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47
保険業法逐条解説(Ⅰ) 第1条(目的) 「この法律は、保険業の公共性にかんがみ、保険業を行う者の業務の 健全かつ適切な運営及び保険募集の公正を確保することにより、保 険契約者等の保護を図り、もって国民生活の安定及び国民経済の健 全な発展に資することを目的とする」 趣旨 旧法には目的規定がなかったが、保険業法の解釈指針として立法趣 旨ないし規整目的を明らかにするため、新法は戦後に制定された他の 金融業法にならって日的規定を新たに設けることとした(銀行法1条、 証券取引法1条、貸金業法1条等参照)O本条の規定のスタイルは、 保険審議会の法制懇談会報告(94年5月)のままで、銀行法1条1項 と類似しているが、内容が保険業に則したものになっているO ただ、 銀行法1条2項は「1条1項の運用に当たっては銀行の業務の運営に ついての自主的な努力を尊重するよう配慮しなければならない」と規 定しているが、そのようなことは当然のことであるのでわざわざ書く ことはしていない。 なお、本条は、旧法、旧外者法および旧募取法の三つの法律を一本 化したことに対応した規定振りなっている(もっとも、保険会社と外 国保険会社等を区別する必要がないことから、後者を特に意識した規 定にはなっていないが)O 解釈 1.概説 保険業法の究極の目的は保険契約者等の保護にあり、その手段(内 容)として庄)保険業の健全性の確保任)保険業の適切な運営の確保およ -186-
Transcript

保険業法逐条解説(Ⅰ)

第1条(目的)

「この法律は、保険業の公共性にかんがみ、保険業を行う者の業務の

健全かつ適切な運営及び保険募集の公正を確保することにより、保

険契約者等の保護を図り、もって国民生活の安定及び国民経済の健

全な発展に資することを目的とする」

一 趣旨

旧法には目的規定がなかったが、保険業法の解釈指針として立法趣

旨ないし規整目的を明らかにするため、新法は戦後に制定された他の

金融業法にならって日的規定を新たに設けることとした(銀行法1条、

証券取引法1条、貸金業法1条等参照)O本条の規定のスタイルは、

保険審議会の法制懇談会報告(94年5月)のままで、銀行法1条1項

と類似しているが、内容が保険業に則したものになっているO ただ、

銀行法1条2項は「1条1項の運用に当たっては銀行の業務の運営に

ついての自主的な努力を尊重するよう配慮しなければならない」と規

定しているが、そのようなことは当然のことであるのでわざわざ書くい

ことはしていない。

なお、本条は、旧法、旧外者法および旧募取法の三つの法律を一本

化したことに対応した規定振りなっている(もっとも、保険会社と外

国保険会社等を区別する必要がないことから、後者を特に意識した規

定にはなっていないが)O

二 解釈

1.概説

保険業法の究極の目的は保険契約者等の保護にあり、その手段(内

容)として庄)保険業の健全性の確保任)保険業の適切な運営の確保およ

-186-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

び③保険募集の公正の確保があると解されるO そして、これらの手段

を通じて保険契約者等の保護が図られるならば、結果として国民生活

の安定ひいては国民経済の健全な発展がもたらされることになると考

えられる(なお、「保険契約者等」の意義については、5条1項3号

イと同じく、保険契約者のみならず、保険金受取人、被保険者ならび

に自賠責保険等の被害者をも含む趣旨と解される)。したがって、

「保険契約者等の保護以外の政策実現手段として保険業法を運用する封

ことは許されないと解すべきである」O たとえば、いわゆるPKO

(株価の下支え)は仮に国民経済の健全な発展に資するものであるとJ)

しても、許されないO

2.「保険業の公共性」

保険業は保険リスクの引受を通じて、国のナショナル・ミニマムと

しての社会保障を補完するなど、国民の経済生活を保障する役割を担っ

ているO 自賠責保険では、被害者救済という役割も果たしているO ま

た、今日の保険業は資金フローの仲介機関として、コーポレート・フア

イナアンスの担い手あるいは機関投資家としても重要な役割を果し、

その適切な運営が保険契約者の利益にもつながっているO その意味で

は、保険業は銀行の場合とは意味が異なるものの、公共性の高い事業

と言えるO このような「公共性」にかんがみ、保険契約者を保護し、

もって国民生活の安定さらには国民経済の発展に資する目的で保険業

法が制定されているのであるO

3.「保険業を行う者の業務の健全な運営」

「保険業を行う者の業務の健全な運営」とは、保険会社および外国保

険会社等(以下「外国保険会社」という)の健全性の確保またはそれ

一187-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

らの「ソルベンシーの確保」と言い換えることが出来るO いずれの国

の保険監督法においても、その強弱や力点のおき方に相違があるもの

の、保険者の健全性の確保が保険規制の目的の一つとされているO

保険業は「2」で述べたように、国民の生活保障を担う公共性の強

い事業であり、保険会社にリスクを移転した保険契約者にとって保険

会社が破産したのではリスクを移転した意味がない(とりわけ生命保

険等の場合は、通常の投資のように途中で乗り換えることは健康状態

如何によっては不可能である)ので、その健全性は政策的に確保すべ

きものと言えるO そして保険会社の健全性は、放任していてはフリー4)

ライダーの出る一種の公共財といえるので、行政規制が必要であるO

ただ、金融ビッグバンが進められる現代では、パターナリスティック

かつ競争制限的な健全性確保策を採るべきではないO市場メカニズム

の活性化によって保険業の効率化を図り、保険料率・契約者配当・商

品開発面等での成果を保険契約者に還元することを損なわないように

することが求められるO その意味で、競争促進と両立する形の健全性

確保規制が求められるO具体的には、公衆をも対象とした経営内容の

ディスクロージャーによる市場規律(市場による健全性のモニタリン

グ)ならびに、ソルベンシー・マージン基準やそれを精緻化した行政5)

の早期是正措置が重要であるO

なお、保険業法は、万一保険会社の健全性が損なわれたときの事後

処理の法的ルール(経営破綻処理)についても定めている。とりわけ

保険契約者保護機構(第2編第10章第2節)について定めているが、

これは、社会保障を補完し、国民生活の安定を図るという保険業の性

格から、また後述のように、保険契約が約款による付合契約によるも

のであるだけに、保険会社と保険契約者との情報の非対称性が他の金

融商品に比しても大きく、市場原理が機能しにくく、一定範囲の保険

-188-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

契約者には完全な自己責任を問うことができないとの考えによる。こ

のような保険契約者保護機構があるが故のモラル・ハザードを防止し、

機構の発動を未然に防止するためにも保険会社の健全性確保規制が必

要であるO

4.「業務の適切な運営」

「保険業を行う者の業務の適切な運営」とは、「業務のあらゆる面

での保険会社と保険契約者問および保険契約者間における保険料率や

保険契約内容を含む公正・衡平を確保すること」と解する(なお、

「業務」については、法97条から100条まで(法199条において準用す

る場合を含む)を参照)O

保険契約は、通常は、専門家である保険会社と保険契約者との間の

(約款による)付合契約として締結されるが、保険契約者は保険料率、

契約者配当、解約価額等の保険価格情報を含む保険契約(商品)の内

容について、保険会社と対等の立場になぐ情報の非対称性が存在するO

そのため、保険市場を市場機構にまかせておいた場合、効率的な市場

として機能せず、生保商品の内容と価格が最適の均衡点に定まること

が難しく、経済学でいう「市場の失敗」が避けられないO すなわち、

保険契約者に不利な契約内容によって保険契約者が損失を被るおそれ

があるのみならず、誤った情報が伝えられることにより価格メカニズ

ムが機能せず、健全かつ効率の良い会社がより安くより艮い商品を提

供して生き残るシステムが働きにくいO そこで、行政規制によって、

約款や料率の合理性・適正性を担保することが考えられるO

欧米でも、保険約款や保険料率を保険監督庁の認可(届出)に関わ

らしめる例が多かったが、近年、世界的な規制緩和の流れのなかで、

わが国の保険業法がモデルとしてきたドイツをはじめEU加盟国では、

-189-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

保険約款や保険料率の事前認可規制を廃止するに至っているO アメリ

カでも、歴史的に生命保険の料率は自由化されており、生命保険約款

についても州保険局への届出制により、保険法の条項に準拠している

かどうかを形式的にチェックするにすぎない(損害保険料率について6)

は、行政の認可を求める州もある)O

なお、1998年1月、国民生活審議会消費者政策部会は、「消費者契

約法(仮称)の具体的内容について」と題する中間報告を公表したが、

ここでは、対等な当事者同士を想定した近代市民法原理にもとづく意

思表示法を修正し、契約締結過程における情報提供義務違反・不実告

知の場合の契約の取消、不意打ち条項の無効、あるいは(付随的条項

の)リストに列挙された不当条項の無効について定めている。これは、

保険業法という行政規制によらずに、民事ルールによって、消費者の

情報の非対称性の是正や交渉力の確保を目指したものであるO このよ

うな民事ルールの制定によって消費者の自己決定権(informed

decisionmaking)が確保されるようになれば、保険業規制を含むわ

が国の行政規制も、グローバル・スタンダードに合わせて、事前認可

から事後のモニタリング重視の方向に変わっていくべきものと思われ

るO

5.「保険募集の公正の確保」

保険募集の公正確保のための規制は、従来は「保険募集の取締に関

する法律」によってなされていたが、新法制定時に、この法律を廃止

し、新法のなかで保険募集規制も行うこととしたO そのため、本来は

「業務の適切な運営」に含まれるとも思われるが、「保険募集の公正

を確保すること」が別途規定されているO

「保険募集の公正の確保」とはどのようなことを意味するのか。こ

-190-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

の点に関して、「『公正』とは、例えば株式市場のように一物一価の

成立する市場において競争することを前提とするものではなく、実力

のみによって競争が行われることを意味するO具体的には、保険募集

の際に、生命保険募集人や損害保険代理店の権限の明示、不実告知及

び重要事実不告知の禁止、不当な予想配当及び比較情報の禁止等とい

う規制を行って、開示すべきことは開示し、実力以外の手段を用いな

いことにより、実力のみによる競争を行うことを促している」とする7)

