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Date post: 29-Jun-2020
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1 2020 年 5 月 20 日 今からちょうど 100 年前の 1920 年、第一次世界大戦終結と国際連盟発足に伴い構築された 太平洋島嶼地域秩序は、第二次世界大戦を経て、外的要因に翻弄されながら変化してきた。 本稿では、現地経済の観点から、世界で猛威を振るう新型コロナウィルス感染症(COVID-19) がもたらす太平洋島嶼地域秩序の変容について考察する。 1.現在の太平洋島嶼地域秩序構造 現在の太平洋島嶼地域秩序(以下、地域秩序)は、米国コンパクトと ANZUS 条約に基づく米 国・豪州・NZ による伝統的安全保障枠組み、CROP(太平洋地域機関評議会)機関による旧宗 主国と太平洋島嶼国(以下、島嶼国)による枠組み、太平洋小島嶼開発途上国(PSIDS)など島 嶼国主導の枠組み、中国の南南協力枠組みの4つのレイヤーで構成されている(図1) 1 図1. 太平洋島嶼地域秩序を構成する4つのレイヤーのイメージ。左から、第1レイヤー(米国・豪州・NZ による伝統的安全保 障枠組み)、第2レイヤー(旧宗主国と太平洋島嶼国による CROP 機関枠組み)、第3レイヤー(太平洋島嶼国主導の枠組 み)、第4レイヤー(中国による南南協力枠組み)。 (笹川平和財団太平洋島嶼国マップを基に筆者作成) この地域秩序の変化を経済的側面を踏まえ振り返りたい。 第二次世界大戦後、冷戦を背景に構築された第1レイヤーの下、島嶼国は 1962 年の西サモ ア以降 14 か国が独立し、主権を確保していった。しかし、島嶼国各国は、少人口・離散性・資 源不足といった社会経済上の制約により早期の自立が困難であるため、1971 年に設立された 太平洋諸島フォーラム(PIF)など CROP 機関の枠組みを通じて、旧宗主国が島嶼国への支援 を続けた。この第2レイヤーについては、1985 年以降、日本がいち早く域外国として対話に参 加するようになり、他の域外国がこれを追随していった。なお、独立後の島嶼国には、米国によ る潤沢な財政支援を約束された北半球の米国自由連合国と、経済の自立を目指さなければな らない南半球の英連邦系諸国の間で、開発課題に対する認識の違いが生まれた。 2000 年代半ば以降、島嶼国間の関係が変化していく。2003 年のマーシャル諸島とミクロネシ ア連邦における米国コンパクト改定 2 では、2023 年9月の米国による財政支援終了と 2008 年 10 月以降の漸次的財政支援減額が合意され 3 、両国は自主財源を追求することとなった。2007 年に始まった世界食料価格危機、石油価格高騰、世界金融危機は、島嶼国においてエネル ギーコスト上昇、物価上昇、信託基金のマイナス運用をもたらした。その結果、2007 年から
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2020 年 5 月 20 日

今からちょうど 100 年前の 1920 年、第一次世界大戦終結と国際連盟発足に伴い構築された

太平洋島嶼地域秩序は、第二次世界大戦を経て、外的要因に翻弄されながら変化してきた。

本稿では、現地経済の観点から、世界で猛威を振るう新型コロナウィルス感染症(COVID-19)

がもたらす太平洋島嶼地域秩序の変容について考察する。

1.現在の太平洋島嶼地域秩序構造

現在の太平洋島嶼地域秩序(以下、地域秩序)は、米国コンパクトと ANZUS 条約に基づく米

国・豪州・NZ による伝統的安全保障枠組み、CROP(太平洋地域機関評議会)機関による旧宗

主国と太平洋島嶼国(以下、島嶼国)による枠組み、太平洋小島嶼開発途上国(PSIDS)など島

嶼国主導の枠組み、中国の南南協力枠組みの4つのレイヤーで構成されている(図1)1。

図1. 太平洋島嶼地域秩序を構成する4つのレイヤーのイメージ。左から、第1レイヤー(米国・豪州・NZ による伝統的安全保

障枠組み)、第2レイヤー(旧宗主国と太平洋島嶼国による CROP 機関枠組み)、第3レイヤー(太平洋島嶼国主導の枠組

み)、第4レイヤー(中国による南南協力枠組み)。 (笹川平和財団太平洋島嶼国マップを基に筆者作成)

