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調査報告書 - Minister of Economy, Trade and Industry1 はじめに...

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43
資源エネルギー庁 御中 平成29年度新エネルギー等の導入促進のための基礎調査 (再生可能エネルギーの導入拡大等に伴う新たなエネルギービジネス等に係る調査) 調査報告書 平成 30 2 株式会社日本総合研究所 創発戦略センター
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資源エネルギー庁 御中

平成29年度新エネルギー等の導入促進のための基礎調査

(再生可能エネルギーの導入拡大等に伴う新たなエネルギービジネス等に係る調査)

調査報告書

平成 30年 2月

株式会社日本総合研究所

創発戦略センター

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はじめに

世界的に再生可能エネルギーの導入が拡大し、コスト低減が進む中、我が国における更な

る導入拡大を図るためには、再生可能エネルギー発電事業の自立化に向けた環境整備が必

要である。また、特に自然変動電源を中心とした再生可能エネルギーの円滑な導入には電

力系統の整備・運用の在り方の見直しが不可避である。

こうした再生可能エネルギーの低コスト化、更には自立化、及び再生可能エネルギーの

大量導入に伴う系統側の在り方にも変革が見込まれる中、2050年を俯瞰すれば、新たな技

術開発の進展・ビジネスモデルの確立によって、今般のシステム改革を超えて事業環境に

変化がもたらされる可能性がある。そのために2030年以降を見据え必要となるアクション

の検討が求められている。

このような状況を踏まえ、本調査は、今後の政策立案に役立てることを目的とし、今後

の再生可能エネルギーの導入拡大等に伴う新たなエネルギービジネス等に係る調査を実施

した。

内容

はじめに ................................................................................................................................. 1

1 再生可能エネルギー導入拡大に伴う新たなビジネス等の調査 ...................................... 2

(1) Next Kraftwerke社(ドイツ) .............................................................................. 2

(2) Energy Pool(フランス) ....................................................................................... 6

(3) E.ON社(ドイツ)の投資先企業 ........................................................................... 9

(4) Stem社(アメリカ) ............................................................................................ 15

(5) Sunverge社(アメリカ) ..................................................................................... 18

(6) まとめ .................................................................................................................... 20

2 温暖化対策が強化される中で求められる新規事業 ...................................................... 21

(1) CCS ........................................................................................................................ 21

(2) CCU ....................................................................................................................... 25

(3) 人工光合成 ............................................................................................................. 29

(4) CNF(セルロースナノファイバー) .................................................................... 33

(5) GaN(窒化ガリウム)・SiC(炭化珪素) ............................................................. 36

(6) まとめ .................................................................................................................... 38

3 研究会の実施 ................................................................................................................. 40

4 総括 ............................................................................................................................... 41

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1 再生可能エネルギー導入拡大に伴う新たなビジネス等の調査

今後の再生可能エネルギーの導入拡大においては、太陽光発電や風力発電の大量導入が

期待されている。しかし、これらの発電方法については、供給量の変動が著しく激しく、

また単体では制御が難しいことが課題とされている。

この課題に対応するには、蓄電池や VPPに代表される需要側を含めたエネルギーマネジ

メントシステムの役割が重要である。本章では、海外の先進事例から、再生可能エネルギ

ーの導入拡大に伴って求められる、蓄電池や VPPによる新たなビジネスを調査した。

(1) Next Kraftwerke社(ドイツ)

Next Kraftwerke(ネクスト・クラフトヴェルケ)社は、2009年にドイツで設立された

スタートアップ企業。ドイツを中心に欧州トップクラスの実績を持ち、商用ベースで VPP

事業を展開している。

VPP リソースの種類は、太陽光発電・風力・バイオガス・非常用発電機・コージェネレ

ーションシステム・蓄電池等多岐に亘り、これらを取り纏めて Next Pool と呼び、需給調

整市場や電力取引市場を介した取引を行っている。現在では、VPP リソースの数は 5,140

基、電力容量としては 4,032MWにも上る。

出所:Next Kraftwerke 社ウェブサイト

図 1 Next Kraftwerke社の VPP事業イメージ

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出所:Next Kraftwerke 社ウェブサイト

図 2 Next Kraftwerke社の主な業績

VPPリソースの制御にあたり、需要家は自ら制御を行う以外に、Next Boxと名付けた制

御通信端末を用いることもできる。Next Kraftwerke 社は、需要家と契約を締結したうえ

で、Next Box を介して需要家の所有している VPP リソースの情報収集および挙動制御を

行う。

同社は、電力会社からの要請を受けて、需要家に対して VPPリソースの稼働や停止を指

示する。需要家は、電力需給の指示に従った分に応じて、同社からインセンティブを受け

取ることができる。

出所:Next Kraftwerke 社ウェブサイト

図 3 NEXT Boxの利用イメージ

また、Next Kraftwerke社は、VPPに参加する需要家に、NEMOCS と名付けたプラッ

トフォームを提供している。NEMOCSにより、顧客はさまざまなアセットを統合的に管理

することができ、その挙動をパソコンやタブレット端末から逐次確認することが可能とな

る。

NEMOCSの特徴は、以下のように紹介されている。

① 異なるリソースの接続性確保

標準インターフェースにより、さまざまな機器を VPPに接続し、それらを遠隔制御でき

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る。必要に応じて、NEXT Box を介して、エネルギーの生産・消費資産をネットワークに

