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Date post: 19-Dec-2021
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日本人にとって特別な色・・・赤の物語 その 1 10 月 13 日 このブログで色を取り上げたのは、白が一番最初でした。ついで青、黒と続きましたが、今 回は赤を取り上げます。赤は言うまでもなく日本人にとって特別な色です。日本の国旗であ る日の丸も白地に赤丸が染め抜かれており、慶事には紅白の垂れ幕が飾られや食紅で着色 された食べ物がふるまわれます。こうしたことは日本特有なことのように思われますが、外 国ではどうなのでしょうか?赤の物語、それでは世界の国旗から話を始めることにしまし ょう。言い忘れましたが、この赤の物語は 4 日ほど続く予定です。 日本と同じように、赤と白の二色だけで構成されている国旗は世界にどのくらいあるので しょうか?ざっと調べてみたところ、14 か国ありました。 意外に多いと思いましたが、使われている赤はかなり差があるようです。それぞれの国旗に はいわれがありますが、いくつかご紹介しましょう。 インドネシアの国旗は、赤は勇気と情熱を、白は真実と聖なる心を表し、起源は 13 世紀 にまでさかのぼると言われています。オーストリアの国旗も起源は 13 世紀にさかのぼりま すが、上下の赤に挟まれた白の部分については、第 3 回十字軍に参加したオーストリア公 レオポルト 5 世が敵の返り血を浴びて全身赤く染まったが、ベルトのため腰の部分だけ白 く残ったという故事によるとされています。
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日本人にとって特別な色・・・赤の物語 その 1 10 月 13 日

このブログで色を取り上げたのは、白が一番最初でした。ついで青、黒と続きましたが、今

回は赤を取り上げます。赤は言うまでもなく日本人にとって特別な色です。日本の国旗であ

る日の丸も白地に赤丸が染め抜かれており、慶事には紅白の垂れ幕が飾られや食紅で着色

された食べ物がふるまわれます。こうしたことは日本特有なことのように思われますが、外

国ではどうなのでしょうか?赤の物語、それでは世界の国旗から話を始めることにしまし

ょう。言い忘れましたが、この赤の物語は 4 日ほど続く予定です。

日本と同じように、赤と白の二色だけで構成されている国旗は世界にどのくらいあるので

しょうか?ざっと調べてみたところ、14 か国ありました。

意外に多いと思いましたが、使われている赤はかなり差があるようです。それぞれの国旗に

はいわれがありますが、いくつかご紹介しましょう。

インドネシアの国旗は、赤は勇気と情熱を、白は真実と聖なる心を表し、起源は 13 世紀

にまでさかのぼると言われています。オーストリアの国旗も起源は 13 世紀にさかのぼりま

すが、上下の赤に挟まれた白の部分については、第 3 回十字軍に参加したオーストリア公

レオポルト 5 世が敵の返り血を浴びて全身赤く染まったが、ベルトのため腰の部分だけ白

く残ったという故事によるとされています。

カナダの国旗は、カエデの葉を表していることは周知となっていますが、デザイン全体の

意味はが、左の赤色が示す太平洋と右の赤色が示す大西洋に挟まれた国土において、カエデ

の葉が表す厳しい自然の中での暮らしを象徴しているというのはあまり知られていません。

スイスの国旗は、もともと神聖ローマ帝国の軍旗がもとになっており、赤十字の旗は、この

スイスの国旗を反転させたとされています。

チュニジアとトルコには、月と星が描かれており、これは言うまでもなくイスラムのシンボ

ルなのですが、もともとはオスマン時代のトルコの国旗が始まりだそうです。そして日本。

赤い丸は太陽を表し、白は神聖と純潔、赤は博愛と活力を表すというのは定説となっていま

すが、その起源は諸説あり定かではないとしておきます。国旗として使用されだしたのは、

江戸末期に船舶の国籍標識旗として使用されたことからのようです。

同じ様に赤い色を国旗に使っていても、その起源やいわれは様々ですが、赤色を少しでも

国旗に使用している国は、208 国・地域のうち 154 か国に上りいかに人気のある色かとい

うことがわかります。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E6%97%97%E3%81%AE%E4%B8%80%E