見解があるO しかし、この「公正」の解釈は、独禁法上の「公正」の

概念に近く、「競争秩序の維持」の意味合いが強いように思われるO

保険者側と保険契約者(とりわけ消費者)との情報の非対称性を前提

にすると、重要な情報の開示規制による情報の非対称性の解消あるい

は誤導的な予想配当の禁止等による消費者の自立的な購入意思決定を

支援する意味での「公正の確保」も目的とされていると解すべきであ

ろうO

なお、証券取引法1条の「有価証券の発行及び売買その他の取引を

公正ならしめ」に関して、「(情報)開示を前提にしたうえで、個々

の取引に当たって証券会社や発行会社の役員等一般投資家に比べより

専門的な知識、資力等を有する者が作為的に相場を形成したり一般投

資家をだましたりするような不公正な取引を許してはならない」とす81

る解釈がある。保険募集はもとより証券取引とは異なるが、投資家や

保険契約者という顧客との関係では、証券取引法上の「公正」の考え

方も参考になるO

注1) 山下友信・保険業法等の改正一法制懇談会報告について-6頁(損害保険事

業総合研究所、1995年)。なお、「経営の自主性の尊重」が当然のこととして

規定するまでもないとの考え方は、すでに竹内昭夫編・保険業法の在り方(下)

21頁(中西正明筆)(有斐閣、1992年)でも示されている0

-191-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

2) 江頭憲治郎=小林登=山下友信(東京海上火災保険株式会社福)・損害保険

実務講座(補巻)保険業法11亘(山下友信筆)(有斐閣、1997年)

3) 「保険契約者等の保護」とは、「保険契約者のニーズに沿った保険契約の内

容の確実な提供及び履行の保障を意味し」との解説がある(保険研究会編・コ

ンメンタール保険業法2頁(財経詳報社、1996年))が、本文の①から(彰が確

保されることが保険契約者等の保護になるのであって、そのように狭く解すべ

きではない(たとえば、「公正な募集」を行うこと、あるいは違法なカルテル

行為をしないといった「業務の適切な運営」がなされることも「保険契約者等

の保護」になる)0

4) 保険契約者の保護は、保険会社の健全性確保にしろ、保険募集の公正確保等

のその適切な運営にしろ、いずれも、保険業法という行政・業者規制によって

図るべきか、私法あるいは民事ルールを中心とする市場の自己規律によって図

るべきか、その役割分担が問題になるO わが国でも、伝統的には、行政規制が

中心であったが、競争制限的規制の緩和の流れのなかでは、保険契約者とりわ

け消費者契約者と保険会社問の情報の非対称性の是正、保険契約者の自己決定

権確保を目指した新たな民事ルールを制定することによって市場の自己規律を

重視することが強調されるようになっているO後述のように、98年1月、国民

生活審議会消費者政策部会は、「消費者契約法(仮称)の異体的内容について」

と題する中間報告を公表し、保険契約に限らないが、消費者契約一般について、

適正化のための民事ルールの具体的内容についての検討状況を明らかにしてい

る。また、98年8月に、保険審議会、金融制度調査会、証券取引審議会といっ

た従来の業態毎の審議会を統一して発足した金融審議会でも、ポスト日本版ビッ

グバンの検討課題として、銀行、証券、保険といった従来の業態毎の縦割りの

金融業規制ではなく、幅広い金融サービスに対して横断的に対応しうる新たな

法的枠組み(いわゆる金融サービス法)の検討を行うこととしているO そこで

は、98年6月に公表された「新しい金融の流れに関する懇談会」(関係省庁の

共同勉強会)の「論点整理」を基礎として、行政規制を事前規制からルールの

監視という事後規制重視に変更するとともに、金融取引における消費者保護と

して、経済的な弱者保護という視点よりも、情報力・交渉力の格差の是正を主

眼に、消費者の自立を支援し、自己責任原則を補完する方向が目指されるもの

と見られるO

一192-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

5) なお、保険監督方式の一つである完全な公示主義のもとでは、経済学的な

「情報の非対称性」を解消するための情報開示規制のみで、後は保険契約者の

自己責任に委ねることになるが、世界の保険監督法はこの主義を採っていない

(当初、公示主義から出発したイギリスもその後、行政による介入権や検査権

等を導入している)O経営内容の開示がなされるからといって、たとえば、健

全性は低いが価格の安い保険商品を購入した一般契約者に対し、その自己責任

を問い倒産リスクをすべて帰属せしめるのは、情報劣位性即ち生命保険商品の

価格と品質に対する情報収集コスト負担能力と評価能力や交渉力に鑑み酷であ

ると考えられるからであるO また、そもそも遠い将来の会社の健全性は会社

(経営者)の誠実性(インテグリティ)に係わるので、加入時に完全に評価す

ることは困難であるO ここに、市場規律にもとづく開示規制を超えた行政規制

による健全性確保規制が求められる。ただ、本文で述べたように、競争制限的

な事前規制から早期是正措置や検査等の事後規制に変らなければならない。

6) アメリカでは、保険規制の目的に、「支払能力規制」に加えて「市場規制」

という概念を持ち込み、「一般の人々が妥当な条件で常に保険を受けられる

(affordableでavallableである)ようにする」ことをあげる学者が多い。

ただ、aVailableは、主として損害保険の保険危機によって保険保護を受けら

れない者が多く出たことから主張される面が強い。なお、わが国では、損害保

険料率について、96年4月に損害保険料率算出団体法の改正がなされたが、さ

らに金融システム改革法(98年6月成立)により、算定会料率の使用義務が廃

止された0

7) 保険研究会編(前出注3))2頁

8) 証券法制研究会編・逐条解説・証券取引法3貢(商事法務研究会、1995年)

(古瀬政敏)

第2条(定義)第1項(「保険業」の定義)

「この法律において「保険業」とは、不特定の者を相手方として、人

の生死に関し一定額の保険金を支払うことを約し保険料を収受する

保険、一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補す

-193一

保険業法逐条解説(Ⅰ)

ることを約し保険料を収受する保険その他の保険で、次条第四項各

号又は第五条各号に掲げるものの引受けを行う事業(他の法律に特

別の規定のあるものを除くO)をいう。」

一 趣旨

新法は本条(定義)の1項で旧法にはなかった「保険業」の定義規

定を設けているO 旧法は「保険事業」の語を定義なく使用していた。

新法が「保険事業」ではなく「保険業」としているのは、銀行法等が

「銀行業」等としていることおよび「保険業法」という法律の名称に

あわせたものと思われる。

このような定義規定をおいたのは、銀行法や証券取引法等の金融業

法にあわせ、かつ免許事業であり(3条1項)、無免許で行うときは

罰則の適用がある(315条)保険業の意義を明確にし、保険業法の適

用範囲を確定するためであるO

なお、比較法的にも、ニューヨーク州保険法1101条(b)項(-)

号は「保険事業を営むこと」の定義規定において、基本的には「保険

者として保険契約を締結すること」としている(「保険契約」は、同

号(A)で定義している)。ニューヨーク州保険法の「保険者として」

という文言およびわが国の保険業法の「保険料を収受する」という文

言を除けば実質的には似たような規定振りといえようO

二 解釈

1.「保険業」の定義の構造

本条1項は「保険業」を「不特定の者を相手方として、人の生死に

関し一定額の保険金を支払うことを約し保険料を収受する保険、一定

の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補することを約し

-194-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

保険料を収受する保険その他の保険で、次条(免許)4項(生命保険

業免許)各号または5項(損害保険業免許)各号に掲げるものの引受

けを行う事業」と定義するO これは、保険審議会・法制懇談会報告の

内容を法文化したもので、商法673条と629条で定義される生命保険

(契約)および損害保険(契約)を例示しつつ、3条4項の生命保険

業免許に係る保険と同条5項の損害保険業免許に係る保険の引受けを

行う事業(他の法律に特別の規定のあるものを除く)を「保険業」と

して定義する構造であるO

2.「保険」または「保険の引受け」

本項は、「保険」ないし「保険の引受け」については何ら定義せず

に保険という概念を所与の前提として、その引受けを業として行うこ

とを「保険業」としている(3条4項・5項も「保険」という概念の

定義をするものではなく、各種の「保険の引受けを行う事業」というl)

規定振りである)O はなはだ形式的な定義規定であるといえるO それ

を徹底するなら、「不特定の者を相手方として保険の引受けを行う事

業(他の法律に特別の規定のあるものを除く)」あるいは「不特定の

者を相手方として、次条第4項各号又は第5項各号に掲げる保険の引

受けを行う事業(他の法律に特別の規定のあるものを除く)」として

もよいのではないかとも考えられるが、「保険業とは、保険の引受け

を行う事業であるという定義ではあまりにも漠然としているので、保

険業免許の内容の規定を別途置いて、それを保険業の定義規定に逆に

盛り込むことにより、保険の定義を形式的には明確化できるという発2)

想であろう」。

それでも、「次条第4項各号又は第5項各号に掲げる保険の引受け」

とすることも考えられるが、それでも定義規定としてはおかしいとい

-195-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

うことで、商法の生命保険(契約)と損害保険(契約)の定義規定を.、

借用する形で、生命保険と損害保険を例示しているものと思われるO

このように実質的な「保険(業)」の定義がおかれていないので、

「保険」の意義は、旧保険業法と同じく、経済的特性に則して保険業

法の立法趣旨と社会通念によって決せざるをえないO保険業法の監督

対象である保険業を明確化させるため定義規定を設けたものではある

が、実質的な意味はないといわざるをえない(3条は、生損保兼営問

題の解決のための規定であるから、そこでの定義を用いて「保険業」

自体の規定をしても明確にはならない)O この点、銀行業法や証券取

引法が、銀行業や証券業の業務(取引)を構成要素に分解してそれを

業として行うものをいう、という形で定義しているのとは異なってい

るO本条の解釈についても、様々な構成要素に分解して、何が保険制4)