接続することも可能。

② リソースのリアルタイム監視

制御システムは、現在の電源容量、蓄電池であれば充放電容量、およびリソースの稼働

状態に関するリアルタイム情報を表示および記録できる。これにより、VPP で使用可能な

容量について、常に正確な量が確認できる。

③ データの視覚化

NEMOCS は、複数のグラフィカルなユーザーインターフェースを提供する。たとえば、

技術や顧客、場所別にフィルターを掛けることも容易。

④ 高性能データ処理

電力市場における価格変動と、TSO(送電事業者)のネットワーク信号とが、瞬時に処

理され、リソースの運用コマンドに変換される。API インターフェースを使用して、デー

タを、取引システムや会計システムに転送して連系することも可能。

⑤ リソース運用の最適化

市場データや気象データに加えて、ネットワークに接続されたリソースの入出力データ

に基づいて、電力消費のピーク負荷時の操作スケジュールを設定し、柔軟なリソース運用

や、それぞれのリソースを最大限に活用して、市場価値を最適化することができる。

⑥ 完全自動制御

中央制御システムが、個々のリソースの稼働を最適化するよう遠隔管理・制御する。制

御を変更する必要が生じた場合も、短時間での変更が可能。

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出所:Next Kraftwerke 社ウェブサイト

図 4 NEMOCSの全体像

Next Kraftwerke 社では、ウェブサイトを通じて、様々な需要家のケーススタディや、

ゲーム形式で分かりやすくVPPの役割を理解することができるコンテンツを公開している。

このことからも、広く一般需要家に対して VPP事業を PRし、参加を呼び掛けていること

がうかがえる。

我が国においても、将来的にVPP事業が商業ベースで展開されることを見据えると、VPP

事業者にとっては、一般需要家向けに分かりやすい参加プログラムや、効果が分かりやす

いプラットフォームの提供などが有用であることが示唆される。

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出所:Next Kraftwerke社ウェブサイトに日本総研加筆

図 5 VPPのシミュレーションプログラム

(2) Energy Pool(フランス)

Energy Pool(エナジープール)社は、2009年にフランスで創業。2010年には、大手電

機メーカーのシュナイダーエレクトリックグループと資本提携し、Energy Poolブランドと

して、欧州各国の電力会社へ、エネルギーマネジメントサービスを提供している。日本に

おいても、2014年に事業を開始している。

特徴としては、産業用需要家の生産ラインを対象とした DR プログラムを構築している

ことである。産業用ユーザーの敷地内に DR Box と呼ばれるゲートウェイ機器を設置し、

数か月から一年もの時間を掛けて顧客の生産ラインの特性を把握したうえで、顧客の了解

のもと、同社のリソースポートフォリオに組み入れるとしている。

電力需給が変動するようなイ

ベントが不定期に発生する

プレーヤーは、電力の

周波数を一定に保つ

ため、発電所や生産設

備のバーを上下させ

て需給を制御させる

(Next Kraftwerke 社

をクリックして、同社

に制御を“おまかせ”

することも可能)

イベントによって電力の周波

数が刻々と上下する

周波数を一定に保たないとペ

ナルティスコアが上昇する

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出所:経済産業省 電力・ガス取引監視等委員会 第 4回送配電網の維持・運用費用の負担

の在り方検討ワーキンググループ配布資料,資料 7「ディマンドリスポンス事業と今後の課

題」2016年 12月

図 6 主な DRリソース対象業種と手法

出所:エナジープール社ウェブサイト

図 7 製造業における負荷平準化の手法イメージ

その一環として、再生可能エネルギー余剰時に、一部休止中の生産設備に増産を要請し

需要を創出することで、発電量全てを余すところなく系統に並列することで、再生可能エ

ネルギーの有効活用が可能であることを実証した。具体的には、電解槽の需要家でその実

効性を確認している。

このような需要創出型 DR もしくはポジワットと呼ばれる手法は、まさに再生可能エネ

ルギーの導入拡大時に、出力変動を抑え系統制約を緩和する手段となり得ることから、今

後のカギとなる技術と言える。

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出所:経済産業省 電力・ガス取引監視等委員会 第 4回送配電網の維持・運用費用の負担

の在り方検討ワーキンググループ配布資料,資料 7「ディマンドリスポンス事業と今後の課

題」2016年 12月

図 8 需要創出型 DRの実証例

また、本 DRプログラムが活用された例としては、2016年 6月にフランスで EDF原子

力発電所の計画外停止により需給ギャップが発生した際に、一般送配電事業者(RTE)の

要請を受けて、56.1万 kWものネガワットを拠出してこれに対応した実績がある。

出所:経済産業省 電力・ガス取引監視等委員会 第 4回送配電網の維持・運用費用の負担

の在り方検討ワーキンググループ配布資料,資料 7「ディマンドリスポンス事業と今後の課

題」2016年 12月

図 9 需給逼迫時のネガワット拠出事例

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Energy Pool社の産業用需要家の生産ラインを対象とした DRプログラムは、大規模電源

から調整力を調達した場合と比較して、系統の混雑回避に優位性があり、多くの需要家を

アグリゲートすることで、ポートフォリオ効果がはたらき、DR確保の信頼性が相対的に高

くなる。また、DR発動時には実質的にカーボンフリーが可能になることに加えて、調整力

電源の新設コストを踏まえると、一定の価格競争力を有する。

我が国においても、DRビジネスの多くが、一般家庭やオフィスビル、商業ビルを対象と

していることを鑑みると、大規模かつ安定的な DRリソースを確保できるという観点から

有用であると示唆される。

(3) E.ON社(ドイツ)の投資先企業

E.ON(エーオン)社は、ドイツの四大電力会社のうちのひとつ。2000 年に、プロイセ

ン電力とバイエルン電力が合併して誕生したドイツを代表するヨーロッパ有数の大手エネ

ルギー企業である。近年は送電部門・発電部門の大部分を売却・分離して、専ら再生可能

エネルギー発電、配電、小売を事業の中心としており、再生可能エネルギー事業や分散電

源・ディマンドリスポンスを活用した VPP事業の拡大を図っている。

出所:日本総研作成

図 10 ドイツにおける電力会社の統合・分離の経緯

同社は、分散電源や需要をマネジメントする需給制御技術、需要家向けサービス技術を

保有するスタートアップ企業に対する投資戦略を、近年積極的に進めている。投資先の選

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定にあたっては、「リテールソリューション」「再生可能エネルギー」「インフラおよびエネ