8%A6%A7

さてそのように人気のある赤色ですが、一口に赤と言っても様々な色があり様々な名前が

ついています。中でも国の名前についた赤は大変数が多く、なんと 28 種類もの国や地域の

名前のついた赤がありますので、それをご紹介します。この出典は「色の知識」城一夫、株

式会社青幻社 発行 という書籍です。

この本の記述内容に沿って、赤の名前の由来と色(マンセル値)で整理してみました。マン

セル値というのは、色の番地のようなものですべての色を色相、明度、彩度の 3 つの要素に

分解して整理することができます。まずは名前の由来からです。

予想通りというか、血に由来するものが最も多いという結果でした。その血の由来も独立戦

争と十字軍などの宗教に関係する戦争が多いようです。次いで神・宗教、民族・統治・政治

に由来するものが続き、文化・歴史に由来するものもありました。それにしてもどんな色か

わからないことには想像もできないと思いますので、色について整理した結果を紹介しま

す。

残念ながら、マンセル値に従って正確な色を表示することは、今使っているパソコンのソフ

トでは無理なので、一覧表でお見せするにとどめます。感じだけつかんでいただければと思

います。

ここで最も重要な情報は、これら 28 色はかなり似ており、非常に狭い範囲のマンセル値に

納まっているということです。色相で言えば 5.0R+/-2.5R、明度で言えば 4.75+/-0.75 で彩

度はすべて 14.0 でした。標準的な赤の色相は 5.0R ですので、当たり前ですが、すべて標準

的な赤の周辺の色相であり、明度(明るさ)は中間程度の明るさで、彩度の 14 は極めて鮮

やかであることを表しています。この中で 2 色だけ日本塗料工業会の色見本帳(2019 年 K

版)に収録されている色があります。ブラジルとフランスの名前のついた色ですが、この 2

色とももちろん彩度は 14 です。この彩度 14 とは塗料で再現性良くつくることのできる最

高の彩度であり、日塗工の色見本帳に収録されている色の中で最高の彩度となっています。

つまり国名のついた赤というのは、すべてがとびきり鮮やかな赤であるということなので

す。

少し話はそれますが、(一社)日本塗料工業会の色見本帳は、実は世界で最も発行部数の多

い見本帳です。日本塗料工業会のホームページの色見本帳のコーナーには、マンセル値で検

索できる「ペイントカラー検索システム」があり、近似色表示機能により、その画像も表示

されます。あくまで近似色ではあるのですが、およその色イメージを掴むことができます。

便利な機能ですのでみていただくようお勧めします。

ブラジルレッドとフレンチバーミリオンのマンセル値を「ペイントカラー検索システム」で

検索し、近似色表示させた結果を示します。

https://www.toryo.or.jp/jp/color/index.html

さて、ここまで世界で使われている赤について見てきました。明日は赤の歴史について見てい

くことにします。

日本人にとって特別な色・・・赤の物語 その 2 10 月 14 日

昨日は世界の赤についてご紹介しました。今日は赤の歴史についてご紹介します。

歴史的に見ると赤という色は有彩色の中でも最も早く認識された色のようです。以前「海の

あお、空のあを」で一度ご紹介しているのですが、大日精化株式会社のサイトに色の名前がど

のように生まれてきたかということが書かれています。それによると、文化人類学者のブレン