この地域秩序の変化を経済的側面を踏まえ振り返りたい。

第二次世界大戦後、冷戦を背景に構築された第1レイヤーの下、島嶼国は 1962 年の西サモ

ア以降 14 か国が独立し、主権を確保していった。しかし、島嶼国各国は、少人口・離散性・資

源不足といった社会経済上の制約により早期の自立が困難であるため、1971 年に設立された

太平洋諸島フォーラム(PIF)など CROP 機関の枠組みを通じて、旧宗主国が島嶼国への支援

を続けた。この第2レイヤーについては、1985 年以降、日本がいち早く域外国として対話に参

加するようになり、他の域外国がこれを追随していった。なお、独立後の島嶼国には、米国によ

る潤沢な財政支援を約束された北半球の米国自由連合国と、経済の自立を目指さなければな

らない南半球の英連邦系諸国の間で、開発課題に対する認識の違いが生まれた。

2000 年代半ば以降、島嶼国間の関係が変化していく。2003 年のマーシャル諸島とミクロネシ

ア連邦における米国コンパクト改定2では、2023 年9月の米国による財政支援終了と 2008 年

10 月以降の漸次的財政支援減額が合意され3、両国は自主財源を追求することとなった。2007

年に始まった世界食料価格危機、石油価格高騰、世界金融危機は、島嶼国においてエネル

ギーコスト上昇、物価上昇、信託基金のマイナス運用をもたらした。その結果、2007 年から

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2020 年 5 月 20 日

2009 年の間に、島嶼国 14 カ国中 12 カ国が経済のマイナス成長を記録するなど(表1)、経済

危機に直面し、島嶼国は赤道を越えて課題を共有するようになった4。

表1.太平洋島嶼国の国別経済成長率推移(2007 年~2016 年) (アジア開発銀行 Key Indicators を基に、筆者作成)。

2010 年代に入ると、ナウル協定締約国グループの隻日法導入による入漁料収入の増大、世

界金融市場回復による信託基金運用の安定、ナウルの入国査証料引き上げ、メラネシア地域

自由貿易協定の発効、外交関係の多様化、海外からの開発援助資金の増加、観光・貿易・投

資促進、内需拡大等により、島嶼国各国の経済が成長基調に転じ、2015 年には9カ国が 4%

を超える経済成長率を記録した(表1)。好調な経済により自信を深めた島嶼国は、米国・豪

州・NZ と対等な対話姿勢を見せるようになり、特に気候変動・環境・ブルー/グリーン経済に関

して国際社会における発言力を高め、島嶼国主導の第3レイヤーが形成された。

中国は、1990 年代から、台湾承認国の削減、経済上の地域拠点確保、地域機関における影

響力拡大を目的として島嶼国に対する関与を始めたが、2000 年代半ば以降、政府による開発

援助と民間の経済活動を活発化させ、地域経済の回復と成長に貢献した。中国の経済協力

は、現地ニーズに応じて一見ランダムに進められているように思われたが、習近平国家主席が

就任した 2012 年 11 月以降、先進国のルールに従わなくてもよい開発途上国の立場を活用

し、台湾承認国には民間部門や地域機関を通じて影響力を強め、面として戦略性を持つように

なった。その結果、多くの島嶼国が中国を先進国に対する代替的な開発パートナーとして認識

するようになり、2010 年代後半、中国の南南協力による第4レイヤーが形成された。

このような地域秩序構造の変化を受け、特に 2018 年以降、日本、米国、豪州、NZ、英国など

の先進国は、ルールに基づく秩序を基本概念として地域への関与を強化した5。しかし、島嶼国

側には新しい植民地主義との警戒感が生じ、2019 年8月にツバルで開催された第 50 回太平

洋諸島フォーラム総会において、気候変動をめぐり、「島嶼国と先進国の対立」、「島嶼国と中

国の接近」という新たな地域秩序の変化要因が顕在化した。同9月にはソロモン諸島とキリバス

が中国と国交を結び、台湾と断交する事態となり、太平洋島嶼地域における中国の影響力がさ

らに強まることとなった。

2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

パプアニューギニア 7.8 -0.3 6.8 10.1 1.1 4.7 3.8 13.5 9.5 4.1

