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MCC Technology Report · を調査し、既存施設の健全度評価を行った事...

Date post: 30-May-2020
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MCC Technology Report CONTENTS :維 するこ 港湾施設の現況調査と健全度評価 するこ UAVを用いた斜面地形解析に関する精度検証 体を えるこ 法華山谷川総合治水推進計画するこ ダム水源地域の活性化支援 (地域の自立的・持続的な活動の活性化に向けて) 2014 No.36-2 【 継続すること 】 するこ します。 MCC する せます。 三井共同建設コンサルタント株式会社 MITSUI CONSULTANTS Co.,Ltd.
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Page 1: MCC Technology Report · を調査し、既存施設の健全度評価を行った事 例について報告する。 図-1 対象施設位置図 2.存在した課題 (1)肉厚測定位置の設定

MCC Technology Report

CONTENTS 技術紹介

5:維持すること :『港湾施設の現況調査と健全度評価』 6:管理すること :『UAVを用いた斜面地形解析に関する精度検証』

7:全体を考えること :『法華山谷川総合治水推進計画』 8:連携・協力すること:『ダム水源地域の活性化支援

(地域の自立的・持続的な活動の活性化に向けて)』

2014年 No.36-2

【 継続すること 】

継続することは、新たな道も作り出します。 MCCの技術は継続する力も持ち合せます。

三井共同建設コンサルタント株式会社

MITSUI CONSULTANTS Co.,Ltd.

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MCCは、MITSUI CONSULTANTS Co.,Ltd.の略称です

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MCC Technology Report2014 No.36-2

三井共同建設コンサルタント株式会社

巻 頭 言 夏期を迎えるにあたり、近年、我国において頻発するようになった 1時間に 100mmに達する

ような激しいゲリラ豪雨の発生が危惧されます。また、今年 2月には、関東地方を中心に記録

的な大雪により、大きな災害も体験しました。異常気象に伴う災害は世界各地で発生しており、

地球規模での温暖化現象の影響とも言われていますが、その対応策は、明確にはなっていませ

ん。

このように自然現象が変化する中で、想定外の災害が発生しても、真摯に立ち向かい、どう

対処するのかを考えるのが、土木分野に携わる技術者の役目であり、義務であると考えます。

災害から人々の安全を確保するには、構造物を強化するようなハードな対応だけでなく、避難

するための情報発信などのソフトな対応も重要です。特に日本の様な脆弱な国土に高密度に集

積する人口・資産、少子高齢化、財政難、自然環境配慮等の厳しい条件下の中では、総合的な

観点からの適切な対応が求められています。

今回のテクノロジーレポートには、大規模な構造物の建設や、最新の情報通信テクノロジー

は掲載されていませんが、身近な河川での総合的な治水対策の推進方策、既存ダムを活用した

地域活性化手法、手動操作による小型航空機を用いた空中写真による測量技術の精度・適応性、

港湾施設の維持管理のための評価手法などを紹介することで、身近な所にも、いろいろな技術

を使っていることを紹介し、見ていただこうと考えています。

ここでもう一つ、下記は、当社情報システム事業室が開発し運営しているウェブサイト「あ

めみず Map」です。URLは、http://rain.mcclabo.jp/。この夏、大変お役に立つと思います。

当社の社員も常々技術力の向上に努めています。今回紹介する「Technology Report」が、皆

様の問題解決のヒントになれたら幸いと思い、私の巻頭言とさせていただきます。

(情報システム事業室長 木富 順三)

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MCC Technology Report2014 No.36-2

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凡例) :測定位置

海側

陸側

キーワード:維持管理、現況調査、直杭式横桟橋、劣化予測

1.はじめに 対象施設の-12m 岸壁(構造形式:直杭式横桟橋)は、アンローダーによる荷役作業が行われている。今後も貨物船が利用することから、供用期間にわたって要求性能を満足するように適切な維持管理計画策定や補修検討が急務となっている。 本稿では、対象施設の維持管理計画策定及び補修検討を行うための基礎資料として変状を調査し、既存施設の健全度評価を行った事例について報告する。

図-1 対象施設位置図 2.存在した課題 (1)肉厚測定位置の設定

直杭式横桟橋は、上部工(鉄筋コンクリート)、下部工(鋼管杭)、土留め護岸からなる構造である(図-2 参照)。特に、鋼構造物である下部工の腐食量は、安定性に大きく影響する。そのため、下部工では、鋼管杭の肉厚測定を行うが、桟橋構造の特徴を踏まえて、適切な測定位置を設定する必要があった。 (2)劣化度判定及び変状の進展の評価

