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MRAMの 最新動向と展望 - J-STAGE

Date post: 23-Feb-2022
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最近の展望

MRAMの 最 新 動 向 と 展 望

猪 俣 浩一郎 ・ 手 束 展 規

次世代不揮発性メモリーとして期待されている磁気ランダムアクセスメモリー(MRAM)に ついて,

動作原理,特 徴,開 発の現状と課題を紹介するとともに,ス ケーリングの観点から将来を展望した.

MRAMは ーつのMOSト ランジスタとーつの強磁性トンネル接合素子を1bitと し,それをビット線

とワード線の交点にマトリックス状に配置した構造をしている. MRAMは 高速書き換え,無 限の書き

換え耐性,低 電圧駆動および大容量性を特徴としており,すでに1MbitのMRAMが 試作されている.

さらにギガビット級の大容量化を実現するためには,書 き込み電力の低減と信号電圧の増大が主な技術

課題である.こ のための研究動向について紹介した.

Keywords: magnetic random access memory, principle, characteristics, scaling, high density, mag

netic tunneling junctions, switching field

1.ま え が き

1988年 の 金 属 人 工 格 子 に お け る 巨 大 磁 気 抵 抗(Giant

Magneto-Resistance: GMR)効 果 の発 見1)以 来,磁 性 体 の

電 子 伝 導 が 学 術 的,産 業 的 に大 き く注 目 され る よ うに な っ

た. GMRは す で に ハ ー ドデ ィス ク の再 生 ヘ ッ ドに実 用 化

さ れ,そ の 高 密 度 化 に 不 可 欠 な デ バ イ ス と な っ て い る.

GMRの 発 見 は, 1975年 にす で に 見 い だ され て い た トンネ

ル磁 気 抵 抗(Tunneling Magneto-Resistance: TMR)2)の

研 究 に も刺 激 を与 え, 1995年 に 室 温 で18%以 上 のTMR

が 実 現 され た3,4).

米 国 は この 結 果 に素 早 く反 応 し,磁 気 ラ ン ダ ム ア クセ ス

メ モ リー(Magnetic Random Access Memory: MRAM)

へ の 応 用 研 究 を展 開 した5).最 近 の50%以 上 の 大 き な トン

ネ ル 磁 気 抵 抗(TMR)の 実 現 に伴 い, MRAMは 現 実 味 を

帯 び て 大 き く期 待 さ れ る よ うに な っ て きた.本 論 で は,次

世 代 不 揮 発 性 メ モ リー と して のMRAMに つ い て 最 新 動

向 を 紹 介 し,将 来 を展 望 す る.

2.強 磁 性 ト ン ネ ル 接 合 の 現 状

MRAMは,メ モ リー 素 子 と して 強 磁 性 ト ン ネ ル接 合

(Magnetic Tunneling Junction: MTJ)を 用 い る6). MTJ

は二 つ の 強 磁 性 層 と,そ の 間 に介 在 す る厚 さが ナ ノメ ー ト

ル オ ー ダ ー の絶 縁 体 か らな る.強 磁 性 層 間 に電 圧 を印 加 す

る と,ト ン ネ ル 電 子 の コ ン ダ ク タ ンス が その ス ピ ンに 依 存

し,一 般 に二 つ の 強 磁 性 層 の 磁 化 が互 い に平 行 の と き,抵

抗 は反 平 行 の場 合 よ り小 さい.ト ンネ ル す る際 に ス ピ ンが

保 存 さ れ る と仮 定 す る と, TMRは 二 つ の 強 磁 性 層 の ス ピ

ン分 極 率P1, P2を 用 い て

(1)

で与えられる2). Pの 値は界面磁性に基づいており,強 磁性

体の種類のほか,ト ンネル障壁材料にも依存するη.例 え

ば,障壁材料 として通常用いられるAl2O3の 場合, CoFe合

金のPの 値 は0.5程 度である.

トンネル接合素子は通常スパ ッタ法で作製 され,完 全な

反平行磁化配列を実現させ るため,一 方の強磁性層に反強

磁性層を近接させてそのスピンを固定 し(ピン層),他 方の

強磁性層(フ リー層)の スピンのみを反転 させる,い わゆ

るスピンバルブ型が用いられる.電 極にCoFe合 金 を用い

たスピンバルブ型 トンネル接合において,現 在,最 大59%

のTMRが 室温で得 られている8).こ れは(1)式 で期待 さ

れる値に近い.