ト・バーリンと言語学者のポール・ケイは、日本語を含む 98 の言語について調べて、ある基

準を満たす基本色彩語という 11 の色を表わす言葉(白、黒、緑、黄、青、茶、紫、桃 色、

橙、灰色)とその発生の過程を表わしました。下の図をみてください。色彩語が生まれてきた

過程が書かれています。明暗を表わす「白」と「黒」が生まれ、有彩色の代表として「赤」が

生まれ、その後 次第に分化して、様々な色彩語が生まれてきたということに関しては世界共通

のようです。

11 の基本色彩語とその進化の過程 大日精化株式会社のホームページより引用

https://www.daicolor.co.jp/rd/color/directory/index.html

赤の語源については、語源由来大全に以下のような記述があります。

「赤」は、「明るい」を意味する「明か(あか)」と同源であり、明るいことに由来する言

葉。古くは、「赤」は複合語として用いられるのみで、単独で使われる場合は 「朱(あけ)」

が用いられた。

赤は「明るい」に由来し、古くから色として認識されてきました。こうした赤い色とそれを作

り出した赤顔料の歴史について、日本を中心としてたどっていくことにしましょう。まずは代

表的な二つの赤顔料のご紹介をしていきます。最初は赤色酸化鉄、ベンガラ(弁柄)です。

ベンガラは、天然には赤鉄鉱として産出する酸化鉄(α−Fe2O3)であり、その名前の由来に

ついては、以下のように説明されています。「17世紀の元禄時代はオランダ東インド会社の

交易船が渡来し、舶来品を日本にもたらした時代であり、インドのベンガル湾経由で輸入した

舶来品を総称して「ベンガラ」と呼んでいました。織物や糸の場合には「弁柄縞」、や「弁柄

糸」と書き、黄土を焼いて作る赤色顔料は「紅殻」と書いて区別していたようです。現在では

いずれの場合でも「弁柄」または「ベンガラ」と表記し、通常は酸化鉄顔料粉を指すようにな

っているとのことです。」(機能性酸化鉄粉とその応用 堀石七生著、協力 戸田工業株式

会社 米田出版 2006 年初版)

このベンガラは、人類が最初に使った赤色の無機顔料です。きわめて古い時代から人々は酸化

鉄を使っていたようであり、歴史的な主なできごとを表にすると以下のようになります。

利用の痕跡はさらにこれよりも古くからあるというからその古さには驚かされます。この中で

ラスコーやアルタミラ洞窟、また高松塚古墳などの壁画は、歴史の教科書などにも記載されて

おり、御存知の方も多いと思います。

高松塚古墳壁画 http://japantemple.com/2015/08/21/post-545/

こうしたベンガラは基本的には天然物を加工したものと考えられていますが、後世は人工的に

生産されるようになりました。日本における商業的な酸化鉄顔料の製造は 17 世紀ころの「吹

屋弁柄」(現岡山県高梁市)が最初とされています。この吹屋弁柄は、大量生産が可能でかつ

鮮やかな赤色であったため昭和の中期まで全国各地に販売されていましたが、鉱業の衰退や公

害問題から 1970 年に製造が中止となりました。

栄華を誇った吹屋弁柄の生産地吹屋の現在とベンガラが染みついた生産用具

(2013 年撮影:元関西ペイント 中畑顕雅氏提供)

余談ですが、この吹屋弁柄は、たいそう鮮やかな赤色であり、現在のベンガラよりも赤か

ったと言われており、その謎が岡山大学の高田先生によって究明され、製造条件の調整と

アルミニウムの微量添加により吹屋弁柄の鮮やかさが復元できたという報告があります。

(出典は後述)