上部工及び下部工は、厳しい自然状況の下に置かれていることから、材料の劣化、部材の損傷等により、供用期間中に性能の低下が生じる場合がある。そのため、変状と劣化の

進展を正しく評価することが課題であった。 3.解決する技術 (1)桟橋構造の特徴を踏まえた肉厚測定位置の設定

本調査の肉厚測定は、試計算より設計上の最大曲げモーメント発生点が杭頭部であることを確認し、その付近を測定位置と設定した。また、腐食量は H.W.L.~L.W.L.-1m 間が最も大きいと想定されるが、既設杭は重防食被覆が施工されていた。そのため、L.W.L.以浅の測定位置は、海側の杭のみとした。さらに、深度方向の腐食速度の把握するためL.W.L.-1mの測定位置から深度方向に 1m間隔で設定した(図-2参照)。

図-2 対象施設断面図(直杭式横桟橋) (2)各部材の変状とその劣化の進展の予測

1)鉄筋コンクリート部材(上部工)

上部工の変状は、桟橋上部工をブロック割りした全 12ブロック(1BL~12BL)のうち5 ブロックの上部工下面の床版においてひびわれ率 50%以上発生していること(劣化度:a判定)が見受けられた(図-3参照)。

技術紹介 5

港湾施設の現況調査と健全度評価

轟 豊和 TODOROKI Toyokazu 環境・港湾事業部 港湾・空港第二グループ 電話 092-441-3875 FAX 092-441-3886

人口減少や少子高齢化の進展に加え、厳しい財政状況が続いているため、近年の港湾整備においてかつてのような右肩上

がりの投資を期待することは困難である。一方、建設後 50年以上経過している岸壁の割合は、2032年頃には、約 56%以上になると見込まれているため、既存施設において適切な維持管理を行うことが求められている。本稿では、このような現状

を踏まえ、港湾施設における現況調査と健全度評価を行った事例を報告する。

対象施設 -12m岸壁

最大モーメント発生箇所

- 1 -

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三井共同建設コンサルタント株式会社

-7.0

-5.0

-3.0

-1.0

1.00.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 0.12

水深

D.L.(m

)

腐食速度(mm/年)

平均値

最大値

最小値

目視点検診断結果

上部工(下面部) 梁 床版

2BL a 0.23 1.84

5BL c 3.22 1.15

11BL c 1.61 0.23

ブロックNo.

全塩化物

イオン量(kg/m3)

0

2

4

6

8

10

12

14

16

0 2 4 6 8 10 12

全塩化物イオン濃度(kg/m3 )

コンクリート表面からの深さ(cm)

2BL(梁)2BL(床版)5BL(梁)5BL(床版)11BL(梁)11BL(床版)

0

2

4

6

8

10

12

14

16

0 2 4 6 8 10 12

全塩化物イオン濃度(kg/m3 )

コンクリート表面からの深さ(cm)

2BL(梁)2BL(床版)5BL(梁)5BL(床版)11BL(梁)11BL(床版)

図-3 桟橋ブロック割図及び劣化度判定 また、桟橋ブロックで選定した 3ブロック(劣化部:2BL、健全部:5BL、取付部:11BL)の上部工(梁・床版)で採取したコンクリートコアにて塩化物イオン量を測定した。測定結果を用いてコンクリート表面から深さ方向の塩化物イオン濃度の浸透予測及び鉄筋の腐食時期の予測を行った。コア中の塩化物イオン濃度は、桟橋ブロック 5BL(梁)のコアが鉄筋位置において発錆限界値 2.0kg/m3を超えていた。さらに、2BL,5BLの床版で採取したコアの試料は、調査時点から 10 年経過する頃には発錆限界値を超えることが予測された(図-4参照)。

図-4 塩化物イオン濃度の拡散予測図

そこで、目視調査と塩化物イオン量測定の結果をもとに、塩害によるコンクリート部材の劣化の進展を評価すると、上部工下面の目視点検診断結果が「a 判定」であり、鉄筋位置の塩化物イオン量が発錆限界値を超えているブロックも見受けられるため「加速期」を迎えていると予測した。 表-1 上部工の点検診断結果と塩化物イオン量測定結果