このような大 きなTMRを 得 るためには超高真空技術

を用いた成膜が有効であり,加 えて1nm程 度の薄いAlOx

(Al酸 化物)を 平 たんに作製する技術,さ らに磁性層 と

AlOxと の界面制御が重要になる.特 に,ト ンネルする電子

は界面近傍の電子なので,界 面における磁性層を酸化させ

ないようにすることが重要である.通 常, AlOxは 金属Al

膜 をたい積 した後,プ ラズマ酸化などの手段を用いい作製

するので,界 面近傍の磁性層まで酸化されていた り, Alの

酸化が不十分であった りす る.特 に前者の ような場合,

250~300℃ で熱処理す ると界面が清浄化 されTMRが 向

上する. TMRと 熱処理の相関が最近,詳 しく調べ られてい

る9).

東北大学大学院工学研究科, CREST, JST  〒980-8579  仙台市青葉区荒巻字青葉02.  分 類 番 号5.7, 5.10

e-mail:[email protected] technology and future prospect of MRAM. Koichiro INOMATA and Nobuki TEZUKA. Graduate School of Engineering, Tohoku University, CREST, JST (02 Aoba, Aramaki, Aoba-ku, Sendai 980-8579)

MRAMの 最新 動 向 と展望(猪 俣 ・手 束) 1347

3. MRAMの 動作 原理

MRAMに ついてはすでに本誌 に詳細 な解説記事がある

ので10),こ こでは簡単に述べるに留める. MRAMは 図1

(a)に 示すよ うに,マ トリックス状 に配線 した ビット線

(BL)と ワー ド線(WL)の 交点にメモリーセルを配置する.

メモ リーセルにはセル選択用のスイ ッチが必要であり,通

常図1(b)に 示すように,各 ビットは1個 のMTJ素 子 と1

個 のMOSト ランジスタで構成 され(1T1J),基 本的には

DRAMの キャパシターをMTJ素 子で置 き換 えた構造 で

ある. MTJ素 子は抵抗が高いため,小 さな読み出し電流で

比較的大きな出力が得 られ るという特徴がある.ま た読み

出 しの際,ス ピン反転を必要 とせず,低 消費電力化が可能

である.

書 き込みは, BLお よびWLに 流 した電流が作 る合成磁

場で,選 択したセルのフリー層の強磁性スピンを反転させ

ることによって行い,そ の向きに応 じて"1", "0"と す

る.選択 されないセルにはBL,あ るいはWLの いずれかの

電流磁場 しか印加 されないためスピンは反転せず,結 果 と

して書 き込みは行われない.ス ピン反転が一様回転で起 こ

るとすると,合成磁場 はHx2/3+Hy2/3=HK2/3で 与えられる.

これ はアステロイ ド曲線 と呼ばれ る.こ こでHKは メモ

リー層の異方性磁界であり,そ の値はメモリー層の磁化お

よび磁気異方性などの物理定数のほか,素 子形状 に依存す

る.

読み出しはBLを 流れる電流によるセルの電圧降下 を測

定 し, TMRを 利用 して抵抗の大小関係から"1", "0"を

判定する.し かし,抵 抗の絶対値で判定する方法はセルの

ばらつきに弱いので, "1", "0"に 対応 した抵抗の中間に

位置する抵抗値 をもつ参照セルを設け,そ の抵抗 とセル抵

抗を比較 し,大 小関係か ら判定する方法がとられる.こ の

方法では,信 号電圧 としてはTMRの1/2し か利用できな

いが,メ モ リーセルを小さ くできる.

4. MRAM開 発の現状

MTJは ス ピン反転がナノ秒 と高速であ り,室 温で成膜

でき,素 子サイズを小さ くして もTMRが 変わらない とい

う特徴をもっている.後 者 は特にFeRAMやDRAMに な

い大きなメリットである.し たがって, MRAMはSRAM

並みの高速性 と, DRAM並 みの大容量 を備 えた,不 揮発性

メモ リーとして期待 される.

