、

一定の方針の下、整合性を持って利用していくためには基本法の存在は極めて重要である。 そのほか制度として見ると、図表1で示したように、資源エネルギー庁長官の諮問機関

として、総合エネルギー調査会が設置されており、この総合エネルギー調査会は長期エネ

ルギー需給見通しを作成している。この長期エネルギー需給見通しが、エネルギー政策基

本法で言うエネルギー基本計画作成をサポートする役割を果たすとされることになった。

なお、政府の説明によれば、長期エネルギー需給見通しは、定量的な見通しとして作成さ

れており、一方、エネルギー基本計画は、閣議決定により政府として策定する定性的な計

画であるとして、役割分担がなされている。 エネルギー政策は、内閣において閣議決定される。策定されたエネルギー基本政策に従

い、エネルギー政策が実施されることになる。

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図表1 エネルギー政策の作成と決定

出所)筆者作成

ネルギー政策基本法は、議員立法として、与党 3 党(当時)の議員により国会に提出

定を経るとされる。

、エネルギー基本政策の決定に関しては、現状では、国会は、決定された内容

与するとともに、環境省、国土交

政の産業育成面における主要任務は、「業界」と「業法」が存在する産業

国会 関与なし(報告を受ける)

内閣閣議決定

資源エネルギー庁長官の諮問機関

総合エネルギー調査会

長期エネルギー需給見通し作成 計画に従い実施

エネルギー基本政策を策定 達成度についても自主的に評価

エネルギー政策基本法

れたが、これは、特定の省庁のみにとらわれないで、政府の総意を上げた政策として、

エネルギー政策を纏め上げようとの意図からなされたものである。 エネルギー基本計画案は、経済産業大臣により作成され、閣議の決

らに、毎年、国会に報告するとともに、少なくとも 3 年ごとに検討し、必要に応じ変更

すると規定されている。 新のエネルギー基本計画は、2003 年(平成 15 年)10 月7日に

策定されており、3 年を経た 2006 年には、改定案が作成され、閣議決定される予定となっ

ている。 図表1で

つき報告を受けるのみとなっている。民主党は、現在実施されている閣議による決定か

ら、政党の選挙綱領として発表される政策の一環として国会の関与が求められるよう変更

し、国会が関与すべきであるとの提案を行っている。 現在では、エネルギー政策は、経済産業省が深く関

省、総務省、農林水産省は勿論、その他の省庁も関与せざるを得ない大きな問題とな

っている。 従来は、行

野においては、それぞれの業界と行政との間で連絡を密にし、輸出を伸ばし、米国を

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はじめとした諸外国からの外圧への対応を考えるということにあったと見ることがで

きる。しかし、例えば石油産業においては、石油業法は 2002 年 1 月に廃止されている。

業法がなくなった「業界」においては、従来型の産業育成を重視する政策からの変化が

生じざるを得ない。ルール依存型行政と言われるように、行政は公正・公平な競争が行

われるように、ルールを作り、監視機能を重視するように大きく役割を変えざるを得な

い。新たなコンセプト、あるいはビジネスモデルを持った他産業に属する企業が、既存

の業界の秩序には囚われずに新規に参入し、その参入が消費者から歓迎される状況があ

れば、それを見守ることが、行政に課された新たな役割になると考えられる。 こうした大きな変化が生じている以上、行政が作成する計画の内容においても、「規

を考えても明らかなように、エネルギー問題を考えることは、

に出された行革会議 終報告においては、行政事務の各省庁による分担管理原則

.2 立法府と行政府との関係

図表 2 は、日本が現在採用している議院内閣制において、立法府と行政府の関係がどの

る各省庁に対応する形で、与党自民党の

の果たすべき役割である。内閣総理大臣は、内閣を、国務

」を重視するのではなく、ビジョンの提示とその評価を重視するように重点項目が大き

く変化せざるを得ない。 ただし、エネルギー分野

境問題とも、農業問題とも、地方自治の問題とも、さらには外交問題とも関連してお

り、従来型の行政の縦割り組織に任せていたのでは対応仕切れない場合が非常に増えてき

ている。 1997 年

機能障害に陥っているとし、分担管理に由来する各省間の排他的・領土不可侵的所掌観

とそれに基づく行政運営を改める方策を示し、新たな省編成(行政目的と任務を軸にした)

と、新たな省間調整システムとして内閣官房・内閣府の活用を掲げている(稲葉 2001)。 2

うに理解されるかを示している。議院内閣制は、政治(統治)の中核を担う内閣が議会

の多数派の支持を基盤に構成され、議会に対し責任を負う体制とされる(高橋 2001)。この

制度の下、統治とコントロールを担当する部署は内閣であり、選挙と同時に首相と政策体

系の選択が行われることが議院内閣制の運用形態として望ましく、こうした形態を、高橋

(2001 同上)は「国民内閣制」と呼んでいる。 図表 2 では、内閣府を始めとして設置されてい

に部会が設置されている。これら部会は、自民党の中で、政務調査会の下に設置されて

いる。各省庁の大臣は、与党の一員であるとともに、行政府の長をも兼ねる立場にあるこ

とを図表 2 では示している。 ここで問題となるのは、大臣

臣により組織すると規定されている(憲法 66 条 1 項:「その首長たる内閣総理大臣及び

その他の国務大臣でこれを組織する。」との規定)。

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内閣総理大臣が選ぶのは、そもそも大臣ではなく、国務大臣であり、その内閣が、国全

表2 議員内閣制における立法府と行政府

のことを考えて政策決定を行うことが、本来、制度上は予定されている。この点は、内

閣法 4 条 1 項で「内閣は、閣議により、職権を行う」と規定されており、また、内閣法 4条 3 項により、「各大臣は、案件の如何を問わず、内閣総理大臣に提出して、閣議を求める

ことができる。」と規定されていることからも明らかである。このように、制度上は、国務

大臣は、内閣の一員として国政全般につき意見を述べ、議論をすることが期待されている

ことになる。 図

立法府 行政府    首相   与党    閣僚

  内閣府内閣部会国防部会

野党 総務部会外交部会財務金融部会経済産業部会 ........ ........

出所)岩崎美紀子(2005)『比較政治学』岩波書店 p.46 を元に、加筆して作成

国務大臣に選ばれた上で、内閣法 3 条 1 項に従い、「各大臣は、別に法律の定めるところ

まい、大臣

れた法制度がその本来意図するところとは異な

より、主任の大臣として、行政事務を分担管理する。」と規定されている。 しかし、大臣に任命されることで、担当となった役所の代表と見なされてし

居場所も、通常は、各担当の省庁の大臣室となっている。このように、現実には内閣は、

「官僚内閣制」と呼ばなければならないほど、官僚に取り込まれた制度となっているとの

指摘がなされている(菅直人 1998 p.9)。 こうした状況が存在するために、制定さ

、法律上の文言の通りには運用されていない例も生じている。一例を挙げると、国家公

務員法 55 条 1 項では、「国家公務員の任命権は……内閣、各大臣に属する」と明確に規定

している。ただし、大臣が担当する個別の各省庁において人事権を行使すると、大きな話

題になるという状況がある。また、同法第 84 条 1 項には、「懲戒処分は、任命権者が、こ

れを行なう。」と規定されている。このように国家公務員の任免権が明確に大臣にあると規

定されているにもかかわらず、大臣の役割が限定的に運用されてきたのは、戦後の殆どの

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時期において内閣は 1 年に 1 回は改造され、大臣の平均在任期間は 300 日程度と短期であ