2)鋼材(下部工)

下部工では、鋼管杭(全 240 本のうち 56本)の肉厚測定結果とこれまでの経過年数を用いて腐食速度を算出し、腐食進行予測を行った。その結果、鋼管杭に腐食が見受けられたものの、腐食進行は、L.W.L.-1.0m 以深の腐食速度が設計値(0.1mm/年)に比べて小さいことが確認できた(図-5参照)。

図-5 水深と鋼管杭の腐食速度の関係図 4.まとめ 本調査結果から上部工の健全度評価としては、加速期を迎えていることが予測された。上部工は、塩化物イオンによりコンクリート中の鉄筋の腐食が開始・進行し、コンクリートのひびわれや剥離を生じさせたり、鉄筋の断面減少を引き起したりすることにより構造性能が低下することが考えられる。 また、本調査は、船舶の岸壁利用頻度が高く、離着岸の度に潜水調査を中止し、潜水士を陸上に揚げていたため、作業工程に遅れが生じた。今後、潜水調査の作業効率の向上のために水中自走式テレビカメラロボットによる調査点検技術の進展が考えられるため、それら技術を適切に業務に取り入れていきたい。

凡例)劣化度:悪い a b c d 良い

【赤字】:上部工(上面) 【青字】:上部工(下面)

発錆限界値2.0kg/m3

鉄筋位置

発錆限界値2.0kg/m3

設計値L.W.L.-1.0m

10年経過

鉄筋位置

- 2 -

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キーワード:小型無人自動自立航空機(UAV)、地すべり斜面、空中写真測量、災害調査、新技術

1.はじめに 山間部での地すべり対策や斜面崩壊による災害時における初動において、詳細な現況地形の把握は重要である。なお、立ち入りが困難な区域を対象に地形を把握する場合、従来から航空機による空中写真測量や航空レーザ測量が用いられている。ただし、航空機による測量は比較的に費用が高く、航空法に基づく運用が必要となるため、災害直後の迅速な対応が困難な場合がある。迅速で簡易な現地把握手法として、近年開発された UAV(Unmanned Aerial Vehicle)を用いた空中写真撮影が有効であると考えられる。UAVはGPS 機能と慣性センサを積載しており、比較的に精度の高い自動飛行が可能である。また、低空飛行による撮影が可能であり、詳細な画像を取得することが可能である。しかしながら、実測との比較による UAV を用いた空中写真測量による斜面地形解析に関する精度についての報告は存在しない。 本稿では、山間部(写真-1)における地すべり斜面を対象に、UAVと簡易な画像解析技術を用いた空中写真測量を試行し、UAVを用いた空中写真測量の適用性について考察する。

2.存在した課題 (1) UAVと簡易画像解析による測量精度検証 近年、UAVを用いた河川調査、海岸調査ならびに干潟堆積土砂調査等の事例が報告されている。ただし、UAVの積載重量には制約があり、空中写真測量に必要となる高性能な大型カメラを搭載することは困難である。 そこで、日常的に使用されている軽量のデジタルカメラで撮影された画像による三次元地形解析が可能なソフト(3D modeling)を用いた対応が考えられる。ただし、採用するに際しては UAV 及び簡易画像解析ソフトを用いて実施する空中写真測量の測量精度、特に、斜面地形解析に関する精度の検証や適用性について把握しておく必要がある。

3.解決する技術 (1) UAV等を用いた空中写真測量の試行と適用性に関する考察 山間部における地すべり斜面を対象に

UAVを用いた空中写真測量を試行し、実測結果との比較により UAV 等を用いた空中写真測量の精度及び適用性について考察する。

① 調査方法 地すべり斜面(一部、排土工による対策済み:写真-1)を対象に、UAV等を用いた空中写真測量を試行した。なお、地表での風速は約 0.5~1.0m、照度は約 20,000~40,000 luxであった。今回使用したUAV(写真-2)は、飛行ルートに関して事前に電子地図を用いて設定及び機体に転送し、自動的に巡航させることが可能である。

技術紹介 6 UAVを用いた斜面地形解析に関する精度検証

原田 紹臣 HARADA Norio 河川・砂防事業部 第四グループ 電話 06-6599-6019 FAX 06-6599-6030 E-mail [email protected]