最近,米 国企業からMRAMの 試作結果が報告 されてい

る11~13). IBMは0.25μmCMOS設 計ルール(F)を 用いて

1kbitMRAMを 試作 し, 1.6×1.9μm2の セルにおいて,

読み出し時間10ns,読 み出しお よび書き込み時の動作消費

電力 として, 5mWお よび40mWを それぞれ得た10). IBM

は素子のばらつき対策および出力増大策のため,二 つの ト

ランジスタと二つのMTJ素 子で1bitを 構成 している(2

T2J).

この場合,二 つのセルには互いにスピンが逆向きになる

ように書 き込み,読 み出しは差動検出で行っている.そ の

ため,信 号電圧 は参照セルを利用す る1T1J方 式の2倍

になり,そ の結果,早 い読み出し時間が得 られた ものと思

われる.し か し, 2T2J方 式はメモリーセルが大きくなる

ため,大 容量化には適 していない.実 際,試 作 したセルの

大きさは49F2と 大きい.

図1  MRAMは ー つの トラ ン ジス タ とー つ の強 磁 性 トン ネ ル 接 合 で

メ モ リー セ ル を構 成 し,そ れ を マ トリ ッ クス状 に配 線 した ビ ッ

ト線 とワー ド線の 交 点 に配 置 した構 造 か らな る. MRAMの 構 成

(a)お よ び メモ リー セル 構 造(b).

一 方,モ トロ ー ラ は2001年2月 のISSCC(International

Solid-State Circuits Conference)国 際 会 議 にお い て, 256

kbitのMRAMを12),さ ら に2002年VLSIシ ン ポ ジ ウ ム

にお い て1Mbitの プ ロ トタ イ プMRAMを 発 表 した13).い

ず れ も1T1J方 式 で0.6μm設 計 ル ー ル を 用 い,読 み 出 し

時 間 とし て,そ れ ぞ れ35nsお よび50nsを 得 て い る.こ れ

らの 結 果 を も と に各 種 メ モ リー の 現 状 を比 較 す る と,表1

の よ う に な る.

5. MRAMの 実 用 化 課 題

MRAMは 急 速 な勢 い で 開 発 が 進 め られ て お り,上 述 の

よ う に,す で に1Mbitま で 試 作 され て い る.し か し,実 用

化 に あた っ て は, MTJ素 子 の 特 性 ば らつ き,微 細 加 工 技 術

お よ びLSI化 技 術 な ど,基 本 的 課 題 が まだ 残 さ れ て い る.

5.1素 子 特 性 の ば らつ き

MTJの 特 性 ば らつ き は抵 抗, TMRお よび ス ピ ン反 転 磁

場 が 対 象 に な る.モ トロ ー ラの 最 新 報 告 に よれ ば, 200mm

径Siウ エ ハ ー 上 に0.6×1.2μm2 MTJ素 子 を マ ト リ ック

ス状 に多 数個 作 製 した 場 合, TMRの 平 均 値45%,そ の標

準 偏 差 σ=2%,接 合 抵 抗 ・面 積 の平 均 値10.4kΩ ・μm2, σ

=6%で あ り,か な りば らつ きが 改 善 され て い る13).し か し,

ス ピ ン反 転 磁 場Hswの ば らつ き に つ い て は,ま だ 課 題 とし

て 残 っ て い る. Hswは 反 磁 界 が 支 配 的 で あ る た め,素 子 形 状

1348 応用 物理 第71巻 第11号(2002)

に敏感であり,微 細加工による形状のばらつきを十分抑制

することが重要である.

5.2微 細加工技術

現在,試 作段階ではサブ ミクロン素子の微細加工 は,電

子 ビームとイオンミリングを用いて行われているが,量 産

段階では反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching:

RIE)な ど化学的手法が求められる.遷 移金属を含むMTJ

素子に対するこのような技術 は現在,開 発中である.

5.3 LSI化 技術

MRAMは 現在, CMOSプ ロセスを用いて作製され,多

層配線 を必要 とする. MTJは 室温で成膜できることか ら,

そのプロセスにおいて半導体特性に大 きな影響を与えるこ

とは特 にないと思われる.む しろ,半 導体プロセスのMTJ

素子への影響が懸念される.シ リコン半導体 プロセスでは

Al配 線 とSi拡 散層 との間でオー ミック接合を形成 し,コ

ンタク ト抵抗を下げるため,配 線後,あ るいはパ ッシベー

ション後 に,水 素中熱処理 を行 う慣習がある.こ のときの

温度は通常400~450℃ である.こ の温度 は現状ではMTJ

素子にとって高すぎる.