ルギーネットワーク」「エネルギーシステム」の 4項目をイノベーションハブとして検討し

ているとみられる。

本調査では、このうち特徴的な AutoGrid社、Greensmith社および Enervee社を対象と

した。

出所:E.ON社ウェブサイトより日本総研作成

図 11 E.ON社の主な投資先スタートアップ企業

① Auto Grid(アメリカ)

AutoGrid(オートグリッド)社は、スタンフォード大学教授であるアミット・ナラヤン

氏が 2011年にアメリカで設立した、エネルギー解析ベンチャー企業である。主要株主には

Energy Impact Partners、Envision Ventures、ClearSky Power & Technology、E.ON、

Total Energy Ventures、Foundatioon Capital、Stanford Universityがいる。

同社の特徴は、個客の行動履歴、すなわち過去のエネルギー消費性向に着目した独自の

E.O

N

Greensmith

Bidgely

Enervee

Space-Time Insight

Leeo

Orcan Energy

The Westly Group

AutoGrid

FirstFuel

Kite Power Systems

Thermondo

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分析アルゴリズムである。この技術により、電力消費量予測サービスやボトムアップ型 DR

を可能にする分析基盤を、電力会社に提供している。また、この技術を基盤として VPP事

業プラットフォームとして、AutoGrid VPPを提供している。

出所:AutoGrid社ウェブサイト

図 12 AutoGrid VPP の概要

AutoGrid VPPは、エネルギーリソースの膨大なネットワークをリアルタイムで集約して、

予測・最適化・制御を行う。これにより、顧客が持つ多種多様なリソースから、利益を生

みだすための支援を行うとしている。また、モジュラー形式のアーキテクチャーを採用し

ており、最小リスクで素早い事業展開が可能であり、将来的なニーズにも柔軟に応え得る

ことを可能としている。

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出所:AutoGrid社ウェブサイト

図 13 AutoGrid VPPの画面表示例

② Greensmith(アメリカ)

Greensmith 社は、2008 年にアメリカで設立された。イギリスにおいて、エネルギース

トレージソフトウェアとインテグレーションサービスを手掛ける大手プロバイダーの一つ

である。

GEMS と呼ばれる同社のソフトウェアプラットフォームは、現在では第五世代となり、

グリッドスケールから、「ビハインド・ザ・メーター」(Behind-The-Meter)と呼ばれる需

要家側に設置する蓄電池やマイクログリッドソリューションまで、効率的で安定した送電

を可能にし、コスト削減およびシステム寿命の最大化による最適なパフォーマンスを実現

するとしている。蓄電量は 180MWで、電力会社や独立系発電事業者等 50社と契約してい

る。

同社は、2016年時点では売上高約 3,200万ドル、従業員数は 40人超であった。2015年

に E.ON 社からの戦略投資含む、1,830 億ドルの資金調達を完了した。また、2017 年 5 月

にはフィンランドの発電プラント及び舶用エンジン等の開発製造会社Wärtsilä(バルチラ)

社により、1 億 7,000 万ドルで買収され、Wärtsilä 社のビジネスユニットとして、スタン

ドアローンのエネルギーストレージ、ハイブリッド型エネルギーシステム、コントロール

ソフトウェア、インテグレーション等の専門技術を提供するとしている。

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出所:Greensmith社ウェブサイト

図 14 Greensmith社のプラットフォーム導入先マップ

③ Enervee(アメリカ)

Enervee社は、2010年にデジタルマーケティングの起業家 2人によりアメリカにて設立

された。エネルギー効率の高い家電・デバイス・電気製品に点数をつけて、消費者が比較

できるプラットフォームを提供。The Enervee Data Engine と名付けられたウェブサイト

では、毎日何百万件ものデータを収集・加工して、一般に提供している。消費者は、同ウ

ェブサイトでエネルギー効率を評価する Enervee Score を確認し、人気度やレビューなど

のデータと組み合わせることで、最適な製品を簡単に選択することが可能となる。

同社によれば、1年間に全米の人口の 30%が Enervee Score(最大 100点)が 90点以上

の家電(テレビ、冷蔵庫、洗濯機、乾燥機、食洗機等)を購入すると、省エネ効果は累計

で 9,000 GWhとなり、石炭火力発電所 3基を 1年間停止するのと同じ量と試算している。

同社は、2015年には E.ONより約 130万ドルの出資を受け、他の資金調達と併せて総額

500万ドルの資金を獲得している。

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出所:Enervee社ウェブサイト

図 15 Enervee Scoreの評価プロセスと基準

テレビ Screen Size (Diagonal in) & kWh/yr

冷蔵庫 Capacity (ft3) & kWh/yr

冷凍庫 Capacity (ft3) & kWh/yr

プロジェクター Lumens of Brightness & kWh/yr

衣類洗濯機 Cubic feet of volume per kWh per cycle

食器洗い機 Cycles per kWh

衣類乾燥機 Pounds of Clothes per kWh

タブレット Performance (screen size & pixels, processing power & battery life) &

kWh/yr

ビデオゲーム Performance (CPU speed, memory & hard drive capacity) & kWh

エアコン BTUs of cooling power per Watt

モニター Screen size (diagonal in) & kWh/yr

電球 Lumens of brightness and Watts

出所:Enervee社ウェブサイトより日本総研作成

図 16 Enervee Scoreの算出方法

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(4) Stem 社(アメリカ)