度の必須の要件かを個別に明らかにする作業を試みる必要があろうO

なお、「他の法律に特別の規定があるものを除く」というのは、各

種の協同組合法などの法律に規定のある共済や簡易保険などを除く趣5)

旨であるO現行の縦割り行政を前提にすれば仕方がないとも言えるが、

本来的には問題があるというべきである(同様の機能を果たすものは

同一の規制がなされるべきである)O

3.「保険業」の意義

本条の定義規定に問題があるとはいえ、保険がマクロ的あるいは経

済制度として見れば、同種のリスクを多数プールして(リスクプーリ

ングして)リスクの分散を図る仕組みないし制度でありつつも、ミク

ロ的に見た場合は、保険契約者が保険者との保険契約を通じて保険料

を対価に保険者にリスクを移転する(保険者からは、保険料を対価に

保険リスクの引受けを行う)個別の取引であるという特性から、完全

-196-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

な定義づけが困難であることによるものでやむをえない面があるO保

険制度を担う保険会社の保険取引は、そもそも、保険契約(保険引受

け)という個別取引であるが、その取引ひとつだけでは保険制度とし

て成り立たないのである(「商法は、保険契約を一応定義しているよ

うであるが、それは決して自足的な定義ではなく、大森博士のいう上

記のような保険制度の一環として行われる契約であることを当然の前

提としているのであり、いわば、書かれざる構成要件が存在しているb)

ということになる」)O

さらに、マクロ的に見た保険(制度)の経済学的な定義(必要最低

限の構成要素)そのものについてもその定義は明確でないこと、金融

保証やオプション等のデリバティブの発展でその境界が一層曖昧にな

りつつあることを考えると、今回の改正で明確な定義規定を設けなかっ

たこともやむをえないというべきであろうO保険の経済学的な説明に

ついては、たとえば、美人モデルの足の保険や人工衛星保険はリスク

が多数ではなく、むしろ引受け側(元受会社、再保険会社)がある程

度の数が集まってリスクを分散しているものであって、「大数の法則

にもとづく収支相等の原則によるのが保険である」という伝統的な保

険の説明には必ずしもそぐわないO逆に、保証でも大数の法則が使用

される場合もありえようO

近年では、さらにデリバティブの発展で、経済的損失を被る危険性

があるという意味のリスクについて、その引受けが保険としてのみで

なく、オプション等として引き受けられていることからも「保険」の7)

意義づけが難しくなっているO伝統的には、投機的危険は保険の対象

でないという説明がなされてきたが、企業や家計にとって、たとえば

資産である株式の価値が市場価格の低下で損なわれるリスクと、保有

建物が火災で損害を受けるリスクは経済的損害を被るリスクという貞

一197-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

では同じである。

株式オプションのオプション・ライターはまさに前者のリスクを引

き受けているのであるが、過去の統計データから将来の確率分布を想

定して統計的手法でプレミアムを算定する点では、将来の保険事故発

生率の期待値から保険料を計算するのと異ならないO逆に、建物が火

災で焼失して損害を受けたときに、その金額をてん補してもらうため

に保険を買うというのは、経済学的にみれば、保険事故の発生を条件

としてその時の損害額と等しい金額で決済できるオプションを買う

(オプション・プレミアムが保険料に相当)ことともいえる。シカゴ

のCBOTでは、地震保険の再保険に相当する業務をオプションない

し先物として引き受ける業者が出現している。

とはいえ、オプションは、一対一の契約で成立するため多数の契約

を集め資金をプールする通常の保険のような機能(投資の共同性)は

なく、したがって資金運用機能(金融仲介機能)を果たさないO保証

も、この投資の共同性は必要な要件ではないO この点で、保険業は固J・

有の意義を有すると解されるO

なお、イギリスでは生命保険といっても通常、解約価額を保証しな

いこともあって、短期の定期保険等を除き、投信等の他の金融商品と

一緒に金融サービス法の対象になり、その募集については投資家保護

を目的とする自主規制機関によって規制されている(もっとも、98年

7月に、いわゆるセカンド・ビッグバンとして、財務省から金融サー

ビス・市場法の草案が公表され、単一規制機関FSAによる一元的監

督が目指されている)O わが国でも、前条の解説で述べたように、銀

行、投信や保険などの伝統的な業態ごとの縦割りの規制方式から、金

融サービス法やそれぞれの業法の間で整合性をとって機能的に同じも

のは同じ規制を課すという方向が目指されているご')

-198-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

今回の改正で「不特定の者を相手方として‥・行う事業」としたこ

とは、リスクのプールと分散(投資の共同性)という保険制度のマク

ロ面を正面から規定した(一つの保険契約のみでは保険制度は成り立

たないことを明らかにした)と解することもできよう(もっとも、こ

こでの「不特定」という文言は、後述のように、見舞金的な給付を行

う閉鎖的な共済を除外することが第一義的な目的ではあるが)O

以上述べたことから明らかなように、本条の解釈にあたり、個別具

体的な制度(取引)が経済学的(経済実態的)に保険制度(取引)で

あるかどうかが必ずしも明確ではないため「保険業」との境界が微妙

なものがあるO たとえば、事故発生率に応じた加入料を取らないJA

F等がそれであるO なお、危険率に応じたすなわち給付反対給付均等

の原則を充たす保険料を取らないということだけをもって「保険」で

ないということにはならない。いい加減な経営をやれば、保険業法の10)

適用はないというおかしなことになるからであるO

4.「次条第4項各号又は第5号各号に掲げるものの引受を行う事業」

との関連の問題

なお、本項のような定義規定の結果、3条4項各号または同条5項

各号に掲げられない保険の引受けを業として行っても、それは保険業ユ1)

法の対象ではないとされるおそれがある点は問題があるO

(∋先ず、物や財産に生じた損害について定額保険金給付を行う保険

(物定額保険)については、3条4項・5項各号には掲げられてい

ないので、保険業とされず、保険業法の対象外になるおそれがある。

これについては、「一つの試論ではあるが、物や財産に生じた保険

については損害てん補以外の保険給付を行う保険なるものはそもそ

も有効には存在しえないということが新法の当然の前提となってい

-199-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

ると考え、第3条5項1号では損害のてん補という語を用いている

が、物や財産に関する保険である限り定額保険給付を約していても、

それは損害をてん補するものとみて、そのような保険を業とするこ

とも保険業に該当するという解釈をとるべきではなかろうか」とす12)

る見解があるO被保険利益の範囲内であれば約定の金額が損害額と13)

無関係に支払われる「物定額保険」を認める学説もあるが、そのよ

うな学説を採るとしても、保険業法の目的論的解釈論からすれば、

物定額保険も保険業法上は、広義には損害てん補保険とみてその対

象とすべき(損害保険業免許の一保険種目とすべき)ものと考える。

被保険利益の範囲を超えるいわば賭博的物定額保険については、3

条の免許が与えられないであろうから、無免許営業として取り締ま

ることができようO

(り3条4項2号ホの「治療」(施行規則5条)に関連して、施行規則

5条に列挙されない民間療法による治療に関する定額保険は、保険

業にならない可能性があるO そのような保険を免許なくして営める

ことは問題であるから、立法的に解決すべきであるが、とりあえず、

そのような定額保険であっても、3条5項1号に含まれると解すべ

きではなかろうか(第三分野の保険ではなく、損害保険に含まれる

ことに違和感があろうが、そのような保険は実際上免許が与えられ

ないであろうから、このように解することによって無免許営業とし

て取り締まることができよう)O

5.その他「保険業」の定義に係るいくつかの問題

(1)罰金を課されたときの保険のように公序良俗に反する保険を業と

して営む場合、それが私法上無効だからという理由で保険業法の対象14)

にならないと解すべきではないことはいうまでもない0

-200-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

(2)本条の「保険業」の定義規定は、保険会社の固有業務である資産

運用ないし金融仲介について何ら言及していないOただ、資産運用は、

平準保険料と予定利率による現価計算がなされているために行われて

いるもので、保険業のエッセンスを取り出して定義するときには必ず

しも含まれなければならないというものではないO

(3)3条6項は「保証証券業務」を定義して、「保険数理に基づき、

当該対価を決定し、準備金を積立て、再保険による危険分散を行うこ

とその他保険に固有の方法を用いて行うものをいう」とすることで、

銀行等の債務保証と区別して損害保険とみなすと規定しているO しか

し、「保険数理に基づき」といっても伝統的な保険数理がオプション

理論の発展にともない変化しつつあることや「再保険」も前述の

CBOTのケースに見るようにその概念が明確でなくなりつつあるの

で、この定義で十分であるかは問題であろう。

(4)生命保険に係る「現物給付保険」(たとえば、保険料を収受して、

生存しているかぎり、特定の老人マンションに居住することができる

という保険)は、本項の「保険業」に含まれないと解されるが、今後

の検討課題であろうO

6.「不特定の者を相手方として」

銀行法等には見られないこの文言を定義規定に加えている点につい

ては、いわゆる共済と保険業とを区別するメルクマールとする趣旨の

ものと思われるが、「特定怪」を農民とか消費者等と緩やかに考える15)

ことは問題であろうO

ここでの「特定性」は、見舞金的な金額をごく内輪の助け合いの制

度として支給するような場合に限定すべきであり、オレンジ共済事件

等から見て「特定性」を強調することは問題である。山下教授は、保

-201-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

険を実質的には定義しない定義規定としたことからは、不特定性の要16)

件は不要であったというべきであろうとされるが、「保険」の語にす

でに「不特定の者の間のリスク・プーリング」の意味を含むと解釈す

ればそのようにいえるであろう。ただ、「不特性」概念によって、前17)

述のように、保険のマクロ的側面を強調したと見ることもできよう。

「不特定」とし、「不特定多数」としなかったのは、人工衛星保険の

ような多数の者を相手方として引き受けることを予定していない保険]8)

を想定しているからのようである。ただ、保険が伝統的な「大数の法

則」や「保険数理的基礎」にもとづくものという説明だけでは定義し

にくくなっていることを示すものともいいうるであろうO

注1) 山下友信「保険業の定義」商事法務1434号3頁(1996年)