通常TMRは 熱処 理温度 とともにいつた ん増 大 し,

350℃ 程度を超 えるとかな り大きく低下する.この原因はバ

リア層の劣化ではな く,使 用 している反強磁性体中のMn

原子の拡散 とその界面近傍での局在,さ らには障壁内への

拡散による,ス ピン分極率の低下および障壁層の劣化が原

因 と考 えられている14).最 近では380℃ 程度 まで問題ない

結果も報告 されている15).いずれにしても,現状では半導体

プロセス処理温度を,従 来より低下 させることが必要 にな

る.さ らなる耐熱性の向上が望 まれる.

6.大 容量化に向けて: MRAMの スケー リング

MRAMが ギガビット級,さ らには超ギガビット級の大

容量を実現するためには,多 くの研究課題がある.以 下,

MRAMの スケー リングについて検討する.

6.1信 号電圧の増大

試作 されたMRAMに おける信号電圧 は, 30mV程 度で

ある.大 容量化すれば素子のばらつき増大などでノイズが

大 きくなるので,信 号電圧 としては100mV以 上必要にな

ろう.そ のためにはどの程度のTMRが 要求 されるだろう

か.動 作 時 の バ イ ア ス電 圧 を400mVと す る と, 100mV以

上 の 信 号 電 圧 を得 る た め に は25%以 上 のTMRが 必 要 に

な る.し か し, TMRは 一 般 に バ イ ア ス 電 圧 と と もに低 下

し, 400mVで はお よ そ半 減 す る.し た が っ て,ゼ ロ バ イ ア

ス で のTMRは50%以 上 が 要 求 され る.し か し, 1T1J方

式 の 場 合, TMRの1/2し か利 用 で きな い の で,実 際 に は

100%以 上 のTMRが 必 要 に な る.現 在 得 られ て い る最 大

のTMRは59%な の で,こ の 開 き は大 き い.

表1  各 種 メ モ リー の 比較(現 状).

図2  強磁性一重 トンネル接 合(SJ)と 二重 トンネル接合(DJ)のTMR

のバイアス電圧依存性.二 重 トンネル接合の構造は,三 つの強

磁性層 と二つのバ リア層からな り,両 端 の強磁性層 を反強磁性

層で ピン止め し,中 央の強磁性層のス ピンをスイ ッチ させる.

SJで は 丁MRが 半減 するバイ アス電圧Vhは 約400mVで あ る

が, DJの それは900mV以 上 と大 きく, TMRの バ イアス依存性

に優れている.

これ に対 す る対 策 の一 つ に,二 重 トンネ ル 接 合(Double

tunneling Junction: DJ)}こ よ る, TMRの バ イ ア ス電 圧 依

存 性 の 改 善 が あ る. DJで は障 壁 が 二 つ存 在 す る の で,一 つ

のバ リア 当 た りの バ イ ア ス 電圧 は1/2と な り,図2に 示 す

よ う に, TMRの バ イ ア ス 電 圧 依 存 性 は大 き く改 善 さ れ

る16).し た が っ て,二 重 トンネ ル 接 合 を 用 い れ ば,現 状 の

TMRで も1T1Jに 対 して100mVに 近 い 信 号 電 圧 が 得

られ る.

も う一 つ の施 策 はP=1の ハ ー フ メ タ ル(フ ェ ル ミ面 に

お い て一 方 の ス ピ ンの み を もつ磁 性 金 属)を 用 い た トン ネ

ル 接 合 の 開発 で あ る.こ の よ うな材 料 とし て,こ れ まで 磁

性 酸 化 物 や ホ イ ス ラー 合 金 が試 み られ て き た が,室 温 で 大

きなTMRを 得 る に至 っ て い な い.し か し最 近, Co2Cr1 -x

FexAlホ イ ス ラー 合 金 を用 い た グ ラニ ュ ラ ー 系 で,室 温 で

1500%と い う非 常 に大 き なTMRが 報 告 され て お り,今 後

の 展 開 が期 待 され る17).