近年、UAV(小型無人自動自立航空機)を用いた防犯用の飛行監視ロボット等の開発や、土木分野における河川・海岸調

査等の事例が報告されている。ただし、現地で実測された測量結果との比較による UAV を用いた斜面地形解析に関する精

度についての報告は殆ど存在しない。そこで、本稿では山間部の地すべり斜面を対象に、UAV及び必要となる画像解析技術

を用いた空中写真測量結果と実測結果との比較により、UAVを用いた空中写真測量の精度及び適用性について考察する。

写真-1 今回対象とした地すべり斜面

- 3 -

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MCC Technology Report 2014 No.36-2

三井共同建設コンサルタント株式会社

写真-2 使用したUAV(小型無人自動自立航空機)の概要

写真-3 作成したオルソフォト画像及び基準点測量の位置

また、上空の位置から撮影した空中写真(撮影位置の座標情報を保有)を用いて空間解析(空中三角測量:簡易画像解析)を実施し、点群データ、三次元地形図ならびにオルソフォト画像(写真-3)等を作成することが可能である。ただし、別途実施する基準点測量結果(P1~P4:写真-3)等を用いて、最終的に縮尺補正(制御)する必要がある。 ② 調査結果

UAVにより撮影した写真を用いて、空間解析(簡易解析ソフト)により三次元地形モデルを作成した結果を図-1に示す。空間解析の精度に関して、実測した基準点測量(四級)結果を用いて制御した際に示された制御誤差を、表-1に示す。平面的な制御誤差は約 1~4cm程度であった。また、補正に用いた範囲内における現地との高さ(鉛直)方向における誤差は、2cm未満であった。 図-1 に示される地形モデルを用いて自動的に作成された地形平面図の一部を図-2 に示す。この手法では従来の地形測量に比べて、約十分の一程度の費用となる(当社比)。ただし、図-2に示されるとおり、現地に生育している草本等の影響を受け等高線の一部が繁雑になっており、ノイズの補正が必要となる。

4.まとめ 今回の試行結果より、今後、地すべり地等における地形把握手法として、UAVを用いた空中写真測量が有効であることが分かった。特に、小型 UAV は軽量であり運搬に関しては有効である。しかしながら、軽量のため上空において風の影響を受けて機体が不安定になった場合、手動での操作が必要となる。このため、通常時には電子地図を用いたGPS自動運転が可能であるが、緊急時においては手動操作を行う必要があるため、飛行範囲は操作者の可視範囲に限定される。 また、上空からの詳細な地形把握が可能なレーザ測量へ UAV を応用することにより、安価で精度の高い測量が期待できる。

図-1 作成した三次元の地形モデル

表-1 空中写真測量の平面制御に関する精度

測量地点 X 誤差 (m) Y 誤差 (m) 画像誤差 (pix.)

P1 -0.003 -0.002 0.393

P2 -0.006 0.041 0.383

P3 0.021 0.001 0.367

P4 -0.011 -0.0381 0.364

平均 0.012 0.028 0.375

図-2 今回作成した地形図の一部

P1

P2

P3

P4

- 4 -

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キーワード:総合治水、総合治水条例、流域対策、浸水ボリューム、貯留ポテンシャル

1.はじめに 兵庫県では、開発や都市化の進行、多発する局地的大雨による雨水の流出増を踏まえ、河川・下水道対策といったこれまでの“ながす”治水対策だけではなく、雨水を一時的に貯留・地下に浸透させる“ためる”対策(流域対策)や、浸水してもその被害を軽減する“そなえる”対策(減災対策)を組み合わせた“総合治水”に取り組むため、平成24年4月 1日に『総合治水条例』が施行された。

これまでの治水

+雨水を一時的に貯留・地下に浸透させる

浸水した場合の被害を軽減する+河川・下水道の整備 =

これからの治水

河川下水道対策 流域対策 減災対策

<効果的に組み合わせ>

総合治水のイメージ

法華山谷川流域では、平成 23年台風 12号による戦後最大規模の降雨で、甚大な被害が発生し、法華山谷川流域治水対策技術検討会を設置し、台風 12 号による洪水の検証と対策の検討が進められた。 その結果を受け、当面、床上浸水被害を防ぐ改修を進め、段階的に治水安全度を高める河川整備計画(平成 25年 2月策定)の立案に加え、法華山谷川流域特性となる森林やため池、水田等の保水機能を有する土地の雨水流出抑制機能を発揮させるよう総合治水推進計

