+ All Categories
Home > Documents > GPS - 東京大学3 「GPSブイを用いた津波・波浪防災システムの総合的研究」...

GPS - 東京大学3 「GPSブイを用いた津波・波浪防災システムの総合的研究」...

Date post: 16-May-2020
Category:
Upload: others
View: 1 times
Download: 0 times
Share this document with a friend
8
1 高知県室戸岬沖におけるGPS津波計の観測実験再開について 平成19年12月15日 文部科学省科学研究費補助金 「GPSブイを用いた津波・波浪防災 システムの総合的研究」研究チーム (研究代表者 加藤照之) 1.はじめに 高知県室戸岬沖において、文部科学省の独創的革新技術開発補助金研究で平成16年4 月から進めていたGPS津波計の観測実験は、平成18年3月にフェリーボートが衝突す るというアクシデントに見舞われ、観測の中断を余儀なくされていました。その後、再設 置に向けての多くの困難を乗り越えて、設置が可能となりました。つきましては、アクシ デント発生前と同等の情報提供が可能となります。現在再設置に向けての最終的な調整を 行っています。 2.GPS津波計 GPS津波計は、海上に設置したブイにGPSを搭載し、海面変動をGPSを用いて1 ~2cmの精度で計測し、津波の波高や到達時刻を精密に計測する装置です(図1)。沖合 いに設置することにより津波を海岸への到達前にとらえることができ、津波防災に寄与す ることができます。 3.経緯 平成9年に東京大学地震研究所と日立造船(株)技術研究所で開始したGPS津波計開 発は、その後の2件の文部省科学研究費補助金(研究代表者:加藤照之)によって、相模 湾での基礎機能実験に続き、岩手県大船渡市沖約2kmで実用化実験を実施してきました (図2)。とりわけ、大船渡市沖実験では、平成13年6月に発生したペルー沖地震津波を 23時間後に波高10cmでキャッチしたほか、平成15年9月の十勝沖地震津波におい ても波高15cmの津波を観測するなどその実用性を証明してきました(図2)。 文部科学省の独創的革新技術開発研究補助金(研究代表者:寺田幸博)を得て平成16 年に開始した室戸岬沖実験(図3)では、(独)港湾空港技術研究所及び人と防災未来セン ターの参画の下、津波防災により有効に貢献するために大船渡市での実験よりさらに沖合 への展開を目指しました。沖合に設置したGPS観測ブイは、津波の観測にとどまらず、 その基本機能として波浪や潮位の観測機能を有しており、気圧、風向風速、水温などの観 測データを付加した海上観測ステーションの役割を果たしました。海上で観測されたデー タは室戸岬測候所に設置した陸上基地局に無線で伝送され、インターネットでリアルタイ ムに公開していました。また、PVD法と名づけた国産初の新測位法を開発し、平成16 年に多発した台風観測を通じて、その適用性を実証してきました。平成16年9月には、
Transcript
Page 1: GPS - 東京大学3 「GPSブイを用いた津波・波浪防災システムの総合的研究」 (2)研究者 研究代表者 加藤照之 教授 東京大学地震研究所