6.2書 き込み電力

IBMお よびモ トローラの試作結果

では,書 き込み電力が読み出しに比べ

10倍 以上大 きい.こ れは書 き込 み時

に,電 流磁場によるスピン反転が必要

なためである.ス ピン反転磁場はアス

テロイド曲線で与えられ,そ の大 きさ

は記録層の異方性磁界HKに 比例 す

る. HKは 膜面内の素子幅(w)方 向の反

磁 界 と関係 し,一 般 に4πC(k)M/w

で与えられ る. Mは 磁化, C(k)は 素子

MRAMの 最新 動 向 と展望(猪 俣 ・手 束) 1349

図3  反 強磁 性結 合 膜(SyAF)の モ デ ル磁 化 曲 線 と,そ れ を フ リー層 に

馬 い た強 磁 性 トンネ ル接 合 の 模 式 図(挿 入図). SyAFの 保 磁 力

(Hc)は 図 中の 式 で与 え られ,素 子サ イ ズ が小 さ くな る と第2項

が 支配 的 にな り,そ の 大 きさ はア スペ ク ト比(k)に 依 存 す る. k

の 小 さい ほ ど 楼 は小 さ くな る.

の ア スペ ク ト比kに 依 存 す る定 数 で あ り, kが 小 さい ほ ど

小 さ い.こ れ か ら,微 細 化 と と も に書 き込 み に必 要 な 電 流

が 増 大 し,消 費 電 力 が 増 す こ とが わ か る.し た が って,特

に大 容 量 化 に対 して は対 策 が 必 要 で あ る.

一 つ の 対 策 と して,配 線 に磁 性 体 を被 覆 し,電 流磁 場 を

メモ リー 素 子 に有 効 に集 中 させ る 方 法 が 考 え られ る.こ れ

は す で に モ トロー ラ の1MbitのMRAMに 採 用 され て お

り,こ れ に よ つ て 書 き込 み 電 流 が 半滅 し て い る13).

筆 者 ら は図3に 示 す よ う な,実 効 的 に磁 化 を低 減 した,

磁 性 層/非 磁 性 層/磁 性 層 か らな る反 強 磁 性 結 合(Syn

thetic Antiferromagnet: SyAF)膜 を,ト ンネ ル接 合 の メ

モ リー層 に用 い る こ とを検 討 して い る18,19).こ の 場 合 の ス

ピ ン反 転 磁 場 は,反 平 行 結 合 を維 持 した ま ま磁 化 反 転 す る

磁 場 で あ り,図3の 保 磁 力Hcに 相 当 す る.こ の よ うな 素 子

で は, TMRは 従 来 のMTJと 変 わ ら ず, HKは ΔM/w

(ΔMはSyAFの 両 磁 性 層 の磁 化 の 違 い)に 比 例 す る ので,

素 子 サ イ ズ が 小 さ くな る と,従 来 のMTJよ り もス ピ ン反

転 磁 場 が 小 さ くな る こ とが 期 待 さ れ る.

図4は,ス パ ッタ膜 を微 細 加 工 し て作 製 したCo(3nm)/

Ru(0.7nm)/Co(5nm) SyAF,お よ び5nmCo単 層膜 の

保 磁 力Hcの 素 子 幅w依 存 性 を 示 し て い る.私 はwが

0.3μm以 下 で 逆 転 し, SyAFの ほ うが 小 さ くな る こ と を示

唆 して い る.

SyAFは 非 磁 性 層 を介 した両 磁 性 層 の 磁 化 が 閉構 造 を と

るた め,ア スペ ク ト比 を小 さ くし て も単 磁 区構 造 を維 持 で

き る.実 際 最 近,筆 者 らは ア ス ペ ク ト比1の 素 子 で も単 磁

区 構 造 を観 察 して い る19).こ の 場 合,ス イ ッチ ン グ磁 場 に対

す る形 状 効 果 を無 視 で き る(C(k)=0)の で, Hcは 図4に

示 す よ うに,バ ル クの 磁 気 異 方 性 で 決 定 され,形 状 に依 存

しな い.