ベンガラそのものは、現在でも塗料には必要不可欠な顔料として重用されていますが、そ

の製造は吹屋弁柄からは全面的に変わっており、湿式プロセスを基本に、乾式プロセス、

水熱プロセスを組み合わせる環境に配慮した方法で製造されています。

こうした製造方法・条件は酸化鉄顔料にとって非常に重要です。なぜなら酸化鉄顔料は、

その製造方法・条件によって、また言い換えると結晶構造や粒子の形状や大きさによって

色が変化し、黄色~赤色~黒色の幅広い色相を呈するからです。結晶の状態と色の関係に

ついて例を示します。

ベンガラの色としては、赤、黄、黒があり、結晶構造(化学組成)や粒径によって色が変

化することが理解されると思います。

赤いベンガラでは、粒子径を細かくしていくとより赤色が際立つようになりますが、それ

は粒子が小さい(薄い)場合には、赤色の補色である青色の光がほぼ完全に吸収される一

方で、赤色の光はほとんど吸収されないのに対し、粒子が大きい(厚い)場合には、赤色

の光も部分的に吸収されてしまうためと説明されています。さらに粒子を光の波⾧よりも

小さくしていき、光の吸収や散乱を抑制することで透明性を付与することもできるように

なっています。太古より使われ続けてきたベンガラはまさに赤を代表する顔料であり、今

なお使われ続けています。

ベンガラに関する記述は、下記の資料から引用または参考にさせていただきました。ご紹

介した以外にも、ベンガラに関する詳細が書かれていますので興味のある方は是非お読み

ください。

「ベンガラの歴史と材料科学的研究」岡山大学 大学院 教授 高田 潤 風土社「チルチン

びと」(2003 年冬季号:No.23,84−85 ページ)

http://www.achem.okayama-u.ac.jp/iml/theme/pdf/bengara.pdf

「化粧品用酸化鉄系顔料」内田浩昭、杉原則夫、色材協会誌 84,[10]、351-357

(2011)(J-stage で全文ご覧いただけます)

「伝統顔料の赤に挑む」高田潤、浅岡裕史、現代化学 2005 年 10 月、25-30

思いの他弁柄では紙面を使ってしまいました。この続きは明日にします。明日は不思議な

「賢者の石=辰砂」からご紹介していきます。

日本人にとって特別な色・・・赤の物語 その 3 10 月 16 日

昨日のベンガラに続きご紹介するのは「辰砂」です。

辰砂とは耳慣れない言葉だと思います

が、読み方は「シンシャ」英語名は

「Cinabar」化学組成は HgS(硫化

水銀)です。古くから赤色顔料や水銀

の原料として用いられてきました。英

語名の「Cinabar」は、「竜の血」と

いう意味のペルシャ語「Zinjirfrah」

アラビア語の「zinjafr」に由来すると

されています。また、ギリシャ語の赤

い絵の具を意味する「Kinnaberis」に

由来との説もあります。

大和水銀鉱山産出の「辰砂」

https://sites.google.com/site/fluordoublet/home/colors_and_light/inorganic_pigment/cinn

abar

紀元前 2000 年にスペインのアルマーデンで採掘されていたという記録があり、世界最大

の鉱床は中国の辰州(現在の湖南省)にあり、古くから産出量も多かったことから、日本

では辰州の砂を意味する「辰砂」と呼ばれるようになりました。同じ硫化水銀でも、天然

物を集めたものが「辰砂」と呼ばれるのに対し、人工のものは「バーミリオン」と呼ばれ

ています。この「辰砂」から作られた絵具は、ポンペイの遺跡の壁画にも多く用いられた

ほか、中国では朱を交えた漆、朱漆として用いられました。日本では、奈良法隆寺の壁画

などにベンガラや丹(四三酸化鉛)とともに使用されています。

この「辰砂」、後世では水銀を使った鉱山業に利用されました。辰砂を熱して水銀蒸気を

発生させ、それを冷却して水銀とし、そこに金属を入れてアマルガムを作らせしめ、さら

に加熱して再び水銀を蒸気として取り出すことで金属の精錬をしていたとのことです。何

とも作業者には恐ろしい精錬方法です。特に、砂金から金を取り出すために利用され、世

界的に主に発展途上国で環境汚染が問題になっています。

一方でこの「辰砂」は、その不思議な外観も相まって、「賢者の石」とも呼ばれ、不老不

死の薬として飲用されたりもしましたが、もちろん、そのような効果はありません。

「辰砂」は、ベンガラに比べると希少性が高く、赤顔料としての使用量は限られていたよ

うです。代わりに「バーミリオン」はいまだに絵画用としては使用されているほど⾧い間

重用されてきました。この「バーミリオン」についてはこのあとでも少し触れます。

この「辰砂」の記述内容については、以下のサイトから引用または内容を参考にしていま

す。

https://sites.google.com/site/fluordoublet/home/colors_and_light/inorganic_pigment/cinn