フィジー -0.5 1.0 -1.4 -3.0 2.7 1.4 4.7 5.6 4.7 2.6

バヌアツ 5.2 6.4 3.3 1.6 1.2 1.8 2.0 2.3 0.2 3.5

パラオ 1.3 -5.6 -6.3 0.3 4.9 1.8 -1.4 4.4 10.1 0.8

クック諸島 -0.2 -3.5 1.0 -3.0 1.0 4.7 -1.4 6.2 4.0 5.7

サモア - -2.2 -1.5 2.4 0.3 -4.1 0.8 2.6 6.7 3.7

トンガ -4.5 1.9 3.2 3.3 2.9 0.9 -3.1 1.9 3.1 4.8

ソロモン諸島 3.6 6.2 2.9 9.7 7.4 2.4 2.8 1.8 2.6 3.4

ミクロネシア連邦 -2.0 -2.2 1.2 2.0 3.3 -2.0 -3.9 -2.2 4.9 -0.1

マーシャル 4.0 -2.4 -1.8 7.1 1.1 3.2 2.8 -0.7 -0.6 1.8

キリバス 2.0 -2.1 0.8 -0.9 1.6 4.6 4.3 -0.6 10.3 1.1

ナウル -24.9 34.4 8.7 13.6 11.7 10.1 34.2 36.5 2.8 -

ツバル 6.3 7.1 -4.1 -3.3 7.5 -3.9 4.9 1.2 9.2 5.9

ニウエ -2.1 -2.7 - 0.6 0.9 -0.1 6.0 4.1 4.0 3.5

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2.太平洋島嶼国の経済構造

島嶼国には3種類の経済構造が存在する。1つ目は経済規模が大きく民間部門が活発な構造

で、政府支出の対 GDP 比が 30%を切るパプアニューギニアとフィジーがこれにあたる。2つ目

は民間部門がある程度活発だが政府部門の影響も強い構造で、政府支出の対 GDP 比が

30%から 40%程度のバヌアツ、パラオ、クック諸島、サモア、トンガ、ソロモン諸島が挙げられ

る。3つ目は政府規模が非常に大きい構造で、政府支出の対 GDP 比が 60%を超えるミクロネ

シア連邦、マーシャル諸島、キリバス、ナウル、ツバル、ニウエがこれにあたる(表2)。トンガは

経済規模が小さく、親族による海外からの送金額が大きいため、2つ目の構造に含まれる。

表2.太平洋島嶼国の国別社会経済指標 (アジア開発銀行 Key Indicators を基に、筆者作成)。パラオについては、データ

が欠落しているため政府支出ではなく歳入額を記載。

国により異なるが、島嶼国の主要産業は、観光(サービス業含む)、天然資源関連(鉱業、漁

業、農業など)であり、税収を除く主な政府財源は、入漁料収入、信託基金運用益、開発援助

等である。いずれの国も内需が活発であり、上記の3つの経済構造では、前者ほど民間部門の

経済動向が、後者ほど政府財政が国内経済に与える影響が大きい。例えば、パラオでは、中

国人観光客の増減により、2015 年に 10.1%の経済成長、2017 年に-0.3%のマイナス成長を

記録した。マーシャルでは、世界食料価格危機、石油価格高騰、世界金融危機により、2008

年に-2.4%のマイナス成長、14.7%の消費者物価指数上昇を記録した6。

3.COVID-19 の太平洋島嶼国経済への影響

2020 年5月 20 日現在、フィジーとパプアニューギニアで COVID-19 感染者が判明している

が、両国とも感染拡大を抑えており、他の島嶼国においても、非常事態宣言による権限の集

中・特別予算措置・援助受け入れ促進、入国制限や入国者隔離・観察措置による水際対策、

感染者を想定した外出禁止令やロックダウン措置、国内検査能力確保などにより、感染者ゼロ

を維持している。しかし、豪州、NZ、グアム、ハワイ、フィリピン、米国本土、中国、韓国、台湾、

日本における感染拡大により、航空便やクルーズ船の運航が大幅に制限され、島嶼国各国の

観光部門が甚大な損失を被っている。漁業に関しては、入港制限、船員不足、漁業監視オブ

国名

(対象年)

パプアニューギニア

(2017)

フィジー

(2017)

バヌアツ

(2017)

パラオ

(2017)

クック諸島

(2017)

サモア

(2017)

トンガ

(2018)