これ は大 容 量 化 して も ス イ ッチ ン グ磁 場 が 増 大 しな い こ

とを意味 している.し たがつて, SyAFは 大容量化

に適 した素子構造であることを示す ともに,従 来

課題 であったMRAMの スケーリングの問題 を

解決できる可能性がある.そ れに対 し,従 来の単

層膜の場合にはk=1で は閉磁区構造 を形成 して

しまうので,メ モ リー機能 をもたせることがで き

ない.

一方,電 流磁場 を用いない新 しいスピン反転法

としてスピン注入法が期待 されている20).こ れは

スピン偏極した電子を注入することでメモリー素

子に トルクを与え,磁化反転 を起 こす方法である.

いくつかのグループで磁化反転 を実験的に観測し

ているが,現 状ではまだ電流密度が107A/cm2程

度 と大 きく,さ らなる詳細な研究が必要である.

6.3ビ ット間相互作用

電流磁場 には広がりがあるので,セ ルが小さ く

なると選択 したセル以外の隣のセルを書 き込んだ

り,あ るいはセル間の相互作用によつて記憶が不

安定になることが懸念 される.こ れが どの程度の

容 量 に な る と問 題 に な るか は詳 細 な 検 討 が 必 要 で あ る.し

か し,一 般 に言 え る こ とは,メ モ リー 素 子 の ア ス ペ ク ト比

が1に 近 づ くほ ど,ビ ッ ト間 相 互 作 用 は緩 和 され,ア スペ

ク ト比 が1の 素 子 で は それ が 無 視 で き る.し た が つて,上

記SyAF素 子 を用 い る こ と は この点 で も望 ま し い.

6.4超 常 磁 性

強磁 性 体 は体 積 が 小 さ くな る と,熱 運 動 に 負 け て 室 温 で

もそ の ス ピ ン を安 定 に保 持 で きな くな る.そ の大 き さ の 目

安 は一 軸 磁 気 異 方性 をKu,素 子 体 積 をvと す る と, Kuv>

10kBT (kBは ボ ル ツ マ ン定 数)で あ る.こ れ か らKu=103

J/m3を 仮 定 す る と,少 な く と も0.1μm以 上 の セ ル サ イ ズ

で あ れ ば超 常 磁 性 は起 こ ら な い.し か し, 0.2μm程 度 の素

子 に な る と,ス ピ ン反 転 磁 場 に 熱励 起 の影 響 が 出 て くる の

図4  Co(3nm)/Ru(0.7nm)/Co(5nm) SyAF別 膜,お よ び5nmCo

単 層膜 の 保磁 力(Hc)の 素 子幅(w)依 存性. wが 約0.3μm以 下 で

綾 は逆 転 して, SyAFの ほ うが 小 さ くな る.ま た, SyAFで はk

=1で も単 磁 区構 造 を形 成 す る こ とが で き,こ の場 合,保 磁 力 は

素 子 サ イズ に依存 しな い.

1350 応 用物 理 第71巻 第11号(2002)

で検討を要する.

7.む す び

MRAMは2004年 には実用化が予定 されてお り,ま た

256Mbitの 開発 も予測 されている. MRAMは これまで米

国が中心 となって開発が進め られてきたが,わ が国で も本

年 度 か らMRAM開 発 の た めの 国 家 プ ロ ジェク トが

NEDO(新 エネルギー ・産業技術総合開発機構)と 文部科

学省でそれぞれスター トした.国 内の この分野 における材

料技術に関するポテンシャルは高い.国 家プロジェク ト発

足を機に,わ が国のMRAM技 術が大 きく進展することを

期待 したい.

文 献

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84. 3149 (2000).(2002年6月28日 受 理)

猪俣 浩一 郎

1970年東京都立大学大学院理学研究科博士課程修了.

理学博士.同 年(株)東芝総合研究所入社.2000年 同退

職,東 北大学大学院工学研究科教授.現 在に至る.

手束 展規

1998年 東北大学大学院工学研究科後期3年 の課程修

了.工 学博士.同 年日本学術振興会特別研究員. 99年

ハンブルグ大学客員研究員. 2000年 東北大学大学院工

学研究科助手.現 在に至る.

MRAMの 最 新 動 向 と展 望(猪 俣 ・手 束) 1351

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