Title 写真法による直立姿勢における重心移動の測定
Author(s) 杉江, 律; 大地, 登
Citation [岐阜大学教養部研究報告] vol.[5] p.[51]-[53]
Issue Date 1969
Rights
Version 岐阜大学教養部体育学教室 / 岐阜大学教養部物理学教室
URL http://hdl.handle.net/20.500.12099/47411
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A Measurement of Fluctuation oF Center of Gravity in
’Standing posture using photo9「aPhic EqiPment.
写真法による直立姿勢における重心移動の測定
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測定方法及び測定例
直立姿勢における重心の位置を, 重心の静止点 (統計的に求められる) を座標原点とする直
交座標で表わすとする。 座標軸のと り方としては, 被検者の前後方向をX軸, 左右方向をY
軸, そ して上下方向を Z軸とすれば, 直立姿勢の重心のZ軸方向の動揺の成分は無視できる
から, 結局重心の移動は, あるZ値 (Z= Z。) のと ころでのX- Y平面上での運動と考えてよ
い。 Z。の値は一般に被検者の身長H と Z。= K ・H ( ここでKは比例常数) なる関係があると
いわれている。 ここで重心移動の時間的推移は, 重心のX軸上の静止点からの移動距離 X(t)
値 と, Y軸上の移動距離Y(t) 値を連続同時観測すれば明らかになるが, 足耽分圧の測定から
求めた結果からも推察される如く , 重心の移動に周期成分があれば, 微小時間△t毎に測っ
た Xi(t) 及びYI(t) 中に同一の周期成分が含まれるもめと予想されるので, XX(t) か Yi(t) の
いずれかの測定結果の解析でその目的を達成する筈であるので , まず XI(t) の測定を試みた。
その具体的方法として第一に身体の動揺の標識板の設定を行なった。 それには立位姿勢の
重心の位置について松# 7) 秋田8) 奥山9) 等により頭端からの全長比が44̃ 46% の位置にある
と報告されていることから, 被検者0 それに相当する位置になる腸稜点に, 第1 図にみられる
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直立姿勢の足耽面上における重心線の移動の大要については, 著者の一人が足耽分圧に関
する研究の一部と して既に報告した1)2)3)4)5)6)そ こで得 られた結果は, 比較的長時間すなわち 4
秒以上の時間単位における移動に関す るもので , かな り興味あるものであったが, も っ と短
い秒単位の間隔における重心の移動の分析を行な うのには, いままでの足耽分圧の測定結果
からでは不可能ではないが, 極めて困難と思われる。 事実足耽分圧の測定結果から身体の微
動揺に伴な う重心の移動と, 被検者の脈拍数あるいは呼吸数等との間に極めて密接な関係の
あることは推定されたが, はっき り重心の移動変位の成分中に脈拍数とか, 呼吸数と一致す
る振動周期成分を分析するまでには到 らなかった。
著者らは新しい試みと して, 直接重心の移動 (実際には変位の座標上の成分) を写真に撮
影し, 得られた時間対変位の関係曲線の周期分析から, 重心の移動変位中に呼吸数と直接関
係があると考え られる秒単位の周期的成分の存在を 確認することができたので , その方法及
び実測例について報告する。
杉 江 律
(岐阜大学教養部体育学教室)
大 地 登
(岐阜大学教養部物理学教室)
(昭和44年10月31日受理)
503530 6025
1. 0
0
,り
2.040 5545
第 工 図
ll
杉 江 律 ・大 地 登
様な約4cnlx6cmの矩形の自色板上の中心に, 黒十字線を記
しかものを糸で泉平に囚定し , 身体の動揺にと もな う重心移
動のX成分を十字線の移動として, それを自色板の前面に設
置した カ メ ラで一定時問問隔△ tご とに連続撮影した。 使用
しか カ ノ ラ及び レンズは, 二コ ソ F及び二コ ソ ・タ クマーレソ
ズF: 3.5で, 搬影される像は実寸の 1/3 となる様に搬彫した。
△ Lの値と しては, 呼吸に関係する川期分析を考えたので ,
△ t= 1/2秒 と し , 二コ ソ , モータ ー ドライ ブ F-250に よ り
250こま連続撮影しか。 実験姿勢は閉脚60゜姿勢であった八
この姿勢の場合直立直後にに卜一般に比較的大きな指揺が入る
ことが認められているので1), 写直搬影は直立後3分経過した