abar

https://recarat.com/cinnabar-shinsha/

ベンガラと辰砂という二つの代表的な赤顔料をご紹介しましたが、それ以外の歴史的に

使用されてきた赤色顔料を下表に示します。

一番上のバーミリオンは、絵画の世界で大活躍しました。カドミウム・レッドはそれに代

わる顔料として台頭してきました。3 番目の鉛丹は、いわゆる神社の鳥居の色です。つい

最近まで使用されてい

ましたが、日本での鉛

顔料の自主規制により

代替顔料が使われるよ

うになりました。4 番

目のコチニール(カー

マイン・レーキ)は、

虫から採取した赤です

が、鮮やかな赤として

珍重されてきました。

コチニールカイガラムシとその粉末化したもの

https://sites.google.com/site/fluordoublet/home/colors_and_light/cochineal

5 番目のアリザリンは日本も含め世界中で使用されましたが、後で触れるように人工的に

合成されるようになりました。6 番目のブラジルは、南米が西洋に知られるずっとずっと

以前から使用され、セイロンが大きな産地であったそうです。その後ポルトガル人が南米

に行き、同様の木が大量にあることを発見し、その地をブラジルと名付けたという逸話が

残っています。ただしあまりにも徹底的に伐採されたため、現在ではこの木はほとんど残

存していないそうです。(『西洋絵画の画材と技法』 – [材料] – [顔料] http://www.cad-

red.com/jpn/mt/pig_red_xxx.html)

