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年度環境医学実習報告書 班 - Osaka University...45...

Date post: 05-Jun-2020
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45 2017年度環境医学実習報告書10班 『ストレス評価方法としてのバイオマーカーの測定』 指導教官 松瀬 亮一 実習学生 浅野 啓太 中村 槙志 鳴尾 栄志 1.背景 運動は健康維持にとって大変重要であり、これを行うことは適正な体重を維持し、骨や筋肉の 強度や関節の柔軟性を高めることにつながるだけでなく、精神的健康の改善にも大きな効果があ るとされている。運動の定義は、安静にしている状態よりも多くのエネルギーを消費する身体活 動(physical activity)のうちで、体力(スポーツ競技に関連する体力と健康に関連する体力を 含む)の維持・向上を目的とし、計画的・継続的に実施されるものとされている。 2.目的 この実習班では、これまで運動部特にサッカー部の活動における唾液中バイオマーカーの変動 を調べることで、運動の生体へ及ぼす効果を調べてきている。これまでは、サッカーの練習や試 合における疲労を中心にした検討を行ってきており、昨年は、サッカーの試合後に上昇した唾液 中のテストステロンが、ポジションによってどのように違うか、個人のパフォーマンスによって どう違うかを調べている。 今年は唾液中のコルチゾールとテストステロンの上昇する値が試合後と練習後で違いがみられ るか調べることにした。 3.方法 サッカー3試合と練習1回において1試合(練習1回)当たりプレーヤー7名を対象とし、唾液を試合 (練習)の直前、直後、終了30分後の3回採取した(のべ28名、のべ84サンプル)。 唾液の採取は、 専用の採取器具(サリベット)を利用して凍結で保存した。測定直前に融解した後に遠心機で分 離した。唾液中のバイオマーカーとしては、テストステロンおよびコルチゾールをサリメトリッ クス社のELISAキットで測定した。また、質問票で試合直前の「気分」「体調」、試合直後の「気 分」「体調」および「自己評価」を10段階のVAS法で自己採点してもらった。 4.結果 試合の結果は、1試合目が大阪歯科大学に2-2(PK5-6)、2試合目が京都薬科大学に2-2、3試合目 が神戸大学医学部に2-1であった。また、比較対照として、ゲーム形式の練習を検討に加えた。 唾液中コルチゾールの平均値の変動は、1試合目が、0.386→1.053→1.073(µg/dl)で、2試合 目が、0.289→0.919→0.650で、3試合目が、0.272→0.752→0.698で、4試合目(練習)が、0.334 →0.415→0.475であった。 唾液中テストステロンの平均値の変動は、1試合目が、94.1→149.9→132.5(ng/ml)で、2試合 目が、98.1→157.6→113.8で、3試合目が、132.3→180.9→155.4で、4試合目(練習)が115.0→165.6 →163.9であった。
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Page 1: 年度環境医学実習報告書 班 - Osaka University...45 2017年度環境医学実習報告書10班 『ストレス評価方法としてのバイオマーカーの測定』 指導教官

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2017年度環境医学実習報告書10班

『ストレス評価方法としてのバイオマーカーの測定』

指導教官 松瀬 亮一

実習学生 浅野 啓太 中村 槙志 鳴尾 栄志

1.背景

運動は健康維持にとって大変重要であり、これを行うことは適正な体重を維持し、骨や筋肉の

強度や関節の柔軟性を高めることにつながるだけでなく、精神的健康の改善にも大きな効果があ

るとされている。運動の定義は、安静にしている状態よりも多くのエネルギーを消費する身体活

動(physical activity)のうちで、体力(スポーツ競技に関連する体力と健康に関連する体力を

含む)の維持・向上を目的とし、計画的・継続的に実施されるものとされている。

2.目的

この実習班では、これまで運動部特にサッカー部の活動における唾液中バイオマーカーの変動

を調べることで、運動の生体へ及ぼす効果を調べてきている。これまでは、サッカーの練習や試

合における疲労を中心にした検討を行ってきており、昨年は、サッカーの試合後に上昇した唾液

中のテストステロンが、ポジションによってどのように違うか、個人のパフォーマンスによって

どう違うかを調べている。

今年は唾液中のコルチゾールとテストステロンの上昇する値が試合後と練習後で違いがみられ

るか調べることにした。

3.方法

サッカー3試合と練習1回において1試合(練習1回)当たりプレーヤー7名を対象とし、唾液を試合

(練習)の直前、直後、終了30分後の3回採取した(のべ28名、のべ84サンプル)。 唾液の採取は、

専用の採取器具(サリベット)を利用して凍結で保存した。測定直前に融解した後に遠心機で分

離した。唾液中のバイオマーカーとしては、テストステロンおよびコルチゾールをサリメトリッ

クス社のELISAキットで測定した。また、質問票で試合直前の「気分」「体調」、試合直後の「気

分」「体調」および「自己評価」を10段階のVAS法で自己採点してもらった。

4.結果

試合の結果は、1試合目が大阪歯科大学に2-2(PK5-6)、2試合目が京都薬科大学に2-2、3試合目

が神戸大学医学部に2-1であった。また、比較対照として、ゲーム形式の練習を検討に加えた。

唾液中コルチゾールの平均値の変動は、1試合目が、0.386→1.053→1.073(µg/dl)で、2試合

目が、0.289→0.919→0.650で、3試合目が、0.272→0.752→0.698で、4試合目(練習)が、0.334

→0.415→0.475であった。

唾液中テストステロンの平均値の変動は、1試合目が、94.1→149.9→132.5(ng/ml)で、2試合

目が、98.1→157.6→113.8で、3試合目が、132.3→180.9→155.4で、4試合目(練習)が115.0→165.6

→163.9であった。

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コルチゾールは 3試合とも試合直後に上昇し試合後 30 分後に低下しているのに対し、練習直後

はわずかに上昇し 30 分後もわずかに上昇していた。また、PK 戦のある試合はコルチゾール高値

が持続していた。

テストステロンの値は試合直後に上昇し試合後 30分後は低下しているのに対し、練習直後は上

昇していて練習 30分後には低下していなかった。

各試合での個人別コルチゾール変動から、練習では 1 選手(緑)を除いて、コルチゾールの値が

低いことと、個人によってコルチゾールの増減の傾向には違いがあることが確認された。

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また、各試合での個人別テストステロン変動から、テストステロンは個人によって直前の値の

違いがコルチゾールと比較して大きいこと、試合と練習では有意差はみられないこと、個人によ

っては練習や試合後にテストステロンの低下がみられる場合があることが確認された。また練習

試合 2の AA(GK)は直前で高値、直後に低値を示したことについては、GKは試合よりアップのほ

うが動くためだと考えられた。

5.考察まとめ

コルチゾールは試合のほうがより高い値を示したが、テストステロンは試合と練習で有意な差

がみられなかったことから、練習と試合で運動負荷(テストステロン)は同等でも、プレッシャ

ーやストレス(コルチゾール)は試合のほうが大きいためと考えられた。

また、PK戦があるとコルチゾールの回復が小さくなったことについては、PK 戦による精神的な負

荷が大きいためと考えられた。

6. 参考文献

Hasegawa M et.al. /Biomed Res. 2008.Changes in salivary physiological stress markers

associated with winning and losing.

E. Gonzalez-Bono, A. Salvador, M. A. Serrano, and J. Ricarte/Hormones and Behavior

1999.Testosterone, Cortisol, and Mood in a Sports Team Competition.

Nick Neave, Sandy Wolfson /Physiology & Behavior 2003.Testosterone, territoriality, and

the ‘home advantage’.


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