人口 870,000,000人 884,900人 278,400人 17,900人 19,500人 196,300人 99,600人

名目GDP 23,633百万米ドル 5,187百万米ドル 880百万米ドル 286百万米ドル 345百万米ドル 810百万米ドル 475百万米ドル

1人当たりGDP 2,716ドル 5,861ドル 3,160ドル 15,977ドル 17,692ドル 4,126ドル 4,769ドル

政府支出 4,159百万米ドル 1,374百万米ドル 210百万米ドル 115百万米ドル 104百万米ドル 245百万米ドル 127百万米ドル

政府支出対GDP比 17.6% 26.5% 29.1% 40.2% 30.1% 34.7% 26.8%

主要産業/財源鉱物資源、入漁料

農業、観光、建設業他

観光、建設業、漁業

農業、鉱業、衣料、他

観光、入漁料

NZ政府

観光、米国、入漁料

便宜置籍船、信託基金有

観光、入漁料

NZ政府

観光、海外からの送金

農業、入漁料

海外からの送金、農業

観光

国名

(対象年)

ソロモン諸島

(2017)

ミクロネシア連邦

(2017)

マーシャル諸島

(2017)

キリバス

(2016)

ナウル

(2017)

ツバル

(2016)

ニウエ

(2017)

人口 639,400人 102,500人 54,400人 111,600人 11,200人 11,300人 1,719人

名目GDP 1,099百万米ドル 330百万米ドル 208百万米ドル 182百万米ドル 116百万米ドル 41百万米ドル 26百万米ドル

1人当たりGDP 1,719ドル 3,220ドル 3,823ドル 1,569ドル 10,357ドル 3,628ドル 15,125ドル

政府支出 471百万米ドル 203百万米ドル 129百万米ドル 140百万米ドル 116百万米ドル 54百万米ドル N/A

政府支出対GDP比 42.9% 61.5% 64.5% 76.9% 99.9% 121.9% N/A

主要産業/財源入漁料、林業、農業

鉱物資源

米国、入漁料、観光

信託基金有

米国、入漁料

便宜置籍船、信託基金有

入漁料、漁業

信託基金有

入漁料、入国査証料

リン鉱石、信託基金有

入漁料、.tvドメイン

信託基金有

観光、入漁料

NZ政府

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2020 年 5 月 20 日

ザーバーの活動自粛などにより外国漁船の操業に制約がかかっており7、島嶼国各国の入漁

料収入の減少が懸念される8。また、今後、世界金融市場が不安定化すれば、信託基金の運

用悪化に繋がる。さらに、開発パートナーの経済悪化により民間部門の投資活動の縮小や開

発援助資金の削減が行われれば、建設部門が悪化したり、国内を循環する資金が減少するこ

とになる。石油価格の低下は物資を輸入に頼る島嶼国にとって唯一の好材料だが、世界の食

料需給バランスが崩れたり、物流が鈍化すれば、物価高騰および食料安全保障問題に繋が

る。島嶼国各国では、すでに中小企業の休業や廃業、失業問題が発生しており、今後、住民

の生活不安が高まることで、内政が不安定化したり、治安が悪化する可能性も考えられる。理

解を深めるため、いくつかの国について詳しく見てみよう。

パラオは 2017 年の名目 GDP が 286 百万米ドル、政府歳入が 115 百万米ドル(対 GDP 比

40.2%)と政府規模が大きい(表2)。政府歳入内訳は、税収など一般会計歳入が約 60 百万米

ドル、米国・日本・台湾などの経済協力が約 50 百万米ドルであり、パラオ人労働力の 80%ほ

どが政府部門に関連している9。同国では観光部門が GDP の 40%を占めるが10、本年3月時

点で訪問者数は前年同期比 90%減となり、同国財務大臣は、一般会計歳入が、50%(約 30

百万米ドル)不足すると予測した11。今後 COVID-19 の影響が長期化すれば、GDP が 20%以

上減少することも考えられる。このような財政・経済危機に直面するパラオ政府は、本年4月、政

府財政補填用に 21 百万米ドル、民間経済対策用に 20 百万米ドルを同国一般準備基金やア

ジア開発銀行の災害緊急対応融資などにより調達した12。また、同国は 2024 年の米国コンパ

クトに基づく経済援助終了後に備え、約 234 百万米ドル(本年3月末時点)の米国コンパクト信

託基金を設置しているが、本年第1四半期には 18.6%、53 百万米ドル強の損失を記録した13。

フィジーは 2017 年の名目 GDP が 5,187 百万米ドル、政府支出が 1,374 百万米ドル(対 GDP

比 26.5%)であり(表2)、観光関連が GDP の 36~38%に相当する14。同国政府は 2013 年以

降、観光・貿易・投資促進、経済インフラ整備、内需拡大政策などによる経済改革に成功し、

2017 年には 20 年後の所得倍増(年 3.5%成長)を目指すとしたが15、COVID-19 により観光部