ったためと考えられる。大臣は、一種の名誉職としての機能しか果たさない場合も多く、

担当省庁の課題について勉強するだけで在任期間が終了してしまう例が、実際にも多かっ

たと考えられる。

.3 内閣および内閣府の役割

在は個別の省庁だけで決定できず、省庁横断的な対応を必要とする課題が増大してい

臣」により形成される内閣が、広い立場か

、内閣総理大臣がこれを主宰する。この場合におい

、事務の内閣官房副長官が案件を説明し、

が多い)の各前日、毎週月曜と木

。各省庁が主管となるべき、農水産物、通商、医療、労働、運輸等、どの分野を考えて

も、国内ばかりでなく、国外との関係を考慮しつつ政策決定を行う必要は、間違いなく拡

大している。特に、対外的な対応を必要とする、FTA・EPA 関連、エネルギーセキュリテ

ィー関連、地球環境問題関連、自衛隊の海外派遣関連、G8 対応関連、農水産物の輸入規制

等、国としての一元的な施策が多く存在する。 これら省庁横断的な課題に対しては、「国務大

の判断を下していくことが期待される。憲法 65 条は、「行政権は、内閣に属する。」と規

定している。内閣が、行政府を統率して 終的な決定を行い、国全体のバランスを考えた

政策決定として、国の一元的政策として、徹底した施行を図る必要がある案件が、現在で

は増えてきていることは間違いない。 2001 年の内閣法改正により、「閣議は

、内閣総理大臣は、内閣の重要政策に関する基本的な方針その他の案件を発議すること

ができる。」(内閣法 4 条 2 項)と定められた。 しかし、実際には、従来通り、閣議においては

案と政令に付いては内閣法制局長が説明し、実際には、質問とか議論は行われないまま、

案件ごとに各大臣が署名する作業に追われてしまう状態が続いている。この様子は、「書道

の練習」を大臣がしているように見えるとされ、このような「サイン会」に終始している

のが閣議であり、現在行われているのは、各役所から上がってきた案件を黙々と承認する

だけの役割でしかないとされる(菅直人 1998 参照)。 この閣議に上げられる案件は、閣議(火曜日と金曜日

日に開催される事務次官会議で了承される手はずがとられている。この次官ら 16 人が出

席して開催されている事務次官会議は、従来から、そうされてきたという意味で、慣例で

開かれているもので、すべての案件(内閣提出法案を含む)が事務次官会議にかけられた

後、閣議で了承されるという手順をとっている。事務次官会議は、明治時代に次官職が設

置されてから続いてきているが、法的な制度として設定されているわけではない。この事

務次官会議は、閣議と同じく、全会一致を原則としており、従って、各省庁のコンセンサ

スが重視される。このため、各省庁の意見が異なった案件が閣議に上げられてくる可能性

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はない、ということになる。省益に反した案件が閣議に上げられる可能性が存在しないと

すると、省庁横断的な時代のニーズに合った新しい案件が閣議で討議される可能性は必然

的に少なくなる。 一方、行政の縦割り組織に由来する問題解決の遅れ、あるいは、場合よってはマイナス

が極めて多いことから、

議のほか、内閣府に設置されている重要政策に関する会議には、総合科

産業関連では、産業再生機構担

本部を設置して国の政策決定機

る。内閣官房の組織図を図

効果が生じるに至っていることは、行政内部からも危機感を持って表明されるに至って

いる。例えば、「新しい霞ヶ関を創る若手の会」(2005)が出版した本によれば、組織、人

事、業務の面において多くの課題が存在することを述べている。 現状の政策作りとその実施体制とそのための制度については課題

政府における改革は、進めざるを得ないことは明らかであり、事実、徐々にではあるが

取り組みが始まっている。例えば、森総理大臣の在任中の 2001 年 1 月から、経済財政諮問

会議は内閣総理大臣を議長として開催されている。2001 年に 35 回、2002 年に 42 回、2003年に 30 回、2004 年に 35 回、2005 年に 31 回の会議が行われている。会議時間は、 短で

は 10 分間というときもあったものの、 長では 2 時間、一般的には 1 時間前後の時間を費

やして、その時々の重要とされる事項を担当大臣に説明させつつ、官邸主導での政策方針

の確認を行っており、行政府内で政策を周知させるという点で有益な役割を果たしている

と考えられる。 経済財政諮問会

技術会議、中央防災会議、男女共同参画会議がある。 また、訓令によって定められている組織として、経済・

室、規制改革・民間開放推進室、市場化テスト推進室、構造改革特区担当室、地域再生

事業推進室がある。そのほか、内閣府には、審議会・委員会として、国民生活審議会、民

間資金等活用事業推進委員会、独立行政法人評価委員会、原子力委員会、原子力安全委員

会、規制改革・民間開放推進会議等も設置されている。 現在の政府の方針としては、内閣府を強化し、総合戦略

の一元化を進める方向性が打ち出されている。すでに、内閣官房の機能強化は進められ

ており、「小さな政府」が目指される中において、内閣をサポートする機能の強化が図られ

つつある。「小さな政府に、大きな内閣府」という構成により、政策立案の充実を図るべき

との意見も聞かれる(参議院議員へのインタビューによる)。 なお、内閣を補佐する機関として、内閣府には内閣官房があ

3 で示す。内閣官房は、内閣の補助機関であるとともに、内閣の首長である内閣総理大

臣を直接に補佐・支援する機関となっている。業務としては、内閣の庶務、内閣の重要政

策の企画立案・総合調整、情報の収集調査などであり、閣議および事務次官会議の事務局、

および、上記の閣僚会議に関する事務局も務めている。その他、内閣官房は、内閣の事務

部局として国会との連絡を担当しており、内閣から国会に予算や法律案を提出する場合の

窓口の役割を果たしている。

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図表3 内閣官房の組織図

出所)内閣府ホームページより http://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/sosiki/index.html(

2.4 改革停滞の原因

まで見てきたように、戦後 60 年を経て、従来型の制度を改革する必要性は認識され、

々に改革への着手はなされているが、改革継続のドライビングフォースが弱い、あるい

は、不在であるという状況が生じていることも確かである。こうした状況下にあっては、

日本が先手を取って国内改革を進め、新たな規制改革下での新産業の形態を作り出し、そ

のビジネスモデルをもってグローバルスタンダードを獲得するという可能性は小さくなっ

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てしまう。 これまで、国内での経済政策の転換が進められてきた要因としては、米国からの圧力、