峙点を起点 と して行な った。 撮影 した フイルムか ら重心の移
動距離の大きさの読み取 りは次の様に行なわれた。 即ち搬影
しか全こまについて , フイルム而上に設定した一定の規準点
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201り 15
から十字線の中心までの距離を測 り, その平均位置を静止点の位置と し, その点と各時刻の十
字線の位置との差を求めこれを重心の移動距離XべL) と した。 その測定例を第 2図に示し犬 。
1.0
2 . U10595
測定結果の解析及び考察
身体の動揺による爪心の静止点からの変位 X(t) の値は, 特問に関して連続的に変化する量
ではあるが, X( L) の変化の周期分析は, X( 0 の他を完全に連続して測定しな く て乱 ある適
当な一定時四則隔△ Uぴの一通の観測値X心 ) の数例が求められれば, も し Xx( L) の変化に川
期的成分さ えあれば, その成分が大きい特はもちろん, 小さ く て もその周期の分析は可能で
ある。 またた とえ不規則成分が規則的周期成分に比べて大きすぎて, X心 ) の変化が一見全く
不足川な ものであると思われる様な場合で もその規川的川期の分析は可能である。 そのため
に最も適当な方法は, ペ リオ ドダラ ム ・ アナ リシスで , この方法は特に川期的成分が 2個以
上存在する ときには, それら萌汽視的に分離して現示されるのは都合がよい。 簡単に方法の
原理を述べ る と ,
一元の等 しい川即川隔て㈲つた観洲値の数列を , X1, X2, X3……とすると, これを次の様
に nイ囚ずつ区切ってな らべる。
28
第 2 図
y2.0
1りり nり65 75
2 . 0
120 sec1158U 85 刈7U
1,0
値 : 1呼吸約3.5秒) の周期と等しい重心の移
動変位成分の検出をねらったので, n= 5, 6,
7, 8及び 9の各場合についてのpを求めて比
較してみた。 その結果を n= 7のpを基準に
して示 しだのが第 3図である。 図によ り明ら
かな様に n= 7即ち0.5秒x7= 3.5秒の周期成
分の存在が認められる。 結局被検者の呼吸数
の周期と同周期の成分が重心移動変位中に存
在するこ とになったわけだから, 重心移動の
主原因に呼吸を考えるべき といった きわめて
常識的な結論がでたわけである。
0. 8
9
0 . 6
0 . 4
0 . 2
X喊1- 1) 十I Xn(瓦-1) -F2 ×71ぴ- 1) + 3̈ ゜Xis
ここで各列の平均値をもとめ, それを又1, 又2, 又3……又。とする。もしXi(t) の変化にn個の
周期がないな らば各平均値はほぼ同じ値となる。 所がnの値が丁度潜在周期に一致したとす
れば, 上の様に n個ずつ区切った数列のすべての行は, 同じ列の位置で一せいに大き く なっ
た り, 小さ く なった りする。 それ故平均値の数列 x1, 又2, 又3……又Jこついての標準偏差を
求め, これをすべてのXi(t) についての標準偏差で割らて得た値pは, 同様な方法で他のn値
の場合に求めた pに比して大き く なる。 この様にして pの値の比較により周期的成分が分析
できる。 以上がその原理の大略であるが, 次に著者らの測定例の解析した結果について示す。
前にものべた様に, 被検者の呼吸数 (実測
写真法による直立姿勢における重心移動の測定 53
χ2
χ7X+2
χ3‥‥‥‥‥‥χn
χ7x+3‥‥‥‥‥χ2a
χ1
χ7Xや1
1)
2)
3)
4)
5)
し 文 献
杉江 律 : 足匿分圧の変化にともな う重心の移動 岐阜医紀 15:2 ( 1968)
杉江 律 : 片足立位姿勢における足既面の重心線移動 岐阜医紀 16: 1.2 ( 1968)
杉江 律 : 重心線移動の利き足依存性 岐阜医紀 16: 1.2 ( 1968)
杉江 律 : 立位姿勢における基定面と重心線移動の関係 岐阜医紀 16: 1.2 ( 1968)
杉江 律 : 重心線移動に対する遮眼の影響 岐阜医紀 16: :L2 ( 1968)
杉江 律 : 重心線動揺のリズム性 岐阜大学教養部研究報告4 ( 1968)
松井 秀治 : 運動と身体の重心 杏林書院 ( 1958) ご
秋田 善雄 : 日本人の質量比例について一重心の統計的研究一東京医学会雑誌 VO11. 43 ( 1929)
奥山美佐雄 : 生体の重心に関する研究I.―簡単な二元同時測定法についてー 慶応医学 VO11. 33(1956)
Q
t
aD
29
9)
今後△ tを さ らに小さ く して解析すれば, 被検者の脈拍数に関係した周期成分の解析等も
可能にな り, 重心の直立姿勢における移動の微細な解析もできることになろ う。
4 5
第 3 図
83 76