画(平成 25年 3月策定)の立案を行った。 本稿では、全国でも先駆けの取り組みである総合治水条例に基づいた「法華山谷川水系総合治水推進計画」の立案において、流域対策における目標流域対策量について検討した事例を紹介する。

2.存在した課題 総合治水推進計画は、総合治水条例に基づき、策定する計画で、推進計画での記載項目は、①流域の概要、②総合治水の基本的な目標、③総合治水の推進に関する基本的な方針、④河川下水道対策、⑤流域対策、⑥減災対策、⑦環境と保全と創造への配慮、⑧総合治水を推進するにあたって必要な事項 の 8項目であるが、具体的な実施施策としては、④河川下水道対策、⑤流域対策、⑥減災対策となる。 これまでの治水対策でもある“ながす”河川下水道対策は、河川や下水道の管理者である県や市が、河川整備計画や下水道計画に基づき、改修を進めるため、実施内容が具体的に示すことができる。 一方、“ためる”流域対策や“そなえる”減災対策は、水田・ため池、学校や各家屋に至る様々な土地・施設の所有者・管理者及び各個人での個々の取り組みの積み上げで総合的に治水効果を発揮する対策となるため、現段階では、実施すべきメニューは提示できても、どのメニューをどの程度実施するか提示することが困難である。 減災対策は、“そなえる”施策で、主にソフト対策からなるため、県・市がこれまでに取り組んできた施策を更に普及し、各個人でソフト対策を充実する自助の面があるが、流域対策は、流出抑制を行う“ためる”施策であり、自分のためだけでなく、流域全体へ貢

兵庫県では、全国に先駆けた取り組みとなる総合治水条例が施行された。平成 23年台風 12号で甚大な被害が発生した法

華山谷川流域においては、河川対策の実施計画となる河川整備計画の策定(平成 25年 2月)とともに、総合治水推進計画につ

いても、流域懇談会やパブリックコメントを実施の上、平成 25年 3月に策定された。本稿では、「法華山谷川水系総合治水

推進計画」で、実施規模の設定が困難であった目標流域対策量について検討した事例を紹介する。

技術紹介 7 法華山谷川総合治水推進計画

近者 敦彦 KONJA Atsuhiko 河川・砂防事業部 第四グループ 電話 06-6599-6024 FAX 06-6599-6050

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献する共助の面がある。 また、法華山谷川流域では、ため池が多く存在し保水能力が高い流域特性であるため、流域対策について、より多くの取り組みを行うことが望ましいものの総合治水を推進していくためのバロメーターとして、どの程度の実施が必要となるか示すことが望まれた。

3.解決する技術 流域対策は、新規に建設される施設だけでなく、現存の水田・ため池、学校から各家屋に至るまで、様々な土地・施設での対策で、その取り組みの効果は、対象となる降雨や貯留方法、浸水地域周辺や上流に存在する施設の分布、浸水原因等によっても異なる。

貯留方法の違いによる効果の違い

全ての施設をモデル化し、総合的に効果を検討するのは、望ましいもののモデル作成に多大な労力がかかる上、対象降雨や貯留方法の組み合わせ等を考えると無限のケースが想定される。 このため、浸水軽減効果の規模が把握できる概略検討として、貯留可能で必要となる目標流域対策を下記により設定した。

a. 氾濫ボリュームの算出 河川対策として法華山谷川、善念川の河道改修を行った際の平成 23年台風 12号における法華山谷川、善念川、間の川の外水氾濫シミュレーションにより作成された浸水深図に対して、浸水想定区域の氾濫ボリュームを算出した。

b. 軽減浸水深別の貯留量及び浸水面積 一律に浸水深を軽減した場合(浸水メッシュ全てで○cm浸水軽減)の軽減湛水ボリュームを必要貯留量とし、軽減浸水深に対し、必要貯留量及び軽減浸水面積の関係を算出した。

c. 貯留ポテンシャルの算出

水田やため池、学校等の主要流域対策施設において、面積に貯留可能な浸水深を乗じ、貯留可能な貯留ポテンシャルを算出した。

d. 目標流域対策量の設定 目標流域対策量の設定にあたっては、浸水面積の軽減効果が大きく、現実的に貯留できる最適なボリュームとなるよう必要貯留量と貯留ポテンシャルのバランスを考慮し、実現可能性を踏まえた浸水想定区域の浸水低下に寄与する貯留量を算出した。