G

への保護・育成政策を継続することは困難となってしまい、政策

みを変えていく必要が出てきた場面で、行政府の側が取

ATT・WTO での交渉の進捗、産業構造転換による第 3 次産業の発言力の増大といった外

圧によるところが大きい。しかし、従来、国が関税等の国境調整措置と呼ばれる障壁を築

くことで国内産業を守ってきた状況は、GATT・WTO 政策に従った関税障壁の撤廃へ向け

た施策の導入により、弱められてしまっている。以前は、他国に対する政策協調を行い、

例えば、国内向けの輸出規制等の施策を導入し、他国に譲歩をすることで、国境調整の制

度はそのまま維持して、国内制度および組織を変える必要はない場面も多くあった。しか

し、現在では、国内制度、あるいは組織そのものの調整を実行することが必要となる場合

もあり、政府が保護・育成してきた国内企業が、突然外資に買収される可能性すら高まっ

てきてしまっている。グローバリズムの効果は、国境を越えて、容易に国内に波及するよ

うになってきている。 従来見られた国内産業

施の目的と目標を再構築することが必要となった。従来型の政策は、企画立案に重点が

置かれてきた。行政側が企画立案し、予算案が国会で承認されれば、その後は、行政側の

裁量が大きく働きつつ、実施過程がほぼ自動的に進むことができるシステムがとられてき

た。しかし、政府統治(ガバナンス)の明確化が求められ、行政府における制度・政策の

公平性・公開性が維持される必要が生じてきている(大山 2002)。こうして、企画立案、実

施、評価の 3 段階が、いずれもそれぞれ重要であると考えられるようになった。政策実施

の部分については、一部アウトソーシングも進められるようになってきており、実施主体

の行政府の側においても、独立行政法人化が進むことで、スリム化が図られるようになっ

てきている。従来と異なる点としては、「評価」の段階が重視されるようになってきた点を

あげることができる。しかも、評価結果をフィードバックして、新たな企画立案に結びつ

ける必要性も重視されている。 こうした大きな政策作りの枠組

組むべきなのは、国民の多様な考え方を取り込みながら施策を作成することであり、そ

のための土壌作りをすることにある。ただし、従来、行政府が取り組んできた政策は、産

業界からの情報インプットに大きく依存する方式であり、国民からの多様な情報を取り込

むという面での手段は、未だ弱いままとなっている。国民よりの情報入手という役割を担

う制度が必要とされたときに、国内の各地域から選出された議員で構成される国会という

制度の利用が課題となる。国民から直接選ばれるという手段に則り、国民から顔が見える

形で政策作りに取り組んでいる国会議員という人々と、その構成する組織(国会)が、今

後は大きな役割を果たせる社会が到来する可能性が高まっている。

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3.国会の活動

3.1 法律案の作成過程

日本の政治制度は、国会において国会議員から内閣総理大臣が選出され、その内閣総理

大臣が内閣を組織するという「議院内閣制」を採用している。米国等の大統領制とは異な

り、議院内閣制では、議会を構成する国会議員のみが国民からの選挙により選ばれており、

したがって、国民を代表するという機能を議会は保有している6。内閣は、その存立の基盤

を、議会からの信任を得ていることに置いており、議会は内閣を創出するという役割を負

うとともに、内閣の活動を常に監視する立場にある(大山 2003 p.17)。 憲法 66 条 3 項では、「内閣は行政権の行使について、国会に対して連帯して責任を負う」

と規定しており、「連帯して」と規定している以上、内閣と国会はともに行政監督権を持つ

ことが示されている。 議院内閣制においては、内閣を作り出し、その活動を補佐する役割を果たす政党(与党)

の役割が重要となるとともに、野党として、与党・内閣の政策に批判的に対応する意見を

出す議員も、重要な役割を負うことになる。こうした状況は「アリーナ型(劇場型)」と呼

ばれることがあり、国会における審議を経て、対立点を明確化することが当初から重要で

あると予想される制度を、日本は選択していることを意味している。 議院内閣制発祥の地である英国においては、与党イコール内閣であり、内閣を構成する

議員数が 130 名から 140 名おり、議会でも、下院では、政府=内閣=与党と、野党とが、

対面して議論を行うという形式を採用している。日本においては、同じ議院内閣制を採用

していることから、英国流モデルの導入を急ぐ傾向があるが、日本には明治憲法以来形成

してきた制度が存在しており、英国モデル(ウエストミンスター・モデル)の導入を急ぐ

ことには課題が多いことが指摘されている(大山 2003)。過度な英国モデルへの依存からの

脱却が、必要となっている状況がある。 20 世紀においては、いずれの国においても、「行政国家現象」と呼ばれる行政機能の拡大

傾向が見られ、行政府の権限と機能の拡大の傾向が存在した。他方、立法府である議会の

地位は、憲法 41 条で、国会は国権の 高機関であり、国の唯一の立法機関であると規定さ

れているにもかかわらず、低下せざるを得なくなってきている(大山 2003)。

6 美濃部達吉は、著書の「議会制度論」の中で、「ヨーロッパ諸国に於いては、普通に所謂、議院内閣制が

行われ、内閣と議会とは密接の交渉も有ち、内閣は議会、殊に下院に対して責任を負う」と述べて、欧州

諸国における議院内閣制の分析を行う。 その一方、「アメリカにおいては、立法権と行政権とを分離せしめ、政府と議会とは、互いに没交渉の地

位に在ることを主義としている」と分析して、日本の議会制度と比較分析を行うに当っては、アメリカに

関する検討は当初より除外すると述べて、論を進めている。

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図表 4 で示すように、日本では、政治学の分野では、官僚と政治家と財界の関係を「鉄

三角形」と呼び、その強固な関係が、日本の政治を決定付けてきたとの分析がなされて

現在、広範な国民の意向を反映する機関として、制度的には、国会のみが存在している。

いる(Kawamoto 1999)。

の国会が、国民からの意見を取り入れる形で、充分な審議を行い、国民への情報提供を

十分に行っていくことが期待されるが、現状では、国会から国民への情報提供は、国会の

議事録を公開するのみに止まっている。ただし、議会関係者の側からも議会から国民に対

する説明責任(accountability)の重要さが指摘されるようになってきている(川﨑 2005a p.6)。

表4 議院内閣制に基礎を置いた日本の政治制度

自民党行政

「鉄の三角形」内閣 憲法65条

行政権は内閣に属する企業(利益団体)

国会 憲法41条国権の最高機関唯一の立法機関

国民

(出所)筆者作成

要な役割を

果たした「国対政治」は、自民党が 2007 年の参議院で圧勝することがない限り、復活する

国対政治は、各党の機関である国会対策委員会が交渉して、

国会の議事運営を決めてしまうやり方のことで、国会外に位置する各党間の取り決めが国

する。国会側から見ると、国会の審議を軽視するこ

討論の場としての両院での国家基本

よりオープンな議論を行う場として、国会が活用されることが望ましいが、そのために

は、今まで慣習として行われてきた国会の手続きに関する見直しが必要となる。すでに、

国会においては、一部分ではあるが改革が進んできており、例えば、従来、重

ことはないと考えられている。

会運営を取り仕切るということを意味

につながるために好ましくない制度である。与野党間の舞台裏で事前に手が打たれると

いう国対政治は、近年、全会一致原則を採る国会の正式の制度である議院運営委員会での

審議が重視されるようになり、また、1999 年から党首

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少し、答弁に立つ議員の資質が問われる状況が生まれている。

図表5 法律案作成・可決までのプロセス

策委員会が設立されたこともあって、次第に役割を減らしてきている。 日本では行政が国会に関与する度合いは、政府委員制度を廃止したことで、表立って官

僚が答弁する機会が大幅に減

現状における法律案作成および可決までのプロセスを、図表5で確認する。法律案の作

成に向け、政府提出法案(閣法と呼ばれる)の場合、担当する省庁で盛り込むべき内容に

関する原案が作成され、必要に応じて審議会等の答申等を受け、また、予算措置が必要な

場合は財務省の予算申請を行い、査定を受けた後に、各省庁で部内調整を行う。各省庁に

おける法令審査係の審査を経た後、法案作成に至る。

各省庁原案作成

財務省に予算申請 法案原案作成 審議会答申

財務省査定 各省庁部内調整

法令審査係審査

政党根回し 法案作成 他省庁折衝内閣法制局

与党審査 省  議 財務省法規課自民党部会 総務省政務調査会審議会 内閣参事官室総務会国会対策委員会 事務次官会議

閣  議

閣議決定

独立行政法人 内閣参事官室国立印刷所

国  会委員会審議

本会議

(出所)浅野一郎ほか 2003 p.142 に基づき簡略化して作成 作成された法案は、政党(特に与党、自民党向け)への根回しを行い、その一方、他省

庁との折衝、内閣法制局の審査、財務省法規課の審査、総務省との打ち合わせを経た後、

所管省の省議にかけられる。省議を経た後、現在のところでは、与党審査が行われること

となる。与党・自民党は政務調査会の下の審議会で法案につき担当省庁から担当者を呼ん

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で法案の内容を細かく審査することになる。この事前審査は、同じ議院内閣制をとる英国

で済み、法案の成立は容易であっ

。 にかけられて了承された後に、従来であれば、国

対策委員会が審議日程に関しても検討を行った後に、担当省庁に戻され、その後、内閣

参事官室、事務次官会議を経て、閣議決定され、再度、内閣参事官室を経て、法令の印刷

が必要であれば印刷所(独立行政法人国立印刷所)に依頼を出すとともに、国会における

委員会と本会議を経て、法案として成立する。 与党による事前審査の実施に対しては、歯止めが必要との指摘がなされている(新正幸

1998)。新正幸(1998)によれば、野放し状態の与党審査は問題であり、「官僚(立案者)