門が深刻な影響を受け、新機材の積極投入と航路拡大を進めてきたフィジー航空への影響も

懸念される。ANZ 銀行は 2020 年のフィジー経済について、観光関連で 566 百万米ドルの損

失を予測しているが16、現地では建設部門にも鈍化傾向がみられ、GDP が 20%以上減少する

可能性もある。政府は経済危機対応に加え、本年4月に発生したサイクロン・ハロルド災害から

の復興、COVID-19 拡大防止、本年 10 月に償還期限を迎える米ドル建グローバル債 200 百

万米ドルの借り替えなど、多額の資金調達が必要となる。

その他の民間部門の割合が高い国々においても、観光部門が甚大な損失を被っている。2020

年の GDP に関し、アジア開発銀行はクック諸島、サモア、バヌアツについてマイナス成長を予

測し 10、ANZ 銀行はバヌアツ、サモア、トンガについて観光関連の影響だけで 10%前後のマイ

ナス成長を予測しているが 16、COVID-19 の影響が長期化すれば下落幅がさらに拡大する可

能性がある。政府規模の大きな島嶼国においても、世界金融市場、入漁料収入、開発パート

ナーの動向次第で、マイナス成長の可能性がある。今後、多くの島嶼国が、政府財政補填、経

済対策、COVID-19 対策のために、多額の資金を必要とするだろう。

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2020 年 5 月 20 日

4.太平洋島嶼地域秩序変容の可能性

COVID-19 は、生活習慣病の多い島嶼国住民の生命に対する直接的脅威であるばかりでな

く、島嶼国に自信を与えてきた現地経済成長に深刻な影響を及ぼしており、世界金融危機以

上に外部勢力が島嶼国に対して影響力を高める機会をもたらしている。

COVID-19 の世界的パンデミックが収束しない中、島嶼国の経済を回復させるためには、世界

経済の回復と共に、島嶼国内では感染者ゼロを維持しながら、海外との人の往来を再開させな

ければならない。そのためには、訪問者に対して入国時に確実な非感染証明を課したり、訪問

者を監視下に置いて、14 日以上隔離する必要がある。ワクチンによる免疫獲得や治療法の確

立も待たれるが、早期の実現は困難であろう。現実的には、島嶼国各国は短期的には

COVID-19 対策と共に、政府財政補填および経済対策のための資金を調達する必要があり、

中長期的には複数のシナリオによる新たな持続可能な経済構造を追求することになるだろう。

そして、そのいずれの場合においても、島嶼国は開発パートナーに協力を求めることとなる。

中国は、本年3月 12 日、国交を有する島嶼国 10 か国17の保健衛生部門を対象に COVID-19

に関する遠隔会議を開催し18、中国がいち早く COVID-19 を克服したとの印象付けを図った。

さらに、中国は、同5月 14 日、島嶼国 10 カ国と COVID-19 に関する次官級遠隔会議を開催

し、同じ開発途上国の立場で、国連など国際枠組みや地域枠組みにおける島嶼国との協力推

進と共に、COVID-19 後の地域秩序における主導的役割を担う意思を示した19。フィジー政府

は、後者を太平洋小島嶼開発途上国(PSIDS)と中国による COVID-19 パンデミックに対する

協力強化の会議と位置づけ20、地域秩序第3レイヤー(太平洋島嶼国主導枠組み)と第4レイヤ

ー(中国南南協力)の関係強化を印象付けた。COVID-19 を安全保障上の脅威と見なす島嶼

国は、本年1月以降、米国・豪州・NZ から支援を得つつ、早い段階で中国からの渡航制限措

置を導入した。欧米メディアの影響もあり、一部の島嶼国では中国に対する見解が厳しくなって

いたが、これらの会議を経て、中国が地域における不利な情勢を挽回したと考えられる。

2000 年代後半、島嶼国が世界食料価格危機、石油価格高騰、世界金融危機に翻弄される

中、先進国は援助疲れや経済悪化、クーデター後のフィジーとの関係悪化により島嶼国との関

係に隙間を作ることとなり、その隙間を埋める形で中国が地域への影響力を拡大していった。

そして、今、中国はさらに影響力を高め、COVID-19 後の地域覇権を確保しようとしている。

日本、米国、豪州、NZ、英国など先進国側は、台湾承認国においては台湾も含め、同じ価値

観を有する国々で連携し、ルールに基づく秩序を基盤として、上述の島嶼国における短期・中

長期課題に対して積極的に関わる必要がある21。その際、初期段階においては、地域ではなく

島嶼国各国に対して、個別に対話を進めるべきであろう。

現在、太平洋島嶼地域では、中国による地域秩序第4レイヤーが他のレイヤーを覆いつくす

か、先進国が価値観を共有する島嶼国と新たな地域秩序第5レイヤーを構築できるかの分岐

点を迎えている。

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1 塩澤(2020). 太平洋島嶼国のガバナンス 海洋白書 2020, p89-95. 2 2003 年にマーシャル諸島・ミクロネシア連邦、2009 年にパラオ(主に経済協力条項改定)。第 1 次コンパクト