2) 山下(前出注1))4頁

3) なお、法制懇談会報告では、「保険事業」の定義規定に第3条4項、5項の

内容を盛り込んで規定するような形であった0

4) 山下(前出注1))5頁

5) 山下友信・保険業法等の改正一法制懇談会報告について-3頁(損害保険事

業総合研究所、1995年)

6) 山下(前出注1))3頁

7) 岩原紳作「保険業法の改正について」アクチュアリー・ジャーナル 8月、

7~9頁(1996年)

8) ただ、保険は信託そのものではないので、保険者が信託法上の受認者義務を

負うことはない。とはいえ、生命保険会社の特別勘定等を中心に厳密な区分経

理を前提に保険会社の受認者義務(利益相反の禁止)あるいは倒産時の物権的

優先権を与えることを検討すべきであろう(日本銀行金融研究所「金融取引に

おける受忍者の義務と投資家の権利」金融研究17巻1号63-64貢(1998年)参照)。

9) 山下(前出注1))8頁の(注九)は、「従来、保険ないし保険制度の意義

について議論する場合、共済との区別に力点が置かれすぎていたように思われ

る。保険と保証や他の金融商品との区別の基準など曖昧なままであり、今後議

-202-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

論を重ねていくことが必要であろう」とされるO経済学的な観点から、保険、

保証、オプション等の金融業務の要素分解を行った文献として、伊藤 修著・

日本型金融の歴史的構造254~266頁(東京大学出版会、1995年)O

lO) 山下(前出注1))5頁

11) 以下、山下(前出注1))4百、6頁、7頁参照。

12) 山下(前出注1))7頁

13) 倉沢康一郎・現代保険法論107~135貢

14) 山下(前出注1))7頁

15) 山下(前出注1))7頁Oなお、山下教授はこの文吉を極めて狭く解釈される。

16) 山下(前出注1))7貢

17) 不特定性判断基準としては保険研究会編『最新保険業法の解説』12頁参照。

18) 山下(前出注1))7貢

(古瀬政敏)

第2条(定義)2項(「保険会社」)3項(「生命保険会社」)4項

(「損害保険会社」)

「2 この法律において「保険会社」とは、次条第一項の内閣総理大

臣の免許を受けて保険業を行う者をいう0

3 この法律において「生命保険会社」とは、保険会社のうち次条

第四項の生命保険業免許を受けた者をいう0

4 この法律において「損害保険会社」とは、保険会社のうち次条

第五項の損害保険業免許を受けた者をいうO」

一 趣旨と解釈

新法は、本条(定義)の2項、3項、4項において、それぞれ「保

険会社」、「生命保険会社」、「損害保険会社」の定義を設けている

(本店が海外にある外国保険業者についても、「外国保険会社等」、

-203-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

「外国生命保険会社等」、「外国損害保険会社等」の定義を、それぞ

れ、7項、8項、9項に置いている)。その他、「相互会社」と「外

国相互会社」の定義も設けている(5項、10項)O ここでは、「保険

会社」、「生命保険会社」および「損害保険会社」について解説し、

その他の定義は、それぞれ該当の条文で解説するO

「保険会社」とは、第3条の免許を受けて保険業を行う者をいうO

外国保険会社等と対比すれば、内国保険会社になるO いわゆる外資系

会社であっても、日本法人を設立して、3条の免許を受ければこの

「保険会社」に該当するO「保険会社」は株式会社と相互会社の二種

類であるO株式会社については、第2章第1節において、商法(株式

会社法)の特例が定められている。相互会社については、同第2節に

おいて組織に関する規定が置かれているO

また、「生命保険会社」および「損害保険会社」は、それぞれ受け

た免許の種類によって区分されているO生命保険業免許を受けた会社

が「生命保険会社」であり、損害保険業免許を受けた会社が「損害保

険会社」である。

アメリカ(ニューヨーク州保険法)では、一定の例外を除き、いか

なる個人、団体も州の保険免許を取得すれば同州において保険業を営

むことができる(ニューヨーク州保険法1102条)、保険業を営む事業

主体の法的形態については特に制限がないO イギリスでも、個人であっ

ても、フイット・アンド・プロパーの要件を満たせば、免許を受ける

ことができるO

(なお、ロイズについては、「外国保険業者」に関する特則を設け、

一定の条件を満たす法人の構成員が日本において保険業を行うことを

認めることで、参入の道を開いているO)

(古瀬政敏)

-204-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

第3条(免許)

「保険業は、内閣総理大臣の免許を受けた者でなければ、行うことが

できない0

2 前項の免許は、生命保険業免許及び損害保険業免許の二種類と

する。

3 生命保険業免許と損害保険業免許とは、同一の者が受けること

はできない0

4 生命保険業免許は、第一号に掲げる保険の引受けを行い、又は

これに併せて第二号若しくは第三号に掲げる保険の引受けを行う

事業に係る免許とするO

一 人の生存又は死亡(当該人の余命が一定の期間以内であると医

師より診断された身体の状態を含むO以下この項及び次項におい

て同じ。)に関し、一定額の保険金を支払うことを約し、保険料

を収受する保険(次号ハに掲げる死亡のみに係るものを除くO)

二 次に掲げる事由に関し、一定額の保険金を支払うこと又はこれ

らによって生ずることのある当該人の損害をてん補することを約

し、保険料を収受する保険

イ 人が疾病にかかったこと。

ロ 傷害を受けたこと又は疾病にかかったことを原因とする人の

状態

ハ 傷害を受けたことを直接の原因にする人の死亡

ニ イ又はロに掲げるものに類するものとして総理府令・大蔵省

令で定めるもの(人の死亡を除くO)

ホ ィ、ロ又は二に掲げるものに関し、治療(治療に類する行為

として総理府令・大蔵省令で定めるものを含むO)を受けたこ

と。

-205-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

三 次項第一号に掲げる保険のうち、再保険であって、前二号に掲

げる保険に係るもの

5 損害保険業免許は、第一号に掲げる保険の引受けを行い、又は

これに併せて第二号若しくは第三号に掲げる保険の引受けを行う

事業に係る免許とする。

一 一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補する

ことを約し、保険料を収受する保険(次号に掲げる保険を除くO)

二 前項第二号に掲げる保険

三 前項第一号に掲げる保険のうち、人が外国へ旅行のために住居

を出発した後、住居に帰着するまでの間(以下この号において

「海外旅行期間」という。)における当該人の死亡又は人が海外

旅行期間中にかかった疾病を直接原因とする当該人の死亡に関す

る保険

6 保証証券業務(契約上の債務又は法令上義務の履行を保証する

ことを約し、その対価を受ける義務のうち、保険数理に基づき、

当該対価を決定し、準備金を積み立て、再保険による危険の分散

を行うことその他保険に固有の方法を用いて行うものをいうO)

による当該保証は、前項の第一号に掲げる保険の引受けとみなし、

当該保証に係る対価は、同号の保険に係る保険料とみなす。」

一 趣旨

本条は、保険業の免許主義を規定し、免許を受けない者は保険業を

行うことができないこととしているO また、免許は、生命保険業免許

と損害保険業免許の二種類とし、それぞれの免許を受けた者が引き受

けることのできる保険の内容を規定し、あわせてこの二種類の免許を

同一の者が受けることができないこと(生損保兼営の禁止)を規定し

-206-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

ているO

なお、保証証券業務による保証を、損害保険業免許に係る保険の引

受けとみなすこととしているO

生損保兼営の禁止は、旧法7条で規定されていたが、生命保険事業

と損害保険事業の定義がなく、もっぱら商法の保険契約法上の定義に

依拠せざるをえなかったため、商法に明確な規定のない傷害・疾病・

介護分野(いわゆる第三分野)の保険については、行政の分野調整に

委ねられてきた。平成4年の保険審議会答申は「生命保険、損害保険

両事業の競争促進を通じ、事業の効率化を進め、利用者ニーズへの的

確な対応を図る観点から、これまでの生損保兼営禁止を見直し、本体

及び子会社を通じるものを含め、両事業の兼営を可能にすることが適

当である」とし、さらに「保険業法に生命保険事業、損害保険事業の

定義を設けることについて検討するとともに、生命保険会社、損害保

険会社がそれぞれ本体で取り扱える保険の範囲を法令上明確にし、本

体での兼営を制限しつつ、子会社を通じて兼営を行うことができるよ

うに、兼営禁止を見直す方向で検討することが適当である」としたO

これを受けて同審議会の法制懇談会で検討が行われ、その報告を了承

した保険審議会報告が平成6年5月に出されたO これを受けて本条が

規定されたものである(なお、子会社方式での相互参入については10

6条参照)。

このような経緯から、本条は、基本的にはこれまで生・損保両業界

で行われてきた第三分野の保険を含む保険を網羅して、それぞれの業

界の利害調整を図った規定となっていることが特徴的である(たとえ

ば、後述のように、損害保険会社の海外旅行傷害保険中の疾病死亡保

険は、これまでの実績を踏まえ、本体での生損保兼営禁止原則にもか

かわらずこれを認めている)0

-207-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

二 解釈

1.第1項(免許主義)

本条は、旧保険業法と同じく免許主義を採用することを明示してい

る(1項)が、銀行法等にならい旧法にはなかった予備審査に関する

規定を施行規則(7条2項)に規定している(免許主義の根拠につい

ては、旧法の場合と変わらない)O

2.第2項ないし第5項(生命保険業免許と損害保険業免許)