Stem(ステム)社は、2009年にアメリカで設立されたスタートアップ企業であり、商業

および電力会社向けの蓄電池システムを提供している。同社の特徴は、蓄電池は同社が所

有し、システム導入によって得られた電気料金の削減分の一部を同社が収入として得ると

いうビジネスモデルにある。

2016 年には 1 億ドルの資金調達に成功し、これまでの総調達額は 2 億ドル超にも上る。

また、大手電力・ガス会社である米 Exelon 社、独 RWE 社、西 Iberdrola 社のほか、GE

や三井物産といった大手企業も出資者に名を連ねている。

出所:Stem社ウェブサイトを基に日本総研作成

図 17 Stem社のビジネスモデル

Stem 社は、自社の保有する VPP の顧客ネットワークを活かして、ハワイ州(HECO)、

カリフォルニア州(SCE, PG&E, SMUD, CAISO)等で同社システムを用いた DR実証に

参加している。また、2017年には日本でも三井物産と共同で、容量 750 kWhの VPPを構

築したことを発表している。

現在、同社のネットワークには 800 以上もの蓄電池システムが接続されている。これら

のネットワークを用いて、2017年には電力会社からの要請に対して 600回以上の需給調整

対応を行った実績があるとしている。また、同社のシステムは応答速度に優れた蓄電池を

自動制御することが可能であるため、電力会社からの要請に対する応答速度が素早い(5分

需要家 Stem 社 電力市場

蓄電池

所有 利用

蓄電池によるピークカット※2

省エネ分としてカウント

提供※1

料金

(省エネ分の一部)

電力(調整力)

フィー

※1 Stem社の特徴は、初期費用無料のリー

ス形態で顧客に提供することだが、顧客が自

己投資により購入・所有することも可能。

※2 同社ではディマンドチャージ削減メリ

ットと表現している。

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以内)ことが特徴であるとしている。

出所:Stem社ウェブサイト

図 18 Stem社の実績例

Stem社のシステムは、次の 3つの技術により構築されている。蓄電池というハードウェ

アだけでなく、顧客がその効果を分かりやすく確認することができるプラットフォームを

併せて提供していることが特徴である。

PowerScope:顧客向けのプラットフォームとして提供されている。エネルギーの消費

実績量、天候および市場価格から、最適な稼働パターンを解析し、顧客はスマートフ

ォンやタブレットを通して、リアルタイムでシステムの稼働状況を確認することがで

きる。

PowerStore:同社の事業の核となる、蓄電池である。後述のとおり、顧客は設備導入

にあたって初期費用不要のオプションを選択することも可能。

PowerMonitor:蓄電池の監視・制御装置として設置される。

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出所:Stem社ウェブサイト

図 19 PowerScopeの利用イメージ

注:利用イメージから、1パッケージあたり容量 18kWとなっており、顧客ニーズに応じて

台数を増やして設置していると推測される。

出所:Stem社ウェブサイト

図 20 PowerStoreの利用イメージ(容量 108kW)

Stem社の特徴である、顧客が初期費用を支払うことなく、同社システムをリースにより

導入することができるオプションは「Zero-down financing」と呼ばれる。同社によれば、

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顧客のエネルギー削減効果が大きいことを利用して、顧客のメリットの一部をリースによ

り貸与することが可能だとしている。

このように、同社は単に蓄電池システムを提供するだけでなく、安定した利益が得られ

ることを背景として、ファイナンスサービスまでセットで顧客に提供していることが、他

社にはない特徴だと言えよう。

出所:Stem社ウェブサイト

図 21 Zero-down financingの利用イメージ

Stem社は、大手電力会社のスピンアウト等でない、いわゆるベンチャー企業であるもの

の、蓄電池という需給調整に最適なハードウェアと、顧客に効果をわかりやすく伝えるソ

フトウェア、さらには初期費用のハードルを下げるファイナンスプログラムの提供を組み

合わせることで、短期間に実績を積み上げ、有力企業の投資を呼び込むことに成功してい

る。

我が国においても、今後の自由化が進む市場状況を考えると、最適な技術と顧客に対す

る有効な PR手法を組み合わせれば、新興企業を含めて様々なビジネスチャンスがあること

が示唆されていると言える。

(5) Sunverge社(アメリカ)

Sunverge(サンバージ)社は、2009年にアメリカで設立されたスタートアップ企業であ

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る。従業員は約 50名で、アメリカ・サンフランシスコとオーストラリア・ブリスベンに拠

点を置いている。主な出資者は、オーストラリア政府の再生可能エネルギー支援機関

(ARENA)、オーストラリア・AGL 社、ドイツ・Siemens 社、フランス・Total 社、ソフ

トバンク・チャイナ・ベンチャーキャピタル、および三井物産などとなっている。

同社は、蓄電池やパワーエレクトロニクスを対象として、クラウドで稼働するシステム

管理ソフトウェアからなる分散型エネルギー貯蔵管理システム ”Sunverge Solar

Integration System”(SIS)を構築している。SISを構築するうえで重要な機器である定置

型蓄電池ユニット”Sunverge One”は、出力 6.4kW・容量 11.8kWhのスペックを持つ。

SISの特徴は、さまざまなメーカーの各種の蓄電システムや屋根置き太陽光発電システム

などの自家発電、EVといった分散型エネルギーリソースを接続できることである。この特

徴を活かして、電力会社や送配電系統運用者、電力小売事業者などに向け、住宅用太陽光

に蓄電システムを併設し、同社のソフトウェアにより再生可能エネルギー源を近隣レベル、

地域レベル、供給地域全体で効果的にVPPに統合するソリューションとして訴求している。

出所:Sunverge社ウェブサイト、三井物産

図 22 蓄電システム Sunverge Oneと制御システム SISのイメージ

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2017年 12月、Sunverge 社は東京電力および三井物産と協力して、東京電力供給地域内