は、マーシャル諸島・ミクロネシア連邦は 2003 年9月に期限を迎え改定されたが、パラオについては 2044 年(独

立から 50 年間)まで有効。これらの国々の会計年度は米国と同じく 10 月から始まる。 3 2008 年度以降、財政支援額が年 50 万ドルずつ減額され、減額分は各国が設置したコンパクト信託基金に積

み立てられる(2008 年度は 50 万ドル、2009 年度は 100 万ドルと続く)。ただし、インフレ調整が行われるため、額

面上の減額幅は狭い。 4 政治面のフィジーをめぐる地域の分裂については、別の機会に詳述する。 5 日本:自由で開かれたインド太平洋、米国:自由で開かれたインド太平洋戦略、豪州:ステップアップ政策、NZ:

パシフィックリセット政策、英国:英国コモンウェルス外交関係強化政策など. 6 アジア開発銀行. Key Indicators. 7 スミス太平洋共同体(SPC)漁業・養殖・海洋生態系課長の解説 (2020.4.16 付記事).

https://www.spc.int/updates/blog/2020/04/a-conversation-with-neville-smith-director-of-the-fisheries-

aquaculture-and 8 アコラウ博士、元ナウル協定締約国グループ CEO、現ソロモン諸島国連大使(2020.5.3 付記事).

https://www.islandsbusiness.com/breaking-news/item/2792-covid-19-challenges-and-opportunity-for-

pacific-tuna-industry.html 9 パラオ財務省(2014). 2014 Household Income and Expenditure Survey 10 アジア開発銀行(2020). ADB Outlook 2020. 11 サダン パラオ財務大臣の発言. アイランド・タイムズ紙(2020.3.20 付記事)

http://islandtimes.us/over-50-shortfall-in-govt-revenue-expected-sadang/ 12 アイランド・タイムズ紙(2020.4.29 付記事) http://islandtimes.us/covid-19-relief-bill-enacted-into-law/ 13 アイランド・タイムズ紙(2020.4.14 付記事)

http://islandtimes.us/palau-compact-trust-fund-performance-impacted-by-global-coronavirus-reactions/ 14 サイェド=カイユム フィジー財務大臣の発言. フィジー・タイムズ紙(2020.3.14 付記事).

https://www.fijitimes.com/impact-on-tourism-to-affect-fijis-economy/ 15 フィジー財務省(2017). 5-year & 20-year National Development Plan: Transforming Fiji 16 アイランド・ビジネス紙(2020.4.8 付記事). https://islandsbusiness.com/breaking-news/item/2764-fiji-faced-

with-a-potential-us-608-million-tourism-loss.html 17 ミクロネシア連邦、キリバス、パプアニューギニア、ソロモン諸島、バヌアツ、フィジー、サモア、トンガ、クック諸

島、ニウエの 10 カ国。 18 例えば、PACNEWS(2020.3.12 付記事)

http://www.pina.com.fj/index.php?p=pacnews&m=read&o=1921706595e6af47236baf8924169d 19 例えば、サモア政府プレスリリース(2020.5.14 付)

https://www.samoagovt.ws/2020/05/joint-press-release-of-the-vice-ministers-special-meeting-on-covid-

19-between-the-peoples-republic-of-china-and-pacific-island-countries/ 20 フィジー政府ポータルサイト(2020.5.14 付) https://www.fiji.gov.fj/Media-Centre/News/PSIDS-

LEVERAGES-STRONGER-INTERNATIONAL-COOPERATION 21 米国、豪州、NZ、台湾は、島嶼国に対し、既に COVID-19 対策支援および財政支援を実施している。


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