(1)生損保兼営禁止原則

前述のように、免許は生命保険業免許と損害保険業免許の二種類で

ある(2項)が生命保険業免許と損害保険業免許は、同一の者が同時

に受けることができない(3項)Oすなわち、旧法と同じく、生命保

険業と損害保険業の兼営は禁止される(ただし、前述のように子会社

方式での相互参入が認められることとなった)O いわゆる第三分野の

保険(その意味するところは、後述のように問題がありうるが)は、

従来は行政による分野調整を通じて一定の制限を課していたところを

改め、生命保険会社、損害保険会社ともに制限無く引き受けられるこ

ととした(4項・5項)O ただし、第三分野の保険に依存する中小会

社や外国保険会社の経営を勘案し、いわゆる激変緩和措置等の規定が

置かれている(付則121条)O

生命保険業と損害保険業それ自体の定義はないが、本条4項一号お

よび5項一号の保険の引受けを行う事業がそれぞれ生命保険業および

損害保険業と解されるO

(2)生命保険業免許

生命保険業は、本条4項一号の規定から明らかなように、基本的に

-208-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

は商法673条の生命保険(契約)の引受けを行う事業をいうが、生命

保険業免許を受ければ、これのみならず4項二号の保険(いわゆる第

三分野の保険)または生命保険と第三分野の保険の再保険の引受けを

行うことができる(4項三号)0第三分野の保険のみを引き受ける事

業の免許は想定されていない。たとえば、傷害保険専門会社は認めら

れないのであるが、これでよいかは疑問の余地があろう。

本条4項一号の保険は商法673条の生命保険(契約)そのものでは

ないO先ず、括弧書きで、「人の死亡」のなかに「当該人の余命が一

定の期間以内であると医師により診断された身体の状態を含むO以下

この項及び次項において同じ」として、いわゆる生前給付(リビング・1)

ニーズ)保険を含め、商法673条を拡張しているO

また、同じく括弧書きで「次号ハに掲げる死亡のみに係るものを除

く」として「傷害を受けたことを直接の原因とする人の死亡」のみに

関する保険を除いているO これはどのような理由によるのかO

端的にいえば、傷害保険(契約)に関する特定の学説に配慮したも2)

のといえるO すなわち、傷害を受けたことを直接の原因とする人の死

亡を対象とした保険は、傷害保険というべきものではなく、商法上のJ)

生命保険(契約)そのものであるという学説である(この学説では、

損害保険会社が引き受けてきた傷害保険(契約)中で、死亡保険金の

給付を約束している部分は、契約の分類上は生命保険(契約)である

ということになるO なお、以下、本稿では「契約」という文言を省略

することがある)。この学説によれば、これまで災害割増特約のよう

に生命保険会社が引き受けてきた死亡のみを対象とした傷害保険は生

命保険そのものであるため、なんらかの手当てをしなければ損害保険

会社が引き受けられないことになるO これは保険審議会答申の趣旨に

反するO そこで、損害保険会社にも引受けを可能にするため、括弧善

一209-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

きで一号の生命保険(の引受け)の定義から除いて、4項二号ハ(5

項二号により損害保険会社も引き受けうる)で第三分野の保険として4)

規定することとしたものであるO

しかし、傷害保険(契約)に関するこのような理解は必ずしも一般

的とは考えられないO傷害を受けたことを直接の原因とする人の死亡

を対象とした保険は、(生命保険会社の災害割増特約のように単独で

引き受けられようと、損害保険会社の傷害保険のように後遺障害や入

院等とあわせて引き受けられようと)商法上の生命保険(契約)でも

あり、同時に無名契約としての傷害保険(契約)とも重なり合う部分う)

があると考えられるO そうだとすれば、5項二号(損害保険業免許を

受けた場合、4項二号の傷害保険等を引き受けうる規定)がある以上、

あえて4項一号の括弧書きで固有の意味の生命保険から傷害死亡保険6)

を除く必要性はなかったと考えられるO

このように、商法上に傷害保険(契約)の規定がなく、傷害死亡保

険契約が生命保険契約であるのか、それとも傷害保険契約でもあるの

かについて学説の一致もないことから、保険業法上は、傷害保険の死

亡保障の部分は、単体で給付する場合であれ、後遺障害等の他の給付

とあわせて給付する場合であれ、生命保険ではなく第三分野の傷害保7)

険に含まれることとしたものであるO

(3)第三分野の保険

生命保険会社も損害保険会社もともに引き受けうる保険は4項二号

に規定されている(損害保険会社は、前述のように、5項二号で4項

二号の保険を引き受けうることとされている)。これが新法が生命保

険会社と損害保険会社の双方に相互乗り入れを認めた新たな第三分野

の保険である(4項二号は、第三分野の保険の実質的な定義規定とい

える)O この第三分野の保険について詳説すると以下のとおりである0

-210-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

(亘)傷害保険や疾病保険が商法上も生命保険にあたらないことは異論が

ないが、実損てん補型の傷害保険や疾病保険は同時に商法上の損害、

保険でもあると解される0 4項二号において、「一定額の保険金を

支払う」場合も「損害をてん補する」場合も、これらの保険を生命

保険業免許に含めることができることとしているが、これは、従来

であれば「損害保険」として生命保険会社には認められないと解さ

れる余地のあった実損てん補型の傷害保険や疾病保険を生命保険会

社にも認めることを意味するO保険業法は商法(保険契約法)上の

保険の分類に言及するものではないが、傷害保険や疾病保険が実損

てんば型のものも含めて生命保険と損害保険の中間の性格を持った

独自の保険であるとする損害保険法制研究会の傷害保険契約法(新tl

設)試案(1995年確定版)の見解になじみやすいといえようO傷害・

疾病保険は人保険として生命保険に近い性格を持つことから、実損

てん補型の場合であっても保険給付の態様だけを見て損害保険であ

るというよりは、契約全体の性格を考慮して、保険契約法上も保険

監督法上も損害保険とは独自の規整を行うことが諸外国の法制とも1(り

整合的であり合理的と考えられるO

⑦4項二号「イ」は、「人が疾病にかかったこと」は規定しつつ「人

が傷害を受けたこと」は規定していない(法制懇談会報告の段階で

はあったが)O これは、ガン等の疾病にかかった場合に保険金を支

払う保険はあるが、傷害を受けただけで保険金を支払う保険がない

からであろうO

(彰4項二号「ロ」では、「傷害を受けたこと又は疾病にかかったこと

を原因とする人の状態」とあるO「ハ」があることから「人の状態」

に「傷害死亡」が入らないことは明らかであり、傷害保険や傷害特

約の後遺障害または身体障害等を指すと解される。生命保険の「高

一211-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

度障害」もここに入るであろう(ただし老衰によるものは、後述の

ように「ニ」に含まれる)。なお、「入・通院」は「人の状態」と

はいいにくいので、いわゆる検査入院も含めて次の「ホ」の「治療

を受けたこと」に含まれると解されるO

問題は、「疾病による死亡」がここでの「人の状態」に当たるか

どうかであるO疾病保険は「疾病(にかかったこと)」や「その結

果の入・通院、死亡、高度障害等」に対して給付を行う保険(契約)、l

であるとも解されるが、そのうち死亡による給付を約束する部分は

生命保険とも重なり合うと解されるので、「疾病による死亡」を第

三分野の保険から除いておかないと、損害保険会社もこれを行いう

ることになり、(人の死因の殆どが疾病であるから)生損保兼営禁

止の趣旨に反することになる。

しかし、4項二号の「ロ」の「人の状態」にそれを読み込むこと

は文理解釈上も無理であろう。二号「ハ」では「傷害を受けたこと

を直接の原因とする人の死亡」として、「人の死亡」を「人の状態」

と区別していること、二号「ニ」では「イまたはロに掲げるものに

類するものとして大蔵省令で定めるもの(人の死亡を除く)」と規

定し、わざわざ「人の死亡を除く」としていることがその理由であ

るO また、5項三号において、海外旅行傷害保険で定額の疾病死亡

保険を支払うものを特に損害保険業免許の対象になる保険に含めて

いることも、疾病による死亡保険が第三分野の保険でないことを前12)

提にしていると解される。

④4項二号「ハ」では、「傷害を受けたことを直接の原因とする人の

死亡」とのみ規定し、「疾病を受けたことを直接の原因とする人の

死亡」は規定されていないO ガン等の「疾病による死亡」に関して

のみ一定額の保険金を支払う保険は疾病保険でもあり、同時に生命

-212-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

保険でもあると解される(前述のように、疾病保険契約法新設試案

では、いずれの保険契約になるかは解釈に委ねているが)O保険業

法は、(傷害による死亡に関する保険が第三分野の保険とするのと

は異なり)これを第三分野の保険とはせずに、生命保険とする趣旨

と解される(ただ、後述のように、損害保険会社の海外旅行傷害保

険における死亡保険金は例外である)O損害保険会社に対し、たと

えばガン認定保険金のような疾病による定額の保険金を支払う保険

に加えてガンによる死亡保険金(死因が特定の疾病による場合の保

険金)を支払う保険を提供することまで禁止する必要性があるかは13)

立法論的には疑問もあるO

なお、「ハ」では「直接の」という文言があるが、「ロ」にはな

いO傷害による後遺障害や入院の場合には、直接の因果関係を不要

としつつも、傷害による死亡にのみ直接の因果関係を求めるのは、

理論的には生命保険とも重なり合う傷害死亡保険を(固有の生命保

険とはせずに)第三分野の保険として損害保険会社にも認めたため

であろうかO

なお、二号の「ハ」に「傷害を受けたことを直接の原因とする人

の死亡」を事由とする保険を含め、一号において括弧書きで除いた

のは、傷害による死亡を対象とする保険は、保険業法上は生命保険

ではなく、損害保険会社も営みうる第三分野の保険としたものであ

ることは前述したO

(94項二号「ニ」では「イまたはロに掲げるものに類するものとして

大蔵省令で定めるもの(人の死亡を除く)」と規定しているO施行

規則4条では、「疾病等に類する事由」として「出産及びこれを原

因とする人の状態」と「老衰を直接の原因とする常時の介護を要す

る身体の状態」があげられている。前者の「人の状態」には、たと

-213一

保険業法逐条解説(Ⅰ)

えば複産児(双子等)が入ろうO

(り4項二号「ホ」では、「ィ、ロ又は二に掲げるものに関し、治療

(治療に類する行為として総理府令・大蔵省令で定めるものを含む)