の分散する場所に、数十基の蓄電ユニットを配置し、これら蓄電ユニットを送配電系統で

単一の仮想ノードとして管理するプロジェクトを開始したことを発表した。

本プロジェクトでは、同社の電力管理プラットフォームが制御する VPPに、多数の別々

の蓄電ユニットを接続することにより、送配電事業者は需要の大きな変化に 15分以内で適

応することが可能となる。同社は、本プロジェクトにより、日本の送配電系統における分

散電源の集中管理について、信頼性をどのように高められるかを実証するとしている。

また、同社はアメリカでも、アリゾナやフロリダなど 3州の主要電力事業者と、同社製

の定置型蓄電池システムやVPPプラットフォームに関する契約で合意したと発表している。

様々な VPPリソースを接続することができるという点で、同社のシステムは特徴的だと

言える。我が国においても、今後エネルギーリソースの多様化に伴い、このような柔軟性

に富んだプラットフォームの開発に対する必要性が高まることが想定される。

(6) まとめ

本章では、再生可能エネルギーの導入拡大に伴う新たなビジネスについて、欧州ならび

に米国の先進事例から、蓄電池や VPPによる新たなビジネスを調査した。

欧州においては Next Kraftwerke 社や Energy Pool 社など、米国では Stem 社や

Sunverge 社など、多くのスタートアップ企業が VPP を切り口として、それぞれ特色のあ

るビジネスを展開している。また、E.ON社のような大手エネルギー企業は、スタートアッ

プ企業への投資を活発化させている動きもみられる。このように様々な形態でスタートア

ップ企業が誕生・成長していることは、再生可能エネルギーの導入拡大にも繋がる蓄電池・

VPP事業のビジネスチャンスが拡大していることの証左であると言えよう。

我が国においても、電力システム改革の進展により、徐々に蓄電池や VPPによる新事業

勃興の兆しが見えつつあり、今後の事業機会拡大が期待される。

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2 温暖化対策が強化される中で求められる新規事業

2015 年末の気候変動枠組条約第 21 回締約国会議(COP21)では、地球温暖化問題の主

要因である人為的な温室効果ガス排出の大幅な削減を目指し、2020 年以降の新たな国際枠

組みであるパリ協定が採択された。パリ協定では、産業革命以前の水準と比べて世界全体

の平均気温の上昇を 2℃より十分低く保つこと、加えて同気温上昇を 1.5℃に抑える努力を

追求すること、可及的速やかな排出のピークアウト、さらには今世紀後半における排出と

吸収の均衡達成への取り組みが、世界共通の長期目標として示された。

しかしながら、各国が提出した約束草案に基づくと、現状の削減努力だけでは 2℃目標を

達成できない可能性が示唆されている。すなわち、パリ協定における目標達成のためには、

従来の削減技術とは非連続的な技術も含めて、世界全体での排出量の抜本的な削減を実現

するようなイノベーションを創出することが不可欠であることが示されていると言える。

出所:総合科学技術会議「エネルギー・環境イノベーション戦略」(NESTI 2050)

図 23 2050年までの世界の温室効果ガス削減のイメージ

(1) CCS

発電所から排出される CO2 を回収し、貯留または有効活用する技術(CCSU; Carbon

dioxide Capture and Storage/Utilization)は、火力発電からの CO2排出量をゼロに近づ

ける切り札となり得る。 2030年以降を見据えた取り組みとして、早期にこれらの次世代技

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術の開発を進め、 利用の推進に向けた道筋を付けることが重要である。

出所:経済産業省 資源エネルギー庁「次世代火力発電協議会(第2回会合)資料1」「CO2

回収、利用に関する今後の技術開発の課題と方向性」2015年 6月、p3

図 24 CCSU の概要

CCSUは、技術的には実証または研究段階にあり、経済性の面でも不確定な要素が大き

いため、まずは高効率石炭あるいは LNG火力と組み合わせて適用することが妥当と考えら

れる。

出所:経済産業省 次世代火力発電の早期実現に向けた協議会「次世代火力発電に係る技

術ロードマップ」2016年 6月、p10

図 25 CCSUとその他発電方法の比較

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2016 年 10 月時点において、操業・建設・開発計画の各段階にある世界の大規模 CCS プ

ロジェクトは 38 件となっている。これら大規模 CCS プロジェクトのみならず、CCS 技

術の向上に資するパイロット・実証規模プロジェクト等の研究開発は世界中で取り組まれ

ている。

38 件の内、操業中の大規模 CCS プロジェクトは 15 件あり、これらの CO2 回収ポテ

ンシャルは年間約 3,000 万トンである。さらに米国において操業が予定されている 3 件の

大規模プロジェクトを加えると、2017 年初めには 18 件( CO2 回 収ポテンシャル約

3,500 万トン/年) となる。続いてオーストラリアとカナダのプロジェクトが操業を開始す

ると、2017 年末時点で操業中の大規模プロジェクトは 21 件( CO2 回 収ポテンシャル

約 4,000 万トン/年) になると見込まれている。

出所:GCCSI, The Global Status of CCS, 2016

図 26 主な CCS プロジェクトの開発状況

CCS の各要素技術のほとんどは、石油・ガス生産(精製) や肥料製造分野で既に実用

化されている技術であり、ある程度は成熟していると言える。ただし、地球温暖化防止対

策に特化した CCS については外部不経済であり市場原理だけではなかなか進展しない。導

入を促進するためには、コスト低減、分離・回収エネルギーの低減、貯留層の安全管理技

術、モニタリング・評価技術等、更なる技術開発が必要不可欠である。

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出所:GCCSI, The Global Status of CCS, 2016