1

高知県室戸岬沖におけるGPS津波計の観測実験再開について

平成19年12月15日 文部科学省科学研究費補助金

「GPSブイを用いた津波・波浪防災

システムの総合的研究」研究チーム

(研究代表者 加藤照之) 1.はじめに 高知県室戸岬沖において、文部科学省の独創的革新技術開発補助金研究で平成16年4

月から進めていたGPS津波計の観測実験は、平成18年3月にフェリーボートが衝突す

るというアクシデントに見舞われ、観測の中断を余儀なくされていました。その後、再設

置に向けての多くの困難を乗り越えて、設置が可能となりました。つきましては、アクシ

デント発生前と同等の情報提供が可能となります。現在再設置に向けての最終的な調整を

行っています。 2.GPS津波計 GPS津波計は、海上に設置したブイにGPSを搭載し、海面変動をGPSを用いて1

~2cmの精度で計測し、津波の波高や到達時刻を精密に計測する装置です(図1)。沖合

いに設置することにより津波を海岸への到達前にとらえることができ、津波防災に寄与す

ることができます。 3.経緯 平成9年に東京大学地震研究所と日立造船(株)技術研究所で開始したGPS津波計開

発は、その後の2件の文部省科学研究費補助金(研究代表者:加藤照之)によって、相模

湾での基礎機能実験に続き、岩手県大船渡市沖約2kmで実用化実験を実施してきました

(図2)。とりわけ、大船渡市沖実験では、平成13年6月に発生したペルー沖地震津波を

23時間後に波高10cmでキャッチしたほか、平成15年9月の十勝沖地震津波におい

ても波高15cmの津波を観測するなどその実用性を証明してきました(図2)。 文部科学省の独創的革新技術開発研究補助金(研究代表者:寺田幸博)を得て平成16

年に開始した室戸岬沖実験(図3)では、(独)港湾空港技術研究所及び人と防災未来セン

ターの参画の下、津波防災により有効に貢献するために大船渡市での実験よりさらに沖合

への展開を目指しました。沖合に設置したGPS観測ブイは、津波の観測にとどまらず、

その基本機能として波浪や潮位の観測機能を有しており、気圧、風向風速、水温などの観

測データを付加した海上観測ステーションの役割を果たしました。海上で観測されたデー

タは室戸岬測候所に設置した陸上基地局に無線で伝送され、インターネットでリアルタイ

ムに公開していました。また、PVD法と名づけた国産初の新測位法を開発し、平成16

年に多発した台風観測を通じて、その適用性を実証してきました。平成16年9月には、

Page 2: GPS - 東京大学3 「GPSブイを用いた津波・波浪防災システムの総合的研究」 (2)研究者 研究代表者 加藤照之 教授 東京大学地震研究所

2

台風の接近下5mの波高のなかで発生した10cmの紀伊半島沖地震津波の観測(図3)

に成功しました。これらの成果は、関連学会に発表するとともに、平成17年2月に室戸

市主催の「地震・津波・台風を考える夕べ」講演会で、室戸市民に報告しました。 GPS津波計のさらなる高精度化、高機能化を目指した室戸岬沖実験は産官学の協力体

制による研究開発推進に加えて、高知県総務部機器管理課及び室戸市総務課防災担当部署

の協力を得て実際の防災への適用を図りました。これらの取り組みは、平成16年度の国

土技術開発賞最優秀賞、平成17年度の産業技術大賞特別賞の受賞を経て、社会的認知を

得るに至りました。また、この海面変位を直接計測する方法は、国土交通省港湾局による

沖合波浪を観測するための「GPS波浪計」として、東北地方の金華山沖、釜石沖に続き

高知県でも足摺岬沖に設置され、運用のための調整が行われています。 4.室戸岬沖再設置計画 今回再開する観測実験は、30年以内に50%の確率で発生すると予測されている南海

地震の震源域の高知県室戸岬沖17km(図4)で実施します。この観測実験は、上記で

推進されてきた研究開発を受け継いだ文部科学省科学研究費補助金研究で運用します。こ

の研究は、東京大学地震研究所(研究代表者:加藤照之)、高知工業高等専門学校、 (独)港湾空港技術研究所、東北大学大学院の共同研究に加えて、日立造船(株)が研究協力者とし