を受けたこと」と規定する。前述のように、入・通院はここに含ま

れると解されるO なお、施行規則5条において、助産婦の助産、柔

道整復師の施術、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の施

術が規定されているO ここに規定されていない「治療に類する行為」

を事由とする定額保険が保険業法の対象外になりかねず、問題があ

ることは前条1項の解説参照O

(4)再保険

生命保険業免許に係る保険の再保険は、損害てん補保険として定義

上は損害保険に含まれると解されるが、生命保険業免許を受けた者は

これを行いうる(4項三号)。旧法でも、1条但書で認めていたもの

である。法形式的には損害保険であるとしても、実質的には生命保険

のリスクの引受けだからであるO なお、4項および5項の規定から、

生命保険または第三分野の保険の再保険のみを専門にする免許はあり

えないO

(5)損害保険業免許

損害保険業は、5項一号の規定から明らかなように、基本的には商

法629条の損害保険(契約)の引受けを行う業務をいうが、損害保険

業の免許を受ければ、それのみではなく、5項二号の第三分野の保険

の引受け、および海外旅行傷害保険における疾病死亡保険の引受けも

行うことができる(ただし、前述のように、4項二号により、実損て

ん補型の傷害保険や疾病・介護保険を生命保険会社も営みうるように

している)O

①5項一号では、「物または財産に関して」という限定がないので、

一214-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

「人の死亡」に関する損害てん補保険が含まれるかが問題である。

現に自動車保険にセットされている無保険車傷害保険は、加害者の

損害賠償責任額を基準に保険金を支払う損害てん補方式の傷害保険

であると解されている(金沢理「無保険車傷害保険の問題点」『交

通事故と保険給付』208貢以下)O信用生命保険もある意味で人の14)

死亡に関する損害てん補型の保険といえなくもない。ただ、一般的

に、傷害を原因とする実損てん補型の死亡保険というものを私法上

適法であるとことを明言する学説はあまり多くなく、むしろ生命保

険一般については定額保険でなければならないと理解している学説

が多いようであるO 山下教授は、無保険車傷害保険の例を一般化で15)

きるかは見解が一致しているわけではない、とされるO

私見では、商法が人の死亡についての生命保険契約を損害保険契

約と別個に規定している以上(傷害や疾病の費用保険の場合とは異

なり)実損てん補型の死亡保険は一般的には、私法上有効性が認め

られないと解するO傷害によるものであれ、疾病によるものであれ、

人の死亡それ自体から、たとえば建物の焼失のように、具体的な金

銭的損害が発生するものと見て、被保険利益の価額を算定すること

は不可能であるし、社会的にも好ましくないと考えるO ただ、無保

険車傷害保険のように、不法行為責任としての損害賠償額が算定で

きたり、(現実にありうるかは疑問もあるが)葬式費用のように、

あるレベルで客観的な損害額が計測できる(しなければならない)

保険であれば、(傷害や疾病の入院費用保険のように)損害保険と

しての構成は可能であろうO無保険車傷害保険も、人の死亡による

損害額そのものがてん補の対象ではなく、新ホフマン方式等で算定

される損害賠償額のうち相手方の対人賠償保険等でてん補されない

額が対象となるものである。商法上、人の死亡による実損額は、財

-215一

保険業法逐条解説(Ⅰ)

産の損傷のようには決められないということから生命保険(契約)

が定額保険(契約)として構成されているのであるから、損害賠償

額の算定に使用される新ホフマン方式等による金額をもって人の死

亡による普遍的な実損額と見ることはできない、というべきである。

新ホフマン方式のような損害額算出方式で給付を約定することで実

損てん補型の生命保険契約という概念を立てることは、商法の体系

とはそぐわないO

実損てん補型の死亡保険を一般的に認めることは、保険契約法上

もこのように問題があるばかりでなく、保険業法上はさらに問題で

ある0人の死亡に関して新ホフマン方式等により算出される経済的

損害額を填補する死亡保険というものが「損害てん補型の人保険」

というふれこみで開発することが可能だとすれば、それは4項一号

により生命保険会社は引き受けられず、損害保険会社が専属的に引

き受けうることになる(4項一号は保険金が定額のものに限られる)O

死亡保険の保険給付の決め方次第で、一般大衆にこれまで生命保険

会社が行うものと思われていた生命保険(死亡保険)の一部が、損

害保険会社しか行えないという理解できない結果をもたらすし、そ16)

のことが妥当な結論とは到底思えないからであるO

なお、信用生命保険の場合も、債務者の死亡によって残存債務の

額が信用供与者にとっての損害額になるとみれば損害保険としての

性格があるともいえるが、債務者の死亡によって直ちに残債務の額

に相当する損害が発生するというものではないので、人の死亡によ

る(信用供与者にとっての)実損害額をてん補する保険とまではい

えないのではないかと思われるO

また、保険契約法上、所得補償保険は損害保険でしかありえない

という学説もあるが、本条4項2号はこの見解を採っていないと考

-216-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

17)

えられるO

⑦5項三号は、これまで行われてきた損害保険会社の海外旅行傷害保

険における海外旅行中の疾病の場合に死亡保険金を支払うことをそ

のまま認めるための規定で、損害保険業免許を得た場合にはこの保

険の引受けをなしうることとしているO

(彰これまで損害保険業の場合、免許は火災保険とか自動車保険等の保

険種類ごとに取得しなければならなかったが、損害保険業免許に一

本化されたO新規の保険種類の業務の開始は基礎書類の変更認可を

受けて行うということになろうO

3.第6項(保証証券業務)

本条6項は、保証証券業務を「契約に基づく債務または法令に基づ

く義務の履行を保証することを約し、その対価を受ける業務のうち、

保険数理に基づき行う当該対価の決定、準備金の積立て、再保険によ

る危険の分散など保険に固有の方法を用いて行う業務」と規定してい

るO一般法人等が行う業務であって、保険に固有の方法を用いない業

務は、保証証券業務にあたらないO

保証証券業務は、5項一号の「損害保険の引受け」に該当し、当該

保証の対価は損害保険の保険料とみなされる。したがって、3条の損

害保険業免許を得なければ行うことができないO

旧法1条は「売買、雇用、請負其ノ他ノ契約に基ク債務ノ履行二関

シ生ズルコトアルベキ債権者ノ損害ヲ填補スルコトヲ債務者こ約シ債

務者ヨリ其ノ報酬ヲ収受スル事業」を保険事業に含むと規定しており、

保証保険事業が保険事業に含まれることは明らかであったが、保証証

券事業まで含むかどうかは明らかでなかったので、明確化しようとす

るものであるO(保証保険事業が損害保険業に含まれることは今日で

-217-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

は問題がないので、保証保険についての規定は特におかれていない)。

なお、保証証券業務に係る保証は、保証証券の約款から見るかぎり、18)

民法上の保証に他ならないO債務の保証は、保険会社のみならず銀行

や証券会社の付随業務である(保険業法98条1項2号等)O保証証券

業務は、保険数理の利用、準備金の積立て、再保険による危険分散と

いう、損害保険会社に特有の営み方に着目して損害保険とみなすこと

としたものであるが、このような保険会社に固有の方法を用いないで、

経済的実質が同一の業務(債務保証やクレディット・デリバティブ)

を行っても保険業務には当たらず、保険業法違反にならないことは前

述のとおりであるO

4.生損保兼営禁止規定の趣旨と在り方

本条は、生命保険業免許と損害保険業免許を同一の者が受けること

はできないとし、同一会社による生損保兼営禁止を規定しているO そ

の趣旨については、「生命保険業が比較的正確な統計的根拠に基づき

主として長期の契約を行うのに対し、損害保険業は推定を加えた損害

率に基づき主として短期の契約を行うものであり、引き受けるリスク

や保険期間について両者間において差異が存在することから、保険期

間が長期であって貯蓄的資金である生命保険業の契約者を、不安定で

正確な予測のできない損害保険の巨大リスクの引受けによる損失から1q)

保護する必要がある」とする見解が一般的である。

しかし、リスクの差は給付形態が実損てん補であるか定額であるか

とは直接かかわらないO損害保険のリスクも保険事故が火災や自動車

事故である火災保険や自動車保険については、現代ではかなりの確実

性をもって計測できるのであり、これを巨大リスクというのは当たら

ない。問題は、リスクの大きな保険が小さな保険に与えるマイナスの

-218-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

影響とりわけリスクが小さく貯蓄的資金を持つ生命保険への影響を遮

断する必要性であろうから、リスクの差に注目すれば、たとえば地震

保険や人工衛星の保険と生命保険や火災保険等との兼営を禁止するが、

生命保険と火災保険等の兼営を禁止しないという考え方があるかもし

れないO逆に、生命保険の場合は、死亡率リスクは小さくとも予定利

率リスクが大きいという特徴があるので(リスクの性格が異なるので)

そのようなリスクの小さい掛け捨て型の損害保険とは同一会社では兼

営を認めないというべきなのかもしれないO ただ、そうだとすれば、

損害保険会社の積立型保険も同様に考えるべきなのかもしれないO こ

れらのことと、リスク引受けを行うデリバティブの関係等をあわせて、

今後さらなる検討が必要のように思われるO

また、本条は、それぞれの免許がどのような保険の引受けを行う事

業に係るかを規定しているが、ここでの生命保険業と損害保険業の区

分(分類)は、既存の業態間の利害調整を図った感が強い。「生損保

のリスクの相違により兼営禁止が定められているものとすると、保険

業の区分も保険事故と保険給付の態様に基づいてのみ行うことは理論次))

的には必ずしも適当なものではない」というべきであろうO

5.経過措置

旧法1条1項の免許を新法施行の際に受けている者は、新法施行の

際に本条1項の免許を受けたものとみなされる(法付則3条1項)O

また、この免許は、その者に係る旧法1条1項の免許が旧法の生命保

険事業免許または損害保険事業免許のいずれかの区分に応じ、それぞ

れ本条4項の生命保険業免許または本条5項の損害保険業免許とする

(同3条2項)O

-219一

保険業法逐条解説(Ⅰ)