図 27 CCS 技術と統合プラントの投資リスク曲線

CCSの全体コストのうち、分離・回収(圧縮含む)が多くを占めるとされている。GCCSI

の The global status of CCS 2015によると、例えば、発電所における大規模 CCSプロジ

ェクトでは 70~90パーセントを回収と圧縮処理関連コストが占めるとされている。

出所:資源エネルギー庁「次世代火力発電に係る技術ロードマップ」,平成 28 年

図 28 次世代の CO2 回収関連技術の開発の見通し

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IEAの 2℃シナリオ(2DS)は 2040年に年間約 40億トン、2050年には約 60億トンの

CCSによるCO2削減が必要とされている。2050年までの累積のCO2削減量は全体の 12%

と試算されている。

我が国においても、苫小牧実証試験、適地調査、安全管理の研究開発等、CCSの実用化

に向けた研究開発が進められている。これらの成果を踏まえ、日本での適合性(リスク評

価、経済性、実施可能性)をより明確にすることが求められる。

(2) CCU

CCUは、回収した CO2を有価物の製造に利用する技術であり、現在、複数の分野で 技

術開発が進められている。CCSと比較した場合、現時点では CO2の大規模処理が困難であ

るものの、有価物の製造につながる点でコスト性に優れ、今後の技術革新により CO2の処

理能力、有価物の製造効率が向上すれば将来の利用拡大が期待される。

出所:経済産業省 資源エネルギー庁「次世代火力発電協議会(第2回会合)資料1」「CO2

回収、利用に関する今後の技術開発の課題と方向性」2015年 6月、p5

図 29 CCSUの今後の方向性

CCUは「回収した CO2 を利用する」ことを特徴とする技術群であり、様々な分類の仕

方がある。例えば、利用時に「CO2の変換」が必要か否かという観点に基づくと、以下の

ように整理することができる。

CCU の特徴は「炭素を短期間、少なくとも循環の中に炭素を保持し、これによって大気

中への CO2の排出を防ぐ」ことである。鉱物の中に閉じ込める、ポリマーのような長期間

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存続する製品、地下の貯留層に貯留するといった「永久的」なものもあれば、炭素の燃料

の様に、すぐに燃焼して CO2を排出しまうものもある。

そのままの形で利用するもの:

増進回収(EOR、EGR)、食品産業、超臨界 CO2、その他(冷却用、溶接用)

化学的・生物化学的な変換を伴うもの:

燃料(ケロシン、ディーゼル、メタノール、エタノール、メタン等)

中間化学品( ギ酸、マレイン酸、尿素、カルバメート類、合成ガス等)

ポリマー(ポリカーボネート、ポリウレタン等)

鉱物固定化(コンクリート、骨材、無機炭酸塩等)

バイオマス

CCUの潜在的な市場規模は、2030年の CO2削減ポテンシャルで、骨材: 3~36 億ト

ン、燃料:7,000 万~ 21億トン、コンクリート:6~14億トンと推測している。

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出所:ICEF2016: ICEF, “CARBON DIOXIDE UTILIZATION (CO2U) -ICEF ROADMAP

1.0” , 2016

図 30 CCUの CO2削減ポテンシャル

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出所:ICEF2016: ICEF, “CARBON DIOXIDE UTILIZATION (CO2U) -ICEF ROADMAP

1.0” , 2016

図 31 CCUの潜在市場規模

我が国にとっても、輸入に頼る石油からの脱却を図れるという意義は大きい。一方で、C

O2の変換に用いるエネルギーを何から得るのかの検討が必要である。太陽光利用を考える

場合には、土地が必要で、他の土地利用の可能性とも合わせて、日本での適用可能量につ

いての検討が必要である。

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(3) 人工光合成

人工光合成とは、水を原料として太陽光を用いて、光エネルギーを化学エネルギーに変

えて物質に蓄える化学変化、すなわち「エネルギー蓄積反応」により炭水化物、水素、そ

の他の高エネルギー物質を生成することである。人工光合成研究は日本が世界をリードし

ているといわれ、特に 2010年代に日本の優れた研究結果が数多く報告され、関心が高まっ

ている。

出所:ワオコーポレーションウェブサイト

図 32 人工光合成の概略図

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出所:経済産業省「平成 27年度地球温暖化問題等対策調査 中長期的に重要となる環境技

術等に関する調査 報告書」p.9

図 33 日本の主な人工光合成研究の動向

人工光合成は、二酸化炭素を発生しない新エネルギー(水素など)を生成・利用できる

ことや、二酸化炭素を還元して有用化合物を生成・利用できることから、二酸化炭素削減

方策として期待されている。また、他の太陽エネルギーの変換技術と比較すると、電気エ

ネルギーより貯蔵・輸送がしやすい化学エネルギーへの転換が可能なことが利点である。

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出所:産業技術総合研究所,「AIST 太陽光発電研究 成果報告会 2015 研究分野紹介

人工光合成技術」,P.5

図 34 太陽エネルギー変換技術としての人工光合成

NEDO による人工光合成プロジェクトでは、太陽エネルギー及び革新的触媒技術を用い

て、CO2 と水を原料に、プラスチック原料等の基幹化学品であるオレフィンを製造するプ

ロセスの開発を目標としている。また将来的には、光触媒の改良により、2021 年までにエ

ネルギー変換効率 10%を達成し、2030年頃には商用機でのオレフィン製造の実用化を目指

している。

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出所:経済産業省,「次世代火力発電の早期実現に向けた協議会(第 2回) 配布資料