目標流域対策量の設定イメージ

4.まとめ 実施内容だけでは実施規模がつかみづらい“ためる”流域対策において、浸水の軽減に寄与するボリュームとして、実施規模のイメージが提示できた。 また、翌年平成 25 年度に他流域で検討された地域総合治水推進計画においても、モデル地区での取り組み効果として、同様に、浸水ボリュームと貯留施設の貯留可能ポテンシャルでの比較による検討が行われている。 総合治水は、様々な土地・施設の所有者・管理者それぞれが、規模の小さな対策でも実施可能なものから、早期に実施し、それらの対策を積み上げていくことが重要である。推進計画のフォローアップとして、実施してきた対策を確認・評価し、次期の推進計画へ見直していくPDCAサイクルによる継続が重要である。最後に、本業務は、関係機関の多くのご意見、ご指導のもと実施しており、業務発注者である兵庫県の東播磨県民局 加古川土木事務所並びに県土整備部 土木局 総合治水課をはじめ、関係機関の関係各位に深く感謝いたします。

同じ貯留施設でも切欠きが大きいと、小出水ではあまりたまらないが、大出水では効果を発揮する

同じ貯留施設でも切欠きが小さいと、小出水には効果を発揮するが大出水ではすぐにあふれる

≦各施設での貯留可能ポテンシャル

目標流域対策量(必要貯留量)

浸水軽減イメージ 目標流域対策量の設定

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キーワード:住民参加、合意形成、地域活性化、水源地域ビジョン

1.はじめに 水源地域ビジョンは、ビジョン策定当初は地元住民がダムやダム湖周辺を活用できるように、関係行政機関により遊歩道や公園等のハード整備を含む活性化推進が行われていた。しかし、ビジョン策定から約 10年以上経ち、社会情勢の変化に伴い、整備された施設の活用減少と維持管理の負担増から、関係行政機関の予算及び支援・協力が縮小し、活性化推進の主体は、ソフト面へと転換している。 そのため、地元住民が主体となり、これを関係行政機関や組織団体が適切に支援する枠組みによる活動・取組の活性化が期待されている。このような中、水源地域ビジョンにおいて、地域住民が主体となった活動・取組みを推進するために地域の特性を踏まえて行った活性化支援の事例を 3例紹介する。

2.現状と課題 総じてダム水源地域は中山間地に位置し、人口減少や高齢化、地域産業の衰退が進んでいる。3 つの地域では、それぞれ次に示す特性や課題を有していた。 A地域は、ダム湖と温泉街が近接している地域であり、民宿・旅館経営者等の地元住民によるダム湖を活用した活動が増えつつある。しかしながら、温泉観光客の長期滞在(宿泊)の減少が課題である。 B 地域は、水源地域の源流に位置し、3 つ

のダムがある地域で、自然が豊かでスキーやハイキング、マラソン等数多くのイベント・活動の実施がある。ペンション経営者等の地元住民は、自然を活かした取組みには積極的であるが、ダムを活用した取組みは不足している。 C地域は、過疎化・高齢化が著しい地域であり、地域には市民活動の組織がなく、地域で行う活動は区長や区役員が中心に行うお祭りだけである。また、市の補助金が縮小され、祭りの運営は厳しい状況にある。 3.解決する技術 活性化支援においては、地元住民や関係行政機関、地域団体のそれぞれの役割を明確化し、その上で連携することが重要である。そこで、図-1に示す2段階での活動支援を行い、連携・協力体制や活動実施の調整の円滑化を図った。

技術紹介 8 ダム水源地域の活性化支援 (地域の自立的・持続的な活動の活性化に向けて)

伊藤 雄一 ITO Yuichi 都市基盤事業部 まちづくりグループ 電話 03-3205-5713 FAX 03-3205-5862

水源地域ビジョンを取り巻く社会情勢の変化の中で、地元住民が主体となる活動を推進し、水源地域を活性化することが

期待されている。本稿においては、地域が主体となり、自立的、持続的に活動するための地域連携に向けた取組みや、各水

源地域で実施した活性化支援について紹介する。

1.地元住民、関係行政機関、地域組織等の連携・協力づくり

活性化支援のポイント

関係行政機関

(地元自治体、国等)

具体的課題と役割の把握

地元住民(民宿・旅館組合、、

自治会、NPO等)