注1) この点、商法上の生命保険契約でいうところの「死」に含まれるとの解釈も

ある(倉沢康一郎「生命保険の意義と種類」(金融・商事判例増刊号)生命保

険の法律問題9亘(経済法令研究会、1996年))。

2) 保険業法上、「傷害」そのものの定義はないが、損害保険法制研究会の傷害

保険契約法(新設)試案(1995年確定版)第683条の2の「急激かつ偶然な外

来の事故による身体の損傷」と解されるO なお、生命保険法制研究会の傷害保

険契約法新設試案(1998年版)には、「傷害」の定義はない。

3) たとえば、倉沢(前出注1))6-12頁0

4) 倉沢前掲7頁は、4項二号ハに規定する「傷害による死亡保険」は生命保険

そのものであるので、4項一号の二番目の括弧書きは、固有の生命保険の一部

について新保険業法が政策的に事業分野の調整を図った結果であるとする0

5) 中西正明「傷害保険」・傷害保険契約の法理(有斐閣、1992年)3頁は、

「当事者間の特約により傷害による後遺障害や入院に対しては保険金を支払わ

ず、傷害による死亡に対してのみ保険金を支払う旨を約束する契約の場合には、

これを生命保険契約の一種とみることも可能である」とする。この見解では、

損害保険会社の傷害保険は、そこに含まれる傷害死亡保険部分も含めて傷害保

険(契約)であって、その部分のみを生命保険(契約)というものではないの

であろう。保険業法は二分法を採用しているが、これは現行商法を前提にして

いるためである。

6) 山下友信「第三分野の保険」・商事1435号10頁(1996年)参照。

7) なお、生命保険法制研究会の傷害保険契約法新設試案(1998年版)理由書に

よれば、このような傷害死亡のみを目的とする保険契約に、生命保険契約、傷

害保険契約のいずれの規範が適用されるかは解釈論に委ねることとしている

(同時に、保険者の免責事由に関して、「生保試案と傷害試案とで上記の差異

が設けられた趣旨からして傷害死亡保険契約には後者の規定を適用するという

解釈がおそらくは自然であるということになろう」としている(理由書186~

187頁))O したがって、この試案が立法化されたとしても、保険業法の規定

上、傷害死亡保険が、生命保険ではなく第三分野の保険に属するという手当て

は必要になると思われる。

8) 損害保険法制研究会の傷害保険契約法(新設)試案理由書(1995年確定版)

128頁参照。なお、生命保険法制法研究会の傷害保険契約法新設試案(1998年

一220-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

版)および疾痛保険契約法新設試案(1998年版)は、定額給付方式と損害てん

補方式に類別するという二分法を採用しておらず、損害てん補の保険契約につ

いても、損害保険契約に関する規定の適用はなく、それぞれの試案が自足的に

適用されるとする(理由書180百、257頁)。

9) なお、生命保険法制研究会の傷害保険契約法(新設)'試案(1998年版)は、

傷害保険については、人保険として生命保険契約と共通の法規整が望ましい、

としているO理由書180~181頁参照。

10) 山下(前出注6))13頁参照。なお、倉沢(前出注1))10頁は、「保険業法

は人の疾病および傷害に関して、本来、損害の保険契約に属するものもまた生

命保険業の対象として認めることになると同時に、本来、生命保険契約に属す

るものを損害保険業の対象にも含ましめることになっている」とする。

11) 生命保険法制研究会の疾病保険契約法新設試案(1998年版)理由書254頁~

255頁は、特定の疾病による死亡に関してのみ一定額の保険金の支払いを約す

るものが、疾病保険契約か生命保険契約かは、解釈に委ねている(256頁~257

頁)。

12) 山下(前出注6))10頁参照。また、理由書257頁も、疾病死亡のみを対象と

する保険は、保険業法上は、生命保険であると解している0

13) 山下(前出注6))10~11頁参照0

14) 倉沢 前掲12頁参照0

15) 山下(前出注6))11頁

16) 山下教授も「損害保険会社が保険給付の面だけ損害てん補とすれば生命保険

を行えるというのは、おそらくは新法の生損保兼営禁止の原則の趣旨には合致

しないという議論もありえよう」とされる(前出注6))11頁。

17) 山下(前出注6))11頁~12頁

18) 江頭憲治郎=小林登=山下友信(東京海上火災保険株式会社編)・損害保険

実務講座(補巻)保険業法25頁(山下友信筆)(有斐閣、1997年)

19) 保険研究会編・最新保険業法の解説18頁(大成出版、1996年)

20) 山下(前出注6))13頁参照O

(古瀬政敏)

一221一

保険業法逐条解説(Ⅰ)

第4条(免許申請手続)

「前条第一項の免許を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載し

た免許申請書を内閣総理大臣に提出しなけれはならない。

一 商号又は名称

二 資本の額又は基金の総額

三 取締役及び監査役の氏名

四 受けようとする免許の種類

五 本店又は主たる事務所の所在地

2 前項の免許申請書には、次に掲げる書類その他総理府令・大蔵

省令で定める書類を添付しなければならない。

一 定款

二 事業方法書

三 普通保険約款

四 保険料及び責任準備金の算出方法書

3 前項第二号から第四号までに掲げる書類には、総理府令・大蔵

省令で定める事項を記載しなければならない。」

一 趣旨

本条は、保険業の免許申請手続について定めたものであるが、平成

4年の保険審議会答申が「免許付与に当たっては、透明性向上の観点

から、免許基準、手続きの明確化を図る必要がある」と述べていたこ

とを受けて、免許申請書に記載する事項について具体的に明定したほ

か、その添付書類についても、基礎書類から財産利用方法書を除く改

正を行っている(なお、旧法2条が規定していた免許申請時の原始供

託の規定は削除された)O

-222-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

二 解釈

1.免許申請書

免許申請書に記載する事項は次のとおりであるO

(∋商号または名称O商号は、株式会社の場合、名称は相互会社の場合

であるO なお、商号または名称中に、生命保険会社または損害保険

会社であることを示す文字として大蔵省令で定めるものを使用しな

ければならないO また、保険会社でない者は、その商号または名称

中に保険会社と誤解されるおそれのある文字を使用してはならない

(7条の解説参照)O

②資本の額または基金の総額O資本の額は株式会社の資本金であり、

基金の総額は相互会社の定款の絶対的記載事項たる基金の総額であ

るO

(事取締役及び監査役の氏名

(㊨受けようとする生命保険業免許または損害保険業免許の種類(前条

3項の規定により、二つの免許を同時に受けることはできない)O

(9本店または主たる事務所の所在地。本店は、株式会社の場合であり、

主たる事務所は相互会社の場合である。

2.添付書類

添付書類は、法に定める書類と府・省令に定める書類とに分けられ

るが、旧法とその省令に比し、前者では財産利用方法書が廃止され、

後者でも保険会社以外の株式会社が保険業を営もうとする場合の添付

書類についての規定を設けるなど、所要の整備が行われているO

財産利用方法書は、規制緩和の観点から平成4年6月の保険審議会

答申においても、その廃止が求められていたものであるO なお、旧法

では「保険料及び責任準備金算出方法書」といわれていた書類は「保

-223-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

険料及び責任準備金の算出方法書」と名称が少し変わっているが意義

や内容が異なるわけではないO

(1)定款、事業方法書、普通保険約款、保険料及び責任準備金の算出

方法書O

これらは法が定める添付書類で「基礎書類」とよばれ、事後的な変

更には認可を要する(123条)O定款については、株式会社は商法166

条1項に掲げる事項を、相互会社にあっては法22条2項に掲げる事項

を記載しなければならないO

事業方法書の記載事項(規則8条1項)は旧施行規則11条と基本的

に同一であるが、「免許申請者の委託を受けて当該免許申請者のため

に保険募集を行う者の保険募集に係る権限に関する事項」が加えられ

ている。また、特別勘定(118条)、積立勘定(規則26条、63条)、

保険業に係る業務または事務(規則51条)の保険会社または外国保険

会社等に対する委託について、それぞれ別途記載事項が定められてい

る(規則8条3項~5項)O このうち、特別勘定については、旧施行

規則11条2項と実質的に同じ規定であるが、その他は新たに規定され

たものであるO

普通保険約款(規則9条)、保険料及び責任準備金の算出方法書

(規則10条)の記載事項は、旧施行規則(12条、13条、13条の2)で

定められているところと実質的には異ならない。

(2)府・省令に定める添付書類(規則6条)

府・省令に定める添付書類は、理由書、会社の登記簿謄本等で旧施

行規則1条、10条2項に規定されていた書類と同じであるが、保険会

社以外の株式会社が従前の目的を変更して保険業を営業とする場合に

は、「定款変更を決議した株主総会の議事録」「最終の貸借対照表、

損益計算書および利益の処分または損失の処理に関する書面」ならび

一224-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

に「従前の定款および免許申請の際に現に存する取引の性質を明らか

にする書面」を添付しなければならないこととされた(規則6条3項)O

保険業法3条の免許を受けて保険業を行うことになれば、その会社は

保険会社となり(2条2項)、他業の制限(100条)を受けることに

なるので、それに抵触することにならないかどうかを審査する必要が

あるからであるO

3.申請手続

免許申請書およびその添付書類の正本一連を内閣総理大臣に提出す

べきこととされている点は旧施行規則の場合と同じであるが、銀行法

等にならい、予備審査の規定が設けられている(規則7条)。すなわ

ち、免許を受けようとする者または免許を受けようとする保険業を営

む株式会社もしくは相互会社の設立を予定している者は、法4条に定

めるところに準じた書類を内閣総理大臣に提出して予備審査を求める

ことができる。

4.経過措置

旧法の免許を受けた保険会社に係る法施行時に提出されている基礎

書類は、本条2項各号のそれぞれに相当する書類とみなされる(「保

険料及び責任準備金算出方法書」は本条2項4号の「保険料及び責任

準備金の算出方法書」とみなされる)(法付則4条)。

(古瀬政敏)

第5条(免許審査基準)

「内閣総理大臣は、第三条第一項の免許の申請があったときには、次

-225-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

に掲げる基準に適合するかどうかを審査しなければならない。

一 当該申請をした者(以下この項において「申請者」というO)