も政務調査会の部会における説明等において深く関わり、また、それ自体が実質的に準公

的あるいは公共的意義をもつ」以上、政党法に縛りを置くことも検討されて良いとの指摘

がなされている。 そのほか、問題となるのは、事務次官会議は全会一致の原則が慣例として採用されてい

るという点である。内閣に上がってくる法律案は、個別の省庁の利害に反するものは含ま

れないということになる。 また、閣議は、週 2 回・平均 15 分程度しか開催されておらず、先に記したように、各大

臣が法案等の必要書類に押印をすることに時間を費やされるのみとなっており、実施的な

審議は何もなされていないとの指摘がある(菅直人 1998)。 3.2 国会の委員会および本会議

今までの検討により、法律案が作成され、内閣に提出されるまでの段階で、関係者の利

段階が極めて重要な役割を担

てきたことが確認できた。他方、内閣における閣議は、形式的な内容でしかないことが

にはない日本特有のシステムである(中島 2004 p.84)。 「事前審査」(あるいは「与党審査」とも呼ばれる)の役割に関しては、小泉首相が、「ある

期までは、与党の事前審査なしで法案を国会に提出し、構造改革に対する推進派と抵抗

派の構図を、国会審議を通してあぶりだすという作戦に言及していた」(山口 2004 p.112)と指摘される。与党内での、意見の相違が、縦割りの省庁に対応して、所属する「族」の

違いに依拠するのであれば、自民党が圧倒的多数を維持している場合には、党内で調整を

済ませておけば、後は、国会で野党の質問を受けるだけ

手続き的には、法案は、自民党総務会

害関係の調整がなされる場として、与党における事前審査の

かった。 次に、国会の委員会および本会議における審議の現状を確認する。 衆参両院は、それぞれ 17 の常任委員会を設置している(国会法 41 条)。議員はいずれか

の常任委員会に所属している。審議時間を見ると、国会の委員会は平均 1 時間程度しか開

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かれておらず、委員会の中では予算委員会のみが脚光を浴びるという状況にある。議員は、

テレビ中継も行われ、選挙区の有権者へのアピールもできる予算委員会の委員となること

て審議時間は極めて短く、衆議院および参議院のホームページで公開されている議

立つ。

臨時国会が開かれるのが常態化しており、会期そのものは 200 日を超

2 回までとされる。

問題は、会期が延長されても、実際に本会議が開催される日数は 3 分の 1 から 4 分の 1度であり、しかも一日あたりの会議時間は、1 時間を上回る程度しかない。例えば、2001

会、152 回臨時会、153 回臨時会)の 3 会期の合計では、

28 日間の会期があったが、本会議が開催された日数は、衆議院が 70 日、参議院が 56 日

時間 48 分(99 年/2000 年会期、大山(2003)p.97 による、以下同じ)、フ

望むことになる。ただし、予算委員会では、予算審議ではなく、国政全般に関する審議

を実施しており、予算案に対する精査は行われていない。他の委員会でも、予算審議は行

われないため、国会の委員会では、予算案に対する審議が明らかに不足した状態にある。

また、法律案に対して、委員会における逐条審査は通常は行われていない。法案は、与党

による事前審査が終了しているため、形式的な審査しか行われないのが現状となっている。 本会議においては、さらに、要請がない限り質疑と討論は省略するとの慣例があり、し

たがっ

録を見ていくと、 短では 5 分という開会時間も存在している。 通常国会7の会期は 150 日である。毎年 1 月に召集し、会期延長は 1 回のみとされる。本

会議の開催日は、通常、衆議院では火曜・木曜・金曜日の午後1時、参議院では月曜・水

曜・金曜日の午前 10 時から開催される。会期の期間のうち、実質的な審議のための「開会

日数」は、合わせて 100 日程度となる計算が成り

一方、臨時国会8の会期は一般的には 50 日から 60 日で、会期の長さは衆議院議院運営委

員会で決定される。召集は内閣が決めるか、あるいは衆参両院いずれかの議員の 4 分の 1以上が要求した場合で、会期延長は 2 回までとされる。

従って、通常は 1 年のうち 150 日は、国会は休会となる計算であるが、しかし、近年は

会期延長、および、

、あるいは、1988 年のように、309 日も国会が開かれた例もある。 その他、特別国会が衆議院選挙の後に開かれる。この会期の長さは衆議院議院運営委員

会で決定される。会期延長は

「日本の国会のように、開会期間を比較的短く限定する会期制を採用している場合、議

事運営、とくに法案審議などに要する「時間」の管理が、立法における生産性を大きく左

右する」との指摘がなされている(増山 2003 p.48)。

年に開催された国会(第 151 回常

2、開会時間の合計は、衆議院が 86 時間 48 分で、一日当りにすると 1 時間 14 分にすぎな

い。参議院は 60 時間 54分で、一日あたり 1時間 10 分に過ぎない(衆参両議院調べによる)。 諸外国の審議時間と比較すると、日本の異様に短い審議時間が目立つ。イギリス下院で

は一日平均 8

7

分の1以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。」と定める。

憲法第 52 条は「国会の常会は、毎年一回これを召集する。」と定める。 8 憲法第 53 条は、「内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の4

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ランス下院では一日平均 8 時間 56 分(2000 年の通常会期)、ドイツ連邦議会では一日平均

7.5 時間(94 年から 98 年の平均)、米国連邦議会では、下院では一日平均 8.0 時間、上院

では一日平均 7.3 時間となっている(99 年および 2000 年の平均)。 かつて尾崎行雄は、「帝国議会の審議状況を痛烈に批判して、議会は『議事堂ではなくて

採決堂だ』と言った」とのことである(浅野一郎編(2003)p.121)。ただし、このように

批判された帝国議会よりも、現在の国会の審議時間は、先に見たように異様に少ない(前

田英昭(1999)pp.28‐29 参照)。帝国議会は平均すると一日当たり 4 時間の審議がなされ

1 項)が明治 18 年に

った等のハンディを負ってスタ

会制が採用されており法律案の

いことが大きな問

体をまとめてもう一度議論すれば

いたとの推計がある(大山(2003)p.121)。 帝国議会は昭和21年の第92帝国議会まで会期を重ねており(「議会制度70年史」1962)、

天皇を輔弼(ほひつ)するという内閣制度(大日本帝国憲法第 55 条

来上がり、その後、明治 22 年に大日本帝国憲法が発布されるという経過をたどったため

に、「議院内閣制というよりも、官僚内閣制の指向が強かった」(水木 1963 p.272)とされ

る9。 帝国議会は、政党制の導入が当初より予定されていなか

トしており、抵抗の府として一定の役割を果たしていたと言える。帝国議会がその役割

を低下させるのは、昭和 6 年の満州事変の勃発以降とみる説を美濃部達吉はとっている10。 成田(2000)によれば、帝国議会の本会議においては読

条審議が行われていた。しかし、戦後の国会になるときに逐条審議制度は廃止されてし

まい、以来、復活していない。法案審査においても、法案のテキストを審査するというこ

とが、全く行われておらず、そもそもそのための手続き規定が存在しな

である。 「委員会でも本会議でも、逐条審議をして逐条表決をすることで、これによって議論の

会を増やす一方で、審議に終着点を作る」ことができる(成田同上)。これにより、条文

単位で修正案を出すことができ、修正案が出されたら、「趣旨説明、賛成討論、反対討論、

そして採決」を行い、 後の条までいったところで、全

終的な採決に至る。このような審議形態をとれば、審議に終着点をつくることができる。

現状の審議方法の一問一答方式では、いつまで経っても議論が収斂せず、また、与野党で

ディベートをする機会も逃してしまっている(成田同上)。 しかも、国会においては法律案の一括採決が行われており、中央省庁等改革関連法案に

おいては、17 法案が一括採決されている。この場合、野党の反対討論の時間も 10 分程度で

あり、野党には審議拒否ぐらいしか対抗手段がないとの指摘がなされている(成田同上)。

9 大日本帝国憲法第 55 条 1 項によれば、国務大臣は天皇に対して責任を負い、議会に対して責任を負うの

1963 制度論』 明治憲法の伊藤博文による起草案 38ではなかった(水木惣太郎( )『議会 有信堂)。なお、 (

条)では、両院の法律提出権を認めていなかったが、その後、伊藤も賛成にまわり、政府も両議院も法案

の提出権をもつとして可決されるに至っている(水木惣太郎(1963)『議会制度論』有信堂p.273)。 満州事変の勃発以降、政局10 昭和 9 年発刊の美濃部達吉著『議会政治の検討』において、昭和 6 年 9 月の