資料 2-5 ARPChem 人工光合成 PJについて」,2015年, p.14

図 35 人工光合成化学プロセス実用化のシナリオ

出所:経済産業省,「次世代火力発電の早期実現に向けた協議会(第 2回) 配布資料

資料 2-5 ARPChem 人工光合成 PJについて」,2015年, p.15

図 36 人工光合成実用化に向けての見通し及び取り組みについて

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人工光合成技術の一般家庭向け実証としては、飯田グループホールディングスと大阪市

立大学が、沖縄県宮古島で実証実験を開始した、人工光合成技術を活用した戸建住宅(人

工光合成ハウス)が挙げられる。

人工光合成ハウスでは、太陽光エネルギーを活用して二酸化炭素からギ酸を生成・貯蔵

し、このギ酸から需要に応じて水素を生成し、発電および給湯を行うことで、家庭の消費

電力のすべてを賄うことができる、極めて環境性能の高い住宅となる。同グループでは、

2020 年までにこれらの技術を確立し、人工光合成技術による二酸化炭素消費型住居の完成

を目指している。

出所:飯田グループホールディングス「宮古島に“人工光合成ハウス”を建設」

図 37 IGパーフェクトエコハウス(人工光合成ハウス)の仕組み

(4) CNF(セルロースナノファイバー)

CNF(セルロースナノファイバー)とは、森林資源、農業廃棄物を原料とする高機能材

料である。鋼鉄の 5分の1の軽さであるにも関わらず、5倍以上の強度を誇ること、また植

物由来のカーボンニュートラルな材料であることが大きな特徴である

2000年代半ばから先進国を中心に研究開発や標準化(ISO)の議論が進められていたが、

近年素材として実用段階に入り、用途開発の取り組みが進められている。具体的には、自

動車部材、発電機、家電製品等の軽量化により、これら製品の燃費や効率が改善し、地球

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温暖化対策に貢献することが期待されている。また、森林資源の活用による循環型社会の

実現の一端を担うことも想定されている。

出所:日本製紙グループウェブサイト

図 38 セルロースナノファイバーの製法

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出所:日本製紙グループウェブサイト

図 39 セルロースナノファイバーを用いた商品例

CNF の研究は、国内では京都大学生存圏研究所を拠点の一つとして進められてきたが、

経済産業省による CNF の実用化研究や製造プロセス技術開発支援、CNF サンプルプラン

トの建設支援、また、幅広い業種での実用化や国際標準化対応を目的としたオール JAPAN

体制でのコンソーシアム「ナノセルロースフォーラム外部リンク」の設立により、研究段

階から製品化・実用化段階に移行しつつある。

また、今後の CNF の適用対象として、自動車部品を CNF によって代替した名のセルロ

ースビークル(NCV)の開発も始まっており、今後の更なる用途拡大が期待される。

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出所:京都大学 NCVプロジェクトウェブサイト

図 40 NCVプロジェクトの概要

(5) GaN(窒化ガリウム)・SiC(炭化珪素)

我々が日々電気を利用する際には、あらゆる電気機器に搭載されている半導体が、電気

の電圧の調整や、交流と直流との変換、あるいは電気から光への変換等を行っている。こ

の電気の変換の際には、エネルギーの損失が伴うことが避けられない。

半導体の材料には、現在はシリコン(Si)等が主に使われているが、素材の特性上更なる

性能向上が困難である。そこで、新たな材料である GaN(ガリウム・ナイトライド;窒化

ガリウム)や SiC(シリコン・カーバイド;炭化珪素)等の化合物を用いることで、従来の

シリコン製パワー半導体素子で実現が困難であった、大幅な効率向上や小型化を見込むこ

とができる。

このため、電力会社や自動車メーカー、電機メーカー等は、省エネの切り札として GaN

や SiC に大きな期待を寄せている。例えば、送電システムや電車、ハイブリッド車、工場

内の生産設備、太陽光発電システムで利用するパワーコンディショナー、エアコンを始め

とする白物家電、サーバー機やパソコンなどの分野である。こうした分野のパワー素子の

材料として、GaNや SiCを利用できる範囲は広い。

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出所:ローム株式会社ウェブサイト

図 41 次世代パワー半導体の活用が期待される用途

GaNや SiCで作製したパワー素子を利用することで、電力損失が小さくなるのは、オン

(導通)時の損失とスイッチング損失を低減できるためである。

例えば、インバーターのダイオードに用いられる素材を Siから SiCに置き換えるだけで、

電力損失を 15~30%ほど低減できるとされる。さらに、トランジスタも Si製から SiC製

に置き換えれば、電力損失は半分以下に低減できるという。また、電力損失が低減した分、

発熱量が減るので、電力変換器の小型化が可能になることもメリットである。

出所:ローム株式会社ウェブサイト

図 42 次世代パワー半導体が生み出す利点

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出所:ローム株式会社ウェブサイト

図 43 次世代パワー半導体によるメリットの例

次世代パワー半導体の普及により、個々の電気機器の効率大幅向上が、社会全体のエネ

ルギー消費とCO2を徹底的に削減に貢献することが期待され、電気機器からの発熱抑制は、

冷却設備(ファンなど)の削減や機器全体の小型化・軽量化が可能になることが期待され

る。更なるエネルギー消費・CO2削減と「ものづくり」の変革のために、次世代パワー半

導体の開発や商品化の拡大が期待される。

(6) まとめ

本章では、温暖化対策が強化される中で求められる新規事業について、主に新しい技術

の面から事例を調査した。

CCSや CCUおよび人工光合成は、地球温暖化の主因である二酸化炭素を、大気中に放

散させないようにする技術であると言える。いわば二酸化炭素の“量”そのものを削減す

る技術であり、温暖化対策としての直接的な効果が期待される。一方、セルロースナノフ

ァイバーや窒化ガリウム、シリコンカーバイドといった新素材の開発は、省エネルギーを

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通して、間接的に地球温暖化対策となる手法だと言える。新たな素材は、省エネルギーだ