が保険会社の業務を健全かつ効率的に遂行するに足りる財産的基

礎を有し、かつ、申請者の当該業務に係る収支の見込みが良好で

あること。

二 申請者が、その人的構成等に照らして、保険会社の業務を的確、

公正かつ効率的に遂行することができる知識及び経験を有し、か

つ、十分な社会的信用を有する者であることO

三 前条第二項第二号及び第三号に掲げる書類に記載された事項が

次に掲げる基準に適合するものであることO

イ 保険契約の内容が、保険契約者、被保険者、保険金額を受け

取るべき者その他の関係者(以下「保険契約者等」というO)

の保護に欠けるおそれのないものであることO

ロ 保険契約の内容に関し、特定の者に対して不当な差別的取扱

いをするものでないことO

ハ 保険契約の内容が、公の秩序又は善良の風俗を害する行為を

助長し、又は誘発するおそれのないものであること。

こ 保険契約者等の権利義務その他保険契約の内容が、保険契約

者等にとって明確かつ平易に定められたものであることO

ホ その他総理府令・大蔵省令で定める基準

四 前条第二項第四項に掲げる書類に記載された事項が次に掲げる

基準に適合するものであること。

イ 保険料及び責任準備金の算出方法が、保険数理に基づき、合

理的かつ妥当なものであることO

ロ 保険料に関し、特定の者に対して不当な差別的取扱いをする

ものでないこと0

-1ごt一一

保険業法逐条解説(Ⅰ)

ハ その他総理府令・大蔵省令で定める基準

2 内閣総理大臣は、前項に定める審査の基準に照らし公益上必要

があると認めるときは、その必要の限度において、第三条第一項

の免許に条件を付し、及びこれを変更する事ができるO」

一 趣旨

本条は、平成4年6月の保険審議会答申の趣旨に沿って、行政の透

明性を高めるため大蔵大臣の免許審査基準を法定し、また旧法では明

確でなかった免許の条件についも一定の場合、条件を付すことができ

るようにしたものである(なお、具体的な運用に関しては、98年6月

のガイドラインに定められている)O

二 解釈

1.免許審査基準は、銀行法や外国(たとえばイギリス)の保険監督

法を参考にしたものと考えられる(本条1項1号は銀行法4条2項1

号と、1項2号は銀行法4条2項2号と全く同様の規定振りである)O

本条の免許審査基準は、庄)免許申請者の財務の健全性(財産的基礎)、

収支見込み、人的構成および社会的信用についての基準(1項1号、

2号)と(り(定款を除く)基礎書類記載事項の審査基準(1項3号、

4号)に分けられる。

2.先ず、免許申請者が業務を健全かつ効率的に遂行するに足りる財

産的基礎を有していなければならず、かつ申請者の当該業務に係る収

支の見込みが良好でなければならない(1項1号)O具体的には、資

本の額または基金の総額が10億円以上でなければならない(6条、令

2条)が、この要件のみで判断されるべきではなく、行おうとする業

-227一

保険業法逐条解説(Ⅰ)

務を健全かつ効率的に遂行できるだけの財務的基礎が求められると解

される(健全に遂行できるだけでなく、効率的に遂行できなければな

らないので、その分より強固な財務的基礎が求められる)O また、収

支見込みについては、黒字転換が見込まれることは当然のこと、それ1)

までの間債務超過に陥らないだけの自己資本が必要である0

人的構成についても業務を「的確、公正かつ効率的に遂行できる」

知識、経験があり、かつ十分な社会的信用を有することが求められる

(1項2号)O前述のように、銀行法4条2項2号でも全く同じ表現

で「的確、公正かつ効率的に遂行できる」と規定されているが、ここ

で「的確」「公正」「効率的」の意味は必ずしも明確ではない(なお、

証券取引法31条1項2号は、「公正かつ的確に」と規定するのみで

「効率的に」という文言はない)O

「公正」とは、会社と契約者等の保険募集その他の取引関係におい

てフェアな取扱いをすること(会社の利益において不当に契約者等に

不利益を与えないこと)と解されるO「効率的」とは、いうまでもな

く優れた商品・サービスをより安価かつ利便性ある方法で提供するこ

とをいうと解される。公正と効率面でバランスのとれた業務が遂行さ

れれば、それは「的確」だといえるのであろう。同時に、それは1条

(目的)にいう「業務の適切な運営及び保険募集の公正の確保」が図

られていることといえようO

また「人的構成」というのであるから、役員、従業員のすべてにわっ

たての人的構成を指すと解される。

3.基礎書類のうち事業方法書と普通保険約款の審査基準は、契約内

容の適正性を審査するためのものであるO

具体的には、第3号イに関しては、保険給付支払事由、免責事由、

-2281

保険業法逐条解説(Ⅰ)

告知義務等の規定において保険契約者、被保険者、保険金受取人その

他の関係者(保険契約者の相続人や質権者等と考えられる)の利益を

不当に害する規定のないこと、同号ロに関しては、年齢、性別等合理

的な理由がある場合を除いて特定の者に対して不当な差別的取扱いを

する規定が無いことが求められる。

同号ハについては、保険契約の内容が賭博性の強いものであること

や、交通違反の罰則金をてん補するといったような公序良俗に反する

おそれのあるものは認められないO なお、「物の損害に対する定額給2)

付を内容としていること」がハの基準に反するとする見解があるが、

物損害保険であってもそれだけでは必ずしも公序良俗に反するとはい

えないO ただ、3条の生命保険業免許または損害保険業免許の対象と

なる保険の引受には当たらないように読めるO しかし、もしそうだと

すると、2条の「保険業」に当たらず、免許なしで行いうる'ことにな

り問題であるO したがって、賭博的ではない物定額保険(保険給付を

比例てん補の原則によらず、客体たる物の時価以下で定額給付を行う

保険)も、3条5項1号の損害てん補保険に含めて解釈すべきであろ

う(3条の解説参照)O

同号二は、アメリカの州保険法のプレイン・ランゲジ条項にならっJ)

たものと解されるO

同号ホの「その他総理府令・大蔵省令で定める基準」は、施行規則

11条で、生命保険または第三分野の保険の引受けを行う場合において

は保険金等の支払基準および限度額が社会通念上適正であることが、

また損害保険の引受けを行う場合は、再保険に付した金額を控除した

保険金額の限度額を合計した金額が総資産の額に比して妥当なもので

あること、保険業に係る業務または事務を委託する場合においては、

保険業に係る業務を的確、公正かつ効率的に遂行することができるこ

一229一

保険業法逐条解説(Ⅰ)

と、とされるO

4.「保険料及び責任準備金の算出方法書」の記載事項に関しては、

保険料が保険数理にもとづき「合理的」「妥当」かつ「不当な差別的

取扱いをするものでないこと」という、いわゆる料率三原則が求めら

れるO また、責任準備金の算出方法も、同様に保険数理に基づき「合

理的」「妥当」であることが求められる(1項4号)。なお、同号ハ

の府・省令で定める基準は、施行規則12条で、「①契約者価額の計算

が、保険契約者等にとって不当に不利益なものでないこと(窒)保険料及

び責任準備金の算出方法書に記載された事項(保険料に係る部分を除

く)に関し、特定の者に対して不当な差別的取扱いをするものでない

こと」とされる。責任準備金の算出方法に関して「差別的取扱いをす

るものでないこと」を(法律ではなく)府・省令で定めているのは保

険料による差別的取扱いに比して問題が小さいということであろうかO

5.上記「3」および「4」で述べた基準は、事業方法書および普通

保険約款の変更の認可について準用されている(124条1項)O その

ため、新商品について業界秩序維持、中小会社の保護等の理由で一部

の会社のみに認可を与えるというような運用は今後できないことにな4)

る。

6.本条の免許審査基準では、銀行法等の業法で、免許基準を定める

場合に通例であった、いわゆる需給調整条項(銀行法4条2項3号、

証券取引法31条1項3号参照)が規定されていない。これは、供給者

がすでに十分であり、過当競争を防止するという観点から免許を付与

しないということが、規制緩和・競争促進の精神に照らして問題であ

ー230-

保険業法逐条解説(Ⅰ)

るとされたからである。

7.免許の条件

本条2項は、銀行法(4条4項)等の業法にならい、内閣総理大臣

は1項の審査基準に照らし公益上必要があると認めるときは、その必

要の限度において3条1項の免許に条件を付し、およびこれを変更す

ることができる、と新たに規定した。

「公益上必要があるとき」というのは、銀行法の免許条件の場合と

同じであるが、要件としてはやや漠然としているといわざをえないO

競争を制限するような形の条件付与は慎重になされるべきであるO こ

の点に関して、いわゆる第三分野の保険事業に依存している程度が比

較的大きい特定の保険会社または外国保険会社等の経営環境の激変緩

和措置として、新たに免許を申請した者に対し第三分野に係る保険商

品の販売を一定期間行わない等の必要な条件を付すこと(法付則第5)

121条参照)等が考えられるO 実際にも、日米保険協議を受けて、生

命保険会社の損害保険子会社には付則121条により本条2項の条件が

つけられた。

8.罰則

本条2項の免許の条件に違反した者は、1年以下の懲役もしくは

100万円以下の罰金に処せられ、または併科される(法317条1号)。

法人の役員・従業員等が違反した場合は、両罰規定(罰金刑)がある

(法321条1項)。

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保険業法逐条解説(Ⅰ)

注1) 保険研究会編・コンメンタール保険業法20頁(財経詳報社1996年)

2) 保険研究会編(前出注1))20貢O保険研究会編・最新保険業法の解説28貢

(大成出版社、1996年)

3) 国民生活審議会消費者政策部会中間報告「消費者契約法(仮称)の具体的内

容について」も、「契約条項は、常に明確かつ平易な言葉で表現されなければ

ならない」という契約条項の明確化を求めている。

4) 江頚寮治郎=小林登=山下友信(東京海上火災保険株式会社編)・損保実務

講座(補巻)保険業法30頁(山下友信筆)(有斐閣、1997年)

5) 保険研究会編(前出注1))20寅

(古瀬政敏)

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