が一大激変する様子と、内閣が理由もなく、あるいは、一言のことば尻をとられて解散させられ、議会の

機能が著しく低下した状況が述べられている。

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欧米諸国で普通に行われている制度である、逐条表決の制度の導入は、日本においても当

然検討される必要があると考えられる。 日本の現在の国会では採決はしても、審議は明らかに充分にはなされておらず、儀式の

ある。残念ながら今の国会では、官僚が

と化すという、極めて課題の多い状態にあることがわかる(大山 2003 p.121)。 例えば、国会および委員会での質疑に関しては、事前にどのようなことを質問するかを、

質問する側から通告しておくのが慣例となっている。予めどのような議論がなされるかが

わかっていないと、深い議論が出来ないことも事実である。しかし、「官僚による政治支配

を打破するためにも国会のレベルアップが必要で

意した法案について、官僚が用意した想定問答集(カンニングペーパー)による討論と

いう儀式が行われているだけである。」(石本 2004p.112)との指摘も存在する。この点に関

しては、議員が自分の言葉で答弁する口頭質問の機会を、国会および委員会がともに用意

するという制度の改革を行なうことで、よりオープンな議論が可能となる。

表6 本会議開会時間

9

1

34

67

0

ス下

イギ

リス

下院

米国

連邦

議会

下院

ドイツ

米国

連邦

議会

上院 院

参議

2

5

8

フラン 連

邦議

衆議

(出所)大山(2003)p.97 をもとに作成

じてしまっている。ただし、こうした「国会無能論」に対して、一部には、「国会機能論」

も、

以上検討したように、国会の本会議および委員会の審議の形骸化は著しく、しかも、審

議の効率化を図るとの目標が設定されたために、いっそう実質審議が省略される傾向が生

と呼べる、一定の機能は果たしてきたとする議論が存在することも確かである(代表例は

Mochizuki 1982)。その論拠として、例えば、内閣修正法案の修正率が 20%を超える点が

あげら ている。ただし、「国会無能論」と「国会機能論」のどちらを主張するにしてれ

こうした議論の「枠を超え、審議そのものにも目を向けた、多角的・実証的・総合的な評

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価が求められている」ことだけは確かであり、議論が続いている状態にある(川崎 2005b)。 国会が役に立っているかどうかの議論が延々と続く中、国会の運営のために膨大な予算

億円、

審議がむしろ

げられているとの意見が多く出されている。大石(2001 p.151)は、日本の国会両議院

が、本会議への出席のみならず、委員会や会派の活動のように、

広い範囲」にわたっていることを踏まえ、「憲法改正により議事定足数を削ることによって、

柔軟な議院運営をめざすのが も望ましい」と述べる。米国では、討論のみを行う場合は

議事(business)に含めない、との限定的な憲法解釈を議員規則で行っており(大石 同上)、

日本においても、同様の手法を採用して、定足数に囚われず、自由な議論を本会議で行う

ことが期待されている。

3.3 国会における委員会および本会議の制度

国会審議の進行について、制度上は、議院の議事運営は両院議長それぞれの職務権限と

されている。ただし、議長が単独で決定することは、会派間の公平な扱いをもたらさず、

審議の進行上望ましい結果をもたらさないと考えられるために、衆参両院の常任委員会で

ある議院運営委員会が議長の諮問を受けて取り仕切る慣行がとられている。 課題となる。国会法 59 条は、「内閣が、各議院

会議又は委員会において議題となった議案を修正し、又は撤回するには、その院の承諾

毎年費やされている状況は変わっていない。2002 年度予算では、衆議院が 700 億円、参

議院が 420 億円、合計で 1,120 億円が支出されており、さらに、政党助成金が 317れらを合計すると 1,437 億円が支払われている。このように毎年多額の国庫支出がなさ

れている国会が、「審議しない国会」として存在しているとすれば、たいへん大きな問題で

ある。 各議院においては、本会議と委員会が開催されるが、本会議は、衆議院および参議院、

それぞれの議院の議員全員の会議であり、議院の意思決定を行っている。本会議は、公開

が原則である。本会議を開くには総議員の三分の一以上の出席が必要となり、本会議の議

事は、特別の場合を除いて、出席議員の過半数の賛成で決定される。定足数と表決数に関

して、憲法 56 条 1 項および 2 項が規定しているために11、本会議での自由な

で、「議員の議会内の活動

審議スケジュールの決定手続きも大きな

要する。」と規定している。日本では、三権分立の制度の下、内閣が、国会審議のスケジ

ュール形成に参画できない(しない)という慣行が存在する。このため、実際には内閣が

法案審議を促進させたいと考えても、日本ではそのための手立てが内閣には備わっていな

い、という問題が生じてしまっている。 11 憲法第 56 条は次のように定足数を定めている。「(第 1 項)両議院は、各々その総議員の3分の1以上

の出席がなければ、議事を開き、議決することができない。(第 2 項)両議院の議事は、この憲法に特別の

定のある場合を除いては、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによ

る。」

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どの法案を優先的に審議するかの決定に際しては、省庁別の縦割り行政が依然として力

その一方、(旧)運輸委員会、法務委員会のように、法案の国会提出が遅くそのた

員に対する党議拘束を強める必要が生じる。与党国会議員は、

ひたすら、法案通過のために「異議なし」と唱えるだけで、数合わせ、定足数合わせの存

在となってしまう。 とは、内閣と国会の思惑が合致しない場合

には、内閣が確実に通したい法案を、率先して委員会さらに本会議に上程することが妨げ

は、この理

(あるいは与党会派)との協議が事前になされ

ているべきであることは当然である。フランス、ドイツ等の欧州大陸諸国では、公式の議

持つ中、力の強い役所は法案を前の方のスケジュールで審議にかけることができ、成立

の比率も高くなるという傾向が生じることになる。 増山(2003 p.93 以下)によれば、1948 年から 2001 年の間の分析において、委員会から

本会議に向けた法案提出のスケジュールと成立の所要日数を見ると、(旧)大蔵委員会およ

び内閣委員会のように、国会への法案提出も早く、比較的短期日のうちに成立する委員会

がある。

成立までに時間がかかるという特徴を持つ委員会が存在している。また、(旧)社会労働

委員会のように、比較的早期に法案が国会に提出されながら、成立に時間を要する委員会

も存在する。 確かに、議会は、組織体として見た場合、「必ずしも法律に基づいて、起草者の意図通り

にその運営が行われるとは限らない。むしろ、法の意図するところと異なる議会慣行が生

じ、それに基づく議会運営が行われることが屡々見られる」(原田 1997 p.43)とされる。 ただし、重要な点は、起草者が意図する通りに法律案あるいは議院規則を読み取らない