最後の亜酸化銅は、実は他の顔料とは全く違う目的で使用されているのですが、たまたま

赤い色をしているために表にいれました。船の底の海水に没する部分に塗装される船底塗

料に使用されていますが、目的は着色ではなく貝や海藻の付着を防ぐためです。亜酸化銅

は海水中で微量ずつ溶

け出し生物の付着を防

ぐ効果があります。船

の底が赤いのはこの亜

酸化銅の色のためで

す。この亜酸化銅もベ

ンガラと同様に、粒径

によって色が変わり、

粒径が大きくなると赤

から紫、さらに黒に変

化していきます。

大型船の船底は赤い色で塗装されています。https://trafficnews.jp/photo/79513#photo2

以前ご紹介した「セザンヌのパレット」では赤の顔料としてこの表の中のバーミリオン、

カーマイン・レーキ、マダー・レーキの 3 種類とベンガラが登場していました。上表の顔

料の課題としては、上の 3 つは重金属を含んでおり、下の 3 つは有機物であるため耐候性

が弱くいずれも体質顔料などにしみこませて不溶化して使用せざるを得ないことでした。

ここまで歴史的な赤顔料を書いてきました。明日は最終回、近代~現代にかけての赤を書

きます。

日本人にとって特別な色・・・赤の物語 その 4 10 月 19 日

時代が進むと、より安全でより耐久性のある赤色の実現を目指して、人工的に色材を製

造する試みが続けられ、19 世紀以降さまざまな染料や顔料が合成されるようになりまし

た。それを可能にしたのは有機化学の発展です。

有機化学とは、有機物(主に炭素でできた骨格からなる化合物)の構造を作ったり変えた

りすることで有用な物質を作り出す学問ですが、⾧い間人類には無機物から有機物を作り

出すことはできないと信じられていました。その壁を崩したのが、1828 年の尿素の合成で

した。これを契機に有機化学は飛躍的な発展をとげ、それまでの鉱物などの無機物に代わ

り顔料を有機物で作ることできる時代となりました。

染料は主に繊維の染色などに用いられ、顔料は主に画材や塗料に用いられます。また溶け

ている状態で使われるのが染料で、溶けていない状態で使われるのが顔料とおおまかに区

分されます。同じ着色する材料でもあっても使われるときの状態が違うということになり

ます。

教育ボランティア「けやきの会」の一般化学講義資料

http://kjmt.jp/keyaki/activity/kagaku1f.pdf

開発は最初染料が先行します。先ほどご紹介したアリザリンは、BASF がコールタールか

らの合成方法を開発し 1871 年から市販が開始されました。これが歴史上最初の天然物染

料の化学合成による商業的生産の例です。このアリザリンについては、マラリアの特効薬

キニーネの研究をしていたイギリスの化学者ウイリアム・パーキンもほぼ同時期に合成法

を見出したのですが、わずか一日の差で特許権を BASF に取得され権利を失ったというこ

とが伝えられています。

このほかアニリンを出発点とする一連の「アニリン染料」が開発されていきます。先ほど

のウイリアム・パーキンは、アリザリンの合成に先立ち最初の合成染料といわれるモーブ

の合成に成功しています。ところで、プリンターの赤のインクはマゼンタと呼ばれていま

すが、このマゼンタは染料の名前に由来しており、アニリン染料の一つであるマゼンタ染

料(日本名フクシン)もこの頃に開発されました。(有機化学美術館 分館

http://blog.livedoor.jp/route408/archives/52249625.html

The Faded Rainbow: The Rise and Fall of the Western Dye Industry 1856-2000)

アリザリンやマゼンタは天然染料の化学合成でしたが、天然物にはない染料の合成も進め

られました。その代表がアゾ染料です。天然染料の化学合成とほぼ同じ時代に開発がすす

められ、今でも合成染料の半分以上はアゾ染料といわれるくらいに多くの種類と量が使用

されています。

教育ボランティア「け

やきの会」の一般化学

講義資料を改変

http://kjmt.jp/keyaki/activity/kagaku1f.pdf

開発では染料に先行された顔料ですが、1885 年に最初の有機顔料として、アゾ顔料のパラ

レッドが合成されたあと、続々とアゾ顔料が合成されていきました。

この表に出てくるアゾ顔料の中で 1903 年に開発されたレーキレッド C とカーミン6B は

現在でもアゾ顔料の中でトップ 3 に入るほど有用な顔料で⾧期間使用されています。20 世

紀中盤以降は、アゾ顔料に続き中・高級顔料と呼ばれる有機顔料が開発されるようにな

り、今では鮮やかな赤を彩る塗料には多くの場合有機顔料が使用されるようになりまし

た。有機顔料の課題であった屋外における耐久性もずいぶんと改良されました。より安全

であざやかな赤色を楽しめる時代になったということになります。

参考までに、有名な絵の具メーカーのホルベインの水彩絵の具のカタログの写真を引用し

ます。このページは赤から黄色にかけての色が並んでいますが、赤枠で囲った高級顔料の

ほかにも、これまで説明してきたカーマイン(カーミン)、マダー、バーミリオン、アリ

ザリンなどの名前が見られます。絵の具の世界では歴史的に活躍してきた顔料がまだ現役

で使用されているようです。

https://holbein.actibookone.com/content/detail?param=eyJjb250ZW50TnVtIjoiMjY0MT

MifQ==&detailFlg=0

こうした有機顔料に関しては種類も多く、使っていく上で注意しなければならないことも

いろいろとあります。また技術的にとても興味深いところもたくさんあります。今回は難

しい技術的な話はできるだけ避けて書いてきましたので、別な機会に技術的な側面にスポ

ットをあてて(赤色の)有機顔料について書いてみたいと思っています。

有機顔料に関しては以下の文献を引用および参考にしています。

「溶性、不溶性アゾ顔料」 中村和也 色材協会誌 83 [10]、 424-429(2010)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/shikizai/83/10/83_10_424/_pdf/-char/ja

今回の赤色シリーズにつきましては、元関西ペイント株式会社の中畑顕雅氏に資料の提供

とアドバイス・ご指導をいただきました。ここに深く謝意を表します。


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