けでなく小型化や新商品の開発など、我々の生活を豊かにする新たな価値の提供に繋がる

ことも期待できる。

このように、直接的および間接的に地球温暖化を抑制するような技術の開発を進め、こ

れらを取り入れた新たな事業が拡大することで、経済活動と地球温暖化の抑制を同時に進

めることが可能となるだろう。我々は、そのような将来像に向けて技術や事業の開発を進

めるべきだと言える。

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3 研究会の実施

本調査にあたり、調査研究の結果が妥当であり、かつ活用しやすいものとなるよう、関

係機関や学識者からなる「平成29年度新エネルギー等の導入促進のための基礎調査(再

生可能エネルギーの導入拡大等に伴う新たなエネルギービジネス等に係る調査)研究会」

を設け、計 2回(2018年 1月 25日(木)および同年 2月 14日(水))開催した。

研究会では、主に再生可能エネルギーの導入に伴う新事業について、欧米における新事

業について委員および事務局から紹介のうえ、委員によるディスカッションを実施した。

ディスカッションにて得られた意見については、本報告書のまとめあるいは総括に適宜反

映している。

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4 総括

第 1 章では、再生可能エネルギーの導入拡大に伴う新たなビジネスについて、欧州なら

びに米国の先進事例から、蓄電池や VPPによる新たなビジネスを調査した。

太陽光や風力など、供給量の変動が激しくかつ予測が難しい電源を大量に導入するには、

多様なエネルギーリソースを適切に制御することで得られる調整力を活用することが不可

欠である。そのためには、需給を適切に監視し、制御できるシステムの開発はもちろんの

こと、多様なリソースを集約するため、参加する需要家にとって効果が分かりやすく、か

つ様々なリソースを柔軟に管理することができるプラットフォームや、ファイナンスサー

ビスまで含んだ初期投資の負担軽減、ウェブサイトを通した広報活動等、VPP 等の新たな

ビジネスが広く社会に受け入れられるような取り組みが効果的であるという示唆が得られ

た。

第 2 章では、温暖化対策が強化される中で求められる新規事業について、主に新しい技

術の面から事例を調査した。

地球全体の気温上昇を抑制するには、現状の温室効果ガス削減努力を延長するだけでな

く、世界全体での排出量を抜本的に削減するようなイノベーションを創出・実現すること

が求められる。CCS や人工光合成を含めた CCU は、温室効果ガスの主成分である二酸化

炭素そのものの削減を目的とした技術であり、インパクトも大きいため、将来的には火力

発電や製造プロセスと一体となった技術導入が期待される。また、セルロースナノファイ

バーや窒化ガリウム、シリコンカーバイドといった新素材についても、製品の素材から省

エネを図ることができるという観点からは、早期の実用化が求められている。このような

新しい技術の開発が進み、新規事業として事業化されるタイミングも、すぐ近くに迫って

いると言える。

政府や関係省庁は、これら新しいビジネスに対して、萌芽の時期を逃さず、意欲ある企

業の事業化を速やかに支援できるよう、国内外の事業化の動きや技術開発を継続的なウォ

ッチし、適切な時期に支援策の検討を開始するべきである。それによって、我が国のエネ

ルギーの高度化、エネルギーセキュリティの向上に繋がり、ひいては国際競争力の強化に

繋げることができるだろう。

以上

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(様式2)

頁 図表番号2 図13 図23 図35 図46 図57 図711 図1212 図1313 図1414 図1516 図1817 図1917 図2018 図2119 図2223 図2624 図2727 図3028 図3129 図3233 図3734 図3835 図3936 図4037 図4137 図4238 図43

蓄電システムSunverge Oneと制御システムSISのイメージ

次世代パワー半導体が生み出す利点次世代パワー半導体によるメリットの例

人工光合成の概略図IGパーフェクトエコハウス(人工光合成ハウス)の仕組み

主なCCS プロジェクトの開発状況

製造業における負荷平準化の手法イメージAutoGrid VPPの概要AutoGrid VPPの画面表示例

Enervee Scoreの評価プロセスと基準

二次利用未承諾リスト

委託事業名:平成29年度新エネルギー等の導入促進のための基礎調査(再生可能エネルギーの導入拡大等に伴う新たなエネルギービジネス等に係る調査)

報告書の題名:平成29年度新エネルギー等の導入促進のための基礎調査(再生可能エネルギーの導入拡大等に伴う新たなエネルギービジネス等に係る調査)調査報告書

受注事業者名:株式会社日本総合研究所

次世代パワー半導体の活用が期待される用途

CCS 技術と統合プラントの投資リスク曲線CCUのCO2削減ポテンシャルCCUの潜在市場規模

セルロースナノファイバーの製法セルロースナノファイバーを用いた商品例NCVプロジェクトの概要

Stem社の実績例PowerScopeの利用イメージPowerStoreの利用イメージ(容量108kW)Zero-down financingの利用イメージ

Greensmith社のプラットフォーム導入先マップ

VPPのシミュレーションプログラム

タイトルNext Kraftwerke社のVPP事業イメージNext Kraftwerke社の主な業績NEXT Boxの利用イメージNEMOCSの全体像


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