場合があるとしても、あくまでも制度に則った原則をとりながら、議会および委員会運営

が行われているという点である。 内閣が形式的に審議を行って通過させ、国会の委員会および本会議での審議スケジュー

ル作成には携われないとすると、重要法案に関しては、何としても会期中に通過させるた

めに、与党としては国会議

こうした制度を慣行として採用してしまうこ

れてしまう場合があり得ることを意味する。そのため、制度の不合理性を補うためもあ

って、各政党の党機関である国会対策委員会が議事日程を審議するとともに、驚くべきこ

とに、内閣と与野党の間に立って、法案の修正案まで議論して取りまとめる状況が、従来、

存在してきた。国対政治が大きな役割を担った時代が長く続くことになったの

からである。 小泉内閣は、2001 年に成立して以降、与党による法案の事前審査・承認制度の廃止を打

ち出し、与党の事前審査抜きでの法案の国会への提出も、数件だけであったが実施された。

ただし、これは与党内に存在する「抵抗勢力」をあぶりだすことを狙った政治戦略であり、

その後は、事前審査を行うとの旧来の手法に戻っている。 法案を通過させるためには、内閣と与党

事協議機関が存在し、議長、副議長、各会派の代表に加えて、政府代表も加わってスケジ

ュール作りを行っている。英国の場合は、政府・内閣と与党が一体化しているために、与

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により審議スケジュール等の議事運

、与野党の勢力比が大きい場合には、意味を成さない。先に記したように、

う状況から遠い現状は改善される必要がある。

院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる」と定め、議院

と野党の幹部の協議により国会での審議スケジュールが決定されている。 日本では、国対政治が密室での決定であるとして、その弊害が広く指摘されるようにな

ったために、両院の常任委員会である議院運営委員会

を設定することが目指されるようになった。しかし、現実には、議院運営委員会の理事

会が、予め決定を行い、議院運営委員会は理事会の決定を追認するという決定の仕方が採

用された。理事会は、委員会の正式な決定機関ではないとの制度面での理由から、理事会

で決定を行うには全会一致の原則に従うこととされている。全会一致とすると、少数会派

でも与党への抵抗が可能となり、野党の力の源泉は、この全会一致原則が働く場で、俄然、

現れることとなる。ただし、議院運営委員会の理事会の場で、野党が全会一致原則を盾に

して抵抗しても

会の審議においては、現在では、対立点を明確化することが重要と考えられるようにな

っており、アリーナ型(劇場型)と呼ばれるように、十分な審議を行う場を確保すること

が も重要と考えられている。少数会派であっても、国会の委員会、あるいは、本会議で

疑が出来るように制度面で配慮すれば、充分この審議を尽くすという目的を満たすこと

ができるはずである。会期切れを狙った野党と与党が、不毛な攻防を繰り返すという、お

よそ、理念あるいは政策を競うとい

例えば、閣僚を議院運営委員会の委員にするといった改革を行うことも検討してみる必

要がある。また、理事会制度の合理的な運営を可能とするように、小会派に対して配慮し

た議院規則を制定することで、実質審議を深める工夫を行うことが必要である。 日本国憲法は 58 条 2 項で、「両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関

する規則を定め、又、

自律的に議事手続きを定めることが出来る規定を設けている。 本会議の議事日程の決定が、法案成立に際して重要な意味を持つ以上、国会の審議の活

性化をもたらすため、また、国対政治の残渣である各党の国会対策委員会での協議が、依

然として必要な状況が続いてしまう可能性を排除するためにも、制度設定における工夫を

施すことが重要な意味を持つ。こうした細かな点を、一つずつ改革していくことで、国会

での実質的な審議を確保する道が開けてくると考えられる。

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4.政策決定システム

理解で

4.1 政策決定システムの構成要素

今まで検討してきたところから明らかなように、国会の権能である立法過程は、原則と

しては、多数決の原則に則っており、立法過程の構造もこの制度に基づいている。したが

って、「行政省庁や与党の立法活動についても、国会の多数主義的制度に条件づけられた戦

略性という分析アプローチが重要となる」(増山 2003 p.218)。 その一方、国会においては、与党等の多数派が、少数会派に対して特別の配慮を払う必

要も生じており、「多数決を採用する議会において、多数派の立法的な権限を制限する制度

選択」(増山 2003 p.217)がすでに部分的に行われていることも事実である。それでも、基

本的には、与えられた制度の中で、自己の利益に忠実な合理的な選択が行われているとの

モデルを考えることができる。 図表7は、政策決定システムにおいてどのような要素が含まれるかを示している。「権限

配置の良否」は、政策の帰結に決定的に重要な影響を与えるため、法律案を提案し、その

拒否を行い、決定し、さらにその利得を分配する問題として、政策決定プロセスは

る。 図表7 政策決定システムの構成要素

政策成立促進効果 拒否権への門番

  提案権   拒否権   決定権  分配問題

コントロール関係 コントロール関係 コントロール関係政策成立遅延効果

    提案権への門番 決定権への門番

(資料)筆者作成 拒否権に対するチェック機能としての門番を置くことができれば、それは政策成立の促

進効果を生み出し、その一方、提案権に対してチェック機能としての門番を置くと、政策

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成立の遅延効果が生じる。決定権を持つものに対して、同じくチェック機能としての門番

置くと、やはり、政策成立の遅延効果が生じる。 僚制、あるいは、行政学研究においては、もっぱら実

的・実務的な関心が強く、具体的な行政研究の記述と処方箋の提示が主題とされてきた

案を提出するとして、こ

の日本の政策決定システムを、図表 8 で示す。ここでは、

表8 「行政国家モデル」としての日本の政策決定システム

日本で、従来から行われてきた官

曽我 2005a)。米国の政治学研究で見られるような、行政活動および官僚制を総体として

捉えようとの理論的研究は少なかった、と指摘されている(曽我前掲)。 図表7で示した、制度配置、選好配置、権限配置は、政策の帰結に影響を与えることに

なる。法律案を作成する場合に、内閣提出法案を考え、官庁が法

で、不完全情報が提供される状態を考える。不完全情報に当るのは、官庁が、議会にパ

レート改善となる政策を提示していることが伝達できないことを意味する。また、不完備

情報が提供されている状態とは、官庁は、どの情報を提示すればパレート改善な結果が生

じるのかが不明である状態を意味する。 次に、「行政国家モデル」として

庁と与党は自己の理想点に近い提案しか行わないという一体化が進んでいる状態を設定

している。内閣は、与党の中に取り込まれており、形式的な役割しか果たしていないとし

て、図中には登場しない。 図

理想点 理想点 理想点 理想点

一体化

 分配問題行政国家モデル  官庁  与党  委員会  議会

 提案権 ゲート 修正提案権? 拒否権?拒否権?

官庁は自己の理想点に近い提案しか行わない

情報の独占 虚偽情報あるいは意図的なノイズ付加後の情報発信の可能性官庁の選好

(出所)筆者作成

案権を持つか、あるいは、拒否権を持ち得る存在として図中で示して

る。さらに、国会の本会議を「議会」として示す。議会は、委員会の審議が終了したあ

委員会は、修正提

の決議機関として、拒否権を持ち得る存在として示している。ここで官庁による情報の

独占があると、官庁の選好が与党を超えて委員会あるいは議会にまで届き、この際に、官

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庁は正しい情報を提供せず、あるいは、意図的なノイズを加えた情報を発信する誘惑を感

じてしまう。こうして官庁は、妨げられるものなく、自己の利得の 大化を目指してしま

合により修正を

する)ことを、図表8では、矢印が一方向に向かっているこ

で示している。国会法 59 条の規定は、「内閣が、各議院の会議又は委員会において議題

を要する。」と規定しており、内

の国会への関与を大きく制約する規定となっている。国会法が詳細な規定を設定してい

ることは、議院運営規則による衆参両院での自由な制度設定への制約となっており、その

ため、国会提出前に自民党内で調整する必要が生じている。したがって、法律案の国会提

出後は、党議拘束をかけて迅速な審議と成立を目指す必要も生じている。 4.2 「官庁・与党連合」と「国会・委員会」とのゲームモデル

前節で検討したように、現状は、官庁・与党連合と国会・委員会との間での非協力ゲー

ムが行われているとのモデルにより分析を行うことが可能であることがわかる。従来、政

治学の分野においては、個別の事象の決定に関してのみ関心が向いてしまい、個別の制度

析のみが行われてきた。しかし、ゲームの決着がついたときに、その因果関係を説明す

(曽我 2005b p.253)。誰かがゲームに勝ったとき、なぜ勝ったのか、

のようなゲームであったのか、相手は誰で、手札は何で、相手の戦略はどのようであっ

可能性が生じる。 図表 8 で、日本の政策決定システムを単純化して示し、その構造を考えることにする。

与党である自由民主党は議会における過半数を維持しており、政権維持が 大の結党理由

であり、政策としては、その都度、官僚から提示されるものを選択し、場

るという立場をとると見る。 ここで問題となるのは、国会の側において、大日本帝国憲法における帝国議会の規定と

その運用の残滓が残っているという点である。このため、戦後制定された日本国憲法の規

定においても、継ぎはぎであり、米国流の委員会制度を導入したものの、その精神は生き

ず、国会の活動は国会法での詳細な規定(全 133 条に達する)により縛られてしまってい

る。 一方、内閣法は全 18 条であり、条文数が少ないことが象徴するように内閣は影が薄く、

決定権限が小さく、与党の中に取り込まれている。さらに、内閣は、いったん法律案を委

員会および議会に提出した後は、率先して審議を促す等の方策はとることができない立場

にある(そうした慣行が存在

となった議案を修正し、又は撤回するには、その院の承諾

ることは重要である

かを、もれなく検討するためには、ゲームの構造を検討し、チェックリストを作成する

ことが有益となる(曽我同上)。 国会法 68 条は、「会期中に議決に至らなかった案件は、後会に継続しない」と規定して

おり、「会期不継続の原則」が設定されている。会期末までに審議されて、本会議で議決さ

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れないと、法律案は審議未了となって廃案とされてしまう。野党側は、会期切れ、審議未