(2)連携・協力の調整

地域組織(観光協会、

商工会、企業、大学等)

主体

サポート

①関係者への個別ヒアリング実施による課題

抽出

②地元住民が中心となる活動や・取組みへの

コンサルタントの参加

③地域の関係者が集う地域懇談会の開催

(1)調整に向けた準備

図-1 2段階での活性化支援

2.地域・地区の特性や課題に基づく活動支援の実施

- 7 -

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MCC Technology Report2014 No.36-2

三井共同建設コンサルタント株式会社

各地域で行った活性化支援とその結果による地域活動の方向性を以下に示す。 (1)A地域の活性化支援 A地域は、温泉街の近くにダム湖がある立地特性を滞在型観光に活かすための早朝カヌーや Eボート体験、自然散策等の地域資源を満喫できるモニタリングツアー等のメニューを提案した。その体制は地元住民が体験内容の企画・運営(おもてなし)、自治体がツアー参加者(下流自治体)への広報、ダム管理者がダム見学・ダム解説(ダムへの理解・関心の向上の取組み)を担うこととし、さらに地域の大学との協働も図った。大学との協働では、観光を専攻とする学生をツアーに同行させ、温泉街の整備・取組みの提案や地元住民との意見交換を行った。これにより新たな視点、活力が生まれ、ダムやダム湖の地域資源を見直し、客観的観点から善し悪しを再発見し、今後の取組みに活かすきかっけが得られた。

(2)B地域の活性化支援 B 地域は、3 つのダムが位置し、ダム点検放流など多くの観光客が期待できる資源を有していた。ダムを活用する取組みのきっかけづくりとして、地元住民へのダム見学会を提案した。ダム見学会は、ダム管理者がダム見学ガイド、企業や町が昼食会場の提供や移動バスの支援、地元住民が広報募集の支援や見学会に参加する体制で実施した。 その結果、地元住民から、さらなるダムの活用やダム解説に向けた勉強会への参加意向が示され、地元住民が気軽にダム解説に参加できる取組みを進めることになった。

(3)C地域の活性化支援 C地域は、出身者が帰省するお盆の時期に開催する祭りへの市の支援が減少にあり、今

後も継続するには、自立的な祭りの開催が課題であった。そこで、模擬店のチケット制度や寄付金箱の設置、一部商品の有料化へのアンケートなどを提案した。また、区民の祭りへの参加促進として、祭りの確実な周知(チラシ配布)と、区民の参加意識向上のためのメニュー(キャンドルナイトワークショップ)の組み込みを提案し、実施した。その他、祭りに合わせてダム見学を実施した。その結果、区民の積極的なワークショップ等の参加や一部有料化に対する意向が確認できた。 4.まとめ (1)成果と今後について モニタリングツアーやダム見学会等の活動活性化支援は、地元住民が主体となる自立的・持続的な活性化に向けた活動へのきっかけづくりであるが、これまで関わりのなかった大学や地元自治会の連携・協力が得られたことや、新たな取組みが各関係機関の連携・協力体制で実施できたことは成果である(図-2)。今後、ダム水源地域において、地域の過疎化・高齢化により活動の担い手が不足する課題に対して、本事例が参考となるとともに、さらに多様な活性化支援策への展開が求められるものと考える。

(2)事例からの教訓 これらの事例では、単に提案するだけでなく、実際に地域に入り実情を把握し、地域にあった活動を提案した。さらに提案した活動の運営・実施に携わり、活動結果を次の活動へつながるように関係者へフィードバックし、今後の取組みの方向性を示すところまで関与した。今後の地域参加計画分野においても、地域の特性と課題に対応した提案を行い、実質的に計画案を進めることが私たちに求められると感じる。

地元住民

(民宿・旅館組合)

地域組織

(観光協会、商工会) 関係行政機関

(地元自治体、国等)

大学、企業等地元有志、自治会

下流団体等

連携・協力の強化

連携・協力の拡大

図-2 連携・協力の強化・拡大例

大学生による発表会の様子

ダム見学会の様子

Eボート体験の様子

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Page 12: MCC Technology Report · を調査し、既存施設の健全度評価を行った事 例について報告する。 図-1 対象施設位置図 2.存在した課題 (1)肉厚測定位置の設定

MCC Technology Report 2014 年 No.36-2

2014年6月 1 日発行

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