て参画しています。 室戸岬沖に再設置する GPS 津波計(図5)は、全長17m、最大径4.5m、重量38

トンのGPS観測ブイを用います。設置海域は、水深約136mであり、観測ブイは、長

さ350mのチェーンで、ダンフォース型のアンカーに係留されます。 GPS津波計の開発の目的は、新しい発想に基づく津波観測装置を開発して、津波の被

害が想定される海岸近くで生活している人々に的確な情報を提供することにあります。

我々はこの技術を実用化して、安全で安心な国民生活の実現への一助となることを目指し

ています。このためには、インターネットの最新技術を活用して、津波情報を「いつでも、

だれでも、どこからでも」観ることができるシステムの構築が重要であると考えており、

津波の観測にとどまらず、観測データの住民への公開や、津波の伝播シミュレーションに

よる危険度の評価なども実施する予定です。 5.今後の予定

再設置予定日 平成19年12月19日(水) 海象条件によって順延する場合があります。

6.科研費研究概要

(1)研究課題名

文部科学省科学研究費補助金研究基盤研究(A)課題番号17201038

Page 3: GPS - 東京大学3 「GPSブイを用いた津波・波浪防災システムの総合的研究」 (2)研究者 研究代表者 加藤照之 教授 東京大学地震研究所

3

「GPSブイを用いた津波・波浪防災システムの総合的研究」

(2)研究者

研究代表者 加藤照之 教授 東京大学地震研究所

分担研究者 寺田幸博 教授 高知工業高等専門学校

越村俊一 准教授 東北大学大学院工学研究科

永井紀彦 部長 (独)港湾空港技術研究所 海洋・水工部

清水勝義 室長 (独)港湾空港技術研究所 海象情報研究室

富田孝史 上席研究官 (独)港湾空港技術研究所 海洋・水工部

研究協力者 吉田晴彦 主管技師 日立造船株式会社 事業・製品開発部

三宅寿英 研究員 日立造船株式会社 技術研究所

(3)研究期間

平成17年4月1日 ~ 平成21年3月31日

(4)研究概要

沖合いに係留されたブイにGPSを搭載し,リアルタイムでデータを伝送して基

地局でキネマティック測位を実施する。これによって、津波を早期に検出すること

ができ、津波防災に役立たせることができる。このようなアイデアのもとに「GP

S津波計」を開発してきた(科研費,研究代表者:加藤照之)。平成16年4月に室

戸岬沖に設置したGPS津波計は、度重なる台風による高波にも問題なく作動し,

また平成16年9月5日紀伊半島沖地震によって発生した津波を精度よく計測でき

た(創造的革新技術開発,研究代表者:寺田幸博)。このため、当初予定の平成18

年3月の撤収をやめて,本科学研究費によって継続的に運用し,GPSデータ及び

その他各種データを活用し,津波防災を軸としたGPSブイの実利用のためのシス

テムの構築を図ることとした。本研究では、特に実利用を目指した研究を実施し,

現在のGPS津波計に搭載されている各種計測機器も活用しつつ津波・波浪災害の

軽減のためのシステムを明らかにすることを目指している。

7.本件に関する問い合わせ先: 高知高専 建設システム工学科 寺田幸博

Tel/Fax. 088-864-5586 Mobile 070-5026-8028 E-mail. [email protected] 東京大学 地震地究所 加藤照之

Tel. 03-5841-5730 fax. 03-5689-7234 E-mail. [email protected]

Page 4: GPS - 東京大学3 「GPSブイを用いた津波・波浪防災システムの総合的研究」 (2)研究者 研究代表者 加藤照之 教授 東京大学地震研究所

4

図1 沖合いに係留されたブイにGPSを搭載し,リアルタイムでデータを伝送して

基地局でキネマティック測位を実施する。ブイの上下方向の時系列データには、

通常の波浪、津波、潮汐の情報が含まれている。これらの周期の違いに着目し

て分離すれば、津波を検出することができる。沖合での津波の早期観測は、津

波防災に役立たせることができる。

Page 5: GPS - 東京大学3 「GPSブイを用いた津波・波浪防災システムの総合的研究」 (2)研究者 研究代表者 加藤照之 教授 東京大学地震研究所

5

図2 大船渡市沖津波計でとらえられた 2003 年十勝沖地震に伴う津波記録.(上段)

数値シミュレーションによる予察解.(中段)GPS津波計記録.(下段)大船渡

検潮所における記録.長周期のうねりは潮汐を表す.高さはm単位.横軸時間で

地震発生時刻を時間の原点にとってある.地震発生後約50分で約15cm程度

の津波が到達していることがわかる.津波計では検潮記録より約4分程度早く津

波が到達している.

Page 6: GPS - 東京大学3 「GPSブイを用いた津波・波浪防災システムの総合的研究」 (2)研究者 研究代表者 加藤照之 教授 東京大学地震研究所

6

図3 室戸岬沖でとらえた2004年紀伊半島沖地震津波。台風接近中で、5mの風

波の中、10cmの波高が、インターネット上でリアルタイムに観測された。

Page 7: GPS - 東京大学3 「GPSブイを用いた津波・波浪防災システムの総合的研究」 (2)研究者 研究代表者 加藤照之 教授 東京大学地震研究所

7

図4 再設置位置

33°06′12″

134°11′24″

17Km

Page 8: GPS - 東京大学3 「GPSブイを用いた津波・波浪防災システムの総合的研究」 (2)研究者 研究代表者 加藤照之 教授 東京大学地震研究所

8

図5 再設置ブイ形状・寸法・重量


Recommended