了を狙って、審議時間の引き延ばしを図ることになる。与党側からは、議事進行の促進を

狙って、審議に時間をかけないまま、決議のみを早く遂げようとの制度改正が図られ、そ

では、図表 9 で示すような、「行政および与党」対「国会」

党の政務調査会での決定が先に行われており、国会の場においては法案の修正にも

ために、いっそう審議が行われなくなるという悪循環が生じてしまう。「現実の議院運営

では、 初から会期末をにらんだ審議手続きをめぐる与野党の攻防が行われ、しかも会期

末に議事混乱を招くことも多かった」とされる(大石 2001 p.135)。 こうした状況は、ゲーム論の上

非協力ゲームの状況として、利得表で表すことができる。当事者どうしが話し合いを行

うことはなく、独自に意思決定をしている状況を意味する。数値は仮に4および 0 として

示してある。妥協点に向けた交渉はなく、野党は、議院運営委員会・理事会の全員一致の

慣行に則り、「審議未了」「会期切れ」を目指すのみである。一方、与党は、「非公開の場」

である

じず、法案が通過するか、通過しないかのみを与野党は争うことを示している。交渉の

余地がなく、妥協する機会を双方ともが持たない場合には、国会の野党にとっては、会期

切れで反対を貫くのみが、対抗するための手となってしまい、建設的な折衷案を採用して

妥協を図ることはできていない。 図表9 「行政および与党」対「国会」の非協力ゲームの利得表

    国 会

賛成 反対

行政& 賛成 0、0 0、4

与党 反対 4、0 0、0

(出所)筆者作成

(出所)筆者作成

&与の利

図表10 「行政および与党」対「国会」の非協力ゲームでの交

行政党 (0、4)

       (4、0)0

国会の利得

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次に、改革案として協力ゲームを考えることにする。当事者間の話し合いが行われ、話

し合いの結果成立した合意が拘束力を持つケースである。この場合には、内閣は、国会の

委員会と本会議での審議スケジュールにつき参加するとの前提を置くことにする。こうす

ることで、審議スケジュールの変更に柔軟に取り組むことができるようになり、タイミン

グを計ったメリハリの利いた法案の提出と修正という駆け引きを与党が行うことができる

閣が加わり、また政府提出法案の委員会における修正

内閣が関与して行う等)を導入したと考えると、ここでは、ナッシュ交渉解13が成立して

妥協点が存在することになる。

うになる。また、法案の修正に関しても委員会で審議することにする。与党が、党議拘

束の緩和を図り、内容の修正にも応じるとの設定となる。 図表 11 で示す混合戦略におけるマックスミニ値は、「相手がどの戦略をとってくるかわ

からないので、自分の戦略それぞれについて、それをとったときの自分にとって も悪い

状態」(武藤 1999 p.46)を示し、混合戦略であることから、戦略を確率的に混合して用い

る場合を想定している。 図表 9 で示した利得表から変化して、「行政および与党」対「国会」の歩み寄りが見られ、

それぞれ(1、3)、(3、1)の利得をとったとすると、混合戦略におけるマックスミニ値は、

(1/4、1/4)と表される12。ところが、ここで双方が妥協を図ることができる制度(委員会

と本会議でのスケジュール調整に内

(2、2)の利得を「行政および与党」対「国会」が分け合う

12 マックスミニ値は、以下のようにして算出される。 「国会」を P、「行政および与党」を Q とし、ゲームを次のように設定する。

P=(p , 1-p)、 0≤p≤1 Q= q , 1 q ≤q≤1

定すると、

与 党 1 - q 3 、 1 0 、 0

( - )、 0利得表を次のように設

        国   会p 1 - p

行 政 & q 0 、 0 1 、 3

4であるときに、qが 小の値0であっても 大の期待利得をとる。

4であるときに、pが 小の値0であっても 大の期待利得をとる。

(1/4、1/4)となる。

対称性、利得の正アフィン変換からの独立性、無関係な結果から

独立性の4つの性質を満たし、ただ1点に定まる交渉の妥結点を意味する」(武藤 2001 p.151)。数式で

u*=(u*A、u*B)は、uA > u0A、uB>u0Bを満たすRの要素 (uA、uB)で、(uA-u0A)( uB-

P および Q の期待利得は次のようになる。 国会(P)の期待利得:

(1-p)q+3p(1-q)

=q+3p-4pq =q(1-4p)+3p

国会(P)は、p が1/行政及び与党(Q)の期待利得:

3q(1-p)+p(1-q=3q+p-4pq =p(1-4q)+3q

行政及び与党(Q)は、qが1/以上より、混合戦略におけるマックスミニ値は、

13 ナッシュ交渉解は、「パレート 適性、

は、ナッシュ交渉解

u0B)を 大にするものをB 意味する(武藤同上 p.153)。

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図表11 「行政および与党」対「国会」の協力ゲームでの交渉

(出所)筆者作成

具体的な良い提案をしても、民主党単独

で法案として成立させることは困難であり、行政および与党が、民主党の提案を取り込ん

で法案として提出してくることもあり、そうした仕方での取り込みがなされることは結果

が聞かれた。国会の委員会での法案修正

との間での歩み寄りも

可能となり、ナッシュ交渉解を導くことが可能となる場合が生じ得る。

マックスミニ値 の利得

行政&与党の利得

     (1、3)

ナッシュ交渉解    (2、2)

現実にも、民主党議員からのヒアリングでは、

混合戦略における 国会

  (3、1)

0

としては社会に貢献していることになるとの意見

に柔軟に対応することが与党側において可能となると、与党と国会

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5.改革続行のための制度改正

策が立案され、国会において承認されて

る政府提出法案は、そもそも党としての

で提示され、その実施段階として、政府

公開の実質審議を行うことが望ましく、

、両院における議院運営規則において制

い党議拘束は、マニフェストで事前に法

与党閣外委員による質問の受付も可能と

ることが必要となろう。大臣・副大臣も常任委員会委員となり、委員会へ参加する制度

検討されるべきである。 こうして現在の段階で行われている自民党政務調査会での非公開での実質審議から、国

の委員会での公開による実質審議への移行が目指されることになる。

図表12 改革続行のための制度見直し

(出所)筆者作成

束現状 非公開の実質審議 野党との政策議論 採択のみ

(一部のみ)

改善案 党としてのビジョン 公開の実質審議 野党との政策議論「政権公約・マニフェスト」の提示 ・審議スケジュール作りに

内閣の関与・内閣の法案事後修正容認・与党閣外議員による質問の受付・大臣・副大臣も常任委員会委員となり委員会へ参加・定足数(決議定足数へ) ・定足数(決議定足数へ)

5.1 制度整備

今後、透明性を持った、国民にわかりやすい政

いくためには、自民党において事前審査されてい

ビジョンである「政権公約・マニフェスト」の中

(行政府)が法案を準備し、国会へ提出することが望ましい。

政府からの提示を受けて、国会の委員会では、

審議スケジュール作りには内閣が関与するように

度を読み替える制度設定が行われることが期待される。

委員会では、現在行われている与党における強

案の提出が予定された内容を除いては緩和され、

自民党政務調査会 国会 委員会 国会 本会議国会提出後訂正不可 予算委員会のみで国政全般党内調整を終了させる必要 に関する討議国対政治、族議員跋扈        与党における強い党議拘

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現状では、野党との政策議論は国会の委員会でごく一部で実施されているのに止まる。

の野党との政策議論は、本来、本会議において行われることが期待される。このように、

が活性化し、実質的な議論・審議が行われるためには、既に記

したように、定足数の足かせを緩めることが必要となる。議事定足数ではなく、決議定足

自民党および民主党にお

されることになり、その一方、

制度整備

国会の委員会および本会議

と読み替えて、実質的な審議の活性化を図ることは是非とも必要である。 図表 12 で示した改革方針を順次進めることにより、図表 13 で示すように、従来型の制

度である、政党の機関である国会対策委員会での取りまとめと、委員会審議における強い

党議拘束は役割を終えることになる。一方、与党、野党ともに、

ては、各々設立済みの政党シンクタンクを活用してマニフェストを打ち出し、選挙公約

とすることで、選挙時に国民の選択を受けることになる。こうして政策決定過程の透明化

が図られる。国会の本会議および委員会は現在よりも活用

会の行政権への関与は拡大することになる。 図表13 改革を進めるための

与党 マニフェスト

シンクタンク 国民

野党 マニフェスト   選挙       情報提供

シンクタンク 政策選択

   国会本会議 与野党論戦の場

組閣 委員会 法律案等の審議の場憲法68条1項内閣総理大臣は、     憲法66条3項国務大臣を任命する。 内閣     内閣と国会は

    行政権の行使につき  国会の活用憲法65条     連帯して責任を負う。行政権は内閣に属する。

  指揮命令       内閣の活用行政機関   評価(省庁)

(出所)筆者作成

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国会の側においては、国民への政治参加期待が拡大する効果が生じると考えられる。ま

た、国会から国民に向けた情報提供の推進も可能となる。すでに両院の調査局では、立法

府のシンクタンクとしてその役割を担うために、調査業務の強化、書籍・インターネット

による情報提供、研究及び調査報告書の公表及び外部評価の確立等、積極的な取り組みが

始まっている(熊谷 2004 および久保田 2000)。 また、国務大臣としての大臣の役割の拡大も、今後期待される効果である。特に、内閣

提出法案準備でのリーダーシップの発揮は是非とも必要となる。 一方、実質的な審議を国会の委員会および本会議で実施することは、議員の資質が問わ

れ、働かない議員の排除に直結していくことになる。他方、国会機能の充実が進むととも

に、部分的にではあるが、行政機関のスリム化が行える余地が拡大することも予測できる。 各政党においては、オープンな場での議論の重要性がさらに高まり、国民世論の形成が極

めて重視されることになる。そのためには、情報提供と、政策実施評価結果の広報・公開

の確保が重要な業務となる。

.2 法整備の必要性

現在、世界的に、立法府が行うべき規範を定める権能を他の機関に委ねる(大石 2001

p.90)制度である「委任立法」が多く用いられている。ドイツ、フランス、イタリアにおい

ては、委任立法に関して、憲法に明文の規定があり、委任の限界(対象と期間)を規定し

ている。日本国憲法ではこうした記載が欠けており、そのために明確な審査基準が存在し

ない。 法律で記載しきれない細部については、政令および省令で定め、さらに不足した部分は

通達で補うこととされ、法律および政令にはそうした細則で規定する旨が規定される。た

だし、実際には、行政府の裁量の部分を残すために、法律では細部にまで踏み込まない記

述がなされる場合が多くある(北沢(2002)p.214)。このようにすると、行政側が裁量的

に判断できる部分が増大することになる。 法律による委任を受け、政令で定めたときには、その政令(受任政令と呼ぶ)に対する

統制が制度として設定されている必要がある。この場合、裁判所による統制に加え、議会

による事後統制が整備されていることが必要とされる(大石 2001 p.91)。しかも、「立法機

関が責任をとることのできる委任でなくてはならないとの原理からすれば、議会による事

後統制のほうを重視すべき」と指摘されている(大石同上)。 1993 年に制定された行政手続法では、委任立法に関する規定は存在していない。委任立

る手続き、および、両院合同審査会の設置まで、念入りに設定されて

る英国のような国があることは、日本ではあまり知られておらず、今後の課題である。 た、行政手続法に関しては、既存の内容では計画手続、および行政立法手続に関する

法案を議会で審査す

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出始めている。例えば、与党自民党が、

意味では何も変わらないからである。 方向性としては、自民党の政務調査会が担ってきた政府の代役としての審議を、現在の

会の委員会での審議で置き換え、さらに、野党案との比較検討にさらす場面は、国会本

というように、議論を公の場で実施するように変更していくことが

ましいと考えられる。

律では、行政府の長は、原則として、「行政情報(行政機関の職員が職務上作成し、

組織として用いるものとして保有しているも

要と考えられる。

定が盛り込まれず、積み残された問題となっている。将来的には、こうした機能が行政

手続として制定されていくことで、従来、審議会が果たしてきた機能までもが吸収されて

いくとの予測が語られている(藤田ほか 1998 p.36)。 従来、次官会議の追認に終始してきた閣議を、自主的な決定ができる機関として捉え直

そうとの試みの「芽」は、小泉内閣の下で徐々に

庁との対立も辞さずと、自民党政務調査会を中心とする「政治主導」の政策決定により

立案する法案が出された例がある。 ただし、こうした現象が出現していることに警鐘を鳴らす研究者も存在している(大山

2003 p.82)。与党議員が政策立案に熱心であることは良い現象であるものの、日本で議院内

閣制が採用されている以上、「政治主導」を推し進めるときには、もっと内閣の役割を前面

に出すやり方が望ましいと考えられる、との主張である。党の役割ばかりを前面に出すこ

とでは、行政と一体化して党の政務調査会で殆どの法案の修正を済ませてしまってきた今

までの手法と、「党主導」という

会議での審議で行なう

このような方向での改革を促進するための外圧として大きな働きをすると考えられるの

は、情報公開法に基づく国民の監視である。情報公開法は、欧米諸国、および、日本では

地方自治体が、早くから制定してきたが、国の法律として制定されることになったのは 1999年であり、施行されたのは 2001 年 4 月 1 日からであった(松井茂記、2000)。 この法

は取得したもの)」に関して、「何人」に係らず、情報公開法に基づき公開を求めたとき

にはこれを開示しなければならないと定めている。「何人」でも公開請求が出来ると定めら

れていることから、日本人は勿論、外国人、法人、法人格のない社団を含めて、情報公開

を求めることができることになる。公開される「行政情報」には、電磁的記録も含み、公

文書ばかりでなく、「当該行政機関において

」を広く含んでいる。行政側のディシプリンを質す重要な役割を、今後、この法律は果

たしていくことになると考えられている。 そのほか、国会法があまりに詳細な規定(全 133 条)を設定しており、しかも、衆参両

院を同時に、同一の制度で縛ろうとしている点に関する改正も必要となろう。特に、国会

法の規定のうち、会期不継続の原則(国会法 68 条)の修正は必

今後も、国会審議の活性化と、国民に開かれた議論を行う場としての国会の活用を目指

して、一つずつ制度改正を積み重ねる必要がある。

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(参照文献) 青木 幸弘、西村 陽 2003『電力のマーケティングとブランド戦略』(社)日本電気協会

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改革」有斐閣『ジュリスト』1998.5.1-15(No.1133)、pp.24-39 原田 一明 1997『議会法学入門』信山社出版 稲葉 馨 2001『内閣と行政組織、特集・世紀の転換点に憲法を考える』「ジュリスト」有

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Page 36: 研究レポート...研究レポート No.255 April 2006 国会活性化に向けた制度改革に関する考察 主席研究員 武石礼司 富士通総研(FRI)経済研究所

Dissertation

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究所 佐藤 幸治、高橋 和之 1998「対談、統治構造の変革、特集・国家の役割と統治構造改

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